JP2009199920A - リチウム電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】固体電解質を用いながらも、高容量で生産性に優れ、充放電に伴い性能の劣化し難いリチウム電池を提供する。
【解決手段】正極層13と、負極層14と、これら両層の間でリチウムイオンの伝導を媒介する硫化物固体電解質層(SE層15)とを備える。この電池1は、正極層13とSE層15との間に、これら両層の界面近傍におけるリチウムイオンの偏りを緩衝する緩衝層16を備え、正極層13の密度が、理論密度の70〜90%である。正極層13とSE層15との間に緩衝層16を設けることにより、SE層15における空乏層の形成を抑制することができる。また、正極層13の密度が、理論密度の70〜90%であることにより、電池1の充放電に伴う正極層13の体積変化を正極層13自身に吸収させ、正極層13の損傷を抑制し、もって充放電に伴う電池性能の劣化を抑制できる。
【選択図】図1

Description

本発明は、硫化物固体電解質層を備えるリチウム電池に関するものである。
携帯機器といった比較的小型の電気機器の電源に、リチウムイオン二次電池(以下、単にリチウム電池と呼ぶ)が利用されている。リチウム電池は、正極層と負極層と、これら層の間でリチウムイオンの伝導を媒介する電解質層とを備える。
近年、このリチウム電池として、正・負極間のリチウムの伝導に有機電解液を用いない全固体型リチウム電池が提案されている。全固体型リチウム電池は、電解質層として固体電解質層を使用しており、有機溶媒系の電解液を用いることに伴う問題、例えば、電解液の漏れによる安全性の問題、高温時に有機電解液がその沸点を超えて揮発することによる耐熱性の問題などを解消することができる。この固体電解質層には、リチウムイオン伝導性が高く、絶縁性に優れる硫化物系の物質が広く利用されている。
上述した利点を有する一方で、固体電解質層を用いた全固体型リチウム電池は、有機電解液を使用したリチウム電池と比較して、容量が低い(即ち、出力特性が悪い)という問題を有していた。このような問題点の原因は、リチウムイオンが、固体電解質層の硫化物イオンよりも正極層の酸化物イオンに引き寄せられ易いため、硫化物固体電解質の正極層側領域に、リチウムイオンが欠乏した層(空乏層)が形成されるためである(非特許文献1を参照)。この空乏層は、リチウムイオンが欠乏しているために電気抵抗値が高く、電池の容量を低下させる。
このような問題点を解決する技術として、非特許文献1では、正極活物質の表面にリチウムイオン伝導性の酸化物をコーティングしている。このコーティングにより、リチウムイオンの移動が制限され、硫化物固体電解質層において空乏層が形成されることを抑制し、その結果、リチウム電池の出力特性の向上を実現している。
Advanced Materials 2006.18,2226-2229
しかし、上記非特許文献1のリチウム電池は、生産性が悪いため、近年の携帯機器の発達に伴うリチウム電池の需要拡大に対して不利である。具体的には、この文献では、静電噴霧法により活物質表面にコーティングを形成しているが、この静電噴霧法によるコートは、技術的に難しく、また煩雑である。つまり、この文献に記載されるリチウム電池は、生産コストが高く、生産効率も悪いので、リチウム電池の需要拡大の要請に応えることが難しい。
その他、正極層はリチウムの吸蔵と放出の繰り返しである充放電に伴い体積変化を起こすので、正極層とこの正極層に隣接する層との界面に応力が作用するという問題もある。例えば、正極活物質としてLiCoO2を使用した正極層では、充電時に3%程度膨張することがわかっている。そのため、充放電のサイクル数が増加すると、正極層にクラックなどの損傷が生じたり、正極層が固体電解質層(あるいは正極集電体)から剥離したりして、電池の性能劣化を引き起こす虞がある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、固体電解質を用いながらも、高容量で生産性に優れ、充放電に伴い性能の劣化し難いリチウム電池を提供することにある。
本発明リチウム電池は、正極層と、負極層と、これら両層の間でリチウムイオンの伝導を媒介する硫化物固体電解質層とを備える。そして、この電池は、正極層と硫化物固体電解質層との間に、これら両層の界面近傍におけるリチウムイオンの偏りを緩衝する緩衝層を備え、前記正極層の密度が、理論密度の70〜90%であることを特徴とする。
正極層と硫化物固体電解質層との間に緩衝層を設けることにより、硫化物固体電解質層における空乏層の形成を抑制することができるので、有機電解液を使用した従来のリチウム電池に匹敵する容量を備えるリチウム電池とすることができる。また、正極層の密度が、理論密度の70〜90%であることにより、電池の充放電に伴う正極層の体積変化を正極層自身に吸収させ、正極層に過剰な応力が作用しないようにすることができる。その結果、電池の充放電に伴い正極層にクラックなどの損傷が生じ難く、且つ、正極層が正極集電体層あるいは緩衝層から剥離し難くすることができるので、充放電に伴う電池性能の劣化を抑制することができる。
以下、本発明の構成をより詳細に説明する。
<緩衝層>
本発明のリチウム電池に備わる緩衝層としては、リチウムイオン伝導性酸化物が好適である。リチウムイオン伝導性の化合物としては、酸化物と硫化物とが一般的であるが、緩衝層を硫化物から製造すると、緩衝層における正極層側に空乏層が生じる虞がある。そのため、緩衝層として、酸化物を選択することが好ましい。
また、リチウムイオン伝導性酸化物としては、LixLa(2-x)/3TiO3(x=0.1〜0.5)、Li4Ti5O12、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li1.8Cr0.8Ti1.2(PO4)3、LiNbO3、LiTaO3、Li1.4In0.4Ti1.6(PO4)3などを挙げることができる。ところで、緩衝層は、空乏層の形成を抑制し電池の性能を向上させることができる一方で、電池の内部抵抗を増加させる要素でもあるが、上記化合物はリチウム伝導度に優れるので、電池の内部抵抗を大幅に増加させることがない。その結果、電池を動作させた際の発熱が抑制されるので、熱による正極層の膨張・収縮差を小さくすることができ、正極層の剥離や損傷を抑制することができる。
上述した緩衝層を構成するこれらの化合物は、正極層中に拡散していることが好ましい。上記化合物が正極層に拡散していると、正極層における電荷の偏りが緩衝され空乏層の形成が抑制されると共に、正極層と緩衝層との密着性が向上する。なお、これらの化合物は、単独あるいは組み合わせて利用することができる。
上記酸化物のうち、LixLa(2-x)/3TiO3(x=0.1〜0.5)は、リチウムイオンの伝導度が高いため、緩衝層として採用したときに、容量の大きなリチウム電池とすることができる。また、緩衝層としてLiNbO3を採用することも、リチウム電池の容量を向上させる効果を奏する。ここで、緩衝層がLiNbO3を含有する場合は、正極層における緩衝層との界面から厚さ25nmの点での緩衝層から拡散したNbの濃度が1×10-3原子%(10ppm)以上25原子%以下であることが好ましい。上記のような拡散状態であれば、正極層における空乏層の形成が効果的に抑制されると共に、緩衝層と正極層との密着性が高い。
また、上記酸化物のなかには、結晶状態よりもアモルファス状態のときにリチウムイオン伝導性が良くなるものが存在する。例えば、LixLa(2-x)/3TiO3、LiNbO3、LiTaO3などは、アモルファス状態で高いリチウムイオン伝導性を示す。特に、LixLa(2-x)/3TiO3は、結晶状態およびアモルファス状態の両方で、高いリチウムイオン伝導性を示す。緩衝層がアモルファス状態であることを示す指標としては、X線回折を利用したものが挙げられる。例えば、LiNbO3を含む緩衝層がアモルファス状態であることを具体的に示す指標としては、緩衝層のX線回折において、2θが22〜25°の範囲で半値幅が5°以下のピークが存在しないことが代表的である。緩衝層がアモルファス状態であるとリチウム伝導度が向上するため、電池の内部抵抗が低減され、熱の発生が抑制される。その結果、熱の影響による正極層の膨張・収縮差を緩和することができ、正極層の損傷や剥離をより効果的に抑制することができる。
上記緩衝層の平均厚さは、1μm以下とすることが好ましい。ここで、緩衝層にリチウムイオン伝導性があるとはいえ、リチウムイオンの輸送に特化した固体電解質層に比べて緩衝層のリチウムイオン伝導度は低い。そのため、緩衝層の平均厚さが1μm超の場合、この緩衝層によりリチウムイオンの移動が阻害されるので、好ましくない。また、薄型でありながら、用途に応じた容量を有する電池を製造するために、正極層の厚さをできるだけ大きくしたいというニーズがあり、この観点からも緩衝層厚さは、1μm以下とすることが好ましい。さらに、緩衝層厚さを限定することは、電池の内部抵抗の増加を抑制することに有効であり、その結果として、熱の影響による正極層の膨張・収縮差を緩和し、正極層の剥離や損傷を抑制することができる。一方で、緩衝層厚さが、薄すぎると、固体電解質層における電荷の偏りを抑制する効果が小さくなるので、緩衝層厚さは、2nm以上とすることが好ましい。なお、緩衝層の平均厚さは、緩衝層における異なる3点以上の層厚さの平均とする。
また、緩衝層は、その電子伝導度が1×10-5S/cm以下であることが好ましい。緩衝層の電子伝導度が高いと、この層において分極が生じて空乏層が形成される虞がある。
<正極層>
本発明リチウム電池に備わる正極層は、その密度が理論密度の70〜90%である。正極層の理論密度とは、正極層を構成する化合物の密度と等しく、例えば、正極層が層状結晶構造のLiCoO2のみでできている場合、理論密度は、層状結晶構造のLiCoO2の密度である5g/cm3となる。つまり、正極層を層状結晶構造のLiCoO2のみで構成する場合、正極層密度を3.5g/cm3〜4.5g/cm3とすると、理論密度の70〜90%となる。正極層密度が理論密度の90%超であると、電池の充放電時の応力を吸収しきれずに正極層に損傷が生じ易い。逆に、正極層密度が理論密度の70%未満であると、正極層に占める活物質の割合が低下して、電池の容量の低下が顕在化する傾向にある。
また、正極層の構造を規定することで、電池の充放電に伴う正極層の体積変化を正極層自身に効果的に吸収させることができる。具体的には、正極層を正極層の厚さ方向に伸びる柱状構造の集合体とすると良い。また、正極層が柱状構造であると、リチウムイオンの伝導路が正極層の厚さ方向にほぼ真っ直ぐに伸びることになるので、正極層の密度が低いことによるリチウムイオン伝導度の低下を抑制することができるし、空乏層の形成を効果的に抑制することもできる。さらに、正極層の活物質の結晶構造を規定することもリチウムイオン伝導度を向上させることに有効である。具体的には、正極活物質の結晶構造を正極層の厚さ方向と平行の方向に積層する層状結晶構造とすると、リチウムイオンの伝導路を正極層の厚さ方向にほぼ真っ直ぐに伸ばすことができ、正極層のリチウムイオン伝導度を向上させることができる。
上述した正極層の密度や構造および正極活物質の結晶構造の制御は、正極層の形成条件を調節することにより行うことができる。例えば、後述する実施例に記載のように、正極層を気相堆積法で形成する場合、成膜対象である基板の温度や蒸着レートを変更することが挙げられる。
正極層の活物質としては、LiMO2の化学式で表されるものを好適に利用することができる。そして、LiMO2のMは、CoおよびNiの少なくとも一種以上を含み、Mに占めるCoおよびNiの割合が50%以上であることが好ましい。例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiNi0.5Mn0.5O2などを挙げることができる。
本発明リチウム電池は、正極層と固体電解質層との間に配置される緩衝層により、固体電解質層における空乏層の形成を抑制することができる。その結果、本発明リチウム電池は、従来の全固体型電池よりも容量が高く、有機電解液を使用した従来の電池に匹敵する容量の電池とすることができる。また、本発明リチウム電池は、正極層の密度が理論密度の70〜90%なので、電池の充放電に伴う正極層の体積変化を正極層自身に吸収させることができるので、充放電を繰り返しても正極層の損傷や剥離が生じ難く、長期間にわたって初期の電池性能を維持することができる。
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
本発明リチウム電池は、一般的なリチウム電池に備わる正極集電体層、正極層、固体電解質層、負極層、負極集電体層に加えて、さらに正極層と固体電解質層との間に配置される緩衝層を備える。これらの層を備えるリチウム電池は、各層の配置状態により大別して3つの構成に分けられる。具体的には、リチウム電池を平面視したときに、[1]正極層と負極層の一方が、他方に完全に重なる完全積層構造、[2]正極層と負極層の一部が互いに重なる部分積層構造、[3]正極層と負極層とが互いに全く重ならない非積層構造、の3つである。以下、完全積層構造を例に本発明の実施形態を説明すると共に、電池に備わる各層の構成についても詳細に説明する。
≪全体構成≫
図1は、本実施の形態におけるリチウム電池の縦断面図である。このリチウム電池1は、正極集電体層11の上に、正極層13、緩衝層16、固体電解質層(SE層)15、負極層14、負極集電体層12の順に積層された構成を有している。
≪各構成部材≫
(正極集電体層)
正極集電体層11は、所定の厚さを有する金属製の薄板であり、後述する各層を支持する基板の役割を兼ねている。正極集電体層11としては、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、これらの合金、ステンレスから選択される1種が好適に利用できる。金属膜からなる集電体11は、PVD法(物理的蒸着法)やCVD法(化学的蒸着法)により形成することができる。特に、所定のパターンに金属膜(集電体)を形成する場合、適宜なマスクを用いることで、容易に所定のパターンの集電体を形成することができる。その他、金属箔を絶縁性の基板に圧着することで、正極集電体層を形成しても良い。
(正極層)
正極層13は、リチウムイオンの吸蔵及び放出を行う活物質を含む層である。特に、LiMO2(元素Mは、CoおよびNiの少なくとも一種以上:Mの割合が50%以上)で表される酸化物、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)またはLiNi0.5Mn0.5O2、若しくはこれらの混合物を好適に使用することができる。
正極層13は、その密度を理論密度の70〜90%とすることで、電池1の充放電に伴う正極層13の体積変化を正極層13自身に吸収させることができる。その結果、電池1の充放電を繰り返しても、正極層13にクラックが入るなどの損傷が生じ難く、正極層13が正極層13に隣接する層(正極集電体層11、緩衝層16)から剥離し難い。その結果、電池1の充放電を繰り返し行っても、正極層13に生じる問題に起因する電池性能の劣化が起こり難い、即ち、サイクル特性に優れた電池とすることができる。
正極層13に生じる問題をより軽減する構成として、正極層13の構造を規定することも有効である。具体的には、正極層13の構造を正極層13の厚さ方向に伸びる柱状の構造の集合体とすることにより、正極層13の体積変化を吸収し易くなる。また、このような構造であれば、リチウムイオンの伝導路が正極層13の厚さ方向に伸びることになるので、正極層13の密度が低いことによるリチウムイオン伝導度の低下を抑制することができる。さらに、正極層13の結晶構造を、正極層の厚さ方向に平行な方向に積層する層状結晶構造とすると、正極層13のリチウム伝導度を向上させることができる。特に、後述する実施例に示すように(図2および3を合わせて参照)、正極層13が上記のような結晶構造を有し、かつ、正極層13全体の構造が柱状の構造の集合体であると、より優れたリチウム伝導度を有するリチウム電池とすることができる。
また、正極層13には、後述する緩衝層16に含まれる化合物が拡散していることが好ましい。例えば、正極層13のうち、緩衝層16との界面から所定の厚さにおける化合物の濃度を測定すると、緩衝層16から正極層13への前記化合物の拡散の度合いを特定することができる。拡散の度合いを特定する具体的な数値については緩衝層の項目で述べる。
正極層13は、さらに導電助剤を含んでいても良い。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラックといったカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン、アルミニウムやニッケルなどの金属繊維からなるものが利用できる。特に、カーボンブラックは、少量で高い導電性を確保できて好ましい。
上述した正極層13の形成方法としては、PVD法やCVD法などの気相堆積法を使用できる。例えば、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を使用できる。これら気相堆積法の条件を調節することで、上述した正極層13の密度や構造、さらには結晶構造を変化させることができる。例えば、LiCoO2からなる正極層13の密度を調節するためには、基板温度を70〜400℃とすると共に、成膜レートを0.1〜100μm/分とすると良く、正極層13を柱状構造の集合体とするためには、正極層13の成膜後、400〜600℃で1〜10hの熱処理を施すと良い。この成膜後の熱処理によって、正極層13の結晶構造を、正極層13の厚さ方向に平行な方向に積層する層状結晶構造とすることもできる。
(負極集電体層)
負極集電体層12は、負極層14の上に形成される金属膜である。負極集電体層12としては、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、及びこれらの合金から選択される1種が好適に利用できる。なお、負極集電体層12も、正極集電体層11の場合と同様に、PVD法やCVD法で形成することができる。
(負極層)
負極層14は、リチウムイオンの吸蔵及び放出を行う活物質を含む層で構成する。例えば、負極層14として、Li金属及びLi金属と合金を形成することのできる金属よりなる群より選ばれる1つ、若しくはこれらの混合物又は合金が好適に使用できる。Liと合金を形成することのできる金属としては、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、及びインジウム(In)よりなる群より選ばれる少なくとも一つ(以下、合金化材料という)が良い。
このような元素を含有した負極層は、負極層自体に集電体としての機能を持たせることができ、かつリチウムイオンの吸蔵・放出能力が高く好ましい。特に、シリコン(Si)はリチウムを吸蔵・放出する能力がグラファイト(黒鉛)よりも大きく、電池のエネルギー密度を高くすることができる。
上述した負極層14の形成方法は、気相堆積法が好ましい。その他、金属箔をSE層の上に重ねて、プレスあるいは電気化学的手法によりSE層上に密着させ、負極層を形成しても良い。
(固体電解質層)
固体電解質層(SE層)15は、硫化物で構成されるリチウムイオン伝導体である。このSE層15は、リチウムイオン伝導度(20℃)が10-5S/cm以上あり、かつLiイオン輸率が0.999以上であることが好ましい。特に、リチウムイオン伝導度が10-4S/cm以上あり、かつリチウムイオン輸率が0.9999以上であれば良い。また、SE層15は、電子伝導度が10-8S/cm以下であることが好ましい。SE層15の材質としては、硫化物、例えば、Li、P、S、OからなるLi-P-S-Oや、Li2SとP2S5とからなるLi-P-Sのアモルファス膜あるいは多結晶膜などで構成することが好ましい。特に、Li2SとP2S5とからなるLi-P-Sで構成したSE層とすると、このSE層と負活物質層との間の界面抵抗値を低下させることができ、その結果、電池の性能を向上させることができる。
SE層15の形成方法としては、固相法や気相堆積法を使用することができる。固相法としては、例えば、メカニカルミリング法を使用して原料粉末を作製し、この原料粉末を焼結して形成することが挙げられる。一方、気相堆積法としては、例えば、PVD法、CVD法が挙げられる。具体的には、PVD法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法が、CVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法などが挙げられる。気相堆積法によりSE層を形成した場合、固相法によりSE層を形成した場合よりも、SE層の厚さを薄くすることができる。
(緩衝層)
緩衝層16は、上記SE層15から正極層13にリチウムイオンが大量に移動することを防止して、SE層15と正極層13との界面において電荷の偏りを緩衝し、この界面近傍のSE層15に空乏層が生じることを防止する層である。緩衝層16は、酸化物からなることが好ましく、具体的には、LixLa(2-x)/3TiO3(x=0.1〜0.5)、Li4Ti5O12、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li1.8Cr0.8Ti1.2(PO4)3、LiNbO3、LiTaO3または、Li1.4In0.4Ti1.6(PO4)3などを単独あるいは組み合わせて使用できる。また、緩衝層16に、Arが0.1〜5mol%含有させることも、緩衝層16のリチウムイオン伝導性が向上させることに寄与する。
上段に列挙した緩衝層を構成するための化合物の一部、例えば、LixLa(2-x)/3TiO3、LiNbO3、LiTaO3は、アモルファスの状態とすると、リチウム伝導度が向上する。上記酸化物の中でも、LixLa(2-x)/3TiO3(x=0.1〜0.5)は、結晶状態およびアモルファスの状態の両方でリチウムイオン伝導度が約10-3S/cmという非常に優れたリチウムイオン伝導性を有するので、緩衝層16として採用したときに、電池の性能を向上させることができる。その他、LiNbO3も、アモルファスの状態でリチウムイオン伝導度が10-5S/cm以上という非常に優れたリチウムイオン伝導性を有する。LiNbO3がアモルファスの状態であることを示す指標としては、X線回折において、2θが22〜25°の範囲で半値幅が5°以下のピークが存在しないことが挙げられる。なお、緩衝層の形成時に上記化合物が結晶構造をとる温度とすると、緩衝層を構成する化合物が正極層に拡散しすぎて、緩衝層がもろくなる虞がある。
正極層に接する緩衝層を構成する化合物は、その一部が正極層中に拡散していることが好ましい。上記化合物の正極層への拡散度合いを調節することで、空乏層の形成を抑制できると共に、正極層と緩衝層との密着性を向上させることができる。例えば、緩衝層がLiNbO3を含有する場合は、正極層のうち、緩衝層との界面から厚さ25nmの点における緩衝層から拡散したNbの濃度を1×10-3原子%以上25原子%以下とすることが挙げられる。なお、Nb濃度は、例えばSIMS(secondary ion mass spectrometry)などで測定することができ、正極層がLiCoO2の場合、測定地点における原子量の比、即ち、Nb/(Nb+O+Li+Co)のことである。
また、緩衝層の平均厚さは、1μm以下であることが好ましい。緩衝層膜厚が厚すぎると、リチウム電池の薄型化の障害になる。空乏層の形成を抑制するには、2nm以上あれば十分であるので、この値を下限値とする。より確実に空乏層の形成を抑制したいのであれば、緩衝層厚さを5nm以上とすると良い。なお、緩衝層の平均厚さは、緩衝層における異なる3点以上の層厚さの平均とする。
さらに、緩衝層の電子伝導度は、1×10-5S/cm以下であることが好ましい。電子伝導度を上記のように規定することで、緩衝層における分極を抑制し、もって空乏層の形成を抑制することができる。なお、上記の化合物を採用すれば、上記の電子伝導度をほぼ満たす緩衝層とすることができる。
この緩衝層は、気相堆積法、例えば、RFスパッタリングやECRプラズマCVDなどにより形成することができる。また、緩衝層にArを含有させるのであれば、成膜雰囲気をArとすれば良い。
≪リチウム電池の製造方法≫
リチウム電池を製造するには、各層を支持する基板を兼ねる正極集電体層11の上に、正極層13、緩衝層16、SE層15、負極層14、負極集電体層12の順に積層することで作製する。また、正極集電体層11、正極層13、緩衝層16およびSE層15を積層した積層体を作製すると共に、この積層体とは別個に負極集電体層12と負極層14とからなる積層体を作製し、これら二つの積層体を重ね合わせることでリチウム電池1を作製しても良い。
なお、上述した2つの積層体を重ね合わせるときは、積層体同士の接触面に、リチウム含有塩を溶解したイオン液体からなる溶液を塗布しても良い。この溶液としては、リチウムイオン伝導性が高く(好ましくは10-4S/cm以上)、電子伝導性が低い(好ましくは10-8S/cm以下)ものを使用する。この溶液は、電子伝導性がほとんど無く、イオン伝導性に優れるので、SE層15にピンホールが生じたとしても、正極と負極の短絡を防止することができる。
≪実施形態1の効果≫
以上の構成を備えるリチウム電池1は、正極層13とSE層15との間に緩衝層16を設けるだけで、正極層13とSE層15との界面近傍におけるリチウムイオンの偏りを抑制し、SE層15において空乏層が形成されることを抑制することができる。また、電池1に備わる正極層13により、電池の充放電に伴う正極層13の体積変化を正極層13自身に吸収させることができるので、サイクル特性に優れたリチウム電池とすることができる。
以下、実施の形態において説明した構成のコインセル型のリチウム電池(試料1、試料2、試料101)を実際に作製し、電池の容量を測定することで、電池の性能を評価した。
<試料1>
正極集電体層11として、厚さ0.5mmのSUS316Lからなる薄板を用意した。この薄板は、各層を支持する基板の役割も兼ねる。
電子ビーム蒸着法により、正極集電体層11の上にLiCoO2からなる正極層13を形成した。具体的には、蒸発源としてLiCoO2粉末とCo3O4粉末の混合原料を用い、基板温度を100℃として、0.1μm/分の成膜レートで成膜を実施した。そして、成膜後、大気中、500℃×3時間の加熱処理を実施し、正極層13を完成した。
この正極層13について種々の測定を行い、その特性を調べた。まず、X線回折法により、正極層13の結晶構造を調べたところ、LiCoO2の層状結晶構造であることが明らかになった。次いで、誘導結合プラズマ発光分光分析計(ICP法)で正極層重量を、段差計で正極層厚さを測定し(膜厚は1μmであった)、正極層13の密度を算出したところ、3.7g/cm3であった。層状結晶構造のLiCoO2の密度は5.0g/cm3であるので、本例の正極層13の密度は、74%であった。また、走査型電子顕微鏡(SEM)により正極層13を撮影したところ、図2に示すように、正極層13が、その厚さ方向に伸びる柱状構造の集合体であることがわかった。図2を模式的に示すと図3のようになる。つまり、本例の正極層13は、柱状構造が集合してできており、各柱状構造の間に隙間が形成されている。そして、各柱状構造は、正極層13の厚さ方向と平行する方向に伸びる層状結晶構造を有している。
エキシマレーザーアブレーション法により、正極層13の上に、LiNbO3を蒸着することで緩衝層16を形成した。緩衝層16の厚さは、20nmであった。緩衝層16の成膜は、蒸発源出力500mJ、圧力1Paの酸素雰囲気下で行った。また、成膜した後、400℃×0.5h大気炉で酸素アニールを行うことで、緩衝層を構成する化合物を正極層に拡散させた。
この緩衝層16をXRD観察したところ、2θが22〜25°の範囲で半値幅5°以下のピークが観察でき、緩衝層がアモルファス状態であることが確認できた。また、SIMS(secondary ion mass spectrometry)を利用し、正極層13および緩衝層16において各層を構成する元素の相互拡散が生じていることが明らかになった。
エキシマレーザーアブレーション法により、緩衝層16の上に、Li-P-S組成のSE層15を形成した。SE層15の形成の際は、硫化リチウム(Li2S)及び五硫化リン(P2S5)を原料とし、SE層15におけるLi/Pのモル比が2.0となるように調整した。SE層15の厚さは、3μmであった。
負極集電体12として、厚さ0.5mmのSUS316Lの薄板を用意し、この薄板上に、抵抗加熱蒸着法により、SE層15の上に、Liを蒸着することで負極層14を形成した。負極層14の厚さは、0.5μmであった。
最後に、正極側の積層体と負極側の積層体とを貼り合わせて、その外周を外装材で覆ってリチウム電池を作製した。リチウム電池は、集電体から端子を取れるようにしてある。
<試料2>
試料1と異なる正極層密度を有するリチウム電池(試料2)を作製した。試料2の作製は、正極層13の構成以外は、試料1と同じとした。以下、試料1との相違点について説明する。
正極層13の成膜には、試料1と同様に電子ビーム蒸着法を利用し、基板温度350℃、成膜レート0.1μm/分として成膜を実施した。また、成膜後大気中500℃×3h熱処理を実施した。この正極層13を調べたところ、層状結晶構造であり、密度が4.5g/cm3であった。層状結晶構造のLiCoO2の理論密度は5.0g/cm3であるので、試料2の正極層密度は90%であった。
<試料101>
本発明の比較として、正極層13の密度が本発明に規定する範囲を外れるリチウム電池(試料101)を作製した。試料101の作製は、正極層13の構成以外は、試料1と同じとした。以下、試料1との相違点について説明する。
正極層13の成膜には、試料1と同様に電子ビーム蒸着法を利用し、基板温度450℃、成膜レート0.1μm/分として成膜を実施した。また、成膜後大気中500℃×3h熱処理を実施した。この正極層13を調べたところ、層状結晶構造であり、密度が4.7g/cm3であった。層状結晶構造のLiCoO2の理論密度は5.0g/cm3であるので、試料101の正極層密度は、94%であった。
<電池の性能評価>
まず試料1、試料2および試料101の放電容量を調べたところ、試料1、2は試料101に比べて放電容量は小さかったが、このサイズの電池としては許容範囲の放電容量を有していた。放電容量は、正極活物質の量に依存するので、正極層の密度が理論密度の70%を切る電池は、許容範囲を外れて低く、その用途が限定されるので好ましくないことが予測できる。
さらに、試料1および2、101のリチウム電池について、容量維持率を調べた。容量維持率は、0.1mA/cm2の定電流密度、充電終止電圧4.2V、放電終止電圧3.0Vの充放電操作を1サイクルとして、初期の放電容量に対する500サイクル後の放電容量の比で求めた。
充放電試験の結果、正極層密度が74%の試料1は容量維持率が80%であるのに対して、正極層密度が94%である試料101は容量維持率が40%であった。また、正極層密度が90%である試料2は容量維持率が79%であった。そこで充放電試験後の電池を分解し、正極層の状態を調べたところ、試料1、2の電池では、正極層に殆ど損傷が認められなかったのに対して、試料101の電池は正極層が集電体層と緩衝層から部分的に剥離していることが確認できた。このことにより、70〜90%に密度を調整した正極層は、電池の充放電に伴う体積変化を正極層自身により吸収できることが明らかになった。
なお、上述した実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。具体的には、リチウム電池を構成する正極層、固体電解質層、負極層の配置には、上述した実施の形態以外のものも考えられるが、どのような配置を選択しても、正極層と固体電解質層とが直接接触しないように、両層の間に緩衝層を設けると共に、正極層密度を理論密度の70〜90%となるようにすれば良い。
本発明リチウム電池は、携帯機器などの電源として好適に利用することができる。
実施形態に記載の本発明リチウム電池の縦断面図である。 試料1のリチウム電池における正極層近傍のSEM写真を示す図である。 図2のSEM写真における正極層近傍を模式的に示す図である。
符号の説明
1 リチウム電池
11 正極集電体層 12 負極集電体層
13 正極層 14 負極層
15 固体電解質層(SE層) 16 緩衝層

Claims (7)

  1. 正極層と、負極層と、これら両層の間でリチウムイオンの伝導を媒介する硫化物固体電解質層とを具えるリチウム電池であって、
    前記正極層と固体電解質層との間に、これら両層の界面近傍におけるリチウムイオンの偏りを緩衝する緩衝層を備え、
    前記正極層の密度が、理論密度の70〜90%であることを特徴とするリチウム電池。
  2. 前記正極層は、その構造が正極層の厚さ方向に伸びる柱状構造の集合体であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池。
  3. 前記緩衝層は、LixLa(2-x)/3TiO3(x=0.1〜0.5)、Li4Ti5O12、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li1.8Cr0.8Ti1.2(PO4)3、Li1.4In0.4Ti1.6(PO4)3、LiTaO3および、LiNbO3の少なくとも一種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム電池。
  4. 前記緩衝層の平均膜厚が、1μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム電池。
  5. 前記緩衝層がアモルファスの状態であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウム電池。
  6. 前記緩衝層がLiNbO3からなり、
    緩衝層のX線回折において、2θが22〜25°の範囲で半値幅が5°以下のピークが存在しないことを特徴とする請求項5に記載のリチウム電池。
  7. 前記正極層は、正極活物質としてLiMO2を有し、
    前記Mは、CoおよびNiの少なくとも一種以上を含み、
    前記Mに占めるCoおよびNiの割合が50%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウム電池。
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