JP4986188B2 - 加工食品、その製造方法、及びエキス - Google Patents

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Description

本発明は、加熱により蛋白質が変性して生の食感が失われ硬くなる魚介類に対し、その形状を保持して食感を柔軟にし、身離れがよく、旨みを増加させた加工食品、その製造方法、及びエキスに関する。
魚介類は良質な動物性蛋白質として昔から日本人の食物として欠かせないものであり、加熱処理や天日干し等の乾燥処理により、保存性、風味や旨みの増加が図られている。魚介類は生では柔らかい食感を有していても、加熱処理や乾燥処理により、身が締まり硬くなるものの、ノロウイルスや腸炎ビブリオ菌等の感染を予防するためには、魚介類を加熱処理して摂取することが必須となる。しかしながら、ノロウイルスや腸炎ビブリオ菌等に感染され易い高齢者は、同時に咀嚼・嚥下が困難な場合が多く、スチームによる処理、煮沸、燻煙等による処理をした牡蠣や、加熱処理をした魚肉を食することが困難になる場合がある。また、天日干し等の乾燥処理を施した魚はより硬く、骨離れが悪くなり、高齢者が食するために介護が必要になり、更には、食することが困難になる。
魚介類の硬さや食感を制御することを目的として、カツオやマグロ肉に針で多数の穴を開け、分解酵素に浸漬する軟化加工魚肉の製造方法(特許文献1)や、イカ、タコ、貝類等の軟体動物を茹でた後、アルカリ処理することにより軟化させる軟体動物の軟化方法(特許文献2)、酵素を含む溶液と魚介類とを接触させて、1.04〜50気圧で加圧し食品素材内部に酵素を浸透させ、食品素材内部で酵素反応を起こさせ、外観や食感、消化吸収性、軟化、煮崩れ、硬さ、旨味、酷を改善する食品素材の改質方法(特許文献3)等が報告されている。
本発明者らは、植物性食品素材等を凍結、解凍後、圧力処理により分解酵素を植物性食品素材等内部に導入して酵素反応を行わせ、原型を留めた状態で軟化させた植物性食品素材等(特許文献4、5)、凍結又は凍結後解凍した食品素材と分解酵素を調味料等と共に包装材中に収納し真空包装することにより、食品素材中に分解酵素を均一に含有させ、分解酵素の作用により食品素材を柔軟にした後、加熱して酵素の失活と共に内部に含有させた調味料により食品素材を調理する方法(特許文献6)、食品素材表面に接触させた分解酵素を圧力処理により内部に導入する際、食品素材を膨張させた後、元の体積より小さい体積に圧縮することにより、食品素材の組織間のみならず、細胞内まで分解酵素を導入し、柔軟化を図った熟成食品の製造方法(特許文献7)等を既に開発している。また、表面を乾燥して酵素を含浸する方法もある(特許文献8)。これらの方法により得られる食品は咀嚼が困難な高齢者が、食品本来の有する硬さであれば食することが困難な食材であっても、食感のみ柔軟でその食品が有する形状、色、味、香り、栄養成分を保持するところから、食することを可能とし、視覚から食欲増進を図ることができるものである。
しかしながら、これらの方法では、咀嚼、嚥下困難な者が食材として摂取可能な程度に充分な柔らかさを付与することができない魚介類や、充分な柔軟性を有するものとするために長時間を要し効率よく製造することができない魚介類がある。加熱や、乾燥により硬さが増加する魚介類であっても、その形状を保持して咀嚼、嚥下が困難な者が摂取可能な程度に柔軟性を有し、しかも、効率よく製造することができる加工食品が要請されている。
特開2004−275083 特開平7−184607 特開2004−89181 特許第3686912号公報 特開2008−245546 特開2008−11794 特開2009−89668 WO2009/044538
本発明の課題は、圧力処理により内部に導入した分解酵素により酵素反応を行わせても柔軟にすることが困難であるか若しくは長時間を要する魚介類に対し、魚介類の形状、色、香り、栄養成分を保持して柔軟にし、魚肉の骨離れや、貝殻からの貝肉の離れをよくし、しかも、短時間で効率よく製造することができる加工食品を提供し、嚥下、咀嚼が困難な高齢者が摂取する食品が何であるかを認識し満足感をもって摂取することができる加工食品を提供することにある。
本発明者らは、魚介類の種類によっては、未加熱の状態の魚介類に接触させた分解酵素を圧力処理しても、内部に均一に導入することが困難な場合があることの知見を得た。また、未加熱の状態の魚介類の表面に接触させた分解酵素を圧力処理により魚介類の内部中心部まで導入することができるものの、酵素反応を行わせても、魚介類の種類によって柔軟な食感を得ることが困難な場合があることの知見を得た。そして、圧力処理により分解酵素を内部に均一に導入することが困難な魚介類に対し、水分の存在下で加熱して蛋白質を穏やかな条件で変性することにより、分解酵素を中心部分まで均一に導入することができ、その後、酵素反応を行わせることにより、魚介類を柔軟にすることができることを見出した。このとき、魚介類の種類によっては、蛋白質の変性は凍結前でなければ、組織内に均一に分解酵素を分布させることができないことを見出した。一方、生の状態で凍結解凍した後の圧力処理により分解酵素を内部に均一に導入することができる魚介類の場合でも、酵素反応によって柔軟な食感を得ることが困難な魚介類に対し、酵素反応後に水分の存在下で加熱により蛋白質を穏やかな条件で変性することにより、魚介類が柔軟になることを見出した。
本発明者らは、これらの、生の状態で圧力処理により分解酵素を内部に導入することが困難な魚介類や、生の状態で圧力処理により分解酵素を内部に導入することは可能であっても充分な柔軟性が得られない魚介類に対して、分解酵素の導入を容易にし、導入した分解酵素作用を促進させ得る、水の存在下において穏やかな条件で行う加熱による蛋白質の変性について、更に研究を進めた。その結果、水の存在下において穏やかな条件で加熱を行った場合、魚介類の筋肉に含まれるアクチンとトロポミオシンが減少していることを見出した。そして、圧力処理による魚介類内部への分解酵素の導入を困難にさせること、魚介類を食材としたときの硬度や食感に、アクチンとトロポミオシンが大きく関与していることの知見を得た。そして、アクチンとトロポミオシンの含有量を減少させることが魚介類の柔軟化には必須であり、更に分解酵素により、熱凝固蛋白質やミオシン重鎖を分解すると共に、穏やかな条件で行う加熱と圧力処理により導入した分解酵素作用により、アクチンとトロポミオシンを分解し、魚介類の柔軟化を可能とすることの知見を得た。魚介類筋肉に含まれるアクチンとトロポミオシンの含有量の減少に関与する蛋白質変性工程は、魚介類の種類に応じて分解酵素の酵素反応の前後を選択することができることの知見を得た。かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、未加熱の魚介類を水分の存在下で50℃以上90℃以下に加熱して蛋白質を変性させる蛋白質変性工程を経て得られた魚介類を凍結後解凍する凍結解凍工程後、表面に接触させた分解酵素を圧力処理により魚介類の内部に均一に導入させる圧力処理工程、分解酵素の作用により酵素基質を分解させる酵素分解工程、分解酵素を失活させる酵素失活工程を経て得られ未加熱の魚介類の形状を保持した柔軟な食感を有し、未加熱の魚介類に含有されるアクチン及びトロポミオシンをそれぞれ50質量%以上減少させたものであることを特徴とする加工食品に関する。
本発明は、未加熱の魚介類を水分の存在下で50℃以上90℃以下に加熱して蛋白質を変性させる蛋白質変性工程を経て得られた魚介類を凍結後解凍する凍結解凍工程後、表面に接触させた分解酵素を圧力処理により魚介類の内部に均一に導入させる圧力処理工程、分解酵素の作用により酵素基質を分解させる酵素分解工程、分解酵素を失活させる酵素失活工程を有し、未加熱の魚介類の形状を保持し、未加熱の魚介類に含有されるアクチン及びトロポミオシンをそれぞれ50質量%以上減少させた加工食品を得ることを特徴とする加工食品の製造方法に関する。
また、本発明は、上記加工食品から該加工食品の形状をそのまま保持して水抽出した抽出物を用いて得られることを特徴とするエキスに関する。
本発明の加工食品は、圧力処理により内部に導入した分解酵素により酵素反応を行わせても柔軟にすることが困難であるか若しくは長時間を要する魚介類に対し、魚介類の形状、色、香り、栄養成分を保持し、柔軟であり、しかも、短時間で効率よく製造することができる。そして、嚥下、咀嚼が困難な高齢者が摂取する食品が何であるかを認識し満足感をもって摂取することができる。また、魚肉の骨離れや、貝殻からの貝肉の離れがよく、食することが容易になり、高齢者の食事介護者の労を削減することができる。
本発明の加工食品の製造方法は、上記加工食品を短時間で効率よく製造することができる。
本発明の加工食品の一例の破断強度を示す図である。 本発明の加工食品の一例の破断強度を示す図である。 本発明の加工食品の一例の破断強度を示す図である。 本発明の加工食品の参考例の破断強度を示す図である。 本発明の加工食品の一例の破断強度を示す図である。 本発明の加工食品の一例及び参考例の高速液体クロマトグラムを示す図である。 本発明の加工食品の一例及び参考例のペプチド量を示す図である。 本発明の加工食品の参考例の破断強度を示す図である。 本発明の加工食品の参考例に含まれる蛋白質の電気泳動を示す図である。 本発明の加工食品の参考例に含まれる熱凝固蛋白質の含有量示す図である。
本発明の加工食品は、未加熱の魚介類を水分の存在下で50℃以上90℃以下に加熱して蛋白質を変性させる蛋白質変性工程を経て得られた魚介類を凍結後解凍する凍結解凍工程後、表面に接触させた分解酵素を圧力処理により魚介類の内部に均一に導入させる圧力処理工程、分解酵素の作用により酵素基質を分解する酵素分解工程、分解酵素を失活させる酵素失活工程を経て得られ未加熱の魚介類の形状を保持した柔軟な食感を有し、未加熱の魚介類に含有されるアクチン及びトロポミオシンをそれぞれ50質量%以上減少させたものであることを特徴とする。
本発明に用いる魚介類とは、未加熱のものであり、魚類、貝類、エビ類、イカ類、タコ類、ホヤ類、クラゲ類、ナマコ類等、人が摂取可能な動物性水産物であればいずれであってもよい。魚類としては、鯛、鮪、鰹、鱈、鰤、鮭、鱒等を挙げることができる。貝類としては、アサリ、蜆、蛤、鮑、サザエ、帆立貝、牡蠣等を挙げることができ、これらは貝殻付であってもよい。
上記魚介類は適切な形状に切断して用いることができる。その形状としては、魚介類の大きさにもよるが、鰯、鯵、カレイ等、小型魚であれば、一尾そのままでもよく、鮪、鮭、鰤、鰹等、中大型の魚類であれば、例えば、厚さ10mm等に切断してもよく、エビ、イカ、タコ、ホヤ、ナマコ、クラゲ等であれば、例えば、幅30mm等適宜切断して用いることができる。また、貝類であれば、1個そのままで用いてもよい。
上記魚介類の凍結解凍工程は、魚介類を凍結させ組織間や、細胞の内部に含まれる水分の氷結晶を生成しその体積を膨張させた後、解凍して水分の体積の収縮を図り、魚介類の組織や細胞に緩みを生じさせ、分解酵素の導入を可能とする空間を魚介類の内部に形成する工程である。体積膨張比は凍結前の体積に対し、1.03以上とすることが好ましい。上記魚介類にこのような比率の体積膨張を施すには、凍結温度−5℃以下で凍結することが好ましく、より好ましくは、室温から−15℃前後に、5℃/分以下の冷却速度で緩慢凍結して行うことが好ましい。3%以上の体積の膨張を達成するためには、温度降下速度としては、0.1〜0.3℃/分の緩慢冷凍を行うことが好ましい。−15℃前後の温度で凍結することにより氷結晶を魚介類の内部全体に亘って均一に形成することができる。凍結時間は組織間や細胞内の水分が完全に凍結した状態になれば、その時間は問わないが、例えば、3時間等とすることができ、これより長時間凍結してもよい。この凍結解凍工程は1回で行うことが好ましいが、魚介類の所望の体積膨張比を得るために反復して複数回行うこともできる。
ここで、膨張した魚介類の体積比は、冷凍前と冷凍後の魚介類を、例えば、水、ヘキサン等の液体を収納した容器に入れて浸漬し、溶媒の表面位置の上昇から冷凍前の魚介類の体積及び冷凍後の体積増加分から求めることができる。
凍結した魚介類の解凍は、室温以下の温度雰囲気下に放置することもできるが、解凍時間を短縮するために室温より高温雰囲気で解凍することもできる。解凍方法は、流水中に置いたり、加熱する方法によってもよいが、魚介類が室温を超える温度に加熱されないように行うことが好ましく、冷蔵庫等の低温での緩慢解凍が、組織や細胞に含まれる水分の脱落、所謂ドリップを抑制して魚介類の品質を保持できることから、好ましい。
魚介類の表面に接触させた分解酵素を圧力処理により内部に均一に導入する工程は、凍結解凍工程により組織や、細胞膜に緩みが生じた魚介類に分解酵素を導入する工程である。 使用する分解酵素としては、プロテアーゼ、ペプチダーゼ等タンパク質をアミノ酸及びペプタイドに分解する酵素、アミラーゼ、グルカナーゼ、セルラーゼ等でんぷん、セルロース等の多糖類をオリゴ糖に分解する酵素、リパーゼ等脂肪を分解する酵素などを挙げることができる。これらは1種又は相互に阻害しないものを2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらのうち、特に、プロテアーゼやペプチダーゼを用いることが、動物性の水産物に含まれる蛋白質、特に熱凝固蛋白質やミオシン重鎖、アクチンやトロポミオシンをアミノ酸やペプチド等に分解し、柔軟にすると共に呈味成分を生成することができ、また、汎用品であることから、好ましい。分解酵素は液状、粉末状、顆粒状等その形状は問わない。
魚介類の表面に分解酵素を接触させるには、分解酵素を直接振り掛けて接触させたり、分解酵素液を調製し、この分解酵素液を魚介類に塗布、噴霧、浸漬等により接触させてもよい。分解酵素液に浸漬した魚介類は分解酵素液から取り出して圧力処理を行ってもよいが、分解酵素液に浸漬した状態で、圧力処理を行うこともできる。
上記分解酵素液は、分解酵素を水や、アルコール等を含む水系溶媒に分散させたものを用いることができる。分解酵素液中の分解酵素の濃度は、いずれであってもよく、例えば、0.01〜5.0質量%を挙げることができ、好ましくは、0.3〜0.5質量%である。図1に、分解酵素濃度の異なる分解酵素液を用いて調製した、エビ、イカ、鱈についての本発明の加工食品の破断強度を示す。具体的には、0.01〜1.0質量%のパパインW40(天野エンザイム社製)の水溶液を用いて調製した、エビ、イカ、鱈についての本発明の加工食品は、分解酵素液を用いずに調製した加工食品と比較して、著しく破断強度が低下し充分軟化効果を確認できる。尚、破断強度の測定方法については後述する。
また、上記分解酵素液のpHは接触させる魚介類と同じpHに調整することが効果的であり、具体的には、pH4〜10とすることができる。分解酵素液のpHの調整には、有機酸類とその塩類やリン酸塩等のpH調整剤等を用いることができ、またpH調整された調味液等を使うこともできる。図2に、pHの異なる分解酵素液を用いて調製した、エビ、イカ、鱈についての本発明の加工食品の破断強度を示す。具体的には、0.5質量%のパパインW40(天野エンザイム社製)の水溶液、及び、この酵素水溶液にpH5.4、7.0、8.0のリン酸緩衝液を用いて調製したpHの異なる分解酵素液を用いて調製した、エビ、イカ、鱈についての本発明の加工食品は、原料のエビ、イカ、鱈(無処理)と比較して、著しく破断強度が低下し充分な軟化効果を確認できる。
分解酵素液に食品素材を浸漬して接触させる場合は、例えば、浸漬時間は1〜20分、その温度は0〜30℃等とすることができる。
分解酵素液の魚介類への接触量(使用量)も、所望の柔軟性が得られるように適宜選択することができ、分解酵素を直接振り掛ける場合も、分解酵素液を用いる場合も、分解酵素の接触量として、魚介類の質量に対し、例えば、0.001〜0.5質量%とすることが好ましい。図3に、分解酵素を直接振り掛けて用いて調製した、鱈、鮭、鮎、黒鯛、シイラ、鰹についての本発明の加工食品の破断強度を示す。具体的には、分解酵素として0.5質量%のパパインW40(天野エンザイム社製)を用いて調製した本発明の加工食品は、これらの原料(無処理)と比較して、著しく破断強度が低下し充分な軟化効果を確認できる。
魚介類には分解酵素と共に、分解酵素の機能を阻害しない範囲で、例えば、調味料、増粘剤、pH調整剤、着色料、栄養強化剤、油脂等を接触させることもできる。調味料としては、具体的には、塩、醤油、砂糖、糖類、アミノ酸類、核酸類等を挙げることができ、増粘剤としては、ペクチン、ガム類、寒天、ゼラチン等を挙げることができ、栄養強化剤としては、グルコン酸塩等、その他、糖アルコール、シクロデキストリン等を挙げることができ、油脂としては魚脂等を挙げることができる。これらは分解酵素液に含有させても、直接、魚介類に振り掛けて、接触させてもよい。
分解酵素を接触させた魚介類の圧力処理は、分解酵素を魚介類の内部に均一に導入する処理である。圧力処理としては、減圧または加圧、減圧及び加圧を組み合わせ、必要に応じて複数回反復して行うこともできる。圧力処理は魚介類の内部へ均一に分解酵素を導入すると共に、魚介類の組織に影響を与えるため、組織の破壊を抑制し魚介類の形状を維持できるように、魚介類の種類、大きさ等に応じて圧力と処理時間を調整することが必要である。加圧又は減圧により、魚介類の体積を、凍結解凍工程前の生の魚介類の体積に対し、3%以上変化させることが好ましい。魚介類の体積が凍結解凍工程前の体積に対して、3%以上膨張又は収縮するように圧力処理がなされると、凍結解凍により3%以上体積膨張したときと同程度の体積変化を魚介類に生じさせ、分解酵素を魚介類の内部中心部まで効率よく均一に導入させることができる。減圧としては、例えば、0.001〜0.01MPa、加圧としては、例えば、60MPa以上150MPa以下とすることができる。圧力処理時間としては、例えば、5〜60分間等を挙げることができる。
上記圧力処理を行う装置の一例として、分解酵素等を溶解若しくは分散させた液と、凍結・解凍処理を行った魚介類とを収納する耐圧性密封容器(耐圧性密封袋であってもよい。)と、これを温度調整可能な温度調整装置と、加圧を行う加圧ポンプ及び吸引する真空ポンプを備えた装置を挙げることができる。これにより、加圧ポンプと真空ポンプを適宜切り替えて圧力処理を行うことができる。
また、圧力処理を行う装置として、真空包装に用いられる真空包装機を適用することもできる。
魚介類の内部に導入した分解酵素の作用による酵素分解工程は、魚介類に導入した分解酵素により酵素基質を分解する工程である。分解酵素による酵素反応により魚介類に含有される酵素基質が分解され、蛋白質で形成される筋繊維間の結合が緩められ、生成されるアミノ酸やペプチドによって、呈味性が増加される。特に、分解酵素工程において、分解酵素の作用により、原料の未加熱の魚介類に含まれる熱凝固蛋白質やミオシン重鎖を、その量が50質量%以下になるように分解することが好ましい。熱凝固蛋白質の含有量は以下の測定方法にから求めることができる。先ず、水を加えてホモジナイズした魚肉の遠心上清の蛋白質量をローリー法などで測定する。一方、同じホモジナイズした魚肉を100℃で加熱し、前述と同様に遠心上清の蛋白質量を測定する。熱処理後の蛋白質量から熱処理前の蛋白質量を除して得られる値を、熱凝固蛋白質の含有量とする。
酵素分解工程は、分解酵素による酵素基質の分解反応が進行する温度に温度調整をして行うことができる。分解酵素による酵素反応を促進させるため、魚介類の温度は導入した分解酵素の至適温度とすることができるが、分解物によって苦味や酸味等を生じる場合もあり、必ずしも至適温度が最適とは限らない。分解酵素や適用する魚介類によって酵素分解工程の温度を選択することが好ましく、微生物の増殖を抑制する条件が必要で、例えば、40〜55℃、又は10℃以下等の条件を挙げることができる。
酵素反応時間は、酵素基質がアミノ酸等の低分子物質まで過度に分解されるのを抑制し、得られる加工食品の外形が維持できるように、魚介類の種類、大きさ等により適宜選択することが好ましい。また、酵素反応により、魚介類に含有される水溶性蛋白質又はペプチドが、3質量%以上増加するように酵素反応時間を調整することが好ましい。魚介類に含有される水溶性蛋白質又はペプチドが3質量%以上増加するように酵素反応を行わせることにより、加工食品を摂取した者の消化吸収を促進させることができる。酵素反応時間としては、魚介類、得られる加工食品の柔軟性の程度により選択することが好ましく、例えば、30分〜3時間程度とする場合もあれば、1〜20時間程度とすることもできる。
上記酵素分解工程後の酵素失活工程は、酵素反応を停止するため分解酵素の失活を行う工程であり、後述する蛋白質変性工程を酵素分解工程直後に行う場合は、蛋白質変性工程後に行う。蛋白質変性工程により分解酵素が失活される場合もあり、その場合は、この酵素失活工程を省略することもできる。また、酵素分解工程を経た魚介類を、酵素反応が進行しないような低温で一定期間冷凍保存する場合は、冷凍保存後の解凍時に行うこともできる。酵素失活は加熱処理によることができ、例えば、90〜125℃、5〜60分間、より好ましくは100〜125℃で、5〜20分間の加熱処理によることができる。
本発明の加工食品は、上記酵素分解工程により酵素反応により基質の分解を行っても、柔軟化が達成できない未加熱の魚介類に対し、蛋白質を穏やかに加熱変性する蛋白質変性工程を経て得られるものである。蛋白質変性工程は、上記圧力処理工程により表面に接触させた分解酵素を内部に均一に導入させることが困難な未加熱の魚介類に対して行う。圧力処理により分解酵素は内部に均一に導入され、酵素反応により基質の分解が行われるものの、柔軟化が充分になされない未加熱の魚介類に対して必要に応じて酵素分解工程直後に行ってもよい。蛋白質変性工程は、上記凍結解凍工程前に、未加熱の魚介類の蛋白質を水分の存在下で穏やかな条件、即ち、50℃以上90℃以下に加熱して変性する工程であり、魚介類の筋肉に含まれるアクチンや、トロポミオシンの分解を促進させることができる。ここにおいて、得られる加工食品において魚介類に含まれるアクチンやトロポミオシンの含有量が原料の魚介類に含有されるこれらの含有量の50質量%以下になるように加熱処理を行う。アクチンやトロポミオシンの含有量は、魚肉をホモジナイズしSDS−ポリアクリルアミド電気泳動で分離してから染色し、ゲルをスキャナーなどで読み取る。読み取った像をQuantity One(バイオラッド社製)などの電気泳動解析ソフトウエアで解析することで、アクチンやトロポミオシンの相対的な含有量を知ることができる。
蛋白質変性工程を上記凍結解凍工程前に行う。魚介類の種類、即ち、魚介類の組織を形成する蛋白質に応じて、必要ならば、酵素分解工程直後に行うこともできる。ここで、未加熱の魚介類とは、蛋白質が加熱変性されていない魚介類をいい、上記酵素分解工程を室温を超える温度で行う場合であっても、蛋白質が加熱変性されていない限りにおいて、酵素分解工程後の魚介類は未加熱の魚介類である。
上記圧力処理工程により表面に接触させた分解酵素を内部に均一に導入させることが困難な魚介類に対して、蛋白質変性工程は上記凍結解凍工程前に行う。穏やかな条件で魚介類の蛋白質の加熱変性を行った後、上記凍結解凍工程を行うことにより、未加熱の状態の変性前の蛋白質の組織より、組織間や細胞内に含まれる水分の凍結により形成される空間が拡張され、分解酵素の導入を容易にする。更に、蛋白質の立体構造が、プロテアーゼ等の分解酵素の作用を受けやすい構造に変化されることが考えられる。凍結解凍工程前の蛋白質の加熱変性により柔軟化を達成することができる魚介類としては、エビ類、蛤、アサリ、シジミ等の殻付の貝類を挙げることができる。
蛋白質変性工程における蛋白質を穏やかに加熱変性させる方法としては、水の存在下での加熱、例えば、ボイル又は蒸す方法を挙げることができる。水分の存在下の加熱により、蛋白質の変性を容易に行うことができる。その条件は、魚介類の種類に応じて適宜選択することが好ましく、50℃以上、90℃以下とする。ボイルする場合は、好ましくは50℃以上80℃以下であり、蒸す場合は、蒸気の温度は100℃であるが、魚介類の温度は、50℃以上90℃以下、好ましくは60℃以上80℃以下である。その時間は、2分〜20分間を挙げることができる。
更に、上記酵素分解工程のいずれかの時期に乾燥処理を行うことにより、干物、燻製等の加工食品とすることができる。干物、燻製にすることにより、保存性や、風味、旨味を増加することができる。乾燥処理は天日干しであっても、熱風又は送風等による強制乾燥処理であってもよく、凍結乾燥処理、真空乾燥処理、燻煙処理であってもよい。
乾燥処理を行う時期としては、酵素分解工程後蛋白質変性工程前や、酵素失活工程後であってもよく、魚介類の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、鯵であれば、酵素分解工程後蛋白質変性工程前に行うことが好ましく、チリメンジャコであれば、酵素失活工程後に行うことが好ましい。
乾燥処理を施す魚介類としては、例えば、鯵、秋刀魚、鯖、ホッケ、鰯等の魚類、鮑、帆立貝、牡蠣等の貝類、エビ、イカ、タコ、クラゲ、鰯の稚魚、ホヤ、ナマコ等を挙げることができる。鰯の稚魚からは柔軟なチリメンジャコが得られる。ここで、チリメンジャコは、乾燥度が高いものに加え、乾燥度の低い、所謂シラス干しも含めたものをいう。また、乾燥フレークとして、ふりかけや中間水分食品として日持ちの良くした食感改良食品としても利用できる。
また、上記加工食品は、上記酵素失活工程後、長期保存するため、急速冷凍処理を施したものであってもよく、又は、調理のため、加圧加熱処理を施したものであってもよい。
上記の工程により得られる加工食品は、魚介類の形状を維持して魚介類に含まれる酵素基質が分解され、特に、硬さに関与しているミオシン重鎖、アクチン、トロポミオシンが分解され弾力性が低下される。重要な点は、魚介類内部に均一に導入された分解酵素による蛋白質や、ミオシン鎖の分解だけでは咀嚼、嚥下困難な高齢者にとって充分な軟化性が得られないこと、アクチン、トロポミオシン及び熱凝固蛋白質が同時に分解されて初めて、魚介類の形状保持した柔軟性が得られることである。即ち、分解酵素の魚介類の組織への均一な導入、酵素反応によるミオシン重鎖や熱凝固蛋白質の分解、穏やかな加熱による蛋白質変性処理によるアクチン及びトロポミオシンの分解、酵素失活の各工程において、魚介類の形状を保持したまま軟化させることが必要である。アクチン及びトロポミオシンの分解は、分解酵素による蛋白質の分解と穏やかな加熱工程の両工程が相俟って生じ、魚介類組織の蛋白質が分解され弾力性が低下される。これにより魚介類に含有される水溶性蛋白質やペプチドの含有量が増加し、呈味性が増強し、柔らかさと味の向上が図られる。更に、鯵、鰯等の小型魚等の骨付きの魚類においては、魚肉の骨離れが非常によく、シジミ、アサリ、蛤等の貝殻付の貝類においては、貝肉の貝殻離れが非常によく、食することが容易であり、高齢者の食事介護者の労を削減することができる。
本発明の加工食品の製造方法は、未加熱の魚介類を水分の存在下で50℃以上90℃以下に加熱して蛋白質を変性させる蛋白質変性工程を経て得られた魚介類を凍結後解凍する凍結解凍工程後、表面に接触させた分解酵素を圧力処理により魚介類の内部に均一に導入させる圧力処理工程、分解酵素の作用により酵素基質を分解させる酵素分解工程、分解酵素を失活させる酵素失活工程を有し、未加熱の魚介類の形状を保持し、未加熱の魚介類に含有されるアクチン及びトロポミオシンをそれぞれ50質量%以上減少させた加工食品を得ることを特徴とする。
本発明のエキスは、上記加工食品から、該加工食品の形状をそのまま保持して水抽出した抽出物を用いて得られるものである。上記加工食品からの抽出物の抽出方法としては、例えば、上記加工食品を茹で、湯中に抽出物を抽出させる方法等を挙げることができる。上記エキスは、抽出物そのものであっても、また、抽出物を濃縮して得られる濃縮液や、粉末状、顆粒状としたものであってもよい。上記エキスは、魚介類に含有される水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸、多糖類等が含まれ、栄養価が高く、咀嚼、嚥下が困難な者が摂取する食事の補助剤として好適な他、出汁等として使用することもできる。
次に本発明について実施例より詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
参考例1]
内臓及び頭脚を取り除いた生のスルメイカ胴肉部を凍結し、−20℃で24時間放置後、室温で解凍した。このとき、イカを水中に漬浸して、凍結前の体積に対し3%以上増加していることを確認した。表皮を剥き体軸に対して直角に2cm幅で切断した。パパインW40(天野エンザイム社製)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)、ブロメラインF(天野エンザイム社製)を用いて、それぞれ0.5質量%の分解酵素水溶液を調製した。調製した各分解酵素水溶液をそれぞれ容器に入れ、これにイカ肉を浸漬し、容器を真空チャンバーに入れ、真空ポンプで減圧し、0.005MPaで5分間維持した。大気圧に戻してから、イカ肉を分解酵素水溶液から取り出しバットにならべ、10℃で16時間酵素反応を行った。その後、45℃、50℃、55℃、60℃又は65℃の湯で、それぞれ2分間加熱し、蛋白質変性を行った。得られたイカ肉は、外観は処理前の外観と同じであり、箸で容易に切断できる硬さであった。以下の方法によりイカ肉の破断強度を測定した。結果を図4に示す。
破断強度はレオメーター(RheonerII:山電製)を用い、プランジャー直径3mm、圧縮率70%、圧縮速度10mm/secの条件で測定した。
いずれの酵素で処理したイカも破断強度は低下した。酵素反応直後の60〜65℃の蛋白質変性加熱により破断強度は厚生労働省が定める高齢者用食品の表示許可基準値、5.0×104N/m2以下を満たしており、55℃以上、特に60〜65℃における蛋白質変性処理が有効であることが分かった。
[実施例2]
外殻を除去した無頭エビ(バナメイ)を20℃、50℃、60℃、70℃、80℃又は100℃の湯で、それぞれ5分間加熱し、蛋白質変性を行った。加熱後のエビを−20℃で凍結した。室温解凍の後、以下に示す2通りの方法で圧力処理及び酵素反応を行った。
(真空チャンバー法)
パパインW40(天野エンザイム社製)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)、ブロメラインF(天野エンザイム社製)、食品用精製パパイン(ナガセケムテックス社製)、又はトリプシン5(日本バイオコン社製)を用い、0.5質量%の分解酵素水溶液を調製し、この分解酵素水溶液を容器に入れ、これにエビを1分間浸漬し、容器を真空チャンバーに入れ、真空ポンプで減圧し、0.005MPaで1分間維持した。大気圧に戻してから、エビを分解酵素水溶液から取り出しバットにならべ、10℃で16時間酵素反応を行った。
(真空パック法)
一方、真空チャンバー法と同様の分解酵素水溶液を調製し、各分解酵素水溶液にエビを1分間浸漬してから取り出し包装材にいれ、真空包装機で5分間、真空度98%を維持した。包装材にいれたまま、10℃で16時間酵素反応を行った。
その後、100℃の蒸気で5分間加熱し、酵素失活を行った。得られたエビは、外観は処理前の外観と同じであり、箸で容易に切断できる硬さであった。参考例1と同様にエビの破断強度を測定した。結果を図5に示す。
得られたエビの中心部を切り取り、水溶性蛋白質のゲルろ過分析を行なった。精製水を用いてホモジナイズしたエビの遠心上清を材料とし、LC−10AD(島津製作所製)とSuperdex Peptide HR 10/30カラム(GE Healthcare Life Sciences社製)を用い0.3mm/minの流量でゲルろ過を行い、220nmの吸光度で検出した。結果を図6(a)に示す。図中、Bは、得られたエビの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるクロマトグラムを示し、Aは処理をしていないエビのHPLCクロマトグラムを示す。また、限外濾過によって得られた分子量10000以下のペプチドに関してローリー法により定量を行った。結果を図7に示す。水溶性蛋白質画分は原料のエビ(無処理)と比較してピーク面積比で2倍以上に増加し、ペプチドも2倍以上増加した。また、旨みが増強されたことも確認された。
[比較例2]
加熱による蛋白質変性を行わずに実施例2と同様に凍結解凍したエビを、10℃で16時間放置し、実施例2と同様に破断強度を測定した。破断強度は1.3×106N/m2であった。
実施例2で得られたいずれのエビも比較例2で得られたエビと比べて、破断強度は大幅に低下し、70℃で加熱したエビは、最も軟化し、厚生労働省が定める高齢者用食品の表示許可基準値を満たすことが分かった。
参考例3]
参考例1と同様に、凍結、解凍後、切断したスルメイカを用い、以下に示す2通りの方法で圧力処理及び酵素反応を行った。
(真空チャンバー法)
パパインW40(天野エンザイム社製)を用い、0.5質量%の分解酵素水溶液を調製し、この分解酵素水溶液を容器に入れ、これにイカ肉を浸漬し、容器を真空チャンバーに入れ、真空ポンプで減圧し、0.005MPaで5分間維持した。大気圧に戻してから、イカを分解酵素水溶液から取り出しバットにならべ、10℃で40時間酵素反応を行った。
(真空パック法)
一方、調製したパパインW40(天野エンザイム社製)の0.5質量%の分解酵素水溶液とイカを包装材にいれ、真空包装機で5分間真空状態を維持した。包装材を開封し、分解酵素水溶液を除去して、再度真空包装機で真空度98%を維持して熱シールした。包装材に入れたまま、10℃で40時間酵素反応を行った。
その後、100℃の蒸気で5分間加熱し、蛋白質変性と酵素失活を行った。得られたイカは、外観は処理前の外観と同じであり、箸で容易に切断できる硬さであった。参考例1と同様にイカの破断強度を測定した。
得られたイカの中心部を切り取り、参考例3と同様に、水溶性蛋白質のゲルろ過分析及びペプチドの定量を行った。結果をそれぞれ、図6(b)、図7に示す。図6(b)中、Bは、得られたイカの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるクロマトグラムを示し、Aは処理をしていないイカのHPLCクロマトグラムを示す。水溶性ペプチド画分はピーク面積比で原料のイカ(無処理)と比較して2倍以上に増加し、アミノ酸、ペプチドも2倍以上増加した。旨みが増強されたことが確認された。
[比較例3]
参考例3と同様に凍結解凍したイカを、10℃で40時間放置してから、100℃の蒸気で5分間加熱し、破断強度を測定した。破断強度は1.1×106N/m2であった。
参考例3の真空チャンバー法で得られたイカの破断強度は3.1×104N/m2で、真空パック法で得られたイカの破断強度は5.0×104N/m2であり、比較例3で得られたイカと比べて、破断強度は大幅に低下し、厚生労働省が定める高齢者用食品の表示許可基準値を満たしていた。
参考例4]
生の鮎をそのまま凍結し、−20℃で24時間放置後、室温で解凍し、背骨に沿って二枚卸にした。パパインW40(天野エンザイム社製)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)、ブロメラインF(天野エンザイム社製)を用いて、それぞれ0.5質量%の分解酵素水溶液を調製した。調製した各分解酵素水溶液をそれぞれ包装材に入れ、これに鮎を入れ、真空包装機で5分間真空度98%を維持した。包装材を開封し、分解酵素水溶液を除去して、再度真空包装機で真空パックし熱シールした。包装材に入れたまま、10℃で16時間酵素反応を行った。
その後、パックから取り出した鮎を100℃の蒸気で5分間加熱し、蛋白質変性と酵素失活を行った。得られた鮎は、外観は処理前の外観と同じであり、箸で容易に切断できる硬さで、骨からの身離れも良好であった。参考例1と同様に鮎の破断強度を測定した。結果を図8に示す。
参考例4と同様に凍結解凍した鮎を、10℃で16時間放置し、100℃の蒸気で5分間加熱し、破断強度を測定した。結果を図8に示す。
参考例4で得られた鮎の破断強度は、比較例4で得られた鮎と比べて、破断強度は大幅に低下し、厚生労働省が定める高齢者用食品の表示許可基準値を満たしていた。
参考例5]
生の牡蠣をそのまま凍結し、−30℃で24時間放置後、室温で解凍した。ブロメラインF(天野エンザイム社製)、食品用精製パパイン(ナガセケムテックス社製)を用い、それぞれ0.5質量%の分解酵素水溶液を調製した。調製した各分解酵素水溶液をそれぞれ容器に入れ、これに牡蠣を浸漬し、容器を真空チャンバーに入れ、真空ポンプで減圧し、0.005MPaで5分間維持した。大気圧に戻してから、牡蠣を分解酵素水溶液から取り出しバットにならべ、10℃で16時間酵素反応を行った。その後、沸騰水中に入れ、蛋白質変性と酵素失活を行い、沸騰水中に抽出物を抽出させ、沸騰水を濃縮してエキスを得た。得られたカキエキスは、アミノ酸、グリコーゲンを含有し、旨みが強いものであった。
参考例6]
生の鯵を背骨に沿って二枚卸にし、6%食塩水に1時間浸漬した後凍結し、−20℃で24時間放置後、室温で解凍した。パパインW40(天野エンザイム社製)を用いて、0.2質量%の分解酵素水溶液を調製した。調製した分解酵素水溶液と鯵を包装材に入れ、圧力チャンバー内で1000気圧で30分間維持した。包装材を開封し、分解酵素水溶液を除去し、真空包装機で真空度98%で真空パックし熱シールした後、10℃で16時間酵素反応を行った。
その後、鯵を包装材から取り出し、30℃4時間の冷風乾燥を行い、干物を得た。得られた鯵の干物の水分活性値を水分活性測定装置(Novasina社製)より測定したところ、0.78であった。再びパックに収納し、90℃の湯中で5分間加熱し、蛋白質変性と酵素失活を行った。
得られた鯵の外観は処理前の外観と同じであり、箸で容易に切断できる硬さで、骨からの身離れも良好であった。参考例1と同様に破断強度を測定した。鯵の干物の破断強度は6.92×104N/m2であり、元の鯵の約1/2の硬さになっていた。
冷風乾燥に替えて、熱風乾燥、燻煙処理を行ったが、得られた干物は、外観、破断強度もいずれも冷風乾燥により得られた干物と同様に、外観が維持され、破断強度の低いものであった。
参考例7]
圧力チャンバー内における1000気圧の加圧処理に替えて、真空チャンバー内における0.005MPaの減圧処理を行った他は、参考例6と同様にしてアジの干物を作製し、破断強度を測定した。得られたアジの干物は外観は処理前の外観と同じであり、箸で容易に切断できる硬さで、骨からの身離れも良好であった。破断強度も厚生労働省が定める高齢者用食品の表示許可基準値を満たしていた。
参考例8]
冷凍マダラを室温で解凍し、1cm幅の切り身とした。パパインW40(天野エンザイム社製)を用いて、それぞれ0.5質量%の分解酵素水溶液を調製した。この分解酵素水溶液を容器に入れ、これに切り身を浸漬し、容器を真空チャンバーに入れ、真空ポンプで減圧し、0.005MPaで5分間維持した。大気圧に戻してから、切り身を分解酵素水溶液から取り出しバットにならべ、10℃で18時間酵素反応を行った。切り身をそれぞれ40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃で5分間加熱し蛋白質変性処理を行った。その後、蛋白質変性処理したマダラに精製水を加えホモジナイズした。ホモジナイズしたマダラをドデシル硫酸ナトリウムで可溶化処理し、10%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動測定装置(バイオラッド社製)に供した。結果を図9(a)に示す。蛋白質変性処理における加熱温度が上昇するにつれ、アクチン及びトロポミオシンに相当するバンドが消失した。蛋白質変性処理において40℃以上の加熱を行ったとき、アクチンとトロポミオシンの含有量はそれぞれ、原料の冷凍マダラに含有されるアクチンとトロポミオシンの含有量の50質量%以下であった。得られたマダラは原料の形状を有し、極めて柔軟であった。
[比較例8]
分解酵素水溶液を用いないこと以外は、参考例8と同様にして冷凍マダラについて処理を行い、電気泳動に供した。結果を図9(b)に示す。蛋白質変性処理の処理温度が上昇してもバンドのパターンに変化は見られなかった。得られたマダラは、アクチンとトロポミオシンの含有量も弾性も原料のマダラと略同じであった。
参考例9]
冷凍マダラ、サケ、アユ、アジ、ブリ、クロダイ、カツオ、シイラを室温で解凍し、1cm幅の切り身とした。パパインW40(天野エンザイム社製)を用いて、それぞれ0.5質量%の分解酵素水溶液を調製した。この分解酵素水溶液を容器に入れ、これに切り身を浸漬し、容器を真空チャンバーに入れ、真空ポンプで減圧し、0.005MPaで5分間維持した。大気圧に戻してから、切り身を分解酵素水溶液から取り出しバットにならべ、10℃で20時間酵素反応を行った。その後、切り身に水を加えホモジナイズし、100℃で10分間加熱し、蛋白質変性処理をした。遠心分離により上清を回収し、蛋白質濃度をローリー法により測定した。検量線は牛血清アルブミン水溶液で作成した。結果を図10(a)に示す。得られた切り身は、熱凝固蛋白質の含有量はいずれも極僅かであり、原料の切り身が含有する熱凝固蛋白質に対し、50質量%以下であり、極めて柔軟であった。酵素処理を行うことで、魚肉の熱凝固蛋白質が分解され大幅に減少した。
[比較例9]
分解酵素水を用いないこと以外は、参考例9と同様にして各種魚肉について処理を行い、熱凝固蛋白質濃度を測定した。結果を図10(b)に示す。魚肉の熱凝固蛋白質が分解されていないことが分かる。
本発明の加工食品は、加熱処理や乾燥処理により、身が締まり硬くなる魚介類に対して、その形状を維持して柔軟性を付与することができ、ノロウイルスや腸炎ビブリオ菌等に感染され易く、同時に咀嚼・嚥下が困難な高齢者にとって、容易に食することができ、更に、骨付き、貝殻付きの魚介類においては骨離れ、貝殻離れがよく、高齢者が食するための介護者の負担を軽減することができ、利用価値は高く、更に、効率よく製造することが可能であり、工業上の利用価値も極めて高く、産業上の利用可能性は大きい。

Claims (12)

  1. 未加熱の魚介類を水分の存在下で50℃以上90℃以下に加熱して蛋白質を変性させる蛋白質変性工程を経て得られた魚介類を凍結後解凍する凍結解凍工程後、表面に接触させた分解酵素を圧力処理により魚介類の内部に均一に導入させる圧力処理工程、分解酵素の作用により酵素基質を分解させる酵素分解工程、分解酵素を失活させる酵素失活工程を経て得られ未加熱の魚介類の形状を保持した柔軟な食感を有し、未加熱の魚介類に含有されるアクチン及びトロポミオシンをそれぞれ50質量%以上減少させたものであることを特徴とする加工食品。
  2. 未加熱の魚介類に含有される熱凝固蛋白質又はミオシン重鎖のいずれか1種以上を50質量%以上減少させたものであることを特徴とする請求項1記載の加工食品。
  3. 凍結解凍工程において、凍結解凍工程前の生の魚介類の体積に対し3%以上膨張させ、圧力処理工程において、凍結解凍工程前の生の魚介類の体積に対し3%以上変化させることを特徴とする請求項1又は2記載の加工食品。
  4. 魚介類がエビ類、殻付貝類であることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の加工食品。
  5. 酵素分解工程後のいずれかの時期に乾燥処理を施したものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の加工食品。
  6. 酵素失活工程後、急速冷凍処理を施したものであることを特徴とする請求項1からのいずれか記載の加工食品。
  7. 酵素失活工程後、加圧加熱処理を施したものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか記載の加工食品。
  8. 未加熱の魚介類に含有される水溶性蛋白質又はペプチドに対して、水溶性蛋白質又はペプチドが3質量%以上増加したことを特徴とする請求項1から7のいずれか記載の加工食品。
  9. 請求項1から8のいずれか記載の加工食品から、該加工食品の形状をそのまま保持して水抽出した抽出物を用いて得られることを特徴とするエキス。
  10. 未加熱の魚介類を水分の存在下で50℃以上90℃以下に加熱して蛋白質を変性させる蛋白質変性工程を経て得られた魚介類を凍結後解凍する凍結解凍工程後、表面に接触させた分解酵素を圧力処理により魚介類の内部に均一に導入させる圧力処理工程、分解酵素の作用により酵素基質を分解させる酵素分解工程、分解酵素を失活させる酵素失活工程を有し、未加熱の魚介類の形状を保持し、未加熱の魚介類に含有されるアクチン及びトロポミオシンをそれぞれ50質量%以上減少させた加工食品を得ることを特徴とする加工食品の製造方法。
  11. 未加熱の魚介類に含有される熱凝固蛋白質又はミオシン重鎖のいずれか1種以上を50質量%以上減少させることを特徴とする請求項10記載の加工食品の製造方法。
  12. 凍結解凍工程において、凍結解凍工程前の生の魚介類の体積に対し3%以上膨張させ、圧力処理工程において、凍結解凍工程前の生の魚介類の体積に対し3%以上変化させることを特徴とする請求項10又は11記載の加工食品の製造方法。
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