以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFを支持する複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2と車体フレームBFとを連結する複数の懸架装置4と、複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵する操舵装置5とを主に備えて構成されている。
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の前方側(矢印F方向側)に位置する左右の前輪2FL,2FRと、車両1の後方側(矢印B方向側)に位置する左右の後輪2RL,2RRとを備えている。なお、本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3により回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動される従動輪として構成されている。
また、車輪2は、図1に示すように、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、各車輪2において、第1トレッド21が車両1の内側に配置され、第2トレッド22が車両1の外側に配置されている。なお、本実施の形態では、両トレッド21,22の幅(図1左右方向の寸法)が同一の幅に構成されている。
また、第1トレッド21及び第2トレッド22は、第2トレッド22が第1トレッド21よりも硬度の高い材料により構成され、第1トレッド21が第2トレッド22に比してグリップ力の高い特性(高グリップ特性)に構成される一方、第2トレッド22が第1トレッド21に比して転がり抵抗の小さい特性(低転がり特性)に構成されている。
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRを回転駆動するための装置であり、後述するように電動モータ3aにより構成されている(図3参照)。また、電動モータ3aは、図1に示すように、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の操作量に応じて回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、デファレンシャルギヤにより吸収される。
懸架装置4は、路面から車輪2を介して車体フレームBFに伝わる振動を緩和するための装置、いわゆるサスペンションとして機能するものであり、図1に示すように、各車輪2に対応してそれぞれ設けられている。また、本実施の形態における懸架装置4は、車輪2のキャンバ角を調整するキャンバ角調整機構としての機能を兼ね備えている。
ここで、図2を参照して、懸架装置4の詳細構成について説明する。図2は、懸架装置4の正面図である。なお、ここでは、キャンバ角調整機構として機能する構成のみについて説明し、サスペンションとして機能する構成については周知の構成と同様であるので、その説明を省略する。また、各懸架装置4の構成は、各車輪2においてそれぞれ共通であるので、右の前輪2FRに対応する懸架装置4を代表例として図2に図示する。但し、図2では、理解を容易とするために、ドライブシャフト31等の図示が省略されている。
懸架装置4は、図2に示すように、ストラット41及びロアアーム42を介して車体フレームBFに支持されるナックル43と、駆動力を発生するFRモータ44FRと、そのFRモータ44FRの駆動力を伝達するウォームホイール45及びアーム46と、それらウォームホイール45及びアーム46から伝達されるFRモータ44FRの駆動力によりナックル43に対して揺動駆動される可動プレート47とを主に備えて構成されている。
ナックル43は、車輪2を操舵可能に支持するものであり、図2に示すように、上端(図2上側)がストラット41に連結されると共に、下端(図2下側)がボールジョイントを介してロアアーム42に連結されている。
FRモータ44FRは、可動プレート47に揺動駆動のための駆動力を付与するものであり、DCモータにより構成され、その出力軸44aにはウォーム(図示せず)が形成されている。
ウォームホイール45は、FRモータ44FRの駆動力をアーム46に伝達するものであり、FRモータ44FRの出力軸44aに形成されたウォームに噛み合い、かかるウォームと共に食い違い軸歯車対を構成している。
アーム46は、ウォームホイール45から伝達されるFRモータ44FRの駆動力を可動プレート47に伝達するものであり、図2に示すように、一端(図2右側)が第1連結軸48を介してウォームホイール45の回転軸45aから偏心した位置に連結される一方、他端(図2左側)が第2連結軸49を介して可動プレート47の上端(図2上側)に連結されている。
可動プレート47は、車輪2を回転可能に支持するものであり、上述したように、上端(図2上側)がアーム46に連結される一方、下端(図2下側)がキャンバ軸50を介してナックル43に揺動可能に軸支されている。
上述したように構成される懸架装置4によれば、FRモータ44FRが駆動されると、ウォームホイール45が回転すると共に、ウォームホイール45の回転運動がアーム46の直線運動に変換される。その結果、アーム46が直線運動することで、可動プレート47がキャンバ軸50を揺動軸として揺動駆動され、車輪2のキャンバ角が調整される。
なお、本実施の形態では、各連結軸48,49及びウォームホイール45の回転軸45aが、車体フレームBFから車輪2に向かう方向(矢印R方向)において、第1連結軸48、回転軸45a、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第1キャンバ状態と、回転軸45a、第1連結軸48、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第2キャンバ状態(図2に示す状態)とのいずれか一方のキャンバ状態となるように車輪2のキャンバ角が調整される。
これにより、車輪2のキャンバ角が調整された状態では、車輪2に外力が加わったとしても、アーム46を回動させる方向の力は発生せず、車輪2のキャンバ角を維持することができる。
また、本実施の形態では、かかる第1キャンバ状態において、車輪2のキャンバ角がマイナス方向の所定の角度(以下「第1キャンバ角」と称す)に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与される。これにより、車輪2の横剛性を発揮させることができる。また、第1キャンバ状態では、第2トレッド22の接地に対する第1トレッド21の接地比率が大きくなることで、第1トレッド21の高グリップ特性を発揮させることができる。
一方、かかる第2キャンバ状態(図2に示す状態)では、車輪2のキャンバ角が0°(以下「第2キャンバ角」と称す)に調整される。これにより、キャンバスラストの影響を回避することができる。また、第2トレッド22は、第1トレッド21よりも硬度の高い材料により構成されているので、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整された場合には、第1トレッド21の接地が第2トレッド22によって妨げられる。これにより、第1トレッド21の接地に対する第2トレッド22の接地比率が大きくなることで、第2トレッド22の低転がり特性を発揮させることができる。
図1に戻って説明する。操舵装置5は、運転者によるステアリング63の操作を左右の前輪2FL,2FRに伝えて操舵するための装置であり、いわゆるラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成されている。
この操舵装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作(回転)は、まず、ステアリングコラム51を介してユニバーサルジョイント52に伝達され、ユニバーサルジョイント52により角度を変えられつつステアリングボックス53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動する。その結果、タイロッド54がナックル55を押し引きすることで、車輪2に所定の舵角が付与される。
アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3が駆動制御される。ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(回転角、回転速度など)に応じて、操舵装置5により左右の前輪2FL,2FRが操舵される。
車両用制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62やステアリング63の操作状態に応じてキャンバ角調整装置44(図3参照)を作動制御する。
次いで、図3を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の装置が接続されている。
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM72は、CPU71により実行される制御プログラム(例えば、図4及び図5に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリであり、図3に示すように、旋回限界フラグ73a及び操縦安定フラグ73bが設けられている。
旋回限界フラグ73aは、車両1の旋回度合いが旋回限界閾値以上であるか否かを示すフラグであり、後述する旋回度判断処理(図4参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。なお、本実施の形態における旋回限界閾値は、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角のまま車両1が旋回した場合に、車両1が横滑りする恐れがあると判断される旋回度合いの限界値に設定されている。
操縦安定フラグ73bは、車両1の旋回度合いが操縦安定閾値以上であるか否かを示すフラグであり、後述する旋回度判断処理(図4参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。なお、本実施の形態における操縦安定閾値は、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角のまま車両1が旋回した場合に、車両1がオーバステア傾向になると判断される旋回度合いの限界値に設定され、旋回限界閾値よりも小さくされている。
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FR(図1参照)を回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。但し、車輪駆動装置3は、電動モータ3aに限られず、他の駆動源を採用することは当然可能である。他の駆動源としては、例えば、油圧モータやエンジン等が例示される。
キャンバ角調整装置44は、各車輪2のキャンバ角を調整するための装置であり、上述したように、各懸架装置4の可動プレート47(図2参照)に揺動駆動のための駆動力をそれぞれ付与する合計4個のFL〜RRモータ44FL〜44RRと、それら各モータ44FL〜44RRをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。
加速度センサ装置80は、車両1の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後方向加速度センサ80a及び左右方向加速度センサ80bと、それら各加速度センサ80a,80bの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
前後方向加速度センサ80aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1矢印F−B方向)の加速度(縦加速度)を検出するセンサであり、左右方向加速度センサ80bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1矢印L−R方向)の加速度(横加速度)を検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ80a,80bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
また、CPU71は、加速度センサ装置80から入力された各加速度センサ80a,80bの検出結果(縦加速度、横加速度)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の走行速度を取得することができる。
更に、CPU71は、加速度センサ装置80から入力された各加速度センサ80a,80bの検出結果(縦加速度、横加速度)を時間微分して、縦加速度の単位時間当たりの変化量および横加速度の単位時間当たりの変化量を取得することができる。
ヨーレートセンサ装置81は、車両1のヨーレートを検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、車両1の重心を通る鉛直軸(図1矢印U−D方向軸)回りの車両1(車体フレームBF)の回転角速度を検出するヨーレートセンサ81aと、そのヨーレートセンサ81aの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施の形態では、ヨーレートセンサ81aがサニャック効果により回転角速度を検出する光学式ジャイロセンサにより構成されている。但し、他の種類のジャイロセンサを採用することは当然可能である。他の種類のジャイロセンサとしては、例えば、機械式や流体式などのジャイロセンサが例示される。
また、CPU71は、ヨーレートセンサ装置81から入力されたヨーレートセンサ81aの検出結果(ヨーレート)を時間微分して、ヨーレートの単位時間当たりの変化量を取得することができる。
アクセルペダルセンサ装置61aは、アクセルペダル61の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル61の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
ブレーキペダルセンサ装置62aは、ブレーキペダル62の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル62の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
ステアリングセンサ装置63aは、ステアリング63の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング63の回転角を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施の形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。また、CPU71は、各センサ装置61a,62a,63aから入力された各角度センサの検出結果(操作量)を時間微分して、各ペダル61,62の踏み込み速度およびステアリング63の回転速度を取得することができる。
図3に示す他の入出力装置90としては、例えば、雨量を検出する雨量センサや路面の状況を非接触で検出する光学センサなどが例示される。
次いで、図4を参照して、旋回度判断処理について説明する。図4は、旋回度判断処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、ステアリング63の操作量(回転角)に基づいて車両1の旋回度合いを判断する処理である。
CPU71は、旋回度判断処理に関し、まず、ステアリング63の操作量(回転角)を取得し(S1)、その取得したステアリング63の操作量が旋回限界閾値以上であるか否かを判断する(S2)。なお、S2の処理では、S1の処理で取得したステアリング63の操作量と、ROM72に予め記憶されている旋回限界閾値とを比較して、現在のステアリング63の操作量が旋回限界閾値以上であるか否かを判断する。
その結果、ステアリング63の操作量が旋回限界閾値以上であると判断される場合には(S2:Yes)、旋回限界フラグ73aをオンして(S3)、この旋回度判断処理を終了する。
一方、S2の処理の結果、ステアリング63の操作量が旋回限界閾値よりも小さいと判断される場合には(S2:No)、旋回限界フラグ73aをオフし(S4)、次いで、S1の処理で取得したステアリング63の操作量が操縦安定閾値以上であるか否かを判断する(S5)。なお、S5の処理では、S1の処理で取得したステアリング63の操作量と、ROM72に予め記憶されている操縦安定閾値とを比較して、現在のステアリング63の操作量が操縦安定閾値以上であるか否かを判断する。
その結果、ステアリング63の操作量が操縦安定閾値以上であると判断される場合には(S5:Yes)、操縦安定フラグ73aをオンして(S6)、この旋回度判断処理を終了する。
一方、S5の処理の結果、ステアリング63の操作量が操縦安定閾値よりも小さいと判断される場合には(S5:No)、操縦安定フラグ73bをオフして(S7)、この旋回度判断処理を終了する。
次いで、図5を参照して、キャンバ制御処理について説明する。図5は、キャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、車両1の旋回度合いに応じて車輪2のキャンバ角を調整する処理である。
CPU71は、キャンバ制御処理に関し、まず、旋回限界フラグ73aがオンであるか否かを判断し(S11)、旋回限界フラグ73aがオンであると判断される場合には(S11:Yes)、RLモータ44RL及びRRモータ44RRを作動させて、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を第1キャンバ角に調整し、左右の後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与する(S12)。
次いで、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が第1キャンバ角に達したか否かを判断し(S13)、第1キャンバ角に達していないと判断される場合には(S13:No)、第1キャンバ角に達したと判断されるまでS13の処理を繰り返し実行する。一方、S13の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が第1キャンバ角に達したと判断される場合には(S13:Yes)、FLモータ44FL及びFRモータ44FRを作動させて、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角を第1キャンバ角に調整し、左右の前輪2FL,2FRにネガティブキャンバを付与する(S14)。
次いで、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角が第1キャンバ角に達したか否かを判断し(S15)、第1キャンバ角に達していないと判断される場合には(S15:No)、第1キャンバ角に達したと判断されるまでS15の処理を繰り返し実行する。一方、S15の処理の結果、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角が第1キャンバ角に達したと判断される場合には(S15:Yes)、このキャンバ制御処理を終了する。
これにより、旋回限界フラグ73aがオンの場合、即ち、ステアリング63の操作量が旋回限界閾値以上であり、車両1が横滑りする恐れがあると判断される場合には、後輪2RL,2RRの横剛性に加え、前輪2FL,2FRの横剛性を利用すると共に、第1トレッド21の高グリップ特性を発揮させて、操縦安定性を確保することができる。
これに対し、S11の処理の結果、旋回限界フラグ73aがオフであると判断される場合には(S11:No)、操縦安定フラグ73bがオンであるか否かを判断し(S16)、操縦安定フラグ73bがオンであると判断される場合には(S16:Yes)、RLモータ44RL及びRRモータ44RRを作動させて、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を第1キャンバ角に調整し、左右の後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与する(S17)。
次いで、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が第1キャンバ角に達したか否かを判断し(S18)、第1キャンバ角に達していないと判断される場合には(S18:No)、第1キャンバ角に達したと判断されるまでS18の処理を繰り返し実行する。一方、S18の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が第1キャンバ角に達したと判断される場合には(S18:Yes)、このキャンバ制御処理を終了する。
これにより、操縦安定フラグ73bがオンの場合、即ち、ステアリング63の操作量が操縦安定閾値以上であり、車両1がオーバステア傾向になると判断される場合には、後輪2RL,2RRの横剛性を利用すると共に、第1トレッド21の高グリップ特性を発揮させて、操縦安定性を確保することができる。また、この場合には、左右の前輪2FL,2FRにネガティブキャンバを付与するのではなく、左右の後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与することで、前輪2FL,2FRの横剛性のみが発揮されるのを回避して、車両1がオーバステア傾向となるのを防止することができる。その結果、車両1の挙動を安定させることができる。
これに対し、S16の処理の結果、操縦安定フラグ73bがオフであると判断される場合には(S16:No)、FLモータ44FL及びFRモータ44FRを作動させて、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角を第2キャンバ角に調整し、左右の前輪2FL,2FRへのネガティブキャンバの付与を解除する(S19)。なお、S19の処理では、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角が既に第2キャンバ角に調整されている場合には、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角が第2キャンバ角に維持される。
次いで、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角が第2キャンバ角に達したか否かを判断し(S20)、第2キャンバ角に達していないと判断される場合には(S20:No)、第2キャンバ角に達したと判断されるまでS20の処理を繰り返し実行する。一方、S20の処理の結果、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角が第2キャンバ角に達したと判断される場合には(S20:Yes)、RLモータ44RL及びRRモータ44RRを作動させて、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を第2キャンバ角に調整し、左右の後輪2RL,2RRへのネガティブキャンバの付与を解除する(S21)。なお、S21の処理では、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が既に第2キャンバ角に調整されている場合には、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が第2キャンバ角に維持される。
次いで、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が第2キャンバ角に達したか否かを判断し(S22)、第2キャンバ角に達していないと判断される場合には(S22:No)、第2キャンバ角に達したと判断されるまでS22の処理を繰り返し実行する。一方、S22の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が第2キャンバ角に達したと判断される場合には(S22:Yes)、このキャンバ制御処理を終了する。
これにより、旋回限界フラグ73a及び操縦安定フラグ73bがオフの場合、即ち、車両1が旋回中でないと判断される場合には、キャンバスラストの影響を回避すると共に、第2トレッド22の低転がり特性を発揮させて、省燃費化を図ることができる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、車両1の旋回時には、左右の後輪2RL,2RRの両輪にネガティブキャンバを付与するので、左の後輪2RLのキャンバスラストと右の後輪2RRのキャンバスラストとを互いに打ち消し合う向きに発生させて、車両1に生じるヨーモーメントを抑制することができる。同様に、左右の前輪2FL,2FRの両輪にネガティブキャンバを付与するので、左の前輪2FLのキャンバスラストと右の前輪2FRのキャンバスラストとを互いに打ち消し合う向きに発生させて、車両1に生じるヨーモーメントを抑制することができる。また、旋回外輪であるか旋回内輪であるかに関わらず、左右の後輪2RL,2RRの両輪および左右の前輪2FL,2FRの両輪にネガティブキャンバを付与するので、旋回方向が繰り返し変化するスラローム走行時においても、旋回方向が変化するたびにキャンバ角の調整が頻繁に行われるのを防止することができる。よって、旋回時の操縦安定性を確保しつつ、車両1の挙動を安定させることができる。
また、旋回限界フラグ73aがオンの場合、即ち、ステアリング63の操作量が旋回限界閾値以上であり、車両1の旋回度合いが所定の旋回度合い以上であると判断される場合に、左右の後輪2RL,2RRへのネガティブキャンバの付与に加え、左右の前輪2FL,2FRの両輪にネガティブキャンバを付与するので、旋回度合いの大きさに関わらず全ての車輪2にネガティブキャンバを付与する場合と比較して、必要に応じて効率良く操縦安定性を確保できると共に、効率良く操縦安定性を確保できる分、転がり抵抗の増加を抑制して、省燃費化を図ることができる。
更に、この場合には、左右の後輪2RL,2RRにネガティブキャンバを付与した後、左右の前輪2FL,2FRにネガティブキャンバを付与するので、左右の後輪2RL,2RRよりも先に左右の前輪2FL,2FRにネガティブキャンバを付与する場合と比較して、後輪2RL,2RRの横剛性が発揮される前に前輪2FL,2FRの横剛性のみが発揮されるのを回避して、車両1がオーバステア傾向となるのを防止することができる。その結果、車両1の挙動を安定させることができる。また、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角が第1キャンバ角に達した後に左右の前輪2FL,2FRにネガティブキャンバを付与するので、より確実に車両1の挙動を安定させることができる。
また、左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRにネガティブキャンバが付与された状態において、旋回限界フラグ73a及び操縦安定フラグ73bがオフの場合、即ち、車両1が旋回中でないと判断される場合に、左右の後輪2RL,2RRよりも先に左右の前輪2FL,2FRへのネガティブキャンバの付与を解除するので、左右の前輪2FL,2FRよりも先に左右の後輪2RL,2RRへのネガティブキャンバの付与を解除する場合と比較して、前輪2FL,2FRの横剛性のみが発揮されるのを回避して、車両1がオーバステア傾向となるのを防止することができる。その結果、車両1の挙動を安定させることができる。
次いで、図6を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、旋回限界フラグ73a及び操縦安定フラグ73bを、ステアリング63の操作状態に基づいて、オン・オフする場合を説明したが、第2実施の形態では、ステアリング63の操作状態に加え、車両1のヨーレート及び横加速度の状態にも基づいて、旋回限界フラグ73a及び操縦安定フラグ73bがオン・オフされる。なお、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。また、第2実施の形態では、第1実施の形態における車両1を車両用制御装置100によって制御する場合を例に説明する。
図6は、第2実施の形態における旋回度判断処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した第1実施の形態の場合と同様に、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理である。但し、第2実施の形態では、ステアリング63の操作量に基づいて、車両1の旋回度合いを判断するのみでなく、ヨーレートによっても車両1の旋回度合いを判断し、更に、横加速度に基づいて、横風等の外乱の影響についても判断する。即ち、本処理では、車両1が非旋回状態(直進状態)にあっても各フラグ73a,73bがオン・オフされる。
ここで、第2実施の形態における車両用制御装置100では、ステアリング63の操作量(回転角)に対応する値に加え、車両1のヨーレートに対応する値と、車両1の横加速度(左右方向加速度)に対応する値とが、「旋回限界閾値」としてROM72に記憶されている。同様に、ステアリング63の操作量(回転角)に対応する値に加え、車両1のヨーレートに対応する値と、車両1の横加速度(左右方向加速度)に対応する値とが、「操縦安定閾値」としてROM72に記憶されている。
なお、車両1のヨーレート及び横加速度に対応する旋回限界閾値は、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角のまま車両1が走行(旋回または直進)した場合に、車両1が横滑りする恐れがあると判断されるヨーレート及び横加速度の限界値に設定されている。一方、車両1のヨーレート及び横加速度に対応する操縦安定閾値は、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角のまま車両1が走行(旋回または直進)した場合に、車両1がオーバステア傾向になる又は直進走行に影響を与えると判断されるヨーレート及び横加速度の限界値に設定され、旋回限界閾値よりも小さくされている。
CPU71は、旋回度判断処理に関し、まず、ステアリング63の操作量(回転角)を取得すると共に(S1)、車両1のヨーレート及び横加速度の値をそれぞれ取得する(S201及びS202)。なお、車両1のヨーレートはヨーレートセンサ装置81により、横加速度(左右方向加速度)は加速度センサ装置80により、それぞれ取得することができる(いずれも図3参照)。
これら各値(横方向状態量)を取得した後は(S1、S201及びS202)、次いで、その取得したステアリング63の操作量が旋回限界閾値以上であるか否かを判断し(S2)、ステアリング63の操作量が旋回限界閾値以上であると判断される場合には(S2:Yes)、旋回限界フラグ73aをオンして(S3)、この旋回度判断処理を終了する。
また、S2の処理の結果、ステアリング63の操作量が旋回限界閾値よりも小さいと判断される場合には(S2:No)、S201の処理で取得した車両1のヨーレートの値が旋回限界閾値以上であるか否かを判断し(S203)、その結果、車両1のヨーレートが旋回限界閾値以上であると判断される場合には(S203:Yes)、旋回限界フラグ73aをオンして(S3)、この旋回度判断処理を終了する。
更に、S203の処理の結果、車両1のヨーレートが旋回限界閾値よりも小さいと判断される場合には(S203:No)、S202の処理で取得した車両1の横加速度が旋回限界閾値以上であるか否かを判断し(S204)、その結果、車両1の横加速度が旋回限界閾値以上であると判断される場合には(S204:Yes)、旋回限界フラグ73aをオンして(S3)、この旋回度判断処理を終了する。
このように、第2実施の形態では、ステアリング63の操作量と、車両1のヨーレートと、車両1の横加速度との内の少なくともいずれかの値が旋回限界閾値以上である場合に、旋回限界フラグ73aをオンすることができる。
よって、例えば、ステアリング63の操作量が旋回限界閾値よりも小さいが、走行する路面の摩擦係数が低く、これに起因して車両1に横滑りが発生するような場合であっても、車両1のヨーレートの値が旋回限界閾値以上であるかを判断することで、旋回限界フラグ73aをオンする(即ち、左右の後輪2RL,2RR及び左右の前輪2FL,2FRの全輪のキャンバ角を第1キャンバ角とする)ことができるので、これにより、車輪2の横剛性および第1トレッド21の高グリップ特性を発揮させ、車両1の横滑りを抑制することができる。
また、例えば、車両1が直進走行状態にあり、ステアリング63の操作量も車両1のヨーレートも旋回限界閾値よりも小さいが、トンネルを抜ける際に横風を受けた場合のように、外乱の影響で車両1の挙動が不安定となる場合であっても、車両1の横加速度の値が旋回限界閾値以上であるかを判断することで、旋回限界フラグ73aをオンする(即ち、左右の後輪2RL,2RR及び左右の前輪2FL,2FRの全輪のキャンバ角を第1キャンバ角とする)ことができるので、これにより、車輪2の横剛性および第1トレッド21の高グリップ特性の発揮により、車両1の挙動を安定化して、操縦安定性を確保することができる。
なお、S203及びS204の処理では、第1実施の形態におけるS1の処理の場合と同様に、S201及びS202の処理で取得した車両1のヨーレート及び横加速度の値と、ROM72に予め記憶されている旋回限界閾値とを比較して、現在の車両1のヨーレート及び横加速度の値が旋回限界閾値以上であるか否かを判断する。また、後述するS206及びS207の処理においても、同様である。
一方、S204の処理の結果、車両1の横加速度が旋回限界閾値より小さいと判断される場合には(S204:No)、旋回限界フラグ73aをオフし(S4)、次いで、S1の処理で取得したステアリング63の操作量が操縦安定閾値以上であるか否かを判断し(S5)、その結果、ステアリング63の操作量が操縦安定閾値以上であると判断される場合には(S5:Yes)、操縦安定フラグ73bをオンして(S6)、この旋回度判断処理を終了する。
また、S5の処理の結果、ステアリング63の操作量が操縦安定閾値よりも小さいと判断される場合には(S5:No)、S201の処理で取得した車両1のヨーレートの値が操縦安定閾値以上であるか否かを判断し(S206)、その結果、車両1のヨーレートが操縦安定閾値以上であると判断される場合には(S206:Yes)、操縦安定フラグ73bをオンして(S206)、この旋回度判断処理を終了する。
更に、S206の処理の結果、車両1のヨーレートが操縦安定閾値よりも小さいと判断される場合には(S206:No)、S202の処理で取得した車両1の横加速度が操縦安定閾値以上であるか否かを判断し(S207)、その結果、車両1の横加速度が操縦安定閾値以上であると判断される場合には(S207:Yes)、旋回限界フラグ73aをオンして(S3)、この旋回度判断処理を終了する。
このように、第2実施の形態では、ステアリング63の操作量と、車両1のヨーレートと、車両1の横加速度とが旋回限界閾値より小さく、かつ、ステアリング63の操作量と、車両1のヨーレートと、車両1の横加速度との内のいずれかが操縦安定閾値以上である場合には、旋回限界フラグ73aをオフした上で、操縦安定フラグ73bオンすることができる。即ち、上述した各値(横方向状態量)が操縦安定閾値以上となる程度の場合には、左右の後輪2RL,2RRのみにネガティブキャンバを付与し、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角を第2キャンバ角に維持することができるので、左右の後輪2RL,2RRの横剛性または第1トレッド21の高グリップ特性による操縦安定性の確保を図りつつ、転がり抵抗が不必要に大きくなることを回避して、省燃費化を図ることができる。
一方、S207の処理の結果、車両1の横加速度が操縦安定閾値よりも小さいと判断される場合には(S207:No)、操縦安定フラグ73bをオフして(S7)、この旋回度判断処理を終了する。
次いで、図7から図10を参照して、第3実施の形態について説明する。第1実施の形態では、制御対象である車両1が、左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRを含む全ての車輪2のキャンバ角をキャンバ角調整装置44により調整可能に構成される場合を説明したが、第3実施の形態における車両501は、左右の後輪302RL,302RRのみのキャンバ角がキャンバ角調整装置344により調整可能とされ、左右の前輪302FL,302FRについてはキャンバ角の調整を行わない構成とされている。
また、第1実施の形態では、制御対象である車両1が、左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRを含む全ての車輪2が同じ構成とされる場合を説明したが、第3実施の形態における車両301は、左右の前輪302FL,302FRと左右の後輪302RL,302RRとが異なる構成とされている。なお、上記各実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。
図7は、第3実施の形態における車両用制御装置300が搭載される車両301を模式的に示した模式図である。まず、車両301の概略構成について説明する。
図7に示すように、車両301は、複数の車輪302を備え、その車輪302は、車両301の前方側(矢印F方向側)に位置する左右の前輪302FL,302FRと、車両301の後方側(矢印B方向側)に位置する左右の後輪302RL,302RRとから構成されている。
車輪302は、左右の前輪302FL,302FRが互いに同じ形状および特性に構成されると共に、左右の後輪302RL,302RRが互いに同じ形状および特性に構成されている。また、左右の前輪302FL,302FRは、そのトレッドの幅(図7左右方向の寸法)が、左右の後輪302RL,302RRのトレッドの幅よりも広い幅に設定されている。なお、左右の前輪302FL,302FRのトレッドと左右の後輪302RL,302RRのトレッドとは同じ特性に構成されている。
また、車輪302は、左右の前輪302FL,302FRが懸架装置304によって車体フレームBFに連結される一方、左右の後輪302RL,302RRが懸架装置4によって車体フレームBFに連結されている。なお、懸架装置304は、左右の前輪302FL,302FRのキャンバ角を調整する機能が省略されている点(即ち、図2に示す懸架装置4において、FRモータ44FRによる伸縮機能が省略されている点)を除き、その他の構成は懸架装置4と同じ構成であるので、その説明は省略する。
このように、第3実施の形態における車両301は、左右の後輪302RL,302RRのトレッドの幅が、左右の前輪302FL,302FRのトレッドの幅よりも狭くされているので、前輪302FL,302FRの路面に対する摩擦係数を、後輪302RL,302RRの路面に対する摩擦係数よりも大きくすることができる。その結果、制動力の向上を図ることができる。また、左右の前輪302FL,302FRが駆動輪とされる本実施の形態においては、加速性能の向上を図ることができる。
一方、左右の後輪302RL,302RRの転がり抵抗を、左右の前輪302FL,302FRの転がり抵抗よりも小さくすることができるので、その分、省燃費化を図ることができる。また、左右の後輪302RL,302RRにキャンバ角を付与することができるので、横力を発生させて、旋回性能の向上を図ることができる。
車両用制御装置300は、上述したように構成される車両301の各部を制御するための装置であり、例えば、ステアリング63の操作状態や車両301のヨーレート等に応じてキャンバ角調整装置344(図8参照)を作動させることで、左右の後輪302RL,302RRのキャンバ角を制御する。
次いで、図8を参照して、車両用制御装置300の詳細構成について説明する。図8は、車両用制御装置300の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置300は、RAM73に横方向状態フラグ373aが設けられている。横方向状態フラグ373aは、車両1の横方向状態量(ステアリング63の操作量に基づく車両1の旋回度合い、ヨーレートセンサ装置81により検出される車両1のヨーレート、或いは、加速度センサ装置80により検出される横加速度)が横方向状態閾値以上であるか否かを示すフラグであり、後述する旋回度判断処理(図9参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。
なお、第3実施の形態における車両用制御装置300では、ステアリング63の操作量(回転角)に対応する値と、車両301のヨーレートに対応する値と、車両301の横加速度(左右方向加速度)に対応する値とが、「横方向状態閾値」としてROM72に記憶されている。この横方向状態閾値は、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角のまま車両1が走行(旋回または直進)した場合に、車両301が横滑りする恐れがあると判断される旋回度合い、ヨーレート及び横加速度の限界値にそれぞれ設定されている。
キャンバ角調整装置344は、左右の後輪302RL,302RRのキャンバ角をそれぞれ調整するための装置であり、左右の後輪302RL,302RRにキャンバ角を付与する合計2個のRL,RRモータ44RL,44RRと、それら各モータ44RL,44RRをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。即ち、第3実施の形態におけるキャンバ角調整装置344は、第1実施の形態におけるキャンバ角調整装置44の一部(左右の前輪302FL,302FRに対応するFL,FRモータ44FL,44FR)を省略して構成されている。
次いで、図9を参照して、旋回度判断処理を説明する。図9は、旋回度判断処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した第1実施の形態の場合と同様に、車両用制御装置300の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理である。
なお、第3実施の形態では、第2実施の形態の場合と同様に、ステアリング63の操作量に基づいて、車両301の旋回度合いを判断するのみでなく、ヨーレートによっても車両301の旋回度合いを判断し、更に、横加速度に基づいて、横風等の外乱の影響についても判断する。即ち、本処理では、車両301が非旋回状態(直進状態)にあっても横方向状態フラグ373aがオン・オフされる。
CPU71は、横方向状態量(ステアリング63の操作量、車両301のヨーレート及び横加速度)をそれぞれ取得した後(S1、S201及びS202)、次いで、その取得したステアリング63の操作量が横方向状態閾値以上であるか否かを判断し(S302)、その結果、ステアリング63の操作量が横方向状態閾値以上であると判断される場合には(S302:Yes)、横方向状態フラグ373aをオンして(S305)、この旋回度判断処理を終了する。
また、S302の処理の結果、ステアリング63の操作量が横方向状態閾値よりも小さいと判断される場合には(S302:No)、S201の処理で取得した車両301のヨーレートの値が横方向状態閾値以上であるか否かを判断し(S303)、その結果、車両301のヨーレートが横方向状態閾値以上であると判断される場合には(S303:Yes)、横方向状態フラグ373aをオンして(S305)、この旋回度判断処理を終了する。
更に、S303の処理の結果、車両301のヨーレートが横方向状態閾値よりも小さいと判断される場合には(S303:No)、S202の処理で取得した車両301の横加速度が横方向状態閾値以上であるか否かを判断し(S304)、その結果、車両301の横加速度が横方向状態閾値以上であると判断される場合には(S304:Yes)、横方向状態フラグ373aをオンして(S305)、この旋回度判断処理を終了する。
一方、S304の処理の結果、車両301の横加速度が横方向状態閾値より小さいと判断される場合には(S304:No)、横方向状態フラグ373aをオフし(S306)この旋回度判断処理を終了する。
このように、第3実施の形態では、ステアリング63の操作量と、車両301のヨーレートと、車両301の横加速度との内の少なくともいずれかの値が横方向状態閾値以上である場合に、横方向状態フラグ373aがオンされ、こられ各値がすべて横方向状態閾値より小さい場合には、横方向状態フラグ373aがオフされる。
なお、S302〜S304の処理では、S1、S201及びS202の処理で取得した車両301のヨーレート及び横加速度の値と、ROM72に予め記憶されている横方向状態閾値とを比較して、現在の車両301のヨーレート及び横加速度の値が横方向状態閾値以上であるか否かを判断する。
次いで、図10を参照して、キャンバ制御処理について説明する。図10は、キャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置300の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、車両301の横方向状態量に応じて車輪302(左右の後輪302RL,302RR)のキャンバ角を調整する処理である。
CPU71は、キャンバ制御処理に関し、まず、横方向状態フラグ373aがオンであるか否かを判断し(S311)、横方向状態フラグ373aがオンであると判断される場合には(S311:Yes)、RLモータ44RL及びRRモータ44RRを作動させて、左右の後輪302RL,302RRのキャンバ角を第1キャンバ角に調整し、左右の後輪302RL,302RRにネガティブキャンバを付与する(S12)。
次いで、左右の後輪302RL,302RRのキャンバ角が第1キャンバ角に達したか否かを判断し(S13)、第1キャンバ角に達していないと判断される場合には(S13:No)、第1キャンバ角に達したと判断されるまでS13の処理を繰り返し実行する。一方、S13の処理の結果、左右の後輪302RL,302RRのキャンバ角が第1キャンバ角に達したと判断される場合には(S13:Yes)、このキャンバ制御処理を終了する。
これにより、例えば、ステアリング63の操作量が横方向状態閾値よりも小さいが、走行する路面の摩擦係数が低く、これに起因して車両301に横滑りが発生するような場合であっても、左右の後輪302RL,302RRのキャンバ角を第1キャンバ角とすることができる。その結果、左右の後輪302RL,302RRの横剛性を発揮させて、車両301の横滑りを抑制することができる。
また、例えば、車両301が直進走行状態にあり、ステアリング63の操作量も車両301のヨーレートも横方向状態閾値よりも小さいが、トンネルを抜ける際に横風を受けた場合のように、外乱の影響で車両301の挙動が不安定となる場合であっても、左右の後輪302RL,302RRのキャンバ角を第1キャンバ角とすることができる。その結果、左右の後輪302RL,302RRの横剛性の発揮により、車両301の挙動を安定化して、操縦安定性を確保することができる。
S311の処理の結果、横方向状態フラグ373aがオフであると判断される場合には(S311:No)、RLモータ44RL及びRRモータ44RRを作動させて、左右の後輪302RL,302RRのキャンバ角を第2キャンバ角に調整し、左右の後輪302RL,302RRへのネガティブキャンバの付与を解除する(S21)。
次いで、左右の後輪302RL,302RRのキャンバ角が第2キャンバ角に達したか否かを判断し(S22)、第2キャンバ角に達していないと判断される場合には(S22:No)、第2キャンバ角に達したと判断されるまでS22の処理を繰り返し実行する。一方、S22の処理の結果、左右の後輪302RL,302RRのキャンバ角が第2キャンバ角に達したと判断される場合には(S22:Yes)、このキャンバ制御処理を終了する。
これにより、横方向状態量フラグ373bがオフの場合、即ち、車両301が旋回中でなく横加速度の値も比較的小さい場合や、旋回中であってもステアリング63の操作量が比較的小さい或いはヨーモーメントの値が比較的小さく横滑りのおそれが低いと判断される場合などには、キャンバスラストの影響を回避して、省燃費化を図ることができる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、車両301の旋回時には、左右の後輪302RL,302RRの両輪にネガティブキャンバを付与するので、左の後輪302RLのキャンバスラストと右の後輪302RRのキャンバスラストとを互いに打ち消し合う向きに発生させて、車両301に生じるヨーモーメントを抑制することができる。また、旋回外輪であるか旋回内輪であるかに関わらず、左右の後輪302RL,302RRの両輪にネガティブキャンバを付与するので、旋回方向が繰り返し変化するスラローム走行時においても、旋回方向が変化するたびにキャンバ角の調整が頻繁に行われるのを防止することができる。よって、旋回時の操縦安定性を確保しつつ、車両301の挙動を安定させることができる。
次いで、図11及び図12を参照して、第4実施の形態について説明する。第1実施の形態では、制御対象である車両1が、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備える場合を説明したが、第4実施の形態における車両401は、第1トレッド421、第2トレッド422及び第3トレッド423の3種類のトレッドを備えて構成されている。なお、上記各実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。また、第4実施の形態では、車両401を第1実施の形態における車両用制御装置100によって制御する場合を例に説明する。
図11は、第4実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両401を模式的に示した模式図であり、図12は、懸架装置4の正面図である。図11及び図12に示すように、車両401は、複数の車輪402を備え、その車輪402は、車両401の前方側(矢印F方向側)に位置する左右の前輪402FL,402FRと、車両401の後方側(矢印B方向側)に位置する左右の後輪402RL,402RRとから構成されている。
車輪402は、第1トレッド421、第2トレッド422及び第3トレッド423の3種類のトレッドを備え、各車輪402において、第1トレッド421が車両401の内側に配置されると共に、第3トレッド423が車両401の外側に配置され、第2トレッド422が第1トレッド421と第3トレッド423との間に配置されている。
なお、本実施の形態では、第1トレッド421、第2トレッド422及び第3トレッド423の幅(図11左右方向の寸法)が同一の幅に構成されている。但し、第1トレッド421の外径および第3トレッド423の外径は、第2トレッド422から離間するに従って漸次縮径するように構成されている。よって、キャンバ角が0度(定常角)の状態では、第1トレッド421及び第3トレッド423の少なくともショルダー側の一部は路面との間に隙間を有している。
第1トレッド421、第2トレッド422及び第3トレッド423は、第2トレッド422が第1トレッド421及び第3トレッド423よりも硬度の高い材料により構成され、第1トレッド421が第2トレッド422に比してグリップ力の高い特性(高グリップ性)に構成される一方、第2トレッド422が第1トレッド421に比して転がり抵抗の小さい特性(低転がり抵抗)に構成されている。また、第3トレッド423は、少なくとも第2トレッド422に比して、グリップ力の高い特性に構成され、第2トレッド422は、少なくとも第3トレッド423に比して、転がり抵抗の小さい特性(低転がり抵抗)に構成されている。
車両用制御装置100は、第1実施の形態の場合と同様に、例えば、ステアリング63の操作状態に応じてキャンバ角調整装置44を作動させることで、車輪402(左右の前輪402FL,402RR及び左右の後輪502RL,502RR)のキャンバ角を制御する。
例えば、図12に示すように、右の前輪402FRに対応する懸架装置4を代表例として説明する。FRモータ44FRが駆動されると、車輪402がキャンバ軸45を中心軸として揺動駆動され、車輪402に所定のキャンバ角が付与される。
よって、例えば、FRモータ44FRが一の方向へ回転駆動されることで、キャンバ角が制御され、車輪402にネガティブキャンバが付与されると、車両401の内側に配置される第1トレッド421の接地面積が増加すると共に、第2トレッド422の接地面積が減少する。これにより、第1トレッド421の高グリップ性を発揮させて、グリップ性能を確保することができる。
同様に、FRモータ44FRが他の方向へ回転駆動されることで、キャンバ角が制御され、車輪402にポジティブキャンバが付与されると、車両401の外側に配置される第3トレッド423の接地面積が増加すると共に、第2トレッド422の接地面積が減少する。これにより、第3トレッド423の高グリップ性を発揮させて、グリップ性能を確保することができる。
一方、FRモータ44FRが上述した状態から他の方向または一の方向へ回転駆動されることで、キャンバ角が制御され、車輪402のキャンバ角が0度に設定される(即ち、キャンバ角の制御が解除され、車輪402のキャンバ角が定常角に復帰される)と、車両401の内側または外側に配置される第1トレッド421または第3トレッド423の接地面積が減少すると共に、それらの中央に配置される第2トレッド422の接地面積が増加する。これにより、第2トレッド422の低転がり抵抗を発揮させて、省燃費化を図ることができる。
以上のように構成された第4実施の形態における車両401を、第1実施の形態における車両用制御装置100により、上述した各実施の形態の場合と同様に、制御することができる。即ち、第1実施の形態において、車輪2にネガティブキャンバを付与する処理については、これに代えて、車輪402にネガティブキャンバを付与する処理を実行すれば良く、また、第1実施の形態において、車輪2のキャンバ角を定常角に復帰させる処理については、これに代えて、車輪402のキャンバ角を定常角に復帰させる処理を実行すれば良い。
なお、第4実施の形態において、車輪402にネガティブキャンバを付与する処理については、これに代えて、車輪402にポジティブキャンバを付与する処理を実行しても良い。この場合、旋回内輪と旋回外輪とに、異なる方向のキャンバ角を付与しても良い。例えば、旋回内輪にポジティブキャンバを付与し、旋回外輪にネガティブキャンバを付与する形態が例示される。
ここで、図4に示すフローチャート(旋回度判断処理)において、請求項1記載の横方向状態量取得手段としてはS1の処理が、横方向状態量判断手段としてはS2及びS5の処理が、図5に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、後輪キャンバ制御手段としてはS12及びS17の処理が、前輪キャンバ制御手段としてS14の処理が、請求項2記載の前輪キャンバ解除手段としてはS19の処理が、それぞれ該当する。
また、図4に示すフローチャート(旋回度判断処理)において、請求項1記載の「横方向状態量判断手段により横方向状態量が少なくとも第1の条件を満たすと判断される場合」とは、S2の処理において「Yes」と判断される場合、及び、S2の処理において「No」と判断され且つS5の処理において「Yes」と判断される場合が、「横方向状態量が第1の条件よりも閾値の高い第2の条件を満たすと横方向状態量判断手段により判断される場合」とは、S2の処理において「Yes」と判断される場合が、それぞれ該当する。
図6に示すフローチャート(旋回度判断処理)において、請求項1記載の横方向状態量取得手段としてはS1、S201及びS202の処理が、横方向状態量判断手段としてはS2、S203、S204、S5、S206及びS207の処理が、それぞれ該当する。
また、図6に示すフローチャート(旋回度判断処理)において、請求項1記載の「横方向状態量判断手段により横方向状態量が少なくとも第1の条件を満たすと判断される場合」とは、S2、S203又はS204の処理において「Yes」と判断される場合、並びに、S2、S203及びS204の処理において「No」と判断され且つS5、S206又はS207の処理において「Yes」と判断される場合が、「横方向状態量が第1の条件よりも閾値の高い第2の条件を満たすと横方向状態量判断手段により判断される場合」とは、S2、S203又はS204の処理において「Yes」と判断される場合が、それぞれ該当する。
図9に示すフローチャート(旋回度判断処理)において、請求項1記載の横方向状態量取得手段としてはS1、S201及びS202の処理が、横方向状態量判断手段としてはS302、S303及びS305の処理が、図10に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、後輪キャンバ制御手段としてはS12の処理が該当する。
また、図9に示すフローチャート(旋回度判断手段)において、請求項1記載の「横方向状態量判断手段により横方向状態量が少なくとも第1の条件を満たすと判断される場合」とは、S302、S303又はS304の処理において「Yes」と判断される場合が該当する。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。例えば、上記各実施の形態で説明した第1キャンバ角および第2キャンバ角の値は任意に設定することができる。
上記各実施の形態では、左右の後輪2RL,2RR,402RL,402RR及び左右の前輪2FL,2FR,402FL,402FR、又は、左右の後輪302RL,302RRにネガティブキャンバを付与する場合に、左右の後輪2RL,2RR,402RL,402RRの両輪および左右の前輪2FL,2FR,402FL,402FRの両輪、又は、左右の後輪302RL,302RRをいずれも第1キャンバ角に調整する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、左右の後輪2RL,2RR,402RL,402RRの両輪および左右の前輪2FL,2FR,402FL,402FRの両輪、又は、左右の後輪302RL,302RRをマイナス方向の異なるキャンバ角に調整しても良い。この場合でも、左の後輪2RL,402RL又は左の前輪2FL,402FL、若しくは、左の後輪302RLと、右の後輪2RR,402RR又は右の前輪2FR,402FR、若しくは、右の後輪302RRとを互いに打ち消し合う向きに発生させて、車両1,301,401に生じるヨーモーメントを抑制することができる。
上記第1及び第4実施の形態では、ステアリング63の操作量に基づいて車両1,401の旋回度合いを、第2及び第3実施の形態では、更に、車両1,301のヨーレート及び横加速度に基づいて車両1,301の横方向状態量を、それぞれ判断する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ステアリング63の操作量などに代えて、他の状態量に基づいて車両1の旋回度合いや横方向状態量を判断することは当然可能である。他の状態量としては、例えば、ステアリング63の操作速度、車両1,301,401のヨーレートの単位時間当たりの変化量、車両1,301,401の横加速度の単位時間当たりの変化量、車両1,301,401の走行速度などが例示される。
上記第1、第2及び第4実施の形態では、旋回限界閾値を、車輪2,402のキャンバ角が第2キャンバ角のまま車両1,401が旋回または直進した場合に、車両1,401が横滑りする恐れがあると判断される旋回度合い、ヨーレート及び横加速度の限界値に設定する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、単に車両1,401の状態量(例えば、ステアリング63の操作量など)に基づいて設定しても良い。また、上記実施の形態では、操縦安定閾値を、車輪2,402のキャンバ角が第2キャンバ角のまま車両1,401が旋回または直進した場合に、車両1,401がオーバステア傾向になる又は直進走行に影響を与えると判断される旋回度合い、ヨーレート及び横加速度の限界値に設定する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、旋回限界閾値と同様に、例えば、単に車両1,401の状態量(例えば、ステアリング63の操作量など)に基づいて設定しても良い。
同様に、第3実施の形態では、横方向状態閾値を、車輪302のキャンバ角が第2キャンバ角のまま車両301が旋回または直進した場合に、車両301が横滑りする恐れがあると判断される旋回度合い、ヨーレート及び横加速度の限界値に設定する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、車輪301のキャンバ角が第2キャンバ角のまま車両301が旋回または直進した場合に、車両301がオーバステア傾向になる又は直進走行に影響を与えると判断される旋回度合い、ヨーレート及び横加速度の限界値に設定しても良く、或いは、単に車両1,401の状態量(例えば、ステアリング63の操作量など)に基づいて設定しても良い。
また、上記各実施の形態では、旋回限界閾値、操縦安定閾値または横方向状態閾値がROM72に予め記憶された一定値である場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、天候や路面の状況を取得し、その取得した天候や路面の状況に応じて旋回限界閾値、操縦安定閾値または横方向状態閾値を設定する構成としても良い。この場合には、より高精度に車両1,301,401の旋回度合いを判断することができる。
上記第1、第2及び第4実施の形態では、左右の後輪2RL,2RR,402RL,402RRのキャンバ角が第1キャンバ角に達した後に左右の前輪2FL,2FR,402FL,402FRにネガティブキャンバを付与する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、左右の後輪2RL,2RR,402RL,402RRのキャンバ角が第1キャンバ角に達するのを待たずして、左右の前輪2FL,2FR,402FL,402FRにネガティブキャンバを付与しても良い。この場合には、車輪2,402へのネガティブキャンバの付与を素早く行うことができ、急旋回時の操縦安定性を確保することができる。
また、上記第1、第2及び第4実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR,402FL,402FRのキャンバ角が第2キャンバ角に達した後に左右の後輪2RL,2RR,402RL,402RRへのネガティブキャンバの付与を解除する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、左右の前輪2FL,2FR,402FL,402FRのキャンバ角が第2キャンバ角に達するのを待たずして、左右の後輪2RL,2RR,402RL,402RRへのネガティブキャンバの付与を解除しても良い。この場合には、車輪2,402へのネガティブキャンバの付与を素早く解除することができ、省燃費化を図ることができる。
上記各実施の形態では説明を省略したが、左右の後輪2RL,2RR,302RL,302RR,402RL,402RRへのネガティブキャンバの付与を解除する場合に、所定時間(例えば3秒など)の経過を待ってから解除しても良い。この場合には、山道などの車両1,301,401が頻繁に旋回する道路状況において、車両1,301,401が旋回するたびにキャンバ角調整装置44を作動させてしまうことがなく、キャンバ角の頻繁な切り替わりを防止することができる。
上記第1及び第2実施の形態では、第1トレッド21が車両1の内側に、第2トレッド22が車両1の外側に、それぞれ配置される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、第1トレッド21を車両1の外側に、第2トレッド22を車両1の内側に、それぞれ配置しても良い。この場合には、第1キャンバ状態において車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整されると共に、第2キャンバ状態において車輪2のキャンバ角がプラス方向の所定の角度に調整され、車輪2にポジティブキャンバが付与されるように構成することで、上記実施の形態の場合と同様に、旋回時の操縦安定性を確保しつつ、車両1の挙動を安定させることができる。
上記各実施の形態では、その説明を省略したが、各実施の形態における車両1,301,401の車輪2,302,402の一部または全部を、他の実施の形態における車輪2,302,402の一部または全部と置換しても良い。例えば、上記第1実施の形態における車両用制御装置100により制御される車両1,401の車輪2,402を、第3実施の形態における車両301の車輪302に変更しても良く、或いは、上記第3実施の形態における車両用制御装置300により制御される車両301の車輪302を、第1又は第4実施の形態における車両1,401の車輪2,402に変更しても良い。
上記第3実施の形態では、左右の後輪302RL,302RRを、左右の前輪302FL,302FRよりも低転がり抵抗とするための手法として、左右の後輪302RL,302RRのトレッドの幅を、左右の前輪302FL,302FRのトレッドの幅よりも小さくする手法を一例として説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の手法を採用しても良い。
例えば、他の手法としては、左右の後輪302RL,302RRのトレッドを、左右の前輪302FL,302FRのトレッドよりも硬度の高い材料から構成し、左右の前輪302FL,302FRのトレッドを左右の後輪302RL,302RRのトレッドよりもグリップ力の高い特性(高グリップ性)とする一方、左右の後輪302RL,302RRのトレッドを左右の前輪302FL,302FRのトレッドよりも転がり抵抗の小さい特性(低転がり抵抗)とする第1の手法、左右の後輪302RL,302RRのトレッドのパターンを、左右の前輪302FL,302FRのトレッドのパターンよりも低転がり抵抗のパターンとする(例えば、左右の後輪302RL,302RRのトレッドのパターンをラグタイプ又はブロックタイプとし、左右の後輪302RL,302RRのトレッドのパターンをリブタイプとする)第2の手法、左右の後輪302RL,302RRの空気圧を、左右の前輪302FL,302FRの空気圧よりも高圧とする第3の手法、左右の後輪302RL,302RRのトレッドの厚み寸法を、左右の前輪302FL,302FRのトレッドの厚み寸法よりも小さい(薄い)寸法とする第4の手法、或いは、これら第1から第4の手法および第5実施の形態における手法(トレッドの幅を異ならせる手法)の一部または全部を組み合わせる第5の手法、が例示される。
上記第3実施の形態では、左右の後輪302RL,302RRのトレッドの幅を、左右の前輪302FL,302FRのトレッドの幅よりも小さくする場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、左右の後輪302RL,302RRのトレッドの幅を、左右の前輪302FL,302FRのトレッドの幅と同じ大きさとしても良い。この場合でも、かかる構成に上述した第1から第5の手法の一部または全部を組み合わせることで、左右の後輪302RL,302RRを、左右の前輪302FL,302FRよりも低転がり抵抗とすることができる。よって、操縦安定性と省燃費化との両立を図ることができる。
また、上記第3実施の形態では、左右の後輪302RL,302RRのトレッドの幅が、左右の前輪302FL,302FRのトレッドの幅よりも小さく(狭く)される場合を説明したが、これに加え、左右の後輪302RL,302RRのトレッドの幅を次のように構成することが好ましい。即ち、タイヤ幅L([mm])をタイヤ外径R([mm])で除した値(L/R)を0.1より大きく、かつ、0.4より小さくすることが好ましく(0.1<L/R<0.4)、0.1より大きく、かつ、0.3より小さくすることが更に好ましい(0.1<L/R<0.3)。操縦安定性を確保しつつ、転がり抵抗を小さくして、省燃費化の向上を図ることができるからである。なお、トレッドの幅は、リム幅よりも大きくタイヤ幅よりも小さな値となる。
上記第3実施の形態では、左右の後輪302RL,302RRのトレッドの幅を、左右の前輪302FL,302FRのトレッドの幅よりも狭く構成する場合を説明した。この場合の左右の後輪302RL,302RRのトレッドの幅の設定方法について説明する。図13は、懸架装置4に支持された後輪1302RL,1302RRの正面図であり、図14は、懸架装置4に支持された後輪302RL,302RRの正面図である。なお、これら図13及び図14は、図2に対応する正面図であり、右車輪側のみを図示すると共に、懸架装置4の図示が簡略化されている。また、図13及び図14では、車体Bの外形を通る鉛直線(矢印U−D方向線、図2参照)を外形線S(即ち、車両301の全幅を示す線)として二点鎖線を用いて図示している。
後輪1302RL,1302RRは、上記第3実施の形態で説明した前輪302FL,302FRと同じ寸法に構成された車輪である。ここで、車両301は、前後の全車輪302を懸架装置304により支持する既存の車両に対し、後輪側の懸架装置304にのみRL,RRモータ44RL,44RRによる伸縮機能を追加して懸架装置4とすることで構成された車両である。よって、車両301は、図13(a)に示すように、少なくともキャンバ角が定常角(=0°)においては、後輪1302RL,1302RRを外形線Sから外側に突出させない(即ち、保安基準を満たす)ように装着可能とされている。
しかしながら、後輪1302RL,1302RRのキャンバ角を調整する制御を行う場合には、図13(b)に示すように、後輪1302RL,1302RRが外形線Sを越えて外側へ突出し、保安基準を満たすことができないという問題点があった。そのため、後輪1302RL,1302RRのキャンバ角を調整可能な範囲が限定され、十分な角度のキャンバ角を付与することができないため、キャンバスラストを十分に得ることができないという問題点があった。
この場合、懸架装置4自体の配設位置を車両301の内側(図13(a)右側)へ移動させることで、キャンバ角の調整可能範囲を確保することも考えられるが、車両301に大幅な構造の変更を加えることが必要となるため、コストが嵩み、現実的でない。一方、後輪1302RL,1302RRのホイールオフセットを車輪中心線Cから車両301の外側(図13(a)左側)に移動させることで、車両301への構造の変更を行うことなく、比較的大きな角度のキャンバ角を後輪1302RL,1302RRに付与することが可能となる。しかしながら、この場合には、ホイールオフセットの分だけ、後輪1302RL,1302RR自体が車両301の内側へ移動することとなるので、車体Bとの干渉が避けられない。
そこで、本願出願人は、図14に示すように、後輪302RL,302RRのタイヤ幅Wlを狭くすることで、既存の車両(車両301)に大幅な構造の変更を加えることを不要とし、かつ、保安基準を満たしながら、キャンバ角の調整可能範囲を十分に確保して、キャンバスラストを十分に発揮させることを可能とする構成に想到した。
後輪302RL,302RRのタイヤ幅Wlの設定方法について、図13から図15を参照して説明する。図15は、懸架装置4に支持された車輪の正面図を模式的に図示した模式図であり、キャンバ角θのネガティブキャンバが付与された状態が図示されている。
図15に示すように、車輪の幅寸法をタイヤ幅Wと、直径をタイヤ径Rと、タイヤ中心線(車輪中心線)Cからホイール座面Tまでの距離をホイールオフセットAと、それぞれ規定する。この場合、車輪が外側へ最も突出する位置であるタイヤ外側端Mから、車輪の回転軸とホイール座面Tとの交点である原点Oまでの水平方向の距離である距離Lは次のように算出される。
即ち、図15に示すように、車輪の回転軸と車輪の外側面との交点である位置Pと原点Oとを結ぶ距離は、タイヤ幅Wの半分の値からホイールオフセットAを除算した値(W/2−A)となるので、位置Pから原点Oまでの水平方向の距離である距離Jは、三角比の関係から、J=(W/2−A)・cosθとなる。
一方、位置Pとタイヤ外側端Mとを結ぶ距離は、タイヤ径Rの半分の値(R/2)となるので、タイヤ外側端Kから位置Pまでの水平方向の距離である距離Kは、三角比の関係から、K=(R/2)・sinθとなる。
よって、距離Lは、距離Jと距離Kとの和であるので、これらを加算して、L=(W/2−A)・cosθ+(R/2)・sinθとなる。この関係式をタイヤ幅Wでまとめると、W=2A−R・tanθ+2L/cosθとなる。
車輪のタイヤ外側端Mが車両301の外形線Sを越えて外側へ突出せず、保安基準を満たすためには、距離Lが、原点Oから外形線Sまでの水平方向の距離である距離Z(図13(b)及び図14(b)参照)より小さくなれば良い。よって、タイヤ幅Wを定める上記の式に対し、距離Lの最大値(即ち、距離Z)と、車輪に付与するキャンバ角θの最大値(例えば、3°)とを当てはめることで、車輪のタイヤ幅Wの最大値を決定することができる。
即ち、図13に示す後輪1302RL,1302RRについては、タイヤ外側端Mが外形線Sを越えて外側に突出しないための最大のキャンバ角をθwとすると、そのタイヤ幅Wwは、W=2A−R・tanθw+2Z/cosθwとなり、図14に示す後輪302RL,302RRについては、タイヤ外側端Mが外形線Sを越えて外側に突出しないための最大のキャンバ角をθlとすると、そのタイヤ幅Wlは、W=2A−R・tanθl+2Z/cosθlとなる。
なお、各車輪のトレッドの幅は、タイヤ幅Wを越えない範囲に設定される。なお、タイヤ幅Wの最小値は、タイヤ外側端Mをホイール座面Tよりも内側へ配置できないことから、ホイールオフセットAの2倍の値となる。
以上のように、タイヤ幅Wを定める上記の式によれば、車輪のタイヤ幅W(即ち、トレッドの幅)を狭くすることで、車輪に付与するキャンバ角θの最大値を大きくすることができる。即ち、上記各実施の形態で説明したように、後輪302RL,302RRのトレッドの幅(タイヤ幅W)を、前輪302FL,302FRのトレッドの幅よりも狭くすることで、既存の車両(車両301)に大幅な構造の変更を加えることを不要とし、かつ、保安基準を満たしつつ、後輪302RL,302RRにおけるキャンバ角の調整可能範囲を確保して、キャンバスラストを十分に発揮させることができる。
なお、この場合には、前輪302FL,302FRのトレッドの幅を広くすることができるので、制動力の向上を図ることができる。特に、前輪2FL,2FRが駆動輪とされる本実施の形態においては、加速性能の向上を図ることができる。一方、後輪302RL,302RRのトレッドの幅を、左右の前輪2FL,2FRのトレッドの幅よりも狭くすることで、これら後輪302RL,302RRの転がり抵抗を、前輪2FL,2FRの転がり抵抗よりも小さくすることができ、その分、省燃費化を図ることができる。