本発明は、窒化物半導体発光ダイオード素子およびその製造方法に関し、特に、高い電流密度の電流を注入したときの発光効率を向上させることができる窒化物半導体発光ダイオード素子およびその窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法に関する。
たとえば、特許第3705047号公報(特許文献1)には、従来の窒化物半導体発光ダイオード素子の活性層として、図13の模式的拡大断面図に示すような構成の活性層117が開示されている(たとえば特許文献1の図2等参照)。
ここで、活性層117は、n型クラッド層115とp型クラッド層116との間に設置されており、n型クラッド層115側から障壁層113と井戸層111と中間層112とがこの順序で積層された積層構造を2周期以上含む多重量子井戸構造を有するとともに、最もp型クラッド層116の近くに位置する中間層112上に障壁層113を有している。また、中間層112は、障壁層113よりもバンドギャップエネルギが大きいAlGaNからなる構成とされている。
従来から、窒化物半導体発光ダイオード素子の活性層に障壁層と井戸層との積層構造を2周期以上含む多重量子井戸構造を採用することにより量子効果で高い発光効率が得られることが知られている。
しかしながら、非特許文献1によれば、多重量子井戸構造を有する活性層における発光に際しては、複数存在する井戸層からすべて均一に発光されているわけではなく、p型窒化物半導体層側の井戸層に偏った発光となっていることが報告されている。
その結果、発光効率がピークとなるときに窒化物半導体発光ダイオード素子に注入される電流の電流密度が小さくなるため、窒化物半導体発光ダイオード素子に高い電流密度で電流を注入したときの発光効率が低下する要因となっている。
高い電流密度で電流を注入して窒化物半導体発光ダイオード素子を駆動させることによって、発光面積あたりの光量を増やすことができ、その結果として窒化物半導体発光ダイオード素子を小型化することができる。また、窒化物半導体発光ダイオード素子の単価も下げることができる。
したがって、高い電流密度の電流を注入したときの発光効率を向上させることができる窒化物半導体発光ダイオード素子およびその窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法が要望されている。
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、高い電流密度の電流を注入したときの発光効率を向上させることができる窒化物半導体発光ダイオード素子およびその窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法を提供することにある。
本発明は、n型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層との間に設置された窒化物半導体活性層とを含み、窒化物半導体活性層は井戸層と中間層と障壁層との積層構造を2周期以上含む多重量子井戸構造を有し、障壁層はInを含む窒化物半導体層であり、中間層は障壁層よりもInの混晶比が小さい窒化物半導体層であって、中間層が積層構造間にも設置されている窒化物半導体発光ダイオード素子である。
ここで、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子において、障壁層はInGaN層であることが好ましい。
また、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子において、中間層の厚さは4nm以下であることが好ましい。
また、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子において、中間層はInの混晶比が3%以下のInGaN層であることが好ましい。
また、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子において、中間層はAlの混晶比が5%以下のAlGaN層であることが好ましい。
また、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子において、中間層はGaN層であることが好ましい。
また、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子において、障壁層の厚さは4nm以下であることが好ましい。
また、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子において、障壁層のInの混晶比は井戸層のInの混晶比よりも小さいことが好ましい。
また、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子において、障壁層のInの混晶比は5%以上15%以下であることが好ましい。
また、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子において、井戸層のうちp型窒化物半導体層に最も近い位置に設置されている井戸層とp型窒化物半導体層との間に、GaN層およびAlGaN層の少なくとも一方が含まれることが好ましい。
また、本発明は、上記のいずれかの窒化物半導体発光ダイオード素子を製造する方法であって、井戸層を形成する工程と、井戸層上に中間層を形成する工程と、中間層上に障壁層を井戸層よりも高い成長温度で形成する工程とを含む窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法である。
さらに、本発明は、上記のいずれかの窒化物半導体発光ダイオード素子を製造する方法であって、第1の井戸層を形成する工程と、第1の井戸層上に第1の中間層を形成する工程と、第1の中間層上に障壁層を形成する工程と、障壁層上に第2の中間層を形成する工程と、第2の中間層上に第2の井戸層を形成する工程とを含み、第2の中間層の成長温度が、第2の井戸層の成長温度よりも高い窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法である。
本発明によれば、高い電流密度の電流を注入したときの発光効率を向上させることができる窒化物半導体発光ダイオード素子およびその窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
図1に、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の一例の模式的な断面図を示す。図1に示す窒化物半導体発光ダイオード素子は、基板1と、基板1上に形成されたn型窒化物半導体層2と、n型窒化物半導体層2上に形成された窒化物半導体活性層3と、窒化物半導体活性層3上に形成されたp型窒化物半導体層4と、p型窒化物半導体層4上に形成された電流拡散層5とを有している。
また、窒化物半導体発光ダイオード素子の電流拡散層5の表面上にはp側パッド電極6が形成されており、n型窒化物半導体層2の表面上にはn側パッド電極7が形成されている。
ここで、基板1としては、たとえば従来から公知のサファイア基板、炭化ケイ素基板または窒化ガリウム基板などを用いることができる。
また、n型窒化物半導体層2としては、たとえば従来から公知のn型窒化物半導体を用いることができ、たとえば、Alx1Iny1Gaz1N(0≦x1≦1、0≦y1≦1、0≦z1≦1、x1+y1+z1≠0)の式で表わされる窒化物半導体結晶にn型不純物をドーピングして形成された層の単層または複数層などを用いることができる。なお、上記の式において、Alはアルミニウムを示し、Inはインジウムを示し、Gaはガリウムを示し、x1はAlの混晶比を示し、y1はInの混晶比を示し、z1はGaの混晶比を示す。また、n型不純物としては、たとえばシリコンおよび/またはゲルマニウムなどを用いることができる。
また、窒化物半導体活性層3は、井戸層3aと中間層3cと障壁層3bとの積層構造を2周期以上含む多重量子井戸構造を有しているとともに、井戸層3aと中間層3cと障壁層3bとの積層構造間に設置されている中間層3cを有する構成となっている。
図2に、図1に示す窒化物半導体活性層3の模式的な拡大断面図を示す。図3に示すように、窒化物半導体活性層3は、n型窒化物半導体層2からp型窒化物半導体層4に向かって、井戸層3a、中間層3c、障壁層3b、中間層3c、井戸層3a、中間層3cおよび障壁層3bの順に積層された構成を有している。そして、最もn型窒化物半導体層2に近い位置に設置されている積層構造(井戸層3aと中間層3cと障壁層3bとの積層構造)上に中間層3cが形成されており、その中間層3c上に再度積層構造(井戸層3aと中間層3cと障壁層3bとの積層構造)が形成される構成が順次繰り返されており、井戸層3aと中間層3cと障壁層3bとの積層構造が中間層3cを介して2周期以上繰り返される構成とされている。
なお、窒化物半導体活性層3に含まれる複数の井戸層3aは、それぞれ同一の材質の窒化物半導体層から構成されていてもよく、その少なくとも一部が材質の異なる窒化物半導体層から構成されていてもよい。
また、障壁層3bとしては、Inを含む窒化物半導体層が用いられるが、なかでも、Iny3Gaz3N(0<y3<1、0<z3<1、0<y3+z3<1)の式で表わされるInGaN層を用いることが好ましい。障壁層3bにIny3Gaz3N(0<y3<1、0<z3<1、0<y3+z3<1)の式で表わされるInGaN層を用いた場合には、井戸層3aとのバンドオフセットを小さくして、各井戸層3aに分配されるキャリアの偏りを低減することができる傾向にあるため、電流密度の大きい電流を注入したときの発光効率がより向上した窒化物半導体発光ダイオード素子を得ることができる傾向にある。またさらに、動作電圧を低減することもできる傾向にある。なお、上記の式において、Inはインジウムを示し、Gaはガリウムを示し、y3はInの混晶比を示し、z3はGaの混晶比を示す。
また、障壁層3bにおける発光を防止する観点からは、障壁層3bのInの混晶比を井戸層3aのInの混晶比よりも小さくすることが好ましい。
また、障壁層3bにおけるInの混晶比は、5%以上15%以下であることが好ましい。障壁層3bにおけるInの混晶比が5%以上である場合には、各井戸層3aに分配されるキャリアの偏りを低減することができる傾向にあるため、電流密度の大きい電流を注入したときの発光効率がより向上した窒化物半導体発光ダイオード素子を得ることができる傾向にある。また、障壁層3bにおけるInの混晶比が15%以下である場合には、障壁層3bの結晶性の悪化を抑制することができる傾向にあるため、結晶性の悪化に起因する窒化物半導体発光ダイオード素子の発光効率の低下を有効に抑止することができる傾向にある。
なお、障壁層3bにおけるInの混晶比が5%以上15%以下であるとは、障壁層3bを構成するIII族元素(Al、GaおよびIn)の総原子数に対するInの原子数の割合(原子%)が5%以上15%以下であることを意味し、たとえば上記のIny3Gaz3Nの式においては、y3が0.05≦y3≦0.15の範囲内の数値であればよい。
また、障壁層3bの厚さh1は4nm以下であることが好ましい。障壁層3bの厚さh1が4nm以下である場合、障壁層3bの結晶性の悪化を抑制することができる傾向にあるため、結晶性の悪化に起因する窒化物半導体発光ダイオード素子の発光効率の低下を有効に抑止することができる傾向にある。
なお、窒化物半導体活性層3に含まれる複数の障壁層3bも、それぞれ同一の材質の窒化物半導体層から構成されていてもよく、その少なくとも一部が材質の異なる窒化物半導体層から構成されていてもよい。
また、中間層3cとしては、障壁層3bよりもInの混晶比が小さい窒化物半導体層(中間層3cがInを含まない窒化物半導体層である場合も含む。)が用いられる。このような中間層3cを、上記の積層構造中および上記の積層構造間にそれぞれ設けることによって、2つの中間層3cの間に井戸層3aを挟んだ構成とすることができる。このような構成とした場合には、井戸層3aの下側に位置する中間層3cはその上の井戸層3aの結晶性の向上に寄与させることができるとともに、井戸層3aの上側に位置する中間層3cはその下の井戸層3aがInを含む窒化物半導体層からなる場合にその井戸層3aからのInの蒸発を有効に防止することができるようになる。
ここで、中間層3cとしては、たとえば従来から公知の窒化物半導体を用いることができ、なかでも、Iny4Gaz4N(0<y4≦0.03、0<z4<1、0<y4+z4<1)の式で表わされるInの混晶比が3%以下のアンドープのInGaN層を用いることが好ましい。中間層3cにIny4Gaz4N(0<y4≦0.03、0<z4<1、0<y4+z4<1)の式で表わされるInの混晶比が3%以下のアンドープのInGaN層を用いた場合には、中間層3cの結晶性が高くなる傾向にあり、それに伴って窒化物半導体活性層3の結晶性も高くなる傾向にあるため、窒化物半導体発光ダイオード素子の発光効率をより高くすることができる傾向にある。なお、上記の式において、Inはインジウムを示し、Gaはガリウムを示し、y4はInの混晶比を示し、z4はGaの混晶比を示す。
また、中間層3cの結晶性を高くする観点からは、中間層3cとして、Alx5Gaz5N(0<x5≦0.05、0<z5<1、0<x5+z5<1)の式で表わされるAlの混晶比が5%以下のアンドープのAlGaN層を用いることも好ましい。
また、中間層3cの結晶性を高くする観点からは、中間層3cとして、アンドープのGaN層を用いることが最も好ましい。
また、中間層3cの厚さh2は4nm以下であることが好ましい。中間層3cの厚さh2が4nm以下である場合、中間層3cでキャリアがトンネリングしやすくなり、井戸層3aの結晶性も高くなり、さらには障壁層3bで井戸層3aとの間のバンドオフセットを小さくすることができる傾向にあるため、電流密度の大きい電流を注入したときの発光効率がより向上した窒化物半導体発光ダイオード素子を得ることができる傾向にある。
なお、窒化物半導体活性層3に含まれる複数の中間層3cも、それぞれ同一の材質の窒化物半導体層から構成されていてもよく、その少なくとも一部が材質の異なる窒化物半導体層から構成されていてもよい。
また、井戸層3aと中間層3cと障壁層3bとの積層構造の周期数は大きいほど大きい電流密度の電流を注入したときに高い発光効率の窒化物半導体発光ダイオード素子を得ることができる点で好ましいが、井戸層3aと障壁層3bとの間のバンドオフセットおよびホールの拡散長により、その周期数はある程度の限度があると考えられる。
また、窒化物半導体活性層3の井戸層3aのうちp型窒化物半導体層4に最も近い位置に設置されている井戸層3aとp型窒化物半導体層4との間にGaN層およびAlGaN層の少なくとも一方が含まれることが好ましい。このGaN層およびAlGaN層はそれぞれp型窒化物半導体層4の形成時における窒化物半導体活性層3からのInの蒸発を抑制することができる蒸発防止層として機能する傾向にある。
また、p型窒化物半導体層4としては、たとえば従来から公知のp型窒化物半導体を用いることができ、たとえば、Alx6Iny6Gaz6N(0≦x6≦1、0≦y6≦1、0≦z6≦1、x6+y6+z6≠0)の式で表わされる窒化物半導体結晶にp型不純物をドーピングして形成された層の単層または複数層などを用いることができる。なお、上記の式において、Alはアルミニウムを示し、Inはインジウムを示し、Gaはガリウムを示し、x6はAlの混晶比を示し、y6はInの混晶比を示し、z6はGaの混晶比を示す。また、p型不純物としては、たとえばマグネシウムおよび/または亜鉛などを用いることができる。
また、電流拡散層5としては、たとえば従来から公知のITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜を用いることができる。
また、p側パッド電極6およびn側パッド電極7としては、たとえば、従来から窒化物半導体発光ダイオード素子のn側パッド電極およびp側パッド電極にそれぞれ用いられている金属などを用いることができる。
以下に、図1に示す構成の本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子は製造方法の一例について説明する。
まず、基板1の表面上に、たとえば従来から公知のMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により、n型窒化物半導体層2、窒化物半導体活性層3およびp型窒化物半導体層4をこの順序で結晶成長させる。
ここで、窒化物半導体活性層3は、たとえば図2に示すように、n型窒化物半導体層2上に、MOCVD法により、井戸層3a、中間層3c、障壁層3bおよび中間層3cをこの順序で繰り返して結晶成長させることにより形成することができる。
なお、障壁層3bは、井戸層3aが形成され、その形成された井戸層3a上に中間層3cが形成された後の中間層3c上に形成されるが、障壁層3bは井戸層3aよりも高い成長温度で形成されることが好ましい。この場合には、障壁層3bの結晶性を向上させることができ、ひいては窒化物半導体活性層3の結晶性を向上させることができるため、窒化物半導体発光ダイオード素子の発光効率をより向上させることができる傾向にある。
また、窒化物半導体活性層3の形成においては、たとえば、井戸層3a(第1の井戸層)、中間層3c(第1の中間層)、障壁層3b、中間層3c(第2の中間層)および井戸層3a(第2の井戸層)の順に結晶成長が行なわれるが、中間層3c(第2の中間層)の成長温度は、井戸層3a(第2の井戸層)の成長温度よりも高いことが好ましい。この場合には、中間層3c(第2の中間層)および井戸層3a(第2の井戸層)の結晶性を向上させることができ、ひいては窒化物半導体活性層3全体の結晶性を向上させることにつながるため、窒化物半導体発光ダイオード素子の発光効率をより向上させることができる傾向にある。
次に、p型窒化物半導体層4の表面上に、たとえば従来から公知のEB(Electron Beam)蒸着法などによって、ITOなどの透明導電膜からなる電流拡散層5を形成する。
その後、電流拡散層5の表面上にp側パッド電極6を形成した後のウエハの一部を電流拡散層5側からn型窒化物半導体層2の表面の一部が露出するまでエッチングする。そのエッチングにより露出したn型窒化物半導体層2の表面上にn側パッド電極7を形成し、n側パッド電極7の形成後のウエハを複数に分割することによって、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子とすることができる。
図3に、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の他の一例の模式的な断面図を示す。図3に示す窒化物半導体発光ダイオード素子においては、基板1に導電性基板を用いており、基板1の裏面にn側パッド電極7を形成している点に特徴がある。
図3に示すような上下電極構造の構成とすることにより、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子を小型化することができる。また、このような構成とすることにより、1枚のウエハから得られる窒化物半導体発光ダイオード素子の数を増加させることができるとともに、上記で説明したようなn型窒化物半導体層2の表面の一部を露出させるエッチング工程が必要なくなるため、窒化物半導体発光ダイオード素子の製造効率を向上させることができる。その他の説明は上記と同様である。
以上のように、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、窒化物半導体活性層3が井戸層3aと中間層3cと障壁層3bとの積層構造を2周期以上含む多重量子井戸構造を有し、障壁層3bがInを含む窒化物半導体層からなり、中間層3cが障壁層3bよりもInの混晶比が小さい窒化物半導体層からなり、さらには中間層3cが上記の積層構造間に設置されていることによって、高い電流密度の電流を注入したときの発光効率を従来よりも向上させることができる。
(実施例1)
まず、図4の模式的断面図に示すような構成のサファイア基板11を用意し、サファイア基板11をMOCVD装置の反応炉内にセットする。
次に、その反応炉内に水素を流しながらサファイア基板11の温度を1050℃まで上昇させることによってサファイア基板11の表面(C面)のクリーニングを行なう。
次に、サファイア基板11の温度を510℃まで低下させ、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニアおよびTMG(トリメチルガリウム)を反応炉内に流すことによって、図5の模式的断面図に示すように、GaNからなるバッファ層41をMOCVD法によりサファイア基板11の表面(C面)上に約20nmの厚さで形成する。
次に、サファイア基板11の温度を1050℃まで上昇させて、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニアおよびTMG、不純物ガスとしてシランを反応炉内に流すことによって、図6の模式的断面図に示すように、Si(シリコン)がドーピングされたGaNからなるn型窒化物半導体下地層12a(キャリア濃度:1×1018/cm3)をMOCVD法によりバッファ層41上に6μmの厚さで形成する。
次に、図7の模式的断面図に示すように、キャリア濃度が5×1018/cm3となるようにSiをドーピングすること以外はn型窒化物半導体下地層12aと同様にして、GaNからなるn型窒化物半導体コンタクト層12bをMOCVD法によりn型窒化物半導体下地層12a上に0.5μmの厚さで形成する。
以上により、n型窒化物半導体下地層12aとn型窒化物半導体コンタクト層12bとの積層体からなるn型窒化物半導体層12を形成する。
次に、サファイア基板11の温度を700℃に低下し、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニア、TMGおよびTMI(トリメチルインジウム)を反応炉内に流すことによって、MOCVD法による結晶成長により、図8の模式的断面図に示すように、n型窒化物半導体コンタクト層12b上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13a、2nmの厚さのGaNからなる中間層13c、4nmの厚さのIn0.10Ga0.90Nからなる障壁層13bおよび2nmの厚さのGaNからなる中間層13cの積層構造を1周期として5周期形成し、さらにその上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13aをMOCVD法による結晶成長により形成することによって多重量子井戸構造を有する窒化物半導体活性層13を形成する。ここで、窒化物半導体活性層13の形成時において、GaNからなる中間層13cを形成する際にはTMIを反応炉内に流していないことは言うまでもない。
次に、サファイア基板11の温度を700℃に保持し、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニアおよびTMGを反応炉内に流すことによって、図8の模式的断面図に示すように、10nmの厚さのGaNからなる蒸発防止層42をMOCVD法により形成する。
次に、サファイア基板11の温度を950℃に上昇させ、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニア、TMGおよびTMA(トリメチルアルミニウム)、不純物ガスとしてCP2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を反応炉内に流すことによって、Mgが1×1020/cm3の濃度でドーピングされたAl0.20Ga0.80Nからなるp型窒化物半導体クラッド層を、MOCVD法により、蒸発防止層42上に約20nmの厚さで形成する。
次に、サファイア基板11の温度を950℃に保持し、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニアおよびTMG、不純物ガスとしてCP2Mgを反応炉内に流すことによって、Mgが1×1020/cm3の濃度でドーピングされたGaNからなるp型窒化物半導体コンタクト層をMOCVD法によりp型窒化物半導体クラッド層上に80nmの厚さで形成する。
以上により、図9の模式的断面図に示すように、蒸発防止層42上に、p型窒化物半導体クラッド層とp型窒化物半導体コンタクト層との積層体からなるp型窒化物半導体層14を形成する。
次に、サファイア基板11の温度を700℃まで低下させて、キャリアガスとして窒素を反応炉内に流してアニーリングを行なう。
次に、上記のアニーリング後のウエハを反応炉内から取り出し、図10の模式的断面図に示すように、そのウエハの最上層を構成しているp型窒化物半導体層14上にEB蒸着によりITOからなる電流拡散層15を100nmの厚さに形成する。
次に、電流拡散層15の表面上に所定の形状に開口部を有するようにパターニングされたマスクを形成し、RIE(反応性イオンエッチング)装置で、電流拡散層15側からウエハのエッチングを行ない、図11の模式的断面図に示すように、n型窒化物半導体コンタクト層12bの表面の一部を露出させる。
次に、図12の模式的断面図に示すように、電流拡散層15の表面上およびn型窒化物半導体コンタクト層12bの表面上の所定の位置にそれぞれTiとAlとを含むp側パッド電極16およびn側パッド電極17をそれぞれ形成する。その後、p側パッド電極16およびn側パッド電極17の形成後のウエハを分割することにより、実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子を得る。
この実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、たとえば50A/cm2以上の高い電流密度の電流を注入したときの発光効率が従来よりも向上する。また、実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子は、駆動電圧が低く、電力効率に優れている。
(実施例2)
実施例2においては、窒化物半導体活性層13の形成条件を変更すること以外は実施例1と同様にして窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
すなわち、実施例2においては、n型窒化物半導体層12の形成後に、サファイア基板11の温度を700℃に低下し、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニア、TMGおよびTMIを反応炉内に流すことによって、MOCVD法による結晶成長により、図8の模式的断面図に示すように、n型窒化物半導体コンタクト層12b上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13a、2nmの厚さのGaNからなる中間層13c、TMIのTMGに対する流量を調節することによってInの混晶比を0%よりも大きく20%以下までの範囲内の任意の値に調節して4nmの厚さのInGaNからなる障壁層13b、および2nmの厚さのGaNからなる中間層13cの積層構造を1周期として5周期形成する。さらにその上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13aをMOCVD法による結晶成長により形成することによって多重量子井戸構造を有する窒化物半導体活性層13を形成する。それ以外は、実施例1と同様にして実施例2の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
この実施例2の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、たとえば50A/cm2以上の高い電流密度の電流を注入したときの発光効率は、障壁層13bにおけるInの混晶比が5%以上15%以下の範囲内にあるときに高くなり、10%のときに最も高くなる。
(実施例3)
実施例3においても、窒化物半導体活性層13の形成条件を変更すること以外は実施例1と同様にして窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
ここで、実施例3においては、n型窒化物半導体層12の形成後に、サファイア基板11の温度を700℃に低下し、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニア、TMGおよびTMIを反応炉内に流すことによって、MOCVD法による結晶成長により、図8の模式的断面図に示すように、n型窒化物半導体コンタクト層12b上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13a、2nmの厚さのGaNからなる中間層13c、結晶成長時間を調節することによって厚さを1nm〜8nmまでの範囲内の任意の値に調節してIn0.10Ga0.90Nからなる障壁層13b、および2nmの厚さのGaNからなる中間層13cの積層構造を1周期として5周期形成する。さらにその上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13aをMOCVD法による結晶成長により形成することによって多重量子井戸構造を有する窒化物半導体活性層13を形成する。それ以外は、実施例1と同様にして実施例3の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
この実施例3の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、たとえば50A/cm2以上の高い電流密度の電流を注入したときの発光効率は、障壁層13bの厚さが4nm以下となるときに高くなり、2nmのときにはさらに発光効率が高くなる。
(実施例4)
実施例4においても、窒化物半導体活性層13の形成条件を変更すること以外は実施例1と同様にして窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
ここで、実施例4においては、n型窒化物半導体層12の形成後に、サファイア基板11の温度を700℃に低下し、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニア、TMGおよびTMIを反応炉内に流すことによって、MOCVD法による結晶成長により、図8の模式的断面図に示すように、n型窒化物半導体コンタクト層12b上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13a、結晶成長時間を調節することによって厚さを1nm〜6nmまでの範囲内の任意の値に調節してGaNからなる中間層13c、4nmの厚さのIn0.10Ga0.90Nからなる障壁層13b、および結晶成長時間を調節することによって厚さを1nm〜6nmまでの範囲内の任意の値に調節してGaNからなる中間層13cの積層構造を1周期として5周期形成する。さらにその上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13aをMOCVD法による結晶成長により形成することによって多重量子井戸構造を有する窒化物半導体活性層13を形成する。それ以外は、実施例1と同様にして実施例4の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
この実施例4の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、たとえば50A/cm2以上の高い電流密度の電流を注入したときの発光効率は、井戸層13aの上方および下方に位置する中間層13cのそれぞれの厚さが4nm以下となるときに高くなり、2nmとなるときにはさらに発光効率が高くなる。
(実施例5)
実施例5においては、窒化物半導体活性層13の形成条件を変更すること以外は実施例1と同様にして窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
すなわち、実施例5においては、n型窒化物半導体層12の形成後に、サファイア基板11の温度を700℃に低下し、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニア、TMGおよびTMIを反応炉内に流すことによって、MOCVD法による結晶成長により、図8の模式的断面図に示すように、n型窒化物半導体コンタクト層12b上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13a、TMIのTMGに対する流量を調節することによってInの混晶比を0%以上5%以下までの範囲内の任意の値に調節して2nmの厚さのInGaN(Inの混晶比が0%のときはGaN)からなる中間層13c、4nmの厚さのIn0.10Ga0.90Nからなる障壁層13b、およびTMIのTMGに対する流量を調節することによってInの混晶比を0%以上5%以下までの範囲内の任意の値に調節して2nmの厚さのInGaN(Inの混晶比が0%のときはGaN)からなる中間層13cの積層構造を1周期として5周期形成する。さらにその上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13aをMOCVD法による結晶成長により形成することによって多重量子井戸構造を有する窒化物半導体活性層13を形成する。それ以外は、実施例1と同様にして実施例5の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
この実施例5の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、たとえば50A/cm2以上の高い電流密度の電流を注入したときの発光効率は、井戸層13aの上方および下方に位置する中間層13cのそれぞれがInの混晶比が3%以下のInGaNからなるときに高くなり、Inの混晶比が0%のGaNからなるときにはさらに発光効率が高くなる。
(実施例6)
実施例6においては、窒化物半導体活性層13の形成条件を変更すること以外は実施例1と同様にして窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
すなわち、実施例6においては、n型窒化物半導体層12の形成後に、サファイア基板11の温度を700℃に低下し、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニアとともに、TMG、TMIおよびTMAの少なくとも1種を適宜反応炉内に流すことによって、MOCVD法による結晶成長により、図8の模式的断面図に示すように、n型窒化物半導体コンタクト層12b上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13a、TMAのTMGに対する流量を調節することによってAlの混晶比を0%以上10%以下までの範囲内の任意の値に調節して2nmの厚さのAlGaN(Alの混晶比が0%のときはGaN)からなる中間層13c、4nmの厚さのIn0.10Ga0.90Nからなる障壁層13b、およびTMAのTMGに対する流量を調節することによってAlの混晶比を0%以上10%以下までの範囲内の任意の値に調節して2nmの厚さのAlGaN(Alの混晶比が0%のときはGaN)からなる中間層13cの積層構造を1周期として5周期形成する。さらにその上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13aをMOCVD法による結晶成長により形成することによって多重量子井戸構造を有する窒化物半導体活性層13を形成する。それ以外は、実施例1と同様にして実施例6の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
この実施例6の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、たとえば50A/cm2以上の高い電流密度の電流を注入したときの発光効率は、井戸層13aの上方および下方に位置する中間層13cのそれぞれがAlの混晶比が5%以下のAlGaNからなるときに高くなり、Alの混晶比が0%のGaNからなるときにはさらに発光効率が高くなる。
(実施例7)
実施例7においては、窒化物半導体活性層13の形成条件を変更すること以外は実施例1と同様にして窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
すなわち、実施例7においては、n型窒化物半導体層12の形成後に、サファイア基板11の温度を700℃に低下し、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニアとともに、TMGおよびTMIを反応炉内に流すことによって、MOCVD法による結晶成長により、図8の模式的断面図に示すように、n型窒化物半導体コンタクト層12b上に、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13a、2nmの厚さのGaNからなる中間層13cを形成する。そして、サファイア基板11の温度を730℃に上げ、4nmの厚さのIn0.10Ga0.90Nからなる障壁層13b、2nmの厚さのGaNからなる中間層13cを形成する。その後、サファイア基板11の温度を700℃に低下させる。
上記の井戸層13a、中間層13c、障壁層13bおよび中間層13cの積層構造を1周期として5周期形成し、さらにその上に、サファイア基板11の温度が700℃で、2.5nmの厚さのIn0.20Ga0.80Nからなる井戸層13aをMOCVD法による結晶成長により形成することによって多重量子井戸構造を有する窒化物半導体活性層13を形成する。それ以外は、実施例1と同様にして実施例7の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
この実施例7の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、障壁層13bの結晶性が向上することにより、実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子よりも発光効率を高くすることができる。なお、実施例7においては、井戸層13aの上方に形成された中間層13cは、井戸層13aのInの蒸発防止層として機能する。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明によれば、高い電流密度の電流を注入したときの発光効率を向上させることができる窒化物半導体発光ダイオード素子およびその窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法を提供することができる。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の一例の模式的な断面図である。
図1に示す窒化物半導体活性層3の模式的な拡大断面図である。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の他の一例の模式的な断面図である。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
従来の窒化物半導体発光ダイオード素子の活性層の模式的な拡大断面図である。
符号の説明
1 基板、2,12 n型窒化物半導体層、3,13 窒化物半導体活性層、3a,13a,111 井戸層、3b,13b,113 障壁層、3c,13c,112 中間層、4,14 p型窒化物半導体層、5,15 電流拡散層、6,16 p側パッド電極、7,17 n側パッド電極、11 サファイア基板、12a n型窒化物半導体下地層、12b n型窒化物半導体コンタクト層、41 バッファ層、42 蒸発防止層、115 n型クラッド層、116 p型クラッド層、117 活性層。