以下に、本発明の第一の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
図1〜図7は本発明の第一の実施形態に係る薄膜形成装置の説明図であり、図1は第一の実施形態に係る薄膜形成装置を上方から見た説明図、図2は図1の薄膜形成装置を矢視A−A'方向に見た側面図、図3は図1の成膜プロセス領域20Aを拡大して示した説明図、図4は図3の成膜プロセス領域20Aを基板側から見た状態を示す説明図、図5は第一の実施形態に係る薄膜形成装置の機能的構成を示すブロック図、図6は水晶膜厚センサの斜視図、図7は図1の反応プロセス領域60Aの周辺を拡大して示した説明図である。
本実施形態では、薄膜形成装置としてスパッタの一例であるマグネトロンスパッタを行う薄膜形成装置を用いているが、本発明の薄膜形成装置としては、このようなマグネトロンスパッタに限定されず、マグネトロン放電を用いない2極スパッタ等の他の公知のスパッタを行う薄膜形成装置を用いることもできる。
また、本実施形態では、成膜プロセス領域20Aのみを設けて、1種類の材料からなるターゲットをスパッタしているが、成膜プロセス領域20Aとは別の領域にもうひとつの成膜プロセス領域を設けて、それぞれ異なる種類のターゲットをスパッタすることで、2種類の金属材料からなる複合薄膜を形成するようにしてもよい。
本実施形態の薄膜形成装置では、ターゲットをスパッタして膜原料物質を基板表面に付着させることで目的の膜厚よりも相当程度薄い薄膜を基板表面に付着するスパッタ処理工程と、この膜原料物質に対して酸化などの処理を行って薄膜の組成を変換するプラズマ処理工程とにより基板表面に中間薄膜を形成し、このスパッタ処理工程とプラズマ処理工程を複数回繰り返すことで、中間薄膜を複数層積層して目的の膜厚を有する最終薄膜を基板表面に形成している。
具体的には、スパッタ処理工程とプラズマ処理工程によって組成変換後における膜厚の平均値が0.01〜1.5nm程度の中間薄膜を基板表面に形成する工程を、回転ドラムの回転毎に繰り返すことにより複数の中間薄膜が積層し、目的とする数nm〜数百nm程度の膜厚を有する最終薄膜を形成している。
以下、本発明の一実施形態に係る薄膜形成装置について説明する。図1は本実施形態に係る薄膜形成装置を上方から見た説明図であり、薄膜形成装置を構成する部材等の一部を断面にして模式的に示してある。この図に示すように、本実施形態の薄膜形成装置1は、真空容器11と、回転ドラム13と、スパッタ手段20と、スパッタガス供給手段30と、プラズマ発生手段60と、反応性ガス供給手段70と、を主要な構成要素としている。なお、図中では、スパッタ手段20は破線、スパッタガス供給手段30は一点鎖線、プラズマ発生手段60は破線、反応性ガス供給手段70は二点鎖線で囲んで表示している。
真空容器11は、公知の薄膜形成装置で通常用いられるようなステンレススチール製で、ほぼ直方体形状をした中空体である。真空容器11の内部は、開閉扉としての扉11Cによって薄膜形成室11Aとロードロック室11Bに分けられる。真空容器11の上方には扉11Cを収容する図示しない扉収納室が接続されており、扉11Cは真空容器11の内部と扉収納室の内部との間でスライドすることで開閉する。
真空容器11には、ロードロック室11Bと真空容器11の外部とを仕切るための扉11Dが設けられている。扉11Dはスライドまたは回動することで開閉する。真空容器11の内部の薄膜形成室11Aには、排気用の配管16a−1が接続され、この配管16a−1には真空容器11内を排気するための真空ポンプ15aが接続されている。
配管16a−1の一端は開口しており、この開口は真空容器11内の成膜プロセス領域20Aと反応プロセス領域60Aとの間に位置している。このような配置とすることで、成膜プロセス領域20Aで飛散した膜原料物質を真空ポンプ15aで吸引することが可能となり、成膜プロセス領域20Aから飛散した膜原料物質が反応プロセス領域60Aに侵入して基板の表面やプラズマ発生手段60を汚染することを防止できる。また、真空容器11の内部のロードロック室11Bには、排気用の配管16bが接続され、この配管16bには真空容器11内を排気するための真空ポンプ15bが接続されている。
本実施形態の薄膜形成装置は、このようなロードロック室11Bを備えているため、薄膜形成室11A内の真空状態を保持した状態で基板の搬入出を行うことが可能となる。従って、基板を搬出する毎に真空容器内を脱気して真空状態にする手間を省くことが可能となり、高い作業効率で成膜処理を行うことができる。
なお、本実施形態の真空容器11は、ロードロック室11Bを備えるロードロック方式を採用しているが、ロードロック室を設けないシングルチャンバ方式を採用することも可能である。また、複数の真空室を備え、それぞれの真空室で独立に薄膜形成を行うことが可能なマルチチャンバ方式を採用することも可能である。
回転ドラム13は、表面に薄膜を形成させる基板Sを真空容器11内で保持するための筒状の部材であり、本発明の基体保持手段に該当する。図2は図1の薄膜形成装置を矢視A−A'方向に見た説明図であり、説明を容易にするため薄膜形成装置を構成する部材等の一部を断面にして記載してある。この図に示すように、回転ドラム13は、複数の基板保持板13aと、これらの基板保持板13aを支持するフレーム13bと、基板保持板13a及びフレーム13bを締結する締結具13cと、を主要な構成要素としている。
基板保持板13aは、ステンレススチール製の平板状部材であり、複数の基板Sを保持するための複数の基板保持孔が形成されている。この基板保持孔は、基板保持板13aの長手方向に沿って板面中央部に一列に配列されている。基板Sは、基板保持板13aの基板保持孔に収納された状態で、脱落しないようにネジ部材等を用いて基板保持板13aに固定されている。また、基板保持板13aの長手方向における両端部には、後述する締結具13cを挿通可能なネジ穴が穿設されている。
フレーム13bはステンレススチール製の材料で形成されており、上下に配設された2つの環状部材で構成されている。フレーム13bのそれぞれの環状部材には、基板保持板13aを取り付けた時に基板保持板13aのそれぞれのネジ穴と対応する位置にネジ穴が形成されている。締結具13cはボルト及びナットで構成され、ボルトを基板保持板13a及びフレーム13bのネジ穴に挿通してナットで固定することにより基板保持板13aはフレーム13bに固定される。なお、本実施形態における回転ドラム13は、平板状の基板保持板13aを複数配置しているため横断面が多角形をした多角柱状をしているが、このような多角柱状のものに限定されず、中空の円筒状や円錐状のものであってもよい。
基板Sは、表面に薄膜が形成される成膜処理対象であり、本発明の基体に該当する。本実施形態では、基板Sはガラス製の円板状部材であるが、本発明の基体としては本実施形態のような円板状に限定されず、レンズ状や管状などの他の形状であってもよい。また、基板Sの材質も本実施形態のようなガラス製に限定されず、プラスチック製や金属製などであってもよい。
真空容器11の内部に設置された回転ドラム13は、図1に示す薄膜形成室11Aとロードロック室11Bの間を移動できるように構成されている。本実施形態では、真空容器11の底面にレール(不図示)が設置されており、回転ドラム13はこのレールに沿って移動する。回転ドラム13は、円筒の筒方向の回転軸線Z(図2参照)が真空容器11の上下方向になるように真空容器11内に配設される。基板保持板13aをフレーム13bに取り付ける際やフレーム13bから取り外す際には、回転ドラム13はロードロック室11Bに搬送されて、ロードロック室11B内で回転可能な状態にロックされる。一方、成膜中にあっては、回転ドラム13は薄膜形成室11Aに搬送されて、薄膜形成室11A内で回転可能な状態にロックされる。
図2に示すように、回転ドラム13の下側に位置する真空容器11の外部には、回転ドラム駆動モータ17が設置されている。この回転ドラム駆動モータ17は、出力軸としてモータ回転軸18aを備えており、モータ回転軸18aは真空容器11の下壁面を貫通して真空容器11の内部に延設されている。
回転ドラム13の下面中心部はモータ回転軸18aの上面と係合する形状になっている。回転ドラム13とモータ回転軸18aは、モータ回転軸18aの中心軸線と回転ドラム13の中心軸線とが一致するよう位置決めされた状態で、回転ドラム13の下面とモータ回転軸18aの上面が係合することにより固定されている。回転ドラム13下面のモータ回転軸18aと係合する面は絶縁部材で構成されている。これにより、基板における異常放電を防止することが可能となる。また、真空容器11の壁面とモータ回転軸18aの側面との間は、Oリングで気密が保たれている。
真空容器11内の真空状態を維持した状態で、真空容器11の下部に設けられた回転ドラム駆動モータ17を駆動させることによってモータ回転軸18aが回転する。この回転に伴って、モータ回転軸18aに連結された回転ドラム13は回転軸線Zを中心に回転する。各基板Sは回転ドラム13上に保持されているため、回転ドラム13が回転することで回転軸線Zを公転軸として公転する。
回転ドラム13の上面にはドラム回転軸18bが設けられており、回転ドラム13の回転に伴ってドラム回転軸18bも回転するように構成されている。真空容器11の上面には開口しており、ドラム回転軸18bはこの開口を通じて真空容器11の外部に延出している。この開口の内周面には軸受が設けられており、ドラム回転軸18bはこの軸受に軸承されることで、回転ドラム13の回転をスムーズに行えるようにしている。また、この開口の内周面とドラム回転軸18bの間は、Oリングで気密が保たれている。
次に、基板Sの表面に薄膜を形成する成膜プロセス領域20Aと反応プロセス領域60Aについて説明する。図1に示すように、真空容器11の内壁には、回転ドラム13へ面した位置に仕切壁12と仕切壁14が立設されている。本実施形態における仕切壁12と仕切壁14は、真空容器11と同じくステンレススチール製の部材である。図3および図4に示すように、仕切壁12は、上下左右が回転ドラム13に向けて突出した形状をしており、真空容器11の内壁面から回転ドラム13に向けて四方を囲んだ状態となっている。なお、仕切壁14についても仕切壁12と同様の形状をしている。これにより、成膜プロセス領域20Aと反応プロセス領域60Aがそれぞれ真空容器11内で区画される。
図1に示すように、真空容器11の側壁は真空容器11の外方に向けて凹んだ横断面凹状をしており、この凹部底面をなす壁面にはスパッタ手段20が設置されている。成膜プロセス領域20Aは、真空容器11の内壁面,仕切壁12,及び回転ドラム13の外周面に囲繞された領域に形成されている。成膜プロセス領域20Aでは、基板Sの表面に膜原料物質を付着させるためのスパッタ処理がスパッタ手段20により行われる。
また、成膜プロセス領域20Aから回転ドラム13の回転軸を中心として90°離間した真空容器11の側壁もまた、真空容器11の外方に向けて凹んだ横断面凹状をしており、この凹部底面をなす壁面にはプラズマ発生手段60が設置されている。反応プロセス領域60Aは、真空容器11の内壁面,仕切壁14,及び回転ドラム13の外周面に囲繞された領域に形成されている。反応プロセス領域60Aでは、基板Sの表面に付着した膜原料物質に対してプラズマ発生手段60によりプラズマ処理が行われて中間薄膜が形成される。
回転ドラム駆動モータ17によって回転ドラム13が回転すると、回転ドラム13の外周面に保持された基板Sが回転軸線Zを中心として公転して、成膜プロセス領域20Aに面する位置と、真空容器11内に露出する位置と、反応プロセス領域60Aに面する位置と、真空容器11内に露出する位置との間を繰り返し移動する。そして、このように基板Sが公転することで、成膜プロセス領域20Aでのスパッタ処理と、反応プロセス領域60Aでのプラズマ処理とが順次繰り返し行われて、基板Sの表面に最終薄膜が形成される。
(成膜プロセス領域20A)
以下に、本発明の成膜プロセス領域20Aについて説明する。この成膜プロセス領域20Aは本発明の膜原料物質供給手段に相当する。図3は図1の成膜プロセス領域20Aを拡大して示した説明図、図4は図1の成膜プロセス領域20Aを基板側から見た状態を示す説明図である。なお、図3では、回転ドラム13については一部のみ示してその他の部分については省略して記載してある。また、図4では、シールド上での水晶膜厚センサ43a,43bの位置をわかりやすく表示するため、本来は見えない位置にある各水晶膜厚センサ43a,43bの位置を点線で示してある。
図3に示すように、本発明の成膜プロセス領域20Aにはスパッタ手段20が設置されている。スパッタ手段20は、一対のターゲット22a,22bと、これらのターゲット22a,22bをそれぞれ保持する一対のマグネトロンスパッタ電極21a,21bと、マグネトロンスパッタ電極21a,21bに電力を供給する交流電源24と、マグネトロンスパッタ電極21a,21bに供給される電力を調整するトランス23と、により構成される。
真空容器11の壁面は、真空容器11の外方に向けて凹んだ横断面凹状をしており、この凹部底面の内壁を貫通してマグネトロンスパッタ電極21a,21bが設置されている。このマグネトロンスパッタ電極21a,21bは、接地電位にある真空容器11に不図示の絶縁部材を介して固定されている。
本実施形態のターゲット22a,22bは、膜原料物質を平板状に形成した形状をしており、回転ドラム13の側面に対向するようマグネトロンスパッタ電極21a,21bにそれぞれ保持される。ターゲットの材質としては、製造する光学製品の目的にあった任意の材料、例えば、ケイ素,ニオブ,チタン,アルミニウム,ゲルマニウムなどの金属やこれらの酸化物や窒化物などから選択することが可能である。なお、ターゲットの形状としては、このような平板状に限定されず、円板状などの他の形状であってもよい。なお、本実施形態では、ターゲット22a,22bとしてケイ素(Si)を用いている。
マグネトロンスパッタ電極21a,21bは、複数の磁石が所定の方向に配置された構造を有している。マグネトロンスパッタ電極21a,21bは、トランス23を介して交流電源24に電気的に接続され、両電極に1k〜100kHzの交番電界が印加できるように構成されている。マグネトロンスパッタ電極21a,21bには、ターゲット22a,22bがそれぞれ保持されている。本実施形態において、ターゲット22a,22bの形状は平板状であり、図2に示すように、ターゲット22a,22bの長手方向が回転ドラム13の回転軸線Z(図2参照)と平行になるように設置されている。
図3に示すように、成膜プロセス領域20Aの周辺には、スパッタガス及び反応性ガスの混合ガスを成膜プロセス領域20A内に供給するためのスパッタガス供給手段30が設けられている。スパッタガス供給手段30は、スパッタガス貯蔵手段としてのスパッタガスボンベ32と、スパッタガスの流量を調整するスパッタガス流量調整手段としてのマスフローコントローラ31と、反応性ガス貯蔵手段としての反応性ガスボンベ34と、反応性ガスの流量を調整する反応性ガス流量調整手段としてのマスフローコントローラ33と、スパッタガス及び反応性ガスを成膜プロセス領域20A内に供給するガス供給路としての配管35と、を主要な構成要素として具備している。なお、スパッタガスとしては、例えばアルゴンやヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。また、反応性ガスとしては、例えば酸素や窒素などが挙げられる。
スパッタガスボンベ32、マスフローコントローラ31はいずれも真空容器11の外部に設けられている。マスフローコントローラ31は、スパッタガスを貯蔵する単一のスパッタガスボンベ32に配管を介してそれぞれ接続されている。
マスフローコントローラ31は配管35に接続されている。配管35は、真空容器11の側壁を貫通して成膜プロセス領域20A内のターゲット22a,22bの下部に延びている。配管35の端部には導入口35aが形成されており、図4に示すように、この導入口35aはターゲット22a,22bの下部中心付近に配置され、ターゲット22a,22bの前面中心方向に向かって開口している。
次に、マスフローコントローラ31,33について説明する。マスフローコントローラ31,33は、いずれもガスの流量を調節する装置であり、ガスボンベからのガスが流入する流入口と、ガスを真空容器11側へ流出させる流出口と、ガスの質量流量を検出するセンサと、ガスの流量を調整するコントロールバルブと、流入口より流入したガスの質量流量を検出するセンサと、センサにより検出された流量に基づいてコントロールバルブの制御を行う電子回路とを主要な構成要素として備えている(いずれも不図示)。電子回路には外部から所望の流量を設定することが可能となっている。
スパッタガスボンベ32からのスパッタガスは、マスフローコントローラ31により流量を調節されて配管35内に導入される。同様に、反応性ガスボンベ34からの反応性ガスは、マスフローコントローラ33により流量が調整されて配管35に導入される。配管35内の導入されたスパッタガス及び反応性ガスは、配管35内で混合されて成膜プロセス領域20A側へ移送され、成膜プロセス領域20Aのターゲット22a,22bの前面に向けて導入口35aから供給される。
スパッタガス供給手段30から成膜プロセス領域20A内にスパッタガスが供給されると、ターゲット22a,22bの周辺が不活性ガス雰囲気となる。この状態でマグネトロンスパッタ電極21a,21bに交流電源24から交番電極が印加されると、ターゲット22a,22b周辺のスパッタガスの一部は電子を放出してイオン化する。マグネトロンスパッタ電極21a,21bに配置された磁石によりターゲット22a,22bの表面に漏洩磁界が形成されるため、この電子はターゲット表面近傍に発生した磁界中を、トロイダル曲線を描きながら周回する。この電子の軌道に沿って強いプラズマが発生し、このプラズマに向けてスパッタガスのイオンが加速されてターゲット22a,22bに衝突することでターゲット22a,22bの表面の原子や粒子がターゲット22a,22bから叩き出される。
この原子や分子は薄膜の原料である膜原料物質であり、ターゲット22a,22bから叩き出された原子や粒子は、ターゲット22a,22bと基板Sの間の空間を飛翔して移動し、その一部が基板Sの表面に付着する。
本実施形態では、成膜プロセス領域20Aにスパッタガスのみならず反応性ガスも供給している。このため、ターゲット22a,22bの表面や、ターゲット22a,22bから飛翔する膜原料物質中の原子や粒子、基板Sの表面に付着した膜原料物質中の原子や粒子の一部がこの反応性ガスと反応する。
成膜プロセス領域20Aを形成する真空容器11の内壁面には、ターゲット22a,22bの前面方向に向けて左右一対のシールド41a,41bが取り付けられている。図4に示すように、シールド41a,41bは、真空容器11と同様にステンレススチール製部材であり、平板状をしている。シールド41a,41bは、それぞれターゲット22a,22bの前面の両側部を遮蔽するように図示しないネジなどを用いて真空容器11の内壁面に固定されており、ターゲット22a,22bから飛翔する膜原料物質が基板Sに対して垂直方向に入射するように入射方向を規制する役割を果たす。また、シールド41a,41bは、ターゲット22a,22bの両側を遮蔽することで、膜原料物質が成膜プロセス領域20A外の真空容器11に膜原料物質が飛散して装置や基板を汚染することを防止する。
図3及び図4に示すように、シールド41a,41bの先端部付近には、ターゲット22a,22bに向けてそれぞれ水晶膜厚センサ43a,43bが取り付けられている。図5に示すように、この水晶膜厚センサ43a,43bは、真空容器11の外部に設けられた膜厚演算コンピュータ42と電気的に接続されている。更に、膜厚演算コンピュータ42は、膜厚制御装置90に電気的に接続されている。なお、水晶膜厚センサ43a,43bは本発明の膜厚測定部に相当し、膜厚演算コンピュータ42は膜厚演算部に相当する。そして、水晶膜厚センサ43a,43b及び膜厚演算コンピュータ42によって、本発明の膜厚測定手段が構成される。また、膜厚制御装置90は膜厚調整手段に相当する。以下、図5を用いて膜厚測定手段による膜厚測定の原理について詳細に説明する。
図5は本実施形態に係る薄膜形成装置の機能的構成を示すブロック図である。水晶膜厚センサ43a,43bの内部には、それぞれ水晶振動子を備えたセンサ素子45が設けられている。この水晶振動子は、交流電場が印加されて周期的に共振振動しており、水晶振動子の表面に物質が付着するとその付着量に応じて水晶振動子の共振振動数が変化する。水晶膜厚センサ43a,43bは、それぞれこの共振振動数の変化をA/D変換回路48にてデジタル信号に変換して、膜厚演算コンピュータ42に出力する。膜厚演算コンピュータ42では、この電流値の変化に基づいて、水晶振動子に付着した物質の量を測定する。
膜厚演算コンピュータ42は、水晶膜厚センサ43a,43bで測定した付着量に基づいて、基板Sに実際に形成された膜厚を演算する機能を有する。本実施形態では、膜厚演算コンピュータは、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、入力端子、及び出力端子等を備えており、この入力端子から水晶膜厚センサ43a,43bで測定した付着量の電流値が入力される。
この水晶膜厚センサ43a,43bは、いずれもターゲット22a,22bと基板Sとの間であって、且つターゲット22a,22bから供給される膜原料物質が付着する位置に固定されている。このため、マグネトロンスパッタ電極21a,21bに電力が供給されてターゲット22a,22bがスパッタされている間は、水晶膜厚センサ43a,43bのそれぞれのセンサ素子45に常に継続的に膜原料物質が付着する。
一方、基板Sは回転ドラム13の回転軸を中心に回転しており、成膜プロセス領域20Aに面した回転位置にあるときのみ、基板Sの表面に膜原料物質が付着する。それ以外の回転位置では、基板Sに膜原料物質は実質的に付着しない。すなわち、水晶膜厚センサ43a,43bの場合と異なり、基板Sには回転ドラム13の回転により一定周期毎に間欠的に膜原料物質が付着して薄膜が形成される。このため、基板Sに実際に形成される薄膜の膜厚よりも水晶膜厚センサ43a,43bに付着する膜原料物質の膜厚の方が厚くなる。
水晶膜厚センサ43a,43bの水晶振動子に付着する膜原料物質の膜厚と基板Sに形成される薄膜の膜厚は、成膜レートや回転ドラム13の回転速度が一定である場合はほぼ比例関係にあるため、水晶振動子に付着した膜原料物質の付着量に基づいて基板Sに形成された薄膜の膜厚を間接的に算出することができる。また、成膜レートや回転ドラムの回転速度が一定でない場合であっても、水晶振動子に付着した膜原料物質の付着量から成膜レートなどの条件による変動分を補正することで、基板Sに形成された薄膜の膜厚を間接的に算出することが可能である。なお、ここで成膜レートとは、単位時間あたりに基板上に形成される薄膜の膜厚をいう。
このように、水晶膜厚センサ43a,43bに付着する膜原料物質の膜厚は、基板Sに実際に形成される薄膜の膜厚よりも厚いため、水晶振動子の付着量に基づいて基板Sの膜厚を演算することで、基板Sの表面に実際に形成される薄膜の膜厚を測定する従来の薄膜形成装置よりも、より高い感度で膜厚を測定することができる。このため、ごく薄い薄膜を複数積層して光学製品を製造する際にも、基板に形成される薄膜の膜厚を高い精度で測定することが可能となる。
図3を用いて具体的に説明すると、回転ドラム13の外周面上においてターゲット22a,22bから膜原料物質が付着する領域の外周長をLとして、回転ドラム13の中心Oから基板Sまでの距離(すなわち、回転ドラム13の半径)をRとしたとき、成膜レートや回転ドラムの回転速度が一定である場合は、水晶膜厚センサ43a,43bで測定する膜厚と基板Sでの実際の膜厚との比は、ほぼ2πR:Lとなる。すなわち、水晶膜厚センサ43a,43bで測定される膜厚のほぼL/2πR倍した膜厚が、理論的には基板Sの表面に実際に形成される薄膜の膜厚となる。
なお、長さLの値は、ターゲットと基板との距離や回転ドラムの半径などの条件にもよるが、ターゲットと基板との距離が比較的接近しており、回転ドラム13の半径が十分に大きい場合は、左右両側に配置されたシールド41a,41bにより形成される開口の距離とほぼ等しくなる。従って、左右両側のシールド41a,41bの端部間の距離を長さLに近似して、水晶膜厚センサ43a,43bの測定値と基板Sの膜厚との倍率を算出することも可能である。
実際の成膜では、ターゲットのエロージョンなどの要因により上記倍率と多少の誤差がある。また、図1に示すような成膜プロセス領域20Aと反応プロセス領域60Aとが離間して形成された薄膜形成装置では、反応プロセス領域60Aで薄膜と反応性ガスが反応すると薄膜の膨張などが起きて、反応前と反応後で膜厚が変化する。
そこで、水晶膜厚センサ43a,43bの値と基板Sの膜厚との間の比率を相関関係データとして事前に実際に成膜した結果に基づいて経験的に決定しておき、その相関関係を膜厚相関関係データとして膜厚演算コンピュータ42のハードディスク等に記憶している。また、水晶膜厚センサ43a,43bから入力された付着量とこの膜厚相関関係データから基板Sに形成される薄膜の膜厚を演算する膜厚演算プログラムを記憶している。
そして、膜厚演算時にはハードディスクに記憶された膜厚演算プログラムと膜厚相関関係データをRAMに読み出し、水晶膜厚センサ43a,43bで測定した付着量の値をもとに、膜厚演算コンピュータ42のCPUによって基板Sの膜厚の演算が行われる。
次に、本発明の膜厚測定部である水晶膜厚センサ43a,43bについて説明する。図6は水晶膜厚センサ43aを斜め上方から見た斜視図であり、(a)はシャッタ46により膜原料物質がセンサ素子45へ付着することが阻止された状態、(b)はシャッタ46が回動して膜原料物質がセンサ素子45に付着可能となった状態を示す。この図に示すように、水晶膜厚センサ43aは、一端がターゲット22a,22bに向けて開口した円筒状のケース44と、このケース44の内部に収容され水晶振動子を備えたセンサ素子45と、ケース44の開口を覆うシャッタ46と、ケース44内部に収納されシャッタ46を回動するシャッタ駆動モータ47と、A/D変換回路48と、を備えている。
ケース44は、シールド41aのターゲット22a,22b側に面する板面に設置され、円筒の一方の開口がターゲット22a,22bに向くように配置されている。このケース44の開口付近には、センサ素子45がターゲット22a,22bの方向を向くように取り付けられている。シャッタ46は円板状部材であり、その板面を貫通して円形の透孔46aが形成されている。シャッタ駆動モータ47はステッピングモータ等の公知のモータであり、シャッタ駆動モータ47の出力軸はシャッタ46の中心部と接続されている。そして、シャッタ駆動モータ47を回動することによりシャッタ46が回動してシャッタ46の透孔46aとセンサ素子45の位置が一致した場合に、ターゲット22a,22bから供給される膜原料物質がセンサ素子45に付着する。なお、水晶膜厚センサ43bについても同様の構成となっている。
A/D変換回路48は、円板状のボード上に複数の電気素子が配設された回路であり、ケース44内のシールド41a,41b側に固定されている。A/D変換回路48は、ケース44内でセンサ素子45と電気的に接続されていると共に、真空容器11の外部に設けられた膜厚演算コンピュータ42(図5参照)とも電気的に接続されている。A/D変換回路48は、膜原料物質の付着に伴う水晶振動子の共振振動数の変化をアナログ電流値としてセンサ素子45から受信して、このアナログ値をデジタル信号に変換し、膜厚演算コンピュータ42に送信する機能を有する。更に、A/D変換回路48には、シャッタ駆動モータ47が電気的に接続しており、シャッタ駆動モータ47の回動を制御することで、シャッタ46の開閉を制御している。
このように、水晶膜厚センサ43a,43bはいずれもシャッタ46を備えているため、図6(a)に示すように、膜厚測定時以外にはシャッタ46の透孔46aとセンサ素子45の位置をずらしてセンサ素子45に膜原料物質が付着することを防止する。一方、図6(b)に示すように、膜厚測定時にはシャッタ駆動モータ47によりシャッタ46を回動して透孔46aとセンサ素子45の位置を一致させることで、センサ素子45に膜原料物質を付着させることが可能となる。このように、膜厚測定時にのみセンサ素子45に膜原料物質を付着させることができるため、測定値のノイズが少なく正確な膜厚測定を行うことが可能となる。
なお、本発明の膜厚測定部としては、このような水晶振動子を用いた水晶膜厚センサに限定されず、膜厚測定が可能な他の手段を用いることができる。例えば、シールド41a,41bのターゲットに対向する面に小型のモニタ基板を配置して、このモニタ基板に付着する薄膜の膜厚を光ファイバなどで光学的にモニタする構成としてもよい。
具体的には、モニタ基板に測定光を投光する透光用光ファイバと、モニタ基板から反射する反射光を受光する受光用光ファイバと、受光用光ファイバと接続した分光光度計を備えて、この受光した反射光からモニタ基板に形成された薄膜の膜厚を分光学的に測定する。このモニタ基板で測定する膜厚は、上述した水晶膜厚センサを用いた場合と同様に、基板Sに実際に形成される薄膜の膜厚との比率(相関関係)を有しているため、モニタ基板の膜厚を測定することで、基板Sに形成される薄膜の膜厚を間接的に測定することが可能となる。
なお、本実施形態では、ターゲットの左右に設けられたシールド41a,41bの両方に水晶膜厚センサ43a,43bを設けた構成としているが、いずれか一方のシールドにのみ水晶膜厚センサを設けるようにしてもよい。
本発明の薄膜形成装置1は、上記膜厚測定手段(すなわち、水晶膜厚センサ43a,43b及び膜厚演算コンピュータ42)で測定した基板Sの膜厚に基づいて、成膜レートや成膜時間を調整することができる。具体的には、膜厚測定手段で測定した膜厚に基づいて、膜厚制御装置90により回転ドラム13の回転速度の増減、交流電源24からターゲット22a,22bに供給される電力の増減、スパッタガス供給手段30により成膜プロセス領域20Aに供給されるスパッタガスや反応性ガスの供給量を増減して、成膜レートを調整することができる。
より詳細に説明すると、図5に示すように、膜厚制御装置90は膜厚制御信号生成部を備えている。そして、膜厚測定手段により測定した基板Sの膜厚が予め設定した膜厚よりも小さい場合は、膜厚制御装置90の膜厚制御信号生成部は、成膜レートを上げるべく、交流電源24からターゲット22a,22bに供給される電力を増加したり、あるいはスパッタガス供給手段30により成膜プロセス領域20Aに供給されるスパッタガスや反応ガスの供給量を増加させるよう膜厚制御信号を生成して各装置に送信する。
一方、膜厚測定手段により測定した基板Sの膜厚が予め設定した膜厚よりも大きい場合は、膜厚制御装置90の膜厚制御信号生成部は、成膜レートを下げるべく、交流電源24からターゲット22a,22bに供給される電力を減少したり、あるいはスパッタガス供給手段30により成膜プロセス領域20Aに供給されるスパッタガスや反応ガスの供給量を減少させるよう膜厚制御信号を生成して各装置に送信する。
また、成膜時間を調整することによって膜厚を調整することも可能である。すなわち、膜厚測定手段により測定した基板Sの膜厚が予め設定した膜厚よりも小さい場合は、膜厚制御装置90は、所定の成膜終了時間で成膜を終了せずに成膜時間を延長するよう、予め設定した膜厚まで膜厚を増加させる。一方、水晶膜厚センサ43a,43b及び膜厚演算コンピュータ42により測定した基板Sの膜厚が予め設定した膜厚よりも大きい場合は、膜厚制御装置90は、所定の成膜終了時間よりも前に成膜を終了させることで成膜時間を短縮して、予め設定した膜厚で成膜を終了する。なお、これらの膜厚制御方法は、いずれか1つのみを用いて膜厚を調整してもよいし、複数の方法を組み合わせて膜厚を調整してもよい。
本実施形態では、水晶膜厚センサ43a,43bはシールド41a,41bに設けられているが、ターゲット22a,22bと基板Sとの間であって、且つターゲット22a,22bから供給される膜原料物質が付着可能な位置であればシールド以外の位置に設けてもよい。例えば後述するように、ターゲット22a,22bと基板Sとの間に膜厚を補正するための膜厚補正板を設けて、この膜厚補正板に膜厚センサを取り付ける構成としてもよい。
(反応プロセス領域60A)
続いて、図7を用いて反応プロセス領域60Aについて説明する。上述したように、反応プロセス領域60Aでは、成膜プロセス領域20Aで基板Sの表面に付着した膜原料物質をプラズマ発生手段60でプラズマ処理して、膜原料物質の完全反応物や不完全反応物からなる中間薄膜を形成している。
反応プロセス領域60Aに面する側の仕切壁14の壁面には、熱分解窒化硼素(Pyrolytic Boron Nitride)からなる図示しない保護層が被覆されている。更に、真空容器11の内壁面の反応プロセス領域60Aに面する部分にも熱分解窒化硼素からなる保護層が被覆されている。熱分解窒化硼素は、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition)を利用した熱分解法によって仕切壁14や真空容器11の内壁面へ被覆される。
プラズマ発生手段60は、ケース体61と、誘電体板62と、アンテナ63と、マッチングボックス64と、高周波電源65と、を有して構成されている。ケース体61は、真空容器11の壁面に形成された開口11aを塞ぐ形状を備え、図示しないボルト等により真空容器11の開口11aを塞ぐように固定されている。ケース体61が真空容器11の壁面に固定されることで、プラズマ発生手段60は真空容器11の壁面に取り付けられている。本実施形態において、ケース体61はステンレスで形成されているが、このような材料に限定されるものではない。
誘電体板62は、石英などの板状の誘電体で形成された部材である。本実施形態では、誘電体板62は石英で形成されているが、誘電体板62の材質としてはこのような石英だけではなく、Al2O3等のセラミックス材料で形成されたものでもよい。誘電体板62は、図示しない固定枠でケース体61に固定されている。誘電体板62がケース体61に固定されることで、ケース体61と誘電体板62によって囲繞された領域にアンテナ収容室61Aが形成されている。
ケース体61に固定された誘電体板62は、開口11aを介して真空容器11の内部の反応プロセス領域60Aに臨んで設けられている。このとき、アンテナ収容室61Aは、真空容器11の内部と分離している。すなわち、アンテナ収容室61Aと真空容器11の内部とは、誘電体板62で仕切られた状態で独立した空間を形成している。また、アンテナ収容室61Aと真空容器11の外部は、ケース体61で仕切られた状態で独立の空間を形成している。本実施形態では、このように独立の空間として形成されたアンテナ収容室61Aの中にアンテナ63が設置されている。なお、真空容器11の内部とアンテナ収容室61A、真空容器11の外部とアンテナ収容室61Aとの間は、それぞれOリングで気密が保たれている。
真空容器11内を排気する配管16a−1は、途中から配管16a−2が分岐している。この配管16a−2は、アンテナ収容室61Aに接続されており、アンテナ収容室61Aの内部を排気して真空状態にする際の排気管としての役割を備えている。
配管16a−1には、配管16a−2の分岐部を隔てて2つのバルブV1、V2が設けられている。これらのバルブのうち、バルブV2は真空容器11側に位置している。また、配管16a−2には、真空ポンプ15aからアンテナ収容室61Aの内部に連通する位置にバルブV3が設けられている。バルブV2,V3のいずれかを閉じることで、アンテナ収容室61Aの内部と真空容器11の内部との間での気体の移動が阻止される。真空容器11の内部の圧力や、アンテナ収容室61Aの内部の圧力は、図示しない真空計で測定される。
本実施形態の薄膜形成装置1は、図示しない圧力制御装置を備えており、この圧力制御装置には真空計の出力が入力される。圧力制御装置は、入力された真空計の測定値に基づいて、真空ポンプ15aによる排気を制御して、真空容器11の内部やアンテナ収容室61Aの内部の真空度を調整する機能を備える。本実施形態では、圧力制御装置がバルブV1,V2,V3の開閉を制御することで、真空容器11の内部とアンテナ収容室61Aの内部を同時に、又は独立して排気できる。
アンテナ63は、高周波電源65から電力の供給を受けて、真空容器11の内部の反応プロセス領域60A内に誘導電界を発生させることでプラズマを発生させるための手段である。本実施形態のアンテナ63は、銅で形成された円管状の本体部と、銀で形成され本体部の表面を被覆する被覆層を備えている。アンテナ63のインピーダンスを低減してプラズマ発生の効率を上げるためには、電気抵抗の低い材料でアンテナ63を形成することが好ましい。そこで、高周波の電流がアンテナの表面に集中するという特性を利用して、アンテナ63の本体部を安価で加工が容易な、しかも電気抵抗も低い銅で円管状に形成し、アンテナ63の表面を銅よりも電気抵抗の低い銀で被覆している。
このように構成することで、高周波に対するアンテナ63のインピーダンスを低減して、アンテナ63に電流を効率よく流すことによりプラズマを発生させる効率を高めている。本実施形態では、高周波電源65からアンテナ63に周波数1〜27MHzの交流電圧を印加して、反応プロセス領域60Aに反応性ガスのプラズマを発生させるように構成されている。
アンテナ63は、マッチング回路を収容するマッチングボックス64を介して高周波電源65に接続されている。マッチングボックス64内には、図示しない可変コンデンサが設けられている。また、アンテナ63は、導線部を介してマッチングボックス64に接続されている。導線部はアンテナ63と同様の素材からなる。ケース体61には、導線部を挿通するための挿通孔が形成されており、アンテナ収容室61A内側のアンテナ63と、アンテナ収容室61A外側のマッチングボックス64、及びマッチングボックス64と高周波電源65とは、挿通孔に挿通される導線部を介して接続される。導線部と挿通孔との間にはシール部材が設けられ、アンテナ収容室61Aの内外で気密が保たれる。
また、反応プロセス領域60Aの周辺には反応性ガス供給手段70が設けられている。反応性ガス供給手段70は、酸素ガスを貯蔵する酸素ガスボンベ71と、この酸素ガスボンベ71より供給される酸素ガスの流量を調整するマスフローコントローラ72と、アルゴンガスを貯蔵するアルゴンガスボンベ73と、アルゴンガスボンベ73より供給されるアルゴンガスの流量を調整するマスフローコントローラ74と、酸素ガス及びアルゴンガスからなる混合ガスを反応プロセス領域60Aに導入する配管75を主要な構成要素として具備している。
なお、酸素ガスボンベ71及びアルゴンガスボンベ73は成膜プロセス領域20Aの反応性ガスボンベ34及びスパッタガスボンベ32と同様の装置とすることが可能である。また、マスフローコントローラ72及びマスフローコントローラ74は、成膜プロセス領域20Aのマスフローコントローラ31,33と同様の装置を採用することが可能である。
酸素ガスボンベ71及びアルゴンガスボンベ73から配管75の導入口75aを通じて酸素ガスが反応プロセス領域60Aに導入された状態で、アンテナ63に高周波電源65から電力が供給されると、反応プロセス領域60A内のアンテナ63に面した領域にプラズマが発生する。このプラズマにより、基板Sの表面に形成された膜原料物質中のケイ素(Si)やケイ素の不完全酸化物(SiOx(ここで、0<x<2))が酸化されて、ケイ素の完全酸化物(SiO2)や不完全酸化物(SiOx(ここで、0<x<2))から形成される中間薄膜となる。
本発明の薄膜形成装置は、上述した成膜プロセス領域20Aでターゲットをスパッタして基板Sの表面に膜原料物質を付着させるスパッタ工程を行った後、回転ドラム13を回転させて基板Sを反応プロセス領域60Aに搬送する基体搬送工程を行う。そして、反応プロセス領域60Aには、少なくとも酸素ガスを含む反応性ガスを供給する反応性ガス供給工程が行われ、この供給された反応性ガスにより反応プロセス領域60A内に反応性ガスのプラズマを発生させて基板Sの表面に付着した膜原料物質の反応物を生成させるプラズマ処理工程を行うことで、基板Sの表面に中間薄膜を形成する。そして、回転ドラム13を連続して回転することで、上記一連の工程を複数回行い、基板Sの表面に薄膜を積層させて、最終的に所望の光学的・物理的特性を有する最終薄膜が形成された光学製品を得ることが可能となっている。
次に、本発明の第二の実施形態に係る薄膜形成装置について説明する。この実施形態の薄膜形成装置は、ターゲット22a,22bと基板Sとの間に、基板Sに付着する膜原料物質の量を調整して基板表面に形成される薄膜の膜厚を補正するための可動式の膜厚補正板を設置して、基板Sに付着する薄膜の膜厚を調整する点に特徴を有する。以下、このような可動式の膜厚補正板を用いて膜厚を調整する実施形態について説明する。
図8及び図9は本発明の第二の実施形態に係る薄膜形成装置の成膜プロセス領域を示した説明図であって、図8は成膜プロセス領域20Aの周辺を拡大して示した説明図、図9は本実施形態の成膜プロセス領域20Aを基板側から見た状態を示す説明図である。図8に示すように、本実施形態の薄膜形成装置1には、ターゲット22a,22bと基板Sとの間に可動式の膜厚補正板51a,51bが配設されている。なお、本実施形態では、固定された膜厚補正板51cを更に備えているが、この固定型の膜厚補正板51cについては必ずしも必要ではない。
膜厚補正板51a,51bは、ターゲット22a,22bから基板Sに飛翔する膜原料物質のうち一部の膜原料物質の移動を阻止して基板Sの膜厚分布を調整する部材である。ターゲット22aの前面右側には膜厚補正板51aが、ターゲット22bの前面左側には膜厚補正板51bが設けられている。膜厚補正板51a,51bは、後述する補正板移動手段によりターゲット22a,22bの中心方向に向けて進退することで、ターゲット22a,22bから基板Sへ移動する膜原料物質の一部を遮断して膜厚を調整する。
膜厚補正板51aは、ターゲット22aの長手方向に沿ってターゲット22aの前面右側に配置され、主にターゲット22aから飛翔する膜原料物質の一部を遮断する。図8に示すように、膜厚補正板51aは、膜原料物質の一部を遮断する遮断面と、この遮断面の端部から約90℃に屈曲した屈曲部により構成された、横断面形状がほぼL字型の部材である。図9に示すように、本実施形態では遮断面は円弧状をしているが、遮断面の形状としてはこのような円弧状に限定されず、ターゲットのエロージョン領域などの特性や成膜条件などに応じて適宜決定することができる。また、屈曲部には螺旋状のネジ溝が遮断面と平行方向に形成されている。
真空容器11の壁面には、第一の実施形態と同様にシールド41a,41bが設けられている。膜厚補正板51a,51bの屈曲部の端面は、それぞれシールド41a,41bの板面と当接しており、膜厚補正板51a,51bはそれぞれのシールド41a,41bの板面に沿って移動する。シールド41a,41bのターゲット側の端部は回転ドラム13方向に向けてほぼ垂直に屈曲した屈曲部が形成されている。膜厚補正板がターゲットの中心方向へ移動しすぎても、シールド41a,41bの屈曲部が膜厚補正板51a,51bと衝突して移動を阻止するため、後述する螺旋棒52a,52bから膜厚補正板51a,51bが脱落しないようになっている。
本発明の補正板移動手段は、一端に傘歯車を備えた螺旋棒52a,52bと、同じく一端に傘歯車を備えた原動軸53a,53bと、この原動軸53a,53bをそれぞれ出力軸とする補正板駆動モータ54a,54bと、により構成され、膜厚補正板51a,51bをそれぞれ独立に進退自在に移動する機能を有している。
補正板駆動モータ54aは、ステッピングモータ等の公知のモータで構成され、原動軸53aを出力軸とするモータである。補正板駆動モータ54aは、真空容器11の外部に設けられており、図示しない電源からの電力の供給を受けて原動軸53aが時計回り・反時計回り(図中では、d、d'方向)に回動する。
原動軸53aは、剛性金属などで形成された棒状部材であり、その端部には放射状に切れ込みが形成された傘歯車が固定されている。また、螺旋棒52aもまた剛性金属などで形成された棒状部材であり、その一端には傘歯車が固定されている。螺旋棒52aの傘歯車は、原動軸53aの傘歯車と噛合している。螺旋棒52aの側面には、螺旋状のネジ溝が形成されており、このネジ溝は膜厚補正板51aの屈曲部に形成されたネジ溝と螺合している。
補正板移動手段は、このような構成となっているため、補正板駆動モータ54aの原動軸53aが回動すると螺旋棒52aも回動する。そして、螺旋棒52aが回動することで、膜厚補正板51aがターゲット22a,22bの中心方向に向けて進退する。同様に、補正板駆動モータ54bの原動軸53bが回動すると螺旋棒52bも回動して、膜厚補正板51bがターゲット22a,22bの中心方向に向けて進退する。図中では、原動軸53aがd方向に回転すると、螺旋棒52aがd方向に回転して、膜厚補正板51aがd方向に移動する。逆に、原動軸がd'方向に回転すると、螺旋棒52aがd'方向に回転して、膜厚補正板51aがd'方向に移動する。補正板駆動モータ54b、原動軸53b、螺旋棒52b、膜厚補正板51bについても同様である。このように、膜厚補正板51a,51bの移動量を調整することで、基板Sに形成される薄膜の膜厚を調整することが可能となる。
すなわち、膜厚補正板51a,51bがターゲット22a,22bの前面中心方向(図中ではd方向)へ向けて移動して、ターゲット22a,22bの前面を膜厚補正板51a,51bで遮断する面積が大きくなると、基板Sへ到達する膜原料物質の量が減少して、成膜レートが低下する。逆に、膜厚補正板51a,51bがターゲット22a,22bの中心方向と反対方向に向けて移動して(図中ではd'方向)、ターゲット22a,22bの前面を膜厚補正板51a,51bで遮断する面積が小さくなると、基板Sへ到達する膜原料物質の量が増加して、成膜レートが上昇する。
補正板駆動モータ54a,54bは、膜厚制御装置90と電気的に接続されており、この膜厚制御装置90により駆動制御される。膜厚制御装置90は、膜厚演算コンピュータ42と電気的に接続されており、膜厚演算コンピュータ42により演算された膜厚に基づいて膜厚補正板51a,51bの移動量を決定して、この移動量に基づいて補正板駆動モータ54a,54bの駆動制御を行う。
より詳細には、膜厚演算コンピュータ42で演算した膜厚が予め設定された膜厚よりも小さい場合は、成膜レートを上昇すべく、膜厚制御装置90は膜厚補正板51a,51bをターゲット22a,22bの中心方向と反対方向に向けて所定の移動量だけ移動させる。これにより、基板Sに到着する膜原料物質の量を増加させる。逆に、膜厚演算コンピュータ42で演算した膜厚が予め設定された膜厚よりも大きい場合は、成膜レートを低下すべく、膜厚制御装置90は膜厚補正板51a,51bをターゲット22a,22bの前面中心方向へ向けて所定の移動量だけ移動させる。これにより、基板Sに到着する膜原料物質の量を増加させる。
なお、本実施形態では、膜厚演算コンピュータ42と膜厚制御装置90を別々の装置としているが、どちらか一方の装置に他方の装置の機能を搭載することでいずれか一方の装置のみを備えるようにしてもよい。例えば、膜厚演算コンピュータ42に膜厚制御プログラムを記憶させておいて、取得した膜厚情報に基づいてこの膜厚制御プログラムにより膜厚補正板51a,51bの移動量を決定して、補正板駆動モータ54a,54bの制御を行うようにしてもよい。
また、本実施形態では、補正板移動手段としてモータを用いているが、本発明の補正板移動手段としては、このようなモータを用いるものに限定されず、例えば油圧シリンダなどにより膜厚補正板を移動するようにしてもよい。
本実施形態の水晶膜厚センサ43a,43bは、第一の実施形態と同じくシールド41a,41bに設けられているが、膜厚補正板に設けられてもよい。以下、本発明の第三の実施形態に係る薄膜形成装置について説明する。図10は第三の実施形態に係る薄膜形成装置を示した説明図であって、成膜プロセス領域20Aの周辺を拡大して示した説明図である。この図に示すように、本実施形態の薄膜形成装置1は、膜厚を補正するための膜厚補正板に膜厚測定部である水晶膜厚センサを設けた点を特徴とする。
この図に示すように、可動式の膜厚補正板51a,51bにはそれぞれ水晶膜厚センサ43a,43bが配設されている。更に、固定式の膜厚補正板51cには水晶膜厚センサ43cが配設されている。これらの水晶膜厚センサ43a,43b,43cが配設される位置は、いずれも膜厚補正板を構成する遮断面のうちターゲット22a,22b側の面であって、且つターゲット22a,22bから供給される膜原料物質が付着可能な位置である。
なお、本実施形態の薄膜形成装置は、水晶膜厚センサの位置のみが第二の実施形態とは異なっており、その他の部材、配置などは第二の実施形態と同じである。また、本実施形態では、可動式の膜厚補正板51a,51b及び固定式の膜厚補正板51cのいずれにも水晶膜厚センサが配設された構成となっているが、これらの膜厚補正板のすべてに設ける必要は無く、少なくともいずれか1つにのみ設けるようにしてもよい。
このように、本実施形態の薄膜形成装置では、可動式の膜厚補正板51a,51bや固定式の膜厚補正板51cに水晶膜厚センサが配設されている。膜厚補正板51a,51b,51cは、ターゲット22a,22bから供給される膜原料物質の一部を遮断して膜厚を調整する役割を果たしているため、シールド41a,41bよりもターゲット22a,22bの中心部に近い位置の前面を遮断するよう配設されている。このため、本実施形態の薄膜形成装置は、シールド41a,41bに水晶膜厚センサを設けた第二の実施形態の場合と比較して、よりターゲット22a,22bの中心部に近い位置で膜厚を測定することが可能となる。従って、シールド41a,41bに膜厚センサを設けた場合と比較して、より正確に膜厚を測定することが可能となる。
本実施形態の薄膜形成装置では、膜厚補正板として可動式の膜厚補正板51a,51bと固定式の膜厚補正板51cの両方を備えた構成としているが、可動式または固定式のいずれか一方の膜厚補正板を備えた構成としてもよい。ここで、図9に示すように、本実施形態の固定式の膜厚補正板51cは、菱形が3つ連続した形状の板状部材であり、その両端部が仕切壁12に固定されている。膜厚補正板51cの形状としては、このような形状に限定されず、ターゲットのエロージョン領域の位置や成膜条件などに応じて所望の形状とすることができる。
なお、可動式の膜厚補正板を設けた場合は、上記第二の実施形態と同様に、膜厚センサで測定した膜厚に基づいて可動式の膜厚補正板を移動させることで、成膜レートを調整することが可能である。
次に、本発明の第四の実施形態に係る薄膜形成装置について説明する。図11〜図13は本発明の第四の実施形態に係る薄膜形成装置の説明図であって、図11は成膜プロセス領域20Aを基板側から見た状態を示す説明図、図12は成膜プロセス領域20Aを基板側から見た状態を示す説明図、図13は第四の実施形態に係る薄膜形成装置の機能的構成を示すブロック図である。なお、図11では、水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5の位置をわかりやすくするために、本来では見える位置にある補正小片151a−1〜151a−5,151b−1〜151b−5を省略して図示すると共に、本来は見えない位置にある各水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5の位置を点線で示してある。
これらの図に示すように、本実施形態の薄膜形成装置は、複数の膜厚センサと、これら複数の膜厚センサのそれぞれに付着した膜原料物質の付着量に基づいて基板に実際に形成された薄膜の膜厚分布を演算する膜厚分布演算コンピュータ142と、を備えた点に特徴を有する。
図11に示すように、ターゲット22a,22bに対向するシールド41aの板面上に複数の水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5が、同じくターゲット22a,22bに対向するシールド41bの板面上に複数の水晶膜厚センサ143b−1〜143b−5が配設されている。なお、図中では、シールドにおける水晶膜厚センサの位置をわかりやすく表示するため、実際には見えない位置にある各水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5の位置を点線で示してある。
水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5は、ターゲット22aの長手方向に沿って一列に配列している。また、水晶膜厚センサ143b−1〜143b−5は、ターゲット22bの長手方向に沿って一列に配列している。そして、それぞれの水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5は、上記各実施形態の水晶膜厚センサと同じく水晶振動子に付着した膜原料物質の量に基づいて基板Sに形成される薄膜の膜厚を測定することが可能である。
図13に示すように、水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5は膜厚分布演算コンピュータ142に電気的に接続されている。この膜厚分布演算コンピュータ142は、水晶膜厚センサで測定した膜厚に基づいて基板Sの膜厚を演算する。本実施形態では、複数の水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5により複数の位置で膜厚をモニタすることで、それぞれの位置に対応する基板上の膜厚分布の情報を取得することが可能となる。この膜厚分布演算コンピュータ142は、上記各実施形態の膜厚演算コンピュータ42と同様の構成を備えたコンピュータで構成されており、膜厚演算プログラム及び膜厚相関関係データにより基板Sの複数箇所での膜厚を演算する。この複数箇所の膜厚は、膜厚分布情報として記憶される。なお、膜厚分布演算コンピュータ142は、本発明の膜厚分布演算部に相当する。
本実施形態の薄膜形成装置では、ターゲット22a,22bの長手方向に沿って複数の水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5を備えている。このように、ターゲット22a,22b周辺の複数の位置で膜厚を測定することで、ターゲット22a,22bのエロージョンなどによる成膜レートの局所的な変化をリアルタイムにモニタすることが可能となる。これにより、基板表面における膜厚分布の変化を知ることが可能となる。そして、このようなエロージョンによりターゲットの長手方向に沿った位置にある複数の基板間や、単一の基板であってもその表面の位置により膜厚に違いが生じるが、本実施形態の薄膜形成装置では、取得した膜厚分布に基づいて成膜レートを局所的に調整することで、膜厚分布を均一としたり、逆に膜厚分布に所定の傾斜を持たせたりすることができる。
本実施形態では、それぞれの水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5に対応する位置に膜厚を補正するための補正小片151a−1〜151a−5,151b−1〜151b−5をそれぞれ配設して、これらの補正小片151a−1〜151a−5,151b−1〜151b−5をターゲット22a,22bの中心方向に向けてそれぞれ独立に進退移動させることで、成膜レートを局所的に調整して膜厚分布を調整することが可能である。以下、詳細に説明する。
図12に示すように、ターゲット22aの前面には、複数の補正小片151a−1〜151a−5が配設されている。また、ターゲット22bの前面には、複数の補正小片151b−1〜151b−5が配設されている。これらの補正小片151a−1〜151a−5は、第二の実施形態と同様に、原動軸を出力軸とする補正板駆動モータ154a−1〜154a−5と原動軸153a−1〜153a−5と螺旋棒152a−1〜152a−5によりターゲット22a,22bの中心方向に進退可能に移動する。
補正小片151a−1〜151a−5は、それぞれ水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5に対応する位置に配設されている。すなわち、補正小片151a−1〜151a−5をシールド41a上に投影したときにそれぞれの補正小片151a−1〜151a−5の投影面と水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5が重なる位置に配設されている。そして、それぞれの補正小片151a−1〜151a−5には、上述した第二の実施形態と同様に、螺旋棒152a−1〜152a−5がそれぞれ螺合しており、それぞれの螺旋棒152a−1〜152a−5には原動軸153a−1〜153a−5を出力軸とする補正板駆動モータ154a−1〜154a−5が接続している。
そして、水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5で測定した膜厚に基づいて、膜厚分布演算コンピュータ142は膜厚分布情報を取得する。図13に示すように、膜厚制御装置90は膜厚分布演算コンピュータ142と電気的に接続されており、この膜厚分布情報に基づいて、補正板駆動モータ154a−1〜154a−5を駆動制御して、補正小片151a−1〜151a−5を移動制御する。
例えば、水晶膜厚センサ143a−3で測定した膜厚が他の水晶膜厚センサ143a−1,143a−2,143a−4,143a−5よりも大きい場合、膜厚分布を均一とすべく、補正板駆動モータ154a−3を駆動制御して原動軸153a−3を図中のd方向に回転して、補正小片151a−3をd方向へ移動させる。または、水晶膜厚センサ143a−1,143a−2,143a−4,143a−5の補正板駆動モータ154a−1,154a−2,154a−4,154a−5の原動軸153a−1,153a−2,153a−4,153a−5をそれぞれd'方向に回転して、補正小片151a−1,151a−2,151a−4,151a−5をそれぞれd'方向へ移動させるようにしてもよい。あるいは、補正小片151a−3のd方向への移動と、補正小片151a−1,151a−2,151a−4,151a−5のd'方向への移動を組み合わせてもよい。
これにより、補正小片151a−3で遮断する面積が他の補正小片151a−1,151a−2,151a−4,151a−5で遮断する面積よりも相対的に小さくなり、この結果、補正小片151a−3を回転ドラム13上に投影した領域での成膜レートが他の領域での成膜レートよりも相対的に減少する。この状態で成膜が進むと、回転ドラム13上での膜厚分布が均一となる。従って、複数の基板間や単一の基板であってもその表面の位置で均一な膜厚を有する光学製品を製造することが可能となる。
水晶膜厚センサ143b−1〜143b−5についても同様に、膜厚分布を取得して、この膜厚分布に基づいて補正小片151a−1〜151a−5を移動させることで膜厚分布を調整する。
なお、本実施形態の水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5は、ターゲット22a,22bの長手方向に一列に配設されているが、ターゲット22a,22bの短手方向にも複数の水晶膜厚センサを配設してもよい。以下、この第五の実施形態について説明する。
図14は本発明の第五の実施形態に係る薄膜形成装置の成膜プロセス領域20Aを基板側から見た状態を示す説明図である。なお、この図では、シールド上での水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5,143c−1〜143c−5,143d−1〜143d−5の位置をわかりやすく表示するため、本来は見えない位置にある各水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5,143c−1〜143c−5,143d−1〜143d−5の位置を点線で示してある。
この図に示すように、ターゲット22aに対向するシールド41aの面上には、ターゲット22aの長手方向に沿って水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5が配設されている。更に、水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5に対してターゲット22aの短手方向に隣接した位置には、それぞれ水晶膜厚センサ143c−1〜143c−5が配設されている。同様に、水晶膜厚センサ143b−1〜143b−5に隣接した位置にはそれぞれ143d−1〜143d−5が配設されている。すなわち、本実施形態の薄膜形成装置は、シールド41a,41b上に複数の水晶膜厚センサが格子状に配設されている。
このような構成とすることで、ターゲット22a,22bの長手方向に沿った膜厚分布のみならず、ターゲット22a,22bの短手方向に沿った膜厚分布も測定することが可能となる。これにより、基板Sの膜厚分布を更に正確に測定することができる。
本実施形態における複数の水晶膜厚センサは、いずれもシールド41a,41bに設けられているが、上記第三の実施形態と同様に、固定式や可動式の膜厚補正板に取り付けてもよい。以下、本発明の第六の実施形態に係る薄膜形成装置について説明する。
図15は第六の実施形態に係る薄膜形成装置の成膜プロセス領域を基板側から見た状態を示す説明図である。なお、この図では、水晶膜厚センサの位置をわかりやすく表示するため、本来は見えない位置にある各水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5,143c−1〜143c−3,143d−1〜143d−3の位置を点線で示してある。この図に示すように、この実施形態の薄膜形成装置は、膜厚補正板に複数の膜厚センサを配設した点を特徴としている。
より詳細に説明すると、可動式の膜厚補正板である補正小片151a−1〜151a−5,151b−1〜151b−5には、それぞれ水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5が配設されている。また、固定式の膜厚補正板51cにも、水晶膜厚センサ143c−1〜143c−3,143d−1〜143d−3が設けられている。水晶膜厚センサ143d−1〜143d−3は、143c−1〜143c−3に対してターゲットの短手方向に隣接した位置に設けられている。なお、膜厚補正板としては、このように可動式及び固定式の両方の膜厚補正板を備える必要は無く、いずれか一方のみを備える構成としてもよい。
また、本実施形態では、可動式の膜厚補正板である補正小片151a−1〜151a−5,151b−1〜151b−5には、ターゲット22a,22bの長手方向に沿って一列に水晶膜厚センサ143a−1〜143a−5,143b−1〜143b−5が設けられているが、上記第五の実施形態と同様に、ターゲット22a,22bの短手方向に沿って複数の水晶膜厚センサを格子状に配設してもよい。
このように、本実施形態の薄膜形成装置では、シールド41a,41bに水晶膜厚センサを設けた第五の実施形態の場合と比較して、よりターゲット22a,22bの中心部に近い位置で膜厚を測定することが可能となる。従って、シールド41a,41bに膜厚センサを設けた場合と比較して、より正確に膜厚を測定することが可能となる。
上述した各実施形態では、膜原料物質供給手段としてターゲットをスパッタして薄膜を形成するスパッタ装置を挙げて説明しているが、本発明の膜原料物質供給手段としては、このようなスパッタ装置に限定されない。例えば、真空容器内に膜原料物質を収容した坩堝を設けて、この坩堝中の膜原料物質を加熱して蒸発させ、基板の表面に膜原料物質を付着させる真空蒸着装置であってもよい。また、基体保持手段である回転ドラム13についても、上記各実施形態のように横断面形状が多角形をした多角柱状に限定されず、例えば、円板状やドーム状であってもよい。
また、上記実施形態では、膜厚分布の調整を、水晶膜厚センサに対応する位置に設けられた複数の補正小片を独立して進退移動させる方法で行っているが、他の方法により行ってもよい。例えば、水晶膜厚センサに対応する位置に独立してスパッタガスを供給する複数のスパッタガス供給手段を設けて、水晶膜厚センサで測定した膜厚に応じて対応するスパッタガス供給手段から供給されるスパッタガスの流量を調整するようにしてもよい。スパッタガスの流量が増加すると、この領域での成膜レートが他の領域に比較して増加する。反対に、スパッタガスの流量が減少すると、この領域での成膜レートが他の領域に比較して減少する。これにより、膜厚分布を調整することが可能となる。
(実施例)
次に、本発明の薄膜形成装置を用いて実際に成膜試験を行った実施例について説明する。
図16は成膜試験で用いた薄膜形成装置を横方向から見た状態を示す説明図である。この実施例で使用した薄膜形成装置の全体図は、図1に示すとおりである。基板として石英ガラスを用い、基板Sの表面にニオブ(Nb)を成膜した場合と(実施例1)、五酸化ニオブ(Nb2O5)を成膜した場合(実施例2)の2種類の条件で成膜試験を行った。
図16に示すように、水晶膜厚センサ43aを、回転ドラム13の上方に位置する真空容器11の壁面に固定した。ターゲット22a,22bと基板Sの間の距離は90mm、ターゲット22a,22bと水晶膜厚センサ43aの間の距離は74mmである。
その他の成膜条件は以下の通りである。
(実施例1)
実施例1(ニオブ)の成膜条件は以下のとおりである。成膜レートは0.4nm/sであった。なお、実施例2とは異なり、実施例1では反応プロセス領域60Aでプラズマ処理を行っていない。
<成膜プロセス領域>
ターゲット:ニオブ
スパッタ電力:4.0kW
交流電源の周波数:40kHz
アルゴンガスの流量:100sccm
(実施例2)
実施例2(五酸化ニオブを成膜)の成膜条件は以下のとおりである。成膜レートは0.4nm/sであった。この実施例2では、成膜プロセス領域20Aで基板上にニオブを成膜し、反応プロセス領域でニオブと酸素を反応させて五酸化ニオブを成膜している。
<成膜プロセス領域>
ターゲット:ニオブ
スパッタ電力:4.0kW
交流電源の周波数:40kHz
アルゴンガス流量:100sccm
<反応プロセス領域>
アンテナに印加される電力:4kW
高周波電源の周波数:13.56MHz
酸素ガスの流量:120sccm
上記条件で成膜を行い、所定の成膜時間が経過するたびに水晶膜厚センサで検知された膜厚の値と、実際に基板表面に形成された薄膜の膜厚を測定した。
図17は実施例1(ニオブ)および実施例2(五酸化ニオブ)を基板上に成膜した成膜試験の結果を示すグラフである。
グラフの縦軸は、実際に基板表面に形成された薄膜の膜厚(基板膜厚)と、水晶膜厚センサで検出された膜厚の値との比である。グラフの横軸は成膜時間である。
実施例1のニオブを成膜した場合には、最初はグラフの縦軸の値が大きく成膜時間が5分を経過するあたりまで縦軸の値が次第に低下したが、その後は成膜時間が経過してもグラフの縦軸が約0.3の値に安定した。グラフの縦軸は、実際に基板表面に形成された薄膜の膜厚を水晶膜厚センサで検出された膜厚で割った値なので、水晶膜厚センサで検出された膜厚は実際に形成された膜厚の約3.3倍であることがわかる。すなわち、本発明にように水晶膜厚センサをターゲット近傍に配置して膜厚測定を行った場合には、約3.3倍の感度で膜厚を測定することができる。この3.3という数値は、水晶膜厚センサに付着した膜原料物質の付着量と基板に実際に形成された薄膜の膜厚との比率である。
また、実施例2の五酸化ニオブを成膜した場合には、最初はグラフの縦軸の値が大きく成膜時間が5分を経過するあたりまで縦軸の値が次第に低下したが、その後は成膜時間が経過してもグラフの縦軸が約0.6で安定した。
このことから、水晶膜厚センサで検出された膜厚は実際に形成された膜厚の約1.6倍の感度で膜厚測定が可能であることがわかる。この1.6という数値は、水晶膜厚センサに付着した膜原料物質の付着量と基板に実際に形成された薄膜の膜厚との比率である。
なお、実施例2の感度(約1.6倍)が、実施例1の感度(約3.3倍)よりも低いのは、実施例2では成膜プロセス領域20Aで基板表面にニオブを成膜した後に、反応プロセス領域60Aでニオブを酸化して五酸化ニオブに変換するが、この変換の際に薄膜が膨張して膜厚が増加するためである。