以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る自動停止装置を備えた4サイクルディーゼルエンジン10(以下、単にエンジン10という)の概略構成を示している。尚、本実施形態では、エンジン10を手動変速機に連結した車両に搭載した例を示している。
図1を参照して、上記エンジン10は、シリンダヘッド11及びシリンダブロック12を有している。これらシリンダヘッド11及びシリンダブロック12には、エンジン前側から順に4つの気筒14A〜14Dが直列に配設されている。これら各気筒14A〜14Dの内部には、図略のコネクティングロッドによってクランクシャフト15に連結されたピストン16が嵌挿されている。このピストン16には、シリンダヘッド11と共に燃焼室17を区画するキャビティ16aが形成されている。各気筒14A〜14Dに設けられたピストン16は、所定の位相差をもってクランクシャフト15の回転に伴い上下運動を行うように構成されている。ここで、4気筒4サイクルエンジンであるエンジン10では、各気筒14A〜14Dが所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程からなるサイクルを行うようになっており、各サイクルが1番気筒14A、3番気筒14C、4番気筒14D、2番気筒14Bの順にクランク角で180°(180°CA)の位相差をもって行われるように構成されている。
上記シリンダヘッド11には、プラグ先端が燃焼室17内に臨むように配置されたグロープラグ18が気筒14A〜14D毎に設けられている。また、シリンダヘッド11には、燃料噴射弁19が気筒14A〜14D毎に設けられている。この燃料噴射弁19は、燃料を当該燃料噴射弁19の開弁圧(噴射圧)以上の高圧状態で蓄えて分配するコモンレール20に対し、気筒14A〜14D毎に配設された分岐管21を介してそれぞれ接続されている。各燃料噴射弁19は、通電により電磁力で燃料通路を開くことで燃料圧力により噴射ノズルの真弁が開き、コモンレール20から供給される高圧の燃料を、噴射ノズル先端の複数の噴孔から燃焼室17を区画するピストン16のキャビティ16aに向けて気筒14A〜14D内に直接噴射供給するものである。本実施形態においては、燃料圧力を検出するための燃圧センサSW1がコモンレール20に設けられている。燃料噴射弁19の燃料噴射量は、通電時間で制御される。また、燃料噴射弁19に燃料を供給するコモンレール20は、高圧燃料供給管22を介して燃料供給ポンプ23に接続されている。
また、シリンダヘッド11には、燃焼室17に向かって開口する吸気ポート24及び排気ポート25が各気筒14A〜14Dの上部に設けられている。そして、これらのポート24,25と燃焼室17との連結部分には、吸気弁26及び排気弁27がそれぞれ装備されている。
上記吸気弁26は、電磁式の吸気弁駆動手段26Aによって開閉駆動され、同様に、排気弁27も、電磁式の排気弁駆動手段27によって開閉駆動されるようになっている。これら吸気弁26及び排気弁27は共に、クランクシャフト15との機械的な連係は採択されておらず、クランクシャフト15の回転位置に関わらず、上記弁駆動手段26A,27Aの作動によって開閉される。すなわち、吸気弁駆動手段26Aが消磁されたときには、吸気弁26が、図示省略のリターンスプリングによって閉弁される一方、吸気弁駆動手段26Aが励磁されたときには、吸気弁26がリターンスプリングに抗して開弁されるようになっている。同様に、排気弁駆動手段27Aが消磁されたときには、排気弁27が、図示省略のリターンスプリングによって閉弁される一方、吸気弁駆動手段26Aが励磁されたときには、吸気弁26がリターンスプリングに抗して開弁されるようになっている。本実施形態では、吸気弁駆動手段26Aの励磁力を段階的又は無段階に調整することが可能であり、これにより、吸気弁26の開度(リフト量)を変更できるようになっている。すなわち、エンジン回転速度及びエンジン負荷に応じて吸気弁26の開度を変更する。一方、排気弁駆動手段27AはON・OFF的に作動されるものとされて、排気弁27の開度が常時一定となるように設定されている。尚、吸気弁26及び排気弁27両方の開度を変更できるようにしてもよく、常時一定となるように設定してもよい。
上記吸気弁26の開弁時間は、吸気弁26の開度に対応して予め決まっており、開度が大きいほど長い時間となる。この場合、吸気弁26の開度(リフト量)の大小に拘わらず、クランク角に対する開弁開始時期は揃っている一方、閉弁完了時期は、吸気弁26の開度が小さくなるに連れて早くなることが好ましい。これにより、ポンピングロスを低減することができるようになる。尚、吸気弁26の開弁時間は、吸気弁26の開度に関係なく一定になるようにしてもよい。
上記弁駆動手段26A,27Aは、後述するエンジン制御ユニット100の吸排気弁作動制御部103からの指令を受けて作動するようになっており、この吸排気弁作動制御部103によって、弁駆動手段26A,27Aによる吸気弁26及び排気弁27の作動状態が制御されることになる。このことで、吸排気弁作動制御部103は、本発明の弁作動制御手段を構成することになる。
上記吸気ポート24及び排気ポート25には、吸気通路28及び排気通路29がそれぞれ接続されている。この吸気通路28の下流側の部分は、気筒14A〜14D毎に分岐した分岐吸気通路28aとされ、この各分岐吸気通路28aの上流端がそれぞれサージタンク28bに連通している。このサージタンク28bよりも上流側には共通吸気通路28cが設けられている。図1では模式化されているが、上記共通吸気通路28cには、吸気流通量を検出するエアフローセンサSW2と、吸気圧力Pinaを検出する吸気圧センサSW3と、吸気温度を検出する吸気温度センサSW4とが設けられている。
また、排気通路29における上流側の部分は、各気筒14A〜14Dに分岐した分岐排気通路とされている。
上記エンジン10には、タイミングベルト等によりクランクシャフト15に連結されたオルタネータ32が付設されている。このオルタネータ32は、図略のフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路33を内蔵し、このレギュレータ回路33に入力されるエンジン制御ユニット100からの制御信号に基づき、車両の電気負荷及び車載バッテリの電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
また、エンジン10には、当該エンジン10を始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aとピニオンギア34bとを有している。ピニオンギヤ34bは、モータ本体34aの出力軸上にて相対回転不能な状態で往復移動する。また、クランクシャフト15には、図略のフライホイールに固定されたリングギア35が、回転中心に対して同心に設けられている。そして、このスタータモータ34を用いてエンジン10を再始動する場合には、このピニオンギヤ34bが所定の噛合位置に移動して、フライホイールに固定されたリングギア35に噛合することにより、クランクシャフト15が回転駆動されるようになっている。
さらに、エンジン10には、クランクシャフト15の回転角を検出する2つのクランク角度センサSW5,SW6が設けられ、一方のクランク角度センサSW5から出力される検出信号(パルス信号)に基づいてエンジン回転速度が検出されるとともに、この両クランク角度センサSW5,SW6から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフト15の回転角度が検出されるようになっている。また、エンジン10には、冷却水温度を検出する水温センサSW7と、車両のアクセルペダル36の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW8と、車両のブレーキペダル37の操作を検出するブレーキペダルセンサSW9とが設けられている。
また、エンジン10には、排気還流装置40が設けられている。この排気還流装置40は、排気ガスの一部を排気通路29から吸気通路28に環流するEGR通路41と、このEGR通路41の途中に設けられたEGR弁42とを備えている。EGR弁42は、次に説明するエンジン制御ユニット100のEGR制御部106によって、開閉制御されるようになっている。
尚、本実施形態では、吸気通路28に吸気絞り弁は設けられておらず、吸気弁26が吸気絞り弁と同様の役割を果たす。
上記エンジン10は、エンジン制御ユニット100によって運転制御される。
このエンジン制御ユニット100は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成され、各センサSW1〜SW9を初めとする入力要素からの検出信号に基づき、種々の演算を行うとともに、燃料噴射弁19やスタータモータ34、或いはグロープラグ18等の各アクチュエータの制御信号を出力するものである。例えば、運転条件に応じた燃料の噴射量及び噴射時期や点火時期を演算し、燃料噴射弁19等に制御信号を出力している。また、エンジン10の運転状態(エンジン回転速度及びエンジン負荷)に応じて、吸気弁26の開度(リフト量)の目標値を演算し、その開度がこの目標値となるような制御信号を吸気弁駆動手段26Aに出力する。
上記エンジン制御ユニット100は、車両の運転状態を判定する運転状態判定部101と、この運転状態判定部101の判定に基づいてエンジン10の燃料噴射を制御する燃料噴射制御部102と、上記弁駆動手段26A,27Aの作動を制御する吸排気弁作動制御部103と、上記運転状態判定部101の判定に基づいて再始動条件の成立時にエンジン10のスタータモータ34を駆動制御するスタータ制御部104と、グロープラグ18を制御するグロープラグ制御部105と、排気還流装置40のEGR弁42を駆動制御するEGR制御部106とを論理的に構成している。
上記運転状態判定部101は、燃圧センサSW1、エアフローセンサSW2、吸気圧センサSW3、吸気温度センサSW4、クランク角度センサSW5,SW6、水温センサSW7、アクセル開度センサSW8、ブレーキペダルセンサSW9等からのセンサ信号に基づき、エンジン10の自動停止条件や再始動条件の成立又は解除、及び、エンジン10の運転状態が低負荷運転状態にあるか否か等を判定するモジュールである。この他にも、運転状態判定部101は、燃料圧力、ピストン16の停止位置、筒内温度、或いはエンジン10が正転しているか否か等、種々の運転状態を判定する。この運転状態判定部101は、エンジン10が自動停止しているときにおけるピストン16の停止位置の判定や、ピストン16が停止すべき適正停止位置SAの設定をするものでもある。本実施形態において、停止時圧縮行程気筒(エンジン10の自動停止完了時に圧縮行程となる気筒)の適正停止位置SAは、デフォルトでは、圧縮上死点前120°CAから圧縮上死点前100°CAの範囲に設定される。後述するように、ディーゼルエンジンにおいては、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射し、スタータモータ34でピストン16を駆動して、当該燃料が噴射された気筒内で混合気を自着火させる必要があるため、ピストン16は、下死点側に停止しているのが好ましい。他方、ピストン16が下死点近傍にある場合には、スタータモータ34の駆動時間が長くなるので、確実な自着火とスタータモータ34の駆動時間短縮とを両立させるために、デフォルトでは、圧縮上死点前120°CAから圧縮上死点前100°CAの範囲に設定される。但し、筒内温度が高い場合には、停止時圧縮行程気筒の有効圧縮比を小さく設定することができるので、適正停止位置SAは、筒内温度によって上死点側に補正されるようになっている。筒内温度は、予めメモリに記憶されたデータに基づいて推定されるように構成されている。尚、本実施形態において、運転状態判定部101は、車両のブレーキペダル37のON/OFFや車速等も判定できるように図略のセンサからの検出信号が入力されるようになっている。
上記燃料噴射制御部102は、運転状態判定部101の判定に基づき、エンジン10の適正な空燃比に対応する燃料噴射量と燃料噴射タイミングとを設定し、その設定に基づいて、燃料噴射弁19を駆動制御するモジュールである。
上記吸排気弁作動制御部103は、上記運転状態判定部101の判定に基づいて吸気弁26の開度(リフト量)の目標値を演算するとともに、その目標値と両クランク角度センサSW5,SW6により検出されるクランクシャフト15の回転角度とに応じて上記弁駆動手段26A,27Aの作動を制御するモジュールである。
上記スタータ制御部104は、エンジン10の始動時にスタータモータ34に制御信号を出力し、スタータモータ34を駆動するモジュールである。
上記グロープラグ制御部105は、エンジン冷間時や、エンジン再始動の際に、停止時圧縮行程気筒のピストン16が上記適正停止位置SAよりも上死点側にあるときにグロープラグ18の駆動を制御するモジュールである。
上記EGR制御部106は、所定の部分負荷運転領域において、EGR弁42を開くことにより、燃焼安定性を図るモジュールである。
上記エンジン制御ユニット100は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジン10を自動停止させるとともに、所定の再始動条件が成立したときに、該自動停止させたエンジン10を再始動させる自動停止・再始動制御手段を構成するものである。このエンジン制御装置100におけるエンジン10の自動停止制御及び再始動制御について、その制御例を説明する。
図2は、本実施形態に係る自動停止制御を中心とするフローチャートであり、図3は、本実施形態に係る、エンジン10の停止完了後の再始動制御を中心とするフローチャートである。また、図4は、図2の制御例に基づく吸気弁26及び排気弁27の作動状態を示すタイミングチャートである。
図2を参照して、エンジン制御ユニット100は、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立するのを待機する(ステップS1)。具体的には、ブレーキペダル37の作動状態が所定時間継続し、車速が所定値以下であるといった場合(つまりエンジン10のアイドル運転状態が所定時間継続していると想定される場合)には、エンジン10の自動停止条件が成立したと判定される。
ステップS1において、自動停止条件が成立したと判定した場合には、燃料噴射弁19からの燃料供給を停止する(ステップS2)。そして、エンジン制御ユニット100(吸排気弁作動制御部103)は、各気筒14A〜14Dが吸気通路28より吸気した新気を排気通路29(分岐排気通路)へ排気するように、吸気弁26及び排気弁27を開閉する(ステップS3)。すなわち、吸気行程で、排気弁27を全閉状態にして吸気弁26を開弁(吸気弁26の開度は、燃料供給停止直前の開度と同じとする)し、排気行程で、吸気弁26を全閉状態にして排気弁27を開弁する。これにより、吸気通路28より吸気した新気を排気通路29(分岐排気通路)へ排気する。但し、燃料供給停止(図4のタイミングt1)の時点で燃焼ガスが存在する気筒(図4の例では、2番気筒(1番気筒も燃焼ガスが存在する可能性がある))では、その燃焼ガスを排気した後、吸気通路28より新気を吸気して、その新気を排気通路29へ排気する。尚、新気を排気通路29へ排気した後は、上記燃料供給停止から6行程が経過しなくても、吸気弁26及び排気弁27を全閉状態にする。
こうして燃料供給停止から6行程が経過するのを待つ(ステップS4)。これにより、全気筒14A〜14Dにおいて、吸気通路28より吸気した新気が排気通路29へ必ず排気されることになる。この排気通路29へ排気された新気は、通常、排気通路29(分岐排気通路)に留まり、この排気通路29は、燃料供給停止前の排気熱によって十分に高温になっているため、上記排気された新気は温められる。
上記燃料供給停止から6行程が経過すると(図4のタイミングt2)、各気筒14A〜14Dの全行程で、吸気弁26及び排気弁27を全閉状態とする(ステップS5)。すなわち、吸気行程でも吸気弁26を全閉状態とし、排気行程でも排気弁27を全閉状態とする。これにより、各気筒14A〜14D内に新気が新たに吸入されることによる筒内温度の低下を抑制することができる。また、吸気弁26及び排気弁27の閉弁により、各気筒14A〜14D内では極僅かな空気しか圧縮されず、エンジン停止時に気筒14A〜14D内の空気の圧縮に伴って生じる停止振動を抑制することができる。
次いで、エンジン制御ユニット100は、再始動条件が成立したか否かを判定する(ステップS6)。再始動条件としては、アクセルペダル36が踏込まれたこと、自動停止条件がエンジン10の停止後に解除されたこと等が含まれる。
再始動条件が成立した場合には、エンジン制御ユニット100(スタータ制御部104)は、スタータモータ34を駆動する(ステップS7)。これにより、停止時吸気行程気筒(エンジン10の自動停止完了時に吸気行程となる気筒)が圧縮行程を迎えるのを待機し、停止時吸気行程気筒が圧縮行程を迎えた後、所定タイミングで燃料を噴射する(ステップS8)。そして、上記スタータモータ34の駆動から4行程が経過するまでは、吸気及び排気行程で、吸気弁26を閉弁したまま排気弁27を開弁する(ステップS9及びS10)。この排気弁27の開弁により、各気筒14A〜14Dにおいて、吸気行程で、上記排気通路29にて温められた新気が吸入され、その後の圧縮行程で、この吸入された新気が圧縮されて、所定タイミングで燃料が噴射され、膨張行程を経て、排気行程で、燃焼ガスが排気通路29へ排気される。
ステップS10で、スタータモータ34の駆動から4行程が経過すると、全気筒14A〜14Dで、上記温められた新気が吸入されることになり、この後、エンジン制御ユニット100は、通常運転に移行し(ステップS11)、処理を終了する。
他方、ステップS6で、再始動条件が成立しなかった場合には、クランク角度センサSW5により検出されるエンジン回転速度が所定回転速度以下になるのを待つ(ステップS12)。この所定回転速度は、各気筒14A〜14D内に空気を吸入して圧縮しても、その圧縮に伴って生じる停止振動が生じないような値に設定される。
エンジン回転速度が所定回転速度以下になると(図4のタイミングt3)、吸気行程で吸気弁26を全閉状態にしたまま排気弁27を開ける(ステップS13)。この排気弁27の開弁により、上記排気通路29にて温められた新気が吸入され、再始動に備えることができる。
そして、クランク角度センサSW5,SW6の検出値に基づいてエンジン10が完全に停止するのを待機し(ステップS14)、エンジン10が完全に停止した場合には、エンジン制御ユニット100は、クランク角度センサSW5,SW6の検出によって運転状態判定部101が判定したピストン16の停止位置を記憶する(ステップS15)。
次に図3を参照して、エンジン制御ユニット100によるエンジン10の再始動制御について説明する。
エンジン制御ユニット100は、エンジン10が停止した後、停止時間を計測し、積算する(ステップS21)。筒内温度は、エンジン10の停止時間に依存しているので、本実施形態においては、エンジン制御ユニット100に予め停止時間と筒内温度との関係をマップ化したデータを持たせ、停止時間に基づいて筒内温度を推定するようにしているのである。本実施形態では、エンジン10への燃料供給停止から実際に該エンジン10が停止完了するまでのエンジン停止過程の中期(タイミングt2からタイミングt3までの期間)で、各気筒14A〜14Dの全行程で吸気弁26及び排気弁27を全閉状態とすることで、各気筒14A〜14D内への新気の導入を抑制して筒内温度の低下を抑制しているので、エンジン10の停止時間が長くても、筒内温度は低下し難い。また、排気通路29で温められた新気を吸入することを考慮して、マップの筒内温度を高い目に設定している。
続いて、エンジン制御ユニット100(運転状態判定部101)は、吸気温度センサSW4が検出した吸気温度、水温センサSW7が検出した冷却水の温度、エンジン10の停止時間、及び、後述のステップS25でのグロープラグ18の駆動時間に基づいて、筒内温度を算出する(ステップS22)。
次いで、上記演算された筒内温度から目標となる燃料圧力が決定され、この燃料圧力から適正停止位置SAが設定される(ステップS23)。本実施形態では、筒内温度と目標となる燃料圧力とによって適正停止位置SAを設定しているので、より好適な停止位置判定ができることになる。また、筒内温度が低下し難いことから、適正停止位置SAの範囲が上死点側に広くなっている。
そして、エンジン制御ユニット100は、停止時圧縮行程気筒のピストン16が適正停止位置SAよりも上死点側にあるか否かを判定する(ステップS24)。仮に上死点側にある場合、グロープラグ18が駆動されて(ステップS25)、筒内が加温される。また、通正停止位置SA内であれば、グロープラグ18が停止される(ステップS26)。
次に、エンジン制御ユニット100は、再始動条件が成立したか否かを判定する(ステップS27)。再始動条件としては、アクセルペダル36が踏込まれたこと、自動停止条件がエンジン10の停止後に解除されたこと等が含まれる。
仮に再始動条件が成立していない場合、エンジン制御ユニット100は、ステップS21に戻って処理を繰り返す。このため、計測時間や筒内温度の変化に伴って、ステップS23で設定される適正停止位置SAも変化することになる。
他方、ステップS27において、再始動条件が成立した場合、エンジン制御ユニット100(スタータ制御部104)は、スタータモータ34を駆動する(ステップS28)。これにより、停止時圧縮行程気筒では、ピストン16が筒内の空気を圧縮しながら上死点に移動する。
次いで、エンジン制御ユニット100(燃料噴射制御部102)は、停止時圧縮行程気筒のピストン16が適正停止位置SAよりも上死点側にあるか否かを判定する(ステップS29)。仮に上死点側にある場合、エンジン制御ユニット100は、停止時吸気行程気筒が圧縮行程を迎えるのを待機し、停止時吸気行程気筒が圧縮行程を迎えた後、所定タイミングで燃料を噴射する(ステップS30)。すなわち、ピストン停止位置が適正停止位置SAから外れている場合には、停止時圧縮行程気筒での燃焼は中止されることになる。他方、ピストン停止位置が適正停止位置SA内である場合には、停止時圧縮行程気筒に燃料が噴射され、この気筒での燃焼によるエンジン10の再始動が図られる(ステップS31)。
ステップS30又はステップS31を経た後、エンジン制御ユニット100は、通常運転に移行し(ステップS32)、処理を終了する。
したがって、本実施形態1では、上記エンジン制御ユニット100における自動停止制御において、エンジン10への燃料供給停止から実際に該エンジン10が停止完了するまでのエンジン停止過程の初期(図4のタイミングt1からタイミングt2までの期間)に、吸気弁26及び排気弁27を、通常運転時と同様に開閉することで、各気筒14A〜14Dが吸気通路28より吸気した新気を排気通路29へ排気するようにして、その新気を排気通路29で温めるようにし、該エンジン停止過程の後期(タイミングt3からエンジン10の停止完了までの期間)に、各気筒14A〜14Dの吸気行程で吸気弁26を閉弁しかつ排気弁27を開弁することで、その温めた新気を気筒14A〜14D内に吸入するようにしたので、再始動時に、その新気を圧縮することで、燃料着火性が向上し、よって、グロープラグ18を使用しなくても、エンジン10の再始動性を向上させることができる。
また、上記エンジン停止過程の中期(タイミングt2からタイミングt3までの期間)に、吸気弁26及び排気弁27を閉弁するようにしたので、新気が新たに吸入されることによる筒内温度の低下を抑制することができるとともに、エンジン停止時に気筒14A〜14D内の空気の圧縮に伴って生じる停止振動を抑制することができる。しかも、排気通路29で、後期において気筒14A〜14D内に吸入する新気を長い間温めておくことができる。
さらに、エンジン停止過程の中期において再始動条件が成立してエンジン10を再始動させる際には、気筒14A〜14D内に新気が未だ吸入されてはいないが、各気筒14A〜14Dの吸気行程で吸気弁26を閉弁しかつ排気弁27を開弁した後に、通常運転に移行するので、エンジン停止過程の中期にエンジンを再始動させることになった場合であっても、エンジン10の再始動性を向上させることができる。
(実施形態2)
図5は、本発明の実施形態2に係る自動停止制御を中心とするフローチャートであり、図6は、図5の制御例に基づく吸気弁26及び排気弁27の作動状態を示すタイミングチャートである。
本実施形態では、排気弁駆動手段27Aも、吸気弁駆動手段26Aと同様に、排気弁駆動手段27Aの励磁力を段階的又は無段階に調整することが可能なものであり、これにより、排気弁27の開度(リフト量)を変更できるようになっている。排気弁27の開弁時間は、吸気弁26の開弁時間と同様に、開度が大きいほど長い時間となる。通常運転では、上記実施形態1と同様に、排気弁27の開度は常時一定であるが、エンジン停止過程の後期において、排気弁27の開度を変更する。尚、排気弁27の開弁時間は、吸気弁27の開度に関係なく一定になるようにしてもよい。
本実施形態では、上記排気弁駆動手段27A以外のハード構成及び再始動制御は、上記実施形態1と同様であり、自動停止制御のみが異なる。そこで、この自動停止制御について説明する。
図5を参照して、エンジン制御ユニット100は、上記実施形態1と同様に、エンジンの自動停止条件が成立するのを待機し(ステップS51)、自動停止条件が成立したと判定した場合には、燃料噴射弁19からの燃料供給を停止する(ステップS52)。
続いて、エンジン制御ユニット100(吸排気弁作動制御部103)は、各気筒14A〜14Dが吸気通路28より吸気した新気を排気通路29へ排気するように、吸気弁26及び排気弁27を開閉する。本実施形態では、上記実施形態1とは異なり、各気筒14A〜14Dの吸気弁26及び排気弁27を2サイクルモードとして作動させて、各気筒14A〜14Dにて吸気行程及び排気行程のみが実行されるようにする(ステップS53)。すなわち、吸気及び膨張行程では、排気弁27を全閉状態にして吸気弁26を開弁し(吸気弁26の開度は、燃料供給停止直前と同じとする)、本来の膨張行程を吸気行程とし、圧縮及び排気行程では、吸気弁26を全閉状態にして排気弁27を開弁し(排気弁27の開度は、燃料供給停止直前と同じとする)、本来の圧縮行程を排気行程とする。これにより、吸気通路28より吸入した新気が圧縮されることなく直ぐに排気通路29へ排気され、空気の圧縮に伴って生じる停止振動が抑制される。尚、新気を排気通路29へ排気した後は、燃料供給停止(図6のタイミングt1)から3行程が経過しなくても、吸気弁26及び排気弁27を全閉状態にする。
そして、吸気弁26及び排気弁27を2サイクルモードとして作動させた状態で、上記燃料供給停止から3行程が経過するのを待つ(ステップS54)。この3行程の間に、全気筒14A〜14Dにおいて、吸気通路28より吸気した新気が排気通路29へ必ず排気されることになる。
上記燃料供給停止から3行程が経過すると(図6のタイミングt2)、上記実施形態1と同様に、各気筒14A〜14Dの全行程で、吸気弁26及び排気弁27を全閉状態とする(ステップS55)。これにより、各気筒14A〜14D内に新気が新たに吸入されることによる筒内温度の低下を抑制することができるとともに、停止振動を抑制することができる。
次いで、エンジン制御ユニット100は、再始動条件が成立したか否かを判定し(ステップS56)、再始動条件が成立した場合には、上記実施形態1と同様に、スタータモータ34を駆動して再始動を行う(ステップS57〜S61)。この再始動に際して、吸気行程で排気弁27が開けられるが、その開度は、例えば、変更可能範囲の最大値とする。
他方、ステップS56で、再始動条件が成立しなかった場合には、上記実施形態1と同様に、エンジン回転速度が所定回転速度以下になるのを待ち(ステップS62)、エンジン回転速度が所定回転速度以下になると(図6のタイミングt3)、クランク角度センサSW5により検出されるエンジン回転速度から、そのエンジン回転速度に対応する弁開度を、マップや式等を用いて算出する(ステップS63)。そして、吸気行程で、排気弁27を、上記算出した、エンジン回転速度に応じた開度になるように開弁する(ステップS64)。すなわち、エンジン回転速度が小さくなるに連れて排気弁27の開度を大きくする。これにより、各気筒14A〜14Dにおいて、吸気行程で、上記排気通路29にある新気が吸入されるとともに、停止時圧縮行程気筒内の空気量(新気の量)が、停止時膨張行程気筒(エンジン10の自動停止完了時に膨張行程となる気筒)内の空気量(新気の量)よりも多くなる。つまり、停止時膨張行程気筒では、相対的に少ない空気量で圧縮行程に移行しているのに対し、停止時圧縮行程気筒では、排気弁27が開くことにより、相対的に多量の新気が筒内に吸入されることになる。この結果、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置を下死点側に位置させることができるようになる。
次いで、上記実施形態1と同様に、エンジン10が完全に停止するのを待機し(ステップS65)、エンジン10が完全に停止した場合には、クランク角度センサSW5,SW6の検出によって運転状態判定部101が判定したピストン16の停止位置を記憶し(ステップS66)、上記実施形態1で説明した再始動制御へと続く。
したがって、本実施形態2では、エンジン停止過程の初期(図6のタイミングt1からタイミングt2までの期間)において、各気筒14A〜14Dの吸気弁26及び排気弁27を2サイクルモードとして作動させることで、各気筒14A〜14Dが吸気通路28より吸気した新気を排気通路29へ排気して、その新気を排気通路29で温めるようにし、エンジン停止過程の後期(タイミングt3からエンジン10の停止完了までの期間)に、各気筒14A〜14Dの吸気行程で吸気弁26を閉弁しかつ排気弁27を開弁することで、その温めた新気を気筒14A〜14D内に吸入するようにしたので、上記実施形態1と同様に、グロープラグ18を使用しなくても、エンジン10の再始動性を向上させることができる。しかも、エンジン停止過程の初期において、吸気通路28より吸入した新気が圧縮されることなく直ぐに排気通路29へ排気されるので、中期と同様に、停止振動を抑制することができる。
また、エンジン停止過程の後期において、エンジン回転速度が小さくなるに連れて排気弁27の開度及び開弁時間を大きくするようにしたので、停止時圧縮行程気筒内の空気量を、停止時膨張行程気筒内の空気量よりも多くすることができる。したがって、停止時圧縮行程気筒のピストン16の停止位置を下死点側に位置させることができる。よって、エンジンの再始動性をより一層向上させることができるとともに、グロープラグ18の使用頻度を出来る限り低減することができる。
尚、上記実施形態2では、エンジン停止過程の後期において、停止時圧縮行程気筒内の空気量が、停止時膨張行程気筒内の空気量よりも多くなるように、エンジン回転速度が小さくなるに連れて排気弁27の開度を大きくする(開弁時間も自動的に大きくなる)ようにしたが、エンジン回転速度が小さくなるに連れて排気弁27の開度及び開弁時間の一方のみを大きくするようにしてもよい。また、このように、停止時圧縮行程気筒内の空気量が停止時膨張行程気筒内の空気量よりも多くなるように排気弁27の作動状態(開度や開弁時間)を制御する必要は必ずしもなく、一定の開度及び開弁時間としてもよい。
また、上記実施形態1及び2では、エンジン停止過程の中期に、吸気弁26及び排気弁27を全閉状態としたが、例えば、初期と同様に開閉させるようにしてもよい。このとき、中期での吸気弁26及び排気弁27の開度を、初期よりも小さくするようにしてもよい。但し、筒内温度の低下を抑制しかつ停止振動を抑制する観点からは、上記実施形態の如く吸気弁26及び排気弁27を全閉状態とするのがよい。
さらに、エンジン停止過程の初期においては、吸気通路28より吸気した新気を排気通路29へ排気するようにできるのであれば、吸気弁26及び排気弁27の作動状態をどのように制御してもよい。
また、本発明は、4気筒ディーゼルエンジンに限らず、6気筒や8気筒等の複数気筒を有するディーゼルエンジンにも適用することができ、さらには、単気筒のディーゼルエンジンにも適用することは可能である。