以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
本発明の一実施形態にかかる制動力保持制御装置として、制動力保持制御の一形態である発進補助制御を行う車両用ブレーキ制御装置について説明する。図1は、本実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置の油圧回路構成を示した図である。以下、この図を参照して、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置の構成について説明する。
車両用ブレーキ制御装置にはハイドロブースタが用いられている。図1に示されるように、マスタシリンダMC及びレギュレータRGが備えられ、これらがブレーキペダルBPの操作に応じて駆動される。レギュレータRGには補助液圧源ASが接続されており、これらはマスタシリンダMCと共に低圧リザーバRSに接続されている。
補助液圧源ASには、液圧ポンプHP及びアキュムレータAccが備えられている。液圧ポンプHPは、電動モータMによって駆動されるもので、低圧リザーバRSのブレーキ液を吸入吐出する。この液圧ポンプHPが吐出したブレーキ液がアキュムレータAccに供給され、アキュムレータAccによる蓄圧がなされる。これにより、補助液圧源ASでは、液圧ポンプHPおよびアキュムレータAccにより決められた下限圧から上限圧で規定される所定の圧力範囲内のブレーキ液圧が常に生成される。この補助液圧源ASの出力液圧が動圧としてレギュレータRGに入力され、レギュレータRGにてレギュレータ圧が発生させられると共に、マスタシリンダ圧の調圧が行われる。
電動モータMは、アキュムレータAcc内のブレーキ液圧(流体圧力)が所定の下限値を下回ることに応答して駆動されるようになっており、またアキュムレータAcc内の液圧が所定の上限値を上回ることに応答して停止させられる。このようにアキュムレータAccに蓄積されたブレーキ液圧が、出力液圧として、逆止弁CV6を介してレギュレータRGに供給される。
レギュレータRGは、補助液圧源ASの出力液圧を入力し、マスタシリンダMCの出力液圧をパイロット圧として、これに比例したレギュレータ液圧に調圧するものである。このレギュレータ液圧は、例えば後述する圧力センサ11によって検出され、常に所定範囲内に保たれる。なお、このレギュレータRGの基本的な構成については周知なものであるため、ここでは説明を省略する。
マスタシリンダMCと前輪FR、FLのホイールシリンダ(第1、第2ホイールシリンダ)Wfr、Wflの各々を接続することによりマスタシリンダ圧を伝える静圧系管路を構成する前輪側の管路(第1管路)MFには、2ポートの二位置弁で構成された電磁開閉弁(第1電磁開閉弁)SMCFが備えられている。この電磁開閉弁SMCFにより、管路MFの連通遮断が制御される。
また、電磁開閉弁SMCFよりもホイールシリンダWfl、Wfr側において、管路MFは2つの管路MF1、MF2に分岐しており、各管路MF1、MF2それぞれに増圧制御弁SFRH、SFLHが備えられた構成とされている。そして、各増圧制御弁SFRH、SFLHと前輪FR、FLのホイールシリンダWfr、Wflとの間が管路RC1、RC2および管路RCを通じて低圧リザーバRSに接続されている。各管路RC1、RC2それぞれには、減圧制御弁SFRR、SFLRが備えられており、これら減圧制御弁SFRR、SFLRによって、各管路RC1、RC2の連通遮断が制御される。
そして、電磁開閉弁SMCFのソレノイドに通電が行われていない非作動時には、管路MF、MF1、MF2を通じてマスタシリンダMCが前輪FR、FLのホイールシリンダWfr、Wflの各々と接続され、ソレノイドに通電が行われる作動時には、マスタシリンダMCがホイールシリンダWfr、Wflから遮断される。
また、レギュレータRGと後輪RR、RLのホイールシリンダ(第3、第4ホイールシリンダ)Wrr、Wrl等とを接続することによりレギュレータ圧を伝える動圧系管路を構成する管路(第2管路)MRには2ポートの二位置弁で構成された電磁開閉弁(第2電磁開閉弁)SRECが備えられている。この電磁開閉弁SRECにより、管路MRの連通遮断が制御される。そして、電磁開閉弁SRECのソレノイドに通電が行われていない非作動時には、管路MRを通じてレギュレータRGが後輪RR、RLのホイールシリンダWrr、Wrlの各々と接続され、ソレノイドに通電が行われる作動時には、レギュレータRGがホイールシリンダWrr、Wrlから遮断される。
管路MRは、電磁開閉弁SRECよりもホイールシリンダWrl、Wrr側において管路MR1、MR2に分岐しており、分岐したそれぞれの管路MR1、MR2には、それぞれ増圧制御弁SRRHが備えられていると共に、増圧制御弁SRLHが備えられている。そして、各増圧制御弁SRRH、SRLHと後輪RR、RLのホイールシリンダWrr、Wrlとの間が管路RC3、RC4および管路RCを通じて低圧リザーバRSに接続されている。これら管路RC3、RC4には、それぞれ、減圧制御弁SRRRおよびおよび減圧制御弁SRLRが備えられており、これら減圧制御弁SRRR、SRLRによって、各管路RC3、RC4の連通遮断が制御される。
さらに、補助液圧源ASは、管路(第3管路)AMを介して管路MRのうちの電磁開閉弁SRECよりも下流側、つまりホイールシリンダWfr、Wfl側に接続されている。管路AMには、2ポートの二位置弁で構成された電磁開閉弁(第3電磁開閉弁)STRが備えられている。この電磁開閉弁STRにより、管路AMの連通遮断が制御される。
そして、電磁開閉弁STRのソレノイドに通電が行われていない非作動時には、補助液圧源ASがホイールシリンダWrr、Wrlから遮断され、ソレノイドに通電が行われる作動時には、管路AMを通じて補助液圧源ASが後輪RR、RLのホイールシリンダWrr、Wrlの各々と接続される。
そして、管路MRのうち電磁開閉弁SRECと各増圧制御弁SRRH、SRLHとの間は、管路(第4管路)ACを介して、管路MFにおける電磁開閉弁SMCFと各増圧制御弁SFRH、SFLHとの間に接続されている。この管路ACには、2ポートの二位置弁で構成された電磁開閉弁SREAが備えられており、この電磁開閉弁SREAによって管路ACの連通遮断が制御される。
なお、各増圧制御弁SFRH〜SRLHには、逆止弁CV1〜CV4が並列接続されており、各逆止弁CV1〜CV4により、各増圧制御弁SFRH〜SRLHの下流側(ホイールシリンダWfr〜Wfl側)から上流側へのブレーキ液の流動のみが許容されるようになっている。また、電磁開閉弁SRECにも逆止弁CV5が並列接続されている。この逆止弁CV5により、電磁開閉弁SRECが遮断されていても、ドライバのブレーキ操作によって生じる圧力が勝れば、電磁開閉弁SRECの上流側(レギュレータRG側)から下流側へのブレーキ液の流動のみが許容されるようになっている。
さらに、車両用ブレーキ制御装置には、油圧回路内の各部位におけるブレーキ液圧を検出するための圧力センサ11、12が備えられている。圧力センサ11は、アキュムレータAccで蓄積されているブレーキ液圧を検出するためのものである。圧力センサ12は、レギュレータRG内の圧力(レギュレータ圧)を検出することにより、マスタシリンダMCに発生しているマスタシリンダ圧を検出するためのもので、管路MRにおける電磁開閉弁SRECよりも上流側に備えられている。レギュレータ圧は基本的にマスタシリンダMCと同圧となるため、レギュレータ圧を検出することによりマスタシリンダ圧を検出することができる。
このように構成される車両ブレーキ制御装置には、図2に示すようにブレーキECU10が備えられている。このブレーキECU10には、各圧力センサ11、12の検出信号、および、各車輪に対して備えられた車輪速度センサ13a〜13dが入力されている。そして、ブレーキECU10から、各種検出信号および制御信号に基づいて各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、SFRH〜SRLRや電動モータMに対して駆動信号が出力される。これにより、レギュレータ液圧が所定の圧力範囲内に維持されるように制御したり、ホイールシリンダWfl〜Wrrに加えられるブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)が制御される。
具体的には、各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、SFRH〜SRLRは、ソレノイドに通電が行われていない非作動時には、弁位置が図示位置に設定されており、ソレノイドに通電が行われた作動時には、弁位置が図示位置とは異なる位置に設定される。そして、ソレノイドへの通電によって各種弁SMCF、SREC、STR、SREA、STR、SFRH〜SRLRの弁位置を調整することにより、通常ブレーキのみでなく、制動力保持制御の一形態である発進補助制御を含めた各種制御(例えば、アンチスキッド制御、トラクション制御、横滑り防止制御等)を実行するようになっている。
図3に、通常ブレーキ時と発進補助制御時における各種弁の作動状態を示し、この図を参照して通常ブレーキ時と発進補助制御時における車両用ブレーキ制御装置の作動について説明する。なお、発進補助制御以外の各種制御に関しては、本発明の特徴ではないため、ここでは省略する。
〔通常ブレーキ時〕
通常ブレーキ時には、電磁開閉弁SMCF、SREA、STR、SRECへの通電はすべてOFFのままとされ、また、増圧制御弁SFRH〜SRLHおよび減圧制御弁SFRR〜SRLRへの通電もOFFのままとされる。つまり、電磁開閉弁STRは遮断状態、電磁開閉弁SRECは連通状態、電磁開閉弁SMCFは連通状態、電磁開閉弁SREAは遮断状態とされる。また、増圧制御弁SFRH〜SRLHは連通状態、減圧制御弁SFRR〜SRLRは遮断状態とされる。
このように、電磁開閉弁STRが遮断状態とされることから、アキュムレータAccに蓄積されたブレーキ液圧は各ホイールシリンダWfl〜Wrrに伝達されない。そして、電磁開閉弁SMCFおよび電磁開閉弁SRECが連通状態とされていることから、マスタシリンダMCに発生させられたマスタシリンダ圧は、電磁開閉弁SMCFを通じてホイールシリンダWfr、Wflに伝達される。また、レギュレータRGに発生させられたブレーキ液圧が電磁開閉弁SRECを通じて、各ホイールシリンダWrr、Wrlに伝達される。
〔発進補助制御時〕
発進補助制御時には、電磁開閉弁SMCFおよび電磁開閉弁SRECへの通電をONにし、その他の電磁開閉弁SREA、STR等への通電はOFFにする。これにより、電磁開閉弁SMCFおよび電磁開閉弁SRECが遮断され、各ホイールシリンダWfl〜Wrrに加えられているブレーキ液圧が保持される。
したがって、ドライバがブレーキペダルBPの踏み込みを解除してブレーキペダルBPが戻されても、制動力を保持することができる。そして、このような制動力の保持状態が車両停止中、つまりドライバがアクセルペダルを踏み込んで車両が発進するまで続けられるため、坂路に車両が停車しているような状況でも車両がずり落ちないようにしながら車両を発進させることが可能となる。
次に、本実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置が行う発進補助制御の詳細を説明する。図4は、発進補助制御処理の全体を示したフローチャートである。この図を参照して発進補助制御について説明する。
発進補助制御処理は、図示しないイグニッションスイッチがオンされると所定の制御周期毎にブレーキECU10にて実行される。
まず、図4のステップ100において、車両が停止したか否かを判定する。この処理は、車輪速度センサ13a〜13dの検出信号から求められる各車輪速度がすべて0になっているか、もしくは、これら各車輪速度に基づいて周知の手法にて演算される推定車体速度が0になっているか否かを判定することにより行われる。ここで、肯定判定されれば、ステップ110に進む。
ステップ110では、マスタシリンダ圧記憶判定処理を行う。図5は、マスタシリンダ圧記憶判定処理の詳細を示したフローチャートであり、この図を参照して説明する。
マスタシリンダ圧判定処理が実行されると、ステップ200においてマスタシリンダ圧が既に記憶されているか否かが判定される。この処理では、後述するステップ220においてマスタシリンダ圧を記憶したことを示す記憶値有りフラグがセットされていれば肯定判定され、リセットされていれば否定判定される。そして、ステップ200で否定判定されると、ステップ210に進み、今回の制御周期の際に圧力センサ12の検出信号に基づいて検出されたマスタシリンダ圧を記憶値として記憶する。その後、ステップ220に進み、記憶値の記憶が行われたことを示す記憶値有りフラグをセットして処理を終了する。一方、ステップ200において否定判定された場合には、そのまま処理を終了する。これにより、マスタシリンダ圧記憶判定処理が終了する。
続いて、図4のステップ120に進み、トリガー入力判定処理を実行する。図6は、トリガー入力判定処理の詳細を示したフローチャートであり、この図を参照して説明する。
トリガー入力判定処理が実行されると、ステップ300において今回の制御周期の際に圧力センサ12の検出信号に基づいて検出されたマスタシリンダ圧が上述した図5のステップ210で記憶した記憶値に対して閾値1を加算した値を超えているか否かを判定する。
閾値1とは、ドライバによる発進補助制御の実行の意思を確認するために設けた判定値である。つまり、ドライバが車両が停止したときに対して更にブレーキペダルBPを踏み込んだことを発進補助制御の実行の意思表示としている。このため、車両が停止したときのマスタシリンダ圧を記憶値として記憶しておき、車両停止後にマスタシリンダ圧が記憶値に対して閾値1を加算した値(記憶値+閾値1)を超えていれば、ドライバが発進補助制御を実行すべくブレーキペダルBPを踏み込んだと判定する。
そして、ステップ300で肯定判定されればステップ310に進み、発進補助制御の実行許可のトリガーが入力されたことを示すトリガ入力フラグをセットして処理を終了し、否定判定されれば、そのまま処理を終了する。これにより、トリガー入力判定処理が終了する。
続いて、図4のステップ130に進み、バルブON判定処理を実行する。図7は、バルブON判定処理の詳細を示したフローチャートであり、この図を参照して説明する。
バルブON判定処理が実行されると、ステップ400において、トリガー入力ありか否かを判定する。この判定は、上述した図6のステップ310においてトリガ入力フラグがセットされているか否かに基づいて行われる。そして、トリガー入力があった場合には、ステップ410に進み、今回の制御周期の際に圧力センサ12の検出信号に基づいて検出されたマスタシリンダ圧が上述した図5のステップ210で記憶した記憶値に対して閾値2を加算した値を下回ったか否かを判定する。
閾値2とは、ドライバによる発進保持制御の意思を確認したあとにブレーキペダルBPの踏み込みを緩められたこと、つまりブレーキペダルBPが戻される状態であることを確認するための判定値である。トリガ入力が為された後にブレーキペダルBPがまだ踏み込まれている状態であれば、マスタシリンダ圧が記憶値に対して閾値1を加算した値から更に増えていると考えられるが、ブレーキペダルBPが戻されれば徐々にマスタシリンダ圧が低下し、記憶値に対して閾値1を加算した値よりも小さくなる。このため、トリガ入力が為された後にブレーキペダルBPがまだ踏み込まれている状態であるか、ブレーキペダルBPが戻されている状態であるかを確実に判定できるように、閾値2を上述した閾値1よりも小さい値に設定してある。
そして、ステップ410で肯定判定されればステップ420に進み、バルブONを指示して処理を終了する。これにより、図3の発進補助制御における各種弁の作動状態に示したように、電磁開閉弁SMCFおよび電磁開閉弁SRECへの通電をONにし、制動力を保持する。これにより、坂路に車両が停車しているような状況でも車両がずり落ちないようにしながら車両を発進させることが可能となるという発進補助を行うことができる。
なお、図4のステップ100において否定判定されれば、発進補助制御を実行する必要が無いもしくは無くなったとして、ステップ140に進んでマスタシリンダ圧の記憶値をリセットすると共に記憶値有りフラグをリセットし、さらにステップ150に進んでトリガ入力フラグをリセットして処理を終了する。このようにして、発進補助制御処理が完了する。
図8は、上記のような発進補助制御が実行されたときのタイミングチャートである。まず、ブレーキペダルの踏み込みに基づいてマスタシリンダ圧が発生し、それに伴って各ホイールシリンダWfl〜Wrrにブレーキ液圧が伝えられると、各車輪FL〜RRに制動力が発生させられ車速が低下していく。次に、時点T1において、車速が0km/hとなり、車両が停止したことが確認されると、そのときのマスタシリンダ圧が記憶値として記憶される。そして、ドライバが発進補助制御を実行すべくブレーキペダルBPを更に踏み込み、時点T2においてマスタシリンダ圧が記憶値に対して閾値1を加算した値を超えると、トリガ入力フラグがセットされる。この後、ブレーキペダルBPが戻され、時点T3においてマスタシリンダ圧が記憶値に対して閾値2を加算した値を下回ると、バルブONとされる。そして、時点T4において、アクセルペダルが踏み込まれて車両が発進すると、トリガ入力フラグがリセットされると共にバルブONが解除され、保持されていた制動力が解除される。
以上説明したように、本実施形態では、発進補助制御処理において、発進補助制御の開始条件を2つに分け、車両停止時よりもブレーキペダルBPが踏み込まれてマスタシリンダ圧が上昇したときに発進補助制御の実行許可を出し、その後、ブレーキペダルBPが戻されたことが確認されると発進補助制御の実行開始するようにしている。
このように、ブレーキペダルBPが戻されたときに初めて発進補助制御の実行開始としているため、発進補助制御の実行により電磁開閉弁SMCFおよび電磁開閉弁SRECが遮断状態にされたとしても、その後にブレーキペダルBPが踏み込まれることがない。このため、ブレーキペダルBPを踏み込んだときに発進補助制御を実行する際のような板感をドライバに与えないようにすることができる。したがって、ブレーキペダルBPの操作によって発生させられた制動力を車両停止後にも保持する発進補助制御を行う際に、ドライバに板感を与えることを防止でき、ブレーキフィーリングの向上を図ることが可能となる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対して、バルブON判定処理を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
第1実施形態に示した車両用ブレーキ制御装置において、電磁開閉弁SMCFと電磁開閉弁SRECを連通・遮断状態に切り替わる二位置弁で構成している。このような二位置弁としては、連通状態の際に両方向に対して連通状態になるものを採用することもできるが、両方向に対して連通状態になるのではなく一方向に対してのみ連通状態となるものを採用することができる。具体的には、二位置弁を逆止弁と逆止弁の弁体を弁座方向に付勢するスプリングとを内蔵した構造とすることができる。その場合、電磁開閉弁SMCFに関しては、マスタシリンダMCからホイールシリンダWfl、Wfr側へのブレーキ液の流動を許容しつつ、その逆方向のブレーキ液の流動を禁止する構造とすることができる。また、電磁開閉弁SRECに関しては、ホイールシリンダWrl、Wrr側からレギュレータRG側へのブレーキ液の流動を許容しつつ、その逆方向のブレーキ液の流動を禁止する構造とすることができる。
ここで、第1実施形態で説明したように、マスタシリンダ圧に基づいてブレーキペダルBPが戻されるときを検出しているが、これはマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧とが対応していることを前提とし、マスタシリンダ圧をホイールシリンダ圧の推定値として用いているためである。そして、マスタシリンダ圧が所望の値になったときにホイールシリンダ圧が所望の値になったと想定し、そのときに発進補助制御の実行開始を行うことで制動力を保持している。
このため、マスタシリンダ圧に基づいてブレーキペダルBPが戻されるときを検出して発進補助制御を実行する場合、ブレーキペダルBPの戻す速さが速いと、マスタシリンダ圧の変化に対してホイールシリンダ圧の変化が追従できない可能性がある。このような状況になると、所望のホイールシリンダ圧になったと想定して発進補助制御を実行したとしても、実際のホイールシリンダ圧が所望のホイールシリンダ圧からずれて高い値になる可能性がある。つまり、ホイールシリンダ圧が必要以上に残るような圧力の封じ込めを起こすことがある。特に、低温時にはブレーキ液の粘性抵抗が大きいため、マスタシリンダ圧の変化に対してホイールシリンダ圧の変化が追従できなくなる可能性が高い。
そこで、本実施形態では、圧力センサ12の検出信号(マスタシリンダ圧の生値)を第1フィルタに通過させることで、第1フィルタ通過後のマスタシリンダ圧がホイールシリンダ圧の変化に対応して低い応答性で緩やかに変化するようにし、第1フィルタ通過後のマスタシリンダ圧に基づいて発進補助制御の実行開始の判定を行う。すなわち、圧力センサ12の検出信号を第1カットオフ周波数(例えば9Hz)の第1フィルタを通過させることで第1ホイールシリンダ圧推定値を演算する。このときの第1カットオフ周波数は、低温時のようにブレーキ液の粘性抵抗が高いときのマスタシリンダ圧の変化に対するホイールシリンダ圧の変化の仕方に対応するように設定される。これにより、低温時のようにブレーキ液の粘性抵抗が高いときのホイールシリンダ圧を演算できる。
ただし、第1ホイールシリンダ圧推定値は、低温時のようにブレーキ液の粘性抵抗が大きい時を前提とした値になる。このため、常温時のようにマスタシリンダ圧の変化に対してホイールシリンダ圧が追従できる場合にまでホイールシリンダ圧が緩やかに低下する値として第1ホイールシリンダ圧推定値が演算されることになり、ブレーキ液の粘性抵抗が大きくなければ第1ホイールシリンダ圧推定値は逆に実際のホイールシリンダ圧よりも低い値になる。したがって、第1ホイールシリンダ圧推定値のみに基づいて発進補助制御の実行開始の判定を行うと、発進補助制御を実行開始したときの実際のホイールシリンダ圧が所望のホイールシリンダ圧よりも小さくなるため、十分な制動力が得られなくなり、坂路において車両がずり落ちる可能性がある。
したがって、ブレーキペダルBPを戻した時にマスタシリンダ圧の生値よりも緩やかに低下し、かつ、第1ホイールシリンダ圧推定値よりも高い応答性で速く低下する第2ホイールシリンダ圧推定値を演算する。具体的には、第1フィルタの第1カットオフ周波数よりも大きな第2カットオフ周波数(例えば15Hz)を有する第2フィルタを設け、圧力センサ12の検出信号(マスタシリンダ圧の生値)を第2フィルタに通過させることで第2ホイールシリンダ圧推定値を演算する。このときの第2カットオフ周波数は、車両用ブレーキ制御装置が使用される環境において、最もブレーキ液の粘性抵抗が小さくなる場合であっても、車両のずり落ちが生じない程度となるように設定される。
以上のような知見に基づき、本実施形態では、次のようにしてバルブON判定処理を実行している。図9は、本実施形態の発進補助制御におけるバルブON判定処理の詳細を示したフローチャートである。
この図に示すように、ステップ500では、圧力センサ12の検出信号(マスタシリンダ圧の生値)を入力し、それを第1フィルタや第2フィルタを通過させることで、第1ホイールシリンダ圧推定値および第2ホイールシリンダ圧推定値を演算する。次に、ステップ510において、上述した図7のステップ400と同様にトリガー入力があるか否かの判定を行う。そして、肯定判定されると、ステップ520に進む。
ステップ520では、第1ホイールシリンダ圧推定値が記憶値に対して閾値Aを加算した値を下回ったか否かを判定する。ここでいう閾値Aは、第1実施形態で説明した閾値2に対応するものであり、ブレーキ液の粘性抵抗が大きい場合に必要以上に高いホイールシリンダ圧が発生してしまう封じ込め防止用閾値である。この処理により、仮にブレーキ液の粘性抵抗が大きくてマスタシリンダ圧の低下に対してホイールシリンダ圧の低下が遅かったとしても、その変化の遅いホイールシリンダ圧を推定して、所望のホイールシリンダ圧になったか否かを判定することができる。ここで肯定判定されればステップ530に進み、上述した図7のステップ420と同様にバルブONを指示して処理を終了する。そして、否定判定されればステップ540に進む。
ステップ540では、第2ホイールシリンダ圧推定値が記憶値に対して閾値Bを加算した値を下回ったか否かを判定する。ここでいう閾値Bは、第1実施形態で説明した閾値2に対応するものであり、ブレーキ液の粘性抵抗が小さい場合にホイールシリンダ圧が低くなりすぎて車両がずり落ちてしまうことを防止するためのずり落ち防止用閾値である。これにより、仮にブレーキ液の粘性抵抗が小さくてマスタシリンダ圧の低下に伴ってホイールシリンダ圧も低下するような場合でも、その変化の速いホイールシリンダ圧を推定して、所望のホイールシリンダ圧になったか否かを判定することができる。ここで肯定判定されればステップ530に進み、上述した図7のステップ420と同様にバルブONを指示して処理を終了する。そして、否定判定されればそのまま処理を終了する。
図10は、ブレーキペダルBPを速く戻した場合と緩やかに戻したときのマスタシリンダ圧(生値)、第1フィルタや第2フィルタ通過後の第1ホイールシリンダ圧推定値および第2ホイールシリンダ推定値の変化を示したタイミングチャートである。
図10(a)に示すように、ブレーキペダルBPを速く戻した場合には、マスタシリンダ圧の生値に対して、第1ホイールシリンダ圧推定値および第2ホイールシリンダ推定値の低下の速さに差が出る。このとき、第1ホイールシリンダ圧推定値が記憶値に対して閾値Aを加算した値を下回ったときにバルブONすれば、ブレーキ液の粘性抵抗が高い場合に必要以上に高いホイールシリンダ圧が発生することを防止することはできる。しかしながら、その条件を満たすまでに時間が掛かるため、ブレーキ液の粘性抵抗が低ければ、車両のずり落ちが懸念される。したがって、このような場合には、第1ホイールシリンダ圧推定値が記憶値に対して閾値Aを加算した値を下回るよりも先に、第2ホイールシリンダ圧推定値が記憶値に対して閾値Bを加算した値を下回り、車両のずり落ち防止がなされる。
また、図10(b)に示すように、ブレーキペダルBPを緩やかに戻した場合には、マスタシリンダ圧の生値に対して、第1ホイールシリンダ圧推定値および第2ホイールシリンダ推定値の低下の速さに差があまり出ない。このため、第1ホイールシリンダ圧推定値が記憶値に対して閾値Aを加算した値を下回ったときにバルブONしても、車両のずり落ちの心配はないため、ブレーキ液の粘性抵抗が高い場合に必要以上に高いホイールシリンダ圧が発生することを防止することが優先される。
このように、圧力センサ12の検出信号を第1フィルタで通過させた後の値である第1ホイールシリンダ圧推定値に基づいて発進補助制御の実行開始の判定を行うことにより、実際のホイールシリンダ圧が所望のホイールシリンダ圧からずれて高い値になることを防止できる。つまり、ホイールシリンダ圧が必要以上に残るような圧力の封じ込めを防止することが可能となる。
また、圧力センサ12の検出信号を第2フィルタで通過させた後の値である第2ホイールシリンダ圧推定値に基づいて発進補助制御の実行開始の判定を行うことにより、車両がずり落ちてしまわない程度のホイールシリンダ圧を確実に発生させることができる。
したがって、基本的にはホイールシリンダ圧が必要以上の残るような圧力の封じ込めが生じることを防止しつつ、少なくとも車両がずり落ちてしまわない程度のホイールシリンダ圧を発生させることができる。
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対して、マスク圧記憶判定処理を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
上記第1、第2実施形態では、車両停止時のマスタシリンダ圧を記憶値として記憶し、この記憶値に基づいて発進補助制御の実行許可の判定や実行開始の判定を行っている。しかしながら、車両停止時にドライバが強くブレーキペダルBPを踏み込んでおり、大きなマスタシリンダ圧が発生しているような場合には、それを更に強く踏み込んで発進補助制御の実行許可の条件を満たすようにするのが困難な場合も有り得る。このため、車両停止後にマスタシリンダ圧が低下した場合には、それに対応して記憶値の更新を行うようにすると好ましい。
ところが、無制限に記憶値を更新してしまうと、更新後の記憶値に基づいて発進補助制御の実行許可の判定や実行開始の判定を行うことになるため、発進補助制御を実行したときに発生させられるホイールシリンダ圧が小さくなり、十分な制動力が得られなくなることも懸念される。
すなわち、基本的には、図4のステップ100の処理によって肯定判定された場合にのみ記憶値が更新されることになるため、発進補助制御時には車両の停止を維持できるホイールシリンダ圧になる。しかし、実際にはマスタシリンダ圧が車両の停止を維持できない程度まで低下したときに直ぐに車両が動きだすのではなく、若干時間が経ってから動き出すため、そのときのマスタシリンダ圧を記憶値として更新してしまうと車両の停止を維持できるホイールシリンダ圧に対応する記憶値にならなくなる可能性がある。したがって、本実施形態では、記憶値の更新を行いつつ、確実に車両の停止を維持できるホイールシリンダ圧を発生させられるようにする。
具体的には、本実施形態では、次のようにしてバルブON判定処理を実行している。図11は、本実施形態の発進補助制御におけるマスタシリンダ圧記憶判定処理の詳細を示したフローチャートである。
まず、マスタシリンダ圧判定処理が実行されると、ステップ200〜220において、第1実施形態に示した図5と同様の処理を行う。さらに、本実施形態では、ステップ200において記憶値が記憶されていて肯定判定されたときに、ステップ230に進み、今回の制御周期の際に圧力センサ12の検出信号に基づいて検出されたマスタシリンダ圧に対して閾値3を加算した値(マスタシリンダ圧+閾値3)よりも記憶値の方が大きいか否かを判定し、ここで肯定判定された場合にのみステップ240に進んでマスタシリンダ圧に対して閾値3を加算した値を新たな記憶値として更新する。
閾値3とは、車両停車後にマスタシリンダ圧が低下して本来車両停止を保持できるホイールシリンダ圧よりも低下していても車両が動き出すまでに時間が経過しているような場合において、車両停止を保持できるようにするためにそのときのマスタシリンダ圧に対して増圧すべき値以上に設定されている。
このように、記憶値がそのとき発生しているマスタシリンダ圧に対して閾値3を加算した値以下に更新されないようにすれば、常に車両停止を保持するために必要なホイールシリンダ圧と対応する記憶値となるようにできる。
なお、記憶値がそのとき発生しているマスタシリンダ圧に対して閾値3を加算した値よりも大きくなるようにする場合、発進補助制御の実行許可の判定では、記憶値に対して閾値1を加算した値、つまりそのときに発生しているマスタシリンダ圧に対して閾値3および閾値1を加算した値が用いられることになる。このため、ドライバが閾値3と閾値1を加算した分さらにブレーキペダルBPを踏み込まなければ発進補助制御の実行許可が出されず、ドライバに対して比較的大きな踏み込みを要求することになる。しかしながら、一旦マスタシリンダ圧を低下させた後に再度ブレーキペダルBPを踏み込ませることになるため、ドライバが大きく踏み込んでくれることが期待でき、的確に発進補助制御の実行許可に至るようにできる。
図12は、車両停車後にブレーキペダルBPが戻されてマスタシリンダ圧が低下したときに、それに伴って記憶値を更新した場合のタイミングチャートである。
図中の時点T1に示されるように、車速が0km/hになった後、マスタシリンダ圧が低下すると、それに伴って記憶値が更新される。具体的には、時点T2に示すように、記憶されている記憶値がマスタシリンダ圧に対して閾値3を加算した値よりも大きくなると、その後マスタシリンダ圧の低下に対応して記憶値が更新される。続いて、時点T3において、ドライバが発進補助制御を実行するためにブレーキペダルBPが再度踏み込まれてマスタシリンダ圧が高められると、その時点の記憶値が保持される。
そして、時点T4においてマスタシリンダ圧が記憶値に対して閾値1を加算した値を超えると発進補助制御の実行許可が出され、さらに時点T5においてマスタシリンダ圧が記憶値に対して閾値2を加算した値を下回ると発進補助制御が実行開始となる。
このように、マスタシリンダ圧の低下に伴って記憶値を更新することで、ブレーキペダルBPが強く踏み込まれているときのマスタシリンダ圧が記憶値として記憶され、それ以上強くブレーキペダルBPを踏み込むことが困難な場合であっても、的確に発進補助制御が実行できるようにすることが可能となる。また、マスタシリンダ圧の低下に伴って記憶値を更新したとしても、記憶値が小さな値になり過ぎないようにできるため、常に車両停止を保持するために必要なホイールシリンダ圧と対応する記憶値にすることができ、車両のずり落ちを防止することが可能となる。
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対して、前輪FR、FLと後輪RR、RLとで発進補助制御によりホイールシリンダ圧を発生させるタイミングを個々に設定するものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
上述したように、電磁開閉弁SMCFや電磁開閉弁SRECとして、一方向に対してのみ連通状態となる二位置弁を採用することができる。そして、電磁開閉弁SMCFに関しては、非通電時にはマスタシリンダMCからホイールシリンダWfl、Wfr側へのブレーキ液の流動を許容しつつ、通電時にはその逆方向のブレーキ液の流動を禁止する構造、すなわち通電により弁体がマスタシリンダMC側に向けて閉じる常開弁とすると好ましい。このような構造とすれば、ブレーキペダルBPを強踏みすればホイールシリンダ圧が高圧になったときにもスプリング力に抗してその高圧で弁体が押されて遮断状態になってしまうことを防止できる。また、電磁開閉弁SRECに関しては、非通電時にはホイールシリンダWrl、Wrr側からレギュレータRG側へのブレーキ液の流動を許容しつつ、通電時にはその逆方向のブレーキ液の流動を禁止する構造、すなわち弁体がホイールシリンダWrr、Wrl側に向けて閉じる常開弁であると好ましい。このような構造とすれば、電磁開閉弁STRが故障により連通状態になったときにホイールシリンダ圧が過増圧となるが、そのときにレギュレータRG側にブレーキ液を逃がすことで過増圧を緩和することが可能となる。ただし、電磁開閉弁SRECと並列にチェック弁を設け、ブレーキペダル踏み増し時にはレギュレータRG側からホイールシリンダ側への流動を許容する構造とすべきである。これにより、保持圧不足などでドライバが踏み増した場合、必要なブレーキ圧力を掛けることができる。
このような構造とする場合において、発進補助制御により電磁開閉弁SMCFと電磁開閉弁SRECを同時にオンして遮断状態にすると圧力の封じ込めを起こすことがある。具体的には、電磁開閉弁SMCFの弁体に対してホイールシリンダWfl、Wfr側に維持した高いブレーキ液圧が掛かるため、発進時に電磁開閉弁SMCFへの通電を停止して連通状態に切替えようとしても、電磁開閉弁SMCFの弁体をスプリング力によって押し返すことができなくなる。このため、電磁開閉弁SMCFが連通状態に切り替えられなくなって圧力の封じ込めが起こる。これを防ぐために、本実施形態では、前輪FR、FLと後輪RR、RLとで発進補助制御によりホイールシリンダ圧を発生させるタイミングを個々に設定する。以下、このような本実施形態の発進補助制御の詳細について説明する。
図13は、本実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置のブレーキECU10に対する各種信号の出入力の関係を示したブロック図である。この図に示されるように、基本的には第1実施形態と同様であるが、本実施形態では、車両前後方向の加速度を検出できる加速度センサ14からの検出信号を入力し、これに基づいて路面勾配の測定が行えるようになっている。このブレーキECU10にて、第1実施形態と同様の発進補助制御を行うが、本実施形態では、バルブON判定処理についてのみ第1実施形態と異なる処理を行う。
図14は、本実施形態の発進補助制御におけるバルブON判定処理の詳細を示したフローチャートであり、この図を参照して説明する。
バルブON判定処理が実行されると、ステップ600において、トリガー入力ありか否かを判定する。この処理は、上述した図4のステップ400と同様にして行われる。次に、ステップ610において、路面勾配検出処理を行う。この処理は、加速度センサ14の検出信号を入力することで行われる。具体的には、停車時には、加速度センサ14は、路面勾配に応じて印加される重力加速度と対応した検出信号を出力する。このため、検出信号から重力加速度の影響による前後加速を求め、そこから路面勾配を検出する。
続く、ステップ620では、ステップ610で検出した路面勾配に応じた閾値を決定する。ここでいう閾値とは、前輪系統用閾値(静圧用閾値)と後輪系統用閾値(動圧用閾値)の2つがあり、ドライバによる発進保持制御の意思を確認したあとにブレーキペダルBPの踏み込みを緩められたことの確認、および、前輪系統用の電磁開閉弁SMCFと後輪系統用の電磁開閉弁SRECをオンさせるタイミング確認のための判定値である。
具体的には、ステップ620中に示したように、路面勾配と閾値との関係を示すマップを用い、ステップ610で検出した路面勾配と対応する前輪系統用閾値と後輪系統用閾値を選択する。このマップは、路面勾配が大きいほど大きな制動力を発生させられるように閾値を設定してある。このため、前輪FR、FLと後輪RR、RL共に路面勾配に応じたホイールシリンダ圧を発生させられる前輪系統用閾値と後輪系統用閾値を選択することができる。
ただし、前輪FR、FLに関しては上述したような圧力の封じ込めを起こすことがあるため、封じ込めが発生しないと考えられるライン(封じ込めライン)よりもホイールシリンダWfl、Wfrに大きなホイールシリンダ圧が印加されないように、路面勾配が所定値θ0を超えても上限値を超えないように前輪系統用閾値に上限値を設定してある。このため、基本的には前輪FR、FLに対しても後輪RR、RLと同様に路面勾配に応じたホイールシリンダ圧を発生させつつ、前輪FR、FLのホイールシリンダWfl、Wfrに封じ込めが発生し得る大きなホイールシリンダ圧が掛からないように、前輪系統用閾値を設定できる。
そして、ステップ630に進み、今回の制御周期の際に圧力センサ12の検出信号に基づいて検出されたマスタシリンダ圧が上述した図5のステップ210で記憶した記憶値に対して前輪系統用閾値を加算した値を超えているか否かを判定する。ここで肯定判定されればステップ640に進み、前輪側のバルブON、つまり電磁開閉弁SMCFのオンを指示する。一方、ここで否定判定された場合、および、ステップ640の処理が終わった場合には、ステップ650に進む。
ステップ650では、今回の制御周期の際に圧力センサ12の検出信号に基づいて検出されたマスタシリンダ圧が上述した図5のステップ210で記憶した記憶値に対して後輪系統用閾値を加算した値を超えているか否かを判定する。ここで肯定判定されればステップ660に進み、後輪側のバルブON、つまり電磁開閉弁SRECのオンを指示する。
図15は、通常ブレーキ時と発進補助制御時において後輪RR、RLに制動力が発生させられた状態(状態1)および前輪FR、FLと後輪RR、RLの両方に制動力が発生させられた状態(状態2)の各種弁の作動状態を示した図である。この図に示されるように、状態1のときには電磁開閉弁SRECがオンさせられていても電磁開閉弁SMCFはオフのままとされ、状態2のときには電磁開閉弁SRECに加えて電磁開閉弁SMCFもオンさせられる。
このように、前輪系統用閾値と後輪系統用閾値をそれぞれ設定することにより、発進補助制御によりホイールシリンダ圧を発生させるタイミングを個々に設定することができる。このため、後輪RR、RLでは路面勾配に応じて大きなホイールシリンダ圧を発生させつつ、前輪FR、FLでは圧力の封じ込めが発生しない程度のホイールシリンダ圧を発生させることが可能となる。
また、図16は、ブレーキペダルBPが踏み込まれてマスタシリンダ圧が発生させられた後、ブレーキペダルBPが戻されたときの様子を示したタイミングチャートである。なお、この図は、路面勾配が大きく、前輪系統用閾値と後輪系統用閾値とに差が生じている場合を示してある。
図16には示していないがブレーキペダルBPが踏み込まれてマスタシリンダ圧が上昇していき、閾値1を超えると発進補助制御の実行許可がだされる。その後、図16に示すようにブレーキペダルBPが戻されてマスタシリンダ圧が低下すると、まず記憶値に後輪系統用閾値を加えた値を下回る。このとき、後輪側のバルブONが指令される。そして、さらにブレーキペダルBPが戻され、マスタシリンダ圧が記憶値に前輪系統用閾値を加えた値を下回ると、前輪側のバルブONが指令される。
このように、発進補助制御によりホイールシリンダ圧を発生させるタイミングが前輪側と後輪側で個々に設定される。このため、後輪RR、RLではより早いタイミングで電磁開閉弁SRECが遮断状態とされることで大きなホイールシリンダ圧を保持することができ、前輪FR、FLでは圧力の封じ込めが発生しない程度のホイールシリンダ圧を発生させることができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができると共に、後輪RR、RLでは路面勾配に応じて大きなホイールシリンダ圧を発生させつつ、前輪FR、FLでは圧力の封じ込めが発生しない程度のホイールシリンダ圧を発生させることが可能となる。したがって、路面勾配が大きい場合でも車両のずり落ちを防止できると共に、圧力の封じ込めによって車両発進後にも制動力が発生させられているようなブレーキの引き摺り感をドライバに与えないようにすることができる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、ハイドロブースタを備えた車両用ブレーキ制御装置の配管構造の一例を示したが、ここに示したものに限らず、周知となっている他の配管構造の車両用ブレーキ制御装置に対して本発明を適用しても構わない。
また、上記第2実施形態では、第1、第2フィルタという2つのフィルタを備え、これらによって第1ホイールシリンダ圧推定値および第2ホイールシリンダ圧推定値を演算している。つまり、ブレーキ液の温度、つまり粘性抵抗を推定できないために、粘性抵抗が高いと想定される場合と低いと想定される場合の2つのホイールシリンダ圧推定値を演算している。このため、ブレーキ液の温度を推定することができれば、ブレーキ液の温度に対応して変化させられるカットオフ周波数を有するフィルタを設けれることにより、マスタシリンダ圧の低下に対し、その温度に応じた粘性抵抗と対応する応答性で変化するホイールシリンダ圧推定値を演算できる。
このようにすれば、圧力センサ12の検出信号を1つのフィルタに通過させるだけでブレーキ液の温度(粘性抵抗)に応じた正確なホイールシリンダ圧推定値を演算でき、このホイールシリンダ圧推定値が第1実施形態で示したように記憶値に対して閾値2を加算した値を下回ったときにブレーキペダルBPが戻されたことを検出できる。したがって、フィルタを2つ設けなくても、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
なお、ブレーキ液の温度は、基本的には使用環境、つまり外気温と等しくなる。このため、車両の空調制御において用いられている外気温センサの検出信号もしくはそれに基づいて演算した外気温自体を車内LANなどを通じてブレーキECU10に入力し、外気温に対応するカットオフ周波数を関数式もしくはマップなどから求めることで、フィルタのカットオフ周波数を適宜設定することができる。
また、上記第3実施形態では、マスタシリンダ圧の低下に伴って記憶値を更新する際に、記憶値がマスタシリンダ圧に対して閾値3を加算した値となるようにしたが、ここでいう閾値3を一定値として説明している。この閾値3をブレーキペダルBPの戻し速度に応じて可変にしても良い。すなわち、ブレーキペダルBPの戻し速度が速いほど早くマスタシリンダ圧が低下するがホイールシリンダ圧の追従が遅れ、車両が動き出すまでに時間が掛かる可能性があるため、ブレーキペダルBPの戻し速度が速いほど閾値3が大きくなるようにすると良い。
さらに、上記第4実施形態では、ステップ620において、前輪系統用閾値と後輪系統用閾値を求めるための路面勾配と閾値との関係を示したマップの一例を挙げたが、他のマップもしくは路面勾配と閾値の関係を示した関数式を用いても良い。図17および図18は、他のマップ例を示したものである。
すなわち、上記第4実施形態では、圧力の封じ込めが発生し得るまで前輪系統用閾値と後輪系統用閾値が同じ値となるようにし、前輪系統用閾値が封じ込めラインに達すると前輪系統用閾値と後輪系統用閾値とに差が出るようにしている。これに対して、図17に示すように、封じ込めラインに達する前から前輪系統用閾値aが後輪系統用閾値bよりも小さな値となるように、路面勾配に対する前輪系統用閾値の変化の傾きが路面勾配に対する後輪系統用閾値の変化の傾きよりも小さくなるマップとし、封じ込めラインに達するとそれを前輪系統用閾値の上限値として設定するようにしてしても良い。また、図18に示すように、路面勾配の上限として想定される値に対応する前輪系統用閾値aが封じ込めラインを超えないように、路面勾配に対する前輪系統用閾値aの変化の傾きが路面勾配に対する後輪系統用閾値bの変化の傾きよりも小さくなるマップとしても良い。
また、上記各実施形態では、静圧系管路が前輪側、動圧系管路が後輪側の各ホイールシリンダWfl〜Wrrに接続されるようにしているが、静圧系管路が後輪側、動圧系管路が前輪側となる接続形態とすることもできる。この場合、第4実施形態で示した各閾値の大小関係は逆になり、前輪系統用閾値が動圧用閾値、後輪系統用閾値が静圧用閾値となる。
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。具体的には、ブレーキECU10のうちステップ100を実行する部分が停止判定手段、ステップ110を実行する部分が記憶手段、ステップ120を実行する部分が許可判定手段、ステップ130を実行する部分が開始判定手段、ステップ610を実行する部分が路面勾配取得手段、ステップ620を実行する部分が閾値設定手段に対応している。
10…ブレーキECU、11、12…圧力センサ、13a〜13d…車輪速度センサ、AC、AM、MF、MR、RC1〜RC4…管路、AS…補助液圧源、Acc…アキュムレータ、BP…ブレーキペダル、CV1〜CV6…各逆止弁、FL〜RR…各車輪、HP…液圧ポンプ、M…電動モータ、MC…マスタシリンダ、RG…レギュレータ、RS…低圧リザーバ、SFRH、SFLH、SRRH、SRLH…増圧制御弁、SFRR、SFLR、SRRR、SRLR…減圧制御弁、SMCF、SREA、SREC、STR…電磁開閉弁、Wfl〜Wrr…ホイールシリンダ