JP2010270028A - アダマンタノール類の製造方法 - Google Patents

アダマンタノール類の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】アダマンタン類からアダマンタノール類を、短時間、かつ高収率で、工業的に有利に製造する。
【解決手段】アダマンタン類を、発煙硫酸及び有機ニトリル化合物から成る混合液中で反応させた後、得られた反応液を加水分解処理する。
【選択図】なし

Description

本発明は、アダマンタン類からアダマンタノール類を、短時間、かつ高収率で、工業的に有利に製造する方法に関する。
アダマンタン骨格に水酸基が結合されたアダマンタノール類(1−アダマンタノール等)は、医薬中間体、フォトレジスト用モノマーの原料、フォトクロミック化合物の原料、塗料、接着剤、粘着剤、膜、吸着材などの材料の原料など広く用途があり、工業上重要な化合物である。
アダマンタノール類の製造方法としては、アダマンタン類を金属塩酸化触媒の存在下、空気酸化する方法(例えば、特許文献1を参照)や、アダマンタン類を酢酸中において三酸化クロムを用いて酸化する方法(例えば、特許文献2を参照)が開示されている。
上記の空気酸化による方法(特許文献1)ではアダマンタノール類(モノオール類)の選択性が低く、また、三酸化クロムを用いる方法(特許文献2)では高価な三酸化クロムが過剰に使用され、廃棄物処理の問題がある。
他のアダマンタノール類の製造方法として、アダマンタン類を臭素化し、生成する臭素誘導体を加水分解する方法がある。アダマンタン類を臭素化し(例えば、非特許文献1を参照)、生成する臭素誘導体を、化学量論量を超える過剰の銀塩(硫酸銀)を用いて加水分解する方法(例えば、非特許文献2を参照)が知られている。
この臭素化法では、先ず原料を臭素化するので原料コストが高くなり、また、生成する臭素誘導体を加水分解するための触媒も高価である。
さらに、アダマンタン類に、濃硫酸、カルボカチオン生成化合物および有機ニトリル化合物を反応させ、得られた反応液を加水分解することでアダマンタノール類を製造することが開示されている(例えば、特許文献3および特許文献4を参照)。
また、アルキルアダマンタンモノオール類の製造方法として、アルキルアダマンタン類を発煙硫酸と反応させてアルキルアダマンタン硫酸塩としたのち、加水分解する方法が知られている(例えば、特許文献5を参照)。
特許第518869号公報 特許第510654号公報 特開平1−283236号公報 特許第3998966号公報 特開2000−273059号公報
Chem. Ber., 92.1629(1959) J.Org.Chem.,26.2207(1961)
しかしながら、本発明者らの研究によると、前記特許文献3及び4の方法では、高価なカルボカチオン生成化合物(t-ブチルアルコール、t-ブチルクロライド、t-ブチルブロマイドなど)が必須であり、経済性に問題がある。これらのカルボカチオン生成化合物は、後述の比較例1からも明らかなように、アダマンタン骨格中の3級炭素に作用し、陽イオン化し、水酸基の導入を促すために必須なものである。
また、前記特許文献5の方法では、アルキルアダマンタン類以外のアダマンタン類を原料に用いた場合には、後述の比較例5からも明らかなように、収率が低く、また、大量の発煙硫酸が必要である。収率を高くしようすると、必然的に発煙硫酸量が原料に対して多くなる。
本発明は、以上のような状況下でなされたもので、収率を高くするために必要な大量の発煙硫酸や、高価なカルボカチオン生成化合物を使用することなく、短時間、かつ高収率で、工業的に有利に、アダマンタン類からアダマンタノール類を製造する方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アダマンタン類を、発煙硫酸及び有機ニトリル化合物から成る混合液中で反応させた後、得られた反応液を加水分解処理することにより上記の目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、以下のアダマンタノール類の製造方法を提供するものである。
1.アダマンタン類を、発煙硫酸及び有機ニトリル化合物から成る混合液中で反応させた後、得られた反応液を加水分解処理することを特徴とするアダマンタノール類の製造方法。
2.アダマンタン類1モルに対して、発煙硫酸を10〜20モル、有機ニトリル化合物を1〜10モル使用し、反応温度が0〜60℃である上記1のアダマンタノール類の製造方法。
3.発煙硫酸中のSO3濃度が10〜26質量%であり、反応温度が10〜50℃である上記1又は2のアダマンタノール類の製造方法。
4.加水分解温度が30〜100℃である上記1〜3のいずれかのアダマンタノール類の製造方法。
5.有機ニトリル化合物がアセトニトリルである上記1〜4のいずれかのアダマンタノール類の製造方法。
6.原料がアダマンタンであり、アダマンタノール類が1−アダマンタノールを製造する上記1〜5のいずれかのアダマンタノール類の製造方法。
本発明のアダマンタノール類の製造方法によれば、大量の発煙硫酸や、高価なカルボカチオン生成化合物を使用することなく、短時間、かつ高収率で、工業的に有利に、アダマンタン類からアダマンタノール類を製造することができる。
本発明においてアダマンタン類とは、アダマンタンの他、アダマンタン骨格上の4個の3級炭素、すなわち、1位、3位、5位および7位の炭素原子の少なくとも1個が無置換の化合物である。通常は、下記の一般式(I)で示されるものが使用される。
Figure 2010270028
(式中、R1は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、またはハロゲン原子であり、nは0〜4の整数であり、1位、3位、5位および7位の炭素原子の少なくとも1個は、R1が無置換である。)
一般式(I)においてR1のアルキル基は、特に制限されるものではないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等の炭素数1〜6のものが好ましい。アリール基は、フェニル基等の炭素数が6〜10のものが好ましい。アラルキル基は、ベンジル基等の炭素数が7〜12のものが好ましい。アミノ基は、メチルアミノ基、エチルアミノ基等の炭素数1〜4のものが好ましい。ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等が好ましい。これらR1のうちでも、アルキル基、アミノ基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、またはハロゲン原子が特に好ましい。
また、R1がアダマンタン骨格に対して複数個置換している場合、これらは各々同種のものであっても良いし、異種のものであっても良い。
一般式(I)で示させるアダマンタン類を具体的に例示すると、アダマンタン:1−メチルアダマンタン、1−エチルアダマンタン、2−メチルアダマンタン、2−エチルアダマンタン、1,3−ジメチルアダマンタン、1,3−ジエチルアダマンタン、1,2−ジメチルアダマンタン、1,2−ジエチルアダマンタン等のアルキルアダマンタン類;1−アダマンタナミン、1,3−ジアミノアダマンタン、1−アダマンタンメチルアミン等のアミノアダマンタン類;1−アダマンタノール、2−アダマンタノール、1,3−ジヒドロキシアダマンタン等のヒドロキシアダマンタン類;、1−シアノアダマンタン、2−シアノアダマンタン等のシアノアダマンタン類;1−アダマンタンカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸等のカルボキシルアダマンタン類;1−フルオロアダマンタン、2−フルオロアダマンタン、1−クロロアダマンタン、2−クロロアダマンタン、1−ブロモアダマンタン、2−ブロモアダマンタン、1−ヨードアダマンタン、2−ヨードアダマンタン、1,3−ジフルオロアダマンタン、1,3−ジクロロアダマンタン、1,3−ジブロモアダマンタン、1,3−ジヨードアダマンタン等のハロゲン化アダマンタン類などが挙げられる。
一般式(I)で示させるアダマンタン類のなかでも、反応性や入手の容易さなどの理由から、アダマンタン、1−メチルアダマンタン、1,3−ジメチルアダマンタンが好ましく、アダマンタンが特に好ましい。
本発明において、発煙硫酸は、酸化剤として使用するものであり、試薬および工業用に入手可能なものを何等制限なく使用できる。発煙硫酸中のSO3濃度は、通常5〜60質量%であり、好ましくは10〜26質量%である。SO3濃度を60質量%以下とすることによりアダマンタノール類の収率が向上し、5質量%以上とすることにより反応速度が向上する。
発煙硫酸の使用量は、アダマンタン類1モルに対して、通常、8モル以上であり、好ましくは8〜50モル、特に好ましくは10〜20モルである。アダマンタン類1モルに対して8モル以上とすることによりアダマンタン類の収率が向上する。また、20モルより多くしても収率向上の効果は無く、使用量増大により製造コストが上昇する。
有機ニトリル化合物としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ベンジルニトリル、ビニルアセトニトリル、クロロアセトニトリル、2−クロロプロピオニトリル、3−クロロプロピオニトリル、2−ブロモフェニルアセトニトリル、3−ブロモフニェルアセトニトリル、4−ブロモフェニルアセトニトリルなどが挙げられ、このうち、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルを用いるのが好ましい。
アダマンタン類と有機ニトリル化合物との反応は量論反応であるため、有機ニトリル化合物の使用量としてはアダマンタン類と1モルに対して1モル以上使用すれば特に制限は無いが、あまり量が多いと、副生成物が増加する可能性があるため、通常、アダマンタン類1モルに対して1〜10モルであり、好ましくは1〜5モルである。
アダマンタン類と、発煙硫酸及び有機ニトリル化合物との反応温度は通常、0〜60℃である。反応温度を0℃以上とすることにより反応速度が向上する。また、60℃以下とすることにより副反応が少なくなり、収率が向上する。反応は発煙硫酸の凝固点以上で実施する必要があり、例えば発煙硫酸中のSO3濃度が10〜26質量%の場合、10〜50℃で実施するのが好ましい。さらに好ましくは15〜45℃である。
反応時間は使用する発煙硫酸量、SO3濃度、有機ニトリル化合物の種類、量等により一概には言えないが、通常、0.5〜50時間である。
アダマンタン類と発煙硫酸及び有機ニトリル化合物を反応させた後に加水分解を行う際の水使用量は、発煙硫酸の質量に対して1倍以上、好ましくは1.5〜10倍である。水使用量を1倍以上とすることにより加水分解反応の速度が大きくなり、アダマンタノール類の収率が向上する。水使用量が多すぎると、回分式では1バッチ当たりのアダマンタノール類の収量が低下することになる。
加水分解の温度は、通常、30〜100℃であり、好ましくは40〜100℃である。30℃以上とすることにより加水分解が進行し、アダマンチルアセチルアミドが生成しない。
加水分解の反応時間は、反応液の水への滴下後、0.1〜5時間程度であり、短時間にアダマンタノール類を高収率で得ることができる。
アダマンタノール類は、例えば、加水分解後の液を冷却することにより析出した結晶を、濾過や遠心分離により回収することができる。また、加水分解後の液を、必要により有機溶媒(例えばトルエン等)を加えて抽出し、水酸化ナトリウム水溶液等を加えて中和した後、得られた有機溶媒を濃縮し、晶析を行う等の手法により精製することができる。
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、実施例における生成物の純度は、無極性キャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィーにおいて、フレームイオン化検出器で求めた純度(ガスクロ面積百分率純度であり、GC純度と称す)である。
実施例1
100mLの四つ口フラスコに25質量%発煙硫酸30mL(582mmol)を仕込み、アセトニトリル2.4g(58.5mmol)、アダマンタン6.0g(44.1mmol)を添加し、反応温度、25℃で3時間反応させた。なお、原料のアダマンタンに対する発煙硫酸のモル比は13.2(=582/44.1)である。
続いて、4Lの四つ口フラスコに張り込んだ70℃の水90gに反応液を滴下した。滴下終了時、水と反応液との混合液の温度は75℃であった。滴下終了後、80℃にて30分間攪拌して加水分解を完了させ、室温に冷却した後、析出した結晶を濾過し、乾燥し、6.6gの結晶を得た。
この結晶は、ガスクロカトグラフィー分析によって、GC純度99.6%の1−アダマンタノールであり、その収率は98%であった。
実施例2
アセトニトリルの添加量を3.6g(87.7mmol)にした以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、GC純度99.7%の1−アダマンタノールが6.5g得られ、収率は97%であった。
実施例3
反応温度を40℃にした以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、GC純度97.6%の1−アダマンタノールが6.2g得られ、収率は92%であった。
実施例4
反応温度を10℃、反応時間を5時間にした以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、GC純度99.5%の1−アダマンタノールが6.5g得られ、収率は97%であった。
実施例5
アセトニトリルの代わりにプロピオニトリルを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、GC純度98.2%の1−アダマンタノールが6.1g得られ、収率は91%であった。
実施例6
アセトニトリルの代わりにベンゾニトリルを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、GC純度97.1%の1−アダマンタノールが5.8g得られ、収率は86%であった。
実施例7
アダマンタンの代わりに1,3−ジメチルアダマンタンを7.2g(44.1mmol)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、GC純度99.1%の3,5−ジメチル−1−アダマンタノールが7.7g得られ、収率は97%であった。
比較例1
25質量%発煙硫酸の代わりに98質量%濃硫酸を使用した以外は、実施例2と同様の操作を行った。その結果、1−アダマンタノールは全く得られなかった。
比較例2
反応時間を12時間にした以外は比較例1と同様の操作を行った。その結果、1−アダマンタノールが0.20g得られ、収率は3.0%であった。
比較例3
反応温度を60℃にした以外は比較例1と同様の操作を行った。その結果、1−アダマンタノールが0.18g得られ、収率は2.6%であった。
比較例4
反応時間を12時間にした以外は比較例3と同様の操作を行った。その結果、1−アダマンタノールが0.30g得られ、収率は4.5%であった。
比較例5
アセトニトリルを添加しなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、1−アダマンタノールが0.32g得られ、収率は4.8%であった。
上記の比較例1は、特許文献3および特許文献4においてカルボカチオン生成化合物を使用しない場合を示し、カルボカチオン生成化合物は、アダマンタン骨格中の3級炭素に作用し、陽イオン化し、水酸基の導入を促すために必須なものであることが分かる。特許文献3にもカルボカチオン生成物が必須であることが記載されている。
また、比較例5は特許文献5に記載の方法において、原料にアルキルアダマンタン類ではないアダマンタンを用い、発煙硫酸のモル比を低下させたものである。特許文献5において、実施例1では1,3−ジメチルアダマンタンに対する発煙硫酸のモル比が31.2(3.87/0.122)で収率が72%、実施例4では該モル比が23.8で収率が60.5%、実施例5では該モル比が16.2で収率が39.3%であり、発明が解決しようとする課題に記載したように、特許文献5においてアルキルアダマンタン類以外のアダマンタン類を原料に用いた場合にはアダマンタノール類の収率が低いことが分かる。
また、上記のように特許文献5の実施例では、アルキルアダマンタン類に対する発煙硫酸のモル比が本発明の実施例よりも著しく高く、特許文献5の方法では、大量の発煙硫酸が必要であることを示している。
特許文献3の実施例では、アダマンタンに対して、大量の濃硫酸と、カルボカチオン生成化合物および有機ニトリル化合物を水冷下に反応させ、大量の氷水に入れ、溶媒を用いて抽出し、洗浄後、溶媒を留去してアダマンタノール類の結晶を得ている。
また、特許文献4の実施例では濃硫酸、カルボカチオン生成化合物および有機ニトリル化合物を12時間かけて反応させている。
これに対して本発明においては、温和な反応条件の簡易プロセスにより、短時間で反応が行われ、高収率が得られるので、工業的に極めて有利にアダマンタノール類を製造することができる。
本発明の方法により、大量の発煙硫酸や、高価なカルボカチオン生成化合物を使用することなく、短時間、かつ高収率で、工業的に有利に、アダマンタン類からアダマンタノール類を製造することができ、医薬中間体、フォトレジスト用モノマーの原料、フォトクロミック化合物の原料、塗料、接着剤、粘着剤、膜、吸着材などの材料の原料として使用される。

Claims (6)

  1. アダマンタン類を、発煙硫酸及び有機ニトリル化合物から成る混合液中で反応させた後、得られた反応液を加水分解処理することを特徴とするアダマンタノール類の製造方法。
  2. アダマンタン類1モルに対して、発煙硫酸を10〜20モル、有機ニトリル化合物を1〜10モル使用し、反応温度が0〜60℃である請求項1に記載のアダマンタノール類の製造方法。
  3. 発煙硫酸中のSO3濃度が10〜26質量%であり、反応温度が10〜50℃である請求項1又は2に記載のアダマンタノール類の製造方法。
  4. 加水分解温度が30〜100℃である請求項1〜3のいずれかに記載のアダマンタノール類の製造方法。
  5. 有機ニトリル化合物がアセトニトリルである請求項1〜4のいずれかに記載のアダマンタノール類の製造方法。
  6. 原料がアダマンタンであり、1−アダマンタノールを製造する請求項1〜5のいずれかに記載のアダマンタノール類の製造方法。
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