JP6132532B2 - ポリエステル複合繊維 - Google Patents

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Description

本発明は、温水可溶性を有するポリエステル複合繊維に関するものである。
従来、溶剤等に易溶性の繊維と非溶性繊維からなる複合糸、あるいは易溶性繊維と非溶性繊維からなる布帛は、易溶性成分を溶解除去して、繊維間に空隙を付与したり、レースや空羽織物を得るために使用されている。また、溶剤に対して易溶性成分と非溶性成分からなる複合繊維あるいは該複合繊維からなる布帛は、易溶性成分を溶解除去することで極細繊維を得たり、布帛に特異な風合いや機能を付与するために使用される。溶解除去の手段としては有機溶剤・酸・アルカリ溶液等を使用することが一般的である。しかしながら、これらは特殊な溶剤を使用することや、溶解・溶剤洗浄工程が複雑になること、作業環境の悪化やコストアップの要因になる等の欠点を有している。
具体的な例として、例えば特許文献1には、アルカリ処理により易溶性成分を溶解除去することで、極細繊維を得ることができる分割型ポリエステル複合繊維が提案されている。しかしながら、この複合繊維は、前述したとおり、工程の複雑化や作業環境の悪化、高コスト化等の問題がある。
一方、特許文献2には、易溶性繊維として水溶性ポリビニルアルコールを使用した繊維が開示されている。しかし、水溶性ポリビニルアルコール繊維は高価で、かつ伸度が少なく製編織の操業時に糸切れ等の問題が発生し易く、また、酢酸臭が強く作業環境にも問題がある等、従来の問題について改善していない。
また、特許文献3には、溶解除去する繊維として水溶性ポリエステル共重合体からなる繊維を用いることが提案されている。そして、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分と、エチレングリコールとから成る水溶性ポリエステル共重合体が示されている。しかしながら、この水溶性ポリエステル繊維における実用上の問題は、低温の水に対する易溶性である。低温の水に易溶のために、水流を用いたジェットルームでの製織時にトラブルを生じたり、紡糸・延伸時の油剤によって繊維に膠着を生じ易いという問題が発生する。
特開2001−123335号公報 特開2003−41429号公報 特開昭63−256619号公報
本発明は上記の問題点を解決するものであって、室温の水には難溶性であるが、温水には可溶性であり、取扱いが容易なポリエステル複合繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
本発明者らは、室温の水には難溶性でありながら、温水には可溶性であるという性質を兼ね備えたポリマーからなる繊維を得るために鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、短繊維不織布を得る際に用いる複合繊維であって、
エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする共重合ポリエステルであって、酸成分が、テレフタル酸50〜57モル%、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸6〜12モル%、イソフタル酸35〜38モル%により構成され、ジオール成分が、エチレングリコールを70〜90モル%、ジエチレングリコールを10〜30モル%含み、ガラス転移温度が50〜65℃、軟化温度が110〜145℃である共重合ポリエスエル(A)と、
融点が160℃以上のポリエステル(B)とからなる複合繊維であり、
該複合繊維の横断面において、共重合ポリエステル(A)が、繊維表面の少なくとも一部を占めるように配され、
共重合ポリエステル(A)は50℃以上の温水に可溶性であり、ポリエステル(B)は50℃以上の温水に不溶性であり、
短繊維不織布を得る際に、前記共重合ポリエステル(A)が繊維同士を接着する熱接着成分として機能することを特徴とするポリエステル複合繊維を要旨とするものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル複合繊維は、50℃以上の温水に可溶性である共重合ポリエステル(A)と、50℃以上の温水には不溶性であるポリエステル(B)とで構成された複合繊維であって、共重合ポリエステル(A)が繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されたものである。つまり、本発明の複合繊維は、単糸の横断面形状(繊維軸方向に沿って垂直に切断した断面の形状)において共重合ポリエステル(A)が繊維表面の少なくとも一部を占めているものである。
このような形状の複合形態としては、同心芯鞘型や偏心芯鞘型、サイドバイサイド型や多層型、分割型等が挙げられるが、中でも単糸の横断面形状において共重合ポリエステル(A)が鞘部、ポリエステル(B)が芯部に配された芯鞘型が好ましい。
次に、共重合ポリエステル(A)について説明する。本発明に用いられる共重合ポリエステル(A)は、酸成分としてスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分を6〜12モル%、ジオール成分としてジエチレングリコールを10〜30モル%含むことが温水に対する溶解性の点で必要である。なお、本発明において温水とは、50℃以上の温水をいう。すなわち、本発明においては、温水に対する溶解性とは、室温や常温の水には溶解せず、100℃程度の熱水にも溶解するが、50〜65℃程度の温水であっても溶解することを特徴とする。
スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸としては、例えば5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホテレフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸等が挙げられ、特に5−ナトリウムスルホイソフタル酸が好ましい。
これらのスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸の共重合量は、温水への可溶性及び室温や常温での水への非可溶性の点から、全ジカルボン酸成分に対し6〜12モル%の範囲内とする必要があり、好ましくは6〜10モル%の範囲である。共重合量が6モル%未満では温水に対して容易に溶け難い。一方、共重合量が12モル%を超えると温水だけではなく室温や常温での水にも溶ける傾向となり、また、重合時には溶融粘度が増大して重合度が上がらなくなるため、繊維製造工程における紡糸操業性に劣り、また、延伸しにくく繊維の強伸度が低下する傾向にあるため、脆く、実用的な繊維が得られない。
本発明における共重合ポリエステル(A)における酸成分には、主成分であるテレフタル酸を50モル%以上含むが、上限は57モル%とする。本発明においては、テレフタル酸およびスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を、本質的な効果を損なわない範囲であれば含んでもよい。例えば、イソフタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等に例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等に例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等に例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。本発明においては、後述する共重合ポリエステル(A)の軟化温度を特定の範囲にするために、テレフタル酸およびスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としてイソフタル酸を重合する軟化温度を特定の範囲にする理由は、本発明の複合繊維を、いわゆる熱バインダー繊維として用い、耐熱性も備えた熱バインダー成分として良好に機能させるためにもある。この場合、テレフタル酸、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸、イソフタル酸の共重合モル比は、テレフタル酸50〜57モル%、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸6〜12モル%、イソフタル酸35〜38モル%とすることが好ましい。
共重合ポリエステル(A)は、紡糸・延伸性及び水溶性の点から、全ジオール成分に対してジエチレングリコールを10〜30モル%含む必要があり、好ましくは12〜25モル%の範囲である。共重合量が30モル%を超えるとガラス転移温度(Tg)が低くなり、紡糸・延伸時に繊維の膠着が発生し易くなる。一方、共重合量が10モル%未満ではガラス転移温度(Tg)が高くなり、温水に対する易溶性が得られない。ジエチレングリコールの共重合量を上記の範囲に調整することで、本発明が特定するガラス転移温度(Tg)の範囲である50〜65℃となる。
また、共重合ポリエステル(A)は、紡糸性の点から、全ジオール成分に対してエチレングリコールを70〜90モル%含む。なお、エチレングリコールおよびジエチレングリコール以外のグリコール成分を、本質的な効果を損なわない範囲であれば含んでもよい。例えば、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等に例示される脂肪族、脂環族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール等に例示される芳香族グリコールが共重合成分として挙げられる。
共重合ポリエステル(A)の軟化温度(Ts)は110〜145℃であり、中でも120〜140℃であることが好ましい。軟化温度(Ts)が110℃未満であると、本発明の複合繊維を用いて得られた不織布等の製品は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、145℃を超えると、本発明の複合繊維を熱接着繊維として機能させて繊維製品を得ようとした際に、熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱処理により得られる繊維製品の品質や風合い等を損ねるため好ましくない。
本発明における共重合ポリエステル(A)は、上記した構成を有しているため、熱安定性・曳糸性に優れており、通常の溶融紡糸法において一般に用いられる水系の紡糸油剤を使用しても膠着が発生することはなく、さらには延伸時の延伸油剤でも膠着の発生がないため、操業性が非常に良好なものとなる。
本発明における共重合ポリエステル(A)の重合方法としては、通常の種々の方法を利用することができる。例えば、ジカルボン酸のジメチルエステルとグリコールのエステル交換反応を行い、メタノールを留出せしめた後、徐々に減圧し、高真空下、重縮合を行う方法、またはジカルボン酸とグリコールのエステル化反応を行い、生成した水を留出せしめた後、徐々に減圧し、高真空下で重縮合を行う方法、または、原料としてジカルボン酸のジメチルエステルとジカルボン酸を併用する場合、ジカルボン酸のジメチルエステルとグリコールのエステル交換反応を、さらに、ジカルボン酸を加えてエステル化反応を行った後、高真空下で重縮合を行う方法がある。エステル交換触媒としては酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸リチウム、蟻酸ナトリウム、酢酸亜鉛等を、重縮合触媒としては三酸化アンチモン、酸化ゲルマニウム、ジブチル錫オキシド、チタンテトラブトキシド等の公知のものを使用することができる。また、安定剤としてリン酸トリメチル、リン酸トリフェニル等のリン化合物、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(例えば、商品名イルガノックス1010)等を使用してもよい。しかし、重合方法、触媒、安定剤等の種々条件は上述の例に限定されるものではない。
上記した共重合ポリエスエル(A)と複合するポリエステル(B)について説明する。ポリエステル(B)は温水に非可溶性であり、融点(Tm)が160℃以上であることが必要である。ポリエステル(B)の融点(Tm)が160℃未満になると、本発明の複合繊維を熱接着繊維として機能させて不織布等の繊維製品を作製するための熱接着処理時に、熱の影響を受けやすく、寸法安定性が低下し、良好な風合いの不織布等の繊維製品が得られない。ポリエステル(B)としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートが好ましく、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルも好ましく用いられる。また、ホモポリマーではなく、本発明の効果を損なわない範囲であれば、少量の共重合成分が共重合してなるポリエスエルを用いることができる。
ポリエステル(B)にも、本発明の効果を損なわない範囲であれば、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
本発明のポリエステル複合繊維におけるポリエステル(A)とポリエステル(B)の複合比率(質量比率)は、20/80〜80/20とすることが好ましく、なかでも30/70〜70/30とすることが好ましい。
本発明のポリエステル複合繊維の繊維形態は特に限定されるものではなく、繊維端のない連続繊維であっても、特定の繊維長を有する短繊維のいずれであってもよく、用途、加工方法等、目的に応じて適宜選択すればよい。
本発明のポリエステル複合繊維を短繊維として用いた場合、繊維長は30mmを超えるものであって、上限は100mm程度のものがよい。中でも30mmを超えて、上限が80mmのものが好ましく、熱接着繊維として不織布等の製品を得る際に好適に用いることができる。繊維長が30mm以下であると、カード機での解繊時に繊維の脱落が生じるため、操業性が悪化する。繊維長が100mmを超えると、カード機での解繊性が悪くなり、得られる不織布等の製品は地合や均斉の劣るものとなる。なお、繊維長はJIS L1015 8.4.1A法に基づき測定するものである。
また、本発明のポリエステル複合繊維の単糸繊度は、特に限定するものではないが、1〜15dtexであることが好ましい。単糸繊度が1dtex未満であると紡糸、引取工程において単糸切断が頻発し、操業性が悪化するとともに、得られる繊維製品の強力も劣る傾向となる。一方、単糸繊度が15dtexを超えると紡糸糸条の冷却性が不十分になるので好ましくない。
本発明のポリエステル複合繊維の断面形状は特に規定するものではなく、円型のみならず扁平型、トリローバル型、ヘキサローバル型、W型、H型等の異形断面や、四角形や三角形等の多角形状等が挙げられる。また、中空部を有する中空形状のものでもよい。
次に、本発明のポリエステル複合繊維の製造方法について、芯鞘複合型の短繊維を得る場合の一例を用いて説明する。まず、共重合ポリエステル(A)とポリエステル(B)のチップを常用の複合紡糸装置に供給して溶融紡糸を行う。紡出された糸条を冷却固化し、紡糸油剤を付与した後、一旦容器へ収納する。そして、この糸条を集束して1〜100ktex程度の糸条束とし、加熱ローラー間で延伸倍率2〜6倍程度で延伸を施す。続いて押し込み式クリンパー等で機械捲縮を付与した後、仕上げ油剤を付与し、目的とする繊維長にカットして芯鞘複合型の短繊維を得る。
次に、本発明のポリエステル複合繊維を用いた短繊維不織布の製造方法について、一例を用いて説明する。なお、本発明のポリエステル複合繊維を熱接着繊維とし、他のポリエステル短繊維を主体繊維に使用した例について説明する。
まず、本発明のポリエステル複合繊維である熱接着繊維と主体繊維とを任意の割合で計量し、カード機を用いて混綿、解繊して乾式ウエブ(カードウエブ)を作製する。得られたウエブを、連続熱処理機にて共重合ポリエステル(A)の軟化温度(Ts)+10℃の温度で熱接着処理を施し、共重合ポリエステル(A)が溶融または軟化することにより熱接着成分となり、構成繊維同士を接着し、全体として一体化した乾式短繊維不織布を得る。また、この短繊維不織布は、共重合ポリエステル(A)を接着成分として構成繊維同士が熱接着しているものであり、共重合ポリエステル(A)は温水に可溶性を有するため、得られた短繊維不織布を温水中に浸漬すると、接着成分である共重合ポリエステル(A)が溶け出し、接着されていた構成繊維同士は、接着が解かれて不織布形態が崩壊する。本発明の複合繊維を用いれば、温水下で良好に崩壊する短繊維不織布を得ることができる。
本発明のポリエステル複合繊維によれば、繊維を得るにあたっては、紡糸・延伸性が良好で、取扱いが容易であり、ポリエステル複合繊維の繊維表面の少なくとも一部を形成する共重合ポリエステル(A)は、常温や室温での水には難溶性であり、あるいは常温または室温の水中にて粘着性を生じ難く、一方、温水には可溶性を有しており、熱接着繊維として用いた場合に、熱接着性が良好な繊維製品が得られる。
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)相対粘度:
濃度0.5%のフェノール/四塩化エタンの等質量混合溶液を溶媒とし、ウベローデ粘度計を使用して、温度20℃で測定した。
(b)ポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)およびポリエステル(B)の融点(Tm):
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。
(c)共重合ポリエステル(A)の軟化温度(Ts):
柳本製作所社製の自動軟化点測定装置AMP−2型を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
(d)共重合ポリエステル(A)、ポリエステル(B)のポリマー組成:
得られたポリエステル複合短繊維を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA−400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(f)紡糸操業性:
紡糸の状況により下記の2段階で評価した。
○:紡糸時の切れ糸回数が1回/トン以下であり、単糸間の膠着が発生しない。
×:紡糸時の切れ糸回数が1回/トンを超えるか、単糸間の膠着が発生した。
(g)延伸操業性:
延伸の状況により下記の2段階で評価した。
○:繊維の膠着が発生しない。
×:繊維の膠着が発生した。
(h)風合い:
得られた不織布の風合いを目視・触感にて判定し、良好なものを○、不良なものを×として2段階で評価した。
(i)温水中の可溶性:
得られた不織布(大きさ2cm×2cm)を、浴比1:40として、容量100ccのビーカー中に、60℃の温水(約100cc)とともに投入し、撹拌棒を用いて3分間攪拌した後、目視にて不織布の水解性を下記の2段階で評価した。
○:不織布の形態が崩壊したことを確認できた。
×:不織布の形態が保持されており、崩壊しない。
実施例、比較例において、ポリエステル(B)として、以下のポリマー組成、融点(Tm)を有するポリエステルを用いた。
(B−1):テレフタル酸/エチレングリコール=100/100(モル比)、融点256℃、相対粘度1.385
(B−2):テレフタル酸/1,4−ブタンジオール=100/100(モル比)、融点225℃、相対粘度1.510
(B−3):テレフタル酸/エチレングリコール/1,4−ブタンジオール=100/50/50(モル比)、融点180℃、相対粘度1.405
(B−4):L−乳酸/D−乳酸=98.6/1.4(モル比)、融点169℃、相対粘度1.925
(B−5):テレフタル酸/イソフタル酸/エチレングリコール=70/30/100(モル比)、流動開始温度140℃、相対粘度1.380
なお、(B−5)のポリマーは、結晶性が低く明確な融点がなかったため、流動開始温度を融点とみなした。流動開始温度の測定は、以下の方法による。すなわち、フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重9.8MPa、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度として求めた。
実施例1
エステル化反応缶に、テレフタル酸とエチレングリコールのスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%の反応物を得た。この反応物をバッチ式エステル化反応缶に移送し、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル5−スルホン酸ナトリウム塩、エチレングリコール、ジエチレングルコール、酢酸リチウムー水塩、ヒンダードフェノール系酸化防止剤をバッチ式エステル化反応缶へ投入し、温度230℃、常圧下で6時間エステル化反応を行い、エステル化反応物を得た。
次に、この反応物をバッチ式重縮合反応缶に移送し、重合触媒として三酸化アンチモンをバッチ式重縮合反応缶へ投入した後、反応器内の圧力を除々に減じ、攪拌しながら重縮合反応を約4時間行い、常法によりストランド状に払い出し、チップ化した。得られた共重合ポリエステル(A)は、酸成分としてテレフタル酸(TPA)57mol%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)8mol%、イソフタル酸(IPA)35mol%、グリコール成分としてエチレングルコール(EG)83mol%、ジエチレングルコール(DEG)15mol%、さらに副生成物としてトリエチレングリコール(TEG)2mol%からなり、軟化温度135℃、ガラス転移温度61℃、相対粘度1.217のものであった。
ポリエステル(B)として(B−1)のポリマーを用い、共重合ポリエステル(A)チップとポリエステル(B−1)チップを複合紡糸装置に供給し、共重合ポリエステル(A)が鞘部、ポリエステル(B−1)が芯部となる芯鞘形状となるようにし、両成分の質量比を50/50として溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度290℃、吐出量880g/分、紡糸孔数1014、紡糸速度1170m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を16℃の冷風で冷却し、22℃の親水系紡糸油剤を付与しながら、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束して11万dtexのトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率3.60倍、延伸温度50℃で延伸を行い、この後、押し込み式クリンパーで捲縮を付与し、続いて仕上げ油剤を付与した後、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.4dtexのポリエステル複合繊維を得た。
得られたポリエステル複合繊維を熱接着繊維とし、主体繊維としてポリエチレンテレフタレート(PET、融点256℃、繊度2.2dtex、繊維長51mm、強度5.5cN/dtex、伸度40%)の短繊維を用い、混合比率を質量比70/30(バインダー繊維/主体繊維)でカード機を通して乾式ウエブを作成した。得られた乾式ウエブを温度145℃、風量57m3/分の連続熱処理機で1分間の熱処理を行い、目付け30g/mの乾式不織布を得た。
実施例2〜
共重合ポリエステル(A)を表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
実施例
ポリエステル(B)として(B−2)のポリマーを用い、紡糸温度を275℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
実施例
共重合ポリエステル(A)を表1に示す相対粘度に変更し、ポリエステル(B)として(B−3)のポリマーを用い、紡糸温度を240℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
実施例
主体繊維としてポリ乳酸(PLA、融点169℃、繊度1.7dtex、繊維長51mm、強度2.9cN/dtex、伸度50%)の短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
実施例
熱接着繊維/主体繊維の混合比率を質量比100/0としたこと以外は、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
実施例
共重合ポリエステル(A)を表1に示す相対粘度に変更し、ポリエステル(B)として(B−4)のポリマーを用い、紡糸温度を230℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。さらに、実施例と同様に、主体繊維としてポリ乳酸を用いて乾式不織布を得た。
実施例10
実施例と同様にして得たポリエステル複合繊維を熱接着繊維として用い、熱接着繊維/主体繊維の混合比率を質量比100/0としたこと以外は、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
比較例1〜4
共重合ポリエステル(A)を表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして比較例1〜4の乾式不織布を得た。
比較例5
ポリエステル(B)として(B−5)のポリマーを用い、紡糸温度を275℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
実施例1〜1、比較例1〜5で得られたポリエステル複合繊維及び乾式不織布の特性値、評価結果を表1に示す。
表1から明らかなように、実施例1〜1のポリエステル複合繊維は、紡糸、延伸操業性が良好であり、繊維の膠着も発生せず、問題なく採取することができた。そして、これらのポリエステル複合繊維からは、風合いが良好で、且つ高い水解性を有する不織布を得ることができた。
一方、比較例1のポリエステル複合繊維は、共重合ポリエステル(A)の5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量が少なすぎたため、得られた不織布は温水中で崩壊しなかった。また、比較例2のポリエステル複合繊維は、共重合ポリエステル(A)の5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量が多すぎたため、紡糸、延伸時に膠着が発生し、得られた不織布の風合いは硬いものであった。比較例3のポリエステル複合繊維は、共重合ポリエステル(A)のジエチレングルコールの共重合量が多すぎたため、ガラス転移温度(Tg)が低く、延伸時に膠着が発生した。比較例4のポリエステル複合繊維は、共重合ポリエステル(A)のジエチレングルコールの共重合量が少なすぎたため、ガラス転移温度(Tg)が高く、得られた不織布は温水中で崩壊しなかった。比較例5のポリエステル複合繊維は、ポリエステル(B)の流動開始温度が低かったため、得られた不織布の寸法安定性が低く、風合いが硬いものであった。

Claims (2)

  1. 短繊維不織布を得る際に用いる複合繊維であって、
    エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする共重合ポリエステルであって、酸成分が、テレフタル酸50〜57モル%、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸6〜12モル%、イソフタル酸35〜38モル%により構成され、ジオール成分が、エチレングリコールを70〜90モル%、ジエチレングリコールを10〜30モル%含み、ガラス転移温度が50〜65℃、軟化温度が110〜145℃である共重合ポリエスエル(A)と、
    融点が160℃以上のポリエステル(B)とからなる複合繊維であり、
    該複合繊維の横断面において、共重合ポリエステル(A)が、繊維表面の少なくとも一部を占めるように配され、
    共重合ポリエステル(A)は50℃以上の温水に可溶性であり、ポリエステル(B)は50℃以上の温水に不溶性であり、
    短繊維不織布を得る際に、前記共重合ポリエステル(A)が繊維同士を接着する熱接着成分として機能することを特徴とするポリエステル複合繊維。
  2. 請求項1記載の複合繊維を含む短繊維不織布であり、短繊維不織布は、前記複合繊維の共重合ポリエステル(A)により構成繊維同士が接着されてなり、かつ前記短繊維不織布は、50℃以上の温水にて、共重合ポリエステル(A)が溶け出し、不織布形態が崩壊するものであることを特徴とする短繊維不織布。
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