JP2013098232A - 窒化物半導体レーザ素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】460nm以上の発振波長を有する窒化物半導体レーザ素子において、クラックの発生を抑制し、発光層内での光閉じ込め率を向上させ、InGaN光ガイド層が活性層の劣化の起点となることを防止し、電流注入量の増加に伴うInGaNガイド層の発光を防止すること。
【解決手段】460nm以上の発振波長を有する窒化物半導体レーザ素子では、第1の窒化物半導体層が第1のInGaN光ガイド層および井戸層のそれぞれに接するように第1のInGaN光ガイド層と井戸層との間に設けられている。第1の窒化物半導体層の層厚は1nm以上3nm以下であり、第1の窒化物半導体層はIn組成比が2.0%未満であるInGaNまたはGaNからなる。
【選択図】図7

Description

本発明は、460nm以上の発振波長を有する窒化物半導体レーザ素子に関する。
InGaN材料を利用した窒化物半導体レーザ素子には、発振波長が460nm以上であるような長波長帯域において発光層(活性層)内での光の閉じ込め率が低下するという問題がある。この光閉じ込め率の低下は閾値電流密度の増大を齎す。その理由は、波長が長くなるにつれて窒化物半導体レーザ素子においてクラッド材料として利用されているAlGaNと光ガイド材料として利用されているGaNとの屈折率差が均衡するからである。これらの屈折率差を十分に保つため、一般には、クラッド材料であるAlGaNのAl組成比を高め、光ガイド層にInを加えると共にその光ガイド材料のIn組成比を高めることがなされる。
特開2004−87763号公報 国際公開第2005/020396号
しかしながら、クラッド材料と光ガイド材料との屈折率差を十分に保つということは、クラッド層と光ガイド層との格子不整合が増大することを意味し、クラックの発生といった新たな問題を含んでいた。
本発明者らによる検討の結果、クラック発生の防止と光閉じ込め率の向上との両立を図るためには、n側のAlGaNクラッド層のAl組成比を高くその層厚を薄く、そしてInGaN光ガイド層のIn組成比を高くすれば良いことが分かった。特にInGaN光ガイド層におけるIn組成比が3.5%以上になると、光閉じ込め率が向上するために好ましかった。しかしながら、このような高いIn組成比を有するInGaN光ガイド層は新たな課題を生み出した。
1つ目の課題は、InGaN光ガイド層におけるIn組成比が高いことに起因する発光層の劣化であった。発光層の劣化は、窒化物半導体レーザ素子を蛍光顕微鏡で観察したときに非発光斑点となって観測され、閾値電流密度の増大または寿命の低下を招く。
2つ目の課題は、電流注入量が増すにつれてInGaN光ガイド層で発光し始めるという問題であった。これは、電子と正孔とが効率良く井戸層で再結合せずにキャリアがInGaNガイド層に漏れ出て再結合することを意味する。これにより、発光層での発光効率が低下するので、閾値電流密度の増大を招く。
これらの課題を解決するために、例えば特許文献1または2に記載の技術を用いて井戸層と障壁層との間に障壁層よりも大きなバンドギャップエネルギーを有するAlGaN層の挿入を試みたが、上記2つ目の課題の解決は難しかった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、460nm以上の発振波長を有する窒化物半導体レーザ素子において、クラックの発生を抑制しながら、InGaN光ガイド層のIn組成比を高めることにより発光層(活性層)内での光閉じ込め率を上げ、そのInGaN光ガイド層が活性層の劣化の起点となることを抑制し、さらには電流注入量の増加に伴うInGaNガイド層の発光を防止してキャリアの再結合を高めることである。
本発明に係る窒化物半導体レーザ素子は、460nm以上の発振波長を有する。このような半導体レーザ素子では、窒化物半導体基板の上に、n型AlGaNクラッド層、第1のInGaN光ガイド層、発光層、第2のInGaN光ガイド層、およびp型AlGaNクラッド層がこの順に設けられている。n型AlGaNクラッド層におけるAl組成比は6.5%以上8%以下であり、n型AlGaNクラッド層の層厚は0.9μm以上1.3μm以下である。第1のInGaN光ガイド層および第2のInGaN光ガイド層のそれぞれにおけるIn組成比は3.5%以上7%以下であり、第1のInGaN光ガイド層および第2のInGaN光ガイド層のそれぞれの層厚は50nm以上80nm以下である。発光層は、複数の井戸層と、1または複数の障壁層とを備えている。第1のInGaN光ガイド層と井戸層との間に、層厚が1nm以上3nm以下であって、且つIn組成比が2.0%未満であるInGaNまたはGaNからなる第1の窒化物半導体層が、当該第1のInGaN光ガイド層および当該井戸層のそれぞれに接して設けられている。
井戸層と第2のInGaN光ガイド層との間に、層厚が1nm以上3nm以下であって、且つIn組成比が2.0%未満であるInGaNまたはGaNからなる第2の窒化物半導体層が、当該井戸層および当該第2のInGaN光ガイド層のそれぞれに接して設けられていることが好ましい。
第1のInGaN光ガイド層におけるSi濃度は、1×1017cm-3以上5×1018cm-3以下であることが好ましい。
第2のInGaN光ガイド層におけるMg濃度は、5×1017cm-3以上3×1018cm-3以下であることが好ましい。
井戸層の層数は、2以上3以下であることが好ましい。
本発明に係る窒化物半導体レーザ素子では、発振波長が460nm以上であり、クラックの発生が抑制され、InGaN光ガイド層のIn組成比が高いので発光層(活性層)内での光閉じ込め率が向上し、そのInGaN光ガイド層が活性層の劣化の原因となることが抑制され、さらには電流注入量の増大に伴うInGaNガイド層での発光を防止できるのでキャリアの再結合が高くなる。これによって、レーザ特性(たとえば閾値電流密度の低減と長寿命化)の向上を図ることができる。レーザ特性の向上により、レーザ素子を用いた種々の表示装置の消費電力低減または高出力化に寄与し得る。
本発明の一実施形態に係る窒化物半導体レーザ素子を製造するためのウエハの概略断面図である。 (a)〜(d)は、窒化物半導体レーザ素子を製造するためのウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真である。 (a)〜(b)は、窒化物半導体レーザ素子を製造するためのウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真である。 (a)〜(b)は、それぞれ、窒化物半導体レーザ素子を製造するためのウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真、および当該ウエハが発するEL(エレクトロルミネッセンス)スペクトルである。 (a)〜(c)は、それぞれ、窒化物半導体レーザ素子を製造するためのウエハのバンド構造図、当該ウエハが発するELスペクトル、および当該ウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真である。 (a)〜(c)は、それぞれ、窒化物半導体レーザ素子を製造するためのウエハのバンド構造図、当該ウエハが発するELスペクトル、および当該ウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真である。 (a)〜(c)は、それぞれ、窒化物半導体レーザ素子を製造するためのウエハのバンド構造図、当該ウエハが発するELスペクトル、および当該ウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真である。 (a)〜(b)は、それぞれ、窒化物半導体レーザ素子を製造するためのウエハのバンド構造図、および当該ウエハが発するELスペクトルである。 実施例1に係る窒化物半導体レーザ素子を製造するためのウエハの概略断面図である。 実施例2に係る窒化物半導体レーザ素子を製造するためのウエハの概略断面図である。
以下、本発明の窒化物半導体レーザ素子(単に「レーザ素子」と記すことがある)について図面を用いて説明する。なお、本願の図面において、長さ、幅、厚さなどは図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。特に厚さは、相対的に適宜に拡大されて示されている。また、図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わしている。
≪実施の形態≫
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ素子を製造するためのウエハ(単に「ウエハ」と記すことがある)10の概略断面図である。ウエハ10では、窒化物半導体基板11の上に、n型AlGaNクラッド層12、GaN層13、第1のInGaN光ガイド層14、第1の窒化物半導体層15、発光層16、第2の窒化物半導体層17、第2のInGaN光ガイド層18、GaN中間層19、p型AlGaN層20、p型AlGaNクラッド層21、およびp型GaNコンタクト層22が順に設けられている。本実施の形態に係るレーザ素子は、必要に応じてウエハ10の一部分をエッチングなどにより除去してからn側電極およびp側電極を所定の位置に形成することにより、製造される。なお、以下では、説明の都合上、第1および第2の窒化物半導体層15,17以外の構成要素を説明してから、第1および第2の窒化物半導体層15,17を説明する。
<窒化物半導体基板>
窒化物半導体基板11としては、GaN基板であっても良いが、AlGaN基板であることが好ましい。AlGaN基板を用いれば、n型AlGaNクラッド層12を積層する必要がなく、またGaN基板を用いた場合に問題となる基板への光の漏れを抑制する必要もない。AlGaN基板を用いる場合、AlGaN基板におけるAl組成比は7%以下であることが好ましい。窒化物半導体基板11の主面となる面方位は、極性面の(0001)面、無極性面の(1−100)面、または半極性面の(11−22)面等であれば良い。窒化物半導体基板11の層厚は、特に限定されないが、300μm以上500μm以下であれば良い。
<n型AlGaNクラッド層>
n型AlGaNクラッド層12は、n型不純物として主にSiを含むAlGaN層であれば良い。ここで、n型AlGaNクラッド層12は、単一層からなっても良いし、Al組成比の異なる2以上の層を含んでも良いし、AlxGa1-xN(0≦x≦1)層/AlyGa1-yN(0≦y≦1、x<y)層からなる超格子層であっても良いし、AlxGa1-xN(0≦x≦1)層/GaN層からなる超格子層であっても良い。また、n型AlGaNクラッド層12の一部の層がアンドープ層であっても良い。n型AlGaNクラッド層12が超格子層であれば、クラックの発生を抑制するとともにレーザ素子における動作電圧を低減できる。なお、図1では、n型AlGaNクラッド層12が積層構造を含む場合も含めて、n型AlGaNクラッド層12を1層として記している。また、n型AlGaNクラッド層12のうちGaN層13と直接接する層の一部をアンドープ層(n型不純物が含まれない層)としても良い。これにより、Siによる光吸収を防止でき、閾値電流密度を下げることができる。
n型AlGaNクラッド層12におけるAl組成比は6.5%以上8%以下であり、好ましくは7%以上8%以下であり、通常の青紫色半導体レーザ素子(発振波長が405nm)または青色半導体レーザ素子(発振波長が440〜460nm未満)のクラッド層におけるAl組成比に比べて高い。本発明者らの検討結果から、460nm以上の発振波長を有するレーザ素子の場合、発光層内における光閉じ込めを十分に保ち、且つ光が窒化物半導体基板11側へ漏れ出すことを抑えるためには、後で説明する第1のInGaN光ガイド層14および第2のInGaN光ガイド層18との関係も考慮に入れて、Al組成比を6.5%以上8%以下と高く設定した方が優位であることがわかった。n型AlGaNクラッド層12におけるAl組成比が6.5%未満であれば、発振波長が460nm以上においてn型AlGaNクラッド層12と第1のInGaN光ガイド層14との屈折率差を一定以上に保つことが難しく、よって、光閉じ込め率の低下を招く。また、n型AlGaNクラッド層12におけるAl組成比が8%を超えると、クラックの多発を招く。
しかし、本実施の形態では、Al組成比が従来よりも高いので、クラックが多発しやすい。クラックの多発を防止するためには、n型AlGaNクラッド層12の層厚を1.3μm以下とすれば良く、好ましくは1.2μm以下とする。この値は、通常の値(通常の青紫色半導体レーザ素子などではクラッド層の厚みは約1.8μm以上である)と比べて随分薄い。また、n型AlGaNクラッド層12の層厚の下限値は0.9μmであり、好ましくは1.0μmである。n型AlGaNクラッド層12の層厚が0.9μm未満になると、光が窒化物半導体基板11側に漏れ出すことがある。
n型AlGaNクラッド層12が超格子層である場合、またはn型AlGaNクラッド層12が2以上の層を含む場合、n型AlGaNクラッド層12全体における平均Al組成比が6.5%以上8%以下となるようにすれば良い。ここで、平均Al組成比は、各層におけるAl組成比と当該層の層厚との積の合計をn型AlGaNクラッド層12の層厚で割って求めることができる。層厚に関しては、n型AlGaNクラッド層12全体の層厚が0.9μm以上1.3μm以下となるようにすれば良い。
n型AlGaNクラッド層におけるn型不純物濃度は5×1017cm-3以上5×1018cm-3以下であれば良く、好ましくは1×1018cm-3以上3×1018cm-3以下である。
<GaN層>
GaN層13は、n型AlGaNクラッド層12と第1のInGaN光ガイド層14との間の格子定数をもち、バッファとして機能する。後で述べる第1のInGaN光ガイド層14におけるIn組成比が4%以上であれば、GaN層13はクラッド層として機能し得る。このことによって、光の閉じ込め率をさらに上げることができる。ここで、GaN層13の層厚は0.1μm以上0.3μm以下であることが好ましい。GaN層13の層厚が0.1μm以上であれば、レーザ発振時の光強度の最大領域が適度にn側に移動するため、p型不純物であるマグネシウム(Mg)からの光吸収が抑制されて、外部量子効率の向上が期待できる。ただし、GaN層13の層厚が0.3μmを超えると、光が基板11側に漏れ出すことがあり、好ましくない。また、GaN層13の層厚が0.1μm未満であれば、n型AlGaNクラッド層12と第1のInGaN光ガイド層14との格子不整合を緩和させるバッファ層としての機能が低下するおそれがあり、好ましくない。
<第1のInGaN光ガイド層、第2のInGaN光ガイド層、GaN中間層>
本発明者らの実験結果から、発光層領域での光の閉じ込め率を向上させるためには、InGaN光ガイド層におけるIn組成比を高くすることが重要であるとわかった。そこで、本実施の形態では、第1のInGaN光ガイド層14および第2のInGaN光ガイド層18におけるIn組成比をそれぞれ3.5%以上7%以下(好ましくは4%以上6%以下)に設定し、これらの層厚を50nm以上(好ましくは60nm以上)としている。第1のInGaN光ガイド層14および第2のInGaN光ガイド層18における各In組成比が3.5%未満であれば、発振波長が460nm以上においてn型AlGaNクラッド層12と第1のInGaN光ガイド層14との屈折率差を一定以上に保つことが難しく、よって、光閉じ込め率の低下を招く。また、このIn組成比が7%を超えると、結晶性の悪化を招く。また、第1のInGaN光ガイド層14および第2のInGaN光ガイド層18における各層厚が50nm未満であれば、光閉じ込め率の低下を招くことがある。
一般に、InGaN光ガイド層の層厚が厚ければ厚いほど光閉じ込め率が向上する。しかし、第1のInGaN光ガイド層14および第2のInGaN光ガイド層18では、In組成比が比較的高いので、層厚の増大に伴って結晶性が急激に悪化してしまう。そのため、本実施の形態では、第1のInGaN光ガイド層14および第2のInGaN光ガイド層18の各層厚の上限値を80nmにして、In組成比が高いことに起因する結晶性の悪化を防止している。このように本実施の形態における第1のInGaN光ガイド層14および第2のInGaN光ガイド層18では、高いIn組成比を選択したため、その層厚を比較的薄くしている。このような場合であっても、前述のn型AlGaNクラッド層12とあいまって、発光層領域での光の閉じ込め率を向上させることができ、閾値電流密度の低減を実現することができる。
ここで、第1のInGaN光ガイド層14の層厚が第2のInGaN光ガイド層18の層厚よりも厚ければ、レーザ発振する際の縦方向(層の積層方向)の光強度分布がn側に少し寄った非対称分布となるため、p型層の不純物であるマグネシウムによる光吸収が抑えられ、外部量子効率を向上させる効果がある。
第2のInGaN光ガイド層18とGaN中間層19との合計層厚を80nm以下にすることが最適である。第2のInGaN光ガイド層18が80nmである場合、GaN中間層19は設けなくても構わない。しかし、GaN中間層19を設けると、第2のInGaN光ガイド層18とp型AlGaN層20との格子不整合を緩和させることができる。この合計層厚が80nmを超えると、発光層16とp型AlGaN層20との距離が大きくなりすぎて、キャリアの損失が増えるため、好ましくない。
第1のInGaN光ガイド層14は1×1017cm-3以上5×1018cm-3以下のSi濃度を有していれば良く、好ましくは5×1017cm-3以上1×1018cm-3以下のSi濃度を有している。これにより、キャリアの発生が促進され、第1のInGaN光ガイド層14内での内部電界を遮蔽することができるため、後で述べる電流注入量の増大に伴う第1のInGaN光ガイド層14での発光をさらに抑制できる。一方、第1のInGaN光ガイド層14におけるSi濃度が5×1018cm-3を超えると、Siが光吸収剤として作用し始めるので、外部量子効率が低下することがある。また、第1のInGaN光ガイド層14におけるSi濃度が1×1017cm-3未満であれば、内部電界を遮蔽する効果が弱くなるおそれがある。同様の理由から、第2のInGaN光ガイド層18は5×1017cm-3以上3×1018cm-3以下のMg濃度を有していれば良く、好ましくは5×1017cm-3以上2×1018cm-3以下のMg濃度を有している。
<発光層>
発光層16は、2以上の井戸層と1以上の障壁層とで構成されている。より具体的には、発光層16は、井戸層/障壁層/井戸層であっても良いし、井戸層/障壁層/井戸層/障壁層/井戸層であっても良い。つまり、本実施の形態では、発光層16の外側に井戸層が形成されている。井戸層の層厚は1nm以上3nm以下であれば良く、好ましくは1.5nm以上2nm以下である。460nm以上の発振波長を有する井戸層を作製するためには、高In組成比の井戸層を作製する必要がある。しかし、高In組成比の井戸層の層厚が3nmを超えると、格子歪みによって結晶欠陥が発生することがある。また、井戸層の層厚が1nm未満であれば、利得が小さいために閾値電流密度が増大するという不具合を招くことがある。
後で述べる電流注入量の増大に伴う第1のInGaN光ガイド層14および第2のInGaN光ガイド層18での発光(発光層以外でのキャリアの損失)を抑制するためには、井戸層の層数を増やすことが最も効果的かつ効率が良い方法である。しかし、460nm以上の発振波長を有する井戸層を4層以上作製すると、格子歪みによって結晶欠陥が著しく発生し、レーザ特性が悪化することがある。そのため、発光層16の井戸層の層数は2以上3以下であることが好ましい。
障壁層は、GaNまたはAlGaNからなることが好ましい。障壁層がAlGaN層である場合、障壁層におけるAl組成比は2%以上8%以下であることが好ましい。障壁層の層厚は10nm以上20nm以下であることが好ましい。
井戸層は、障壁層よりもバンドギャップエネルギーの小さな窒化物半導体材料からなれば良く、InGaNなどからなることが好ましい。井戸層における原子組成比は特に限定されず、適宜設定される。
<p型AlGaN層、p型AlGaNクラッド層、p型GaNコンタクト層>
p型AlGaN層20とp型AlGaNクラッド層21とは、図1に示すように互いに接して設けられている。このようにp型AlGaN層20とp型AlGaNクラッド層21との間には他の層(たとえばp型AlGaN層20およびp型AlGaNクラッド層21よりも屈折率が高い層)が設けられていないので、レーザ発振する際の縦方向の光強度分布がp側に引っ張られることを防止でき、よって、n側に効率良く光を寄せることができる。したがって、外部量子効率が向上する。
p型AlGaN層20におけるAl組成比は10%以上30%以下であれば良く、好ましくは10%以上20%以下である。p型AlGaN層20の層厚は8nm以上20nm以下であることが好ましい。ここで、p型不純物はMgであればよい。p型不純物の材料についてはp型AlGaNクラッド層21およびp型GaNコンタクト層22についても言える。
p型AlGaNクラッド層21におけるAl組成比は3%以上6%以下であれば良く、好ましくは3%以上4%以下である。p型AlGaNクラッド層21の層厚は0.4μm以上0.6μm以下であることが好ましい。p型AlGaNクラッド層21におけるAl組成比およびその層厚がそれぞれn型AlGaNクラッド層12におけるAl組成比およびその層厚よりも小さければ、クラックの発生を抑制でき、駆動電圧を下げることもできる。
本実施の形態では、p型AlGaNクラッド層21の上にp型GaNコンタクト層22が設けられているが、p型GaNコンタクト層22は設けられていなくても良い。
<第1の窒化物半導体層、第2の窒化物半導体層>
第1の窒化物半導体層15は、第1のInGaN光ガイド層14および発光層16中の井戸層のそれぞれに接するように第1のInGaN光ガイド層14と発光層16中の井戸層との間に設けられ、In組成比が2.0%未満(好ましくは1.5%以下)であるInGaNまたはGaNからなる。第1の窒化物半導体層15の層厚は、1nm以上3nm以下である。
同様に、第2の窒化物半導体層17は、第2のInGaN光ガイド層18および発光層16中の井戸層のそれぞれに接するように第2のInGaN光ガイド層18と発光層16中の井戸層との間に設けられ、In組成比が2.0%未満(好ましくは1.5%以下)であるInGaNまたはGaNからなる。第2の窒化物半導体層17の層厚は、1nm以上3nm以下である。本発明者らは、第1の窒化物半導体層15および第2の窒化物半導体層17の効果を確認するために以下に示す実験を行なった。なお、以下では、第1の窒化物半導体層15および第2の窒化物半導体層17とは層厚のみを異にする層についても示すが、この層を「低In層」と記して第1の窒化物半導体層15および第2の窒化物半導体層17と区別する。
まず、第1の窒化物半導体層15および第2の窒化物半導体層17が設けられていないウエハ(「従来のウエハ」と記す。)を4種類用意した。4種類のウエハでは、第1のInGaN光ガイド層および第2のInGaN光ガイド層のそれぞれにおけるIn組成比は4.2%、3.0%、1.9%、および1.2%であり、このIn組成比以外は互いに同一であった。たとえば、第1のInGaN光ガイド層および第2のInGaN光ガイド層の各層厚は50nmであった。この4種類のウエハの発光層を蛍光顕微鏡で観察して、当該発光層の劣化の有無を調べた。図2(a)〜(d)には、上記In組成比が4.2%、3.0%、1.9%、および1.2%である従来のウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真を順に示す。図2(a)〜(b)には黒色の斑点が観察されたが、図2(c)〜(d)には黒色の斑点は観察されなかった。この黒色の斑点はその部分が発光していないことを示しており、本発明者らはこのような部分を非発光斑点と呼んでいる。そして、非発光斑点の存在は発光層の劣化を意味する。
この実験結果からわかったことは、たとえ発光層自体に非発光斑点の発生を誘発するような要因がなかったとしても第1のInGaN光ガイド層および第2のInGaN光ガイド層の各In組成比が高くなると、これらのInGaN光ガイド層が引き金となって発光層を劣化させてしまうということである。より正確には、発光層中の井戸層に接する層(上記従来のウエハでは第1のInGaN光ガイド層および第2のInGaN光ガイド層)のIn組成比が2.0%未満でなければ活性層の劣化を誘発する、ということである。
特にレーザ素子では、LEDなどと異なり、発光層を成長させてからp型AlGaNクラッド層21(LEDには存在しない層である)を結晶性良く成長させる必要があるため、必然的にLEDよりも高温且つ長時間の熱に晒されてしまう。さらに、レーザ素子は光閉じ込めの観点から発光層以外にもたくさんのInを含む光ガイド層を有しており、それらの層は熱に対して非常に脆く劣化しやすい。そのため、レーザ素子の発光層は、LEDの発光層よりも劣化しやすく、非発光斑点が発生しやすい要因を多く持っている。現に、図2において非発光斑点が発生している条件でも(図2(a)〜(b))、p型AlGaNクラッド層21を成長させなければ非発光斑点は発生しなかった。このようなことから、In組成比が高い発光層とIn組成比が高いInGaN光ガイド層との間にIn組成比が低い層を設けることによって、第1および第2のInGaN光ガイド層の熱劣化による影響が発光層にまで伝播するのを防止するのではないかと思われる。
このように、図2(a)〜(b)に示す結果から、発光層中の井戸層と接する層におけるIn組成比を2.0%未満にすることで活性層の劣化が防げることはわかった。しかし、本発明を実現する上で、第1および第2のInGaN光ガイド層におけるIn組成比は3.5%以上でなければならない。そこで、InGaN光ガイド層(In組成比3.5%以上7%以下)および発光層中の井戸層のそれぞれに接するように低In層を当該InGaN光ガイド層と発光層中の井戸層との間に設ければ良いと考えられる。
そこで、第1の低In層および第2の低In層が設けられたウエハを2種類用意した。2種類のウエハでは、第1のInGaN層と第2のInGaN層とで(これらのInGaN層は上記低In層である)層厚が互いに異なった。具体的には、第1および第2のInGaN光ガイド層におけるIn組成比は第1のウエハおよび第2のウエハともに4.2%であった。第1および第2のInGaN層におけるIn組成比は第1のウエハおよび第2のウエハともに1.7%であった。第1および第2のInGaN層の層厚は、第1のウエハでは16nmであり、第2のウエハでは3nmであった。この2種類のウエハの発光層を蛍光顕微鏡で観察して、当該発光層の劣化の有無を調べた。図3(a)〜(b)には、第1のウエハおよび第2のウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真を順に示す。
図3(a)〜(b)に示すように、黒色の斑点は観察されなかった。このことから、InGaN光ガイド層と発光層中の井戸層との間に低In層を設けることによって発光層における非発光斑点の発生を防止できることがわかった。次に、非発光斑点の発生を防止するために必要な低In層の層厚を調べたところ、その層厚は1nm以上であれば良いことが分かった。
さらに、検討を進めた結果、低In層は、GaNからなることが好ましいことが分かった。その理由としては、低In層がInを含まなければ、InGaN光ガイド層の熱劣化による影響が発光層にまで伝播することがより一層防止されるからであると考えられる。低In層がGaNからなる場合であっても、その層厚は1nm以上であれば良いことが分かった。
続いて、低In層の層厚の上限値について調べた。具体的には、第1および第2のInGaN光ガイド層におけるIn組成比を6.7%とし、その層厚を50nmとし、第1および第2の低In層におけるIn組成比を1.9%とし、その層厚を16nmとして、ウエハを作製した。得られたウエハの発光層を蛍光顕微鏡で観察して、当該発光層の劣化の有無を調べた。また、得られたウエハに所定量の電流(9mA、53mA、314mA)を注入することにより当該ウエハを発光させ、ELスペクトルを測定した。図4(a)には上記ウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真を示し、図4(b)には得られたELスペクトルを示す。ここで、図4(b)中のL1〜L3は、それぞれ、上記ウエハに注入された電流量が9mA、53mA、および314mAであるときのELスペクトルである。L1〜L3については図5(b)、図6(b)、図7(b)、および図8(b)においても同様である。
図4(a)には、非発光斑点を確認できなかった。しかし、図4(b)に示すELスペクトルでは、電流注入量の増加に伴って、発光層からの発光とは明らかに異なる発光(約395nm付近の発光)の発光強度が増大した。このことは、電子と正孔とが効率良く発光層(正確には井戸層)で再結合されずに発光層以外の層で消費されていることを意味し、閾値電流密度の増大を引き起こす原因となる。
本発明者らは、電流注入量の増加に伴って発光層からの発光とは明らかに異なる発光の発光強度が増大した原因を探るために、図5(a)に示すバンド構造を有するウエハ(第1の検証用ウエハ)を作製して、蛍光顕微鏡を用いて発光層を観察し、電流注入により発した光のELスペクトルを測定した。図5(a)〜(c)は、それぞれ、第1の検証用ウエハのバンド構造、ELスペクトル、および蛍光顕微鏡写真である。なお、図5(a)中の数字は各層の厚みを示し、これは図6(a)、図7(a)、および図8(a)においても言える。
第1の検証用ウエハでは、第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層とInGaN井戸層との間に第1のIn0.018Ga0.982N層および第1のGaN層が設けられており、第2のIn0.066Ga0.934N光ガイド層とInGaN井戸層との間に第2のIn0.018Ga0.982Nおよび第2のGaN層が設けられている。このウエハでは、第1のIn0.018Ga0.982N層および第1のGaN層が第1の低In層に相当し、第2のIn0.018Ga0.982Nおよび第2のGaN層が第2の低In層に相当する。このように第1の検証用ウエハでは、低In層がInGaN光ガイド層と発光層中の井戸層との間に設けられているので、第1の検証用ウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真(図5(c))には非発光斑点を確認できなかった。しかし、図5(b)に示すELスペクトルには、発光層からの発光とは明らかに異なる発光(波長が395nm付近に現れるピーク)が観測された。
ここで、図5(a)に示すバンド構造から分かるように、第1のIn0.018Ga0.982N層および第1のGaN層を設けることにより、キャリアは第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層からエネルギー障壁を越えてInGaN井戸層へ到達することとなる。そのため、キャリアの一部がInGaN井戸層へ到達できずに第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層に溜まることとなる。同様の理由から、第2のIn0.018Ga0.982N層および第2のGaN層を設けることによりキャリアの一部がInGaN井戸層へ到達できずに第2のIn0.066Ga0.934N光ガイド層に溜まることとなる。さらに、本発明では、第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層および第2のIn0.066Ga0.934N光ガイド層におけるIn組成比が高いため、第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層および第2のIn0.066Ga0.934N光ガイド層のポテンシャルエネルギーが低くなり、よって、第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層および第2のIn0.066Ga0.934N光ガイド層におけるキャリアの溜まりやすさが顕著となる。そのうえ、本発明の窒化物半導体基板が極性を有する(0001)面GaN基板である場合、InGaN光ガイド層での自発分極とピエゾ電界による内部電界とによって、キャリアがInGaN光ガイド層でより一層溜まり易くなってしまう。
上記仮説を検証するために、図6(a)に示すバンド構造を有するウエハ(第2の検証用ウエハ)を作製して、蛍光顕微鏡を用いて発光層を観察し、電流注入により発した光のELスペクトルを測定した。図6(a)〜(c)は、それぞれ、第2の検証用ウエハのバンド構造、ELスペクトル、および蛍光顕微鏡写真である。
第2の検証用ウエハでは、図6(a)に示すように、第1の光ガイド層をGaN層で構成し、光ガイド層(図6(a)における「GaN層」)とInGaN井戸層との間には第1のGaN層(低In層に相当)のみが設けられている。このように第2の検証用ウエハでは、第1の検証用ウエハと同じく低In層が光ガイド層と発光層中の井戸層との間に設けられているので、第2の検証用ウエハの発光層の蛍光顕微鏡写真(図6(c))には非発光斑点を確認できなかった。それだけでなく、図6(b)に示すELスペクトルから分かるように、発光層からの発光とは明らかに異なる発光(波長が395nm付近に現れるピーク)の発光強度が激減した。その理由としては、第2の検証用ウエハでは、InGaN井戸層よりもn側では、ポテンシャルエネルギーに大差がないので、基板側から供給されたキャリアがトラップされる層が存在しないからであると考えられる。
以上の結果から、図4(b)および図5(b)において電流注入量の増大に伴って発光層からの発光とは明らかに異なる発光が観測された原因は、InGaN光ガイド層でキャリアの再結合が起きるからだということがわかった。さらに、第2の検証用ウエハにおいて395nm付近での発光強度が大幅に減少したことから、理由は定かではないが、発光層からの発光とは明らかに異なる発光の大半は第2のInGaN光ガイド層ではなく第1のInGaN光ガイド層で生じていることも分かった。
また、図6(a)〜(c)に示す結果から、InGaN光ガイド層でキャリアを無駄に消費させないためには、InGaN光ガイド層でキャリアが溜まりにくい構造にすれば良いことが分かった。そこで、図7(a)に示すバンド構造を有するウエハ(第3の検証用ウエハ)を作製して、蛍光顕微鏡を用いて発光層を観察し、電流注入により発した光のELスペクトルを測定した。図7(a)〜(c)は、それぞれ、第3の検証用ウエハのバンド構造、ELスペクトル、および蛍光顕微鏡写真である。
第3検証用ウエハでは、第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層とInGaN井戸層との間に第1のGaN層(層厚が3nm)が設けられており、第2のIn0.066Ga0.934N光ガイド層とInGaN井戸層との間に第2のGaN層(層厚が3nm)が設けられている。このように第3の検証用ウエハでは、層厚が3nmであるGaN層がInGaN光ガイド層とInGaN井戸層との間に設けられているので、395nm付近での発光は殆ど観測されなくなり(図7(b))、非発光斑点も観測されなかった(図7(c))。
これらの実験結果から、キャリアが発光層以外で消費されてしまうことを防止するためには、低In層の層厚を3nm以下にしなければならないことが分かった。その理由としては、低In層の層厚が3nm以下であれば、キャリアが第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層にトラップされた場合であっても、そのキャリアがトンネル効果によりInGaN井戸層へ移動できるからであると考えられる。なお、低In層を構成する材料としてGaNを用いたが、In組成比が2.0%未満のInGaNであることが好ましい。InGaNのポテンシャルエネルギーはGaNのポテンシャルエネルギーよりも低いので、キャリアが第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層からInGaN井戸層へ移動するときのエネルギー障壁を低くすることができる。したがって、キャリアがInGaN光ガイド層で溜まることをより一層防止できる。
また、図6(a)〜(c)に示す結果から、第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層とInGaN井戸層との間に膜厚が3nm以下の第1のGaN層が設けられていれば、キャリアが発光層以外の層で消費されることを防止できることが分かった。また、図7(a)〜(c)に示す結果から、第2のIn0.066Ga0.934N光ガイド層とInGaN井戸層との間にも膜厚が3nm以下の第2のGaN層が設けられていれば、キャリアが発光層以外の層で消費されることをさらに防止できることが分かった。
本発明者らは、層厚が1nm以上3nm以下の低In層、つまり本発明における第1の窒化物半導体層15および第2の窒化物半導体層17を構成する窒化物半導体材料を最適化するために、第1の窒化物半導体層15および第2の窒化物半導体層17をAlGaNからなる層としてウエハを作製し、そのウエハに電流を注入して発した光のELスペクトルを測定した。図8(a)〜(b)は、それぞれ、このウエハのバンド構造およびELスペクトルである。
図8(b)に示すように、発光層からの発光とは明らかに異なる発光が観測された。その理由としては、AlGaNのポテンシャルエネルギーがGaNのポテンシャルエネルギーよりも大きいため、キャリアが第1のIn0.066Ga0.934N光ガイド層から発光層における井戸層へ移動するときのエネルギー障壁が高くなるからであると考えられる。
以上をまとめると、第1のInGaN光ガイド層14および発光層16における井戸層のそれぞれに接するように膜厚が1nm以上3nm以下の第1の窒化物半導体層15を第1のInGaN光ガイド層14と発光層16における井戸層との間に設けると、InGaN光ガイド層に起因する非発光斑点の発生を防止でき、また発光層以外でキャリアが消費されることを防ぐことができる(発光層以外の層が発光することを防止できる)。これにより、閾値電流密度の低減と長寿命化とを図ることができる。
さらに、第1の窒化物半導体層15だけでなく第2の窒化物半導体層17も設けることによって、InGaN光ガイド層に起因する非発光斑点の発生をより一層防止でき、発光層以外でキャリアが消費されることをより一層防ぐことができる。
なお、第1の窒化物半導体層15はアンドープ層であっても良いし、n型不純物を含んでいても良い。第1の窒化物半導体層15がn型層である場合、第1の窒化物半導体層15におけるn型不純物濃度は特に限定されず、1×1017cm-3以上5×1018cm-3以下であれば良い。第2の窒化物半導体層17はアンドープ層であっても良いし、p型不純物を含んでいても良い。第2の窒化物半導体層17がp型層である場合、第2の窒化物半導体層17におけるp型不純物濃度は特に限定されず、5×1017cm-3以上3×1018cm-3以下であれば良い。
<実施例1>
図9は、実施例1に係るウエハの概略断面図である。本実施例に係るウエハ110では、n型GaN基板111の(0001)面上に、n型GaN層112、n型AlGaNクラッド層113、n型GaN層114、第1のノンドープInGaN光ガイド層115、第1のノンドープGaN層116、発光層117、第2のノンドープGaN層118、第2のノンドープInGaN光ガイド層119、ノンドープGaN中間層120、p型AlGaN層121、p型AlGaNクラッド層122、およびp型GaNコンタクト層123が順次積層されている。本実施例では、以下に示す方法にしたがってレーザ素子を作製し、得られたレーザ素子の閾値電流密度および寿命を測定した。
まず、MOCVD装置内においてn型GaN基板111を1050℃まで加熱した。その温度に保持した状態で、III族元素の原料であるトリメチルガリウム(TMG)、アンモニアガス、およびドーピングガスであるSiH4を導入して、n型GaN基板111上に厚さ0.5μmのn型GaN層112を形成した。このn型GaN層112は、研磨されたn型GaN基板111の表面モフォロジーを改善するために形成され、n型GaN基板111の表面に残留する応力歪みを緩和させてエピタキシャル成長に適したn型GaN基板111の表面を得るために形成される。
次に、MOCVD装置内にIII族元素の原料であるトリメチルアルミニウム(TMA)も加えて、厚さ1.2μmでSi不純物濃度が1×1018個/cm3のn型AlGaNクラッド層113を形成した。このn型AlGaNクラッド層113におけるAl組成比は7%であった。
続いて、MOCVD装置内へのTMAの導入を停止して、厚さ0.2μmからなるn型GaN層114を形成した。このn型GaN層114におけるSi不純物濃度は、1×1018個/cm3であった。
その後、基板温度を800℃に低下させた。MOCVD装置内にトリメチルインジウム(TMI)も加えるとともにSiH4の導入を停止して、厚さ50nmの第1のアンドープIn0.06Ga0.94N光ガイド層115を形成した。
第1のアンドープIn0.06Ga0.94N光ガイド層115の上に、厚さ3nmの第1のGaN層116を形成した。その後、第1のGaN層116の上に、厚さ3nmのアンドープIn0.30Ga0.70N井戸層、厚さ16nmのアンドープGaN障壁層、および厚さ3nmのアンドープIn0.30Ga0.70N井戸層を順に積層して発光層117を形成した。発光層117の上に、厚さ3nmの第2のGaN層118、厚さ50nmの第2のノンドープIn0.06Ga0.94N光ガイド層119、および厚さ20nmのノンドープGaN中間層120を順に形成した。
このように、第1のGaN層116は、第1のノンドープIn0.06Ga0.94N光ガイド層115と発光層117のアンドープIn0.30Ga0.70N井戸層との間に設けられ、第1のノンドープIn0.06Ga0.94N光ガイド層115および発光層117のアンドープIn0.30Ga0.70N井戸層に接していた。第2のGaN層118は、発光層117のアンドープIn0.30Ga0.70N井戸層と第2のノンドープIn0.06Ga0.94N光ガイド層119との間に設けられ、発光層117のアンドープIn0.30Ga0.70N井戸層および第2のノンドープIn0.06Ga0.94N光ガイド層119に接していた。
その後、基板温度を再び1050℃まで昇温させた。(EtCp)2Mg(Mgの原料ガス)を供給して、厚さ20nmのp型Al0.20Ga0.80N層121、厚さ0.4μmのp型Al0.05Ga0.95Nクラッド層122、および厚さ0.1μmのp型GaNコンタクト層123を順に形成した。これにより、ウエハ110が得られた。
なお、上記ウエハ110の製造方法の記載と一部重複するが、GaN層の形成時にはMOCVD装置にTMGおよびNH3を導入し、InGaN層の形成時にはMOCVD装置にTMG、TMIおよびNH3を導入し、AlGaN層の形成時にはMOCVD装置にTMG、TMAおよびNH3を導入した。また、n型層の形成時にはMOCVD装置にSiH4を導入し、p型層の形成時にはMOCVD装置に(EtCp)2Mgを供給した。
そして、ウエハ110の一部分をエッチングにより除去してから、n側電極およびp側電極を形成した。これにより、本実施例に係るレーザ素子が得られた。得られたレーザ素子の発振波長は510nmであった。また、得られたレーザ素子の閾値電流密度は3.8kA/cm2であった。さらに、得られたレーザ素子に対して30mWの電力を印加して寿命試験を行なったところ、寿命は3000時間以上であった。このように本実施例では、レーザ特性に優れたレーザ素子が得られた。
<実施例2>
図10は、実施例2に係るウエハの概略断面図である。本実施例では、上記実施例1とは、第1のInGaN光ガイド層がn型である点、In組成比が2%未満のInGaNからなる第1の窒化物半導体層を用いる点、および第2の窒化物半導体層が設けられていない点などを異にする。具体的には、本実施例に係るウエハ210では、n型GaN基板211の(0001)面上に、n型GaN層212、n型AlGaNクラッド層213、n型GaN層214、第1のn型InGaN光ガイド層215、第1のノンドープInGaN層216、発光層217、p型AlGaN層221、第2のp型InGaN光ガイド層219、p型GaN中間層220、p型AlGaNクラッド層222、およびp型GaNコンタクト層223が順次積層されている。本実施例でも、以下に示す方法にしたがってレーザ素子を作製し、得られたレーザ素子の閾値電流密度および寿命を測定した。
まず、MOCVD装置内においてn型GaN基板211を1050℃まで加熱した。その温度に保持した状態で、III族元素の原料であるトリメチルガリウム(TMG)、アンモニアガス、およびドーピングガスであるSiH4を導入して、n型GaN基板211上に厚さ0.3μmのn型GaN層212を形成した。このn型GaN層212は、研磨されたn型GaN基板211の表面モフォロジーを改善するために形成され、n型GaN基板211の表面に残留する応力歪みを緩和させてエピタキシャル成長に適したn型GaN基板211の表面を得るために形成される。
次に、MOCVD装置内にIII族元素の原料であるトリメチルアルミニウム(TMA)も加えて、厚さ0.9μmでSi不純物濃度が1×1018個/cm3のn型AlGaNクラッド層213を形成した。このn型AlGaNクラッド層213におけるAl組成比は8%であった。
続いて、MOCVD装置内へのTMAの導入を停止して、厚さ0.2μmからなるn型GaN層214を形成した。このn型GaN層214におけるn型不純物濃度は、1×1018個/cm3であった。
その後、基板温度を800℃に低下させ、MOCVD装置内にトリメチルインジウム(TMI)も加えて、厚さ75nmの第1のn型In0.045Ga0.955N光ガイド層215を形成した。第1のn型In0.045Ga0.955N光ガイド層215におけるn型不純物濃度は1×1018個/cm3であった。
第1のn型In0.045Ga0.955N光ガイド層215の上に、厚さ3nmの第1のノンドープIn0.01Ga0.99N層216を形成した。その後、第1のノンドープIn0.01Ga0.99N層216の上に、厚さ3nmのアンドープIn0.35Ga0.65N井戸層、厚さ10nmのアンドープAl0.03Ga0.97N障壁層、および厚さ3nmのアンドープIn0.35Ga0.65N井戸層を順に形成して発光層217を形成した。
このように、第1のIn0.01Ga0.99N層216は、第1のn型In0.045Ga0.955N光ガイド層215と発光層217のアンドープIn0.35Ga0.65N井戸層との間に設けられ、第1のn型In0.045Ga0.955N光ガイド層215および発光層217のアンドープIn0.35Ga0.65N井戸層に接していた。
発光層217を形成後、基板温度を再び1050℃まで上昇させた。MOCVD装置内へ(EtCp)2Mgを導入して、厚さ20nmのp型Al0.15Ga0.85N層221、厚さ75nmの第2のp型In0.045Ga0.955N光ガイド層219、厚さ5nmのp型GaN中間層220とをこの順に積層した。このとき、第2のp型In0.045Ga0.955N光ガイド層219におけるMg不純物濃度は、8×1017個/cm3であった。そして、基板温度を再び1050℃まで上昇させて、厚さ0.4μmのp型Al0.04Ga0.96Nクラッド層222、および厚さ0.1μmのp型GaNコンタクト層223を順次形成した。これにより、ウエハ210が得られた。その後は、上記実施例1と同様の方法にしたがって、本実施例に係るレーザ素子を得、得られたレーザ素子の発振波長、閾値電流密度、および寿命を測定した。本実施例では、発振波長が520nmであり、閾値電流密度が5.8kA/cm2であり、寿命が1000時間以上であり、よって、レーザ特性に優れたレーザ素子が得られた。
なお、上記ウエハ210の製造方法の記載と一部重複するが、GaN層の形成時にはMOCVD装置にTMGおよびNH3を導入し、InGaN層の形成時にはMOCVD装置にTMG、TMIおよびNH3を導入し、AlGaN層の形成時にはMOCVD装置にTMG、TMAおよびNH3を導入した。また、n型層の形成時にはMOCVD装置にSiH4を導入し、p型層の形成時にはMOCVD装置に(EtCp)2Mgを供給した。
本実施例では、第1のInGaN光ガイド層215にSiがドーピングされている。よって、本実施例では、第1の窒化物半導体層(第1のIn0.01Ga0.99N層216)を設けることによってだけでなく、第1のInGaN光ガイド層にSiがドーピングされていることによっても、発光層以外でのキャリアの損失を抑制できる。
本実施例では、本発明にかかる第2の窒化物半導体層が設けられていないが、第2のInGaN光ガイド層219にMgがドーピングされている。よって、第2のInGaN光ガイド層219に起因する発光(キャリアの損失)をさらに抑えることができる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10,110,210 ウエハ、11 窒化物半導体基板、12 n型AlGaNクラッド層、13 GaN層、14 第1のInGaN光ガイド層、15 第1の窒化物半導体層、16 発光層、17 第2の窒化物半導体層、18 第2のInGaN光ガイド層、19 GaN中間層、20 p型AlGaN層、21 p型AlGaNクラッド層、22 p型GaNコンタクト層。

Claims (5)

  1. 窒化物半導体基板の上に、n型AlGaNクラッド層、第1のInGaN光ガイド層、発光層、第2のInGaN光ガイド層、およびp型AlGaNクラッド層がこの順に設けられ、460nm以上の発振波長を有する窒化物半導体レーザ素子であって、
    前記n型AlGaNクラッド層におけるAl組成比は6.5%以上8%以下であり、前記n型AlGaNクラッド層の層厚は0.9μm以上1.3μm以下であり、
    前記第1のInGaN光ガイド層および前記第2のInGaN光ガイド層のそれぞれにおけるIn組成比は3.5%以上7%以下であり、前記第1のInGaN光ガイド層および前記第2のInGaN光ガイド層のそれぞれの層厚は50nm以上80nm以下であり、
    前記発光層は、2以上の井戸層と、1以上の障壁層とを有し、
    前記第1のInGaN光ガイド層と前記井戸層との間に、層厚が1nm以上3nm以下であって、且つIn組成比が2.0%未満であるInGaNまたはGaNからなる第1の窒化物半導体層が、当該第1のInGaN光ガイド層および当該井戸層のそれぞれに接して設けられている窒化物半導体レーザ素子。
  2. 前記井戸層と前記第2のInGaN光ガイド層との間に、層厚が1nm以上3nm以下であって、且つIn組成比が2.0%未満であるInGaNまたはGaNからなる第2の窒化物半導体層が、当該井戸層および当該第2のInGaN光ガイド層のそれぞれに接して設けられている請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  3. 前記第1のInGaN光ガイド層におけるSi濃度は、1×1017cm-3以上5×1018cm-3以下である請求項1または2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  4. 前記第2のInGaN光ガイド層におけるMg濃度は、5×1017cm-3以上3×1018cm-3以下である請求項1〜3のいずれかに記載の窒化物半導体レーザ素子。
  5. 前記井戸層の層数は、3以下である請求項1〜4のいずれかに記載の窒化物半導体レーザ素子。
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