JP2010080231A - 正極活物質用前駆体、その製造方法、正極活物質材料、正極活物質材料の製造方法及び非水電解質二次電池 - Google Patents
正極活物質用前駆体、その製造方法、正極活物質材料、正極活物質材料の製造方法及び非水電解質二次電池 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】コバルト化合物層が均質にかつ緻密にニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を被覆している正極活物質用前駆体を得ること。
【解決手段】本発明の正極活物質用前駆体は、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されているものからなる。この正極活物質用前駆体はニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が水酸化コバルト層で被覆された粒子を、水酸化ナトリウム水溶液を噴霧しながら酸素含有雰囲気中で熱処理することにより作製し得る。また、この正極活物質用前駆体をリチウム塩と混合した後に焼成すると、本発明の正極活物質材料が得られる。
【選択図】図2
【解決手段】本発明の正極活物質用前駆体は、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されているものからなる。この正極活物質用前駆体はニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が水酸化コバルト層で被覆された粒子を、水酸化ナトリウム水溶液を噴霧しながら酸素含有雰囲気中で熱処理することにより作製し得る。また、この正極活物質用前駆体をリチウム塩と混合した後に焼成すると、本発明の正極活物質材料が得られる。
【選択図】図2
Description
本発明は、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な正極活物質の製造に使用される正極活物質用前駆体、前記正極活物質用前駆体の製造方法、前記正極活物質用前駆体から製造された正極活物質材料、前記正極活物質材料の製造方法及び前記正極活物質用前駆体から製造された正極活物質材料を使用した正極極板を備える非水電解質二次電池に関する。
今日の携帯電話機、携帯型パーソナルコンピュータ、携帯型音楽プレイヤー等の携帯型電子機器の駆動電源として、高エネルギー密度を有し、高容量であるリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。中でも、負極活物質として黒鉛粒子を用いた非水電解質二次電池は、安全性が高く、かつ、高容量であるために広く用いられている。
これらの非水電解質二次電池の正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なLixMyO2(但し、MはCo、Ni、Mnの少なくとも1種である)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1−xO2(x=0.01〜0.99)、LiMnO2、LiMn2O4、LiCoxMnyNizO2(x+y+z=1)又はLiFePO4などが一種単独もしくは複数種を混合して用いられている。
このうち、特に各種電池特性が他のものに対して優れていることから、リチウムコバルト複合酸化物や異種金属元素添加リチウムコバルト複合酸化物が多く使用されている。しかしながら、コバルトは高価であると共に資源としての存在量が少ない。そのため、これらのリチウムコバルト複合酸化物や異種金属元素添加リチウムコバルト複合酸化物を非水電解質二次電池の正極活物質として使用し続けるには非水電解質二次電池のさらなる高性能化が望まれている。
このうち、LiNixCo1−xO2(x=0.01〜0.99)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物は、従来のリチウムコバルト複合酸化物と比較して高容量な材料であり、また、比較的安価であるという長所を有している。しかしながら、リチウムニッケルコバルト複合酸化物は、充電状態で高温に曝された際に、従来のリチウムコバルト複合酸化物よりも非水電解液と激しく反応するため、安全性が乏しくなるという問題点を有している。
このようなリチウムニッケルコバルト複合酸化物からなる正極活物質の各種物性を改良するために、リチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子の表面にコバルト含有量が多い層を形成することが行われている。例えば、下記特許文献1には、LiNixCoyO2(0<x≦1、0≦y<1)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子の界面抵抗の経時的増大化を抑制する目的で、リチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子の表面にコバルトアルコキシドを含浸させた後に酸化性雰囲気で加熱処理し、リチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子の表面のコバルト濃度を増大化させた例が記載されている。
また、下記特許文献2には、LiNi1−x−zCoxMzO2(0<x≦0.25、0<z<0.15、MはCo、Ni以外の金属)の粒子表面を単層のLiCo1−xMgxO2(0.01≦x≦0.1)で表される複合酸化物粒子で被覆すると、高容量かつハイレート時の放電特性に優れた非水電解質二次電池が得られることが示されている。
特開平09−055210号公報
特開2000−149950号公報
しかしながら、発明者等の検討結果によれば、上記特許文献1及び2に開示されているようなリチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子の表面にコバルト含有量が多い層を形成しても、高温時の非水電解液との反応性は抑制されず、安全性の向上には不十分であることが見出された。
すなわち、上記特許文献1に開示されている発明では、CoO、NiO及びLiOH・H2Oを所定の組成比となるように混合した後、酸化性雰囲気で焼成することによってリチウムニッケルコバルト複合酸化物の一次粒子を得、このリチウムニッケルコバルト複合酸化物の一次粒子に対して、コバルトアルコキシドを含浸させた後に酸化性雰囲気で加熱処理し、リチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子の表面のコバルト濃度を増大化させている。
また、上記特許文献2には、ニッケルとコバルトの共沈水酸化物をアルカリ性の水溶液に分散させて硝酸コバルトと硝酸マグネシウムの混合溶液を滴下することによってマグネシウムコバルト水酸化物で被覆されたニッケルコバルト水酸化物を合成し、このマグネシウムコバルト水酸化物で被覆されたニッケルコバルト水酸化物と水酸化リチウムと混合して酸化性雰囲気中で焼成することによって、リチウムニッケルコバルト複合酸化物粒子の表面を単層のリチウムコバルトマンガン複合酸化物層で被覆している。
しかしながら、上記特許文献1に開示されている発明では、CoO、NiO及びLiOH・H2Oの混合物を焼成してリチウムニッケルコバルト複合酸化物を形成しているため、得られたリチウムニッケルコバルト複合酸化物の一次粒子の表面は粗くなっている。そのため、この一次粒子の表面からコバルトアルコキシドを含浸させてコバルト酸化物としても、得られた二次粒子の表面はあまり緻密にはならない。
また、上記特許文献2に開示されている発明では、予めニッケルコバルト共沈水酸化物の表面にマグネシウムコバルト共沈水酸化物層が形成されている。しかしながら、ニッケルコバルト共沈水酸化物の一次粒子径はさほど緻密ではないために、表面にマグネシウムコバルト共沈水酸化物層が形成された二次粒子の表面形態も均一ではなく、リチウム源と混合して焼成する際に均質に反応させることが困難である。
このように、上記特許文献1及び2に開示されている発明によって得られたリチウムニッケルコバルト複合酸化物においては、表面に存在するコバルト化合物の形成状態が均一ではないため、高温時の非水電解液との反応性は抑制されず、安全性の向上には不十分となる。加えて、得られた活物質のかさ密度やプレス密度を高くすることができないため、電極としての容量低下が著しく、高容量でかつ安全性が高い電池を実現することが困難であった。
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものである。すなわち、本発明の第1の目的は、コバルト化合物層が均質にかつ緻密にニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を被覆している正極活物質用前駆体を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、コバルト化合物層が均質にかつ緻密にニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を被覆している正極活物質用前駆体の製造方法を提供することにある。また、本発明の第3の目的は、コバルト化合物層が均質にかつ緻密にニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を被覆している正極活物質用前駆体を用いた正極活物質材料の製造方法を提供することにある。
また、本発明の第4の目的は、コバルト化合物層が均質にかつ緻密にニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を被覆している正極活物質用前駆体を用いて作製された正極活物質材料を提供することにある。更に、本発明の第5の目的は、コバルト化合物層が均質にかつ緻密にニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を被覆している正極活物質用前駆体を用いて製造された正極活物質材料を正極極板を用いた非水電解質二次電池を提供することにある。
上記第1の目的を達成するため、本発明の正極活物質用前駆体は、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されていることを特徴とする。
本発明の正極活物質用前駆体によれば、非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層は、均質かつ緻密にニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を被覆しているため、非常に表面が緻密で反応性が良好な正極活物質用前駆体が得られる。
また、上記第2の目的を達成するため、本発明の正極活物質用前駆体の製造方法は、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が水酸化コバルト層で被覆された粒子を、水酸化ナトリウム水溶液を噴霧しながら酸素含有雰囲気中で熱処理することを特徴とする。
ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が水酸化コバルト層で被覆された粒子を、水酸化ナトリウム水溶液を噴霧しながら酸素含有雰囲気中で熱処理すると、表面の水酸化コバルト層は、空気中の酸素と反応して一部が酸化されるが、噴霧された水酸化ナトリウム水溶液の存在のためにナトリウム含有コバルト化合物を生成する。このナトリウム含有コバルト化合物は、噴霧された水酸化ナトリウム水溶液の界面で溶解反応と析出反応を徐々に繰り返して生成されたものであり、部分的に水酸化物と酸化物が不定比で存在している非晶質体となる。なお、ナトリウム含有コバルト化合物中に微量のニッケル成分が含まれていてもよい。そのため、本発明の正極活物質用前駆体の製造方法によれば、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が均質かつ緻密なナトリウム含有コバルト化合物層で被覆された正極活物質用前駆体を製造することができる。
また、本発明の正極活物質用前駆体の製造方法においては、前記熱処理温度は40℃〜90℃であることが好ましい。
本発明の正極活物質用前駆体の製造方法では、噴霧された水酸化ナトリウム水溶液の界面で溶解反応と析出反応を徐々に繰り返してナトリウム含有コバルト化合物が生成される。そのため、熱処理温度が90℃を超えると、噴霧された水酸化ナトリウム水溶液中の水分が直ぐに蒸発してしまうため、非晶質のナトリウム含有コバルト化合物層が得難くなる。また、熱処理温度が40℃未満では、非晶質のナトリウム含有コバルト化合物層の生成速度が遅くなりすぎて、熱処理時間が長くなりすぎるため、好ましくない。
また、上記第3の目的を達成するため、本発明の正極活物質材料の製造方法は、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されている正極活物質用前駆体と、リチウム塩とを混合し、酸化雰囲気下で焼成することを特徴とする。
本発明の正極活物質材料の製造方法で使用した正極活物質用前駆体は、表面が均質かつ緻密であるため、リチウム塩と混合して焼成すると、表面から均質にリチウムと反応していく。そのため、得られる正極活物質材料は表面状態が均質であり、かさ密度やプレス密度が低下することがない、表面がナトリウム含有リチウムコバルト複合酸化物で均質に被覆されているリチウムニッケルコバルト複合酸化物が得られる。
また、上記第4の目的を達成するため、本発明の正極活物質材料は、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されている正極活物質用前駆体と、リチウム塩との混合物を酸化雰囲気下で焼成することにより得られたものであることを特徴とする。
本発明の正極活物質材料は、表面状態は均質であり、かさ密度やプレス密度が低下することがなく、しかも非水電解液と反応し難く、安全性に優れた、表面がナトリウム含有リチウムコバルト複合酸化物で均質に被覆されているリチウムニッケルコバルト複合酸化物となる。
また、本発明の正極活物質材料においては、前記正極活物質材料の内部はLixNi1−yCoyO2(0.9≦x≦1.1、0<y≦0.5)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物からなり、前記正極活物質の表面部はLixNi1−A−BCoANaBO2(0.9≦x≦1.1、0<A≦1.0、0<B≦0.02)で表されるナトリウム含有リチウムコバルト複合酸化物からなり、かつy<Aであることが好ましい。
LixNi1−yCoyO2(0.9≦x≦1.1、0<y≦0.5)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物は、従来からリチウムコバルト複合酸化物と比較して高容量な材料であり、また、比較的安価であるという長所を有していることが知られている正極活物質材料である。本発明の正極活物質材料は、前記のリチウムニッケルコバルト複合酸化物の表面が均質なナトリウム含有リチウムコバルト複合酸化物で被覆されているので、従来のリチウムコバルト複合酸化物と比較して高容量であり、比較的安価で、しかも、かさ密度やプレス密度が低下することがなく、非水電解液と反応し難く、安全性に優れた正極活物質となる。
更に、上記第5の目的を達成するため、本発明の非水電解質二次電池は、正極芯体の表面に正極活物質材料を含む層が形成された正極極板と、負極芯体の表面に負極活物質材料を含む層が形成された負極極板と、前記正極極板及び負極極板がセパレータを介して積層又は巻回された電極体と、非水溶媒中に電解質塩を含有する非水電解質と、を備えた非水電解質二次電池において、前記正極活物質材料がニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されている正極活物質用前駆体と、リチウム塩との混合物を酸化雰囲気下で焼成することにより得られたものであることを特徴とする。
本発明の非水電解質二次電池の正極極板で用いられている正極活物質材料は、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されている正極活物質用前駆体と、リチウム塩との混合物を酸化雰囲気下で焼成することにより得られたものであるため、高容量で、比較的安価で、しかも安全性に優れた非水電解質二次電池が得られる。
なお、本発明の非水電解質二次電池では、負極活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、またはこれらの焼成体の一種あるいは複数種混合したもの等、炭素質材料を主体とした負極を用いることが好ましい。しかしながら、炭素質材料以外にも、リチウムとアルミニウム、亜鉛、ビスマス、カドミウム、アンチモン、シリコン、鉛、スズ、ガリウム、又はインジウム等との合金、あるいはその他の周知の非水電解質二次電池用負極活物質を使用した負極も使用し得る。
また、本発明の非水電解質二次電池における非水電解質を構成する非水溶媒(有機溶媒)としては、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、エステル類などを使用することができ、これら溶媒の2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中では特にカーボネート類が好適に用いられる。
具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、シクロペンタノン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2、4−ジメチルスルホラン、3−メチル−1、3オキサゾリジン−2−オン、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1、2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1、3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、1、4−ジオキサンなどを挙げることができる。
なお、本発明における非水電解質の溶質としては、非水電解質二次電池において一般に溶質として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiAsF6、LiClO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12など及びそれらの混合物が例示される。これらの中でも、LiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)が好ましく用いられる。前記非水溶媒に対する溶質の溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとするのが好ましい。
以下、本願発明を実施するための最良の形態を実施例、比較例及び図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための正極活物質前駆体及び正極活物質の例を示すものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
なお、図1は正極の充放電試験に使用した単極式セルの断面図である。図2は実施例の正極活物質材料の表面のSEM(走査電子顕微鏡)画像である。図3は比較例1の正極活物質材料の表面のSEM画像である。図4は比較例4の正極活物質材料の表面のSEM画像である。
[正極活物質の調製]
まず、ニッケルイオンとコバルトイオンのモル比が(1−y):y(ただし、0<y≦0.5)となるように濃度調製した硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液を用意し、この硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液に水酸化ナトリウムを滴下することによって、ニッケルコバルト複合水酸化物の結晶を析出させた。このニッケルコバルト複合酸化物の結晶の組成はNi1−yCoy(OH)2(ただし、0<y≦0.5)である。次に、このニッケルコバルト複合水酸化物の結晶が析出した水溶液を撹拌しながら、硫酸コバルト水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを滴下混合して弱アルカリに調整し、ニッケルコバルト複合水酸化物の結晶を核とし、表面に水酸化コバルトが析出した粒状物を作製した。この後、ホソカワミクロン株式会社製の多機能型流動乾燥装置アグロマスタ(商品名)を使用し、この表面に水酸化コバルトが析出した粒状物を40℃〜90℃に加熱された空気で流動させた状態で、水酸化ナトリウム水溶液を噴霧することにより表面部の酸化処理を施し、実施例の正極活物質用前駆体粒状物を得た。なお、表面層のナトリウム成分の含有量は噴霧する水酸化ナトリウムの量及び酸化処理時間によって適宜設定し得る。また、得られた正極活物質用前駆体のX線回折の測定結果によると、表面層に非晶質成分が存在していることが確認された。
まず、ニッケルイオンとコバルトイオンのモル比が(1−y):y(ただし、0<y≦0.5)となるように濃度調製した硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液を用意し、この硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液に水酸化ナトリウムを滴下することによって、ニッケルコバルト複合水酸化物の結晶を析出させた。このニッケルコバルト複合酸化物の結晶の組成はNi1−yCoy(OH)2(ただし、0<y≦0.5)である。次に、このニッケルコバルト複合水酸化物の結晶が析出した水溶液を撹拌しながら、硫酸コバルト水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを滴下混合して弱アルカリに調整し、ニッケルコバルト複合水酸化物の結晶を核とし、表面に水酸化コバルトが析出した粒状物を作製した。この後、ホソカワミクロン株式会社製の多機能型流動乾燥装置アグロマスタ(商品名)を使用し、この表面に水酸化コバルトが析出した粒状物を40℃〜90℃に加熱された空気で流動させた状態で、水酸化ナトリウム水溶液を噴霧することにより表面部の酸化処理を施し、実施例の正極活物質用前駆体粒状物を得た。なお、表面層のナトリウム成分の含有量は噴霧する水酸化ナトリウムの量及び酸化処理時間によって適宜設定し得る。また、得られた正極活物質用前駆体のX線回折の測定結果によると、表面層に非晶質成分が存在していることが確認された。
次いで、リチウム源の出発原料としての水酸化リチウムと前述のようにして得られた正極活物質用前駆体粒状物とを乳鉢で混合し、得られた混合物を空気中で600℃、10時間、仮焼成した後、酸化雰囲気下800℃で6時間焼成することにより、リチウム含有ニッケルコバルト複合酸化物粒子の表面にリチウムコバルト複合酸化物の層が形成されている焼成体を合成した。なお、焼成体の内部のリチウム含有ニッケルコバルト複合酸化物粒子の組成はLixNi1−yCoyO2(0.9≦x≦1.1、0<y≦0.5)となり、表面のナトリウム含有リチウムコバルト複合酸化物の層の組成はLixNi1−A−BCoANaBO2(0.9≦x≦1.1、0<A≦1.0、0<B≦0.02)となっており、y<Aの条件を満たしている。この後、合成した焼成体を粉砕し、実施例の正極活物質材料として使用した。
なお、正極活物質用前駆体ないし正極活物質材料中の元素分析は、周知の方法を採用して行うことができる。例えば、ニッケル及びコバルトの含有量については、試料を塩酸に溶解した後、乾燥させ、水を加えて稀釈し、適宜マスキングを行うことによりEDTA(ethylene diamine tetraacetic acid)標準溶液等を用いて滴定法により求めることができる。また、リチウム及びナトリウムについては、試料を塩酸に溶解した後、乾燥させ、水を加えて稀釈し、炎光光度を測定して定量することができる。
[正極の作製]
この正極活物質が90質量部、導電剤しての炭素粉末が5質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末が5質量部となるよう混合し、これをN−メチルピロリドン(NMP)溶液と混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム製の集電体の片面にドクターブレード法により塗布して、正極集電体上に活物質層を形成した。その後、圧縮ローラーを用いて圧縮し所定の大きさに切り出して実施例の正極を作製した。
この正極活物質が90質量部、導電剤しての炭素粉末が5質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末が5質量部となるよう混合し、これをN−メチルピロリドン(NMP)溶液と混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム製の集電体の片面にドクターブレード法により塗布して、正極集電体上に活物質層を形成した。その後、圧縮ローラーを用いて圧縮し所定の大きさに切り出して実施例の正極を作製した。
[比較例1]
比較例1の正極は、実施例の場合と同様の濃度に調製した硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液を用意し、この硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液に水酸化ナトリウムを滴下することによって、ニッケルコバルト複合水酸化物の結晶を析出させ、このニッケルコバルト複合水酸化物をそのまま正極活物質用前駆体として用いた以外は、実施例の場合と同様にして作製した。すなわち、比較例1の正極活物質用前駆体には、表面層に水酸化コバルトを含む層が形成されておらず、得られた比較例1の正極活物質材料はリチウム含有ニッケルコバルト複合酸化物のみからなっている。この比較例1の正極活物質用前駆体のX線回折の測定結果によると、良好な結晶性を備えていることが確認された。
比較例1の正極は、実施例の場合と同様の濃度に調製した硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液を用意し、この硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液に水酸化ナトリウムを滴下することによって、ニッケルコバルト複合水酸化物の結晶を析出させ、このニッケルコバルト複合水酸化物をそのまま正極活物質用前駆体として用いた以外は、実施例の場合と同様にして作製した。すなわち、比較例1の正極活物質用前駆体には、表面層に水酸化コバルトを含む層が形成されておらず、得られた比較例1の正極活物質材料はリチウム含有ニッケルコバルト複合酸化物のみからなっている。この比較例1の正極活物質用前駆体のX線回折の測定結果によると、良好な結晶性を備えていることが確認された。
[比較例2]
比較例2の正極は、実施例の場合と同様にしてニッケルコバルト複合水酸化物の結晶を核とし、表面に水酸化コバルトが析出した粒状物を得て、この粒状物をそのまま正極活物質用前駆体とした以外は、実施例の場合と同様にして作製した。すなわち、比較例2の正極活物質用前駆体の製造に際しては、実施例の正極活物質用前駆体の製造のために行われていた表面に水酸化コバルトを析出させた粒状物を加熱された空気で流動させた状態で水酸化ナトリウム水溶液を噴霧する工程が行われていない。
比較例2の正極は、実施例の場合と同様にしてニッケルコバルト複合水酸化物の結晶を核とし、表面に水酸化コバルトが析出した粒状物を得て、この粒状物をそのまま正極活物質用前駆体とした以外は、実施例の場合と同様にして作製した。すなわち、比較例2の正極活物質用前駆体の製造に際しては、実施例の正極活物質用前駆体の製造のために行われていた表面に水酸化コバルトを析出させた粒状物を加熱された空気で流動させた状態で水酸化ナトリウム水溶液を噴霧する工程が行われていない。
[プレス密度測定]
18.5mmφの治具を用い、実施例、比較例1及び2で得られた正極活物質材料を2.23t/cm2でプレスした際の密度を測定した。
18.5mmφの治具を用い、実施例、比較例1及び2で得られた正極活物質材料を2.23t/cm2でプレスした際の密度を測定した。
[充放電試験]
実施例、比較例1及び2で得られた正極を用いて、図1に示す単極セル10を作製し、充放電試験を行った。負極には金属リチウム板を用い、この金属リチウム板を上記正極材料に対して対向可能な寸法にて切り出し使用した。また、非水電解液としては、エチレンカーボネ一ト(EC)とメチルエチルカーボネ一ト(MEC)との30:70(体積比)混合溶媒にLiPF6を1mol/Lとなるように溶解して電解液として使用した。なお、セパレータにはポリエチレン製微多孔膜を用いた。単極式セル10は、図1に示すように、正極11、負極(対極)12及びセパレータ13が配置される測定槽14と、参照極15が配置される参照極槽16とから構成されている。そして、参照極槽16から毛細管17が正極11の表面近傍まで延長されており、また、測定槽14及び参照極槽16は何れも電解液18で満たされている。参照極15はリチウム金属が使用されている。なお、以下において電位は全て参照極15のLiに対する電位を示す。
実施例、比較例1及び2で得られた正極を用いて、図1に示す単極セル10を作製し、充放電試験を行った。負極には金属リチウム板を用い、この金属リチウム板を上記正極材料に対して対向可能な寸法にて切り出し使用した。また、非水電解液としては、エチレンカーボネ一ト(EC)とメチルエチルカーボネ一ト(MEC)との30:70(体積比)混合溶媒にLiPF6を1mol/Lとなるように溶解して電解液として使用した。なお、セパレータにはポリエチレン製微多孔膜を用いた。単極式セル10は、図1に示すように、正極11、負極(対極)12及びセパレータ13が配置される測定槽14と、参照極15が配置される参照極槽16とから構成されている。そして、参照極槽16から毛細管17が正極11の表面近傍まで延長されており、また、測定槽14及び参照極槽16は何れも電解液18で満たされている。参照極15はリチウム金属が使用されている。なお、以下において電位は全て参照極15のLiに対する電位を示す。
最初に、実施例、比較例1及び2の各電池を0.75mA/cm2の定電流で正極電位が4.3Vとなるまで充電し、その後0.25mA/cm2の定電流で正極電位が4.3Vとなるまで充電し、満充電状態とした。その後、0.75mA/cm2の定電流で正極電位が2.75Vとなるまで放電した。これを1サイクル目の充放電とした。この1サイクル目の充放電時にそれぞれ流れた電荷量を測定し、以下の計算式により放電容量密度を求めた。結果を纏めて表1に示した。
放電容量密度(mAh/cc)
=(正極活物質材料1g当たりの放電容量×正極活物質材料のプレス密度)
放電容量密度(mAh/cc)
=(正極活物質材料1g当たりの放電容量×正極活物質材料のプレス密度)
[熱安定性試験]
実施例、比較例1及び2の各電池を0.75mA/cm2の定電流で正極電位が4.3Vとなるまで充電し、その後0.25mA/cm2の低電流で正極電位が4.3Vとなるまで充電し、満充電状態とした。次いで、正極のみを取り出した後、DECで洗浄したものを試料とした。この試料とECとを混合しDSC(Differential Scanning Calorimetry:示唆走査熱量分析)にて熱量変化を測定し、DSCによる発熱ピーク高さから活物質の熱安定性を算出した。なお、DSCによる発熱ピークは正極活物質とECとの反応により生じたものであり、このピークが高いほど正極活物質とECとの反応性が高いことを示す。結果を纏めて表1に示した。
実施例、比較例1及び2の各電池を0.75mA/cm2の定電流で正極電位が4.3Vとなるまで充電し、その後0.25mA/cm2の低電流で正極電位が4.3Vとなるまで充電し、満充電状態とした。次いで、正極のみを取り出した後、DECで洗浄したものを試料とした。この試料とECとを混合しDSC(Differential Scanning Calorimetry:示唆走査熱量分析)にて熱量変化を測定し、DSCによる発熱ピーク高さから活物質の熱安定性を算出した。なお、DSCによる発熱ピークは正極活物質とECとの反応により生じたものであり、このピークが高いほど正極活物質とECとの反応性が高いことを示す。結果を纏めて表1に示した。
また、得られた実施例、比較例1及び2の正極活物質材料のSEM画像(倍率1万倍)をそれぞれ図2〜図4に示す。
表1及び図2〜図4に示した結果によると、以下のことが分かる。まず、図2〜図4のSEM画像を対比すると、表面の緻密さは実施例の正極活物質材料が最も緻密であり、比較例2の正極活物質材料は、粒子表面に結晶性のリチウムコバルト複合酸化物が形成されているため、最も粗くなっており、比較例1の正極活物質材料は実施例及び比較例2の正極活物質材料の中間程度となっていることが分かる。次いで、表1の結果をも参照すると、リチウム含有ニッケルコバルト複合酸化物のみからなる比較例1の正極活物質材料は、表面が比較例2のものよりは緻密になっているが実施例のものよりは粗く、放電容量密度は実施例のものより小さく、更に、熱安定性が非常に悪くなっている。また、リチウム含有ニッケルコバルト複合酸化物の表面にリチウムコバルト複合酸化物層が形成されている比較例2の正極活物質材料は、表面が非常に粗く、更に放電容量密度が最も小さいけれども、熱安定性は最も良好な結果が得られている。それに対して実施例の正極活物質材料は、表面が最も緻密になっており、放電容量密度は最も良好な結果が得られているが、熱安定性は比較例2のものとほぼ同等であり、比較例1のものと比すると良好な結果が得られている。
以上の結果によると、実施例の正極活物質材料を用いた正極は、非常に高容量となり、リチウムニッケルコバルト複合酸化物からなる正極活物質材料の特徴を損なわずに安全性に優れた非水電解質二次電池が得られることが分かる。
なお、実施例、比較例1及び2の作用・効果を確認するために単極セルを形成した例を示したが、これは正極活物質材料の特性そのものを比較するために採用されたものであり、非水電解質二次電池を得るには従来例のものと同様にして作製すればよい。例えば、上述のようにして作製された実施例の正極活物質材料を94質量部、導電剤としての炭素粉末が3質量部、結着剤としてのPVdF粉末が3質量部となるようにN−メチルピロリドン(NMP)溶液と混合してスラリーを調製する。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム製集電体の両面にドクターブレード法により塗布し、正極集電体の両面に活物質層を形成し、その後、乾燥機中を通過させて乾燥した後、圧縮ローラーを用いて厚さ130μmに圧縮し、切断することによって短辺の長さが30mm、長辺の長さが450mmの正極極板を作製する。
負極極板としては、黒鉛粉末からなる負極活物質95質量部と、カルボキシメチルセルロース(CMC)からなる増粘剤3質量部と、スチレンブタジエンゴム(SBR)からなる結着剤2質量部とを、適量の水と混合してスラリーとする。このスラリーを厚さ20μmの銅製集電体の両面にドクターブレード法により塗布して活物質層を形成し、その後、乾燥機中を通過させて乾燥した後、圧縮ローラーを用いて厚さ150μmに圧縮し、切断することによって短辺の長さが32mm、長辺の長さが460mmの負極極板を作製する。
上述のようにして作製した正極極板と負極極板とを幅44mm、厚さ25μmのポリエチレン製微多孔膜のセパレータを介して相対向するように配置した後、円柱状の巻き芯の周りに巻回し、円筒状の電極体を作製し、次いで、この円筒状電極体をプレスして、横断面形状が長円形状の電極体を得る。上記のようにして作製した偏平状巻回電極体を、外装缶(5.5×35×40mm)内に挿入し、上述の電解液を2.5g注液し、注液孔にアルミニウム製のプレートを設置してレーザ溶接により密栓することにより、角形の非水電解質二次電池が得られる。
10:単極式セル 11:正極 12:負極(対極) 13:セパレータ 14:測定槽 15:参照極 16:参照極槽 17:毛細管17 18:電解液
Claims (7)
- ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されている正極活物質用前駆体。
- ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が水酸化コバルト層で被覆された粒子を、水酸化ナトリウム水溶液を噴霧しながら酸素含有雰囲気中で熱処理することを特徴とする正極活物質用前駆体の製造方法。
- 前記熱処理温度は40℃〜90℃であることを特徴とする請求項2に記載の正極活物質用前駆体の製造方法。
- ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されている正極活物質用前駆体と、リチウム塩とを混合し、酸化雰囲気下で焼成することを特徴とする正極活物質材料の製造方法。
- ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されている正極活物質用前駆体と、リチウム塩との混合物を酸化雰囲気下で焼成することにより得られた正極活物質材料。
- 前記正極活物質材料の内部はLixNi1−yCoyO2(0.9≦x≦1.1、0<y≦0.5)で表されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物からなり、前記正極活物質の表面部はLixNi1−A−BCoANaBO2(0.9≦x≦1.1、0<A≦1.0、0<B≦0.02)で表されるナトリウム含有リチウムコバルト複合酸化物からなり、かつy<Aであることを特徴とする請求項5に記載の正極活物質材料。
- 正極芯体の表面に正極活物質材料を含む層が形成された正極極板と、負極芯体の表面に負極活物質材料を含む層が形成された負極極板と、前記正極極板及び負極極板がセパレータを介して積層又は巻回された電極体と、非水溶媒中に電解質塩を含有する非水電解質と、を備えた非水電解質二次電池において、
前記正極活物質材料がニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面が非晶質部分を含むナトリウム含有コバルト化合物層で被覆されている正極活物質用前駆体と、リチウム塩との混合物を酸化雰囲気下で焼成することにより得られたものであることを特徴とする非水電解質二次電池。
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