(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る始動制御装置が適用されたディーゼルエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるディーゼルエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、いわゆる直列4気筒型のものであり、紙面に直交する方向に列状に並ぶ4つの気筒2A〜2D(後述する図2も参照)を有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2A〜2Dにそれぞれ往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
上記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されており、この燃焼室6には、燃料としての軽油が、後述する燃料噴射弁15からの噴射によって供給される。そして、噴射された燃料(軽油)が、ピストン5の圧縮作用により高温・高圧化した燃焼室6で自着火し(圧縮自己着火)、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動するようになっている。
上記ピストン5は図外のコネクティングロッドを介してクランク軸7と連結されており、上記ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて上記クランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
図2は、上記エンジン本体1を含むパワートレイン系を簡易的に示す図である。この図2に示すように、エンジン本体1のクランク軸7は、トルクコンバータ102を介して自動変速機101と連結されている。つまり、当実施形態のディーゼルエンジンが搭載される車両は、変速操作が自動的に行われるAT車である。
上記トルクコンバータ102は、エンジン本体1のクランク軸7と一体に回転するポンプインペラと、ポンプインペラと対向配置されたタービンランナと、これらポンプインペラおよびタービンランナの間に配置されたステータとを内蔵した従来周知の構造を有している。上記ポンプインペラの回転は、トルクコンバータ102内の作動流体(ATFオイル)を介してタービンランナに伝達され、最終的に自動変速機101の入力軸103の回転として取り出される。上記自動変速機101は、流星歯車機構と摩擦締結要素(クラッチやブレーキ)とを内蔵した従来周知の構造を有しており、上記摩擦締結要素の断続が油圧制御されることにより、車両の速度等に応じた所望の変速段(例えば前進6段、後退1段のいずれか)が実現されるようになっている。
再び図1に戻って、当実施形態のディーゼルエンジンの構成について説明する。当実施形態のような4サイクル4気筒のディーゼルエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン5が、クランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。このため、各気筒2A〜2Dでの燃焼(そのための燃料噴射)のタイミングは、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的には、気筒2A,2B,2C,2Dの気筒番号をそれぞれ1番、2番、3番、4番とすると、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に燃焼が行われる。このため、例えば1番気筒2Aが膨張行程であれば、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bは、それぞれ、圧縮行程、吸気行程、排気行程となる(後述する図5も参照)。
上記シリンダヘッド4には、各気筒2A〜2Dの燃焼室6に開口する吸気ポート9および排気ポート10と、各ポート9,10を開閉する吸気弁11および排気弁12とが設けられている。なお、吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト等を含む動弁機構13,14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
また、上記シリンダヘッド4には、燃料噴射弁15が各気筒2A〜2Dにつき1つずつ設けられている。各燃料噴射弁15は、先端部に複数の噴孔(例えば8〜12個)を有したマルチホール型のものであり、その内部に、上記各噴孔に通じる燃料通路と、この燃料通路を開閉するために電磁的に駆動されるニードル状の弁体とを有している(いずれも図示省略)。そして、通電による電磁力で上記弁体が開方向に駆動されることにより、後述するコモンレール40(蓄圧室)から高圧で供給された燃料が上記各噴孔から燃焼室6に向けて直接噴射されるようになっている。
上記燃料噴射弁15と対向するピストン5の冠面(上面)の中央部には、他の部分(冠面の周縁部)よりも下方に凹んだキャビティ5aが形成されている。このため、ピストン5が上死点の近くにある状態で上記燃料噴射弁15から燃料が噴射された場合、この燃料は、まずキャビティ5aの内部に侵入することになる。
ここで、当実施形態のエンジン本体1は、その幾何学的圧縮比(ピストン5が下死点にあるときの燃焼室容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室容積との比)が14に設定されている。すなわち、一般的な車載用のディーゼルエンジンの幾何学的圧縮比が18もしくはそれ以上に設定されることが多いのに対し、当実施形態では、幾何学的圧縮比が14というかなり低い値に設定されている。
上記シリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通する図外のウォータジャケットが設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出するための水温センサSW1が、上記シリンダブロック3に設けられている。
また、上記シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度および回転速度を検出するためのクランク角センサSW2が設けられている。このクランク角センサSW2は、クランク軸7と一体に回転するクランクプレート25の回転に応じてパルス信号を出力するものであり、このパルス信号に基づいて、クランク軸7の回転角度(クランク角)および回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
一方、上記シリンダヘッド4には、気筒判別情報を出力するためのカム角センサSW3が設けられている。すなわち、カム角センサSW3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じてパルス信号を出力するものであり、この信号と、クランク角センサSW2からのパルス信号とに基づいて、どの気筒が何行程にあるのかが判別されるようになっている。
上記吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気通路29がそれぞれ接続されている。すなわち、外部からの吸入空気(新気)が上記吸気通路28を通じて燃焼室6に供給されるとともに、燃焼室6で生成された排気ガス(燃焼ガス)が上記排気通路29を通じて外部に排出されるようになっている。
上記吸気通路28のうち、エンジン本体1から所定距離上流側までの範囲は、気筒2A〜2Dごとに分岐した分岐通路部28aとされており、各分岐通路部28aの上流端がそれぞれサージタンク28bに接続されている。このサージタンク28bよりも上流側には、単一の通路からなる共通通路部28cが設けられている。
上記共通通路部28cには、各気筒2A〜2Dに流入する空気量(吸気流量)を調節するための吸気絞り弁30が設けられている。吸気絞り弁30は、エンジンの運転中は基本的に全開もしくはこれに近い高開度に維持されており、エンジンの停止時等の必要時にのみ閉弁されて吸気通路28を遮断するように構成されている。
上記クランク軸7には、ベルト等を介してオルタネータ32が連結されている。このオルタネータ32は、図外のフィールドコイルの電流を制御して発電量を調節するレギュレータ回路を内蔵しており、車両の電気負荷やバッテリの残容量等から定められる発電量の目標値(目標発電電流)に基づき、クランク軸7から駆動力を得て発電を行うように構成されている。
上記シリンダブロック3には、エンジンを始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aと、モータ本体34aにより回転駆動されるピニオンギア34bとを有している。上記ピニオンギア34bは、クランク軸7の一端部に連結されたリングギア35と離接可能に噛合している。そして、上記スタータモータ34を用いてエンジンを始動する際には、ピニオンギア34bが所定の噛合位置に移動して上記リングギア35と噛合し、ピニオンギア34bの回転力がリングギア35に伝達されることにより、クランク軸7が回転駆動されるようになっている。
図3は、上記燃料噴射弁15に燃料を供給する燃料供給系の概略構成を示すシステム図である。この図3に示すように(部分的には図1にも示すように)、当実施形態のエンジンの燃料供給系には、燃料(軽油)が貯蔵される燃料タンク40と、燃料タンク40と燃料パイプ41を介して接続され、燃料タンク40内の燃料を汲み上げて高圧状態にして送り出すサプライポンプ43と、燃料パイプ41の途中部に設けられ、燃料タンク40から汲み上げられた燃料を加熱しつつ濾過する燃料フィルタ42と、サプライポンプ43から圧送された燃料が通路する燃料供給パイプ44と、燃料供給パイプ44の下流端に接続された単一のコモンレール(蓄圧室)45と、コモンレール45と各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15とを接続する複数の(4本の)分岐パイプ46と、コモンレール45内に蓄えられた燃料の圧力(燃圧)が所定値以上になったときに燃料をコモンレール45から排出させるプレッシャーリミッタ47と、プレッシャーリミッタ47を通じてコモンレール45から排出された燃料を燃料タンク40に戻すためのリターンパイプ48とが含まれる。
上記サプライポンプ43は、エンジンの駆動力を得て作動する機械式のプランジャーポンプである。具体的に、サプライポンプ43の入力軸43aは、エンジン本体1のカムシャフトとベルトまたはギヤ機構等を介して連結されている。そして、上記入力軸43aがカムシャフトと連動して回転することにより、サプライポンプ43に内蔵されたプランジャーが往復運動し、その往復運動に応じてサプライポンプ43から燃料が圧送されるようになっている。
また、上記サプライポンプ43には、プランジャーにより押し出された燃料の一部をレギュレータパイプ50を通じてリターンパイプ48に逃がすことにより、サプライポンプ43からコモンレール45に向けて圧送される燃料の圧力を一定範囲に調節するサクションコントロールバルブ43b(以下、「SCV」と略称する)が内蔵されている。
上記各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15には、噴射されずに残った燃料を燃料タンク40に戻すためのインジェクターリターンパイプ49が接続されている。このインジェクターリターンパイプ49の下流端は、上記レギュレータパイプ50に接続されており、インジェクターリターンパイプ49を通じて排出された燃料が、レギュレータパイプ50およびリターンパイプ48を通じて燃料タンク40に戻されるようになっている。
上記インジェクターリターンパイプ49の途中部には、チェックバルブ55が設けられている。このチェックバルブ55は、それよりも上流側の燃料の圧力が所定値を超えたときに開弁することで、インジェクターリターンパイプ49内の圧力を一定に保つ機能を有している。
上記コモンレール45には、その内部に蓄えられた燃料の圧力(燃圧)を検出するための燃圧センサSW4が設けられている。なお、コモンレール45内の圧力は、燃料噴射弁15に供給される燃料の圧力と同じなので、以下では、上記燃圧センサSW4により検出される圧力のことを指して、「燃料噴射弁15の燃圧」ともいう。
(2)制御系
以上のように構成されたエンジンは、その各部がECU(エンジン制御ユニット)60により統括的に制御される。ECU60は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサであり、本発明にかかる制御手段に相当するものである。
上記ECU60には、各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、ECU60は、エンジンの各部に設けられた上記水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、および燃圧センサSW4と電気的に接続されており、これら各センサSW1〜SW4からの入力信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、回転速度、気筒判別情報、燃圧等の種々の情報を取得する。
また、ECU60には、車両に設けられた各種センサ(SW5〜SW10)からの情報も入力される。すなわち、車両には、車両の走行速度(車速)を検出するための車速センサSW5と、運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル36の開度を検出するためのアクセル開度センサSW6と、ブレーキペダル37のON/OFF(ブレーキの有無)を検出するためのブレーキセンサSW7と、大気圧(外気の圧力)を検出するための大気圧センサSW8と、バッテリ(図示省略)の残容量を検出するためのバッテリセンサSW9と、車室内の温度を検出するための室温センサSW10とが設けられている。ECU60は、これら各センサSW5〜SW10からの入力信号に基づいて、車速、アクセル開度、ブレーキの有無、大気圧、バッテリの残容量、車室内温度といった情報を取得する。なお、当実施形態では、大気圧センサSW8が、本発明にかかる検出手段(圧縮上死点圧力に比例する所定のパラメータを検出する手段)に相当する。
上記ECU60は、上記各センサSW1〜SW10からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU60は、上記燃料噴射弁15、吸気絞り弁30、オルタネータ32、スタータモータ34、およびSCV43b等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
上記ECU60が有するより具体的な機能について説明する。ECU60は、例えばエンジンの通常運転時に、SCV43b等を制御して燃料噴射弁15の燃圧を所望の値に維持したり、燃料噴射弁15を制御して運転条件に応じた所要量の燃料を燃料噴射弁15から噴射させたり、オルタネータ32を制御して車両の電気負荷やバッテリの残容量等に応じた所要量の電力を発電させたり、といった基本的な制御を実行する機能を有する他、いわゆるアイドルストップ機能として、予め定められた特定の条件下でエンジンを自動的に停止させ、または再始動させる機能をも有している。このため、ECU60は、エンジンの自動停止または再始動制御に関する機能的要素として、自動停止制御部61および再始動制御部62を有している。
すなわち、上記自動停止制御部61は、エンジンの運転中に、予め定められたエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを自動停止させる制御を実行するものである。
また、上記再始動制御部62は、エンジンが自動停止した後、予め定められた再始動条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを再始動させる制御を実行するものである。
(3)自動停止制御
次に、上記ECU60の自動停止制御部61により実行されるエンジンの自動停止制御の内容を、図4のフローチャートおよび図5のタイムチャートを用いて具体的に説明する。なお、ここでの説明から明らかとなるように、当実施形態では、上記ECU60の自動停止制御部61が、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実行する燃料カット制御手段としての機能と、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる燃圧調整手段としての機能とを兼務している。
図4のフローチャートに示す処理がスタートすると、自動停止制御部61は、各種センサ値を読み込む制御を実行する(ステップS1)。具体的には、水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、燃圧センサSW4、車速センサSW5、アクセル開度センサSW6、ブレーキセンサSW7、大気圧センサSW8、バッテリセンサSW9、および室温センサSW10からそれぞれの検出信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、回転速度、気筒判別情報、燃圧、車速、アクセル開度、ブレーキの有無、大気圧、バッテリの残容量、車室内温度等の各種情報を取得する。
次いで、自動停止制御部61は、上記ステップS1で取得された情報に基づいて、エンジンの自動停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS2)。例えば、車両が停止状態にあること、アクセルペダル36の開度がゼロであること(アクセルOFF)、ブレーキペダル37が所定の踏力以上で踏み込まれていること(ブレーキON)、エンジンの冷却水温が所定値以上であること(つまり暖機がある程度進んでいること)、バッテリの残容量が所定値以上であること、エアコンの負荷(車室内温度とエアコンの設定温度との差)が比較的少ないこと、等の複数の要件が全て揃ったときに、自動停止条件が成立したと判定する。なお、車両が停止状態にあるという要件については、必ずしも完全停止(車速=0km/h)を必須とする必要はなく、所定の低車速以下(例えば3km/以下)になったときに車両が停止状態にあると判定してもよい。
上記ステップS2でYESと判定されて自動停止条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部61は、吸気絞り弁30の開度を、アイドル運転時に設定される通常時の開度(例えば80%)から、全閉(0%)まで低下させる制御を実行する(ステップS3)。なお、図5のタイムチャートでは、自動停止条件が成立した時点をt0、その後吸気絞り弁30の開度を低下させ始める時点をt1としている。
次いで、自動停止制御部61は、上記ステップS1で取得した大気圧に基づいて、後述する燃料カット(ステップS10,S11)の開始タイミングを決定するためのF/C開始カウンタNの初期値を設定する制御を実行する(ステップS4)。
当実施形態において、上記F/C開始カウンタNの初期値は、図6のマップに基づき設定される。この図6のマップによると、F/C開始カウンタNの初期値は、大気圧がAP1(例えば75kPa)以下の範囲では0に設定される一方、大気圧がAP1より高い範囲では、大気圧の上昇に伴い1,2,3‥と徐々に増やされる。そして、大気圧がAP2(例えば100kPa)を超えると、F/C開始カウンタNの初期値は最大の5に設定される。なお、大気圧が低くなる状況としては、例えば、標高の高い高地を車両が走行しているときが考えられる。
上記のようにしてF/C開始カウンタNが設定されると、自動停止制御部61は、このF/C開始カウンタNの設定値が0であるか否かを判定する(ステップS5)。
上記ステップS5でNOと判定された場合、つまり、大気圧がAP1より高いためにF/C開始カウンタNの初期値が0以外(1〜5のいずれか)であった場合、自動停止制御部61は、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる燃圧上昇制御を開始する(ステップS6)。
具体的に、上記ステップS6の燃圧上昇制御では、燃料噴射弁15の目標燃圧が、アイドリング時(自動停止制御の開始前)の目標値であるFP1から、所定量高いFP2に増大設定される。すると、この目標燃圧の増大に伴い、サプライポンプ43に内蔵されたSCV43bが全閉にされる。SCV43bが全閉にされると、サプライポンプ43からレギュレータパイプ50を通じてリターンパイプ48に逃がされる燃料の流れ(図2の破線の矢印)が遮断され、サプライポンプ43からの燃料が全てコモンレール45に供給される結果、コモンレール45内の圧力が徐々に上昇していく。そして、このようなSCV43bの閉弁制御が所定期間継続されることにより、燃料噴射弁15の燃圧(実燃圧)が上記FP1からFP2まで上昇する。なお、FP1からFP2への上昇幅は、例えば10〜数十MPaとされる。
図5のタイムチャートでは、吸気絞り弁30を閉じ始める時点t1より少し遅れた時点t2において、燃料噴射弁15の目標燃圧が増大設定され、燃圧上昇制御が開始されている。そして、この時点t2以降、燃料噴射弁15の実際の燃圧(実燃圧)が徐々に上昇し、最終的に目標値FP2に達している。
上記のようにして燃圧上昇制御が開始されると、自動停止制御部61は、エンジン本体1のいずれかの気筒のピストン5が上死点(TDC)を超えたか否かを判定する(ステップS7)。そして、ここでYESと判定されて上死点を超えたことが確認されると、上記F/C開始カウンタNから1を減ずる演算を実行する(ステップS8)。すなわち、上記F/C開始カウンタNの値を、1だけ小さいN−1として再設定する。
次いで、自動停止制御部61は、F/C開始カウンタNが0であるか否かを判定する(ステップS9)。そして、ここでYESと判定されてN=0であることが確認された場合に、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実行する(ステップS10)。すなわち、各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15から噴射すべき燃料の量である目標噴射量をゼロに設定し、全ての燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止することにより、燃料カットを実行する。
一方、上記ステップS9でNOと判定された場合、つまり、F/C開始カウンタN≠0であった場合には、上述したステップS7以降の処理に戻り、エンジン本体1のいずれかの気筒が上死点を超える度にF/C開始カウンタNを1ずつ減ずる。そして、N=0まで減少した時点で、燃料カットを実行する(ステップS10)。
このような制御手順から明らかなように、図4のフローチャートでは、燃料カット(ステップS10)のタイミングが、上記ステップS4で設定されたF/C開始カウンタNの初期値によって可変的に設定される。上記ステップS10での燃料カットのタイミングが最も早いのは、F/C開始カウンタNの初期値が1のときである。Nの初期値が1であれば、エンジン本体1のいずれかの気筒が1回上死点を超えるだけでN=0になり、燃料カットが実行される。一方、F/C開始カウンタNの初期値が最大の5であるときには、燃料カットのタイミングが最も遅くなる。すなわち、エンジン本体1のいずれかの気筒が5回上死点を超えるまで燃料カットは実行されないので、N=1のケースよりも上死点の通過4回分だけ燃料カットのタイミングが遅くなる。
図5のタイムチャートには、燃料カットのタイミングが最も遅くなるケースとして、F/C開始カウンタNの初期値が5のときに設定される燃料噴射弁15の目標噴射量を実線で示している。このN=5の例では、燃料噴射弁15の目標燃圧が上昇設定される時点t2(燃圧上昇制御の開始時)から、上死点を5回超えるまで燃料カットの実行が待たれることにより、燃料カットのタイミング(目標噴射量がゼロに設定されるタイミング)が遅らされ、燃料噴射弁15の実際の燃圧(実燃圧)が目標値FP2に達するのとほぼ同時である時点t3に設定されていることが分かる。
上記燃料カットを実行した後は、図5の時点t3以降におけるエンジン回転速度の波形(実線)に示すように、エンジンは一時的に惰性で回転する。具体的に、エンジン回転速度は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかが圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間の上死点)を迎える度に一時的に落ち込み、圧縮上死点を越えた後に再び上昇するというアップダウンを繰り返しながら徐々に低下していく。
図5の時点t4は、エンジンがその停止動作中に最後に迎える上死点である最終TDCのタイミングを示している。この最終TDCを超えた後、エンジンは、一度も上死点を超えることなく(一時的にはピストンの揺れ戻しにより逆回転もしながら)、時点t5において完全停止に至る。なお、図5において、エンジン停止時の各気筒2A〜2Dのサイクル(最終TDCの時点t4以降の気筒サイクル)は、1番気筒2Aが膨張行程、3番気筒2Cが圧縮行程、4番気筒2Dが吸気行程、2番気筒2Bが排気行程となっている。
上記ステップS10で燃料カットを実行した後、自動停止制御部61は、エンジンの回転速度が0rpmであるか否か、つまりエンジンが完全停止したか否かを判定する(ステップS13)。そして、ここでYESと判定されてエンジンが完全停止していることが確認された場合に、自動停止制御部61は、吸気絞り弁30の開度を通常時の開度(例えば80%)に戻した上で(ステップS14)、自動停止制御を終了する。
次に、上記ステップS5でYESと判定された場合、つまり、大気圧がAP1(例えば75kPa)以下であるために図6のマップに基づき設定されるF/C開始カウンタNの初期値が0となる場合の制御について説明する。この場合、自動停止制御部61は、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実行するとともに(ステップS11)、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる燃圧上昇制御を開始する(ステップS12)。すなわち、F/C開始カウンタNの初期値が0である場合(大気圧がAP1以下である場合)は、Nの初期値が0以外(1〜5)のときに実行されるステップS6〜S10とは異なり、燃料カットの実行と燃圧上昇制御の開始とが同時期に設定される。
図5のタイムチャートには、F/C開始カウンタNの初期値が0のケースにおける燃料噴射弁15の目標噴射量を破線で示している。このN=0の例では、燃料噴射弁15の目標燃圧が上昇設定される時点t2(燃圧上昇制御の開始時)と同時に、燃料噴射弁15の目標噴射量がゼロに設定され、燃料カットが実行されていることが分かる。
以上のようにして燃料カットと燃圧上昇制御とが終了すると、自動停止制御部61は、エンジンが完全停止するのを待ってから(ステップS13)、吸気絞り弁30の開度を通常時の開度に戻す制御を実行する(ステップS14)。
なお、自動停止制御によってエンジンが完全停止すると、図5の「実燃圧」の波形における最右部分に示すように、燃料噴射弁15の燃圧が時間経過とともに徐々に低下していく。これは、エンジン停止に伴って、エンジンにより機械的に駆動されるサプライポンプ43も停止し、コモンレール45に燃料が供給されなくなる一方、コモンレール45からは、プレッシャーリミッタ47等を通じて少量ずつとはいえ外部に燃料が漏れるからである。
ここで、燃圧を上昇させる燃圧上昇制御と、燃料噴射を停止する燃料カットとの時期的関係としては、既に説明したとおり、大気圧に基づき設定されるF/C開始カウンタNの初期値が大きいほど、燃料カットのタイミング(時点t3)が相対的に遅く設定される(逆にNの初期値が小さいほど早く設定される)。図7に、このような燃料カット(F/C)と燃圧上昇制御との時期的関係を分かり易く図示している。本図に示すように、大気圧がAP1(図6)以下であるためにF/C開始カウンタNの初期値が最小の0に設定される場合には、燃圧上昇制御の開始(時点t2)と同時に燃料カットが実行される。図7では、このときの燃料カットのタイミング(時点t2と同時)を、t3(0)と表記している。
一方、大気圧がAP1より高い範囲では、大気圧が高いほどF/C開始カウンタNの初期値が大きく設定され、それに伴い燃料カットのタイミングが遅く設定される。特に、F/C開始カウンタNの初期値が最大の5であるとき、燃料カットのタイミングは、燃圧上昇制御の完了時(つまり実燃圧が目標値FP2に達する時点)とほぼ同時である時点t3(5)に設定される。また、F/C開始カウンタNの初期値が1〜4のとき、燃料カットのタイミングは、Nの初期値が0、5のときの各燃料カットのタイミングの間に設定され、それぞれ時点t3(1)〜t3(4)とされる。
(4)再始動制御
次に、上記ECU60の再始動制御部62により実行されるエンジンの再始動制御の具体的内容について、図8のフローチャートを用いて説明する。なお、ここでの説明から明らかとなるように、当実施形態では、上記ECU60の再始動制御部62が、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置を判定する判定手段としての機能と、エンジン再始動時に燃料を噴射する噴射制御手段としての機能とを兼務している。
図8のフローチャートに示す処理がスタートすると、再始動制御部62は、各種センサ値に基づいて、エンジンの再始動条件が成立しているか否かを判定する(ステップS21)。例えば、ブレーキペダル37がリリースされたこと、アクセルペダル36が踏み込まれたこと、エンジンの冷却水温が所定値未満になったこと、バッテリの残容量の低下量が許容値を超えたこと、エンジンの停止時間(自動停止後の経過時間)が上限時間を越えたこと、エアコン作動の必要性が生じたこと(つまり車室内温度とエアコンの設定温度との差が許容値を超えたこと)等の要件の少なくとも1つが成立したときに、再始動条件が成立したと判定する。
上記ステップS21でYESと判定されて再始動条件が成立したことが確認された場合、再始動制御部62は、上述したエンジンの自動停止制御に伴い圧縮行程で停止した停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置を、クランク角センサSW2およびカム角センサSW3に基づき特定し、その特定したピストン停止位置が、図9に示す基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rxにあるか否かを判定する(ステップS22)。なお、図9の基準停止位置Xは、エンジンの形状(排気量、ボア/ストローク比等)や暖機の進行度合い等によって異なり得るが、例えば上死点前(BTDC)90〜75°CAの間のいずれかの位置に設定することができる。例えば、基準停止位置XがBTDC90°CAである場合、上記特定範囲Rxは、BTDC180〜90°CAの範囲となる。
上記ステップS22でYESと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が特定範囲Rxにあることが確認された場合、再始動制御部62は、停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射する1圧縮始動によってエンジンを再始動させる制御を実行する(ステップS23)。すなわち、スタータモータ34を駆動してクランク軸7に回転力を付与しつつ、燃料噴射弁15から停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射して自着火させることにより、エンジン全体として最初の圧縮上死点を迎える1圧縮目から燃焼を再開させて、エンジンを再始動させる。
一方、上記ステップS22でNOと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が特定範囲Rxよりも上死点側で停止していたことが確認された場合、再始動制御部62は、吸気行程で停止していた停止時吸気行程気筒2Dに最初の燃料を噴射する2圧縮始動によってエンジンを再始動させる制御を実行する(ステップS24)。すなわち、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が上死点を迎える1圧縮目を過ぎて、次に停止時吸気行程気筒2Dが圧縮行程を迎えるまで、燃料を噴射することなく、スタータモータ34の駆動のみによってエンジンを強制的に回転させる。そして、その時点で燃料噴射弁15から停止時吸気行程気筒2Dに燃料を噴射し、噴射した燃料を自着火させることにより、エンジン全体として2回目の圧縮上死点を迎える2圧縮目から燃焼を再開させ、エンジンを再始動させる。
ここで、当実施形態における再始動制御では、図8に示したように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置に応じて、1圧縮始動(S23)と2圧縮始動(S24)とが使い分けられるが、それは、次のような理由による。
1圧縮始動が可能な特定範囲Rx(図9)は、上述したように、予め定められた基準停止位置X(例えばBTDC90〜75°CA間のいずれかの位置)よりも下死点側に設定されている。停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5がこのような下死点寄りの特定範囲Rxに停止していれば、ピストン5による圧縮代(上死点までのストローク量)が比較的多いため、エンジン自動始動時のピストン5の上昇に伴い、上記気筒2C内の空気は十分に圧縮されて高温・高圧化する。このため、自動始動時の最初の燃料を停止時圧縮行程気筒2Cに噴射してやれば(1圧縮始動)、この燃料は、気筒2C内で比較的容易に自着火に至り、燃焼する。
これに対し、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が特定範囲Rxから上死点側に外れていれば、ピストン5による圧縮代が少なく、ピストン5が上死点まで上昇しても筒内の空気が十分に高温・高圧化しないため、停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射しても失火が起きるおそれがある。そこで、このような場合には、停止時圧縮行程気筒2Cではなく停止時吸気行程気筒2Dに燃料を噴射して自着火させることにより、エンジンを再始動させる(2圧縮始動)。
上記2圧縮始動では、停止時吸気行程気筒2Dのピストン5が圧縮上死点付近に到達する2圧縮目までは、燃料噴射に基づく燃焼を行わせることができず、エンジンの自動始動に要する時間、つまり、スタータモータ34の駆動開始時点からエンジン完爆までの時間が長くなってしまう。したがって、エンジンを自動始動させる際には、できるだけ1圧縮始動によってエンジンを始動させることが好ましい。
そこで、当実施形態では、少なくとも1圧縮始動における1圧縮目の燃料噴射(停止時圧縮行程気筒2Cへの燃料噴射)の際に、複数回に分けて燃料を噴射するようにしている。具体的には、圧縮上死点付近もしくはそれ以降に噴射されるメイン噴射に加えて、このメイン噴射よりも前の予備的な噴射であるプレ噴射を行う。
上記プレ噴射による燃料は、メイン噴射に基づき主に圧縮上死点以降に生じる拡散燃焼(以下、この燃焼を「メイン燃焼」という)を確実に引き起こすために利用される。すなわち、メイン噴射よりも早い段階で、プレ噴射によって少量の燃料を噴射し、その噴射した燃料を所定の着火遅れの後に燃焼させることにより(以下、この燃焼を「プレ燃焼」という)、筒内温度・圧力を上昇させて、その後に続くメイン燃焼を促進する。
より具体的に、当実施形態におけるプレ噴射は、圧縮上死点前よりも前であって、かつ噴射した燃料がピストン5冠面のキャビティ5aに収まるようなクランク角範囲内で、複数回(例えば2〜5回のいずれかの回数)実行される。これは、同じ量の燃料であれば、1回のプレ噴射で噴射し切るよりも、複数回のプレ噴射に分けて噴射した方が、キャビティ5a内にリッチな混合気を継続的に形成でき、着火遅れを短くできるからである。つまり、プレ噴射を複数回にすることで、1回あたりのプレ噴射の噴射量が減って噴霧のペネトレーション(貫徹力)が弱まるため、キャビティ5a内に留まる燃料の割合が増大する結果、キャビティ5a内の混合気がリッチになり、着火性を効果的に改善することができる。
図10は、1圧縮始動のときの1圧縮目の燃料噴射の態様を例示する図である。ここでは、一例として、プレ噴射を3回実行している。具体的には、BTDC18〜10°CAの間に、プレ噴射として1回あたり2mm3の燃料を3回噴射し(下段の波形Ip)、その後、メイン噴射として、プレ噴射よりも多くの(少なくともプレ噴射1回分よりは多くの)燃料を圧縮上死点(BTDC0°CA)で噴射している(下段の波形Im)。
図10の上段には、上記のような燃料噴射に伴い生じる燃焼の様子を熱発生率の変化として図示している。この図10の上段の波形から理解されるように、3回のプレ噴射(Ip)が実行されると、最後のプレ噴射の完了後、所定の着火遅れ時間が経過してから、プレ噴射された燃料の自着火によるプレ燃焼(Bp)が起きる。このプレ燃焼(Bp)は、圧縮上死点(BTDC0°CA)よりも前に生じ、その後熱発生率のピークを迎えてからいったん収束しかけるが、圧縮上死点からメイン噴射(Im)が開始されることで、そのメイン噴射された燃料の自着火によるメイン燃焼(Bm)が、引き続いて発生する。このメイン燃焼(Bm)は、プレ燃焼(Bp)によって筒内が高温・高圧化された状態で実行されるメイン噴射(Im)に基づき、ごく短い着火遅れの後に燃焼を開始する(拡散燃焼)。
上記のように、当実施形態では、エンジンの再始動時に、少なくとも停止時圧縮行程気筒2Cに対しプレ噴射(Ip)が実行されるので、圧縮上死点付近での筒内温度・圧力を故意に高めることができ、その後のメイン噴射(Im)の自着火を促進することができる。これにより、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が少々上死点側に近づいても、確実に1圧縮始動によりエンジンを再始動させることができるようになる。
しかも、当実施形態では、図5等に示したように、エンジンの自動停止制御の途中で、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる燃圧上昇制御が実行されるので、上記停止時圧縮行程気筒2Cに燃料噴射(プレ噴射およびメイン噴射)を行った際の燃料の微粒化が促進される。これにより、噴射された燃料の着火性がより高められ、自着火に至るまでの着火遅れ時間が短縮される結果、1圧縮始動による始動性がさらに改善される。
もちろん、燃圧を上昇させても、エンジンが完全停止した後は、上昇後の燃圧を維持できずに、徐々に燃圧が低下していくことになる。しかしながら、当実施形態では、エンジンの停止時間(エンジンが完全停止した後の経過時間)が所定時間を越えると再始動条件が成立するようになっているので(図8のステップS21)、エンジンの再始動時には、燃圧は極端に低下しておらず、問題なくエンジンを再始動することができる。
上記特定範囲Rxの境界である基準停止位置X(図9)は、上記のような燃圧上昇制御と、プレ噴射を含む再始動時の燃料噴射制御とを合わせて実行することによる着火性の改善を加味して設定されたものである。つまり、燃圧の上昇およびプレ噴射がなかった場合には、上記基準停止位置Xは、図9の例よりも下死点側に設定せざるを得ないが、上記燃圧の上昇およびプレ噴射によって着火性を改善することで、基準停止位置Xをより上死点側に設定することが可能になり、その結果、基準停止位置Xを、例えばBTDC90〜75°CAといった、下死点からかなり離れた位置に設定することが可能となる。これにより、特定範囲Rxが上死点側に拡大するので、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5がより高い頻度で上記特定範囲Rxに収まることとなり、1圧縮始動による迅速な再始動を行える機会が増える。特に、当実施形態では、エンジン本体1の幾何学的圧縮比が14とかなり低く、燃料の着火性を確保しにくい状況にあるため、上記燃圧の上昇等により始動時の着火性を改善することが、1圧縮始動の機会を増やす上で特に有効である。
なお、図10には、1圧縮始動のときに行われる1圧縮目の燃料噴射(停止時圧縮行程気筒2Cへの燃料噴射)の態様を示したが、停止時圧縮行程気筒2Cよりも後に圧縮行程を迎える気筒(停止時吸気行程2Dや停止時排気行程気筒2B)に対しても、1圧縮目と同様に、プレ噴射およびメイン噴射に基づく燃焼制御を実行することが望ましい。エンジンの自動始動時に最も着火性が厳しいのは、エンジン全体として最初の圧縮上死点を迎える1圧縮目であるが、少なくとも2圧縮目や3圧縮目についても、着火性の改善は充分ではないと考えられるからである。ただし、エンジン回転速度がある程度上昇している2圧縮目や3圧縮目においては、プレ噴射の回数を、1圧縮目のときよりも少なくすることができる。
また、上記のようなプレ噴射およびメイン噴射に基づく燃焼制御は、1圧縮目から燃料噴射による燃焼を再開する1圧縮始動のときだけでなく、2圧縮目から燃料噴射による燃焼を再開する2圧縮始動によってエンジンを始動する際にも、同様に行うことが望ましい。
(5)作用効果等
以上説明したように、当実施形態では、所定の条件下で自動的にエンジンを停止させたり再始動させたりする、いわゆるアイドルストップ機能を有したディーゼルエンジンにおいて、次のような特徴的な構成を採用した。
ECU(エンジン制御ユニット)60の自動停止制御部61は、エンジンの自動停止条件が成立すると、エンジンが完全停止するまでの間に、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる燃圧上昇制御を実行するとともに、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実行する。燃料カットのタイミングは、大気圧センサSW8により検出される大気圧に応じて可変的に設定され、大気圧が高いほど、上記燃圧上昇制御の開始時から遅れたタイミングとされる。具体的に、大気圧が図6に示すAP1(例えば75kPa)以下である場合、燃料カットのタイミングは、図7の時点t3(0)に示すように、燃圧上昇制御が開始される時点t2と同時期に設定される。一方、大気圧が上記AP1より高い場合、燃料カットのタイミングは、図7の時点t3(1)〜t3(5)に示すように、大気圧が高いほど燃圧上昇制御の開始時点t2から遅れたタイミングに設定される。
そして、上記燃料カットによりエンジンが停止し、その後再始動条件が成立すると、ECU60の再始動制御部62は、圧縮行程で停止した停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が所定の基準停止位置Xよりも下死点側に設定された特定範囲Rx(図9)にあるか否かを判定し、特定範囲Rxにある場合には、燃料噴射弁15から上記停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射することで、エンジンを再始動させる(1圧縮始動)。
このように、上記実施形態では、自動停止条件が成立してからエンジンが完全停止するまでの間に、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる燃圧上昇制御が実行されるため、その後にエンジンを再始動させるために燃料噴射弁15から燃料を噴射するときに、比較的高い燃圧によって燃料を微粒化することができ、燃料の着火性を高めることができる。燃料の着火性が高められると、停止時圧縮行程気筒2Cへの燃料噴射によってエンジンを再始動させる1圧縮始動が可能なピストン停止位置範囲(特定範囲Rx)を上死点側に拡大し得るため、1圧縮始動の機会を増やして、迅速な始動性を確保することができる。
しかも、燃圧上昇制御がエンジンの完全停止前に実行されるので、燃料噴射弁15に燃料を供給するサプライポンプ43として一般的な機械式のポンプ(エンジンによって機械的に駆動されるポンプ)を用いながらも、適正に燃圧を上昇させることができる。つまり、エンジンの完全停止後に燃圧を上昇させようとすれば、エンジンとは無関係に動作可能な特殊な(例えば電動式の)サプライポンプを用いる必要が生じるが、上記実施形態のようにエンジンの完全停止の前に燃圧を高めるようにした場合には、上記のような特殊なサプライポンプを用いる必要がないので、余計なコストをかけることなく、確実に燃圧を高めて着火性を改善することができる。
特に、上記実施形態では、上記燃圧上昇制御との関係における燃料カットのタイミングが、大気圧が高いほど遅く設定されるので、エンジンの惰性回転時の抵抗が大きいほど、燃圧上昇制御の開始(目標燃圧を上昇設定する時点t2)から遅れて燃料カットが実行されることとなり、エンジンの完全停止よりも前に余裕をもって燃料噴射弁15の燃圧を上昇させることができる。
すなわち、大気圧が高いと、エンジンが惰性で回転しているときの各気筒の圧縮上死点での圧力が高くなるので、その分だけエンジンに加わる抵抗が大きくなり、エンジンの惰性回転の期間(燃料カットからエンジンの完全停止までの期間)が短くなる。そこで、上記実施形態では、大気圧が所定値AP1より高いときには、燃圧上昇制御の開始(時点t2)から時間経過して燃圧がある程度上昇してから、燃料カットを実行するようにした。これにより、大気圧が高いためにエンジンの惰性回転の期間が比較的短くなる状況でも、余裕をもって燃圧を上昇させることができ、エンジンが完全停止する前に燃圧を所定の目標値(FP2)まで確実に到達させることができる。しかも、大気圧が上記所定値AP1に比べて高いほど(つまり惰性回転の期間が短いほど)、燃料カットのタイミングが遅く設定され(図7の時点t3(1)〜t3(5)参照)、燃料カット実行前の燃圧の上昇幅が大きく確保されるので、惰性回転の期間がかなり短くても所望の燃圧上昇幅を確実に得ることができる。
一方、大気圧が所定値AP1以下である場合には、燃圧上昇制御の開始(時点t2)と同時期である時点t3(0)で燃料カットが実行されるため、大気圧の低さがエンジンの惰性回転の長期化につながることを利用して、燃料消費を抑えつつ効率よく燃圧を上昇させることができる。
すなわち、大気圧が低いと、エンジンの惰性回転中の圧縮空気による抵抗が小さいため、燃料カット後にエンジンが惰性回転する期間が長くなる(図5の「エンジン回転速度」の欄における想像線の波形参照)。そこで、上記実施形態では、大気圧が所定値AP1以下である場合に、図5の「目標噴射量」の欄に破線の波形で示すように(あるいは図7に時点t3(0)として示すように)、燃圧上昇制御の開始と同時に燃料カットを実行するようにした。これにより、燃圧上昇制御の開始からしばらくの間燃料カットの実行を待つような場合(大気圧がAP1より高い場合)と比較して、燃料カットのタイミングを早めることができるので、余計な燃料が消費されるのを回避して燃費を改善することができる。しかも、燃圧上昇制御の開始と同時に燃料カットを実行しても、エンジンの惰性回転の期間が長いことから、その間のエンジンの回転力を利用して燃圧を充分に上昇させることができ、燃圧を確実に目標値(FP2)まで到達させることができる。
以上のように、上記実施形態によれば、エンジンの自動停止時に、エンジンが惰性回転する期間をできるだけ利用して燃圧を上昇させることができるので、燃費への影響を最小限に抑えながら、1圧縮始動による迅速な再始動の機会をより増やすことができる。
また、上記実施形態では、エンジンが自動停止した後、停止時圧縮行程気筒2Cへの燃料噴射によってエンジンを再始動させる1圧縮始動の際に、例えば図10に示したように、圧縮上死点を過ぎてから熱発生率のピークを迎えるようなメイン燃焼(Bm)を起こさせるメイン噴射(Im)と、このメイン噴射の開始よりも前に熱発生率のピークを迎えるようなプレ燃焼(Bp)を起こさせるプレ噴射(Ip)とが実行される。このような構成によれば、1圧縮始動時の着火性をより改善して、エンジン始動の迅速化をさらに促進することができる。
すなわち、プレ噴射された少量の燃料は、所定の着火遅れの後に自着火により燃焼し(プレ燃焼)、停止時圧縮行程気筒2Cの筒内温度・圧力を上昇させるため、それに引き続いてメイン噴射が実行されたときには、噴射された燃料がほどなく自着火により燃焼する(メイン燃焼)。このように、メイン噴射された燃料の着火性が、それ以前のプレ噴射(プレ燃焼)によって改善されるため、停止時圧縮行程気筒2Cでの圧縮代(上死点までのストローク量)がそれほど多くなくても、停止時圧縮行程気筒2Cでの燃焼は確実に行われる。この結果、1圧縮始動が可能なピストン停止位置範囲(特定範囲Rx)をより上死点側に拡大することができ、エンジン始動の迅速化をさらに促進することができる。
さらに、上記実施形態では、ピストン5の冠面に設けられたキャビティ5a内に燃料が収まるようなタイミングでプレ噴射を複数回実行するようにしたため、キャビティ5aの内部に着火し易い(着火遅れ時間の短い)リッチな混合気を確実に形成することができる。この結果、プレ噴射した燃料がより確実に自着火し(プレ燃焼)、そのことがメイン噴射した燃料の自着火(メイン燃焼)を促進するため、1圧縮始動による迅速な再始動の機会をより増やすことができる。
特に、燃料カットの前に予め燃圧を高める上記実施形態の構成において、プレ噴射の回数を1回にした場合には、そのプレ噴射によって比較的多くの燃料が高い燃圧で噴射されることにより、噴霧のペネトレーションが強まり、噴射された燃料がキャビティ5aの外部まで拡散する傾向が強くなる。すると、キャビティ5a内に形成されるリッチな混合気の割合が低下し、着火性が悪化するおそれがある。これに対し、上記実施形態のように、プレ噴射の回数を複数回にした場合には、プレ噴射1回あたりの噴射量が少なくなり、ペネトレーションが弱まるため、燃圧を高めつつも確実にリッチな混合気を形成でき、燃料の着火性を効果的に高めることができる。
なお、上記実施形態では、自動停止条件が成立してから燃料カットが実行されるまでの間に、ECU60の自動停止制御部61(燃圧調整手段)が、サプライポンプ43に内蔵されたSCV43bを全閉にする制御を実行し、それによって燃料噴射弁15の燃圧を上昇させるものとしたが、本発明における燃圧調整手段の制御は、それほど遅くない応答性で燃圧を上昇できるものであればよく、上記SCV43bを用いた制御に特に限定されない。
また、上記実施形態では、図7に示したように、大気圧センサSW8により検出された大気圧が所定値AP1以下であるとき(F/C開始カウンタNの初期値が0のとき)に、燃料カットのタイミングを、燃圧上昇制御の開始(時点t2)と同時期である時点t3(0)に設定したが、必ずしも燃圧上昇制御の開始と同時期にする必要はない。例えば、燃圧が上昇し始める時点t2よりも少し早くから燃料カットを実行してもよい。
逆に、図11に示すように、大気圧が所定値AP1以下のときの燃料カットのタイミングを、燃圧上昇制御の開始(時点t2)よりも少し遅れた時点t3’(0)に設定してもよい。ただし、大気圧が所定値AP1以下のときの燃料カットのタイミングは、遅くとも、燃圧が目標値FP2に達する時点(矢印Zのポイント)よりは早く設定する必要がある。これは、大気圧が低くエンジンの惰性回転期間が長くなる条件下で、その惰性回転中のエンジンの力を少しでも利用して燃圧を上昇させるためである。
一方、大気圧が所定値AP1より高いとき(F/C開始カウンタNの初期値が1以上のとき)の燃料カットのタイミングは、図7の時点t3(1)〜t3(5)、および図11の時点t3’(1)‥‥から明らかなように、必ず燃圧上昇制御の開始(時点t2)よりも遅く設定される。これは、大気圧が高くエンジンの惰性回転期間が短くなる条件下では、燃料カットの実行前に少しでも燃圧を上昇させておく必要があるためである。
また、上記実施形態では、幾何学的圧縮比が14のエンジン本体1を備えたディーゼルエンジンを例に挙げて本発明の好ましい形態を説明したが、当然ながら、本発明の構成を適用可能なエンジンは、幾何学的圧縮比が14のものに限られない。例えば、幾何学的圧縮比が16未満のディーゼルエンジンであれば、従来から多用されてきたディーゼルエンジンに比べれば圧縮比が低く、相対的に着火性が悪いため、燃圧の上昇等によって再始動時の着火性を高める本発明の構成を好適に適用できる余地がある。一方、ディーゼルエンジンの幾何学的圧縮比は、着火性の限界から、12以上は必要であると考えられる。以上のことから、本発明を好適に適用可能なディーゼルエンジンは、幾何学的圧縮比が12以上16未満のディーゼルエンジンであり、より好ましくは、幾何学的圧縮比が13以上15以下のディーゼルエンジンであるといえる。
また、上記実施形態では、エンジン本体1のクランク軸7がトルクコンバータ102を介して自動変速機101と連結されたAT車を例に挙げて本発明の好ましい形態を説明したが、本発明の構成は、AT車だけでなく、クランク軸がクラッチを介して手動変速機に連結されたMT車にも適用することができる。ただし、MT車では、比較的大きな質量をもったフライホイールがクランク軸の一端に取り付けられるため、そのフライホイールの慣性により、燃料カット後にエンジンが惰性回転する期間がAT車に比べて長くなる。このため、本発明のように、大気圧に応じて燃料カットのタイミングを可変的に設定するという構成を採用することは、必ずしも必要ないと考えられる。
すなわち、エンジンの惰性回転の期間が長いMT車では、大気圧にかかわらず、燃料カットのタイミングを一律に燃圧上昇制御の開始と同時期に設定することも可能である。これに対し、AT車では、エンジンの惰性回転の期間が比較的短いため、仮に、燃料カットのタイミングを一律に燃圧上昇制御の開始(図5、図7の時点t2)と同時期に設定すると、特に大気圧が高い場合には、エンジンが惰性回転する期間がかなり短くなり、その惰性回転中に燃圧を目標値まで上昇させることができなくなるおそれがある。したがって、大気圧が高いときには燃料カットのタイミングを遅くするという本発明の構成は、MT車よりもAT車に適用することによる意味の方が大きいといえる。
また、上記実施形態では、大気圧センサSW8(検出手段)によって検出される大気圧の値に応じて、燃料カットのタイミングを可変的に設定するようにしたが、燃料カットのタイミングを決定するためのパラメータは、必ずしも大気圧に限られない。エンジンの惰性回転中にエンジンに加わる抵抗は、直接的には、各気筒の圧縮上死点での圧力によって左右されるので、この圧縮上死点圧力が高いほどエンジンの惰性回転期間が長くなる(圧力が低いほど惰性回転期間が短くなる)。したがって、上記燃料カットのタイミングを決めるためのパラメータは、惰性回転中の圧縮上死点圧力に比例する何らかの物理量であればよい。上記実施形態では、大気圧が惰性回転中の圧縮上死点圧力に比例することを利用して、上記パラメータとして大気圧を検出するようにしたが、例えば、筒内圧力を検出する筒内圧センサを設け、この筒内圧センサにより、上記惰性回転中の圧縮上死点圧力を直接検出するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、エンジンの自動停止制御において、自動停止条件が成立したら吸気絞り弁30の開度を全閉(0%)まで低下させ、エンジンが完全停止するまで全閉に維持するようにしたが、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置をより高い確率で上記特定範囲Rx(基準停止位置Xよりも下死点側)に収めるようにするため、次のような吸気絞り弁30の開度制御を行うことも考えられる。
具体的に、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が特定範囲Rxに収まる確率を高めるには、燃料カットの後、エンジンが最終TDC(図5の時点t4)の1つ前の上死点通過タイミングを迎えたときに、吸気絞り弁30を開方向に駆動し、その開度を所定開度(例えば10〜30%程度)まで増大させるとよい。このようにすれば、最終TDCの1つ前の上死点から吸気行程を迎える停止時圧縮行程気筒2Cに対する吸気流量が、最終TDCの2つ前の上死点から吸気行程を迎える気筒、言い換えると、エンジンが完全停止したときに膨張行程にある停止時膨張行程気筒(図5では1番気筒2A)に対する吸気流量よりも増大する。このように吸気流量の差が生じると、圧縮空気がピストン5を押し下げようとする力のアンバランスにより、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が自ずと下死点寄りとなる(停止時膨張行程気筒2Aのピストン停止位置は上死点寄りとなる)ので、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を、かなり高い確率で、上記基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rxに停止させることができるようになる。
また、本発明は、圧縮自己着火式のエンジンであれば、上記実施形態のようなディーゼルエンジン(軽油を自着火により燃焼させるエンジン)に限らず適用可能である。例えば、最近では、ガソリンを含む燃料を高圧縮比で圧縮して自着火させるタイプのエンジンが研究、開発されているが、このような圧縮自己着火式のガソリンエンジンに対しても、本発明にかかる自動停止・再始動制御を好適に適用することができる。