JP2013014781A - 液晶性樹脂組成物およびそれからなる成形品 - Google Patents

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Abstract

【課題】液晶性樹脂の流動性を維持して、高ウェルド強度および高エポキシ接着強度を有し、熱処理後の表面の平滑性に優れ、耐ブリスター性を有する液晶性樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】液晶性樹脂(A)100重量部に対して、最大繊維長が1000μm以下で、かつ重量平均繊維長が200μm以上450μm以下である繊維状充填剤(B)20〜80重量部を配合してなる液晶性樹脂組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、流動性、ウェルド強度、エポキシ接着強度、熱処理後の表面の平滑性、耐ブリスター性に優れた液晶性樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。
近年、プラスチックの高性能化に対する要求がますます高まり、種々の新規性能を有するポリマーが数多く開発され、市場に供されているが、中でも分子鎖の平行な配列を特徴とする光学異方性の液晶性樹脂は、優れた流動性、耐熱性、低ガス性および機械的性質を有する点で注目されている。
従来、このような特徴を活かし、ガラス繊維で強化された液晶性樹脂組成物が電子部品として多く採用されてきた。また、近年では、電子部品において、組み立て時の接触・摺動により帯電し、静電気障害が生じるという問題が発生しており、それを防止すべく、成形品のプラスチック材料導電性充填剤を配合し、それ自体に帯電防止性能を付与することが行われている。
例えば、特許文献1では、液晶性樹脂に黒鉛、炭素繊維などの繊維状導電性充填剤、およびガラス繊維などの繊維状非導電性充填剤を配合し、帯電防止性を付与している。かかる手法によれば、帯電防止性は付与できるものの、樹脂組成物中に分散しているガラス繊維の重量平均繊維長が長いことから、重量平均繊維長よりも長いガラス繊維が多く存在していることを意味する。
さらに液晶性樹脂組成物の場合、液晶性樹脂の固化速度が速いため、その組成物中に分散している長いガラス繊維は湾曲した状態で存在することがある。この組成物の成形品を、表面実装するためにリフローすると、成形品表面は熱により軟化して、湾曲したガラス繊維に復元力が作用し、図1のように、表面にあるガラス繊維が浮き出してしまい、表面の平滑性が低下するという不具合がある。図1右上は、組成物中に分散している長いガラス繊維が湾曲した状態で存在した状態を例示した写真、図1右下は、組成物中に分散している長いガラス繊維が湾曲した状態で存在した状態の断面をモデル的に示した図、図1左上は、組成物中に分散していた湾曲したガラス繊維に復元力が作用し、表面にあるガラス繊維が浮き出した状態で存在した状態を例示した写真、図1左下は、表面にあるガラス繊維が浮き出した状態で存在した状態の断面をモデル的に示した図である。これは、他の樹脂では見られない特有の現象であるが、上記の通り、長いガラス繊維ほど湾曲して存在し、熱により、表面にあるガラス繊維が浮き出ることが多い。
同様に、成形品表面の平滑性を改善することを目的に、特許文献2では200μm以下のガラス繊維の割合を20〜100重量%にする手法がとられているが、3mm長のガラス繊維を溶融混練によって短くしようとしても、少なからず長いガラス繊維が残存しており、その結果、成形品表面のガラス繊維が浮き出してしまう。さらに、特許文献2では、平均ガラス繊維長200μm以下のミルドファイバーのみを配合した手法も用いられているが、ミルドファイバーのみでは表面が平滑になり過ぎてしまう。つまり、ガスバリア性に優れる液晶性樹脂のスキン層があまり乱れずに形成され、成形時に巻き込まれたエアがリフローによって体積膨張しても成形品外へ逃げることが出来ず、成形品表面のブリスターを形成する、つまり、耐ブリスター性が悪くなってしまう。さらには液晶性樹脂のスキン層は元来耐薬品性が高いためにエポキシ樹脂などと化学的結合は期待できず、物理的接着が主の接着要因となるが、表面が平滑すぎるとエポキシ接着性が低下してしまう点が問題であった。
特開2002−194229号公報 特開平1−167362号公報
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、液晶性樹脂の流動性を維持して、高ウェルド強度および高エポキシ接着強度を有し、熱処理後の表面の平滑性、耐ブリスター性に優れる液晶性樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の繊維状非導電性充填剤および導電性充填剤を液晶性樹脂に特定範囲において添加することにより、液晶性樹脂本来の耐熱性、流動性を維持しながら、高ウェルド強度、エポキシ接着強度、熱処理後の表面平滑性、耐ブリスター性に優れた組成物を見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明は
(1)液晶性樹脂(A)100重量部に対して、最大繊維長が1000μm以下でかつ重量平均繊維長が200μm以上450μm以下で分散している繊維状充填剤(B)20〜80重量部を、配合してなる液晶性樹脂組成物、
(2)繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が200μm〜450μmの区間の積分値が0.5以上である(1)記載の液晶性樹脂組成物、
(3)繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が450μm〜800μmの区間の積分値が0.25以下である上記(1)または(2)に記載の液晶性樹脂組成物
(4)繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が200μm以上450μm以下の範囲で確率密度が最大値を示す上記(1)〜(3)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物、
(5)繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が200μm以上450μm以下の範囲で確率密度の極小値が無い上記(1)〜(4)記載の液晶性樹脂組成物、
(6)さらに、非繊維状充填剤(C)20〜80重量部を、配合してなる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物、
(7)さらに、非繊維状充填剤(C)がタルク、マイカ、黒鉛のいずれかである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物、
(8)さらに、非繊維状充填剤(C)が固定炭素90%以上の黒鉛であり、液晶性樹脂(A)との体積比(C)/(A)が0.15〜0.18の割合で配合してなる上記(1)〜(7)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物、
(9)最大繊維長が1000μm未満の金属繊維(D)を液晶性樹脂(A)との体積比(D)/(A)が0.10〜0.25の割合で配合してなる上記(1)〜(8)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物、
(10)上記(1)〜(9)いずれか記載の液晶性樹脂組成物を成形してなる成形品、である。
本発明によれば、以下に説明するとおり、液晶性樹脂元来の流動性を損なうことなく、高ウェルド性、エポキシ接着性に優れた液晶性樹脂組成物が得られる。さらに熱処理後の表面平滑性、耐ブリスター性に優れた液晶性樹脂組成物および成形品が得られるため、高機能製品に好適に使用される部品、とりわけ電子部品の分野に与える効果が大きい。
液晶性樹脂成形品の未処理の表面状態とリフロー後にガラス繊維が浮き出た状態を例示した写真および概略図である。 (B)繊維状充填剤の重量平均繊維長のヒストグラムの一例である。図2の場合、重量平均繊維長は322μm、最大繊維長は733μmであり、単峰性である。 エポキシ接着性を測定した試験片の概略図である。
本発明は、液晶性樹脂(A)100重量部に対して、最大繊維長が1000μm以下でかつ重量平均繊維長が200μm以上450μm以下の繊維状充填剤(B)20〜80重量部を、配合してなる液晶性樹脂組成物である。
本発明で用いる液晶性樹脂(A)としては、異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリエステルアミドなどが挙げられ、その具体例としては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、エチレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、および上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルアミドが挙げられる。
異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルの例としては、好ましくは下記の(I)、(II)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、および、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルなどが挙げられる。
(ただし式中のR1は、
から選ばれた一種以上の基を示し、R2は、
から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)
上記構造単位(I)は、p−ヒドロキシ安息香酸から生成したポリエステルの構造単位であり、構造単位(II)は、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた一種以上の芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位を、構造単位(III)は、エチレングリコールから生成した構造単位を、構造単位(IV)は、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸から選ばれた一種以上の芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。これらのうちR1が
であり、R2が
であるものが特に好ましい。
また、液晶性ポリエステルアミドの例としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、p−アミノフェノールとテレフタル酸から生成した液晶性ポリエステルアミド、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸、p−アミノ安息香酸およびポリエチレンテレフタレートから生成した液晶性ポリエステルアミド(特開昭64−33123号公報)などが挙げられる。
本発明に好ましく使用できる液晶性ポリエステルは、上記構造単位(I)、(II)および(IV)からなる共重合体、または、(I)、(II)、(III)および(IV)からなる共重合体であり、上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)の共重合量は無作為である。しかし、流動性の点から次の共重合量であることが好ましい。
すなわち、上記構造単位(III)を含む場合は、耐熱性、難燃性および機械的特性の点から、上記構造単位(I)および(II)の合計は、構造単位(I),(II)および(III)の合計に対して60〜95モル%が好ましく、75〜93モル%がより好ましい。また、構造単位(III)は、構造単位(I),(II)および(III)の合計に対して40〜5モル%が好ましく、25〜7モル%がより好ましい。また、構造単位(I)の構造単位(II)に対するモル比[(I)/(II)]は、耐熱性と流動性のバランスの点から好ましくは75/25〜95/5であり、より好ましくは78/22〜93/7である。また、構造単位(IV)は構造単位(II)および(III)の合計と実質的に等モルである。
一方、上記構造単位(III)を含まない場合は、流動性の点から上記構造単位(I)は構造単位(I)および(II)の合計に対して40〜90モル%であることが好ましく、60〜88モル%であることが特に好ましい。構造単位(IV)は構造単位(II)と実質的に等モルである。
なお、上記において「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマー主鎖を構成するユニットとしてはジオキシ単位とジカルボニル単位が等モルであるが、末端を構成するユニットとしては必ずしも等モルとは限らないことを意味する。
なお、本発明で好ましく使用できる上記液晶性ポリエステルを重縮合する際には、上記構造単位(I)〜(IV)を構成する成分以外に、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンなどの芳香族ジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族、脂環式ジオール、m−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸などを、本発明の目的を損なわない程度の少割合の範囲でさらに共重合せしめることができる。
また、液晶性ポリエステルアミドとしては、上記好ましい液晶性ポリエステルに、さらにp−アミノフェノールおよび/またはp−アミノ安息香酸を共重合したものも好ましく挙げることができる。
本発明における液晶性樹脂(A)の製造方法は、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。
例えば、上記の好ましく用いられる液晶性ポリエステルの製造において、上記構造単位(III)を含まない場合は下記(1)および(2)の製造方法が、構造単位(III)を含む場合は下記(3)の製造方法が好ましく挙げられる。
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、4,4’−ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物とテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(3)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマー、オリゴマまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で、(1)または(2)の方法により液晶性ポリエステルを製造する方法。
これらの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を添加した方が好ましいときもある。
本発明における液晶性樹脂(A)は、ペンタフルオロフェノール中で対数粘度を測定することが可能なものもあり、その際には0.1g/dlの濃度で60℃で測定した値で0.5dl/g以上が好ましく、特に上記構造単位(III) を含む場合は1.0〜3.0dl/gが好ましく、上記構造単位(III) を含まない場合は2.0〜10.0dl/gが好ましい。
また、本発明における液晶性樹脂(A)の溶融粘度は、1〜2,000Pa・sが好ましく、特に2〜1,000Pa・sがより好ましい。
なお、上記の溶融粘度は、液晶性樹脂の融点(Tm)+10℃の条件で、ズリ速度1,000/秒の条件下で高架式フローテスターによって測定した値である。
ここで、融点(Tm)とは示差熱量測定によりポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度Tm1の観測後、Tm1+20℃の温度でまで昇温し、同温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度を指す。
本発明で用いる繊維状充填剤(B)の「繊維状」とは、平均繊維長あるいは平均長径/平均繊維径あるいは平均短径(アスペクト比)で10以上の形状のことである。例えば、ガラス繊維、無機系繊維、鉱石系繊維等であり、これらは非導電性の充填剤である。その中でもガラス繊維が好ましく、具体的には例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバー、より好ましくはガラスカットファイバーなどから選択して用いることができる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)により、繊維長、繊維径、長径、短径、あるいは厚みを各100個測定し、その数平均を求め、算出することができる。
本発明で用いる繊維状充填剤(B)は、液晶性樹脂(A)100重量部に対して、20〜80重量部用いられ、好ましくは30〜70重量部用いられる。上記の範囲より少なすぎると、表面平滑性に優れ過ぎて、エポキシ接着性が低下してしまう。また、上記範囲よりも多すぎると、流動性および靭性の低下となってしまう。
また、本発明で用いる繊維状充填剤(B)の重量平均繊維長は200〜450μm、さらには250〜400μmがより好ましい。本発明で用いる繊維状充填剤の重量平均繊維長が上記範囲よりも大きいと、長尺の繊維が多く残存していることになるため、湾曲した繊維も多くなり、熱処理の際に成形品表面の繊維が浮き出し易くなってしまう。重量平均繊維長が上記範囲よりも小さいと、成形品の機械的強度、ウェルド強度が低下し、液晶性樹脂特有のガスバリア性の高い表面を形成してしまい、耐ブリスター性の悪化およびエポキシ接着性が低下する。
また、本発明で用いる繊維状充填剤(B)の最大繊維長は1000μm以下であり、750μmが好ましい。ここで言う最大繊維長は重量平均繊維長を測定する際に測定された最長の繊維状充填剤の長さである。本発明で用いる繊維状充填剤の最大繊維長が1000μmを越えれば、熱処理により成形品表面の繊維状充填剤が浮き出してしまう。
図2に、本発明において好ましく用いられる繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数を例示した。なお、繊維長Liにおける確率密度Piの算出式を式1に示す。
繊維長Liの確率密度(Pi)=(Li×fi)/(Σ(Li×fi)) (式1)
式中のfiは繊維長Liの本数である。
本発明で用いる繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が200μm〜450μmの区間の積分値が0.5以上であることが好ましい。繊維長が200μm〜450μmの区間の積分値が0.5以上である場合、流動性と機械的強度のバランスがとれる。
また、本発明で用いる充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が450μm〜800μmの区間の積分値が0.25以下であることが好ましい。繊維長が450μm〜800μmの区間の積分値が0.25以下である場合、成形時にランダムに発生する充填不足を抑制できる。
本発明で用いる繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数は、繊維長が200μm以上450μm以下の範囲で確率密度が最大値を示すことが好ましい。繊維長の確率密度の最大値が200μm以上450μm以下にある場合、溶融混練が十分であり、成形性や流動性にバラツキが生じることがない。
また、本発明で用いる繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数は、繊維長が200μm以上450μm以下の範囲で確率密度の極小値が無いことが好ましい。繊維長が200μm以上450μm以下の範囲で確率密度の極小値が無い場合、成形性や流動性にバラツキが生じることがない。
ここで、繊維状充填剤の重量平均繊維長および数平均繊維径の測定方法として、液晶性樹脂(A)およびガラス繊維などの繊維状充填剤(B)を含有する組成物からなるペレット10gを空気中において550℃で8時間加熱して樹脂を除去し、光学式顕微鏡を用いて残存した針状充填剤の無作為の500〜2000個の繊維長を倍率120倍にて測定し(イノテック製、Quick Grain Standard)、重量平均繊維長および数平均繊維径を算出した。
本発明で用いる繊維状充填剤(B)の数平均繊維径は、5〜13μmのものが好ましく、6.5〜11μmのものが特に好ましい。本発明で用いる繊維状充填剤の数平均繊維径が5〜13μmであると、成形品表面が平滑になり過ぎず、十分なエポキシ接着性が得られる。さらに、ガスバリア性に優れる液晶性樹脂のスキン層があまり乱れずに形成されてしまうため、成形時に巻き込まれたエアがリフローによって体積膨張しても成形品外へ逃げることが出き、成形品表面にブリスターを発生させる原因とならない。また、薄肉部への充填不足などの流動性の低下の原因となることがない。
本発明の組成物は、電子部品など帯電防止性を要求される用途に使用可能であり、その場合には帯電防止剤をさらに配合することができる。帯電防止剤としては黒鉛や金属繊維(D)などが挙げられる。
本発明で好ましく用いる(C)非繊維状充填剤の「非繊維状」とは、繊維状以外の形態を示すものであり、板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品などが好ましく、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化珪素ウィスカー、タルク、マイカ、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、黒鉛、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物、カーボンブラック、グラファイト、カーボンフレーク、鱗片状カーボンが好ましく、さらにはタルク、マイカ、黒鉛がより好ましい。非繊維状充填剤の特性を最大限発揮するために、(A)液晶性樹脂100重量部に対して、5〜80重量部配合するのがより好ましく、さらに好ましくは20〜60重量部用いられる。非繊維状充填剤(C)を20〜80重量部用いると、液晶性樹脂が本来有する強い分子配向を抑制でき、エポキシ接着性を向上させる効果が得られ、また、流動性が低下しない。
また、本発明で用いる(C)非繊維状充填剤のメディアン径D50は0.2〜100μmのものが好ましく、0.2〜70μmのものが特に好ましい。本発明で用いる非繊維状充填剤のメディアン径D50が0.2μm以上のものを使用することで、同時に配合する繊維状非導電性充填剤(B)の配向を十分に乱すことができ、成形表面の表面粗さが十分なエポキシ接着性を得られる程度の表面粗さとすることができるため好ましい。また、非繊維状充填剤のメディアン径D50が100μm以下のものを使用することで、液晶性樹脂本来の流動性を低下させることがないので好ましい。ここで、非繊維状充填剤のメディアン径D50の測定方法として、液晶性樹脂および(C)非繊維状充填剤などを含む樹脂組成物からなるペレット10gを空気中において550℃で8時間加熱して樹脂を除去し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製LA−920)を用いて測定し、メディアン径を求めた。
本発明で用いる黒鉛の具体例としては、大別して天然黒鉛と人造黒鉛があるが、本発明においては例えば石油コークスまたは石炭コークスを原料とし、これにタール・ピッチなどを加え、約800℃で一次焼成し、さらに約2400〜3000℃に、加熱して黒鉛化する方法で製造される人造黒鉛を用いることが特に好ましい。
また、本発明で好ましく用いる黒鉛の固定炭素は、90%以上であり、特に98%以上が好ましく、さらに99%以上がより好ましい。固定炭素が少なすぎると樹脂の摩耗量が多くなり好ましくない。黒鉛の固定炭素の測定は黒鉛粉末約10gをるつぼに取り、この黒鉛の重量(P)を精秤し、ついで815℃に設定した炉中で燃焼せしめ、ついで室温まで冷却後燃焼残滓の重量(Q)を精秤し、下記式により求めたものである。
固定炭素(%)=(Q)/(P)×100。
本発明で好ましく用いる黒鉛の平均粒径は、0.3〜20μmであり、1〜20μmであることが好ましく、2〜10μmがより好ましい。平均粒径を0.3μm以上とすることで、凝集による分散不良が起こることがなく、20μm以下とすることで、機械物性の低下をおこすことがないので好ましい。ここでの平均粒径の測定法として、液晶性樹脂組成物および黒鉛からなるペレット10gを空気中において550℃で8時間加熱して樹脂を除去し、マイクロトラック(日機装製、MT3300EX、測定時間30秒/回、光透過性:AbsorbまたはTrans、真球か否か:No、粒子の絶対屈折率(光透過性がTransの時のみ)1.81、溶媒(ここでは水)の絶対屈折率1.33)を用いて体積平均粒子径を測定し、平均粒径とした。ここでの平均粒径の測定に用いた溶媒は水であるが、水を溶媒とした場合は黒鉛が分散しない場合があるため、界面活性剤(中性洗剤)を1%濃度に希釈した水溶液を黒鉛に2,3滴直接滴下した後に水となじませ、さらに分散しない場合は超音波バスを使用する。さらに測定に用いる溶媒として、エタノールも使用することができる。黒鉛がエタノールに分散しない場合は超音波バスにより分散させる。
本発明で用いる黒鉛において、上記の黒鉛の場合、液晶性樹脂(A)との体積比、(C)/(A)が0.15〜0.18の割合で用いられることが好ましく、より好ましくは、0.15〜0.175で用いられる。ここで用いる体積比とは、黒鉛(C)の重量部を黒鉛の比重で除した値と、液晶性樹脂(A)の重量部を樹脂の比重で除した値との比の値である。
本発明で好ましく用いる金属繊維(D)において、液晶性樹脂(A)との体積比、(D)/(A)が0.10〜0.25の割合で用いられることが好ましく、より好ましくは、0.16〜0.19で用いられる。ここで用いる体積比とは、金属繊維(D)の重量部を金属繊維の比重で除した値と、液晶性樹脂(A)の重量部を液晶性樹脂の比重で除した値との比の値である。液晶性樹脂(A)との体積比、(D)/(A)が0.10〜0.25の割合であると、帯電防止性や機械特性がよい。
また、本発明で用いる金属繊維(D)の最大繊維長は1000μm未満が好ましく、750μmがより好ましい。
本発明で用いる金属繊維(D)の金属種の具体例としては、鉄、銅、ステンレス、アルミニウムおよび黄銅などを例示することができる。
また、本発明で用いる金属繊維(D)は、いずれもチタネート系、アルミ系およびシラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていてもよい。
また、本発明で用いる金属繊維(D)の種類毎に形状、比重、充填剤の導電率に違いがあるため、金属繊維を配合した成形品の表面固有抵抗が1×10以上1×1012Ω未満となるように、金属繊維の配合量を調整する必要がある。
本発明の液晶性樹脂組成物は、さらに高級脂肪酸金属塩を添加することで、成形加工性を向上せしめることが可能である。なお、ここでいう高級脂肪酸とは、炭素数12以上の脂肪酸を意味し、炭素数12〜22の脂肪酸が好ましく、それらの具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびベヘニン酸などが挙げられる。また、本発明で用いる高級脂肪酸金属塩としては、150℃以上の融点を有するものが、得られる液晶性樹脂組成物の成形加工性の点から好ましく、200℃以上の融点を有するものがより好ましい。具体的には、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ベヘニン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウム、ベヘニン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウム、ベヘニン酸リチウム、ステアリン酸カリウム、およびステアリン酸ナトリウムが用いられ、好ましくはステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウム、ベヘニン酸バリウム、ステアリン酸リチウム、ベヘニン酸リチウム、ステアリン酸カリウム、およびステアリン酸ナトリウムが用いられ、より好ましくはステアリン酸リチウム、ステアリン酸カリウム、およびベヘニン酸リチウムが用いられる。
なお、本発明において、高級脂肪酸の融点は、示差熱量測定により室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度により測定することができる。
上記高級脂肪酸金属塩は、液晶性樹脂組成物の成形加工性、機械特性の点から、(A)、(B)、(C)および(D)の合計100重量部に対し、通常、1.0重量部以下で用いられ、好ましくは0.5重量部以下、より好ましくは0.3重量部以下で用いられる。下限は0.003重量部以上用いることが好ましい。
本発明の液晶性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない程度の範囲で、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、可塑剤、難燃剤、難燃助剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂(フッ素樹脂など)を添加して、所定の特性を付与することができる。
本発明の液晶性樹脂組成物は、溶融混練により製造することが好ましく、溶融混練には公知の方法を用いることができる。例えば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用いることができる。これらのうち、本発明の液晶性樹脂組成物は、強化材を均質に分散性良く混練する必要性から、押出機を用いることが好ましく、二軸押出機を用いることがより好ましく、なかでも中間添加口を有する二軸押出機を用いることが特に好ましい。溶融混練方法は、原料供給口から液晶性樹脂(A)を二軸押出機に供給し、液晶性樹脂(A)を溶融させ、溶融状態の液晶性樹脂(A)に中間添加口から繊維状充填剤(B)、非繊維状充填剤(C)およびまたは(D)を供給するのが好ましい。ただし、高級脂肪酸金属塩は、液晶性樹脂(A)やその他の添加剤とともに二軸押出機中で溶融混練させてもよいが、溶融混練押出後のペレットにブレンド(例えばタンブラーミキサ、リボンブレンダなど)するのが、成形加工性を飛躍的に向上させるにはより好ましい。
かくして得られる成形品は、薄肉構造を有するだけでなく、ウェルド強度、エポキシ接着強度、熱処理後の表面平滑性、耐ブリスター性を有し、さらには帯電防止性をも有する。
そして、本発明の液晶性樹脂組成物は、電気、電子、自動車、機械、雑貨などの用途に限定なく使用できるが、帯電防止性および摺動性が必要な用途に好ましく使用できる。
本発明の液晶性樹脂組成物からなる成形品としては、高機能製品に好適に使用される部品、とりわけ細密な構造の電気・電子用の成形品、具体的には、光学センサーのワク・ハウジング、HDDアクチュエータ、リレーなどのコイル封止部品、金属インサート部品、各種コネクター、精密部品搬送用容器、光ピックアップレンズホルダ、プリント基板状に実装される成形品などが挙げられる。
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
液晶性樹脂(A)の製造方法
[参考例1]
p−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部を、撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら、室温から150℃まで昇温しながら3時間反応させ、150℃から250℃まで2時間で昇温し、250℃から330℃まで1.5時間で昇温させた後、325℃、1.5時間で6.5×10−3Paまで減圧し、さらに約0.25時間撹拌を続けて重縮合を行った。芳香族オキシカルボニル単位80モル当量、芳香族ジオキシ単位7.5モル当量、エチレンジオキシ単位12.5モル当量、芳香族ジカルボン酸単位20モル当量からなる融点314℃、溶融粘度25Pa・s(324℃、オリフィス0.5mm直径×10mm、ズリ速度1,000/秒)の液晶性ポリエステル(A1)を得た。
[参考例2]
p−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル168重量部、テレフタル酸150重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート173重量部および無水酢酸1011重量部を、撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら室温から150℃まで昇温しながら3時間反応させ、150℃から250℃まで2時間で昇温し、250から335℃まで1.5時間で昇温させた後、335℃、1.5時間で6.5×10−3Paまで減圧し、さらに約0.25時間撹拌を続けて重縮合を行った芳香族オキシカルボニル単位80モル当量、芳香族ジオキシ単位10モル当量、エチレンジオキシ単位10モル当量、芳香族ジカルボン酸単位20モル当量からなる融点328℃、溶融粘度18Pa・s(338℃、オリフィス0.5mm直径×10mm、ズリ速度1,000/秒)の液晶性ポリエステル(A2)を得た。
[参考例3]
p−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4´−ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1367重量部(フェノール性水酸基合計の1.03当量)を、撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃で昇温しながら2時間反応させ、145℃から320℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を320℃、1.0時間で133Paに減圧し、さらに約1.5時間攪拌を続けて重縮合を行ったp−オキシベンゾエート単位がp−オキシベンゾエート単位、4,4´−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計に対して70モル当量、4,4´−ジオキシビフェニル単位が4,4´−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計に対して70モル当量、テレフタレート単位がテレフタレート単位およびイソフタレート単位の合計に対して65モル当量からなる融点314℃、溶融粘度25Pa・s(324℃、オリフィス0.5mm直径×10mm、ズリ速度1,000/秒)の液晶性ポリエステル(A3)を得た。
[参考例4]
特開昭54−77691号公報に従って、p−アセトキシ安息香酸921重量部と6−アセトキシ−ナフトエ酸435重量部を、撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重縮合を行った。p−アセトキシ安息香酸から生成した構造単位57モル当量および6−アセトキシ−ナフトエ酸から生成した構造単位22モル当量からなる融点283℃溶融粘度30Pa・s(293℃,オリフィス0.5mm直径×10mm、ズリ速度1,000/秒)の液晶性ポリエステル(A4)を得た。
[実施例1〜4,比較例1〜4]
シリンダー設定温度を液晶性樹脂の融点+10℃、スクリュウ回転数を250rpmに設定した、44mm直径の中間添加口を有する2軸押出機(日本製鋼所製TEX−44)を用いて、参考例1〜3で得た液晶性樹脂(A)100重量部を原料供給口から添加して溶融状態とし、繊維状充填剤(B)および非繊維状充填剤(C)、およびその他の添加剤などを表1に示す割合で中間添加口から供給し、吐出量50kg/時間で溶融混練してペレットを得た。このペレットを用いて下記の各特性を評価した。なお、実施例中の物性の測定および試験は次の方法で行った。その結果を表1に示す。
また、溶融混練して得られたペレットを用いて、繊維状充填剤(B)および金属繊維(D)の重量平均繊維長および最大繊維長、および非繊維状充填剤(C)の平均粒径を前述の手法で測定した。なお、繊維状充填剤(B)、非繊維状充填剤(C)としては、それぞれ下記のものを使用した。
GF1 チョップドストランド(オーウェンスコーニングジャパン社製 DEFT−798 3mm長、平均繊維径6.5μm)
GF2 ガラスカットファイバー(日東紡績社製 SS10−404 溶融混練前の重量平均繊維長=300μm、平均繊維径11μm)
M1 タルク(富士タルク工業社製 NK−64 メディアン径20μm)
M2 マイカ(山口雲母工業所社製 NJ−030 メディアン径30μm)。
[特性の測定法]
流動性
棒流動長:ペレットを”FANUCROBOSHOTα−30i”射出成形機(ファナック株式会社製)に供し、射出速度300mm/秒、射出圧力40MPa、シリンダー設定温度は液晶性樹脂の融点の条件で連続成形(射出時間/冷却時間=1.0/10.0秒,スクリュウ回転数100rpm,背圧1MPa,サックバック10mm,金型温度90℃)を行い、棒状成形品(幅12.7mm,厚み0.5mm、サイドゲート0.5mm×5.0mm)を成形し、成形品の長さを棒流動長として測定した。棒流動長が長いほど、薄肉流動性はよい。棒流動長が、50mm以上のものを「優れる」(二重丸)、30mm以上のものを「良好」(丸)、それよりも小さいものを「劣る」(バツ)とした。
(2)ウェルド強度
曲げ試験:”FANUCROBOSHOTα−30i”射出成形機(ファナック株式会社製)に供し、射出速度150mm/秒、充填時間0.1秒、成形温度は液晶性樹脂の融点+15℃の条件で、連続成形(射出時間/冷却時間=1.0/10.0秒,スクリュウ回転数100rpm,背圧1MPa,サックバック10mm,金型温度90℃)を行い、ウェルド部が最小幅の部位に形成するようJIS2号に準拠した成形品を成形し、成形品の曲げ強度(RTM−500、商標、スパン20mm、ひずみ速度1mm/分)を測定した。ウェルド部の曲げ強度が40MPa以上のものを「優れる」(二重丸)、40MPa未満のものを「劣る」(バツ)とした。
(3)エポキシ接着性
引張剪断試験:図3に示した試験片を用い、図3に示すようにa面及びb面にエポキシ樹脂(XNR3646、商標、ナガセケムテックス製)を塗布し、120℃で2時間硬化して接着し(接着面積0.5cm)、ついで引張試験機(AG500C、商標、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/分で引っ張り、その接着面が剥離した時の荷重を測定した。また、接着面が剥離せず、母材が破壊したものについては、そのときの値を測定した。エポキシ接着強度はその荷重を接着面積で除した値として示した。エポキシ接着強度が5.0MPa以上のものを「優れる」(二重丸)、それより小さいものを「劣る」(バツ)とした。
(4)表面平滑性
耐熱処理:ペレットを”FANUCROBOSHOTα−30i”射出成形機(ファナック株式会社製)に供し、射出速度200mm/秒、射出圧力40MPa、シリンダー設定温度は液晶性樹脂の融点+15℃の条件で連続成形(射出時間/冷却時間=1.0/10.0秒,スクリュウ回転数150rpm,背圧2MPa,サックバック5mm,金型温度90℃)を行い、棒状成形品(幅12.7mm,厚み0.5mm、サイドゲート0.5mm×5.0mm)を成形し、得られた成形品をオーブン(SPH、商標、エスペック製)260℃で3分間処理し、繊維状非導電性充填剤の浮き出しを電子顕微鏡にて観察した。繊維状非導電性充填剤が浮き出なかったものを「優れる」(二重丸)、浮き出たものを「劣る」(×)とした。
(5)耐ブリスター性
耐熱処理:ペレットを”FANUCROBOSHOTα−30i”射出成形機(ファナック株式会社製)に供し、射出速度200mm/秒、射出圧力40MPa、シリンダー設定温度は液晶性樹脂の融点+15℃の条件で連続成形(射出時間/冷却時間=1.0/10.0秒,スクリュウ回転数150rpm,背圧2MPa,サックバック5mm,金型温度90℃)を行い、棒状成形品(幅12.7mm,厚み0.5mm、サイドゲート0.5mm×5.0mm)を成形し、得られた成形品をオーブン(SPH、商標、エスペック製)処理温度260℃で3分間処理し、ブリスターが発生していないものを「優れる」(二重丸)、発生したものを「劣る」(×)とした。
これらの結果を表1に示した。実施例2の重量平均繊維長のヒストグラムを図2に示した。
以上の結果から、本発明の液晶性樹脂組成物は、比較例の樹脂組成物と比較して、流動性を損なうことなく、ウェルド強度、エポキシ接着性を有し、さらに熱処理による繊維状非導電性充填剤の浮き、耐ブリスター性に優れる組成物であることがわかる。
[実施例5〜8,比較例5〜13]
シリンダー設定温度を液晶性樹脂の融点+10℃、スクリュウ回転数を250rpmに設定した、44mm直径の中間添加口を有する2軸押出機(日本製鋼所製TEX−44)を用いて、参考例1〜3で得た液晶性樹脂(A)100重量部を原料供給口から添加して溶融状態とし、繊維状充填剤(B)および固定炭素が90%以上の非繊維状充填剤(C)である黒鉛または金属繊維(D)、およびその他の添加剤などを表2に示す割合で中間添加口から供給し、吐出量50kg/時間で溶融混練してペレットを得た。このペレットを用いて下記の各特性を評価した。なお、実施例中の物性の測定および試験は次の方法で行った。その結果を表2に示す。
また、溶融混練して得られたペレットを用いて、繊維状充填剤(B)および金属繊維(D)の重量平均繊維長および最大繊維長、および黒鉛の平均粒径を前述の手法で測定した。なお、繊維状充填剤(B)、非繊維状充填剤(C)の黒鉛、金属繊維(D)としては、上記のほかにそれぞれ下記のものを使用した。
GF3 ガラスカットファイバー日東紡績社製 SS05C−404 溶融混練前の重量平均繊維長=100μm、平均繊維径11μm)
MF ミルドファイバー(セントラル硝子社製 EFH75−01T 溶融混練前の重量平均繊維長=75μm、平均繊維径11μm)
GP 人造黒鉛(ティムカルジャパン社製 ティムレックス KS10、固定炭素99.9%以上)
SF 金属繊維(SUS304製、400μm長、平均繊維径=10μm)
[特性の測定法]
(6)電気特性
表面固有抵抗:φ100×3t平板試験片を用い、ASTM D257に準拠し表面固有抵抗の測定を行い、試験片5枚の平均値を表面固有抵抗とした。なお、表面固有抵抗の平均は対数平均により求めた。
以上の結果から、本発明の液晶性樹脂組成物は、比較例の樹脂組成物と比較して、流動性を損なうことなく、ウェルド強度、エポキシ接着性を有し、かつ熱処理による繊維状充填剤の浮き、耐ブリスター性に優れ、さらには帯電防止性も付与された組成物であることがわかる。
1 ガラス繊維
2 液晶性樹脂
3 ガラス繊維が突出して残った窪み
E エポキシ樹脂
さらに液晶性樹脂組成物の場合、液晶性樹脂の固化速度が速いため、その組成物中に分散している長いガラス繊維は湾曲した状態で存在することがある。この組成物の成形品を、表面実装するためにリフローすると、成形品表面は熱により軟化して、湾曲したガラス繊維に復元力が作用し、図1のように、表面にあるガラス繊維が浮き出してしまい、表面の平滑性が低下するという不具合がある。図1上は、組成物中に分散している長いガラス繊維が湾曲した状態で存在した状態を例示した写真、図1下は、組成物中に分散している長いガラス繊維が湾曲した状態で存在した状態の断面をモデル的に示した図、図1上は、組成物中に分散していた湾曲したガラス繊維に復元力が作用し、表面にあるガラス繊維が浮き出した状態で存在した状態を例示した写真、図1下は、表面にあるガラス繊維が浮き出した状態で存在した状態の断面をモデル的に示した図である。これは、他の樹脂では見られない特有の現象であるが、上記の通り、長いガラス繊維ほど湾曲して存在し、熱により、表面にあるガラス繊維が浮き出ることが多い。
すなわち、本発明は
(1)液晶性樹脂(A)100重量部に対して、最大繊維長が750μm以下でかつ重量平均繊維長が200μm以上450μm以下で分散している繊維状充填剤(B)20〜80重量部を、配合してなる液晶性樹脂組成物、
(2)繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が200μm〜450μmの区間の積分値が0.5以上である上記(1)記載の液晶性樹脂組成物、
(3)繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が450μm〜800μmの区間の積分値が0.25以下である上記(1)または(2)に記載の液晶性樹脂組成物
(4)繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が200μm以上450μm以下の範囲で確率密度が最大値を示す上記(1)〜(3)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物、
(5)繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が200μm以上450μm以下の範囲で確率密度の極小値が無い上記(1)〜(4)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物、
(6)さらに、非繊維状充填剤(C)20〜80重量部を、配合してなる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物、
(7)さらに、非繊維状充填剤(C)がタルクまたはマイカのいずれかである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物、
)最大繊維長が1000μm未満の金属繊維(D)を液晶性樹脂(A)との体積比(D)/(A)が0.10〜0.25の割合で配合してなる上記(1)〜()のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物、
)上記(1)〜()いずれか記載の液晶性樹脂組成物を成形してなる成形品、である。
本発明は、液晶性樹脂(A)100重量部に対して、最大繊維長が750μm以下でかつ重量平均繊維長が200μm以上450μm以下の繊維状充填剤(B)20〜80重量部を、配合してなる液晶性樹脂組成物である。
[実施例1〜,比較例1〜4]
シリンダー設定温度を液晶性樹脂の融点+10℃、スクリュウ回転数を250rpmに設定した、44mm直径の中間添加口を有する2軸押出機(日本製鋼所製TEX−44)を用いて、参考例1〜3で得た液晶性樹脂(A)100重量部を原料供給口から添加して溶融状態とし、繊維状充填剤(B)および非繊維状充填剤(C)、およびその他の添加剤などを表1に示す割合で中間添加口から供給し、吐出量50kg/時間で溶融混練してペレットを得た。このペレットを用いて下記の各特性を評価した。なお、実施例中の物性の測定および試験は次の方法で行った。その結果を表1に示す。
また、溶融混練して得られたペレットを用いて、繊維状充填剤(B)および金属繊維(D)の重量平均繊維長および最大繊維長、および非繊維状充填剤(C)の平均粒径を前述の手法で測定した。なお、繊維状充填剤(B)、非繊維状充填剤(C)としては、それぞれ下記のものを使用した。
GF1 チョップドストランド(オーウェンスコーニングジャパン社製 DEFT−798 3mm長、平均繊維径6.5μm)
GF2 ガラスカットファイバー(日東紡績社製 SS10−404 溶融混練前の重量平均繊維長=300μm、平均繊維径11μm)
M1 タルク(富士タルク工業社製 NK−64 メディアン径20μm)
M2 マイカ(山口雲母工業所社製 NJ−030 メディアン径30μm)。
実施例4,参考例1〜12
シリンダー設定温度を液晶性樹脂の融点+10℃、スクリュウ回転数を250rpmに設定した、44mm直径の中間添加口を有する2軸押出機(日本製鋼所製TEX−44)を用いて、参考例1〜3で得た液晶性樹脂(A)100重量部を原料供給口から添加して溶融状態とし、繊維状充填剤(B)および固定炭素が90%以上の非繊維状充填剤(C)である黒鉛または金属繊維(D)、およびその他の添加剤などを表2に示す割合で中間添加口から供給し、吐出量50kg/時間で溶融混練してペレットを得た。このペレットを用いて下記の各特性を評価した。なお、実施例中の物性の測定および試験は次の方法で行った。その結果を表2に示す。

Claims (10)

  1. 液晶性樹脂(A)100重量部に対して、最大繊維長が1000μm以下でかつ重量平均繊維長が200μm以上450μm以下の繊維状充填剤(B)20〜80重量部を、配合してなる液晶性樹脂組成物。
  2. 繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が200μm〜450μmの区間の積分値が0.5以上である請求項1記載の液晶性樹脂組成物。
  3. 繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が450μm〜800μmの区間の積分値が0.25以下である請求項1または2記載の液晶性樹脂組成物。
  4. 繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が200μm以上450μm以下の範囲で確率密度が最大値を示す請求項1〜3記載の液晶性樹脂組成物。
  5. 繊維状充填剤(B)の繊維長の確率密度関数において、繊維長が200μm以上450μm以下の範囲で確率密度の極小値が無い請求項1〜4のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物。
  6. さらに、非繊維状充填剤(C)20〜80重量部を、配合してなる請求項1〜5のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物。
  7. さらに、非繊維状充填剤(C)がタルク、マイカ、黒鉛のいずれかである請求項1〜6のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物。
  8. さらに、非繊維状充填剤(C)が固定炭素90%以上の黒鉛であり、液晶性樹脂(A)との体積比(C)/(A)が0.15〜0.18の割合で配合してなる請求項1〜7のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物。
  9. さらに、最大繊維長が1000μm以下の金属繊維(D)を液晶性樹脂(A)との体積比(D)/(A)が0.10〜0.25の割合で配合してなる請求項1〜8のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物を成形してなる成形品。
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