JP2009197382A - 短繊維不織布 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱接着処理する際の加工温度を低くすることができ、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少なく、地合や柔軟性、機械的特性にも優れる短繊維不織布を提供する。
【解決手段】融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維で構成される不織布であって、不織布を構成する短繊維同士を接着する成分として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を含有し、融点が100〜150℃のポリエステルAと、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつ流動開始温度(R)とポリエステルAの融点(Tm)とが下記式(1)を満足する非晶性のポリエステルBを含む短繊維不織布。(R−Tm)≦5(℃)・・・(1)
【選択図】図1

Description

本発明は、融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維を主体繊維とし、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルAと非晶性のポリエステルBとを接着成分とする、機械的特性(不織布強力)や地合、柔軟性に優れた短繊維不織布に関するものである。
合成繊維、特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野において、ポリエステル繊維が多く使用されている。
衛生材料等の分野において、バインダー繊維を用いて構成繊維を接着した短繊維不織布が種々提案されている。これらの短繊維不織布の多くはポリエステル系繊維からなるため、接着成分となるバインダー繊維もリサイクルの観点よりポリエステル系重合体からなる繊維を用いることが好適である。
例えば、このような短繊維不織布としては、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部とした芯鞘型複合短繊維をバインダー繊維とし、ポリエチレンテレフタレートからなる短繊維を主体繊維としたものが挙げられる。この短繊維不織布に用いるバインダー繊維は、高融点の芯部と低融点の鞘部とからなるため、熱接着処理の際に、鞘部のみが溶融して接着成分となり、芯部は溶融せずに繊維形態を保持するものである。
しかしながら、接着成分となるイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体は、非晶性であり明確な結晶融点を示さないため、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まる。このため、高温雰囲気下で使用した場合、接着強力が低下したり変形するという問題があり、また、このバインダー繊維は熱接着処理の際に収縮し、得られる短繊維不織布は地合が悪く、柔軟性にも乏しくなるという問題があった。
上記問題を解決するものとして、特許文献1に芯鞘型の複合繊維が記載されている。この繊維は、芯部にポリエチレンテレフタレートを配し、鞘部にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分を共重合したポリエステル系共重合体を配した芯鞘型複合繊維である。
この複合繊維の鞘部のポリエステル系共重合体は、熱処理により溶融して接着成分となるものであるが、結晶性であり明確な融点を示すものである。このため、この複合繊維をバインダー繊維として使用した不織布は、高温雰囲気下で使用した際の接着強力の低下が小さく、耐久性に優れたものとすることができる。
しかしながら、このポリエステル系共重合体は、融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、不織布とする際に熱接着処理して接着成分とする際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
特開2006−118066号公報
本発明は上記の問題点を解決するものであって、熱接着処理する際の加工温度を低くすることができ、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少なく、機械的特性や地合、柔軟性に優れる短繊維不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維で構成される不織布であって、不織布を構成する短繊維同士を接着する成分として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃のポリエステルAと、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつ流動開始温度(R)とポリエステルAの融点(Tm)とが下記式(1)を満足する非晶性のポリエステルBを含むことを特徴とする短繊維不織布を要旨とするものである。
(R−Tm)≦5(℃) ・・・ (1)
本発明の短繊維不織布は、融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維で構成される不織布であり、接着成分として低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルAと非晶性のポリエステルBとを用いるものであるため、両成分を溶融させて主体繊維を熱接着処理する際の加工温度を低くすることができる。そして、接着成分のポリエステルAは結晶性に優れるため、本発明の短繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少なく、耐久性に優れたものとなる。そして、非晶性のポリエステルBは、溶融すると流動性が低いものとなり、一方、ポリエステルAは結晶性ポリマーのため溶融すると流動性が高いものとなり、この2種類のポリエステルを組み合わせることで、適度な流動特性を有し、強固な接着力を有するものとなり、主体繊維同士の接着を強固にすることが可能となる。
また、主体繊維は、融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維であるため、本発明の短繊維不織布は機械的特性に優れたものとなる。
中でも、本発明の短繊維不織布を、単糸の横断面形状において、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状を呈しているポリエステル複合短繊維をバインダー繊維、融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維を主体繊維として含有するウエブを作成し、これを熱接着処理することにより得られたものとすると、バインダー繊維のポリエステルA、B成分ともに溶融して接着成分となり、これらの接着成分が不織布の厚み方向に均一に分布し、主体繊維を均一かつ十分に接着するため、機械的特性(不織布強力)に優れ、さらには表面の毛羽の発生も少ないものとなる。
したがって、本発明の短繊維不織布は、衣料用やクッション材等の産業資材やインテリア用途、衛生材料用途等、各種の用途に好適に使用することが可能となる。
本発明の短繊維不織布において接着成分となるポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の短繊維不織布は、融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維で構成されているものであり、つまり、融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維を主体繊維とするものである。そして主体繊維となる短繊維同士を接着する成分として、以下に詳述するポリエステルAと非晶性のポリエステルBを用いるものである。
なお、本発明の短繊維不織布は、乾式短繊維不織布、湿式短繊維不織布のいずれでもよく、目付けも特に限定するものではない。
まず、本発明の短繊維不織布を構成する融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維について説明する。融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルとしては、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルのいずれであってもよい。
芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。そして、融点又は流動開始温度を150℃以上とできる範囲であれば、次に示すような成分を共重合させたものであってもよい。
共重合成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が挙げられる。
比較的低融点の芳香族ポリエステルとする場合には、結晶性に優れる点から、テレフタル酸(TPA)成分、エチレングリコール(EG)成分を含有し、ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルを用いることが好ましい。
次に、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリー3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシブチレートバリレート等及びこれらのブレンド物が挙げられる。
脂肪族ポリエステルの中で最も融点が高いのはポリ乳酸であり、このため本発明では、脂肪族ポリエステルとしてはポリ乳酸を用いることが好ましい。
ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体を用いることができる。
そして、ポリ乳酸は、上記のようにL−乳酸やD−乳酸を単独で用いる場合、融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。
そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが、95/5以上のものが好ましく、さらには97/3以上とすることが好ましい。
また、ポリ乳酸の中でも、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)は、融点が200〜230℃と高く、高温雰囲気下での耐久性も高くなり、特に好ましい。
上記したような芳香族ポリエステル又は脂肪族ポリエステルは、融点又は流動開始温度が150℃以上のものであり、中でも160℃以上、さらには200℃以上であることが好ましい。
本発明の短繊維不織布は、機械的特性に優れ、高温雰囲気下中で使用した際にも耐久性に優れるものとするため、短繊維不織布の主体繊維を構成するポリエステル繊維の融点又は流動開始温度を150℃以上とするものである。融点又は流動開始温度が150℃未満であると、耐熱性に劣り、上記のような効果を奏することができなくなる。
また、短繊維不織布の主体繊維を構成するこれらの芳香族ポリエステル又は脂肪族ポリエステル中には、その効果を損なわない範囲で、熱安定剤、結晶核剤、艶消し剤、顔料、耐光剤、耐候剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、表面改質剤、各種無機及び有機電界質、微粉体、難燃剤等の各種添加剤を添加することができる。
次に、短繊維不織布を構成する主体繊維同士を接着する成分となるポリエステルAについて詳述する。ポリエステルAは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、融点(Tm)が100〜150℃の共重合ポリエステルである。
ポリエステルAのTmは、中でも110〜140℃であることが好ましい。Tmが100℃未満であると、本発明の短繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、150℃を超えると、不織布を得る際の熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱接着処理により主体繊維に与えるダメージも大きくなり、得られる不織布の機械的特性や風合い等を損ねるため好ましくない。
ポリエステルAは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とするものであり、テレフタル酸(以下、TPAとする)は60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が50モル%以上であり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは50モル%以上であり、中でも60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、中でも5〜40モル%とすることが好ましい。
さらに、ジオール成分には、HD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
そして、ポリエステルAは、上記のような共重合組成であることにより、結晶性を有しているものであるが、結晶核剤を含有することによって降温時の結晶化速度を向上させることができ、後述する(2)式を満足することが好ましいものである。
ポリエステルAは、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有するものであり、中でも0.5〜3.0質量%含有することが好ましい。ポリエステルA中の結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、ポリエステルAは後述する(2)式を満足することが困難となる。一方、5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、不織布化する際の各種の工程において操業性を悪化させることとなる。また、ポリエステルAを用いて繊維化する際の紡糸、延伸時の操業性が悪化し、糸質のバラツキが大きくなり、得られる短繊維や不織布の品位も低下するものとなる。
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、ポリエステルAは後述する(2)式を満足することが困難となりやすい。
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
これらの結晶核剤を添加する方法としては、粉体のまま、あるいはジオールスラリーの形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。中でも、結晶核剤としての効果を良好なものとするには、エチレングリコール等のグリコールにスラリー状態あるいは溶解させた状態で添加することが好ましい。
また、ポリエステルA中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
そして、ポリエステルAは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記(2)式を満足することが好ましく、中でもb/a≧0.06であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶化速度が速く、結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) (2)
本発明におけるポリエステルAの融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量(接着成分)2mgで測定する。
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。そして、図1に示すように、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。ポリエステルAはこのように結晶性に優れるものであるため、流動性が高く、不織布全体に浸透し、不織布を構成する短繊維同士の多くの交点を接着することができ、得られる短繊維不織布は接着強力に優れるものとなる。さらに、高温雰囲気下で使用する際にも接着強力の低下が生じにくく、得られる短繊維不織布は後述する強力保持率を満足するものとなり、耐久性に優れるものとなる。
b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、ポリエステルAの結晶化速度が遅くなり、上記のような効果を奏することが困難となる。また、ポリエステルAを使用した繊維を溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生し、紡糸操業性が悪くなる。さらには、延伸・熱処理工程における熱処理温度を高くすると、繊維の融解・膠着が生じ、高温での熱処理を行うことができないため熱収縮率の低い繊維を得ることが困難となる。
上記したように、b/aは、ポリエステルの共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
次にポリエステルBについて説明する。ポリエステルBは、非晶性のポリエステルであり、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつポリエステルBの流動開始温度(R)とポリエステルAの融点(Tm)とが下記式(1)を満足するものである。
(R−Tm)≦5(℃) ・・・ (1)
本発明の短繊維不織布においては、ポリエステルA、ポリエステルBともに熱接着処理により溶融させて接着成分とするために、ポリエステルBの流動開始温度は、ポリエステルAの融点より高くても5℃以下とすることが必要であり、中でもポリエステルAの融点より低いことが好ましい。
また、ポリエステルBの流動開始温度は、105〜155℃であるが、中でも110〜140℃、さらには110〜130℃であることが好ましい。
ポリエステルBの流動開始温度が105℃未満であると、本発明の短繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、155℃を超えると、不織布を得る際の熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱接着処理により主体繊維に与えるダメージも大きくなり、得られる不織布の機械的特性や風合い等を損ねるため好ましくない。
ポリエステルBとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。そして、上記の流動開始温度のものとするため、次に示すような成分を共重合させたものとすることが好ましい。
共重合成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が挙げられる。
中でもポリエステルBとしては、イソフタル酸を共重合したPETを用いることが好ましく、中でもイソフタル酸を25〜40モル%共重合したものが好ましい。イソフタル酸の共重合量が25モル%未満であると、流動開始温度が高くなり155℃を超えるものとなりやすい。一方、40モル%を超えると、流動開始温度が低くなり105℃未満のものとなりやすい。
ポリエステルB中にも、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
また、本発明の短繊維不織布における接着成分として、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリエステルA、ポリエステルB以外の接着成分を含有していてもよい。そして、接着成分の割合は、短繊維不織布全体の10〜80質量%であることが好ましく、中でも15〜70質量%であることが好ましい。接着成分の割合が少なすぎると、主体繊維同士を十分に接着することができなくなり、不織布強力に劣るものとなりやすい。一方、接着成分の割合が多すぎると、主体繊維が少なくなることから、耐熱性、耐久性、風合に劣る不織布となりやすい。
さらに、本発明においては、ポリエステルAとポリエステルBを用いて繊維化してバインダー繊維とすることが好ましい。ポリエステルAとポリエステルBを用いたバインダー繊維としては、単糸の横断面形状において、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状を呈しているポリエステル複合短繊維とすることが好ましい。
なお、このような芯鞘形状としては、芯部を複数有するものであってもよく、複数の芯部を有する場合は、芯部の数を2〜10個とすることが好ましい。
そして、本発明の短繊維不織布は、このような複合短繊維と主体繊維となる融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維とを含有するウエブを熱処理することにより得られるものであることが好ましい。
ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維をバインダー繊維とし、主体繊維とウエブを形成することによって、より多くの主体繊維同士の交点を接着することが可能となり、接着強力に優れるものとなる。また、ウエブ中の主体繊維同士の絡みに空間が多くなることから、柔軟性や風合にも優れたものとなる。
また、ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維は、結晶性に優れるポリエステルAが繊維表面を占めるように配されているので、溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生せず、延伸、熱処理を高温で施すことができ、熱収縮率の低い繊維とすることができる。
具体的に、ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維は、ポリエステルAの融点をTmAとしたとき、(TmA−30)℃における乾熱収縮率が7%以下であることが好ましく、中でも6%以下であることが好ましく、さらには5%以下であることが好ましい。
ここで、乾熱収縮率とは、JIS L−1015の収縮率の測定における乾熱収縮率の測定方法により測定するものであり、初荷重を50mg/デシテックス、つかみ間隔を25mm、処理温度を(TmA−30)℃として測定するものである。なお、繊維長が短くて測定が困難である場合は、短繊維にカットする前の繊維を用いて測定するものとする。
(TmA−30)℃における乾熱収縮率を7%以下とすることで、ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維をバインダー繊維として不織布を製造する際に、ウエブ等を熱処理する際の収縮が小さくなり、熱処理後に得られる不織布は、地合や均斉、接着性にも優れるものとなる。一方、(TmA−30)℃における乾熱収縮率が7%を超えるものでは、このような効果を奏することが困難となりやすい。
ポリエステルBのような明確な結晶融点を示さないポリエステルのみからなる短繊維としたり、ポリエステルBを繊維表面に配した形状の短繊維とすると、延伸、熱処理工程において熱処理温度を100℃以上とすると、繊維の融解、膠着が生じ、実施が困難となる。したがって、延伸、熱処理工程を低温で行うこととなり、得られる短繊維は乾熱収縮率が高くなる。このため、このような短繊維をバインダー繊維として不織布を製造すると、ウエブを熱接着処理する際の収縮が大きくなり、得られる不織布は熱接着処理前のウエブの面積と比較したウエブ収縮率が大きくなり、地合や均斉に劣るものとなりやすい。
なお、上記した本発明における短繊維不織布のウエブ収縮率は、次のようにして求めるものである。短繊維不織布を得る際に得られたウエブから、面積A0(タテ20cm×ヨコ20cm=400cm)のサンプルを切り取り、ポリエステルAの融点をTmAとしたとき、このサンプルを(TmA+10)℃に設定した熱風乾燥機中に15分間放置し(熱接着処理を行い)、その後の不織布の面積をA1とし、下式により算出するものである。
ウエブ収縮率(%)={(A0−A1)/A0}×100
そして、本発明の短繊維不織布においては、ウエブ収縮率は12%以下、中でも10%以下、さらには8%以下であることが好ましい。ウエブ収縮率が12%を超えるものでは、不織布とする際の熱接着処理時の収縮が大きくなり、得られる不織布は地合や柔軟性に劣るものとなりやすい。
さらに、本発明の短繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少ないものであり、その指標として、70℃の雰囲気下、処理時間200時間の高温処理前後の不織布強力を比較した強力保持率が70%以上であることが好ましい。
なお、強力保持率(%)は、〔高温処理後の不織布強力(N)/高温処理前の不織布強力(N)〕×100で算出するものである。
不織布強力は、JIS L 1096 8.12の引張強さ及び伸び率 標準時A法(ストリップ法)により引張強さ(N)を測定するものである。カットストリップ法により試験片の幅5.0cmとし、定速伸長形試験機を用い、試験条件をつかみ間隔20cm、引張速度20cm/分とする。
また、高温処理前の不織布強力は25℃雰囲気下で測定するものである。高温処理は70℃雰囲気下、無荷重状態で試験片を200時間載置して行うものであり、高温処理後の強力は200時間経過後、70℃雰囲気下で高温処理前と同様にして不織布強力を測定するものである。
強力保持率が70%未満であると、製品にした後に高温雰囲気下で使用すると、不織布が変形したり、強力の低下が生じ、耐久性に劣ったものとなりやすい。本発明の短繊維不織布における強力保持率は、中でも80%以上であることが好ましい。また、高温処理前の不織布強力(25℃雰囲気下で測定したもの)は100N以上であることが好ましく、中でも120N以上であることが好ましい。
そして、本発明の短繊維不織布を乾式短繊維不織布とする際には、主体繊維、バインダー繊維ともに、繊維長を25〜100mmとすることが好ましく、中でも30〜80mmとすることが好ましい。また、本発明の不織布を湿式短繊維不織布とする際には、主体繊維、バインダー繊維ともに、繊維長を1〜30mmとすることが好ましく、中でも3〜20mmとすることが好ましい。
乾式短繊維不織布とする際に、主体繊維とバインダー繊維の繊維長が25mm未満であると、カード機での解繊時に繊維の脱落が生じるため、操業性が悪化する。一方、繊維長が100mmを超えると、カード機での解繊性が悪くなり、得られる不織布は地合や均斉の劣るものとなる。また、湿式短繊維不織布とする際のこれらの繊維の繊維長が1mm未満であると、切断時の熱によって繊維の溶着や膠着が生じる。一方、繊維長が30mmを超えると、抄紙機でウエブを得る際に繊維塊が生じやすくなり、得られる不織布は地合や均斉の劣るものとなる。
また、主体繊維、バインダー繊維ともに単糸繊度は1〜15dtexであることが好ましく、両繊維ともに乾式短繊維不織布を得る際には、機械捲縮が付与されたものとすることが好ましく、湿式短繊維不織布を得る際には、機械捲縮の付与されていないものとすることが好ましい。
本発明の短繊維不織布は、結晶性に優れるポリエステルAと非晶性のポリエステルBを接着成分としているものであるため、非晶性のポリエステルBは、熱接着処理により溶融すると流動性が低いものとなり、ポリエステルAは結晶性ポリマーのため溶融すると流動性が高いものとなり、この2種類のポリエステルを用いることで、適度な流動特性を有し、不織布を構成する主体繊維同士の交絡部を十分かつ均一に接着することができ、機械的特性(不織布強力)に優れる不織布を得ることができる。
さらには接着成分の流動特性が適度であるため、熱接着処理時に不織布の下面(裏面)に接着成分が多くなって金網上に接着するという問題が生じることがなく、また、不織布の上面(表面)に接着成分が少なくなって表面毛羽が生じるという問題も生じないものとなる。
次に、ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維をバインダー繊維として用いた場合の本発明の短繊維不織布の製造方法について一例を用いて説明する。
まず、本発明の短繊維不織布を乾式短繊維不織布とする場合、PETからなる短繊維を主体繊維とし、ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維をバインダー繊維とし、バインダー繊維と主体繊維を任意の割合で計量し、カード機を用いて混綿、解繊して乾式ウエブを作成する。得られたウエブを連続熱処理機にてポリエステルAの融点(Tm)+10℃の温度で熱接着処理を施し、バインダー繊維のポリエステルAとポリエステルBを溶融させることにより接着成分とし、主体繊維を接着一体化させた乾式短繊維不織布を得る。
次に、本発明の短繊維不織布を湿式短繊維不織布とする場合、PETからなる短繊維を主体繊維とし、ポリエステルAを鞘部、ポリエステルBを芯部とする複合短繊維をバインダー繊維とし、バインダー繊維と主体繊維を任意の割合で計量し、パルプ離解機に投入し、攪拌(混綿、解繊)する。得られた試料を抄紙機にて湿式不織ウエブを作成する。この湿式不織ウエブをプレス機にて余分な水分を脱水した後、ポリエステルAの融点(Tm)+10℃の温度で熱接着処理を施し、バインダー繊維のポリエステルAとポリエステルBを溶融することにより接着成分とし、主体繊維を接着一体化させた湿式短繊維不織布を得る。
また、本発明の短繊維不織布においてバインダー繊維とするポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維の製造方法について一例を用いて説明する。
まず、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させ、結晶核剤を添加して重縮合反応を行う。重縮合反応においてポリエステルが所定の極限粘度に到達したら、ストランド状に払い出して、冷却、カットすることによりチップ化する。次に、このチップ(ポリエステルA)とポリエステルBのチップを通常の複合溶融紡糸装置に供給して、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となるようにして溶融紡糸を行う。紡出糸条を冷却固化した後、一旦容器へ収納する。そして、この糸条を集束して糸条束とし、ローラ間で延伸倍率2〜4倍程度で延伸を施す。続いて100〜120℃で熱処理し、スタフィングボックス等で機械捲縮を付与し、次いで仕上げ油剤を付与した後に目的とする繊維長にカットして複合短繊維を得る。
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a) 無機系微粒子の平均粒径
島津社製粒度分布測定装置(SALD-2000)を用いて、エチレングリコール中の試料の平均粒径の値を測定した。
(b) 無機系微粒子の比表面積
BET法により測定した。
(c)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(d)ポリエステルAの融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(e)ポリエステルB、主体繊維を構成するポリエステルの流動開始温度
フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重9.8MPa、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度として求めた。
(f)主体繊維を構成するポリエステルの融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を用い、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の極値を与える温度を融点とした。
(g)ポリエステルA、ポリエステルBのポリマー組成
得られたポリエステル複合短繊維を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(h)紡糸操業性
紡糸の状況により下記の2段階で評価した。
○:紡糸時の切れ糸回数が1回/トン以下であり、単糸間での溶着がない。
×:紡糸時の切れ糸回数が1回/トンを超えるか、単糸間での溶着の発生がある。
(i)ポリエステル複合短繊維の乾熱収縮率(%)
前記の方法で測定した。
(j)不織布の評価
1.地合
得られた不織布表面の地合を目視、触感にて3段階(優れているものを○とし、○、△、×の3段階)で評価した。
2.柔軟性(風合)
得られた不織布の柔軟性を触感にて判断し、良好(○)、不良(×)の2段階で評価した。
3.ウエブ収縮率
前記の方法で測定した。
4.不織布強力、強力保持率
前記の方法で測定、算出した。
実施例1
(バインダー繊維)
ポリエステルAとして、酸性分としてTPA、グリコール成分としてEG15mol%、HD85mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.95、融点128℃、b/aが0.06のものを用いた。
ポリエステルBとして表1のaのポリエステルを用いた。
ポリエステルAチップとポリエステルBチップを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となるようにし、両成分の質量比を50/50として溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度220℃、吐出量600g/分、紡糸孔数1014、紡糸速度800m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を18℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束して11万dtexのトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率3.75倍、延伸温度50℃で延伸を行い、この後、ヒートドラム(温度110℃)で熱処理を施した。次いで、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2dtexのポリエステル複合短繊維を得た。
(主体繊維)
極限粘度0.68、融点256℃のPETをチップ化して溶融紡糸装置に供給し、常法にて溶融紡糸、延伸、熱処理を行い、仕上げ油剤を付与した後、押し込み式クリンパーで捲縮を付与し、繊維長51mmにカットして単糸繊度2.2デシテックス、強度5.5cN/dtex、伸度40%、170℃、15分での乾熱収縮率が3.0%のポリエステル短繊維を得た。
(乾式短繊維不織布)
バインダー繊維と主体繊維の混合割合を質量比30/70(バインダー繊維/主体繊維)でカード機を通し、乾式ウエブを作成した。得られた乾式ウエブを温度138℃、風量20m/分の連続熱処理機で1分間の熱接着処理を行い、バインダー繊維のポリエステルA、ポリエステルBのほとんどを溶融させて接着成分とし、目付100g/mの乾式短繊維不織布を得た。
実施例2〜3、比較例1〜2
ポリエステルA中の結晶核剤(タルク)の含有量を表2に示す量とした以外は、実施例1と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
実施例4
ポリエステルBとして、表1のbのポリエステルを使用したこと以外は実施例1と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
実施例5
ポリエステルBとして、表1のcのポリエステルを使用したこと以外は実施例1と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
実施例6
ポリエステルAとして、酸性分としてTPA、グリコール成分として1,4−ブタンジオール(BD)20mol%、HD80mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.98、融点130℃、b/aが0.11のものを用いた。
ポリエステルBとして表1のaのポリエステルを用い、実施例1と同様にしてポリエステル複合短繊維を得た。そして、主体繊維として実施例1で用いたものと同じポリエステル短繊維を用い、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
実施例7〜8、比較例5〜6
ポリエステルA中の結晶核剤(タルク)の含有量を表2に示す量とした以外は、実施例6と同様にしてポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例6と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
実施例9
ポリエステルBとして、表1のbのポリエステルを使用したこと以外は実施例6と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例6と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
実施例10
ポリエステルBとして、表1のcのポリエステルを使用したこと以外は実施例6と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例6と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
比較例3〜4
ポリエステルBとして、表1のd、eのポリエステルを使用したこと以外は実施例1と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
比較例7〜8
ポリエステルBとして、表1のd、eのポリエステルを使用したこと以外は実施例6と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例6と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
比較例9
実施例1で用いたポリエステルAのみを用い、ポリエステルAチップを紡糸装置に供給し、紡糸温度230℃、吐出量307g/分、紡糸孔数518、紡糸速度850m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を18℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束して11万dtexのトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率3.17倍、延伸温度40℃で延伸を行い、この後、ヒートドラム(温度110℃)で熱処理を施した。次いで、押し込み式クリンパーで捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2デシテックスのポリエステル短繊維を得た。
得られたポリエステル短繊維をバインダー繊維に用いて、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
比較例10
実施例6で用いたポリエステルAのみを用いたこと以外は、比較例9と同様にして溶融紡糸、延伸を行い、ポリエステル短繊維を得た。
得られたポリエステル短繊維をバインダー繊維に用いて、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
実施例1〜10、比較例1〜10で得られたポリエステル複合短繊維の特性値、得られた乾式短繊維不織布の特性値及び評価結果を表2に示す。
表2から明らかなように、実施例1〜10の乾式短繊維不織布は、融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維を主体繊維とするものであり、接着成分が結晶性に優れたポリエステルAと非晶性のポリエステルBであったため、不織布強力が高く、高温処理後の強力保持率も高く、耐久性に優れるものであった。また、ポリエステルAとポリエステルBを繊維化してバインダー繊維としたものであったため、バインダー繊維は乾熱収縮率が低く、不織布を得る際の熱接着処理における収縮が小さく、ウエブ収縮率も低いものとなり、得られた乾式短繊維不織布は、柔軟性、地合ともに優れたものであった。
一方、比較例1、5では、ポリエステルA中の結晶核剤の含有量が多かったため、紡糸時に切れ糸が発生し、また、比較例2、6ではポリエステルA中の結晶核剤の含有量が少なすぎたため、結晶化速度が遅くなり、紡糸時に単糸間の融着や切れ糸が発生し、いずれも操業性が悪く、得られたポリエステル複合短繊維は糸質のばらつきが大きく乾熱収縮率が高いものであった。このため得られた乾式短繊維不織布は、ウエブ収縮率が高く、地合、柔軟性に劣り、強力保持率の低いものであった。比較例3、7では、ポリエステルBとして流動開始温度が180℃のものを用いたため、不織布とする際の熱接着処理において溶融せず、ポリエステルBも主体繊維とともに不織布を構成する繊維となり、得られた不織布は柔軟性に乏しいものとなった。比較例4、8では、ポリエステルBの流動開始温度が90℃であったため、いずれもポリエステル複合短繊維を得る際のヒートドラム温度を実施例1や6と同様の温度では熱処理できず、ヒートドラム温度を80℃としたため、得られたポリエステル複合短繊維は乾熱収縮率の大きいものとなった。このため、不織布を得る際のウエブ収縮率が大きく、得られた乾式短繊維不織布は地合、柔軟性、強力保持率ともに劣るものであった。比較例9、10では、バインダー繊維をポリエステルAのみからなる繊維としたため、接着時の効果として非晶性のポリエステルBとの相乗効果が得られず、得られた乾式短繊維不織布は不織布強力の低いものとなった。
実施例11
(バインダー繊維)
実施例1と同様のポリエステルA、ポリエステルBを用い、実施例1と同様にして溶融紡糸、延伸、熱処理を行い、仕上げ油剤を付与した後、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与せずに、繊維長5mmにカットして単糸繊度2.2デシテックスのポリエステル複合短繊維を得た。
(主体繊維)
実施例1と同様のPETを用いて、実施例1と同様にして溶融紡糸、延伸、熱処理を行い、仕上げ油剤を付与した後、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与せず、繊維長を5mmにカットし、ポリエステル短繊維を得た。
(湿式短繊維不織布)
バインダー繊維と主体繊維の混合割合を質量比30/70(バインダー繊維/主体繊維)で混合し、パルプ離解機(熊谷理機工業製)に投入し、3000rpmにて1分間撹拌した。その後、得られた試料を抄紙機(熊谷理機工業製角型シートマシン)にて湿式短繊維不織布ウエブとした。抄紙した湿式短繊維不織布ウエブを、プレス機(熊谷理機工業製)にて余分な水分を脱水した後、表面温度140℃、熱処理時間100秒、プレス線圧0.1MPaの条件の回転乾燥機(熊谷理機工業製:卓上型ヤンキードライヤー)にて熱処理し、バインダー繊維のポリエステルA、ポリエステルBのほとんどを溶融させて接着成分とし、目付40g/m の湿式短繊維不織布を得た。
実施例12〜13、比較例11〜12
ポリエステルA中の結晶核剤(タルク)の含有量を表3に示す量とした以外は、実施例11と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例11と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例14
ポリエステルBとして、表1のbのポリエステルを使用したこと以外は実施例11と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例11と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例15
ポリエステルBとして、表1のcのポリエステルを使用したこと以外は実施例11と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例11と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例16
バインダー繊維として、実施例6と同様のポリエステルA、ポリエステルBを用い、実施例6と同様にして溶融紡糸、延伸、熱処理を行い、仕上げ油剤を付与した後、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与せずに、繊維長5mmにカットして単糸繊度2.2デシテックスのポリエステル複合短繊維を得た。
主体繊維として、実施例11で用いたものと同じポリエステル短繊維を用い、実施例11と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例17〜18、比較例15〜16
ポリエステルA中の結晶核剤(タルク)の含有量を表3に示す量とした以外は、実施例16と同様にしてポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例16と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例19
ポリエステルBとして、表1のbのポリエステルを使用したこと以外は実施例16と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例16と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例20
ポリエステルBとして、表1のcのポリエステルを使用したこと以外は実施例16と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例16と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
比較例13〜14
ポリエステルBとして、表1のd、eのポリエステルを使用したこと以外は実施例11と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例11と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
比較例17〜18
ポリエステルBとして、表1のd、eのポリエステルを使用したこと以外は実施例16と同様にポリエステル複合短繊維を得た。さらに、実施例16と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
比較例19
実施例1で用いたポリエステルAのみを用い、ポリエステルAチップを紡糸装置に供給し、紡糸温度230℃、吐出量307g/分、紡糸孔数518、紡糸速度850m/分の条件で紡糸した。
次いで、紡出糸条を18℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。この未延伸糸を集束して11万dtexのトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率3.17倍、延伸温度40℃で延伸を行い、この後、ヒートドラム(温度110℃)で熱処理を施した。次いで、押し込み式クリンパーで捲縮を付与せずに、繊維長5mmに切断して単糸繊度2.2デシテックスのポリエステル短繊維を得た。
得られたポリエステル短繊維をバインダー繊維に用いて、実施例11と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
比較例20
実施例6で用いたポリエステルAのみを用いたこと以外は、比較例19と同様にして溶融紡糸、延伸を行い、ポリエステル短繊維を得た。
得られたポリエステル短繊維をバインダー繊維に用いて、実施例11と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例11〜20、比較例11〜20で得られたポリエステル複合短繊維の特性値、得られた湿式短繊維不織布の特性値及び評価結果を表3に示す。
表3から明らかなように、実施例11〜20の湿式短繊維不織布は、融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維を主体繊維とするものであり、接着成分が結晶性に優れたポリエステルAと非晶性のポリエステルBであったため、不織布強力が高く、高温処理後の強力保持率も高く、耐久性に優れるものであった。また、ポリエステルAとポリエステルBを繊維化してバインダー繊維としたものであったため、バインダー繊維は乾熱収縮率が低く、不織布を得る際の熱接着処理における収縮が小さく、ウエブ収縮率も低いものとなり、得られた湿式短繊維不織布は、柔軟性、地合ともに優れたものであった。
一方、比較例11、15では、ポリエステルA中の結晶核剤の含有量が多かったため、紡糸時に切れ糸が発生し、また、比較例12、16ではポリエステルA中の結晶核剤の含有量が少なすぎたため、結晶化速度が遅くなり、紡糸時に単糸間の融着や切れ糸が発生し、いずれも操業性が悪く、得られたポリエステル複合短繊維は糸質のばらつきが大きく乾熱収縮率が高いものであった。このため得られた湿式短繊維不織布は、ウエブ収縮率が高く、地合、柔軟性に劣り、強力保持率の低いものであった。比較例13、17では、ポリエステルBとして流動開始温度が180℃のものを用いたため、不織布とする際の熱接着処理において溶融せず、ポリエステルBも主体繊維とともに不織布を構成する繊維となり、得られた不織布は柔軟性に乏しいものとなった。比較例14、18では、ポリエステルBの流動開始温度が90℃であったため、いずれもヒートドラム温度を実施例11や16と同様の温度では熱処理できず、ヒートドラム温度を80℃としたため、得られたポリエステル複合短繊維は乾熱収縮率の大きいものとなった。このため、不織布を得る際のウエブ収縮率が大きく、得られた湿式短繊維不織布は地合、柔軟性に劣り、強力保持率の低いものであった。比較例19、20では、バインダー繊維をポリエステルAのみからなる繊維としたため、接着時の効果として非晶性のポリエステルBとの相乗効果が得られず、得られた湿式短繊維不織布は不織布強力の低いものとなった。
実施例21〜23
バインダー繊維と主体繊維の混合割合(質量比)を表4に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
得られた乾式短繊維不織布の特性値及び評価結果を表4に示す。
表4から明らかなように、実施例21〜23の乾式短繊維不織布は、接着成分と主体繊維の割合が適切であったため、地合、柔軟性に優れており、不織布強力及び強力保持率ともに高いものであった。
実施例24〜26
バインダー繊維と主体繊維の混合割合(質量比)を表5に示す値に変更した以外は、実施例11と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
得られた湿式短繊維不織布の特性値及び評価結果を表5に示す。
表5から明らかなように、実施例24〜26の湿式短繊維不織布は、接着成分と主体繊維の割合が適切であったため、地合、柔軟性に優れており、不織布強力及び強力保持率ともに高いものであった。

Claims (4)

  1. 融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維で構成される不織布であって、不織布を構成する短繊維同士を接着する成分として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃のポリエステルAと、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつ流動開始温度(R)とポリエステルAの融点(Tm)とが下記式(1)を満足する非晶性のポリエステルBを含むことを特徴とする短繊維不織布。
    (R−Tm)≦5(℃) ・・・ (1)
  2. ポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(2)を満足する請求項1記載の短繊維不織布。
    b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (2)
    なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
  3. 70℃の雰囲気下、処理時間200時間の高温処理前後の不織布強力を比較した強力保持率が70%以上である請求項1又は2記載の短繊維不織布。
    なお、強力保持率(%)は、〔高温処理後の不織布強力(N)/高温処理前の不織布強力(N)〕×100で算出するものである。
  4. 単糸の横断面形状において、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状を呈しているポリエステル複合短繊維と融点又は流動開始温度が150℃以上のポリエステルからなる短繊維とを含有するウエブを熱処理することにより得られる請求項1〜3いずれかに記載の短繊維不織布。
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