JP2010166904A - 酵素処理液、軟質化方法および軟質化動物性食材 - Google Patents

酵素処理液、軟質化方法および軟質化動物性食材 Download PDF

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Abstract

【課題】動物性素材を、その形状、食感および風味を維持しつつ、確実に軟質化することができる軟質化方法に用いられる酵素処理液、かかる酵素処理液を用いて動物性素材を軟質化する軟質化方法、および、かかる酵素処理液を用いた軟質化方法により形状、食感および風味を維持した状態で軟質化された軟質化動物性食材を提供すること。
【解決手段】本発明の酵素処理液は、食肉または魚介類からなる動物性素材を酵素処理することにより軟質化する軟質化方法に用いられるものであり、たん白質分解酵素と、澱粉と、カードランとを含有することを特徴とする。また、前記澱粉は、糊化開始温度が70℃以下のものであるのが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、酵素処理液、軟質化方法および軟質化動物性食材に関するものである。
例えば、高齢者や、何らかの疾患のため、硬い食物を噛めない・飲み込めない患者(嚥下・咀嚼困難者)が多数存在する。これらの人々は、通常、複数の食品を混合した混合物を、磨り潰してペースト状や、液状にしたものを摂取している。
しかしながら、かかる場合、如何なる食品(食材)を食べているのかがはっきりせず、食欲も十分に出ず、その結果、体力を落とす等の弊害が生じやすい。したがって、食欲を増大させる観点からは、食材の柔らかさのみならず、その食材が元来有する食材自体の形状を維持していることも重要である。
これらの双方を満足する動物性素材の軟質化方法として、例えば、特許文献1では、プロテアーゼやパパインのようなたん白質分解酵素を用いて、動物性素材の形状を保持した状態で、動物性素材を軟らかくする軟質化方法が開示されている。
しかしながら、この特許文献1に記載の軟質化方法では、動物性素材が元来有する食材自体の形状がある程度維持されているものの、食感や風味に劣り、美味しく食することができるものとは言い難かった。
特開2008−125437号公報
本発明の目的は、動物性素材を、その形状、食感および風味を維持しつつ、確実に軟質化することができる軟質化方法に用いられる酵素処理液、かかる酵素処理液を用いて動物性素材を軟質化する軟質化方法、および、かかる酵素処理液を用いた軟質化方法により形状、食感および風味を維持した状態で軟質化された軟質化動物性食材を提供することにある。
このような目的は、下記(1)〜(9)の本発明により達成される。
(1) 食肉または魚介類からなる動物性素材を酵素処理することにより軟質化する軟質化方法に用いられる酵素処理液であって、
たん白質分解酵素と、澱粉と、カードランとを含有することを特徴とする酵素処理液。
(2) 前記澱粉は、糊化開始温度が70℃以下のものである上記(1)に記載の酵素処理液。
(3) さらに、キサンタンガムを含有する上記(1)または(2)に記載の酵素処理液。
(4) 上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の酵素処理液で前記動物性素材を酵素処理することにより軟質化することを特徴とする軟質化方法。
(5) 前記酵素処理は、前記動物性素材に前記酵素処理液を供給した後、前記たん白質分解酵素を前記動物性素材の構成成分と反応させる上記(4)に記載の軟質化方法。
(6) 前記動物性素材に対する前記酵素処理液の供給は、注入法により行われる上記(5)に記載の軟質化方法。
(7) 前記酵素処理の後、前記動物性素材を加熱することにより、前記酵素を失活させる酵素失活処理を行う上記(4)ないし(6)のいずれかに記載の軟質化方法。
(8) 動物性素材を、上記(4)ないし(7)のいずれかに記載の軟質化方法により軟質化してなることを特徴とする軟質化動物性食材。
(9) 前記軟質化動物性食材は、「高齢者用食品の表示許可の取り扱いについて(衛新第15号、厚生省生活衛生局食品保健課新開発食品保健対策室長通知、平成6年2月23日)」に記載の「高齢者用食品の試験方法」に準拠して測定した圧縮応力が1×10N/m以下である上記(8)に記載の軟質化動物性食材。
本発明によれば、動物性素材を、その形状、食感および風味を維持した状態で、確実に軟質化することができ、滑らかな食感を有する軟質化動物性食材が得られる。
特に、酵素処理液中に含まれる澱粉として、糊化開始温度が70℃以下のものを選択することにより、より食感および風味を維持した状態で、滑らかな食感を有する軟質化動物性食材を得ることができる。
よって、このような軟質化動物性食材は、高齢者や嚥下・咀嚼困難者が食するのに適する。
以下、本発明の酵素処理液、軟質化方法および軟質化動物性食材を好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の軟質化方法は、食肉または魚介類からなる動物性素材を軟質化する軟質化方法であり、たん白質分解酵素と、澱粉と、カードランとを含有する本発明の酵素処理液を用いて動物性素材を酵素処理することを特徴とする。
ここで、本発明が適用される、動物性素材としては、食肉または魚介類からなる。これらのうち、食肉としては、特に限定されず、例えば、牛、豚、馬、羊、鶏、アヒル、七面鳥のような畜肉、猪、鹿、熊のような獣肉、クジラ、海豚のような海産動物、カモ、ダチョウ、カンガルーおよびワニ等の精肉ならびにこれらの加工品が挙げられる。また、魚介類としては、特に限定されず、例えば、マグロ、カジキ、シャケ、アジ、サバ、赤魚のような魚類、赤貝、アワビ、ホタテのような貝類、タコ、イカのような頭足類、および、エビ、カニ、オキアミのような甲殻類等の生肉ならびにこれらの加工品が挙げられる。
本発明の酵素処理液を用いた軟質化方法(本発明の軟質化方法)をこれらの動物性素材の軟化に適用すれば、後に詳述するように、動物性素材を、その形状および風味を維持しつつ、確実に軟質化することができ、高齢者および嚥下・咀嚼困難者でも飲み込み易く、美味しく食することができる軟質化動物性食材を製造することができる。
本実施形態の動物性素材の軟質化方法は、[1]酵素処理液で動物性素材を酵素処理する酵素処理工程と、[2]たん白質分解酵素を失活させる酵素失活処理工程と、[3]動物性素材を凍結させる凍結処理工程を有する。
かかる工程を経ることにより、動物性素材の構成成分であるたん白質やペプチドの分子鎖を、動物性素材の食感および風味を維持しつつ、その全体にわたって均等に切断することにより低分子化し、結果として、食物素材の形状を維持した状態で、軟質化を行うことができる。
以下、各工程について詳述する。
[1]酵素処理工程
まず、軟質化すべき動物性素材を用意する。
ここで用意する動物性素材としては、食肉を軟質化する場合、精肉であってもよいし、ハム・ソーセージのような加工品であってもよい。また、魚類や頭足類を軟質化する場合、皮や内臓等を除いた切り身であってもよいし、特に前処理を施すことなくそのまま酵素処理に供するようにしてもよい。さらに、貝類や甲殻類を軟質化する場合、殻を取り除いてもよいし、取り除かなくてもよい。
次に、用意した動物性素材を、たん白質分解酵素と、澱粉と、カードランとを含有する酵素処理液(本発明の酵素処理液)で酵素処理する。
ここで、動物性素材の硬さは、骨格筋に含まれる筋肉結合組織や筋原繊維等の含有量およびその質により決定付けられている。そのため、筋肉結合組織の主成分であるコラーゲンおよびエラスチン等のたん白質、さらには、筋原繊維の主成分であるアクチンおよびミオシン等のたん白質を、酵素処理液中に含まれるたん白質分解酵素の作用により、分解(切断)して低分子化することにより、動物性素材の軟質化を図ることができる。
ところで、このようなたん白質分解酵素によるたん白質の低分子化の際に、本発明の軟質化方法に用いる酵素処理液(本発明の酵素処理液)中に、澱粉とカードランとが含まれていないと、動物性素材の軟質化は行われるものの、たん白質の低分子化に伴い、形状保持性や保水性が低下することに起因して、ジューシー感や風味が抜け、さらには筋原繊維がレバー状となったり、あるいは離水による水分過剰流出などが起因してパサツキ感が生じたりして、食肉類を味わっているという肉質感にも劣るという問題がある。
すなわち、澱粉およびカードランを含有しない、従来の酵素処理液で酵素処理された動物性食材は、軟質化されているため、高齢者や嚥下・咀嚼困難者であっても食することができるが、ジューシー感、肉質感のような食感、さらには風味等に劣り、美味しく食することができるものとは言い難かった。
本発明者は、かかる問題点に鑑み鋭意検討を重ね、酵素処理液中においてたん白質分解酵素と共存させる共存物の種類について検討を行った結果、酵素処理液を、たん白質分解酵素の他に、さらに澱粉とカードランとを含有する構成とすることにより、前記問題点を解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
そして、本発明者のさらなる検討の結果、酵素処理液中に含有させる澱粉として、糊化開始温度が70℃以下のものを用いることにより、かかる澱粉を含有する酵素処理液により酵素処理された軟質化動物性食材を、より食感および風味に優れるものとし得ることが判った。
たん白質分解酵素は、動物性素材に含まれるたん白質を低分子化することにより、動物性素材を軟質化するために酵素処理液中に添加される。
このようなたん白質分解酵素は、特に限定されず、例えば、パパイン、ブロメライン、フィシン、アクチニジンのような植物由来のもの、Bacillus属由来のプロテアーゼ(サチライシン、サーモライシン)、Aspergillus属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼP)のような微生物由来のもの、トリプシン、カテプシン、ロイシンアミノペプチターゼのような動物由来のもの等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらが混合配合された酵素製剤も使用できる。
酵素処理液中のたん白質分解酵素を含む酵素製剤の添加量は、酵素製剤中に含まれるたん白質分解酵素の種類や含量によっても若干異なり、特に限定されないが、好ましくは0.1〜15wt%程度に設定され、より好ましくは0.5〜5wt%程度に設定される。このようにたん白質分解酵素が比較的高濃度に含まれる酵素処理液を用いれば、動物性素材に供給する酵素処理液の量を比較的少量に設定することができ、酵素処理液中に含まれる水分が動物性素材に大量に含浸することに起因する離水の発生を的確に抑制または防止することができる。
澱粉は、たん白質分解酵素が動物性素材に含まれるたん白質を低分子化分解後、加熱失活する際に、動物性素材の形状保持性や保水性が低下するのを抑制または防止して、食感および風味等が変質・劣化してしまうのを抑制または防止するために、カードランとともに酵素処理液中に添加される。
このような澱粉は、特に限定されず、例えば、甘薯澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、うるち米澱粉、もち米澱粉、コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ(糊化開始温度 75℃)、小麦澱粉および豆澱粉等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの中でも、本発明者の検討の結果、糊化開始温度が好ましくは70℃以下、より好ましくは30〜40℃程度の澱粉を酵素処理液中に添加するのが良いことが判っている。かかる澱粉を酵素処理液中に添加することにより、得られる軟質化動物性食品の食感および風味等が変質・劣化してしまうのをより的確に抑制または防止することができる。なお、糊化温度が70℃を超える澱粉、例えば、ハイアミロースコーンスターチ(糊化開始温度 75℃)では、後述する酵素処理や90℃以下での酵素失活処理、あるいは冷凍工程において動物性素材の形状保持や保水効果が低く、90℃以上の高温処理にて、その形状保持や保水性に対して効果的に発揮する。しかし、動物性食材の種類によっては、その温度帯での処理は動物性素材が収縮を起し、形状保持や保水性の減弱や、酵素処理後の軟らかさが著しく損なわれてしまうおそれがある。以上のことから、糊化開始温度が70℃以下の澱粉を用いることが好ましい。
この糊化開始温度が70℃以下の澱粉としては、具体的には、サツマイモ「関東116」の塊根から採取された低温糊化甘薯澱粉(廣八堂社製、「冨貴葛」;糊化開始温度37℃)、タピオカ澱粉(糊化開始温度55℃)、馬鈴薯澱粉(糊化開始温度58℃)、もち米澱粉(糊化開始温度65℃)、うるち米澱粉(糊化開始温度66℃)、コーンスターチ(糊化開始温度66℃)等が挙げられる。
なお、本明細書中では、水中に10wt%の澱粉を分散させた水分散液を加熱したときに、この水分散液の粘度の上昇が認められたときの温度を、「糊化開始温度」と言うこととする。
また、酵素処理液中の澱粉の含有量は、特に限定されないが、0.2〜5.0wt%程度であるのが好ましく、0.5〜3.0wt%程度であるのがより好ましい。かかる範囲内の澱粉を含有することにより、得られる軟質化動物性食材の食感および風味等が変質・劣化してしまうのを的確に抑制または防止することができる。
カードランも同様に、たん白質分解酵素が動物性素材に含まれるたん白質を低分子化分解後、加熱失活する際に、動物性素材の形状保持性や保水性が低下するのを抑制または防止して、食感および風味等が変質・劣化してしまうのを抑制または防止するために、澱粉とともに酵素処理液中に添加される。
また、カードランは、動物性素材の中では粒子が膨潤および膨張し、組織中に留まって酵素処理液の組織内移動を抑制する。そのため、酵素処理液を、カードランを含有する構成とすることにより、たん白質分解酵素および澱粉を酵素処理液中により均一に分散させることができる。これにより、かかる酵素処理液を用いて軟質化された軟質化動物性食品をより均一に軟質化されたものとすることができるという利点も得られる。
また、カードランは、酵素失活などの加熱処理工程において、動物性素材中の組織内に存在する水分を給水しながら膨潤し、形状保持と保水性の効果をさらに高める。しかし、カードラン単独の使用では、動物性素材の軟らかさや滑らかさ、風味を保つために必要な組織内の水分量までカードランが吸水して膨張する。そのため、動物性素材の組織独特の潤いが消失し、パサツキが出て、食感や風味、軟らかさ、飲み込み易さが損なわれる。この問題点を解決するために、カードランと各種増粘剤の組み合わせによる改善効果を調べた結果、あらゆる増粘剤のうち澱粉が最も効果的であることを見出した。すなわち、澱粉は酵素失活などの加熱処理工程によって糊化し、保水や風味保持効果をさらに高めるが、澱粉単独では、形状保持効果が弱く、酵素軟化で発生する動物性素材のレバー状食感が改善できなかったり、組織の滑らかさや肉質感が得られず、風味や飲み込み易さが損なわれる。以上から、カードランと澱粉の組合せにより、相互の欠点を相補的に補い、優れた相乗効果が得られる。
酵素処理液中のカードランの含有量は、特に限定されないが、0.2〜5.0wt%程度であるのが好ましく、0.5〜3.0wt%程度であるのがより好ましい。かかる範囲内の澱粉を含有することにより、得られる軟質化動物性食材の食感および風味等が変質・劣化してしまうのを的確に抑制または防止することができる。
さらに、酵素処理液中には、澱粉およびカードラン以外の多糖類として、キサンタンガムが含まれているのが好ましい。キサンタンガムをさらに含有する酵素処理液を用いることにより、食感および風味等が変質・劣化してしまうのをより的確に抑制または防止することができる。
また、キサンタンガムは、比較的粘度の高いものであるため、酵素処理液にキサンタンガムを含有する構成とすることにより、酵素処理液中において、たん白質分解酵素および澱粉をより均一に分散させることができる。その結果、前述したたん白質分解酵素および澱粉を酵素処理液中に均一に分散させることにより得られる効果をより顕著に発揮させることができる。
酵素処理液中のキサンタンガムの含有量は、特に限定されないが、0.01〜2.0wt%程度であるのが好ましく、0.03〜1.0wt%程度であるのがより好ましい。
さらに、酵素処理液中には、これらの他に、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸のようなpH調整剤、フェルラ酸のような抗酸化剤、アルギニン、グルタミンのようなアミノ酸や、ビタミン類およびミネラル類が含まれていても良い。
以上のような酵素処理液を調製するのに用いる液体としては、例えば、水、および、エタノール等のアルコール類が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、本工程において、動物性素材内に酵素処理液を供給する方法は、特に限定されず、例えば、動物性素材中に酵素処理液を注入する方法(注入法)、動物性素材に酵素処理液を噴霧する方法(噴霧法)、動物性素材に酵素処理液を塗布する方法(塗布法)、動物性素材を酵素処理液中に浸漬する方法(浸漬法)等が挙げられる。
これらの中でも、注入法を用いるのが好ましい。注入法によれば、簡単な操作で、目的とする量の酵素処理液を動物性素材中に供給(注入)することができることから好ましい。また、注入法を用いれば、比較的厚い厚みを有する動物性素材を軟質化する場合であっても、その厚さ方向に沿って、酵素処理液を均一に注入でき、その内部をも均一に軟質化できるため、かかる観点からも、注入法が好ましく用いられる。
なお、動物性素材の厚さが、具体的には、好ましくは5mm以上のもの、より好ましくは10〜50mm程度のものが注入法に好適に適用される。
また、動物性素材に酵素処理液を注入する注入法(インジェクション法)としては、特に限定されないが、以下に示すようなインジェクション装置を用いた方法であるのが好ましい。
すなわち、ほぼ等間隔に配列された複数本の注射針と、これら注射針に圧力を付与した状態で酵素処理液を送液し得る送液部とを備えるインジェクション装置を用い、動物性素材に複数本の注射針を穿刺した状態で、複数本の注射針に送液部から酵素処理液を送液することにより、動物性素材中に酵素処理液を注入する方法を用いるのが好ましい。
このようなインジェクション装置を用いた方法によれば、一度の操作で広範囲に亘って動物性素材に酵素処理液を注入できることから、酵素処理液を注入するための処理時間の短縮を図ることができる。さらに、動物性素材の全体に亘ってより均一に酵素処理液を注入することができる点からも好ましい。
動物性素材に供給する酵素処理液の供給量は、軟質化する動物性素材の種類によっても若干異なるが、動物性素材の初期重量(酵素処理液を注入する前の動物性素材の重量)に対して好ましくは10〜80wt%の重量、より好ましくは10〜50wt%の重量の酵素処理液で酵素処理する。このように、動物性素材の初期重量に対して比較的少量の酵素処理液で動物性素材を酵素処理する構成とすることにより、加熱処理された動物性素材中に、余分な水分が吸収されることなく、動物性素材を酵素処理液で酵素処理することができる。その結果、得られる軟質化動物性食材は離水が少ないものとなる。
また、動物性素材内に酵素処理液を供給する際の酵素処理液の温度は、特に限定されないが、0〜25℃程度であるのが好ましく、0〜15℃程度であるのがより好ましい。これにより、酵素処理液中に含まれる澱粉が糊化してしまうのを的確に抑制または防止した状態で、酵素処理液を動物性素材に供給することができるため、酵素処理液を動物性素材中に均一に含浸させることができる。
なお、上記のように動物性素材の厚さが厚い場合には注入法が好適に用いられるものの、動物性素材の厚さが5mm以下、もしくは小エビのごとく縦横の長さが3cm以下のように比較的薄いもの、小型のものを軟質化する場合には、動物性素材に酵素処理液を供給する方法としては、噴霧法、塗布法または浸漬法が好適に適用される。
以上のようにして動物性素材に供給した酵素処理液(酵素)による、動物性素材の構成成分に対する酵素反応は、できるだけ緩除に行うのが好ましく、具体的には、低温下に比較的長時間かけて行うのが好ましい。これにより、動物性素材の構成成分の低分子化を、動物性素材全体においてより均一に行うことができる。その結果、軟質化後の動物性素材は、その全体に亘って非常に食感が良くなる。
酵素反応を行う際の動物性素材の温度は、0〜35℃程度であるのが好ましく、5〜15℃程度であるのがより好ましい。
酵素反応を行う時間は、前記温度範囲とする場合、1〜24時間程度であるのが好ましく、5〜18時間程度であるのがより好ましい。
また、酵素反応を行う際には、動物性素材の形状が崩れない程度で、振動(超音波振動、タンブリングなど)を付与するのが好ましい。これにより、動物性素材のほぼ全体に亘ってより均一に酵素による軟質化を行うことができ、より均一に軟質化された動物性素材を得ることができる。
[2]酵素失活処理工程
次に、軟質化後の動物性素材内の酵素を失活させる酵素失活処理を行う。
これにより、軟質化後の動物性素材(軟質化動物性食材)が、保存時等において、さらに酵素反応が進行して、例えば、動物性素材の型崩れを起こすことや、動物性素材の風味が劣化すること等を防止することができる。
この酵素失活処理としては、特に限定されず、例えば、酵素処理された動物性素材を加熱する加熱処理、酵素処理された動物性素材に酸溶液を接触させる処理(酸溶液に浸漬する処理等)等が挙げられるが、加熱処理により酵素を失活させるのが好ましい。加熱処理によれば、軟質化動物性素材に新たな処理液(酸溶液等)を接触させることなく、酵素を失活させることができるので、新たな処理液を接触させることに起因する、離水の発生や型崩れ等を確実に防止することができる。
また、加熱処理により酵素を失活させる構成とした際には、本発明で用いる酵素処理液中には、澱粉が含まれているため、この澱粉が軟質化動物性素材の加熱に伴い、軟質化動物性素材中に含まれる水分を吸収することにより、その粘度が向上して糊化することとなる。その結果、加熱処理に伴う離水の発生を抑制または防止することができ、離水の発生に起因するジューシー感および風味の喪失が的確に抑制または防止される。また、澱粉の糊化により軟質化動物性素材の粘度が向上するため、その形状が安定に保持され、肉質感も好適に維持されることとなる。
以上のことからも、本発明の軟質化方法で適用される酵素失活法として、加熱処理が好ましく用いられる。
加熱処理の方法としては、特に限定されず、例えば、動物性素材を加湿下で加熱する方法、動物性素材を火炎に接近もしくは接触させる方法、および、動物性素材を誘電加熱する方法等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、加熱する方法としては、動物性素材を加湿下で加熱する方法を用いるのが好ましい。かかる方法によれば、加熱処理時において、動物性食品の表面に焦げ目等を付けることなく、動物性素材の中心部にまで亘ってほぼ均一な温度で加熱することができ、このものに含まれるたん白質分解酵素を均一に失活させることができる。
また、加熱する温度は、加熱処理する時間によっても若干異なるが、好ましくは60〜120℃程度、より好ましくは70〜115℃程度とされる。かかる範囲内に設定することにより、加熱に起因する動物性素材の硬化を抑制または防止しつつ、動物性素材中に含まれる酵素を確実に失活させることができる。
また、加熱する際の雰囲気の湿度は、相対湿度で60〜100%RH程度であるのが好ましく、85〜100%RH程度であるのがより好ましい。かかる範囲の湿度の加湿下において、動物性素材に加熱処理を行うことにより、動物性素材の外表面の変質(変性)等をともなうことなく、動物性素材の中心部まで均一に加熱することができる。
また、動物性素材を加熱する時間は、加熱する温度によっても若干異なるため、特に限定されないが、前記温度範囲とする場合、5〜60分程度であるのが好ましく、10〜30分程度であるのがより好ましい。かかる時間で動物性素材を加熱することにより、動物性素材の中心部まで(動物性食品全体を)より確実かつ均一に加熱して、動物性素材中の酵素を失活させることができるとともに、動物性素材の外表面に焦げ目が付いてしまうのをより確実に防止することができる。
[3]冷凍処理工程
次に、酵素が失活された軟質化動物性素材を冷凍保存するための冷凍処理を行う。
これにより、軟質化動物性素材を長期保存に適したものとすることができるとともに、所望の時に、冷凍された軟質化動物性素材を解凍して、軟質化動物性素材を食材として食することができる。
軟質化動物性素材の冷凍は、如何なる方法を用いて行ってもよいが、液体窒素や冷却したアルコール等を用いた急速冷凍(急速凍結)法を用いて行うのが好ましい。また、素材を急速に冷凍することが可能な冷凍装置を用いることも可能である。かかる方法を用いることにより、軟質化動物性素材中における氷結晶の発生を的確に抑制または防止することができるため、この冷凍された軟質化動物性素材を解凍した際に、形状が変化してしまったり、離水が生じるのをより効果的に防止することができる。
軟質化動物性素材を急速冷凍する際の温度は、−20℃以下であるのが好ましく、−25〜−40℃程度であるのがより好ましい。これにより、軟質化動物性素材を冷凍する際に、軟質化動物性素材に氷結晶が生成してしまう0〜−5℃の温度領域を比較的短時間(具体的には、15分以内)で通過させることができ、氷結晶の生成がより的確に抑制される。
軟質化動物性素材を急速冷凍する時間は、20〜120分程度であるのが好ましく、30〜80分程度であるのがより好ましい。これにより、軟質化動物性素材の全体に亘って、氷結晶の生成が抑制された状態で、均一に冷凍することができる。
なお、本発明の軟質化方法では、本実施形態における工程[2]および工程[3]のいずれか1工程を省略してもよい。また、任意の工程が付加されていてもよく、例えば、前記酵素処理工程[1]に先立って、動物性素材中の水分を除去する水分除去工程を付加するようにしても良い。かかる工程を付加することにより、前記酵素処理工程[1]において、動物性素材内への酵素処理液の含浸(浸透)率を向上させることができる。
この水分除去工程において、水分を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、加熱乾燥法、熱風乾燥法、冷風乾燥法、凍結乾燥法、塩蔵法、遠心分離法、油ちょう法および毛細管現象を用いた方法等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
その中で、加熱乾燥法は、例えば、密封容器中に動物性素材を封じ、湯煎等により50〜90℃に加熱することにより、水分をドリップとして除去する方法である。
また、熱風乾燥法または冷風乾燥法は、例えば、10〜120℃の空気を吹き付けることにより、水分を蒸発させ除去する方法である。
凍結乾燥法は、例えば、動物性素材を−20〜−80℃程度まで冷却凍結した後、減圧することにより、動物性素材中の水分を昇華させ除去する方法である。
塩蔵法は、例えば、5%以上の食塩水や、食塩と水を混合したスラリーに動物性素材を接触させることにより、水分を除去する方法である。
遠心分離法は、例えば、遠心脱水機等の装置を用いて、かご状の容器中に動物性素材を配置させた状態で、この容器を回転運動させることにより、動物性素材中の水分を除去する方法である。
油ちょう法は、例えば、70〜180℃程度に加熱した食用油脂中で動物性素材を加熱することにより、水分を蒸発させて除去する方法である。
さらに、毛細管現象を用いた方法は、例えば、キッチンペーパーを重層し、これらの間に動物性素材を挟み込むことにより、動物性素材中の水を除去する方法である。
以上の工程を経て、冷凍状態の本発明の軟質化動物性食材が得られる。
このようにして得られた軟質化動物性食材は、このものを解凍した際に、軟質化前の動物性素材とほぼ等しい形状をなしている。
さらに、かかる軟質化動物性食材は、十分に軟質化されているうえに、ジューシー感や肉質感のような食感もよく、風味等の漏出も確実に防止されている。
このため、高齢者や咀嚼・嚥下困難者に対して、食欲の増進を促し、美味しく食することが期待できるとともに、容易に飲み込むことができる。
かかる軟質化動物性食材は、解凍したときすなわち冷凍されていない状態で、厚生労働省で規定の「高齢者用食品の試験方法」にしたがって測定した圧縮応力が好ましくは1×10N/m以下に、より好ましくは5×10N/m以下になっている。このような数値を満たすことにより、前述の高齢者や患者でも、確実に軟質化動物性食材を咀嚼し、飲み込むことが可能となる。
以上、本発明の酵素処理液、軟質化方法および軟質化動物性食材を前記実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
例えば、本発明の軟質化方法は、任意の目的の工程が1または2以上追加されてもよい。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.酵素処理液中に含まれる多糖類の種類の検討
1−1.酵素処理液の調整
(酵素処理液1A)
Aspergillus melleus 由来のプロテアーゼ(天野エンザイム社製、「プロテアーゼP「アマノ」3G」)、低温糊化甘薯澱粉(廣八堂社製、「冨貴葛」;糊化開始温度 37℃)、およびカードラン(キリンフードテック社製、「カードランNS」)の含有量が、それぞれ、1.0wt%、2.0wt%および1.0wt%となるように、イオン交換樹脂で処理した脱イオン水に溶解して酵素処理液1Aを調製した。
(酵素処理液1B)
酵素処理液中への低温糊化甘薯澱粉およびカードランの添加を省略した以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液1Bを調整した。
(酵素処理液2B)
酵素処理液中への低温糊化甘薯澱粉の添加を省略した以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液2Bを調整した。
(酵素処理液3B)
酵素処理液中へのカードランの添加を省略した以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液3Bを調整した。
(酵素処理液4B)
低温糊化甘薯澱粉に代えて、酵素処理液中にカラギーナン(ユニテックフーズ社製、「SATIAGEL BWJ40」)を2.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液4Bを調整した。
(酵素処理液5B)
低温糊化甘薯澱粉に代えて、酵素処理液中にローカストビーンガム(ユニテックフーズ社製、「VIDOGUM L175」)を2.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液5Bを調整した。
(酵素処理液6B)
低温糊化甘薯澱粉に代えて、酵素処理液中にグルコマンナン(清水化学社製、「レオレックスRS」)を2.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液6Bを調整した。
(酵素処理液7B)
低温糊化甘薯澱粉に代えて、酵素処理液中にセルロース(旭化成ケミカルズ社製、「セオラス」)を2.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液7Bを調整した。
(酵素処理液8B)
カードランに代えて、酵素処理液中にカラギーナン(ユニテックフーズ社製、「SATIAGEL BWJ40」)を1.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液8Bを調整した。
(酵素処理液9B)
カードランに代えて、酵素処理液中にローカストビーンガム(ユニテックフーズ社製、「VIDOGUM L175」)を1.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液9Bを調整した。
(酵素処理液10B)
カードランに代えて、酵素処理液中にグルコマンナン(清水化学社製、「レオレックスRS」)を1.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液10Bを調整した。
(酵素処理液11B)
カードランに代えて、酵素処理液中にセルロース(旭化成ケミカルズ社製、「セオラス」)を1.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Aと同様にして酵素処理液11Bを調整した。
1−2.軟質化食材の製造
以下の各実施例および比較例において、動物性素材を軟質化するために用いる酵素処理液として、その液中に含まれる多糖類の種類が異なるものを用いて、それぞれの軟質化動物性食材を製造した。
(実施例1A)
<1>酵素処理工程
まず、生のトリササミをその厚さが約15mmとなるように切断し、このもの5個(平均重量約40g)に、それぞれ、インジェクション装置(トーニチ社製、「スーパーミニインジェクター」)を用いて、生のトリササミの重量(初期重量)に対して30wt%の酵素処理液1Aを注入した。なお、このインジェクション装置は、1cm四方間隔に30本の注射針を備えるものである。
次に、酵素処理液を注入したトリササミを、4℃の冷蔵室内に収納し、18時間放置した。これにより、トリササミとたん白質分解酵素とを反応させた。
<2>酵素失活処理工程
次に、酵素反応処理終了後のトリササミを、スチームコンベクション(ラショナル社製、「セルフクッキングセンター61型」)を用いて、相対湿度100%RH、庫内温度93℃、加熱時間10分の条件でトリササミ内部の温度が90℃となるように加熱して、酵素を失活させた。
<3>冷凍処理工程
次に、酵素失活処理終了後のトリササミ(軟質化されたトリササミ)を、急速冷凍装置(福島工業社製、「ブラストフリーザー QXF−006S5」)を用いて、−35℃となるまで急速冷凍させた。
以上のようにして、冷凍状態のトリササミの軟質化動物性食材を得た。
(比較例1B〜11B)
酵素処理工程<1>に用いる酵素処理液として、酵素処理液1Aに代えて、それぞれ、酵素処理液1B〜11Bを用いた以外は、前記実施例1Aと同様にして、冷凍状態のトリササミの軟質化動物性食材を製造した。
1−3.評価
実施例1Aおよび比較例1B〜11Bの冷凍状態のトリササミの軟質化動物性食材を、それぞれ、スチームコンベクション(ラショナル社製、「セルフクッキングセンター61型」)を用いて、相対湿度100%RH、庫内温度70℃、加熱時間30分の条件で加熱することにより解凍した後、解凍された軟質化動物性食材を以下に示す1−3−1〜1−3−5の各種項目について評価した。
1−3−1.かたさ(圧縮応力)
かたさ(圧縮応力)は、「高齢者用食品の表示許可の取り扱いについて(衛新第15号、厚生省生活衛生局食品保健課新開発食品保健対策室長通知、平成6年2月23日)」中の高齢者用食品の試験方法に準拠して測定した。すなわち、レオメーター(山電株式会社製、「RE2-33005S」)を用いて、直径3mmのプランジャーを圧縮速度10mm/秒で、解凍したトリササミ(軟質化動物性食材;試料)の上端から、厚さの70%まで押し込み、下端側の部分が30%残存するようにクリアランスを設定して、圧縮応力(N/m)を測定した。なお、ここで、クリアランスとは、最大に試料を圧縮した時のプランジャーの先端からゼロ点(すなわち、試料の下端)までの距離をいう。
また、測定温度は20±2℃とした。
そして、実施例1Aおよび比較例1B〜11Bの軟質化動物性食材でそれぞれ測定された、5個の軟質化動物性食材の測定結果の平均値を求めた。
1−3−2.形状保持
形状保持性は、軟質化前のトリササミ(動物性食品素材)と、軟質化されたトリササミ(軟質化動物性食材)との外観、および、軟質化されたトリササミからの離水の有無を、実施例1Aおよび比較例1B〜11Bの軟質化動物性食品でそれぞれ、以下の4段階の基準にしたがって評価した。
◎:外観に変化は認められず、さらに、離水も認められない
○:外観に若干変化が認められるものの、離水は認められない
△:外観に明らかな変化が認められるものの、若干の離水しか認められない
×:外観に明らかな変化がみとめられ、さらに、離水も認められる
1−3−3.食感
実施例1Aおよび比較例1B〜11Bの解凍したトリササミ(軟質化動物性食材;試料)を食し、その際に感じられた食感を、軟質化せずに一般的な調理方法で加熱調理したトリササミ(軟質化していない動物性食材)と比較して、それぞれ、以下の4段階の基準にしたがって評価した。
◎:軟質化していない動物性食材のジューシー感および肉質感とほとんど変化なし
○:軟質化していない動物性食材のジューシー感および肉質感に対して若干の変化あり
△:軟質化していない動物性食材のジューシー感および肉質感に対して明らかな変化あり
×:完全にジューシー感および肉質感が無くなってしまっている
1−3−4.風味
実施例1Aおよび比較例1B〜11Bの解凍したトリササミ(軟質化動物性食品;試料)を食し、その際に感じられた風味を、軟質化せずに一般的な調理方法で加熱調理したトリササミ(軟質化していない動物性食材)と比較して、それぞれ、以下の4段階の基準にしたがって評価した。
◎:軟質化していない動物性食材の風味とほとんど変化なし
○:軟質化していない動物性食材の風味に対して若干の変化あり
△:軟質化していない動物性食材の風味に対して明らかな変化あり
×:完全に味が抜けてしまっている
1−3−5.滑らかさ
実施例1Aおよび比較例1B〜11Bの解凍したトリササミ(軟質化動物性食材;試料)を食し、その際に感じられた滑らかさ(飲み込み性)を、それぞれ、以下の4段階の基準にしたがって評価した。
◎:全体に亘って滑らかで容易に飲み込むことができる
○:若干の粘着性があり、飲み込む際に多少の違和感あり
△:粘着性、もしくは逆にパサツキ感があり、明らかに飲み込み難い
×:粘着性、もしくは逆にパサツキ感が強く、非常に飲み込み難い
これらの結果を表1に示す。
Figure 2010166904
表1から明らかなように、澱粉と、カードランとを含有する酵素処理液1Aを用いて酵素処理した実施例1Aのトリササミ(軟質化動物性食材)は、機械的に測定されたかたさ(圧縮応力)において、5×104N/m以下と十分な軟らかさを示し、かつ外観も自然な肉の形状を保持しており、離水も認められなかった。さらに、軟質化されたトリササミ(軟質化動物性食材)は、このものを食した際の食感は、ジューシー感も肉質感もあり、軟質化前のトリササミ(動物性素材)に近い筋原繊維の肉質感が残っていた。また、美味しい風味を呈しており、軟質化せずに一般的な調理方法で加熱調理したトリササミ(軟質化していない動物性食材)と比較してほぼ同等の風味であった。さらに、粘着性も少なく、口腔内でまとまり感があり、滑らかで良好に飲み込むことができた。
これに対して、澱粉およびカードランの添加を省略してたん白質分解酵素のみを含有する酵素処理液1Bを用いて酵素処理した比較例1Bでは、かたさが5×10N/m以下まで軟化していたものの、外観は立体感がなくなり、偏平した形状に変形した。また、離水も認められた。食感は、レバー状となり、ジューシー感および肉質感が完全に消失していた。また、風味は、美味しい風味がなく完全に味が抜けてしまっていた。さらに、粘着性が高く、非常に飲み込み難いとの評価であった。
一方、澱粉の添加を省略して、カードランおよびたん白質分解酵素を含有する酵素処理液2Bを用いて酵素処理した比較例2Bでは、かたさが8.9×10N/mまで軟化した。また、外観に若干の変化が認められるものの、離水は認められなかった。食感は、ジューシー感や肉質感、特にジューシー感が軟質化していないトリササミと比較して明らかに劣っていた。また、風味は、軟質化せずに一般的な調理方法で加熱調理したトリササミ(軟質化していない動物性食材)と比較して変化が認められた。さらに、口腔内で咀嚼する際に、食塊としてまとまり感がなく、パサツキ感が出て、明らかに飲み込み難いとの評価であった。
また、カードランの添加を省略して、低温糊化甘薯澱粉およびたん白質分解酵素を含有する酵素処理液3Bを用いて酵素処理した比較例3Bでは、かたさが5.4×10N/mまで軟化した。離水は認められなかったが、外観は偏平した形状に変形した。また、食感は、ジューシー感や肉質感、特に肉質感が軟質化していないトリササミと比較して明らかに劣っていた。風味は、比較例2Bほどではないが、軟質化せずに一般的な調理方法で加熱調理したトリササミ(軟質化していない動物性食材)と比較してやや変化していた。さらに、口腔内で咀嚼する際に、食塊としてまとまり感に乏しく、また、粘着性が強く、明らかに飲み込み難いと評価された。
また、澱粉に代えて、これとは異なる他の多糖類を含有する酵素処理液を用いて酵素処理した比較例4B〜7Bのトリササミ(軟質化動物性食材)では形状保持性は若干の変化であったものの、かたさが1×105N/m以上と軟らかさが劣り、食感、風味に明らかな変化がみられ、滑らかさ(飲み込み性)が明らかに飲み込み難いとの評価になった。
さらに、カードランに代えて、これとは異なる他の多糖類を含有する酵素処理液を用いて酵素処理した比較例8B〜11Bのトリササミ(軟質化動物性食材)は、かたさは1×105N/m以下まで軟化し、風味で若干変化したにとどまったものの、形状保持性、食感に明らかな変化がみられ、滑らかさ(飲み込み性)は明らかに飲み込み難いとの評価になった。
これらのことから、たん白質分解酵素とともに、澱粉とカードランとを合わせて動物性素材に注入することで、形状を保持しながら、食感および風味のある滑らかな飲み込み易い軟質化動物性食材を製造できることが明らかとなった。
2.酵素処理液中に含まれる澱粉の種類の検討
2−1.酵素処理液の調整
(酵素処理液1C)
前記酵素処理液1Aと同様の酵素処理液を酵素処理液1Cとして調整した。
(酵素処理液2C)
低温糊化甘薯澱粉に代えて、酵素処理液中にタピオカ澱粉(王子コーンスターチ社製、「みやこ300」;糊化開始温度 55℃)を2.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Cと同様にして酵素処理液2Cを調整した。
(酵素処理液3C)
低温糊化甘薯澱粉に代えて、酵素処理液中に馬鈴薯澱粉(王子コーンスターチ社製、「ラーフUD」;糊化開始温度 58℃)を2.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Cと同様にして酵素処理液3Cを調整した。
(酵素処理液4C)
低温糊化甘薯澱粉に代えて、酵素処理液中にコーンスターチ(王子コーンスターチ社製、「せいうん500」;糊化開始温度 66℃)を2.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Cと同様にして酵素処理液4Cを調整した。
(酵素処理液5C)
低温糊化甘薯澱粉に代えて、酵素処理液中にうるち米澱粉(島田化学工業社製、「ベターフレンド」;糊化開始温度 66℃)を2.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Cと同様にして酵素処理液5Cを調整した。
(酵素処理液6C)
低温糊化甘薯澱粉に代えて、酵素処理液中にハイアミロースコーンスターチ(日本食品加工社製、「日食ハイアミローススターチ」;糊化開始温度75℃)を2.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Cと同様にして酵素処理液6Cを調整した。
(酵素処理液1D)
低温糊化甘薯澱粉の添加を省略した以外は、前記酵素処理液1Cと同様にして酵素処理液1Dを調整した。
2−2.軟質化動物性食材の製造
以下の実施例1C〜6Cおよび比較例1Dにおいて、澱粉の種類または澱粉の添加が省略された酵素処理液を用いて軟質化動物性食材を製造した。
(実施例1C)
<1>酵素処理工程
まず、生の豚ヒレ肉をその厚さが約15mmとなるように切断し、このもの5個(平均重量約 200g)に、それぞれ、インジェクション装置(トーニチ社製、「スーパーミニインジェクター」)を用いて、生の豚ヒレ肉の重量に対して30wt%の酵素処理液1Cを注入した。
次に、酵素処理液を注入した豚ヒレ肉を、4℃の冷蔵室内に収納し、18時間放置した。これにより、豚ヒレ肉とたん白質分解酵素とを反応させた。
<2>酵素失活処理工程
次に、酵素反応処理終了後の豚ヒレ肉を、スチームコンベクション(ラショナル社製、「セルフクッキングセンター61型」)を用いて、相対湿度100%RH、庫内温度93℃、加熱時間10分の条件で豚ヒレ肉内部の温度が90℃となるように加熱して、酵素を失活させた。
<3>冷凍処理工程
次に、酵素失活処理終了後の豚ヒレ肉(軟質化された豚ヒレ肉)を、急速冷凍装置(福島工業社製、「ブラストフリーザー QXF−006S5」)を用いて、−35℃となるまで急速冷凍させた。
以上のようにして、冷凍状態の豚ヒレ肉の軟質化動物性食材を得た。
(実施例2C〜6C、比較例1D)
酵素処理工程<1>に用いる酵素処理液として、酵素処理液1Cに代えて、それぞれ、酵素処理液2C〜6Cおよび酵素処理液1Dを用いた以外は、前記実施例1Cと同様にして、冷凍状態の豚ヒレ肉の軟質化動物性食材を製造した。
2−3.評価
実施例1C〜6Cおよび比較例1Dの冷凍状態となっている豚ヒレ肉の軟質化動物性食品を、それぞれ、スチームコンベクション(ラショナル社製、「セルフクッキングセンター61型」)を用いて、相対湿度100%RH、庫内温度70℃、加熱時間30分の条件で加熱することにより解凍した後、解凍された軟質化動物性食材を、前述した実施例1Aおよび比較例1B〜11Bと同様にして前記1−3−1〜1−3−5の各種項目について評価した。
これらの結果を表2に示す。
Figure 2010166904
表2から明らかなように、実施例1C〜6Cの豚ヒレ肉(軟質化動物性食材)は、いずれも、機械的に測定されたかたさ(圧縮応力)は1×105N/m以下で、十分な軟らかさを示し、糊化開始温度が低くなるに従ってかたさが低下して軟らかくなった。また、外観に変化も離水も認められなかった。さらに、軟質化された豚ヒレ肉(軟質化動物性食材)は、このものを食した際の食感および風味も軟質化せずに一般的な調理方法で加熱調理した豚ヒレ肉(軟質化していない動物性食材)と比較してほとんど変化ないか、もしくは若干の変化が認められるものがある程度あり、滑らかさにおいても容易に飲み込めるか、もしくは若干の違和感を認めるものがある程度であった。
より具体的には、澱粉として低温糊化甘薯澱粉を添加した酵素処理液1Cを用いて酵素処理された実施例1Cの豚ヒレ肉では、かたさが4.9×10N/mまで軟化し、外観も問題なく形状を保持して、食感、風味ともに優れた結果が得られた。また、口腔内でまとまり感があり、滑らかな食塊を形成して、容易に飲み込めるとの評価であった。
また、澱粉として、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、うるち米澱粉を添加した酵素処理液を用いて酵素処理された実施例2C〜4Cの豚ヒレ肉では、かたさが5×10〜7×10N/mに軟化し、形状保持性に優れていた。食感、風味および滑らかさ(飲み込み性)では、実施例1Cと比較して、実施例2Cおよび実施例4Cでは食感においてやや劣り、実施例3Cでは滑らかさ(飲み込み性)においてやや劣るものの、問題ないレベルと評価された。
さらに、澱粉として、コーンスターチを添加した酵素処理液を用いて酵素処理された実施例5Cの豚ヒレ肉では、かたさが8.8×10N/mに軟化し、形状保持性に優れ、食感、風味および滑らかさ(飲み込み性)は実施例1Cと比較するとやや劣るものの、問題ないレベルと評価された。
一方、澱粉として、ハイアミロースコーンスターチを添加した酵素処理液を用いて酵素処理された実施例6Cの豚ヒレ肉は、かたさが1×10N/mで、形状保持性や食感、風味も良好であったものの、滑らかさ(飲み込み性)の評価において実施例1Cより飲み込み難いとの評価であった。
以上のように、実施例1C〜6Cでは、澱粉の糊化開始温度が低いものほどより軟らかさをはじめ、形状保持性、食感、風味、滑らかさ(飲み込み性)において優れたものとなる傾向を示し、具体的には、澱粉として、糊化開始温度が、好ましくは70℃以下、より好ましくは30〜40℃程度の澱粉を選択することにより、各種評価項目のすべて、もしくはほとんどが優れたものとなる結果を示した。
これに対して、澱粉を含有せずカードランとたん白質分解酵素とを含有する酵素処理液を用いて酵素処理した比較例1Dの豚ヒレ肉(軟質化動物性食材)では、形状保持性は問題なないレベルであったものの、かたさは2×10N/mを超え、食感はジューシー感と肉質感は明らかに低下し、パサツキ感が強くなった。風味も変化し、滑らかさも明らかに飲み込み難い評価となった。
3.軟質化される動物性素材(食肉)の種類の検討
3−1.酵素処理液の調整
(酵素処理液1E)
パパインと微生物由来のプロテアーゼとを含有するたん白質分解酵素製剤(かたやま社製、「エコラ・スーペルバ」)、低温糊化甘薯澱粉(廣八堂社製、「冨貴葛」;糊化開始温度 37℃)、およびカードラン(キリンフードテック社製、「カードランNS」)の含有量が、それぞれ、3.0wt%、2.0wt%および1.0wt%となるように、イオン交換樹脂で処理した脱イオン水に溶解して酵素処理液1Eを調製した。
(酵素処理液2E)
低温糊化甘薯澱粉に代えて、酵素処理液中にうるち米澱粉(島田化学工業社製、「ベターフレンド」;糊化開始温度 66℃)を2.0wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Eと同様にして酵素処理液2Eを調整した。
(酵素処理液3E)
澱粉およびカードランの他に、さらに他の多糖類として、キサンタンガムをその含有量が0.1wt%となるように添加したこと以外は、前記酵素処理液1Eと同様にして酵素処理液3Eを調整した。
3−2.軟質化動物性食材の製造
以下の実施例1E〜5Eにおいて、種類の異なる動物性素材(食肉)に対して各酵素処理液を用いて軟質化動物性食材を製造した。
なお、この際、澱粉およびカードラン以外に他の多糖類としてキサンタンガムを含有する酵素処理液についても検討を行った。
(実施例1E)
<1>酵素処理工程
まず、生のトリモモ肉をその厚さが約15mmとなるように切断し、このもの5個(平均重量約80g)に、それぞれ、インジェクション装置(トーニチ社製、「スーパーミニインジェクター」)を用いて、生のトリモモ肉の重量に対して50wt%の酵素処理液1Eを注入した。
次に、酵素処理液を注入したトリモモ肉を、4℃の冷蔵室内に収納し、18時間放置した。これにより、トリモモ肉とたん白質分解酵素とを反応させた。
<2>酵素失活処理工程
次に、酵素反応処理終了後のトリモモ肉を、スチームコンベクション(ラショナル社製、「セルフクッキングセンター61型」)を用いて、相対湿度100%RH、庫内温度93℃、加熱時間10分の条件でトリモモ肉内部の温度が90℃となるように加熱して、酵素を失活させた。
<3>冷凍処理工程
次に、酵素失活処理終了後のトリモモ肉(軟質化されたトリモモ肉)を、急速冷凍装置(福島工業社製、「ブラストフリーザー QXF−006S5」)を用いて、−35℃となるまで急速冷凍させた。
以上のようにして、冷凍状態のトリモモ肉の軟質化動物性食材を得た。
(実施例2E)
酵素処理工程<1>に用いる酵素処理液として、酵素処理液1Eに代えて、酵素処理液2Eを用いた以外は、前記実施例1Eと同様にして、冷凍状態のトリモモ肉の軟質化動物性食材を製造した。
(実施例3E)
酵素処理工程<1>において軟質化する動物性素材として、トリモモ肉に代えて、厚さが15mmの生の牛ロース肉を用意した以外は、前記実施例1Eと同様にして、冷凍状態の牛ロース肉の軟質化動物性食材を製造した。
(実施例4E)
酵素処理工程<1>において軟質化する動物性素材として、トリモモ肉に代えて、厚さが15mmの生の牛ロース肉を用意し、酵素処理液として、酵素処理液1Eに代えて、酵素処理液3Eを用いた以外は、前記実施例1Eと同様にして、冷凍状態の牛ロース肉の軟質化動物性食材を製造した。
(実施例5E)
酵素処理工程<1>において軟質化する動物性素材として、トリモモ肉に代えて、厚さが15mmの生のカモ肉(平均重量約40g)を用意し、酵素処理液として、酵素処理液1Eに代えて、酵素処理液3Eを用いた以外は、前記実施例1Eと同様にして、冷凍状態のカモ肉の軟質化動物性食材を製造した。
3−3.評価
実施例1E〜5Eの冷凍状態となっている各種軟質化動物性食材を、それぞれ、スチームコンベクション(ラショナル社製、「セルフクッキングセンター61型」)を用いて、相対湿度100%RH、庫内温度70℃、加熱時間30分の条件で加熱することにより解凍した後、解凍された軟質化動物性食材を、前述した実施例1Aおよび比較例1B〜11Bと同様にして前記1−3−1〜1−3−5の各種項目について評価した。
これらの結果を表3に示す。
Figure 2010166904
表3から明らかなように、実施例1E〜5Eの軟質化動物性食材は、いずれも、機械的に測定されてかたさ(圧縮応力)において1×10N/m以下となり十分な軟らかさを示した。さらに、形状保持性、食感、風味および滑らかさについて、多少評価が下がる項目も認められるものの、いずれも優れた結果が得られた。
また、酵素処理液中に澱粉およびカードランに加えて、さらに他の多糖類としてキサンタンガムを添加した酵素処理液3Eでは、静置状態における澱粉およびカードランの沈降がより的確に抑制されることから、キサンタンガムを含有しない酵素処理液1E等で認められた酵素処理液の動物性素材に対する注入時における注射針の針詰まりがほぼ完全に消失された。
また、このキサンタンガムを含有する酵素処理液3Eで酵素処理された実施例4Eおよび実施例5Eの軟質化動物性食材(牛ロース肉およびカモ肉)では、かたさがいずれも4.0×10N/m以下まで軟化し、外観も問題なく形状を保持して、食感、風味ともに優れた結果が得られた。また、口腔内でまとまり感があり、滑らかな食塊を形成して、飲み込み性にも優れていた。
これらのことから、本発明の軟質化方法は、各種食肉素材に適応できることが示された。さらに、酵素処理液中に澱粉およびカードランの他に、キサンタンガムを添加することにより、得られる軟質化動物性食材の軟らかさや、形状保持性、食感、風味および滑らかさをより向上させることができることが分かった。
4.軟質化される動物性素材(魚介類)の種類の検討
4−1.酵素処理液の調整
(酵素処理液1F)
前記酵素処理液1Eと同様の酵素処理液を酵素処理液1Fとして調整した。
(酵素処理液1G)
カードランの添加を省略した以外は、前記酵素処理液1Eと同様にして酵素処理液1Gを調整した。
(酵素処理液2G)
低温糊化甘薯澱粉の添加を省略した以外は、前記酵素処理液1Eと同様にして酵素処理液2Gを調整した。
4−2.軟質化動物性食材の製造
以下の実施例1F〜4Fおよび比較例1G、2Gにおいて、種類の異なる動物性素材(魚介類)に対して各酵素処理液を用いて軟質化動物性食材を製造した。
(実施例1F)
<1>酵素処理工程
まず、生のシャケの切り身(厚さが約15mm)5個(平均重量約60g)に、それぞれ、インジェクション装置(トーニチ社製、「スーパーミニインジェクター」)を用いて、生のシャケの重量に対して10wt%の酵素処理液1Fを注入した。
次に、酵素処理液を注入したシャケを、4℃の冷蔵室内に収納し、18時間放置した。これにより、シャケとたん白質分解酵素とを反応させた。
<2>酵素失活処理工程
次に、酵素反応処理終了後のシャケを、スチームコンベクション(ラショナル社製、「セルフクッキングセンター61型」)を用いて、相対湿度100%RH、庫内温度92℃、加熱時間10分の条件でシャケ内部の温度が90℃となるように加熱して、酵素を失活させた。
<3>冷凍処理工程
次に、酵素失活処理終了後のシャケ(軟質化されたシャケ)を、急速冷凍装置(福島工業社製、「ブラストフリーザー QXF−006S5」)を用いて、−35℃となるまで急速冷凍させた。
以上のようにして、冷凍状態のシャケの軟質化動物性食材を得た。
(実施例2F)
酵素処理工程<1>において軟質化する動物性素材として、シャケに代えて、厚さが約10mmの生の赤魚の切り身を用意した以外は、前記実施例1Fと同様にして、冷凍状態の赤魚の軟質化動物性食材を製造した。
(実施例3F)
酵素処理工程<1>において軟質化する動物性素材として、シャケに代えて、厚さが約18mmの生のサバの切り身を用意した以外は、前記実施例1Fと同様にして、冷凍状態のサバの軟質化動物性食品を製造した。
(実施例4F)
酵素処理工程<1>において軟質化する動物性素材として、シャケに代えて、厚さが約20mmの生のカジキの切り身を用意した以外は、前記実施例1Fと同様にして、冷凍状態のカジキの軟質化動物性食材を製造した。
(比較例1G)
酵素処理工程<1>において軟質化する動物性素材として、シャケに代えて、厚さが約20mmの生のカジキの切り身を用意し、酵素処理液として、酵素処理液1Fに代えて、酵素処理液1Gを用いた以外は、前記実施例1Fと同様にして、冷凍状態のカジキの軟質化動物性食材を製造した。
(比較例2G)
酵素処理工程<1>において軟質化する動物性素材として、シャケに代えて、厚さが約20mmの生のカジキの切り身を用意し、酵素処理液として、酵素処理液1Fに代えて、酵素処理液2Gを用いた以外は、前記実施例1Fと同様にして、冷凍状態のカジキの軟質化動物性食材を製造した。
4−3.評価
実施例1F〜4Eおよび比較例1G、2Gの冷凍状態となっている各種軟質化動物性食材を、それぞれ、スチームコンベクション(ラショナル社製、「セルフクッキングセンター61型」)を用いて、相対湿度100%RH、庫内温度70℃、加熱時間30分の条件で加熱することにより解凍した後、解凍された軟質化動物性食材を、前述した実施例1Aおよび比較例1B〜11Bと同様にして前記1−3−1〜1−3−5の各種項目について評価した。
これらの結果を表4に示す。
Figure 2010166904
表4から明らかなように、実施例1F〜4Fの軟質化動物性食材は、いずれも、機械的に測定されてかたさ(圧縮応力)において5×10N/m以下となり十分な軟らかさを示した。さらに、形状保持性、食感、風味および滑らかさについても、多少評価が下がる項目が認められるものの、いずれも優れた結果が得られた。
これに対して、カードランの添加を省略して、低温糊化甘薯澱粉およびたん白質分解酵素を含有する酵素処理液1Gを用いて酵素処理した比較例1Gでは、かたさが5×10N/m以下まで軟化し、離水は認められなかったが、外観が偏平した形状に変形した。また、風味は、軟質化せずに一般的な調理方法で加熱調理したカジキ(軟質化していない動物性食材)と比較して若干の変化にとどまったが、食感では軟質化していない動物性食品に対して明らかに変化し、口腔内で咀嚼する際には食塊としてまとまり感がなく、粘着性が強く飲み込み難い評価となった。
一方、澱粉の添加を省略して、カードランおよびたん白質分解酵素を含有する酵素処理液2Gを用いて酵素処理した比較例2Gでは、外観に変化が認められず、離水も認められなかった。しかしながら、かたさが1×10N/m以上で軟らかさが不足し、食感も、ジューシー感や肉質感が低下していた。風味も明らかな変化があり、口腔内で咀嚼する際には食塊としてまとまり感がなく、パサツキ感が強く飲み込み難い評価となった。
これらのことから、本発明の軟質化方法は、畜産食肉ばかりでなく魚介類にも適応できることが示された。

Claims (9)

  1. 食肉または魚介類からなる動物性素材を酵素処理することにより軟質化する軟質化方法に用いられる酵素処理液であって、
    たん白質分解酵素と、澱粉と、カードランとを含有することを特徴とする酵素処理液。
  2. 前記澱粉は、糊化開始温度が70℃以下のものである請求項1に記載の酵素処理液。
  3. さらに、キサンタンガムを含有する請求項1または2に記載の酵素処理液。
  4. 請求項1ないし3のいずれかに記載の酵素処理液で前記動物性素材を酵素処理することにより軟質化することを特徴とする軟質化方法。
  5. 前記酵素処理は、前記動物性素材に前記酵素処理液を供給した後、前記たん白質分解酵素を前記動物性素材の構成成分と反応させる請求項4に記載の軟質化方法。
  6. 前記動物性素材に対する前記酵素処理液の供給は、注入法により行われる請求項5に記載の軟質化方法。
  7. 前記酵素処理の後、前記動物性素材を加熱することにより、前記酵素を失活させる酵素失活処理を行う請求項4ないし6のいずれかに記載の軟質化方法。
  8. 動物性素材を、請求項4ないし7のいずれかに記載の軟質化方法により軟質化してなることを特徴とする軟質化動物性食材。
  9. 前記軟質化動物性食材は、「高齢者用食品の表示許可の取り扱いについて(衛新第15号、厚生省生活衛生局食品保健課新開発食品保健対策室長通知、平成6年2月23日)」に記載の「高齢者用食品の試験方法」に準拠して測定した圧縮応力が1×10N/m以下である請求項8に記載の軟質化動物性食材。
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