JP2010018744A - 耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料及びその製造方法 - Google Patents

耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法は、第1の工程と、第2の工程と、を含む。第1の工程は、気相成長法によって製造された第1のカーボンナノファイバーを酸化処理して表面が酸化された第2のカーボンナノファイバーを得る工程である。第2の工程は、平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラック212と第2のカーボンナノファイバー220とを、エチレン・プロピレンゴム200に混合し、剪断力でエチレン・プロピレンゴム200中に分散する工程である。
【選択図】図1

Description

本発明は、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料及びその製造方法に関する。
エチレン・プロピレンゴム(EPDM)に補強剤としてのカーボンブラックを配合して加硫成形したゴム組成物は、各種機械的強度に優れていたが、例えば海水中や水道水中の遊離残留塩素がゴム組成物のゴム表面を酸化、塩素化させ、架橋層、脆化層を形成した後水流振動等の影響で、これに亀裂を生じせしめて、黒色成分等が剥離して、配管系統内に浮遊することがあり、耐塩素性の向上が望まれていた。例えば、水道、共同浴場、プール、食品製造設備などで、塩素による殺菌、洗浄および脱色を目的とする流体中の遊離残留塩素が存在するため、このような配管に利用されることがあるバタフライ弁のラバーシート(以下、シール部材という)があった。そこで、カーボンブラックを補強剤として用いないバタフライ弁のシール部材が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。このようなバタフライ弁は、その構造上、固定式で用いるシール部材と比較した場合、シール部材の接液面積が大きい上に、接液流体が速度を有してシール部材に接するために塗布潤滑材の効果が短期間で薄れ、さらにはジスクがシール部材を強く押圧して摺動する機構であるため、シール部材の塩素劣化に起因する黒色成分の剥離が生じやすい傾向があった。
また、エラストマーにカーボンナノファイバーとカーボンブラックが均一に分散された炭素繊維複合材料が提案されていた(例えば、特許文献2参照)。
特許第2872830号公報 特開2007−39649号公報
本発明の目的は、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料及びその製造方法を提供することにある。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料は、
エチレン・プロピレンゴムと、表面酸化処理されたカーボンナノファイバーと、平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックと、を含む。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料によれば、表面酸化処理されたカーボンナノファイバー及び平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックが水溶液中に存在する塩素、塩素イオン、次亜塩素酸、次亜塩素酸イオンなどに対して比較的安定であるため、これらの補強剤とエチレン・プロピレンゴムとの界面におけるゴムの劣化が少なく、耐塩素性に優れることができる。また、本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料によれば、カーボンナノファイバーとカーボンブラックとによって補強されるため、優れた機械的強度を有することができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料において、
前記カーボンナノファイバーは、X線光電子分光法(XPS)で測定した表面の酸素濃度が2.6atm%〜4.6atm%であることができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料において、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が4nm〜230nmであることができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料において、
前記エチレン・プロピレンゴム100質量部に対して、前記カーボンナノファイバー5質量部〜50質量部と、前記カーボンブラック10質量部〜120質量部と、が配合されることができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法は、
気相成長法によって製造された第1のカーボンナノファイバーを酸化処理して表面が酸化された第2のカーボンナノファイバーを得る第1の工程と、
平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックと前記第2のカーボンナノファイバーとを、エチレン・プロピレンゴムに混合し、剪断力で該エチレン・プロピレンゴム中に分散する第2の工程と、
を含む。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法によれば、表面酸化処理されたカーボンナノファイバー及び平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックが水溶液中に存在する塩素、塩素イオン、次亜塩素酸、次亜塩素酸イオンなどに対して比較的安定であるため、これらの補強剤とエチレン・プロピレンゴムとの界面におけるゴムの劣化が少なく、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料を製造することができる。また、本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法によれば、カーボンナノファイバーとカーボンブラックとによって補強されるため、優れた機械的強度を有する炭素繊維複合材料を製造することができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記カーボンナノファイバーは、X線光電子分光法(XPS)で測定した表面の酸素濃度が2.6atm%〜4.6atm%であることができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記第1の工程は、X線光電子分光法(XPS)で測定した、前記第1のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度に対する前記第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度の増加量が、0.5atm%〜2.6atm%になるように酸化処理することができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記第1の工程は、X線光電子分光法(XPS)で測定した、前記第1のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度に対する前記第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度の増加割合が、20%〜120%になるように酸化処理することができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記第1の工程は、前記第1のカーボンナノファイバーを酸素を含有する雰囲気中で600℃〜800℃で熱処理することができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記第1の工程は、前記第1のカーボンナノファイバーの質量を2%〜20%減量して前記第2のカーボンナノファイバーを得ることができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記第1のカーボンナノファイバーは、平均直径が4nm〜250nmであることができる。
本発明にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記第2の工程は、前記エチレン・プロピレンゴム100質量部に対して、前記第2のカーボンナノファイバー5質量部〜50質量部と、前記カーボンブラック10質量部〜120質量部と、を配合することができる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の一実施形態にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料は、エチレン・プロピレンゴムと、表面酸化処理されたカーボンナノファイバーと、平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックと、を含むことを特徴とする。
本発明の一実施形態にかかる耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法は、気相成長法によって製造された第1のカーボンナノファイバーを酸化処理して表面が酸化された第2のカーボンナノファイバーを得る第1の工程と、平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックと前記第2のカーボンナノファイバーとを、エチレン・プロピレンゴムに混合し、剪断力で該エチレン・プロピレンゴム中に分散する第2の工程と、を含むことを特徴とする。
(I)表面酸化処理されたカーボンナノファイバー
(第1のカーボンナノファイバー)
まず、炭素繊維複合材料の製造方法の第1の工程に用いられる第1のカーボンナノファイバーについて説明した後、第1の工程で得られた第2のカーボンナノファイバーについて説明する。
第1のカーボンナノファイバーの製造方法は、例えば気相成長法によって製造される。気相成長法は、炭化水素等のガスを金属系触媒の存在下で気相熱分解させて第1のカーボンナノファイバーを製造する方法である。より詳細に気相成長法を説明すると、例えば、ベンゼン、トルエン等の有機化合物を原料とし、フェロセン、ニッケルセン等の有機遷移金属化合物を金属系触媒として用い、これらをキャリアーガスとともに高温例えば400℃〜1000℃の反応温度に設定された反応炉に導入し、第1のカーボンナノファイバーを基板上に生成させる方法、浮遊状態で第1のカーボンナノファイバーを生成させる方法、あるいは第1のカーボンナノファイバーを反応炉壁に成長させる方法等を用いることができる。また、あらかじめアルミナ、炭素等の耐火性支持体に担持された金属含有粒子を炭素含有化合物と高温で接触させて、平均直径が70nm以下の第1のカーボンナノファイバーを得ることもできる。気相成長法で製造された第1のカーボンナノファイバーの平均直径は、平均直径が4nm〜250nmであることが好ましい。第1のカーボンナノファイバーは、表面が酸化処理されていないという意味で未処理のカーボンナノファイバーであり、表面を酸化処理して分散性を向上することが好ましい。
このように気相成長法で製造された第1のカーボンナノファイバーを酸化処理する前に不活性ガス雰囲気中において2000℃〜3200℃で熱処理することができる。この熱処理温度は、2500℃〜3200℃がさらに好ましく、特に2800℃〜3200℃が好ましい。熱処理温度が、2000℃以上であると、気相成長の際に第1のカーボンナノファイバーの表面に沈積したアモルファス状の堆積物や残留している触媒金属などの不純物が除去されるので好ましい。また、第1のカーボンナノファイバーの熱処理温度が、2500℃以上であると、第1のカーボンナノファイバーの骨格が黒鉛化(結晶化)し、第1のカーボンナノファイバーの欠陥が減少し強度が向上するため好ましい。なお、第1のカーボンナノファイバーの熱処理温度が、3200℃以下であれば、黒鉛が昇華することによる黒鉛骨格の破壊が発生しにくいため好ましい。このように黒鉛化した第1のカーボンナノファイバーは、酸化処理されていないので未処理のカーボンナノファイバーであって、黒鉛化によって優れた強度、熱伝導性、電気伝導性などを有している。
第1のカーボンナノファイバーは、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面を1層もしくは多層に巻いた構造を有する。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
(第2のカーボンナノファイバー)
第2のカーボンナノファイバーは、気相成長法によって製造された第1のカーボンナノファイバーを酸化処理して表面が酸化されることで得られる。酸化処理については、炭素繊維複合材料の製造方法の欄で後述する。第2のカーボンナノファイバーは、その表面のX線光電子分光法(XPS)で測定した酸素濃度が2.6atm%〜4.6atm%であり、好ましくは3.0atm%〜4.0atm%であり、さらに好ましくは3.1atm%〜3.7atm%である。このように、第2のカーボンナノファイバーの表面が適度に酸化していることで、第2のカーボンナノファイバーとエチレン・プロピレンゴムとの表面反応性が向上し、エチレン・プロピレンゴム中における第2のカーボンナノファイバーをより均一に分散することができる。第2のカーボンナノファイバーは、第1のカーボンナノファイバーの質量を2%〜20%減量した質量を有することができる。第2のカーボンナノファイバーは、ラマン散乱分光法によって測定される1600cm−1付近のピーク強度Gに対する1300cm−1付近のピーク強度Dの比(D/G)好ましくは0.12〜0.22である。第2のカーボンナノファイバーは、窒素吸着比表面積が好ましくは34m/g〜58m/gである。第2のカーボンナノファイバーは、平均直径が4nm〜230nmであることが好ましく、20nm〜10μmが好適で、特には60nm〜150nmが好適である。第2のカーボンナノファイバーは、直径が4nm以上ではマトリックス材料に対する分散性が向上し、逆に230nm以下ではマトリックス材料の表面の平坦性が損なわれにくく好ましい。第2のカーボンナノファイバーの平均直径が60nm以上では分散性及び表面の平坦性に優れており、150nm以下では少量の添加量でもカーボンナノファイバーの本数が増加することになるため例えば炭素繊維複合材料の性能を向上させることができ、したがって高価な第1のカーボンナノファイバーを節約することができる。また、第2のカーボンナノファイバーのアスペクト比は50〜200が好ましい。
第2のカーボンナノファイバーによれば、表面が適度に酸化されていることによって、カーボンナノファイバーと他の材料例えば複合材料におけるマトリックス材料との表面反応性が向上し、カーボンナノファイバーとマトリックス材料との濡れ性が改善することができる。このように濡れ性が改善されたカーボンナノファイバーを用いることによって、例えば炭素繊維複合材料の剛性や柔軟性を改善することができる。特に、黒鉛化された第1のカーボンナノファイバーの場合、比較的反応性の低い表面を適度に酸化させることによって、第2のカーボンナノファイバーとマトリックス材料との濡れ性を改善することができるため、分散性を向上させることができ、例えば従来より少量の第2のカーボンナノファイバーの添加でも同等の物性を得ることができる。従来の比較的小径のカーボンブラックは水溶液中の塩素、塩素イオン、次亜塩素酸、次亜塩素酸イオンによって表面が活性化するため、その表面と接しているエチレン・プロピレンゴムが酸化されて劣化すると考えられる。これに対し、表面酸化処理が施された第2のカーボンナノファイバーは、その表面の炭素原子が酸素原子に置換された部分を多数有し、しかもその表面の酸素原子がエチレン・プロピレンゴムの分子とも結合して比較的安定な状態であると考えられ、塩素、塩素イオン、次亜塩素酸、次亜塩素酸イオンによってその表面が活性化しにくいと推測される。したがって、第2のカーボンナノファイバーを配合したエチレン・プロピレンゴムは、従来の小径のカーボンブラックが配合されたものに比べて耐塩素性に優れている。
エチレン・プロピレンゴムに対する第2のカーボンナノファイバーの配合量は、炭素繊維複合材料の用途による補強の程度や一緒に配合されるカーボンブラックの配合量によって適宜調整することができるが、エチレン・プロピレンゴム100質量部に対して、第2のカーボンナノファイバーを5質量部〜50質量部を配合することができる。第2のカーボンナノファイバーの配合量が5質量部以上であればカーボンブラックの配合量を多くすることでエチレン・プロピレンゴムに対する補強効果が得られ、50質量部以下であれば比較的加工性にも優れるため好ましい。
(II)カーボンブラック
カーボンブラックは、平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックであれば、種々の原材料を用いた種々のグレードのカーボンブラックを1種類もしくは複数種類を組み合わせて用いることができる。カーボンブラックは、基本構成粒子の平均粒径が50〜10μmであり、さらに好ましくは平均粒径が50〜150nmである。このように比較的大きな粒径を有するカーボンブラックが配合されたエチレン・プロピレンゴムは、耐塩素性に優れると共に、エチレン・プロピレンゴムの系を大きく分割することができるためエチレン・プロピレンゴムの配合量及び第2のカーボンナノファイバーの配合量を節約できて経済的に優れる。従来の炭素繊維複合材料に配合されていた粒径の小さいカーボンブラックは水溶液中の塩素、塩素イオン、次亜塩素酸、次亜塩素酸イオンによってその表面が活性化しやすく、エチレン・プロピレンゴムに配合された場合、カーボンブラックとエチレン・プロピレンゴムとの界面から酸化反応によってエチレン・プロピレンゴムの劣化が進むと推測される。したがって、カーボンブラックの平均粒径が50nm未満だと補強性に優れるものの耐塩素性に劣る傾向があり含まないことが好ましい。また、平均粒径が10μmより大きいと補強効果に劣る傾向があるため、経済性の点からも平均粒径が10μm以下のカーボンブラックを用いることが好ましい。このようなカーボンブラックとしては、例えばSRF,MT,FT,オースチンブラック、GPFなどのグレードのカーボンブラックを採用することができる。
エチレン・プロピレンゴムに対するカーボンブラックの配合量は、炭素繊維複合材料の用途による補強の程度や一緒に配合される第2のカーボンナノファイバーの配合量によって適宜調整することができるが、エチレン・プロピレンゴム100質量部に対して、カーボンブラックを10質量部〜120質量部を配合することができる。カーボンブラックの配合量が10質量部以上であればエチレン・プロピレンゴムに対する補強効果が得られかつエチレン・プロピレンゴム及び第2のカーボンナノファイバーの配合量を少なくすることができるため好ましく、120質量部以下であれば加工が可能であって、量産も可能であるため好ましい。
(III)エチレン・プロピレンゴム
エチレン・プロピレンゴムとしては、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体)を用いることが好ましい。また、本実施の形態にかかるエチレン・プロピレンゴムは、ピストンシール部材に必要な耐熱性、耐寒性、シール性を得るため、エチリデンノルボルネンなどの第3成分を含み、かつ、エチレンとプロピレンの共重合比は、エチレン含量で45%〜80%のEPDMが好ましい。エチレン・プロピレンゴムの重量平均分子量は、通常5万以上のものが望ましく、より好ましくは7万以上、特に好ましくは10〜50万程度のものを用いることができる。エチレン・プロピレンゴムの分子量がこの範囲であると、エチレン・プロピレンゴム分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エチレン・プロピレンゴムは、凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、したがってカーボンナノファイバー同士を分離する効果が大きい。エチレン・プロピレンゴムの分子量が5000より小さいと、エチレン・プロピレンゴム分子が相互に充分に絡み合うことができず、後に説明する工程で剪断力をかけてもカーボンナノファイバーを分散させる効果が小さくなる傾向がある。また、エチレン・プロピレンゴムの分子量が500万より大きいと、エチレン・プロピレンゴムが固くなりすぎて加工性が低下する傾向がある。
(IV)炭素繊維複合材料の製造方法
炭素繊維複合材料の製造方法は、第1の工程と、第2の工程と、を有する。
(第1の工程)
まず、炭素繊維複合材料の製造方法における第1の工程について説明する。第1の工程は、気相成長法によって製造された第1のカーボンナノファイバーを酸化処理して表面が酸化された第2のカーボンナノファイバーを得る。第1のカーボンナノファイバーは、前記黒鉛化処理を施したものを用いることができる。第1の工程で得られた第2のカーボンナノファイバーのX線光電子分光法(XPS)で測定した表面の酸素濃度は、2.6atm%〜4.6atm%であり、好ましくは3.0atm%〜4.0atm%であり、さらに好ましくは3.1atm%〜3.7atm%である。第2のカーボンナノファイバーは、その表面の酸素濃度が第1のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度より0.2atm%以上増加する程度に酸化することが望ましい。第1の工程は、X線光電子分光法(XPS)で測定した、第1のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度に対する第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度の増加量が、0.5atm%〜2.6atm%になるように酸化処理を行うことができる。このような第1のカーボンナノファイバーの表面酸素濃度に対する第2のカーボンナノファイバーの表面酸素濃度の増加量は、0.9atm%〜1.9atm%であることがより好ましく、さらに1.0atm%〜1.6atm%であることが好ましい。また、第1の工程は、X線光電子分光法(XPS)で測定した、第1のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度に対する第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度の増加割合が、20%〜120%になるように酸化処理を行うことができる。このような第1のカーボンナノファイバーの表面酸素濃度に対する第2のカーボンナノファイバーの表面酸素濃度の増加割合は、43%〜90%であることがより好ましく、さらに48%〜76%であることが好ましい。このように、第2のカーボンナノファイバーの表面が適度に酸化していることで、第2のカーボンナノファイバーとエチレン・プロピレンゴムとの表面反応性が向上し、エチレン・プロピレンゴム中におけるカーボンナノファイバーの分散不良を改善することができる。第1の工程は、第1のカーボンナノファイバーを酸素を含有する雰囲気中で600℃〜800℃で熱処理することができる。例えば、大気雰囲気の炉内に第1のカーボンナノファイバーを配置し、600℃〜800℃の温度範囲の所定温度に設定し、熱処理することによって、第2のカーボンナノファイバーの表面が所望の酸素濃度に酸化できる。この第1の工程で熱処理する時間は、所定温度の熱処理炉内で第1のカーボンナノファイバーを保持する時間であって、例えば10分〜180分であることができる。酸素を含有する雰囲気は、大気中でもよいし、酸素雰囲気でもよいし、適宜酸素濃度を設定した雰囲気をもちいてもよい。第2のカーボンナノファイバーの表面が第1の工程で所望の酸素濃度に酸化されるのに十分な酸素濃度が雰囲気中に存在すればよい。熱処理の温度は、600℃〜800℃の範囲で所望の酸化処理を得るために適宜設定することができる。通常、800℃付近で第1のカーボンナノファイバーは燃焼して繊維に大きなダメージを負うため、温度設定と熱処理の時間は実験を繰り返しながら慎重に設定することが望ましい。なお、熱処理の温度や熱処理の時間は、第1の工程に用いる炉内の酸素濃度や炉の内容積、処理する第1のカーボンナノファイバーの量などによって適宜調整することができる。このように第1の工程で酸化処理された第2のカーボンナノファイバーの質量は、第1のカーボンナノファイバーの質量より例えば2%〜20%減量することが好ましく、この減量の範囲であれば第2のカーボンナノファイバーが適度に酸化していると推測できる。第2のカーボンナノファイバーの質量が第1のカーボンナノファイバーの質量より2%未満しか減量していないと、第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度が低いため濡れ性の向上が得にくい傾向がある。また、第1のカーボンナノファイバーの質量より20%を超えて減量した第2のカーボンナノファイバーは、減量が20%以下の第2のカーボンナノファイバーに比べて濡れ性がほとんど変わらないにもかかわらず、酸化処理によるカーボンナノファイバーの減量による損失が大きく、しかも熱処理のエネルギー消費量に対して経済的にも不利になる傾向がある。第1のカーボンナノファイバーの表面が酸化することによって、第1のカーボンナノファイバーの表面の炭素の一部が炭酸ガスとして気化して減量することになるからである。第2のカーボンナノファイバーの質量が第1のカーボンナノファイバーの質量より20%を超えなければ繊維長がほとんど短くならないと推測できるため好ましい。なお、第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度は、XPS(X線光電子分光法)によって分析することができる。XPSによる酸素濃度の分析は、第2のカーボンナノファイバーの表面に付着した不純物を除去するために、測定前の第2のカーボンナノファイバーに対し例えば0.5分〜1.0分間のアルゴンガスエッチングを行い、第2のカーボンナノファイバーの清浄な表面を出してから分析を行うことが好ましい。このアルゴンガスエッチングのアルゴンガス濃度は5×10−2Pa〜20×10−2Pa、アルゴンガスの圧力(ゲージ圧)は0.4MPa〜0.5MPaが好ましい。また、XPSによる酸素濃度の分析は、XPS装置の金属台の上に導電性接着剤である例えばカーボンテープを貼り、そのカーボンテープ上に第2のカーボンナノファイバーをふりかけてカーボンテープに付着させ、カーボンテープに付着しなかった余分な第2のカーボンナノファイバーを振り落として取り除いた状態で行うことが好ましい。このように、XPSによる酸素濃度の分析においては、第2のカーボンナノファイバーをカーボンテープ上に押しつけてブロック状に固めることなく、なるべく粉体に近い状態で分析することが好ましい。
第1の工程によって得られた第2のカーボンナノファイバーは、ラマン散乱分光法によって測定される1600cm−1付近のピーク強度Gに対する1300cm−1付近のピーク強度Dの比(D/G)が好ましくは0.12〜0.22である。第2のカーボンナノファイバーのラマンピーク比(D/G)は、その表面の結晶に欠陥が多くなるため、第1のカーボンナノファイバーのラマンピーク比(D/G)よりも大きくなる。第2のカーボンナノファイバーは、そのラマンピーク比(D/G)が第1のカーボンナノファイバーのラマンピーク比(D/G)より0.02以上増加する程度に酸化することが望ましい。また、第2のカーボンナノファイバーは、窒素吸着比表面積が好ましくは34m/g〜58m/gである。第2のカーボンナノファイバーの窒素吸着比表面積は、その表面が荒れるため、第1のカーボンナノファイバーの窒素吸着比表面積よりも大きくなる。第2のカーボンナノファイバーは、その窒素吸着比表面積が第1のカーボンナノファイバーの窒素吸着比表面積より9m/g以上増加する程度に酸化することが望ましい。第1の工程に用いられる第1のカーボンナノファイバーの平均直径は4nm〜250nmであることが好ましく、第1の工程で得られた第2のカーボンナノファイバーの平均直径は4nm〜230nmであることができる。このような第2のカーボンナノファイバーを用いることにより、エチレン・プロピレンゴムとの表面反応性が向上し、エチレン・プロピレンゴムに対する濡れ性を改善することができる。
第2のカーボンナノファイバーのエチレン・プロピレンゴムへの配合量は、用途に応じて設定することができるが、第2のカーボンナノファイバーはエチレン・プロピレンゴムとの濡れ性が向上しているため、例えば同じ剛性の炭素繊維複合材料を製造する場合、配合量が少なく経済的である。
(第2の工程)
炭素繊維複合材料の製造方法の第2の工程は、平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックと第1の工程で得られた第2のカーボンナノファイバーとを、エチレン・プロピレンゴムに混合し、剪断力で該エチレン・プロピレンゴム中に分散する。
第2の工程としては、エチレン・プロピレンゴムと第2のカーボンナノファイバーとを、オープンロール、単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなど公知の混合機に供給し、混練する方法が挙げられる。カーボンブラックなどの第2のカーボンナノファイバー以外の充填材は、第2のカーボンナノファイバーを供給する前に混合機に供給することが好ましい。エチレン・プロピレンゴムとカーボンブラックと第2のカーボンナノファイバーとを混練する工程は、エチレン・プロピレンゴムと、カーボンブラック及び第2のカーボンナノファイバーと、を第1の温度で混練する第1の混練工程と、第1の混練工程で得られた混合物を第2の温度で混練する第2の混練工程と、第2の混練工程で得られた混合物を薄通しする第3の混練工程と、を含むことができる。本実施の形態では、第1の混練工程及び第2の混練工程として密閉式混練法を用い、第3の混練工程としてオープンロール法を用いた例について図1及び図2を用いて詳細に説明する。
図1は、2本のロータを用いた密閉式混練機11による混合工程を模式的に示す図である。図2は、オープンロール機による炭素繊維複合材料の第3の混練工程(薄通し)を模式的に示す図である。
図1において、密閉式混練機11は、第1のロータ12と、第2のロータ14と、を有する。
(混合工程)
まず、密閉式混練機11の材料供給口16からエチレン・プロピレンゴム200を投入し、第1,第2のロータ12,14を回転させる。さらに、チャンバー18内に所定量のカーボンブラック212及び第2のカーボンナノファイバー220を加えて、さらに第1,第2のロータ12,14を回転させることにより、エチレン・プロピレンゴム200とカーボンブラック212及び第2のカーボンナノファイバー220との混合が行われる。
(第1の混練工程)
ついで、混合工程で得られた混合物を、さらに第1,第2のロータ12,14を所定の速度比で回転させて高い剪断力で混練する第1の混練工程が行なわれる。第1の混練工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、エチレン・プロピレンゴムと第2のカーボンナノファイバーとの混合は、第2の混練工程より50〜100℃低い第1の温度で行なわれる。第1の温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜30℃の第1の温度である。第1の温度の設定は、チャンバー18の温度によって設定しても、第1、第2のロータ12,14の温度によって設定してもよく、あるいは混合物の温度を測定しながら速度比の制御や各種温度制御を行なってもよい。また、前述の混合工程に引き続いて同じ密閉式混練機11で第1の混練工程を行なう場合は、あらかじめ第1の温度に設定しておいてもよい。
エチレン・プロピレンゴム200として非極性のEPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム)を用いた場合、第1の混練工程によって、第2のカーボンナノファイバー220は、凝集塊を残しながらもエチレン・プロピレンゴム200全体に分散する。
(第2の混練工程)
さらに、第1の混練工程によって得られた混合物を別の密閉式混練機に投入し、第2の混練工程が行なわれる。第2の混練工程では、エチレン・プロピレンゴムの分子を切断してラジカルを生成させるため、第1の温度よりも50〜100℃高い第2の温度で混練が行なわれる。第2の混練工程で用いられる密閉式混練機は、ロータ内に内蔵したヒータもしくはチャンバーに内蔵されたヒータによって第2の温度まで昇温させられており、第1の温度よりも高温の第2の温度で第2の混練工程を行うことができる。第2の温度は、用いられるエチレン・プロピレンゴムの種類によって適宜選択することができるが、50〜150℃が好ましい。このようにして第2の混練工程を行なうことで、エチレン・プロピレンゴムの分子が切断されてラジカルが生成し、第2のカーボンナノファイバーがエチレン・プロピレンゴム分子のラジカルと結合しやすくなる。
(第3の混練工程)
そして、第2の混練工程によって得られた混合物36をさらに第1の温度に設定されたオープンロール30に投入し、図2に示すように、第3の混練工程(薄通し工程)を例えば1回〜10回行い、分出しする。第1のロール32及び第2のロール34のロール間隔d(ニップ)は、第1、第2の混練工程よりも剪断力が大きくなる0〜0.5mm、例えば0.3mmに設定され、ロール温度は第1の混練工程と同じ0〜50℃、より好ましくは5〜30℃の第3の温度に設定される。第1のロール32の表面速度をV1、第2のロール34の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05〜3.00であることが好ましく、さらに1.05〜1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。薄通しされた混合物36は、ロールで圧延されてシート状に分出しされる。第3の混練工程は、エチレン・プロピレンゴム中に第2のカーボンナノファイバーをさらに均一に分散させる仕上げの分散工程であり、より均一な分散性を要求されるときに有効である。この第3の混練工程(薄通し工程)によって、ラジカルが生成したエチレン・プロピレンゴムが第2のカーボンナノファイバーを1本づつ引き抜くように作用し、第2のカーボンナノファイバーをさらに分散させることができる。また、第3の混練工程で加硫剤(架橋剤)を投入し、加硫剤の均一分散も行うことができる。
このように、第1の温度による第1の混練工程を行なうことで、高い剪断力によってエチレン・プロピレンゴム全体に第2のカーボンナノファイバーを分散させることができ、さらに第2の温度による第2の混練工程と第1の温度による第3の混練工程とを行なうことで、エチレン・プロピレンゴム分子のラジカルによって第2のカーボンナノファイバーの凝集塊を解くことができる。本実施の形態によれば、第3の混練工程において混合物が狭いロール間から押し出された際に、エチレン・プロピレンゴムの弾性による復元力で混合物はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した混合物をさらに複雑に流動させ、第2のカーボンナノファイバーをエチレン・プロピレンゴム中に分散させると推測できる。そして、一旦分散した第2のカーボンナノファイバーは、エチレン・プロピレンゴムとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。したがって、EPDMのような非極性のエチレン・プロピレンゴムでも第2のカーボンナノファイバーを全体に分散させると共に、第2のカーボンナノファイバーの凝集塊の無い炭素繊維複合材料を製造することができる。しかも、第2のカーボンナノファイバーの表面は適度に酸化処理されていることによってエチレン・プロピレンゴムとの濡れ性が向上している。
なお、エチレン・プロピレンゴムに第2のカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる第1、第2の混練工程においては、加工性から密閉式混練機を用いることが好ましいが、オープンロール法などの他の混練機を用いてもよい。密閉式混練機としては、バンバリミキサ、ニーダ、ブラベンダーなどの接線式もしくは噛合い式を採用することができる。第1、第2、第3の混練工程は、上記密閉式混練法、オープンロール法に限定されず、多軸押出し混練法(例えば二軸押出機)によって行うことができる。混練機は、生産量などに応じて適宜組み合わせて選択することができる。特に、第3の混練工程におけるオープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
炭素繊維複合材料の製造方法は、薄通し後の分出しされたシート状の混合物にさらに加硫剤を混合し、もしくはいずれかの混練工程中に加硫剤を混合しておき、一般に採用されるゴムの成形加工例えば、射出成形法、トランスファー成形法、プレス成形法、押出成形法、カレンダー加工法などによって例えば各種配管機材などの製品に要求されるシール部材の形状に成形し、例えば型加硫方式などにより加熱・加硫して配管機材用シール部材などを成形することができる。
本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、通常、エチレン・プロピレンゴムの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、例えばオープンロールにおける第2のカーボンナノファイバーの投入前もしくは投入後にエチレン・プロピレンゴムに投入することができる。
(V)炭素繊維複合材料
次に、炭素繊維複合材料について、図3及び図4を用いて以下に説明する。
図3は、配管機材の一実施形態であるバタフライ弁の概略構成を示す縦断面図である。図4は、配管機材の一実施形態であるバタフライ弁の開閉動作を説明する図3のX−X’断面図である。
炭素繊維複合材料は各種流体の配管やこれらの流体の流路を開閉するバルブなどの各種配管機材のシール部材に用いることができるが、ここでは図3及び図4に示す配管機材の一実施形態であるバタフライ弁20を用いてシール部材の構成の概略を説明する。バタフライ弁20は、金属などの剛性材料からなる円筒形のボデー21の内周面に前記(IV)で説明した製造方法によって得られた環状のシール部材(シートリング、シートラバー、ラバーライナーまたはラバーシートと呼ぶこともある)22を装着し、シール部材22の内側に円板状のジスク24が配置されている。ジスク24の中心軸線上に円柱状のステム23、23がジスク24の上下から突出するように装着されると共に、ステム23、23がボデー21とシール部材22を貫通して回転自在に装着されている。ジスク24の外周面24aは、ジスク24を回動させることによって、シール部材22の内周面にあるシール面22aに外周面24aを押し付けてバルブを閉止する。したがって、ステム23、23の縦軸を中心にしてジスク24を回動させることで、バルブ内の流体の流路28を開閉することができる。このような構造のバタフライ弁20は、シール部材22の接液面積が大きい上に、塗布潤滑材の効果が短期間で薄れやすく、さらにはジスク24がシール部材22を強く押圧して摺動する機構であるため、シール部材22の塩素劣化に起因する黒色成分の剥離が生じやすい傾向があったが、このような耐塩素性に優れた配管機材用シール部材22を用いることで黒色成分の剥離が低減できる。
なお、配管機材とは、仕切弁、玉形弁、ニードル弁、逆止め弁、ボール弁、コック、バタフライ弁、ダイヤフラム弁、安全弁、逃がし弁、減圧弁、調節弁、蒸気トラップ、電磁弁、通気弁、給水栓等のバルブ、およびねじ込み式継手、溶接式継手、溶着式継手、融着式継手、接着式継手、迅速流体継手、くい込み式継手、締め付け式継手、伸縮式継手、クランプ式継手、ワンタッチ式継手、スライド式継手、圧縮式継手、拡管式継手、転造ねじ式継手、挿し込み式継手、カップリング式継手、ハウジング式継手、可とう式継手等の継手を指す。
このようなシール部材に用いることのできる炭素繊維複合材料は、エチレン・プロピレンゴムと、表面酸化処理された第2のカーボンナノファイバーと、平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックと、を含み、耐塩素性に優れている。表面処理された第2のカーボンナノファイバーは、X線光電子分光法(XPS)で測定した表面の酸素濃度が2.6atm%〜4.6atm%であることができる。第2のカーボンナノファイバーはエチレン・プロピレンゴム中に均一に分散している。第2のカーボンナノファイバーは、酸化処理されているため、エチレン・プロピレンゴムとの濡れ性が改善され、炭素繊維複合材料の剛性や柔軟性が改善される。特に、表面酸化処理された第2のカーボンナノファイバー及び平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックは塩素、塩素イオン、次亜塩素酸、次亜塩素酸イオンに対しても比較的安定であり、炭素繊維複合材料として耐塩素性に優れる。炭素繊維複合材料は、エチレン・プロピレンゴム100質量部に対して、第2のカーボンナノファイバー5質量部〜50質量部と、カーボンブラック10質量部〜120質量部と、が配合されることが補強性、加工性、経済性などの点から好ましい。このような耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料は、高塩素濃度の水溶液の配管やバルブ類などの配管機材用のシール材に好適に用いることができる。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。(1)カーボンナノファイバーの表面酸化処理
(1−1)縦型加熱炉(内径17.0cm、長さ150cm)の頂部に、スプレーノズルを取り付ける。加熱炉の炉内壁温度(反応温度)を1000℃に昇温・維持し、スプレーノズルから4重量%のフェロセンを含有するベンゼンの液体原料20g/分を100L/分の水素ガスの流量で炉壁に直接噴霧(スプレー)散布するように供給する。この時のスプレーの形状は円錐側面状(ラッパ状ないし傘状)であり、ノズルの頂角が60°である。このような条件の下で、フェロセンは熱分解して鉄微粒子を作り、これがシード(種)となってベンゼンの熱分解による炭素から、カーボンナノファイバーを生成成長させた。本方法で成長したカーボンナノファイバーを5分間隔で掻き落としながら1時間にわたって連続的に製造した。
このように気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーを、不活性ガス雰囲気中において2800℃で熱処理して黒鉛化した。黒鉛化した第1の(未処理)カーボンナノファイバー(表1では「CNT−N」と示す)は、平均直径87nm、平均長さ10μm、ラマンピーク比(D/G)0.08、窒素吸着比表面積25m/g、表面の酸素濃度2.1atm%であった。
(1−2)黒鉛化した第1のカーボンナノファイバー100gを大気雰囲気の加熱炉(卓上電気炉AMF−20Nアサヒ理化製作所製)に入れ、表1に示す温度(575℃〜720℃)と時間(1時間もしくは2時間)で加熱炉内で保持して熱処理することで酸化処理を行って第2のカーボンナノファイバーを得た。
加熱炉の温度設定は、TG(熱質量分析)法を用いて第1のカーボンナノファイバーの質量減少を測定した結果をみて設定した。TG(熱質量分析)法では、第1のカーボンナノファイバーを大気中で昇温したときの質量減少を測定し、図5に示すような温度に対する第2のカーボンナノファイバーの質量変化を示した。このとき、昇温速度は10℃/min、雰囲気は大気(圧縮空気200ml/min)であった。この測定結果から、第1のカーボンナノファイバーの質量が減少(酸化)し始める600℃から第1のカーボンナノファイバーの質量減少が100%(燃え尽きる)になる800℃の間で加熱炉を表1に示すような5つの設定温度に設定し、5種類の第2のカーボンナノファイバーを得た。第2のカーボンナノファイバーは、表1に示すように、加熱炉の設定温度に応じて「CNT−A(575℃)」、「CNT−B(615℃)」、「CNT−C(650℃)」、「CNT−D(690℃)」、「CNT−E(720℃)」とした。なお、加熱炉内の実際の温度は、設定温度に対し±30℃の範囲であった。
また、5種類の第2のカーボンナノファイバーについて、ラマンピーク比(D/G)、窒素吸着比表面積、表面の酸素濃度を測定し、その結果を表1に示した。また、第1及び第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度の測定結果に基づいて、酸化処理を行う前の第1のカーボンナノファイバー(「CNT−N」)の表面酸素濃度(a)に対する各第2のカーボンナノファイバーの表面酸素濃度(b)の増加量(c=b−a)及び表面酸素濃度の増加割合(d=100・c/a)を計算し、表1に示した。ラマンピーク比は、KAISER OPTICAL SYSTEM社製HOLOLAB−5000型(532nmND:YAG)を用いてラマン散乱分光法によって第2のカーボンナノファイバーにおける1600cm−1付近のピーク強度Gに対する1300cm−1付近のピーク強度Dの比(D/G)を測定した。窒素吸着比表面積(m/g)は、ユアサアイオニクス社製NOVA3000型(窒素ガス)を用いて測定した。第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度は、XPS(X線光電子分光分析法(X−ray Photoelectron Spectroscopy))を用いて測定した。具体的には、まず、第2のカーボンナノファイバーを金属台上のカーボンテープ上にふりかけてカーボンテープに付着させ、カーボンテープに付着しなかった余分な第2のカーボンナノファイバーを振り落として取り除いて、金属台をXPS装置の中に装着した。XPS装置は、日本電子社製の「マイクロ分析用X線光電子分光装置JPS−9200を用いた。そして、次に、粉体状の試料である第2のカーボンナノファイバーをアルゴンガス濃度8×10−2Pa、0.5分間でアルゴンガスエッチングを行い、第2のカーボンナノファイバーの清浄な表面を出した。さらに、XPS装置のX線源を分析径1mm、対陰極Al/Mgツインターゲット、加速電圧10kV、エミッション電流30mAに設定して第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度を測定した。XPSによって検出された第2のカーボンナノファイバーの表面の元素は酸素と炭素であった。
(2)実施例1〜4及び比較例1〜5の炭素繊維複合材料サンプルの作製
実施例1〜4及び比較例1〜4サンプルとして、オープンロール(ロール設定温度20℃)に、表2,3に示す所定量のエチレン・プロピレンゴムを投入し、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、オイルなどをエチレン・プロピレンゴムに投入し混合工程の後、第1の混練工程を行いロールから取り出した。さらに、その混合物をロール温度100℃に設定されたオープンロールに再度投入し、第2の混練工程を行って取り出した。
次に、この混合物をオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔0.3mm)に巻きつけ、薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。さらに、ロール間隙を1.1mmにセットして、薄通しして得られたシートを投入し、分出しした。
薄通しして得られた無架橋のシートに有機過酸化物と共架橋剤とを配合して混合し、ロール間隙を1.1mmにセットしたオープンロールに投入し、分出しした。分出しして金型サイズに切り取ったシートを金型にセットし、175℃、100kgf/cm、20分間圧縮成形して厚さ1mmの実施例1〜4及び比較例1〜4の架橋体の炭素繊維複合材料及びゴム組成物サンプルを得た。
表2及び表3において、「SRF−CB」は平均粒径69nmのSRFグレードのカーボンブラック、「MT−CB」は平均粒径122nmのMTグレードのカーボンブラックであり、「EPDM」はJSR社製のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)の商品名EP24(ムーニー粘度(ML1+4、125℃)が42、エチレン含量54質量%、ジエン含量4.5質量%)であった。また、表2及び表3において、「CNT−C」は前記(1)で得られた表面酸素濃度3.5atm%の第2のカーボンナノファイバーであり、「CNT−N」は酸化処理しない第1のカーボンナノファイバーである。また、表2及び表3において、「CNT-F」は、前記(1−1)で気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーを黒鉛化処理せず、不活性ガス雰囲気中で、前記気相成長法における反応温度より高温である熱処理温度(1200℃)で熱処理してマトリックスとの濡れ性を向上したカーボンナノファイバーであり、比較例2のゴム組成物サンプルの配合に用いた。
また、比較例5として、現行品のバタフライ弁用のシール部材と同様の配合で成形されたシート状サンプルを用いて以下の各種測定を行った。現行品のシール部材を成形するゴム組成物は、EPDMにFEF(平均粒径43nm)とHAF(平均粒径28nm)とを所定量配合していた。
(3)硬度(Hs)の測定
実施例1〜4及び比較例1〜5の炭素繊維複合材料サンプル及びゴム組成物サンプルのゴム硬度(JIS−A)をJIS K 6253に基づいて測定した。測定結果を表4,5に示す。
(4)引張強さ(Tb)及び破断伸び(Eb)の測定
実施例1〜4及び比較例1〜5の炭素繊維複合材料サンプル及びゴム組成物サンプルを1A形のダンベル形状に切り出した試験片について、東洋精機社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6251に基づいて引張試験を行い引張強さ(MPa)及び破断伸び(%)を測定した。これらの結果を表4、5に示す。
(5)100%モジュラス(M100)の測定
実施例1〜4及び比較例1〜5の炭素繊維複合材料サンプル及びゴム組成物サンプル(幅5mm×長さ50mm×厚さ1mm)を10mm/minで伸長し、100%変形時の応力(M100:100%モジュラス(MPa))を求めた。測定結果を表4,5に示す。
(6)引裂き強度の測定
実施例1〜4及び比較例1〜5の炭素繊維複合材料サンプル及びゴム組成物サンプルからJIS K 6252に準拠して切込みなし無しアングル型試験片を打ち抜いて作製し、JIS K 6252に準拠して引裂き試験を行って、引裂き強度(N/mm)を測定した。結果を表4,5に示す。
(7)耐塩素性試験
塩素濃度200ppm、pH=9±0.5の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を調整し、実施例1〜4及び比較例1〜5の炭素繊維複合材料サンプル及びゴム組成物サンプルを該水溶液に60℃で1004時間浸漬(休業日を除いて1週間あたり5回、24時間ごとに新しく調整した水溶液に入れ替えた)し、浸漬前と1004時間浸漬後における外観変化を目視で観察すると共に、980時間経過時に調整した該水溶液の24時間経過後(試験開始から1004時間浸漬後)の該水溶液中の残留塩素濃度を測定した。結果を表4,5に示す。また、1004時間浸漬後の該水溶液の写真を図6に示す。
表4,5及び図6から、本発明の実施例1〜4によれば、以下のことが確認された。すなわち、本発明の実施例1〜4の炭素繊維複合材料サンプルは、引張強度や引裂き強度などの高い物性を有し、かつ、耐塩素性に優れていることがわかった。また、比較例1,2によれば、SRFカーボンブラック及びMTカーボンブラックだけが補強剤として配合されたゴム組成物サンプルは、耐塩素性に優れていることがわかった。しかしながら、比較例1,2のゴム組成物では引裂き強度などの物性において比較例5の現行品サンプルより劣ることがわかった。
密閉式混練機による混合工程を模式的に示す図である。 オープンロール機によるゴム組成物の第3の混練工程(薄通し)を模式的に示す図である。 配管機材の一実施形態であるバタフライ弁の概略構成を示す縦断面図である。 配管機材の一実施形態であるバタフライ弁の開閉動作を説明する図3のX−X’断面図である。 TG(熱質量分析)法による温度に対する第2のカーボンナノファイバーの質量変化を示したグラフである。 実施例及び比較例のサンプルを1004時間浸漬した後の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の写真である。
符号の説明
11 密閉式混練機
12、14 第1、第2のロータ
20 バタフライ弁
22 シール部材
24 ジスク
30 オープンロール
32、34 第1、第2のロール
36 混合物
200 エチレン・プロピレンゴム
212 カーボンブラック
220 第2のカーボンナノファイバー

Claims (12)

  1. エチレン・プロピレンゴムと、表面酸化処理されたカーボンナノファイバーと、平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックと、を含む、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料。
  2. 請求項1において、
    前記カーボンナノファイバーは、X線光電子分光法(XPS)で測定した表面の酸素濃度が2.6atm%〜4.6atm%である、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料。
  3. 請求項1または2において、
    前記カーボンナノファイバーは、平均直径が4nm〜230nmである、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料。
  4. 請求項1〜3のいずれかにおいて、
    前記エチレン・プロピレンゴム100質量部に対して、前記カーボンナノファイバー5質量部〜50質量部と、前記カーボンブラック10質量部〜120質量部と、が配合された、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料。
  5. 気相成長法によって製造された第1のカーボンナノファイバーを酸化処理して表面が酸化された第2のカーボンナノファイバーを得る第1の工程と、
    平均粒径が50nm〜10μmのカーボンブラックと前記第2のカーボンナノファイバーとを、エチレン・プロピレンゴムに混合し、剪断力で該エチレン・プロピレンゴム中に分散する第2の工程と、
    を含む、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法。
  6. 請求項5において、
    前記カーボンナノファイバーは、X線光電子分光法(XPS)で測定した表面の酸素濃度が2.6atm%〜4.6atm%である、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法。
  7. 請求項5または6において、
    前記第1の工程は、X線光電子分光法(XPS)で測定した、前記第1のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度に対する前記第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度の増加量が、0.5atm%〜2.6atm%になるように酸化処理する、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法。
  8. 請求項5または6において、
    前記第1の工程は、X線光電子分光法(XPS)で測定した、前記第1のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度に対する前記第2のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度の増加割合が、20%〜120%になるように酸化処理する、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法。
  9. 請求項5〜8のいずれかにおいて、
    前記第1の工程は、前記第1のカーボンナノファイバーを酸素を含有する雰囲気中で600℃〜800℃で熱処理する、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法。
  10. 請求項5〜9のいずれかにおいて、
    前記第1の工程は、前記第1のカーボンナノファイバーの質量を2%〜20%減量して前記第2のカーボンナノファイバーを得る、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法。
  11. 請求項5〜10のいずれかにおいて、
    前記第1のカーボンナノファイバーは、平均直径が4nm〜250nmである、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法。
  12. 請求項5〜11のいずれかにおいて、
    前記第2の工程は、前記エチレン・プロピレンゴム100質量部に対して、前記第2のカーボンナノファイバー5質量部〜50質量部と、前記カーボンブラック10質量部〜120質量部と、を配合する、耐塩素性に優れた炭素繊維複合材料の製造方法。
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