JP2010168671A - 湿式短繊維不織布 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱接着処理する際の加工温度を低くすることができ、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少なく、機械的特性に優れ、かつ地合や柔軟性にも優れる湿式短繊維不織布を提供する。
【解決手段】パルプを主体繊維とする湿式短繊維不織布であって、不織布を構成する主体繊維同士を接着する成分として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃のポリエステルAと、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつ流動開始温度(R)とポリエステルAの融点(Tm)とが下記式(1)を満足する非晶性のポリエステルBとを含むことを特徴とする湿式短繊維不織布。(R−Tm)≦5(℃) ・・・ (1)
【選択図】図1

Description

本発明は、パルプを主体繊維とし、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルAと非晶性のポリエステルBとを接着成分とする機械的特性や地合、柔軟性に優れた湿式短繊維不織布に関するものである。
パルプからなる湿式短繊維不織布は、障子紙、壁紙、ワイパーなどの用途に広く用いられている。この湿式短繊維不織布は、柔軟性、機械的特性、寸法安定性等の機能を付与する目的で接着成分(バインダー成分)を使用することが多々ある。
バインダー成分としては、優れた機械的特性、寸法安定性、耐候性、耐久性、さらにはリサイクル性等からポリエステルを用いることが多い。中でもバインダー成分を短繊維状にしたバインダー繊維を用いることが好ましく、パルプとポリエステル系バインダー短繊維を水中分散時に混合、抄紙、熱処理して不織布を得る方法は、従来からの設備(工程)での製造が可能で、かつコスト的にも有利で一般的である。
従来、ポリエステル系バインダー繊維として、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部とし、ポリエチレンテレフタレートを芯部とした芯鞘型複合短繊維が広く使用されてきた。このバインダー繊維は、高融点の芯部と低融点の鞘部とからなるため、熱接着処理の際に、鞘部のみが溶融して接着成分となり、芯部は溶融せずに繊維形態を保持するものである。
しかしながら、接着成分となるイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体は、非晶性であり明確な結晶融点を示さないため、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まる。このため、熱接着処理の際に繊維が収縮し、得られる湿式短繊維不織布も収縮が生じたものとなり寸法安定性が悪く、また、高温雰囲気下で使用した場合、接着強力が低下したり、変形するという問題が生じていた。
そこで、上記問題を解決するものとして、特許文献1には、テレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分を共重合した共重合ポリエステルを用いた乾熱収縮率の低いバインダー繊維が記載されている。
このバインダー繊維を構成する上記の共重合ポリエステルは、熱処理により溶融して接着成分となるものであるが、結晶性であり明確な融点を示すものである。このため、この繊維をバインダー繊維として使用した不織布は、高温雰囲気下で使用した際の接着強力の低下が小さく、耐久性に優れたものとすることができる。また、不織布を得る際の熱接着処理時の収縮が小さいため、得られる不織布は地合、寸法安定性ともに良好なものであった。
しかしながら、この共重合ポリエステルは、融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、不織布とする際に熱接着処理して接着成分とする際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
特開2006−118066号公報
本発明は上記の問題点を解決するものであって、熱接着処理する際の加工温度を低くすることができ、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少なく、機械的特性に優れ、かつ地合や柔軟性にも優れる湿式短繊維不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、パルプを主体繊維とする湿式短繊維不織布であって、不織布を構成する主体繊維同士を接着する成分として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃のポリエステルAと、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつ流動開始温度(R)とポリエステルAの融点(Tm)とが下記式(1)を満足する非晶性のポリエステルBとを含むことを特徴とする湿式短繊維不織布を要旨とするものである。
(R−Tm)≦5(℃) ・・・ (1)
本発明の湿式短繊維不織布は、パルプを主体繊維として構成される不織布であり、接着成分として低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルAと非晶性のポリエステルBとを用いるものであるため、両成分を溶融させて主体繊維を熱接着処理する際の加工温度を低くすることができる。そして、接着成分のポリエステルAは結晶性に優れるため、本発明の湿式短繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した際にも接着強力の低下が少なく、耐久性に優れたものとなる。非晶性のポリエステルBは、溶融すると流動性が低いものとなり、一方、ポリエステルAは結晶性ポリマーのため溶融すると流動性が高いものとなり、この2種類のポリエステルを組み合わせることで、適度な流動特性を有し、強固な接着力を有するものとなり、主体繊維同士の接着を強固にすることが可能となる。
中でも、本発明の湿式短繊維不織布は、単糸の横断面形状において、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状を呈しているポリエステル複合短繊維をバインダー繊維、パルプを主体繊維として含有するウエブを作成し、これを熱接着処理することにより得られたものとすることで、不織布を得る際のウエブの収縮が小さく、また、より多くの主体繊維の交点を接着させることができる。これにより、接着性を向上させることができるとともに、地合や柔軟性にも優れた湿式短繊維不織布とすることが可能となる。
本発明の湿式短繊維不織布において、接着成分となるポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の湿式短繊維不織布は、パルプを主体繊維として構成されているものであり、主体繊維同士を接着する成分として、以下に詳述するポリエステルAと非晶性のポリエステルBを用いるものである。
本発明において使用されるパルプは、クラフトパルプ、サルファイトパルプなどの木材パルプ、古紙から再生された再生パルプ等が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、コストの面、地球環境の面より、植物由来の木材から得られたパルプを用いることが好ましい。
次に、ポリエステルAについて説明する、ポリエステルAは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、融点(Tm)が100〜150℃の共重合ポリエステルである。
ポリエステルAのTmは、中でも110〜140℃であることが好ましい。Tmが100℃未満であると、本発明の湿式短繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、150℃を超えると、不織布を得る際の熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱処理により主体繊維に与えるダメージも大きくなり、得られる不織布の機械的特性や風合い等を損ねるため好ましくない。
ポリエステルAは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とするものであり、テレフタル酸(以下、TPAとする)は60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が50モル%以上であり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは50モル%以上であり、中でも60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、中でも5〜40モル%とすることが好ましい。
さらに、ジオール成分には、HD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
そして、ポリエステルAは、上記のような共重合組成であることにより、結晶性を有しているものであるが、結晶核剤を含有することによって降温時の結晶化速度を向上させることができ、後述する(2)式を満足することが好ましいものである。
ポリエステルAは、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有するものであり、中でも0.5〜3.0質量%含有することが好ましい。ポリエステルA中の結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、ポリエステルAは後述する(2)式を満足することが困難となる。一方、5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、ポリエステルAを用いて繊維化する際の紡糸、延伸時の操業性が悪化し、糸質のバラツキが大きくなり、得られる短繊維や不織布の品位も低下するものとなる。
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、ポリエステルAは後述する(2)式を満足することが困難となりやすい。
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
これらの結晶核剤を添加する方法としては、粉体のまま、あるいはジオールスラリーの形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。中でも、結晶核剤としての効果を良好なものとするには、エチレングリコール等のグリコールにスラリー状態あるいは溶解させた状態で添加することが好ましい。
また、ポリエステルA中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
そして、ポリエステルAは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記(2)式を満足することが好ましく、中でもb/a≧0.06であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶化速度が速く、結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) (2)
本発明におけるポリエステルAの融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量(接着成分)2mgで測定する。
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。そして、図1に示すように、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。ポリエステルAはこのように結晶性に優れるものであるため、流動性が高く、不織布全体に浸透し、不織布を構成する主体繊維同士の多くの交点を接着することができ、得られる湿式短繊維不織布は接着強力に優れるものとなる。さらに、高温雰囲気下で使用する際にも接着強力の低下が生じにくく、耐久性に優れるものとなる。
b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、ポリエステルAの結晶化速度が遅くなり、上記のような効果を奏することが困難となる。また、ポリエステルAを使用した繊維を溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生し、紡糸操業性が悪くなる。さらには、延伸・熱処理工程における熱処理温度を高くすると、繊維の融解・膠着が生じ、高温での熱処理を行うことができないため熱収縮率の低い繊維を得ることが困難となる。
上記したように、b/aは、ポリエステルAの共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
次にポリエステルBについて説明する。ポリエステルBは、非晶性のポリエステルであり、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつポリエステルBの流動開始温度(R)とポリエステルAの融点(Tm)とが下記式(1)を満足するものである。
(R−Tm)≦5(℃) ・・・ (1)
本発明の湿式短繊維不織布においては、ポリエステルA、ポリエステルBともに熱接着処理により溶融させて接着成分とするために、ポリエステルBの流動開始温度は、ポリエステルAの融点より高くても5℃以下とすることが必要であり、中でもポリエステルAの融点より低いことが好ましい。
また、ポリエステルBの流動開始温度は、105〜155℃であるが、中でも110〜140℃、さらには110〜130℃であることが好ましい。
ポリエステルBの流動開始温度が105℃未満であると、本発明の湿式短繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、155℃を超えると、不織布を得る際の熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱接着処理により主体繊維に与えるダメージも大きくなり、得られる不織布の機械的特性や風合い等を損ねるため好ましくない。
ポリエステルBとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。そして、上記の流動開始温度のものとするため、次に示すような成分を共重合させたものとすることが好ましい。
共重合成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が挙げられる。
中でもポリエステルBとしては、イソフタル酸を共重合したPETを用いることが好ましく、中でもイソフタル酸を25〜40モル%共重合したものが好ましい。イソフタル酸の共重合量が25モル%未満であると、流動開始温度が高くなり155℃を超えるものとなりやすい。一方、40モル%を超えると、流動開始温度が低くなり105℃未満のものとなりやすい。
ポリエステルB中にも、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
また、本発明の湿式短繊維不織布における接着成分として、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリエステルA、ポリエステルB以外の接着成分を含有していてもよい。そして、接着成分の割合は、短繊維不織布全体の10〜80質量%であることが好ましく、中でも15〜70質量%であることが好ましい。接着成分の割合が少なすぎると、主体繊維同士を十分に接着することができなくなり、不織布強力に劣るものとなりやすい。一方、接着成分の割合が多すぎると、主体繊維が少なくなることから、耐熱性、耐久性、風合に劣る不織布となりやすい。
さらに、本発明においては、ポリエステルAとポリエステルBを用いて繊維化してバインダー繊維とすることが好ましい。ポリエステルAとポリエステルBを用いたバインダー繊維としては、単糸の横断面形状において、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状を呈しているポリエステル複合短繊維とすることが好ましい。
なお、このような芯鞘形状としては、芯部を複数有するものであってもよく、複数の芯部を有する場合は、芯部の数を2〜10個とすることが好ましい。
そして、本発明の湿式短繊維不織布は、このような複合短繊維と主体繊維となるパルプとを含有するウエブを熱処理することにより得られるものであることが好ましい。
ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維をバインダー繊維とし、主体繊維とウエブを形成することによって、より多くの主体繊維同士の交点を接着することが可能となり、接着強力に優れるものとなる。また、ウエブ中の主体繊維同士の絡みに空間が多くなることから、柔軟性や風合にも優れたものとなる。
また、ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維は、結晶性に優れるポリエステルAが鞘部を形成し、繊維表面を占めるように配されているものであるので、溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生せず、延伸、熱処理を高温で施すことができ、熱収縮率の低い繊維とすることができる。
具体的に、ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維は、ポリエステルAの融点をTmAとしたとき、(TmA−30)℃における乾熱収縮率が7%以下であることが好ましく、中でも6%以下であることが好ましく、さらには5%以下であることが好ましい。
ここで、乾熱収縮率とは、JIS L−1015の収縮率の測定における乾熱収縮率の測定方法により測定するものであり、初荷重を50mg/デシテックス、つかみ間隔を25mm、処理温度を(TmA−30)℃として測定するものである。なお、繊維長が短くて測定が困難である場合は、短繊維にカットする前の繊維を用いて測定するものとする。
(TmA−30)℃における乾熱収縮率を7%以下とすることで、ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維をバインダー繊維として不織布を製造する際に、ウエブ等を熱処理する際の収縮が小さくなり、熱処理後に得られる不織布は、地合や均斉、接着性にも優れるものとなる。一方、(TmA−30)℃における乾熱収縮率が7%を超えるものでは、このような効果を奏することが困難となりやすい。
ポリエステルBのような明確な結晶融点を示さないポリエステルのみからなる短繊維としたり、ポリエステルBを繊維表面に配した形状の短繊維とすると、延伸、熱処理工程において熱処理温度を100℃以上とすると、繊維の融解、膠着が生じ、実施が困難となる。したがって、延伸、熱処理工程を低温で行うこととなり、得られる短繊維は乾熱収縮率が高くなる。このため、このような短繊維をバインダー繊維として不織布を製造すると、ウエブを熱接着処理する際の収縮が大きくなり、得られる不織布は熱接着処理前のウエブの面積と比較したウエブ収縮率が大きくなり、地合や均斉に劣るものとなりやすい。
そして、本発明の湿式短繊維不織布は、主体繊維となるパルプとポリエステルAとポリエステルBからなるバインダー繊維とから製造する場合、従来から知られている各種加工法、例えばエアレイド法、抄紙法、スパンレース法などによって製造することができるが、中でも均一な分散性、地合や風合が良好な不織布が得られる点から、抄紙法を採用することが好ましい。
本発明の湿式短繊維不織布は、結晶性に優れるポリエステルAと非晶性のポリエステルBを接着成分としているものであるため、非晶性のポリエステルBは、熱接着処理により溶融すると流動性が低いものとなり、ポリエステルAは結晶性ポリマーのため溶融すると流動性が高いものとなり、この2種類のポリエステルを用いることで、適度な流動特性を有し、不織布を構成する主体繊維同士の交絡部を十分かつ均一に接着することができ、機械的特性(不織布強力)に優れる不織布を得ることができる。
さらには接着成分の流動特性が適度であるため、熱接着処理時に不織布の下面(裏面)に接着成分が多くなって金網上に接着するという問題が生じることがなく、また、不織布の上面(表面)に接着成分が少なくなって表面毛羽が生じるという問題も生じないものとなる。
次に、ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維をバインダー繊維として用いた場合の本発明の湿式短繊維不織布の製造方法について一例を用いて説明する。
ポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維と主体繊維としてパルプを用い、バインダー繊維と主体繊維を任意の割合で計量し、パルプ離解機に投入し撹拌(解繊、混綿)する。
その後、得られた試料を抄紙機にて抄紙し、湿式短繊維不織布を作成する。
また、本発明の湿式短繊維不織布においてバインダー繊維とするポリエステルAとポリエステルBからなる芯鞘型の複合短繊維の製造方法について一例を用いて説明する。
まず、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させ、結晶核剤を添加して重縮合反応を行う。重縮合反応においてポリエステルが所定の極限粘度に到達したら、ストランド状に払い出して、冷却、カットすることによりチップ化する。次に、このチップ(ポリエステルA)とポリエステルBのチップを通常の複合溶融紡糸装置に供給して、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となるようにして溶融紡糸を行う。紡出糸条を冷却固化した後、一旦容器へ収納する。そして、この糸条を集束して糸条束とし、ローラ間で延伸倍率2〜4倍程度で延伸を施す。続いて100〜120℃で熱処理し、次いで仕上げ油剤を付与後、スタフィングボックス等で機械捲縮を付与し、目的とする繊維長にカットして複合短繊維を得る。
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a) 無機系微粒子の平均粒径
島津社製粒度分布測定装置(SALD-2000)を用いて、エチレングリコール中の試料の平均粒径の値を測定した。
(b) 無機系微粒子の比表面積
BET法により測定した。
(c)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(d)ポリエステルAの融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(e)ポリエステルBの流動開始温度
フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重9.8MPa、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度として求めた。
(f)ポリエステルA、ポリエステルBのポリマー組成
得られたポリエステル複合短繊維を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(g)紡糸操業性
紡糸の状況により下記の2段階で評価した。
○:紡糸時の切れ糸回数が1回/トン以下であり、単糸間での溶着がない。
×:紡糸時の切れ糸回数が1回/トンを超えるか、単糸間での溶着の発生がある。
(h)ポリエステル複合短繊維の乾熱収縮率(%)
前記の方法で測定した。
(i)湿式短繊維不織布の評価
1.地合(均一性)
得られた不織布表面の地合を目視にて判定し、良好なものを○、不良なものを×として2段階で評価した。
2.柔軟性
得られた不織布を20×20cmに切り出してサンプルとし、長さ30cmの1インチ紙管(外周約10cm)に巻き付けて端部をテープで固定し、35℃雰囲気で24時間放置し、次に20℃雰囲気で24時間放置した。この後、巻きつけた内側を上にして机上にひろげ、4角の反り返り量と、反り返っている2辺において最大と最小の反り返り部の量の8点を測定し、その平均値を求め次の3段階で評価した。
○:反り返り量が25mm以下
△:反り返り量が25mmを超えて50mm以下
×:反り返り量が50mmを超えるか、丸くなっていて測定できない
3.機械的特性(不織布強力)
得られた不織布をJIS L 1096 6.12.1A法によりMD方向(乾燥機のMD方向)の強力を測定し、測定値により2段階で評価した。
○:50N/5cm巾以上
×:50N/5cm巾未満
実施例1
(バインダー繊維)
ポリエステルAとして、酸性分としてTPA、グリコール成分としてEG15mol%、HD85mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.95、融点128℃、b/aが0.06のものを用いた。
ポリエステルBとして表2のaのポリエステルを用いた。
ポリエステルAチップとポリエステルBチップを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となるようにし、両成分の質量比を50/50として溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度220℃、吐出量570g/分、紡糸孔数1014、紡糸速度800m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を18℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束して11万dtexのトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率3.20倍、延伸温度50℃で延伸を行った。この後、ヒートドラム(温度110℃)で熱処理を施し、捲縮を付与せずに繊維長5mmに切断して単糸繊度2.2dtex、乾熱収縮率5.3%のポリエステル複合短繊維を得た。
(主体繊維)
パルプ(NBKP)を主体繊維とした。
(湿式短繊維不織布)
バインダー繊維と主体繊維の混合割合を質量比20/80(バインダー繊維/主体繊維)として、パルプ離解機(熊谷理機工業製)に投入し、3000rpmにて1分間撹拌した。その後、得られた試料を抄紙機(熊谷理機工業製角型シ−トマシン)に移し、アルキルホスフェート金属塩を主成分とする分散油剤を添加した後、付帯の攪拌羽にて攪拌を行い抄紙し湿式ウエブとした。抄紙した湿式ウエブを回転式乾燥機(熊谷理機工業製)にて140℃の温度で熱接着処理し、目付け50g/mの湿式短繊維不織布を得た。
実施例2〜3、比較例1〜2
ポリエステルA中の結晶核剤のタルクの添加量を変更し、表1に示すポリエステルA中の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合短繊維(バインダー繊維)を得た。さらに、実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例4〜5
バインダー繊維と主体繊維の混合割合を変更し、表1に示す質量比とした以外は、実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例6
ポリエステルAとして、酸性分としてTPA、グリコール成分として1,4−ブタンジオール(BD)20mol%、HD80mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.98、融点130℃、b/aが0.11のものを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合短繊維(バインダー繊維)を得た。さらに、実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例7〜8
バインダー繊維と主体繊維の混合割合を変更し、表1に示す質量比とした以外は、実施例6と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
比較例3
ユニチカファイバー社製メルティ<4080>2.2T5mmの捲縮の付与されていない短繊維をバインダー繊維〔単糸繊度2.2dtex、繊維長5mm、強度5.5cN/dtex、伸度40%、100℃×15分での乾熱収縮率12.2%)とし、実施例1と同様にして湿式ウエブを作成した。抄紙した湿式ウエブを回転式乾燥機(熊谷理機工業製)にて130℃の温度で熱処理し、目付け50g/mの湿式短繊維不織布を得た。
比較例4
ユニチカファイバー社製メルティ<3380>2.2T5mmの捲縮の付与されていない短繊維をバインダー繊維(単糸繊度2.2dtex、繊維長5mm、強度5.5cN/dtex、伸度40%、100℃×15分での乾熱収縮率15.2%)とし、実施例1と同様にして湿式ウエブを作成した。抄紙した湿式ウエブを回転式乾燥機(熊谷理機工業製)にて150℃の温度で熱処理し、目付け50g/mの湿式短繊維不織布を得た。
実施例9、比較例5〜6
ポリエステルBとして、表2に記載のポリエステルを用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステル複合短繊維を得た。そして、実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例10
ポリエステルBとして、表2に記載のポリエステルを用いた以外は実施例6と同様にしてポリエステル複合短繊維を得た。そして、実施例6と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
比較例7
バインダー繊維を使用せず、主体繊維となるパルプ(NBKP)のみを用いた以外は実施例1と同様にして湿式短繊維不織布を得た。
実施例1〜10、比較例1〜7で得られたポリエステル複合短繊維の特性値と湿式短繊維不織布の特性値及び評価結果を表1に示す。
表1から明らかなように、実施例1〜10の湿式短繊維不織布は、パルプを主体繊維とするものであり、接着成分が結晶性に優れたポリエステルAと非晶性のポリエステルBであったため、低温での熱接着処理が可能なものであり、かつ主体繊維同士が良好に接着にされ、不織布強力が高く、機械的特性に優れるものであった。また、ポリエステルAとポリエステルBを繊維化してバインダー繊維としたものであったため、バインダー繊維は乾熱収縮率が低く、不織布を得る際の熱接着処理における収縮が小さく、ウエブ収縮率も低いものとなり、得られた湿式短繊維不織布は、柔軟性、地合ともに優れたものであった。
一方、比較例1の湿式短繊維不織布は、ポリエステルAの結晶核剤の添加量が少なかったため、結晶化速度が遅くなり延伸工程で実施例1と同様の温度で熱処理をすることができず、ポリエステル複合短繊維の乾熱収縮率が高いものとなった。比較例2の湿式短繊維不織布は結晶核剤の添加量が多かったため、紡糸時に切れ糸が発生し糸斑の大きいものとなり、ポリエステル複合短繊維の乾熱収縮率が高いものとなった。このため、比較例1、2ともに不織ウエブを熱処理する際の収縮が大きくなり、地合、柔軟性に乏しい湿式短繊維不織布となった。比較例3、4の湿式短繊維不織布は、ポリエステルAを含有しないバインダー繊維を用いたため、バインダー繊維は乾熱収縮率が高く、不織ウエブを熱接着処理する際の収縮が大きくなり、地合、柔軟性に乏しいものとなった。比較例5の湿式短繊維不織布は、ポリエステルBとして流動開始温度が180℃のものを用いたため、不織ウエブを熱接着処理する際に溶融せず、ポリエステルBも主体繊維とともに不織布を構成する繊維となり、得られた不織布は柔軟性に乏しいものとなった。比較例6では、ポリエステルBとして流動開始温度が90℃のものを用いたため、ポリエステル複合短繊維を得る際のヒートドラム温度を実施例1と同様の温度では熱処理できず、ヒートドラム温度を80℃とした。このため、得られたポリエステル複合短繊維は乾熱収縮率の大きいものとなり、不織ウエブを熱接着処理する際の収縮が大きくなり、得られた湿式短繊維不織布は地合及び柔軟性に劣るものであった。比較例7の湿式短繊維不織布は、接着成分を有していないものであったため、機械的特性に劣るものとなった。

Claims (3)

  1. パルプを主体繊維とする湿式短繊維不織布であって、不織布を構成する主体繊維同士を接着する成分として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(Tm)が100〜150℃のポリエステルAと、流動開始温度(R)が105〜155℃であり、かつ流動開始温度(R)とポリエステルAの融点(Tm)とが下記式(1)を満足する非晶性のポリエステルBとを含むことを特徴とする湿式短繊維不織布。
    (R−Tm)≦5(℃) ・・・ (1)
  2. ポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(2)を満足する請求項1記載の湿式短繊維不織布。
    b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (2)
    なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
  3. 単糸の横断面形状において、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状を呈しているポリエステル複合短繊維とパルプを含有するウエブを熱処理することにより得られる請求項1〜2いずれかに記載の湿式短繊維不織布。

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CN114846185A (zh) * 2019-12-27 2022-08-02 韩国商东丽先端素材股份有限公司 湿式无纺布及包括其的制品
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