以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の記録装置(電子ビーム記録装置)の構成を模式的に示すブロック図である。本実施形態は、電子ビームを用い、光ディスク製造用の原盤を作製するディスクマスタリング装置に本発明を適用した場合の実施形態である。
図1において、電子ビーム記録装置10は、真空チャンバ11と、この真空チャンバ11内に配されたターンテーブル16と、このターンテーブル16上に載置され表面にレジストが塗布されたディスク原盤用の基板15と、ターンテーブル16をディスク基板主面の垂直軸まわりに回転駆動するスピンドルモータ17と、スピンドルモータ17を上部に設けた送りステージ(以下適宜、Xステージという)18と、真空チャンバ11に取り付けられた電子ビームカラム20と、コントローラ30とを有している。
真空チャンバ11は、エアーダンパなどの防振台(図示しない)を介して設置され、外部からの振動の伝達が抑制されている。また、真空チャンバ11は、真空ポンプ(図示しない)が接続されており、これによってチャンバ内を排気することによって真空チャンバ11の内部が所定圧力の真空雰囲気となるように設定されている。なお、真空チャンバ11には、基板15の表面の高さを検出するための光源36Aと、例えば、ポジションセンサやCCD(Charge Coupled Device)などを含む光検出器36Bとが設けられている(詳細機能は後述)。
ターンテーブル16は誘電体、例えば、セラミックからなり、静電チャッキング機構(図示しない)を有している。かかる静電チャッキング機構は、ターンテーブル16(セラミック)とターンテーブル16内に設けられ静電分極を生起させるための導体からなる電極とを備えて構成されている。当該電極には高電圧電源(図示しない)が接続され、高電圧電源から当該電極に電圧が印加されることにより基板15を吸着保持している。
Xステージ18は、移送(並進駆動)装置である送りモータ19に結合され、スピンドルモータ17及びターンテーブル16を基板15の主面と平行な面内の所定方向(x方向)に移動可能となっており、このXステージ18と、上記スピンドルモータ17及びターンテーブル16とによってXθステージが構成されている。
このとき、Xステージ18上には、レーザ干渉系35の一部である反射鏡35Aが配されている。レーザ干渉系35は、図示しない光源からの測距用レーザ光による上記反射鏡35Aでの反射光を用いてXステージ18までの距離を測距し、その測距データ、すなわちXステージ18の送り(X方向)位置データをステージ駆動部37に送る。
また、スピンドルモータ17の回転信号も、ステージ駆動部37に送られる。当該回転信号は、基板15の基準回転位置を表す回転同期信号、及び基準回転位置からの所定回転角ごとのパルス信号を含んでいる。ステージ駆動部37は、当該回転信号により基板15の回転角、回転速度、回転周波数等を得る。
ステージ駆動部37は、上記のようにして取得したXステージ18からの送り位置データとスピンドルモータ17からの回転信号とに基づいて、電子ビームスポットの基板上の位置を表す位置データを生成し、コントローラ30に供給する。コントローラ30はこの位置データに基づきステージ駆動部37に制御信号を出力し、ステージ駆動部37は、そのコントローラ30からの制御信号に基づきスピンドルモータ17及び送りモータ19を駆動する。すなわち、スピンドルモータ17及びXステージ18の駆動量である、ターンテーブル16(すなわち基板15)の回転角X及びステージ18の送り量が、ステージ駆動部37を介し上記コントローラ30によって制御される。
なお、以上はXθ系ステージを有する場合について説明したが、XY系ステージを用い、ステージ駆動部37が当該XY系ステージを駆動してビームスポットのX,Y位置制御をなすように構成されていてもよい。
電子ビームカラム20内には、電子ビームを射出する電子銃(エミッタ)21、射出された電子ビームを収束する収束レンズ22と、ブランキング電極23、アパーチャ24、ビーム偏向電極25、フォーカスレンズ27、対物レンズ28がこの順で配置され、さらにコントローラ30からのビーム位置補正信号に基づいて電子ビームの位置補正を行うアライメント電極を含んでいる。
電子銃21は、加速高圧電源(図示しない)から供給される高電圧が印加される陰極(図示しない)により数10KeVに加速された電子ビーム(EB)を射出する。
ブランキング電極23は、コントローラ30からの制御信号で制御されるブランキング制御部31からの変調信号に基づいて電子ビームのオン/オフ切換(ON/OFF)を行う。すなわち、ブランキング電極23間に電圧を印加して通過する電子ビームを大きく偏向させることにより、電子ビームがアパーチャ24を通過するのを阻止し、電子ビームをオフ状態とすることができる。
ビーム偏向電極25は、コントローラ30からの制御信号で制御されるビーム偏向部33からの制御信号に基づいて電子ビームを高速で偏向制御する。この偏向制御により、基板15に対する電子ビームスポットの位置制御を行う。
フォーカスレンズ27は、コントローラ30からの制御信号で制御されるフォーカス制御部34からの駆動信号に基づいて駆動され、電子ビームのフォーカス制御が行われる。
このとき、フォーカス制御部34には高さ検出部36からの検出信号が入力されている。すなわち、上記光検出器36Bが、光源36Aから射出され基板15の表面で反射された光ビームを受光し、その受光信号を高さ検出部36に供給する。高さ検出部36は、その受光信号に基づいて基板15の表面の高さを検出して検出信号を生成し、フォーカス制御部34は当該検出信号に基づいて電子ビームのフォーカス制御を行う。
コントローラ30には、記録すべき情報データ(記録データ)RDが供給される。記録データRDは、ディスク記録に用いられる変調データ、例えばDVDディスクでは8/16変調等による変調データである。コントローラ30は、この記録データRDと、上記送り位置データ及び回転位置データとに基づき、上記ブランキング制御部31、上記ビーム偏向部33、及び上記フォーカス制御部34にそれぞれブランキング制御信号SB、偏向制御信号SD(後述の加算器46からの信号及び送り駆動部37Bからの信号)、及びフォーカス制御信号SFを送出し、記録(露光又は描画)制御を行う。すなわち、記録データに基づいて基板15上のレジストに電子ビームが照射され、電子ビームの照射によって露光された箇所にのみ記録ピットに対応した潜像が形成されて記録がなされる。
なお、図1においては、ブランキング制御部31、ビーム偏向部33、フォーカス制御部34、ステージ駆動部37に関して主たる信号線について示したが、これら各構成部はコントローラ30に双方的に接続され、必要な信号を送受信し得るように構成されている。
ここで、コントローラ30は、記録区間を所定の複数の区間に分割し、記録データRDの記録実行前に、所望の目的や動作態様に対応して最適な描画速度を各分割区間ごとに設定し、その描画速度に応じて各区間ごとに偏向速度及び基板速度を変化させて記録制御を行う。
図2は、コントローラ30のうち、ビームの偏向制御及び基板15の位置制御を行う部分の詳細構成の一例を示す機能ブロック図である。図2において、コントローラ30には、ビーム偏向信号及び基板速度信号を生成する偏向・基板速度信号生成器41と、偏向量補正器45と、加算器46と、最適速度生成器47と、が設けられている。また、ステージ駆動部37には、基板速度変換器38と、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bと、が設けられている。
最適速度生成器47は、電子ビーム記録装置10に備えられた図示しない所定の操作手段(又はその他の外部機器)を介し入力された記録データRDに基づき、各描画地点(記録区間)に対応する描画速度Vexpを算出し、対応する信号を出力する。この描画速度Vexpは、各ピットを記録するときの電子ビーム(EB)の偏向速度Vbeamと、基板速度Vsubとを用いてVexp=Vsub−Vbeamで表され、最適速度生成器47は、例えばレジストの感度、層厚、環境温度等のリソグラフィにおける諸条件、あるいはピットの幅、トラックピッチ等の記録条件に対応し、適切なピットの記録が行われるようにある幅をもって設定する。
偏向・基板速度信号生成器41は、上記最適速度生成器47からの描画速度(露光速度)Vexpと上記操作手段等からの記録データRDとが入力され、これらに基づき、ビーム偏向量を指定するビーム偏向信号Vbeamと、基板15の動作速度を指定する基板速度信号Vsubを生成する。このとき、偏向・基板速度信号生成器41は、上記Vsub−Vbeam=Vexpの関係を保ちつつ、ビーム偏向角が所定の目標値となるように、ビーム偏向量Vbeam及び基板速度Vsubを制御する。このとき、当該目標値としては、例えば、ビーム偏向角がゼロ(ディスクに垂直にビームが入射する状態に対応)とする。
偏向・基板速度信号生成器41は、図示しないローパスフィルタを備えている。このローパスフィルタは、基板速度信号Vsubの元となる信号のうちXθステージ系の機械的追従限界に対応した所定の高域カットオフ周波数fc(詳細は後述)以下の成分を抽出し、これを基板速度信号Vsubとしてステージ駆動部37内の上記基板速度変換器38に供給する。なお、ローパスフィルタの代わりにバンドパスフィルタ(BPF)等を用いることもできる。基板速度変換器38は、基板速度信号Vsubをθ成分及びX成分に分解し、それぞれ回転駆動部37A及び送り(X方向)駆動部37Bに供給する。
回転駆動部37A及び送り駆動部37Bは、前述したようにスピンドルモータ17及びXステージ18を含む上記Xθステージ系が機械的追従限界を有することに対応し、基板15の基板速度信号Vsubのθ成分及びX成分のうち所定の周波数成分を用いてスピンドルモータ17及びXステージ18を駆動する。この詳細を図3を用いて説明する。
図3は、θステージ及びXステージの追従周波数帯域と、上記ローパスフィルタ(LPF)の通過周波数帯域と、記録動作を行う周波数帯域とを模式的に示した説明図である。
図3において、θステージ及びXステージの追従限界周波数がそれぞれf1,f2で表され、ローパスフィルタの高域カットオフ周波数がfcで表されており、θステージ及びXステージの当該限界周波数以下においてはXθステージ系は機械的に追従可能である。これに対応して、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bは、基板15の基板速度信号Vsubのθ成分及びX成分のうち、スピンドルモータ17及びXステージ18を駆動するために、限界周波数f1,f2以下の周波数の回転成分(θ0)及び送り成分(X0)をそれぞれ抽出する。
図2に戻り、上記のようにして抽出した基板15の基板速度信号Vsubのθ成分及びX成分の限界周波数f1,f2以下の周波数の回転成分(θ0)及び送り成分(X0)は、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bから、スピンドルモータ17及び送りモータ19へ供給される。一方、上記限界周波数(f1,f2)を超える残留分である回転成分(θ1)及び送り成分(X1)は、回転駆動部37Aから偏向量補正器45へ、あるいは、送り駆動部37Bからビーム偏向部33へとそれぞれ供給される。
偏向量補正器45は、上記基板速度信号Vsubの回転方向の残留成分(θ1)と半径位置に応じ、偏向量を生成し、加算器46へと出力する。
加算器46は、前述した偏向・基板速度信号生成器41から供給されたビーム偏向信号Vbeamと、上記偏向量補正器45からの補正信号とを加算し、ビーム偏向部33に供給する。
以上のようにして、動作帯域の狭い機械系(Xθステージ系)の残留エラー分は、ビーム偏向信号Vbeamにフィードフォワードで加算され、ビームの偏向によって補正される。また、前述のローパスフィルタ(LPF)のカットオフ周波数(fc)以上の周波数はピット記録に使用される。
次に、上記構成及び制御に基づき、電子ビーム記録装置10が光ディスクのピットパターンを記録(電子ビーム露光)するときの動作の一例を説明する。
(A)本実施形態の背景となる基本原理
図4(a)(b)は、本実施形態の背景となる基本原理を表す図であり、説明の簡略化及び明確化のために、最適速度生成器47からの描画速度Vexpが一定で、かつ偏向・基板速度信号生成器41から出力される基板速度Vsubとがそれぞれ一定の場合を例に取り、その条件の下で電子ビーム描画を行う場合の電子ビーム(EB)の偏向量を模式的に示した説明図である。なお、図中、理解の容易さのため、基板の移動に対して相対的に電子ビームカラム20が移動するように図示し、また、電子ビームの偏向量を誇張して示している。
図4(a)及び図4(b)において、基板速度Vsubで図中左方向に移動するとき、前述したように、各ピットを記録するときの電子ビーム(EB)の偏向速度Vbeamと基板速度Vsubとは、Vexp=Vsub−Vbeamの関係を保つように偏向・基板速度信号生成器41によって制御され、この例ではVexp=const.であることから、Vsub−Vbeam=const.となるように偏向・基板速度信号生成器41により制御される。また、スペース部においては電子ビームのブランキングを行わずに、ビームを次のピットの記録位置まで瞬時に先送りするよう高速偏向が行われる。
これらのうち、図4(a)は、記録データ(変調データ)のピットが密(ピットのデューティ比が大)なピットパターンを記録する場合の例について示している。ピットパターンを位置P1から位置P2まで記録を行ったとき、電子ビームカラム20は相対位置A1から相対位置A2まで移動する。ピットのデューティ比が大であるため、カラム位置に対して記録位置が後方(基板15の移動方向)にずれていき、記録位置P2においてビームの偏向量Vbeamは−D1、偏向角はα1となる。なお、ビームの偏向量Vbeam及び偏向角αは、所定の照射位置を基準として、例えばビームが基板に垂直に照射される位置を基準として定義される。
一方、図4(b)は、記録データのピットが疎(ピットのデューティ比が小)なピットパターンを記録する場合の例について示している。この場合には、カラム位置がA1からA2まで移動したとき、カラム位置に対して記録位置が前方(基板15の移動と反対方向)にずれていき、記録位置P2’においてビームの偏向量は+D2、偏向角はα2となる。このような偏向量(D1,D2)が大きくなると、ビームの基板に対する偏向角(α)が大きくなり、ビームスポットの径の増大、変形などビーム収束特性が低下し、記録精度が低下する可能性がある。
(B)本実施形態の基本挙動
(B−1)描画速度一定の場合
図5(a)(b)は、本実施形態の記録制御の基本挙動を模式的に説明する図である。そのうち図5(a)は、まず簡単な説明として、最適速度生成器47からの描画速度Vexp=Vexp1(一定値)である場合を例に取り、その条件の下で連続する記録区間R1,R2,R3において電子ビーム描画を行う場合の電子ビーム(EB)の偏向量を模式的に示した説明図である。この図5(a)は、記録区間R2においてピットのデューティ比が所定値より小(ピットが疎)となる場合(当該区間におけるピット部のスペース部に対する比率が所定値以下である場合)を示している。
図5(a)において、ピットのデューティ比が相対的に大きい(=所定範囲内)である記録区間R1においては、基板速度Vsub=Vsub1、偏向速度Vbeam=Vbeam1で記録がなされる。なおこのとき、前述のように速度差Vsub−Vbeam=Vexp1の関係が満たされている。
次に、ピットのデューティ比が相対的に小さい(=所定範囲外)である記録区間R2においては、基板速度及び偏向速度をそれぞれ△V(△V>0)だけ増加させ、Vsub=Vsub1+△V、Vbeam=Vbeam1+△Vとする。すなわち同じ速度(△V)だけ変化させることで、ピット記録速度Vexp=Vexp1は変化せず同じ値に維持される。つまり、Vsub−Vbeam=Vexp1の関係が、記録区間R2においても保たれている。
そして、記録区間R3においては、記録区間R1と同様に、基板速度Vsub=Vsub1、偏向速度Vbeam=Vbeam1での制御がなされる。
なお、図5(a)に示した場合と反対に、記録区間R2においてピットのデューティ比が所定値より大(ピットが密)である場合、すなわち、当該区間におけるピット部のスペース部に対する比率が所定値を超える場合には、上記と反対に、当該区間R2において基板速度Vsub及び偏向速度Vbeamを同じ速度△Vだけ減少させ、Vsub=Vsub1−△V、Vbeam=Vbeam1−△Vとすればよい。
(B−2)描画速度可変の場合
一方、図5(b)は、上記を応用し、最適速度生成器47からの描画速度Vexpが途中で変化する(遅くなる)場合を例に取り、その条件の下で連続する記録区間R4,R5,R6において電子ビーム描画を行う場合の電子ビーム(EB)の偏向量を模式的に示した説明図である。
図5(b)において、ピットのデューティ比が相対的に大きい(=所定範囲内)あるいは相対的に小さい(=所定範囲外)記録区間R4,R5は、上記図5(a)と同様である。すなわち記録区間R4は基板速度Vsub=Vsub1、偏向速度Vbeam=Vbeam1で記録がなされ、記録区間R5はVsub=Vsub1+△V、Vbeam=Vbeam1+△Vに増速して記録がなされる。これらの間は、前述したのと同様、Vsub−Vbeam=Vexp1の関係が維持されている。
そして、記録区間R6になると、基板速度は記録区間R4と同じVsub=Vsub1に戻されるのに対し、偏向速度は記録区間R5と同じVbeam=Vbeam1+△Vのまま維持されるように制御される。この場合の基板速度は、Vsub−Vbeam=Vsub1−(Vbeam1+△V)<Vsub1−Vbeam1=Vexp1となり、記録区間R4,R5よりも遅くなっている。この結果、図示のように、描画太さが基板15の径方向に太くなる。
(B−3)具体的適用例
上記のように描画速度を遅くすることにより描画太さを遅くする具体的な適用例として、記録データのピットが疎であるが故に周辺からの後方散乱の影響が低減し、描画太さが細くなる現象を補正する場合を例にとって説明する。
図6(a)(b)は、上記の補正を行うために線幅を太くする場合の一例を表しており、図6(b)は、連続する記録区間R7〜R9(上記線幅を太くする記録区間R8を含む)における基板15のトラックを模式的に表す説明図であり、図6(a)は、当該区間R7〜R9の図6(b)中矢印aで示すトラックにおける電子ビーム描画を行う場合の電子ビーム(EB)の偏向量を模式的に示した説明図である。
一般に、レジスト層に対しビームで露光を行って潜像を形成する場合、ビームがレジスト層の中に入り込んだ後にそのレジスト層の内部で一部が跳ね返り、放射状に薄く広がりながらレジスト層表面側へと戻るいわゆる後方散乱現象が生じる。この場合、微視的に見ると、ビームを照射した面積よりも実際は若干広い面積にわたって露光されている。すなわち、図6(a)及び図6(b)において、レジスト層を備えた各トラックのうち、描画パターンの径方向分布が相対的に密である部分(記録区間R7,R9)には、密集した各描画パターンそれぞれの照射露光時における上記後方散乱が重畳して露光が促進される。このため、描画パターンの径方向分布が比較的疎である部分(記録区間R8)と比べて、実際には露光の程度に差が生じパターン径方向太さに差が生じる可能性がある。
これを補正するために、この例では、記録区間R8における描画速度を減少させることで描画太さを径方向に太くしたものである。すなわち、図6(a)及び図6(b)において、記録区間R7は、基板速度Vsub=Vsub1、偏向速度Vbeam=Vbeam1で記録がなされ、Vsub−Vbeam=Vexp1の関係が維持されている。
そして、記録区間R8になると、基板速度は記録区間R7と同じVsub=Vsub1に戻されるのに対し、偏向速度はVbeam=Vbeam1+△Vに増速されるように制御される。この場合の描画速度は、Vsub−Vbeam=Vsub1−(Vbeam1+△V)<Vsub1−Vbeam1=Vexp1となり、記録区間R7よりも遅くなり、これによって矢印aで示すトラックについては、図示のように、描画太さが基板15の径方向に太くなる。
その後、記録区間R9では、上記記録区間R7と同様であり、基板速度Vsub=Vsub1、偏向速度Vbeam=Vbeam1で記録がなされ、前述したのと同様、Vsub−Vbeam=Vexp1の関係となっている。
図7は、上記図6(a)(b)で説明した動作を実行するために、コントローラ30の上記偏向・基板速度信号生成器41及び上記最適速度生成器47により実行される制御手順を表すフローチャートである。
図7において、この例では、記録データRDに基づき、各描画地点(記録区間)ごとの描画速度Vexp、電子ビーム(EB)偏向速度Vbeam、基板速度Vsubを、記録動作開始前に予め設定するものである。まずステップS5において、最適速度生成器47及び偏向・基板速度信号生成器41で、前述したように図示しない所定の操作手段(又はその他の外部機器)より、記録データRDを入力する。
その後、ステップS10に移り、最適速度生成器47で、これから速度設定しようとする当該領域が、後方散乱の影響を低減するため線幅を太くする太描画領域(前述の例では矢印aのトラックでは記録区間R8)ではない、通常描画領域であるかどうかを判定する。通常描画領域であればこの判定が満たされ、ステップS15に移る。
ステップS15においては、最適速度生成器47で、描画速度を通常のVexp1に設定し、ステップS20へ移る。
ステップS20では、偏向・基板速度信号生成器41で、上記入力した記録データRDに基づき、当該記録区間の記録データ(変調データ)RDのピットが相対的に密(ピットのデューティ比が所定のしきい値より大)であるかどうかを判定する。デューティ比が大きければステップS25に移り、偏向・基板速度信号生成器41で、基板速度Vsub及び偏向速度Vbeamを通常のVsub1及びVbeam1にそれぞれ設定する。デューティ比が小さければステップS30に移り、偏向・基板速度信号生成器41で、基板速度Vsub及び偏向速度Vbeamをそれぞれ△V(△V>0)だけ増加させたVsub1+△V、Vbeam1+△Vにそれぞれ設定する。
一方、前述のステップS10において、最適速度生成器47で、これから速度設定しようとする当該領域が、後方散乱の影響を低減するため線幅を太くする太描画領域(前述の例では矢印aのトラックでは記録区間R8)であった場合、ステップS10の判定が満たされず、ステップS40に移る。
ステップS40では、最適速度生成器47で、描画速度を、通常のVexp1より△Vexp(△Vexp>0)だけ減少させたVexp1−△Vexpに設定し、ステップS45へ移る。
ステップS45では、偏向・基板速度信号生成器41で、基板速度Vsubについては通常のVsub1に設定するとともに、偏向速度Vbeamについては△V(△V>0)だけ増加させたVbeam1+△Vに設定する。
上記のようにしてステップS25、ステップS30、ステップS45が終了したら、ステップS35に移り、偏向・基板速度信号生成器41又は最適速度生成器47で、上記ステップS5で入力した記録データRDのすべてのデータについて該当する記録区間の速度設定が終了したかどうかを判定する。全データについて終了するまではこのステップS35の判定が満たされず、ステップS10に戻って同様の手順を繰り返す。全データについて速度設定が終了したら、このステップS35の判定が満たされ、このフローを終了する。
なお、上記図7のフローでは、通常領域と、後方散乱の影響変化を抑えるため描画速度Vexpを小さくする領域と、デューティが小の領域との3種類の分類分けしか行っていないが、3種類に限定するものではない。すなわち例えば、符号を変えて後方散乱の影響変化を抑えるため描画速度Vexpを大きくする領域や、デューティが通常より大きい領域等へも拡張可能であり、さらにその程度により多段階、連続的に行うよう拡張することも可能である。
以上説明したように、本実施形態における記録装置10は、基板15を移動させつつその基板15上に形成されたレジスト層に記録信号に応じた露光ビームEBを照射することにより、レジスト層に潜像を形成する記録装置10であって、潜像の形成における周方向描画速度Vexpを可変に設定する最適速度生成器47と、基板15に対して相対的に露光ビームEBの照射位置を移動させるビーム偏向部33と、このビーム偏向部33による露光ビームEBの偏向量に基づき、基板15の周方向移動速度Vsubを調整するステージ駆動部37の回転駆動部37A及び送り駆動部37Bと、ビーム偏向部33による露光ビームEBの周方向偏向速度Vbeam、及び、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板の周方向移動速度Vsubを、周方向描画速度Vexpの変化に対応させて変化させる偏向・基板速度信号生成器41とを有することを特徴とする。
本実施形態の記録装置10においては、レジスト層が形成された基板15が移動されつつ、そのレジスト層に記録信号に応じた露光ビームEBが照射され、潜像が形成される。この基板15に対する露光ビームEBの照射位置はビーム偏向部33の偏向によって移動され、そのビーム偏向量に基づき基板15の周方向移動速度Vsubが回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによって調整される。そしてこのとき、偏向・基板速度信号生成器41が、ビーム偏向部33による露光ビームEBの周方向偏向速度Vbeam及び回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の周方向移動速度Vsubを、最適速度生成器47で可変に設定される潜像形成時の周方向描画速度Vexpに対応させて変化させる。
これにより、描画パターンの周方向分布が相対的に疎である部分(図5(a)の例では記録区間R2)は基板15の周方向の移動速度Vsub及び露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に速くし、描画パターンの周方向分布が相対的に密である部分(図5(a)の例では記録区間R1,R3)は基板15の周方向の移動速度Vsub及び露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に遅くすることで、露光ビームEBのレジスト層への照射遮断時間(言い換えればブランキング制御部31によるブランキング)をなくす(又は低減する)ことができる。
このとき、最適速度生成器47で設定する周方向の描画速度Vexpが略一定である場合(=通常描画領域、図5(a)の例では記録区間R1,R2,R3、図5(b)の例では記録区間R4,R5)では、基板移動速度Vsubと露光ビーム偏向速度Vbeamの増減の度合い(上述の例では△V)を略同一に対応させることで照射遮断時間の消失(又は低減)を図ることができる。また、描画パターンを通常描画領域よりも径方向に太い大きさで形成したい場合(=太描画領域、図5(b)の例では記録区間R6)においては、最適速度生成器47で周方向の描画速度Vexpを通常描画領域R4,R5よりも遅く設定し、上記描画速度Vexpが略一定の場合よりも基板15側の移動速度Vsubを相対的に遅くすることで、上記露光ビーム照射遮断時間の消失(又は低減)を図りつつ太い描画を実現することができる。
上記実施形態における記録装置10においては、偏向・基板速度信号生成器41は、露光ビームEBのレジスト層への照射遮断時間をなくす又は低減するように、ビーム偏向部33による露光ビームEBの周方向偏向速度Vbeamと、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板の周方向移動速度Vsubとのいずれか、若しくは両方を制御することを特徴とする。
照射遮断時間をなくす(又は低減する)ことにより、ビーム電流のロスが無く、スループットの高いビーム記録装置を確実に実現することができる。
上記実施形態における記録装置10においては、最適速度生成器47は、通常描画領域R1〜R3,R4,R5における周方向の描画速度Vexpを略一定に設定し、偏向・基板速度信号生成器41は、通常描画領域のうち、描画パターンの周方向分布が所定条件よりも(本実施形態では「相対的に」と表現している)疎である疎領域R2,R5においては、描画パターンの周方向分布が上記所定条件よりも(本実施形態では「相対的に」と表現している)密である密領域R1,R3,R4に比べて、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の周方向の移動速度Vsubを相対的に速くし、かつ、ビーム偏向部33による露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に速くするように変化させることを特徴とする。
描画速度Vexpを略一定という条件では、基板15の周方向移動速度Vsubや露光ビームEBの周方向偏向速度Vbeamを仮に略一定とした場合、描画パターンの周方向分布が相対的に疎である領域については、どうしても描画パターンのデータのスペース部で照射遮断(ブランキング)する必要が生じ、ビーム電流のロスが生じる。本実施形態の記録装置10においては、描画パターンの周方向分布が相対的に疎である領域R2,R5においては、密である領域R1,R3,R4よりも、基板15の周方向の移動速度Vsubを相対的に速くしかつ露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に速くすることで、描画速度Vexpを略一定に保持しつつ、ブランキング制御部31によるブランキングをなくす(又は低減する)ことができる。
上記実施形態における記録装置10においては、最適速度生成器47は、基板15上のレジスト層のうち、描画パターンを他の描画領域R4,R5(通常描画領域)に比べてより径方向に太く形成すべき太描画領域R6における周方向の描画速度Vexpを、他の描画領域R4,R5における周方向の描画速度Vexpより遅く設定することを特徴とする。
太描画領域R6においては、周方向描画速度Vexpを相対的に遅く設定することにより、単位面積当たりに照射されるエネルギが大きくなり、径方向により太い大きさの描画を行うことができる。
上記実施形態における記録装置10においては、最適速度生成器47は、基板15上のレジスト層のうち、描画パターンの径方向分布が上記所定条件よりも密である密領域(図6(a)(b)の例では記録区間R7,R9)における周方向の描画速度Vexpを相対的に速く設定し、基板15上のレジスト層のうち、描画パターンの径方向分布がその所定条件よりも疎である疎領域(図6(a)(b)の例では記録区間R8)における周方向の描画速度Vexpを相対的に遅く設定することを特徴とする。
パターン径方向分布が相対的に疎である領域R8について、最適速度生成器47が、太描画領域として周方向の描画速度Vexpを相対的に遅く設定することにより、当該領域の描画において単位面積当たりに照射されるエネルギが大きくなり、径方向により太い大きさの描画を行って他の部分R7,R9と(実効的な)径方向太さを揃えることができる。
なお、本実施形態による電子ビーム記録装置10の構成のうち、制御回路30、及び、ステージ駆動部37のうち基板速度変換器38の部分を、図8に示すように、電子ビーム記録装置に接続されて、当該電子ビーム記録装置における潜像形成のための制御信号を生成して入力する記録制御信号生成装置(いわゆるフォーマッタ)100として構成してもよい。
この場合の記録信号生成装置100は、レジスト層が上部に形成された基板15に対し、相対的に露光ビームEBの照射位置を移動させるビーム偏向部33と、このビーム偏向部33による露光ビームEBの偏向量に基づき、基板の周方向移動速度Vsubを調整する回転駆動部37A及び送り駆動部37Bと、この回転駆動部37A及び送り駆動部37Bで調整された周方向移動速度Vsubで基板15を移動させつつ、ビーム偏向部33で照射位置が移動される露光ビームEBをレジスト層に照射することにより、レジスト層に潜像を形成する記録装置に対し、潜像形成のための制御信号を生成する記録制御信号生成装置100であって、記録信号RDに応じて、ビーム偏向部33が、露光ビームEBのレジスト層への照射遮断時間をなくす又は低減するように露光ビームEBの周方向偏向速度Vbeamを制御するための基準となる、潜像の形成における周方向描画速度Vexpを可変に設定する最適速度生成器47と、記録信号RDに応じて、ビーム偏向部33による露光ビームEBの周方向偏向速度Vbeam、及び、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の周方向移動速度Vsubを、周方向描画速度Vexpの変化に対応させて変化させるような、ビーム偏向部33及び回転駆動部37A及び送り駆動部37Bへの制御信号を生成する偏向・基板速度設定器41とを有することを特徴とする。
記録制御信号生成装置100は、偏向・基板速度設定器41と最適速度生成器47とを備えており、偏向・基板速度設定器41が、ビーム偏向部33による露光ビームEBの偏向速度Vbeam及び回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の移動速度Vsubを、最適速度生成器47で可変に設定される潜像形成時の描画速度Vexpに対応させて変化させる。これにより、描画パターンの周方向分布が相対的に疎である部分R2は基板15の周方向の移動速度Vsub及び露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に速くし、描画パターンの周方向分布が相対的に密である部分R1,R3は基板15の周方向の移動速度Vsub及び露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に遅くすることで、露光ビームEBのレジスト層への照射遮断時間をなくす(又は低減する)ことができる。
このとき、最適速度生成器47で設定する周方向の描画速度Vexpが略一定である場合(=通常描画領域R1,R2,R3あるいはR4,R5)では、偏向・基板速度設定器41が上記基板移動速度Vsubと露光ビーム偏向速度Vbeamの増減の度合い△Vを略同一に対応させることで上記照射遮断時間の消失(又は低減)を図ることができる。また、描画パターンを通常描画領域よりも径方向に太い大きさで形成したい場合(=太描画領域R6)においては、記録制御信号生成装置100の最適速度生成器47で周方向の描画速度Vexpを通常描画領域R4,R5よりも遅く設定し、偏向・基板速度設定器41によって上記描画速度Vexpが略一定の場合よりも基板15側の移動速度Vsubを相対的に遅くすることで、上記露光ビーム照射遮断時間の消失(又は低減)を図りつつ太い描画を実現することができる。
上記記録制御信号生成装置100においては、最適速度生成器47は、通常描画領域R1〜R3,R4,R5における周方向の描画速度Vexpを略一定に設定し、偏向・基板速度設定器41は、通常描画領域のうち、描画パターンの周方向分布が上記所定条件よりも疎である疎領域R2,R5においては、描画パターンの周方向分布が上記所定条件よりも密である密領域R1,R3,R4に比べて、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の周方向の移動速度Vsubを相対的に速くし、かつ、ビーム偏向部33による露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に速くするように変化させることを特徴とする。
描画速度Vexpを略一定という条件では、基板15の周方向移動速度Vsubや露光ビームEBの周方向偏向速度Vbeamを仮に略一定とした場合、描画パターンの周方向分布が相対的に疎である領域については、どうしても描画パターンのデータのスペース部で照射遮断(ブランキング)する必要が生じ、ビーム電流のロスが生じる。記録制御信号生成装置100においては、偏向・基板速度設定器41が、描画パターンの周方向分布が相対的に疎である領域R2,R5においては、密である領域R1,R3,R4よりも、基板15の周方向の移動速度Vsubを相対的に速くしかつ露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に速くすることで、描画速度Vexpを略一定に保持しつつ、ブランキングをなくす(又は低減する)ことができる。
上記記録制御信号生成装置100においては、最適速度生成器47は、基板15上のレジスト層のうち、描画パターンを他の描画領域R4,R5(通常描画領域)に比べてより径方向に太く形成すべき太描画領域R6における周方向の描画速度Vexpを、他の描画領域R4,R5における周方向の描画速度Vexpより遅く設定することを特徴とする。
太描画領域R6においては、周方向描画速度Vexpを相対的に遅く設定することにより、単位面積当たりに照射されるエネルギが大きくなり、径方向により太い大きさの描画を行うことができる。
上記記録信号生成装置100においては、最適速度生成器47は、基板15上のレジスト層のうち、描画パターンの径方向分布が所定条件よりも密(本実施形態では「相対的に密」と表現している)である密領域R7,R9における周方向の描画速度Vexpを相対的に速く設定し、基板15上のレジスト層のうち、描画パターンの径方向分布がその所定条件よりも(本実施形態では「相対的に疎」と表現している)疎である疎領域R8における周方向の描画速度Vexpを相対的に遅く設定することを特徴とする。
パターン径方向分布が相対的に疎である領域R8について、最適速度生成器47が、太描画領域として周方向の描画速度Vexpを相対的に遅く設定することにより、当該領域の描画において単位面積当たりに照射されるエネルギが大きくなり、径方向により太い大きさの描画を行って他の部分R7,R9と(実効的な)径方向太さを揃えることができる。
なお、上記実施形態は、上記に限られず、種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を順を追って説明する。
(1)潜像の多重形成(重ね書き)を行う場合
基板15において、描画パターンの径方向分布が相対的に疎である領域については、それ以外の描画パターン分布が密である領域に比べて描画パターンの径方向分布数が少ないこととなる。例えば図9のトラックbに示すように、疎である領域のうち描画パターンが分布しないトラックがある場合、そのままでは当該箇所においてブランキング制御部31によりブランキングを行う必要が生じる可能性がある。特に、描画パターンのないスペースが長くなると、前述の図5(a)に示した基板15の移動速度Vsubを増加させる(→Vsub+△V)とともに電子ビームEBの径方向偏向速度Vbeamをこれに対応して増加させる(→Vbeam+△V)手法でも、電子ビームEBの偏向限界を超える(振り切れてしまう)ためカバーしきれず、ブランキングをせざるを得なくなり、ブランキングを行わない通常のトラックcとブランキングを行うトラックbとが交互に繰り返されることとなって、ビーム電流の無駄ができてしまう。重ね描きをすることを前提として、当該重ね書き部分である区間R10,R12の描画時において、描画速度Vexpをn倍(この例ではn=2→2×Vexp)とする。
図11は、上記図10で説明した動作を実行するために、コントローラ30の上記偏向・基板速度信号生成器41及び上記最適速度生成器47により実行される制御手順を表すフローチャートである。前述の図7と同等の手順には同一の符号を付している。
図11において、図7と同様、この例では、記録データRDに基づき、各描画地点(記録区間)ごとの描画速度Vexp、電子ビーム(EB)偏向速度Vbeam、基板速度Vsubを、記録動作開始前に予め設定するものである。なお、後述するフラグFN及びフラグFSは、このフローの開始前に予め初期値0にされている。
まずステップS5において、最適速度生成器47及び偏向・基板速度信号生成器41で、前述したように図示しない所定の操作手段(又はその他の外部機器)より、記録データRDを入力する。
その後、ステップS7において、最適速度生成器47で、これから速度設定をしようとする当該記録区間が描画データのないスペースであるかどうか(又はデューティが所定の値より小さいかどうかでもよい)を表すフラグFSが1であるかどうかを判定する。最初はフラグFS=0に初期化されているからこの判定が満たされず、ステップS9に移る。
ステップS9では、最適速度生成器47で、上記ステップS5で入力した記録データRDに基づき、当該記録区間の径方向に隣接する記録区間が描画データのないスペースであるかどうかを判定する。例えば図10に示すトラックc′の記録区間R10,R12のように径方向にスペースが隣接していればこの判定が満たされ、ステップS11で多重照射(多重潜像形成)を表すフラグFN=1にしてステップS15へ移る。ステップS9において径方向にスペースが隣接していなければ(トラックc′の記録区間R11,R13等)ステップS9の判定が満たされず、直接ステップS15へ移る。
ステップS15〜ステップS30は上記図7と同様であり、ステップS15において最適速度生成器47で描画速度を通常のVexp1に設定した後、ステップS20において、偏向・基板速度信号生成器41で、記録データ(変調データ)RDのピットのデューティ比が所定のしきい値より大であるかどうかを判定する。デューティ比が大きければステップS25において偏向・基板速度信号生成器41で、基板速度Vsub及び偏向速度Vbeamを通常のVsub1及びVbeam1に設定し、デューティ比が小さければステップS30においてVsub1+△V、Vbeam1+△Vにそれぞれ設定する。
ステップS25又はステップS30が終了したら、ステップS31に移り、偏向・基板速度信号生成器41又は最適速度生成器47で上記フラグFN=1であるかどうかを判定する。当該記録空間が径方向にスペースが隣接している(又は当該記録区間がスペースである、後述)場合には上記ステップS11(又は後述のステップS14)でFN=1となっていることから判定が満たされ、ステップS32へ移る。
ステップS32では、偏向・基板速度信号生成器41で、上記ステップS25又はステップS30で設定した電子ビームEBの偏向速度Vbeam又は基板15の移動速度Vsubを、前述した多重形成の回数であるn(図示しない手順で偏向・基板速度信号生成器41で記録データRDより算出)倍する。これによって、これら偏向速度Vbeamと基板15の移動速度Vsubとの差で決定される描画速度Vexpも結果的にn倍されることとなる。そしてフラグFN=0に戻した後、ステップS33へ移る。なお、ステップS31において上記ステップS9の判定が満たされておらずフラグFN=0のままである場合にはステップS31の判定が満たされず、そのままステップS33へ移る。
ステップS33では、偏向・基板速度信号生成器41又は最適速度生成器47で、上記ステップS5で入力した記録データRDに基づき、当該記録区間の周方向に隣接する次の記録区間が描画データのないスペースであるかどうかを判定する。例えば図10に示すトラックb′の記録区間R11,R13のように次がスペースであればこの判定が満たされ、ステップS34でスペースを表すフラグFS=1にしてステップS35へ移る。ステップS33において次がスペースでなければ(トラックc′やトラックb′の記録区間R10,R12等)ステップS33の判定が満たされず、直接ステップS35へ移る。
ステップS35では、偏向・基板速度信号生成器41又は最適速度生成器47で、上記ステップS5で入力した記録データRDのすべてのデータについて該当する記録区間の速度設定が終了したかどうかを判定する。全データについて速度設定が終了したら、このステップS35の判定が満たされ、このフローを終了する。全データについて終了するまではこのステップS35の判定が満たされず、ステップS7に戻って同様の手順を繰り返す。
このようにしてステップS7に戻ったとき上記ステップS34で(上記トラックb′の記録区間R11,R13のように)次の記録区間がスペースであってフラグFS=1にされていた場合、ステップS7の判定が満たされ、ステップS13に移る。
ステップS13では、偏向・基板速度信号生成器41で、上記ステップS5で入力した記録データRDに基づき、当該記録区間の径方向に隣接する記録区間に対し描画を行うように(=トラック飛び越しを行うように)設定する。この場合の例としては、図10に示すトラックb′の記録区間R10,R12のような場合、トラックb′ではなく径方向に隣接するトラックc′において描画を行うように(ビーム偏向の)設定を行う。その後、ステップS11と同様のステップS14で多重照射(多重潜像形成)を表すフラグFN=1にして上記ステップS15へ移る。ステップS15以降は前述と同様である。
本変形例における記録装置19においては、偏向・基板速度信号生成器41は、基板15のジスト層のうち、描画パターンの径方向分布が相対的に疎である領域(この例では記録区間R10,R12)の少なくとも一部については、その一部に対して同一の描画パターンを複数回(この例ではn回)に分けて潜像形成を行うようにビーム偏向部33を制御し、最適速度生成器47は、その同一の描画パターンを複数回に分けて潜在形成を行う一部(領域R10,R12)については、潜像形成を行う回数nに応じて、周方向描画速度Vexpを設定することを特徴とする。
疎である領域R10,R12のうち描画パターンが分布するトラックc′については多重潜像形成を行う部分として、描画パターンが分布しないトラックb′に露光ビームEBがさしかかったときには、その都度描画パターンが分布するトラックc′へと径方向に露光ビームEBを偏向させることでn回の潜像形成を行い、この部分が終了したらもとのトラックb′に戻って描画を続行するようにする。このようにブランキングを行うべき箇所にさしかかったら径方向に離れた他のトラックに移って潜像形成を行うようにすることで、ブランキング制御部31によるブランキングを行わないようにすることができ、これによりスループットを改善できる。また当該多重潜像形成を行う箇所R10,R12については、その多重形成を前提として周方向描画速度Vexpを相対的に速めに設定することができる。この結果、さらに効率のよい作業を行うことができる。
なおこの場合も、前述と同様、図8に示すような記録制御信号生成装置(フォーマッタ)100として構成することもできる。この場合の記録制御信号生成装置100は、偏向・偏向・基板速度信号生成器41は、基板15上のレジスト層のうち、描画パターンの径方向分布が相対的に疎である領域R10,R12の少なくとも一部については、その一部に対して同一の描画パターンを複数回に分けて潜像形成を行うようにビーム偏向部33を制御し、最適速度生成器47は、その同一の描画パターンを複数回に分けて潜在形成を行う一部(領域R10,R12)については、潜像形成を行う回数nに応じて、周方向への描画速度Vexpを設定することを特徴とする。
偏向・基板速度信号生成器41が、疎である領域R10,R12のうち描画パターンが分布するトラックc′については多重潜像形成を行う部分として、描画パターンが分布しないトラックb′に露光ビームEBがさしかかったときには、その都度描画パターンが分布するトラックc′へと径方向に露光ビームEBに偏向させることでn回の潜像形成を行い、この部分が終了したらもとのトラックb′に戻って描画を続行するようにする。このようにブランキングを行うべき箇所にさしかかったら径方向に離れた他のトラックに移って潜像形成を行うようにすることで、ブランキングを行わないようにすることができ、これによりスループットを改善できる。また当該多重潜像形成を行う箇所R10,R12については、その多重形成を前提として最適速度生成器47で周方向描画速度Vexpを相対的に速めに設定することができる。この結果、さらに効率のよい作業を行うことができる。
なお、図12(a)(b)(c)は上記をさらに応用して多重形成の回数n=4の領域とn=2の領域とが存在する場合を示している。図12(a)はこの変形例におけるトラックの描画パターンを模式的に表す上面図であり、図12(b)はその図中A部の抽出拡大図であり、図12(c)は図12(a)の挙動を側面から見た図である。
これら図12(a)〜(c)に示すように、この例ではn回の多重潜像形成を行う領域として、n=4の記録区間R20,R27と、n=2の記録区間R21,R22,R23とがある。記録区間R20,R27では、通常の1回の潜像形成で所望の線幅が得られる描画速度Vexp=Vexp3であり、この場合4回の多重形成を行うことからこれを4倍した描画速度、すなわちVexp=4×Vexp3に最適速度生成器47で設定する。記録区間R21,R22,R23では、通常の1回の潜像形成で所望の線幅が得られる描画速度Vexp=Vexp2であり、この場合2回の多重形成を行うことからこれを2倍した描画速度、すなわちVexp=2×Vexp2に最適速度生成器47で設定する。また、記録区間R24,R25,R26については、通常の1回の潜像形成を行う領域として、描画速度Vexp=Vexp1に最適速度生成器47で設定する。これら各区間ごとの描画速度Vexp1,Vexp2,Vexp3は、互いに等しく設定してもよいが、前述したように、例えばレジストの感度、層厚、環境温度等のリソグラフィにおける諸条件、あるいはピットの幅、トラックピッチ等の記録条件に対応し、適切なピットの記録が行われるように、互いに異なる値に最適速度生成器47で設定してもよい。
なお、先に述べたように、基板15には回転による所定大きさの慣性力が作用しているため、上記描画速度Vexpの変化に伴う基板15の周方向移動速度Vsubの増減を行うように制御がなされた場合もそれに対する追従に限界があり、必ずしもすばやく増減できない(=機械的応答遅れ)場合がある。この場合には、上記追従できない部分についてはビーム偏向部33で電子ビームEBを偏向させてカバーすることで、最適速度生成器47で設定した描画速度Vexpの増減切り替えを精度よく行い、ドーズずれの発生を防止するようにすればよい。
(2)径方向速度制御への拡張
以上は、最適速度生成器47で周方向への描画速度Vexpを設定した場合であったが、これを径方向への描画速度の制御へ拡張することも考えられる。
図13(a)(b)は、このような変形例の一例を表しており、図13(b)は、径方向に連続する記録区間R30〜R32を含む基板15のトラックを模式的に表す説明図であり、図13(a)は、当該区間R30〜R32の電子ビーム描画時の電子ビーム(EB)の偏向量等を模式的に示した説明図である。
図13(a)(b)に示すように、略円環状のトラックの径方向分布を一様とせず径方向に分布を持たせたい場合、トラックの径方向分布を疎とする場合(この例では記録区間R31)には基板15の径方向移動速度Usub及び径方向描画速度Uexpを相対的に速くし、トラックの径方向分布を密とする場合(この例では記録区間R30,R32)には基板15の径方向移動速度Usub及び径方向描画速度Uexpを相対的に遅くしなければならない。したがって、トラックの径方向分布が密である部分から疎である部分に移行する場合(この例では記録区間R31ab)、逆に密である部分へ戻る場合(この例では記録区間R32ab)には、それぞれ基板15の径方向移動速度Usubの増大及び減少が生じることとなる。
しかしながら、前述したように、基板15には回転による所定大きさの慣性力が作用しているため、上記疎密に応じて径方向移動速度Usubの増減を行うように制御がなされた場合もそれに対する追従に限界があり、必ずしもすばやく増減できない(=機械的応答遅れ)場合がある。このため、そのままでは、トラックが比較的小さい間隔をもって密な態様で均一に存在する部分と、トラックが比較的大きい間隔をもって疎な態様で均一に存在する部分と、それらの間においてトラックが不均一な間隔(次第に広がりながら又は次第に狭まりながら)で存在する部分とが生じることとなる。
そこで本変形例では、上記追従できない部分(記録区間R31a,R32a)についてはビーム偏向部33で電子ビームEBを偏向させて(偏向量X,偏向速度Ubeam)カバーすることで、最適速度生成器47で設定した径方向描画速度Uexpの増減切り替えを精度よく明確に行うことができる。
図14は、上記図13(a)(b)で説明した動作を実行するために、コントローラ30の上記偏向・基板速度信号生成器41及び上記最適速度生成器47により実行される制御手順を表すフローチャートである。
図14において、この例では、記録データRDに基づき、各描画地点(記録区間)ごとの描画速度Uexp、電子ビーム(EB)偏向速度Ubeam、基板速度Usubを、記録動作開始前に予め設定するものである。まずステップS105において、前述のステップS5と同様、最適速度生成器47及び偏向・基板速度信号生成器41で、前述したように図示しない所定の操作手段(又はその他の外部機器)より、記録データRDを入力する。
その後、ステップS110に移り、最適速度生成器47で、これから速度設定しようとする当該領域が、例えば略円環状トラックの径方向分布が相対的に疎である領域(前述の例では記録区間R31)ではない、通常描画領域(前述の例では記録区間R30,R32)であるかどうかを判定する。通常描画領域であればこの判定が満たされ、ステップS115に移る。
ステップS115においては、最適速度生成器47で、描画速度を通常のUexp1に設定し、ステップS125へ移る。
ステップS125では、偏向・基板速度信号生成器41で、基板速度Usub及び偏向速度Ubeamを通常のUsub1及びUbeam1にそれぞれ設定する。
一方、前述のステップS110において、最適速度生成器47で、これから速度設定しようとする当該領域が、例えば略円環状トラックの径方向分布が相対的に疎である領域(前述の例では記録区間R31)であった場合、ステップS110の判定が満たされず、ステップS140に移る。
ステップS140では、最適速度生成器47で、描画速度を通常のUexp1より△Uexp(△Uexp>0)だけ増加させたUexp1+△Uexpに設定し、ステップS145へ移る。
ステップS145では、偏向・基板速度信号生成器41で、偏向速度Ubeamについては通常のUbeam1に設定するとともに、基板速度Usubについては△U(△U>0)だけ増加させたUsub1+△Uに設定する。
その後、ステップS150に移り、偏向・基板速度信号生成器41で、これから速度設定しようとする当該領域が、上記トラックの径方向分布が相対的に疎である領域(前述の例では記録区間R31)から通常描画領域(前述の例では記録区間R30,R32)へ移行するときに上記追従限界に基づく機械的応答遅れが生じている追従遷移領域であるかどうかを判定する。追従遷移領域であればこの判定が満たされ、ステップS155に移る。
ステップS155においては、最適速度生成器47で、上記ステップS145で設定された偏向速度Ubeamに対し上記機械的応答遅れをカバーするための所定の補正を行う。
上記のようにしてステップS125、ステップS150、ステップS155が終了したら、ステップS135に移り、偏向・基板速度信号生成器41又は最適速度生成器47で、上記ステップS105で入力した記録データRDのすべてのデータについて該当する記録区間の速度設定が終了したかどうかを判定する。全データについて終了するまではこのステップS135の判定が満たされず、ステップS110に戻って同様の手順を繰り返す。全データについて速度設定が終了したら、このステップS135の判定が満たされ、このフローを終了する。
なお、上記図14のフローでは、通常領域と、略円環状トラックの径方向分布が相対的に疎であるため描画速度Uexpを大きくする領域との2種類の分類分けしか行っていないが、2種類に限定するものではない。すなわち例えば、符号を変えて略円環状トラックの径方向分布が相対的に密な領域へも拡張可能であり、さらにその程度により多段階、連続的に行うよう拡張することも可能である。
本変形例における記録装置10においては、基板15を移動させつつその基板15上に形成されたレジスト層に記録信号に応じた露光ビームEBを照射することにより、レジスト層に潜像を形成する記録装置10であって、潜像の形成における径方向描画速度Uexpを可変に設定する最適速度生成器47と、基板15に対して相対的に露光ビームEBの照射位置を移動させるビーム偏向部33と、このビーム偏向部33による露光ビームEBの偏向量に基づき、基板15の径方向移動速度を調整する回転駆動部37A及び送り駆動部37Bと、ビーム偏向部33による露光ビームEBの径方向偏向速度Ubeam、及び、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の径方向移動速度Usubを、径方向描画速度Uexpの変化に対応させて変化させる偏向・基板速度信号生成器41とを有することを特徴とする。
これにより、例えば略円環状トラックの径方向分布が相対的に疎である部分(上記の例では記録区間R31)は径方向の描画速度Uexpを相対的に速く設定するとともに基板15の径方向の移動速度Usubを相対的に速くし、略円環状トラックの径方向分布が相対的に密である部分(上記の例では記録区間R30,R32)は径方向の描画速度Uexpを相対的に遅く設定するとともに基板15の径方向の移動速度Usubを相対的に遅くすることで、露光ビームEBのレジスト層への照射遮断時間をなくす(又は低減する)ことが可能となる。
上記変形例における記録装置10においては、偏向・基板速度信号生成器41は、露光ビームEBのレジスト層への照射遮断時間をなくす又は低減するように、ビーム偏向部33による露光ビームEBの径方向偏向速度Ubeamと、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板の径方向移動速度Usubとのいずれか、若しくは両方を制御することを特徴とする。
照射遮断時間をなくす(又は低減する)ことにより、ビーム電流のロスが無く、スループットの高いビーム記録装置を確実に実現することができる。
上記変形例における記録装置10においては、最適速度生成器47は、基板15上のレジスト層のうち、潜像形成を行う略円環状トラックの径方向分布が上記所定条件よりも(本実施形態では「相対的に」と表現している)疎である疎領域R31においては、略円環状トラックの径方向分布が上記所定条件よりも密である密領域R30,R32に比べて、径方向の描画速度Uexpを相対的に速く設定し、偏向・基板速度信号生成器41は、略円環状トラックの径方向分布が上記所定条件よりも疎である疎領域R31においては、略円環状トラックの径方向分布が上記所定条件よりも密である密領域R30,R32に比べて、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の径方向の移動速度Usubを相対的に速くするように変化させることを特徴とする。
潜像形成を行う略円環状トラックの径方向分布を一様とせず、径方向に分布を持たせたい場合に、基板15の径方向移動速度Usub及び径方向描画速度Uexpを相対的に速くすることでトラックの径方向分布を疎とすることができ、基板15の径方向移動速度Usub及び径方向描画速度Uexpを相対的に遅くすることでトラックの径方向分布を密とすることができる。
上記変形例における記録装置10においては、偏向・基板速度信号生成器41は、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の径方向の移動速度Usubが変化するときに、当該移動速度Usubの変化に対する機械的応答遅れに対応して、ビーム偏向部33による露光ビームEBの径方向偏向速度Ubeamを変化させることを特徴とする。
追従できない部分(追従遷移領域)R31ab,R32abについてはビーム偏向部33によるビーム径方向偏向速度Ubeamを変化させ、追従不足な分をビームEBを追従方向に偏向させることでカバーすることにより、トラックの不均一間隔部分をなくし、トラック配置間隔を均一化(密で均一、疎で均一の2種類)することができる。
なおこの場合も、前述と同様、図8に示すような記録制御信号生成装置(フォーマッタ)100として構成することもできる。この場合の記録制御信号生成装置100は、レジスト層が上部に形成された基板15に対し、相対的に露光ビームEBの照射位置を移動させるビーム偏向部33と、このビーム偏向部33による露光ビームEBの偏向量に基づき、基板15の径方向移動速度Usubを調整する回転駆動部37A及び送り駆動部37Bと、この回転駆動部37A及び送り駆動部37Bで調整された径方向移動速度Usubで基板15を移動させつつ、ビーム偏向部33で照射位置が移動される露光ビームEBをレジスト層に照射することにより、レジスト層に潜像を形成する記録装置に対し、潜像形成のための制御信号を生成する記録制御信号生成装置100であって、記録信号RDに応じて、ビーム偏向部33が、露光ビームEBのレジスト層への照射遮断時間をなくす又は低減するように露光ビームEBの径方向偏向速度Ubeamを制御するための基準となる、潜像の形成における方向描画速度Uexpを可変に設定する最適速度生成器47と、記録信号RDに応じて、ビーム偏向部33による露光ビームEBの径方向偏向速度Ubeam、及び、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の径方向移動速度Usubを、径方向描画速度Uexpの変化に対応させて変化させるような、ビーム偏向部33及び回転駆動部37A及び送り駆動部37Bへの制御信号を生成する偏向・基板速度信号生成器41とを有することを特徴とする。
これにより、例えば略円環状トラックの径方向分布が相対的に疎である部分R31は、記録制御信号生成装置100の最適速度生成器47で径方向の描画速度Uexpを相対的に速く設定するとともに偏向・基板速度信号生成器41で基板15の径方向の移動速度Usubを相対的に速くし、略円環状トラックの径方向分布が相対的に密である部分R30,R32は記録制御信号生成装置100の最適速度生成器47で径方向の描画速度Uexpを相対的に遅く設定するとともに偏向・基板速度信号生成器41で基板15の径方向の移動速度Usubを相対的に遅くすることで、露光ビームEBのレジスト層への照射遮断時間をなくす(又は低減する)ことができる。
上記記録制御信号生成装置100においては、最適速度生成器47は、基板15上のレジスト層のうち、潜像形成を行う略円環状トラックの径方向分布が上記所定条件よりも疎である疎領域R31においては、略円環状トラックの径方向分布が上記所定条件よりも密である密領域R30,R32に比べて、径方向の描画速度Uexpを相対的に速く設定し、偏向・基板速度信号生成器41は、略円環状トラックの径方向分布が上記所定条件よりも疎である疎領域R31においては、略円環状トラックの径方向分布が上記所定条件よりも密である密領域R30,R32に比べて、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の径方向の移動速度Usubを相対的に速くするように変化させることを特徴とする。
潜像形成を行う略円環状トラックの径方向分布を一様とせず、径方向に分布を持たせたい場合には、偏向・基板速度信号生成器41及び最適速度生成器47でそれぞれ基板15の径方向移動速度Usub及び径方向描画速度Uexpを相対的に速くすることでトラックの径方向分布を疎とすることができ、逆に基板15の径方向移動速度Usub及び径方向描画速度Uexpを相対的に遅くすることでトラックの径方向分布を密とすることができる。
上記記録制御信号生成装置100においては、偏向・基板速度信号生成器41は、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の径方向の移動速度Usubが変化するときに、当該移動速度Usubの変化に対する機械的応答遅れに対応して、ビーム偏向部33による露光ビームEBの径方向偏向速度Ubeamを変化させることを特徴とする。
追従できない部分R31ab,R32abについては偏向・基板速度信号生成器41がビーム偏向部33によるビーム径方向偏向速度Ubeamを変化させ、追従不足な分をビームEBを追従方向に偏向させることでカバーする。これにより、トラックの不均一間隔部分をなくし、トラック配置間隔を均一化(密で均一、疎で均一等)することができる。
なお、上記は、前述した基板15の機械的応答遅れの時定数が比較的小さい(比較的短時間で追従完了する)場合を例にとって説明したが、これに限られず、時定数が比較的大きい場合についても適用可能である。
図15(a)(b)は、このような時定数が大きい場合の変形例を表しており、図15(b)は、径方向に連続する記録区間R33〜R35を含む基板15のトラックを模式的に表す説明図であり、図13(a)は、当該区間R33〜R35の電子ビーム描画時の電子ビーム(EB)の偏向量等を模式的に示した説明図である。
図15(a)(b)において、トラックの径方向分布が密である部分(この例では記録区間R33)から疎である部分(この例では記録区間R34)に移行する場合、逆に密である部分(この例では記録区間R35)へ戻る場合には、それぞれ基板15の径方向移動速度Usubの増大及び減少が生じる。
この場合、疎密に応じて径方向移動速度Usubの増減を行うように制御がなされた場合の追従の時定数が大きいため、基板15の移動速度Usubの変化に対する機械的応答遅れが大きく(この例では結局追従完了とともに逆方向への制御が始まるため、記録区間34のほぼ全部が追従遷移領域34a,34bとなる。記録区間R33,R35の領域R33b,R35aについても同様)、ビーム偏向部33による露光ビームEBの径方向偏向速度Ubeamを大きく変化させることが必要である。すなわち、追従できない部分(追従遷移領域)R33b,R34a,R34b,R35aにおいて、ビーム偏向部33によるビーム径方向偏向速度Ubeamを大きく変化させ、ビームEBを追従方向に偏向させることで、カバーすることができる。
なお、以上は、Xθステージ系を用いたビーム記録装置を例にとって説明したが、これに限らず、XYステージ系を備えたビーム記録装置についても適用が可能である。
また、以上は電子ビームを用いたビーム記録装置について説明したが、偏向装置を備えたレーザビーム記録装置、あるいは他の荷電粒子ビーム記録装置についても適用が可能である。
上記実施形態における記録装置10は、基板15を移動させつつその基板15上に形成されたレジスト層に記録信号に応じた露光ビームEBを照射することにより、レジスト層に潜像を形成する記録装置10であって、潜像の形成における周方向描画速度Vexpを可変に設定する最適速度生成器47と、基板15に対して相対的に露光ビームEBの照射位置を移動させるビーム偏向部33と、このビーム偏向部33による露光ビームEBの偏向量に基づき、基板15の周方向移動速度Vsubを調整する回転駆動部37A及び送り駆動部37Bと、ビーム偏向部33による露光ビームEBの周方向偏向速度Vbeam、及び、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板の周方向移動速度Vsubを、周方向描画速度Vexpの変化に対応させて変化させる偏向・基板速度信号生成器41とを有する。
これにより、描画パターンの周方向分布が相対的に疎である記録区間R2は基板15の周方向の移動速度Vsub及び露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に速くし、描画パターンの周方向分布が相対的に密である記録区間R1,R3は基板15の周方向の移動速度Vsub及び露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に遅くすることで、露光ビームEBに対するブランキング制御部31によるブランキング)をなくす(又は低減する)ことができる。
上記実施形態における記録信号生成装置100は、レジスト層が上部に形成された基板15に対し、相対的に露光ビームEBの照射位置を移動させるビーム偏向部33と、このビーム偏向部33による露光ビームEBの偏向量に基づき、基板の周方向移動速度Vsubを調整する回転駆動部37A及び送り駆動部37Bと、この回転駆動部37A及び送り駆動部37Bで調整された周方向移動速度Vsubで基板15を移動させつつ、ビーム偏向部33で照射位置が移動される露光ビームEBをレジスト層に照射することにより、レジスト層に潜像を形成する記録装置に対し、潜像形成のための制御信号を生成する記録制御信号生成装置100であって、記録信号RDに応じて、ビーム偏向部33が、露光ビームEBのレジスト層への照射遮断時間をなくす又は低減するように露光ビームEBの周方向偏向速度Vbeamを制御するための基準となる、潜像の形成における周方向描画速度Vexpを可変に設定する最適速度生成器47と、記録信号RDに応じて、ビーム偏向部33による露光ビームEBの周方向偏向速度Vbeam、及び、回転駆動部37A及び送り駆動部37Bによる基板15の周方向移動速度Vsubを、周方向描画速度Vexpの変化に対応させて変化させるような、ビーム偏向部33、回転駆動部及び送り駆動部37A,37Bへの制御信号を生成する偏向・基板速度信号生成器41とを有する。
記録制御信号生成装置100は、偏向・基板速度信号生成器41と最適速度生成器47とを備えており、偏向・基板速度信号生成器41が、ビーム偏向部33による露光ビームEBの偏向速度Vbeam及び回転駆動部・送り駆動部37A,37Bによる基板15の移動速度Vsubを、最適速度生成器47で可変に設定される潜像形成時の描画速度Vexpに対応させて変化させる。これにより、描画パターンの周方向分布が相対的に疎である部分R2は基板15の周方向の移動速度Vsub及び露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に速くし、描画パターンの周方向分布が相対的に密である部分R1,R3は基板15の周方向の移動速度Vsub及び露光ビームEBの周方向への偏向速度Vbeamを相対的に遅くすることで、露光ビームEBのレジスト層への照射遮断時間をなくす(又は低減する)ことができる。
以上のように、光ディスクの描画パターンを形成した原盤を作成する電子ビーム記録装置10、記録制御信号生成装置100について説明したが、上記実施形態は、記録される磁性体を空間的に分離したいわゆるディスクリートトラック媒体やパターン記録媒体を製造する際にも適用することができる。
すなわち、以下の説明では、上記電子ビーム記録装置10を用いた、ディスクリートトラック媒体の溝形状や、パターン記録媒体のドット形状を作成する際におけるパターン描画方法について説明する。
上記電子ビーム記録装置10は、レジストが塗布された基板(上記基板15に相当)に、その基板を水平方向に移動させる機構(上記Xステージ18などに相当)と基板を回転させる回転ステージ(上記ターンテーブル16に相当)とを有し、レジストに電子線の露光ビームを照射して描画するX−θ型の電子ビーム記録装置である。
この電子ビーム記録装置10を用いて、ステージを回転すると同時に半径方向に移動させながら、一定の間隔で描画を行ってドットパターンを形成する。その際に、回転中に電子ビームを偏向せずに、スパイラル状にドット列を設けることも可能であるが、特開2002−367241号公報に開示されているように、1回転毎にレジストに同心円を描くように電子線の偏向量を鋸歯状に次第に変化させて露光することによって、同心円状のドット列を描画することも可能となる。なお、データ用ドットパターン以外にも、アドレスの抽出やトラック位置制御用にサーボパターンを設けた領域を作製しても構わない。
通常、パターン磁気記録媒体は、ハードディスク又はパターン化されたハードディスクとしてのパターンドメディアと呼ばれている。図16に示すようにこのパターン磁気記録媒体80は、サーボパターン部81とパターン化されたデータトラック部82に分けることができる。なお、図示の例では、データトラック部82のドットパターンが外周部と内周部のみにしか表されていないが、デフォルメかつ省略されたものであって、実際にはディスクの有効半径全体に渡って存在する。また、サーボパターン部81も図示した以外にも存在する。
スイングアームヘッド83は、磁気記録媒体80の径方向に揺動可能に構成され、磁気記録媒体80の磁気記録領域に記録されたデータを読み出したり、あるいは書き込むものである。
データトラック部82は、同心円状に並んだドット列の記録媒体パターンが形成されている。サーボパターン部81には、アドレス情報やトラック検出情報を示す方形のパターン、クロックタイミングを抽出するトラックを横切る径方向に延びたライン状のパターン等が形成されている。ここでは、サーボパターン部81は、現行のハードディスク記録媒体と同様な形態としているが、パターンドメディア用に最適化された新たなフォーマットのサーボパターンを採用して、現行のハードディスク媒体とは異なるパターン形状、形態を採用してもよい。
これらサーボパターン部81及びデータトラック部82を電子ビーム記録装置10によってパターンを形成するためには、それぞれの領域において異なる描画パターン密度での描画が必要となる。ここで従来のブランキングを用いたパターン形成を行う場合は、サーボパターン部81とデータトラック部82とでは、周方向の単位長さ(時間)あたりにブランキングしている長さ(時間)はそれぞれ異なっている。例えばサーボパターン部81では、周方向に40%、データトラック部82では60%ブランキングしている場合、サーボパターン部81は周方向に相対的に密、データトラック部82は周方向に相対的に疎となる。従って、上述した(B)本実施形態の基本挙動における(B−1)描画速度一定の場合(図5(a)参照)における要領や、(B−2)描画速度可変の場合(図5(b)参照)における要領でパターン形成が可能となる。
さらに前述した変形例の適用を否定するものではない。さらに制御信号部内のトラックアドレスを示す領域、トラックサーボ信号を得る領域、記録再生クロックを抽出する領域などの細部領域に対して、それぞれ、その粗密に応じた記録制御を行うことを否定するものではない。
次にパターン記録媒体の作成に用いるインプリントの転写型(モールド)の製造方法について説明する。
1.インプリントの転写型(いわゆるモールド)の製造方法
この製造方法は、レジストマスクを用いて、一旦、インプリント用転写型(モールド)を製造し、このインプリント用転写型を用いて転写を行うことによってパターン記録媒体を製造する方法の前半を構成するものである。このインプリント方式を用いたパターン記録媒体の製造方法は、磁気記録媒体用のベース基板上に成膜した記録膜層(記録材料)を直接エッチングする方法に比べて、媒体ごとに描画、露光が必要なくなる分、量産効率が高くなり量産工程に用いることができる。
<インプリント用転写型の製造方法>
本応用例では、インプリント用転写型の製造方法の具体例について説明する。なお、本応用例では、電子ビーム記録装置10によりインプリント用転写型を製造し、このインプリント用転写型により磁気記録媒体の一例としてパターン磁気記録媒体を製造するための実施例である。
図17〜図22は、本応用例によるインプリント転写型を製造する工程の一例を示す断面図を表している。
まず最初に、適切なサイズのガラス若しくはシリコン(Si)ウェハなどを基板71として用意する。次に図17に示すように、この基板71上には、パイオニアターニングに必要なレジスト材料をスピンコートなどで成膜する。本応用例では、電子ビーム記録装置10により電子ビームの露光を行うため、電子ビームレジスト膜72を形成する。次に必要に応じて電子ビームレジスト膜72がプリベークなどされる。
次に上記実施形態における電子ビーム記録装置10が、図18に示すように電子ビームにより露光することで描画し、その電子ビームレジスト膜72に潜像72aを形成(潜像形成)する。次に必要に応じて、このような露光後にベーク(PEB:Post Exposure Bake)を行う。この電子ビームレジスト膜72を現像すると、この電子ビームレジスト膜72には、図19に示すような溝部72bが形成される。その後、必要に応じて、この電子ビームレジスト膜72はポストベークが行われる。
次に、この電子ビームレジスト膜72及び基板71の表面には、図示しないスパッタリング装置などによって、図20に示すように初期導電膜としてニッケルなどがスパッタリングされ、ニッケル合金薄膜73が形成される。
次に、このニッケル合金薄膜73の表面には、図21に示すようにこのニッケル合金薄膜73を電極として用いて電鋳(電気メッキ)を施すことにより、ニッケル層74(転写型基材)を形成する。そしてニッケル層74を基板71から除去することで、図22に示すようにニッケルなどのマスタースタンパ74A(インプリント転写型:モールド)が得られる。このとき必要に応じてマスタースタンパ74Aの表面が洗浄などされる。
上記実施形態の応用例における転写型74A(マスタースタンパ)の製造方法は、基板15(17)を移動させつつその基板15上のレジスト層に電子ビームEBの描画によって形成すべき潜像の形成における描画速度Vexp,Uexpを可変に設定する描画速度設定ステップと、上記基板15に対して相対的に上記露光ビームEBの照射位置を移動させるビーム偏向ステップと、上記基板15の移動速度Vsub,Usubを調整する基板速度調整ステップと、上記露光ビームEBの偏向速度Vbeam,Ubeam、及び、上記基板15の移動速度Vsub,Usubを、上記描画速度Vexp,Uexpの変化に対応させて変化させる制御ステップと、上記レジスト層72に潜像72aを形成する潜像形成ステップと、前記潜像を転写し、凹凸形状を有する転写型74Aを形成する転写型形成ステップとを有する。
また、上記実施形態の応用例における転写型74A(マスタースタンパ)は、基板15を移動させつつその基板15上のレジスト層72に電子ビームEBの描画によって形成すべき潜像72aの形成における描画速度Vexp,Uexpを可変に設定する描画速度設定ステップと、上記露光ビームEBの照射位置を移動させるビーム偏向ステップと、上記基板15の移動速度を調整する基板速度調整ステップと、上記露光ビームEBの偏向速度Vbeam,Ubeam、及び、上記基板15の移動速度Vsub,Usubを、上記描画速度Vexp,Uexpの変化に対応させて変化させる制御ステップと、上記レジスト層72に潜像72aを形成する潜像形成ステップと、上記潜像72aを転写し、凹凸形状72bを有する転写型74Aを形成する転写型形成ステップとを有する転写型の製造方法により製造されている。
<インプリント用転写型の別の製造方法>
図23〜図27は、本応用例の別の形態によるインプリント転写型を製造する工程の一例を示す断面図を表している。なお、これら図23〜図27は、それぞれ上述した図20〜図22の代わりの製造工程を表している。
図19に示すように電子ビームレジスト膜72に溝部72bが形成されると、図23に示すように基板71(基板材料)は、図19に示すように電子ビームレジスト膜72により構成されるレジストパターンをマスクとして、エッチングされる。次に残った電子ビームレジスト膜72は、酸素プラズマアッシングなどにより除去され、図24に示すように基板71が露出する。
次にこの露出した基板71の表面には、図示しないスパッタリング装置などによって、図25に示すように初期導電膜としてニッケルなどがスパッタリングされ、ニッケル合金薄膜73が形成される。次に、このニッケル合金薄膜73の表面には、図26に示すようにこのニッケル合金薄膜73を電極として用いて電鋳(電気メッキ)を施すことにより、ニッケル層74を形成する。そしてニッケル層74を基板71から除去することで、図27に示すようにニッケルなどのマスタースタンパ74A(インプリント転写型:モールド)が得られる。このとき必要に応じてマスタースタンパ74Aの表面が洗浄などされる。
ところで、本実施形態におけるインプリント転写型及びインプリント転写物は、例えば密度が500Gbpsi(Gbit/inch2)以上、特に1〜10Tbpsi程度の非常に高い面記録密度に相当する超微細パターンにおいて効果的である。具体的には、約25nmのピット間隔のパターンの転写型を用いることで、その転写物から記録密度がおよそ1Tbpsiの高密度パターン記録媒体を作製することが可能となる。
これを実現するためには、上記応用例の転写型の製造方法における、凹凸部が形成されたマスクの製造方法には、高精細パターンが形成可能な電子ビーム記録装置10などを用いることが望ましい。
<パターン磁気記録媒体の作成>
次にインプリント装置を用いてパターン磁気記録媒体を製造する実施例について説明する。
図28〜図31は、それぞれパターン磁気記録媒体の製造方法の一例を示す断面図である。
パターン磁気記録媒体を作製する工程は、大別して転写物形成工程、インプリント工程、エッチング工程、非磁性材料充填工程、保護膜(潤滑膜)形成工程からなり、これらの工程が順次行われる。
まず、この転写物形成工程では、特殊加工化学強化ガラス、Siウエハ、アルミニウム板、他の材料からなる磁気記録媒体用のベース基板(後述する基板116に相当)を準備する。
次に図28に示すように基板116上には、スパッタリング等で記録膜層101を成膜する。なお、垂直磁気記録媒体を製造しようとする場合には、この記録膜層101が軟磁性下地層、中間層及び強磁性記録層等の積層構造体になる。
さらにこの記録膜層101上には、図28に示すようにスパッタリング等でTaやTi等のメタルマスク層102を形成し、転写基板3を作製する。さらに、このメタルマスク層102上には、スピンコート法等で、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)といった熱可塑性樹脂のレジストを転写材料202として成膜する。
次にインプリント工程では、図29に示すように上記転写型74Aを、凹凸面が転写材料202に向き合うように図示しないインプリント装置にセットする。すなわち、転写型74Aは、図示しないモールド保持機構により支持されてセットされる。
図示しないインプリント装置においては、必要に応じて作業用チャンバー(図示せず)内を減圧する。その後、このインプリント装置においては、必要に応じて転写材料202が流動性を持つまで加熱した後、押圧する。ここで、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)のガラス転移点が100℃前後であるので、このインプリント装置は、ガラス転移温度以上の120〜200℃(例えば160℃程度)まで加熱して流動性を持たせた後、1〜10000kPa(例えば1000kPa程度)の押圧力で、転写型74Aを転写基板3に押圧する。その際、転写材料202から塗布時の溶媒の残りや樹脂に含まれていた水分等の脱ガスが発生するため、この作業用チャンバーの内部は、達成真空度が数百Pa以下(例えば10Pa程度)の真空状態にすることが望ましい。
次に、この作業用チャンバーの内部の雰囲気を元に戻し、転写型74Aを剥がすことにより、図30に示すように転写型74Aの凹凸パターンが転写材料202に転写された転写物217が製造される。以上のようにしてインプリント工程が終了する。
次にエッチング工程では、図31に示すようにエッチングマスクとして不要な転写材料202をO2ガス等を用いたソフトアッシング等で取り除く。続いて図32に示すようにメタルマスク層102が、転写材料202をエッチングマスクとしてCHF3ガス等を用いてエッチング加工される。
次に図33に示すように、残存する転写材料202がウエットプロセス又はO2ガスを用いたドライアッシングによって除去される。そして、図34に示すように記録膜層101が、メタルマスク層102をエッチングマスクとしてArガス等を用いてドライエッチングでエッチング加工される。次に残存するメタルマスク層102が、図35に示すようにウエットプロセス又はドライエッチングによって除去される。
次に非磁性材料充填工程では、図36に示すように記録されない材料(磁気記録媒体の場合はSiO2等の非磁性材料104)が、スパッタリングや塗布工程等でパターンの溝部分に充填される。
次に図37に示すように、非磁性材料104の表面がエッチバックやケミカルポリッシュ等で研磨されて平坦化される。これによって記録材料が非記録性材料104によって分離された構造とすることができる。
次に保護膜(潤滑膜)形成工程では、図38に示すように、例えば記録膜層101の保護膜105や潤滑膜106を塗布方式やディッピング方式によって表面に形成することで、パターン記録媒体が完成する。さらにこのパターン記録媒体が、ハードディスクドライブ筐体に組み込んで、このハードディスクドライブ筐体にこのパターン記録媒体を内蔵するパターンドメディアを構成することができる。以上の工程を経てパターン磁気記録媒体を作製することができる。
上記実施形態の応用例における磁気ディスク(パターン磁気記録媒体)は、基板15を移動させつつその基板15上のレジスト層に電子ビームEBの描画によって形成すべき潜像の形成における描画速度Vexp,Uexpを可変に設定する描画速度設定ステップと、上記露光ビームEBの照射位置を移動させるビーム偏向ステップと、上記基板15の移動速度Vsub,Usubを調整する基板速度調整ステップと、上記露光ビームEBの偏向速度Vbeam,Ubeam、及び、上記基板15の移動速度Vsub,Usubを、上記描画速度Vexp,Uexpの変化に対応させて変化させる制御ステップと、上記レジスト層72に潜像72aを形成する潜像形成ステップと、上記潜像72aを転写し、凹凸形状72bを有する転写型74Aを形成する転写型形成ステップと、前記転写材料202に前記転写型74Aを押し当てて、磁気記録媒体用のベース基板116上に前記凹凸形状を転写する転写ステップと、前記転写型74Aを剥がして前記凹凸形状を有する転写物を形成する転写物形成ステップとを有することを特徴とする磁気ディスクの製造方法により製造されたものである。
2.直接描画によるパターン磁気媒体の製造方法
このパターン磁気記録媒体は、前述のパターン作製方法によって描画、露光された潜像を作り、現像することによって形成されたレジストマスクを用いて直接記録材料をエッチングすることによって作成することもできる。
図39〜図41は、それぞれパターン磁気記録媒体の製造方法の一例を示す断面図である。なおこれら図39〜図41は、上述した転写物形成工程の一部(上述した図28〜図30などに相当)を構成するものである。
まず転写物形成工程では、上述の転写物形成工程と同様に、図39に示すように、特殊加工化学強化ガラス、Siウエハ、アルミニウム板、他の材料からなる磁気記録媒体用のベースとなる基板116に、スパッタリング等で記録膜層101を成膜する。
さらにこの記録膜層101上には、スパッタリング等でTaやTi等のメタルマスク層102が形成され、転写基板3が形成される。さらに、このメタルマスク層102上には、電子ビームレジスト膜72が、スピンコート法等で、パターニングに必要なレジスト材料として成膜される。この電子ビームレジスト膜72は、必要に応じてプリベークなどが行われる。
次に電子ビーム記録装置10が、この電子ビームレジスト膜72に対して描画を行う。ここで、この電子ビーム記録装置10がこの電子ビームレジスト膜72に描画するのは、図16に示すデータトラック部82において磁性体を形成すべきパターンに対応した所定のパターンである。図40に示すように所定のパターンが形成された電子ビームレジスト膜72は、必要に応じて露光後にベーク(Post Exposure Bake:PEB)を行う。
次に図41に示すように電子ビームレジスト膜72が、現像によりパターン形成が行われる。なお、このようなパターンが形成された電子ビームレジスト膜72は、必要に応じてポストベークが行われる。これ以降の工程は、図31及び図32に示す転写材料202を電子ビームレジスト膜72に置き換えて、図31〜図38に示すエッチング工程、非磁性材料充填工程及び保護膜(潤滑膜)形成工程と同様である。