[本発明に先立って発明された先発明]
一方、本発明の発明者らは、本発明に先立って次のような先発明に係る回転電機を発明した。図29〜図31は、先発明に係る回転電機の概略構成を示す図である。図29は、ロータの回転軸と平行方向に見たステータ及びロータの概略構成を示す図である。図30
は、ステータの概略構成を示し、図31は、ロータの概略構成を示している。回転電機10は、図示しないケーシングに固定されたステータ12と、ステータ12と所定の空隙をあけて対向配置され、ステータ12に対し回転可能なロータ14とを備える。図29〜31は、ステータ12とロータ14とが回転軸22と直交する径方向(以下、先発明の説明において単に径方向とする。)において対向配置されたラジアル型の回転電機の例を示しており、ロータ14がステータ12の径方向内側に配置されている。
図30に示すように、ステータ12は、ステータコア26と、ステータコア26に配設された複数相(より具体的には例えばu相、v相、w相の3相)のステータ巻線28u,28v,28wとを含む。ステータコア26には、径方向内側へ(ロータ14(図29)へ向けて)突出する複数のティース30が回転軸22(図29)まわりの周方向に沿って互いに間隔をおいて配列されており、各ティース30間にスロット31が形成されている。すなわち、ステータコア26には、複数のスロット31が周方向に互いに間隔をおいて形成されている。各相のステータ巻線28u,28v,28wは、スロット31を通ってティース30に短節集中巻で巻装されている。このように、ティース30にステータ巻線28u,28v,28wが巻装されることで磁極が構成される。そして、複数相のステータ巻線28u,28v,28wに複数相の交流電流を流すことで、周方向に並べられたティース30が磁化し、周方向に回転する回転磁界をステータ12に生成することができる。
ティース30に形成された回転磁界は、その先端面からロータ14に作用する。図30に示す例では、3相(u相、v相、w相)のステータ巻線28u,28v,28wがそれぞれ巻装された3つのティース30により1つの極対が構成され、4極3相のステータ巻線28u,28v,28wが各ティース30に巻装され、ステータ12の極対数が4極対である。
図31に示すように、ロータ14は、ロータコア16と、ロータコア16に配設された複数のロータ巻線18n,18sとを含む。ロータコア16には、径方向外側へ(ステータ12へ向けて)突出した複数の突極19が周方向に沿って互いに間隔をおいて配列されており、各突極19がステータ12(図30)と対向している。ロータ14においては、この突極19により、ステータ12(ティース30)からの磁束が通る場合の磁気抵抗が回転方向に応じて変化し、突極19の位置で磁気抵抗が低くなり、突極19間の位置で磁気抵抗が高くなる。そして、周方向においてロータ巻線18nとロータ巻線18sが交互に並ぶように、ロータ巻線18n,18sがこれらの突極19に巻装されている。ここでは、各ロータ巻線18n,18sの巻回中心軸が径方向と一致している。図31に示すように、磁気抵抗の高い突極19間の磁路をd軸磁路とし、磁気抵抗の低い突極19の部分の磁路をq軸磁路とすると、各ロータ巻線18n,18sは、磁気抵抗の低いq軸磁路に配置されている。図31に示す例では、各突極19に巻装されたロータ巻線18n,18sが、互いに電気的に接続されておらず分断(絶縁)されている。そして、電気的に分断された各ロータ巻線18n,18s毎にダイオード21n,21s(整流素子)が接続されている。各ロータ巻線18nがダイオード21nを介して短絡されていることで、各ロータ巻線18nに流れる電流の方向がダイオード21nにより一方向に整流される。同様に、各ロータ巻線18sがダイオード21sを介して短絡されていることで、各ロータ巻線18sに流れる電流の方向がダイオード21sにより一方向に整流される。ここでは、周方向において隣り合うように配置されたロータ巻線18nとロータ巻線18sとで流れる電流の向き(ダイオード21n,21sによる整流方向)、すなわち順方向が互いに逆になるように、ダイオード21n,21sが互いに逆向きでロータ巻線18n,18sに接続される。
ロータ巻線18nにダイオード21nの整流方向に応じた直流電流が流れると、ロータ巻線18nが巻装された突極19が磁化することで、この突極19が磁極の固定された磁石(磁極部)として機能する。同様に、ロータ巻線18sにダイオード21sの整流方向に応じた直流電流が流れると、ロータ巻線18sが巻装された突極19が磁化することで、この突極19が磁極の固定された磁石(磁極部)として機能する。周方向に隣り合うロータ巻線18nとロータ巻線18sとで直流電流の方向が互いに逆方向であるため、周方向に隣り合う突極19同士で磁化方向が互いに逆方向となり、異なる磁極の磁石が形成され、周方向において突極19の磁極が交互する。ここでは、ロータ巻線18nが巻装された突極19にN極が形成され、ロータ巻線18sが巻装された突極19にS極が形成されるように、ダイオード21n,21sによるロータ巻線18n,18sの電流の整流方向をそれぞれ設定する。これによって、周方向においてN極とS極が交互に並ぶように、各突極19に磁石が形成される。図31に、ロータ巻線18n,18sの、ロータ14の径方向に関する外側に示した破線矢印の向きは、突極19の磁化方向を表している。そして、周方向に隣り合う2つの突極19(N極及びS極)により、1つの極対が構成される。図31に示す例では、8極の突極19が形成されており、ロータ14の極対数が4極対である。したがって、図29〜31に示す例では、ステータ12の極対数及びロータ14の極対数がいずれも4極対で、ステータ12の極対数及びロータ14の極対数が等しい。ただし、ステータ12の極対数及びロータ14の極対数は、いずれも4極対以外であってもよい。このように、各ロータ巻線18n,18sに流れる電流により生成される、ロータ14の周方向複数個所の磁極部である突極19の磁気特性は、ロータ14の周方向に交互に異なっている。
先発明では、ロータ14の周方向に関する各突極19の幅がロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定されている。そして、周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅θはロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定されており、ロータ巻線18n,18sは各突極19に短節巻で巻装されている。ここでのロータ巻線18n,18sの幅θについては、ロータ巻線18n,18sの断面積を考慮して、ロータ巻線18n,18sの断面の中心幅で表すことができる。すなわち、ロータ巻線18n,18sの内周面の幅と外周面の幅との平均値でロータ巻線18n,18sの幅θを表すことができる。なお、ロータ14の電気角は、ロータ14の機械角にロータ14の極対数p(図31に示す例ではp=4)を乗じた値で表される(電気角=機械角×p)。このため、周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅θは、回転軸22の中心からロータ巻線18n,18sまでの距離をrとすると、以下の(1)式を満たす。
θ<π×r/p (1)
先発明において、ステータ12に回転磁界を発生させる起磁力の分布は、各相のステータ巻線28u,28v,28wの配置や、ティース30及びスロット31によるステータコア26の形状に起因して、(基本波のみの)正弦波分布にはならず、高調波成分を含むものとなる。特に、集中巻においては、各相のステータ巻線28u,28v,28wが互いに重なり合わないため、ステータ12の起磁力分布に生じる高調波成分の振幅レベルが増大する。例えばステータ巻線28u,28v,28wが3相集中巻の場合は、高調波成分として、入力電気周波数3次成分の振幅レベルが増大する。以下の説明では、ステータ巻線28u,28v,28wの配置やステータコア26の形状に起因して起磁力に生じる高調波成分を空間高調波とする。
3相のステータ巻線28u,28v,28wに3相の交流電流を流すことでティース30に形成された回転磁界(基本波成分)がロータ14に作用するのに応じて、ロータ14の磁気抵抗が小さくなるように、突極19がティース30の回転磁界に吸引される。これによって、ロータ14にトルク(リラクタンストルク)が作用して、ロータ14がステータ12で形成される回転磁界(基本波成分)に同期して回転駆動する。
さらに、ティース30に形成された空間高調波成分を含む回転磁界がロータ14の各ロータ巻線18n,18sに鎖交すると、各ロータ巻線18n,18sには、空間高調波成分によりロータ14の回転周波数(回転磁界の基本波成分)と異なる周波数の磁束変動が生じる。この磁束変動によって、各ロータ巻線18n,18sに誘導起電力が発生する。この誘導起電力の発生に伴って各ロータ巻線18n,18sに流れる電流は、各ダイオード21n,21sにより整流されることで一方向(直流)となる。そして、各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が各ロータ巻線18n,18sに流れるのに応じて各突極19が磁化することで、磁極が(N極かS極のいずれか一方に)固定された磁石が各突極19に生じる。前述のように、ダイオード21n,21sによるロータ巻線18n,18sの電流の整流方向が互いに逆方向であるため、各突極19に生じる磁石は、周方向においてN極とS極が交互に配置されたものとなる。そして、各突極19(磁極が固定された磁石)の磁界がティース30の回転磁界(基本波成分)と相互作用して、吸引及び反発作用が生じる。このティース30の回転磁界(基本波成分)と突極19(磁石)の磁界との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)によっても、ロータ14にトルク(磁石トルクに相当するトルク)を作用させることができ、ロータ14がステータ12で形成される回転磁界(基本波成分)に同期して回転駆動する。このように、先発明に係る回転電機10を、ステータ巻線28u,28v,28wへの供給電力を利用してロータ14に動力(機械的動力)を発生させる電動機として機能させることができる。一方、先発明に係る回転電機10を、ロータ14の動力を利用してステータ巻線28u,28v,28wに電力を発生させる発電機として機能させることもできる。
ここで、空間高調波によるロータ巻線18n,18sへの鎖交磁束を計算した結果を図32A,32Bに示している。図32Aの上半部の波形は、ステータ巻線28u,28v,28wに流すある1相の電流であるモータ電流の時間的変化を示しており、下半部の波形は、上半部のモータ電流を基準として、ステータ巻線28u,28v,28wに流す交流電流の位相(ロータ位置に対する電流進角)を変化させた場合におけるロータ巻線18n,18sへの鎖交磁束の波形を示している。図32Bは、ロータ巻線18n,18sへの鎖交磁束波形の周波数分析結果を示している。図32Bに示す周波数分析結果から、入力電気周波数3次成分が主に発生する。図32Aに示すように、電流進角を変化させると、鎖交磁束のバイアスは変わるが、鎖交磁束波形はあまり変化していないことが分かる。
ロータ巻線18n,18sへの鎖交磁束の振幅(変動幅)は、周方向に関するロータ巻線18n,18sの幅θにより影響を受ける。ここで、周方向に関するロータ巻線18n,18sの幅θを変化させながら、ロータ巻線18n,18sへの鎖交磁束の振幅(変動幅)を計算した結果を図33に示す。図33では、コイル幅θを電気角に換算して示している。図33に示すように、コイル幅θが180°から減少するにつれてロータ巻線18n,18sへの鎖交磁束の変動幅が増大しているため、コイル幅θを180°よりも小さくする、すなわちロータ巻線18n,18sを短節巻とすることで、全節巻と比較して、空間高調波による鎖交磁束の振幅を増大させることができる。
したがって、先発明では、周方向に関する各突極19の幅を電気角で180°に相当する幅よりも小さくし、ロータ巻線18n,18sを各突極19に短節巻で巻装することで、ロータ巻線18n,18sに発生する空間高調波による誘導起電力を効率よく増大させることができる。このため、トルク発生に寄与しにくい空間高調波を利用してロータ巻線18n,18sに誘導電流を効率よく発生することができ、誘導電流により各突極19に発生する磁石の磁束を効率よく増大させることができる。この結果、ロータ14に作用するトルクを効率よく増大させることができる。さらに、ステータ巻線28u,28v,28w以外の種類の励磁巻線等の巻線をステータ12に設けることなく、ロータ巻線18n,18sに空間高調波による誘導起電力を効率よく発生させることができる。このため、ステータ12に設ける巻線を1種類(ステータ巻線28u,28v,28wのみ)に簡略化でき、ステータ12の巻線構造を簡略化できる。そして、誘導起電力に伴って生じる誘導電流をダイオード21n,21sで整流することで、ロータ14にロータ巻線18n,18s以外の種類の巻線をロータ14に設けることなく、ロータ14の各突極19を、磁極が固定された磁石である磁極部として機能させることができるので、ロータ14に設ける巻線を1種類(ロータ巻線18n,18sのみ)に簡略化でき、ロータ14の巻線構造を簡略化できる。この結果、回転電機10の巻線構造を簡略化でき、回転電機10の小型化が可能となる。
さらに、図33に示すように、コイル幅θが90°の場合に、空間高調波による鎖交磁束の振幅が最大となる。したがって、先発明において、空間高調波によるロータ巻線18n,18sへの鎖交磁束の振幅をより増大させるためには、周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅θがロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しい(あるいはほぼ等しい)ことが好ましい。このため、周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅θは、以下の(2)式を満たす(あるいはほぼ満たす)ことが好ましい。
θ=π×r/(2×p) (2)
このように、周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅θを電気角で90°に相当する幅に等しく(あるいはほぼ等しく)することで、ロータ巻線18n,18sに発生する空間高調波による誘導起電力を最大にすることができ、誘導電流により各突極19に発生する磁石の磁束を最も効率よく増大させることができる。この結果、ロータ14に作用するトルクをさらに効率よく増大させることができる。すなわち、幅θが90°に相当する幅を大きく超えると、互いに打ち消し合う方向の起磁力がロータ巻線18n,18sに鎖交しやすくなるが、90°に相当する幅よりも小さくなるのにしたがって、その可能性が低くなる。ただし、幅θが90°に相当する幅よりも大きく減少すると、ロータ巻線18n,18sに鎖交する起磁力の大きさが大きく低下する。このため、幅θを約90°に相当する幅とすることでそのような不都合を防止できる。このため、周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅θは、電気角で90°に相当する幅に略等しくすることが好ましい。
また、ステータ巻線28u,28v,28wに流す交流電流の位相(ロータ位置に対する電流進角)を変化させながらロータ14のトルクを計算した結果を図34に示す。図34は、ロータ14の回転数を一定に保ちながらステータ巻線28u,28v,28wに流す交流電流の振幅(電流振幅)及び位相(電流進角)を変化させた場合の計算結果を示している。図34に示すように、電流進角を変化させるとロータ14のトルクが変化するため、電流進角(ステータ巻線28u,28v,28wに流す交流電流の位相)を制御することで、ロータ14のトルクを制御することができる。さらに、図34に示すように、電流振幅を変化させてもロータ14のトルクが変化するため、電流振幅(ステータ巻線28u,28v,28wに流す交流電流の振幅)を制御することによっても、ロータ14のトルクを制御することができる。また、ロータ14の回転数を変化させてもロータ14のトルクが変化するため、ロータ14の回転数を制御することによっても、ロータ14のトルクを制御することができる。
ただし、このような先発明に係る回転電機10の場合、回転電機10の巻線構造を簡略化できるという効果が得られるが、回転数が低い低速回転時にトルクを有効に高くする面からまだ改良の余地がある。図35は、先発明に係る回転電機10を発電機として使用して、回転数と回生トルクとの関係を実験により求めた図である。図35に示すように、回転電機10は、回転数の低い領域、例えば800min-1(=r.p.m.)未満で回生トルクが大きく低下した。これに対して、図36A,36Bは、各ロータ巻線18n,18sに流れる2相、すなわちA相、B相の異なる位相の電流であるロータ誘導電流の時間的変化を示す図で、図36Aは、ロータ14の回転数が200min-1の場合を、図36Bは、ロータ14の回転数が800min-1の場合を表している。
図36A、36Bから分かるように、ロータ14の回転数が低い領域(200min-1等)では中回転数の領域に比べて、ロータ誘導電流が大きく低下している。この理由は、先発明においてはステータで生成される回転磁界の高調波成分による磁場変動によりロータ巻線18n,18sを流れるロータ誘導電流が生成されるのに対し、回転数が低い領域では各ロータ巻線18n,18sに鎖交する鎖交磁束はあまり変化しないが、鎖交磁束の変動速度が低下するため、誘導起電圧が減少して、ロータ誘導電流が減少するためである。このため、低速回転時には回生トルクが減少する。なお、上記の説明では、回転数が低い領域で回生トルクが低下する場合を説明したが、先発明に係る回転電機10を電動機(モータ)として使用する場合でも、同様の理由から低回転数領域では回転トルクが大きく低下する可能性がある。
特許文献1〜5に記載された構成の場合、回転電機の巻線構造を簡略化できる構造で、広い回転数領域のトルクを有効に高くできる構造は開示されていない。例えば、特許文献5に記載された同期機の場合には、ステータ巻線に正弦波電流を通電すると、ロータ巻線に界磁極の励磁用の電流が生じないので、誘導電流は発生しない。このような構造では、パルス電流等のステータ電流の基本波電流の周波数に比べて高い周波数の電流を、ステータ電流に重畳させなければ、トルクを発生することができない。ただし、特許文献5に記載された構造の場合には、回転数や、回転数に関係する回転電機の相間電圧にかかわらずパルス電流をステータ電流に重畳させる。このため、高回転数領域では、電流の時間変化である立ち上がりに対応して大きさが変化する印加可能な電圧(駆動電圧)が制限されるので、十分なパルス電流を重畳させることができなくなり、その結果、ロータの誘導電流が減少して、トルクの低下を招く可能性がある。
本発明の目的は、回転電機駆動システムにおいて、回転電機の巻線構造を簡略化できる構造で、広い回転数領域のトルクを有効に高くすることである。
本発明に係る回転電機駆動システムは、上記の目的を達成するために以下の手段を採用する。
本発明に係る回転電機駆動システムは、ステータとロータとが対向配置された回転電機を駆動する回転電機駆動システムにおいて、ステータは、複数のスロットがロータ回転軸まわりの周方向に互いに間隔をおいて形成されたステータコアと、該スロットを通ってステータコアに集中巻きで巻装された複数相のステータ巻線とを有し、該ステータ巻線に交流電流が流れることで高調波成分を含む周波数の回転磁界を生成し、ロータは、ロータコアと、ロータコアの周方向複数個所に配置され、ステータで生成された高調波成分を含む回転磁界が鎖交することで誘導起電力が発生するロータ巻線と、各ロータ巻線に接続され、該誘導起電力の発生により各ロータ巻線に流れる電流を整流する整流素子とを有し、各ロータ巻線に流れる電流により生成される周方向複数個所の磁極部の磁気特性を周方向に交互に異ならせており、さらに、回転電機の相間電圧が閾値未満である、または閾値以下であるいずれかの第1パルス重畳要求条件が成立し、かつ、予め設定された第2パルス重畳要求条件が成立した場合のみに、パルス重畳条件が成立したと判定して、ステータ巻線を流れるステータ電流にパルス電流を重畳させるように、パルス重畳状態を切り換える切り換え部を備え、切り換え部による切り換えにかかわらず回転電機を駆動可能とすることを特徴とする回転電機駆動システムである。
本発明の回転電機駆動システムによれば、上記の先発明と同様の理由により、回転電機の巻線構造を簡略化できる。しかも、本発明によれば、広い回転数領域のトルクを有効に高くすることができる。すなわち、回転電機の相間電圧が閾値未満である、または閾値以下であるいずれかの第1パルス重畳要求条件が成立し、かつ、予め設定された第2パルス重畳要求条件成立時である、回転数の低い領域でステータ巻線を流れるステータ電流にパルス電流を重畳させることができるので、回転数が低くても回転磁界の基本波(正弦波)電流以外による磁場変動を生じさせ、ロータ巻線のロータ誘導電流を増加させてトルクを向上させることができる。また、切り換え部により、回転電機の相間電圧が閾値以上である、または閾値を超える場合にステータ電流にパルス電流を重畳させないので、高回転数領域でも、トルクを十分に高くできる。
また、特許文献5に記載された同期機の場合、パルス電流等のステータ電流の基本波電流の周波数に比べて高い周波数の電流を、ステータ電流に重畳させなければトルクを発生させることができない。これに対して、本発明の場合、特許文献5に記載された同期機の場合と異なり、回転電機のステータ電流に正弦波電流を流した場合に、集中巻きのステータ巻線を有するステータで生じる高調波成分を利用して、ロータ巻線に誘導電流を生じることができ、必ずしもパルス電流を重畳させなくてもトルクを発生させることができる。このため、印加する電圧において、パルス電流重畳のための十分な余裕がない領域で正弦波駆動、すなわち正弦波のステータ電流による正弦波駆動を行い、印加する電圧において十分な余裕がある領域でのみ、パルス電流を重畳させ、トルクを増加させることができる。すなわち、回転電機の駆動範囲全域でパルス重畳を行う必要はなく、トルクの不足が生じない広い駆動範囲で正弦波駆動させることもできる。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、切り換え部は、回転電機に要求される要求出力トルクと回転電機の回転数とを取得するトルク回転数取得手段と、要求出力トルクに対応する電圧指令値から相間電圧を取得する相間電圧取得手段と、回転数と要求出力トルクに対応する電流指令値とから正弦波電流で発生可能な正弦波トルクを算出する正弦波トルク算出手段と、要求出力トルクと算出した正弦波トルクとを比較して、要求出力トルクが正弦波トルク以上となること、または正弦波トルクを超えることのいずれかを第2パルス重畳要求条件として、パルス重畳条件が成立したことを判定する判定手段とを含む。
上記構成によれば、広い駆動範囲でより有効に正弦波駆動させることができる。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、切り換え部は、回転電機に要求される要求出力トルクと回転電機の回転数とを取得するトルク回転数取得手段と、要求出力トルクに対応する電圧指令値から、相間電圧を取得する相間電圧取得手段と、要求出力トルクと回転数とから正弦波電流で要求出力トルクが得られるようにした場合の正弦波損失と、要求出力トルクと回転数とから正弦波電流にパルス重畳させることにより要求出力トルクが得られるようにした場合のパルス重畳損失とを比較し、正弦波損失がパルス重畳損失以上となること、またはパルス重畳損失を超えることのいずれかを第2パルス重畳要求条件として、パルス重畳条件が成立したことを判定する判定手段とを含む。
上記構成によれば、回転電機駆動時の効率向上を図れる。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、各ロータ巻線は、ロータの周方向に隣り合うロータ巻線同士で順方向が逆になる整流素子に接続し、各整流素子は、該誘導起電力の発生によりロータ巻線に流れる電流を整流することで、該周方向に隣り合うロータ巻線に流れる電流の位相を、A相とB相とに交互に異ならせている。
上記構成によれば、各ロータ巻線を、ロータの周方向に隣り合うロータ巻線同士で順方向が周方向に関して同じ方向になる整流素子に接続し、各ロータ巻線に流れる電流により生成される周方向複数個所の磁極部の磁気特性を交互に異ならせる構成の場合に比べて、1の磁気特性を有する磁極部を生成するために流れる誘導電流が、別の磁気特性を有する磁極部を生成するために流れる誘導電流に電流を減じさせる方向に影響することを防止して、トルクをより向上しやすくできる。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、各ロータ巻線のロータの周方向に関する幅が電気角で90°に相当する幅に略等しい。
上記構成によれば、ロータ巻線に発生する、回転磁界の高調波による誘導起電力を最大に発生することができ、各ロータ巻線に流れる誘導電流により生成される磁極部の磁束を最も効率よく増大させることができる。この結果、ロータに作用するトルクをより効率よく増大させることができる。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、各ロータ巻線は、ロータの周方向複数個所に位置するインダクタンスが高いq軸磁路に配置されており、ロータコアは、整流素子で整流された電流がロータ巻線に流れるのに応じて磁化することで磁極が固定された磁石として機能する磁極部であって、ロータの周方向に互いに間隔をおいて配置された複数の磁極部を含む。
上記構成によれば、ロータに作用するトルクをより効率よく増大させることができる。
また、各ロータ巻線は、ロータの周方向複数個所に位置するインダクタンスが高いq軸磁路に配置されており、ロータコアは、整流素子で整流された電流がロータ巻線に流れるのに応じて磁化することで磁極が固定された磁石として機能する磁極部であって、ロータの周方向に互いに間隔をおいて配置された複数の磁極部を含む構成において、好ましくは、ロータコアにおいて、各磁極部がステータへ向け突出している。
また、各ロータ巻線は、ロータの周方向複数個所に位置するインダクタンスが高いq軸磁路に配置されており、ロータコアは、整流素子で整流された電流がロータ巻線に流れるのに応じて磁化することで磁極が固定された磁石として機能する磁極部であって、ロータの周方向に互いに間隔をおいて配置された複数の磁極部を含む構成において、好ましくは、ロータコアにおいて、ロータの周方向に関して磁極部間に位置する部分に永久磁石を配置している。
また、各ロータ巻線は、ロータの周方向複数個所に位置するインダクタンスが高いq軸磁路に配置されており、ロータコアは、整流素子で整流された電流がロータ巻線に流れるのに応じて磁化することで磁極が固定された磁石として機能する磁極部であって、ロータの周方向に互いに間隔をおいて配置された複数の磁極部を含む構成において、好ましくは、ロータコアは環状コア部を含み、ロータ巻線は環状コア部にトロイダル巻きで巻装されており、各磁極部が環状コア部からステータへ向けて突出している。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、各ロータ巻線のすべては、電気的に接続され、整流素子は、各ロータ巻線に共通に接続され、該誘導起電力の発生により各ロータ巻線に流れる電流を整流し、該周方向に隣り合う2個のロータ巻線の巻き方向を互いに逆にすることで、各ロータ巻線に流れる電流により生成される周方向複数個所の磁極部の磁気特性を交互に異ならせている。
また、各ロータ巻線のすべては、電気的に接続され、整流素子は、各ロータ巻線に共通に接続され、該誘導起電力の発生により各ロータ巻線に流れる電流を整流し、該周方向に隣り合う2個のロータ巻線の巻き方向を互いに逆にすることで、各ロータ巻線に流れる電流により生成される周方向複数個所の磁極部の磁気特性を交互に異ならせている構成において、好ましくは、各ロータ巻線のロータの周方向に関する幅が電気角で90°に相当する幅よりも大きく、かつ、電気角で120°に相当する幅よりも小さい。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、各ロータ巻線は、ロータの周方向複数個所に位置するインダクタンスが低いd軸磁路に配置されている。
上記構成によれば、回転電機のトルクを有効に高くすることができる。すなわち、ロータの周方向複数個所に位置するインダクタンスが低いd軸磁路にロータ巻線を配置するので、ロータの回転方向にかかわらず、電流位相−トルク特性が同じになり、しかもトルクの最大値が高くなり、トルクを有効に高くすることができる。例えば、力行トルクを大きくする場合に、ロータ正転時とロータ逆転時との両方で力行トルクを大きくすることができる。また、回生トルクを大きくする場合に、ロータ正転時とロータ逆転時との両方で回生トルクを大きくすることができる。したがって、ロータ回転の正転逆転両方で高いトルクを得られる回転電機の実現が可能になる。
また、各ロータ巻線は、ロータの周方向複数個所に位置するインダクタンスが低いd軸磁路に配置されている構成において、好ましくは、ロータコアにおいて、ロータの周方向に関して磁極部と一致する部分に永久磁石を配置している。
上記構成によれば、永久磁石の着磁方向を、周方向に隣り合う永久磁石同士で異ならせ、永久磁石の磁化方向と、永久磁石に対しロータの周方向に一致する磁極部の磁化方向とを一致させることにより、永久磁石により生成される永久磁石生成トルクと、ロータ巻線に流れる誘導電流により生成されるロータ巻線生成トルクとが、電流進角の同位相で最大トルクとなる。すなわち、ロータ巻線での誘導電流により、ロータ巻線が等価的に電磁石として機能し、永久磁石に鎖交する磁束が増大してその分、回転電機のトルクが増加する。このため、回転電機のトルクをより有効に高くすることができ、しかもトルク特性がロータの回転方向に依存せず同じとなる。また、ロータ巻線に流れる誘導電流により、永久磁石内の磁束変動が抑えられるため、永久磁石内部での渦電流損失が抑えられ、磁石発熱を低減できる。
また、各ロータ巻線は、ロータの周方向複数個所に位置するインダクタンスが低いd軸磁路に配置されている構成において、好ましくは、ロータコアにおいて、ロータの周方向に関して磁極部間に位置する部分をステータへ向け突出させている。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、各ロータ巻線が互いに電気的に分断されており、整流素子は、該電気的に分断されたロータ巻線毎に設けられている。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、ロータの周方向に隣り合うように配置されたロータ巻線が互いに電気的に分断されており、整流素子は、該電気的に分断されたロータ巻線毎に設けられ、該周方向の1つ置きに配置されたロータ巻線同士を電気的に接続している。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、ステータ電流にパルス電流を重畳させる場合に、各相のステータ電流に、1周期に対して設定した所定回数でパルス電流を重畳させるようにインバータの駆動信号を生成し、駆動信号を出力する駆動信号出力手段を備える。
上記構成によれば、パルス電流を重畳させる間隔が、ステータ電流の基本波である正弦波電流の周波数に依存することとなる。このため、回転磁界の空間高調波成分に対してロータの最適な位置関係でパルス電流を重畳しやすくでき、低速の領域でのトルクを増加しやすくできる。
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、ステータ電流にパルス電流を重畳させる場合に、各相のステータ電流に、設定した所定周波数でパルス電流を重畳させるようにインバータの駆動信号を生成し、駆動信号を出力する駆動信号出力手段を備える。
上記構成によれば、パルス電流を重畳させる間隔が、ステータ電流の基本波である正弦波電流の周波数に依存しないので、回転停止時や極低速回転領域において、トルクを増大させることが可能となる。
本発明の回転電機駆動システムによれば、回転電機の巻線構造を簡略化できる構造で、広い回転数領域のトルクを有効に高くすることができる。
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。図1−3,4A,4B、5は、本発明の実施形態を示す図である。図1は、本実施形態の回転電機駆動システムの概略構成を示す図である。図2は、本実施形態において、ステータとロータとの対向する部分の一部を示す略図である。図3は、図1の構成において、切り換え部の構成を詳しく示す図である。本実施形態の回転電機駆動システム34は、回転電機10と、回転電機10を駆動するインバータ36と、インバータ36を制御する制御装置38と、蓄電装置40とを備え、回転電機10を駆動する。なお、回転電機10の構成自体は、上記の図29〜31に示した先発明に係る回転電機10の場合と同様であるため、同等部分には同一符号を付して重複する図示及び説明は簡略化もしくは省略する。蓄電装置40は、直流電源として設けられ、充放電可能であり、例えば二次電池により構成する。インバータ36は、スイッチング素子(図示せず)を備え、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置40からの直流電力を、u相、v相、w相の3相等の奇数相の交流に変換して、ステータ巻線28u、28v、28wの各相に電力を供給することを可能とする。制御装置38は、インバータ36を構成するスイッチング素子のスイッチング動作を制御して、ステータ巻線28u、28v、28wに流す交流電流の位相(電流進角)を制御することで、ロータ14(図2)のトルクを制御する。このような回転電機駆動システム34は、例えば、車両用走行動力発生装置として、エンジンと走行用モータとを駆動源として備えるハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車等に搭載して使用される。
図2に示すように、電動機または発電機として機能する回転電機10は、互いに対向配置されたステータ12とロータ14とを備える。ステータコア26の周方向複数個所にステータ巻線28u、28v、28wを集中巻きで巻装し、ロータコア16の周方向複数個所にロータ巻線18n、18sを集中巻きで巻装している。ロータ14の周方向に関するロータ巻線18n、18sの幅θは、ロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定し、ロータ巻線18n、18sは、各突極19に短節巻きで巻装している。より好ましくは、ロータ14の周方向に関するロータ巻線18n、18sの幅θは、ロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しく、あるいはほぼ等しくしている。この理由は、上記の先発明で説明したとおりである。
また、制御装置38は、CPU,メモリ等を有するマイクロコンピュータを含むもので、インバータ36のスイッチング素子のスイッチングを制御することにより、回転電機10のトルクを制御する。さらに、制御装置38は、切り換え部42と、駆動信号出力手段44とを備える。切り換え部42は、回転電機10の相間電圧が予め設定した閾値未満である、または閾値以下であるいずれかの第1パルス重畳要求条件が成立し、かつ、予め設定された第2パルス重畳要求条件が成立した場合に、ステータ巻線28u、28v、28wを流れるステータ電流にパルス電流を重畳させ、第1パルス重畳要求条件と第2パルス重畳要求条件との少なくともいずれか1が成立しない場合に、ステータ電流にパルス電流を重畳させないように、パルス重畳状態を切り換える。パルス電流は、ステータ電流の基本波電流の1周期に比べて極短い期間に流れる。すなわち、切り換え部42は、回転電機10の相間電圧が閾値未満である、または閾値以下であるいずれかの第1パルス重畳要求条件が成立し、かつ、予め設定された第2パルス重畳要求条件が成立した場合のみに、パルス重畳条件が成立したと判定して、ステータ巻線28u、28v、28wを流れるステータ電流にパルス電流を重畳させるように、パルス重畳状態を切り換える。例えば、第1パルス重畳要求条件は、回転電機10の相間電圧が予め設定した閾値未満であることとする。ただし、第1パルス重畳要求条件は、相間電圧が予め設定した閾値以下であることとすることもできる。第1パルス重畳要求条件に、相間電圧が閾値と一致する場合を含めるか否かは、切り換え部42に予め設定しておく。また、回転電機駆動システム34は、切り換え部42の切り換えにかかわらず回転電機10を駆動可能としている。図3に示すように、切り換え部42は、トルク回転数取得手段68と、相間電圧取得手段70と、正弦波トルク算出手段72と、パルス重畳条件判定手段74とを含む。また、回転電機駆動システム34は、回転電機10のロータ14の回転位置を検出する位置センサ46(図1)を備え、位置センサ46の検出信号を制御装置38に入力している。例えば、位置センサ46は、ロータ14に固定の部分(回転軸22等)に固定されて周方向に磁気特性が交互に変化する磁性輪板(図示せず)の外周面に対向配置されて、磁気特性の変化を検出することにより、回転位置の検出を可能とする。
図1に示す駆動信号出力手段44は、ステータ電流にパルス電流を重畳させる場合に、各相のステータ電流に、1周期に対して、予め設定した所定回数で等間隔にパルス電流を重畳させるようにインバータ36の駆動信号を生成し、駆動信号を出力する。例えば、本実施形態は、回転電機駆動システム34を車両用走行用動力発生装置として使用する場合において、アクセル開度検知信号に応じたトルク指令Treqを表す信号が外部制御装置(図示せず)から制御装置38へ入力されることに応じてd軸、q軸電流指令値の設定によるベクトル制御によりインバータ36のスイッチングを制御する構成に適用できる。例えば、駆動信号出力手段44は、切り換え部42によりステータ電流にパルス電流を重畳させると判定された場合において、ステータ電流の基本波に対してロータ14とステータ12で生成される回転磁界の空間高調波成分との位置関係に応じてロータ巻線18n、18sに最も効率よいタイミングでパルス電流に基づく磁場変動が生じるように制御する。このため、回転磁界の空間高調波成分に対してロータ14の最適な位置関係でパルス電流を重畳しやすくでき、低速回転時でも高トルクを得やすくなる。例えば、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線18n、18sに、異なる位相のロータ電流であるA相電流とB相電流とが流れる。そして、q軸磁路に対応してB相またはA相のロータ巻線18n、18s中心軸方向と、各相のステータ電流のパルス電流による磁場変動とが一致しやすくなり、高トルクを得やすくなる。
また、ステータ電流にパルス電流を重畳させるか否かの判定は次のように行うことができる。まず、トルク回転数取得手段68は、上記のように外部制御装置から要求出力トルクであるトルク指令Treqを取得するとともに、回転電機10に設けられた位置センサ46の検出信号からロータ14の回転位置を取得し、取得した回転位置からロータ14の回転数、すなわち回転速度VRを演算、すなわち取得する。また、相間電圧取得手段70は、トルク指令Treqに対応する電圧指令値を演算し、電圧指令値V1から、相間電圧を演算、すなわち取得する。なお、相間電圧取得手段70は、相間電圧を演算取得することに代えて、相間電圧に対応する電圧である相間電圧関係値を演算取得し、これをその後の処理に用いることができるようにしてもよい。例えば、d軸電圧指令をVdとし、q軸電圧指令をVqとした場合に算出される(Vd2+Vq2)1/2を、相間電圧関係値として求めるものとできる。
また、正弦波トルク算出手段72は、トルク指令Treqに対応する電流指令値を演算し、取得した回転電機10の回転数VRと、演算した電流指令値とから正弦波電流で発生可能なトルクである、正弦波トルクTsを算出する。また、パルス重畳条件判定手段74は、相間電圧Vaが閾値未満Vxであるまたは閾値Vx以下であるいずれかの第1パルス重畳要求条件(Va<VxまたはVa≦Vx)が成立し、かつ、トルク指令Treqと算出した正弦波トルクTsとを比較して、トルク指令Treqが正弦波トルクTs以上となる、または正弦波トルクを超えるいずれかの第2パルス重畳要求条件(Treq≧TsまたはTreq>Ts)が成立した場合のみに、パルス重畳条件が成立したと判定する。例えば、第2パルス重畳要求条件は、トルク指令Treqが正弦波トルクTs以上となることとする。ただし、第2パルス重畳要求条件は、トルク指令Treqが正弦波トルクTsを超えることとすることもできる。第2パルス重畳要求条件に、トルク指令Treqが正弦波トルクTsと一致する場合を含めるか否かは、切り換え部42に予め設定しておく。
ここで、予め第1パルス重畳要求条件をVa<Vxに設定し、第2パルス重畳要求条件をTreq≧Tsに設定したときを説明する。この場合、パルス重畳条件判定手段74は、例えば、相間電圧Vaが閾値Vx以上である場合(Va≧Vx)、すなわち第1パルス重畳要求条件が不成立の場合には、パルス重畳条件が不成立と判定する。さらに、パルス重畳条件判定手段74は、第1パルス重畳要求条件が成立した場合でも、例えば、トルク指令Treqが正弦波トルクTs未満となる場合(Treq<Ts)、すなわち第2パルス重畳要求条件が不成立の場合には、パルス重畳条件が不成立と判定する。例えば、予め設定する係数をαとした場合に、閾値Vxはインバータに入力される直流電圧Vdcにαを乗じた値である、α・Vdc(Vx=α・Vdc)とする。例えば、インバータを正弦波PWM制御する場合のキャリア信号に対する変調波の上限変調度(1)に対応して、αは0.61(α=0.61)とする。ただし、αは、この値に限定するものではなく、例えば制御性等を考慮して、αは、0.4、0.5、0.78等へ変更することもできる。したがって、Va≧α・Vdcである、第1パルス重畳要求条件不成立の場合には、パルス重畳条件が不成立と判定する。電流一定であれば、相間電圧Vaは回転数に比例して大きくなるので、ある閾値回転数以上の場合に、パルス重畳条件は不成立となる。この場合、切り換え部42は、ステータ電流にパルス電流を重畳させない正弦波電流を流し、回転電機10を駆動する。
逆に、Va<α・Vdcの第1パルス重畳要求条件が成立する場合で、トルク指令Treqが正弦波トルクTs以上となる第2パルス重畳要求条件が成立する場合(Treq≧Ts)にパルス重畳条件が成立したと判定し、ステータ電流にパルス電流を重畳させるパルス重畳電流を流し、回転電機10を駆動する。また、Va<α・Vdcである、第1パルス重畳要求条件が成立する場合でも、トルク指令Treqが正弦波トルクTs未満となる(Treq<Ts)、第2パルス重畳要求条件不成立時には、パルス重畳条件が不成立と判定し、ステータ電流に正弦波電流を流し、回転電機10を駆動する。なお、相間電圧は、上記のように電圧指令から求めるのではなく、実際に電圧センサにより検出した相間電圧を用いることもできる。
なお、第1パルス重畳要求条件を、Va≦α・Vdcが成立することとしたり、第2パルス重畳要求条件を、トルク指令Treqが正弦波トルクTsを超える(Treq>Ts)こととすることもできる。例えば、第1パルス重畳要求条件をVa≦α・Vdcとし、第2パルス重畳要求条件をTreq>Tsと設定すると、Va>α・Vdcである、第1パルス重畳要求条件不成立の場合には、パルス重畳条件が不成立と判定する。逆に、Va≦α・Vdcの第1パルス重畳要求条件が成立する場合で、トルク指令Treqが正弦波トルクTsを超える(Treq>Ts)、第2パルス重畳要求条件が成立する場合にパルス重畳条件が成立したと判定し、ステータ電流にパルス電流を重畳させるパルス重畳電流を流し、回転電機10を駆動する。また、Va≦α・Vdcである、第1パルス重畳要求条件が成立する場合でも、トルク指令Treqが正弦波トルクTs以下となる(Treq≦Ts)、第2パルス重畳要求条件不成立時には、パルス重畳条件が不成立と判定し、ステータ電流に正弦波電流を流し、回転電機10を駆動する。
図4A、4Bは、本実施形態により、ステータ電流にパルス電流を重畳させた場合のステータ電流の時間的変化と、200min-1でロータを回転させた場合のロータ電流の時間的変化とをそれぞれ求めた実験結果を示す図である。以下の説明では、図1〜3で付した符号を用いて説明する。図4Aでは、ステータ電流の正弦波である基本波電流に対して1周期に対し、矢印で示すタイミングで予め設定した所定回数である、3回、パルス電流を重畳させている。この場合、図4Bに示すように、図36Aの先発明の実験結果との比較から明らかなように、本実施形態により、パルス電流の重畳に応じて各ロータ巻線18n、18sを流れるロータ電流のベースを上昇させることができ、全体としてロータ電流の値を高くできる。このため、低速回転時でも同期機である回転電機10のトルクを向上できることが分かる。
図5は、このようにステータ電流にパルス電流を重畳させた場合の回転電機10の回生トルクと回転数との関係を求めた実験結果を示す図である。図5において、「正弦波駆動」として示す曲線は、図35に実験結果を示した先発明の場合と同様に、ステータ電流を、パルス電流を重畳させない正弦波電流とした場合の実験結果を表している。また、「1パルス」、「3パルス」、「6パルス」とあるのは、それぞれステータ電流の基本波である正弦波電流の1周期に対して1回、3回、6回の割合でパルス電流を重畳させたことを表している。図5に示す結果から明らかなように、本実施形態では回転電機10の回転数が800min-1未満の領域で大きくトルクを向上させることができることを確認できた。すなわち、本実施の形態によれば、「1パルス」、「3パルス」、「6パルス」の曲線と、同じ回転数領域の正弦波駆動の曲線との間の領域でトルクを増大できた。また、ステータ電流の基本波である正弦波電流の1周期に対してパルス電流を重畳させる回数を多くするのにしたがって、トルクを向上できることが分かった。なお、図5に示す実験結果では、回生トルクと回転数との関係を示しているが、回転電機10の出力トルクと回転数との関係も同様の傾向となる。
このような回転電機駆動システム34によれば、上記の先発明と同様の理由により、巻線構造を簡略化できる。しかも、本実施形態によれば、広い回転数領域のトルクを有効に高くすることができる。すなわち、回転電機10の回転数が閾値未満である、回転数の低い領域でステータ巻線28u、28v、28wを流れるステータ電流にパルス電流を重畳させることができるので、回転数が低くても回転磁界の基本波(正弦波)電流以外による磁場変動を生じさせ、ロータ巻線18n、18sのロータ誘導電流を増加させてトルクを向上させることができる。また、切り換え部42により、回転電機10の回転数が閾値以上である場合にステータ電流にパルス電流を重畳させないように、パルス重畳状態を切り換えるので、高回転数領域でも、正弦波のステータ電流によるトルクが抑制されることがなく、トルクを十分に高くできる。また、パルス電流を重畳させる間隔が、ステータ電流の基本波である正弦波電流の周波数に依存することとなる。このため、低速の領域でのトルクを増加しやすくできる。
また、印加する電圧において、パルス電流重畳のための十分な余裕がない領域で正弦波駆動、すなわち正弦波のステータ電流による正弦波駆動を行い、印加する電圧に十分な余裕がある領域でのみ、パルス電流を重畳させ、トルクを増加させることができる。すなわち、回転電機の駆動範囲全域でパルス重畳を行う必要はなく、トルクの不足が生じない広い駆動範囲でより有効に正弦波駆動させることができる。
また、各ロータ巻線18n、18sは、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線18n、18s同士で順方向が逆になる整流素子である、ダイオード21n、21s(図24参照)に接続し、各ダイオード21n、21sは、該誘導起電力の発生によりロータ巻線18n、18sに流れる電流を整流することで、該周方向に隣り合うロータ巻線18n、18sに流れる電流の位相を、A相とB相とに交互に異ならせている。このため、各ロータ巻線18n、18sを、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線18n、18s同士で、順方向が周方向に関して同じ方向になるダイオードに接続し、各ロータ巻線18n、18sに流れる電流により生成される周方向複数個所の磁極部である、突極19の磁気特性を交互に異ならせるという、比較構成も考えられるが、この比較構成に比べてトルクをより向上しやすくできる。すなわち、比較構成では、1の磁気特性を有する突極19を生成するために流れる誘導電流が、別の磁気特性を有する別の突極19を生成するために流れる誘導電流に、電流を減じさせる方向に影響する可能性があるのに対して、本実施形態ではこのような不都合を防止して、トルクをより向上しやすくできる。
また、各ロータ巻線18n、18sのロータ14の周方向に関する幅θが電気角で90°に相当する幅に略等しくすることにより、ロータ巻線18n、18sに発生する、回転磁界の高調波による誘導起電力を最大に発生することができ、各ロータ巻線18n、18sに流れる誘導電流により生成される磁極部である突極19の磁束を最も効率よく増大させることができる。この結果、ロータ14に作用するトルクをより効率よく増大させることができる。
また、各ロータ巻線18n、18sは、ロータ14の周方向複数個所に位置するインダクタンスが高いq軸磁路に配置されており、ロータコア16は、ダイオード21n、21sで整流された電流がロータ巻線18n、18sに流れるのに応じて磁化することで磁極が固定された磁石として機能する突極19であって、ロータ14の周方向に互いに間隔をおいて配置された複数の突極19を含む。このため、ロータ14に作用するトルクをより効率よく増大させることができる。
図6〜9は、本実施の形態とは別の実施形態により行った実験結果を示す図である。図6は、別の実施形態により、ステータ電流に低速回転領域でパルス電流を重畳させた場合のステータ電流の時間的変化の実験結果を示す図である。図7は、別の実施形態により、ステータ電流にパルス電流を重畳させた場合の回転電機10の回生トルクと回転数との関係を求めた実験結果を示す図である。図8は、別の実施形態により、回転電機10の停止時のステータ電流の時間的変化の実験結果を示す図である。図9は、別の実施形態により、回転電機10の停止時の回生トルクとパルス電流の重畳周波数との関係を求めた実験結果を示す図である。別の実施形態では、駆動信号出力手段44は、ステータ電流にパルス電流を重畳させる場合に、各相のステータ電流に、予め設定した所定周波数でパルス電流を重畳させるようにインバータ36の駆動信号を生成し、駆動信号を出力するように構成する。例えば、駆動信号出力手段44は、上記のようにd軸、q軸電流指令値の設定によるベクトル制御によりインバータ36及び回転電機10を制御する場合に、q軸電流指令値に予め設定した所定周波数でパルス電流を発生させるように制御する。この場合、ステータ電流の正弦波の周波数とは関係のない周波数でパルス電流が重畳される。この場合には、パルス電流を重畳させる間隔が、ステータ電流の基本波である正弦波電流の周波数に依存しないので、上記の図5に実験結果を示す実施形態の場合に比べて、回転停止時や極低速回転領域においてトルクを増大させることが可能となる。
例えば、図6では、一定の周波数、すなわち10msec(=100Hz)でステータ電流にパルス電流を重畳させている。この場合、図7に示すように、正弦波電流で駆動させる先発明の場合に比べて、「パルス重畳100Hz」と示した曲線で表す実験結果のように、低速領域でのトルクを向上できるだけでなく、図5に実験結果を示した実施形態の場合に比べて極低速回転領域でのトルクを向上できることを確認できた。本実施の形態では、図7のパルス重畳100Hzと示した曲線と、同じ回転数領域の正弦波駆動の曲線との間の領域でトルクを増大できた。
また、この別の実施形態の場合には、回転電機10の停止時のトルクも向上できる。すなわち、図8に示すように、回転電機10の停止時に一定の周波数、例えば10msec(=100Hz)でステータ電流にパルス電流を重畳させた場合、図9に示すように、パルス電流を重畳させる周波数を0、すなわち停止時にステータ電流にパルス電流を重畳させない場合に比べて、回転電機10のトルクを高くできることを確認できた。また、この停止時のトルクは、ステータ電流にパルス電流を重畳させる周波数が高くなるにしたがって、高くできることを確認できた。
図10は、本発明の別の実施の形態において、切り換え部42の構成を示す図である。図10に示すように、この別の実施の形態では、切り換え部42は、トルク回転数取得手段68と、相間電圧取得手段70と、マップ記憶手段76と、第2パルス重畳条件判定手段78とを含む。なお、以下の説明において、図1〜3に示した上記の実施の形態と同等部分には同一符号を付して重複する図示及び説明を省略もしくは簡略化する。本実施の形態は、相間電圧Vaが閾値Vx以下または閾値Vx未満である場合で、正弦波電流でも、パルス電流でもいずれの場合でも要求出力トルクが発生できる場合に、回転電機10(図1参照)の損失が最小となるように駆動電流波形を決定するようにする点に特徴がある。
まず、図11から図13を用いて、正弦波とパルス重畳波形との駆動電流波形の切り換えで、回転電機の損失が最小となるようにできる原理について説明する。図11は、ステータに正弦波電流を流す場合の1相のステータ電流(a)と、これに対応する2相のロータ電流(b)との1例を示す図である。図12は、ステータに図11の正弦波電流にパルス電流を重畳させた場合の1相のステータ電流(a)と、これに対応する2相のロータ電流(b)との1例を示す図である。図13は、回転電機のトルクが増加することにより、正弦波駆動の場合よりもパルス電流を重畳させた場合の方が銅損が低下する例を示す図である。このように、図11,12に示す場合には、正弦波電流ではA相、B相のロータ電流の振幅が小さく回転電機10のトルクも小さいが、パルス電流を重畳させた場合には、各相のロータ電流の振幅が大きくなるため、回転電機10のトルクも大きくできる。これに対して、正弦波電流による駆動でパルス重畳電流による駆動の場合と同じトルクを出すためには正弦波電流の振幅を増大させる必要がある。ただし、図13に示すように、正弦波電流で振幅を増大させてパルス重畳電流の場合と同じトルクを得る場合、ステータ12の銅損の増大がかなり大きくなる場合がある(図13のトルク100%の場合)。これに比べて、パルス重畳電流によりトルク100%を得る場合には、正弦波駆動の場合よりも誘導電流が増加し、ステータ12の銅損の増加も、正弦波電流の振幅増加の場合に比べて小さくなる。この場合には、パルス電流を重畳させてトルクを出す方がステータ12の銅損が小さくて済み、効率向上を図れることが分かる。これに対して、正弦波電流により駆動する場合の方が、パルス重畳電流により駆動する場合よりも銅損が低くなる場合もある。このため、駆動電流波形の切り換えにより回転電機10の損失が最小となるように決定でき、回転電機10の駆動時の効率向上を図れる。このような構成の場合、例えば、図7に示したトルクと回転数との関係を表す図において、800min-1以下での「正弦波駆動」と示した曲線よりも下側のトルク領域でパルス電流を使用して回転電機10を駆動できる。
このような原理に基づいて、本実施の形態では、回転電機10の回転数とトルクとに対して、回転電機10の損失が最小となるような、正弦波電流である基本波電流I1と、パルス電流指令I2(またはパルス電圧指令V2)とを表すマップのデータを予め作成し、マップ記憶手段76(図10)に記憶させておく。そして、図10に示す第2パルス重畳条件判定手段78は、マップ記憶手段76に記憶されたマップを参照しながら、トルク指令Treq及び回転数に対応する基本波電流I1と、パルス電流指令I2(またはパルス電圧指令V2)とを取得し、I1と、I2(またはV2)とを用いて回転電機10を駆動する。より具体的には、第2パルス重畳条件判定手段78は、相間電圧取得手段70により取得した相間電圧Vaが閾値Vx未満である、または閾値Vx以下であるいずれかの第1パルス重畳要求条件が成立する場合(Va<VxまたはVa≦Vx)で、要求出力トルクであるトルク指令Treqと回転数とから正弦波電流でトルク指令Treqが得られるようにした場合の損失である正弦波損失D1と、トルク指令Treqと回転数とから正弦波電流にパルス電流を重畳させることによりトルク指令Treqが得られるようにした場合の損失であるパルス重畳損失D2とを比較する。そして、第2パルス重畳条件判定手段78は、第1パルス重畳要求条件が成立し、かつ、正弦波損失D1がパルス重畳損失D2以上となる、またはパルス重畳損失D2を超えるいずれかの第2パルス重畳要求条件が成立する場合(D1≧D2またはD1>D2)のみにパルス重畳条件が成立したと判定する。これに対して、第2パルス重畳条件判定手段78は、相間電圧Vaが閾値Vx以上である、または閾値Vxを超える第1パルス重畳要求条件が不成立となる場合(Va≧VxまたはVa>Vx)や、相間電圧が閾値Vx未満である、または閾値Vx以下である第1パルス重畳要求条件が成立する場合(Va<VxまたはVa≦Vx)でも、正弦波損失D1がパルス重畳損失D2未満となる、またはパルス重畳損失D2以下となる第2パルス重畳要求条件が不成立となる場合(D1<D2またはD1≦D2)には、パルス重畳条件が不成立と判定する。そして、制御装置38(図1参照)は、パルス重畳条件の判定結果に応じて、回転電機10(図1参照)を駆動する。
次に、このように回転電機を駆動する場合の制御方法の具体例の2例を、図14、図15を用いて説明する。図14の例の場合、制御装置38は、電流指令生成部80と、電流指令合成部82と、電圧指令駆動信号生成部84とを含む。電流指令生成部80は、切り換え部42(図10)を有する。電流指令生成部80にトルク指令Treq及び回転電機10の回転数の取得値が入力される。電流指令生成部80は、マップ記憶手段76(図10)のデータを参照しながら、トルク指令Treq及び回転数に基づいて、回転電機10の損失が最小となるような、基本波電流指令I1とパルス電流指令I2とを取得する。この場合にパルス電流指令I2が0となれば電流指令は正弦波電流に対応する指令となり、パルス電流指令I2が0以外、すなわち正の値であれば電流指令は、パルス重畳電流に対応する指令となる。この場合、パルス重畳電流指令決定のための条件として、相間電圧Vaが閾値Vx未満である、または閾値Vx以下であるか、それ以外かの条件も用いる。
なお、マップ記憶手段76のマップにおいて、予め相間電圧Vaが閾値Vx未満である、または閾値Vx以下であるか、それ以外かの条件で、基本波電流指令I1とパルス電流指令I2とを決定しておくこともできる。電流指令合成部82は、基本波電流指令I1とパルス電流指令I2(0の場合もある。)とを合成し、合成した電流指令であるd軸電流指令Id*とq軸電流指令Iq*とを出力する。また、制御装置38は、回転電機10に設けられた電流センサ(図示せず)から各相電流を取得し、取得した各相電流からd軸電流Idとq軸電流Iqとの検出値を演算、すなわち取得する。次いで、合成した電流指令Id*,Iq*と検出電流Id,Iqとの偏差を電圧指令駆動信号生成部84に入力する。電圧指令駆動信号生成部84は、偏差からPI演算等により電圧指令を算出し、算出した電圧指令と、取得されたロータ14の回転位置とからインバータ36のスイッチング素子をオンオフするための駆動信号を求める。インバータ36は、この駆動信号により駆動され、回転電機10を正弦波電流またはパルス重畳電流により駆動する。このような本実施の形態によれば、上記の原理により回転電機10駆動時の効率向上を図れる。
また、図15の例の場合、制御装置38は、電流指令生成部80aと、電圧指令生成部86と、パルス電圧指令付加部88と、駆動信号生成部90とを含む。電流指令生成部80及びパルス電圧指令付加部88を含む部分は、切り換え部42(図10)を有する。電流指令生成部80aにトルク指令Treq及び回転電機10の回転数の取得値が入力される。電流指令生成部80aは、トルク指令Treq及び回転数に基づいて、基本波電流指令I1である、d軸電流指令Id*とq軸電流指令Iq*とを取得する。電流指令生成部80aは、基本波電流指令I1を出力する。また、制御装置38は、回転電機10に設けられた図示しない電流センサから各相電流を取得し、取得した各相電流からd軸電流Idとq軸電流Iqとの検出値を演算、すなわち取得する。次いで、電流指令Id*,Iq*と検出電流Id,Iqとの偏差を電圧指令生成部86に入力する。電圧指令生成部86は、偏差からPI演算等により電圧指令を算出し、算出した電圧指令を出力する。パルス電圧指令付加部88は、マップ記憶手段76(図10)のデータを参照しながら、トルク指令Treq及び回転数に基づいて、回転電機10の損失が最小となるような、パルス電圧指令V2を取得する。この場合にパルス電圧指令V2が0となれば電圧指令は正弦波電流に対応する指令となり、パルス電圧指令V2が0以外、すなわち正の値であれば電圧指令は、パルス重畳電流に対応する指令となる。この場合、パルス電圧指令決定のための条件として、相間電圧Vaが閾値Vx未満である、または閾値Vx以下であるか、それ以外かの条件も用いる。
なお、マップ記憶手段76のマップにおいて、予め相間電圧Vaが閾値Vx未満である、または閾値Vx以下であるか、それ以外かの条件で、基本波電流指令I1とパルス電圧指令V2とを決定しておくこともできる。パルス電圧指令付加部88から出力されたパルス電圧指令V2(0の場合もある。)は、基本波電流指令I1に対応する電圧指令に付加され、駆動信号生成部90に入力される。駆動信号生成部90は、図14の場合と同様に、電圧指令と、取得されたロータ14の回転位置とから、インバータ36を駆動するための駆動信号を求める。インバータ36は、この駆動信号により駆動され、回転電機10を正弦波電流またはパルス重畳電流により駆動する。このような本実施の形態の場合も、上記の原理により回転電機10駆動時の効率向上を図れる。
次に、上記の実施形態の回転電機駆動システム34を構成する回転電機の他の構成例について説明する。以下に示すように、本発明では、種々の回転電機の構成例を使用できる。
例えば上記の実施形態では、ロータ14の径方向に突出する突極にロータ巻線18n、18sを巻装していたが、図16に示すように、ロータコア16にスリット(空隙)48を形成することによっても、ロータ14の磁気抵抗を回転方向に応じて変化させることができる。図16に示すように、ロータコア16において、磁気抵抗の高い、すなわちインダクタンスが低い磁路をd軸磁路部分50とし、d軸磁路部分50よりも磁気抵抗の低い、すなわちインダクタンスが高い磁路をq軸磁路部分52とすると、ステータ12(ティース30)と対向するd軸磁路部分50及びq軸磁路部分52が周方向において交互に配置されるようにスリット48が形成されており、周方向においてd軸磁路部分50がq軸磁路部分52間に位置する。
各ロータ巻線18n,18sは、スリット48を通って磁気抵抗の低いq軸磁路部分52に巻装されている。図16に示す構成例では、ステータ12で形成された空間高調波成分を含む回転磁界が各ロータ巻線18n,18sに鎖交することで、各ロータ巻線18n,18sに各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が流れて各q軸磁路部分52が磁化する結果、各q軸磁路部分52が磁極の固定された磁石(磁極部)として機能する。その際には、周方向に関する各q軸磁路部分52の幅(各ロータ巻線18n,18sの幅θ)をロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定し、ロータ巻線18n,18sを各q軸磁路部分52に短節巻で巻装することで、ロータ巻線18n,18sに発生する空間高調波による誘導起電力を効率よく増大させることができる。さらに、ロータ巻線18n,18sに発生する空間高調波による誘導起電力を最大にするためには、周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅θを、ロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しく(あるいはほぼ等しく)することが好ましい。その他の構成及び作用は上記の実施形態と同様である。
また、上記の実施形態では、例えば図17に示すように、ロータコア16に永久磁石54を配設することもできる。図17に示す構成例では、磁極の固定された磁石として機能する複数の磁極部56が周方向に互いに間隔をおいた状態でステータ12(図2参照)と対向配置されており、各磁極部56にロータ巻線18n,18sが巻装されている。各永久磁石54は、周方向において磁極部56間に位置する部分に、ステータ12(ティース30)と対向配置されている。ここでの永久磁石54については、ロータコア16の内部に埋設されていてもよいし、ロータコア16の表面(外周面)に露出していてもよい。また、ロータコア16の内部に永久磁石54をV字状に配置することもできる。図17に示す構成例では、ステータ12で形成された空間高調波成分を含む回転磁界が各ロータ巻線18n,18sに鎖交することで、各ロータ巻線18n,18sに各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が流れて各磁極部56が磁化する結果、各磁極部56が磁極の固定された磁石として機能する。その際には、周方向に関する各磁極部56の幅(各ロータ巻線18n,18sの幅θ)をロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定し、ロータ巻線18n,18sを各磁極部56に短節巻で巻装することで、ロータ巻線18n,18sに発生する空間高調波による誘導起電力を効率よく増大させることができる。さらに、ロータ巻線18n,18sに発生する空間高調波による誘導起電力を最大にするためには、周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅θを、ロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しく(あるいはほぼ等しく)することが好ましい。その他の構成及び作用は上記の実施形態と同様である。
また、上記の実施形態では、例えば図18に示すように、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線18n同士を電気的に直列接続し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線18s同士を電気的に直列接続することもできる。つまり、同じ磁極(N極)の磁石として機能する突極19に巻装されたロータ巻線18n同士を電気的に直列接続し、同じ磁極(S極)の磁石として機能する突極19に巻装されたロータ巻線18s同士を電気的に直列接続することもできる。ただし、周方向に隣接する(異なる磁極の磁石が形成される)突極19に巻装されたロータ巻線18n,18sは、互いに電気的に分断されている。ダイオード21n,21sは、電気的に分断されたロータ巻線18n,18s毎に(2つ)設けられており、ダイオード21nは、電気的に直列接続されたロータ巻線18nに流れる電流を整流し、ダイオード21sは、電気的に直列接続されたロータ巻線18sに流れる電流を整流する。ここでも、ロータ巻線18nが巻装された突極19とロータ巻線18sが巻装された突極19とで(周方向に隣接する突極19同士で)異なる磁極の磁石が形成されるように、ダイオード21n,21sによるロータ巻線18n,18sの電流の整流方向を互いに逆方向にする。図18に示す構成例によれば、ダイオード21n,21sの数を2つに減らすことができる。その他の構成及び作用は上記の実施形態と同様である。
また、上記の実施形態では、例えば図19に示すように、ロータ巻線18n,18sをトロイダル巻きにすることもできる。図19に示す構成例では、ロータコア16は環状コア部58を含み、各突極19は、環状コア部58から径方向外側へ(ステータ12へ向けて)突出している。ロータ巻線18n,18sは、環状コア部58における各突極19付近の位置にトロイダル巻きで巻装されている。図19に示す構成例でも、ステータ12で形成された空間高調波成分を含む回転磁界が各ロータ巻線18n,18sに鎖交することで、各ロータ巻線18n,18sに各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が流れ、各突極19が磁化する。その結果、ロータ巻線18n付近に位置する突極19がN極として機能し、ロータ巻線18s付近に位置する突極19がS極として機能する。その際には、周方向に関する各突極19の幅θをロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定することで、ロータ巻線18n,18sに発生する空間高調波による誘導起電力を効率よく増大させることができる。さらに、ロータ巻線18n,18sに発生する空間高調波による誘導起電力を最大にするためには、周方向に関する各突極19の幅θを、ロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しく(あるいはほぼ等しく)することが好ましい。なお、図19では、図18に示す構成例と同様に、周方向に隣接するロータ巻線18n,18sを互いに電気的に分断し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線18n同士を電気的に直列接続し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線18s同士を電気的に直列接続した例を示している。ただし、ロータ巻線18n,18sをトロイダル巻にした例においても、図2,31に示す構成例と同様に、各突極19に巻装されたロータ巻線18n,18sを互いに電気的に分断することもできる。その他の構成及び作用は上記の実施形態と同様である。
また、上記の実施形態では、例えば図20に示すように、各突極19に共通のロータ巻線18を巻装することもできる。図20に示す構成例では、ロータ巻線18がダイオード21を介して短絡されていることで、ロータ巻線18に流れる電流の方向がダイオード21により一方向(直流)に整流される。各突極19に巻装されたロータ巻線18は、周方向に隣接する突極19同士で磁化方向が互いに逆方向となるように、周方向に隣接する突極19に巻装された部分の巻き方向が互いに逆方向である。図20に示す構成例でも、ステータ12で形成された空間高調波成分を含む回転磁界がロータ巻線18に鎖交することで、ロータ巻線18にダイオード21で整流された直流電流が流れて各突極19が磁化する結果、各突極19が磁極の固定された磁石として機能する。その際には、周方向に隣接する突極19同士で異なる磁極の磁石が形成される。図20に示す構成例によれば、ダイオード21の数を1つに減らすことができる。ただし、この場合には、上記の図29〜31の先発明、図2の実施形態、図16〜19の他の構成例の場合に対して、1の磁気特性を有する突極19を生成するために流れる誘導電流が、別の磁気特性を有する別の突極19を生成するために流れる誘導電流に、電流を減じさせる方向に影響し、トルクの向上という面では劣る可能性がある。
すなわち、図20に示す構成例では、N極を形成する突極19とS極を形成する突極19とで共通のロータ巻線18を用いているため、各突極19での空間高調波成分による磁束変動(3次)が相殺される場合があり、他の構成例ほど効果的にロータ14のトルクが増加しない場合がある。ここで、図20に示す構成例において、各突極19に巻装されたロータ巻線18の周方向に関する幅θを変化させながら、ロータ巻線18への鎖交磁束の振幅(変動幅)を計算した結果を図21に示す。図21では、コイル幅θを電気角に換算して示している。図21に示すように、コイル幅θが90°から減少するとロータ巻線18への鎖交磁束の変動幅が大きく減少し、コイル幅θが120°から増大するとロータ巻線18への鎖交磁束の変動幅が大きく増大する。さらに、ロータ巻線18の断面積を十分に確保するためのコイル幅θが必要となる点を考慮すると、図20に示す構成例においてロータ巻線18に発生する空間高調波による誘導電流を増大させるためには、周方向に関するロータ巻線18の幅θを、ロータ14の電気角で90°に相当する幅よりも大きく且つロータ14の電気角で120°に相当する幅よりも小さくする(90°<θ<120°を満たす)ことが好ましい。さらに、図21に示すように、コイル幅θが105°の場合に空間高調波による鎖交磁束の振幅がピークとなる。したがって、図20に示す構成例においてロータ巻線18に発生する空間高調波による誘導電流をさらに増大させるためには、周方向に関するロータ巻線18の幅θを、ロータ14の電気角で105°に相当する幅に等しく(あるいはほぼ等しく)することが好ましい。
また、図22に示す構成例では、ロータ巻線18は、各突極19に波巻(直列巻)で巻装されており、周方向に隣接する突極19同士で磁化方向が互いに逆方向となるように、周方向に隣接する突極19に巻装された部分の巻き方向が互いに逆方向である。図22のロータ巻線18において、実線部分は突極19の回転軸方向端面の一方側(図の手前側)を通り、破線部分は突極19の回転軸方向端面の他方側(図の奥側)を通る。そして、○内に●の部分には図面の手前方向の電流が流れ、○内に×の部分には図面の奥方向の電流が流れる。図22に示す構成例でも、ステータ12で形成された空間高調波成分を含む回転磁界がロータ巻線18に鎖交することで、ロータ巻線18にダイオード21で整流された直流電流が流れて各突極19が磁化する結果、各突極19が磁極の固定された磁石として機能する。その際には、周方向に隣接する突極19同士で異なる磁極の磁石が形成される。図22に示す構成例によれば、ダイオード21の数を1つに減らすことができ、ロータ14の巻線構造をさらに簡略化することができる。
また、以下の構成例で示すように、上記の実施の形態では、回転電機の各ロータ巻線は、ロータの周方向複数個所に位置するインダクタンスが低いd軸磁路に配置する構成を採用することもできる。図23は、回転電機を、回転軸と平行方向に見た略図である。図24は、図23のロータの概略構成を、回転軸と平行方向に見た略図である。
本構成例の回転電機10は、図示しないケーシングに固定されたステータ12と、ステータ12と所定の空隙を空けて径方向に対向配置され、ステータ12に対し回転可能なロータ14とを備える。図23〜24は、ステータ12とロータ14とが径方向に対向するように配置された、ラジアル型の回転電機10の例を示しており、ロータ14がステータ12の径方向内側に配置されている。ステータ12は、複数のティース30に巻装された3相等の奇数相のステータ巻線28u,28v,28wを有し、例えば3相のステータ巻線28u,28v,28wに3相の交流電流を流すことで、ティース30に高調波成分を含む周波数の回転磁界を生成する。なお、本構成例の主な特徴は、ロータ14の構造にあり、ステータ12の構成及び作用は、上記の図29〜31に示した構成例と同様である。
図24に示すように、ロータ14は、ロータコア16と、ロータコア16の周方向複数個所に配置され、巻装されたロータ巻線18n,18sと、ロータ14の周方向複数個所に配置された永久磁石54とを含む。ロータ14は、回転軸22に固定されている。ロータコア16の周方向複数個所に、径方向に伸びる柱部等の磁極部60が形成され、ロータ巻線18n,18sは、各磁極部60に巻装されている。
永久磁石54は、ロータ14の周方向複数個所の、各ロータ巻線18n,18sとロータ14の周方向に関して一致する部分に設けられた磁極部60の内部に配置され、すなわち埋設されている。逆に言えば、各永久磁石54の周囲にロータ巻線18n,18sが巻装されている。永久磁石54は、ロータ14の径方向に着磁させるとともに、その着磁方向を、ロータ14の周方向に隣り合う永久磁石54同士で異ならせている。図23、24(後述する図25も同様。)において、永久磁石54の上に配置された実線矢印は、永久磁石54の磁化方向を表している。なお、磁極部60は、ロータ14の周方向複数個所に径方向に伸びるように配置した突極等により構成することもできる。
ロータ14は、周方向に関して異なる磁気的突極特性を有する。ロータ14のうち、各永久磁石54から周方向に外れ、周方向に関して磁極部60と外れた位置である、インダクタンスLが高い磁路をq軸磁路とし、各永久磁石54と周方向に一致するインダクタンスLが低い磁路をd軸磁路とすると、各ロータ巻線18n,18sは、ロータ14の周方向複数個所に位置するd軸磁路に配置されている。
また、各磁極部60に巻装されたロータ巻線18n,18sは、互いに電気的に接続されておらず分断(絶縁)されている。そして、電気的に分断された各ロータ巻線18n,18sに、整流素子であるダイオード21n(または21s)が並列に接続されている。また、ロータ14の周方向の一つ置きの一部のロータ巻線18nに接続したダイオード21nと、残りのロータ巻線18sに接続したダイオード21sとの電流の流れ方向を逆にして、互いの順方向を逆にしている。このため、各ロータ巻線18n,18sは、ダイオード21n(または21s)を介して短絡されている。したがって、各ロータ巻線18n,18sに流れる電流が一方向に整流される。本構成例の場合も、各ダイオード21n,21sは、誘導起電力の発生によりロータ巻線18n,18sに流れる電流を整流することで、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線18n,18sに流れる電流の位相を、隣り合うロータ巻線18n,18s同士でA相とB相とに交互に異ならせている。
ロータ巻線18n,18sにダイオード21n,21sの整流方向に応じた直流電流が流れると、ロータ巻線18n,18sが巻装された磁極部60が磁化することで、この磁極部60が磁極の固定された磁石として機能する。図23、24にロータ巻線18n,18sの、ロータ14の径方向に関する外側に示した破線矢印の向きは、磁極部60の磁化方向を表している。
また、図24に示すように、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線18n,18s同士で直流電流の方向が互いに逆方向になる。そして、ロータ14の周方向に隣り合う磁極部60同士で磁化方向が互いに逆になる。すなわち、本構成例では、磁極部60の磁気特性が、ロータ14の周方向に関して交互に異なっている。例えば、図23,24では、ロータ14の周方向1つ置きの磁極部60である、ロータ巻線18nとロータ14の周方向に一致する部分の径方向外側にN極が配置され、N極の磁極部60と周方向に隣り合う磁極部60である、ロータ巻線18sとロータ14の周方向に一致する部分の径方向外側にS極が配置されるようにする。そして、ロータ14の周方向に隣り合う2つの磁極部60(N極及びS極)により、1つの極対が構成される。また、各永久磁石54の磁化方向と、各永久磁石54に対しロータ14の周方向に一致する磁極部60の磁化方向とを一致させている。
また、図23,24に示す例では、8極の磁極部60が形成され、ロータ14の極対数は4極対となる。また、ステータ12(図23)の極対数とロータ14の極対数とはいずれも4極対で、ステータ12の極対数とロータ14の極対数とは等しい。ただし、ステータ12の極対数及びロータ14の極対数は、いずれも4極対以外とすることもできる。
また、本構成例では、ロータ14の周方向に関する各磁極部60の幅がロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定されている。そして、周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅θ(図24)はロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定されており、ロータ巻線18n,18sは各磁極部60に短節巻きで巻装されている。また、好ましくは、ロータ14の周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅θは、電気角で90°に相当する幅と等しく(またはほぼ等しく)する。
このような回転電機10において、3相のステータ巻線28u,28v,28wに3相の交流電流を流すことでティース30(図23)に生成された高調波成分を含む周波数の回転磁界がロータ14に作用する。そしてこれに応じて、ロータ14に、リラクタンストルクTreと永久磁石生成トルクTmgとロータ巻線生成トルクTcoilとが作用して、ロータ14がステータ12で生成される回転磁界(基本波成分)に同期して回転駆動する。ここで、リラクタンストルクTreは、各磁極部60が、ステータ12が生成した回転磁界に吸引されることにより発生するトルクである。また、永久磁石生成トルクTmgは、各永久磁石54により生成される磁界とステータ12の回転磁界との相互作用である、吸引及び反発作用により生じるトルクである。また、ロータ巻線生成トルクTcoilは、ステータ12により発生する起磁力の空間高調波成分がロータ巻線18n,18sに作用することにより、ロータ巻線18n,18sに誘導される電流によるトルクであり、各磁極部60により生成される磁界とステータ12の回転磁界との電磁気的相互作用である、吸引及び反発作用により生じるトルクである。
また、本構成例では、ロータ14の周方向複数個所に永久磁石54を配置するとともに、周方向に隣り合う永久磁石54同士で着磁方向を異ならせ、ロータ14の周方向複数個所で、複数の永久磁石54に対しロータ14の周方向に一致する位置にロータ巻線18n,18sを配置し、各永久磁石54の磁化方向と、各永久磁石54に対しロータ14の周方向に一致する磁極部60の磁化方向とを一致させている。このため、永久磁石54により生成される永久磁石生成トルクTmgと、ロータ巻線18n,18sに流れる誘導電流により生成されるロータ巻線生成トルクTcoilとが、電流進角の同位相の、ある1の位相(例えば0°)で最大トルクとなる。また、永久磁石生成トルクTmgと、ロータ巻線生成トルクTcoilとが、電流進角の同位相の別の1の位相(例えば180°)で最小トルクとなる。また、リラクタンストルクTreは、電流進角が例えば45°で最小となり、135°で最小となる。この結果、回転電機10の全トルクが、30°付近で最大になり、150°付近で最小となる。また、このような各トルクは、ロータ14の回転方向がいずれになる場合でも同じトルク−電流進角特性となる。
このような本構成例の回転電機10によれば、回転電機10のトルクを有効に高くすることができる。すなわち、ロータ14の周方向複数個所に位置するインダクタンスが低いd軸磁路にロータ巻線18n,18sを配置するので、ロータ14の回転方向にかかわらず、電流位相−トルク特性が同じになり、しかもトルクの最大値が高くなり、トルクを有効に高くすることができる。例えば、力行トルクを大きくする場合に、ロータ14正転時(図24の矢印α方向にロータ14が回転する場合)とロータ14逆転時(図24の矢印β方向にロータ14が回転する場合)との両方で力行トルクを大きくすることができる。また、回生トルクを大きくする場合に、ロータ14正転時とロータ14逆転時との両方で回生トルクを大きくすることができる。したがって、ロータ14回転の正転逆転両方で高いトルクを得られる回転電機10の実現が可能になる。
また、ロータ14の周方向複数個所に、ロータ14の径方向に着磁した永久磁石54を配置するとともに、周方向に隣り合う永久磁石54同士で着磁方向を異ならせ、ロータ14の周方向複数個所で、複数の永久磁石54に対しロータ14の周方向に一致する位置にロータ巻線18n,18sを配置し、永久磁石54の磁化方向と、永久磁石54に対しロータ14の周方向に一致する磁極部60の磁化方向とを一致させている。このため、永久磁石54により生成される永久磁石生成トルクTmgと、ロータ巻線18n,18sに流れる誘導電流により生成されるロータ巻線生成トルクTcoilとが、電流進角の同位相で最大トルクとなる。すなわち、ロータ巻線18n,18sでの誘導電流により、ロータ巻線18n,18sが等価的に電磁石として機能し、各永久磁石54に鎖交する磁束が増大してその分、回転電機10のトルクが増加する。このため、回転電機10のトルクをより有効に高くすることができ、しかもトルク特性がロータ14の回転方向に依存せず同じとなる。
また、ロータ巻線18n,18sに流れる誘導電流により、各永久磁石54内の磁束変動が抑えられるため、各永久磁石54内部での渦電流損失が抑えられ、磁石発熱を低減できる。この結果、各永久磁石54内部での渦電流損失が抑えられ、磁石発熱を低減できる。
また、ロータ巻線18n,18sは、ロータ14の周方向複数個所に短節巻きで巻装し、ロータ巻線18n,18sに誘導起電力に伴って生じる誘導電流をダイオード21n,21sで整流する。このため、ステータ巻線28u,28v,28w以外の種類の巻線をステータ12に、ロータ巻線18n,18s以外の種類の巻線をロータ14に、それぞれ設けることなく、ロータ巻線18n,18sに高調波成分による誘導起電力を効率よく発生させることができ、回転電機10の巻線構造を簡略化できる。なお、本構成例及び以下の構成例のように、d軸磁路にロータ巻線18n,18sを配置する場合には、d軸、q軸電流指令値の設定によるベクトル制御により回転電機を制御する場合に、d軸電流指令値に予め設定した所定周波数でパルス電流を発生させるように制御することで、図6〜9に実験結果を示した実施形態と同様に、極低速または回転停止時のトルク向上を図ることが可能となる。
また、図25は、別の構成例において、図24に対応する略図である。本構成例では、複数のロータ巻線18n,18sのうち、ロータ14の周方向において1つおきに配置された一部のロータ巻線18n同士を電気的に直列接続し、周方向において1つおきに配置された残りのロータ巻線18s同士を電気的に直列接続している。すなわち、同じ方向に磁化される磁石として機能する磁極部60に巻装されたロータ巻線18n(または18s)同士を電気的に直列接続している。また、ロータ14の周方向に隣り合う磁極部60に巻装されたロータ巻線18n,18s同士は、電気的に分断している。そして、互いに電気的に接続したロータ巻線18n(または18s)を含む回路により、互いに電気的に分断された2組のロータ巻線回路62a、62bを構成している。すなわち、ロータ巻線18n,18sは、互いに同じ磁気特性を有する磁極部60に巻装されるもの同士で、電気的に接続している。
また、2組のロータ巻線回路62a、62bにそれぞれ整流素子であり、互いに異なる極性を有するダイオード21n、21sを、1つおきのロータ巻線18n,18sに対して直列に接続し、それぞれのロータ巻線回路62a、62bに流れる電流の向きを一方向に整流している。また、2組のロータ巻線回路62a、62bのうち、一方のロータ巻線回路62aを流れる電流と、他方のロータ巻線回路62bを流れる電流とを互いに逆方向にしている。その他の構成及び作用については、上記の図23,24に示す構成例と同様である。
図26は、別の構成例において、図24に対応する略図である。本構成例の回転電機を構成するロータ14は、上記の図25に示した構成例で、ロータ14に設けていた永久磁石54(図25参照)を省略している。また、ロータコア16は、外周面の周方向複数個所に径方向に突出する突極64を設けた構成とし、各ロータ巻線18n,18sを、ロータ14の周方向に隣り合う突極64の間に配置している。すなわち、各ロータ巻線18n,18sは、内部が空間部となる空芯状態で配置される。また、ロータ14の周方向に関してロータ巻線18n,18sの間部分が、ステータ12(図23参照)側に突出し、ロータコア16は磁気的突極特性を有する。
このようなロータ14の場合、ロータ14の周方向に関して突極64と一致する磁路が、インダクタンスが高いq軸磁路となり、ロータ14の周方向に関して突極64と外れた位置が、インダクタンスが低いd軸磁路となる。そして、各ロータ巻線18n,18sは、d軸磁路に配置されている。
このような本構成例では、上記の図23〜25の構成例と異なり、ロータ14に永久磁石54(図25参照)が配置されていないが、ロータ14の回転方向にかかわらず回転電機のトルクを大きくできる。すなわち、ロータ14の周方向複数個所に位置するインダクタンスが低いd軸磁路にロータ巻線18n,18sを配置するので、ロータ14の回転方向にかかわらず、電流位相−トルク特性が同じになり、しかもトルクの最大値が高くなり、トルクを有効に高くすることができる。例えば、力行トルクを大きくする場合に、ロータ14の正転時と逆転時との両方で力行トルクを大きくすることができる。また、回生トルクを大きくする場合に、ロータ14の正転時と逆転時との両方で回生トルクを大きくすることができる。したがって、ロータ14の回転の正転逆転両方で高いトルクを得られる回転電機の実現が可能になる。その他の構成及び作用については、上記の図23〜24の構成例または図25の構成例と同様である。
図27は、別の構成例において、図24に対応する略図である。本構成例の回転電機を構成するロータ14も、上記の図26に示した構成例の場合と同様に、ロータ14に永久磁石54(図25等参照)を設けていない。本構成例では、ロータ14を構成するロータコア16の内部に空隙部である、スリット48を形成することにより、ロータ14の磁気抵抗を回転方向に関して変化させている。すなわち、ロータコア16の周方向複数個所に、断面略U字形で軸方向に伸び、径方向外側に開口する複数のスリット48を、ロータ14の径方向に間隔をあけて配置している。そして、ロータコア16の周方向複数個所で、複数のスリット48の周方向中央位置と一致する位置の磁路をインダクタンスが低いd軸磁路とし、周方向に隣り合うスリット48の間の磁路をインダクタンスが高いq軸磁路としている。そして、ロータ14の周方向に関してd軸磁路とq軸磁路とを交互に配置している。
また、ロータ14の周方向複数個所の各d軸磁路に対応する磁極部66に、ロータ巻線18n,18sを配置し、巻装している。また、ロータ巻線18n,18sを、隣り合うロータ巻線18n,18s同士で異なる極性を有するダイオード21n、21sで短絡している。ダイオード21nで短絡したロータ巻線18nと、ダイオード21sで短絡したロータ巻線18sとを、ロータ14の周方向に関して交互に配置し、ロータ巻線18n,18sに流れる電流により生成される複数の磁極部66の磁気特性を、ロータ14の周方向に関して交互に異ならせている。
このような本構成例の場合には、ステータ12(図23参照)からの回転磁界がロータ巻線18n,18sに鎖交することで、各ロータ巻線18n,18sに各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が流れて、各d軸磁路に位置する周方向複数個所の磁極部66が磁化し、各磁極部66が磁極の固定された磁石として機能する。また、ロータ14の周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅を、ロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定し、ロータ巻線18n,18sを各磁極部60に短節巻きで巻装している。また、好ましくは、周方向に関する各ロータ巻線18n,18sの幅はロータ14の電気角で90°に相当する幅と等しく(またはほぼ等しく)する。
このような本構成例の場合も、ロータ14に永久磁石が配置されていないが、ロータ14の回転方向にかかわらず回転電機のトルクを大きくできる。すなわち、ロータ14の周方向複数個所に位置するインダクタンスが低いd軸磁路にロータ巻線18n,18sを配置するので、ロータ14の回転方向にかかわらず、電流位相−トルク特性が同じになり、しかもトルクの最大値が高くなり、トルクを有効に高くすることができる。したがって、ロータ14の回転の正転逆転両方で高いトルクを得られる回転電機の実現が可能になる。その他の構成及び作用については、上記の図23〜24の構成例と同様である。
図28は、別の構成例において、図24に対応する略図である。本構成例の回転電機を構成するロータ14では、上記の図23〜24に示した構成例を構成するロータ14において、ロータコア16に磁気的突極特性を持たせず、ロータコア16の外周面の周方向複数個所に永久磁石54を固定している。また、各永久磁石54の周囲にロータ巻線18n,18sを巻装している。本構成例では、ロータ14の周方向複数個所の、各永久磁石54と周方向に一致する部分を磁極部としている。また、各ロータ巻線18n,18sを、隣り合うロータ巻線18n,18s同士で異なる極性を有するダイオード21n、21sで短絡している。その他の構成及び作用については、上記の図23〜24の構成例と同様である。
以上の実施形態及び構成例の説明では、ステータ12とロータ14とが回転軸22と直交する径方向において対向配置されているラジアル型の回転電機の場合を説明した。ただし、上記の実施形態を構成する回転電機は、ステータ12とロータ14とが回転軸22と平行方向(回転軸方向)において対向配置されたアキシャル型の回転電機であってもよい。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。