JP2010100897A - Zn−Al−Mg系めっき鋼板及びその製造方法 - Google Patents

Zn−Al−Mg系めっき鋼板及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、乾湿繰り返し環境下での優れた耐食性を有する溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼板の少なくとも片面に、Alが4〜15質量%、Mgが2〜8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層を有し、該めっき層に含有されるMg-Zn系化合物は、塊状で存在せず、めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層方向に柱状に成長して、めっき層表面に露出した柱状で存在し、そのめっき層表面における露出面積率が15〜60%であることを特徴とする乾湿繰り返し環境下での耐食性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板、及びその製造方法。
【選択図】 図1

Description

本発明は、未塗装もしくは塗装して使用する建材、家電製品、自動車などに好適に用いることができ、特に、現実的な腐食環境である乾湿繰り返し環境において優れた耐食性を有する溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板及びその製造方法に関する。
溶融亜鉛系めっき鋼板は優れた耐食性が比較的安価に得られることから、建材、家電製品、自動車などに幅広く用いられてきた。近年になって、耐食性の要求レベルが高度化するにつれて、亜鉛にAl、Mg、Siなどを添加した多元系合金めっきが開発された。
特許文献1には、下層にNiめっき層を0.2〜2g/m有し、上層に重量%でAl:3〜6%、Mg:1〜7%、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、Zn初晶相とAl/Zn/MgZnの三元共晶相より構成される、塗装後耐食性に優れた溶融Zn−Al−Mgめっき鋼板が開示されている。
特許文献2には、下層にNiめっき層を0.2〜2g/m有し、上層にAl:8〜30%、Mg:1〜5%、残部がZnおよび不可避的不純物からなる耐食性と意匠性に優れた溶融Zn−Al−Mgめっき鋼板が開示されている。
特許文献3には、下層にNi-Fe(1〜50%)めっき層を0.1〜3g/m有し、上層にAl:4〜15%、Mg:2〜10%、残部がZnおよび不可避的不純物からなる耐食性と意匠性に優れた溶融Zn−Al−Mgめっき鋼板が提案されている。
特開2000−219950号公報 特開2000−64012号公報 特願2008−182983号明細書
しかしながら、これらの従来技術には課題がある。
特許文献1に記載の技術は、Znリッチであるため塗装後耐食性、切断端面の耐食性に向上は見られる。しかしAl初晶、Mg-Zn化合物のいずれをも有しないため、厳しい濡れ渇き環境では耐食性が劣る。
特許文献2に記載の技術は、AlリッチのZn相(Al初晶)、Zn−Mg−Al相(三元共晶)が均一に混在しているため、均一で美麗なスパングルが得られるものの、耐食性向上効果を有するMgZn相もまた微細分散して存在するため、耐食性を長期間にわたって持続的に向上させるには至らない。
特許文献3に記載の技術は、Al初晶を制御し、良好なめっき外観が得られるものの、耐食性向上効果を有するMg-Zn系化合物がめっき層内に塊状結晶と柱状結晶の形で混在して存在するため、耐食性を長期間にわたって変動なく安定に持続するのに最適なめっき構造にはなっていない。
すなわち、従来技術においては、亜鉛にAl、Mg、Siなどを添加した多元系合金めっきでは、Mg-Zn化合物等が存在することで耐食性に優れるということが知られてきたが、現実的な腐食環境である乾湿繰り返し環境において、最も優れた耐食性を長期にわたって変動なく安定的に発現させるためには、耐食性に影響するMg−Zn系化合物をどのような存在形態でめっき層中に存在させることが最適であるかの公知技術や発明はなく、これまで耐食性に最適なめっき相設計には至っていなかったと言わざるを得ない。
Zn−Al−Mg系めっきは凝固の過程でAl初晶が発生成長し、続いてMg−Zn系化合物やZn−Mg−Alの三元共晶の析出が起こることが知られている。めっき層中でのMgは柱状および塊状のMg−Zn系化合物、またはラメラ構造を有するZn−Mg−Alの三元共晶中に存在している。
本発明者らは、従来技術の有する課題を抜本的に解決すべく、Zn−Al−Mg系めっきのめっき相構造と耐食性との関係について考察した。その結果、耐食性を最も長期にわたって変動なく安定的に発現させるためには、めっき層中におけるMg−Zn系化合物の存在形態を適切に制御すべきであることを知見した。
すなわち、Zn−Al−Mg系めっき層中にめっき層と地鉄との界面からめっき表層方向に柱状に成長し、めっき表層面へ露出したMg−Zn系化合物のみを含有するようにめっき相を制御させることにより、腐食環境の初期からMg−Zn系化合物の溶解に伴う溶出Mgの防錆効果により、以後の乾湿繰り返し腐食環境における腐食の進行を格段に遅らせることができることを知見できた。
めっき層中にMg−Zn系化合物の塊状結晶が存在すると、腐食の進行に伴って塊状結晶が溶解すると、一過的にMgの多量なめっき層表面への溶出が起こるが、その殆どは適正にめっきの腐食生成物(塩基性亜鉛化合物)の安定化効果に寄与せず、流れ落ちるため、安定的な耐食性が長期に保たれない。耐食性を最も長期にわたって変動なく安定的に発現させるためには、めっき層中にめっき層と地鉄との界面からめっき表層方向に柱状に成長して、めっき層表面に露出した結晶形態のMg-Zn系化合物のみが存在し、めっきの腐食初期からめっき全体が消失までMg−Zn系化合物が徐々に一定速度で定常的に溶解することで防食に寄与できる適正量のMgがめっき表面に供給されることが必須である。
ここで、ラメラ構造を有するZn−Mg−Alの三元共晶中にもMgが存在するが、その含有量は少なく、実質的に乾湿繰り返し環境において耐食性を長期にわたって変動なく安定的に発現させるには効果代が小さく、Mg−Zn系化合物の存在形態の制御が最適である。
本発明者らは上記の指針に従って、耐食性を最適とするめっき相構造の製造方法について鋭意検討した。その結果、好ましくは溶融めっきに先立って、鋼板表面に特定付着量の
Niめっきを付与し、適切な酸水溶液浸漬処理を行った後で、無酸化あるいは還元性雰囲気で、実質的にNiめっきが鋼中拡散あるいは地鉄と合金化しない温度範囲で加熱し、ただちに溶融Zn−Al−Mg系めっき浴中でめっきして冷却することにより、Mg−Zn系化合物が柱状にのみ成長し、少なくともその一部が好適にめっき表層に露出した溶融Zn−Al−Mg系めっきを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の要旨は、以下の構成から成る。
(1)鋼板の少なくとも片面に、Alが4〜15質量%、Mgが2〜8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層を有し、該めっき層に含有されるMg-Zn系化合物は、塊状で存在せず、めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層方向に柱状に成長して、めっき層表面に露出した柱状で存在し、そのめっき層表面における露出面積率が15〜60%であることを特徴とする乾湿繰り返し環境下での耐食性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板。
(2)上記めっき層中に、さらにSiを0.01〜1質量%含有することを特徴とする上記(1)記載の乾湿繰り返し環境下での耐食性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板。
(3)上記(1)または(2)に記載のめっき鋼板の製造方法であって、鋼板表面を清浄後、その少なくとも片面に付着量が0.1〜3.0g/mのNiめっき被覆層を形成させたのち、硝酸濃度10〜30質量%の水溶液に、5〜30sec浸漬し水洗し、直ちに塩酸濃度5〜20質量%の水溶液に1〜5sec浸漬し水洗した後で、無酸化あるいは還元性雰囲気で板温400℃以上、500℃以下に加熱し、Alが4〜15質量%、Mgを2〜8質量%含有した浴温400℃以上、500℃以下の溶融亜鉛めっき浴でめっきして、冷却速度25℃/sec以下で冷却することを特徴とする乾湿繰り返し環境下での耐食性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
(4)溶融亜鉛めっき浴中に、更にSiを0.01〜1質量%含有することを特徴とする上記(3)記載の乾湿繰り返し環境下での耐食性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
本発明によれば、乾湿繰り返しの現実的な腐食環境において優れた耐食性を有する溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を提供できる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、鋼板の少なくとも片面に、Alが4〜15質量%、Mgが2〜8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層を有し、該めっき層に含有されるMg-Zn系化合物は、塊状で存在せず、めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層方向に柱状に成長して、少なくともその一部がめっき層表面に露出した柱状で存在し、そのめっき層表面における露出面積率が15〜60%であることを特徴とする乾湿繰り返し環境下での耐食性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板が得られることを見出したことに最大の特徴がある。
上記の様にMg−Zn系化合物の存在形態を制御する好ましい手段として、鋼板表面に特定付着量のNiめっきを付与し、適切な酸水溶液浸漬処理を行った後で、これを無酸化あるいは還元性雰囲気で、前述のNiめっきが実質的に鋼中に拡散あるいは地鉄と合金化しない温度で加熱し、特定組成の溶融Zn−Al−Mg系めっき浴中でめっきして冷却することにより、Al晶を地鉄に対してめっき層と地鉄との界面からめっき表層方向へ向けて縦方向(めっき層の厚さ方向)に結晶成長させることで、Al晶が占有しないめっき層内で、Mg−Zn系化合物が柱状に成長し、且つ好適にめっき表層に露出させることで、従来の溶融Zn−Al−Mg系めっきと比較して、乾湿繰り返しの環境下における耐食性を大幅に向上させることができる点も最大の技術のポイントがある。
なお、この発明において「めっき層と地鉄との界面」とは、めっき層と地鉄との界面近傍を含む。
以下、本発明における各条件の限定理由について述べる。
本発明に至る過程で、まず種々のZn−Al−Mg系めっき鋼板を乾湿繰り返し試験(0.5%NaCl−35℃塩水噴霧試験:2時間→60℃30%RH乾燥:4時間→50℃−98%RH湿潤:2時間を1サイクルとする。以下、CCTという)環境で錆びさせた後で取り出し、めっき腐食断面および脱錆後の表面をSEM−EDX、X線回折(XRD)等の物理分析機器を用いた詳細観察を行った結果、めっき表層から腐食が進行する際に、明確なめっき相成分による腐食序列(以下、相間腐食序列という)が存在することに気づいた。この知見は本発明の骨子となるものである。
確認された相間腐食序列は、Zn−Mg相(Mg−Zn系化合物)>Al相(晶)>Al−Zn相>Zn−Al相>Zn相の順となっており、めっき表層にこれらのいくつかの相が混在して露出していると、上記相間腐食序列に沿って腐食が始まることがわかった。特にSST(塩水噴霧試験)環境下ではZn−Mg相の溶解(腐食)速度は速く、めっき表層にZn−Mg相が露出していると顕著であった。
ここでZn−Mg相とは、MgZnもしくはMgZn11よりなる金属間化合物であり、何れか一方もしくはその両方であってもかまわないが、Mg含有率の高いMgZnがより望ましい。
種々の製法で作製されたZn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき層を観察してみると、Zn−Mg相の結晶形態は二つに分類される。すなわち、めっき層と地鉄との界面からめっき表層方向に柱状結晶が成長し、且つめっき表層面への露出した形態のもの(以下、柱状晶という)とめっき層内でAl晶の樹枝状結晶の近傍に塊状結晶になったもの(以下、塊状晶という)とが存在することが判明した。前述したように、腐食初期からの溶解しやすさを考えると、柱状晶の方が塊状晶に比べて溶解しやすい形態であるといえる。
更に、Zn−Mg相は従来から知られているMgの防錆効果を担う相であり、溶解することでMgがめっき表層に供給されるため、めっきの腐食抑制に効く。柱状晶の方が塊状晶に比べて定常的に一定速度で溶解しやすいため、柱状晶の方が塊状晶に比べて持続的な長期の腐食抑制能が高い。すなわち、Zn−Mg相の柱状晶はCCT環境下では腐食初期のSST工程でZn−Mg相が優先的に溶解しやすく、めっき表層にMgが供給されると、Znの初期腐食生成物である塩基性塩化亜鉛のバリア効果を発揮し、腐食の進行が抑制されやすい。
他方、種々の製法で作製されたZn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき層を観察した結果、Zn−Mg相の柱状晶は六角晶の柱状(図1−b参照)であるため、地鉄からめっき表層方向に垂直な面(めっき表層面に平行な面)で見たときに、どのめっき層深さの平面と交差した柱状Zn−Mg相の切り口に露出する結晶形状はめっき表層に露出した形状とほぼ合同な形状(同面積)となる。このため、柱状晶のめっき表層への露出面積が小さすぎると、Zn−Mg相の溶解速度が小さすぎてMgの防錆効果が発揮されず、また露出面積が大きすぎると、Zn−Mg相の溶解速度が大きすぎて腐食の初期にめっき表層へのMgの供給が終了するため、防錆効果が長期に持続できなくなる。
従って、乾湿繰り返し環境下での耐食性を確保する条件として、腐食の初期から長期にわたりZn−Mg相の溶解が持続して進行するために、Zn−Mg柱状晶のめっき表層面への露出面積率を好適な範囲とする必要がある。すなわち、防錆効果が発現する下限値が15%であり、防錆効果が長期に持続できない上限値が60%であることを見出した。この範囲を逸脱すると、良好な乾湿繰り返し環境における耐食性が得られないことを見出し、本発明に至ったものである。
本発明の乾湿繰り返し環境下での耐食性に優れたZn−Al−Mg系めっきの組成は、Alが4〜15質量%、Mgが2〜8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなり、該めっき層に含有されるMg-Zn系化合物は、塊状で存在せず、めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層方向に柱状に成長して、めっき層表面に露出した柱状で存在し、そのめっき層表面における露出面積率が15〜60%であることが必須である。
本発明のZn−Al−Mg系めっき鋼板は、図1に例示したようにAl晶(2)が、めっき層と地鉄との界面からめっき表層に向けて縦に析出し、Al晶(2)の周辺でMg−Zn系化合物(1)の柱状晶が形成されている。ただし、残部はZn−Al相やZn相等の混相からなる。図1において、白点線はMg−Zn化合物の柱状晶の外郭、矢印は柱状晶の太さを示している。
Zn−Al−Mg系めっきは凝固の過程で、まず、初期にAl晶が析出し、その後、遅れてAl晶の周辺にMg−Zn系化合物が析出するが、従来技術のZn−Al−Mg系めっき鋼板は、図2に示したようにAl晶(2)がめっき層と平行方向に樹枝状に析出するため、先に析出したAl晶に遮られて、Mg−Zn系化合物はめっき表層まで露出できず塊状晶(1)として存在する。
また、Al晶がめっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層に向けて縦に析出する場合においても、Al晶があまり密に析出し過ぎると、遅れて析出するMg−Zn系化合物は、Al晶に遮られてめっき表層まで十分に析出できずに、めっき層中に析出してしまい、めっき表層の露出面積率が少なくなる。従って、Mg−Zn系化合物の柱状晶生成には先行して起きるAl晶の生成の仕方を制御する必要がある。
本発明のZn−Al−Mg系めっきの組成をAl:4〜15質量%の範囲に限定した理由は、Alが4質量%未満では、めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層方向へ向かって凝固したAl晶が十分に形成されず、めっき層中にMg−Zn系化合物が形成されるため、めっき表層に露出するMg−Zn系化合物の面積率が15%未満となり耐食性が不足するためである。一方、Alが15質量%超では、Al晶が多く析出し過ぎてAl晶に邪魔され、めっき表層に露出するMg−Zn系化合物の面積率が15%未満となるためである。Alのより好適な範囲は4.2〜14.8質量%である。
Mgを2〜8質量%の範囲に限定した理由は、Mgが2質量%未満では、Mg−Zn系化合物の析出量そのものが少な過ぎてめっき表層に露出するMg−Zn系化合物の面積率が15%未満となり、Mgが8質量%超では、Mg−Zn系化合物は必要量に十分な量が形成されるが、Mg−Zn系化合物のめっき表面に露出した面積率が60%超となってしまい、好ましくないためである。更に本発明のZn−Al−Mg系めっきのより好適なMgの範囲は3〜7質量%である。
また、本発明のZn−Al−Mg系めっき鋼板において、めっき層中にSiを0.01〜1質量%含有させると、従来のZn−Al−Mg系めっき鋼板と同様にめっき密着性を向上させ、加工性や加工後の耐食性が向上する。その効果はSiが0.01質量%未満では不十分であり、1質量%超ではめっき浴への溶解が極めて困難であり、更にドロス発生へ直結した原因となるため好ましくない。Siのより好適な範囲は0.02〜0.09質量%である。
また、本発明のZn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき層においては、さらにTi,Ni,Zrのうち1種または2種以上を、それぞれまたは複合して0.5%以下(0%を含む)添加してもかまわない。これらの元素を添加することで乾湿繰り返し環境下での耐食性を劣化させることはなく、むしろめっき層表面の平滑性が向上しめっき外観上好ましい。
本発明者らは、めっき層中のMg−Zn系化合物の存在形態を適正に制御する方法として、鋼板表面に特定付着量のNiめっきを電気めっきで付与し、適切な酸水溶液浸漬処理を行った後で、これを無酸化あるいは還元性雰囲気で、前述のNiめっきが実質的に鋼中に拡散あるいは地鉄と合金化しない温度で加熱し、溶融Zn−Al−Mg系めっき浴中でめっきして、適正冷却条件で冷却することにより、複雑な凝固制御を必要とせずに、工業的に安定してAl晶をめっき層と地鉄との界面からめっき表層方向へ向かって凝固析出させ得ることも新たに知見した。
ここで、Niめっきの付着量は0.1〜3.0g/mである。Niめっきの付着量が0.10g/m未満では、Al晶はめっき層に平行な方向に凝固析出する樹枝状成長の傾向が顕著である。また、Niめっきの付着量が3.0g/m超では、溶融めっき前の電気めっき設備が1セル以上必要となり工業生産上好ましくない。Niめっきのより好ましい付着量は0.11〜2.8g/mである。
ここで、溶融めっき前のNiめっきの役割については、めっきの断面観察から以下のことが判明している。すなわち、溶融めっき前にNiめっき行うことで、溶融Zn−Al−Mg系めっき浴中に浸漬した直後のNi溶解によりAl晶の生成核となるAl−Ni相(NiAl、NiAl)が地鉄とめっきの界面に生成され、これを基点に地鉄とめっきの界面からめっき表層方向に安定したAl晶が成長する。特に、NiAlはAl晶との整合性が良く、Al晶生成核サイトとして好適である。
Zn−Al−Mg系めっき鋼板の作製時にNiめっきの後で行う酸水溶液浸漬処理は、以下のとおりである。
Niめっき直後に、硝酸濃度10〜30質量%の水溶液に、5〜30sec浸漬し水洗し、直ちに塩酸濃度5〜20質量%の水溶液に1〜5sec浸漬し水洗を行う。ここで、硝酸濃度10〜30質量%、且つ浸漬時間5〜30secの処理において硝酸は酸化性の酸のため、この条件でNiの表面に緻密な酸化皮膜を形成させる。硝酸水溶液のより好ましい濃度は12〜28質量%、浸漬時間は6〜29secで、塩酸水溶液のより好ましい濃度は6〜18質量%、浸漬時間は1.1〜4.7secである。
更に、塩酸濃度5〜20質量%、且つ浸漬時間1〜5secにおいて、塩酸は酸化膜をエッチングする効果をもつため、この条件でNi表面の緻密な酸化皮膜を不均質にエッチングさせ、点在して適正量のNiが表面に露出する。
この二段階の酸水溶液処理により、Niめっき表面に適当なNi溶出部位を強制的に点在させ、溶融めっき時にAl晶が太く成長できるようにAl−NiのAl晶生成核サイトを分散させることが可能となる。このとき、二段階の酸水溶液処理後に表面に残っているNiの酸化皮膜は、その後の無酸化あるいは還元性雰囲気で板温400℃以上、500℃以下に加熱し、浴温400℃以上、500℃以下の溶融亜鉛めっき浴でめっきする過程で消失するため、溶融亜鉛めっきの下地との密着性は極めて良好である。
前述のNiめっきが実質的に鋼中に拡散あるいは地鉄と合金化しない温度は、板温およびめっき浴温で500℃以下であり、より好ましくは420〜480℃の範囲である。500℃超ではNiめっきの鋼中への拡散あるいは地鉄と合金化により、Al−Ni相が生成せず、地鉄とめっきの界面からめっき表層方向に安定した太いAl晶が成長できないため、Mg−Zn系化合物の柱状晶を得る効果が低下するので望ましくない。また、400℃未満ではNiめっきの溶解が起こりづらく、耐食性に有利なめっき結晶の制御ができない。また、適正冷却条件としては25℃/sec以下の冷却速度が好ましい。この冷却速度よりも速いと、めっき層の縦方向に安定したAl晶の成長が起きづらくなるため、細いAl晶がめっき層内に多数生成し、Mg−Zn系化合物の柱状晶を妨げる。
本発明のZn−Al−Mg系めっき鋼板は、前述したNiめっきを施した後に、前述した酸水溶液処理を行い、前述した好適温度に加熱した鋼板を溶融Zn−Al−Mg浴に浸漬し、窒素でワイピングしてめっき付着量を狙い値に制御し、冷却することで容易に作製される。
本発明の乾湿繰り返し環境下での耐食性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき付着量は、鋼板片面あたり30〜550g/mが望ましい。より好ましい範囲は35〜520g/mである。
またZn−Al−Mg系めっきの浴温が500℃を超えると、浴からの亜鉛の蒸発が顕著になり、製造時にめっき浴の酸化ドロス発生量が多くなり、めっき欠陥が発生し易くなるので工業的には望ましくない。
本発明の乾湿繰り返し環境下での耐食性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板の製造に当たっては、用いる鋼材の材質や板厚は必ずしも限定されるものではない。本発明のめっき原板の鋼板としては、例えば熱延鋼板、焼鈍済冷延鋼板を用いることができる。また、建材や家電製品、自動車部品等への使用には、既存のリン酸塩処理やクロメート処理、さらに無機、有機、無機−有機複合型の既存のクロメートフリー処理等の後処理を施して使用する場合が多いが、これらの後処理を施しても本発明の効果は有効である。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
板厚1.6mmの熱延鋼板を塩酸を用いて脱スケールし、25質量%硫酸ニッケル浴を用いて、電気めっきにてNiめっきの付着量を変化させた。その後で所定の酸水溶液処理を行い、続いて、水素濃度6%の窒素雰囲気下で酸水溶液処理後のNiめっき鋼板を所定の板温に加熱して、所定温度の溶融Zn−Al−Mg系めっき浴に3秒間浸漬し、めっき付着量を窒素ガスワイピング方式で制御して所定量の付着量とし、直後にエアーワイピング方式で冷却して作製し、サンプル材とした。
1)Zn−Al−Mg系めっき層中のMg−Zn系化合物の結晶成長状態の観察:
Zn−Al−Mg系めっき層中のMg−Zn系化合物の結晶形態は、事実上めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層に向かって成長した柱状晶(図1−aの符号1で示した結晶形状のもの、および柱状晶が斜めに切り出されたものは図1−bの太線で示した六角状のもの)ないし、めっき層内に点在した塊状晶(図2の符号1に示した結晶形状のもの)のどちらかに分類される。
めっき層の300倍の電子顕微鏡写真を断面から、めっき層の長さ方向に1mm分連続して撮影した写真を連続に繋ぎ合わせて、Mg−Zn系化合物の存在状態がめっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層に向かって成長した柱状晶か、または柱状晶とめっき層内に点在した塊状晶の混在かを目視で確認した。
2)めっき層表面に露出したMg−Zn系化合物の測定法:
i )めっき層表面に露出したMg−Zn系化合物の同定
めっき表面に露出したMg−Zn系化合物の同定およびその面積測定は、SST:1〜3日の脱錆後が好適である。腐食時間が3日を越すと、Mg−Zn系化合物に加え、Al初晶の腐食も起こりだすため、面積測定精度が低下する。したがって、SST:3日後に25℃の2%クロム酸アンモニウム−5%アンモニア水溶液に2分浸漬して腐食層を除去し、めっき層表面に露出したMg−Zn系化合物を表面から電子顕微鏡を用いて、100倍で写真撮影した。
ii)めっき層表面に露出したMg−Zn系化合物面積率の算出方法
前述の100倍の電子顕微鏡写真を各サンプルでN5用いて、市販の画像解析ソフトを用いて、めっき表面に露出したMg−Zn化合物の面積を測り、平均値を求める。面積率は下記で算出した。
面積率=Mg−Zn化合物の露出面積のN5平均値/観察視野面積×100(%)
3)乾湿繰り返し環境での耐食性の評価:
めっき材を70×15mmに切断し、端面を防錆塗料でシールし、(0.5%NaCl−35℃塩水噴霧試験:2時間→60℃30%RH乾燥:4時間→50℃−98%RH湿潤:2時間を1サイクルとする)複合腐食サイクル試験を150サイクル実施した後、めっき層の腐食層を25℃の2%クロム酸アンモニウム−5%アンモニア水溶液に2分浸漬して除去し、前後の重量差から腐食重量を各サンプルでN3試験し測定した。
評点記号と耐食性の良否の関係は○、◎が良好、×、△が不良。
◎:腐食減量≦25g/m
○:25g/m超〜50g/m以下
△:50g/m超〜75g/m以下
X:75g/m
結果を次の表1(表1-1〜表1-4)のように示す。この表1から明らかなように、本発明の実施例(No.1〜54)は、いずれも乾湿繰り返し環境での耐食性が良好な結果を示した。一方、比較例(No.55〜84)の場合は、いずれの例も乾湿繰り返し環境での耐食性で良好な評価結果が得られなかった。
Figure 2010100897
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Figure 2010100897
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本発明により、乾湿繰り返しの環境下で耐食性に優れたZn−Al−Mg系めっき鋼板及びその製造方法を提供できるため、屋外や軒下等の濡れ渇き環境で使用される建材や家電製品、自動車部品等の用途に、特に有用である。したがって、本発明は産業上極めて高い利用価値を有する発明である。
(a)は本発明の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき層構造を示す厚さ方向の断面の電子顕微鏡写真。(b)は(a)で得ためっき鋼板のめっき層表面の電子顕微鏡写真を示す。 従来技術のAl晶がめっき層と平行方向に樹枝状に凝固析出した典型的な溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき層構造を示す厚さ方向の断面の電子顕微鏡写真 である。
符号の説明
1:Mg−Zn系化合物
2:Al晶

Claims (4)

  1. 鋼板の少なくとも片面に、Alが4〜15質量%、Mgが2〜8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層を有し、該めっき層に含有されるMg-Zn系化合物は、塊状で存在せず、めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層方向に柱状に成長して、めっき層表面に露出した柱状で存在し、そのめっき層表面における露出面積率が15〜60%であることを特徴とするZn−Al−Mg系めっき鋼板。
  2. 上記めっき層中に、さらにSiを0.01〜1質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のZn−Al−Mg系めっき鋼板。
  3. 請求項1または2に記載のZn−Al−Mg系めっき鋼板の造方法であって、鋼板表面を清浄後、その少なくとも片面に付着量が0.1〜3.0g/mのNiめっき被覆層を形成させたのち、硝酸濃度10〜30質量%の水溶液に、5〜30sec浸漬し水洗し、直ちに塩酸濃度5〜20質量%の水溶液に1〜5sec浸漬し水洗した後で、無酸化あるいは還元性雰囲気で板温400℃以上、500℃以下に加熱し、Alが4〜15質量%、Mgを2〜8質量%含有した浴温400℃以上、500℃以下の溶融亜鉛めっき浴でめっきして、冷却速度25℃/sec以下で冷却することを特徴とするZn−Al−Mg系めっき鋼板の造方法。
  4. 溶融亜鉛めっき浴中に、更にSiを0.01〜1質量%含有することを特徴とする請求項3に記載のZn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
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