上記の通り、LiCoO2を正極活物質に用いた正極において、高容量化を達成すべく正極合剤層の密度を高めると、電池の負荷特性が損なわれる。本発明者らは、正極合剤層の高密度化に伴って、Liイオン拡散速度の低下を引き起こすようにLiCoO2の結晶の配向性が高まるため、このような負荷特性の低下が見られることを発見した。
そして、正極をXRD(X線回折)分析したときに、(101)面のピーク強度I101に対する(006)面のピーク強度I006の比I006/I101が0.6以上3以下にある場合には、Liイオンの拡散速度が低下するような正極活物質結晶の配向を抑えて、電池の負荷特性を向上させつつ、正極合剤層の高密度化、すなわち電池の高容量化を達成できることを見出した。
また、正極活物質であるリチウムコバルト酸化物の少なくとも一部について、Coの一部が他の金属元素で置換されているものを使用することで、正極合剤層密度を高めても上記I006/I101を0.6以上3以下に制御できること、更には、このような正極活物質を用いることで、その安定性を高めて、より高電圧領域での使用が可能となることも見出だした。
本発明者らは、以上の各知見に基づいて、本発明を完成させた。以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の非水二次電池は、正極活物質としてリチウムコバルト酸化物を含有しており、正極にについて、XRD分析をしたときに、(101)面のピーク強度I101に対する(006)面のピーク強度I006の比I006/I101が0.6以上3以下である。
上記の(006)面は、正極合剤層の含有する正極活物質であるリチウムコバルト酸化物結晶において、Liイオンが出入りする部分(結晶層間)に当たる。そして、XRD分析により得られるXRD曲線における(101)面のピーク強度I101と(006)面のピーク強度I006との比I006/I101は、リチウムコバルト酸化物結晶におけるLiイオンの出入りできる層間の、正極の面に対する配向性の指標となる。
すなわち、I006/I101値が大きいということは、リチウムコバルト酸化物結晶におけるLiイオンの出入りできる層間が、正極の面に対してより平行に配向していることを意味している。そのため、この場合には、リチウムコバルト酸化物結晶に、Liイオンが出入りし難くなるため、Liイオンの拡散速度が低下し、このような正極を用いた電池では、負荷特性が損なわれてしまう。そして、正極活物質に、例えばLiCoO2のみを用いた場合、正極合剤層の密度を高めると、正極におけるI006/I101値が急激に増大してしまう。
そこで、本発明では、電池の高容量化を達成するために正極合剤層の密度を高めつつ、I006/I101値を0.6以上3以下と低い値に制御し、Liの拡散速度を高く維持して電池の負荷特性を向上させるために、正極活物質であるリチウムコバルト酸化物の少なくとも一部に、Coの一部が他の金属元素で置換されているものを用いる。すなわち、Coの一部が他の金属元素で置換されているリチウムコバルト酸化物であれば、正極合剤層の密度を高めても、I006/I101値を低い値に制御できるため、電池の高容量化と共に負荷特性も維持できる。
また、Coの一部が他の金属元素で置換されているリチウムコバルト酸化物では、Coを置換する金属元素を有しないリチウムコバルト酸化物に比べて、安定性(特に高電圧下での安定性)に優れており、崩壊などが生じ難いため、これを正極活物質に用いることで、電池の高電圧領域での使用も可能となる。
なお、リチウムコバルト酸化物結晶において、Liイオンが出入りできる部分を示す結晶面としては、(006)面以外にも、例えば(003)面などがあるが、本発明において、(006)面を採用したのは、以下の理由による。XRD曲線において、(006)面の回折ピークは、(101)面の回折ピークに近い位置に出るため[(006)面のピーク位置は2θ=37.4°、(101)面のピーク位置は2θ=38.4°]、(101)面のピーク位置からより遠い位置にピークが出る(003)面などに比べて、(101)面のピーク強度に対するピーク強度の比の精度がより高くなるからである。
I006/I101値は、3以下、好ましくは2以下である。I006/I101値が大きすぎると、正極活物質であるリチウムコバルト酸化物が、Liの拡散速度を低下させるように配向しすぎて、電池の負荷特性(更には熱安定性)を損なうからである。
また、I006/I101値は、0.6以上であり、0.7以上であることが好ましい。電池の負荷特性や熱安定性の確保の点からは、I006/I101値は低い方が良いが、あまり低すぎると、正極合剤層の密度が小さくなってしまい、電池の高容量化が達成できなくなる。
上記I006/I101値を上記特定値に制御するには、正極活物質の少なくとも一部に、Coの一部が他の金属元素で置換されたリチウムコバルト酸化物を用いればよいので、このようなリチウムコバルト酸化物と、置換金属元素を有しないリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)とを併用してもよいし、正極活物質の全てが、Coの一部が他の金属元素で置換されたリチウムコバルト酸化物であってもよい。
なお、Coの一部が他の金属元素で置換されたリチウムコバルト酸化物と、置換金属元素を有しないリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)とを併用する場合には、例えば、Coの一部が他の金属元素で置換されたリチウムコバルト酸化物が、全正極活物質中、10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であることが望ましい。
本発明に係る正極における正極合剤層の密度は、例えば、3.5g/cm3以上、より好ましくは3.6g/cm3以上、更に好ましくは3.8g/cm3以上とすることが好ましい。これにより電池の高容量化を達成することができ、また、このように正極合剤層を高密度にしても、正極活物質の配向に起因する電池の負荷特性の低下が抑えられる。ただし、正極合剤層の密度が高すぎると、非水電解質(後述する)の濡れ性が低下するので、その密度は、例えば、4.6g/cm3以下であることが好ましく、4.4g/cm3以下であることがより好ましく、4.2g/cm3以下であることが更に好ましい。
なお、本明細書でいう正極合剤層の密度は、以下の測定方法により求められる値である。正極を所定面積で切り取り、その重量を、最小目盛り1mgの電子天秤を用いて測定し、この重量から集電体の重量を差し引いて正極合剤層の重量を算出する。また、正極の全厚を最小目盛り1μmのマイクロメーターで10点測定し、この厚みから集電体の厚みを差し引いた値の平均値と面積から正極合剤層の体積を算出し、この体積で上記の正極合剤層の重量を割ることにより、正極合剤層の密度を算出する。
上記のような高密度の正極合剤層を形成するためには、正極活物質であるリチウムコバルト酸化物が、平均粒子径の異なる2種以上のものを含有していることが好ましい。平均粒子径の大きなリチウムコバルト酸化物と、平均粒子径の小さなリチウムコバルト酸化物とを併用することで、正極合剤層において、粒子径の大きなリチウムコバルト酸化物同士の隙間に、粒子径の小さなリチウムコバルト酸化物を充填することができるようになるため、正極合剤層の密度を高めて高容量化を達成することが、より容易となる。
なお、本明細書でいうリチウムコバルト酸化物の「平均粒子径」とは、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「HRA9320」を用いて測定した粒度分布の小さい粒子から積分体積を求めら場合の体積基準の積算分率における50%径の値(d50)、メディアン径である。
なお、正極に係る「平均粒子径の異なる2種以上のリチウムコバルト酸化物」は、これらの混合物の粒度分布曲線において、変曲点を、3箇所以上、好ましくは4箇所以上有している。この粒度分布曲線においては、2つ以上のピークが存在していてもよいし、1つ以上のピークにショルダーが見られるような分布であってもよい。このような粒度分布曲線の場合には、一般的なピーク分離方法を用いて、大きな粒径の粒子の分布と、小さな粒径の粒子の分布とに分割し、その粒径と積算体積から、リチウムコバルト酸化物の各平均粒子径(d50)と、その混合比率を求めることができる。
正極に用いるリチウムコバルト酸化物のうち、最大の平均粒子径を有するもの[以下、「正極活物質(A)」という]の平均粒子径をA、最小の平均粒子径を有するもの[以下、「正極活物質(B)」という]の平均粒子径をBとしたとき、Aに対するBの比率B/Aは、0.15以上0.6以下であることが好ましい。最大の平均粒子径を有する正極活物質(A)の平均粒子径と、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)の平均粒子径との比がこのような値である場合には、正極合剤層の密度をより容易に高めることができる。
なお、正極活物質(A)については、その平均粒子径が、例えば、5μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましく、11μm以上であることが更に好ましい。正極活物質(A)の平均粒子径が小さすぎると、正極合剤層の密度を高め難くなる場合がある。他方、正極活物質(A)の平均粒子径が大きすぎると、電池特性が低下する傾向にあることから、その平均粒子径は、例えば、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、18μm以下であることが更に好ましい。
また、正極活物質(B)については、その平均粒子径が、例えば、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが更に好ましい。正極活物質(B)の平均粒子径が大きすぎると、正極合剤層において、粒子径の大きなリチウムコバルト酸化物粒子同士の隙間に正極活物質(B)を充填し難くなくなるため、正極合剤層の密度を高め難くなる場合がある。他方、正極活物質(B)の平均粒子径が小さすぎると、小さすぎても、小さい粒子間の空隙体積が大きくなるため密度を高くし難くなる傾向にある。そのため、正極活物質(B)の平均粒子径は、例えば、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが更に好ましい。
本発明に係る正極活物質は、上記正極活物質(A)と上記正極活物質(B)のみの場合のように、平均粒子径の異なる2種のリチウムコバルト酸化物のみであってもよいが、平均粒子径の異なる3種以上(例えば、3種、4種、5種など)のリチウムコバルト酸化物を用いてもよい。平均粒子径の異なるリチウムコバルト酸化物を3種以上用いる場合には、例えば、平均粒子径が、正極活物質(A)の平均粒子径と、正極活物質(B)の平均粒子径の間にあるリチウムコバルト酸化物を、正極活物質(A)および(B)と共に用いればよい。
正極の有するリチウムコバルト酸化物のうち、平均粒子径が最小の正極活物質(B)の含有量は、例えば、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましい。正極活物質(B)が上記の量で含有されていると、粒子径の大きなリチウムコバルト酸化物粒子同士の隙間を埋め易く、正極合剤層の高密度化が容易となる。他方、正極の有するリチウムコバルト酸化物中の正極活物質(B)の含有量が多すぎると、却って正極合剤層の密度を高め難くなるため、その含有量は、例えば、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。
よって、例えば、正極の有するリチウムコバルト酸化物が、上記の正極活物質(A)と正極活物質(B)のみである場合には、全リチウムコバルト酸化物中、正極活物質(A)の含有量は、例えば、40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上であって、95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下であることが望ましい。
なお、正極の有するリチウムコバルト酸化物のうち、正極活物質(B)は、例えば上記の平均粒子径を有しているが、このように粒子径の小さなリチウムコバルト酸化物は、例えば高電圧での充電状態において、安定性が悪く、電池の安全性や貯蔵特性などの信頼性を損なう原因となる。
そこで、本発明の電池において、正極活物質として、平均粒子径の異なる2種以上のリチウムコバルト酸化物を用いる場合には、少なくとも、平均粒子径が最小のリチウムコバルト酸化物である正極活物質(B)が、Coの一部が他の金属元素で置換されたリチウムコバルト酸化物であることが好ましい。上記の通り、Coの一部が他の金属元素で置換されているリチウムコバルト酸化物は、その安定性(特に高電圧での充電状態における安定性)が向上する。そのため、高電圧領域での崩壊などが抑制されることから、電池特性(例えば、充放電サイクル特性)を向上させることができる他、電池の安全性や貯蔵特性などの信頼性も高めることができる。
なお、正極に係る正極活物質において、少なくとも最小の平均粒子径を有するリチウムコバルト酸化物が、Coの一部が他の金属元素で置換されているものであることは、以下の方法により確認できる。正極に係る正極活物質の粒度分布曲線を求め、該曲線に存在するピークなどについて、上記のピーク分離を行ったときに、最小の粒径の粒子のピークに属している粒子が、例えば、電子線微小部解析装置(EPMA)やICPなどによって、LiおよびCo以外の金属元素を含有していることを確認する。
なお、正極活物質として、平均粒子径の異なる2種以上のリチウムコバルト酸化物を用いる場合、平均粒子径が最小の正極活物質(B)が、Coの一部が他の金属元素で置換されているリチウムコバルト酸化物であることが好ましいが、正極活物質(B)以外のリチウムコバルト酸化物[最大の平均粒子径を有する正極活物質(A)など]も、Coの一部が他の金属元素で置換されているリチウムコバルト酸化物であることがより好ましい。正極活物質(B)以外のリチウムコバルト酸化物におけるCoの一部が他の金属元素で置換されている場合には、その安定性(特に高電圧での充電状態での安定性)が向上するため、例えば電池の充放電サイクル特性や安全性、貯蔵特性などの信頼性を更に向上させることができる。
なお、上記の、Coの一部が他の金属元素で置換されているリチウムコバルト酸化物において、Coの一部を置換する金属元素としては、例えば、Mg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素が好ましい。これらの金属元素は、リチウムコバルト酸化物の安定性を高める作用が優れているからである。
正極活物質のうち、Coの一部が他の金属元素で置換されているリチウムコバルト酸化物としては、下記一般式(1)で表されるリチウムコバルト酸化物が好ましい。
LixCoyM1 zM2 vO2 (1)
ここで、上記一般式(1)中、M1は、Mg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素、M2は、Li、CoおよびM1以外の元素であり、0.97≦x<1.02、0.8≦y<1.02、0.002≦z≦0.05、0≦v≦0.05である。なお、zについては、0.004以上がより好ましく、0.006以上が更に好ましく、また、0.02未満がより好ましく、0.01未満が更に好ましい。これは、zが小さすぎると、電池の充放電サイクル特性や安全性の向上効果が十分でなく、大きすぎると、電池の電気特性の低下が起こり始めるからである。
正極活物質として、平均粒子径の異なる2種以上のリチウムコバルト酸化物を用いる場合には、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)が、上記一般式(1)で表されるリチウムコバルト酸化物であることが好ましい。
また、正極活物質として、平均粒子径の異なる2種以上のリチウムコバルト酸化物を用いる場合、正極活物質(B)以外のリチウムコバルト酸化物[正極活物質(A)を含む]としては、下記一般式(2)で表されるリチウムコバルト酸化物が好ましい。
LiaCobM1 cM2 dO2 (2)
ここで、上記一般式(2)中、M1およびM2は、上記一般式(1)と同じであり、0.97≦a<1.02、0.8≦b<1.02、0≦c≦0.02、0≦d≦0.02である。なお、M1、M2は、上記一般式(1)と同じ元素から選択されるが、選択する元素種や構成比率は、平均粒子径の異なる活物質毎に異なっていても良い。例えば、正極活物質(B)では、M1がMg、Ti、Alであり、他方、正極活物質(A)では、M1がMg、Tiである、といった組み合わせでも良い。ただし、この例でも示したように、M1の中で共通の元素が少なくとも1種あることが好ましく、M1中の共通元素は、2種以上であることがより好ましく、3種以上であることが更に好ましい。
なお、正極活物質(A)の場合、cは、より好ましくは0.0002以上、更に好ましくは0.001以上であって、より好ましくは0.005未満、更に好ましくは0.0025未満である。また、正極活物質(A)の場合、dは、より好ましくは0.0002以上、更に好ましくは0.001以上であって、より好ましくは0.005未満、更に好ましくは0.0025未満である。これは、正極活物質(A)の粒径が大きいため、M1などの添加量がより少なくても効果が得られるが、少なすぎると電池の充放電サイクル特性や安全性への効果が小さくなり、多すぎると電池の電気特性が低下する傾向にあるからである。
上記一般式(1)におけるx、および上記一般式(2)におけるaは、電池の充放電によって変化するが、電池製造時には、0.97以上1.02未満であることが好ましい。xおよびaは、より好ましくは0.98以上、更に好ましくは0.99以上であって、より好ましくは1.01以下、更に好ましくは1.00以下である。
上記一般式(1)におけるy、および上記一般式(2)におけるbは、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.98以上、更に好ましくは0.99以上であって、好ましくは1.02未満、より好ましくは1.01未満、更に好ましくは1.0未満である。
上記一般式(1)で表される正極活物質(B)、および上記一般式(2)で表される正極活物質(B)以外のリチウムコバルト酸化物では、電池の安全性向上がより効果的であることから、M1としては、Mgを含有することが好ましい。そして、上記一般式(1)で表される正極活物質(B)、および上記一般式(2)で表される正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物では、M1として、Mgと共にTi、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含有していることが好ましく、この場合には、高電圧での充電状態での、これらリチウム含有遷移金属酸化物の安定性がより向上する。
なお、正極活物質(B)においては、Mgを含有することによる効果をより有効に発揮させる観点から、その含有量は、例えば、Coの含有量に対して、0.1モル%以上であることが好ましく、0.15モル%以上であることがより好ましく、0.2モル%以上であることが更に好ましい。
また、正極活物質(B)が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、0.05モル%以上であることが好ましく、0.08モル%以上であることがより好ましく、0.1モル%以上であることが更に好ましい。更に、正極活物質(B)が、AlまたはSnを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、0.1モル%以上であることが好ましく、0.15モル%以上であることがより好ましく、0.2モル%以上であることが更に好ましい。
しかし、正極活物質(B)において、Mgの含有量が多すぎると、電池の負荷特性が低下する傾向にあることから、その含有量は、例えば、Coの含有量に対して、2モル%未満であることが好ましく、1モル%未満であることがより好ましく、0.5モル%未満であることが更に好ましく、0.3モル%未満であることが特に好ましい。
また、正極活物質(B)において、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の含有量が多すぎると、電池の容量向上効果が小さくなることがある。そのため、正極活物質(B)が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、0.5モル%未満であることが好ましく、0.25モル%未満であることがより好ましく、0.15モル%未満であることが更に好ましい。また、正極活物質(B)が、AlまたはSnを含有する場合には、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、1モル%未満であることが好ましく、0.5モル%未満であることがより好ましく、0.3モル%未満であることが更に好ましい。
更に、正極活物質(A)においては、Mgを含有することによる効果をより有効に発揮させる観点から、その含有量は、例えば、Coの含有量に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、0.07モル%以上であることが更に好ましい。
また、正極活物質(A)が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、0.005モル%以上であることが好ましく、0.008モル%以上であることがより好ましく、0.01モル%以上であることが更に好ましい。更に、正極活物質(A)が、AlまたはSnを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、0.07モル%以上であることが更に好ましい。
しかし、正極活物質(A)においても、Mgの含有量が多すぎると電池の負荷特性が低下する傾向にあることから、その含有量は、例えば、Coの含有量に対して、0.5モル%未満であることが好ましく、0.2モル%未満であることがより好ましく、0.1モル%未満であることが更に好ましい。
また、正極活物質(A)においても、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の含有量が多すぎると、電池の容量向上効果が小さくなることがある。そのため、正極活物質(A)が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、0.3モル%未満であることが好ましく、0.1モル%未満であることがより好ましく、0.05モル%未満であることが更に好ましい。また、正極活物質(A)が、AlまたはSnを含有する場合には、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、0.5モル%未満であることが好ましく、0.2モル%未満であることがより好ましく、0.1モル%未満であることが更に好ましい。
加えて、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物を使用する場合には、かかるリチウム含有遷移金属酸化物においては、Mgを含有することによる効果をより有効に発揮させる観点から、その含有量は、例えば、Coの含有量に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、0.07モル%以上であることが更に好ましい。
また、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、0.005モル%以上であることが好ましく、0.008モル%以上であることがより好ましく、0.01モル%以上であることが更に好ましい。更に、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物が、AlまたはSnを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、0.07モル%以上であることが更に好ましい。
しかし、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物においても、Mgの含有量が多すぎると電池の負荷特性が低下する傾向にあることから、その含有量は、例えば、Coの含有量に対して、2モル%未満であることが好ましく、10.2モル%未満であることがより好ましく、0.5モル%未満であることが更に好ましく、0.3モル%未満であることが特に好ましい。
また、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物においても、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の含有量が多すぎると、電池の容量向上効果が小さくなることがある。そのため、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、0.5モル%未満であることが好ましく、0.25モル%未満であることがより好ましく、0.15モル%未満であることが更に好ましい。また、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物が、AlまたはSnを含有する場合には、その合計量が、例えば、Coの含有量に対して、1モル%未満であることが好ましく、0.5モル%未満であることがより好ましく、0.3モル%未満であることが更に好ましい。
正極活物質(B)およびその他のリチウムコバルト酸化物において、金属元素M1の含有の仕方は特に制限は無く、例えば、その粒子上に存在していればよく、活物質内に均一に固溶して存在していても、活物質の内部に濃度分布を持って偏在していても、表面に化合物として層を形成していてもよいが、均一に固溶していることが好ましい。
正極活物質(B)およびその他のリチウムコバルト酸化物を表す上記一般式(1)および上記一般式(2)に係る元素M2は、Li、CoおよびM1以外の元素である。正極活物質(B)およびその他のリチウムコバルト酸化物は、M2を、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよく、含有していなくてもよい。
元素M2としては、例えば、Li以外のアルカリ金属(Na、K、Rbなど)、Mg以外のアルカリ土類金属(Be、Ca、Sr、Baなど)、IIIa族金属(Sc、Y、Laなど)、Ti、Zr以外のIVa族金属(Hfなど)、Nb以外のVa族金属(V、Taなど)、 VIa族金属(Cr、Mo、Wなど)、Mn以外のVIIb族金属(Tc、Reなど)、Co、Niを除くVIII族金属(Fe、Ru、Rhなど)、 Ib族金属(Cu、Ag、Auなど)、Zn、Al以外のIIIb族金属(B、Ca、Inなど)、Sn、Pb以外のIVb族金属(Siなど)、P、Biなどが挙げられる。
なお、金属元素M1は、リチウムコバルト酸化物の安定性向上には寄与するものの、その含有量が多すぎると、Liイオンの固層内拡散を損なうため、電池特性を低下させることがある。最小の平均粒子径の有する正極活物質(B)は、粒子径が小さく、表面積が大きいために、活性が高く、より安定性が低いために、安定化元素であるM1の含有量がある程度高いことが好ましく、また、正極活物質(B)は、粒径が小さく表面積が大きいために、活性が高く、M1の含有によっても、Liイオンの固層内拡散に対する影響が小さい。
これに対し、比較的粒径の大きなリチウムコバルト酸化物[正極活物質(B)以外のリチウムコバルト酸化物]は、正極活物質(B)に比べると安定性が高いために、正極活物質(B)ほどM1の含有の必要がない一方、正極活物質(B)に比べて表面積が小さく活性が低いため、M1の含有によってLiイオンの固層内拡散が損なわれ易い。
そのため、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)の金属元素M1の含有量は、正極活物質(B)以外のリチウムコバルト酸化物のM1の含有量よりも多いことが好ましい。
すなわち、上記一般式(1)におけるzと、上記一般式(2)におけるcとは、z>cの関係を満足することが好ましい。zは、cの1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが更に好ましく、3倍以上であることが特に好ましい。他方、cに対してzが大きすぎると、電池の負荷特性が低下する傾向にあるので、zは、cの5倍未満であることがより好ましく、4倍未満であることが更に好ましく、3.5倍未満であることが特に好ましい。
正極に係るリチウムコバルト酸化物として、3種以上の平均粒子径を有するものを用いる場合、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)以外のリチウムコバルト酸化物について、最大の平均粒子径を有する正極活物質(A)と、それ以外のリチウムコバルト酸化物との間では、M1の含有量の関係には特に制限は無く、前者の方がM1を多く含有していてもよく、後者の方がM1を多く含有していてもよく、両者のM1の含有量が同じであってもよい。より好ましくは、平均粒子径の小さいリチウムコバルト酸化物ほど、M1の含有量が多くなる態様である。すなわち、例えば、3種の平均粒子径を有するリチウムコバルト酸化物を使用する場合では、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)のM1含有量が最も多く、次いで、正極活物質(A)と正極活物質(B)の間の平均粒子径を有するリチウム含有金属酸化物のM1含有量が多く、最大の平均粒子径を有する正極活物質(A)のM1含有量が最も少ない態様がより好ましい。
また、本発明に係る正極活物質であるリチウムコバルト酸化物として、平均粒子径の異なる2種以上のものを用いる場合、平均粒子径の異なるもの同士が同じ組成を有していてもよく、平均粒子径の異なるもの毎に、異なる組成を有するものであってもよい。例えば、本発明に係るリチウムコバルト酸化物が、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)と最大の平均粒子径を有する正極活物質(A)である場合、正極活物質(A)がLiCo0.9975Mg0.001Ti0.0005Al0.001O2で、正極活物質(B)がLiCo0.9925Mg0.003Ti0.0015Al0.003O2、というような組み合わせであっても構わない。
本発明に係る上記正極活物質(リチウムコバルト酸化物)は、特定の合成工程と特定の電池の製造工程を経て形成される。例えば、異種の粒径のリチウムコバルト酸化物を得るためには、一般的には、Coの酸性水溶液にNaOHなどのアルカリを滴下しCo(OH)2として沈殿させる。均一な沈殿を得るために異種元素との共沈化合物とした後、焼成しCo3O4を作製することもできる。沈殿を作製する時間をコントロールすることで沈殿の粒径制御が可能であり、焼成後のCo3O4の粒径もこのときの沈殿物の粒径が支配要因である。
正極活物質の合成にあたっては、特定の混合条件と焼成温度、焼成雰囲気、焼成時間、出発原料と特定の電池製造条件の選択が必要である。正極活物質の合成の混合条件は、例えば、エタノールまたは水を原料粉末に加えて、遊星ボールミルで0.5時間以上混合することが好ましく、エタノールと水を50:50の容積比で、遊星ボールミルで20時間以上混合することが、より好ましい。この混合工程により、原料粉末は充分に粉砕、混合され、均一な分散液を調製することができる。これをスプレードライヤーなどにより均一性を保ったまま乾燥させる。好ましい焼成温度は750〜1050℃であり、より好ましい焼成温度は950〜1030℃である。また、好ましい焼成雰囲気は空気中である。好ましい焼成時間は10〜60時間であり、より好ましい焼成時間は20〜40時間である。
上記正極活物質に関して、Li源としてはLi2CO3が好ましく、Mg、Ti、Ge、Zr、Nb、Al、Snなどの異種金属源としてはそれらの金属の硝酸塩、水酸化物または1μm以下の粒径の酸化物が好ましく、水酸化物の共沈体を用いると異種元素は活物質に均一に分布しやすくなるので、より好ましい。
正極合剤層における正極活物質中の金属元素量は、ICP分析により、各元素量を測定することで求められる。また、Li量については、別途原子吸光などを用いて測定することができる。なお、通常、電極(正極)の状態では、粒子径の異なる正極活物質について、大粒径の活物質粒子と小粒径の活物質粒子とを、それぞれ分離して元素量を測定することは難しい。そのため、混合量が既知の活物質混合物を標準にして、EPMA(電子線微小部解析装置)などで小粒径の粒子および大粒径の粒子中の元素の含有量や含有量比の比較を行っても良い。また、電極(正極)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などで処理し、活物質粒子を電極からはがして粒子を沈殿させてから、洗浄、乾燥後、得られた粒子の粒度分布を測定したり、粒度分布のピーク分離を行い、2種以上の粒度を有していると判定した場合には、大粒径の粒子と小粒径の粒子とに分級し、それぞれの粒子群の点か元素量をICPで測定しても良い。
なお、本明細書における正極活物質中の金属元素量を測定するためのICP分析では、活物質を約5g精秤して200mlビーカーに入れ、王水100mlを加え、液量が約20〜25mlになるまで加熱濃縮し、冷却した後、アドバンテック株式会社製の定量濾紙「No.5B」で固形物を分離し、濾液および洗液を100mlメスフラスコに入れて定容希釈した後、日本ジャーレル・アッシュ社製のシーケンシャル型ICP分析装置「IPIS1000」を用いて測定する方法を採用している。
正極合剤層の有する上記平均粒子径の異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物のうち、最小の平均粒子径を有するリチウム含有遷移金属酸化物について、上記のICPにより分析されるMg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の含有率(I)と、最小の平均粒子径を有するリチウム含有遷移金属酸化物以外のリチウム含有遷移金属酸化物について、上記のICPにより分析されるMg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の含有率であって、の含有率であって、上記含有率(I)に係る金属元素と同一の金属元素の含有率(II)との比(I)/(II)は、上述の、上記一般式(1)におけるzと上記一般式(2)におけるcとの関係に相当するものであり、(I)/(II)の値は、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることが更に好ましく、3以上であることが特に好ましい。他方、cに対してzが大きすぎると、電池の負荷特性が低下する傾向にあるので、(I)/(II)の値は、5未満であることがより好ましく、4未満であることが更に好ましく、3.5未満であることが特に好ましい。
本発明において正極は、例えば以下の方法で作製される。まず、正極活物質であるリチウムコバルト酸化物(少なくとも一部が、Coの一部が他の金属元素M1で置換されているもの)に、必要に応じて、導電助剤(例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックなど)を添加し、更にバインダー(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなど)を添加して正極合剤を調製する。この正極合剤を、溶剤を用いてペースト状にし(なお、バインダーは予め溶剤に溶解させておいてから正極活物質などと混合してもよい)、正極合剤含有ペーストを調製する。得られた正極合剤含有ペーストをアルミニウム箔などからなる正極集電体に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、必要に応じて圧延する工程を経ることによって正極とする。ただし、正極の作製方法は、上記例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
正極合剤層の厚みは、例えば、30〜200μmであることが好ましい。また、正極に用いる集電体の厚みは、例えば、8〜20μmであることが好ましい。
そして、正極合剤層においては、活物質であるリチウム含有遷移金属酸化物の含有量は、96質量%以上、より好ましくは97質量%以上、更に好ましくは97.5質量%以上であって、99質量%以下、より好ましくは98質量%以下であることが望ましい。また、正極合剤層中のバインダーの含有量は、例えば、1質量%以上、より好ましくは1.3質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であって、4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下であることが望ましい。そして、正極合剤層中の導電助剤の含有量は、例えば、1質量%以上、より好ましくは1.1質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上であって、3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下であることが望ましい。
これは、正極合剤層中の活物質の割合が少ないと高容量化が達成できず、正極合剤層の密度も高くできないからであり、一方で多すぎると、抵抗が高くなったり、正極の形成性が損なわれる場合があるからである。また、正極合剤層中のバインダーの含有量が多すぎると高容量化が困難となり、少なすぎると集電体との密着性が低下し、電極の粉落ちなどの可能性が出てくるので上記の好適組成とすることが望ましい。更に、正極合剤層中の導電助剤の含有量は、多すぎると正極合剤層の密度を十分に高くし難く、高容量化が困難となることがあり、少なすぎると導電がうまく取れずに電池の充放電サイクル特性や負荷特性の低下につながるからである。
本発明の非水二次電池は、上記の正極を有していればよく、その他の構成要素や構造については特に制限は無く、従来公知の非水二次電池で採用されている各種構成要素や構造が適用できる。
負極に係る負極活物質としては、Liイオンをドープ・脱ドープできるものであればよく、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などの炭素材料が挙げられる。また、Si、Sn、Inなどの合金、またはLiに近い低電位で充放電できるSi、Snなどの酸化物、Li2.6Co0.4NなどのLiとCoの窒化物などの化合物も負極活物質として用いることができる。さらに、黒鉛の一部をLiと合金化し得る金属や酸化物などと置き換えることもできる。負極活物質として黒鉛を用いた場合には、満充電時の電圧をLi基準で約0.1Vとみなすことができるため、電池電圧に0.1Vを加えた電圧で正極の電位を便宜上計算することができることから、正極の充電電位が制御しやすく好ましい。
黒鉛の形態としては、例えば、002面の面間隔(d002 )が0.338nm以下であることが好ましい。これは、結晶性が高い方が負極(後記の負極合剤層)を高密度にし易いからである。しかし、d002が大きすぎると、高密度の負極では放電特性や負荷特性が低下する場合があるので、d002は、0.335nm以上であることが好ましく、0.3355nm以上であることが更に好ましい。
また、黒鉛のc軸方向の結晶子サイズ(Lc)については、70nm以上が好ましく、80nm以上がより好ましく、90nm以上が更に好ましい。これは、Lcが大きいほうが、充電カーブが平坦になり正極の電位を制御し易く、また、容量を大きくできるためである。他方、Lcが大きすぎると、高密度の負極では電池容量が低下する傾向があるので、Lcは200nm未満であることが好ましい。
更に、黒鉛の比表面積は、0.5m2/g以上であることが好ましく、1m2/g以上であることがより好ましく、2m2/g以上であることが更に好ましく、また、6m2/g以下であることが好ましく、5m2/g以下であることがより好ましい。黒鉛の比表面積がある程度大きくないと特性が低下する傾向にあり、他方、大きすぎると非水電解質との反応の影響が出易いためである。
負極に用いる黒鉛は、天然黒鉛を原料としたものであることが好ましく、表面結晶性の異なる2種以上の黒鉛を混合したものが、高容量化の点からより好ましい。天然黒鉛は安価かつ高容量であることから、これによりコストパフォーマンスの高い負極とすることができる。通常天然黒鉛は、負極の高密度化によって電池容量が低下し易いが、表面処理によって表面の結晶性が低下した黒鉛を混合して用いることで、電池容量の低下を小さくすることができる。
黒鉛の表面の結晶性はラマンスペクトル分析によって判断することができる。波長514.5nmのアルゴンレーザーで黒鉛を励起させた時のラマンスペクトルのR値〔R=I1350/I1580(1350cm−1付近のラマン強度と1580cm−1付近のラマン強度との比)]が0.01以上であれば、表面の結晶性は天然黒鉛に比べ若干低下しているといえる。よって、表面処理により表面の結晶性が低下した黒鉛としては、例えば、R値が、0.01以上、より好ましくは0.1以上であって、0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.15以下のものを使用することが好ましい。上記の表面の結晶性が低下した黒鉛の含有割合は、負極の高密度化のためには100質量%であることが好ましいが、電池容量の低下防止のためには、全黒鉛中の50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが特に好ましい。
また、黒鉛の平均粒子径は、小さすぎると不可逆容量が大きくなるので、5μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましく、18μm以上であることが更に好ましい。また、負極の高密度化の観点からは、黒鉛の平均粒子径は、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。
負極は、例えば、以下の方法で作製できる。上記負極活物質に、必要に応じてバインダーなどを加え、混合して負極合剤を調製し、それを溶剤に分散させてペーストにする。なお、バインダーは予め溶剤に溶解させておいてから負極活物質などと混合しておくのが好ましい。上記の負極合剤含有ペーストを銅箔などからなる負極集電体に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、加圧処理工程を経ることによって負極を得ることができる。なお、負極の作製方法は、上記の方法に限定される訳ではなく、他の方法を採用しても構わない。
なお、負極合剤層の密度(加圧処理工程後の密度)は、1.70g/cm3以上であることが好ましく、1.75g/cm3以上であることがより好ましい。黒鉛の理論密度から、負極合剤層の密度の上限は2.1〜2.2g/cm3であるが、非水電解質との親和性の観点からは、負極合剤層の密度は、2.0g/cm3以下であることがより好ましく、1.9g/cm3以下であることが更に好ましい。なお、上記の加圧処理工程においては、負極をより均一にプレスできることから、一回の加圧処理よりも、複数回の加圧処理を施すことが好ましい。
負極に用いるバインダーは特に限定されないが、活物質比率を高めて容量を大きくする観点から、使用量を極力少なくすることが好ましく、このような理由から、水に溶解または分散する性質を有する水系樹脂とゴム系樹脂との混合物が好適である。水系樹脂は少量でも黒鉛の分散に寄与し、ゴム系樹脂は電池の充放電サイクル時の電極の膨張・収縮による負極合剤層の集電体からの剥離を防止することができるからである。
水系樹脂としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエピクロルヒドリン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル系樹脂などが挙げられる。ゴム系樹脂としては、ラテックス、ブチルゴム、フッ素ゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ポリブタジエン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)などが挙げられる。例えば、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル化合物とスチレンブタジエンゴムなどのブタジエン共重合体系ゴムとを併用することが、上記黒鉛の分散や剥離防止の観点からより好ましい。カルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエン共重合体ゴムなどのブタジエン共重合体系ゴムとを併用することが特に好ましい。これは、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル化合物が、主として負極合剤含有ぺーストに対して増粘作用を発揮し、スチレン・ブタジエン共重合体ゴムなどのゴム系バインダーが、負極合剤に対して結着作用を発揮するからである。このように、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル化合物とスチレンブタジエンゴムなどのゴム系バインダーとを併用する場合、両者の比率としては質量比で1:1〜1:15が好ましい。
負極合剤層の厚みは、例えば、40〜200μmであることが好ましい。また、負極に用いる集電体の厚みは、例えば、5〜30μmであることが好ましい。
そして、負極合剤層においては、バインダーの含有量(複数種を併用する場合には、その合計量)は、1.5質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上であって、5質量%未満、より好ましくは3質量%未満、更に好ましくは2.5質量%未満であることが望ましい。負極合剤層中のバインダー量が多すぎると放電容量が低下することがあり、少なすぎると粒子同士の接着力が低下するからである。なお、負極合剤層における負極活物質の含有量は、例えば、95質量%を超え、98.5質量%以下であることが好ましい。
本発明の非水二次電池において、非水電解質としては、例えば、電気特性や取り扱い易さから、有機溶媒などの非水系溶媒にリチウム塩などの電解質塩を溶解させた非水溶媒系の電解液が好ましく用いられるが、ポリマー電解質、ゲル電解質であっても問題なく用いることができる。
非水電解液の溶媒としては特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピオンカーボネートなどの鎖状エステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの誘電率の高い環状エステル;鎖状エステルと環状エステルの混合溶媒;などが挙げられ、鎖状エステルを主溶媒とした環状エステルとの混合溶媒が特に適している。
また、溶媒としては、上記エステル以外にも、例えば、リン酸トリメチルなどの鎖状リン酸トリエステル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル類、ニトリル類、ジニトリル類、イソシアネート類、ハロゲン含有溶媒なども用いることができる。さらに、アミン系またはイミド系有機溶媒やスルホランなどのイオウ系有機溶媒なども用いることができる。
さらに、非水電解液には、非イオン性の芳香族化合物を含有させることが好ましい。具体的には、シクロヘキシルベンゼン、イソプロピルベンゼン、tーブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、オクチルベンゼン、トルエン、キシレンなどのように芳香環にアルキル基が結合した化合物;フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、クロロベンゼンなどのように芳香環にハロゲン基が結合した化合物;アニソール、フルオロアニソール、ジメトキシベンゼン、ジエトキシベンゼンなどのように芳香環にアルコキシ基が結合した化合物;フタル酸エステル(ジブチルフタレート、ジ-2−エチルヘキシルフタレートなど)、安息香酸エステルなどの芳香族カルボン酸エステル;メチルフェニルカーボネート、ブチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのフェニル基を有する炭酸エステル;プロピオン酸フェニル;ビフェニル;などを例示することができる。中でも、芳香環にアルキル基が結合した化合物が好ましく、シクロヘキシルベンゼンが特に好ましく用いられる。
これらの芳香族化合物は、電池内において正極または負極の活物質表面に皮膜を形成することのできる化合物である。これらの芳香族化合物は1種のみを単独で用いてもよいが、2種以上を併用することにより優れた効果が発揮され、特に、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、それより低い電位で酸化されるビフェニルなどの芳香族化合物とを併用することにより、電池の安全性向上において特に好ましい効果が得られる。
非水電解液に芳香族化合物を含有させる方法としては、特に限定はされないが、電池を組み立てる前に予め非水電解液に添加しておく方法が一般的である。
非水電解液中の上記芳香族化合物の好適含有量としては、例えば、安全性の点からは4質量%以上であり、負荷特性の点からは10質量%以下である。2種以上の芳香族化合物を併用する場合、その総量が上記範囲内であればよく、特に、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、それより低い電位で酸化される化合物とを併用する場合は、芳香環にアルキル基が結合した化合物の非水電解液における含有量は、0.5質量%以上、より好ましくは2質量%以上であって、8質量%以下、より好ましくは5質量%以下であることが望ましい。他方、上述した芳香環にアルキル基が結合した化合物より低い電位で酸化される化合物の非水電解液における含有量は、0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であって、1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下であることが望ましい。
さらに、非水電解液に、含ハロゲン炭酸エステルなどの有機ハロゲン系溶媒、有機イオウ系溶媒、含フッ素有機リチウム塩、含リン系有機溶媒、含ケイ素系有機溶媒、含窒素有機化合物などの少なくとも1種の化合物を添加することによって、電池の初期充電中に正極活物質の表面に表面保護皮膜を形成することができる。含フッ素炭酸エステルなどの有機フッ素系溶媒、有機イオウ系溶媒、含フッ素有機リチウム塩などが特に好ましく、具体的には、F−DPC[C2F5CH2O(C=O)OCH2 C2F5]、F−DEC[CF3CH2O(C=O)OCH2CF3]、HFE7100(C4F9OCH3)、ブチルサルフェート(C4H9OSO2OC4H9)、メチルエチレンサルフェート[ (−OCH(CH3)CH2O−)SO2]、ブチルスルフォン(C4H9SO2C4H9)、ポリマーイミド塩[〔−N(Li)SO2OCH2(CF2)4CH2OSO2−〕n(ただし、式中のnは2〜100)]、(C2F5SO2)2NLi、〔(CF3)2CHOSO2〕2NLiなどが挙げられる。
このような添加剤は、それぞれ単独で用いることができるが、有機フッ素系溶媒と含フッ素有機リチウム塩とを併用することが特に好ましい。その添加量は、非水電解液全量中、0.1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であって、30質量%以下、より好ましくは10質量%以下であることが望ましい。これは、添加量が多すぎると電気特性が低下する虞があり、少なすぎると良好な皮膜形成が難しくなるからである。
上記の添加剤を含有する非水電解液を有する電池を充電(特に高電圧充電)することにより、正極活物質表面にF(フッ素)またはS(硫黄)を含有する表面保護皮膜が形成される。この表面保護皮膜は、FまたはSを単独で含有するものであってもよいが、FとSの両者を含有する皮膜であることがより好ましい。
正極活物質の表面に形成される上記表面保護皮膜におけるSの原子比率は、0.5原子%以上であることが好ましく、1原子%以上であることがより好ましく、3原子%以上であることが更に好ましい。ただし、正極活物質の表面におけるSの原子比率が多すぎると、電池の放電特性が低下する傾向にあるので、そのS原子比率は、20原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であることが好ましく、6原子%以下であることが更に好ましい。また、正極活物質の表面に形成される上記表面保護皮膜におけるFの原子比率は、15原子%以上であることが好ましく、20原子%以上であることがより好ましく、25原子%以上であることが更に好ましい。ただし、正極活物質の表面におけるFの原子比率が多すぎると、電池の放電特性が低下する傾向にあるので、そのF原子比率は、50原子%以下であることが好ましく、40原子%以下であることが好ましく、30原子%以下であることが更に好ましい。なお、正極活物質における上記のFやSを含有する表面保護皮膜を、上記のように電池の充電により形成するのではなく、かかる表面保護皮膜を有する正極活物質(リチウム含有遷移金属酸化物粒子)を用いて正極(電池)を作製しても構わない。
また、電池の充放電サイクル特性改善のためには、非水電解液中に、(−OCH=CHO−)C=O、(−OCH=C(CH3)O−)C=O、(−OC(CH3)=C(CH3)O−)C=Oなどのビニレンカーボネートもしくはその誘導体、または(−OCH2−CHFO−)C=O、(−OCHF−CHFO−)C=Oなどのフッ素置換エチレンカーボネートの少なくとも1種を加えることが好ましい。その添加量としては、非水電解液全量中、0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であることが望ましい。なお、上記の添加剤の含有量が多すぎると、電池の負荷特性が低下する傾向にあるため、その非水電解液全量中の含有量は、10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下であることが望ましい。
非水電解液の調製にあたって溶媒に溶解させる電解質塩としては、例えば、LiClO4 、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(RfSO2)(Rf′SO2)、 LiC(RfSO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO2)2[ここでRfとRf′はフルオロアルキル基]などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記の電解質塩の中でも、炭素数2以上の含フッ素有機リチウム塩が特に好ましい。上記含フッ素有機リチウム塩はアニオン性が大きく、かつイオン分離しやすいので上記溶媒に溶解し易いからである。非水電解液中における電解質塩の濃度は特に限定されないが、例えば、0.3mol/l以上、より好ましくは0.4mol/l以上であって、1.7mol/l以下、より好ましくは1.5mol/l以下であることが望ましい。
本発明において、非水電解質としては、上記の非水電解液以外にも、ゲル状ポリマー電解質を用いることができる。そのようなゲル状ポリマー電解質は、上記非水電解液をゲル化剤によってゲル化したものに相当する。非水電解液のゲル化にあたっては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリルなどの直鎖状ポリマーまたはそれらのコポリマー;紫外線や電子線などの活性光線の照射によりポリマー化する多官能モノマー(例えば、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの四官能以上のアクリレートおよび上記アクリレートと同様の四官能以上のメタクリレートなど);などが用いられる。ただし、モノマーの場合、モノマーそのものが電解液をゲル化させるのではなく、上記モノマーをポリマー化したポリマーがゲル化剤として作用する。
上記のように多官能モノマーを用いて非水電解液をゲル化させる場合、必要であれば、重合開始剤として、例えば、ベンゾイル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、ベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイド類、アセトフェノン類、チオキサントン類、アントラキノン類などを使用することができ、さらに重合開始剤の増感剤としてアルキルアミン類、アミノエステルなども使用することもできる。
また、本発明においては、非水電解質として、上記非水電解液やゲル状ポリマー電解質以外に、固体電解質も用いることができる。その固体電解質としては、無機系固体電解質、有機系固体電解質のいずれも用いることができる。
本発明に係るセパレータは、引張強度に方向性を有し、かつ、絶縁性を良好に保ち、また、熱収縮を小さくする観点から、その厚みは、5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは12μm以上であって、25μm未満、より好ましくは20μm未満、更に好ましくは18μm未満であることが望ましい。また、セパレータの透気度は、例えば、500秒/100ml以下であることが好ましく、300秒/100ml以下であることがより好ましく、120秒/100ml以下であることが更に好ましい。なお、セパレータの透気度は、小さいほど負荷特性が向上するが、内部短絡を生じ易くなることから、その透気度は、50秒/100ml以上とすることが好ましい。セパレータのTD方向の熱収縮率は、小さいほど温度上昇時の内部短絡が発生し難くなるため、できるだけ熱収縮率の小さいセパレータを用いるのが好ましく、例えば、熱収縮率が10%以下であるものがより好ましく、5%以下であるものが更に好ましい。また、熱収縮を抑えるため、あらかじめ100〜125℃程度の温度で熱処理を施したセパレータを用いることが好ましい。このような熱収縮率のセパレータを本発明に係る正極材料と組み合わせて電池を構成することで、より高温での挙動が安定することから推奨される。
なお、セパレータのTD方向の熱収縮率は、30mm角のセパレータを105℃で8時間静置した場合の、TD方向において最大に収縮した部分の収縮率を意味している。
また、セパレータの強度は、MD方向の引張強度として、例えば、6.8×107N/m2以上であることが好ましく、9.8×107N/m2以上であることがより好ましい。また、TD方向の引張強度はMD方向に比べて小さいことが好ましく、例えば、MD方向の引張強度に対するTD方向の引張強度の比(TD方向引張強度/MD方向引張強度)が、0.95以下であることがより好ましく、0.9以下であることが更に好ましく、また、0.1以上であることがより好ましい。なお、TD方向とは、セパレータ製造におけるフィルム樹脂の引き取り方向(MD方向)と直交する方向のことである。
更に、セパレータの突き刺し強度は、2.0N以上であることが好ましく、2.5N以上であることがより好ましい。この値が高いほど、電池が短絡しにくくなる。ただし、その上限値は、通常はセパレータの構成材料によってほぼ決定され、例えば、ポリエチレン製のセパレータの場合は10N程度が上限値となる。
従来の非水二次電池では、正極電位がLi基準で4.35V以上の高い電圧で充電し、3.2Vよりも高い電圧終止で放電を行うと、正極活物質の結晶構造が崩壊して容量低下を引き起こしたり、熱安定性が低下して電池が発熱するなどの支障が生じ、実用性を欠いていた。例えば、MgやTiなどの異種元素を添加した正極活物質を用いても、安全性や充放電サイクルに伴う容量低下が軽減できるようにはなるが、未だ不十分である。また正極の充填性が不十分で電池の膨れが生じやすい。
これに対し、本発明は、上記構成の採用により、高容量特性、充放電サイクル特性、安全性および膨れ抑制の各効果を高めた非水二次電池であり、通常の充電電圧(電池電圧で4.2V)でも効果は得られるが、更にLi基準で正極を4.35V(電池電圧で4.25V)の高い電圧まで充電し、電池電圧で3.2V以上の高い電圧で放電を終了しても、正極活物質の結晶構造がより安定であり、容量低下や熱安定性の低下が抑制される。
また、従来の非水二次電池に係る正極活物質では、平均電圧が低いため、単電池の充電終止電圧がLi基準で4.35V以上の条件下で充放電サイクル試験を繰り返すと、正極が多量のLiイオンを出し入れする。これは、電池を過充電条件で充放電サイクル試験することと同じである。従って、このような苛酷な条件では、従来の正極活物質を用いると結晶構造を維持することができず、熱安定性が低下したり、充放電サイクル寿命が短いなどの不都合が生じていた。これに対し、本発明の電池に係る正極活物質を用いれば、そのような不都合が解消できるため、満充電時の正極電位が、Li基準電位で4.35〜4.6Vとなるような高電圧下でも可逆的に充放電が可能な非水二次電池を提供することができる。
本発明の非水二次電池は、上記のような高電圧、高容量で、かつ安全性が高いという特徴を生かして、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、ポケットパソコン、ノート型ワープロ、ポケットワープロ、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャ、ハンディターミナル、携帯コピー、電子手帳、電卓、液晶テレビ、電気シェーバー、電動工具、電子翻訳機、自動車電話、トランシーバ、音声入力機器、メモリカード、バックアップ電源、テープレコーダー、ラジオ、ヘッドフォンステレオ、携帯プリンタ、ハンディクリーナー、ポータブルCD、ビデオムービー、ナビゲーションシステムなどの機器用の電源や、冷蔵庫、エアコン、テレビ、ステレオ、温水器、オーブン電子レンジ、食器洗い器、洗濯機、乾燥機、ゲーム機器、照明機器、玩具、センサー機器、ロードコンディショナー、医療機器、自動車、電気自動車、ゴルフカート、電動カート、セキュリティシステム、電力貯蔵システムなどの電源として使用することができる。また、民生用途の他、宇宙用途にも用いることができる。特に、小形携帯機器では高容量化の効果が高くなり、重量3kg以下の携帯機器に使用することが望ましく、1kg以下の携帯機器に使用することがより望ましい。また携帯機器重量の下限については特に限定されないが、ある程度の効果を得るためには、電池の重量と同程度、たとえば10g以上であることが望ましい。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1
<正極の作製>
LiCo0.998Mg0.0008Ti0.0004Al0.0008O2[平均粒子径12μm、正極活物質(A)]とLiCo0.994Mg0.0024Ti0.0012Al0.0024O2[平均粒子径5μm、正極活物質(B)]を質量比65:35で混合したもの:97.3質量部、および導電助剤としての炭素材料:1.5質量部を、粉体供給装置である定量フィーダ内に投入し、また、10質量%濃度のポリフッ化ビニリデン(PVDF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液の投入量を調整し、混練時の固形分濃度が常に94質量%になるように調整した材料を、単位時間あたり所定の投入量になるように制御しつつ二軸混練押出機に投入して混練を行い、正極合剤含有ペーストを調製した。得られた正極合剤含有ペーストをプラネタリーミキサー内に投入し、10質量%濃度のPVDFのNMP溶液とNMPとを加えて希釈し、塗布可能な粘度に調整した。この希釈後の正極合剤含有ペーストを70メッシュの網を通過させて大きな含有物を取り除いた後、厚みが15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布し、乾燥して膜状の正極合剤層を形成した。乾燥後の正極合剤層の固形分比率は、正極活物質:導電助剤:PVDF質量比で97.3:1.5:1.2である。その後、加圧処理し、所定のサイズに切断後、アルミニウム製のリード体を溶接して、シート状の正極を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.8g/cm3である。
上記の正極について、Rigaku製X線回折装置「RINT2500VPC」を用いて、管球Cu、50kV、150mA、スキャン2°/分の条件で測定を行い、I006/I101値を求めた。結果を表1に示す。
<負極の作製>
負極活物質として黒鉛系炭素材料(A)[純度99.9%以上、平均粒子径18μm、002面の面間距離(d002)=0.3356nm、c軸方向の結晶子の大きさ(Lc)=100nm、R値(波長514.5nmのアルゴンレーザーで励起させた時のラマンスペクトルにおける1350cm−1付近のピーク強度と1580cm−1付近のピーク強度との比〔R=I1350/I1580〕)=0.18]:70質量部と、黒鉛系炭素材料(B)[純度99.9%以上、平均粒子径21μm、d002=0.3363nm、Lc=60nm、R値=0.11]:30質量部とを混合し、この混合物98質量部と、カルボキシメチルセルロース1質量部とスチレンブタジエンゴム1質量部とを、水の存在下で混合してスラリー状の負極合剤含有ぺーストを調製した。得られた負極合剤含有ぺーストを、厚みが10μmの銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、ローラーで負極合剤層の密度が1.75g/cm3になるまで加圧処理し、所定のサイズに切断後、ニッケル製のリード体を溶接して、シート状の負極を作製した。
<非水電解液の調製>
メチルエチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとを体積比1.5:0.5:1で混合した混合溶媒に、LiPF6を1.2mol/lの濃度になるように溶解し、これにフルオロベンゼン(FB)3質量%、ビフェニル(BP)0.2質量%、プロパンスルトン(PS)0.5質量%、C4F9OCH3(HFE)10質量%、ビニレンカーボネート(VC)3質量%を加えて非水電解液を調製した。
<非水二次電池の作製>
上記正極と負極を微孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータ[空孔率53%、MD方向引張強度:2.1×108N/m2、TD方向引張強度:0.28×108N/m2、厚さ16μm、透気度80秒/100ml、105℃×8時間後のTD方向の熱収縮率3%、突き刺し強度:3.5N(360g)]を介して渦巻状に巻回し、巻回構造の電極体にした後、角形の電池ケース内に挿入するために加圧して扁平状巻回構造の電極体にした。それをアルミニウム合金製で角形の電池ケース内に挿入し、正・負極リード体の溶接と蓋板の電池ケースへの開口端部へのレーザー溶接を行い、封口用蓋板に設けた注入口から上記の非水電解液を電池ケース内に注入し、非水電解液をセパレータなどに十分に浸透させた後、部分充電を行い、部分充電で発生したガスを排出後、注入口を封止して密閉状態にした。その後、充電、エイジングを行い、図1に示すような構造で図2に示すような外観を有し、幅が34.0mmで、厚みが4.0mmで、高さが50.0mmの角形の非水二次電池を得た。
ここで図1〜2に示す電池について説明すると、正極1と負極2は上記のようにセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状巻回構造の電極積層体6として、角形の電池ケース4に非水電解液と共に収容されている。ただし、図2では、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や電解液などは図示していない。
電池ケース4はアルミニウム合金製で電池の外装材の主要部分を構成するものであり、この電池ケース4は正極端子を兼ねている。そして、電池ケース4の底部にはポリテトラフルオロエチレンシートからなる絶縁体5が配置され、上記正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状巻回構造の電極積層体6からは、正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、電池ケース4の開口部を封口するアルミニウム製の蓋板9にはポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
そして、この蓋板9は上記電池ケース4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、電池ケース4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、図1の電池では、蓋板9に電解液注入口14が設けられており、この電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている(従って、図1および図2の電池では、実際には、電解液注入口14は、電解液注入口と封止部材であるが、説明を容易にするために、電解液注入口14として示している)。更に.蓋板9には、防爆ベント15が設けられている。
この実施例1の電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって電池ケース4と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、電池ケース4の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
図2は、図1に示す電池の外観を模式的に示す斜視図であり、この図2は上記電池が角形電池であることを示すことを目的として図示されたものであって、この図2では電池を概略的に示しており、電池構成部材のうち特定のものを示している。
実施例2
加圧処理の圧力を調整することにより加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)を4.0g/cm3としたこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。実施例1と同様にして求めた正極のI006/I101値を表1に示す。
実施例3
加圧処理の圧力を調整することにより加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)を3.6g/cm3としたこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。実施例1と同様にして求めた正極のI006/I101値を表1に示す。
実施例4
加圧処理の圧力を調整することにより加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)を3.5g/cm3としたこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。実施例1と同様にして求めた正極のI006/I101値を表1に示す。
実施例5
正極活物質を、LiCo0.9975Mg0.001Ti0.0005Al0.001O2(平均粒子径12μm)のみに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.9g/cm3であった。実施例1と同様にして求めた正極のI006/I101値を表1に示す。
実施例6
正極活物質を、LiCo0.9964Mg0.0024Ti0.0012O2(平均粒子径5μm)のみに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.5g/cm3であった。実施例1と同様にして求めた正極のI006/I101値を表1に示す。
実施例7
正極活物質(A)として平均粒子径12μmのLiCoO2を用い、正極活物質(B)としてLiCo0.9988Mg0.0008Ti0.0004O2(平均粒子径5μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.8g/cm3であった。実施例1と同様にして求めた正極のI006/I101値を表1に示す。
比較例1
正極活物質を、LiCoO2(平均粒子径12μm)のみに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.7g/cm3であった。実施例1と同様にして求めた正極のI006/I101値を表1に示す。
比較例2
正極活物質を、LiCoO2(平均粒子径5μm)のみに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.6g/cm3であった。実施例1と同様にして求めた正極のI006/I101値を表1に示す。
比較例3
加圧処理の圧力を調整することにより加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)を3.4g/cm3としたこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。実施例1と同様にして求めた正極のI006/I101値を表1に示す。
実施例1〜7および比較例1〜3の非水二次電池について、下記の特性評価を行った。結果を表2に示す。
<放電容量>
実施例1〜7および比較例1〜3の各電池について、0.2Cの定電流で4.4Vになるまで充電後、総充電時間が8時間となるまで4.4Vで定電圧充電し、続いて0.2Cで電池電圧が3.3Vまで定電流放電を行って、そのときの放電容量を求めた。なお、表2では、各電池について得られた放電容量を、比較例1の電池の放電容量を100としたときの相対値で示す。
<負荷特性>
実施例1〜7および比較例1〜3の各電池について、0.2Cの定電流で4.4Vになるまで充電後、総充電時間が8時間となるまで4.4Vで定電圧充電し、続いて2.0Cで電池電圧が3.3Vまで定電流放電を行って、そのときの放電容量を求めた。この放電容量を、上記の0.2Cで放電したときの放電容量で除した値を百分率で表して、電池の負荷特性とした。
<貯蔵特性>
実施例1〜7および比較例1〜3の各電池について、上記放電容量測定と同じ条件で充電し、貯蔵前の電池厚みを測定し、その後60℃の環境下に20日間貯蔵後、電池を常温になるまで静置し、貯蔵後の電池厚みを測定し、電池厚みの増加量(電池膨れ)を測定した。この値を比較例1の電池の厚み増加量を1として、膨れのレベルを指数で表した。例えば、これが0.5であれば比較例1の半分の膨れ量に抑制されていることを示す。
<安全性評価>
実施例1〜7および比較例1〜3の各電池について、上記放電容量評価の際の充電条件と同じ条件で充電を行い、その後150℃の恒温槽中で10分加熱し、そのときの各電池の最高温度(表面温度)を測定した。加熱後の電池の温度が低いほど、高温時の安全性に優れていることを意味している。
表1および表2から分かるように、正極におけるI006/I101値が良好な実施例1〜7の非水二次電池では、正極におけるI006/I101値が不適な比較例1〜3の非水二次電池に比べて、高容量で、負荷特性にも優れており、更に電池の貯蔵特性や安定性も優れている。