JP2007044593A - 水素透過膜および水素透過膜の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 水素を選択的に透過させる水素透過膜を製造する際には、まず、5族金属を含有する金属ベース層を用意する(ステップS100)。そして、金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、パラジウム(Pd)を含有する金属被覆層を前記多層構造の表面に形成する(ステップS110、S120)。その後、金属被覆層において、結晶粒界を含む結晶構造における間隙を狭小化あるいは閉塞させて(ステップS130)、水素透過膜を完成する。
【選択図】 図1
Description
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、パラジウム(Pd)を含有する金属被覆層を前記多層構造の表面に形成する第2工程と、
(c)前記金属被覆層において、結晶粒界を含む結晶構造における間隙を狭小化あるいは閉塞させる第3工程と
を備えることを要旨とする。
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、パラジウム(Pd)に加えて、酸化物、窒化物あるいは炭化物を形成し得る第2の成分を備え、
前記第3工程は、前記第2の成分を酸化、窒化あるいは炭化させる工程であることとしても良い。
前記第2の成分は、クロム(Cr),アルミニウム(Al),ケイ素(Si),チタン(Ti),鉄(Fe),銅(Cu),モリブデン(Mo),ジルコニウム(Zr)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を酸化させる工程であることとしても良い。
前記第2の成分は、クロム(Cr),アルミニウム(Al),ケイ素(Si),チタン(Ti),鉄(Fe)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を窒化させる工程であることとしても良い。
前記第2の成分は、ケイ素(Si)およびチタン(Ti)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を炭化させる工程であることとしても良い。
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、その全体にPdを含有すると共に、前記金属被覆層の表面を含む限られた領域のみが前記第2の成分をさらに備えることとしても良い。
(d)前記第3工程の前または後に、前記金属被覆層上にパラジウム層を形成する第4工程を備えることとしても良い。
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、酸化物、窒化物あるいは炭化物を形成し得る第2の成分をパラジウム(Pd)に加えて備える金属被覆層を、前記多層構造の表面に形成する第2工程と
を備えることを要旨とする。
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、パラジウム(Pd)に加えて、前記水素透過膜の使用温度における固溶限界を超える量の第2の成分を含有する第1の化合物から成り、
前記第3の工程は、前記第1の化合物よりも前記第2の成分の含有割合が高い第2の化合物を、前記間隙に析出させる熱処理を行なう工程であることとしても良い。
(d)前記第3工程と共に、あるいは前記第3の工程の後に、析出した前記第2の化合物中の前記第2の元素を酸化、窒化あるいは炭化させる第4工程を備えることとしても良い。
(e)前記第3工程の後に、前記金属被覆層上にパラジウム層を形成する第5工程を備えることとしても良い。
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、パラジウム(Pd)に加えて、前記水素透過膜の使用温度における固溶限界を超える量の第2の成分を含有する金属被覆層を、前記多層構造の表面に形成する第2工程と
を備えることを要旨とする。
前記第3工程は、前記金属被覆層上に、所定の成膜材料を用いて成膜を行なって、前記金属被覆層を被覆する目詰め被覆層を成膜する工程であり、
前記水素透過膜の製造方法は、さらに、
(d)前記金属被覆層上に成膜した前記目詰め被覆層を除去する第4工程を備えることとしても良い。
(e)前記第4工程の前または後に、前記目詰め被覆層を構成する前記成膜材料を、酸化、窒化あるいは炭化させる第5工程を備えることとしても良い。
前記第3工程で用いる成膜材料は、酸化物を形成し得る材料であり、
前記第4工程は、酸素プラズマあるいはオゾンプラズマを用いたドライエッチングにより前記目詰め被覆層を除去する工程であることとしても良い。
前記第4工程は、前記成膜材料から生じる酸化物、窒化物あるいは炭化物からなる研磨粒子を用いた物理研磨により前記目詰め被覆層を除去する工程であることとしても良い。
前記第3工程は、前記水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて、前記目詰め被覆層を形成する工程であることとしても良い。
前記第4工程は、前記第3工程で用いる成膜材料からなる研磨粒子を用いた物理研磨により前記表層を除去することとしても良い。
(f)前記第3工程の後、前記第4工程に先立って、前記元素から成る前記目詰め被覆層を有する金属被覆層に対して、前記水素透過膜を構成する金属の融点よりも低い温度での熱処理を行なう第6工程を備えることとしても良い。
前記第3工程は、前記金属被覆層の表面において、前記金属被覆層表面に存在する結晶粒界を含む限られた領域のみを被覆する結晶粒界被覆部を形成する工程であることとしても良い。
(d)前記結晶粒界被覆部を構成する前記成膜材料を、酸化、窒化あるいは炭化させる第4の工程を備えることとしても良い。
前記結晶粒界被覆部は、クロム(Cr),ケイ素(Si),アルミニウム(Al)から選択される元素を成膜材料として形成され、
前記第4の工程は、前記成膜材料を酸化させる工程であることとしても良い。
前記第3工程は、前記水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて前記結晶粒界被覆部を形成することとしても良い。
前記結晶粒界被覆部は、酸化クロム、酸化ケイ素、酸化アルミニウムから選択される酸化物を成膜材料として形成されることとしても良い。
前記第3工程は、
(c−1)成膜すべき面積として、前記金属被覆層の表面に存在する結晶粒界近傍領域の面積を測定または推定する成膜面積取得工程と、
(c−2)測定または推定した前記面積と、前記結晶粒界被覆部を形成するために用いる成膜材料の原子半径あるいは格子定数とに基づいて、成膜に用いるべき成膜材料の量を設定する成膜材料量設定工程と、
(c−3)前記成膜材料量設定工程で設定した量の前記成膜材料を用いて、前記金属被覆層上に成膜を行なう成膜工程と
を備えることとしても良い。
(e)前記第3工程に先立って、前記金属被覆層の表面における結晶粒を大型化させる第5工程を備えることとしても良い。
(f)前記第3工程に先立って、前記金属被覆層の表面における結晶粒界を凹面化させる第6工程を備えることとしても良い。
A.水素透過膜の構成:
B.第1実施例の水素透過膜の製造方法:
C.第1実施例の変形例:
D.第2実施例:
E.第3実施例:
F.第3実施例の変形例:
G.第4実施例:
H.第4実施例の変形例:
I.効果の確認:
J.水素透過膜を用いた装置:
K.変形例:
図1は、第1実施例である水素透過膜10の構成の概略を表わす断面模式図である。水素透過膜10は、金属ベース層12と、金属ベース層の両面上に形成される中間層14と、各々の中間層14上に形成される金属被覆層16と、から成る5層構造を有している。
図2は、水素透過膜10の製造方法を表わす工程図である。水素透過膜10を製造する際には、まず、金属ベース層12となるVを含有する金属層を用意する(ステップS100)。ステップS100で用意する金属層は、例えば、Vを主要な構成成分とする金属塊に対して圧延と焼鈍の工程を繰り返すことにより作製することができ、このような工程により、極めて緻密な結晶質から成る金属層を得ることができる。なお、このステップS100では、用意した金属層の表面をアルカリ溶液でエッチングして、表面に形成された酸化膜等の不純物の除去を行なっている。
(C−1)第1の変形例:
第1実施例では、金属被覆層16となるPd合金層全体がCrを備えているが、Pdを備える金属被覆層16の一部のみが層状にCrを備えることとしても良い。例えば、金属被覆層16において表面(水素透過膜10の表面)を含む限られた領域だけがCrを備えることとしても良い。このような金属被覆層を備える水素透過膜に対して第1実施例と同様に酸化処理を行なえば、上記表面を含む領域では、Crが酸化されることによって、結晶粒界を含む結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞される。
第1実施例の水素透過膜10において、Pd合金層中のCrを酸化させて、結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞された金属被覆層16とした後に、さらに、金属被覆層16上に、純度の高いPdから成るPd層を形成しても良い。ステップS130の酸化処理を行なうと、金属被覆層16の表面においても酸化クロムが形成されるため、表面に形成された酸化クロムに起因して水素透過膜表面の触媒活性が低下する可能性があるが、さらにPd層を設けることにより、水素透過膜表面の触媒活性を確保して性能低下を防止することができる。このPd層は、水素透過膜表面において触媒活性を確保できればよいため、金属被覆層16よりもさらに薄く形成することができる。
第1実施例において、ステップS130の酸化処理を省略することも可能である。すなわち、ステップS120でPd合金層を設けて5層構造を有する積層体を形成した後に、酸化処理を施すことなく積層体を水素透過膜としての使用に供しても良い。この場合には、水素透過膜として使用する過程においてPd合金層が備えるCrが酸化され、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞が進行することによって、同様の効果が得られる。
上記第1実施例では、酸化物形成のために金属被覆層16に添加してPd合金を形成させる第2成分としてCrを用いたが、他種の元素を第2成分として用いることもできる。金属被覆層16に添加する第2成分は、例えば、Cr,アルミニウム(Al),ケイ素(Si),チタン(Ti),鉄(Fe),銅(Cu),モリブデン(Mo),ジルコニウム(Zr),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca)から選択される元素を用いることができる。特に、Cr,Al,Siが好ましい。これらの元素は、酸化される速度は比較的遅いが、一旦酸化されるとさらなる酸化は進行しにくいという性質を有しているためである。すなわち、これらの元素を酸化させて結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞を確保するためには、水素透過膜の使用温度よりも高い温度で充分に酸化処理を施すことが望ましいが、一旦酸化処理を施しておけば、さらなる酸化は進行しにくくなる。したがって、使用中における被覆層内へのさらなる酸素の侵入が抑えられ、金属ベース層12の酸化を抑える効果をより高めることができる。また、第2の成分として、Cr,Mg,Caから選択される元素を用いるならば、水素透過膜内で高融点である複合酸化物を形成させることができるため、既述したように、VやV酸化物の膜表面への移動を抑制する効果を高めることができる。なお、金属被覆層16に添加する第2成分の量は、酸化物が形成されて結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞されることによる効果の程度と、Pdに第2成分が添加されて合金化されることによる水素透過性能の低下の程度とを考慮して、適宜設定すればよい。
金属被覆層16における結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させるために、Crなどの第2成分を加えた金属被覆層16に対して酸化処理を施す構成に代えて、所定の第2成分を加えた金属被覆層16に対して、窒化処理あるいは炭化処理を施すこととしても良い。窒化物あるいは炭化物を形成する際にも、酸化物が形成される場合と同様に結晶構造が膨張して、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることができる。
第2実施例の水素透過膜は、図1に示す第1実施例の水素透過膜10と同様に、VあるいはV合金から成る金属ベース層12と、Taから成る中間層14と、Crを含有するPd合金から成る金属被覆層16と、を備える5層構造を有している。第2実施例の水素透過膜は、金属被覆層16に係る製造方法が、第1実施例とは異なっている。
第3実施例の水素透過膜は、図1に示す第1実施例の水素透過膜と同様に、VあるいはV合金から成る金属ベース層12と、Taから成る中間層14と、Pdに加えてさらにCrを含有する金属被覆層16と、を備える5層構造を有している。第3実施例の水素透過膜は、金属被覆層16に係る製造方法が、第1実施例とは異なっている。
(F−1)第1の変形例:
第3実施例において、熱処理、酸化処理あるいは表層除去の工程の順序に関しては、種々の変形が可能である。
また、目詰め被覆層を構成する成膜材料としては、Cr以外に、第1実施例の第4の変形例と同様の種々の元素を選択することができる。酸化物となったときに、水素透過膜の使用条件下において安定して存在することができればよい。この場合にも、ステップS330の酸化処理を行なうことで、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞をさらに進行させることができる。なお、水素透過膜の使用条件下で安定であるとは、水素透過性能を阻害しない反応の進行は許容される。例えば、第3実施例で目詰め金属としてCrを用いて、結晶構造上の間隙を酸化クロムで狭小化・閉塞する場合には、酸化クロムは、金属ベース層12から移動してきたVや酸化バナジウムと反応して、酸化クロムと酸化バナジウムの複合酸化物(3MgO/V2O5)を生じる。この複合酸化物は、既述したように、Vよりも融点が高く、より拡散しにくい物質であって、Vや酸化バナジウムの膜表面への移動を妨げるため、このような複合酸化物が形成されることは望ましい。
あるいは、目詰め被覆層を構成する成膜材料として、第1実施例の第5の変形例と同様の元素を選択して、ステップS330の酸化処理に代えて窒化処理あるいは炭化処理を行なうこととしても良い。このような構成としても、酸化処理を行なう場合と同様に、結晶構造上の間隙内に上記成膜材料を目詰め材料として入りこませた後に、窒化処理あるいは炭化処理によって上記目詰め材料を膨張させて、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞をさらに進行させることができる。あるいは、窒化処理や炭化処理を省略して、水素透過膜の使用中に、目詰め材料の窒化や炭化を進行させても良い。
第3実施例では、Pd層上に目詰め被覆層を形成した後に、酸化処理を施すことで、目詰め用金属から、より安定な酸化物を生成している。これに対して、水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて、目詰め被覆層を形成しても良い。例えば、酸化クロム等の酸化物や、第1実施例の第5の変形例で例示した元素の窒化物あるいは炭化物を、目詰め被覆層の成膜材料とすることができる。この場合には、酸化処理、窒化処理あるいは炭化処理を、別途行なう必要がない。また、この場合には、ステップS340の表層除去として物理研磨を行なう場合には、研磨粒子として、成膜材料と同じ材料から成る粒子を用いればよい。
図5は、第4実施例の水素透過膜の概略構成を表わす断面模式図である。第4実施例の水素透過膜は、第1実施例の水素透過膜と同様に、VあるいはV合金から成る金属ベース層12と、Taから成る中間層14と、を備えている。また、金属被覆層16に代えて、Pdを含有する層である金属被覆層416を備えると共に、さらに、金属被覆層416上に、酸化クロムから成る粒界被覆部418を備えている。この粒界被覆部418は、金属被覆層416の表面に存在する結晶構造上の間隙を覆うように形成されている。
(H−1)第1の変形例:
ステップS420で金属被覆層416を形成した後に、金属被覆層416における金属結晶粒を大型化させる処理を施しても良い。金属結晶粒の大型化は、金属被覆層416に対するエネルギ供給、例えば金属被覆層416の加熱を行なって、金属結晶粒を成長させることにより実行可能である。ここで、結晶粒の成長のための加熱は、金属被覆層416に対して局所的に行なうことが望ましい。局所的に加熱すれば、加熱による金属拡散の進行を抑制することができる。金属被覆層416を局所的に加熱するには、例えば、金属被覆層416に対してパルスレーザ照射を行なえば良い。
ステップS420で金属被覆層416を形成した後に、金属被覆層416表面における結晶粒界を凹面化させる処理、すなわち、結晶粒界をより深くする処理を施しても良い。凹面化処理によって金属被覆層416の表面における結晶粒界を凹面化する様子を、図8に模式的に示す。結晶粒界の凹面化は、例えば、金属被覆層416表面に対して酸化処理と還元処理とを繰り返し行なうことにより実行できる。酸化処理と還元処理とを繰り返すことによって金属結晶が膨張と収縮を繰り返すことで、金属被覆層416の表面では金属結晶に隙間が生じて結晶粒界が凹面化する。あるいは、金属被覆層416表面に対してプラズマエッチングや化学エッチングを行なうことにより、結晶粒界を凹面化させても良い。
第4実施例では、ステップS425において、粒界被覆部418を金属被覆層416上に直接成膜しているが、異なる構成としても良い。例えば、SEMで観察した金属被覆層416表面における結晶粒界のパターン通りに、Crを成膜材料とする粒界被覆部を別途作製し、これを金属被覆層416上に固着させても良い。この場合には、ポリイミドなどの所定の基材上に、上記パターン通りにCrを成膜材料として印刷を行ない、印刷したCr層を金属被覆層416上に転写した後に、基板を剥離すればよい。
また、ステップS425で粒界被覆部418を形成するための成膜材料としては、Cr以外に、第1実施例の第4の変形例と同様の種々の元素を選択することができる。酸化物となったときに、水素透過膜の使用条件下において安定して存在することができればよい。
あるいは、ステップS425で粒界被覆部418を形成するための成膜材料として、第1実施例の第5の変形例と同様の元素を選択してもよい。この場合には、ステップS430の酸化処理に代えて窒化処理あるいは炭化処理を行なえば良く、あるいは、水素透過膜の使用中に、上記成膜材料の窒化や炭化を進行させれば良い。このような構成としても、酸化処理を行なう場合と同様に、金属被覆層416表面の結晶粒界近傍領域に、安定な窒化物あるいは炭化物から成る粒界被覆部418を形成することで、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させる同様の効果が得られる。
第4実施例では、金属被覆層416上に粒界被覆部418を一旦形成した後に、この粒界被覆部418を構成する金属を酸化させている。これに対して、水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて、金属被覆層416上に粒界被覆部418を形成しても良い。例えば、酸化クロム等の酸化物や、第1実施例の第5の変形例で例示した元素の窒化物あるいは炭化物を成膜材料として、金属被覆層416上に粒界被覆部418を形成することができる。この場合には、酸化処理、窒化処理あるいは炭化処理を、別途行なう必要がない。また、この場合には、ステップS510において、結晶粒界近傍領域の面積と、成膜材料の格子定数とに基づいて、結晶粒界近傍領域の面積を所定の厚みで覆うために必要な成膜材料の量を算出すればよい。
第4実施例では、金属被覆層416上に粒界被覆部418を形成しているが、粒界被覆部418と同様の構造を、粒界被覆部418に加えて、あるいは粒界被覆部418に代えて、金属被覆層416の下側層の上に設けることとしても良い。水素透過膜内における酸素や構成金属あるいは酸化物の移動は、主として結晶構造上の間隙を介して行なわれるため、水素透過膜を構成するいずれかの層の表面において、第4実施例と同様の粒界被覆部を設けることで、上記移動を抑制することができる。
第4実施例の水素透過膜を作製して、粒界被覆部418が下層金属の表面への移動を抑制する効果を確認した結果を以下に示す。ここでは、第4実施例に対応する実験例1および2の水素透過膜と、比較例の水素透過膜とを作製した。用いた実験例1,2および比較例の水素透過膜の具体的な構成を以下に示す。ここで、比較例の水素透過膜は、粒界被覆部418を有しない点で、実験例1,2の水素透過膜とは異なっている。
実験例2;金属ベース層12(厚さ100μmのV層)、中間層14(厚さ0.1μmのTa層)、金属被覆層416(厚さ1μmのPd層)、粒界被覆部418(厚さ5nmのAl層):
比較例;金属ベース層(厚さ100μmのV層)、中間層(厚さ0.1μmのTa層)、金属被覆層(厚さ1μmのPd層):
(J−1).水素抽出装置:
図11は、第1ないし第4実施例のいずれかの水素透過膜(以下、水素透過膜10と表わす)を利用した水素抽出装置20の構成を表わす断面模式図である。水素抽出装置20は、複数の水素透過膜10を積層した構造を有しており、図11では、水素透過膜10の積層に関わる構成についてのみ示している。水素抽出装置20では、積層される各水素透過膜10間に、水素透過膜10の外周部と接合する支持部22が配設されており、支持部22によって各水素透過膜10間に所定の空間が形成されている。支持部22は、水素透過膜10との接合が可能であって充分な剛性を有していればよい。例えばステンレス鋼(SUS)等の金属材料により形成することで、金属層である水素透過膜10と容易に接合可能となる。
図12は、水素透過膜10を利用した燃料電池の構成の一例を表わす断面模式図である。図12、単セル30を表わしているが、燃料電池は、この単セル30を複数積層することによって形成される。
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
水素透過膜を構成する各層を、第1ないし第4実施例とは異なる金属により形成しても良い。例えば、実施例では金属ベース層12をVやVを主要な構成成分とする金属により形成しているが、他種の5族金属を含有する金属(単体を含む)により形成しても良い。
第1ないし第4実施例では、金属ベース層12と金属被覆層との間に中間層14を設けているが、中間層14を設けないこととしても良い。すなわち、V等の5族金属あるいはその合金から成る金属ベース層12上に、Pdを含有する金属被覆層を直接形成することとしても良い。このような場合にも、金属被覆層における結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることによって、実施例と同様の効果が得られる。
既述した第1ないし第4実施例の水素透過膜では、水素透過膜を、水素透過性を有する金属薄膜の自立膜としたが、ガス透過性を有する多孔質基材上に水素透過性金属を担持させることにより水素透過膜を形成してもよい。すなわち、金属被覆層、中間層、金属ベース層、中間層、金属被覆層の順で積層された金属層を、薄板状の多孔質体の上に順次形成し、水素透過膜としてもよい。このように多孔質基材上に担持された水素透過膜は、例えば、図11に示した水素抽出装置において、実施例の水素透過膜10に代えて用いることができる。例えば、第1実施例を上記構成に適用する場合には、多孔質体上に水素透過膜を成膜した後に全体を酸化処理して、金属被覆層における結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させればよい。
12…金属ベース層
14…中間層
16,416…金属被覆層
20…水素抽出装置
22…支持部
24…水素含有ガス路
26…パージガス路
30…単セル
31…MEA
32…電解質層
34…カソード電極
36,37…ガスセパレータ
38…単セル内燃料ガス流路
39…単セル内酸化ガス流路
418…粒界被覆部
Claims (31)
- 水素を選択的に透過させる水素透過膜の製造方法であって、
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、パラジウム(Pd)を含有する金属被覆層を前記多層構造の表面に形成する第2工程と、
(c)前記金属被覆層において、結晶粒界を含む結晶構造における間隙を狭小化あるいは閉塞させる第3工程と
を備える水素透過膜の製造方法。 - 請求項1記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、パラジウム(Pd)に加えて、酸化物、窒化物あるいは炭化物を形成し得る第2の成分を備え、
前記第3工程は、前記第2の成分を酸化、窒化あるいは炭化させる工程である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項2記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2の成分は、クロム(Cr),アルミニウム(Al),ケイ素(Si),チタン(Ti),鉄(Fe),銅(Cu),モリブデン(Mo),ジルコニウム(Zr)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を酸化させる工程である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項2記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2の成分は、クロム(Cr),アルミニウム(Al),ケイ素(Si),チタン(Ti),鉄(Fe)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を窒化させる工程である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項2記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2の成分は、ケイ素(Si)およびチタン(Ti)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を炭化させる工程である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項2ないし5いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、その全体にPdを含有すると共に、前記金属被覆層の表面を含む限られた領域のみが前記第2の成分をさらに備える
水素透過膜の製造方法。 - 請求項2ないし6いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(d)前記第3工程の前または後に、前記金属被覆層上にパラジウム層を形成する第4工程を備える
水素透過膜の製造方法。 - 水素を選択的に透過させる水素透過膜の製造方法であって、
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、酸化物、窒化物あるいは炭化物を形成し得る第2の成分をパラジウム(Pd)に加えて備える金属被覆層を、前記多層構造の表面に形成する第2工程と
を備える水素透過膜の製造方法。 - 請求項1記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、パラジウム(Pd)に加えて、前記水素透過膜の使用温度における固溶限界を超える量の第2の成分を含有する第1の化合物から成り、
前記第3の工程は、前記第1の化合物よりも前記第2の成分の含有割合が高い第2の化合物を、前記間隙に析出させる熱処理を行なう工程である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項9記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(d)前記第3工程と共に、あるいは前記第3の工程の後に、析出した前記第2の化合物中の前記第2の元素を酸化、窒化あるいは炭化させる第4工程を備える
水素透過膜の製造方法。 - 請求項9または10記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(e)前記第3工程の後に、前記金属被覆層上にパラジウム層を形成する第5工程を備える
水素透過膜の製造方法。 - 水素を選択的に透過させる水素透過膜の製造方法であって、
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、パラジウム(Pd)に加えて、前記水素透過膜の使用温度における固溶限界を超える量の第2の成分を含有する金属被覆層を、前記多層構造の表面に形成する第2工程と
を備える
水素透過膜の製造方法。 - 請求項1記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程は、前記金属被覆層上に、所定の成膜材料を用いて成膜を行なって、前記金属被覆層を被覆する目詰め被覆層を成膜する工程であり、
前記水素透過膜の製造方法は、さらに、
(d)前記金属被覆層上に成膜した前記目詰め被覆層を除去する第4工程を備える
水素透過膜の製造方法。 - 請求項13記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(e)前記第4工程の前または後に、前記目詰め被覆層を構成する前記成膜材料を、酸化、窒化あるいは炭化させる第5工程を備える
水素透過膜の製造方法。 - 請求項13記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程で用いる成膜材料は、酸化物を形成し得る材料であり、
前記第4工程は、酸素プラズマあるいはオゾンプラズマを用いたドライエッチングにより前記目詰め被覆層を除去する工程である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項14記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第4工程は、前記成膜材料から生じる酸化物、窒化物あるいは炭化物からなる研磨粒子を用いた物理研磨により前記目詰め被覆層を除去する工程である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項13記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程は、前記水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて、前記目詰め被覆層を形成する工程である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項17記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記成膜材料は、酸化物、窒化物あるいは炭化物である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項17または18記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第4工程は、前記第3工程で用いる成膜材料からなる研磨粒子を用いた物理研磨により前記表層を除去する
水素透過膜の製造方法。 - 請求項13ないし19いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(f)前記第3工程の後、前記第4工程に先立って、前記元素から成る前記目詰め被覆層を有する金属被覆層に対して、前記水素透過膜を構成する金属の融点よりも低い温度での熱処理を行なう第6工程を備える
水素透過膜の製造方法。 - 請求項1記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程は、前記金属被覆層の表面において、前記金属被覆層表面に存在する結晶粒界を含む限られた領域のみを被覆する結晶粒界被覆部を形成する工程である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項21記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(d)前記結晶粒界被覆部を構成する前記成膜材料を、酸化、窒化あるいは炭化させる第4の工程を備える
水素透過膜の製造方法。 - 請求項22記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記結晶粒界被覆部は、クロム(Cr),ケイ素(Si),アルミニウム(Al)から選択される元素を成膜材料として形成され、
前記第4の工程は、前記成膜材料を酸化させる工程である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項21記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程は、前記水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて前記結晶粒界被覆部を形成する
水素透過膜の製造方法。 - 請求項24記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記成膜材料は、酸化物、窒化物あるいは炭化物である
水素透過膜の製造方法。 - 請求項25記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記結晶粒界被覆部は、酸化クロム、酸化ケイ素、酸化アルミニウムから選択される酸化物を成膜材料として形成される
水素透過膜の製造方法。 - 請求項21ないし26いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程は、
(c−1)成膜すべき面積として、前記金属被覆層の表面に存在する結晶粒界近傍領域の面積を測定または推定する成膜面積取得工程と、
(c−2)測定または推定した前記面積と、前記結晶粒界被覆部を形成するために用いる成膜材料の原子半径あるいは格子定数とに基づいて、成膜に用いるべき成膜材料の量を設定する成膜材料量設定工程と、
(c−3)前記成膜材料量設定工程で設定した量の前記成膜材料を用いて、前記金属被覆層上に成膜を行なう成膜工程と
を備える水素透過膜の製造方法。 - 請求項21ないし27いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(e)前記第3工程に先立って、前記金属被覆層の表面における結晶粒を大型化させる第5工程を備える
水素透過膜の製造方法。 - 請求項21ないし27いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(f)前記第3工程に先立って、前記金属被覆層の表面における結晶粒界を凹面化させる第6工程を備える
水素透過膜の製造方法。 - 水素を選択的に透過させる水素透過膜であって、
請求項1ないし29いずれか記載の方法により製造された水素透過膜。 - 水素を選択的に透過させる水素透過膜であって、
5族金属を含有する金属ベース層と、
前記水素透過膜の少なくとも一方の表面に設けられると共に、パラジウム(Pd)を備える金属被覆層と、
を含む複数の層を積層して形成され、
前記金属被覆層は、該金属被覆層が備える結晶粒界に、酸化物、窒化物または炭化物となり得る元素、または、酸化物、窒化物あるいは炭化物を備える
水素透過膜。
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