(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る始動制御装置が適用されたディーゼルエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるディーゼルエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、いわゆる直列4気筒型のものであり、紙面に直交する方向に列状に並ぶ4つの気筒2A〜2Dを有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2A〜2Dにそれぞれ往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
上記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されており、この燃焼室6には、燃料としての軽油が、後述する燃料噴射弁15からの噴射によって供給される。そして、噴射された燃料(軽油)が、ピストン5の圧縮作用により高温・高圧化した燃焼室6で自着火し(圧縮自己着火)、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動するようになっている。
上記ピストン5は図外のコネクティングロッドを介してクランク軸7と連結されており、上記ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて上記クランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
図2は、上記エンジン本体1を含むパワートレイン系を簡易的に示す図である。この図2に示すように、エンジン本体1のクランク軸7は、クラッチ102を介して手動変速機101と連結されている。つまり、本実施形態のディーゼルエンジンが搭載される車両は、手動で変速操作を行うMT車である。具体的に、上記手動変速機101は、例えば、車両に乗車した運転者の手により操作される図外のシフトレバーと連携されており、このシフトレバーを用いた手動操作に基づき、上記手動変速機101の変速段が選択されるようになっている。
上記クラッチ102は、エンジン本体1のクランク軸7の一端部に取り付けられたフライホイール102aと、手動変速機101の入力軸103に取り付けられたクラッチプレート102bとを有している。そして、運転者がクラッチペダル36(図1)を踏み込むか又はリリースすることにより、上記フライホイール102aとクラッチプレート102bとが互いに離接され、上記クラッチ102の断続が実現されるようになっている。
再び図1に戻って、本実施形態のディーゼルエンジンの構成について説明する。本実施形態のような4サイクル4気筒のディーゼルエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン5が、クランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。このため、各気筒2A〜2Dでの燃焼(そのための燃料噴射)のタイミングは、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的には、気筒2A,2B,2C,2Dの気筒番号をそれぞれ1番、2番、3番、4番とすると、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に燃焼が行われる。このため、図3にも示すように、例えば1番気筒2Aが膨張行程であれば、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bは、それぞれ、圧縮行程、吸気行程、排気行程となる。
上記エンジン本体1のシリンダヘッド4には、各気筒2A〜2Dの燃焼室6に開口する吸気ポート9及び排気ポート10と、各ポート9,10を開閉する吸気弁11及び排気弁12とが設けられている。なお、吸気弁11及び排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト(図示省略)等を含む動弁機構13,14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
また、上記シリンダヘッド4には、燃料噴射弁15が各気筒2A〜2Dにつき1つずつ設けられている。各燃料噴射弁15は、先端部に複数の墳孔を有した多墳孔型のものであり、その内部に、上記各墳孔に通じる燃料通路と、この燃料通路を開閉するために電磁的に駆動されるニードル状の弁体とを有している(いずれも図示省略)。そして、通電による電磁力で上記弁体が開方向に駆動されることにより、後述するコモンレール20(蓄圧室)から高圧で供給された燃料が上記各墳孔から燃焼室6に向けて直接噴射されるようになっている。なお、本実施形態における燃料噴射弁15は、8〜12個という多数の墳孔を有している。
上記燃料噴射弁15と対向するピストン5の冠面(上面)の中央部には、他の部分(冠面の周縁部)よりも下方に凹んだキャビティ5aが形成されている。このため、ピストン5が上死点の近くにある状態で上記燃料噴射弁15から燃料が噴射された場合、この燃料は、まずキャビティ5aの内部に進入することになる。
ここで、本実施形態のエンジン本体1は、その幾何学的圧縮比(ピストン5が下死点にあるときの燃焼室容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室容積との比)が14に設定されている。すなわち、一般的な車載用のディーゼルエンジンの幾何学的圧縮比が18もしくはそれ以上に設定されることが多いのに対し、本実施形態では、幾何学的圧縮比が14というかなり低い値に設定されている。
上記シリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通する図外のウォータジャケットが設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出するための水温センサSW1が、上記シリンダブロック3に設けられている。
また、上記シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度及び回転速度を検出するためのクランク角センサSW2が設けられている。このクランク角センサSW2は、クランク軸7と一体に回転するクランクプレート25の回転に応じてパルス信号を出力する。
具体的に、上記クランクプレート25の外周部には、一定ピッチで並ぶ多数の歯が突設されており、その外周部における所定範囲には、基準位置を特定するための歯欠け部25a(歯の存在しない部分)が形成されている。そして、このように基準位置に歯欠け部25aを有したクランクプレート25が回転し、それに基づくパルス信号が上記クランク角センサSW2から出力されることにより、クランク軸7の回転角度(クランク角)及び回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
一方、上記シリンダヘッド4には、動弁用のカムシャフト(図示省略)の角度を検出するためのカム角センサSW3が設けられている。カム角センサSW3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じて、気筒判別用のパルス信号を出力する。
すなわち、上記クランク角センサSW2から出力されるパルス信号の中には、上述した歯欠け部25aに対応して360°CAごとに生成される無信号部分が含まれるが、その情報だけでは、例えばピストン5が上昇しているときに、それがどの気筒の圧縮行程又は排気行程にあたるのか判別することができない。そこで、720°CAごとに1回転するカムシャフトの回転に基づきカム角センサSW3からパルス信号を出力させ、その信号が出力されるタイミングと、上記クランク角センサSW2の無信号部分のタイミング(歯欠け部25aの通過タイミング)とに基づいて、気筒判別を行うようにしている。
上記吸気ポート9及び排気ポート10には、吸気通路28及び排気通路29がそれぞれ接続されている。すなわち、外部からの吸入空気(新気)が上記吸気通路28を通じて燃焼室6に供給されると共に、燃焼室6で生成された排気ガス(燃焼ガス)が上記排気通路29を通じて外部に排出されるようになっている。
上記吸気通路28のうち、エンジン本体1から所定距離上流側までの範囲は、気筒2A〜2Dごとに分岐した分岐通路部28aとされており、各分岐通路部28aの上流端がそれぞれサージタンク28bに接続されている。このサージタンク28bよりも上流側には、単一の通路からなる共通通路部28cが設けられている。
上記共通通路部28cには、各気筒2A〜2Dに流入する空気量(吸気流量)を調節するための吸気絞り弁30が設けられている。吸気絞り弁30は、エンジンの運転中は基本的に全開もしくはこれに近い高開度に維持されており、エンジンの停止時等の必要時にのみ閉弁されて吸気通路28を遮断するように構成されている。
また、上記吸気絞り弁30とサージタンク28bとの間の共通通路部28cには、吸気流量を検出するためのエアフローセンサSW4が設けられている。サージタンク28bには、サージタンク28b内の圧力を検出するインマニ圧センサSW5が設けられている。ここで、サージタンク28b内の圧力は、吸気絞り弁30よりも下流側の吸気通路28内の吸気圧力に相当する。
上記クランク軸7には、ベルト等を介してオルタネータ32が連結されている。このオルタネータ32は、図外のフィールドコイルの電流を制御して発電量を調節するレギュレータ回路を内蔵しており、車両の電気負荷やバッテリの残容量等から定められる発電量の目標値(目標発電電流)に基づき、クランク軸7から駆動力を得て交流電流を発電するように構成されている。
上記シリンダブロック3には、エンジンを始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aと、モータ本体34aにより回転駆動されるピニオンギア34bとを有している。上記ピニオンギア34bは、クランク軸7の一端部に連結されたリングギア35と離接可能に噛合している。そして、上記スタータモータ34を用いてエンジンを始動する際には、ピニオンギア34bが所定の噛合位置に移動して上記リングギア35と噛合し、ピニオンギア34bの回転力がリングギア35に伝達されることにより、クランク軸7が回転駆動されるようになっている。
次に、上記燃料噴射弁15に燃料を供給する燃料供給系の概略構成を説明する。本実施形態のエンジンの燃料供給系には、燃料タンク(図示省略)に貯蔵された燃料を汲み上げて高圧状態にして送り出す燃料ポンプ23と、燃料ポンプ23から圧送された燃料が通過する燃料供給管22と、燃料供給管22の下流端に接続された単一のコモンレール(蓄圧室)20と、コモンレール20と各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15とを接続する複数の(4本の)分岐管21とが含まれる。コモンレール20には、燃料ポンプ23から燃料供給管22を介して供給された燃料が高圧状態で蓄えられており、このコモンレール20内で高圧化された燃料が分岐管21を介して各燃料噴射弁15にそれぞれ供給されるようになっている。
上記燃料ポンプ23は、エンジンの駆動力を得て作動する機械式のプランジャーポンプである。具体的に、燃料ポンプ23の入力軸(図示省略)は、エンジン本体1のカムシャフトとベルトまたはギヤ機構等を介して連結されている。そして、燃料ポンプ23の入力軸がカムシャフトと連動して回転することにより、燃料ポンプ23に内蔵されたプランジャー(図示省略)が往復運動し、その往復運動に応じて燃料ポンプ23から燃料が燃料供給管22を介してコモンレール20に圧送され、さらにコモンレール20から分岐管21を介して燃料噴射弁15に燃料が供給されるようになっている。
この燃料ポンプ23は、エンジン負荷やエンジン回転速度等から定められる燃料圧力(燃圧)の目標値(目標燃料圧力)に基づき、エンジンから駆動力を得て高圧燃料を圧送するように構成されている。
(2)制御系
以上のように構成されたエンジンは、図1に示すように、その各部がECU(エンジン制御ユニット)50により統括的に制御される。ECU50は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
上記ECU50には、各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、ECU50は、エンジンの各部に設けられた上記水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、エアフローセンサSW4、及びインマニ圧センサSW5と電気的に接続されており、これら各センサSW1〜SW5からの入力信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別情報、吸気流量、吸気圧力等の種々の情報を取得する。
また、ECU50には、車両に設けられた各種センサ(SW6〜SW9)からの情報も入力される。すなわち、車両には、運転者により踏み込み操作されるクラッチペダル36の状態(クラッチ102の断続)を検出するためのクラッチペダルセンサSW6と、手動変速機101のシフトポジションを検出するためのシフトポジションセンサSW7と、車両の走行速度(車速)を検出するための車速センサSW8と、バッテリ(図示省略)の残容量を検出するためのバッテリセンサSW9とが設けられている。ECU50は、これら各センサSW6〜SW9からの入力信号に基づいて、クラッチペダル36のON/OFF、手動変速機101のシフトポジション、車速、バッテリの残容量といった情報を取得する。
上記ECU50は、上記各センサSW1〜SW9からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。具体的に、ECU50は、上記燃料噴射弁15、吸気絞り弁30、オルタネータ32、及びスタータモータ34と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
上記ECU50が有するより具体的な機能について説明する。ECU50は、例えばエンジンの通常運転時に、燃料ポンプ23を制御して燃料噴射弁15の燃圧を所望の値に維持したり、燃料噴射弁15を制御して運転条件に応じた所要量の燃料を燃料噴射弁15から噴射させたり、オルタネータ32を制御して車両の電気負荷やバッテリの残容量等に応じた所要量の電力を発電させたりといった基本的な制御を実行する機能を有する他、いわゆるアイドルストップ機能として、予め定められた特定の条件下でエンジンを自動的に停止させ、又は再始動させる機能をも有している。このため、ECU50は、エンジンの自動停止又は再始動制御に関する機能的要素として、自動停止制御部51及び再始動制御部52を有している。
すなわち、上記自動停止制御部51は、エンジンの運転中に、予め定められたエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを自動停止させる制御を実行するものである。
また、上記再始動制御部52は、エンジンが自動停止した後、予め定められた再始動条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを再始動させる制御を実行するものである。
(3)自動停止制御
次に、上記ECU50の自動停止制御部51により実行されるエンジンの自動停止制御の内容をより具体的に説明する。
図3は、エンジンの自動停止制御時における各状態量の変化を示すタイムチャートである。図中、「インマニ圧」とあるのは、インマニ圧センサSW5で検出されるサージタンク28b内の圧力(吸気絞り弁30よりも下流側の吸気通路28内の吸気圧力)のことである。インマニ圧とそのとき吸気行程にある気筒への流入空気量とは相関関係にある。つまり、インマニ圧が高いほど気筒への流入空気量が多くなり、インマニ圧が低いほど気筒への流入空気量が少なくなる。したがって、インマニ圧の差は、両気筒間の流入空気量の差、すなわち両気筒間の充填量の格差に相当する。
図3では、エンジンの自動停止条件が成立した時点をt0としている。この時点t0において自動停止条件が成立すると、その後の時点t1で、吸気絞り弁30が閉方向に駆動され、その開度が、自動停止条件が成立する前に設定されていた通常運転時の開度(図例では80%)から、最終的に全閉(0%)まで低減される。また、同じく時点t1で、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する制御(燃料カット)が実行される。
次いで、上記燃料カットの実行後、エンジン回転速度が徐々に低下する途上で(時点t3)、吸気絞り弁30が再び開かれる。具体的には、エンジンが停止する直前の全気筒2A〜2Dにおける最後の上死点(最終TDC)の1つ前の上死点(2TDC)の通過時(時点t3)に、吸気絞り弁30が開方向に駆動され、その開度が0%を超える所定の開度(図例では7%)まで増やされる。
その後、時点t4で最終TDC(i)を迎えた後、エンジンは、一時的にピストン5の揺れ戻しにより逆回転するも、一度も上死点を越えることなく、時点t5で完全停止状態に至る。
ここで、上記のように吸気絞り弁30を開く制御を時点t3で実行するのは、エンジンが完全停止したときに圧縮行程にある気筒、つまり停止時圧縮行程気筒(図3では3番気筒2C)のピストン停止位置を、図4(b)に示すように、上死点と下死点との間に位置する基準停止位置Xよりも下死点側に設定された特定範囲Rxにできるだけ収めるためである。なお、基準停止位置Xは、エンジンの形状(排気量、ボア/ストローク比等)や暖機の進行度合い等によって異なり得るが、例えば上死点前(BTDC)90°CA近傍の位置に設定することができる。例えば、基準停止位置XがBTDC90°CAである場合、上記特定範囲Rxは、BTDC90〜180°CAの範囲となる。
上記停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が上記特定範囲Rxで停止していれば、その後エンジンの再始動条件が成立したときに、上記停止時圧縮行程気筒2Cに最初の(エンジン全体として最初の)燃料を噴射する1圧縮始動によって、エンジンを迅速に再始動させることができる。一方、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が上記特定範囲Rxから外れていれば、再始動の開始後、停止時圧縮行程気筒2Cの次に圧縮行程を迎える気筒、つまりエンジンが完全停止したときに吸気行程にある停止時吸気行程気筒(図2では4番気筒2D)に燃料を噴射する2圧縮始動によってエンジンを再始動する必要が生じる。このように、ピストン停止位置によって1圧縮始動と2圧縮始動とを使い分けるのは、ピストン停止位置によって停止時圧縮行程気筒2Cでの着火性が異なるからである。
上記2圧縮始動は、停止時吸気行程気筒2Dが圧縮行程に移行するまで燃料を燃焼させることができないので、始動の迅速性という点では、1圧縮始動の方が有利である。このため、1圧縮始動を高い頻度で実行可能にするには、できるだけ停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置を上記特定範囲Rxに収める必要がある。そこで、本実施形態では、図3に示したように、時点t3で吸気絞り弁30を開くようにしている。すなわち、図3の制御によれば、最終TDCの1つ前の上死点(2TDC(ii))までは(時点t3までは)、吸気絞り弁30の開度が0%とされ、2TDC(ii)を過ぎると(時点t3を過ぎると)、吸気絞り弁30の開度が0%超の所定開度まで増大される。これにより、2TDC(ii)から吸気行程を迎える(時点t3〜時点t4が吸気行程となる)停止時圧縮行程気筒2Cに対する流入空気量が、最終TDCの2つ前の上死点(3TDC(iii))から吸気行程を迎える(時点t2〜時点t3が吸気行程となる)気筒、言い換えると、エンジンが完全停止したときに膨張行程にある停止時膨張行程気筒(図2では1番気筒2A)に対する流入空気量よりも増大することになる。
この点について図4(a),(b)を用いてより詳しく説明する。上記のように2TDC(ii)の通過時に吸気絞り弁30を開くと、上述したように、エンジンが自動停止する直前に、停止時圧縮行程気筒2C内への流入空気量(充填量)が停止時膨張行程気筒2A内への流入空気量(充填量)よりも多くなる。これにより、図4(a)に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5に作用する圧縮空気による押下げ力(圧縮された空気が膨張しようとする力)が大きくなる一方、停止時膨張行程気筒2Aのピストン5に作用する圧縮空気による押下げ力が小さくなる(むしろ停止時膨張行程気筒2Aのピストン5に作用する膨張空気による押上げ力が大きくなる)。このため、エンジンが完全停止したときには、図4(b)に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の停止位置が自ずと下死点寄りとなり(停止時膨張行程気筒2Aのピストン5の停止位置は上死点寄りとなり)、結果として、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を、比較的高い頻度で、上記基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rxに停止させることができるようになる。特定範囲Rxでピストン5が停止していれば、エンジンの再始動時には、停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射する1圧縮始動によってエンジンを迅速に再始動させることが可能となる。
上記のような技術を前提として、本実施形態では、さらに次のような改良が加えられている。
上記のように、エンジンを自動停止させる過程において、時点t3で吸気絞り弁30を開くことにより、停止時圧縮行程気筒2Cへの流入空気量を停止時膨張行程気筒2Aへの流入空気量よりも多くする制御(充填量の格差制御)においては、吸気絞り弁30を開くときの開度が大きいほど、停止時圧縮行程気筒2Cへの流入空気量が増大して、両気筒2A,2C間の上記充填量格差が大きくなる。しかし、停止時圧縮行程気筒2Cへの流入空気量が増大すると、最終TDC(換言すれば停止時圧縮行程気筒2Cの吸気下死点)を通過した後に停止時圧縮行程気筒2C内の空気をピストン5で圧縮する際の衝撃によって振動が発生し、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)性能が低下する。そのため、吸気絞り弁30の開度は無制限に大きくすることができない。そこで、本実施形態では、時点t3での吸気絞り弁30の開度を7%にとどめている。しかし、7%にとどめると、当然ではあるが、停止時圧縮行程気筒2Cと停止時膨張行程気筒2Aとの間に十分な充填量格差をつくることができなくなる。
そして、このような問題は、本実施形態のように、エンジンのクランク軸7とクラッチ102を介して連結された手動変速機101を搭載したMT車においてより顕著となる。つまり、MT車は、慣性質量が大きいフライホイール102aをエンジンのクランク軸7に有するので、そのようなフライホイールを有しない例えばAT車等に比べて、筒内の空気をピストン5で圧縮する際の衝撃がより大きくなり、その結果、振動がより激しくなるので、この振動を抑制するために吸気絞り弁30の開度がより小さい開度に制限されるからである。
特に、上記フライホイール102aがデュアルマスフライホイール(DMF)である場合は、エンジン停止直前の大きな回転変動に起因してDMFの弾性部材が大きく回転方向に伸縮し、上記弾性部材を介して取り付けられたマス(分割したフライホイール部分)が回転方向に暴れて、上記振動の問題がより一層大きくなるので、吸気絞り弁30の開度はさらに小さい開度に制限される。
以上のように、本実施形態では、振動抑制のために吸気絞り弁30の開度を大きくすることができず、そのため停止時圧縮行程気筒2Aと停止時膨張行程気筒2Aとの間に十分な充填量格差をつくることができない。そして、このような制限下でも、停止時圧縮行程気筒2Aのピストン5を安定して下死点寄りに停止させ、それによって1圧縮始動による迅速な再始動の機会をより増やすことができるように、本実施形態では、次のような対策が講じられている。
すなわち、エンジンを自動停止させる過程において、エンジンに負荷を与える補機であるオルタネータ32を制御して、最終TDC(i)通過時(時点t4)のエンジン回転速度C(図3参照)を所定の基準回転速度γ以下とするのである(補機による回転速度制御)。これにより、筒内を往復摺動するピストン5の運動エネルギーが相対的に小さくなり、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の運動エネルギーが例えばピストン5とシリンダボアとの摩擦やピストン5による筒内空気の圧縮等によって相対的に短時間で消費される。その結果、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が吸気下死点(すなわち最終TDC)を通過した後に(時点t4以降に)圧縮上死点側へ移動する距離が相対的に短くなり(図3のクランク角の実線参照)、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を下死点寄りに停止させることができる。これに対し、最終TDC(i)通過時(時点t4)のエンジン回転速度C(図3参照)が所定の基準回転速度を超えていると、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の運動エネルギーが相対的に大きくなり、シリンダボアとの摩擦や筒内空気の圧縮等によるその消費に相対的に長い時間がかかる。その結果、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が吸気下死点(すなわち最終TDC)を通過した後に(時点t4以降に)圧縮上死点側へ移動する距離が相対的に長くなり(図3のクランク角の鎖線参照)、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を下死点寄りに停止させることが困難となる。したがって、最終TDC(i)通過時(時点t4)のエンジン回転速度C(図3参照)を所定の基準回転速度以下とすることにより、たとえ振動抑制のために吸気絞り弁30の開度を大きくすることができず、そのため停止時圧縮行程気筒2Aと停止時膨張行程気筒2Aとの間に十分な充填量格差をつくることができなくても、1圧縮始動による迅速な再始動の機会を増やすことが可能となる。
具体的に、図3に示すように、時点t1で、吸気絞り弁30の閉じ動作をし、燃料噴射弁15による燃料カットを実行すると共に、オルタネータ32の目標発電電流をそれまでの値よりも大きい所定値に増大する。例えばそれまで50Aだった目標発電電流を60Aにする。これにより、エンジンのクランク軸7に作用する負荷が増大し、燃料カットによって低下していくエンジン回転速度は、さらにその低下のスピードが大きくなる。
そして、時点t2で、3TDC(iii)通過時のエンジン回転速度Aを検出し、検出した回転速度Aが予め実験等により定められた所定の第1予備回転速度α以下か否かを判定する。そして、検出した回転速度Aが第1予備回転速度αを超過する場合は、その超過量(│A−α│)に応じて目標発電電流の低下量を算出し、この算出した低下量をそれまでの目標発電電流から差し引いた値を新たな目標発電電流として設定する。この場合、上記超過量が大きいほど低下量は小さい値に算出される。その結果、新たに設定される目標発電電流は相対的に大きい値となる(エンジンに与える負荷を大きくするため)。逆に、上記超過量が小さいほど低下量は大きい値に算出される。その結果、新たに設定される目標発電電流は相対的に小さい値となる(エンジンに与える負荷を小さくするため)。その結果、例えばそれまで60Aだった目標発電電流が55Aになる。一方、検出した3TDC回転速度Aが第1予備回転速度α以下の場合は、目標発電電流をゼロにして、オルタネータ32によりエンジンに与えられる負荷を最低値とする。この結果、後述するように、時点t3での2TDC回転速度Bは第2予備回転速度β以下となり、時点t4での最終TDC回転速度Cは基準回転速度γ以下となる。
同様に、時点t3では、必要に応じて、2TDC(ii)通過時のエンジン回転速度Bを検出し、検出した回転速度Bが予め実験等により定められた所定の第2予備回転速度β以下か否かを判定する。そして、検出した回転速度Bが第2予備回転速度βを超過する場合は、その超過量(│B−β│)に応じて目標発電電流の低下量を算出し、この算出した低下量をそれまでの目標発電電流から差し引いた値を新たな目標発電電流として設定する。この場合、上記超過量が大きいほど低下量は小さい値に算出される。その結果、新たに設定される目標発電電流は相対的に大きい値となる(エンジンに与える負荷を大きくするため)。逆に、上記超過量が小さいほど低下量は大きい値に算出される。その結果、新たに設定される目標発電電流は相対的に小さい値となる(エンジンに与える負荷を小さくするため)。その結果、例えばそれまで55Aだった目標発電電流が52Aになる。一方、検出した2TDC回転速度Bが第2予備回転速度β以下の場合は、目標発電電流をゼロにして、オルタネータ32によりエンジンに与えられる負荷を最低値とする。この結果、後述するように、時点t4での最終TDC回転速度Cは基準回転速度γ以下となる。
時点t1,t2,t3における上記のような回転速度制御により、時点t4での最終TDC(i)通過時のエンジン回転速度Cは所定の基準回転速度γ以下となる。その結果、前述したように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の運動エネルギーが相対的に小さくなり、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が下死点寄りに停止する(図3のクランク角の時点t4以降の実線参照)。
本実施形態においては、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が下死点側に設けられた上記特定範囲Rxに停止することが可能な最終TDC通過時のエンジン回転速度の上限値が、予め実験等により定められている。そして、その定められた上限値が上記基準回転速度γに採用されている。また、本実施形態においては、最終TDC通過時のエンジン回転速度Cが上記基準回転速度γ以下となるための理想的な2TDC通過時のエンジン回転速度の上限値が、予め実験等により定められている。そして、その定められた上限値が上記第2予備回転速度βに採用されている。同様に、本実施形態においては、2TDC通過時のエンジン回転速度Bが上記第2予備回転速度β以下となるための理想的な3TDC通過時のエンジン回転速度の上限値が、予め実験等により定められている。そして、その定められた上限値が上記第1予備回転速度αに採用されている。
これらの第1予備回転速度α、第2予備回転速度β及び基準回転速度γとは別に、本実施形態においては、最終TDC(i)を実現するエンジン回転速度の範囲(上限値及び下限値を有する範囲)が、予め実験等により定められている。そして、その定められた回転速度範囲のうちの相対的に値が小さい回転速度が上記基準回転速度γに採用されている。また、本実施形態においては、2TDC(ii)を実現するエンジン回転速度の範囲(上限値及び下限値を有する範囲)が、予め実験等により定められている。そして、その定められた回転速度範囲のうちの相対的に値が小さい回転速度が上記第2予備回転速度βに採用されている。同様に、本実施形態においては、3TDC(ii)を実現するエンジン回転速度の範囲(上限値及び下限値を有する範囲)が、予め実験等により定められている。そして、その定められた回転速度範囲のうちの相対的に値が小さい回転速度が上記第1予備回転速度αに採用されている。
なお、本実施形態においては、時点t1で、まずオルタネータ32の目標発電電流をそれまでの値よりも大きい所定値に増大するので、これにより、燃料カット後のエンジン回転速度の低下スピードが大きくなるという作用が得られるが、この他に、目標発電電流は増大時よりも低下時のほうが制御の応答性がよいので、最初に目標発電電流を上げておき、その後低下量づつ下げていくという制御を行うことで、エンジンに作用する負荷を円滑、良好に調節できるという利点もある。
次に、以上のようなエンジン自動停止制御を司る自動停止制御部51の具体的制御動作の一例について、図5のフローチャートを用いて説明する。
図5のフローチャートに示す処理がスタートすると、自動停止制御部51は、各種センサ値を読み込む制御を実行する(ステップS1)。具体的には、水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、エアフローセンサSW4、インマニ圧センサSW5、クラッチペダルセンサSW6、シフトポジションセンサSW7、車速センサSW8、及びバッテリセンサSW9からそれぞれの検出信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別情報、吸気流量、インマニ圧(サージタンク28b内の吸気圧力)、クラッチペダル36の状態、手動変速機101のシフトポジション、車速、バッテリの残容量等の各種情報を取得する。
次いで、自動停止制御部51は、上記ステップS1で取得された情報に基づいて、エンジンの自動停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS2)。ここでは、車速が所定の低車速以下(例えば3km/h以下)であること、手動変速機101のシフトポジションがニュートラルであること、クラッチペダル36がリリースされていること(クラッチ102がつながっていること)、という3つの要件が全て揃ったときに、自動停止条件が成立したと判定する。
上記ステップS2でYESと判定されて自動停止条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部51は、エンジンを停止させても支障のない状態であるか否か、つまりシステム条件が成立しているか否かを判定する(ステップS3)。例えば、エンジンの冷却水温が所定値以上であること、バッテリの残容量が所定値以上であること等の複数の要件が全て揃ったときに、システム条件が成立したと判定する。
上記ステップS3でYESと判定されてシステム条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部51は、吸気絞り弁30の開度を全閉(0%)に設定する制御を実行する(ステップS4)。すなわち、図3のタイムチャートに示したように、時点t0でエンジンの自動停止条件が成立した後、システム条件が成立した時点t1で、吸気絞り弁30の開度を閉方向に駆動し始め、その開度を最終的に0%まで低下させる。
次いで、自動停止制御部51は、燃料噴射弁15からの燃料の供給を停止する燃料カットを実行する(ステップS5)。すなわち、図3のタイムチャートに示したように、時点t0でエンジンの自動停止条件が成立した後、システム条件が成立した時点t1で、各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15に対する駆動信号を全てOFFにし、各燃料噴射弁15の弁体を全閉位置に維持することにより、燃料カットを実行する。
上記のように、本実施形態では、自動停止条件の成立後、システム条件の成立を確認してから、燃料カットを実行するようにしている。このため、自動停止条件の成立(時点t0)から燃料カットの実行(時点t1)までの間には、場合にもよるが、概ね0.2〜0.3s(秒)の時間を要する。
次いで、自動停止制御部51は、前述したように、回転速度制御の一環として、オルタネータ32の目標発電電流をそれまでの値よりも大きい所定値に増大する(ステップS6)。これにより、エンジンのクランク軸7に作用する負荷が増大し、燃料カットによって低下していくエンジン回転速度は、さらにその低下のスピードが大きくなる。
次いで、自動停止制御部51は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかのピストン5が上死点を迎えたときのエンジン回転速度(上死点回転速度)の値が、予め定められた第1所定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS7)。なお、図3に示すように、燃料カット後のエンジン回転速度は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかが圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間の上死点)を迎える度に一時的に落ち込み、圧縮上死点を越えた後に再び上昇するというアップダウンを繰り返しながら徐々に低下していく。よって、上死点回転速度は、エンジン回転速度のアップダウンの谷のタイミングにおける回転速度として測定することができる(図3の「上死点回転速度」参照)。
上記ステップS7での上死点回転速度に関する判定は、最終TDCの2つ前の上死点である3TDCの通過タイミング(図3の時点t2)を特定するために行われる。すなわち、エンジンを自動停止させる過程において、エンジン回転速度の低下の仕方には一定の規則性があるため、上死点の通過時にそのときの回転速度(上死点回転速度)を調べれば、それが最終TDCの何回前の上死点にあたるのかを推定することができる。そこで、上死点回転速度を常時測定し、それが予め設定された所定範囲、すなわち、3TDCを通過するときの回転速度として実験等により予め求められた第1所定範囲の中に入るか否かを判定することにより、上記3TDCの通過タイミングを特定する。
上記ステップS7でYESと判定されて現時点が3TDC通過タイミングであることが確認された場合、自動停止制御部51は、前述したように、回転速度制御の一環として、そのときの(図3の時点t2での)上死点回転速度、すなわち3TDC回転速度Aが、予め定められた所定の第1予備回転速度α以下か否かを判定する。そして、その結果に応じて(判定がNOの場合)、目標発電電流の低下量を算出し(ステップS8)、この算出した低下量をそれまでの目標発電電流から差し引いた値を新たな目標発電電流として設定する。すなわち、目標発電電流を低下する(ステップS9)。これにより、エンジンのクランク軸7に作用する負荷が調節され、2TDC通過時のエンジン回転速度Bを精度よく所定の第2予備回転速度β以下とすることができ、ひいては最終TDC通過時のエンジン回転速度Cを精度よく所定の基準回転速度γ以下とすることができる。
次いで、自動停止制御部51は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかのピストン5が上死点を迎えたときのエンジン回転速度(上死点回転速度)の値が、予め定められた第2所定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS10)。
上記ステップS10での上死点回転速度に関する判定は、最終TDCの1つ前の上死点である2TDCの通過タイミング(図3の時点t3)を特定するために行われる。
上記ステップS10でYESと判定されて現時点が2TDC通過タイミングであることが確認された場合、自動停止制御部51は、吸気絞り弁30の開度を7%とする(ステップS11)。すなわち、吸気絞り弁30を開方向に駆動し始め、その開度を7%まで増大させる制御を実行する。これにより、時点t3から吸気行程を迎える停止時圧縮行程気筒2Cに対する流入空気量が、その1サイクル前(時点t2〜時点t3)が吸気行程であった停止時膨張行程気筒2Aに対する流入空気量よりも増大し、停止時圧縮行程気筒2Cと停止時膨張行程気筒2Aとの間にインマニ圧の差、すなわち充填量の格差がつくられる(充填量の格差制御)。
次いで、自動停止制御部51は、必要に応じて目標発電電流を調整する(ステップS12)。すなわち、自動停止制御部51は、前述したように、回転速度制御の一環として、そのときの(図3の時点t3での)上死点回転速度、すなわち2TDC回転速度Bが、予め定められた所定の第2予備回転速度β以下か否かを判定する。通常は、時点t2で行った目標発電電流の調整(ステップS8〜S9)により、2TDC回転速度Bは第2予備回転速度β以下となっている。そして、その結果に応じて(判定がNOの場合)、目標発電電流の低下量を算出し、この算出した低下量をそれまでの目標発電電流から差し引いた値を新たな目標発電電流として設定する。すなわち、目標発電電流を低下する。これにより、エンジンのクランク軸7に作用する負荷が再度調節され、最終TDC通過時のエンジン回転速度Cをより一層精度よく所定の基準回転速度γ以下とすることができる。
その後、自動停止制御部51は、エンジン回転速度が0rpmであるか否かを判定することにより、エンジンが完全停止したか否かを判定する(ステップS13)。そして、エンジンが完全停止していれば(時点t5)、自動停止制御部51は、例えば、吸気絞り弁30の開度を、通常運転時に設定される所定の開度(例えば80%)に設定する等して、自動停止制御を終了する。
以上のように、この自動停止制御では、時点t3の2TDC通過時に吸気絞り弁30を開くステップS11の制御により、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程と停止時膨張行程気筒2Aの吸気行程との間でインマニ圧の差が大きくなり、停止時圧縮行程気筒2Cと停止時膨張行程気筒2Aとの間に充填量の格差が生じているため(充填量の格差制御)、エンジンが完全停止したときには、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が、比較的高い頻度で下死点寄りの特定範囲Rx(図4(b))内に収まることになり、1圧縮始動を高い頻度で実行することが可能となる。
加えて、この自動停止制御では、時点t1,t2,t3にオルタネータ32の目標発電電流を増減制御することにより、エンジンに作用する負荷が調節されて、時点t4の最終TDC通過時のエンジン回転速度Cが精度よく所定の基準回転速度γ以下とされる(補機による回転速度制御)。そのため、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の運動エネルギーが相対的に小さくなり、これによっても、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が、比較的高い頻度で下死点寄りの特定範囲Rx(図4(b))内に収まることになり、1圧縮始動を高い頻度で実行することが可能となる。
したがって、この自動停止制御においては、充填量の格差制御と補機による回転速度制御とを併用することにより、たとえ振動抑制のために時点t3における吸気絞り弁30の開度を7%までしか大きくすることができず、そのため上記格差制御の作用が十分得られないときであっても、上記回転速度制御によって停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を下死点寄りに停止させることができ(図3のクランク角の時点t4以降の実線参照)、1圧縮始動による迅速な再始動の機会を確実に増やすことが可能となる。換言すれば、この自動停止制御においては、充填量の格差制御と補機による回転速度制御とを併用するので、格差制御のみを単独使用する場合と異なり、停止時圧縮行程気筒2Cと停止時膨張行程気筒2Aとの間にそれほど大きな充填量の格差をつくらなくても停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5は下死点寄りに停止する。したがって、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を安定して下死点寄りに停止させ、それによって1圧縮始動による迅速な再始動の機会をより増やしつつ、エンジン停止時に生じる振動(停止時圧縮行程気筒2C内の空気をピストン5で圧縮する際の衝撃によって生じる振動)を効果的に抑制できる。
(4)再始動制御
次に、上記ECU50の再始動制御部52により実行されるエンジンの再始動制御の具体的制御動作の一例について、図6のフローチャートを用いて説明する。
図6のフローチャートに示す処理がスタートすると、再始動制御部52は、各種センサ値に基づいて、エンジンの再始動条件が成立しているか否かを判定する(ステップS21)。例えば、車両発進のためにクラッチペダル36が踏み込まれたこと、エンジンの冷却水温が所定値(例えば25℃)未満になったこと、バッテリの残容量の低下幅が許容値を超えたこと、エンジンの停止時間(自動停止後の経過時間)が所定時間を越えたこと、等の要件の少なくとも1つが成立したときに、再始動条件が成立したと判定する。
上記ステップS21でYESと判定されて再始動条件が成立したことが確認された場合、再始動制御部52は、上述したエンジンの自動停止制御に伴い圧縮行程で停止した停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置を、クランク角センサSW2及びカム角センサSW3に基づき特定し、その特定したピストン停止位置が、基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rx(図4(b))にあるか否かを判定する(ステップS22)。
上記ステップS22でYESと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が特定範囲Rxにあることが確認された場合、再始動制御部52は、停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射する1圧縮始動によってエンジンを再始動させる制御を実行する(ステップS23)。すなわち、スタータモータ34を駆動してクランク軸7に回転力を付与しつつ、燃料噴射弁15から停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射して自着火させることにより、エンジン全体として最初の圧縮上死点を迎えるときから燃焼を再開させて、エンジンを再始動させる。
ここで、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置は、上述した自動停止制御の効果により、比較的多くのケースにおいて、上記特定範囲Rxに収まっていると考えられる。しかしながら、場合によっては、上記ピストン停止位置が特定範囲Rxを外れる(基準停止位置Xよりも上死点側でピストン5が停止する)こともあり得る。このようなときは、上記ステップS22でNOと判定されることになる。
上記ステップS22でNOと判定された場合(つまり停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が特定範囲Rxよりも上死点側で停止している場合)、再始動制御部52は、吸気行程で停止していた停止時吸気行程気筒2Dに最初の燃料を噴射する2圧縮始動によってエンジンを再始動させる制御を実行する(ステップS24)。すなわち、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が上死点を超えて、次に停止時吸気行程気筒2Dが圧縮行程を迎えるまで、燃料を噴射することなく、スタータモータ34の駆動のみによってエンジンを強制的に回転させる。そして、停止時吸気行程気筒2Dのピストン5が圧縮上死点付近に近づいた時点で燃料噴射弁15から停止時吸気行程気筒2Dに燃料を噴射し、噴射した燃料を自着火させることにより、エンジン全体として2回目の圧縮上死点を迎えるときから燃焼を再開させ、エンジンを再始動させる。
本実施形態では、少なくとも上記ステップS23で1圧縮始動を行う場合に、燃料噴射弁15にプレ噴射を行わせるようにしている。プレ噴射とは、圧縮上死点付近で噴射される拡散燃焼用の燃料噴射をメイン噴射とした場合に、このメイン噴射よりも前に予備的に噴射される燃料噴射のことである。プレ噴射による燃焼(プレ燃焼)は、メイン噴射に基づく圧縮上死点付近での拡散燃焼(メイン燃焼)を確実に引き起こすために利用される。すなわち、メイン噴射よりも早い段階で、プレ噴射によって少量の燃料を噴射し、その噴射した燃料を所定の着火遅れの後に燃焼(プレ燃焼)させることにより、筒内温度・圧力を上昇させて、その後に続くメイン燃焼を促進する。
上記のようなプレ噴射を停止時圧縮行程気筒2Cに対し実行すれば、圧縮上死点付近での筒内温度・圧力を意図して高めることができるので、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が少々上死点側に近づいても、確実に1圧縮始動によりエンジンを再始動させることができるようになる。図4(b)に示した特定範囲Rxの境界である基準停止位置Xは、このようなプレ噴射による着火性の改善を加味して設定されたものである。つまり、プレ噴射がなかった場合には、上記基準停止位置Xは、図4(b)の例よりも下死点側に設定せざるを得ないが、プレ噴射によって着火性を改善することで、基準停止位置Xをより上死点側に設定することが可能になり、その結果、基準停止位置Xを、例えばBTDC90°CA近傍といった、下死点からかなり離れた位置に設定することが可能となる。これにより、特定範囲Rxが上死点側に拡大するので、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5がより高い頻度で上記特定範囲Rxに収まることとなり、1圧縮始動による迅速な再始動を行える機会が増える。
ここで、本実施形態におけるプレ噴射は、圧縮上死点よりも前の所定のクランク角範囲内で複数回(より具体的には2〜5回)実行される。これは、同じ量の燃料であれば、1回のプレ噴射で噴射し切るよりも、複数回のプレ噴射に分けて噴射した方が、ピストン5の冠面に設けられたキャビティ5a内にリッチな混合気を継続的に形成でき、着火遅れを短くできるからである。
(5)作用効果等
以上説明したように、本実施形態では、所定の条件下で自動的にエンジンを停止させたり再始動させたりする、いわゆるアイドルストップ機能を有したディーゼルエンジン、特に再始動時に1圧縮始動が可能なディーゼルエンジンにおいて、次のような特徴的な構成を採用した。
まず、吸気絞り弁30及びオルタネータ32を制御するECU50の自動停止制御部51は、エンジンを自動停止させる過程において、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中の流入空気量が、停止時膨張行程気筒2Aの吸気行程中の流入空気量よりも多くなるように、2TDCから最終TDCまでの期間中(時点t3〜t4)の吸気絞り弁30の開度を、3TDCから2TDCまでの期間中(時点t2〜t3)の吸気絞り弁30の開度よりも大きくする制御を実行する。
これにより、エンジンを自動停止させる過程において、停止時圧縮行程気筒2Cの充填量を停止時膨張行程気筒2Aの充填量よりも多くして両気筒2A,2C間に充填量の格差をつくる充填量の格差制御が行われる。そのため、停止時圧縮行程気筒2Cの圧縮反力と停止時膨張行程気筒2Aの膨張反力とによって、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を安定して下死点寄りに停止させることができ、当該ディーゼルエンジンを高い頻度で1圧縮始動で迅速に再始動させることが可能となる。
そのうえで、ECU50の自動停止制御部51は、エンジンを自動停止させる過程において、最終TDC(i)通過時(時点t4)のエンジン回転速度Cが所定の基準回転速度γ以下となるようにオルタネータ32を用いて補機による回転速度制御を行う。
これにより、同じくエンジンを自動停止させる過程において、最終TDC通過時のエンジン回転速度Cが所定の基準回転速度γ以下となるので、筒内を往復摺動するピストン5の運動エネルギーが相対的に小さくなり、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の運動エネルギーが例えばピストン5とシリンダボアとの摩擦やピストン5による筒内空気の圧縮等によって相対的に短時間で消費される。その結果、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が吸気下死点(すなわち最終TDC(i))を通過した後に(時点t4以降に)、圧縮上死点側へ移動する距離が相対的に短くなり(図3のクランク角の時点t4以降の実線参照)、これによっても、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を下死点寄りに停止させることができ、当該ディーゼルエンジンを高い頻度で1圧縮始動で迅速に再始動させることが可能となる。
以上のことから、充填量の格差制御と補機による回転速度制御とを併用することにより、専ら上記格差制御によって停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を下死点寄りに停止させることを図りつつ、時点t3で開く吸気絞り弁30の開度を振動抑制のために7%までしか大きくすることができず、そのため上記格差制御の作用が十分得られないようなときでも、上記回転速度制御によって停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を下死点寄りに停止させることができるので、1圧縮始動による迅速な再始動の機会を確実に増やすことが可能となる。
本実施形態では、補機として、エンジンで駆動されて交流電流を発電するオルタネータ32を用い、このオルタネータ32の目標発電電流を増減制御することで、最終TDC通過時のエンジン回転速度Cが所定の基準回転速度γ以下となるように回転速度制御をしているので、精度よくエンジンに与える負荷を調節して、最終TDC通過時のエンジン回転速度Cを確実に所定の基準回転速度γ以下とすることができる。
本実施形態では、3TDC(iii)及び/又は2TDC(ii)通過時(時点t2,t3)のエンジン回転速度A,Bが所定の予備回転速度α,β以下となるようにオルタネータ32を制御することにより、最終TDC(i)通過時(時点t4)のエンジン回転速度Cを所定の基準回転速度γ以下としているので、次のような作用が得られる。
すなわち、直接的に最終TDC通過時のエンジン回転速度Cを所定の基準回転速度γ以下とするのではなく、最終TDC(時点t4)よりも早い時期に到来する3TDC(時点t2)や2TDC(時点t3)の通過時のエンジン回転速度A,Bを所定の予備回転速度α,β以下とすることによって、最終TDC通過時のエンジン回転速度Cを所定の基準回転速度γ以下としているので、オルタネータ32を用いての回転速度制御を行う機会が増える。そのため、上記回転速度制御の精度が向上する。
本実施形態に係る車両は、エンジンのクランク軸7とクラッチ102を介して連結された手動変速機101を搭載したMT車であるから、慣性質量が大きいフライホイール102aがクランク軸7に取り付けられており、エンジンを自動停止させる過程における振動の問題が例えばAT車等に比べて大きくなる。その場合に、2TDCから最終TDCまでの期間中(時点t3〜t4)の吸気絞り弁30の開度(充填量の格差制御のための開度)を10%以下の開度である7%としているから、上記MT車の振動の問題を抑制しつつ、オルタネータ32による回転速度制御によって停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を下死点寄りに停止させることができる。
本実施形態では、圧縮自己着火式エンジンは、幾何学的圧縮比が16未満(より具体的には14)に設定されたディーゼルエンジンである。
このような構成により、幾何学的圧縮比が16未満のディーゼルエンジンは、従来から多用されてきたディーゼルエンジンに比べれば圧縮比が低く、その分、圧縮行程の途中位置に停止するピストン5の圧縮代(停止位置から圧縮上死点までの有効圧縮比)は小さく、燃料の自己着火性が相対的に低いため、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を安定して下死点寄りに停止させて1圧縮始動の頻度を高めることができるという本実施形態の作用効果は非常に大きいものとなる。
(6)他の実施形態
上記実施形態では、吸気絞り弁30の開度を0%から7%に切り替える時期を、2TDC(時点t3)としたが、これに限らず、停止時圧縮行程気筒2C内への流入空気量を停止時膨張行程気筒2A内への流入空気量よりも多くすることができる限り、2TDCよりも所定時間前の時点で吸気絞り弁30の開度を切り替えてもよく、また、2TDCよりも所定時間後の時点で吸気絞り弁30の開度を切り替えてもよい。つまり、吸気絞り弁30の開度を切り替える時期を、2TDCの近傍としてもよい。
また、上記実施形態では、システム条件の成立時点t1で、吸気絞り弁30の開度を全閉(0%)に設定し、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実行し、オルタネータ32を用いての回転速度制御を開始するようにしたが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、これらを行う時期や順番は特に限定されないものである。
また、上記実施形態では、車両がMT車であるから、時点t3での開度を7%としたが、例えばAT車の場合は、振動問題を勘案して20%程度とすることができる。
また、MT車は、デュアルマスフライホイール(DMF)を搭載したMT車でもよい。エンジンを自動停止させる過程における振動の問題がより一層大きくなるDMFを搭載したMT車において、振動の問題を抑制しつつ、補機による回転速度制御によって停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を下死点寄りに停止させることができる。
回転速度制御に用いる補機として、オルタネータ32に代えて、エンジンで駆動されて燃料噴射弁15に燃料を供給する燃料ポンプ23を採用することもできる。その場合、ECU50の自動停止制御部51は、最終TDC通過時のエンジン回転速度Cが所定の基準回転速度γ以下となるように上記燃料ポンプ23の目標燃料圧力を増減制御する。この構成によれば、燃料ポンプ23の目標燃料圧力を制御することにより、エンジンに与える負荷を調節して、最終TDC通過時のエンジン回転速度Cを精度よく所定の基準回転速度γ以下とすることができる。
例えば標高1800mといった高地では大気圧が低いので、そのような場所を走行中は、2TDCから最終TDCまでの期間中(時点t3〜t4)の吸気絞り弁30の開度を、例えば標高0mといった平地を走行しているときに比べて、大きくすることが好ましい。
この構成によれば、大気圧が低いほど、停止時圧縮行程気筒2Cへの流入吸気量が増大するので、大気圧が低いときの不利益、すなわち空気の密度が小さくなり充填量が少なくなる不利益が補填されて、充填量の格差制御の作用が確保される。その場合、大気圧が低いときは空気の密度が小さいから、停止時圧縮行程気筒2C内の空気バネが弱くなり、停止時圧縮行程気筒2Cへの流入吸気量が増大しても、振動の問題は比較的小さくて済む。
また、上記実施形態では、圧縮自己着火式エンジンの一例としてディーゼルエンジン(軽油を自己着火により燃焼させるエンジン)を用い、ディーゼルエンジンに本発明に係る自動停止・再始動制御を適用した例を説明したが、圧縮自己着火式エンジンであれば、ディーゼルエンジンに限定されない。例えば、最近では、ガソリンを含む燃料を高圧縮比で圧縮して自己着火させる(HCCI:Homogeneous−Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)タイプのエンジンが研究、開発されているが、このような圧縮自己着火式のガソリンエンジンに対しても、本発明に係る自動停止・再始動制御は好適に適用可能である。