JP2007099024A - 二輪車用空気入りタイヤ - Google Patents

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Abstract

【課題】トレッド部13の外表面にほぼ幅方向に延びる溝30、31(傾斜部32)が形成されている回転方向が規定された二輪車用空気入りタイヤにおいて、駆動性能または制動性能を向上させる。
【解決手段】後輪用のタイヤには加速走行時に駆動力が作用するため、傾斜部32間の陸部35全体が回転方向後方に倒れ込もうとするが、前記傾斜部32を全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向前方に傾斜させたので、各陸部35の回転方向後端に形成された略三角形状の突っ張り部36が強力に抵抗し、各陸部35における倒れ込みが効果的に抑制される。この結果、駆動時のグリップ力が向上して駆動性能が向上するとともに、接地圧が均一化して偏摩耗の発生も抑制される。
【選択図】図3

Description

この発明は、駆動性能または制動性能を向上させることができる回転方向が規定された二輪車用空気入りタイヤに関する。
従来、駆動性能を旋回性能と共に向上させることができる回転方向が規定された二輪車用空気入りタイヤとしては、例えば以下の特許文献1に記載されているようなものが知られている。
特開2003−146017号公報
このものは、トレッド部に、タイヤ周方向線に対して傾斜する傾斜縦溝と、タイヤ軸方向線に対して傾斜する傾斜横溝とによって区分されかつタイヤ周方向に配列する複数のブロックからなるブロック列を含み、前記傾斜縦溝は、タイヤ周方向線に対してタイヤ回転方向に対して拡がる向きに10゜より大かつ45゜より小の角度αで傾斜するとともに、前記傾斜横溝は、タイヤ軸方向線に対してタイヤ軸方向外側がタイヤ回転方向となる向きに10゜より大かつ45゜より小度の角度βで傾斜し、しかも前記角度の和α+βを20゜より大かつ55゜より小としたものである。
ここで、二輪車はエンジンからの回転駆動力が後輪にのみ伝達されるため、後輪に装着されるタイヤは駆動性能が重要となるが、前述のようなタイヤを二輪車の後輪に装着して駆動走行した場合、各ブロックに該ブロックの隣接する2つのブロック壁にそれぞれ作用する駆動力、旋回力の分力が合計されて付与されるため、駆動性能、旋回性能が共に向上し、後輪に好適である。
しかしながら、このような従来の二輪車用空気入りタイヤは、ある程度駆動性能を向上させることができるものの、最近の性能が格段に向上した一般道を走行する二輪車あるいはレーシング用の二輪車に装着した場合には、駆動性能が不足してしまうという課題があった。しかも、トレッド部に縦溝と横溝の双方が形成されたブロックタイプでなければならず、適用範囲が狭いという課題もあった。
このため、本発明者は、トレッド部外表面に、縦溝が形成されていなくても、タイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内の傾斜角で傾斜した傾斜部を有する溝が複数形成されていれば充分である適用範囲の広い後輪用の二輪車用空気入りタイヤにおいて、傾斜部が設けられている部位のトレッドゴムの加速走行時における挙動を鋭意研究し、以下のような知見を得た。
即ち、加速走行時の接地領域における陸部で、路面に接触している部位には回転方向後方に向かう周方向のせん断変形が、一方、トレッド部の内部骨格部材であるベルト層に接触している部位には回転方向前方にずれる周方向のせん断変形が作用するが、前述のようにタイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内の傾斜角で傾斜した傾斜部を有する溝がトレッド部に複数形成されていると、前述したせん断変形により溝の傾斜部間における陸部全体が溝底を基端として回転方向方向後方に向かって倒れ込む。
このように後輪の加速走行時に、傾斜部(溝)間における陸部全体が回転方向方向後方に向かって倒れ込むと、陸部と路面との接地面積が減少して駆動時のグリップ力が低下し、これにより、駆動性能が低下するとともに、接地圧が不均一となって偏摩耗が発生することがあった。このため、本発明者は、さらに研究を重ね、前述のような倒れ込みに対して強力に抵抗するには、傾斜部(溝)全体を前記倒れ込み方向と逆方向に傾斜させればよいことを知見した。
請求項1に係る発明は、前述のような知見に基づきなされたもので、トレッド部外表面に、タイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内の傾斜角Aで傾斜した傾斜部を有する溝が複数形成され、回転方向が指定された後輪用の二輪車用空気入りタイヤにおいて、前記各溝の傾斜部に対して周方向断面をとったとき、前記周方向断面上における傾斜部を全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向前方に傾斜させた二輪車用空気入りタイヤである。
一方、二輪車の前輪は制動時に、前輪が沈み込むよう車体が傾斜(ピッチング)するため、荷重が増大して制動を主に担当することになるが、このような前輪用タイヤにおけるトレッドゴムの挙動に対しても同様に鋭意研究を行い、以下のような知見を得た。即ち、制動時の接地領域における溝(傾斜部)間の陸部は、前述と逆方向にせん断変形するため、全体が溝底を基端として回転方向前方に向かって倒れ込む。このため、大きな制動力を受ける前輪用タイヤにおいて、陸部の倒れ込みに対し強力に抵抗するには、同様に傾斜部(溝)全体を前記倒れ込み方向と逆方向に傾斜させればよいのである。
請求項2に係る発明は、前述のような知見に基づいてなされたもので、トレッド部外表面に、タイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内の傾斜角Aで傾斜した傾斜部を有する溝が複数形成され、回転方向が指定された前輪用の二輪車用空気入りタイヤにおいて、前記各溝の傾斜部に対して周方向断面をとったとき、前記周方向断面上における傾斜部を全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜させた二輪車用空気入りタイヤである。
請求項1に係る発明においては、周方向断面上における溝の傾斜部を全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向前方に傾斜させたので、加速走行時に、傾斜部(溝)間における陸部全体が回転方向後方に向かって倒れ込もうとしても、各陸部の回転方向後端に形成された略三角形状の突っ張り部が強力に抵抗し、各陸部における倒れ込みが効果的に抑制される。この結果、陸部と路面との接地面積が増大して駆動時のグリップ力が向上し、これにより、駆動性能が向上するとともに、接地圧が均一化して偏摩耗の発生も抑制される。しかも、このタイヤにおいては、略周方向に延びる縦溝は必須要件ではないので、適用範囲は広い。
また、請求項2に係る発明においては、周方向断面上における傾斜部を全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜させたので、制動時に、傾斜部(溝)間における陸部全体が回転方向前方に向かって倒れ込もうとしても、各陸部の回転方向前端に形成された略三角形状の突っ張り部が強力に抵抗し、各陸部における倒れ込みが効果的に抑制される。この結果、同様に制動性能が向上し、偏摩耗の発生も抑制される。しかも、このタイヤにおいても、縦溝は必須要件ではないので、適用範囲は広い。
さらに、二輪車用空気入りタイヤは旋回時に車体が大きく倒れるため、トレッド端部のみが接地するとともに、このトレッド端部に大きな横力が作用するが、請求項3に記載のように、トレッド端部に配置されている傾斜部がタイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内の傾斜角Aで傾斜している溝であると、トレッド端部に位置する陸部がほぼタイヤ幅方向に延在することとなって、前述のような横力に強力に抵抗し、その倒れ込みが効果的に抑制される。
これにより、接地面積が増大してタイヤの旋回性能が効果的に向上するとともに、偏摩耗が効果的に抑制される。特に、旋回しながら加速を行う場合には、横力、駆動力の双方がタイヤのトレッド端部に作用するが、請求項1に従属している請求項3に係る発明では、旋回性能、駆動性能の双方を向上させることができるため、前述の場合に充分なグリップ力を確保することができ、一方、旋回しながら減速を行う場合には、横力、制動力の双方がタイヤのトレッド端部に作用するが、請求項2に従属している請求項3に係る発明では、旋回性能、制動性能の双方を向上させることができるため、前述の場合に充分なグリップ力を確保することができる。
また、請求項4に記載のように構成すれば、駆動、制動性能を充分としながら、加硫成形を容易とするとともに、偏摩耗を効果的に抑制することができる。さらに、請求項5に記載のように構成すれば、加硫成形が容易で、かつ、排水性能を確保しながら、ネガティブ比を適切な値に抑えることができる。また、請求項6に記載のように構成すれば、接地時に閉じるため、駆動、制動性能をさらに向上させながら、排水性能を効果的に向上させることができる。
さらに、請求項7に記載のように構成すれば、溝の傾斜部を簡単にかつ高精度で成形することができる。また、請求項8に記載のように構成すれば、陸部が倒れ込もうとしたとき、隣接する陸部の回転方向前、後面同士が噛み合うように接触して、該陸部の倒れ込みを強力に抑制することができる。
以下、この発明の実施形態1を図面に基づいて説明する。
図1、2において、11は高速走行に適する回転方向が指定された後輪用の二輪車用空気入りタイヤであり、このタイヤ11は子午線断面が略弧状を呈しながら半径方向外側に向かって凸状に滑らかに湾曲するトレッド部13と、このトレッド部13の幅方向両端からほぼ半径方向内側に向かって延びる一対のサイドウォール部14と、これらサイドウォール部14の半径方向内側端に連続しビードコア16がそれぞれ埋設された一対のビード部15とを備え、トレッド端E間の幅がタイヤ最大幅となるよう成形されている。
また、前記タイヤ11は一対のビードコア16間をトロイダル状に延びてサイドウォール部14、トレッド部13を補強するカーカス層20を有し、このカーカス層20の両端部は前記ビードコア16の回りを内側から外側に向かって折り返されることで、これらビードコア16に係止されている。前記カーカス層20は少なくとも1枚、ここでは2枚のカーカスプライ21から構成され、これらのカーカスプライ21の内部にはタイヤ赤道Sに対して80度のコード角で交差する補強コードが多数本埋設されている。
そして、これらの補強コードは2枚のカーカスプライ21においてタイヤ赤道Sに対し逆方向に傾斜し、互いに交差している。なお、前述の補強コードはタイヤ赤道Sに対して70度以上のコード角、例えば90度で実質上ラジアル方向(子午線方向)に延びていてもよい。また、ここでは、前記補強コードとしてナイロンを用いているが、レーヨン、ポリエステル等の有機繊維を用いてもよい。
24はカーカス層20の半径方向外側に配置され、トレッド部13の幅とほぼ等しいベルト層であり、このベルト層24は少なくとも1枚、ここでは1枚の周方向プライ25から構成されている。各周方向プライ25は1本または複数本の補強素子を被覆ゴム中に埋設したストリップをタイヤ赤道Sにほぼ沿って螺旋状に多数回巻回することで構成されており、この結果、該周方向プライ25内に埋設されている補強素子はタイヤ赤道Sに実質上平行に延びることとなって、強力なたが効果を発揮する。これにより、高速走行時の遠心力によるトレッド部13の径成長および接地形状の変化が強力に抑制され、直進走行時の操縦安定性および高速耐久性が向上する。
ここで、前述のようにストリップを螺旋状に多数回巻回することで周方向プライ25を構成するようにすれば、周方向プライ25を簡単かつ安価に製造することができる。また、前述の補強素子としては、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、芳香族ポリアミド等の有機繊維またはスチールを用いることができるが、高温時においても殆ど伸張することのない非伸張性材料、例えば芳香族ポリアミド、スチールを用いるようにすれば、ベルト層24のたが効果を効果的に向上させることができる。
26は前記ベルト層24の半径方向外側に配置されたトレッドゴムであり、このトレッドゴム26(トレッド部13)の外表面で、そのトレッド中央部27には周方向に連続して延びる複数本、ここでは4本の広幅である主溝28が形成されている。このように直進走行時に接地するトレッド中央部27に、周方向に延びる複数本の主溝28が形成されていると、これら主溝28間には周方向に延びるリブ(陸部)33が画成されるが、このようなリブ33は前述のように周方向に延びているので、駆動力に強力に抵抗し、直進時において高い駆動性能を発揮する。
一方、前記トレッドゴム26(トレッド部13)の外表面で、そのトレッド両端部29には周方向に等距離離れた複数の互いに平行な溝30、31がそれぞれ形成され、これら溝30、31は、開口端Kがタイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内、ここでは60度の傾斜角Aで傾斜した傾斜部32を有している。なお、これら溝30、31(傾斜部32)の傾斜方向はタイヤ赤道Sの両側で逆方向である。
ここで、この実施形態では、溝30、31は開口端Kの全範囲が前述した傾斜部32から構成されているが、その一部が前述した角度範囲の傾斜部から構成され、残りの部位がタイヤ赤道Sに対して45度未満の傾斜角で傾斜しているものであってもよい。そして、このようなタイヤ11を二輪車に装着して旋回走行を行うと、車体が大きく倒れるため、トレッド端部29のみが接地するとともに、このトレッド端部29に大きな横力が作用する。
しかしながら、前述のように、このトレッド端部29に配置されている溝が、前述のようにタイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内の傾斜角Aで傾斜している溝30、31(傾斜部32)であると、前記溝30、31により画成されたトレッド端部29に位置する陸部35がほぼタイヤ幅方向に延在することとなって、前述のような横力に強力に抵抗し、陸部35の幅方向への倒れ込みを効果的に抑制する。これにより、接地面積が増大してタイヤ11の旋回性能が効果的に向上するとともに、偏摩耗が効果的に抑制される。
また、この実施形態では、タイヤ11の中心軸に直交する平面で前記溝30、31の傾斜部32を通るタイヤ11の周方向断面をとったとき、この周方向断面上における溝30、31の傾斜部32、詳しくは幅方向中央線を、図3、4に示すように、全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向(図2、3において矢印C方向)前方に傾斜している。
このため、後輪に装着されているタイヤ11に駆動力を付与して加速走行させると、傾斜部32(溝30、31)間における陸部35全体が、前記駆動力に基づくせん断変形により、最深点Dを基端として回転方向後方に向かって倒れ込もうとするが、このような倒れ込みに対して各陸部35の回転方向後端に前記傾斜によって形成された略三角形状の突っ張り部36が強力に抵抗し、各陸部35における倒れ込みが効果的に抑制される。
この結果、陸部35と路面Rとの接地面積が増大して駆動時のグリップ力が向上し、これにより、駆動性能が向上するとともに、接地圧が均一化して偏摩耗の発生も抑制される。しかも、このタイヤ11においては、略周方向に延びる縦溝は必須要件ではないので、適用範囲は広い。また、このようなタイヤ11によって旋回しながら加速を行う場合には、車体が大きく倒れ込んでいるので、横力、駆動力の双方がタイヤ11のトレッド端部29に作用するが、前述のようにトレッド端部29に設けられている溝30、31(傾斜部32)の周方向断面上での傾斜方向が前述のように回転方向前方であると、旋回性能、駆動性能の双方が向上して、充分なグリップ力を確保することができる。
ここで、前記傾斜部32(溝30、31)の最深点Dの幅方向中央と開口端Kの幅方向中央とを結ぶ直線をLとし、前記傾斜部32(溝30、31)の開口端Kの幅方向中央に立てた法線をHとしたとき、直線Lと法線Hとの間の交差角Bを 5〜40度の範囲内とすることが好ましい。
その理由は、前記交差角Bが 5度未満であると、陸部35の回転方向後方への倒れ込みを充分に抑制できないため、駆動性能をあまり向上させることができず、一方、40度を超えると、溝30、31の傾斜部32を加硫成形するために加硫モールドに設けられた主骨、ブレードが大きく傾斜して抜き出し作業が困難となるとともに、車体重量により陸部35が容易に倒れ込んで接地圧が不均一となり、偏摩耗が生じるおそれがあるが、交差角Bを前述の範囲内とすれば、駆動性能を充分としながら、加硫成形を容易とするとともに、偏摩耗を効果的に抑制することができる。
また、前述した溝30、31(傾斜部32)の溝幅Wは 0.3〜10.0mmの範囲内とすることが好ましい。その理由は、溝幅Wが 0.3mm未満であると、溝30、31の傾斜部32を加硫成形するために加硫モールドに設けられたブレードが薄くなって折れ易くなり、溝30、31の加硫成形が困難となるとともに、水の逃げ場所としてあまり機能しなくなって排水性能が低下し、一方、10.0mmを超えると、トレッド部13外表面における溝30、31の占有面積が広くなり過ぎてネガティブ比が大きな値となってしまうが、溝幅Wを前述の範囲内とすれば、加硫成形が容易で、かつ、排水性能を確保しながら、ネガティブ比を適切な値に抑えることができる
さらに、前述した溝30、31(傾斜部32)を、溝幅Wがいずれの深さ位置においても実質上同一値であるサイプから構成することが好ましく、このときには、溝幅Wを 0.3〜 3.0mmの範囲内とする。その理由は、サイプであると、隣接する陸部35同士が干渉して駆動時における陸部35の倒れ込みが抑制され、駆動性能をさらに向上させることができるとともに、排水性能を効果的に向上させることができるからである。
そして、前述のように溝30、31がサイプから構成されているとき、図3、4に示すように、傾斜部32の周方向断面形状を最深点Dから開口端Kに向かって直線状に延在させながら回転方向前方に傾斜させるようにすれば、溝30、31の傾斜部32を加硫成形するために加硫モールドに設けられたブレードの構造を簡単とすることができ、これにより、傾斜部32の成形が簡単となるとともに精度も向上する。
また、前述した溝30、31がサイプであるとき、傾斜部32の周方向断面形状を全体が直線状ではなく、例えば、図5に示すように、最深点Dから開口端Kに向かって途中まで開口端Kに立てた法線Hに沿って直線状に延在させ、その後、回転方向前方に傾斜させながら直線状に延在させ、これにより、最深点Dから開口端Kに至る途中の少なくとも一箇所、ここでは一箇所で屈曲させるようにしてもよい。
このようにすれば、陸部35が回転方向後方に倒れ込もうとしたとき、隣接する陸部35の回転方向前、後面同士が噛み合うように接触して、該陸部35の倒れ込みを強力に抑制することができる。このように溝30、31の傾斜部32、詳しくはその幅方向中央線は、全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向前方に傾斜していればよいのである。
図6、7は、この発明の実施形態2を示す図である。この実施形態のタイヤ11は回転方向が指定された前輪用の二輪車用空気入りタイヤであり、ベルト層24を少なくとも2枚、ここでは2枚の傾斜プライ40、41とから構成している。前記傾斜プライ40、41の内部にはタイヤ赤道Sに対して所定角度で傾斜した互いに平行に延びる多数本の補強コードがそれぞれ埋設され、これらの補強コードは前記2枚の傾斜プライ40、41においてタイヤ赤道Sに対し逆方向に傾斜し、互いに交差している。
ここで、前記補強コードとしては、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、芳香族ポリアミド等の有機繊維またはスチールが用いられる。なお、実施形態1、2ではベルト層24を、前述のように1枚の周方向プライ25あるいは2枚の傾斜プライ40、41から構成したが、2枚以上の周方向プライ、または、3枚以上の傾斜プライ、あるいは、1枚以上の周方向プライと1枚以上の傾斜プライとを積層することで構成するようにしてもよい。
また、この実施形態においては、トレッドゴム26(トレッド部13)の外表面に周方向に等距離離れた互いに平行な複数の溝44、ここではサイプが形成され、各溝44は、トレッド中央部27に位置し、回転方向前方に向かって山形(逆V字形)に屈曲した山形部45と、トレッド両端部29に位置するとともに、山形部45の幅方向両端にそれぞれ連続し、タイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内、ここでは90度の傾斜角Aで傾斜した傾斜部46とから構成されている。
そして、これら傾斜部46、詳しくは幅方向中央線は、図8に示すように、周方向断面上において直線状に延在しながら最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜している。ここで、二輪車の前輪に装着されたタイヤ11は、制動時に前輪が沈み込むよう車体が傾斜(ピッチング)するため、接地領域における傾斜部46間の陸部47全体が回転方向前方に向かって倒れ込もうとするが、各陸部47の回転方向前端に形成された略三角形状の突っ張り部48が強力に抵抗し、各陸部47における倒れ込みが効果的に抑制され、この結果、制動性能が向上するとともに、偏摩耗の発生も抑制される。しかも、このタイヤにおいても、縦溝は必須要件ではないので、適用範囲は広い。
一方、前記タイヤ11によって旋回しながら減速を行う場合には、車体が大きく倒れ込んでいるので、横力、制動力の双方がタイヤ11のトレッド端部29に作用するが、傾斜部46がタイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内の傾斜角Aで傾斜し、傾斜部46間の陸部47がほぼタイヤ幅方向に延在しているため、前述のような横力に強力に抵抗し、しかも、傾斜部46が最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜することで、傾斜部46間に位置する陸部47の回転方向前端に形成された略三角形状の突っ張り部48が強力に抵抗するため、旋回性能、制動性能の双方を向上させることができ、前述のような場合に充分なグリップ力を確保することができる。
また、前述した溝44がサイプであるとき、傾斜部46の周方向断面形状を、図8のような直線状ではなく、例えば、図9に示すように、最深点Dから開口端Kに向かって途中まで開口端Kに立てた法線Hに沿って直線状に延在させ、その後、回転方向後方に傾斜させながら開口端Kまで直線状に延在させたり、または、図10に示すように、回転方向後方に向かって凸状となった単一曲率半径の円弧状で、開口端Kにおいて法線Hに平行に延びるものであってもよい。
あるいは、傾斜部46の周方向断面形状を、図11に示すように、最深点Dから開口端Kに向かって法線Hに沿って直線状に延在させた後、回転方向後方に傾斜させながら直線状に延在させたくの字形の屈曲部を、開口端Kに向かって2回半繰り返し、開口端Kの直前では法線Hに沿って直線状に延在させるようにしてもよく、このように4箇所で屈曲した波形とすれば、陸部47が倒れ込もうとしたとき、隣接する陸部47の回転方向前、後面同士が噛み合うように接触して、該陸部47の倒れ込みを強力に抑制することができる。このように溝44の傾斜部46は、全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜していればよいのである。なお、他の構成、作用は前記実施形態1と同様である。
次に、試験例1について説明する。この試験に当たっては、周方向断面上で傾斜部全体が開口端Kに立てた法線Hに平行に延びている深さ 6mmの従来タイヤ1と、周方向断面上で傾斜部全体が法線Hに対し開口端Kに向かって回転方向前方に30度の傾斜角Bで傾斜した深さが 6mmの図3に示すような実施タイヤ1と、周方向断面上で傾斜部が最深点Dから開口端Kに向かって法線Hに平行に 3mmだけ直線状に延びた後、回転方向前方に傾斜しながら直線状に延びることで 2mmだけ回転方向前方にずれながら開口端Kに至る全体深さが 6mmの図5に示すような実施タイヤ2と、周方向断面上での傾斜部全体が実施タイヤ1と逆方向(開口端Kに向かって回転方向後方)に30度の傾斜角で傾斜した深さが 6mmの比較タイヤ1とを準備した。
ここで、各タイヤのサイズは190/50ZR17であり、各タイヤのカーカス層をタイヤ赤道Sに対して80度で交差するナイロン製補強コードが埋設された2枚のカーカスプライから構成している。一方、ベルト層は1枚の周方向プライから構成したが、該周方向プライは直径が 0.3mmのスチールフィラメントを2本撚り合わせた補強素子を被覆ゴム中に埋設したストリップをタイヤ赤道Sにほぼ沿ってスパイラル状に巻回することで成形した。ここで、この周方向プライにおける補強素子の打ち込み密度は70本/50mmであった。
また、トレッドゴムの厚さは一方のトレッド端Eから他方のトレッド端Eまで一律の 8mmで、トレッド幅(トレッド端E間距離)はトレッド外表面に沿って 240mmであった。さらに、トレッド中央部に形成された4本の主溝およびトレッド両端部に形成された複数の溝は形状(トレッドパターン)が図2に示すように同一で、深さが一律 6mmであり、トレッド両端部の溝のトレッド外表面に沿った幅方向長さはそれぞれ65mm、タイヤ赤道Sに対する傾斜角Aは60度であった。また、前記トレッド両端部の溝の溝幅Wは 1.5mm、溝間の陸部の幅はトレッド端Eにおいて 6mmであった。
次に、前記各タイヤに 250kPaの内圧を充填した後、排気量が 1000cm3(cc)であるスポーツタイプの二輪車に装着したが、ここで、前記各タイヤは後輪用のタイヤであるため、二輪車の後輪用タイヤのみ交換し、前輪用タイヤについては従来タイヤ1を使用した。次に、このような二輪車を用いて小雨の日にテストコース(終日安定した雨量であり、湿潤状態はほぼ均一)を限界に近い状態で4周だけ実車走行させて各周のラップタイムを測定した後、4周の平均ラップタイムを求めた。その結果は、従来タイヤ1、実施タイヤ1、2、比較タイヤ1ではそれぞれ 52.7秒、 51.8秒、 51.7秒、 53.5秒であり、実施タイヤではウエット性能が向上していた。
また、各タイヤの湿潤路面での操縦安定性を熟練したテストドライバーによって総合評価してもらった。その結果は、満点を10点とすると、従来タイヤ1、実施タイヤ1、2、比較タイヤ1ではそれぞれ6点、8点、8点、5点であった。ここで、トレッド中央部のトレッドパターンは各タイヤとも同一であるため、前述の差はトレッド両端部における溝(傾斜部)の傾斜に起因するものと考えられる。
そして、ドライバーからは、従来タイヤ1は、大きく車体の倒したコーナーからの立ち上がりで、アクセルを開けたときのグリップレベルが低いと、また、実施タイヤ1、2は、いずれも大きく車体を倒したコーナーからの立ち上がりで、アクセルを開けたときのグリップレベルが向上した。トラクションが良く掛かると、比較タイヤ1は、倒し込んだときのブレーキが少し良くなった気がするが、それよりも大きく車体を倒したコーナーからの立ち上がりで、アクセルを開けたときのグリップレベルの低下が大きい。トラクションを掛けたときにタイヤが滑って空転するとのコメントがあった。
次に、試験例2について説明する。この試験に当たっては、周方向断面上で傾斜部全体が開口端Kに立てた法線Hに平行に延びている深さ 6mmの従来タイヤ2と、周方向断面上で傾斜部全体が法線Hに対し開口端Kに向かって回転方向後方に25度の傾斜角Bで傾斜した深さが 6mmの図8に示すような実施タイヤ3と、周方向断面上で傾斜部が最深点Dから開口端Kに向かって法線Hに平行に 3mmだけ延びた後、回転方向後方に傾斜しながら延びることで 2mmだけ回転方向後方にずれながら開口端Kに至る全体深さが 6mmの図9に示すような実施タイヤ4と、周方向断面上で傾斜部が回転方向後方に向かって凸状となった単一曲率半径の円弧状を呈するとともに、開口端Kにおいて法線Hに平行に延び、深さが 6mmで開口端Kが最深点Dから回転方向後方に 2mmだけずれた図10に示すような実施タイヤ5とを準備した。
さらに、この試験に当たっては、前述のタイヤに加え、周方向断面上で傾斜部が最深点Dから開口端Kに向かって法線Hに沿って直線状に 1.2mmだけ延びた後、回転方向後方に傾斜しながら直線状に延在することで、 1.0mmだけ回転方向後方にずれるとともに、 1.2mmだけ開口端K側に接近するくの字形の屈曲部を、開口端Kに向かって2回半繰り返し、深さが 6mmで開口端Kが最深点Dから回転方向後方に 2mmだけずれた図11に示すような実施タイヤ6と、周方向断面上での傾斜部全体が実施タイヤ3と逆方向(回転方向前方)に25度の傾斜角で傾斜した深さが 6mmの比較タイヤ2とを準備した。
ここで、各タイヤのサイズは120/60R17であり、各タイヤのカーカス層をタイヤ赤道Sに対して80度で交差するナイロン製補強コードが埋設された2枚のカーカスプライから構成している。一方、ベルト層は2層の傾斜プライから構成したが、各傾斜プライ内には芳香族ポリアミドのフィラメントを撚り合わせた直径が 0.7mmの補強コードをそれぞれタイヤ赤道Sに対して逆方向に傾斜させながら埋設した。ここで、前記内側傾斜プライ内の補強コードはタイヤ赤道Sに対し左上がり33度で、外側傾斜プライ内の補強コードはタイヤ赤道Sに対して右上り33度で傾斜させた。また、これら傾斜プライにおける補強コードの打ち込み密度は50本/50mmであった。
また、トレッドゴムの厚さは一方のトレッド端Eから他方のトレッド端Eまで一律の 8mmで、トレッド幅(トレッド端E間距離)はトレッド外表面に沿って 150mmであった。さらに、各タイヤのトレッドパターンは図7に示した同一形状で、トレッド中央部の山形部と、トレッド両端部の傾斜部とからなる溝を周方向に等距離離して複数配置したものである。ここで、前記溝は深さが一律 6mm、山形部のタイヤ赤道Sに対する傾斜角Aは45度であり、一方、傾斜部のタイヤ赤道Sに対する傾斜角Aは90度であり、タイヤ外表面に沿った傾斜部の幅方向長さはいずれも40mmであった。また、前記溝の溝幅Wは 0.7mm、溝間の陸部の幅はトレッド端Eにおいて10mmであった。
次に、前記各タイヤに 250kPaの内圧を充填した後、フラットベルト試験機のドライ走行面にキャンバー角40度、荷重 1.5kNで押付けながら時速50kmで走行させるとともに、制動方向のスリップ率を0%から30%まで徐々に増加させながら前後力Fxと横力Fyとを測定した。その結果を図12に横軸に前後力Fxをとり、縦軸に横力Fyをとって示す。
同図において、横軸の前後力Fxが0である点がスリップ率0%で転がり接触している点であるが、スリップ率が徐々に増大するに従い前後力Fxのマイナス成分が増大するとともに、横力Fyも徐々に低下する。そして、前述した前後力Fxのマイナス成分が最大となった点がブレーキの限界性能と考えられているが、従来タイヤ2では、このマイナス成分の最大値は−1.40kNであった。ここで、前記従来タイヤ2を指数 100として、他のタイヤの最大値を表すと、実施タイヤ3、4、5、6、比較タイヤ2ではそれぞれ、 102.4、 102.8、 102.1、 103.1、98.5であり、実施タイヤではブレーキの限界性能が2〜3%向上していた。
次に、前述の各タイヤを排気量が 1000cm3(cc)であるスポーツタイプの二輪車に装着したが、ここで、前記各タイヤは前輪用のタイヤであるため、二輪車の前輪用タイヤのみ交換し、後輪用タイヤについては従来タイヤ2を使用した。次に、このような二輪車を用いて小雨の日にテストコース(終日安定した雨量であり、湿潤状態はほぼ均一)を限界に近い状態で4周だけ実車走行させて各周のラップタイムを測定した後、4周の平均ラップタイムを求めた。その結果は、従来タイヤ2、実施タイヤ3、4、5、6、比較タイヤ2ではそれぞれ 52.7秒、 51.7秒、 51.8秒、 51.4秒、 51.0秒、 53.3秒であり、実施タイヤではウエット性能が向上していた。
また、各タイヤの湿潤路面での操縦安定性を熟練したテストドライバーによって総合評価してもらった。その結果は、満点を10点とすると、従来タイヤ2、実施タイヤ3、4、5、6、比較タイヤ2ではそれぞれ6点、8点、8点、8点、9点、4点であった。ここで、トレッド中央部のトレッドパターンは各タイヤとも同一であるため、前述の差はトレッド両端部における溝(傾斜部)の傾斜に起因するものと考えられる。
そして、ドライバーからは、比較タイヤ2は、直進時にブレーキを掛けたときにトレッドの弱さを感じる。倒しながらのブレーキにおいても限界が近いように感じたと、また、実施タイヤ3、4、5は、いずれもブレーキ性能が良いと感じられ、ブレーキを強く掛けることができる。ブレーキを掛けながら倒していけると、さらに、実施タイヤ6は、前記実施タイヤ3とほぼ同様であるが、これより少しグリップが高いと感じた。今回の中ではベストと、また、比較タイヤ2は、タイヤが弱い。グニョグニョ動く感じがあり、さらに濡れた路面で滑る。グリップが落ちたとのコメントがあった。
この発明は、二輪車用空気入りタイヤの産業分野に適用できる。
この発明の実施形態1を示す子午線断面図である。 トレッド部の展開平面図である。 図2のI−I矢視断面図である。 接地時における図3と同様の断面図である。 傾斜部の他の形態を示す図3と同様の断面図である。 この発明の実施形態2を示す子午線断面図である。 トレッド部の展開平面図である。 図7のII−II矢視断面図である。 傾斜部の他の形態を示す図8と同様の断面図である。 傾斜部の他の形態を示す図8と同様の断面図である。 傾斜部の他の形態を示す図8と同様の断面図である。 スリップ率を変化させたときの測定結果を示すグラフである。
符号の説明
11…二輪車用空気入りタイヤ 13…トレッド部
29…トレッド端部 30、31…溝
32…傾斜部

Claims (8)

  1. トレッド部外表面に、タイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内の傾斜角Aで傾斜した傾斜部を有する溝が複数形成され、回転方向が指定された後輪用の二輪車用空気入りタイヤにおいて、前記各溝の傾斜部に対して周方向断面をとったとき、前記周方向断面上における傾斜部を全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向前方に傾斜させたことを特徴とする二輪車用空気入りタイヤ。
  2. トレッド部外表面に、タイヤ赤道Sに対して45〜90度の範囲内の傾斜角Aで傾斜した傾斜部を有する溝が複数形成され、回転方向が指定された前輪用の二輪車用空気入りタイヤにおいて、前記各溝の傾斜部に対して周方向断面をとったとき、前記周方向断面上における傾斜部を全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜させたことを特徴とする二輪車用空気入りタイヤ。
  3. 前記傾斜部をトレッド端部に配置した請求項1または2記載の二輪車用空気入りタイヤ。
  4. 前記傾斜部の最深点Dと開口端Kとを結ぶ直線Lと、前記傾斜部の開口端Kに立てた法線Hとの間の交差角Bを 5〜40度の範囲内とした請求項1〜3のいずれかに記載の二輪車用空気入りタイヤ。
  5. 前記溝の溝幅Wを 0.3〜10.0mmの範囲内とした請求項1〜4のいずれかに記載の二輪車用空気入りタイヤ。
  6. 前記溝は、溝幅Wが 0.3〜 3.0mmの範囲内で、いずれの深さ位置においても実質上同一値のサイプである請求項1〜4のいずれかに記載の二輪車用空気入りタイヤ。
  7. 前記傾斜部の周方向断面形状は、最深点Dから開口端Kまで直線状に延びている請求項6記載の二輪車用空気入りタイヤ。
  8. 前記傾斜部の周方向断面形状は、最深点Dから開口端Kに至る途中の少なくとも一箇所で屈曲している請求項6記載の二輪車用空気入りタイヤ。
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