JP2013099879A - 薄膜防曇性フィルム - Google Patents

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Abstract

【課題】高い防曇特性を維持しつつ、貼合後のしわ、剥がれが抑制され、作業性にも優れるセルロースエステルフィルムを提供する。
【解決手段】セルロースエステルを含むエステル層と、
前記エステル層の少なくとも片面上に位置する防曇層と、
を有し、
下記式(1)および式(2)を満たす、防曇性セルロースエステルフィルム。
Figure 2013099879

式中、d(T)は防曇性セルロースエステルフィルムの全膜厚(μm)であり、d(C)は防曇層の厚さ(μm)である。
【選択図】図1

Description

本発明は、セルロースエステルフィルムを用いた薄膜防曇性フィルムに関する。
浴室、洗面化粧台、自動車用の鏡、食品保冷ショーケース、建造物、車両の窓ガラス、冷蔵庫、冷凍庫のガラス扉、水槽、看板のガラス材には、降雨や空気中の湿分の結露により、表面に水滴が付着し、視認性が低下するという問題があるため、ガラスや鏡などの部材表面は、防曇性フィルムを貼着することにより防曇性が付与されている。
代表的な防曇性フィルムとしては、アルカリ処理したセルロース系合成樹脂シートやフィルムを利用したものがある。これらのセルロース系フィルムは、通常、片面に熱融着フィルムや硬化性樹脂などを含む粘着剤層が積層されており、これらを介して、ガラスや鏡などの基材へ接着一体化される。
しかし、このような積層タイプの防曇性フィルムは、高温多湿下や浸水条件下において長時間放置した場合に層間膜剥がれが発生しやすいという問題があった。
これに対して、特許文献1にはセルロースエステルフィルムをアルカリ処理した単一層のフィルムが開示されている。このような単一層の防曇性フィルムは、積層タイプの防曇性フィルムに比べて、経時での層間膜剥がれが抑制され、また繰返しの防曇適性が高く、安価に作成することができる。
国際公開第2008/029801号
上記のようなセルロースエステルフィルムを用いた防曇性フィルムは、吸湿に伴うフィルムの寸法変化が大きく、ガラスなどの基材に貼合後、経時的にフィルムが変形し、しわ、剥がれが発生するという問題がある。
これに対して、防曇性フィルムを薄膜にすることで、寸法変化に伴うフィルムへの応力を低減し、フィルムのしわ、剥がれの発生を抑制することが考えられる。しかし、かかる場合には、吸湿特性が不足し、十分な防曇特性が得られないおそれがある。さらに、薄膜化によりフィルムの腰が無くなり、防曇性フィルムを基材に貼り合せる際の作業性に劣るという問題もある。
したがって、防曇特性、経時的に発生するしわおよび剥がれの抑制、ならびに貼合時の作業性を両立することは困難であった。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高い防曇特性を維持しつつ、貼合後のしわ、剥がれが抑制され、貼合時の作業性にも優れるセルロースエステルフィルムを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた。その結果、セルロースエステルフィルムの少なくとも片面に防曇層を設け、かつ、その防曇層およびセルロースエステルフィルムの厚さを特定の範囲に制御することによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
1.セルロースエステルを含むエステル層と、
前記エステル層の少なくとも片面上に位置する防曇層と、
を有し、
下記式(1)および式(2)を満たす、防曇性セルロースエステルフィルム。
Figure 2013099879
式中、d(T)は防曇性セルロースエステルフィルムの全膜厚(μm)であり、d(C)は防曇層の厚さ(μm)である。
2.前記エステル層は、重量平均分子量が75,000〜300,000のセルロースエステルを含む、上記1に記載の防曇性セルロースエステルフィルム。
3.前記エステル層は、幅手方向に1.05〜1.40倍の延伸条件で延伸処理されてなる、上記1または2に記載の防曇性セルロースエステルフィルム。
4.前記防曇層は、セルロースエステルフィルムの製膜後に、製膜されたフィルムの表面をアルカリケン化処理することにより形成される、上記1〜3のいずれかに記載の防曇性セルロースエステルフィルム。
5.前記エステル層は、置換度2.0〜3.0のセルロースエステルを含む、上記1〜4のいずれかに記載の防曇性セルロースエステルフィルム。
本発明により、高い防曇特性を維持しつつ、貼合後のしわ、剥がれが抑制され、貼合時の作業性にも優れる防曇性セルロースエステルフィルムが提供されうる。
本発明の一実施形態である防曇性セルロースエステルフィルムの基本構成を示す模式断面図である。
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
本発明の一形態によれば、セルロースエステルを含むエステル層と、前記エステル層の少なくとも片面上に位置する防曇層と、を有し、下記式(1)および式(2)を満たす、防曇性セルロースエステルフィルムが提供される。
Figure 2013099879
式中、d(T)は防曇性セルロースエステルフィルムの全膜厚(μm)であり、d(C)は防曇層の厚さ(μm)である。
図1は、本発明の一実施形態である防曇性セルロースエステルフィルムの基本構成を示す模式断面図である。図1に示すように、防曇性セルロースエステルフィルム(以下、単に「フィルム」とも称する)1は、セルロースエステルを含むエステル層11の両表面に防曇層12を有する。
本実施形態において、防曇層12は、セルロースエステルフィルムの製膜後に、セルロースエステル膜の表面を親水化処理することにより形成される。すなわち、セルロースエステル膜の表層の親水化処理された領域が防曇層12となり、親水化処理されていない内部領域がエステル層11となる。したがって、本実施形態の防曇層12およびエステル層11は一体的な膜として形成されている。このような一体膜構造は、加工時や経時の防曇層およびエステル層の層間剥離を防止でき、フィルムの白化や失透を防止できるため好ましい。
図1に示すフィルム1では、エステル層11の両表面に防曇層12が設けられているが、防曇層12は、エステル層11の少なくとも片面に設けられていればよく、エステル層11の片面のみに設けられていてもよい。また、防曇層12は、図1に示すようにエステル層11の表面全体に設けられることが好ましいが、エステル層11の表面(少なくとも片面)の一部のみに設けられていてももちろんよい。
本発明では、防曇層12の厚さd(C)と防曇性セルロースエステルフィルム1の厚さd(T)とが特定の関係にあることを特徴とする。
従来から使用される、セルロースエステルを用いた防曇性フィルムは、吸湿に伴うフィルムの寸法変化が大きく、基材に貼合した後に、経時的にフィルムが変形し、しわ、剥がれが発生するという問題がある。
寸法変化に伴うフィルムへの応力を低減し、フィルムのしわ、剥がれを抑制する目的で防曇性フィルムを薄膜化すると、フィルムの防曇特性の低下や貼合時の作業性の低下を招く。このため、防曇特性、経時的に発生するしわおよび剥がれの抑制、ならびに貼合時の作業性の全ての要件を満足する防曇性フィルムを得ることは困難であった。
これに対して、本発明者らは、防曇層12の厚さd(C)とセルロースエステルフィルム1の厚さd(T)とが特定の関係にある場合には、防曇特性、経時的に発生するしわおよび剥がれの抑制、ならびに貼合時の作業性の要件を満足する防曇性フィルムを得ることができることを見出した。
具体的には、防曇性セルロースエステルフィルム1は下記式(1)および式(2)を満たす。
Figure 2013099879
式中、d(T)は防曇性セルロースエステルフィルムの全膜厚(μm)であり、d(C)は防曇層の厚さ(μm)である。
本発明において、セルロースエステルフィルムの全膜厚d(T)および防曇層の厚さd(C)は下記方法により測定される。防曇層12は親水性の高い層であるが、エステル層11は主にセルロースエステルから構成される親水性の低い層である。したがって、両層はクロロホルムなどの有機溶媒に対する溶解度が異なり、この溶解度の差異を利用することでエステル層11および防曇層12の厚みを測定することが可能となる。
(d(T)およびd(C)の測定方法)
まず、膜厚計を用いて、セルロースエステルフィルムの膜厚d(T)を測定する。なお、セルロースエステルフィルムの断面が不定形状である場合には、5cm四方(25cm)あたり5箇所以上の点で膜厚を測定し、その平均値を膜厚d(T)とするものとする。
次いで、セルロースエステルフィルムを過剰量のトリクロロメタン(クロロホルム)溶媒に24時間浸漬する。溶け残ったフィルムを乾燥させ、膜厚計を用いて膜厚を測定し、これを防曇層の厚さd(C)とする。なお、防曇層の断面が不定形状である場合には、5cm四方(25cm)あたり5箇所以上の点で膜厚を測定し、その平均値を膜厚d(C)とするものとする。
アシル基置換度の高いセルロースエステル成分はトリクロロメタン溶媒に溶解するが、アシル基置換度の低いセルロースエステルあるいはセルロース成分はトリクロロメタン溶媒に溶解することなく残存する。このため、トリクロロメタン溶媒の浸漬後には、防曇層に相当するフィルム部分が残存し、この膜厚を測定することにより、防曇層の厚さを測定することが可能となる。
なお、図1に示す形態のように、防曇層12がセルロースエステルフィルム1の両面に設けられている場合、上記トリクロロメタン溶媒への浸漬操作によって、2つの防曇層12に対応する2つのフィルムが溶媒中に残存することとなる。
本発明では、図1のように防曇層12がセルロースエステルフィルム1の両面に設けられている場合には、2つの防曇層12の両方がそれぞれ上記式(1)を満たすことが好ましいが、2つの防曇層12の少なくとも一方が上記式(1)の関係を満たしていればよく、2つの防曇層12の一方のみが上記式(1)を満たす形態であってもよい。
d(C)/d(T)が0.030未満である場合には、吸湿特性が不足し、十分な防曇性能が発揮できないおそれがある。したがって、d(C)/d(T)は0.030以上であり、好ましくは0.050以上であり、より好ましくは0.100以上である。
一方、d(C)/d(T)が0.250を超える場合には、経時的にしわ・剥がれが発生するおそれがある。したがって、d(C)/d(T)は0.250以下であり、好ましくは0.230以下であり、より好ましくは0.200以下である。
d(T)が10μm未満である場合には、フィルムの腰がないために防曇性フィルムを基材に貼り合せる際の作業性が著しく悪化する。したがって、d(T)は10μm以上であり、好ましくは15μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。
d(T)が90μmを超える場合には、吸湿時の寸法変化が大きいために、フィルムのしわ、剥がれが発生するおそれがある。したがって、d(T)は90μm以下であり、好ましくは85μm以下であり、より好ましくは80μm以下である。
セルロースエステルフィルムの全膜厚d(T)は、製膜時の支持体への流涎条件やセルロースエステルドープの固形分比率によって制御されうる。
防曇層の膜厚d(C)は親水化処理の条件によって制御されうる。
以下、本実施形態のフィルム1の構成について説明する。
(1)エステル層
エステル層11は、セルロースエステル、および必要に応じて、後述する可塑剤、紫外線吸収剤、微粒子、染料、糖エステル化合物、アクリル系共重合体などの添加剤を含んで構成される。
本明細書において、セルロースエステルとは、セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位中の2位、3位および6位の水酸基(−OH)の水素原子の一部または全部がアシル基で置換されたセルロースアシレート樹脂をいう。
フィルム1に用いられうるセルロースエステルとしては、特に制限されない。例えば、セルロースの水酸基部分の水素原子が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ラウロイル基、ステアロイル等の炭素数2〜20の脂肪族アシル基で置換されたセルロースエステル樹脂が挙げられる。これらのうち、炭素数2〜4のアシル基を有するものが好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基がより好ましい。なお、セルロースエステル中のアシル基は単一種であってもよいし、複数のアシル基の組み合わせであってもよい。
具体的な好ましいセルロースエステルとしては、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースアシレート樹脂が挙げられ、より好ましくは、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースエステルプロピオネート等のセルロースアシレート樹脂を含む。これらのセルロースエステルは単一種を使用してもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
セルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹由来、広葉樹由来)、ケナフ等を挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。
本発明に係るセルロースエステルは、公知の方法により製造することができる。一般的には、原料のセルロースと所定の有機酸(酢酸、プロピオン酸など)と酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸など)、触媒(硫酸など)と混合して、セルロースをエステル化し、セルロースのトリエステルができるまで反応を進める。トリエステルにおいてはグルコース単位の三個のヒドロキシ基(水酸基)は、有機酸のアシル基で置換されている。同時に二種類の有機酸を使用すると、混合エステル型のセルロースエステル、例えばセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートを作製することができる。次いで、セルロースのトリエステルを加水分解することで、所望のアシル置換度を有するセルロースエステル樹脂を合成する。その後、濾過、沈殿、水洗、脱水、乾燥などの工程を経て、セルロースエステル樹脂ができあがる。
具体的には、特開平10−45804号、特開2005−281645、特開2003−270442号などに記載の方法を参考にして合成することができる。
市販品としては、ダイセル社L20、L30、L40、L50、イーストマンケミカル社のCa398−3、Ca398−6、Ca398−10、Ca398−30、Ca394−60S等が挙げられる。
エステル層11におけるセルロースエステルのアシル基の置換度は防曇性及び工程での生産安定性の観点から2.0以上であることが好ましい。一方、アシル基の置換度はフィルムの経時耐久性の点から3.0以下が好ましい。
「アシル基の置換度」とは、1グルコース単位あたりのアシル基の平均数を示し、1グルコース単位の2位、3位および6位の水酸基の水素原子のいずれかがアシル基に置換されている割合を示す。すなわち、2位、3位および6位の水酸基の水素原子がすべてアシル基で置換されたとき置換度(最大の置換度)は3.0となる。アシル基の置換度の測定方法は、ASTMのD−817−91に準じて実施することができる。
セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は、フィルムの耐熱性や強度(引っ張りや引裂きに対する耐性)を向上させ、またセルロースエステルをアルカリケン化処理する場合のアルカリ液への溶解性を低下させる点から、75,000以上であることが好ましく、より好ましくは80,000以上であり、さらに好ましくは85,000以上である。一方、分子量が小さいほど、経時でのフィルムの変形力を樹脂分子間で吸収し、しわ、剥がれを抑制しうる。かかる観点から、重量平均分子量(Mw)は300,000以下であることが好ましく、より好ましくは200,000以下であり、さらに好ましくは150,000以下である。
セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnの値は、2.0〜3.5であることが好ましい。
セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記条件下で測定することができる。
測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
(2)防曇層
防曇層12は高湿度環境や温度差の大きな環境において発生する水分を吸収して、または付着した水滴を膜状に広げて、曇りを防止する機能を有する。
本実施形態の防曇層12は、セルロースエステルフィルムの表面を親水化処理することにより形成され、エステル層11と一体的な膜として構成されている。したがって、防曇層12は、セルロースエステル中のアシルオキシ基(−O−アシル基)の一部が水酸基、カルボニル基、カルボン酸基などの酸素含有極性基で置換された親水性のセルロース誘導体および/またはセルロースエステル中のアシルオキシ基の全部が水酸基で置換されたセルロース、ならびに必要に応じて、後述する可塑剤、紫外線吸収剤、微粒子、染料、糖エステル化合物、アクリル系共重合体などの添加剤を含んで構成される。
「親水化処理」とは、セルロースエステル中のアシルオキシ基を水酸基、カルボニル基、カルボン酸基などの酸素含有極性基へと置換する処理をいう。親水化処理により、防曇層には多数の親水性基が導入され、親水性および吸水性に優れた層となり、防曇性能が発現する。
上記の親水化処理により、セルロースエステル膜の表層の親水化処理された領域が防曇層12となる。一方、セルロースエステル膜の親水化処理されていない内部領域がエステル層11となる。通常、防曇層12とエステル層11との界面は明確ではなく、セルロースエステルにおけるアシルオキシ基の置換度がフィルム表層からフィルム内層へと向かって次第に大きくなる構成を有する。すなわち、親水性がフィルム表層からフィルム内層へと向かって次第に低下する。本発明において、エステル層11と防曇層12との境界は、上記のようにトリクロロメタン溶媒への溶解性(24時間浸漬したのちの溶解性)によって決定される。
防曇層12におけるセルロースエステルのアシル基の平均置換度は十分な防曇性能を発現させる観点および工程での生産安定性の観点から、0.0〜1.9が好ましく、0.1〜1.5がより好ましい。
親水化処理の方法は特に制限されず、プラズマ処理やコロナ処理等によってセルロースエステルの表面を物理的に改質する方法やアルカリケン化処理等で化学的に表面を改質する方法が挙げられる。これらのうち、フィルムの内部(深さ方向)への親水化に優れ、十分な吸水性能を発揮しうる厚さの防曇層を簡便に得ることができる観点から、アルカリケン化処理が好ましい。すなわち、本発明の好ましい一実施形態において、防曇層は、セルロースエステルフィルムの製膜後に、製膜されたフィルムの表面をアルカリケン化処理することにより形成される。
コロナ放電処理とは、大気圧下、電極間に1kV以上の高電圧を印加し、放電することで行う処理のことである。 コロナ処理によって、セルロースエステル樹脂表面に酸素含有極性基(水酸基、カルボニル基、カルボン酸基等)が発生し、表面が親水化される。
コロナ処理は、春日電機(株)や(株)トーヨー電機などで市販されている装置を用いて行うことができる。コロナ放電処理の強度は、電極間距離、単位面積当たりの出力、ジェネレーターの周波数に依存する。コロナ放電処理装置の一方の電極(A電極)は、市販のものを用いることができるが、材質はアルミニウム、ステンレスなどから選択が出来る。もう一方はプラスチックフィルムを抱かせるための電極(B電極)であり、コロナ放電処理が、安定かつ均一に実施されるように、前記A電極に対して一定の距離に設置されるロール電極である。これも通常市販されているものを用いることが出来、材質は、アルミニウム、ステンレス、及びそれらの金属で出来たロールに、セラミック、シリコン、EPTゴム、ハイパロンゴムなどがライニングされているロールが好ましく用いられる。
本発明のコロナ放電処理に用いる周波数は、20kHz以上100kHz以下の周波数であり、30kHz〜60kHzの周波数が好ましい。周波数が低下するとコロナ放電処理の均一性が劣化し、コロナ放電処理のムラが発生する。また、周波数が大きくなると、高出力のコロナ放電処理を行う場合には、特に問題ないが、低出力のコロナ放電処理を実施する場合には、安定した処理を行うことが難しくなり、結果として、処理ムラが発生する。
本発明のコロナ放電処理の出力は、1〜5W・分/mであるが、2〜4W・分/mの出力が好ましい。また、好ましいコロナ処理時間は5秒〜300秒である。
上記処理密度および処理時間を調節することにより、防曇層の厚みd(C)を制御することができる。具体的には、処理密度を大きく、処理時間を長くするほど、防曇層の厚みd(C)が大きくなる。
プラズマ処理は、プラズマ化したガスを基材表面に照射し、基材表面を改質する処理であり、グロー放電処理、フレームプラズマ処理等が挙げられる。これらは、例えば、特開平6−123062号、特開平11−293011号、特開平11−005857号等に記載された方法を用いることができる。プラズマ処理によって、セルロースエステル樹脂表面に酸素含有極性基(水産基、カルボニル基、カルボン酸基等)が発生し、表面が親水化される。
例えば、グロー放電処理は、相対する電極の間に延伸フィルムを置き、装置中にプラズマ励起性気体を導入し、電極間に高周波電圧を印加することにより、該気体をプラズマ励起させ、電極間においてグロー放電を行うものである。これにより、セルロースエステルの表面が処理されて、親水性が高められる。
プラズマ励起性気体としては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物や、アルゴン、ネオン等の不活性ガスに、カルボキシル基や水酸基、カルボニル基等の極性官能基を付与し得る反応性ガスを加えたものなどが使用される。
高周波電圧の周波数は、1kHz〜100kHzの範囲が好ましく、電圧の大きさは、電極に印加した時の電界強度が1〜100kV/cmとなる範囲になるようにすることが好ましい。処理時間は5秒〜300秒が好ましい。
上記高周波電圧の大きさおよび処理時間を調節することにより、防曇層の厚みd(C)を制御することができる。具体的には、高周波電圧を大きく、処理時間を長くするほど、防曇層の厚みd(C)が大きくなる。
アルカリケン化処理は、セルロースエステル樹脂表面のアシルオキシ基の一部または全部をアルカリで加水分解して水酸基に置換する処理をいう。アルカリケン化処理によって、セルロースエステル樹脂表面に水酸基が形成され、表面が親水化される。
アルカリケン化処理の方法は特に制限されず、従来公知の方法により行うことができる。具体的には、アルカリ水溶液に基材を浸漬する方法(浸漬法)、アルカリ水溶液を基材に塗布する方法(塗布法)、基材にアルカリ水溶液を吹き付ける方法があるが、生産性の観点から、浸漬法が好ましい。
アルカリ水溶液としては、アルカリ剤を水に溶解させたものが用いられる。アルカリ剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物のような無機アルカリ剤;モノメチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルブチルアンモニウムヒドロキシド等の有機アルカリ剤が好適に挙げられる。中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。これらのアルカリ剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
アルカリ水溶液には、フィルム表面に対するアルカリ水溶液の濡れ性を向上させたり、塗膜の安定性を向上させる等の目的で、親水性溶媒を含有させてもよい。親水性溶媒としては、一価脂肪族アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等)、脂環式アルカノール類(例えば、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、メトキシシクロヘキサノール、シクロヘキシルメタノール、シクロヘキシルエタノール、シクロヘキシルプロパノール等)、フェニルアルカノール類(例えば、べンジルアルコール、フェニルエタノール、フェニルプロパノール、フェノキシエタノール、メトキシベンジルアルコール、ベンジルオキシエタノール等)、複素環式アルカノール類(例えば、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等)、グリコール化合物のモノエーテル類(例えば、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、プロピルセルソルブ、メトキシメトキシエタノール、ブチルセルソルブ、ヘキシルセルソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトール、メトキシトリグリコール、エトキシトリグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、アミド類(例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)、および、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、ピラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメチルセルソルブ、ジエチルセルソルブ、ジプロピルセルソルブ、メチルエチルセルソルブ、ジメチルカルビトール、ジメチルカルビトール、メチルエチルカルビトール等)が挙げられる。親水性溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
アルカリ水溶液中のアルカリ剤の濃度は、ケン化反応を十分に進行させる観点で、5〜30質量%が好ましく、8〜20質量%がより好ましい。アルカリ水溶液の液温は40〜90℃が好ましく、60〜80℃がより好ましい。
浸漬法を用いる場合、その浸漬時間はアルカリ水溶液の濃度や液温によっても異なるが、通常、2〜100分間であり、好ましくは15〜80分である。
防曇層の厚さd(C)はアルカリケン化処理の強度、すなわち、アルカリ水溶液中のアルカリ剤の濃度、ケン化処理の温度(アルカリ水溶液の液温)、処理時間(浸漬時間)を調節することにより制御することができる。具体的には、アルカリ剤の濃度が大きく、ケン化処理の温度が高く、処理時間を長くするほど、防曇層の厚みd(C)が大きくなる。
アルカリ水溶液に浸漬した後は、フィルム中にアルカリ成分が残留しないように、水で十分に水洗したり、希薄な酸に浸漬してアルカリ成分を中和することが好ましい。
なお、上記浸漬法を用いた場合には、セルロースエステル膜の両表面に防曇層が形成される。片面のみに防曇層を有する形態とする場合には、セルロースエステルの製膜後、防曇層を形成しない表面に、アクリル等の粘着剤を介して、アルカリに溶解しない材料を貼着し、上記アルカリケン化処理を行った後に、粘着剤およびアルカリに溶解しない材料を除去すればよい。アルカリに溶解しない材料としては、例えば、PETフィルムやPO系フィルム(PE/PPフィルム)、EVA樹脂(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)等が挙げられる。あるいは、コロナ処理やプラズマ処理を用いて一方の表面のみに選択的に防曇層を形成することもできる。
(他の防曇層形成方法)
防曇層12は、上記のようにセルロースエステル膜を親水化処理する方法の他、防曇剤を塗布する方法によっても形成することができる。
防曇剤としては、防曇剤として従来から使用されている、水溶性高分子、界面活性剤、無機コロイドからなる群から選択される少なくとも1つを使用できる。
水溶性高分子としては、上述したセルロースおよび酸素含有極性基を有するセルロース誘導体に加えて、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコール、ポリアルキレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、デンプン、変性デンプン、グアガムやカラギーナンなどの増粘多糖類、アルギン酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレン、ポリビニルメチルエーテル、ポリオキサゾリン、ポリ(メタ)アクリル酸およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびその塩、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびその塩、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体およびその塩、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体およびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、ポリマレイン酸およびその塩、ポリアクリルアミド等のアミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、デキストリン、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、コラーゲン、親水性基またはユニット(水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、またはこれらの塩、アミド基、塩基性窒素原子含有基、ビニルエーテルユニット、オキシエチレンユニット)を有する熱可塑性樹脂等を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂が挙げられる。これらの水溶性高分子はそれぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
なお、本発明において「水溶性」とは水中において1質量%以上(25℃)の溶解度をもつものをいう。
界面活性剤としては、防曇剤として従来公知のものを使用でき、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等の非イオン性界面活性剤、脂肪酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホカルボン酸塩、アルキル燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等のカチオン性界面活性剤、アルキルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルスルホベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。
中でも良好な防曇性を発現する点から、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、及び脂肪酸塩が好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、そのラウリン酸エステルが更に好ましく、特にジグリセリンラウリン酸エステルが好ましい。蔗糖脂肪酸エステルとしては、そのラウリン酸エステルが更に好ましい。脂肪酸塩としては、混合脂肪酸塩が更に好ましく、特に炭素数が12〜18の脂肪酸を主成分とした混合脂肪酸のナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。これらはそれぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
無機コロイドとしては、例えば、シリカ、アルミナ、サポナイトやヘクトライト等のスメクタイト、水不溶性リチウムシリケート、ケイ酸アルカリ金属塩、酸化スズ、酸化チタンなどの無機水性コロイド粒子を水または水性媒体中に分散させた水性ゾルが挙げられる。中でも、コロイド状シリカが好ましい。数平均粒子径としては、0.001〜10μmが好ましく、透明性を考慮した場合は、0.005〜1μmがより好ましく、0.01〜0.5μmが特に好ましい。これらはそれぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
上記防曇剤はそれぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。組み合わせて用いる場合、その好ましい組み合わせとしては、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩を併用する形態が挙げられる。かかる形態において、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩はポリグリセリン脂肪酸エステル100質量部に対して、5〜30質量部の量で混合することが好ましい。
上記防曇剤は、通常、塗布液や含浸液の形態で使用でき、防曇剤を溶媒に溶解または分散させた防曇剤溶液として利用される。防曇剤溶液は有機溶媒を溶媒とする非水性溶液であってもよいが、水を溶媒とする水性溶液であることが好ましい。水性溶液とする場合、溶媒は水単独であってもよいし、水と親水性溶媒との混合溶媒であってもよい。親水性溶媒としては、アルカリ水溶液において例示した親水性溶媒を同様に好ましく使用できる。
防曇剤を塗布する方法は特に制限されず、例えば、グラビアコーターなどのロールコート法、バーコード法、ディップコート法、スプレー法、はけ塗り法などの慣用手段を使用できる。なお、必要に応じて、防曇剤は複数回にわたり塗布してもよい。
防曇剤をセルロースエステルフィルムの表面に塗布した後、通常、塗布層を乾燥することにより、防曇層を形成することができる。この際、塗膜の厚みを調整することで、防曇層の厚みd(C)を制御することができる。
(3)添加剤
フィルム1は、防曇性フィルムの性能をさらに向上させる目的で、エステル層および/または防曇層に、以下(a)可塑剤、(b)紫外線吸収剤、(c)微粒子、(d)染料、(e)糖エステル化合物、(f)アクリル系共重合体等の添加剤を添加することが好ましい。中でも、(a)可塑剤、(b)紫外線吸収剤、(c)微粒子のうち少なくとも1種以上を添加することが好ましく、特に好ましくは(a)可塑剤、(b)紫外線吸収剤、(c)微粒子のすべてを添加する。
(a)可塑剤
フィルム1は、機械強度や耐水特性を向上させる目的で、可塑剤を含有することが好ましい。
(ポリエステル化合物)
可塑剤としては、ポリエステル化合物を使用することが好ましい。
ポリエステル化合物は特に限定されないが、例えば、ジカルボン酸又はこれらのエステル形成性誘導体とグリコールとの縮合反応により得ることができる末端がヒドロキシ基(水酸基)となる重合体(以下、「ポリエステルポリオール」という)、または、当該ポリエステルポリオールの末端のヒドロキシ基がモノカルボン酸で封止された重合体(以下、「末端封止ポリエステル」という)を用いることができる。ここで言うエステル形成性誘導体とは、ジカルボン酸のエステル化物、ジカルボン酸クロライド、ジカルボン酸の無水物のことである。
上記ポリエステルポリオールや末端封止ポリエステルを用いることにより、フィルムの経時での剥がれ・しわ発生が一層抑制されうる。かような効果が得られる理由は明確ではないが、上記化合物は、セルロースエステルフィルム製膜時に面方向に配向し、吸湿時の変形応力が厚み方向へ分散されるため、フィルムの経時での剥がれ、しわが抑えられたと推定している。
具体的には、ポリエステル化合物として、下記一般式(1)で表されるエステル系化合物を好ましく用いることができる。
Figure 2013099879
(式中、Bはヒドロキシ基、ベンゼンモノカルボン酸残基または脂肪族モノカルボン酸残基であり、Gは炭素数2〜18のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基であり、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜16のアリールジカルボン酸残基であり、nは1以上の整数である。)
上記一般式(1)において、Bがヒドロキシ基である化合物がポリエステルポリオールに相当し、Bがベンゼンモノカルボン酸残基または脂肪族モノカルボン酸残基である化合物が末端封止ポリエステルに相当する。
一般式(1)で表されるポリエステル化合物は、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られるものである。
一般式(1)で表されるポリエステル化合物の脂肪族モノカルボン酸成分としては、例えば、炭素数3以下の脂肪族モノカルボン酸が好ましく、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸(酪酸)が挙げられ、これらはそれぞれ一種又は二種以上の混合物として使用することができる。
一般式(1)で表されるポリエステル化合物のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、脂肪族酸等があり、これらはそれぞれ一種又は二種以上の混合物として使用することができる。特に、安息香酸、またはパラトルイル酸を含むことが好ましい。
一般式(1)で表されるポリエステル化合物の炭素数2〜18のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール(1,2−プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール(1,3−プロピレングリコール)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用される。なかでもエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、2−メチル1,3−プロパンジオールが好ましく、更に好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコールである。
特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。より好ましくは炭素数2〜6のアルキレングリコールであり、さらに好ましくは炭素数2〜4のアルキレングリコールである。
一般式(1)で表されるポリエステル化合物の炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
一般式(1)で表されるポリエステル化合物の炭素数6〜12のアリールグリコールとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、1,4-ベンゼンジメタノール等の環状グリコール類があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
一般式(1)で表されるポリエステル化合物の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ一種又は二種以上の混合物として使用される。
一般式(1)で表されるポリエステル化合物の炭素数6〜16のアリールジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸等がある。上記アリールジカルボン酸は芳香族環に置換基を有していても良い。置換基としては、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、アルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基が挙げられる。
Bがヒドロキシ基である場合、すなわち、ポリエステル化合物がポリエステルポリオールである場合には、一般式(1)において、Aは炭素数10〜16のアリールジカルボン酸残基であることが好ましい。例えばベンゼン環構造、ナフタレン環構造、アントラセン環構造等の芳香族環式構造を有するジカルボン酸を使用することができ、具体的なアリールジカルボン酸成分としては、例えばオルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸を挙げることができる。好ましくは、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸であり、更に好ましくは、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、特に好ましくは、2,6−ナフタレンジカルボン酸である。これらは単独で使用又は二種以上併用できる。
上記ポリエステルポリオールは、原料として使用するジカルボン酸の炭素数の平均が10〜16の範囲であることが重要である。かかるジカルボン酸の炭素数の平均が10以上であれば、セルロースエステルフィルムの寸法安定性に優れ、炭素数の平均が16以下であれば、セルロースエステルとの相溶性に優れ、セルロースエステルフィルムの透明性が著しく優れる。ジカルボン酸として、好ましくは炭素数の平均が10〜14であり、更に好ましくは炭素数の平均が10〜12である。
前記ポリエステルポリオールのジカルボン酸の炭素数の平均とは、単一のジカルボン酸を用いてポリエステルポリオールを重合する場合は該ジカルボン酸の炭素数を意味するが、二種以上のジカルボン酸を用いてポリエステルポリオールを重合する場合、それぞれのジカルボン酸の炭素数とそのジカルボン酸のモル分率の積の合計を意味する。
前記炭素数の平均が10〜16であれば、前記10〜16個の炭素原子を有するアリールジカルボン酸とそれ以外のジカルボン酸を併用することができる。
併用できるジカルボン酸としては、4〜9個の炭素原子を有するジカルボン酸が好ましく、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸やこれらのエステル化物、酸塩化物、酸無水物を挙げることができる。
以下に、ポリエステルポリオールの炭素数が10〜16であるジカルボン酸の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。
(1)2,6−ナフタレンジカルボン酸
(2)2,3−ナフタレンジカルボン酸
(3)2,6−アントラセンジカルボン酸
(4)2,6−ナフタレンジカルボン酸:コハク酸(75:25〜99:1 モル比)
(5)2,6−ナフタレンジカルボン酸:テレフタル酸(50:50〜99:1 モル比)
(6)2,3−ナフタレンジカルボン酸:コハク酸(75:25〜99:1 モル比)
(7)2,3−ナフタレンジカルボン酸:テレフタル酸(50:50〜99:1 モル比)
(8)2,6−アントラセンジカルボン酸:コハク酸(50:50〜99:1 モル比)(9)2,6−アントラセンジカルボン酸:テレフタル酸(25:75〜99:1 モル比)
(10)2,6−ナフタレンジカルボン酸:アジピン酸(67:33〜99:1 モル比)
(11)2,3−ナフタレンジカルボン酸:アジピン酸(67:33〜99:1 モル比)
(12)2,6−アントラセンジカルボン酸:アジピン酸(40:60〜99:1 モル比)
本発明において用いることができるポリエステル化合物としては、上記のポリエステルポリオール以外に、化合物の水溶性や配向性の観点から、オクタノール−水分配係数(logP(B))は0以上7未満の化合物を用いることも好ましい。
ポリエステルポリオールは、ジカルボン酸又はそれらのエステル形成性誘導体(一般式(1)のAに相当する成分)とグリコール(一般式(1)のGに相当する成分)を必要に応じてエステル化触媒の存在下で、例えば180〜250℃の温度範囲内で、10〜25時間、周知慣用の方法でエステル化反応させることによって製造することができる。
エステル化反応を行う際に、トルエン、キシレン等の溶媒を用いても良いが、無溶媒若しくは原料として使用するグリコールを溶媒として用いる方法が好ましい。
前記エステル化触媒としては、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、p−トルエンスルホン酸、ジブチル錫オキサイド等を使用することができる。前記エステル化触媒は、ジカルボン酸又はそれらのエステル形成性誘導体の全量100質量部に対して0.01〜0.5質量部使用することが好ましい。
ジカルボン酸又はそれらのエステル形成性誘導体とグリコールを反応させる際のモル比は、ポリエステルの末端基がヒドロキシ基(水酸基)となるモル比でなければならず、そのためジカルボン酸又はそれらのエステル形成性誘導体1モルに対してグリコールは1.1〜10モルである。好ましくは、ジカルボン酸又はそれらのエステル形成性誘導体1モルに対して、グリコールが1.5〜7モルであり、更に好ましくは、ジカルボン酸又はそれらのエステル形成性誘導体1モルに対して、グリコールが2〜5モルである。
上記ポリエステルポリオールの末端基はヒドロキシ基(水酸基)であるが、ポリエステルポリオール中には、副生成物としてカルボキシ基末端の化合物も含まれうる。ただし、ポリエステルポリオール中におけるカルボキシ基末端は、湿度安定性を低下させるため、その含有量は低い方が好ましい。具体的には、酸価5.0mgKOH/g以下が好ましく、更に好ましくは1.0mgKOH/g以下であり、特に好ましくは0.5mgKOH/g以下である。
ここでいう「酸価」とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシ基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070:1992に準拠して測定したものである。
前記ポリエステルポリオールは、ヒドロキシ(水酸基)価(OHV)が35mg/g〜220mg/gの範囲であることが好ましい。ここで言うヒドロキシ(水酸基)価とは、試料1g中に含まれるOH基をアセチル化したときに、ヒドロキシ基(水酸基)と結合した酢酸を中和するために要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。無水酢酸を用いて試料中のOH基をアセチル化し、使われなかった酢酸を水酸化カリウム溶液で滴定し、初期の無水酢酸の滴定値との差より求める。
前記ポリエステルポリオールのヒドロキシ基(水酸基)含有量は、70%以上であることが好ましい。ヒドロキシ基(水酸基)含有量が少ない場合、ポリエステルポリオールとセルロースエステルとの相溶性が低下する。このため、ヒドロキシ基(水酸基)含有量は、70%以上が好ましく、更に好ましくは90%以上であり、最も好ましくは99%以上である。
本発明において、ヒドロキシ基(水酸基)含有量が50%以下の化合物は、末端基の一方がヒドロキシ基(水酸基)以外の基で置換されているためポリエステルポリオールには含まれない。
前記ヒドロキシ基(水酸基)含有量は、下記の式(A)により求めることができる。
Figure 2013099879
前記ポリエステルポリオールは、300〜3000の範囲内の数平均分子量を有することが好ましく、350〜2000の数平均分子量を有することがより好ましい。
また、本発明に係るポリエステルポリオールの分子量の分散度は1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.0であることが更に好ましい。分散度が上記範囲以内であれば、セルロースエステルとの相溶性に優れたポリエステルポリオールを得ることができる。
また、前記ポリエステルポリオールは、分子量が300〜1800の成分を50%以上含有することが好ましい。数平均分子量を前記範囲とすることにより、相溶性を大幅に向上させることができる。
数平均分子量、分散度及び成分含有率を上記の好ましい範囲に制御する方法として、ジカルボン酸又はそれらのエステル形成性誘導体1モルに対してグリコールを2〜5モル使用し、未反応のグリコールを減圧留去する方法が好ましい。減圧留去する温度は、100〜200℃が好ましく、更に好ましくは120〜180℃であり、特に好ましくは130〜170℃が好ましい。減圧留去する際の減圧度は、0.1〜500Torrが好ましく、更に好ましくは0.5〜200Torrであり、最も好ましくは1〜100Torrである。
ポリエステル化合物(ポリエステルポリオール、末端封止ポリエステル)の数平均分子量(Mn)及び分散度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
測定条件の一例は以下の通りであるが、これに限られることはなく、同等の測定方法を用いることも可能である。
溶媒: テトラヒドロフラン(THF)
カラム: TSKgel G2000HXL(東ソー(株)製を2本接続して使用する)
カラム温度:40℃
試料濃度: 0.1質量%
装置: HLC−8220(東ソー(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: PStQuick F(東ソー(株)製)による校正曲線を使用する。
Bがベンゼンモノカルボン酸残基または脂肪族モノカルボン酸残基である場合、すなわち、ポリエステル化合物が末端封止ポリエステルである場合には、一般式(1)において、好ましいAとしては、アジピン酸残基、フタル酸残基等が挙げられる。
また、一般式(1)におけるAは、炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基と炭素数6〜16のアリールジカルボン酸残基との両方を含むことが好ましく、より好ましくは、アジピン酸残基とフタル酸残基との両方を含む。
末端封止ポリエステルは、2つの末端基Bのうちの少なくとも一方がモノカルボン酸残基であればよい。すなわち、2つの末端基Bのうちの一方がヒドロキシ基であり、他方がモノカルボン酸残基であってもよい。ただし、2つの末端基Bの両方がモノカルボン酸残基であることが好ましい。
末端基Bとしては、上述したベンゼンモノカルボン酸残基、脂肪族モノカルボン酸残基を使用することができるが、好ましくはベンゼンモノカルボン酸残基である。すなわち、芳香族末端ポリエステルであることが好ましい。
上記末端封止ポリエステルは、グリコール(一般式(1)のGに相当する成分)と、ジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体(一般式(1)のAに相当する成分)およびモノカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体(一般式(1)のBに相当する成分)とエステル化反応させることにより得ることができ、例えば、特開2011−52205号公報、特開2008−69225号公報、特開2008−88292号公報、特開2008−115221号公報等を参考にして合成することができる。
本発明のエステル化合物は、その合成時点では分子量および分子構造に分布を有する混合物であるが、そのなかに本発明に好ましい成分、例えば、一般式(1)のAとしてフタル酸残基およびアジピン酸残基を有するポリエステル化合物を少なくとも1種類有していればよい。
末端封止ポリエステルは、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、ヒドロキシ(水酸基)価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、ヒドロキシ(水酸基)価は15mgKOH/g以下のものである。
以下に、本発明に用いることのできる一般式(1)で表されるエステル系化合物の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。また、下記実施例において、ポリエステル化合物を下記記号にて規定する。
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
フィルム1は、ポリエステル化合物を、フィルム全体(100質量%)に対して、0.1〜30質量%含むことが好ましく、特には、0.5〜10質量%含むことが好ましい。
(その他の可塑剤)
フィルム1は、上記ポリエステル化合物に代えてまたは加えて、他の可塑剤を含有することができる。好ましくは、(a−1)多価アルコールエステル系可塑剤、(a−2)多価カルボン酸エステル系可塑剤、(a−3)グリコレート系可塑剤、(a−4)フタル酸エステル系可塑剤、(a−5)脂肪酸エステル系可塑剤、(a−6)リン酸エステル系可塑剤等から選択される。
(a−1)多価アルコールエステル系可塑剤は下記一般式(3)で表される多価アルコールのエステル化合物である。
Figure 2013099879
(式中、Rはn価の有機基、nは2以上の正の整数を表す)
好ましい多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸などを用いることができる。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上持つ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に、安息香酸が好ましい。
多価アルコールエステルの分子量300〜1500の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
この他、トリメチロールプロパントリアセテート、ペンタエリスリトールテトラアセテートなども好ましく用いられる。特開2008−88292号に記載の一般式(I)で表されるエステル化合物(A)を使用することも好ましい。
(a−2)多価カルボン酸エステル化合物としては、2価以上、好ましくは2価〜20価の多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は2価〜20価であることが好ましい。
多価カルボン酸は次の一般式(4)で表される。
Figure 2013099879
(式中、Rは(m+n)価の有機基であり、mは2以上の正の整数であり、nは0以上の整数であり、COOH基はカルボキシル基であり、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基である。)
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができる。フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような2価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマール酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることができる。
多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては公知のアルコール、フェノール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールを好ましく用いることができる。
炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いることができ、フェノールとしては、フェノール、パラクレゾール、ジメチルフェノール等を単独または2種以上を併用して使用することができる。
特開2008−88292号に記載の一般式(II)で表されるエステル化合物(B)を使用することも好ましい。
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることがさらに好ましい。
多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
多価カルボン酸エステル化合物の酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。
酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070:1992に準拠して測定したものである。
(a−3)グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート等が挙げられる。
(a−4)フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
(a−5)脂肪酸エステル系可塑剤として、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
(a−6)リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
これらの可塑剤は、セルロースエステル100質量部に対して1〜30質量部の範囲で使用されることが好ましい。
(b)紫外線吸収剤
フィルム1は、紫外線吸収剤を含有することが好ましい。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、よりさらに好ましくは5%以下である。
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、市販品として、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328、チヌビン928等のチヌビン類があり、これらはいずれもチバ・ジャパン社製の市販品であり好ましく使用できる。
中でも好ましくは、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。
無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
上記紫外線吸収剤は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、セルロースエステルフィルム全体(100質量%)に対して0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜4質量%がさらに好ましい。
(c)微粒子
フィルム1は、微粒子を含有することが滑り性、保管安定性の観点で好ましい。
微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等を挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
二酸化珪素については疎水化処理をされたものが滑り性とヘイズを両立する上で好ましい。4個のシラノール基のうち、2個以上が疎水性の置換基で置換わったものが好ましく、3個以上が置換わったものがより好ましい。疎水性の置換基はメチル基である事が好ましい。
二酸化珪素の一次粒径は20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。なお、微粒子の1次平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(倍率50万〜200万倍)で粒子の観察を行い、粒子100個を観察し、粒子径を測定しその平均値をもって、1次平均粒子径とした。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
ポリマー微粒子の例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972V、アエロジルR812がフィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく、アエロジルR812が最も好ましく用いられる。本発明の防曇性セルロースエステルフィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
微粒子の添加量はセルロースエステル100質量部に対して、微粒子は0.01質量部〜5.0質量部が好ましい。添加量は多い方が、動摩擦係数に優れ、添加量が少ない方が、凝集物が少なくなる。
(d)染料
フィルム1には、本発明の効果を損なわない範囲内で、色味調整のため染料を添加することもできる。例えば、フィルムの黄色味を抑えるために青色染料を添加してもよい。好ましい染料としてはアンスラキノン系染料が挙げられる。
(e)糖エステル化合物
フィルム1は、加水分解防止を目的として、下記糖エステル化合物を含有してもよい。
糖エステル化合物としては、例えば、ピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも一種を1個以上12個以下有しその構造のOH基の一部がエステル化されたエステル化合物の混合物を好ましく用いることができる。
ピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも一種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物のエステル化の割合としては、ピラノース構造又はフラノース構造内に存在するOH基の70%以上であることが好ましい。
本発明においては、上記エステル化合物を総称して、糖エステル化合物とも称す。
本発明に用いられるエステル化合物の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースあるいはケストース挙げられる。この他、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
これらの化合物の中で、特にピラノース構造とフラノース構造を両方有する化合物が好ましい。例としてはスクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。
ピラノース構造又はフラノース構造中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化するのに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができ、より、具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸、ナフチル酸が好ましい。
オリゴ糖のエステル化合物を、上記「ピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも一種を1〜12個を有する化合物」として適用できる。
オリゴ糖は、澱粉、ショ糖等にアミラーゼ等の酵素を作用させて製造されるもので、本発明に適用できるオリゴ糖としては、例えば、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖が挙げられる。
また、前記エステル化合物は、下記一般式(A)で表されるピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも一種を1個以上12個以下縮合した化合物である。ただし、R11〜R15、R21〜R25は、炭素数2〜22のアシル基又は水素原子を、m、nはそれぞれ0〜12の整数、m+nは1〜12の整数を表す。
Figure 2013099879
11〜R15、R21〜R25は、ベンゾイル基、水素原子であることが好ましい。ベンゾイル基は更に置換基R26を有していてもよく、例えばアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、フェニル基が挙げられ、更にこれらのアルキル基、アルケニル基、フェニル基は置換基を有していてもよい。オリゴ糖もエステル化合物と同様な方法で製造することができる。
以下に、本発明に係るエステル化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
フィルム1は、糖エステル化合物をフィルム全体(100質量%)の0.5〜30質量%含むことが好ましく、特には、2〜15質量%含むことが好ましい。
(f)アクリル系共重合体
フィルム1は、経時耐候性の観点から、重量平均分子量が500以上30000以下であるアクリルポリマーを含有することができる。中でも分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有さず親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーX、より好ましくは、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有さず親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーXと、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下のポリマーYとを含有することが好ましい。
アクリル系共重合体は、セルロースエステル100質量部に対して1〜30質量部の範囲で添加することができる。
(4)防曇性セルロースエステルフィルムの製造方法
本発明の防曇性セルロースエステルフィルム1の製造方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用して作製することができる。
例えば、フィルム1は(a)セルロースエステルを溶液流涎法または溶融流延法により製膜する工程(製膜工程)と、(b)防曇層を形成する工程(防曇層形成工程)と、により製造されうる。
(a)製膜工程
まず、セルロースエステルを溶液流涎法または溶融流延法により製膜する。以下、溶液流涎法を用いた場合を例に挙げて製膜方法を説明するが、溶融流涎法も従来公知の方法を参照して実施することができる。
溶液流涎法により製膜する場合、上記製膜工程は、セルロースエステルおよび上述した添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程(ドープ調製工程)、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程(ドープ流延工程)、流延したドープをウェブとして乾燥する工程(乾燥工程1)、金属支持体から剥離する工程(剥離工程)、延伸する工程(延伸工程)、さらに乾燥する工程(乾燥工程2)、仕上がったフィルムを巻取る工程(フィルム巻き取り工程)を含むことが好ましい。
(i)ドープ調製工程
まず、セルロースエステルおよび上述した添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、大きい方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースエステルの濃度が大きすぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、さらに好ましくは、15〜25質量%である。
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。セルロースエステルを単独で溶解する溶剤(良溶剤)に、単独ではセルロースエステルを膨潤するかまたは溶解しない溶剤(貧溶剤)を混合して使用することが生産効率の点で好ましい。良溶剤としては好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられ、貧溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。
また、ドープ中に水を0.01〜2質量%含有させる形態も好ましい。
セルロースエステルの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられうる。なお、回収溶剤中に、添加剤(例えば可塑剤、紫外線吸収剤等)が微量含有される場合もあるが、これらが含まれていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することもできる。
上記記載のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。
溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。
続いて、上記で得たドープを濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過することが好ましい。これにより、ドープ内の不純物を除去、低減することができる。
濾過材としては、絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材がさらに好ましい。
濾材さらには特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、且つ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることがさらに好ましい。
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることがさらに好ましい。
(ii)ドープ流延工程
続いて、ドープを金属支持体上に流延(キャスト)する。
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mとすることができる。
(iii)乾燥工程1
続いて、流延したドープをウェブとして乾燥させる。
流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、好ましい支持
体温度は0〜40℃であり、5〜30℃がさらに好ましい。温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、高すぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化したりする場合がある。
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
(iv)剥離工程
次いで、ウェブを金属支持体から剥離する。
製膜後のフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、さらに好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
Figure 2013099879
式中、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量であり、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
(v)延伸工程
続いて、金属支持体より剥離した直後のウェブを少なくとも一方向に延伸処理することが好ましい。延伸処理することでフィルム内の分子の配向を制御することができる。延伸フィルムは、二軸延伸フィルムであってもよいが、一軸延伸フィルムであることが好ましい。ただし、延伸工程は必須ではなく、セルロースエステルフィルムは未延伸フィルムであってもよい。
好ましくは、幅手方向(TD方向)に1.05〜1.50倍の延伸条件、特に、1.08〜1.40倍 とすることが望ましい。かような延伸処理によって樹脂分子が配向することにより、配向方向への経時での伸縮を抑制するとともに、フィルムに腰が発生する。したがって、薄膜フィルムにおいても、高い防曇特性を維持したまま、経時的なしわの発生を抑制しつつ、優れた作業性を付与することが可能となる。
これに加えてまたはこれに代えて、長手方向(MD方向)に1.01〜1.20倍の延伸倍率で延伸させてもよい。幅手方向(TD方向)および長手方向(MD方向)の延伸は、逐次または同時に行うことができる。MD方向およびTD方向の延伸を逐次行う場合には、MD方向の前にTD方向の延伸を行ってもよいし、TD方向の延伸の前にMD方向の延伸を行ってもよい。
延伸時のフィルム中の残留溶媒量は3〜50%%が好ましく、さらに好ましくは5〜45%で延伸するのが生産効率とフィルムの透明性を両立する点で好ましい。
ウェブを延伸する方法は特に制限されない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用してMD方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げてMD方向に延伸する方法、同様に横方向に広げてTD方向に延伸する方法、MD/TD方向に同時に広げてMD/TD両方向に延伸する方法などが挙げられる。
製膜工程のこれらの幅保持または幅手方向の延伸はテンター装置によって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
テンター内などの製膜工程でのフィルム搬送張力は温度にもよるが、120N/m〜200N/mが好ましく、140N/m〜200N/mがさらに好ましい。140N/m〜160N/mが最も好ましい。
延伸温度は、120℃〜200℃が好ましく、さらに好ましくは150℃〜200℃であり、さらに好ましくは150℃を超えて190℃以下で延伸するのが好ましい。
フィルムは延伸後、熱固定されることが好ましいが、熱固定はその最終TD方向延伸温度より高温で、Tg−20℃以下の温度範囲内で通常0.5〜300秒間熱固定することが好ましい。この際、2つ以上に分割された領域で温度差が1〜100℃となる範囲で順次昇温しながら熱固定することが好ましい。
なお、フィルムのTgは、フィルムを構成する材料種及び構成する材料の比率によって制御され、JIS K7121:1987に記載の方法などによって求めることができる。
熱固定されたフィルムは通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、TD方向及び/またはMD方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。
また冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことがフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。
尚、冷却速度は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からTgに達するまでの時間をtとした時、(T1−Tg)/tで求めた値である。
これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するセルロースエステルや可塑剤等の添加剤種により異なるので、得られた延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
(vi)乾燥工程2
上記ウェブは延伸後さらに乾燥されて、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
当該乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールをウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は90℃〜200℃が好ましく、より好ましくは110℃〜190℃である。乾燥温度は段階的に高くしていくことが好ましい。
好ましい乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、5分〜60分が好ましく、10分〜30分がより好ましい。
(vii)フィルム巻き取り工程
最後に、得られたウェブ(仕上がったフィルム)を巻取ることにより、セルロースエステルフィルムが得られる。
(b)防曇層形成工程
次に、上記で得たセルロースエステルフィルムに防曇層を形成する。
上述した親水化処理により防曇層を形成する場合には、上記で得たセルロースエステルフィルムの表面を親水化処理することにより、図1に示すような防曇性セルロースエステルフィルムが得られる。本実施形態では、セルロースエステル膜の表層の親水化処理された領域が防曇層12となり、親水化処理されていない内部領域がエステル層11となる。
防曇剤を塗布する方法によって防曇層を形成する場合には、上記で得たエステル層11としてのセルロースエステルフィルム上に、防曇剤を含む防曇層12が形成される。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例において、水酸基残度(DR)は、セルロースを構成するグルコース単位の有する3個の水酸基のうち、エステル化していない水酸基の数(平均値)を示す。つまり、セルロースのアシル基置換度を用いて、水酸基残度(DR)=3−アシル基置換度と表される。また、重量平均分子量は、上述した方法に従って求めた。
1.セルロースエステルの製造
[セルロースエステルCE−1の作製]
セルロース(綿花リンター由来)100質量部に、硫酸16質量部、無水酢酸260質量部、酢酸420質量部をそれぞれ添加し、攪拌しながら室温から60℃まで60分かけて昇温し、15分間その温度を保持しながら酢化反応を行った。
次に、酢酸マグネシウム及び酢酸カルシウムの酢酸−水混合溶液を添加して硫酸を中和した後、反応系内に水蒸気を導入して、60℃で120分間維持して鹸化熟成処理を行った。
その後、多量の水により洗浄を行い、更に乾燥し、セルロースエステルCE−1を得た。
セルロースエステルCE−1は、アセチル基置換度が2.9であり、重量平均分子量がMw=270000であった。
[セルロースエステルCE−2〜CE−5の作製]
重量平均分子量Mwが表1に記載の値となるように、硫酸量を適宜変更したこと以外はセルロースエステルCE−1の作製と同様にして、セルロースエステルCE−2〜CE−5を作成した。
[セルロースエステルCE−6〜CE−7の作製]
セルロースエステルの置換度及び重量平均分子量Mwが表1に記載の置換度、分子量となるように、セルロースエステルの水酸基残度(DR)、カルシウム量、マグネシウム量、酢酸量及びプロピオン酸量を変更したこと以外は、セルロースエステルCE−1の作製と同様にして、セルロースエステルCE−6〜CE−7を作製した。
表1に得られたセルロースエステルCE−1〜CE−7の置換度および重量平均分子量(Mw)を示す。
Figure 2013099879
2.防曇性フィルムの製造
[防曇性フィルム101の製造]
(1)ドープ組成物の調製
下記のドープ組成物を調製した。
(ドープ組成物)
下記(a)〜(f)を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24を使用して濾過し、ドープ組成物を調製した。
(a)セルロースエステルCE−1:90質量部
(b)可塑剤 トリフェニルホスフェート(TPP)(大八化学工業(株)製):10質量部
(c)紫外線吸収剤 チヌビン928(チバ・ジャパン(株)製):2.5質量部
(d)微粒子分散液 二酸化ケイ素分散希釈液:4質量部
(e)良溶剤 メチレンクロライド:432質量部
(f)貧溶剤 エタノール:38質量部
なお、上記(d)微粒子分散液としての二酸化ケイ素分散希釈液は下記手順で調製した。
(二酸化ケイ素分散希釈液)
アエロジルR812(日本アエロジル(株)製;一次粒子の平均径7nm) 10質量部、および、エタノール 90質量部をディゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。これにメチレンクロライド 88質量部を撹拌しながら投入し、ディゾルバーで30分間撹拌混合した。混合液を微粒子分散希釈液濾過器(アドバンテック東洋(株):ポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW−PPS−1N)で濾過し、二酸化ケイ素分散希釈液を調製した。
(2)ドープ流延・乾燥・剥離
上記で得たドープ組成物を、ベルト流延装置を用い、ステンレスバンド支持体(温度:35℃)に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶媒量が100%になるまで溶剤を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。
(3)延伸・乾燥・熱固定
剥離後、テンターでウェブ両端部を把持し、160℃で幅手(TD)方向の延伸倍率が1.01倍(1%)となるように延伸し、その幅を維持したまま数秒間保持し(熱固定)、幅方向の張力を緩和させた後、幅保持を解放し、更に125℃に設定された第3乾燥ゾーンで30分間搬送させて乾燥を行った。なお、延伸開始時の残留溶媒量は30%であった。
(4)フィルム巻き取り
その後、セルロースエステルフィルムを1.65m幅にスリットし、フィルム両端に幅15mm、高さ10μmのナーリング加工を施し、巻芯に巻き取った。得られたセルロースエステルフィルムの残留溶媒量は0.2%であり、膜厚は181μmであり、巻数は6000mであった。
(5)防曇処理
得られたフィルムに下記方法により、防曇処理を施した。
(アルカリケン化処理A)
70℃に加温された16重量%の水酸化ナトリウムケン化溶液に60分間浸漬し、次いで90秒間水洗し、80℃の温風にて乾燥した。
これにより、フィルムの両面に防曇処理が施された、防曇性フィルム101を得た。
[防曇性フィルム102〜103、105〜107の製造]
セルロースエステルフィルムが表2に記載の膜厚となるようにドープ組成物をステンレスバンド支持体上に流延したこと以外は、防曇性フィルム101の製造と同様にして、防曇性フィルム102、103、105、106、107を製造した。
[防曇性フィルム104、108の製造]
セルロースエステルフィルムが表2に記載の膜厚となるようにドープ組成物をステンレスバンド支持体上に流延し、かつ、アルカリケン化処理Aに代えて下記の防曇処理を施したこと以外は、防曇性フィルム101の製造と同様にして、防曇性フィルム104、108を製造した。
(防曇性フィルム104の防曇処理:アルカリケン化処理B)
50℃に加温された16重量%の水酸化ナトリウムケン化溶液に30秒間浸漬し、次いで90秒間水洗し、80℃の温風にて乾燥した。
(防曇性フィルム108の防曇処理:コロナ処理)
セルロースエステルフィルムの表面をコロナスキャナー(信光電気計装(株)製 ASA−4)を用いて表面コロナ処理を行った。なお、コロナ処理条件は引加電圧15.0kV、電極−サンプル間距離1.5mmとし、搬送速度20mm/sにて10往復の処理を行った。
[防曇性フィルム201〜206の製造]
ドープ組成物の調製の際にセルロースエステルCE−1を表3に記載のセルロースエステルCE−2〜CE−7に変更し、かつ、セルロースエステルフィルムが表3に記載の膜厚となるようにドープ組成物をステンレスバンド支持体上に流延したこと以外は、防曇性フィルム106の製造と同様にして、防曇性フィルム201〜206を製造した。
[防曇性フィルム207の製造]
ドープ組成物の調製の際に可塑剤としてのトリフェニルホスフェートをポリエステルAに変更したこと以外は、防曇性フィルム106の製造と同様にして、防曇性フィルム204を製造した。
なお、ポリエステルAは芳香族末端ポリエステルであり、下記方法により合成した。
<ポリエステルAの合成>
1,2−プロピレングリコール251g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。15時間脱水縮合反応させ、反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、本発明のエステル化合物Aを得た。酸価0.10、数平均分子量450であった。
[防曇性フィルム301〜304の製造]
セルロースエステルフィルムが表4に記載の膜厚となるようにドープ組成物をステンレスバンド支持体上に流延し、かつ、幅手(TD)方向の延伸倍率を表4に記載の倍率としたこと以外は、防曇性フィルム106の製造と同様にして、防曇性フィルム301〜304を製造した。
[防曇性フィルム305〜307の製造]
ドープ組成物の調製の際にセルロースエステルの種類および/または可塑剤の種類を表4に記載のものに変更し、セルロースエステルフィルムが表4に記載の膜厚となるようにドープ組成物をステンレスバンド支持体上に流延し、かつ、幅手(TD)方向の延伸倍率を表4に記載の倍率としたこと以外は、防曇性フィルム106の製造と同様にして、防曇性フィルム305〜307を製造した。
[フィルム評価]
得られた防曇性フィルムを下記方法により評価した。
(1)防曇性フィルムの膜厚d(T)、防曇層の厚さd(C)の測定
得られた防曇性フィルムを30mm×30mmのサイズに裁断し、23℃55%RH雰囲気下にて、24時間以上静置した。このフィルムサンプルの厚さを膜厚計(ニコン製接触式膜厚計「DIGIMICRO MH−15M」)にて測定し、防曇性セルロースエステルフィルムの膜厚d(T)を得た。
膜厚d(T)の測定後、フィルムサンプルをトリクロロメタン溶媒に24時間浸漬し、溶け残ったフィルムを溶媒の外へ取り出した。これを、80℃の温風にて乾燥後、23℃55%雰囲気下にて4時間以上放置後、膜厚を上記膜厚計にて測定し、防曇層の厚さd(C)を得た。
なお、防曇性フィルム204以外の防曇性フィルムは、フィルムの両面に防曇層が設けられているため、上記トリクロロメタン溶媒への浸漬処理後には、2つの防曇層に対応する2枚のフィルムが得られた。2枚のフィルムはほぼ同一の厚さを有しており、その一方のフィルムの厚さを、防曇層の厚さd(C)として採用した。
上記方法で測定した膜厚d(T)、防曇層の厚さd(C)を表2〜4に示す。
(2)防曇性能評価
得られた防曇性フィルムをA3サイズ(297mm×420mm)に裁断し、23℃55%RH雰囲気下にて、24時間以上静置した。その後、同雰囲気下にて未通電状態の冷凍ショーケース(ホシザキ電機製 リーチイン冷凍ショーケース FS−120XT3−1)のガラス扉の内側に25μmの両面接着テープ(リンテック社製、基材レステープ MO−3005C)を介して貼り、庫内設定温度を−25℃となったのを確認した後、60分以上放置したのち、扉を開けたときの防曇特性を下記の評価基準に基づいて評価した。なお、扉を開けた時の庫外設定温度は23℃、相対湿度55%であった。
(防曇性評価基準)
5:全く結露が見られない
4:結露するが、数秒で消える
3:結露が消えるまで10秒以内
2:結露が消えるまで30秒以内
1:30秒以上、結露が消えない
結果を表2〜4に示す。
(3)しわ、剥がれ特性評価
得られた防曇性フィルムをA3サイズ(297mm×420mm)に裁断し、23℃55%RH雰囲気下にて、24時間以上静置した。その後、裁断したフィルムを、25μmの両面接着テープ(リンテック社製 基材レステープ MO−3005C)を介し、表面を予めエタノールで洗浄したガラス板(厚さ1.2mm)の片面に貼合し、サンプルを作製した。
上記で得たサンプルを恒温恒湿槽(日立アプライアンス製 EC−25EXH)を用い、温度30℃、相対湿度90%雰囲気下に24時間静置し、続いて−25℃雰囲気下に24時間静置する環境変化を3回繰り返した。その後、サンプルを装置より取り出し、フィルムのしわ、剥がれを下記評価基準に基づいて評価した。
(しわ、剥がれの評価基準)
5:しわ、剥がれが全くない
4:四隅に剥がれが発生し始めているが、許容できる
3:僅かにしわ、剥がれが発生しているが、許容できる
2:しわ、剥がれがはっきりと分かる
1:フィルムが前面に波打ち、しわ、剥がれが発生している
結果を表2〜4に示す。
Figure 2013099879
Figure 2013099879
Figure 2013099879
表2〜表4の結果から、防曇層およびセルロースエステルフィルムの厚さが式(1)および式(2)を満たす実施例の防曇性フィルムは、経時によるしわ、剥がれの発生が抑制され、かつ高い防曇性を維持し、取扱性と防曇性を両立できることが明白である。
特に、重量平均分子量が75,000〜300,000の範囲にあるCE−1〜CE−3、CE−6、CE−7を用いた防曇性フィルムは、重量平均分子量が75,000未満であるCE−4や重量平均分子量が300,000を超えるCE−5を用いた防曇性フィルムに比べて、より優れた防曇性およびしわ・剥がれ特性を示している。
また、延伸倍率が1.05〜1.40倍である防曇性フィルム301〜303、305〜307では、しわ特性が一層することが確認される。
さらに、可塑剤としてポリエステル化合物を用いた場合(防曇性フィルム207、305〜307)には、防曇性およびしわ・剥がれ特性が一層向上することが確認される。
これに対して、式(1)および(2)の少なくとも一方を満たさない比較例の防曇性フィルムは、防曇性またはしわ・剥がれ特性が劣っていることがわかる。
1 セルロースエステルフィルム、
11 エステル層、
12 防曇層。

Claims (5)

  1. セルロースエステルを含むエステル層と、
    前記エステル層の少なくとも片面上に位置する防曇層と、
    を有し、
    下記式(1)および式(2)を満たす、防曇性セルロースエステルフィルム。
    Figure 2013099879
    式中、d(T)はセルロースエステルフィルムの全膜厚(μm)であり、d(C)は防曇層の厚さ(μm)である。
  2. 前記エステル層は、重量平均分子量が75,000〜300,000のセルロースエステルを含む、請求項1に記載の防曇性セルロースエステルフィルム。
  3. 前記エステル層は、幅手方向に1.05〜1.40倍の延伸条件で一軸延伸処理されてなる、請求項1または2に記載の防曇性セルロースエステルフィルム。
  4. 前記防曇層は、セルロースエステルフィルムの製膜後に、製膜されたフィルムの表面をアルカリケン化処理することにより形成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の防曇性セルロースエステルフィルム。
  5. 前記エステル層は、アシル基置換度2.0〜3.0のセルロースエステルを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の防曇性セルロースエステルフィルム。
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