以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFを支持する複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2と車体フレームBFとを連結する複数の懸架装置4と、複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵する操舵装置5とを主に備えて構成されている。
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の前方側(矢印F方向側)に位置する左右の前輪2FL,2FRと、車両1の後方側(矢印B方向側)に位置する左右の後輪2RL,2RRとを備えている。なお、本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3により回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動される従動輪として構成されている。
また、車輪2は、図1に示すように、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、各車輪2において、第1トレッド21が車両1の内側に配置され、第2トレッド22が車両1の外側に配置されている。なお、本実施の形態では、両トレッド21,22の幅(図1左右方向の寸法)が同一の幅に構成されている。
また、第1トレッド21及び第2トレッド22は、第2トレッド22が第1トレッド21よりも硬度の高い材料により構成され、第1トレッド21が第2トレッド22に比してグリップ力の高い特性(高グリップ特性)に構成される一方、第2トレッド22が第1トレッド21に比して転がり抵抗の小さい特性(低転がり特性)に構成されている。
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRを回転駆動するための装置であり、後述するように電動モータ3aにより構成されている(図3参照)。また、電動モータ3aは、図1に示すように、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の操作量に応じて回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、デファレンシャルギヤにより吸収される。
懸架装置4は、路面から車輪2を介して車体フレームBFに伝わる振動を緩和するための装置、いわゆるサスペンションとして機能するものであり、図1に示すように、各車輪2に対応してそれぞれ設けられている。また、本実施の形態における懸架装置4は、車輪2のキャンバ角を調整するキャンバ角調整機構としての機能を兼ね備えている。
ここで、図2を参照して、懸架装置4の詳細構成について説明する。図2は、懸架装置4の正面図である。なお、ここでは、キャンバ角調整機構として機能する構成のみについて説明し、サスペンションとして機能する構成については周知の構成と同様であるので、その説明を省略する。また、各懸架装置4の構成は、各車輪2においてそれぞれ共通であるので、右の前輪2FRに対応する懸架装置4を代表例として図2に図示する。但し、図2では、理解を容易とするために、ドライブシャフト31等の図示が省略されている。
懸架装置4は、図2に示すように、ストラット41及びロアアーム42を介して車体フレームBFに支持されるナックル43と、駆動力を発生するFRモータ44FRと、そのFRモータ44FRの駆動力を伝達するウォームホイール45及びアーム46と、それらウォームホイール45及びアーム46から伝達されるFRモータ44FRの駆動力によりナックル43に対して揺動駆動される可動プレート47とを主に備えて構成されている。
ナックル43は、車輪2を操舵可能に支持するものであり、図2に示すように、上端(図2上側)がストラット41に連結されると共に、下端(図2下側)がボールジョイントを介してロアアーム42に連結されている。
FRモータ44FRは、可動プレート47に揺動駆動のための駆動力を付与するものであり、DCモータにより構成され、その出力軸44aにはウォーム(図示せず)が形成されている。
ウォームホイール45は、FRモータ44FRの駆動力をアーム46に伝達するものであり、FRモータ44FRの出力軸44aに形成されたウォームに噛み合い、かかるウォームと共に食い違い軸歯車対を構成している。
アーム46は、ウォームホイール45から伝達されるFRモータ44FRの駆動力を可動プレート47に伝達するものであり、図2に示すように、一端(図2右側)が第1連結軸48を介してウォームホイール45の回転軸45aから偏心した位置に連結される一方、他端(図2左側)が第2連結軸49を介して可動プレート47の上端(図2上側)に連結されている。
可動プレート47は、車輪2を回転可能に支持するものであり、上述したように、上端(図2上側)がアーム46に連結される一方、下端(図2下側)がキャンバ軸50を介してナックル43に揺動可能に軸支されている。
上述したように構成される懸架装置4によれば、FRモータ44FRが駆動されると、ウォームホイール45が回転すると共に、ウォームホイール45の回転運動がアーム46の直線運動に変換される。その結果、アーム46が直線運動することで、可動プレート47がキャンバ軸50を揺動軸として揺動駆動され、車輪2のキャンバ角が調整される。
なお、本実施の形態では、各連結軸48,49及びウォームホイール45の回転軸45aが、車体フレームBFから車輪2に向かう方向(矢印R方向)において、第1連結軸48、回転軸45a、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第1キャンバ状態と、回転軸45a、第1連結軸48、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第2キャンバ状態(図2に示す状態)とのいずれか一方のキャンバ状態となるように車輪2のキャンバ角が調整される。
これにより、車輪2のキャンバ角が調整された状態では、車輪2に外力が加わったとしても、アーム46を回動させる方向の力は発生せず、車輪2のキャンバ角を維持することができる。
また、本実施の形態では、かかる第1キャンバ状態において、車輪2のキャンバ角がマイナス方向の所定の角度(以下「第1キャンバ角」と称す)に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与される。これにより、車輪2の横剛性を発揮させることができる。また、第1キャンバ状態では、第2トレッド22の接地に対する第1トレッド21の接地比率が大きくなることで、第1トレッド21の高グリップ特性を発揮させることができる。
一方、かかる第2キャンバ状態(図2に示す状態)では、車輪2のキャンバ角が0°(以下「第2キャンバ角」と称す)に調整される。これにより、キャンバスラストの影響を回避することができる。また、第2トレッド22は、第1トレッド21よりも硬度の高い材料により構成されているので、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整された場合には、第1トレッド21の接地が第2トレッド22によって妨げられる。これにより、第1トレッド21の接地に対する第2トレッド22の接地比率が大きくなることで、第2トレッド22の低転がり特性を発揮させることができる。
図1に戻って説明する。操舵装置5は、運転者によるステアリング63の操作を左右の前輪2FL,2FRに伝えて操舵するための装置であり、いわゆるラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成されている。
この操舵装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作(回転)は、まず、ステアリングコラム51を介してユニバーサルジョイント52に伝達され、ユニバーサルジョイント52により角度を変えられつつステアリングボックス53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動する。その結果、タイロッド54がナックル55を押し引きすることで、車輪2に所定の舵角が付与される。
アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3が駆動制御される。ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(回転角、回転速度など)に応じて、操舵装置5により左右の前輪2FL,2FRが操舵される。
車両用制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62やステアリング63の操作状態に応じてキャンバ角調整装置44(図3参照)を作動制御する。
次いで、図3を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の装置が接続されている。
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM72は、CPU71により実行される制御プログラム(例えば、図4に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリであり、図3に示すように、キャンバフラグ73aと、リングバッファメモリ73bとが設けられている。
キャンバフラグ73aは、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に調整されているのか或いは第2キャンバ角に調整されているのかを示すフラグである。CPU71は、このキャンバフラグ73aがオンの場合に、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に調整されていると判断し、キャンバフラグ73aがオフの場合に、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整されていると判断する。
リングバッファメモリ73bは、車両1に発生した左右方向加速度の履歴を記憶するリングバッファであり、後述する加速度センサ装置81の左右方向加速度センサ81bによる検出結果(左右方向加速度)が所定のレートでサンプリングされ、加速度の絶対値とその方向とを示す値とがサンプリング時間に対応付けられて順次書き込まれる。このリングバッファメモリ73bへの書き込みは、リングバッファの先頭アドレスから順に行われ、その書き込みがリングバッファの最終アドレスへ至ると、再度、リングバッファの先頭アドレスへ戻って、その先頭アドレスから書き込みが継続される。なお、本実施の形態では、約1時間分の履歴を書き込み可能な容量がリングバッファに確保されている。
CPU71は、このリングバッファメモリ73bから所定期間(ΔT、図5参照。本実施の形態では、直近の10分間)内の左右方向加速度の絶対値を読み出し、その平均値を算出することで、車両1の走行履歴を推定する。例えば、その平均値が所定の閾値を超えていれば、所定回数以上の旋回がなされていると判断し、車両1の走行履歴をスラローム走行と推定する。一方、平均値が所定の閾値以下であれば、旋回の回数が所定回数に達していないと判断し、車両1の走行履歴をスラローム走行ではない通常走行と推定する。
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FR(図1参照)を回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。但し、車輪駆動装置3は、電動モータ3aに限られず、他の駆動源を採用することは当然可能である。他の駆動源としては、例えば、油圧モータやエンジン等が例示される。
キャンバ角調整装置44は、各車輪2のキャンバ角を調整するための装置であり、上述したように、各懸架装置4の可動プレート47(図2参照)に揺動駆動のための駆動力をそれぞれ付与する合計4個のFL〜RRモータ44FL〜44RRと、それら各モータ44FL〜44RRをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。
計時装置80は、時間を計測するための装置であり、CPU71からの指示に基づいて時間を計測する計時回路(図示せず)と、その計時回路により計測された時間を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
加速度センサ装置81は、車両1の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後方向加速度センサ81a及び左右方向加速度センサ81bと、それら各加速度センサ81a,81bの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
前後方向加速度センサ81aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1矢印F−B方向)の加速度(縦加速度)を検出するセンサであり、左右方向加速度センサ81bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1矢印L−R方向)の加速度(横加速度)を検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ81a,81bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
また、CPU71は、加速度センサ装置81から入力された各加速度センサ81a,81bの検出結果(縦加速度、横加速度)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の走行速度を取得することができる。
更に、CPU71は、加速度センサ装置81から入力された各加速度センサ81a,81bの検出結果(縦加速度、横加速度)を時間微分して、縦加速度の単位時間当たりの変化量および横加速度の単位時間当たりの変化量を取得することができる。
ヨーレートセンサ装置82は、車両1のヨーレートを検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、車両1の重心を通る鉛直軸(図1矢印U−D方向軸)回りの車両1(車体フレームBF)の回転角速度を検出するヨーレートセンサ82aと、そのヨーレートセンサ82aの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施の形態では、ヨーレートセンサ82aがサニャック効果により回転角速度を検出する光学式ジャイロセンサにより構成されている。但し、他の種類のジャイロセンサを採用することは当然可能である。他の種類のジャイロセンサとしては、例えば、機械式や流体式などのジャイロセンサが例示される。
また、CPU71は、ヨーレートセンサ装置82から入力されたヨーレートセンサ82aの検出結果(ヨーレート)を時間微分して、ヨーレートの単位時間当たりの変化量を取得することができる。
ナビゲーション装置83は、GPSを利用して車両1の現在位置を取得すると共に、車両1が走行予定の経路における道路状況を取得するための装置であり、GPS衛星から電波を受信して車両1の現在位置を取得する現在位置取得部(図示せず)と、各種情報(道路状況など)を地図データ等に対応付けて記憶する情報記憶部(図示せず)と、それら現在位置取得部により取得された車両1の現在位置および情報記憶部に記憶されている各種情報を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。CPU71は、ナビゲーション装置83から入力された車両1の現在位置および各種情報に基づいて、車両1が走行予定の経路における道路状況を取得することができる。
なお、本実施の形態におけるナビゲーション装置83は、各種情報を地図データ等に対応付けて記憶する情報記憶部を備えているが、この情報記憶部に代えて、各種情報が地図データ等に対応付けて記憶された記憶媒体から各種情報を読み取る情報読取部を設け、その情報読取部により読み取った各種情報をCPU71に出力するように構成しても良い。
アクセルペダルセンサ装置61aは、アクセルペダル61の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル61の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
ブレーキペダルセンサ装置62aは、ブレーキペダル62の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル62の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
ステアリングセンサ装置63aは、ステアリング63の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング63の回転角を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施の形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。また、CPU71は、各センサ装置61a,62a,63aから入力された各角度センサの検出結果(操作量)を時間微分して、各ペダル61,62の踏み込み速度およびステアリング63の回転速度を取得することができる。
図3に示す他の入出力装置90としては、例えば、雨量を検出する雨量センサや路面の状況を非接触で検出する光学センサなどが例示される。
次いで、図4を参照して、キャンバ制御処理について説明する。図4は、キャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、ステアリング63の操作量(回転角)及び操作速度(回転速度)に基づいて車輪2のキャンバ角を調整する処理である。
CPU71は、キャンバ制御処理に関し、まず、キャンバフラグ73aがオンであるか否かを判断する(S1)。その結果、キャンバフラグ73aがオフであると判断される場合には(S1:No)、ステアリング63の操作量を取得し(S2)、その取得したステアリング63の操作量の絶対値が所定値以上であるか否かを判断する(S3)。なお、S3の処理では、S2の処理で取得したステアリング63の操作量と、ROM72に予め記憶されている閾値(所定値)とを比較して、現在のステアリング63の操作量の絶対値が所定値以上であるか否かを判断する。
その結果、ステアリング63の操作量の絶対値が所定値以上であると判断される場合には(S3:Yes)、キャンバ角調整装置44を作動させて、車輪2(本実施の形態では、全ての車輪2FL〜2RR)のキャンバ角を第1キャンバ角に調整すると共に(S4)、キャンバフラグ73aをオンして(S5)、このキャンバ制御処理を終了する。
即ち、S3の処理の結果、ステアリング63の操作量の絶対値が所定値以上であると判断される場合には、車両1が旋回中であるので、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に調整して、車輪2にネガティブキャンバを付与する。これにより、車輪2の横剛性を利用すると共に、第1トレッド21の高グリップ特性を発揮させて、操縦安定性を確保することができる。
一方、S3の処理の結果、ステアリング63の操作量の絶対値が所定値よりも小さいと判断される場合には(S3:No)、車両1が直進中か比較的緩やかな旋回状態であり、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に調整する必要がないので、S4及びS5の処理をスキップして、このキャンバ制御処理を終了する。これにより、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に維持されるので、キャンバスラストの影響を回避すると共に、第2トレッド22の低転がり特性を発揮させて、省燃費化を図ることができる。
これに対し、S1の処理の結果、キャンバフラグ73aがオンであると判断される場合には(S1:Yes)、左右方向加速度の平均値を算出し(S7)、その算出した平均値が所定の閾値以下であるかを判断する(S8)。
ここで、左右方向加速度の平均値を算出する方法について、図5を参照して説明する。図5は、車両1に発生する左右方向加速度の履歴を模式的に図示した模式図であり、図5(a)はスラローム走行時における履歴を、図5(b)は通常走行時の履歴を、それぞれ表している。なお、図5では、右方向加速度をプラスの値で、左方向加速度をマイナスの値で図示している。
リングバッファメモリ73b(図3参照)には、上述したように、左右方向加速度センサ81bによる検出結果(左右方向加速度)が所定のレートでサンプリングされ、加速度の絶対値とその方向を示す値とがサンプリング時間に対応付けられて順次書き込まれる。よって、このリングバッファメモリ73bから所定期間(図5に示す最新の時間TからΔTだけ遡った期間)内の左右方向加速度の絶対値を読み出し、その絶対値の和をサンプリング数で割ることで、平均値を算出することができる。そして、この平均値に基づいて、車両1の走行履歴を推定することができる。
即ち、図5(a)に示すスラローム走行時のように、左右方向旋回を繰り返す場合には、左右方向加速度の変動が大きくなるため、その変動に伴って、左右方向加速度の平均値が大きくなる。一方、図5(b)に示す通常走行時のように、直進走行と単発のコーナー旋回とが組み合わされる場合には、左右方向加速度の変動が小さく、左右方向加速度の平均値が小さくなる。よって、所定期間内における左右方向加速度の平均値を閾値と比較することで、車両1の走行履歴、即ち、所定期間内にスラローム走行をしていたかを推定することができる。
図4に戻って説明する。S8の処理において、算出した左右方向加速度の平均値が閾値以下であると判断される場合には(S8:Yes)、所定期間(直近のΔTの期間、図5参照)において、左右方向加速度の変動が小さく、車両1の走行履歴が通常走行と推定される。
よって、この場合には(S8:Yes)、車両1はその後も通常走行を続ける可能性が高いと判断し、キャンバ角調整装置44を作動させて、車輪2(本実施の形態では、全ての車輪2FL〜2RR)のキャンバ角を第2キャンバ角に調整すると共に(S9)、キャンバフラグ73aをオフして(S10)、このキャンバ制御処理を終了する。
これにより、車輪2のキャンバ角を第2キャンバ角に調整して、車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除する。これにより、キャンバスラストの影響を回避すると共に、第2トレッド22の低転がり特性を発揮させて、省燃費化を図ることができる。
一方、S8の処理の結果、算出した左右方向加速度の平均値が閾値を超えていると判断される場合には(S8:No)、所定期間(直近のΔTの期間、図5参照)において、左右方向加速度の変動が大きく、車両1の走行履歴が旋回を繰り返すスラローム走行であると推定される。
よって、この場合には(S8:No)、車両1はその後もスラローム走行を続ける可能性が高いと判断して、このキャンバ角制御処理を終了する。これにより、車両1が所定の旋回状態ではない場合(即ち、ステアリング63の操作量の絶対値が所定値より小さい場合)であっても、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に維持することができる。その結果、車両1が所定の旋回状態でなくなるたびに(即ち、ステアリング63の操作量の絶対値が所定値よりも小さくなるたびに)、キャンバ角調整装置44が作動することを回避して、キャンバ角の頻繁な切り替わりを抑制することができる。
また、この場合には(S8:No)、車両1が、例えば、山間路(スラローム路と若干の直進路とが交互に現れる路)を走行している状況が想定され、車両1が直進走行に移行し、所定の旋回状態でなくなったとしても、その後、またすぐにスラローム走行へ移行する可能性が高い。よって、車輪1のキャンバ角を第1キャンバ角に維持することで、直進路に移行するたびにキャンバ角調整装置44が作動することを回避して、キャンバ角の頻繁な切り替わりを抑制することができる。
その結果、キャンバ角の付与と解除のためにキャンバ角調整装置44が繰り返し作動することを抑制して、その作動回数を少なくすることができるので、その分、キャンバ角調整装置44における各モータ44FL〜44RRの消耗を抑制することができると共に、キャンバ角調整装置44を駆動するための駆動エネルギーの低減を図ることができる。
次いで、図6を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、左右方向加速度の平均値が閾値以下と判断されると(S8:Yes)、車輪2に付与されている第1キャンバ角が即座に解除される場合(S9)を説明したが、第2実施の形態では、左右方向加速度の平均値が閾値以下と判断されると(S8:Yes)、その平均値の値に応じた待機時間の後に(S21〜S24)、車輪2に付与されている第1キャンバ角の解除が開始される(S9)。
図6は、第2実施の形態におけるキャンバ制御処理を示すフローチャートである。なお、第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。また、第2実施の形態では、第1実施の形態における車両1を車両用制御装置100によって制御するものとする。
CPU71は、第2実施のキャンバ制御処理に関し、キャンバフラグ73aがオンであると判断される場合に(S1:Yes)、左右方向加速度の平均値を算出し(S7)、その算出した平均値が所定の閾値以下であるかを判断する(S8)。
S8の処理において、算出した左右方向加速度の平均値が閾値以下であると判断される場合には(S8:Yes)、次いで、算出した左右方向加速度の平均値が第1待機条件以下であるかを判断し(S21)、算出した左右方向加速度の平均値が第1待機条件以下ではないと判断される場合には(S21:No)、算出した左右方向加速度の平均値が第2待機条件以上であるかを判断する(S22)。
ここで、第1待機条件および第2待機条件とは、ROM72に予め記憶されている閾値であり、第1待機条件が第2待機条件よりも小さい値に設定され、第2待機条件がS8において平均値と比較した閾値よりも小さい値に設定されている。従って、左右方向加速度の平均値が第1待機条件よりも小さい場合は、所定期間(直近のΔTの期間、図5参照)内の車両1の走行履歴における旋回の頻度が最も少なく(即ち、直進走行が多い)、左右方向加速度の平均値が第2待機条件よりも大きい場合は、所定期間内の車両1の走行履歴における旋回の頻度が比較的多いと推定される。
よって、S21の処理において、算出した左右方向加速度の平均値が第1待機条件以下であると判断される場合には(S21:Yes)、所定期間内の車両1の走行履歴は、通常走行であって、その通常走行の中でも、旋回が最も少なく直進走行が多い走行であったと判断されるため、車両1はその後も通常走行を続ける可能性が高いと判断し、キャンバ角調整装置44を作動させて、車輪2(本実施の形態では、全ての車輪2FL〜2RR)のキャンバ角を第2キャンバ角に調整する(S9)。これにより、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に不必要に維持されることを回避して、そのキャンバ角を第2キャンバ角へ速やかに変更することができる。その結果、キャンバスラストの影響を回避すると共に、第2トレッド22の低転がり特性を速やかに発揮させて、省燃費化を図ることができる。
一方、S21及びS22の処理において、算出した左右方向加速度の平均値が、第1待機条件以下ではなく、かつ、第2待機条件以上ではない(即ち、左右方向加速度の平均値が、第1待機条件より大きく、かつ、第2待機条件より小さい)と判断される場合には(S21:No、S22:No)、所定期間内の車両1の走行履歴は、通常走行であるが、その通常走行の中でも、旋回が多少あったと判断されるため、車両1はその後にスラローム路に進入する可能性もあると判断して、第1時間を待機した後(S23)、S9の処理へ移行する。これにより、第1時間を待機している間に、スラローム走行へ進入した場合には、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に維持することができるので、キャンバ角調整装置が作動することを回避して、キャンバ角の頻繁な切り替わりを抑制することができる。
また、S21及びS22の処理において、算出した左右方向加速度の平均値が、第1待機条件以下ではなく、かつ、第2待機条件以上である(即ち、左右方向加速度の平均値が、第2待機条件以上である)と判断される場合には(S21:No、S22:Yes)、所定期間内の車両1の走行履歴は、通常走行であるが、その通常走行の中でも、旋回が比較的多い場合と判断されるため、車両1はその後にスラローム路に進入する可能性が、上述した場合(左右方向加速度の平均値が第2待機条件よりも小さい場合)よりは高いと判断して、第2時間を待機した後(S24)、S9の処理へ移行する。なお、第2時間は、第1時間よりも長い時間である。これにより、第2時間を待機している間に、スラローム走行へ進入した場合には、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に維持することができるので、キャンバ角調整装置が作動することを回避して、キャンバ角の頻繁な切り替わりを抑制することができる。
その結果、キャンバ角の付与と解除のためにキャンバ角調整装置44が繰り返し作動することを抑制して、その作動回数を少なくすることができるので、その分、キャンバ角調整装置44における各モータ44FL〜44RRの消耗を抑制することができると共に、キャンバ角調整装置44を駆動するための駆動エネルギーの低減を図ることができる。
このように、第2実施の形態では、車輪2のキャンバ角を第2キャンバ角へ調整する際にその調整の開始を待機することができ、その待機時間は、車両1の走行履歴(所定期間内の左右方向加速度の平均値)に応じて設定されている。よって、車両1がスラローム走行を行う可能性が高い場合には、第2キャンバ角への調整の開始を長時間待機(第1キャンバ角に維持)する一方、スラローム走行を行う可能性が低い場合には、早期に第2キャンバ角への調整を開始することができる。これにより、例えば、車両1の走行履歴とは無関係の一定の時間を待機するタイマー制御の場合と比較して、キャンバ角の頻繁な切り替わりを抑制することと、不必要に第1キャンバ角が維持されることを抑制することとの両立を、より高精度に達成することができる。
ここで、図4に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項1記載の旋回判断手段としてはS3の処理が、キャンバ角調整手段としてはS4の処理が、状態値判断手段としてはS8の処理が、請求項2記載の第2キャンバ角調整手段としてはS9の処理が、それぞれ該当する。また、図6に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項3記載の待機手段としてはS23,S24の処理が、それぞれ該当する。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
上記実施の形態では、全ての車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角および第2キャンバ角に調整する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRのいずれか一方を第1キャンバ角および第2キャンバ角に調整しても良い。また、左の前輪2FLと右の前輪2FRとのキャンバ角を、左の後輪2RLと右の後輪2RRとのキャンバ角を、それぞれ異なるキャンバ角に調整しても良い。
上記実施の形態では、ステアリング63の操作量に基づいて車両1が旋回中であるかを判断する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ステアリング63の操作量に代えて、他の状態量に基づいて車両1が旋回中であるかを判断することは当然可能である。他の状態量としては、例えば、ステアリング63の操作速度、車両1のヨーレート、そのヨーレートの単位時間当たりの変化量、車両1の左右方向加速度、その左右方向加速度の単位時間当たりの変化量などが例示される。
また、上記実施の形態では、車両1が旋回中であるかの判断基準となるステアリング63の操作量の閾値(図4のS2における所定値)がROM72に予め記憶された一定値である場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、車両1の走行速度や路面状況などの各種情報を取得し、それら取得した各種情報に基づいて、かかる判断基準となるステアリング63の操作量の閾値を設定する構成(例えば、走行速度が大きいほど、ステアリング63の操作量の閾値が小さくされる場合が例示される)としても良い。この場合には、車両1の走行速度や路面状況などに応じて車輪2へのネガティブキャンバの付与および解除を行うことができるので、効率良く旋回時の操縦安定性を確保しつつ、省燃費化を図ることができる。
上記実施の形態では説明を省略したが、車輪2にネガティブキャンバが付与された状態において、車両1が走行予定の経路における道路の情報をナビゲーション装置82により取得する手段と、その取得した道路の情報が所定の条件を満たすかを判断する手段と、その判断結果が所定の条件を満たすと判断される場合に、車輪2へのネガティブキャンバの付与を維持する手段とを備える構成としても良い。これにより、走行予定の経路が所定の条件を満たす場合には、車輪2へのネガティブキャンバの付与を維持できるので、車輪2へのネガティブキャンバの付与と解除とを繰り返し行うことがなく、キャンバ角の頻繁な切り替わりを防止することができる。なお、所定の条件としては、例えば、走行予定の経路が所定半径以下のカーブとなっている場合、走行予定の経路が右折や左折である場合などが例示される。
上記実施の形態では、第1トレッド21が車両1の内側に、第2トレッド22が車両1の外側に、それぞれ配置される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、第1トレッド21を車両1の外側に、第2トレッド22を車両1の内側に、それぞれ配置しても良い。この場合には、第1キャンバ状態において車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整されると共に、第2キャンバ状態において第1キャンバ角に調整され車輪2にポジティブキャンバが付与されるように構成することで、上記実施の形態の場合と同様に、旋回時の操縦安定性を確保しつつ、省燃費化を図ることができる。
上記実施の形態では、所定期間(ΔT)内における左右方向加速度の平均値に基づいて車輪2のキャンバ角を第2キャンバ角に調整するかを判断する場合を説明したが(S8参照)、必ずしもこれに限られるものではなく、左右方向加速度の平均値に代えて、他の状態量(運転者により操作される操作部材の操作状態または前記車両の走行状態に関連する状態値)の平均値に基づいて車輪2のキャンバ角を第2キャンバ角に調整するかを判断することは当然可能である。他の状態量としては、例えば、ステアリング63の操作角、車両1のヨーレートが例示される。なお、平均値は一例であり、他の計算値に用いることは当然可能である。例えば、累積値であっても良い。
また、他の状態量としては、例えば、車両1の旋回方向やステアリング63の操作方向が反対方向へ切り替わった回数が例示される。この場合には、車両1の走行履歴(即ち、スラローム走行であったか否か)をより高精度に推定することができる。例えば、左右方向の加速度の場合には、単発のコーナーであっても、旋回半径が小さく旋回速度が高速であると、その平均値が高くなり、閾値を超えることおそれがある。これに対し、上述した回数であれば、旋回半径や旋回速度による影響を抑制して、単発のコーナーの走行と、スラローム走行とを高精度に判別することが可能となる。
上記実施の形態では、加速度センサ装置81の左右方向加速度センサ81bによる検出結果(左右方向加速度)が所定のレートでサンプリングされ、リングバッファメモリ73aに順次書き込まれる場合を説明した。この場合、車両1の走行速度が所定速度以下となっている間(特に停車時)は、リングバッファメモリ73aへの書き込みを停止することが好ましい。これにより、山間路などのスラローム走行中において、車両のすれ違いや信号により減速や一時停止した場合などであっても、左右方向加速度の平均値が小さくなることを防止できる。
上記実施の形態では、第2キャンバ角を0°とし、この第2キャンバ角に車輪2のキャンバ角を調整することで、車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第2キャンバ角を0°よりも小さい角度または0°よりも大きい角度とし、この第2キャンバ角に車輪2のキャンバ角を調整することで、車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除するように構成しても良い。なお、この場合、第2キャンバ角は、第1トレッド21に対する第2トレッド22の接地比率が最大となる角度であることが好ましい。