以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
[第1の実施形態]
[1.記憶素子の構成]
まず、本実施形態のMRAMの記憶素子にあたる磁気抵抗素子[MTJ(magnetic tunnel junction)素子]10の構成について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す断面図である。MTJ素子10は、それに含まれる2個の磁性体の相対的な磁化方向によって情報を記憶する記憶素子である。図中の矢印は、磁化方向を示している。
MTJ素子10は、結晶配向用の下地層11、記録層(記憶層、自由層ともいう)12、非磁性層(トンネルバリア層)13、参照層(固定層ともいう)14、上部電極15が順に積層された積層構造を有する。以下の説明において、記録層12、トンネルバリア層13、及び参照層14の部分を、単にMTJと称する。本実施形態では、結晶配向用下地層11が下部電極を兼ねて1つの層となっている構成を例示しているが、勿論、下地層と下部電極とを別々に積層してもよい。上部電極15は、ハードマスク層としての機能を兼ねている。なお、記録層12と参照層14とは、積層順序が逆であってもよい。
記録層12は、磁化(或いはスピン)の方向が可変である(反転する)。参照層14は、磁化の方向が不変である(固着している)。「参照層14の磁化方向が不変である」とは、記録層12の磁化方向を反転するために使用される磁化反転電流を参照層14に流した場合に、通電の前後において参照層14の磁化方向が変化しないことを意味する。従って、MTJ素子10において、参照層14として反転電流の大きな磁性層を用い、記録層12として参照層14よりも反転電流の小さい磁性層を用いることによって、磁化方向が可変の記録層12と磁化方向が不変の参照層14とを備えたMTJ素子10を実現することができる。スピン偏極電子により磁化反転を引き起こす場合、その反転電流は減衰定数、異方性磁界、及び体積に比例するため、これらを適切に調整して、記録層12と参照層14との反転電流に差を設けることができる。
参照層14及び記録層12はそれぞれ膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、従って参照層14及び記録層12の容易磁化方向は膜面(或いは積層面)に対して垂直である(以下、垂直磁化という)。すなわち、MTJ素子10は、参照層14及び記録層12の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化型MTJ素子である。なお、容易磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが低くなる方向である。困難磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが大きくなる方向である。
下地層11は、平坦な垂直磁化の磁性層を成長させるために必要な層であり、一例としては、窒化チタン(TiN)等の化合物層と、タンタル(Ta)、白金(Pt)等の金属層と、厚さ0.5nm以下の薄い酸化マグネシウム(MgO)とが順に積層された積層構造である。
記録層12及び参照層14の材料としては、FePt或いはFePd等のL10構造を持つ強磁性材料、TbCoFe等のフェリ磁性材料、或いは、NiFe等の磁性材料とCu等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子等が挙げられる。
トンネルバリア層13としては、酸化マグネシウム(MgO)或いは酸化アルミニウム(Al2O3)等の絶縁材料が挙げられる。上部電極(ハードマスク層)15としては、タンタル(Ta)或いは窒化チタン(TiN)等の金属が挙げられる。
このように構成されたMTJ素子10において、情報の書き込みは、以下のように行われる。情報の書き込み時、MTJ素子10は、膜面に垂直な方向において双方向に通電される。
書き込み電流を記録層12から参照層14の方向に流した場合、電子の流れは参照層14から記録層12の方向になる。この場合、記録層12の磁化は参照層14の磁化と揃う方向にスピントルクを受ける。このため、記録層12の磁化が参照層14と反平行であった場合、記録層12の磁化は反転して参照層14と平行になる。
一方、書き込み電流を参照層14から記録層12の方向に流した場合、電子の流れは記録層12から参照層14の方向になる。この場合、記録層12の磁化は参照層14と反平行を向く方向にスピントルクを受ける。このため、記録層12の磁化が参照層14と平行であった場合、記録層12の磁化は反転して参照層14と反平行になる。
MTJ素子10に垂直方向の読み出し電流を流した場合の抵抗値は、磁気抵抗効果により2つの磁性層の相対的な方向に依存して変化する。例えば、MTJ素子10の抵抗値は、記録層12と参照層14との磁化の方向が平行の場合は低抵抗となり、反平行の場合は高抵抗となる。図1の例では、記録層12の磁化が上向きの状態が平行状態であり、下向きの状態が反平行状態である。例えば、低抵抗状態をデータ“0”、高抵抗状態をデータ“1”と規定することで、MTJ素子10に1ビットの情報を記憶させることができる。
平行状態の抵抗値をR0、反平行状態の抵抗値をR1とすると、“(R1−R0)/R0”で定義される値を磁気抵抗比(MR比)と呼ぶ。磁気抵抗比はMTJ素子10を構成する材料やプロセス条件によって異なるが、数10%から数100%程度の値を取り得る。MRAMは磁気抵抗効果を利用して、MTJ素子10に記憶された情報の読み出しを行なう。読み出し動作時にMTJ素子10に流す読み出し電流は、スピン注入により記録層12の磁化が反転する電流よりも十分小さい電流値に設定する。
[2.バイアス磁界層16の構成]
次に、記録層12に作用する参照層14からの漏洩磁界をキャンセルする機能を有するバイアス磁界層16の構成について説明する。図2は、バイアス磁界層16を備えたMRAMの構成を示す斜視図である。
MRAMは、マトリクス状に2次元配列された複数のMTJ素子10を備えている。各MTJ素子10の構成は、図1と同じである。なお、図2では、複数のMTJ素子10のうち4個を抽出して示している。
バイアス磁界層16は、MTJを膜面方向に延長した空間と重なる位置に配置される。バイアス磁界層16は、実効的に2次元の平面状に広がっており、マトリクス状に複数の孔が空いている。MTJ素子10は、バイアス磁界層16の孔の中に突き刺すように配置されている。換言すると、バイアス磁界層16は、MTJと同一平面に延在しており、各MTJ素子10を囲むように構成されている。「バイアス磁界層16がMTJと同一平面に延在」とは、バイアス磁界層16の厚さ方向の中心の位置(中心線)が、MTJを構成する記録層、トンネルバリア層及び参照層のいずれかを通過することを意味し、典型的にはMTJを構成する記録層の中心の位置(中心線)と参照層の中心の位置(中心線)との間(これらの中心の位置と一致する場合を含む。)に位置することを意味するものとする。
バイアス磁界層16は、参照層14と平行な方向(垂直方向)の磁気異方性を有しており、すなわち、それの容易磁化方向は膜面に対して垂直である。よって、バイアス磁界層16は、それの磁化方向が参照層14の磁化方向と平行になるように着磁を行なう。バイアス磁界層16の飽和磁化Msは、参照層14の飽和磁化と同程度かそれ以上に設定される。
バイアス磁界層16は、MTJ素子10と絶縁されており、絶縁信頼性の確保できる数nm以上の厚さの絶縁膜(図示せず)によって分離されている。上部電極15は、上部配線に電気的に接続される。下部電極11は、選択トランジスタ、或いは上部配線と直交する下部配線に電気的に接続される。図2では、MTJ素子10の平面形状が円である場合を例示している。MTJ素子10の平面形状について特に制限がなく、円以外に、楕円、正方形、長方形等いずれを用いてもよい。また、正方形或いは長方形の角が丸くなった形状であってもよい。バイアス磁界層16の孔の形状は、MTJ素子10の平面形状と同じに設定される。そして、MTJ素子10の周囲とバイアス磁界層16との距離は、絶縁膜を介して等間隔に設定される。
図2では、記録層12が参照層14に対して下側(基板側)に配置されている構造の例を示したが、逆に記録層12を参照層14に対して上側(基板と反対側)に配置させる構造でも、図2と同じようにバイアス磁界層16を配置することで、記録層12に作用する参照層14からの漏洩磁界をほぼキャンセルすることができる。
図3は、記録層12に作用する参照層14からの漏洩磁界をバイアス磁界層16がキャンセルする様子を説明する図である。参照層14の磁化が上方向である場合、バイアス磁界層16の磁化も上方向に設定される。
参照層14は、図3の実線矢印で示すように、記録層12に上向きの漏洩磁界を印加する。また、参照層14によって、記録層12の面内方向の端部は中心部よりも強い漏洩磁界が作用する。一方、バイアス磁界層16は、図3の点線矢印で示すように、記録層12に下向きの漏洩磁界を印加する。このように、参照層14から発生する漏洩磁界とバイアス磁界層16から発生する漏洩磁界とは、互いに逆向きになり、記録層12に作用する外部磁界は相殺される。また、記録層12に作用する漏洩磁界は、垂直方向成分だけでなく、動径方向成分も逆方向に作用するため、漏洩磁界の動径方向成分も相殺される。
参照層14及びバイアス磁界層16の隙間がなく、かつ、参照層14及びバイアス磁界層16の厚さと飽和磁化とが等しく、かつ、バイアス磁界層16の外径が厚さに対して十分(例えば、100倍程度以上)大きい場合には、参照層14とバイアス磁界層16との磁界はほぼ完全にキャンセルされ、記録層12に作用する漏洩磁界はほぼゼロになる。この場合、参照層14及びバイアス磁界層16を合わせて1つの磁性膜と見なすことができ、この磁性膜が十分広い場合には漏洩磁界が磁性膜から外に漏れないと言い換えることができる。この理由を図4を用いて説明する。
図4は、垂直磁化を有しかつ面内方向に広がる磁性膜の一部を示している。この磁性膜は、バイアス磁界層16と記録層12とを併せたものとみなすことができる。磁性膜の上面及び底面にはそれぞれ、正及び負の磁荷が誘起されており、磁界はこれらの磁荷によって発生すると見なすことができる。ここで、磁性膜は十分広いので磁界は膜面に対して垂直方向を向いており、磁束密度が保存されるため、磁界強度は膜面からの距離に依存しない。このため、例えば点Aに正の磁荷によって作られる磁界(実線の矢印)と負の磁荷によって作られる磁界(破線の矢印)は同じ強度で逆向きになるため、その合成磁界はキャンセルされてゼロになる。
図3及び図4の原理によると、参照層14とバイアス磁界層16との距離がゼロに近くなれば、バイアス磁界層16を参照層14の真横に(参照層14と同一平面に)配置し、かつバイアス磁界層16と参照層14との飽和磁化を同じにすることで、記録層12に作用する参照層14からの漏洩磁界をバイアス磁界層16によってキャンセルすることが可能である。よって、基本的には、このようにバイアス磁界層16を構成することが好ましい。
しかし、参照層14とバイアス磁界層16との間には、絶縁膜の厚さ分の距離が空いているため、参照層14からの漏洩磁界を完全にキャンセルするには、絶縁膜分の磁化を補う必要がある。この方法としては、後述するように、バイアス磁界層16の飽和磁化を参照層14の飽和磁化より少し大きくする、或いは、バイアス磁界層16を記録層12に多少近づける等があげられる。この調整幅は、参照層14とバイアス磁界層16との距離に依存する。なお、バイアス磁界層16の飽和磁化は、磁性材料、及びその厚さによって調整することが可能である。
図5は、バイアス磁界層16を備えたMRAMの他の構成例を示す斜視図である。図5のMRAMは、接合分離のためのエッチングプロセスを絶縁層(トンネルバリア層)で止めたバリア止めプロセスによって形成されたMTJ素子10にバイアス磁界層16を適用した例である。図5では、マトリクス状に2次元配列された複数のMTJ素子10のうち2個を抽出して示している。
MTJ素子10は、下部電極11、参照層14、トンネルバリア層13、記録層12、上部電極15が順に積層された積層構造を有している。すなわち、プロセス上の制約から、参照層14が記録層12に対して下側(基板側)に配置されている。記録層12及び上部電極15の平面形状は、図2のMTJ素子10のものと同じである。参照層14の面積は、記録層12の面積より大きい。参照層14は、例えば、長方形の角が丸くなった平面形状を有している。バイアス磁界層16は、参照層14を膜面方向に延長した空間と重なる位置に配置される。バイアス磁界層16は、実効的に2次元の平面状に広がっており、マトリクス状に複数の孔が空いている。参照層14は、バイアス磁界層16の孔の中に突き刺すように配置されている。換言すると、バイアス磁界層16は、参照層14と同一平面に延在しており、各参照層14を囲むように構成されている。
バイアス磁界層16は、参照層14と平行な方向(垂直方向)の磁気異方性を有しており、すなわち、それの容易磁化方向は膜面に対して垂直である。バイアス磁界層16の飽和磁化は、参照層14の飽和磁化と同程度かそれ以上に設定される。バイアス磁界層16は、MTJ素子10と絶縁しており、絶縁信頼性の確保できる数nm以上の厚さの絶縁膜(図示せず)によって分離されている。上部電極15は、上部配線に電気的に接続される。下部電極11は、コンタクトを介して選択トランジスタ、或いは上部配線と直交する下部配線に電気的に接続される。
図5のようにMRAMを構成した場合でも、図2のMRAMと同様に、バイアス磁界層16は、記録層12に作用する参照層14からの漏洩磁界をほぼキャンセルすることができる。
図6は、バイアス磁界層16の効果を確認するためのシミュレーション計算に用いたモデルを示す図である。図6は、1個のMTJ素子10とその周囲に配置されたバイアス磁界層16との断面を示している。
記録層12の中心を原点とし、膜面に対して垂直方向にz軸を設定する。参照層14の厚さ10nm、記録層12の厚さ2.2nm、トンネルバリア層の厚さ1nm、MTJを直径60nmの円板形状とした。また、バイアス磁界層16は、計算を簡単にするために、内径100nmのリング形状とした。MTJとバイアス磁界層16との間には、20nmの絶縁領域を設けた。リングの外径Rは20μmとした。図2のようにバイアス磁界層16が隣同士つながっている場合、着目しているMTJ素子10に作用する磁界は、隣にもMTJ素子が存在することによって殆ど変わらないと仮定して計算を行なった。また、バイアス磁界層16の厚さを“d”、バイアス磁界層16の高さと記録層12の高さとの差を“h”とし、バイアス磁界層16の高さが記録層12の高さと同じである場合をh=0とする。なお、“バイアス磁界層16の高さ”とは、厚さ方向におけるバイアス磁界層16の中心の位置での高さをいうものとする。同様に、“記録層12の高さ”とは、厚さ方向における記録層12の中心の位置での高さをいうものとする。参照層14及びバイアス磁界層16の飽和磁化は共に1000emu/cc程度とした。
図7は、記録層12と同じ高さにバイアス磁界層16を配置した場合(h=0)に、記録層12の厚さ方向の中心の位置に作用する漏洩磁界分布を示すグラフである。図7の横軸は記録層12の中心から動径方向の距離、縦軸は参照層14及びバイアス磁界層16から記録層12に印加される合成磁界のz成分[Hz(Oe)]を示している。図7には、バイアス磁界層16の厚さdを10〜20nmの範囲で変化させた場合のそれぞれの結果について示している。
参照層14の半径は30nmであるので、距離30nm以下の領域では参照層14が発生する磁界とバイアス磁界層16が発生する磁界とが打ち消しあう方向に働き、磁界Hzがゼロ近傍になっている。すなわち、バイアス磁界層16の厚さdを調整することで、記録層12に印加される漏洩磁界を相殺することができる。図6のモデルでは、バイアス磁界層16の厚さdが15〜17nmである場合が効果が大きい。
図8は、記録層12の厚さ方向の中心の位置に作用する漏洩磁界の面積平均を示すグラフである。図8の横軸はバイアス磁界層16の厚さd(nm)、縦軸は参照層14及びバイアス磁界層16から記録層12に印加される合成磁界のz成分における面積平均[Hz(Oe)]を示している。バイアス磁界層16の厚さdを厚くすることにより下向きの磁界が強くなり、厚さdが約15nmで参照層14の漏洩磁界をキャンセルすることができる。
図9は、バイアス磁界層16の外径R=170nmに固定した場合の記録層12の厚さ方向の中心の位置に作用する漏洩磁界の面積平均を示すグラフである。図9の横軸はバイアス磁界層16の厚さd(nm)、縦軸は参照層14及びバイアス磁界層16から記録層12に印加される合成磁界のz成分における面積平均[Hz(Oe)]を示している。バイアス磁界層16の外径以外のパラメータ及び計算方法は、図8と同じである。
図9の条件では、バイアス磁界層16の厚さを20nmまで増やしても870Oe程度の磁界が残ってしまう。図8のR=20μmの条件では、バイアス磁界層16の外周部は記録層12の中心から30nm以下の領域から十分離れているため、バイアス磁界層16の外周部から発生する漏洩磁界の記録層12に対する影響は無視することができる。しかし、図9のR=170nmの条件では、記録層12からバイアス磁界層16の外周部までの距離がバイアス磁界層16の厚さdに対して十分大きいとはいえず、バイアス磁界層16の外周部から発生する漏洩磁界が記録層12に作用し、参照層14からの漏洩磁界を強める方向に働くために、記録層12に作用する外部磁界が残ってしまう。図9を外挿(extrapolation)することにより、完全に漏洩磁界をキャンセルするためのバイアス磁界層16の厚さdは約35nmになる。この厚さdの磁性膜の磁化を垂直に立たせることは難しいので、バイアス磁界層16の外周部は記録層12から十分離す方が好ましい。
一方で、MRAMの容量を大きくするためにはMTJ素子アレイのピッチを大きくすることは好ましくない。図2或いは図5に示したように複数のMTJ素子10でバイアス磁界層16を共通にすることにより、MTJ素子アレイのピッチを大きくすることなく、バイアス磁界層16の外周部をMTJ素子から十分離すことが可能になる。この場合、アレイの外周領域に配置されたMTJ素子もバイアス磁界層16の端から離す必要がある。
図10は、バイアス磁界層16の厚さd=15nmに固定し、バイアス磁界層16の外径Rをパラメータとした場合の記録層12の厚さ方向の中心の位置に作用する漏洩磁界の計算結果を示すグラフである。図10の横軸はバイアス磁界層16の外径R(nm)、縦軸は参照層14及びバイアス磁界層16から記録層12に印加される合成磁界のz成分における面積平均[Hz(Oe)]を示している。
図10の結果によると、磁界Hzの許容量を100Oeとすると外径Rが約2μm以上必要となるので、バイアス磁界層16の外周部とMTJ素子10との距離はその半分である約1μm以上必要になる。そのため、バイアス磁界層16を共有するMTJ素子アレイのうち最外周に配置されたMTJ素子に対して、バイアス磁界層16の端部を約1μm以上のマージンをとって設定する必要がある。
図11は、バイアス磁界層16の端部のマージンを説明する図である。“A”及び“B”は、MTJ素子アレイの最外周に配置されたMTJ素子である。これらMTJ素子からバイアス磁界層16の端部までの距離dA及びdBは、約1μm以上のマージンが必要である。ただし、記憶素子として使用しないダミーのMTJ素子をマージン領域に配置してもよい。このようにダミーMTJ素子を使用することで、実際に記憶素子として使用するMTJ素子とバイアス磁界層16の端部までの距離を大きくすることが可能である。
図12は、参照層14と同じ高さにバイアス磁界層16を配置した場合(h=7.1nm)の記録層12の厚さ方向の中心の位置に作用する漏洩磁界の面積平均を示すグラフである。図12の横軸はバイアス磁界層16の厚さd(nm)、縦軸は参照層14及びバイアス磁界層16から記録層12に印加される合成磁界のz成分における面積平均[Hz(Oe)]を示している。バイアス磁界層16の外径R=20μmで計算している。
図12に示すように、バイアス磁界層16の厚さd=16nmにした時に、参照層14及びバイアス磁界層16から記録層12に印加される漏洩磁界がキャンセルされる。図12の結果と図8の結果とを比較すると、記録層12に印加されるz成分の漏洩磁界をキャンセルする効率は、バイアス磁界層16の高さを参照層14と同じにする方が記録層12と同じにする場合よりもわずかに悪くなる。しかし、バイアス磁界層16の高さを参照層14と同じにした場合は、動径方向成分の漏洩磁界もキャンセルされることになる。そのため、バイアス磁界層16の高さを参照層14と同じにする方が望ましいが、バイアス磁界層16の飽和磁化や厚さを十分大きくできない場合は、バイアス磁界層16の高さを参照層14と記録層12との間で調整する。
なお、記録層12の厚さをdF、トンネルバリア層13の厚さをdT、参照層14の厚さをdPとすると、バイアス磁界層16の高さが記録層12の高さと参照層14の高さの間、つまり“0<h≦(dF/2)+(dP/2)+dT”の条件を満たす場合には、参照層14とバイアス磁界層16との漏洩磁界の動径方向成分は互いに低減する方向に作用する。よって、上記hの範囲を満たすようにバイアス磁界層16の高さを設定することで、記録層12に印加される漏洩磁界の動径方向成分を低減することができる。
[3.MRAMの製造方法]
次に、バイアス磁界層16を備えたMRAMの製造方法の一例について図面を参照しながら説明する。
半導体基板上に形成されたMOSトランジスタやFEOL(Front End Of Line)上に層間絶縁層21を堆積し、この層間絶縁層21内に下部配線或いはMOSトランジスタ等に電気的に接続されるコンタクト22を形成後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)及びエッチバックにより上面を平坦化した断面を図13に示す。層間絶縁層21としては、例えば酸化シリコン(SiO2)が用いられ、コンタクト22としては、例えばタングステン(W)が用いられる。
続いて、図14に示すように、コンタクト22上に、下地層11、MTJ膜、ハードマスク層15を順に、例えばスパッタにより成膜する。下地層11は平坦な垂直磁化の磁性層を成長させるために必要な層であり、前述した材料によって構成される。MTJ膜は、下から記録層12、トンネルバリア層13、参照層14からなる。記録層12及び参照層14の材料としては、例えばL10構造を持つFePtが用いられ、トンネルバリア層13としては、例えば酸化マグネシウム(MgO)が用いられる。ハードマスク層15としては、例えばタンタル(Ta)が用いられる。MTJ膜とハードマスク層15との間には、薄い酸化マグネシウム(MgO)或いはルテニウム(Ru)等のキャップ層を挟むようにしてもよい。
続いて、図15に示すように、リソグラフィ及びエッチングにより素子分離を行ない、複数のMTJ素子10を形成する。続いて、図16に示すように、MTJ素子10上及び露出した層間絶縁層21上に、絶縁膜23を堆積する。絶縁膜23としては、例えば酸化シリコン(SiO2)或いは窒化シリコン(SiN)が用いられる。この絶縁膜23は、MTJ素子10とバイアス磁界層16とを絶縁するためのものである。従って、絶縁膜23はMTJ素子10の側面にも形成されており、この絶縁膜23の厚さは絶縁信頼性の確保できる程度に厚く、同時にバイアス磁界層16によってMTJ素子10の記録層12に作用する参照層14からの漏洩磁界のキャンセルが可能である条件を満たす必要がある。例えば、絶縁膜23の厚さは、5〜30nm程度になる。
続いて、図17に示すように、絶縁膜23上に、例えばスパッタにより、下地層24、バイアス磁界層16を順に成膜する。バイアス磁界層16とMTJ素子10との距離は、MTJ素子10の側面に形成された絶縁膜23の厚さによってセルフアラインで制御されるため、ばらつきが小さくなり、よってMTJ素子10毎のシフト磁界のばらつきを抑えることができる。バイアス磁界層16のスパッタは指向性の高い条件で行い、ハードマスク層15の側面に付着する磁性層が少なくなるようにする。
バイアス磁界層16の磁性材料は、磁化の方向が垂直で飽和磁化が参照層14と同程度がそれ以上の材料を用いる。バイアス磁界層16としては、例えば、参照層14と同じL10構造を持つFePtが用いられる。また、バイアス磁界層16の下には適当な下地層24を設けることで、バイアス磁界層16の磁化の垂直性を保ち、バイアス磁界層16の高さとMTJの高さをほぼ同じになるように調整する。その後、バイアス磁界層16上に、このバイアス磁界層16を保護するためのキャップ層(図示せず)を形成する。下地層24には、下地層11と同様の材料が用いられる。
続いて、図18に示すように、試料全面に、例えば酸化シリコン(SiO2)或いは窒化シリコン(SiN)からなる層間絶縁層25を堆積する。続いて、図19に示すように、CMPにより、層間絶縁層25の平坦化を行なう。同時に、MTJ素子10の上面に堆積されたバイアス磁界層16及び下地層24も削り、MTJ膜上のハードマスク層15を露出させる。
続いて、図20に示すように、MTJ素子10上に、ハードマスク層15と電気的に接続する上部配線26を形成する。上部配線26としては、例えばアルミニウム(Al)或いは銅(Cu)が用いられる。このようにして、本実施形態のMRAMが形成される。
次に、ハードマスク層15の側面にバイアス磁界層16が付着するのを防ぐようにした、MRAMの他の製造方法について説明する。図21に示すように、MTJ膜を成膜後、このMTJ膜上に、金属からなる第1のハードマスク層15、絶縁体からなる第2のハードマスク層15Aを順に成膜する。第1のハードマスク層15としては、例えばタンタル(Ta)が用いられる。第2のハードマスク層15Aとしては、例えば酸化シリコン(SiO2)が用いられる。
続いて、図22に示すように、リソグラフィ及びRIE(Reactive Ion Etching)により、第2のハードマスク層15AをMTJ素子10の平面形状と同じ形状にパターニングする。続いて、等方性の強い条件(高温、低バイアス、塩素ガス(Cl2)等)のRIEにより第1のハードマスク層15をエッチングすることで、第2のハードマスク層15Aの下にアンダーカットを入れる。
続いて、図23に示すように、斜入射ミリング等により、第1のハードマスク層15をマスクとしてMTJ及び下地層11をエッチングする。この時、MTJは、順テーパ形状を有している。続いて、試料全面に、例えば窒化シリコンからなる絶縁膜23を堆積する。
続いて、図24に示すように、指向性の高い条件でのスパッタにより、絶縁膜23上に下地層(図示せず)及びバイアス磁界層16を成膜する。この時、第2のハードマスク層15Aの下にはアンダーカットが入っているために、第1のハードマスク層15の側面はオーバーハングの下に隠れている。これにより、バイアス磁界層16の成膜時に、このバイアス磁界層16が第1のハードマスク層15の側面に付着するのを防いでいる。
続いて、図25に示すように、試料全面に、例えば酸化シリコン(SiO2)からなる層間絶縁層25を堆積する。続いて、CMPにより、第1のハードマスク層15の上面に堆積されたバイアス磁界層16、下地層、絶縁膜23及び第2のハードマスク層15Aを削り、第1のハードマスク層15を露出させる。続いて、図26に示すように、ハードマスク層15上に上部配線26を形成する。
このプロセスのポイントは、第1のハードマスク層15の側面にバイアス磁界層16を付着させないために、第2のハードマスク層15Aにオーバーハングを形成する(換言すると、第2のハードマスク層15Aの下にアンダーカットを入れる)ことにある。これによって、バイアス磁界層16の成膜時に第1のハードマスク層15の側面が第2のハードマスク層15Aの影になるため、磁性層の付着が起こらない。そのための方法の1つは、図22で説明したように、2層のハードマスクのうち下側の層をサイドエッチングの入りやすい条件で等方性エッチングすることにより、アンダーカットを形成する。
図22の例以外に、図27に示すように、第1のハードマスク層15上に、例えば窒化シリコン(SiN)からなる第2のハードマスク層15B、例えば酸化シリコン(SiO2)からなる第3のハードマスク層15Aを順に成膜し、例えばCDE(Chemical Dry Etching)により第2のハードマスク層15Bをエッチングすることで、第3のハードマスク層15Aの下にアンダーカットを入れる方法もある。或いは、下側の第2のハードマスク層15Bを酸化シリコン(SiO2)で構成し、上側の第3のハードマスク層15Aを窒化シリコン(SiN)で構成する。そして、酸化シリコン(SiO2)からなる第2のハードマスク層15Bをフッ酸(HF)を用いてエッチングすることで、第3のハードマスク層15Aの下にアンダーカットを入れるようにしてもよい。その後、第1のハードマスク層15、MTJ、下地層11を所望の形状にパターニングする。
次に、ハードマスク層にオーバーハング(或いは、アンダーカット)を形成する他の方法について説明する。図28に示すように、MTJ膜を成膜後に、このMTJ膜上に、例えば酸化シリコン(SiO2)からなる絶縁層27を堆積する。続いて、リソグラフィ及びエッチングにより、絶縁層27のエッチング面が順テーパになるように、絶縁層27内にMTJ膜を露出する孔28を形成する。
続いて、図29に示すように、孔28内に、例えばタンタル(Ta)からなるハードマスク層15を埋め込んだ後、ハードマスク層15の上面をCMPにより平坦化する。そして、絶縁層27を除去することで、オーバーハングを有するハードマスク層15を形成することができる。
以上詳述したように第1の実施形態では、マトリクス状に2次元配列された複数のMTJ素子10を有するMRAMが、これら複数のMTJ素子10に共有され、かつ各MTJ素子10を囲むバイアス磁界層16を新たに備えている。また、このバイアス磁界層16は、実効的に2次元の平面状に広がっている。そして、バイアス磁界層16は、参照層14と同じ垂直方向の磁気異方性を有しており、その飽和磁化は、参照層14の飽和磁化と同程度かそれ以上に設定される。
従って第1の実施形態によれば、記録層12に作用する参照層14からの漏洩磁界をバイアス磁界層16によってほぼキャンセルすることができる。これにより、記録層12の磁化状態が漏洩磁界によって反転するのを防ぐことが可能となる。特に、記録層12と参照層14との磁化が反平行状態での安定性が向上する。この結果、記憶素子としてのMTJ素子10のリテンション特性を向上させることができる。
また、バイアス磁界層16の厚さ及び飽和磁化を調整する、或いは、バイアス磁界層16の高さを調整することで、記録層12に作用する漏洩磁界を高精度に相殺することができる。
また、バイアス磁界層16と参照層14との磁化の方向が同じであるため、バイアス磁界層16と参照層14とに保磁力差をつける必要がない。また、バイアス磁界層16と参照層14との着磁を同時に行なうことができる。これにより、材料の選択が容易となり、プロセス条件の制約を少なくすることができる。
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、上部配線26と同じ方向に延在するようにバイアス磁界層16を形成し、このバイアス磁界層16を直接、或いは上部配線26を介して参照層14に電気的に接続するようにしている。
[1.バイアス磁界層16の構成]
図30は、本発明の第2の実施形態に係るMRAMの構成を示す斜視図である。MRAMは、マトリクス状に2次元配列された複数のMTJ素子10を備えている。各MTJ素子10は、下地層11、記録層12、トンネルバリア層13、参照層14、ハードマスク層15が順に積層された積層構造を有する。記録層12は、下地層11を介して選択トランジスタ、或いは上部配線と直交する下部配線に電気的に接続される。なお、図30では、図面の理解を容易にするために、下地層11及びハードマスク層15の図示を省略しており、すなわち、図30にはMTJ部分のみを示している。図30には、マトリクス状に2次元配列された複数のMTJのうち12(4×3)個を抽出して示している。
MRAMは、MTJの列数に対応した数の複数のバイアス磁界層16を備えており、複数のバイアス磁界層16は、X方向に隣接して配置されている。各バイアス磁界層16は、上部配線と同じ方向(Y方向)に延在する構造を有しており、同一平面内において1列分のMTJに含まれる参照層14の各々を囲むように形成されている。すなわち、バイアス磁界層16は、MTJに対応する数の孔を有している。バイアス磁界層16は、参照層14と同じ向き(垂直方向)の磁気異方性を有しており、バイアス磁界層16の飽和磁化は、参照層14の飽和磁化と同程度に設定される。
バイアス磁界層16は、参照層14に直接接触しており、少なくとも上部配線の一部を形成している。図30に示すように、上部配線を設けずに、バイアス磁界層16が上部配線の機能を兼ねるようにしてもよい。実際には、バイアス磁界層16上にこのバイアス磁界層16と同じ方向に延在する上部配線26を設け、この上部配線26にバイアス磁界層16及び参照層14を電気的に接続することで、電気抵抗を低減することが望ましい。このように上部配線26を設ける場合は、バイアス磁界層16と参照層14とが直接接触している必要はなく、バイアス磁界層16と参照層14とがそれぞれ上部配線26に電気的に接続されていればよい。すなわち、図30において、バイアス磁界層16と参照層14と間に絶縁領域を設けてもよい。この構成例を以下に説明する。
図31は、第2の実施形態に係るMRAMの他の構成例を示す平面図である。図32は、図31に示したA−A´線に沿ったMRAMの断面図である。図31では、マトリクス状に2次元配列された複数のMTJのうち9(3×3)個を抽出して示している。
MRAMは、MTJの列数に対応した数の複数のバイアス磁界層16を備えており、複数のバイアス磁界層16はそれぞれ、Y方向に延在している。各バイアス磁界層16は、同一平面内において一列分のMTJ素子10の各々を囲むように構成されており、絶縁膜23によってMTJ素子10と絶縁されている。バイアス磁界層16は、参照層14と同じ向き(垂直方向)の磁気異方性を有しており、バイアス磁界層16の飽和磁化は、参照層14の飽和磁化と同程度かそれ以上に設定される。
バイアス磁界層16上及びハードマスク層15上には、Y方向に延在する上部配線26が設けられている。すなわち、バイアス磁界層16と参照層14とは、上部配線26を介して電気的に接続されている。この上部配線26は、バイアス磁界層16と同様に、Y方向に延在している。このようにして第2の実施形態のMRAMを構成するようにしてもよい。
X方向に隣接して配置された複数のバイアス磁界層16と参照層14とは、バイアス磁界層16間の距離を小さくすることで、同一平面状に広がった1個の磁性膜とみなすことができる。よって、第2の実施形態で示したバイアス磁界層16を用いた場合、参照層14及びバイアス磁界層16から記録層12に作用する漏洩磁界をほぼキャンセルすることができる。漏洩磁界がキャンセルされる原理は、第1の実施形態で示した図3及び図4と同じである。
図33は、バイアス磁界層16と参照層14とが接触している条件で、バイアス磁界層16の効果を確認するためのシミュレーション計算に用いたモデルを示す図である。図33は、図30の構成をX方向に沿って切断した断面図に対応する。このモデルにおいて、バイアス磁界層16及び参照層14の幅が50nm、厚さが10nm、トンネルバリア層13の厚さを1nm、記録層12の幅が50nm、厚さが2nmとした。隣接するバイアス磁界層16間の距離は50nmとした。また、図33の構造が2μm×2μmの領域に広がっているとして計算した。
図34は、記録層12の厚さ方向の中心の位置(一点鎖線の位置)に作用する漏洩磁界分布を示すグラフである。図34の横軸はバイアス磁界層16の端からの距離(nm)、縦軸は記録層12の厚さ方向の中心の位置での漏洩磁界のz成分[Hz(Oe)]を示している。また、図34には、参照層14から発生される漏洩磁界のz成分、バイアス磁界層16から発生される漏洩磁界のz成分、及びこれらの合成磁界のz成分を示している。
図34に示すように、記録層12の厚さ方向の中心の位置において、参照層14とバイアス磁界層16との漏洩磁界は互いに打ち消しあう方向に働く。なお、バイアス磁界層16間の距離がゼロではないため、参照層14からの漏洩磁界を完全にキャンセルするには、この距離分の磁化を補う必要がある。図33のモデルでは、参照層14の飽和磁化=1000emu/cc、バイアス磁界層16の飽和磁化=1200emu/ccに設定することで、参照層14及びバイアス磁界層16から記録層12に作用する漏洩磁界をほぼゼロにすることができる。
なお、第2の実施形態においても第1の実施形態と同様の理由により、MTJ素子アレイのうち最外周に配置されたMTJ素子からバイアス磁界層16の端部までの距離は、約1μm以上のマージンが必要である。よって、第2の実施形態においても、MTJ素子アレイのうち最外周に配置されたMTJ素子に対して、バイアス磁界層16の端部を約1μm以上のマージンをとって設定する必要がある。
また、バイアス磁界層16の高さは、記録層12に印加される漏洩磁界がキャンセルされるように、参照層14と記録層12との間で調整する。
[2.MRAMの製造方法]
次に、バイアス磁界層16を備えたMRAMの製造方法の一例について図面を参照しながら説明する。なお、図13乃至図17までの製造工程は、第1の実施形態と同じである。
図35に示すように、バイアス磁界層16上に例えばルテニウム(Ru)からなるキャップ層(図示せず)を堆積した後、試料全面に、例えばアルミニウム(Al)からなる上部配線26を例えばスパッタにより堆積する。続いて、図36に示すように、CMPにより、ハードマスク層15の途中まで平坦化を行ない、ハードマスク層15の上面を露出させる。
続いて、図37に示すように、例えばスパッタにより、上部配線26の積み増しを行う。続いて、CMPにより、上部配線26の上面を平坦化する。続いて、図38に示すように、リソグラフィ及びエッチングにより、上部配線26をパターニングするとともに、バイアス磁界層16及び下地層24を切断する。これにより、X方向に隣接するバイアス磁界層16を電気的に分離でき、かつ各バイアス磁界層16をこれに対応する上部配線26に電気的に接続することができる。このようにして、本実施形態のMRAMが形成される。
以上詳述したように第2の実施形態では、マトリクス状に2次元配列された複数のMTJ素子10を有するMRAMにおいて、列数に対応する複数のバイアス磁界層16を設け、各バイアス磁界層16は、一列に配列されたMTJ素子10に共有され、かつこれら一列のMTJ素子10をそれぞれ囲むように構成される。そして、バイアス磁界層16は、これと同じ方向に延在する上部配線26を介して参照層14に電気的に接続され、或いは上部配線26を介さずに直接参照層14に電気的に接続されている。
従って第2の実施形態によれば、記録層12に作用する参照層14からの漏洩磁界をバイアス磁界層16によってほぼキャンセルすることができる。これにより、記録層12の磁化状態が漏洩磁界によって反転するのを防ぐことが可能となる。
また、図30の構造では、バイアス磁界層16と参照層14とを絶縁する必要がない。よって、第1の実施形態で説明したような、バイアス磁界層16を成膜する際に参照層14の側面に磁性層が付着しないようにするための工程が不要である。これにより、バイアス磁界層16の成膜工程を容易にすることが可能となる。
また、バイアス磁界層16を上部配線の一部として使用しているため、バイアス磁界層を有しない従来のデバイス構造と同様の構造を用いることができる。すなわち、MRAMの大きな設計変更を行う必要がなく、MRAMにバイアス磁界層16を適用したことによる製造工程の増加も抑えることができる。
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、参照層14を平面状に構成し、この参照層14を複数のMTJ素子10で共有するようにしている。これにより、参照層14から記録層12に作用する漏洩磁界をなくすようにしている。
[1.MRAMの構成]
図39は、本発明の第3の実施形態に係るMRAMの構成を示す平面図である。図40は、図39に示したA−A´線に沿ったMRAMの断面図である。
MRAMは、記録層12、トンネルバリア層13、参照層14が順に積層されたMTJを複数個備えている。図39では、マトリクス状に2次元配列された複数のMTJのうち6(2×3)個を抽出して示している。各MTJの参照層14は電気的に接続されている。すなわち、参照層14は、平面状に広がっており、複数のMTJに共有されている。
換言すると、本実施形態は、参照層14とバイアス磁界層とが一体になっている或いは電気的に接続されている構造である。この構造では、参照層14とバイアス磁界層との隙間がないのと等価であるため、参照層14を平面状に形成する(すなわち、参照層14及びバイアス磁界層の厚さ及び飽和磁化を同じにする)ことで、参照層14から記録層12に作用する漏洩磁界をなくすことができる。
各記録層12の下には、第1の実施形態と同様に下地層(図示せず)が設けられる。平面状の参照層14上には、例えば参照層14と同じ平面形状を有する上部配線(図示せず)が設けられる。
図40の構造では、MTJの参照層同士が電気的に接続されるため、素子選択は、MTJの下側(基板側)のみで行なう必要が生じる。このため、記録層12は、選択トランジスタ31を介してビット線BLに電気的に接続される。選択トランジスタ31のゲート端子は、ワード線WLに電気的に接続される。
図41は、第3の実施形態に係るMRAMの他の構成例を示す平面図である。図42は、図41に示したA−A´線に沿ったMRAMの断面図である。
バイアス磁界層16は、MTJと同一平面に延在しており、複数のMTJの各々を囲むように構成されている。また、バイアス磁界層16は、絶縁膜23によってMTJ素子10と絶縁されている。バイアス磁界層16上及び参照層14上には、平面状に広がった上部配線26が設けられている。すなわち、バイアス磁界層16と参照層14とは、上部配線26を介して電気的に接続されている。このようにして第3の実施形態のMRAMを構成することも可能である。
[2.MRAMの製造方法]
次に、第3の実施形態に係るMRAMの製造方法の一例について図面を参照しながら説明する。
図43に示すように、下地層(図示せず)上に、参照層14、トンネルバリア層13、記録層12を順に成膜し、MTJ膜を形成する。続いて、図44に示すように、リソグラフィ及びエッチングにより、記録層12及びトンネルバリア層13を所望の平面形状にパターニングすることで、素子分離を行なう。
続いて、図45に示すように、素子選択のための回路(選択トランジスタ31を含む)を別の基板に作成する。そして、記録層12が回路基板と向き合うようにして、2つの基板を貼り合わせる。このようにして、図39及び図40に示したMRAMが形成される。
次に、第3の実施形態に係るMRAMの他の製造方法について説明する。図13乃至図17までの製造工程は、第1の実施形態と同じである。続いて、図46に示すように、CMPにより、ハードマスク層15まで除去し、参照層14及びバイアス磁界層16の上面を露出させる。
続いて、図47に示すように、参照層14及びバイアス磁界層16上に、例えばアルミニウム(Al)からなる上部配線26を例えばスパッタにより堆積する。その後、CMPにより、上部配線26の上面を平坦化する。このようにして、図41及び図42に示したMRAMが形成される。
以上詳述したように第3の実施形態では、参照層14を平面状に構成することで、参照層14から記録層12に作用する漏洩磁界をなくすようにしている。これにより、記録層12の磁化状態が漏洩磁界によって反転するのを防ぐことが可能となる。
[実施例]
以下に、第1及び第2の実施形態で示したMRAMの実施例について説明する。
図48は、実施例の係るMRAMの構成を示す回路図である。MRAMは、マトリクス状に配列された複数のメモリセルMCを有するメモリセルアレイ32を備えている。メモリセルアレイ32には、それぞれが列(カラム)方向に延在するように、複数のビット線対BL,/BLが配設されている。また、メモリセルアレイ32には、それぞれが行(ロウ)方向に延在するように、複数のワード線WLが配設されている。
ビット線BLとワード線WLとの交差領域には、メモリセルMCが配置されている。各メモリセルMCは、MTJ素子10、及びNチャネルMOSトランジスタからなる選択トランジスタ31を備えている。MTJ素子10の一端は、ビット線BLに接続されている。MTJ素子10の他端は、選択トランジスタ31のドレイン端子に接続されている。選択トランジスタ31のゲート端子は、ワード線WLに接続されている。選択トランジスタ31のソース端子は、ビット線/BLに接続されている。
ワード線WLには、ロウデコーダ33が接続されている。ビット線対BL,/BLには、書き込み回路35及び読み出し回路36が接続されている。書き込み回路35及び読み出し回路36には、カラムデコーダ34が接続されている。各メモリセルMCは、ロウデコーダ33及びカラムデコーダ34により選択される。
メモリセルMCへのデータの書き込みは、以下のように行われる。先ず、データ書き込みを行うメモリセルMCを選択するために、このメモリセルMCに接続されたワード線WLがロウデコーダによって活性化される。これにより、選択トランジスタ31がターンオンする。さらに、接続メモリセルMCに接続されたビット線対BL,/BLがカラムデコーダ34によって選択される。
ここで、MTJ素子10には、書き込みデータに応じて、双方向の書き込み電流が供給される。具体的には、MTJ素子10に左から右へ書き込み電流を供給する場合、書き込み回路35は、ビット線BLに正の電圧を印加し、ビット線/BLに接地電圧を印加する。また、MTJ素子10に右から左へ書き込み電流を供給する場合、書き込み回路35は、ビット線/BLに正の電圧を印加し、ビット線BLに接地電圧を印加する。このようにして、メモリセルMCにデータ“0”、或いはデータ“1”を書き込むことができる。
次に、メモリセルMCからのデータ読み出しは、以下のように行われる。まず、書き込みの場合と同様に、選択されたメモリセルMCの選択トランジスタ31がターンオンする。読み出し回路36は、MTJ素子10に、例えば右から左へ流れる読み出し電流を供給する。この読み出し電流は、スピン注入によって磁化反転する閾値よりも小さい値に設定される。そして、読み出し回路36は、読み出し電流に基づいて、MTJ素子10の抵抗値を検出する。このようにして、MTJ素子10に記憶されたデータを読み出すことができる。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、構成要素を変形して具体化できる。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を構成することができる。例えば、実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
10…MTJ素子、11…下地層、12…記録層、13…トンネルバリア層、14…参照層、16…バイアス磁界層、21…層間絶縁層、22…コンタクト、23…絶縁膜、24…下地層、25…層間絶縁層、26…上部配線、27…絶縁層、28…孔、31…選択トランジスタ、32…メモリセルアレイ、33…ロウデコーダ、34…カラムデコーダ、35…書き込み回路、36…読み出し回路、BL…ビット線、WL…ワード線、MC…メモリセル。