(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る始動制御装置が適用されたディーゼルエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるディーゼルエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、いわゆる直列4気筒型のものであり、紙面に直交する方向に列状に並ぶ4つの気筒2A〜2D(後述する図2も参照)を有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2A〜2Dにそれぞれ往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
上記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されており、この燃焼室6には、燃料としての軽油が、後述する燃料噴射弁15からの噴射によって供給される。そして、噴射された燃料(軽油)が、ピストン5の圧縮作用により高温・高圧化した燃焼室6で自着火し(圧縮自己着火)、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動するようになっている。
上記ピストン5は図外のコネクティングロッドを介してクランク軸7と連結されており、上記ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて上記クランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
ここで、当実施形態のエンジン本体1は、その幾何学的圧縮比(ピストン5が下死点にあるときの燃焼室容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室容積との比)が14に設定されている。すなわち、一般的な車載用のディーゼルエンジンの幾何学的圧縮比が18もしくはそれ以上に設定されることが多いのに対し、当実施形態では、幾何学的圧縮比が14というかなり低い値に設定されている。
また、当実施形態のような4サイクル4気筒のディーゼルエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン5が、クランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。このため、各気筒2A〜2Dでの燃焼(そのための燃料噴射)のタイミングは、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的には、気筒2A,2B,2C,2Dの気筒番号をそれぞれ1番、2番、3番、4番とすると、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に燃焼が行われる。このため、例えば1番気筒2Aが膨張行程であれば、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bは、それぞれ、圧縮行程、吸気行程、排気行程となる(後述する図5も参照)。
上記シリンダヘッド4には、各気筒2A〜2Dの燃焼室6に開口する吸気ポート9および排気ポート10と、各ポート9,10を開閉する吸気弁11および排気弁12とが設けられている。吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト等を含む動弁機構13,14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
上記吸気弁11用の動弁機構13には、VVT13aが組み込まれている。VVT13aは、可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing Mechanism)と呼ばれるものであり、吸気弁11の動作タイミングを可変的に設定するための可変機構である。なお、当実施形態において採用されるVVT13aは、カムシャフトの回転位相を変更可能な電動アクチュエータを備えた電磁式VVTであり、上記アクチュエータの駆動に応じて吸気弁11の開時期(開弁開始時期)と閉時期とを同時に変更することができ、しかも、そのような変更動作をエンジンが実質的に停止した状態でも行うことができる。
上記シリンダヘッド4には、燃料噴射弁15が各気筒2A〜2Dにつき1つずつ設けられている。各燃料噴射弁15は、先端部に複数の噴孔(例えば8〜12個)を有したマルチホール型のものであり、その内部に、上記各噴孔に通じる燃料通路と、この燃料通路を開閉するために電磁的に駆動されるニードル状の弁体とを有している(いずれも図示省略)。そして、通電による電磁力で上記弁体が開方向に駆動されることにより、後述するコモンレール40(蓄圧室)から高圧で供給された燃料が上記各噴孔から燃焼室6に向けて直接噴射されるようになっている。
上記燃料噴射弁15と対向するピストン5の冠面(上面)の中央部には、他の部分(冠面の周縁部)よりも下方に凹んだキャビティ5aが形成されている。このため、ピストン5が上死点の近くにある状態で上記燃料噴射弁15から燃料が噴射された場合、この燃料は、まずキャビティ5aの内部に侵入することになる。
上記シリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通する図外のウォータジャケットが設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出するための水温センサSW1が、上記シリンダブロック3に設けられている。
また、上記シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度および回転速度を検出するためのクランク角センサSW2が設けられている。このクランク角センサSW2は、クランク軸7と一体に回転するクランクプレート25の回転に応じてパルス信号を出力するものであり、このパルス信号に基づいて、クランク軸7の回転角度(クランク角)および回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
一方、上記シリンダヘッド4には、気筒判別情報を出力するためのカム角センサSW3が設けられている。すなわち、カム角センサSW3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じてパルス信号を出力するものであり、この信号と、クランク角センサSW2からのパルス信号とに基づいて、どの気筒が何行程にあるのかが判別されるようになっている。
上記吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気通路29がそれぞれ接続されている。すなわち、外部からの吸入空気(新気)が上記吸気通路28を通じて燃焼室6に供給されるとともに、燃焼室6で生成された排気ガス(燃焼ガス)が上記排気通路29を通じて外部に排出されるようになっている。
上記吸気通路28のうち、エンジン本体1から所定距離上流側までの範囲は、気筒2A〜2Dごとに分岐した分岐通路部28aとされており、各分岐通路部28aの上流端がそれぞれサージタンク28bに接続されている。このサージタンク28bよりも上流側には、単一の通路からなる共通通路部28cが設けられている。
上記共通通路部28cには、各気筒2A〜2Dに流入する空気量(吸気流量)を調節するためのスロットル弁30が設けられている。スロットル弁30は、エンジンの運転中は基本的に全開もしくはこれに近い高開度に維持されており、エンジンの停止時等の必要時にのみ閉弁されて吸気通路28を遮断するように構成されている。
上記クランク軸7には、ベルト等を介してオルタネータ32が連結されている。このオルタネータ32は、図外のフィールドコイルの電流を制御して発電量を調節するレギュレータ回路を内蔵しており、車両の電気負荷やバッテリの残容量等から定められる発電量の目標値(目標発電電流)に基づき、クランク軸7から駆動力を得て発電を行うように構成されている。
上記シリンダブロック3には、エンジンを始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aと、モータ本体34aにより回転駆動されるピニオンギア34bとを有している。上記ピニオンギア34bは、クランク軸7の一端部に連結されたリングギア35と離接可能に噛合している。そして、上記スタータモータ34を用いてエンジンを始動する際には、ピニオンギア34bが所定の噛合位置に移動して上記リングギア35と噛合し、ピニオンギア34bの回転力がリングギア35に伝達されることにより、クランク軸7が回転駆動されるようになっている。
図2は、上記エンジン本体1を含むパワートレイン系を簡易的に示す図である。この図2に示すように、エンジン本体1のクランク軸7は、トルクコンバータ102を介して自動変速機101と連結されている。つまり、当実施形態のディーゼルエンジンが搭載される車両は、変速操作が自動的に行われるAT車である。
上記トルクコンバータ102は、エンジン本体1のクランク軸7と一体に回転するポンプインペラと、ポンプインペラと対向配置されたタービンランナと、これらポンプインペラおよびタービンランナの間に配置されたステータとを内蔵した従来周知の構造を有している。上記ポンプインペラの回転は、トルクコンバータ102内の作動流体(ATFオイル)を介してタービンランナに伝達され、最終的に自動変速機101の入力軸103の回転として取り出される。上記自動変速機101は、流星歯車機構と摩擦締結要素(クラッチやブレーキ)とを内蔵した従来周知の構造を有しており、上記摩擦締結要素の断続が油圧で制御されることにより、車両の速度等に応じた所望の変速段(例えば前進6段、後退1段のいずれか)が実現されるようになっている。
図3は、上記燃料噴射弁15に燃料を供給する燃料供給系の概略構成を示すシステム図である。この図3に示すように(部分的には図1にも示すように)、当実施形態のエンジンの燃料供給系には、燃料(軽油)が貯蔵される燃料タンク40と、燃料タンク40と燃料パイプ41を介して接続され、燃料タンク40内の燃料を汲み上げて高圧状態にして送り出すサプライポンプ43と、燃料パイプ41の途中部に設けられ、燃料タンク40から汲み上げられた燃料を加熱しつつ濾過する燃料フィルタ42と、サプライポンプ43から圧送された燃料が通路する燃料供給パイプ44と、燃料供給パイプ44の下流端に接続された単一のコモンレール(蓄圧室)45と、コモンレール45と各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15とを接続する複数の(4本の)分岐パイプ46と、コモンレール45内に蓄えられた燃料の圧力(燃圧)が所定値以上になったときに燃料をコモンレール45から排出させるプレッシャーリミッタ47と、プレッシャーリミッタ47を通じてコモンレール45から排出された燃料を燃料タンク40に戻すためのリターンパイプ48とが含まれる。
上記サプライポンプ43は、エンジンから駆動力を得て作動する機械式のプランジャーポンプである。具体的に、サプライポンプ43の入力軸43aは、エンジン本体1のカムシャフトとベルトまたはギヤ機構等を介して連結されている。そして、上記入力軸43aがカムシャフトと連動して回転することにより、サプライポンプ43に内蔵されたプランジャーが往復運動し、その往復運動に応じてサプライポンプ43から燃料が圧送されるようになっている。
また、上記サプライポンプ43には、プランジャーにより押し出された燃料の一部をレギュレータパイプ50を通じてリターンパイプ48に逃がすことにより、サプライポンプ43からコモンレール45に向けて圧送される燃料の圧力を一定範囲に調節するサクションコントロールバルブ43b(以下、「SCV」と略称する)が内蔵されている。
上記各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15には、噴射されずに残った燃料を燃料タンク40に戻すためのインジェクターリターンパイプ49が接続されている。このインジェクターリターンパイプ49の下流端は、上記レギュレータパイプ50に接続されており、インジェクターリターンパイプ49を通じて排出された燃料が、レギュレータパイプ50およびリターンパイプ48を通じて燃料タンク40に戻されるようになっている。
上記インジェクターリターンパイプ49の途中部には、チェックバルブ55が設けられている。このチェックバルブ55は、それよりも上流側の燃料の圧力が所定値を超えたときに開弁することで、インジェクターリターンパイプ49内の圧力を一定に保つ機能を有している。
上記コモンレール45には、その内部に蓄えられた燃料の圧力(燃圧)を検出するための燃圧センサSW4が設けられている。なお、コモンレール45内の圧力は、燃料噴射弁15に供給される燃料の圧力と同じなので、以下では、上記燃圧センサSW4により検出される圧力のことを指して、「燃料噴射弁15の燃圧」ともいう。
(2)制御系
以上のように構成されたエンジンは、その各部がECU(エンジン制御ユニット)60により統括的に制御される。ECU60は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサであり、本発明にかかる制御手段に相当するものである。
上記ECU60には、各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、ECU60は、エンジンの各部に設けられた上記水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、および燃圧センサSW4と電気的に接続されており、これら各センサSW1〜SW4からの入力信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、回転速度、気筒判別情報、燃圧等の種々の情報を取得する。
また、ECU60には、車両に設けられた各種センサ(SW5〜SW10)からの情報も入力される。すなわち、車両には、車両の走行速度(車速)を検出するための車速センサSW5と、運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル36の開度を検出するためのアクセル開度センサSW6と、ブレーキペダル37のON/OFF(ブレーキの有無)を検出するためのブレーキセンサSW7と、大気圧(外気の圧力)を検出するための大気圧センサSW8と、バッテリ(図示省略)の残容量を検出するためのバッテリセンサSW9と、車室内の温度を検出するための室温センサSW10とが設けられている。ECU60は、これら各センサSW5〜SW10からの入力信号に基づいて、車速、アクセル開度、ブレーキの有無、大気圧、バッテリの残容量、車室内温度といった情報を取得する。
上記ECU60は、上記各センサSW1〜SW10からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU60は、上記燃料噴射弁15、スロットル弁30、VVT13a、オルタネータ32、スタータモータ34、およびSCV43b等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
上記ECU60が有するより具体的な機能について説明する。ECU60は、例えばエンジンの通常運転時に、SCV43b等を制御して燃料噴射弁15の燃圧を所望の値に維持したり、燃料噴射弁15を制御して運転条件に応じた所要量の燃料を燃料噴射弁15から噴射させたり、オルタネータ32を制御して車両の電気負荷やバッテリの残容量等に応じた所要量の電力を発電させたり、といった基本的な制御を実行する機能を有する他、いわゆるアイドルストップ機能として、予め定められた特定の条件下でエンジンを自動的に停止させ、または再始動させる機能をも有している。このため、ECU60は、エンジンの自動停止または再始動制御に関する機能的要素として、自動停止制御部61および再始動制御部62を有している。
すなわち、上記自動停止制御部61は、エンジンの運転中に、予め定められたエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを自動停止させる制御を実行するものである。
また、上記再始動制御部62は、エンジンが自動停止した後、予め定められた再始動条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを再始動させる制御を実行するものである。
(3)自動停止制御
次に、上記ECU60の自動停止制御部61により実行されるエンジンの自動停止制御の内容を、図4のフローチャートおよび図5のタイムチャートを用いて具体的に説明する。図4のフローチャートに示す処理がスタートすると、自動停止制御部61は、各種センサ値を読み込む制御を実行する(ステップS1)。具体的には、水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、燃圧センサSW4、車速センサSW5、アクセル開度センサSW6、ブレーキセンサSW7、大気圧センサSW8、バッテリセンサSW9、および室温センサSW10からそれぞれの検出信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、回転速度、気筒判別情報、燃圧、車速、アクセル開度、ブレーキの有無、大気圧、バッテリの残容量、車室内温度等の各種情報を取得する。
次いで、自動停止制御部61は、上記ステップS1で取得された情報に基づいて、エンジンの自動停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS2)。例えば、車両が停止状態にあること、アクセルペダル36の開度がゼロであること(アクセルOFF)、ブレーキペダル37が所定の踏力以上で踏み込まれていること(ブレーキON)、エンジンの冷却水温が所定値以上であること(つまり暖機がある程度進んでいること)、バッテリの残容量が所定値以上であること、エアコンの負荷(車室内温度とエアコンの設定温度との差)が比較的少ないこと、等の複数の要件が全て揃ったときに、自動停止条件が成立したと判定する。なお、車両が停止状態にあるという要件については、必ずしも完全停止(車速=0km/h)を必須とする必要はなく、所定の低車速以下(例えば3km/以下)になったときに車両が停止状態にあると判定してもよい。
上記ステップS2でYESと判定されて自動停止条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部61は、後述する燃料カット(燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する制御)を実行した後に設定すべき吸気弁11の閉時期(目標IVC)を、上記ステップS1で取得した大気圧の値に応じて決定する制御を実行する(ステップS3)。
図6は、上記目標IVCを大気圧に応じてどのように決定するかを規定する制御マップの一例である。本図に示すように、目標IVCは、大気圧にかかわらず下死点よりも遅角側に設定されるが、その下死点からの遅角量は、大気圧が高いほど大きく設定される。すなわち、目標IVCは、大気圧が高いほど遅角側(下死点から離れる側)に設定され、大気圧が低いほど進角側(下死点に近づく側)に設定される。なお、大気圧が変化するのは、主として標高の変化が原因である。例えば、車両が走行している土地の標高が0mのときの大気圧は約101kPa(標準大気圧)となるが、標高が2000mになると大気圧は約79kPaまで低下する。この程度大気圧が変化した場合に、目標IVCは、例えばクランク角で約30°程度の幅で変化するように設定される。
上記ステップS3で目標IVCを決定した後、自動停止制御部61は、各気筒2A〜2Dへの燃料の供給を停止する燃料カットを実行する(ステップS4)。すなわち、各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15から噴射すべき燃料の量である目標噴射量をゼロに設定し、全ての燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止することにより、燃料カットを実行する。なお、図5のタイムチャートに示す例では、上記自動停止条件(S2)が成立した時点をt0とし、その後燃料カットを実行した時点をt1としている。燃料カットが実行されても、エンジンは直ちに停止するわけでなく、惰性によってしばらくの間は回転を続ける(図5の最上段のエンジン回転速度の波形参照)。
次いで、自動停止制御部61は、吸気弁11用の動弁機構13に組み込まれたVVT13aを駆動することにより、吸気弁11の閉時期(IVC)を、上記ステップS3で決定した目標IVCに変更する制御を実行する(ステップS5)。図5のタイムチャートに示す例では、燃料カットが行われる時点t1の直後にIVCが変更されており、この制御を境に、IVCは、アイドリング時(自動停止制御の開始前)に設定される通常のタイミングであるθ1から、上記目標IVCに一致するタイミングであるθ2へと変更されている。
ここで、上記ステップS5の制御により変更された後のIVC(=θ2)は、変更前のIVC(=θ1)よりも遅角側になるため、エンジンの有効圧縮比、つまり、IVC(吸気弁11が閉弁した時点)での燃焼室容積と上死点での燃焼室容積との比は、上記ステップS5の制御に伴って所定量低下することになる。すなわち、上記ステップS5では、エンジンの有効圧縮比が低下する方向へとIVCが変更される。なお、変更後のIVC(=θ2)は、図6を用いて既に説明したとおり、大気圧が高いほど遅角側に設定されるので、上記ステップS5の後の有効圧縮比は、大気圧が高いほど低い値に設定されることになる。
次いで、自動停止制御部61は、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる制御を開始する(ステップS6)。図5のタイムチャートに示す例では、燃料カットが行われる時点t1の直後から、燃圧を上昇させる制御が開始されており、この時点を境に、燃料噴射弁15の目標燃圧が、アイドリング時(自動停止制御の開始前)の設定値であるFP1から、所定量高いFP2に増大設定されている。ここで、燃料カットが実行された後も、エンジンは惰性で回転を続けているため、サプライポンプ43の駆動も継続されている。このため、目標燃圧がFP2まで高められると、これに伴い、実燃圧(燃圧センサSW5により検出される実際の燃圧)も徐々に上昇する。
当実施形態において、燃圧の上昇は、サプライポンプ43に内蔵されたSCV43bが全閉にされることによって実現される。SCV43bが全閉にされると、サプライポンプ43からレギュレータパイプ50を通じてリターンパイプ48に逃がされる燃料の流れ(図3の破線の矢印)が遮断され、サプライポンプ43からの燃料が全てコモンレール45に供給される結果、コモンレール45内の圧力が上記FP1から徐々に上昇していく。そして、このようなSCV43bの閉弁制御が所定期間継続されることにより、図5の時点t2に示すように、燃料噴射弁15の実際の燃圧(実燃圧)がFP2まで上昇する。なお、FP1からFP2への上昇幅は、例えば10〜数十MPaとされる。
上記燃圧上昇制御(S6)の後、自動停止制御部61は、エンジンの惰性回転中の最後の圧縮上死点(最終TDC)よりも1つ前の圧縮上死点の通過タイミングが到来したか否かを判定する(ステップS7)。なお、ここでいう「最後の圧縮上死点(最終TDC)」、あるいはその「1つ前の圧縮上死点」とは、特定の1つの気筒についてではなく、エンジン全体(気筒2A〜2Dの全て)についていうものである。したがって、エンジンが完全停止に至る時点から遡って、その停止時点に最も近いタイミングで圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間の上死点)を迎えた気筒の圧縮上死点が上記「最後の圧縮上死点(最終TDC)」であり、この最終TDCに最も近いタイミングで圧縮上死点を迎えた気筒の圧縮上死点が上記「1つ前の圧縮上死点」である。なお、図5のタイムチャートにおける上から2段目の波形(クランク角)に表記した(i)(ii)(iii)は、最終TDC、最終TDCの1つ前の圧縮上死点、最終TDCの2つ前の圧縮上死点をそれぞれ表している。また、エンジンが最終TDC(i)を迎えた時点をt5、その1つ前の圧縮上死点(ii)を迎えた時点をt4、その2つ前の圧縮上死点(iii)を迎えた時点をt3としている。
上記ステップS7の制御では、上記図5の時点t4のようにエンジンが最終TDCの1つ前の圧縮上死点を迎えたタイミングを、エンジン回転速度に基づいて特定する。すなわち、燃料カット後に惰性で回転するエンジンの回転速度は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかが圧縮上死点を迎える度に一時的に落ち込み、圧縮上死点を越えた後に再び上昇するというアップダウンを繰り返しながら徐々に低下していく。さらに、エンジンの惰性回転中、その回転速度の低下の仕方には一定の規則性がある。よって、圧縮上死点の通過時の回転速度、つまりアップダウンの谷を迎えたときの回転速度の値を調べれば、それが最終TDCの何回前の圧縮上死点にあたるのかを推定することができる。そこで、上記ステップS7では、圧縮上死点通過時の回転速度を常時測定し、それが予め設定された所定範囲、すなわち、最終TDCの1つ前の圧縮上死点を通過するときの回転速度として実験等により予め求められた所定範囲の中に入るか否かを判定することにより、上記1つ前の圧縮上死点の通過タイミング(図5の時点t4)を特定する。
上記ステップS7でYESと判定されて現時点が最終TDCの1つ前の上死点通過タイミング(図5の時点t4)であることが確認された場合、自動停止制御部61は、VVT13aを駆動することにより、吸気弁11の閉時期(IVC)を、後述するエンジンの再始動制御のときに設定すべきタイミングに変更する制御を実行する(ステップS8)。なお、IVCは、先のステップS5で一旦遅角側(タイミングθ2)に変更されているので、このステップS8では、IVCが再び進角側(つまりエンジンの有効圧縮比を高める方向)に変更されることになる。IVCがθ2まで遅角された時点(燃料カットが行われる時点t1の直後)から、再びIVCが進角側に戻される時点t4までの期間においては、図5から明らかなように、複数の気筒が圧縮上死点を迎えている。このように、当実施形態では、燃料カットの後、複数の気筒の圧縮上死点通過タイミングを含む期間に亘って、IVCが遅角されてエンジンの有効圧縮比が低下させられるようになっている。
上記ステップS8でIVCが再始動時のタイミングに変更された後、エンジンは、図5に示すように、惰性回転中の最後の圧縮上死点である最終TDC(時点t5)を超えた後、一度も上死点を超えることなく(一時的にはピストンの揺れ戻しにより逆回転もしながら)、時点t6において完全停止に至る。このことを確認するため、自動停止制御部61は、エンジン回転速度が0rpmになったか否かを判定する(ステップS9)。そして、ここでYESと判定されてエンジンが完全停止したことが確認された時点で、自動停止制御を終了する。
(4)再始動制御
次に、上記ECU60の再始動制御部62により実行されるエンジンの再始動制御の具体的内容について、図7のフローチャートを用いて説明する。この図7のフローチャートに示す処理がスタートすると、再始動制御部62は、各種センサ値を読み込み(ステップS11)、その値に基づいて、エンジンの再始動条件が成立しているか否かを判定する(ステップS12)。例えば、ブレーキペダル37がリリースされたこと、アクセルペダル36が踏み込まれたこと、エンジンの冷却水温が所定値未満になったこと、バッテリの残容量の低下量が許容値を超えたこと、エンジンの停止時間(自動停止後の経過時間)が上限時間を越えたこと、エアコン作動の必要性が生じたこと(つまり車室内温度とエアコンの設定温度との差が許容値を超えたこと)等の要件の少なくとも1つが成立したときに、再始動条件が成立したと判定する。
上記ステップS12でYESと判定されて再始動条件が成立したことが確認された場合、再始動制御部62は、上述したエンジンの自動停止制御に伴い圧縮行程で停止した気筒である停止時圧縮行程気筒(図5の例では気筒2C)のピストン停止位置を、クランク角センサSW2およびカム角センサSW3に基づき特定し、その特定したピストン停止位置が、図8に示す基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rxにあるか否かを判定する(ステップS13)。なお、図8の基準停止位置Xは、エンジンの形状(排気量、ボア/ストローク比等)や暖機の進行度合い等によって異なり得るが、例えば下死点後(ABDC)90〜105°CAの間のいずれかの位置に設定することができる。例えば、基準停止位置XがABDC100°CAである場合、上記特定範囲Rxは、ABDC0〜100°CAの範囲となる。
上記ステップS13でYESと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が特定範囲Rxにあることが確認された場合、再始動制御部62は、停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射する1圧縮始動によってエンジンを再始動させる制御を実行する(ステップS14)。すなわち、スタータモータ34を駆動してクランク軸7に回転力を付与しつつ、燃料噴射弁15から停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射して自着火させることにより、エンジン全体として最初の圧縮上死点を迎える1圧縮目から燃焼を再開させて、エンジンを再始動させる。
一方、上記ステップS13でNOと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が特定範囲Rxよりも上死点側で停止していたことが確認された場合、再始動制御部62は、吸気行程で停止していた停止時吸気行程気筒(図5の例では気筒2D)に最初の燃料を噴射する2圧縮始動によってエンジンを再始動させる制御を実行する(ステップS15)。すなわち、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が圧縮上死点を迎える1圧縮目を過ぎて、次に停止時吸気行程気筒2Dが圧縮行程を迎えるまで、燃料を噴射することなく、スタータモータ34の駆動のみによってエンジンを強制的に回転させる。そして、その時点で燃料噴射弁15から停止時吸気行程気筒2Dに燃料を噴射し、噴射した燃料を自着火させることにより、エンジン全体として2回目の圧縮上死点を迎える2圧縮目から燃焼を再開させ、エンジンを再始動させる。
ここで、当実施形態における再始動制御では、図7に示したように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置に応じて、1圧縮始動(S14)と2圧縮始動(S15)とが使い分けられるが、それは、次のような理由による。
1圧縮始動が可能な特定範囲Rx(図8)は、上述したように、予め定められた基準停止位置X(例えばABDC90〜105°CA間のいずれかの位置)よりも下死点側に設定されている。停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5がこのような下死点寄りの特定範囲Rxに停止していれば、ピストン5による圧縮代(上死点までのストローク量)が比較的多いため、エンジン再始動時のピストン5の上昇に伴い、上記気筒2C内の空気は十分に圧縮されて高温・高圧化する。このため、再始動時の最初の燃料を停止時圧縮行程気筒2Cに噴射してやれば(1圧縮始動)、この燃料は、気筒2C内で比較的容易に自着火に至り、燃焼する。
これに対し、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が特定範囲Rxから上死点側に外れていれば、ピストン5による圧縮代が少なく、ピストン5が上死点まで上昇しても筒内の空気が十分に高温・高圧化しないため、停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射しても失火が起きるおそれがある。そこで、このような場合には、停止時圧縮行程気筒2Cではなく停止時吸気行程気筒2Dに燃料を噴射して自着火させることにより、エンジンを再始動させる(2圧縮始動)。
上記2圧縮始動では、停止時吸気行程気筒2Dのピストン5が圧縮上死点付近に到達する2圧縮目までは、燃料噴射に基づく燃焼を行わせることができず、エンジンの再始動に要する時間、つまり、スタータモータ34の駆動開始時点からエンジン完爆(例えば回転速度が750rpmまで上昇すること)までの時間が長くなってしまう。したがって、エンジンを再始動させる際には、できるだけ1圧縮始動によってエンジンを始動させることが好ましい。
そこで、当実施形態では、少なくとも1圧縮始動における1圧縮目の燃料噴射(停止時圧縮行程気筒2Cへの燃料噴射)の際に、複数回に分けて燃料を噴射するようにしている。具体的には、圧縮上死点付近もしくはそれ以降に噴射されるメイン噴射に加えて、このメイン噴射よりも前の予備的な噴射であるプレ噴射を行う。
上記プレ噴射による燃料は、メイン噴射に基づき主に圧縮上死点以降に生じる拡散燃焼(以下、この燃焼を「メイン燃焼」という)を確実に引き起こすために利用される。すなわち、メイン噴射よりも早い段階で、プレ噴射によって少量の燃料を噴射し、その噴射した燃料を所定の着火遅れの後に燃焼させることにより(以下、この燃焼を「プレ燃焼」という)、筒内温度・圧力を上昇させて、その後に続くメイン燃焼を促進する。
より具体的に、当実施形態におけるプレ噴射は、圧縮上死点前よりも前であって、かつ噴射した燃料がピストン5冠面のキャビティ5aに収まるようなクランク角範囲内で、複数回(例えば2〜5回のいずれかの回数)実行される。これは、同じ量の燃料であれば、1回のプレ噴射で噴射し切るよりも、複数回のプレ噴射に分けて噴射した方が、キャビティ5a内にリッチな混合気を継続的に形成でき、着火遅れを短くできるからである。つまり、プレ噴射を複数回にすることで、1回あたりのプレ噴射の噴射量が減って噴霧のペネトレーション(貫徹力)が弱まるため、キャビティ5a内に留まる燃料の割合が増大する結果、キャビティ5a内の混合気がリッチになり、着火性を効果的に改善することができる。
図9は、1圧縮始動のときの1圧縮目の燃料噴射の態様を例示する図である。ここでは、一例として、プレ噴射を3回実行している。具体的には、上死点前(BTDC)18〜10°CAの間に、プレ噴射として1回あたり2mm3の燃料を3回噴射し(下段の波形Ip)、その後、メイン噴射として、プレ噴射よりも多くの(少なくともプレ噴射1回分よりは多くの)燃料を圧縮上死点(BTDC0°CA)で噴射している(下段の波形Im)。
図9の上段には、上記のような燃料噴射に伴い生じる燃焼の様子を熱発生率の変化として図示している。この図9の上段の波形から理解されるように、3回のプレ噴射(Ip)が実行されると、最後のプレ噴射の完了後、所定の着火遅れ時間が経過してから、プレ噴射された燃料の自着火によるプレ燃焼(Bp)が起きる。このプレ燃焼(Bp)は、圧縮上死点(BTDC0°CA)よりも前に生じ、その後熱発生率のピークを迎えてからいったん収束しかけるが、圧縮上死点からメイン噴射(Im)が開始されることで、そのメイン噴射された燃料の自着火によるメイン燃焼(Bm)が、引き続いて発生する。このメイン燃焼(Bm)は、プレ燃焼(Bp)によって筒内が高温・高圧化された状態で実行されるメイン噴射(Im)に基づき、ごく短い着火遅れの後に燃焼を開始する(拡散燃焼)。
加えて、当実施形態では、図5等に示したように、エンジンの自動停止制御の途中で、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる燃圧上昇制御が実行されるので、上記停止時圧縮行程気筒2Cに燃料噴射(プレ噴射およびメイン噴射)を行った際の燃料の微粒化が促進される。これにより、噴射された燃料の着火性がより高められ、自着火に至るまでの着火遅れ時間が短縮される結果、1圧縮始動による始動性がさらに改善される。
上記特定範囲Rxの境界である基準停止位置X(図8)は、上記のような燃圧上昇制御と、プレ噴射を含む再始動時の燃料噴射制御とを合わせて実行することによる着火性の改善を加味して設定されたものである。つまり、燃圧の上昇およびプレ噴射がなかった場合には、上記基準停止位置Xは、図8の例よりも下死点側に設定せざるを得ないが、上記燃圧の上昇およびプレ噴射によって着火性を改善することで、基準停止位置Xをより上死点側に設定することが可能になり、その結果、基準停止位置Xを、例えば下死点後(ABDC)90〜105°CAといった、下死点からかなり離れた位置に設定することが可能となる。これにより、特定範囲Rxが上死点側に拡大するので、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5がより高い頻度で上記特定範囲Rxに収まることとなり、1圧縮始動による迅速な再始動を行える機会が増える。特に、当実施形態では、エンジン本体1の幾何学的圧縮比が14とかなり低く、燃料の着火性を確保しにくい状況にあるため、上記燃圧の上昇等により始動時の着火性を改善することが、1圧縮始動の機会を増やす上で特に有効である。
なお、図10には、1圧縮始動のときに行われる1圧縮目の燃料噴射(停止時圧縮行程気筒2Cへの燃料噴射)の態様を示したが、停止時圧縮行程気筒2Cよりも後に圧縮行程を迎える気筒(停止時吸気行程気筒2Dや停止時排気行程気筒2B)に対しても、1圧縮目と同様に、プレ噴射およびメイン噴射に基づく燃焼制御を実行することが望ましい。エンジンの再始動時に最も着火性が厳しいのは、エンジン全体として最初の圧縮上死点を迎える1圧縮目であるが、少なくとも2圧縮目や3圧縮目についても、着火性の改善は充分ではないと考えられるからである。ただし、エンジン回転速度がある程度上昇している2圧縮目や3圧縮目においては、プレ噴射の回数を、1圧縮目のときよりも少なくすることができる。
また、当実施形態のような低圧縮比のディーゼルエンジンでは、上記のようなプレ噴射およびメイン噴射に基づく燃焼制御を、1圧縮目から燃焼を再開する1圧縮始動のときだけでなく、2圧縮目から燃焼を再開する2圧縮始動によってエンジンを始動する際にも行うことが望ましい。
(5)作用効果等
以上説明したように、当実施形態では、所定の条件下で自動的にエンジンを停止させたり再始動させたりする、いわゆるアイドルストップ機能を有したディーゼルエンジンにおいて、次のような特徴的な構成を採用した。
ECU(エンジン制御ユニット)60の自動停止制御部61は、自動停止条件の成立に伴い、エンジンを自動的に停止させる自動停止制御を実行する(図4、図5)。自動停止制御には、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実行するステップ(S4)と、燃料カットを実行してからエンジンが停止するまでの間の惰性回転中における少なくとも複数の気筒の圧縮上死点が過ぎる期間に亘って、エンジンの有効圧縮比が低下する方向に吸気弁11の閉時期(IVC)を変更するステップと(S5)、上記エンジンの惰性回転中に燃料噴射弁15の燃圧を上昇させるステップ(S6)とが含まれる。
また、ECU60の再始動制御部62は、エンジンの自動停止後、再始動条件が成立したときに、エンジンを自動的に始動させる再始動制御を実行する(図7)。再始動制御には、圧縮行程で停止していた停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が所定の基準停止位置Xよりも下死点側に設定された特定範囲Rx(図8)にあるか否かを判定するステップ(S13)と、その判定によりピストン停止位置が特定範囲Rxにあることが確認された場合に、上記停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射し、エンジン全体として1回目の圧縮上死点を迎える1圧縮目から燃焼を再開させるステップ(S14)とが含まれる。
このように、上記実施形態では、自動停止条件が成立してエンジンが自動停止される際に、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる制御が実行されるため、その後にエンジンを再始動させるために燃料噴射弁15から燃料を噴射するときに、比較的高い燃圧によって燃料を微粒化することができ、燃料の着火性を高めることができる。燃料の着火性が高められると、停止時圧縮行程気筒2Cへの燃料噴射によってエンジンを再始動させる1圧縮始動が可能なピストン停止位置範囲(特定範囲Rx)を上死点側に拡大し得るため、1圧縮始動の機会を増やして、迅速な始動性を確保することができる。
特に、上記燃圧を上昇させる制御が、燃料カットからエンジン停止(完全停止)までの間の惰性回転中に実行されるため、燃料噴射弁15に燃料を供給するサプライポンプ43として一般的な機械式のポンプ(エンジンによって機械的に駆動されるポンプ)を用いながらも、問題なく燃圧を上昇させることができる。つまり、エンジンの完全停止後に燃圧を上昇させようとすれば、エンジンとは無関係に動作可能な特殊な(例えば電動式の)サプライポンプを用いる必要が生じるが、上記実施形態のようにエンジンの完全停止の前に燃圧を高めるようにした場合には、上記のような特殊なサプライポンプを用いる必要がないので、余計なコストをかけることなく、確実に燃圧を高めて着火性を改善することができる。
しかも、燃料カットの後で燃圧を上昇させる(言い換えれば燃料カットの前の燃圧は通常通りに設定する)ため、燃圧上昇のために余計な燃料が消費されることがなく、燃費の悪化を効果的に防止することができる。
例えば、上記実施形態とは異なり、燃料カットよりも前のアイドル運転中に燃圧を上昇させた場合には、燃圧の上昇に伴いサプライポンプ43の仕事が増える(これによりエンジンに与える抵抗力が増大する)ため、燃圧上昇前と同じトルクを得るために燃料噴射弁15からの噴射量を一時的に増やす必要が生じ、燃費の悪化が避けられなくなる。
図11は、上記実施形態との比較のために、燃料カットよりも前に燃圧を上昇させた場合の各状態量の変化を示す図である。なお、本図では、自動停止条件が成立した時点をt0’、燃料カットの実行時点をt1’としている。また、時点t3’〜t6’は、図4の時点t3〜t6に対応している。
上記図11の比較例では、時点t0’で自動停止条件が成立してから、その後の時点t1’で燃料カットが実行されるまでの間に、燃料噴射弁15の目標燃圧が増大設定され、これに伴って燃焼噴射弁15の実際の燃圧(実燃圧)も上昇している。すると、このような燃圧の上昇に伴い、燃料噴射弁15からの目標噴射量も増大設定される(図11において破線で囲んだZの部分参照)。これは、噴射量を増やさないとエンジンのトルクが低下し、アイドリング時に必要な所定の回転速度を維持できなくなるからである。
すなわち、燃圧を上昇させる際には、図3に示したSCV43bが全閉にされるが、このSCV43bが全閉にされると、サプライポンプ43からリターンパイプ48に逃がされる燃料の流れが遮断されるため、サプライポンプ43は、より多くの燃料をコモンレール45に圧送しなければならなくなり、サプライポンプ43の仕事量が増大する。すると、サプライポンプ43からカムシャフトを通じてエンジン本外1に伝わる抵抗力が増大し、エンジンのトルクが減殺される。そこで、これを補うために、図11のZ部に示したように、燃料噴射弁15からの噴射量を増大させる措置が必要になる。しかしながら、噴射量の増大は、一時的にでも燃費の悪化につながるため、当然好ましくない。
これに対し、上記実施形態では、燃料カットを実行した後のエンジンの惰性回転中(図5では燃料カットの時点t1の直後)に燃圧を上昇させ始めるようにした。これにより、上記のような噴射量の増大が必要なくなるため、燃費を何ら悪化させることなく、燃圧を上昇させることができ、再始動時の着火性を改善することができる。
ここで、上記実施形態のようにエンジンの惰性回転中に燃圧を上昇させると、エンジンの回転抵抗が増えることから、回転速度がアイドリング速度から短時間で大幅に低下してしまい、エンジンの惰性回転の期間が短くなると考えられる。そうなると、エンジンからサプライポンプ43に対し充分な駆動力が与えられず、燃圧を目標燃圧(図5のFP2)まで上昇させることができなくなるおそれがある。
このような問題をも解決すべく、上記実施形態では、エンジンの惰性回転中における少なくとも複数の気筒の圧縮上死点が過ぎる期間に亘って、吸気弁11の閉時期(IVC)を下死点に対し遅角側に変更することにより、エンジンの有効圧縮比を低下させるようにした。有効圧縮比の低下は、圧縮上死点での筒内圧力の低下につながるため、圧縮上死点を通過するときにエンジンに作用する圧縮反力による回転抵抗を減少させることができ、エンジンの惰性回転の期間が短縮されるのを効果的に防止することができる。したがって、上記実施形態によれば、燃圧を上昇させる制御をエンジンの惰性回転中に行いながらも、エンジンの惰性回転の期間を充分に確保することができ、当該期間のエンジンの回転力を利用して燃圧を確実に上昇させることができる。
さらに、上記実施形態では、図6に示したように、エンジンの惰性回転中に吸気弁11の閉時期(IVC)を遅角側に変更する際に、その遅角量を、大気圧が高いほど大きくするようにした。このような構成によれば、筒内に導入される空気の初期状態の圧力(大気圧)が高くても、その分だけIVCの遅角量が増大されて有効圧縮比が大幅に低減されるため、大気圧の値にかかわらず、圧縮上死点での筒内圧力、ひいては圧縮上死点通過時のエンジンの回転抵抗を一定のレベルに低下させることができ、エンジンの惰性回転の期間を充分に確保することができる。
また、上記実施形態では、エンジンの惰性回転中の最後の圧縮上死点(最終TDC)よりも1つ前の圧縮上死点を過ぎた時点(図5のt4)から、エンジンの有効圧縮比を上昇させる方向に吸気弁11の閉時期を変更する(つまり下死点に近づく側に進角させる)ようにした。このような構成によれば、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5をより高い頻度で特定範囲Rxに収めることができ、1圧縮始動による迅速な再始動の機会をより増やすことができる。
この点について図5および図10を用いて詳しく説明する。上記のように最終TDCの1つ前の圧縮上死点(ii)の通過時に(図5の時点t4で)吸気弁11の閉時期を進角させると、最終TDC(i)の直前(時点t4〜t5)が吸気行程となる上記停止時圧縮行程気筒2Cに対する吸気充填量が、最終TDCの1つ前の圧縮上死点(ii)の直前(時点t3〜t4)が吸気行程となる気筒、言い換えると、膨張行程で停止する停止時膨張行程気筒(図5では1番気筒2A)に対する吸気充填量よりも増大することになる。すると、図10(a)に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5に作用する圧縮空気による押下げ力が大きくなる一方、停止時膨張行程気筒2Aのピストン5に作用する圧縮空気による押下げ力が小さくなる。このため、エンジンが完全停止したときには、図10(b)に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の停止位置が自ずと下死点寄りとなり(停止時膨張行程気筒2Aのピストン5の停止位置は上死点寄りとなり)、結果として、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を、かなり高い頻度で、上記基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rx、つまり1圧縮始動が可能はピストン停止位置範囲に停止させることができるようになる。
しかも、エンジンが完全停止する前に、一旦低下させられた有効圧縮比が再び上昇することになるので、エンジンを再始動させる際には、筒内の空気を充分に圧縮して高温・高圧化させることができ、燃料の着火性を確保することができる。したがって、上記実施形態によれば、1圧縮始動の機会の拡大と、エンジンの再始動時の着火性の改善とを両立させることができる。
また、上記実施形態では、エンジンが自動停止した後、停止時圧縮行程気筒2Cへの燃料噴射によってエンジンを再始動させる1圧縮始動の際に、例えば図9に示したように、圧縮上死点を過ぎてから熱発生率のピークを迎えるようなメイン燃焼(Bm)を起こさせるメイン噴射(Im)と、このメイン噴射の開始よりも前に熱発生率のピークを迎えるようなプレ燃焼(Bp)を起こさせるプレ噴射(Ip)とが実行される。このような構成によれば、1圧縮始動時の着火性をより改善して、エンジン始動の迅速化をさらに促進することができる。
すなわち、プレ噴射された少量の燃料は、所定の着火遅れの後に自着火により燃焼し(プレ燃焼)、停止時圧縮行程気筒2Cの筒内温度・圧力を上昇させるため、それに引き続いてメイン噴射が実行されたときには、噴射された燃料がほどなく自着火により燃焼する(メイン燃焼)。このように、メイン噴射された燃料の着火性が、それ以前のプレ噴射(プレ燃焼)によって改善されるため、停止時圧縮行程気筒2Cでの圧縮代(上死点までのストローク量)がそれほど多くなくても、停止時圧縮行程気筒2Cでの燃焼は確実に行われる。この結果、1圧縮始動が可能なピストン停止位置範囲(特定範囲Rx)をより上死点側に拡大することができ、エンジン始動の迅速化をさらに促進することができる。
さらに、上記実施形態では、ピストン5の冠面に設けられたキャビティ5a内に燃料が収まるようなタイミングでプレ噴射を複数回実行するようにしたため、キャビティ5aの内部に着火し易い(着火遅れ時間の短い)リッチな混合気を確実に形成することができる。この結果、プレ噴射した燃料がより確実に自着火し(プレ燃焼)、そのことがメイン噴射した燃料の自着火(メイン燃焼)を促進するため、1圧縮始動による迅速な再始動の機会をより増やすことができる。
特に、燃料カットの前に予め燃圧を高める上記実施形態の構成において、プレ噴射の回数を1回にした場合には、そのプレ噴射によって比較的多くの燃料が高い燃圧で噴射されることにより、噴霧のペネトレーションが強まり、噴射された燃料がキャビティ5aの外部まで拡散する傾向が強くなる。すると、キャビティ5a内に形成されるリッチな混合気の割合が低下し、着火性が悪化するおそれがある。これに対し、上記実施形態のように、プレ噴射の回数を複数回にした場合には、プレ噴射1回あたりの噴射量が少なくなり、ペネトレーションが弱まるため、燃圧を高めつつも確実にリッチな混合気を形成でき、燃料の着火性を効果的に高めることができる。
なお、上記実施形態では、燃料カットの実行時点(図5の時点t1)以降のエンジンの惰性回転中に、サプライポンプ43に内蔵されたSCV43bを全閉にする制御を実行し、それによって燃料噴射弁15の燃圧を上昇させるようにしたが、惰性回転中に燃圧を上昇させる制御は、それほど遅くない応答性で燃圧を上昇できるものであればよく、上記SCV43bを用いた制御に特に限定されない。
また、上記実施形態では、吸気弁11の動作タイミングを変更するためのVVT13aとして、電動アクチュエータを備えた電磁式VVTを用いたが、必ずしもこのようなタイプのVVTを使用する必要はない。例えば、電動モータによって駆動されるオイルポンプを油圧供給源とするVVTを使用することが考えられる。このようなタイプのVVTを使用したとしても、エンジンの運転状態にかかわらず吸気弁11の動作タイミングを変更することができるので、上記実施形態と同様、エンジンが停止する直前に吸気弁11の閉時期(IVC)を変更するような制御(図4のステップS8)が可能である。
また、上記実施形態では、VVT13aとして、カムシャフトの回転位相を変更するタイプのVVTを採用したので、VVT13aの駆動に応じて、吸気弁11の閉時期だけでなく開時期も変更されることになるが、VVT13aは、少なくとも吸気弁11の閉時期を変更できるものであればよく、吸気弁11の開時期を固定したまま閉時期のみを変更するものであってもよい。
(6)惰性回転期間を確保するための他の方法
上記実施形態では、エンジンの惰性回転中に、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させるとともに、それに伴い惰性回転期間が短縮されるのを防止するために、VVT13aを駆動して吸気弁11の閉時期を遅角側(下死点から離れる側)に変更し、それによってエンジンの有効圧縮比を低下させるようにしたが、エンジンの惰性回転期間の短縮を防止する対策としては、圧縮上死点での筒内圧力(圧縮上死点圧力)を低下させることが可能なものであればよく、そのための具体的な方法は上記以外にも種々考えられる。
例えば、吸気弁11が開き始める時期である吸気弁11の開時期を、本来の吸気行程の始まりである排気上死点に対し遅らせることにより、筒内に導入される空気の量を減らし、それによって圧縮上死点圧力を低下させるようにしてもよい。
さらに、圧縮上死点圧力の低下は、吸気弁11の動作タイミングを変更すること以外でもの実現することが可能である。その一例を、図12を用いて説明する。なお、この図12おいて、先の図1と参照符号が同じものは、同一の構成要素ということを表している。
図12に示すエンジンでは、図1に示した先の実施形態とは異なり、いわゆる多連式のスロットル弁130が採用されており、エンジンの吸気通路28のうち気筒2A〜2Dごとに分岐した複数の分岐通路部28aに、それぞれスロットル弁130が設けられている。すなわち、図1に示した先の実施形態では、分岐通路部28a、サージタンク28b、および共通通路部28cを含む吸気通路28のうち、サージタンク28bよりも上流側に位置する単一の共通通路部28cに単一のスロットル弁30が設けられていたが、図12の例では、気筒2A〜2Dごとに分岐した複数の(4本の)分岐通路部28aに、それぞれ1つずつスロットル弁130が設けられている。なお、以下では、図12の例における分岐通路部28aのことを、独立吸気通路28aと称する。
図12に示すように、上記複数の独立吸気通路28aに設けられた各スロットル弁130は、単一のアクチュエータ131と連動連結されており、このアクチュエータ131の作動に伴い、各スロットル弁130が同時に開閉駆動されるようになっている。具体的に、上記アクチュエータ131と各スロットル弁130とは、単一のロッド132と複数のリンク133とを介して互いに連携されている。そして、上記アクチュエータ131によってロッド132が進退駆動されると、その駆動力が各リンク133を介して各スロットル弁130に伝達されることにより、各スロットル弁130が同時に回動(開閉駆動)されるようになっている。
以上のような多連式のスロットル弁130を備えた図12のエンジンを前提とすれば、エンジンの惰性回転中に上記スロットル弁130を閉方向に駆動することで、圧縮上死点圧力を低下させることができる。
例えば、図1に示した先の実施形態のように、吸気通路28の共通通路部28cにスロットル弁30を設けた場合には、たとえエンジンの惰性回転中にこのスロットル弁30を閉方向に駆動したとしても、サージタンク28b内に残っている空気が各気筒2A〜2Dに供給されるため、各気筒2A〜2Dへの吸入空気量が直ちに減少することはなく、エンジンの惰性回転中に圧縮上死点圧力を低下させる効果はほとんど得られないと考えられる。これに対し、図12に示した例のように、サージタンク28bよりも下流側に位置する複数の(気筒2A〜2Dと同数の)独立吸気通路28aにそれぞれスロットル弁130を設け、エンジンの惰性回転中にこのスロットル弁130をそれぞれ閉方向に駆動した場合には、その閉方向への駆動後、それほど遅れることなく各気筒2A〜2Dへの吸入空気量を減少させることができるので、惰性回転中の圧縮上死点圧力を問題なく低下させることができ、燃圧の上昇に伴う惰性回転期間の短縮を防止することができる。
(7)他のエンジン(車両)への適用
上記実施形態では、幾何学的圧縮比が14のエンジン本体1を備えたディーゼルエンジンを例に挙げて本発明の好ましい態様を説明したが、当然ながら、本発明の構成を適用可能なエンジンは、幾何学的圧縮比が14のものに限られない。例えば、幾何学的圧縮比が16未満のディーゼルエンジンであれば、従来から多用されてきたディーゼルエンジンに比べれば圧縮比が低く、相対的に着火性が悪いため、燃圧の上昇等によって再始動時の着火性を高める本発明の構成を好適に適用できる余地がある。一方、ディーゼルエンジンの幾何学的圧縮比は、着火性の限界から、12以上は必要であると考えられる。以上のことから、本発明を好適に適用可能なディーゼルエンジンは、幾何学的圧縮比が12以上16未満のディーゼルエンジンであり、より好ましくは、幾何学的圧縮比が13以上15以下のディーゼルエンジンであるといえる。
また、上記実施形態では、エンジン本体1のクランク軸7がトルクコンバータ102を介して自動変速機101と連結されたAT車を例に挙げて本発明の好ましい態様を説明したが、本発明の構成は、AT車だけでなく、クランク軸がクラッチを介して手動変速機に連結されたMT車にも適用することができる。ただし、MT車では、比較的大きな質量をもったフライホイールがクランク軸の一端に取り付けられるため、そのフライホイールの慣性により、燃料カット後にエンジンが惰性回転する期間がAT車に比べて長くなる。このため、本発明のように、惰性回転中にエンジンの圧縮上死点での筒内圧力(圧縮上死点圧力)を低下させる制御を実行することは、必ずしも必要ないと考えられる。
すなわち、エンジンの惰性回転の期間が長いMT車では、惰性回転中にエンジンの圧縮上死点圧力を低下させる制御をしなくても、燃料噴射弁15の燃圧を目標値まで上昇させるのに必要な期間を、エンジンの惰性回転中に問題なく確保することができると考えられる。これに対し、AT車では、エンジンの惰性回転の期間が元々短いため、仮に、圧縮上死点圧力を低下させる制御を実行しなかった場合には、エンジンが惰性回転する期間がさらに短くなり、その惰性回転中に燃圧を目標値まで上昇させることができなくなるおそれがある。したがって、エンジンの惰性回転中における少なくとも複数の気筒の圧縮上死点が過ぎる期間に亘って圧縮上死点圧力を低下させるという本発明の構成は、MT車よりもAT車に適用することによる意味の方が大きいといえる。