以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材,配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
図1乃至図8は、スパッタ装置1について説明する説明図である。図1が理解の容易のために一部断面をとったスパッタ装置1の上面の説明図、図2が、図1の線A−B−Cに沿って一部断面をとった側面の説明図である。図3は、基板の配置を説明する断面説明図である。図4,図5は、本発明の膜厚補正板及び遮蔽板の配置状態を説明するための説明図である。図6は、膜厚補正板及び遮蔽板と基板とが、基板ホルダの回転によって相対的に移動する様子を説明する説明図である。図7は、本発明のプラズマ発生手段を説明する要部説明図である。図8は、図7のD−D断面図である。
本実施形態では、スパッタの一例であるマグネトロンスパッタを行うスパッタ装置1を用いているが、これに限定されるものでなく、マグネトロン放電を用いない2極スパッタ等、他の公知のスパッタを行うスパッタ装置を用いることもできる。
本実施形態のスパッタ装置1によれば、目的の膜厚よりもかなり薄い薄膜をスパッタで作成し、プラズマ処理を行うことを繰り返すことで目的の膜厚の薄膜を基板上に形成できる。本実施形態では、スパッタとプラズマ処理によって平均0.01〜1.5nmの膜厚の薄膜を形成する工程を繰り返すことで、目的とする数nm〜数百nm程度の膜厚の薄膜を形成する。
本実施形態のスパッタ装置1は、真空容器11と、薄膜を形成させる基板を真空容器11内で保持するための基板ホルダ13と、基板ホルダ13を回転させるためのモータ17と、仕切壁12,14,16と、マグネトロンスパッタ電極21a,21bと、交流電源23,43と、膜厚補正板35,55と、遮蔽板36,56と、プラズマ発生手段80と、を主要な構成要素としている。
真空容器11は、公知のスパッタ装置で通常用いられるようなステンレス製で、略直方体形状を備える中空体である。真空容器11の内部は、本発明の開閉扉としての扉11bによって薄膜形成室11Aとロードロック室11Bに分けられる。真空容器11の上方には扉11bを収容する扉収納容器(不図示)が接続されており、扉11bは、真空容器11の内部と扉収納室の内部との間でスライドすることで開閉する。また、真空容器11には、ロードロック室11Bと真空容器11の外部とを仕切る扉11cが設けられている。扉11cは、スライドまたは回動することで開閉する。真空容器11の内部の薄膜形成室11Aには、排気用の配管15aが接続され、この配管には真空容器11内を排気するための真空ポンプ15が接続されている。また、真空容器11の内部のロードロック室11Bには、排気用の配管15a’が接続され、この配管には真空容器11内を排気するための真空ポンプ15’が接続されている。真空ポンプ15,配管15a及び真空ポンプ15’,配管15a’は、本発明の排気手段に相当する。
基板ホルダ13は、薄膜形成室11Aとロードロック室11Bの間を移動できるように構成されている。本実施形態では、真空容器11の底面にレール(不図示)が設置されていて、基板ホルダ13は、このレールに導かれて移動する。基板ホルダ13は、成膜中は薄膜形成室11Aの位置でロックされ、成膜前に基板Sを基板ホルダ13に取り付けるときや、成膜後に基板ホルダ13から基板Sを取り外すときにロードロック室11Bの位置で固定される。基板ホルダ13の形状は円筒状であり、その外周面に複数の基板S(図3参照)を保持する。なお、基板ホルダ13の形状は円筒状ではなく、中空の多角柱状や、円錐状であってもよい。基板ホルダ13は、真空容器11から電気的に絶縁されている。これにより、基板における異常放電を防止することが可能となる。基板ホルダ13は、円筒の筒方向の中心軸線Z(図2参照)が真空容器11の上下方向になるように真空容器11内に配設される。基板ホルダ13は、真空容器11内の真空状態を維持した状態で、真空容器11の上部に設けられたモータ17を駆動させることによって中心軸線Zを中心に回転する。
図3に示すように、基板ホルダ13の外周面には、多数の基板Sが、基板ホルダ13の中心軸線Zに沿った方向(上下方向)に所定間隔を保ちながら整列させた状態で保持される(図3の上下方向が、スパッタ装置1の上下方向(中心軸線Zの方向)である。)。本実施形態では、基板の薄膜を形成させる面(以下「膜形成面」という)が、基板ホルダ13の中心軸線Zと垂直な方向を向くように、基板Sが基板保持具13aによって基板ホルダ13の外周面に保持されている。基板保持具13aは、基板を挟持するチャック部(不図示)を備えたステンレス製の台座であり、基板ホルダ13にボルト等により固定される。基板保持具13aには基板Sが収納される凹部13bが設けられている。凹部13bは上下方向に一列に形成されている。本実施形態では、一列に6つの凹部13bを備えるが、この数は基板Sの大きさや、基板ホルダ13の大きさに等によって変更される。基板Sは、チャック部(不図示)で挟持された状態で基板保持具13aの凹部13bに保持される。チャック部としてはネジや、板ばね等が用いられる。このような基板保持具13aは、基板ホルダ13の外周の周方向に沿って複数列設けられているため、多数の基板Sを、基板ホルダ13の中心軸線Zに沿った方向(上下方向)に所定間隔を保ちながら整列させた状態で、基板ホルダ13の外周面に保持することができる。各基板Sは、基板ホルダ13が回転することで、中心軸線Zを公転軸として公転する。
仕切壁12,14,16は、真空容器11の内壁面から基板ホルダ13へ向けて立設して設けられている。本実施形態における仕切壁12,16は、真空容器11と同じステンレス製の部材である。仕切壁12,14,16は、真空容器11の内壁面から基板ホルダ13へ向けて、四方を囲んだ状態で設けられている。これにより、真空容器11の内壁面,仕切壁12,基板ホルダ13の外周面に囲繞されて、スパッタを行うための第1の成膜プロセスゾーン20が形成されている。また、真空容器11の内壁面,仕切壁14,基板ホルダ13の外周面に囲繞されて、スパッタを行うための第2の成膜プロセスゾーン40が形成されている。また、真空容器11の内壁面,後述のプラズマ発生手段80,仕切壁16,基板ホルダ13の外周面に囲繞されて、プラズマを発生させて基板S上の薄膜に対してプラズマ処理を行うための反応プロセスゾーン60が形成されている。
このとき、反応プロセスゾーン60は、第1の成膜プロセスゾーン20や第2の成膜プロセスゾーン40とは異なる領域に形成される。本実施形態では、第1の成膜プロセスゾーン20と第2の成膜プロセスゾーン40が基板ホルダ13を挟んで対向する位置に形成されるように、仕切壁12,14が真空容器11に設けられている。そして、反応プロセスゾーン60が第1の成膜プロセスゾーン20が形成された位置から、基板ホルダの回転軸を中心に円周上に約90度回転した位置に形成されるように、仕切壁16が真空容器11に設けられている。モータ17によって基板ホルダ13が回転させられると、基板ホルダ13の外周面に保持された基板Sが公転して、第1の成膜プロセスゾーン20に面する位置と、反応プロセスゾーン60に面する位置と、第2の成膜プロセスゾーン40に面する位置との間を移動することになる。そして、このように、基板Sが公転することで、ターゲット29a,29b、ターゲット49a,49b、膜厚補正板35,55、遮蔽板36,56に対して相対的に移動することになる。
(第1の成膜プロセスゾーン20及び第2の成膜プロセスゾーン40)
第1の成膜プロセスゾーン20には、マスフローコントローラ25,27が、配管を介して連結されている。第2の成膜プロセスゾーン40には、マスフローコントローラ45,47が、配管を介して連結されている。マスフローコントローラ25,45は、不活性ガスとしてのアルゴンガスを貯留するスパッタガスボンベ26,46に接続されている。マスフローコントローラ27,47は、反応性ガスを貯留する反応性ガスボンベ28,48に接続されている。不活性ガスや反応性ガスは、マスフローコントローラ25,27,45,47で流量を制御されて、配管を通して成膜プロセスゾーン20,40に導入される。反応性ガスとしては、例えば酸素ガス,窒素ガス,弗素ガス,オゾンガス等が考えられる。
第1の成膜プロセスゾーン20には、基板ホルダ13の外周面に対向するように、真空容器11の壁面にマグネトロンスパッタ電極21a,21bが配置されている。このマグネトロンスパッタ電極21a,21bは、不図示の絶縁部材を介して接地電位にある真空容器11に固定されている。マグネトロンスパッタ電極21a,21bは、トランス24を介して、交流電源23に接続され、交番電界が印加可能に構成されている。マグネトロンスパッタ電極21a,21bには、ターゲット29a,29bが保持される。ターゲット29a,29bの形状は平板状であり、ターゲット29a,29bの基板ホルダ13の外周面と対向する面が、基板ホルダ13の中心軸線Zと垂直な方向を向くように保持される。
第2の成膜プロセスゾーン40には、基板ホルダ13の外周面に対向するように、真空容器11の壁面にマグネトロンスパッタ電極41a,41bが配置されている。このマグネトロンスパッタ電極41a,41bは、不図示の絶縁部材を介して接地電位にある真空容器11に固定されている。マグネトロンスパッタ電極41a,41bは、トランス44を介して、交流電源43に接続され、交番電界が印加可能に構成されている。マグネトロンスパッタ電極41a,41bには、ターゲット49a,49bが保持される。ターゲット49a,49bの形状は平板状であり、ターゲット49a,49bの基板ホルダ13の外周面と対向する面が、基板ホルダ13の中心軸線Zと垂直な方向を向くように保持される。
図4及び図5は、膜厚補正板35及び遮蔽板36の配置状態を説明するための説明図である。図4は、図1における第1の成膜プロセスゾーン20付近を拡大したものである。図5は、基板ホルダ13からマグネトロンスパッタ電極21a,21bの方向をのぞんだときの説明図である。図5の上下方向が、スパッタ装置1の上下方向(中心軸線Zの方向)である。図6は、膜厚補正板35及び遮蔽板36と基板Sとが、基板ホルダ13の回転によって相対的に移動する様子を説明する説明図であり、マグネトロンスパッタ電極21a,21bから基板ホルダ13の方向をのぞんだ図である。
膜厚補正板35及び遮蔽板36は、マグネトロンスパッタ電極21a,21bに保持されるターゲット29a,29bから発生するスパッタ物質の一部を遮ることで、基板ホルダ13の方向へ向かうスパッタ物質の量を調整するものであり、ターゲット29a,29bと基板ホルダ13との間に設けられている。なお、スパッタ物質とは、ターゲット29a,29b,49a,49bに対するスパッタによって、ターゲット29a,29b,49a,49bから発生する物質であり、ターゲット29a,29b,49a,49bを構成する原子または原子の集団等である。
膜厚補正板35は、スパッタを行うことにより基板Sに形成される薄膜の膜厚を均一にする役目を果たすものであり、第1の補正板としての補正板35aと、第2の補正板としての補正板35bで構成されている。補正板35aは、短冊形状を備えた複数の補正小片35a1,35a2,35a3,・・・で構成され、補正板35bは、短冊形状を備えた複数の補正小片35b1,35b2,35b3,・・・で構成されている。補正板35aと補正板35bにおいて、補正小片35a1と補正小片35b1、補正小片35a2と補正小片35b2、補正小片35a3と補正小片35b3、・・・がそれぞれ一対となっている。補正小片35a1,35a2,35a3,・・・や、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・の長辺は、公転する基板Sの軌跡を、中心軸線Zからターゲット29a,29bに対して垂直に投影したときの投影軌跡(以下、単に「投影軌跡」という。)に沿った方向(図4乃至図6の黒塗りの矢印又は、図6中の白抜きの矢印で示す方向)を向くように配置されている。
また、補正小片35a1と補正小片35b1、補正小片35a2と補正小片35b2、補正小片35a3と補正小片35b3、・・・は、投影軌跡に沿った方向に間隔をあけて設置されている。ターゲット29a,29bから飛散するスパッタ物質は、この補正小片35a1と補正小片35b1、補正小片35a2と補正小片35b2、補正小片35a3と補正小片35b3、・・・の間に設けられた間隔を通過して基板Sに到達する。本実施形態では、補正板35aと補正板35b、補正小片35a1と補正小片35b1、補正小片35a2と補正小片35b2、補正小片35a3と補正小片35b3、・・・は、ターゲット29aとターゲット29bの中間位置から中心軸線Zに伸びる基準面Mに対して左右対称に配置されている。また、図5に示すように、補正小片35a1,35a2,35a3,・・・は、基板Sの公転軸である中心軸線Zに沿った方向に連なって設置されている。補正小片35b1,35b2,35b3,・・・も、基板Sの公転軸である中心軸線Zに沿った方向に連なって設置されている。
補正小片35a1,35a2,35a3,・・・、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・は、真空容器11に取り付けられた補正板駆動手段によって、それぞれが投影軌跡に沿った方向に駆動可能に設置されている。本実施形態の補正板駆動手段は、補正板駆動モータ71a,71bと、原動軸72a,72bと、傘歯車73a,73bと、傘歯車74a,74bと、螺旋棒75a,75bと、ナット76a,76bとによって構成されている。原動軸72a,72bは、真空容器11に挿通されている。補正板駆動モータ71a,71bと原動軸72a,72bとは、真空容器11の外側で接続され、補正板駆動モータ71a,71bを駆動することで、原動軸72a,72bが回転する。原動軸72a,72bの先端に傘歯車73a,73bが固定されており、原動軸72a,72bの回転にともなって傘歯車73a,73bが回転する。傘歯車73a,73bには、傘歯車74a,74bが噛み合わされている。傘歯車74a,74bは螺旋棒75a,75bの先端に固定されている。螺旋棒75a,75bは仕切壁12,14に挿通されている。傘歯車73a,73bの回転によって、傘歯車74a,74bと螺旋棒75a,75bが回転する。螺旋棒75a,75bにはナット76a,76bが螺合されている。螺旋棒75a,75bが回転することで、ナット76a,76bが摺動する。
ナット76a,76bは、補正板35a,35bと一体的に形成されているものであり、ナット76a,76bが摺動することで、補正板35a,35bが摺動する構成になっている。本実施形態では、螺旋棒75a,75bが上述の投影軌跡に沿った方向(左右方向)を向くように仕切壁12,14に挿通されている。このため、螺旋棒75a,75bが回転することで、ナット76a,76b及び補正板35a,35bは、投影軌跡に沿った方向(図4乃至図6の黒塗りの矢印で示す方向)で摺動する。本実施形態では、真空容器11の外部にCPU(Central Prosessing Unit),ROM(Read−Only Memory),RAM(Random Access Memory)等からなる制御装置(不図示)を備え、この制御装置によって補正板駆動モータ71a,71bの駆動を制御することで、補正板35a,35bの摺動を制御している。
図6に示したように、補正板35a,35bは、基板ホルダ13からマグネトロンスパッタ電極21a,21bの方向をのぞんだとき、補正板35a,35bによってターゲット29a,29bの一部が隠れるように配置される。補正板35a,35bを設けることで、ターゲット29aから発生する基板ホルダ13の方向へ向かうスパッタ物質の量を規制して、基板Sに堆積するスパッタ物質の量が、基板S全面にわたって均一となるようにすることができる。これを図6で説明する。
図6の上下方向が、スパッタ装置1の上下方向(中心軸線Zの方向)である。基板ホルダ13を、中心軸線Zを中心に回転させると、基板ホルダ13の外周面に上下方向に連なって配列された基板Sが、マグネトロンスパッタ電極21a,21b側からみて左右方向、すなわち上述の投影軌跡に沿った方向に移動する。図6中の白抜きの矢印が、基板Sが移動する方向を示している。
上下方向に長いターゲット29a,29bに対してスパッタを行うと、膜厚補正板35、遮蔽板36がない場合には、基板ホルダ13へ向かうスパッタ物質の量は、基板ホルダ13の上下方向の中心付近(以下、単に「中心付近」という)で多くなる。したがって、中心付近に保持される基板Sに、より多くのスパッタ物質が堆積し、中心付近に保持される基板Sに形成される薄膜の膜厚と、上側,下側の方に保持される基板Sに形成される薄膜の膜厚との間で、ばらつきが生じてしまう。また、同じ1つの基板Sに形成する薄膜でも、膜形成面の上端付近に形成される膜の膜厚と、下端付近に形成される膜の膜厚との間でばらつきが生じてしまう。
そこで、膜厚補正板35を配設して、基板ホルダ13へ向かうスパッタ物質のうち、中心付近を通過しようとするスパッタ物質の量を規制して、基板Sに堆積するスパッタ物質の量を、各基板Sの基板全面にわたって均一になるようにして、膜厚のばらつきを解消している。具体的には、中心付近をより長い時間遮蔽することで、その分、基板ホルダ13の中心付近へ向かうスパッタ物質の量を減らして、中心付近の膜厚を、膜厚補正板35を設けない時よりも相対的に薄くする。これにより、膜厚補正板35を設けない場合には膜厚が厚くなってしまう中心付近の膜厚を、膜厚補正板35を設けることで薄くして、結果として基板の上下方向でばらつきのない均一な厚さの薄膜を形成させることができる。
また、スパッタを行うと、時間の経過とともに、飛散するスパッタ物質の分布が局所的に変化する場合がある。そこで、補正小片35a1,35a2,35a3,・・・、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・を飛散するスパッタ物質の分布に合わせて左右に動かすことで、基板の上下方向でばらつきのない均一な厚さの薄膜を形成させることができる。
さらに、本実施形態のスパッタ装置では、基板ホルダ13の外周面に保持された平面的な基板Sが中心軸線Zを中心に公転しているため、補正板35aと補正板35bのいずれか一方だけを設けたり、基準面Mに対して補正板35aと補正板35bを非対称に設置したりすると、基板Sが第1の成膜プロセスゾーン20に近づくときと、遠ざかるときとで、形成される薄膜の厚みに基板Sの左右方向で差が生じる。そこで、本実施形態では、補正板35aと補正板35bを基準面Mに対して常に左右対称になるように配置する(駆動させる)ことで、膜厚補正板35によって遮蔽される部分を基準面Mに対して左右対称にして、基板Sの左右方向で均一な厚さの薄膜を形成させている。本実施形態では、対をなす補正板35aと補正板35b、補正小片35a1と補正小片35b1、補正小片35a2と補正小片35b2、補正小片35a3と補正小片35b3、・・・が、それぞれ基準面Mに対して左右対称に摺動するように、制御装置が補正板駆動モータ71a,71bの駆動を制御する。
また、本実施形態では、補正小片35a1,35a2,35a3,・・・や、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・を摺動させる際に、投影軌跡に沿った方向に摺動させている。このため、補正小片35a1,35a2,35a3,・・・や、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・が摺動前の位置にある場合と、摺動後の位置にある場合とで、上下に並んだ基板Sに形成される薄膜に与える影響を一定にすることができる。このことを図6を用いて説明する。例えば、図6に示された補正小片35a4と補正小片35b4について説明する。図6をみてわかるように、補正小片35a4と補正小片35b4は、マグネトロンスパッタ電極21a,21b(ターゲット29a,29b)から基板ホルダ13の方向をのぞんだとき、上から1番目の基板Sの中央付近を遮蔽する位置に設置されている。すなわち、補正小片35a4と補正小片35b4は、上から一番目の基板Sに向かって飛散するスパッタ物質に対して主に影響し、上から一番目の基板Sの膜厚に主に影響を与える。
本実施形態では、基板S、補正小片35a1,35a2,35a3,・・・、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・は、何れも上述の投影軌跡に沿った方向に摺動するするため、補正小片35a4と補正小片35b4が摺動したとしても、補正小片35a4と補正小片35b4が摺動する前の位置にある場合と、補正小片35a4と補正小片35b4が摺動した後の位置にある場合とで、どちらの場合でも、上から一番目の基板Sの膜厚に主に影響を与えることに変わりはない。このため、膜厚の分布に基板Sの上下方向で変化が生じた場合でも、その補正を行うことが容易である。すなわち、補正小片35a1,35a2,35a3,・・・、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・のうち、膜厚の分布に変化が生じる部分に対応する補正板だけを摺動させることで、膜厚の分布の調整を容易に行うことができる。
遮蔽板36は、スパッタを行うことにより基板Sに形成される薄膜に所望の膜厚分布を与える役目を果たす。遮蔽板36は、板状体であり、製造しようとする薄膜の膜厚分布に応じた形状を備え、仕切壁12にボルトで固定されている。図5,図6に示した例では、遮蔽板36は、菱形が上下方向(基板ホルダ13の中心軸線Z方向)に連なった形状をしている。このように遮蔽板36を菱形が連なった形状とすることで、基板Sの膜形成面上端から膜形成面下端にかけて膜厚が線形に変化する薄膜を作成することができる。これを、図6で説明する。
遮蔽板36を菱形が連なった形状として、その菱形の各斜辺に対応する位置に基板Sを配置すれば、基板Sが左右方向(図6の白抜き矢印の方向)に相対的に移動した場合に、ターゲット29a,29b側から見て基板Sが遮蔽板36により遮蔽される時間に、各基板Sの上端側と下端側とで差を生じさせることができる。基板Sが遮蔽板36により遮蔽される時間が短い方が、より多くのスパッタ物質がターゲット29a,29bから基板Sに到達し、より厚い膜厚の薄膜が形成されることになる。
ところで、上述のように、膜厚補正板35の作用により、基板Sには均一な膜厚の薄膜が形成されるようになっている。したがって、膜厚補正板35を設けて、さらに遮蔽板36を設ければ、上下方向の膜厚のばらつきに影響されることなく、ターゲット29a,29bから見て基板Sが遮蔽板36により遮蔽される時間、すなわち、遮蔽板36の左右方向の幅に直接対応した膜厚の薄膜を基板Sに形成させることができる。
本実施形態では、遮蔽板36の形状を菱形が連なった形状としているため、その菱形の斜辺に対応する位置に各基板Sを配置すれば、基板Sの上端側から下端側にかけて膜厚が線形的に変化する薄膜を作成することができるのである。本実施形態では、遮蔽板36の形状を菱形が連なった形状とすることで、基板Sの上端側から下端側にかけて膜厚が線形的に変化する薄膜を作成することができるが、基板Sの上端側から下端側にかけて膜厚が変化する薄膜を作成する場合の遮蔽板36の形状はこれに限られない。形成させる薄膜の膜厚の分布に合わせた遮蔽板を用いればよい。例えば、遮蔽板36の形状を丸形が上下方向に連なった形状とすることで、基板Sの上端側から下端側にかけて膜厚が放物線状に変化する薄膜を作成することができる。
本実施形態のスパッタ装置1によれば、膜厚補正板35を設けて各基板Sの位置によらずに各基板Sで膜厚が均一になるようにしたうえで、遮蔽板36の形状によって所望の膜厚分布を備える薄膜を形成するため、遮蔽板36の形状を変更することで、製造する薄膜の膜厚分布を容易に変更することができる。また、各基板Sの位置による膜厚の差を考慮することがなく、所望の膜厚分布をもつ薄膜を作成するための遮蔽板36の形状を簡易に設計することができる。
第1の成膜プロセスゾーン20に膜厚補正板35,遮蔽板36を設けたように、第2の成膜プロセスゾーン40にも、膜厚補正板35,遮蔽板36に相当する膜厚補正板55,遮蔽板56が設けられている。この場合、第1の成膜プロセスゾーン20に配置する遮蔽板36の形状と、第2の成膜プロセスゾーン40に配置する遮蔽板56の形状とは、必ずしも同一の形状である必要はなく、ターゲット29a,29b,49a,49bの材料や、第1の成膜プロセスゾーン20,第2の成膜プロセスゾーン40それぞれの成膜条件などに応じて変更することができる。
(反応プロセスゾーン60)
反応プロセスゾーン60に対応する真空容器11の壁面には、プラズマ発生手段80を設置するための開口11aが形成されている。また、反応プロセスゾーン60には、マスフローコントローラ65を介して不活性ガスボンベ66内の不活性ガスを導入するための配管や、マスフローコントローラ67を介して反応性ガスボンベ68内の反応性ガスを導入するための配管が接続されている。
仕切壁16の反応プロセスゾーン60に面する壁面には、熱分解窒化硼素(Pyrolytic Boron Nitride)からなる保護層Pが被覆されている。さらに、真空容器11の内壁面の反応プロセスゾーン60に面する部分にも熱分解窒化硼素からなる保護層Pが被覆されている。熱分解窒化硼素は、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition)を利用した熱分解法によって仕切壁16や真空容器11の内壁面へ被覆される。
図1,図2,図7,図8を用いて、本実施形態のプラズマ発生手段80を説明する。
プラズマ発生手段80は、反応プロセスゾーン60に面して設けられている。本実施形態のプラズマ発生手段80は、ケース体81と、誘電体板83と、固定枠84と、アンテナ85a,85bと、固定具88と、配管15a,真空ポンプ15を有して構成されている。
ケース体81は、真空容器11の壁面に形成された開口11aを塞ぐ形状を備え、ボルト(不図示)で真空容器11の開口11aを塞ぐように固定されている。ケース体81が真空容器11の壁面に固定されることで、プラズマ発生手段80は真空容器11に接続されている。本実施形態において、ケース体81はステンレスで形成されている。誘電体板83は、板状の誘電体で形成されている。本実施形態において、誘電体板83は石英で形成されている。なお、誘電体板83は石英ではなくAl2O3等のセラミックス材料で形成されたものでもよい。固定枠84は、ケース体81に誘電体板83を固定するために用いられるもので、ロの字形状を備えた枠体である。固定枠84とケース体81がボルト(不図示)で連結されることで、固定枠84とケース体81の間に誘電体板83が挟持され、これにより誘電体板83がケース体81に固定されている。誘電体板83がケース体81に固定されることで、ケース体81と誘電体板83によってアンテナ収容室80Aが形成されている。すなわち、本実施形態では、ケース体81と誘電体板83に囲まれてアンテナ収容室80Aが形成されている。
ケース体81に固定された誘電体板83は、開口11aを介して真空容器11の内部(反応プロセスゾーン60)に臨んで設けられている。このとき、アンテナ収容室80Aは、真空容器11の内部と分離している。すなわち、アンテナ収容室80Aと真空容器11の内部とは、誘電体板83で仕切られた状態で独立した空間を形成している。また、アンテナ収容室80Aと真空容器11の外部は、ケース体81で仕切られた状態で独立の空間を形成している。本実施形態では、このように独立の空間として形成されたアンテナ収容室80Aの中に、アンテナ85a,85bが設置されている。なお、アンテナ収容室80Aと真空容器11内部の反応プロセスゾーン60、アンテナ収容室80Aと真空容器11外部との間は、Oリングで気密が保たれている。
本実施形態では、アンテナ収容室80Aの内部を排気して真空状態にするために、アンテナ収容室80Aに排気用の配管15aが接続されている。配管15aには、真空ポンプ15が接続されている。本実施形態において、配管15aは真空容器11の内部へも連通している。配管15aには、真空ポンプ15から真空容器11の内部に連通する位置にバルブV1、V2が設けられている。また、配管15aには、真空ポンプ15からアンテナ収容室80Aの内部に連通する位置にバルブV1、V3が設けられている。バルブV2,V3のいずれかを閉じることで、アンテナ収容室80Aの内部と真空容器11の内部との間での気体の移動は阻止される。真空容器11の内部の圧力や、アンテナ収容室80Aの内部の圧力は、真空計(不図示)で測定される。
本実施形態では、スパッタ装置1に制御装置(不図示)を備えている。この制御装置には、真空計の出力が入力される。制御装置は、入力された真空計の測定値に基づいて、真空ポンプ15による排気を制御して、真空容器11の内部やアンテナ収容室80Aの内部の真空度を調整する機能を備える。本実施形態では、制御装置がバルブV1,V2,V3の開閉を制御することで、真空容器11の内部とアンテナ収容室80Aの内部を同時に、又は独立して排気できる。
アンテナ85aとアンテナ85bは、高周波電源89から電力の供給を受けて、真空容器11の内部(反応プロセスゾーン60)に誘導電界を発生させ、プラズマを発生させるためのものである。本実施形態のアンテナ85a,85bは、銅で形成された円管状の本体部と、本体部の表面を被覆する銀で形成された被覆層を備えている。アンテナ85aのインピーダンスを低下するためには、電気抵抗の低い材料でアンテナ85a,85bを形成するのが好ましい。そこで、高周波の電流がアンテナの表面に集中するという特性を利用して、アンテナ85a,85bの本体部を安価で加工が容易な、しかも電気抵抗も低い銅で円管状に形成し、アンテナ85a,85bの表面を銅よりも電気抵抗の低い銀で被覆している。このように構成することで、高周波に対するアンテナ85a,85bのインピーダンスを低減して、アンテナ85aに電流を効率よく流して、プラズマを発生させる効率を高めている。
アンテナ85a及びアンテナ85bは、平面上で渦を成した形状を備える。アンテナ85aとアンテナ85bとは、ケース体81と誘電体板83との間に形成されたアンテナ収容室80Aの中に、渦を成す面が反応プロセスゾーン60を向いた状態で誘電体板83に隣接して設置される。言い換えれば、アンテナ85a及びアンテナ85bは、アンテナ85a及びアンテナ85bの渦を成す面が板状の誘電体板83の壁面に対向した状態で、アンテナ85a及びアンテナ85bの渦の中心軸線と垂直な方向(中心軸線Zと平行な方向)で上下に隣り合って設置されている。したがって、モータ17を作動させて、基板ホルダ13を中心軸線Z周りに回転させると、基板ホルダの外周に保持された基板は、基板の膜形成面がアンテナ85a,85bの渦を成す面と対向するように、上下に並んだアンテナ85a,85bに対して横方向(公転する基板Sの軌跡を、中心軸線Zから誘電体板83に対して垂直に投影したときの投影軌跡に沿った方向)に搬送される。
アンテナ85aとアンテナ85bは、高周波電源89に対して並列に接続されている。アンテナ85a,85bは、マッチング回路を収容するマッチングボックス87を介して高周波電源89に接続されている。マッチングボックス87内には、図8に示すように、可変コンデンサ87a,87bが設けられている。
渦状のアンテナ85a,85bは、導線部86a,86bを介してマッチングボックス87に接続されている。導線部86a,86bは、アンテナ85a,85bと同様の素材からなる。ケース体81には、導線部86a,86bを挿通するための挿通孔81aが形成されている。アンテナ収容室80A内側のアンテナ85a,85bと、アンテナ収容室80A外側のマッチングボックス87,高周波電源89とは、挿通孔81aに挿通される導線部86aを介して接続される。導線部86a,86bと挿通孔81aとの間にはシール部材81bが設けられ、アンテナ収容室80Aの内外で気密が保たれる。
本実施形態では、導線部86a,86bの長さに余裕をもたせて、アンテナ85aとアンテナ85bとの間隔Dを調整できるようになっている。本実施形態のスパッタ装置1では、アンテナ85a,85bを固定具88によって固定する際に、アンテナ85aとアンテナ85bの上下方向の間隔Dを調整することができる。
固定具88は、アンテナ85a,85bをアンテナ収容室80Aに設置するためのものである。本実施形態の固定具88は、固定板88a,88bと、固定ボルト88c,88dで構成される。固定板88a,88bには、アンテナ85a,85bが嵌合されている。アンテナ85a,85bが嵌合された固定板88a,88bは、固定ボルト88c,88dでケース体81に取り付けられている。ケース体81には上下方向に複数のボルト穴が形成され、固定板88a,88bは、いずれかのボルト穴を用いてケース体81に取り付けられている。すなわち、使用されるボルト穴の位置によって、アンテナ85aとアンテナ85bの上下方向の間隔Dが調整されている。なお、アンテナ85a,85bと固定板88a,88bとを絶縁するために、少なくとも、アンテナ85a,85bと固定板88a,88bとの接触面が絶縁材で形成されている。
以上の構成を備えるプラズマ発生手段80が、真空容器11に組み付けられる手順を説明する。
まず、固定具88を用いてアンテナ85a,85bをケース体81に固定する。このとき、アンテナ85aとアンテナ85bの上下方向の間隔Dや、アンテナ85aの径Raや、アンテナ85bの径Rbに合わせた固定具88を用いる。続いて、固定枠84を用いて、ケース体81に誘電体板83を固定する。これにより、アンテナ85a,85bは、誘電体板83と固定板88a,88bとの間に挟持された状態となる。また、ケース体81、誘電体板83、アンテナ85a,85b、固定具88が一体的になる。続いて、真空容器11の開口11aを塞ぐように、ケース体81を真空容器11に対してボルト(不図示)で固定する。以上によって、プラズマ発生手段80が、真空容器11に組み付けられ、アンテナ収容室80Aと、反応プロセスゾーン60(真空容器11の内部)と、真空容器11の外側が、それぞれ独立の空間として形成され、アンテナ85a,85bがアンテナ収容室80Aに設置される。
本実施形態では、ケース体81、誘電体板83、アンテナ85a,85b、固定具88を一体的にした状態で、ケース体81と真空容器11をボルトで固定することでプラズマ発生手段80を真空容器11と接続できるため、プラズマ発生手段80を真空容器11に着脱するのが容易である。
次に、本実施形態のスパッタ装置1を用いて、反応プロセスゾーン60にプラズマを発生させる手順を説明する。
まず、真空ポンプ15を作動させて、真空容器11の内部と、アンテナ収容室80Aを減圧する。このとき、制御装置は配管15aに設けられたバルブV1,V2,V3を総て開放し、真空容器11の内部と、アンテナ収容室80Aの内部を同時に排気して、真空容器11の内部及びアンテナ収容室80Aの内部を真空状態にする。制御装置は、真空計の測定値を監視して、真空容器11の内部とアンテナ収容室80Aの内部の圧力差が大きくならないように(例えば、104Pa以上の圧力差が生じないように)、バルブV1,V2,V3の開閉を適宜制御する。その後、制御装置は、真空容器11の内部が10−2Pa〜10Paになったところで一旦バルブV2を閉じる。アンテナ収容室80Aは、さらに10−3Pa以下にまで減圧される。つづいて、アンテナ収容室80A内部が10−3Pa以下になったところでバルブV3を閉じる。続いて、真空容器11の内部が10−2Pa〜10Paを保持した状態で、反応性ガスボンベ68内の反応性ガスを、マスフローコントローラ67を介して反応プロセスゾーン60へ導入する。
真空容器11の内部とアンテナ収容室80Aの内部を上記所定の圧力に保持した状態で、高周波電源89からアンテナ85a,85bに13.56MHzの電圧を印加して、反応プロセスゾーン60に反応性ガスのプラズマを発生させる。このとき、アンテナ85aとアンテナ85bの上下方向の間隔Dや、アンテナ85aの径Raや、アンテナ85bの径Rb等に応じた分布のプラズマが発生する。反応プロセスゾーン60に発生させて反応性ガスのプラズマによって、基板ホルダ13に配置された基板に対してプラズマ処理を行う。
以上のように、本実施形態では、薄膜を形成または処理する空間を形成する真空容器11の内部をプラズマが発生する圧力に保持して、真空容器11の内部とは独立した空間を形成するアンテナ収容室80Aの内部を真空容器11の内部よりも低いプラズマが発生しにくい圧力に保持して、真空容器11内にプラズマを発生させている。このため、アンテナ収容室80Aにプラズマが発生することを抑制して、真空容器11の内部に効率的にプラズマを発生させることができる。
さらに、本実施形態では、アンテナ収容室80Aと真空容器11の内部とは、誘電体板83で仕切られた状態で独立した空間とされ、アンテナ収容室80Aの内部にアンテナ85a,85bを設け、アンテナ収容室80Aを減圧した状態で真空容器11の内部にプラズマを発生させる構成となっている。このため、大気中にアンテナ85a,85bを設置した状態でプラズマを発生させる場合に比べて、アンテナ85a,85bの酸化を抑制することができる。したがって、アンテナ85a,85bの長寿命化を図ることができる。また、アンテナ85a,85bが酸化することにより、プラズマが不安定化することを抑制することができる。
また、本実施形態では、真空容器11の内部及びアンテナ収容室80Aの内部の圧力を監視して、真空容器11の内部と、アンテナ収容室80Aの内部で大きな圧力差が生じないように減圧を行い、真空容器11の内部を10−2Pa〜10Pa程度の真空に保持し、アンテナ収容室80Aを10−3Pa以下に保持して、真空容器11の内部にプラズマを発生させる構成にしている。そして、アンテナ収容室80Aと真空容器11の内部が誘電体板83で仕切られ、アンテナ収容室80Aと真空容器11外部がケース体81で仕切られている。このため、本実施形態では、アンテナ収容室80Aと真空容器11の内部の圧力差を小さく保つことができるため、誘電体板83の厚みを薄く設計することができ、効率的にプラズマを発生させることが可能となるとともに、安価な誘電体板83を使用して低コスト化を図ることができる。
また、本実施形態によれば、アンテナ85aとアンテナ85bの上下方向の間隔Dを調整することで、基板ホルダ13に配置される基板に対するプラズマの分布を調整することができる。また、アンテナ85aの径Raや、アンテナ85bの径Rb、又はアンテナ85a,85bの太さ等を独立に変更することができるため、アンテナ85aの径Raや、アンテナ85bの径Rb又は太さ等を調整することでも、プラズマの分布を調整することができる。また、本実施形態では、図8に示すように、アンテナ85aやアンテナ85bが大小の半円から構成される全体形状を備えているが、アンテナ85aやアンテナ85bの全体形状を、矩形などの形状に変更して、プラズマの分布を調整することも可能である。
特に、横方向に搬送される基板の搬送方向と交差する上下方向にアンテナ85aとアンテナ85bを並べて、アンテナ85a,85b両者の間隔も調整することができるため、基板の搬送方向に交差する方向で広範囲にプラズマ処理を行う必要がある場合に、プラズマの密度分布を容易に調整することができる。例えば、本実施形態のようなカルーセル型のスパッタ装置1を用いてプラズマ処理を行う場合には、基板ホルダ13での基板の配置,スパッタ条件等により、基板ホルダの上方に位置する薄膜と、中間に位置する薄膜の膜厚に違いが生じている場合がある。このような場合でも、本実施形態のプラズマ発生手段80を用いれば、膜厚の違いに対応してプラズマの密度分布を適宜調整することができるという利点がある。
また、本実施形態では、上述のように、仕切壁16の反応プロセスゾーン60に面する壁面や、真空容器11の内壁面の反応プロセスゾーン60に面する部分に熱分解窒化硼素が被覆することで、反応プロセスゾーン60のラジカルの密度を高く維持して、より多くのラジカルを基板上の薄膜と接触させてプラズマ処理の効率化を図っている。すなわち、仕切壁16や真空容器11の内壁面に化学的に安定な熱分解窒化硼素を被覆することで、プラズマ発生手段80によって反応プロセスゾーン60に発生したラジカル又は励起状態のラジカルが仕切壁16や真空容器11の内壁面と反応して消滅することを抑制している。また、仕切壁16で反応プロセスゾーン60に発生するラジカルが基板ホルダの方向へ向くようにコントロールできる。
(薄膜の形成手順)
以下に、上述のスパッタ装置1を用いて薄膜を製造する方法について、酸化ケイ素(SiO2)と酸化ニオブ(Nb2O5)を積層させた薄膜を製造する場合を例として説明する。薄膜の形成は、成膜の準備を行う工程、酸化ケイ素の薄膜を形成する工程、酸化ニオブの薄膜を形成する工程、薄膜を取り出す工程の順に行われる。
成膜の準備を行う工程を説明する。
まず、ターゲット29a,29b,49a,49bをマグネトロンスパッタ電極21a,21b,41a,41bに保持させて、遮蔽板36,56を取り付ける。ターゲット29a,29bの材料としてケイ素(Si)を用いる。ターゲット49a,49bの材料としてニオブ(Nb)を用いる。扉11bを閉じて、真空ポンプ15を作動させて排気を行い、薄膜形成室11Aを10−2Pa〜10Pa程度の真空状態にする。このとき、バルブV1,V2,V3が開放され、アンテナ収容室80Aも同時に排気される。そして、基板ホルダ13をロードロック室11Bの位置でロックしておいて、基板ホルダ13に基板Sを保持させる。続いて、扉11cを閉じた状態で、真空ポンプ15’を作動させてロードロック室11Bを排気して、10−2Pa〜10Pa程度の真空状態にする。その後、扉11bを開いて、基板ホルダ13を薄膜形成室11Aへ移動させる。基板ホルダ13を薄膜形成室11Aへ移動させた後に、扉11bを再び閉じる。
酸化ケイ素の薄膜を形成する工程を説明する。
真空容器11の内部,アンテナ収容室80Aの内部を上述の所定の圧力に減圧し、モータ17を作動させて、基板ホルダ13を回転させる。その後、真空容器11の内部,アンテナ収容室80Aの内部の圧力が安定した後に、成膜プロセスゾーン20の圧力を、1.0×10−1Pa〜1.3Paに調整する。
次に、第1の成膜プロセスゾーン20内に、スパッタ用の不活性ガスであるアルゴンガスと、反応性ガスである酸素ガスを、スパッタガスボンベ26、反応性ガスボンベ28からマスフローコントローラ25,27で流量を調整しながら導き、成膜プロセスゾーン20でスパッタを行うための雰囲気を調整する。このとき第1の成膜プロセスゾーン20に導入するアルゴンガスの流量は、約300sccmである。第1の成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量を、後述のように所望の値に調整する。なお、流量の単位としてのsccmは、0℃,1atmにおける、1分間あたりの流量を表すもので、cm3/minに等しい。
次に、交流電源23からトランス24を介して、マグネトロンスパッタ電極21a,21bに周波数1〜100KHzの交流電圧を印加し、ターゲット29a,29bに、交番電界が掛かるようにする。これにより、ある時点においてはターゲット29aがカソード(マイナス極)となり、その時ターゲット29bは必ずアノード(プラス極)となる。次の時点において交流の向きが変化すると、今度はターゲット29bがカソード(マイナス極)となり、ターゲット29aがアノード(プラス極)となる。このように一対のターゲット29a,29bが、交互にアノードとカソードとなることにより、プラズマが形成され、カソード上のターゲットに対してスパッタを行う。
スパッタを行っている最中には、アノード上には非導電性あるいは導電性の低い酸化ケイ素(SiOx(x≦2))が付着する場合もあるが、このアノードが交番電界によりカソードに変換された時に、これら酸化ケイ素(SiOx(x≦2))がスパッタされ、ターゲット表面は元の清浄な状態となる。そして、一対のターゲット29a,29bが、交互にアノードとカソードとなることを繰り返すことにより、常に安定なアノード電位状態が得られ、プラズマ電位(通常アノード電位とほぼ等しい)の変化が防止され、基板Sの膜形成面に安定してケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx1(x1<2))からなる薄膜が形成される。このように、第1の成膜プロセスゾーン20においてスパッタを行うことにより、中間薄膜としての、ケイ素或いはケイ素不完全酸化物からなる第1中間薄膜を基板Sの膜形成面に形成する。ケイ素不完全酸化物は、本発明における不完全反応物としての第1の不完全反応物であり、酸化ケイ素SiO2の構成元素である酸素が欠乏した不完全な酸化ケイ素SiOx(x<2)のことである。
スパッタを行っている途中段階で、時間の経過とともに飛散するスパッタ物質の分布に変化が生じたりすることがある。この場合には、補正小片35a1,35a2,35a3,・・・や、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・を、スパッタを行っている最中の適宜のタイミングで駆動させて、膜厚分布を調整する。このように補正小片35a1,35a2,35a3,・・・と、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・を駆動させるタイミングや駆動距離は、予め予備実験を行う等して定めておく。
図9は、第1の成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量と、第1中間薄膜を構成するケイ素不完全酸化物SiOx(x<2)の化学量論係数xとの関係を示している。なお、第1の成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量と、第1中間薄膜を構成するケイ素不完全酸化物の化学量論係数xとの関係は、装置毎に固有であるため、使用する装置について予め予備実験を行うことで、図9に示すようなデータを調べておく必要がある。図9の横軸が導入する酸素ガスの流量を、縦軸(左側の数値軸)がケイ素不完全酸化物SiOx(x<2)の組成を表す酸化ケイ素の化学量論係数xを示している。図9に示すように、導入する酸素ガスの流量を大きくするにしたがって、化学量論係数xの値が大きくなる関係にある。
本実施形態では、図9に基づいて、ケイ素或いは所望の化学量論係数xのケイ素不完全酸化物が基板Sの膜形成面に形成するように、導入する酸素ガスの流量を所望の値に調整して、第1の成膜プロセスゾーン20でスパッタを行う。スパッタを行っている最中は、基板ホルダ13を所定の回転速度で回転駆動させて基板Sを移動させながら、基板Sの膜形成面にケイ素或いはケイ素不完全酸化物からなる第1中間薄膜を形成させる。さらに、本実施形態では、マグネトロンスパッタ電極21a,21bと基板ホルダ13との間に膜厚補正板35及び遮蔽板36が設けられているため、上述のように、遮蔽板36の形状に応じた膜厚分布の第1中間薄膜を形成させることができる。
なお、本実施形態では、第1の成膜プロセスゾーン20で形成する薄膜の組成を、第1の成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量を調整することで行っているが、基板ホルダ13の回転速度を制御することでも調整できる。
第1の成膜プロセスゾーン20で、基板の膜形成面にケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx1(x1<2))からなる第1中間薄膜を形成させることで、第1中間薄膜形成工程を行った後には、基板Sを、基板ホルダ13の回転にともなって、第1の成膜プロセスゾーン20に面する位置から反応プロセスゾーン60に面する位置に搬送する。反応プロセスゾーン60には、反応性ガスボンベ68から反応性ガスとして酸素ガスを導入するとともに、不活性ガスボンベ66から不活性ガスとしてアルゴンガスを導入する。次に、アンテナ85a,85bに13.56MHzの高周波電圧を印加して、プラズマ発生手段80によって反応プロセスゾーン60にプラズマを発生させる。反応プロセスゾーン60の圧力は、0.7×10−1〜1.0Paに維持する。また、少なくとも反応プロセスゾーン60にプラズマを発生させている際中は、アンテナ収容室80Aの内部の圧力は、10−3Pa以下を保持する。
そして、基板ホルダ13が回転して、ケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx1(x1<2))からなる第1中間薄膜が形成された基板Sが反応プロセスゾーン60に面する位置に搬送されてくると、反応プロセスゾーン60では、第1中間薄膜を構成するケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx1(x1<2))をプラズマ処理によって酸化反応させる工程を行う。すなわち、プラズマ発生手段80によって反応プロセスゾーン60に発生させた酸素ガスのプラズマでケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx1(x1<2))を酸化反応させて、所望の組成の不完全酸化ケイ素(SiOx2(x1<x2<2))或いは酸化ケイ素(SiOx2)に変換させる。
本実施形態では、反応プロセスゾーン60で、第1中間薄膜を構成するケイ素或いはケイ素不完全酸化物を酸化反応させて所望の組成の不完全酸化ケイ素(SiOx2(x1<x2<2))或いは酸化ケイ素に変換させることで、最終薄膜としての第1最終薄膜を形成する。これにより、第1膜組成変換工程を行う。この反応プロセスゾーン60における第1膜組成変換工程では、第1最終薄膜の膜厚が第1中間薄膜の膜厚よりも厚くなるように、第1最終薄膜を形成する。すなわち、第1中間薄膜を構成するケイ素或いはケイ素不完全酸化物SiOx1(x1<2)を所望の組成の不完全酸化ケイ素(SiOx2(x1<x2<2))或いは酸化ケイ素(SiO2)に変換することにより第1中間薄膜を膨張させ、第1最終薄膜の膜厚を第1中間薄膜の膜厚よりも厚くする。
図9に、第1中間薄膜形成工程で第1の成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量と、第1中間薄膜に対する第1最終薄膜の膜厚の増加率(=(第1最終薄膜の膜厚)/(第1中間薄膜の膜厚))との関係を示す。図9の横軸が導入する酸素ガスの流量を、縦軸(右側の数値軸)が膜厚の増加率を示している。
図9に示すように、第1中間薄膜形成工程で第1の成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量を減少させて、ケイ素不完全酸化物の化学量論係数xの値を小さくするにしたがって、膜厚の増加率が大きくなる関係にある。すなわち、ケイ素不完全酸化物の組成(化学量論係数xの値)によって、第1中間薄膜に対する第1最終薄膜の膜厚の増加率が決定する。言い換えれば、本実施形態によれば、上述の第1中間薄膜形成工程で、第1の成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量を調整することで、第1中間薄膜を構成するケイ素不完全酸化物の化学量論係数xを決定して(xを0とするなら、第1中間薄膜はケイ素から構成される)、第1中間薄膜に対する第1最終薄膜の膜厚の増加率を決定することができる。
例えば、第1中間薄膜形成工程で、第1の成膜プロセスゾーン20に20sccmの酸素ガスを導入しながら第1中間薄膜を形成させれば、化学量論係数xが0.16のケイ素不完全酸化物から構成される第1中間薄膜が形成され、反応プロセスゾーン60における第1膜組成変換工程では、第1中間薄膜に対する第1最終薄膜の膜厚の増加率を1.4とすることができる。
本実施形態では、第1中間薄膜形成工程で、膜厚補正板35及び遮蔽板36を備えたスパッタ装置1を用いて第1中間薄膜を基板Sに形成させているため、第1膜組成変換工程を行う前に、既に基板Sの膜形成面には所定の膜厚分布を備える第1中間薄膜が形成している。この状態で第1膜組成変換工程を行うことで、第1中間薄膜における膜厚分布をさらに変化させることができる。
例えば、10mmの長さをもつ基板Sを、長さ方向が基板ホルダ13の上下方向を向くように基板ホルダ13に保持した場合に、第1中間薄膜形成工程で、基板Sの膜形成面の上端側に0.3nm、下端側に0.4nmの膜厚の第1中間薄膜を形成させる。この場合、10mmの長さをもつ基板Sの膜形成面の上端側から下端側に向けて形成される薄膜の膜厚の傾斜は、0.1nm/10mm、である。この第1中間薄膜に対して増加率1.4の第1膜組成変換工程を行うと、膜形成面の上端側に0.42nm、下端側に0.56nmの膜厚の第1最終薄膜が形成される。すなわち、第1最終薄膜における膜形成面の上端側から下端側に向けての膜厚の傾斜を0.14nm/10mmに変えることができる。
つまり、本実施形態によれば、スパッタを行うだけで生成された第1中間薄膜よりも、スパッタを行うだけで生成された第1中間薄膜をさらに反応ガスで反応させた第1最終薄膜の膜厚の傾斜を強くするこができる。さらに、本実施形態によれば、第1中間薄膜形成工程の最中に、補正小片35a1,35a2,35a3,・・・と、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・を駆動させて、膜厚分布を調整することもできる。
本実施形態では、以上説明した第1中間薄膜形成工程と、第1膜組成変換工程とを、基板Sを搭載した基板ホルダ13を回転させながら繰り返すことにより、第1の成膜プロセスゾーン20におけるケイ素或いはケイ素不完全酸化物(SiOx1(x1<2))の基板上への形成と、反応プロセスゾーン60におけるケイ素不完全反応物(SiOx2(x1<x2<2))或いは酸化ケイ素(SiO2)への変換が繰り返され、所望の膜厚で、基板Sの膜形成面上端側から下端側に向けての膜厚の傾斜を強くした不完全酸化ケイ素(SiOx2(x1<x2<2))或いは酸化ケイ素(SiO2)の薄膜を形成することができる。
酸化ニオブの薄膜を形成する工程を説明する。
第2の成膜プロセスゾーン40内の圧力を、1.0×10−1〜1.3Paに調整する。マスフローコントローラ45,47で流量を調整しながら、スパッタガスボンベ46から不活性ガスとしてのアルゴンガスを、反応性ガスボンベ48から反応性ガスとしての酸素ガスを、成膜プロセスゾーン40に導入する。このときの成膜プロセスゾーン20に導入するアルゴンガスの流量は約300sccmである。第2の成膜プロセスゾーン40に導入する酸素ガスの流量を、後述のように所望の値に調整する。
次に、交流電源43からトランス44を介して、マグネトロンスパッタ電極41a,41bに周波数1〜100KHzの交流電圧を印加し、ターゲット49a,49bに、交番電界を掛けて、スパッタを行う。上述の酸化ケイ素の薄膜を形成する工程を行った後に、基板ホルダ13の回転駆動によって基板Sを、反応プロセスゾーン60に面する位置から第2の成膜プロセスゾーン40に面する位置に搬送する。そして、第2の成膜プロセスゾーン40においてスパッタを行うことにより、中間薄膜としての、ニオブ或いはニオブ不完全酸化物NbOx(x<2.5)からなる第2中間薄膜を、基板Sの膜形成面に既に形成している第1最終薄膜に積層するように形成する(以下の酸化ニオブの薄膜を形成する工程の説明においては、表現の冗長を避けるために、基板Sの膜形成面に第2中間薄膜を形成することとして説明する)。ニオブ不完全酸化物NbOx(x<2.5)は、本発明における不完全反応物としての第2の不完全反応物であり、酸化ニオブNb2O5の構成元素である酸素が欠乏した不完全な酸化ニオブNbOx(x<2.5)のことである。
スパッタを行っている最中に時間の経過とともに飛散するスパッタ物質の分布に変化が生じたりすることがあるが、この場合には、膜厚補正板35を駆動させた場合と同様に、膜厚補正板55を、スパッタを行っている最中の適宜のタイミングで駆動させて、膜厚分布を調整する。このように膜厚補正板55を駆動させるタイミングや駆動距離は、予め予備実験を行う等して定めておく。
図10は、第2の成膜プロセスゾーン40に導入する酸素ガスの流量と、第2中間薄膜を構成するニオブ不完全酸化物NbOx(x<2.5)の化学量論係数xとの関係を示している。なお、第2の成膜プロセスゾーン40に導入する酸素ガスの流量と、第2中間薄膜を構成するニオブ不完全酸化物の化学量論係数xとの関係は、装置毎に固有であるため、使用する装置について予め予備実験を行うことで、図10に示すようなデータを調べておく必要がある。図10の横軸が導入する酸素ガスの流量を、縦軸(左側の数値軸)がニオブ不完全酸化物NbOx(x<2.5)の組成を表す酸化ニオブの化学量論係数xを示している。図10に示すように、導入する酸素ガスの流量を大きくするにしたがって、化学量論係数xの値が大きくなる関係にある。
本実施形態では、図10に基づいて、ニオブ或いは所望の化学量論係数xのニオブ不完全酸化物NbOx(x<2.5)が基板Sの膜形成面に形成するように、導入する酸素ガスの流量を所望の値に調整して、第2の成膜プロセスゾーン40でスパッタを行う。スパッタを行っている最中は、基板ホルダ13を所定の回転速度で回転駆動させて基板Sを移動させながら、基板Sの膜形成面にニオブ或いはニオブ不完全酸化物NbOx(x1<2.5)からなる第2中間薄膜を形成させる。さらに、本実施形態では、マグネトロンスパッタ電極41a,41bと基板ホルダ13との間に膜厚補正板55及び遮蔽板56が設けられているため、上述のように、遮蔽板56の形状に応じた膜厚分布の第2中間薄膜を形成させることができる。
なお、本実施形態では、第2の成膜プロセスゾーン40で形成する薄膜の組成を、第2の成膜プロセスゾーン40に導入する酸素ガスの流量を調整することで行っているが、基板ホルダ13の回転速度を制御することでも調整できる。
第2の成膜プロセスゾーン40で、基板Sの膜形成面にニオブ或いはニオブ不完全酸化物NbOx1(x1<2.5)からなる第2中間薄膜を形成させることで、本発明の中間薄膜形成工程としての第2中間薄膜形成工程を行った後には、基板Sを、基板ホルダ13の回転にともなって、第2の成膜プロセスゾーン40に面する位置から反応プロセスゾーン60に面する位置に搬送する。反応プロセスゾーン60には、上述の酸化ケイ素の薄膜を形成する工程と同様に、反応性ガスボンベ68から反応性ガスとしての酸素ガスを導入し、アンテナ85a,85bに高周波電力を印加し、プラズマ発生手段80により反応プロセスゾーン60にプラズマを発生させる。
そして、基板ホルダ13が回転して、ニオブ或いはニオブ不完全酸化物NbOx1(x1<2.5)から構成される第2中間薄膜が形成した基板Sが反応プロセスゾーン60に面する位置に搬送されてくると、反応プロセスゾーン60では、第2中間薄膜を構成するニオブ或いはニオブ不完全酸化物NbOx1(x1<2.5)を酸化反応させる工程を行う。すなわち、プラズマ発生手段80によって反応プロセスゾーン60に発生させた酸素ガスのプラズマでニオブ或いはニオブ不完全酸化物NbOx1(x1<2.5)を酸化反応させて、所望の組成の不完全酸化ケイ素(NbOx2(x1<x2<2.5))或いは酸化ニオブ(Nb2O5)に変換させる。
本実施形態では、反応プロセスゾーン60で、第2中間薄膜を構成するニオブ或いはニオブ不完全酸化物を酸化反応させて不完全酸化ケイ素(NbOx2(x1<x2<2.5))或いは酸化ニオブ(Nb2O5)に変換させることで、酸化ニオブから構成される最終薄膜としての第2最終薄膜を形成する。これにより、本発明の膜組成変換工程としての第2膜組成変換工程を行う。この反応プロセスゾーン60における第2膜組成変換工程では、第2最終薄膜の膜厚が第2中間薄膜の膜厚よりも厚くなるように、第2最終薄膜を形成する。すなわち、第2中間薄膜を構成するニオブ或いはニオブ不完全酸化物NbOx1(x1<2.5)を不完全酸化ケイ素(NbOx2(x1<x2<2.5))或いは酸化ニオブ(Nb2O5)に変換することにより第2中間薄膜を膨張させ、第2最終薄膜の膜厚を第2中間薄膜の膜厚よりも厚くする。
図10に、第2中間薄膜形成工程で第2の成膜プロセスゾーン40に導入する酸素ガスの流量と、第2中間薄膜に対する第2最終薄膜の膜厚の増加率(=(第2最終薄膜の膜厚)/(第2中間薄膜の膜厚))との関係を示す。図10の横軸が導入する酸素ガスの流量を、縦軸(右側の数値軸)が増加率を示している。
図10に示すように、第2中間薄膜形成工程で第2の成膜プロセスゾーン40に導入する酸素ガスの流量を減少させて、ニオブ不完全酸化物の化学量論係数xの値を小さくするにしたがって、膜厚の増加率が大きくなる関係にある。すなわち、ニオブ不完全酸化物の組成(化学量論係数xの値)によって、第2中間薄膜に対する第2最終薄膜の膜厚の増加率が決定する。言い換えれば、本実施形態によれば、上述の第2中間薄膜形成工程で、第2の成膜プロセスゾーン40に導入する酸素ガスの流量を調整することで、第2中間薄膜を構成するニオブ不完全酸化物の化学量論係数xを決定して(xを0とするなら、第2中間薄膜はニオブから構成される)、第2中間薄膜に対する第2最終薄膜の膜厚の増加率を決定することができる。
例えば、第2中間薄膜形成工程で、第2の成膜プロセスゾーン40に30sccmの酸素ガスを導入しながら第2中間薄膜を形成させれば、化学量論係数xが0.08のニオブ不完全酸化物から構成される第2中間薄膜が形成され、反応プロセスゾーン60における第2膜組成変換工程では、第2中間薄膜に対する第2最終薄膜の膜厚の増加率を1.4とすることができる。
本実施形態では、上述の第1中間薄膜形成工程と同様に、第2中間薄膜形成工程で、膜厚補正板35及び遮蔽板36を備えたスパッタ装置1を用いて第2中間薄膜を基板Sに形成させているため、第2膜組成変換工程を行う前に、既に基板Sには所定の膜厚分布を備える第2中間薄膜が形成している。
そして、本実施形態によれば、上述の第1膜組成変換工程と同様に、第2中間薄膜形成工程の後に第2膜組成変換工程を行うことで、スパッタだけで生成された第2中間薄膜よりも、スパッタだけで生成された第2中間薄膜をさらに反応ガスで反応させた第2最終薄膜の膜厚の傾斜を強くするこができる。さらに、本実施形態によれば、第2中間薄膜形成工程の最中に、膜厚補正板55を駆動させて、膜厚分布を調整することもできる。
本実施形態では、以上説明した第2中間薄膜形成工程と、第2膜組成変換工程とを、基板Sを搭載した基板ホルダ13を回転させながら繰り返すことにより、第2の成膜プロセスゾーン40におけるニオブ或いはニオブ不完全酸化物(NbOx(x<2))の基板上への形成と、反応プロセスゾーン60におけるニオブ或いはニオブ不完全反応物の酸化ニオブ(Nb2O5)への変換が繰り返され、所望の膜厚で、基板Sの膜形成面上端側から下端側に向けての膜厚の傾斜を強くした不完全酸化ケイ素(NbOx2(x1<x2<2.5))或いは酸化ニオブ(Nb2O5)の薄膜を形成することができる。
以上に説明した、酸化ケイ素の薄膜を形成する工程と、酸化ニオブの薄膜を形成する工程を行うことで、基板Sの上に、酸化ケイ素(SiO2)と酸化ニオブ(Nb2O5)を積層させた薄膜を製造することができる。また、酸化ケイ素の薄膜を形成する工程と、酸化ニオブの薄膜を形成する工程を繰り返すことで、酸化ケイ素(SiO2)と酸化ニオブ(Nb2O5)の積層の数も増やすことができる。
さらに、本実施形態では、上述の第1膜組成変換工程における、第1中間薄膜に対する第1最終薄膜の膜厚の増加率と、上述の第2膜組成変換工程における、第2中間薄膜に対する第2最終薄膜の膜厚の増加率と、が一致するように、上述の第1中間薄膜形成工程で第1の成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量と、上述の第2中間薄膜形成工程で第2の成膜プロセスゾーン40に導入する酸素ガスの流量とを調整するとよい。
すなわち、第1中間薄膜に対する第1最終薄膜の膨張率と、第2中間薄膜に対する第2最終薄膜の膨張率を、ともにYとなるようにする場合を考える。この場合には、第1中間薄膜形成工程で、第1中間薄膜に対する第1最終薄膜の膨張率がYになる組成の第1の不完全反応物が形成するように反応性ガスの流量を調整し、第2中間薄膜形成工程でも、第2中間薄膜に対する第2最終薄膜の膨張率がYになる組成の第2の不完全反応物が形成するように反応性ガスの流量を調整する。
例えば、膨張率の値を1.4で一致させる場合には、酸化ケイ素の薄膜を形成する際の第1中間薄膜形成工程では酸素ガスの流量を20sccmとして、酸化ニオブの薄膜を形成する際の第2中間薄膜形成工程では酸素ガスの流量を30sccmとすればよい。他にも、次の例が考えられる。
膨張率の値を1.5で一致させる場合には、第1中間薄膜形成工程で酸素ガスの流量を17.5sccmとして、第2中間薄膜形成工程で酸素ガスの流量を22.5sccmとすればよい。
膨張率の値を1.7で一致させる場合には、第1中間薄膜形成工程で酸素ガスの流量を0sccmとして、第2中間薄膜形成工程で酸素ガスの流量を15sccmとすればよい。
このように、第1膜組成変換工程と第2膜組成変換工程における膨張率が、ほぼ一致するように、第1中間薄膜形成工程や第2中間薄膜形成工程の少なくとも一方において酸素ガスを導入しながら第1中間薄膜及び第2中間薄膜を形成させることで、基板S上に形成する第1最終薄膜と第2最終薄膜との膜厚分布(傾斜の度合い)を揃える事ができる。
以上のように形成される薄膜の膜厚分布は、遮蔽板36の形状を変化させ、中間薄膜形成工程で成膜プロセスゾーンに導入する酸素ガスの流量を調整することで、所望の分布にすることができる。勿論、第1膜組成変換工程と第2膜組成変換工程における膨張率を異ならせるように、中間薄膜形成工程で成膜プロセスゾーンに導入する酸素ガスの流量を調整して、傾斜の度合いの異なる薄膜を積層させることもできる。
また、本実施形態のように、プラズマ処理によって中間薄膜の膜厚を増加させて最終薄膜を形成するようにすることで、膜厚補正板35(または55)の駆動距離を短く抑えることができる。
例えば、ある位置のスパッタ粒子の分布に変化が生じて、当該位置の最終薄膜の膜厚分布に変化(例えば0.15nmの変化)が生じ、当該位置に対応する補正小片(例えば、補正小片35a5,35b5)を駆動させる状況を考える。
スパッタだけで最終薄膜を形成している場合(中間薄膜の形成と、中間薄膜から最終薄膜への膜厚増加の過程を経ない場合)には、膜厚分布の変化0.15nmを修正できる分の距離だけ補正小片35a5,35b5を駆動させる必要がある。
これに対して、本実施形態のように、中間薄膜の膜厚を増加させて最終薄膜を形成するようにした場合には、最終薄膜で0.15nmの膜厚の変化があったとしても、スパッタ時点では0.1nmの変化しか生じていなかったことになるから(中間薄膜から最終薄膜への膜厚増加率を1.5として計算)、0.1nmを修正できる分の距離だけ補正小片35a5,35b5を駆動させればよいことになる。
このように、本実施形態では、膜厚補正板35(または55)の駆動距離を短く抑えることができる。
ところで、本実施形態のように所謂マグネトロンスパッタを行った場合、ターゲットの表面に、局所的にスパッタが進行したエロージョン領域が現れることが知られている。図11は、ターゲットのエロージョン領域と膜厚補正板35(または55)との関係を説明する説明図である。図11に示すように、エロージョン領域Eは、ターゲット29aの中央付近にリング状に現れる。前記したように、本実施形態では膜厚補正板35の駆動距離を短く抑えることができるため、図11に示すように、ターゲットに対して膜厚補正板35がせり出した場合でも、その距離を短く抑えることができ、補正板35とエロージョン領域Eとの相互の影響を小さく抑えることができる。
薄膜を取り出す工程を説明する。
酸化ケイ素の薄膜を形成する工程及び酸化ニオブの薄膜を形成する工程を終えた後、薄膜の形成された基板Sを真空容器11から取り出す工程を行う。
まず、ロードロック室11Bを薄膜形成室11Aとほぼ同じ真空状態(10−2Pa〜10Pa)に保つ。その後、扉11bを開ける。そして、基板ホルダ13を薄膜形成室11Aからロードロック室11Bへ移動させる。続いて、扉11bを再び閉じて、ロードロック室11Bを大気圧までリークするとともに、扉11cを開放する。そして、基板ホルダ13から基板Sを取り外し、薄膜を取り出す工程を終える。
続けて、薄膜を形成するためには、上記の成膜の準備を行う工程、酸化ケイ素の薄膜を形成する工程、酸化ニオブの薄膜を形成する工程、薄膜を取り出す工程を繰り返す。この場合、成膜の準備を行う工程では、すでに薄膜形成室11Aが真空状態にあるため、薄膜形成室11Aを10−2Pa〜10Pa程度の真空状態にする工程は不要である。すなわち、本実施形態では、上記の成膜の準備を行う工程、酸化ケイ素の薄膜を形成する工程、酸化ニオブの薄膜を形成する工程、薄膜を取り出す工程を繰り返す場合に、成膜の準備を行う工程や薄膜を取り出す工程で、薄膜形成室11Aを大気状態に戻す必要がないため、常に薄膜形成室11Aを真空状態に保つことができる。このことにより、薄膜形成室11Aの内部の環境を安定させることができる。
以上に説明した実施の形態は、例えば、次の(a)〜(e)のように、改変することもできる。また、(a)〜(e)を適宜組合せて改変することもできる。なお、以下の説明では、上記の実施形態と同一の部材は同一の符号を用いて説明している。
(a) 上記の実施形態では、遮蔽板36,56を設けたが、基板Sに均一な膜厚の薄膜を形成させる場合等には、遮蔽版36,35を設けないこととすることもできる。
(b) 上記の実施形態では、補正板駆動手段は、補正板駆動モータ71a,71bと、原動軸72a,72bと、傘歯車73a,73bと、傘歯車74a,74bと、螺旋棒75a,75bと、ナット76a,76bとによって構成されていたが、補正小片35a1,35a2,35a3,・・・、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・各々を摺動させる機構であれば、補正板駆動手段は他の機構でもよい。例えば、原動軸72a,72bに固定されたピニオンと、ラックとを用いて、補正小片35a1,35a2,35a3,・・・、補正小片35b1,35b2,35b3,・・・各々を摺動させるようにしてもよい。
(c) 上記の実施形態では、反応プロセスゾーン60に反応性ガスとして酸素を導入しているが、その他に、オゾン,一酸化二窒素(N2O)等の酸化性ガス、窒素等の窒化性ガス、メタン等の炭化性ガス、弗素,四弗化炭素(CF4)等の弗化性ガスなどを導入することで、本発明を酸化処理以外のプラズマ処理にも適用することができる。
(d) 上記の実施形態では、ターゲット29a,29bの材料としてケイ素を、ターゲット49a,49bの材料としてニオブを用いているが、これに限定されるものでなく、これらの酸化物を用いることもできる。また、アルミニウム(Al),チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),スズ(Sn),クロム(Cr),タンタル(Ta),テルル(Te),鉄(Fe),マグネシウム(Mg),ハフニウム(Hf),ニッケル・クロム(Ni−Cr),インジウム・スズ(In−Sn)などの金属を用いることができる。また、これらの金属の化合物,例えば、Al2O3,TiO2,ZrO2,Ta2O5,HfO2等を用いることもできる。勿論、ターゲット29a,29b,49a,49bの材料を総て同じにしてもよい。これらのターゲットを用いた場合、反応プロセスゾーン60におけるプラズマ処理により、Al2O3,TiO2,ZrO2,Ta2O5,SiO2,Nb2O5,HfO2,MgF2等の光学膜ないし絶縁膜、ITO等の導電膜、Fe2O3などの磁性膜、TiN,CrN,TiCなどの超硬膜を作成できる。TiO2,ZrO2,SiO2,Nb2O5,Ta2O5のような絶縁性の金属化合物は、金属(Ti,Zr,Si)に比べスパッタ速度が極端に遅く生産性が悪いので、特に本発明のスパッタ装置を用いてプラズマ処理すると有効である。
(e) 上記の実施形態では、ターゲット29aとターゲット29b、ターゲット49aとターゲット49bは同一の材料で構成されているが、異種の材料で構成してもよい。同一の金属ターゲットを用いた場合は、上述のように、スパッタを行うことによって単一金属の不完全反応物が基板に形成され、異種の金属ターゲットを用いた場合は合金の不完全反応物が基板に形成される。
1・・・スパッタ装置、11・・・真空容器、11a・・・開口、11b,11c・・・扉、11A・・・形成室、11B・・・ロードロック室、12,14,16・・・仕切壁、13・・・基板ホルダ、13a・・・基板保持具、13b・・・凹部、15,15’・・・真空ポンプ、15a,15a’・・・配管、17・・・モータ、20・・・第1の成膜プロセスゾーン、21a,21b,41a,41b・・・マグネトロンスパッタ電極、23,43・・・交流電源、24,44・・・トランス、25,27,45,47,65,67・・・マスフローコントローラ、26,46・・・スパッタガスボンベ、28,48,68・・・反応性ガスボンベ、29a,29b,49a,49b・・・ターゲット、35,55・・・膜厚補正板、35a・・・第1の補正板、35a1,35a2,35a3,35b1,35b2,35b3・・・補正板、35b・・・第2の補正板、36,56・・・遮蔽板、40・・・第2の成膜プロセスゾーン、60・・・反応プロセスゾーン、71a,71b・・・補正板駆動モータ、72a,72b・・・原動軸、73a,73b,74a,74b・・・傘歯車、75a,75b・・・螺旋棒、76a,76b・・・ナット、80・・・プラズマ発生手段、80A・・・アンテナ収容室、81・・・ケース体、81a・・・挿通孔、81b・・・シール部材、83・・・誘電体板、84・・・固定枠、85a,85b・・・アンテナ、86a,86b・・・導線部、87vマッチングボックス、87a,87b・・・可変コンデンサ、88・・・固定具、88a,88b・・・固定板、88c,88d・・・固定ボルト、89・・・高周波電源、310・・・ターゲット、320・・・膜厚補正板、321・・・駆動装置、322・・・遮蔽部材、323・・・開口部、330・・・基板、331・・・駆動装置、E・・・エロージョン領域、M・・・基準面、P・・・保護層、S・・・基板、V1,V2,V3・・・バルブ、Z・・・中心軸線