JP2009249769A - 短繊維不織布 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱接着処理する際の加工温度を低くすることができ、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少なく、嵩高性や柔軟性に優れ、かつ地合、機械的特性にも優れる短繊維不織布の提供。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルAと、融点又は流動開始温度が130℃以上であり、かつポリエステルAの融点より高いポリエステルBとで構成された複合短繊維Pと、熱処理により捲縮を発現する潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qとを含有するウエブからなり、複合短繊維PのポリエステルAの少なくとも一部が溶融して接着成分を成している短繊維不織布。
b/a≧0.05(mW/mg・℃)・・・(1)
【選択図】図1

Description

本発明は、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルと融点又は流動開始温度が130℃以上のポリエステルとからなる複合短繊維をバインダー繊維、潜在捲縮性能を有する複合短繊維を主体繊維とし、嵩高性や柔軟性、機械的特性、地合に優れた短繊維不織布に関するものである。
合成繊維、特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野において、ポリエステル繊維が多く使用されている。
衛生材料等の分野において、バインダー繊維を用いて構成繊維を接着した短繊維不織布が種々提案されている。これらの短繊維不織布の多くはポリエステル系繊維からなるため、接着成分となるバインダー繊維もリサイクルの観点よりポリエステル系重合体からなる繊維を用いることが好適である。
例えば、このような短繊維不織布としては、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部とした芯鞘型複合短繊維をバインダー繊維とし、ポリエチレンテレフタレートからなる短繊維を主体繊維としたものが挙げられる。この短繊維不織布に用いるバインダー繊維は、高融点の芯部と低融点の鞘部とからなるため、熱接着処理の際に、鞘部のみが溶融して接着成分となり、芯部は溶融せずに繊維形態を保持するものである。
しかしながら、鞘部のイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体は、非晶性であり明確な結晶融点を示さないため、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まる。このため、得られた短繊維不織布を高温雰囲気下で使用した場合、接着強力が低下したり変形するという問題があり、また、このバインダー繊維は熱収縮率が高く、熱接着処理の際の収縮が大きく、得られる短繊維不織布は地合が悪く、柔軟性にも乏しくなるという問題があった。
上記問題を解決するものとして、特許文献1に芯鞘型の複合繊維が記載されている。この繊維は、芯部にポリエチレンテレフタレートを配し、鞘部にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分を共重合したポリエステル系共重合体を配した芯鞘型複合繊維である。
この複合繊維は、鞘部の共重合体は結晶性であり明確な融点を示すため、熱収縮率が小さく、不織布とする際の熱接着処理時の収縮が小さく、地合が良好で柔軟性にも優れ、また、高温雰囲気下で使用した際の耐熱性にも優れた不織布を得ることができる。
しかしながら、この共重合ポリエステルは融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、熱接着処理する際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
特開2006−118066号公報
本発明は上記の問題点を解決するものであって、熱接着処理する際の加工温度を低くすることができ、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少なく、嵩高性や柔軟性に優れ、かつ地合、機械的特性にも優れる短繊維不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルAと、融点又は流動開始温度が130℃以上であり、かつポリエステルAの融点より高いポリエステルBとで構成され、単糸の横断面形状においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合短繊維Pと、熱処理により捲縮を発現する潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qとを含有するウエブからなり、複合短繊維PのポリエステルAの少なくとも一部が溶融して接着成分を成していることを特徴とする短繊維不織布を要旨とするものである。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
本発明の短繊維不織布を構成する複合短繊維Pは、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されたものであるため、ポリエステルAを溶融させて主体繊維を熱接着処理する際の加工温度を低くすることができ、溶融後は高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少ない。また、複合短繊維Pは、紡糸時の単糸間の溶着がなく、延伸、熱処理工程においても高温で熱処理を行うことができるので、乾熱収縮率を小さくすることができ、したがって、本発明の短繊維不織布は、地合や柔軟性、機械的特性に優れるものとなる。
さらに、本発明の短繊維不織布は、主体繊維として潜在捲縮性能を有する複合短繊維を用いているため、熱処理により捲縮が発現することで、嵩高性、柔軟性に優れたものとすることができ、衣料、産業資材、衛生材料用等に広く利用することが可能となる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の短繊維不織布は、熱処理により捲縮を発現する潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qを主体繊維とし、以下に詳述するポリエステルAとポリエステルBとで構成された複合短繊維Pをバインダー繊維とし、両短繊維を含有するウエブからなり、複合短繊維PのポリエステルAの少なくとも一部が溶融して接着成分を成しているものである。
つまり、熱接着処理において、ポリエステルAの全てを溶融させて接着成分としているもの、もしくは一部のみを溶融させて接着成分としているもののいずれでもよいが、中でもポリエステルAの全てを溶融させて接着成分としているものが好ましい。また、本発明の短繊維不織布は、複合短繊維Pをバインダー繊維とするものであり、ポリエステルAを接着成分とするものであるが、ポリエステルBは接着成分とはせず、複合短繊維Qとともに主体繊維とすることが好ましいものである。
本発明の短繊維不織布は、乾式不織布、湿式不織布のいずれでもよく、目付けも特に限定するものではない。
また、本発明の短繊維不織布においては、主体繊維となる複合短繊維Qの潜在捲縮性能は発現しているものであっても、発現していないものであってもよい。
つまり、本発明の短繊維不織布は、複合短繊維Pと、熱処理により捲縮を発現する潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qを含有するウエブからなるものであり、複合短繊維PのポリエステルAが溶融して接着成分を成しているが、ポリエステルAを溶融させる熱接着処理の際に複合短繊維Qの潜在捲縮性能を発現させた状態のものであってもよいし、ポリエステルAを溶融させる熱接着処理の際には複合短繊維Qの潜在捲縮を発現させない状態のものであってもよい。後者の場合は、一旦複合短繊維PのポリエステルAを溶融させて得られた不織布に、さらに熱処理を施すことによって、複合短繊維Qの潜在捲縮性能を発現させるものである。
中でも、本発明の短繊維不織布は、ウエブを作成する際には地合のよいものを得るために、複合短繊維Qの潜在捲縮性能は発現させることなく、ポリエステルAを溶融させる熱接着処理の際に複合短繊維Qの潜在捲縮を発現させるものであることが好ましい。これにより地合に優れ、嵩高性、柔軟性にも優れた不織布とすることができる。
そして、短繊維不織布中の複合短繊維Pと複合短繊維Qの割合は、複合短繊維Qの混合割合が10〜90質量%であることが好ましく、中でも30〜70質量%であることが好ましい。複合短繊維Qの割合が90質量%を超えると、複合短繊維Pの割合が少なくなることから、ポリエステルAの割合が少なくなり、接着成分が少なくなるため、短繊維不織布は接着力が低く、機械的特性(強度等)に劣るものとなりやすい。一方、複合短繊維Qの割合が10質量%未満であると、複合短繊維Pの割合が多く、ポリエステルAの割合が多く、接着成分が多くなりすぎるため、短繊維不織布は柔軟性や機械的特性(強度等)に劣るものとなり、さらには嵩高性にも乏しいものとなりやすい。
まず、本発明においてバインダー繊維となる複合短繊維Pについて説明する。複合短繊維Pは、ポリエステルAとポリエステルBとで構成されるものであり、ポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めている複合繊維である。つまり、複合短繊維Pは、マルチフィラメントでもモノフィラメントでもよいが、単糸の横断面形状(繊維軸方向に沿って垂直に切断した断面の形状)においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めているものである。
このような形状としては、サイドバイサイド型や偏心芯鞘型、多層型のもの等が挙げられるが、中でも単糸の横断面形状においてポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部に配された芯鞘形状であることが好ましい。
以下、ポリエステルAについて詳述する。ポリエステルAは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、融点が100〜150℃の共重合ポリエステルである。
ポリエステルAの融点(Tm)は100〜150℃であり、中でも110〜140℃であることが好ましい。Tmが100℃未満であると、本発明における複合短繊維Pを用いて得られた不織布等の製品は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、150℃を超えると、製品を得る際の熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱処理により得られる製品の品質や風合い等を損ねるため好ましくない。
ポリエステルAは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とするものであり、テレフタル酸(以下、TPAとする)は60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が50モル%以上であり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは50モル%以上であり、中でも60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、中でも5〜40モル%とすることが好ましい。
さらに、ジオール成分には、HD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
そして、ポリエステルAは、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有するものであり、中でも0.5〜3.0質量%含有することが好ましい。
ポリエステルAは、上記のような共重合組成であることにより、結晶性を有しているものであるが、結晶核剤を含有することによって降温時の結晶化速度を向上させることができ、後述する(1)式を満足することができるものとなる。そして、繊維化する際、ポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるため、溶融紡糸工程においては単糸間の溶着を生じることなく、延伸、熱処理工程においては高温で熱処理することが可能となるため、複合短繊維Pの乾熱収縮率を低いものとすることができる。
結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、ポリエステルAは後述する(1)式を満足することができない。一方、5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、紡糸、延伸時の操業性を悪化させることとなる。また、操業性が悪化することで糸質のバラツキが大きくなり、複合短繊維Pの乾熱収縮率も高くなる。
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、ポリエステルAは後述する(1)式を満足することが困難となりやすい。
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
これらの結晶核剤を添加する方法としては、粉体のまま、あるいはジオールスラリーの形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。中でも、結晶核剤としての効果を良好なものとするには、エチレングリコール等のグリコールにスラリー状態あるいは溶解させた状態で添加することが好ましい。
また、ポリエステルA中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
そして、ポリエステルAは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記(1)式を満足するものであり、中でもb/a≧0.06であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) (1)
本発明におけるポリエステルAの融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量2mg(複合短繊維Pの質量)で測定する。
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。そして図1に示すように、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、結晶化速度が遅いため、溶融紡糸時に単糸間の溶着が発生し、紡糸操業性が悪くなる。また、延伸・熱処理工程における熱処理温度を高くすると、繊維の融解・膠着が生じ、高温での熱処理を行うことができないため熱収縮率の低い繊維を得ることができない。
上記したように、b/aは、ポリエステルの共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
次にポリエステルBについて説明する。ポリエステルBは、融点又は流動開始温度が130℃以上であり、かつポリエステルAの融点より高いものである。ポリエステルBはポリエステルAと同様に結晶性のものであってもよいし、また、非晶性のものであってもよい。結晶性のものの場合は融点を、非晶性のものの場合は流動開始温度を上記の温度範囲のものとする。
上記したように、本発明の短繊維不織布においては、複合短繊維Pを構成するポリエステルBは、熱接着処理により溶融せずに、複合短繊維Qとともに主体繊維とすることが好ましいものである。
ポリエステルBの融点又は流動開始温度の上限としては特に限定するものではないが、溶融紡糸時のポリエステルAの熱分解を避ける目的から290℃以下とすることが好ましい。また、ポリエステルBの融点又は流動開始温度は、ポリエステルAの融点より高いものであるが、中でもポリエステルAの融点より20℃以上高いことが好ましく、さらには、30℃以上高いことが好ましい。
ただし、ポリエステルAは低融点のものであるため、ポリエステルBも比較的低い融点又は流動開始温度のものとすることで、溶融紡糸時に単糸間の溶着や糸切れが生じることなく、操業性よく溶融紡糸することが可能となる。したがって、中でも140〜240℃であることが好ましく、さらには、160〜220℃であることが好ましい。そして、ポリエステルAの融点より20〜90℃高いことが好ましい。
ポリエステルBの融点又は流動開始温度が130℃未満であったり、ポリエステルAの融点より低いと、延伸、熱処理工程において十分な熱処理を施すことができず、複合短繊維Pの乾熱収縮率を低くすることが困難となる。
ポリエステルBは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。そして、上記のような融点又は流動開始温度のものとするには、次に示すような成分を共重合させたものとすることが好ましい。
共重合成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が挙げられる。
中でもポリエステルBとしては、融点や結晶性の面から、TPA成分、EG成分を含有し、BD成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルを用いることが好ましい。これらのポリエステルは結晶性に優れるため、結晶性の高いポリエステルAとともに用いることで紡糸操業性がより良好になるとともに、延伸、熱処理時に高温での処理が可能となり、乾熱収縮率の低い繊維が得られやすくなる。
まず、脂肪族ラクトン成分を共重合する場合、その共重合量は全酸成分に対して20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。脂肪族ラクトン成分の割合が少ないと結晶性はよくなるが、融点が高くなりやすい。一方、20モル%より多いと結晶性が低下し、ガラス転移温度が低くなりやすく、紡糸時に単糸間の溶着が発生して製糸性が悪くなりやすい。
脂肪族ラクトン成分としては、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトンが挙げられる。
次に、BD成分を共重合する場合、共重合量は全グリコール成分に対して40〜80モル%とすることが好ましい。共重合量が40モル%未満であったり、80モル%を超えると、融点が高くなりやすい。
アジピン酸成分を共重合する場合、共重合量は全酸成分に対して、20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。アジピン酸成分の共重合量が10モル%未満であると、結晶性はよくなるが、融点が高くなりやすい。一方、20モル%を超えると、結晶性が低下し、ガラス転移温度が低くなりやすく、紡糸時に単糸間の溶着が発生して製糸性が悪くなりやすい。
また、ポリエステルBとして、イソフタル酸を共重合したPETを用いることも好ましく、中でもイソフタル酸を20〜30モル%共重合したものが好ましい。イソフタル酸の共重合量が20モル%未満であると、流動開始温度が高くなりやすい。一方、30モル%を超えると、流動開始温度が低くなり、130℃未満のものとなりやすい。
ポリエステルB中にも、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
本発明における複合短繊維PのポリエステルAとポリエステルBの複合比率(質量比率)は、20/80〜80/20とすることが好ましく、中でも30/70〜70/30とすることが好ましい。
本発明における複合短繊維Pは、上記したように結晶性に優れるポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されているので、溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生せず、延伸、熱処理を高温で施すことができ、乾熱収縮率の低い繊維とすることができる。具体的には、本発明における複合短繊維Pは、ポリエステルAの融点をTmとしたとき、(Tm−30)℃における乾熱収縮率が7%以下であることが好ましく、中でも5%以下であることが好ましく、さらには4.8〜0.5%とすることが好ましい。
本発明における乾熱収縮率とは、JIS L−1015の収縮率の測定における乾熱収縮率の測定方法により測定するものであり、複合短繊維Pを試料とし、初荷重を50mg/デシテックス、つかみ間隔を25mm、処理温度を(Tm−30)℃として測定し、算出するものである。
複合短繊維Pの(Tm−30)℃における乾熱収縮率を7%以下とすることで、本発明の短繊維不織布は、熱接着処理時の熱収縮が小さく、熱接着処理する前のウエブの面積と熱接着処理後に得られた不織布の面積を比較したウエブ収縮率が小さくなり、地合や柔軟性に優れるものとなる。一方、(Tm−30)℃における乾熱収縮率が7%を超えるものでは、熱接着処理時に複合短繊維Pの収縮が大きくなり、上記したウエブ収縮率が大きくなり、本発明の短繊維不織布は、地合が悪く、柔軟性にも乏しいものとなりやすい。
また、本発明の短繊維不織布は、主体繊維として熱処理により捲縮を発現する潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qを用いるものである。
このような潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qとしては、熱処理によりスパイラル捲縮を発現するものが好ましく、複合形態としては、2種類のポリマーを用いた複合繊維が好ましく、偏心芯鞘型、サイドバイサイド型、多層型等の張り合せ形状のものが挙げられ、中でもサイドバイサイド型のものが好ましい。
そして、複合短繊維Qの潜在捲縮性能としては、複合短繊維Pと複合短繊維Qとを含有するウエブを熱接着処理する際の熱処理温度を複合短繊維PのポリエステルAの融点(Tm)より10〜40℃高い温度とするものであるため、(Tm+10〜Tm+40)℃での熱処理により50個/25mm以上の捲縮を発現するもの、中でも50個/25mm〜100個/25mmの捲縮を発現するものが好ましい。
本発明でいう捲縮数は、(Tm+10〜Tm+40)の雰囲気温度(これらの範囲の任意の温度とする)のオーブン(熱処理機)中に無荷重で載置して15分間熱処理を施して捲縮を発現させ、50mg/dtexの荷重をかけ任意の長さあたりの捲縮数を測定した値を、長さ25mmあたりに換算したものである。
なお、繊維長が短くて測定が困難である場合は、短繊維にカットする前の繊維より測定を行うものである。
このような潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qとしては、2種類のポリマーとしてポリエステルを用いることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(以下PETとする)と共重合ポリエステルを用いることが好ましい。共重合ポリエステルとしては、全酸成分に対して芳香族ジカルボン酸2〜6モル%を共重合したポリエステル(以下共重合ポリエステルMとする)や、全酸成分に対してイソフタル酸(以下IPAとする)1〜9モル%及びビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体(以下BAEOとする)2〜5モル%を共重合したポリエステル(以下共重合ポリエステルNとする)を用いることが好ましい。
共重合ポリエステルMにおいては、芳香族ジカルボン酸としては、中でも5−ナトリウムスルホイソフタル酸(以下SIPとする)が好ましい。SIPの共重合量が2モル%未満であると、PETとの溶融粘度差及び熱収縮率差が大きくならず、潜在捲縮性能が不十分となりやすい。一方、6モル%を超えると、ポリエステルの融点が低下し、複合短繊維Qを得るのが困難になりやすい。
共重合ポリエステルNにおいては、IPAの共重合量が1モル%未満であったり、BAEOの共重合量が2モル%未満であると、PETとの溶融粘度差及び熱収縮率差が大きくならず、潜在捲縮性能が不十分となりやすい。一方、IPAが9モル%を超えたり、BAEOの共重合量が5モル%を超えると、ポリエステルの融点が低下し、複合短繊維Qを得るのが困難になったり、得られた複合短繊維Qの強度が低下しやすい。
また、BAEOは、ビスフェノールAが1モルに対して、エチレンオキサイドを2〜10モル付加したものが好ましく、中でもエチレンオキサイドを2〜5モル付加したものが好ましい。
そして、複合短繊維Qにおける2種類のポリマーの複合比は、質量比で10/90〜90/10とすることが好ましく、より好ましくは、30/70〜70/30である。
複合短繊維Q中にも、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい
そして、本発明の短繊維不織布を乾式不織布とする際には、複合短繊維P、複合短繊維Qともに、繊維長を25〜100mmとすることが好ましく、中でも30〜80mmが好ましい。また、本発明の短繊維不織布を湿式不織布とする際には、これらの短繊維の繊維長を1〜30mmとすることが好ましく、中でも3〜20mmとすることが好ましい。
乾式不織布とする際に短繊維の繊維長が25mm未満であると、カード機での解繊時に繊維の脱落が生じるため、操業性が悪化しやすい。一方、100mmを超えると、カード機での解繊性が悪くなり、得られる不織布は地合や均斉の劣るものとなりやすい。また、湿式不織布とする際に短繊維の繊維長が1mm未満であると、切断時の熱によって繊維の溶着や膠着が生じやすい。一方、30mmを超えると、抄紙機でウエブを得る際に繊維塊が生じやすくなり、得られる不織布は地合や均斉の劣るものとなりやすい。
また、複合短繊維P、複合短繊維Qの単糸繊度は0.3〜20dtexであることが好ましく、中でも0.5〜15dtex、さらには1.0〜10dtexとすることが好ましい。単糸繊度が0.3dtex未満であると、紡糸、延伸工程において単糸切断が頻発し、操業性が悪化するとともに、得られる不織布の品位が低下しやすい。一方、単糸繊度が20dtexを超えると紡糸糸条の冷却が不十分となり、繊維の品位が低下し、得られる不織布の品位も低下しやすい。
次に、本発明の短繊維不織布(乾式)の製造方法について一例を用いて説明する。
複合短繊維Pと潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qとを任意の割合で計量し、カード機を用いて混綿、解繊して乾式ウエブを作成する。得られたウエブを、連続熱処理機にてポリエステルAの融点(Tm)より10〜40℃高い温度で熱接着処理を施し、ポリエステルAの溶融と同時に複合短繊維Qの捲縮を発現させ、捲縮の発現した複合短繊維QとポリエステルBを主体繊維とする乾式短繊維不織布を得る。
次に、本発明の短繊維不織布(湿式)の製造方法について一例を用いて説明する。
複合短繊維Pと潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qとを任意の割合で計量し、パルプ離解機に投入し、攪拌(混綿、解繊)する。得られた試料を抄紙機にて湿式不織ウエブを作成する。この湿式不織ウエブの余分な水分を脱水した後、ポリエステルAの融点(Tm)より10〜40℃高い温度で熱接着処理を施し、ポリエステルAの溶融と同時に複合短繊維Qの捲縮を発現させ、捲縮の発現した複合短繊維QとポリエステルBを主体繊維とする湿式短繊維不織布を得る。
また、本発明の短繊維不織布における複合短繊維P(芯鞘型)の製造方法について一例を用いて説明する。
まず、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させ、結晶核剤を添加して重縮合反応を行う。重縮合反応においてポリエステルが所定の極限粘度に到達したら、ストランド状に払い出して、冷却、カットすることによりチップ化する。次に、このチップ(ポリエステルA)とポリエステルBのチップを通常の複合溶融紡糸装置に供給して、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となるようにして溶融紡糸を行う。紡出糸条を冷却固化した後、一旦容器へ収納する。そして、この糸条を集束して糸条束とし、ローラ間で延伸倍率2〜4倍程度で延伸を施す。続いて100〜120℃で熱処理し、次いで仕上げ油剤を付与後、スタフィングボックス等で機械捲縮を付与し、目的とする繊維長にカットして芯鞘型の複合短繊維Pを得る。
なお、湿式不織布を得る際には、機械捲縮を付与することなく、捲縮の付与されていない複合短繊維Pとすることが好ましい。
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値の測定、評価方法は次の通りである。
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)ポリエステルAの融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(c)ポリエステルBの流動開始温度
フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重9.8MPa、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度として求めた。
(d)ポリエステルB、複合短繊維Qを構成するポリエステルの融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を用い、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の極値を与える温度を融点とした。
(e)ポリエステルA、B、複合短繊維Qを構成するポリエステルのポリマー組成
得られた複合短繊維P又は複合短繊維Qを重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(f)複合短繊維Pの乾熱収縮率(%)
前記の方法で測定した。
(g)短繊維不織布の評価
1.地合
得られた不織布表面の地合を目視にて、良好(○)、不良(×)の2段階で評価した。
2.柔軟性(風合)
得られた不織布の柔軟性を触感にて判断し、良好(○)、不良(×)の2段階で評価した。
3.機械的特性(引張強さと耐熱性)
〔引張強さ〕
得られた不織布について、JIS L 1096 8.12の引張強さ及び伸び率 標準時A法(ストリップ法)により引張強さ(N)を測定した。カットストリップ法により試験片の幅5.0cmとし、定速伸長形試験機を用い、試験条件をつかみ間隔20cm、引張速度20cm/分とした。このとき、25℃雰囲気下で測定した。
〔耐熱性〕
上記の引張り強さを70℃雰囲気下で測定し、下記式で強力保持率を算出した。なお、強力保持率は耐熱性を示す指標であり、70%以上であることが好ましい。
強力保持率(%)=〔(70℃雰囲気下での引張強さ)/(25℃雰囲気下での引張強さ)〕×100
4.嵩高性
得られた不織布を20cm×20cmに切り出してサンプルとし、そのサンプル10枚を重ねた上に25cm×25cm×5mmのアクリル板(370g)を載せ、その上に1kgの錘を載せてアクリル板の下面の4辺のそれぞれの辺の中央の高さを測定し、4点の平均値を求めた。乾式不織布、湿式不織布のそれぞれにおいて、平均値により以下のように3段階評価した。
(乾式不織布)
○:高さが40.0mm以上である
△:高さが25.0mm以上40.0mm未満である
×:高さが25.0mm未満である
(湿式不織布)
○:高さが15.0mm以上である
△:高さが10.0mm以上15.0mm未満である
×:高さが10.0mm未満である
実施例1
(複合短繊維P:バインダー繊維)
ポリエステルAとして、酸性分としてTPA、グリコール成分としてEG15mol%、HD85mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.95、融点128℃、b/aが0.06のものを用いた。
ポリエステルBとして表3のB−1のポリエステルを用いた。
ポリエステルAチップとポリエステルBチップを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となるようにし、両成分の質量比を50/50として溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度230℃、吐出量520g/分、紡糸孔数1014、紡糸速度800m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を16℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束して11万dtexのトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率3.75倍、延伸温度40℃で延伸を行い、この後、ヒートドラム(温度110℃)で熱処理を施した。次いで、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2dtexの芯鞘型複合短繊維を得た。
(潜在捲縮性能を有する複合短繊維Q:主体繊維)
PET(融点256℃)と、SIPを4.5モル%共重合した共重合PET(融点243℃)を質量比50/50でサイドバイサイド型に貼り合わせた複合短繊維であって、機械捲縮が付与されており、繊維長51mm、単糸繊度2.2デシテックス、170℃の熱処理により70個/25mmの捲縮を発現する複合短繊維(ユニチカファイバー社製潜在捲縮綿〈C81〉)を用いた。
(乾式短繊維不織布)
複合短繊維Pと複合短繊維Qの混合割合を質量比50/50(複合短繊維P/複合短繊維Q)でカード機を通し、乾式ウエブを作成した。得られた乾式ウエブを温度160℃、風量20m/分の連続熱処理機で1分間の熱接着処理を行い、複合短繊維PのポリエステルAのほとんど全てを溶融させて接着成分とし(ポリエステルBは主体繊維となり)、かつ複合短繊維Qの潜在捲縮が発現した目付100g/mの乾式短繊維不織布を得た。
実施例2〜8
複合短繊維PのポリエステルBとして、表3に示すポリエステルを使用し、表1に示す紡糸温度で紡糸したこと以外は実施例1と同様にして芯鞘型の複合短繊維Pを得た。さらに、表1に示す熱接着処理温度とした以外は、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
比較例1
複合短繊維PのポリエステルBとして、表3に示すポリエステルを使用し、表1に示す紡糸温度で紡糸し、延伸後のヒートドラムでの熱処理温度を80℃としたこと以外は実施例1と同様にして芯鞘型の複合短繊維Pを得た。さらに、表1に示す熱接着処理温度とした以外は、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
実施例9
ポリエステルAとして、酸性分としてTPA、グリコール成分として1,4−ブタンジオール(BD)20mol%、HD80mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.98、融点130℃、b/aが0.11のものを用いた。ポリエステルBとして表3のB−1のポリエステルを用い、実施例1と同様にして複合短繊維Pを得た。
複合短繊維Qとして、PET(融点256℃)と、IPAを4.0モル%、BAEOを4.0モル%共重合した共重合PET(融点240℃)を質量比50/50でサイドバイサイド型に貼り合わせた複合短繊維であって、機械捲縮が付与されており、繊維長51mm、単糸繊度2.2デシテックス、170℃の熱処理により65個/25mmの捲縮を発現する複合短繊維(ユニチカファイバー社製潜在捲縮綿〈T81〉)を用いた。
複合短繊維Pと複合短繊維Qを用い、不織布を製造する際の連続熱処理機での熱接着処理温度を140℃とした以外は、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
実施例10〜16
複合短繊維PのポリエステルBとして、表3に示すポリエステルを使用し、表1に示す紡糸温度で紡糸したこと以外は実施例9と同様にして芯鞘型の複合短繊維Pを得た。さらに、表1に示す熱接着処理温度とした以外は、実施例9と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
比較例2
複合短繊維PのポリエステルBとして、表3に示すポリエステルを使用し、表1に示す紡糸温度で紡糸し、延伸後のヒートドラムでの熱処理温度を80℃としたこと以外は実施例9と同様にして芯鞘型の複合短繊維Pを得た。さらに、表1に示す熱接着処理温度とした以外は、実施例9と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
比較例3
複合短繊維Qに代えて、PET(融点256℃、極限粘度0.64)のみからなる単糸繊度2.2デシテックス、繊維長51mmのポリエステル短繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして、乾式短繊維不織布を得た。
比較例4
複合短繊維Pに代えて、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部、ポリエチレンテレフタレートを芯部とする複合短繊維であって、単糸繊度2.2デシテックス、繊維長51mm、100℃、15分での乾熱収縮率が15.2%の芯鞘型複合短繊維(ユニチカファイバー社製メルティ<3380>)を用いた。
複合短繊維Q(主体繊維)として実施例1で用いた複合短繊維を用い、実施例1と同様にして乾式短繊維不織布を得た。
実施例1〜16、比較例1〜4で得られた複合短繊維P及び乾式短繊維不織布の特性値及び評価結果を表1に示す。
表1から明らかなように、実施例1〜16では、複合短繊維Pの乾熱収縮率が低く、不織布を得る際の熱接着処理における収縮が小さく、かつ接着性に優れていたため、得られた乾式短繊維不織布は地合、柔軟性に優れ、機械的特性、耐熱性にも優れたものであった。さらに、主体繊維として潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qを用いたため、不織布を製造する際の熱接着処理により捲縮が発現し、得られた乾式短繊維不織布は嵩高性、柔軟性にも優れるものであった。
一方、比較例1、2では、複合短繊維Pを構成するポリエステルBの流動開始温度が低いものであったため、延伸後の熱処理温度を80℃としたため、複合短繊維Pの乾熱収縮率は高いものとなり、不織布を得る際の熱接着処理における収縮が大きく、得られた乾式短繊維不織布は、地合、柔軟性、機械的特性ともに劣るものであった。比較例3では、主体繊維として潜在捲縮性能を有していないPETからなる短繊維を用いたため、得られた乾式短繊維不織布は、嵩高性、柔軟性に乏しいものであった。比較例4では、非晶性ポリエステルを鞘部に配した芯鞘型の複合短繊維をバインダー繊維に用いたものであったため、この複合短繊維は乾熱収縮率が高く、不織布を得る際の熱接着処理における収縮が大きくなり、得られた乾式短繊維不織布は、地合、柔軟性、機械的特性ともに劣るものであった。
実施例17
(複合短繊維P:バインダー繊維)
実施例1と同様のポリエステルA、ポリエステルBを用い、実施例1と同様にして溶融紡糸、延伸、熱処理を行い、仕上げ油剤を付与した後、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与せずに、繊維長5mmにカットして単糸繊度2.2デシテックスの芯鞘型複合短繊維を得た。
(潜在捲縮性能を有する複合短繊維Q:主体繊維)
PET(融点256℃、極限粘度0.64)と、SIPを4.5モル%共重合した共重合PET(融点243℃、極限粘度0.47)を用い、通常の複合溶融紡糸装置を用いて、紡糸温度290℃、吐出量903g/min、紡糸速度1170m/minの条件で、ホール数1390の丸型断面のノズルから紡出した。そして、PETと共重合PETの質量比50/50でサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維(未延伸糸)を得た。
得られた未延伸糸を12.3ktexのトウに集束した後、延伸倍率2.52倍、延伸温度65℃で延伸を行い、機械捲縮を付与せずにカットした。そして、単糸繊度2.2dtex、繊維長5mm、170℃の熱処理により70個/25mmの捲縮を発現するポリエステル複合短繊維(Q−1)を得た。
(湿式短繊維不織布)
複合短繊維Pと複合短繊維Qの混合割合を質量比50/50(複合短繊維P/複合短繊維Q)で混合し、パルプ離解機(熊谷理機工業製)に投入し、3000rpmにて1分間撹拌した。その後、得られた試料を抄紙機(熊谷理機工業製角型シートマシン)にて湿式不織布ウエブとした。抄紙した湿式不織布ウエブの余分な水分を脱水した後、温度160℃、風量20m/分の連続熱処理機で10分間の熱接着処理を行い、複合短繊維PのポリエステルAのほとんど全てを溶融させて接着成分とし(ポリエステルBは主体繊維となり)、かつ複合短繊維Qの潜在捲縮が発現した目付50g/mの湿式短繊維不織布を得た。
実施例18〜24
複合短繊維PのポリエステルBとして、表3に示すポリエステルを使用し、表2に示す紡糸温度で紡糸し、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与せずに、繊維長5mmにカットしたこと以外は、実施例1と同様にして芯鞘型の複合短繊維Pを得た。さらに、表2に示す熱接着処理温度とした以外は、実施例17と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
比較例5
複合短繊維PのポリエステルBとして、表3に示すポリエステルを使用し、表2に示す紡糸温度で紡糸し、延伸後のヒートドラムでの熱処理温度を80℃とし、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与せずに、繊維長5mmにカットしたこと以外は、実施例1と同様にして芯鞘型の複合短繊維Pを得た。さらに、表2に示す熱接着処理温度とした以外は、実施例17と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例25
複合短繊維PのポリエステルAとして実施例9と同様のポリエステルを用い、ポリエステルBとして表3のB−1のポリエステルを使用したこと以外は実施例17と同様にして芯鞘型の複合短繊維Pを得た。
複合短繊維Qとして実施例17で用いたQ−1を用いた以外は、実施例17と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例26〜32
複合短繊維PのポリエステルBとして、表3に示すポリエステルを使用し、表2に示す紡糸温度で紡糸し、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与せずに、繊維長5mmにカットしたこと以外は、実施例25と同様にして芯鞘型の複合短繊維Pを得た。さらに、表2に示す熱接着処理温度とした以外は、実施例25と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
比較例6
複合短繊維PのポリエステルBとして、表3に示すポリエステルを使用し、表1に示す紡糸温度で紡糸し、延伸後のヒートドラムでの熱処理温度を80℃とし、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与せずに、繊維長5mmにカットしたこと以外は、実施例25と同様にして芯鞘型の複合短繊維Pを得た。さらに、実施例25と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
比較例7
複合短繊維Qに代えて、PET(融点256℃、極限粘度0.64)のみからなる単糸繊度2.2デシテックス、繊維長5mmのポリエステル短繊維(機械捲縮なし)を用いた以外は、実施例17と同様にして、湿式短繊維不織布を得た。
比較例8
複合短繊維Pとして、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部、ポリエチレンテレフタレートを芯部とする芯鞘型複合短繊維であって、単糸繊度2.2デシテックス、繊維長5mm(機械捲縮なし)、100℃、15分での乾熱収縮率が15.2%のポリエステル短繊維(ユニチカファイバー社製メルティ<3380>)を用いた。
複合短繊維Q(主体繊維)として実施例17で用いたQ−1を用いた以外は、実施例17と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例17〜32、比較例5〜8で得られた複合短繊維P及び湿式短繊維不織布の特性値及び評価結果を表2に示す。
表2から明らかなように、実施例13〜24では、複合短繊維Pの乾熱収縮率が低く、不織布を得る際の熱接着処理における収縮が小さく、かつ接着性に優れていたため、得られた湿式短繊維不織布は地合、柔軟性に優れ、機械的特性、耐熱性にも優れたものであった。さらに、主体繊維として潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qを用いたため、不織布を製造する際の熱接着処理により捲縮が発現し、得られた湿式短繊維不織布は嵩高性、柔軟性にも優れるものであった。
一方、比較例5、6では、複合短繊維Pを構成するポリエステルBの流動開始温度が低いものであったため、延伸後の熱処理温度を80℃としたため、複合短繊維Pの乾熱収縮率は高いものとなり、不織布を得る際の熱接着処理における収縮が大きく、得られた湿式短繊維不織布は、地合、柔軟性、機械的特性ともに劣るものであった。比較例7では、主体繊維として潜在捲縮性能を有していないPETからなる短繊維を用いたため、得られた湿式短繊維不織布は、嵩高性、柔軟性に乏しいものであった。比較例8では、非晶性ポリエステルを鞘部に配した芯鞘型の複合短繊維をバインダー繊維に用いたものであったため、この複合短繊維は乾熱収縮率が高く、不織布を得る際の熱接着処理における収縮が大きくなり、得られた湿式短繊維不織布は、地合、柔軟性、機械的特性ともに劣るものであった。
本発明における複合短繊維Pを構成するポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。

Claims (1)

  1. テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルAと、融点又は流動開始温度が130℃以上であり、かつポリエステルAの融点より高いポリエステルBとで構成され、単糸の横断面形状においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合短繊維Pと、熱処理により捲縮を発現する潜在捲縮性能を有する複合短繊維Qとを含有するウエブからなり、複合短繊維PのポリエステルAの少なくとも一部が溶融して接着成分を成していることを特徴とする短繊維不織布。
    b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
    なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
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