JP2006047153A - Dnaチップの製造方法と製造システム、ハイブリダイゼーション検出方法と検出システム、並びに基板処理装置と基板処理方法 - Google Patents

Dnaチップの製造方法と製造システム、ハイブリダイゼーション検出方法と検出システム、並びに基板処理装置と基板処理方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 ハイブリダイゼーションを短時間で効率よく進行させることができ、かつ高精度な検出結果が得られるDNAチップ関連技術を提供することを目的とする。
【解決手段】 ハイブリダイゼーションの場となる反応領域Rと、該反応領域Rに貯留又保持される媒質に電界印加可能に配置される対向電極(E−E,など)と、を少なくとも備える検出部3が配設されてなる円盤状基板1あるいはDNAチップ10を用いて、前記対向電極を用いた電界印加によって、前記検出用核酸Dを検出表面Uに固定化したり、検出用核酸Dと標的核酸Tをハイブリダイゼーションさせたり、余剰物質Bを除去したりすることにより、ハイブリダイゼーションを短時間で効率よく進行させ、かつ高精度な検出結果を得る。
【選択図】 図12

Description

本発明は、DNAチップに係わる技術に関する。より詳しくは、DNAチップの製造方法と製造システム、ハイブリダイゼーション検出方法と検出システム、並びに基板処理装置と基板処理方法に関する。
1970年代頃に開発されたハイブリダイゼーションを検出するためのアッセイ技術では、ニトロセルロース膜などの多孔膜材料、放射性標識技術、オートラジオグラフィー技術などが主に用いられていた。
しかし、近年、マイクロアレイ技術によって所定のDNAが微細配列された、いわゆるDNAチップ又はDNAマイクロアレイ(以下、本願では「DNAチップ」と総称。)と呼ばれるバイオアッセイ用の集積基板が、遺伝子の変異解析、SNPs(一塩基多型)分析、遺伝子発現頻度解析等に利用されるようになり、創薬、臨床診断、薬理ジェノミクス、進化の研究、法医学その他の分野において広範囲に活用され始めている。
この「DNAチップ」は、ガラス基板やシリコン基板上に多種・多数のDNAオリゴ鎖やcDNA(complementary DNA)等が集積されていることから、ハイブリダイゼーションの網羅的解析が可能となる点が特徴とされている。
このDNAチップによる解析手法の一例を簡潔に説明すれば、ガラス基板やシリコン基板上に保持されたDNAプローブに対して、細胞、組織等から抽出したmRNAを逆転写PCR反応等によって蛍光プローブdNTPを組み込みながらPCR増幅し、前記基板上においてハイブリダイゼーションを行った後に、所定の検出器で蛍光測定を行うという手法である。
このDNAチップを作製するための技術は、現在、半導体露光技術を利用したフォトリソグラフィー(photolithogrphy)、圧電技術(piezoelectric technology)などのインクジェッティング(ink-jetting)を利用した技術、メカニカルマイクロスポッティング(mechanical microspotting)などの技術を駆使して行われており、これらの技術には一長一短があるとされている。しかし、いずれの技術でも、試料の拡散や吸収が起こることがなく、かつ試料が微量で足りる等の理由から、表面が平滑で均一な非多孔性のガラス製又は合成樹脂製の基板表面を用いることを前提としている。
この「DNAチップ」は、概ね二つのタイプに大別できる。第1のタイプは、上記フォトリソグラフィーの技術を用いて、所定の基板上に直接オリゴヌクレオチドを合成していくものであり、アフィメトリクス社(Affymetrix社)によるものが代表的である(例えば、特許文献1参照)。この種のチップは、集積度は高いが、基板上でのDNA合成には限界があって、数十塩基程度の長さである。
第2のタイプは、「スタンフォード方式」とも称されるもので、先割れピンを用いて、予め用意されたDNAを基板上に分注・固相化していくことによって作製されるものである(例えば、特許文献2参照)。この種のチップは、集積度は前者に比べて低いが、1kb程度のDNA断片を固相化できるという利点がある。
次に、現在既に提案されているDNAチップの多くは、概ね、特許文献3に開示されている形態のDNAチップのように、矩形状の基板上を区画割りした構成のものが多く、基板上の各区画にプローブを保持し、そこで、ハイブリダイゼーションを進行させる。この特許文献3には、区画にゲルを導入し、電気泳動により試料ポリヌクレオチドを移動させる技術も開示されている。
DNAチップ上の所定の反応領域で進行したハイブリダイゼーションの検出又は読み取りに係わる作業は、現在、核酸分子に標識される蛍光色素物質から得られる蛍光を検出(蛍光スキャニング)するシステム等を用いるのが一般的である。
この蛍光検出システムは、前記蛍光物質に所定の励起光を照射して得られる蛍光を検出するシステムである。このシステムによれば、旧来の放射性物質に代わって蛍光物質を用いるので、検出の迅速化、精度及び安全性の向上を達成することができるようになった。
蛍光の検出作業では、共焦点スキャニング装置(confocal scanner)やCCDカメラを用いたイメージングなどの技術が利用されている。DNAチップから放出された蛍光が所定の検出装置によってデジタル出力に変換される。そして、これに続いて、データファイルの定量と解析が行われる。
次に、荷電して存在する物質に対する電界の作用に係わる技術が知られている。具体的には、二本鎖核酸分子は、液相中において電界の作用を受けると伸長又は移動することが知られている。その原理は、骨格をなすリン酸イオン(陰電荷)とその周辺にある水がイオン化した水素原子(陽電荷)とによってイオン曇を作っていると考えられ、これらの陰電荷及び陽電荷により生じる分極ベクトル(双極子)が、高周波高電圧の印加により全体として一方向を向き、その結果として伸長し、加えて、不均一電界が印加された場合、電気力線が集中する部位に向かって移動する(非特許文献1参照)。
また、数十から数百μmのギャップを持つ微細電極中にDNA溶液をおき、ここに1MV/m、1MHz程度の高周波電界を印加すると、ランダムコイル状で存在するDNAに誘電分極が生じ、その結果、DNA分子は電界と平行に直線状に引き伸ばされる。そして、「誘電泳動」と呼ばれる電気力学的効果によって、分極したDNAは自発的に電極端へと引き寄せられ、電極エッジにその一端を接した形で固定される(非特許文献2参照)。
加えて、電気的効果を利用するDNAチップ技術としては、例えば、DNAプローブに直流電圧を印加することで、相補鎖を形成したDNAと相補鎖を形成しなかったDNAを分離したり、引き伸ばしたりする生体高分子検出装置が提案されている(特許文献4参照)。また、電極ピンにオリゴヌクレオチドが固定された構成を備えるDNAチップも提案されている(特許文献5参照)。
特表平4−505763号公報。 特表平10−503841号公報。 特開2000−60554号公報(特に、請求項1、図1参照)。 特開2002−168864号公報(特に、段落0015、図7参照)。 特開2001−241315号公報。 Seiichi Suzuki,Takeshi Yamanashi,Shin-ichi Tazawa,OsamuKurosawa and Masao Washizu:"Quantitative analysis on electrostatic orientation of DNA in stationary AC electric field using fluorescence anisotropy",IEEE Transaction on Industrial Applications,Vol.34,No.1,P75-83(1998)。 鷲津正夫、「見ながら行うDNAハンドリング」、可視化情報 Vol.20 No.76(2000年1月)。
現在提案されている様々なDNAチップ技術は、端的に言えば、物質間の相互作用の場、即ちハイブリダイゼーションの場を提供する反応領域を基板上に予め設定しておき、この反応領域中にプローブDNA等の検出用核酸を固定しておくことによって、この検出用核酸と相補的な標的核酸との間の相互作用であるハイブリダイゼーションを解析する技術であると言える。
しかし、従来のDNAチップ技術においては、その程度の差はあれ、ハイブリダイゼーションの効率は、当該技術の普及拡大にはいまだ不満足なレベルであるという問題を有している。これは、主に、(1)核酸の高次構造が丸まったり、絡まったりした状態(ランダムコイル状態)になり易いため、ハイブリダイゼーションの際に、いわゆる立体障害が発生して塩基部分が相補結合し難いという点、(2)検出用核酸の周辺の基板表面に標的核酸等や検出関連物質が付着してハイブリダイゼーションの障害となる点、などが主原因となっている。これらの原因を解決できれば、DNAチップを用いたアッセイ時間を大幅に短縮化できる。
また、従来のDNAチップ技術では、ミスハイブリダイゼーションの発生等によって、擬陽性や偽陰性の発生が無視できない程度に頻出してしまうという問題を抱えている。即ち、従来のDNAチップ技術においては、検出精度の向上が必要となっている。
この検出精度の向上を図るためには、まず、第一に、ハイブリダイゼーションの精度を高めることができる反応場の条件や環境を案出することが根本的に必要であると考えられる。第二に、従来のDNAチップ技術では、検出の際の障害となる不要な物質(例えば、ハイブリダイゼーションしなかった遊離状態の一本鎖核酸など)を、検出作業前に所定の水溶液で反応場から洗浄除去する作業が必須であるが、この洗浄除去作業が、検出精度に好ましくない影響を与えることがあるため、この問題を解決しなければならない。
更には、今後、ハイブリダイゼーションの網羅的解析のニーズが更に拡大していくならば、基板上の情報集積量の増加、多数又は多様な遺伝子の同時解析、解析技術の簡易化、解析装置やチップ基板などの低コスト化に寄与できる新規技術が更に要求されていくことになると考えられる。
そこで、本発明は、基板上に対して遺伝子情報を効率よく集積(固定化)する技術やハイブリダイゼーションを短時間で効率よく進行させることができ、かつ高精度な検出結果が得られる技術などを包含するDNAチップの製造方法と製造システム、ハイブリダイゼーション検出方法と検出システム、並びに基板処理装置と基盤処理方法を提供することを目的とする。
本発明では、以下に説明する、(1)DNAチップの製造方法、(2)DNAチップの製造システム、(3)ハイブリダイゼーション検出方法、(4)ハイブリダイゼーション検出システム、(5)基板処理装置、(6)基板処理方法を提供する。
(1)DNAチップの製造方法。
第一に、本発明では、ハイブリダイゼーションの場となる反応領域と、該反応領域に貯留又保持される媒質に電界印加可能に配置される対向電極と、を少なくとも備える検出部が配設されてなる基板を用いて行う「DNAチップの製造方法」を提供する。
具体的には、基板の表面処理を行う工程と、前記反応領域に貯留又は保持され、予め調整された検出用核酸を含む媒質に対して、前記対向電極を介して電界印加を行うことによって、前記電極表面に固定する工程と、余剰の前記検出用核酸を前記反応領域から除去する工程と、を少なくとも行うDNAチップの製造方法を提供する。
基板の表面処理を行う工程は、例えば、基板の親媒性加工を行う工程である。また、前記媒質は、前記反応領域に対して滴下又は注入することにより、貯留又は保持される。
前記基板を回転させながら前記媒質の滴下又は注入を行なうようにしてもよい。電界印加では、この電界印加による誘電泳動に基づいて検出用核酸を移動させる工程を含む。また、この電界印加は、高周波電界であり、さらにこの高周波電界は、1MV/m以上及び1MHz以上が望ましい。
(2)DNAチップの製造システム。
第二に、本発明では、ハイブリダイゼーションの場となる反応領域と、該反応領域に貯留又保持される媒質に電界印加可能に配置される対向電極と、を少なくとも備える検出部が配設されてなる基板を用いるDNAチップの製造システムを提供する。
具体的には、予め調整された検出用核酸を含む媒質を前記反応領域に滴下又は注入する手段と、前記反応領域に貯留又は保持された前記媒質に対して、前記対向電極を介して電界印加を行う手段と、を少なくとも備えるDNAチップの製造システムを提供する。
さらに、同システムでは、媒質を前記反応領域に滴下又は注入にして、貯留または保持するためのスポッティング手段や前記反応領域に存在する余剰の前記検出用核酸を前記反応領域から除去する手段を備える。前記電界印加手段は、高周波電界印加手段を好適に採用でき、前記基板は、好適には、例えば円盤状基板であり、この円盤状基板を回転させる手段を備えるようにしてもよい。また、滴下又は注入する手段は、基板の回転に同期して前記反応領域に媒質を供給するようにしてもよい。
(3)ハイブリダイゼーション検出方法。
第三に、本発明では、ハイブリダイゼーションの場となる反応領域と、該反応領域に貯留又保持される媒質に電界印加可能に配置される対向電極と、前記反応領域中に固定された検出用核酸と、を少なくとも備える検出部が配設されてなる基板を用いる「ハイブリダイゼーション検出方法」を提供する。
具体的には、予め調整された標的核酸を含む媒質を前記反応領域に滴下又は注入する工程と、前記反応領域に貯留又は保持された前記媒質に前記対向電極を介して電界印加を行う工程と、前記検出用物質と前記標的物質との間のハイブリダイゼーションを進行させる工程と、前記反応領域にインターカレータを滴下又は注入する工程と、所定波長の励起光を前記反応領域に照射して得られる蛍光強度を検出する工程と、を少なくとも行う「ハイブリダイゼーション検出方法」を提供する。なお、前記(2)の工程の電界印加は、前記基板を一括又はブロック領域毎に行うようにしてもよい。
この方法では、「標的核酸を含む媒質を反応領域に滴下又は注入する工程」と「この反応領域にインターカレータを滴下又は注入する工程」を同時に行うようにして、工程を簡略化してもよい。ハイブリダイゼーションは、電界印加の状態で行うようにしてもよく、場合によっては、電界オフの状態で行うようにしてもよい。
また、少なくとも検出工程を行う前の段階で、反応領域中に存在する余剰の標的核酸を、ハイブリダイゼーション領域から除去する工程を行うようにして、検出精度を向上させてもよい。この除去工程は、電界印加によって、ハイブリダイゼーション領域外の電極表面に余剰の標的核酸を引き寄せる方法でもよい。
検出等に用いる励起光は、好適には基板の裏面側から照射するように工夫する。本方法で用いる基板を回転させながら、予め調整された標的核酸を含む媒質を前記反応領域に滴下又は注入する工程や反応領域にインターカレータを滴下又は注入する工程、あるいは、所定波長の励起光を前記反応領域に照射して得られる蛍光強度を検出する工程を行う。
(4)ハイブリダイゼーション検出システム。
第四に、本発明では、ハイブリダイゼーションの場となる反応領域と、該反応領域に貯留又保持される媒質に電界印加可能に配置される対向電極と、前記反応領域中に固定化された検出用核酸と、を少なくとも備える検出部が配設されてなる基板を用いる「ハイブリダイゼーション検出システム」を提供する。
具体的には、予め調整された標的核酸を含む媒質を前記反応領域に滴下又は注入する手段と、前記反応領域に貯留又は保持された前記媒質に前記対向電極を介して電界印加を行う手段と、前記検出用物質と前記標的物質との間のハイブリダイゼーションを進行させる手段と、前記反応領域にインターカレータを滴下又は注入する手段と、所定波長の励起光を前記反応領域に照射して得られる蛍光強度を検出する手段と、を少なくとも備えるハイブリダイゼーション検出システムを提供する。
前記基板は、前記励起光を透過する層を備えるようにし、該励起光の光源は、好適には、基板の裏面側に配置する。これにより、基板上方領域には媒質の滴下又は注入装置群を配置し、同下方領域にはハイブリダイゼーション検出に係わる光学的装置群を配置することができる。その結果、検出装置全体のコンパクト化や装置構成の簡略化を達成できる。
また、本システムでは、前記ハイブリダイゼーションの温度制御手段又は/及び湿度制御手段や前記反応領域に水分等の溶媒を補給する手段を設けて媒質の乾燥を防止してもよい。
前記基板の円盤状基板の回転手段を有するように工夫し、さらには、この基板の前記検出部の位置決め用サーボ手段及びフォーカスサーボ手段を設けるようにする。
(5)基板処理装置。
第五に、本発明では、ハイブリダイゼーションの場を提供し得る反応領域をその表面に有する基板を処理するための装置であって、検出用核酸が固定された前記反応領域に標的核酸を供給する供給手段と、前記標的核酸が供給された前記基板の温度制御を行うための加熱手段と、前記基板のハイブリダイゼーションの状況を読取る読取り手段と、前記基板を搬送する搬送手段と、を有する基板処理装置を提供する。本装置では、さらに、前記基板に電界を印加する手段を備えるように工夫し、前記読取り手段としては、例えば、光学的読取り手段を好適に採用可能である。
また、本装置では、基板が前記搬送手段によって、前記供給手段と前記加熱手段と前記読取り手段の間を連続的に搬送されるようにしたり、前記供給手段と前記加熱手段と前記読取り手段を直列に配置したり、前記供給手段に加湿手段を設けるようにしてもよい。
次に、本装置では、前記供給手段に向けて前記基板を導入するための基板導入手段と、前記読取り手段から前記基板を取り出すための基板取り出し手段を設け、また、基板導入手段と基板取り出し手段を共通の手段としてもよい。また、前記供給手段と、前記加熱手段と、前記読取り手段と、前記基板の導入口と、前記基板の取り出し口と、を直列に配置するように工夫してもよい。
さらには、本装置では、検出用核酸が固定された(基板の)反応領域に対して溶媒を供給する第二の供給手段や血液から核酸を抽出する抽出手段を設けることもできる。
(6)基板処理方法。
第六に、本発明では、ハイブリダイゼーションの場を提供し得る反応領域をその表面に有する基板を処理するための方法であって、検出用核酸が固定された前記反応領域に対して標的核酸を供給する核酸供給工程と、前記標的核酸が供給された前記基板の温度を制御する温度制御工程と、前記反応領域におけるハイブリダイゼーションの状態を読取るための読み取り工程と、を有し、上記各工程を順次連続的に行うように工夫した基板処理方法を提供する。
また、本方法においては、前記基板に電界を印加する工程を行うようにしてもよい。例えば、核酸供給工程の段階やハイブリダイゼーションを進行させる段階などで電界印加を行うことによって、ハイブリダイゼーション効率の向上やハイブリダイゼーション検出精度の向上に役立つように、核酸分子に対して電気力学的効果を与えるができる。
前記した温度制御工程では、例えば、ハイブリダイゼーションの至適温度を設定する工程として利用し、検出用核酸と標的核酸との間のハイブリダイゼーションを進行させることができる。
また、本方法では、読取り工程を光学的読取り工程としたり、核酸供給工程と温度制御工程と読取り工程の各工程間で基板が搬送されるようにしたり、あるいは、核酸供給工程の段階で加湿を行ったりするように工夫することができる。
ここで、本発明で使用する主たる技術用語の定義付けを行う。
「検出用核酸」とは、反応領域に貯留又は保持された媒質中に固定又は遊離の状態で存在し、当該核酸分子と特異的に相互作用する相補的塩基配列を有する核酸分子を検出するための探り針(検出子)として機能する核酸分子である。代表例は、DNAプローブなどのオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドである。「標的核酸」とは、前記検出用核酸と相補的な塩基配列を有する核酸分子である。
「核酸」とは、プリンまたはピリミジン塩基と糖がグリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステルの重合体(ヌクレオチド鎖)を意味し、プローブDNAを含むオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、プリンヌクレオチドとピリミジンヌクレオチオドが重合したDNA(全長あるいはその断片)、逆転写により得られるcDNA(cプローブDNA)、RNA、ポリアミドヌクレオチド誘導体(PNA)等を広く含む。
「ハイブリダイゼーション」は、相補的な塩基配列構造を備える間の相補鎖(二本鎖)形成反応を意味する。「ミスハイブリダイゼーション」は、正規ではない前記相補鎖形成反応を意味し、本発明では、しばしば「ミスハイブリ」と略称する。
「反応領域」は、ハイブリダイゼーションその他の相互作用の反応場を提供できる領域であり、例えば、液相やゲルなどを貯留できるウエル形状を有する反応場を挙げることができる。この反応領域で行われる相互作用は、本発明の目的や効果に沿う限りにおいて、狭く限定されない。
「対向電極」は、電極面が向かい合った状態で配置される少なくとも一対の電極を意味する。「対向軸」とは、対向する二つの電極面の中心同士を結ぶ直線によって形成される軸を意味する。「交差」とは、交点を形成する同一平面上での交差の場合や交点を形成しないで立体交差する場合の双方を含み、交差する角度については、直交する角度以外にも、本発明の目的や効果が得られる構成であれば採用できる。
「余剰物質」とは、反応領域中に存在するプローブDNA等の検出用核酸の余剰のものや該検出用核酸と相補的な塩基配列部分を備える標的核酸のうちの余剰のもの、あるいはハイブリダイゼーションの結果得られる相補鎖に挿入結合される特性を備える、いわゆる「インターカレータ」のうちの余剰のものなどが含まれる。
「インターカレータ」は、二本鎖核酸に挿入結合可能な蛍光標識された物質であり、ハイブリダイゼーション検出に用いられる物質である。例えば、POPO−1やTOTO−3を用いることができる。
「立体障害(steric hindrance)」は、分子内の反応中心等の近傍に嵩高い置換基の存在や反応分子の姿勢や立体構造(高次構造)によって、反応相手の分子の接近が困難になることによって、所望の反応(本願では、ハイブリダイゼーション)が起こり難くなる現象を意味する。
「誘電泳動」は、電界が一様でない場において、分子が電界の強い方へ駆動する現象であり、交流電圧をかけた場合も、かけた電圧の極性の反転につれて分極の極性も反転するので、直流の場合と同様に駆動効果が得られる(監修・林 輝、「マイクロマシンと材料技術(シーエムシー発行)」、P37〜P46・第5章・細胞およびDNAのマニピュレーション参照)。
「DNAチップ」は、DNAプローブなどの核酸が固定化されて微細配列された状態のハイブリダイゼーション検出用基板を広く意味し、DNAマイクロアレイの概念も含む。
本発明によれば、基板に対して遺伝子情報を効率よく集積(固定化)することができ、また、ハイブリダイゼーションを短時間で効率よく進行させ、検出精度を向上させることができる。
以下、本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる物や方法の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
<1.本発明を実施する際に用いる好適な「基板」について>
(1)基板の基本構成。
本発明で採用できる基板は、CD(Compact Disc)、DVD(Degital Versatile Disc)、MD(Mini Disc)等の光情報記録媒体と同様の基材から形成することができる。また、本発明に係る基板の形状は、特に限定されないが、円盤状をなす基板(ディスク)は、特に好適である。以下の説明では、円盤状の基板を採用した場合を代表例として説明する。
図1には、本発明で好適に採用できる基板の一実施形態である円盤状基板の好適な実施形態が例示されている。この図1に示された円盤状基板1(以下、単に「基板1」と略称。)は、光透過性の石英ガラスやシリコン、ポリカーボネート、ポリスチレン等の合成樹脂、好ましくは射出成形可能な合成樹脂によって円盤状に成形する。基板1を安価な合成樹脂を用いて基板を成形することで、従来使用されていたガラスチップに比して、低ランニングコストを実現できる。
また、基板1の中心部分には、図1中に符号2で示された所定口径の孔(又は貫通しない穴でもよい。)を形成しておいてもよい。この孔2に、後述するスピンドル(符号9)などのチャッキング治具を挿着することにより、該基板1を保持したり、回転させたりすることができる。
また、前記孔2に対しては、給電用の通電治具(図示せず)を挿着することによって、基板1に配設された対向電極群(後述)の全てか又は選択された一部に対して、電界印加する構成としてもよい。
図2には、基板1の基本的な層構造を示す部分断面図が示されている。基板1は、反射層11と、所定波長域の光を透過する光透過層12と、を基本的に備えている。より好ましくは、図2に示された例のように、下層側に光透過層12、上層側に反射層11を有するように工夫する。この工夫により、基板1の下方側(裏面側)からの光照射によって検出作業等を実施できる。
また、前記層構成によって、基板1周辺に、必要な装置群の配置設計を行う場合においては、基板1の上方側には、試料溶液などの滴下又は注入に係わる装置を配置し、基板1の下方側には、検出(読み取り)用の光学的装置群をまとめて配置することができる。
基板1の反射層11は、数nmから数十nm程度の範囲の膜厚に形成する。この反射層11が、単層の金属材料若しくは単層の無機材料からなる場合においては、後述するサーボ動作用のレーザー光(図10の符号V参照)に対する反射率を、5%以上、50%以下の範囲とすることが望ましい。
これは、基板1に対して、より安定なサーボ動作(フォーカスサーボ及びトラッキングサーボ)を行うために要求される、より高いレーザー光反射率と蛍光強度測定のために必要な励起光及び蛍光に対する透光性とを両立させることができる好適な範囲であるからである。
また、前記した反射率の範囲を採用することによって、基板1の表面に存在する物質の屈折率が、基板1の屈折率と非常に近い場合であっても、基板1上で反射したサーボ用レーザー光(図10の符号V参照)に対する外乱を完全に取り除くことができる。
反射層11は、複数の無機材料を積層し、波長選択性のある反射膜としてもよい。この場合では、サーボ動作用レーザー光(図10の符号V参照)だけを反射させることが可能となるので、蛍光強度測定用の励起光や蛍光の損失を心配する必要がなくなる。
即ち、前記反射膜を採用すれば、蛍光強度測定への影響を心配することなく、レーザー光反射率が50%を越える(例えば、反射率90%以上の)反射層11を形成することができる。
次に、基板1の光透過層12、あるいはこの光透過層12に積層された合成樹脂(例えば、感光性ポリイミド樹脂層)などからなる反応領域形成層(図示せず。)には、公知の光ディスクマスタリング技術によって、DNAプローブ等の検出用核酸と標的核酸との間のハイブリダイゼーションの場を提供する、例えばウエル状の反応領域Rと、該反応領域Rに臨むように配置された少なくとも一対の対向電極(微少なため図1では図示省略)あるいは少なくとも一つの電極と、を少なくとも備える検出部3を多数配設しておく(図1参照)。
なお、光透過層12は、二層構造としてもよい(図示せず)。上層側の光透過層を、媒質の屈折率及び下層側の光透過層の屈折率よりも高い屈折率を有するようにすれば、後述のフォーカスサーボ制御及び位置決めサーボ制御を正確かつ高速に行うことができる。
また、各検出部3には、検出領域(反応領域Rの一部に相当)とサーボ領域を形成する。そして、前記サーボ領域には、半径位置制御用のサーボマークと、各検出部3の基板1上の番地情報を提供するアドレスマークと、を設けておくようにする。
この検出部3を、基板1上に周方向又はスパイラル状に配設すると、前記検出領域、サーボ領域の順番で次々に形成されることになり、サーボ領域は不連続状態となるため、光ディスク技術分野で言うサンプルサーボ方式とすることができる。
なお、サーボマークとアドレスは、慣用の光ディスクマスタリングプロセスにより形成することができる。即ち、基板1を光ディスクとして考えた場合、滴下及び検出位置である反応領域Rをユーザーデータ領域と考えることができる。他の領域は、サンプルサーボ方式等により同期ピットを配列し、かつトラッキングサーボとしても利用することができ、更に、直後にアドレス部(基板1上の地理的な番地)を挿入することによって位置情報を与えることができる。
アドレス部は、先頭パターンであるセクターマークから始まり、実際に回転している基板1の回転位相を与えるVFO(Variable Frequency Oscillator)とアドレスデータの開始位置を与えるアドレスマークとトラックとセクタのナンバーが入ったID(Identifer)等を組み合わせる。
基板1の半径方向の情報は、それぞれ半径方向に1/4トラック+と−方向に位置するトラッキングマークからの信号レベルの差分によるファインエラー信号とアドレスマークとから得られるトラック位置情報に基づく。
このトラック位置情報を用いて、基板1全体を、半径ステージに載置して回転駆動することによって、媒質供給用の吐出ヘッドや検出用の光ピックアップを行う光学ヘッドの位置決めを行うことができる。
吐出ヘッドや光学ヘッドの位置決め動作に係わる制御は、半径ステージに載置されて回転する基板1の読み取り側から光ピックアップにより得られた再生信号からのアドレス・トラッキングエラー信号並びにフォーカスエラー信号に基づいて行うことができる。
次に、本発明で用いる基板1の表面は、予め、親媒性加工に基づく表面処理を施すようにしておく。基板1の表面上において、疎水性である表面部分と親水性である表面部分を目的に応じて区別して形成しておくことによって、試料水溶液のロスを防止することができ、また、スムーズに所望の生体物質を検出表面領域に導くことができる等の効果を得ることができる。
(2)「検出部3」の構成。
検出部3は、基板1上に多数配列された微小な領域である。検出部3には、試料が含有された水溶液を貯留したり、ゲル(例えば、アガロースゲル)を保持したりして、ハイブリダイゼーションの場を提供することになる反応領域R(例えば、ウエル形状の微小領域)が設けられている。なお、この反応領域Rの媒質の蒸発を防止するために、反応領域Rの周辺から水分の補給を行なうことができる構成としてもよい。
この検出部3は、アッセイの目的に応じて、グループ分けし易いように、基板1上に配列すればよい。例えば、円盤状をなす基板1では、周方向、スパイラル状あるいは放射状に検出部を所定間隔で整然と配列させておくことが可能となる。例えば、使用する試料物質の種類や遺伝子の違いによって、検出部3群を、周方向所定角度領域毎にグループ分けしておくことも自在にできる。
検出部3に設けられた反応領域Rの形状やサイズは特に限定されないが、その長さ、幅、深さは、それぞれ数μmから数百μmであって、このサイズ値は、励起光のスポット径やサンプル溶液(検出用核酸含有溶液、標的核酸含有溶液)の最小滴下可能量に基づいて決定することができる。
(3)「検出表面U」の構成。
検出部3を構成する反応領域R内には、DNAプローブ等の検出用核酸を固定化できるように表面処理加工された表面(以下、「検出表面」という。)を、形成しておく。
図3には、反応領域R内の検出表面U部分の拡大図が模式的に示されている。図3では、この検出表面U部分に検出用核酸Dの末端が固定化されており、この検出用核酸Dにハイブリダイゼーションした標的核酸T、更には、二本鎖部分に挿入結合したインターカレータIが模式的に示されている。
この検出表面Uとしては、例えば、金などの金属薄膜表面や反応領域R内に臨むように設けられた電極の表面を活用することができる。
DNAプローブ等の所望の検出用核酸Dを固定するための検出表面U(例えば、電極表面)の表面処理法については、例えば、アミノ基含有のシランカップリング剤溶液やポリリシン溶液で予め表面処理しておく方法を採用できる。
例えば、アミノ基含有のシランカップリング剤溶液やポリリシン溶液で表面処理される。合成樹脂製基板であれば、その表面をプラズマ処理及びDUV(DeepUV、遠赤外)照射処理後、アミノ基含有シランカップリング剤溶液で処理する。
また、表面に銅、銀、アルミニウム又は金をスパッタして成膜して、その表層にアミノ基、チオール基、カルボキシル基等の官能基(活性基)を有する物質やシステアミン、ストレプトアビジン等をコートしてもよい。
ストレプトアビジンによって表面処理された検出表面の場合には、ビオチン化されたDNAプローブ末端の固定に適している。あるいは、チオール(SH)基によって表面処理された検出表面の場合には、チオール基が末端に修飾されたプローブDNA等の検出用物質Dをジスルフィド結合(−S−S−結合)により固定することに適している。
また、検出表面Uには、必要に応じて、検出用核酸Dを固定化するためのリンカーやスペーサーなどを含む介挿分子を結合させておくことによって、検出表面Uと検出用核酸Dとの距離を確保し、互いの干渉を防ぐように工夫してもよい。即ち、検出用核酸Dの固定化部位以外が検出表面Uに付着してしまうのを防止するようにしてもよい。
介挿分子の分子長を選択することによって、例えば、分子長の異なるリンカーを、所定間隔で検出表面Uに交互に結合しておくことで、該検出表面Uに固定化された検出用核酸D同士が互いに干渉し合わないように工夫してもよい。
なお、使用する介挿分子の分子長は、検出用核酸Dや標的核酸Tの長さ(塩基数)、検出用核酸D同士の距離等に応じて適宜決定できる。例えば、50〜100塩基のプローブDNAを伸長した検出用核酸Dに対して1,600塩基程度の標的核酸Tをハイブリダイゼーションさせる場合を想定すると、標的核酸Tの余剰塩基配列部分(相補鎖を作らない配列部分)がブラウン運動によってランダムコイル状の分子塊になったときの直径は、10〜40nmと計算できる。
この場合、標的核酸Tの前記分子塊部分による立体障害を有効に防ぐためには、介挿分子(又は伸長した状態の介挿分子)の分子長は、10〜40nm確保するのが好適であり、また検出表面U上に配列される介挿分子間の距離についても、10〜40nm程度が望ましい。
(4)「対向電極」の構成。
検出部3の反応領域Rには、該反応領域Rに臨むように、少なくとも一対の対向電極E,Eが設けられている(例えば、図4参照)。この対向電極E,Eは、アルミニウムや金などの金属、あるいはITO(インジウム−スズ−オキサイド)等の透明な導体で形成することができる。この対向電極E,Eは、反応領域R内の検出表面U領域を挟むような配置関係で設ける。
図4には、一組の対向電極E,Eの一配置例が示されている。この対向電極E,Eは、反応領域Rに貯留された水溶液や保持されたゲルなどの媒質に電界を印加するために設けられた、相対向する配置関係にある電極対である。なお、一方の電極(例えば、図4中のE)を外部電極ユニットとし、必要に応じて、基板1側の電極と対向電極を形成できるようにしてもよい。
この対向電極E,Eは、例えば、高周波交流電界等の電界印加(後述)により得られる誘電泳動の電気力学的効果によって、前記媒質中に存在する核酸分子(検出用核酸D、標的核酸T)を直鎖状に伸長させたり、電気力線が集中する電極エッジ等の所定箇所に向けて移動させたり、伸長させながら移動させたり、あるいは引き寄せたりするための手段として機能する。なお、図4に示された符号Dは、伸長した状態で固定化されている検出用核酸が模式的に示されている。なお、対向電極E,Eを、電気泳動や電気浸透流などの電気力学的効果を利用する場合に用いるのは自由である。
ハイブリダイゼーションは、通常、ランダムコイル状に丸まったり、絡まったりしている状態の一本鎖核酸分子同士間で進行するので、立体障害の影響などを受けて、相補結合の効率が低下し、ミスハイブリダイゼーションも起き易くなる。
しかし、対向電極E,Eを介して電界印加を行うことよって、核酸分子の高次構造を伸長状態に調整したり、あるいは、核酸分子の会合の確率(即ち、濃度)が高まるように、所定領域へ移動させておいたりすることができる。
電界印加がなされた状態でハイブリダイゼーションを行うと、立体障害の影響を低減できるので、該ハイブリダイゼーションの効率と精度を飛躍的に高めることができる。この結果、高速のハイブリダイゼーション検出を実現できる。なお、ハイブリダイゼーションの際には、電界オフの状態(時間帯)を形成し、自然なブラウン運動に委ねてハイブリダイゼーションを進行させてもよい。
なお、反応領域Rに設けられるいずれの対向電極も、外部電源Vに通電可能に構成され、スイッチSの操作により、電界印加のオン/オフが自在な通電構成とされている(例えば、図4参照)。
また、反応領域Rに設けられるいずれの対向電極も、電界強度の選択、交流と直流の選択、あるいは高周波電界や低周波電界の選択を自在に行うことができるように、電界制御されている。
ここで、反応領域Rにおける対向電極の主な配置構成例を列挙すると、(1)反応領域Rの底面4部分に一つの電極Eを形成しておき、この電極Eと対向する上方位置にもう一方の電極Eを配置する構成(図4参照)、(2)反応領域Rを形成する壁面の対向する縦壁面5,5部分に、互いに向かい合うように電極E、Eを配置する構成(図5参照)、(3)互いの電極エッジ部分が対向する二つの電極E、Eが底面4部分に所定間隔を置いて並べて配置された構成(図6参照)などを例示できる。
あるいは、これらの対向電極を適宜自在に組み合わせて、複数の対向電極を設けるようにしてもよい。例えば、二対の対向電極を、その対向軸が交差するように反応領域Rに配置してもよい。具体的には、図7に示すように、垂直方向に配置された対向電極E−Eと水平方向に配置された対向電極E−E)を各反応領域Rに形成してもよい。
この場合、一方の対向電極E−Eを、検出用核酸Dの高次構造調整やハイブリダイゼーション効率向上を目的とする高周波電界印加手段として使用し、他方の対向電極E−Eは、ハイブリダイゼーション検出の際の障害となる余剰物質(例えば、余剰の検出用核酸D、余剰の標的核酸T、余剰のインターカレータIなど)やミスハイブリダイゼーションした核酸分子を検出表面部位から他の領域へ強制的に除去するための電界印加手段として使用することができる。このような電界を用いた除去作業は、現在一般に実施されている水溶液を用いた洗浄除去作業に変わり得る新規技術となる。
電界印加による前記除去作業の際には、低周波電界を積極的に用いるように工夫してもよい。反応領域R中の媒質に低周波電界を印加することによって、ミスハイブリダイゼーションした核酸分子に適当な振動を与えて、該核酸分子を検出用核酸Dから解離させることができる。なお、低周波電界の電界強度は、正規のハイブリダイゼーションを解離させてしまわない程度とする。
なお、アッセイで用いる試料物質を含む媒質を、検出部3の反応領域Rへ確実に送り込むために、毛細管現象を利用するようにしてもよい。このために、例えば、図4や図7に示すように、反応領域Rに連通する吸入孔Hと、外気連通孔Hとを設けるように工夫し、さらには、前記吸入孔Hの上方開口部の周辺表面領域を、媒質と逆の親媒性である疎水性としてもよい。
反応領域Rには、対向電極に加えて、走査電極C群を配置してもよい。その一実施形態を図8に示す。図8には、検出部3内の電極配置構成が簡略に示されている。まず、対向電極E−Eが設けられており、この対向電極E−E間に、共通電極Gとこれにそれぞれのエッジdが対向する配置関係にある走査電極C群が設けられている。
図8の実施形態では、図示されたスイッチ(S〜Sz)の切換え操作を所定のタイミングで順次行うことによって、隣り合う走査電極(例えば、C−C、C-C)間に順番に電界印加を行っていき、隣なり合う走査電極の各エッジd,d間に、伸長状態の検出用核酸(符号X)を架橋するように固定することができる。なお、図8中の符号Lは、走査電極(Cx、Cy)のエッジd部分に集中する電気力線を模式的に示したものである。
ここで、既述したように、反応領域Rを臨む対向電極を構成する電極表面は、DNAプローブなどの検出用核酸Dを固定するための検出表面U(図3再参照)として用いることができる。
この場合、検出表面Uとして機能させる側の電極表面の面積は、その対向する他方の電極の表面面積よりも狭小の面積に形成するのがより望ましい。例えば、図4、図7に示されているように、面積狭小とされた側の電極Eには、電界(電気力線)がより集中して不均一電界が形成されるので、誘電泳動によって、電極E側へ核酸分子が移動し易くなる。
また、固定化用に用いられる電極の表面、即ち検出表面Uは、例えば、図9に示されているように、凹凸形状に粗面加工を施したり、島状になるようにパターニング形成したりするようにしてもよい。このような構成を採用すれば、電気力線が、該電極表面の凸部位u(山状部位)に集中し易くなるので、不均一電界が形成され易くなるので好ましい。なお、図示しないが、検出表面Uに逆円錐状や断面U字状の凹部や円錐状などの凸部を規則的に形成しておいてもよい。
なお、電極表面を粗面加工する方法は、例えば、公知のスパッタリング蒸着技術、エピキタシー蒸着技術やエッチング技術を用いて実施することができるが、該方法は特に限定されない。
また、各電極表面は、SiO、SiN、SiOC、SiC、SiOF、TiOなどの材料によって形成した絶縁層で覆うことがより望ましい。反応領域中に貯留される場合があるイオン溶液による電気化学的な反応を防止することができるからである。
なお、図10に示す実施形態のように、検出部3の反応領域R中に収容された媒質に対して電界印加可能に対向配置される対向電極E,Eを構成する各電極が、該反応領域Rに向けて突起した形態を有するようにしてもよい。
このような突起状の対向電極の先端部位e1,e2には、電気力線が集中し、不均一電界が形成され易くなるので、検出用核酸Dの固定部位として、好適に利用することができる。
(5)「対向電極」への給電手段。
反応領域Rに設けられた各対向電極への給電は、特に限定されないが、例えば、図11に図示されているように、基板1の中心部に、外部の通電治具(図示せず。)と接触可能な通電部6を、孔2の周壁面に露出するように形成しておき、この通電部6から導出されて、基板全体を網羅するように延設された給電用配線7群を介して行うことができる。
なお、前記通電部6は、円形、リング状、分割されたリング状(図11参照)などの形状を、目的に応じて、適宜選択することができる。なお、図11中の符号21は、図示しない通電治具やチャッキング治具の位置決めをするために形成された切り欠き部である。
なお、切り欠き部21以外にも、凸部を形成したり、孔2の形状それ自体を工夫したりすることにより、通電治具やチャッキング治具の位置決めを行うようにしてもよく、位置決めの具体的方法は、特に限定されない。
ここで、図11に基づいて、給電用配線7の実施形態の一例を説明すると、給電用配線7は、基板1の通電部6から基板外周側へ向けて放射状に延びる第1配線(基幹配線)71、この第1配線71から周方向に枝分かれする第2配線72、さらには、この第2配線72から枝分かれして電極に接続する第3配線73等である。なお、前記第2配線72は、上方視したときに、同心円状あるいはスパイラル状を呈するように延設する。
これらの配線71〜73を単一層内に形成したり、あるいは複数層に分けたり、跨ったりさせて形成して、配線用基板(層)1aに延設しておく。この配線基板(配線層)1aを、検出部3が配列された検出用基板1bに正確に位置決めし、貼り合わせ等を行って一体化し、基板1を形成すればよい。
上記したような給電用配線7(71,72,73)の構成を採用すれば、記録情報読み取りの際に使用する回転同期信号の基準として、あるいはトラッキング信号の基準として利用することができる。この結果、これらの信号を得るためのピット群やバーコード群などの専用の信号やマークを基板1にわざわざ設けなくてもよくなるため、基板1の構成をより簡素化することができるという利点がある。
<2.DNAチップの製造方法について>
本発明では、既述した構成あるいは構造を備える円盤状の形態に成形され、かつ表面処理が施された基板1を用いてDNAチップを製造する。
この基板1は、既述したように、ハイブリダイゼーションの場となる反応領域Rと、該反応領域Rに貯留又保持される媒質に電界印加可能に配置される対向電極(例えば、E−E)と、を少なくとも備える検出部3が多数配設されている(図1参照)。この基板1を用いて、所定の検出用核酸Dが固定(集積)された、いわゆる「DNAチップ」を製造する。
本製造方法を同方法の工程例のフローが示された図12、図13を参照して説明する。
基板1に対して表面処理を行う工程Pと、予め調製された検出用核酸Dを含む媒質を、前記反応領域Rに滴下又は注入する工程P2と、前記反応領域Rに貯留又は保持された前記媒質に対して、前記対向電極(例えば、E−E)を介して電界印加を行う工程Pを行う。
電界印加により得られる電気力学的効果である「誘電泳動」によって、前記検出用核酸Dを伸長させながら、検出表面Uとして機能する電極表面(例えば、E表面)に固定する。さらに、余剰の前記検出用核酸Dを反応領域Rから除去する工程P4と、を行い、続く包装工程Pを経て、DNAチップ10をユーザへ出荷する。以下、このDNAチップ10の製造工程を工程別に順次説明する。
(1)(基板の)表面処理工程P
まず、ハイブリダイゼーションの場を提供できる反応領域Rが形成された基板1を用いて、この基板表面を疎水性物質で処理して疎水面を形成する疎水化工程を行い、これに続いて疎水面の一部を親水面に変換する親水化工程を行う。
これらの工程を適宜に組み合わせることによって、基板1上の所定の領域又は部分領域を、目的に応じて、親水面にしたり、疎水面にしたりすることができる。例えば、反応領域Rを構成する壁面のみを親水面に変換し、基板1上のそれ以外の部分(非反応領域)を疎水面とすることができる。
遺伝子解析などのバイオアッセイに用いる核酸などの生体物質は、親水性である場合がほとんどであるため、これらの生体物質は、水溶液等に含有された状態で、基板1の反応領域Rに滴下、注入、あるいは送液されることになる。
従って、基板1上の反応領域Rが親水面に、非反応領域(反応に直接係わらない領域)が疎水面になるように基板1を表面処理することによって、生体物質が溶解された試料溶液等を基板1上に滴下等する際に、この試料溶液等を、反応領域R内の親水表面領域に的確に送り込んだり、該親水表面領域に確実にとどまらせたりすることができる。
また、上記の工程Pでは、基板1上の反応領域R内の所定部分のみを、目的に応じて、適宜、親水面又は疎水面にすることも可能である。例えば、上記親水化工程により、反応領域R内に配置された検出表面部分(例えば、電極表面部分)のみを親水面に変換したり、逆に、反応領域R中の前記検出表面以外の部分(非検出用表面)のみを親水面に変換したりすることもできる。
このように、反応領域R内に、親水面と疎水面を、目的に応じて設けることによって、DNAチップ製造段階において使用する親水性、あるいは疎水性の試料溶液や試料ゲル等を目的の場所に保持させたり、反応領域R内の目的の場所に検出用物質を送り込んで固定化したりすることなどが、自在に行えるようになる。
上記疎水化工程は、例えば、疎水性物質であるアルキルシラン(R−Si−X,X,X、R:アルキル基(不飽和基を含んでいてもよい)、Xn:Cl,OR)を、基板の表面に固定化することにより行うことができる。
上記の疎水面の一部を親水面に変換する親水化工程は、疎水面に水酸基を形成する反応に基づいて、簡易に行うことができる。例えば、疎水面が、前記したアルキルシランで形成されている場合、アルキルシランに、酸素存在下で紫外線を照射することにより、アルキルシランのアルキル基に、水酸基を付加することができる。
(2)検出用核酸の滴下又は注入工程P2
この工程P2では、上記表面処理工程を経て得られた基板1上の反応領域Rに対して、予め調製された検出用核酸Dを滴下又は注入する。検出用核酸Dとしては、DNAオリゴ鎖やcDNA(complementary DNA)等(cDNA断片であるEST(Expression sequence tagやORF(Open reading frame)などのポリヌクレオチドを含む)のDNAプローブを例示できる。
この滴下又は注入に係わる具体的方法は、特に限定されないが、例を挙げると、インクジェットプリンティング技術を利用した圧電技術によって、XYZ作動制御システムによって位置制御された小さなジェットノズルを介して、前記DNAプローブを含む試料溶液を基板1上の反応領域2に正確に噴射することができる。
あるいは、マイクロスポッティング技術を用いて、XYZ作動制御システムによって位置制御されたマイクロスポッティングペン、キャピラリー、あるいはピンセットを装着したプリントヘッドにより、予め調製された検出用核酸を基板1上の反応領域Rにスポットすることができる。
これらの滴下(スポッティング)方法は、基板1上の検出部3位置に正確に追従させながら、検出用核酸Dを含む微小滴並びに標的核酸Dを含む微小滴などを、正確に滴下することができる。
なお、「インクジェットプリンティング法」は、インクジェットプリンターで用いられるノズルを応用する方法であって、電気を用いてインクジェットプリンターのようにプリンターヘッドから基板に検出用物質を噴射し、固定する方法である。
この方法には、圧電式インクジェット法、バブルジェット(登録商標)法、超音波ジェット法がある。圧電式インクジェット法は、圧電体にパルスを印加することによって生じる変位の圧力によって液滴を飛ばす方法である。通常のバブルジェット(登録商標)法は、熱方式であって、ノズル中のヒーターを熱して発生させた気泡の圧力によって液滴を飛ばす方式である。ノズル内にヒーターとなるシリコン基盤を埋め込み、約300℃/sで制御して一様な気泡を作成し、液滴を押し出す。しかしながら、高温に液体が曝されることになることから、生体物質試料には適さないと考えられる。超音波ジェット法は、超音波ビームを液体の自由面にあてて、局所的に高い圧力を与えることによってその箇所から小滴を放出させる方式である。ノズルを必要とせず、高速で直径約1μmの小滴を形成できる。
本発明においては、「インクジェットプリンティング法」として、「圧電式インクジェッティング法」のように、媒質への熱影響が少ない方法を好適に採用できる。印加するパルスの形状を変えることによって、液滴(微小滴)のサイズを制御することができるので、解析精度向上に好適である。液滴表面の曲率半径が小さいときは液滴を小さくし、液滴の曲率半径が大きいときは液滴を大きくすることができる。また、パルスを急激に負の方向に変化させることにより液滴表面を内側に引っ張り、曲率半径を小さくすることも可能である。
「マイクロメカニカルスポッティング法」は、マイクロスポッティングペン、キャピラリー(細管)、あるいはピンセットを装着させたプリントヘッドを用いて、検出用物質を含む微小滴を基板上の検出表面部位にスポットしていく方法である。
なお、本発明では、電磁誘導により生じた誘導電流と外部磁場との相互作用により振動する導電性ボイスコイルにより駆動して吐出口から媒質を吐出する装置を滴下手段として採用してもよい。
この工程Pは、基板1上の所定の検出部3(あるいは検出部3群)の位置をサーボ機構によって読み取り、この円盤状をなす基板1を回転させながら行うことができる。なお、この工程Pを開始と同時に、次の工程Pを開始しておき、反応領域R中に滴下又は注入された媒質に対して、電界印加を行うようにしてもよい(図13の工程P21参照)。
(3)電界印加工程(検出用核酸の固定工程)P
前記工程Pに続いて(図12参照)、あるいは前記工程Pと同時に(図13参照)、基板1上の反応領域Rに貯留又は保持された媒質に対して、該反応領域Rの対向電極(例えば、E−E)を介して、電界印加を行う。以下、具体的に説明する。
前記媒質に電界印加がされない段階(電界オフの段階)では、一本鎖の検出用核酸D(例えば、DNAプローブ)は、反応領域Rの媒質中に遊離状態で存在している。このとき、検出用核酸Dは、ブラウン運動の作用を受けて、ランダムコイル状に丸まった高次構造で存在している。
電界印加を実施する本工程P(図12)又はP21(図13)では、外部電源に接続された対向電極(例えば、E−E)を用いて、反応領域R内の媒質に対して高周波交流電界を印加する。このときの印加電界の好適な条件として、高周波電界は、1MV/m以上及び500kHz以上が望ましく、例えば、約1×10V/m、約1MHzを好適に選択できる(Masao Washizu and Osamu Kurosawa:”Electrostatic Manipulation of DNA in Microfabricated Structures”,IEEE Transaction on Industrial Application Vol.26,No.26,p.1165-1172(1990)参照)。
この電界印加によって得られる誘電泳動の電気力学的効果によって、ランダムコイル状の検出用核酸Dを伸長させながら、電気力線が集中する電極表面に向けて移動させ、DNAプローブ等の検出用核酸Dの修飾された末端部位を、カップリング反応等を介して、電極表面に固定することができる(例えば、図4の状態を参照)。即ち、電極表面を検出表面Uとして機能させる。特に、電界印加により、検出用核酸の移動を速めることができるので、プロセス時間の短縮に有効である。
既述したように、例えば、ストレプトアビジンによって表面処理された電極表面には、ビオチン化されたDNAプローブ末端の固定が適している。あるいは、チオール(SH)基によって表面処理された電極表面の場合は、チオール基が末端に修飾されたDNAプローブをジスルフィド結合(−S−S−結合)によって固定するのに適している。
(4)除去(洗浄)工程P
この工程Pは、反応領域R中に固定されないまま遊離状態で存在している余剰の検出用核酸Dを、反応領域R中から除去し、回収することを目的とする工程である。
第一に例示できる工程は、予め洗浄用に調製されたバッファー溶液を反応領域に滴下又は注入し、この洗浄溶液を回収する際に、余剰の検出用核酸を同時に反応領域R中から除去するという方法である。
この方法における洗浄液の回収作業では、基板1の反応領域Rに連通するようにキャピラリー(図示せず)を形成しておくことによって、毛細管現象を有効に利用できる。あるいは円盤状をなす基板1の形態的特性を積極的に活用し、該基板1を回転させることによって得られる遠心力を有効に利用することもできる。
なお、洗浄液としては、例えば、界面活性剤SDSを含むSSC(Saline−Sodium Citrate)バッファー溶液などを用いることができる。
第二に例示できる方法は、固定用として用いた対向電極とは別組の対向電極(例えば、図6中の対向電極E−E)を反応領域Rに予め設けておき、この対向電極に、固定化された検出用核酸が外れてしまわない程度の強度の電界を印加することによって、当該電極E,Eの表面近傍の領域へ、即ち検出表面領域に影響のない領域へ、余剰の検出用核酸を回収又はトラップする方法である(図7参照)。
なお、この第二の方法は、反応領域Rから余剰の検出用核酸D等を除去してしまう方法ではなく、該反応領域Rの検出に障害とならない領域へ余剰の検出用核酸などの余剰物質を移動させておく方法である。
従って、この方法は、ユーザ自身が、検出用核酸Dの固定作業とハイブリダイゼーションの一連の作業を行う場合や検出用核酸Dが固定されたDNAチップ10を用いてハイブリダイゼーション作業を行う場合などに、特に有効な方法であると考えられる。
なお、上記説明で用いた図7には、電極E表面にハイブリダイゼーションした二本鎖核酸が存在し、電極EやE表面近傍には、余剰物質Bが引き寄せられている様子が模式的に示されている。
上記工程を経て、検出用核酸Dが反応領域Rの検出表面Uに固定化され、さらには余剰の検出用核酸Dが反応領域Rから除去された状態とされた基板1は、パッケージングされて、遺伝子情報が集積された「DNAチップ」としてユーザに向けて出荷される。以下、DNAチップは、符号10をもって示す。以上、電界印加を用いたプローブ固定について説明したが、プローブ固定は化学反応で起こるので、必ずしも電界印加は必要ない。
<3.DNAチップの製造システム/ハイブリダイゼーション検出システムについて>
以下、上記基板1から得られたDNAチップ10の製造システム、並びに本発明に係るDNAチップ10を用いたハイブリダイゼーション検出システムの好適な実施形態について説明する。図14は、同システムの好適な実施形態の一例を示すブロック図である。
なお、この図14に示されているシステム構成の中で、媒質を滴下又は注入するための手段やサーボ機構については、検出用核酸Dの固定システム(即ちDNAチップの製造システム)とハイブリダイゼーション検出システムの両方に使用できる構成であり、蛍光検出手段は、ハイブリダイゼーション検出に関する手段である。
なお、図14に示されたようなシステムを、DNAチップの製造システムのみに必要な装置構成部分とハイブリダイゼーション検出システムにのみに必要な装置構成部分に分離し、それぞれの目的に特化した別システムとして設計することは、自由に行なうことができる、なお、この点、図15の装置、図16のシステムでも同様である。
まず、図14に示された基板1(又はDNAチップ10)は、既述したような形態や構成を備えている。この基板1(又はDNAチップ10)を、回転手段を備えるディスク支持台8の上方に突設されたスピンドル(治具)9に固定する。このスピンドル9は、基板1(又は10)中心の孔2(図1参照)に位置決めされて挿着されている。
なお、基板の反応領域Rには、DNAチップ10の製造段階では検出用核酸Dを含む媒質Mが滴下又は注入され、ハイブリダイゼーション検出段階では、標的核酸Tを含む媒質Mが滴下又は注入される。
これらの媒質M,Mは、溶液状や粘度調製されたゲル状を成すのが一般的である。特に、溶液状の媒質の場合は、液ダレ等の種々の問題を避けるために、前記媒質Mが滴下又は注入される基板1は、水平に保持するのが望ましい。
図14に示されているシステム構成においては、ノズルヘッドNが基板1(又はDNAチップ10)の上面1a側(上方側)に複数配置されている。このノズルヘッドNは、所定の媒質M(例えば、M〜M)を、所定位置に配列された検出部3の反応領域Rに正確に追従しながら、所定のタイミングで滴下、あるいは注入できる構成とされている。
図14中の符号11は、「制御部」をブロック図的に簡略に示している。この制御部11は、基板1(又はDNAチップ10)に対する「フォーカス情報」と基板1から得られる「トラッキング情報」に基づいて、ノズルヘッドNの滴下又は注入の動作全体を制御している。
ここで、図14に符号Qで示されている励起光は、ハイブリダイゼーション検出段階で使用する情報読み取り用の光である。この励起光Pは、レーザーダイオード12から出射され、コリメータレンズLにて平行光とされた後、ダイクロイックミラー13で90°屈折される。
その後、励起光Qは、光の進行方向前方に配置されたミラー14で90°屈折された後、アクチュエータ15で支持された集光レンズLに入射し、基板1の裏面1b側から検出部3(の反応領域R)に照射される。なお、符号16は、制御部Zから送信されるレーザーダイオードドライバ17を制御するための信号である。
励起光Qは、前記集光レンズLによって基板1(又はDNAチップ10)の表面(裏面)で数μm程度の大きさまで絞り込まれる。この微小な励起光スポット径を活かすために、基板1(又はDNAチップ10)上に、検出用核酸を含む媒質M、標的核酸を含む媒質Mなどを滴下又は注入するノズルヘッドNとしては、ピコリットルオーダーの微少量溶液を滴下可能なインクジェットプリンティングノズルが好適である。
ノズルヘッドNの一例であるインクジェットプリンティングノズルの数は、使用する媒質の数や種類だけ用意してもよいし、1種類の媒質を滴下後、一旦ノズルを洗浄し、別種類の溶液を滴下することにより、少ないノズル数で多種の媒質を扱うようにしてもよい。
なお、このインクジェットプリンティングノズルを用いて、インターカレータI(図3参照)を含む媒質Mを、標的核酸を含む媒質Mと同時に滴下又は注入できるし、ハイブリダイゼーション後の所定タイミングで、反応領域Rに滴下又は注入することもできるし、所定の洗浄溶液を固定化工程後の所定タイミングで、反応領域Rに滴下又は注入することもできる。
基板1(又は10)上に媒質滴下又は注入する際には、サーボ用レーザー光V(後述)を用いて、基板1(又は10)上に予め記録されているアドレスマーク情報を読み取りながら、所望のアドレス(番地)に、媒質を滴下又は注入する。
DNAチップ10の場合では、反応領域R(の検出表面)に予め固定された検出用核酸Dとあとから滴下又は注入されてくる標的核酸Tとがハイブリダイゼーションを示し、相補的な二本鎖核酸を形成した後、あるいは、標的核酸Tの滴下又は注入と同時に、所定のノズルヘッドNを介して、前記二本鎖核酸に対して挿入結合可能なインターカレータIを含む媒質Mを、反応領域Rへ滴下又は注入することができる。なお、媒質等を工夫することによって、標的核酸Tの滴下又は注入する前の段階からインターカレータIを反応領域Rへ加えておくこともできる。
励起光Qが照射されると、符号Fで示される蛍光がインターカレータから発せられ、基板1の裏面102側に該蛍光Fが戻ってくる。この蛍光Fは、DNAチップ10の下方に配置された前記ミラー14で90°屈折された後、光進行方向に配置された前記ダイクロイックミラー13を透過して直進し、更に前方に配置されたダイクロイックミラー18で90°屈折される。
続いて、この蛍光Fは、上方のレンズLに入射して集光され、ディテクタ19に導かれる。このように、ダイクロイックミラー18は、蛍光Fを反射する性質を有するとともに、後述するサーボ用レーザー光Zに対して透光性を有する性質を備える。
ここで、蛍光強度は、一般の光ディスクRF信号等と比較して、非常に弱いことが予想される。従って、蛍光検出用のディテクタ19には、一般のフォトダイオードと比較して非常に感度の高いフォトマルチプライヤー(光電管)やアバランシェフォトダイオード(APD)を採用するのが好適である。
前記ディテクタ19で検出された蛍光Fは、AD変換機20によって所定ビット数のデジタル信号21に変換される。このデジタル信号21は、例えば、基板1上のアドレスと発せられた蛍光強度とを対応させたマップの作成等の解析に利用される。
次に、本発明に係るシステムや装置を構成する「サーボ機構」について、具体的に説明する。
まず、基板1(又はDNAチップ10)の下方に配置される上記集光レンズLは、上記アクチュエータ15によって、フォーカス方向(上下方向)及びトラッキング方向(周方向)に駆動される構成とされている。このアクチュエータ15としては、光ディスクのピックアップに使用されるものと同じタイプの、2軸ボイスコイル型のものが好適である。
上記したように、基板1(又はDNAチップ10)は水平に保持され、かつ前記集光レンズLは、基板1(又はDNAチップ10)から見て鉛直方向下方位置に設置されているので、励起光P並びにフォーカスサーボ及びトラッキングサーボに利用されるサーボ用レーザー光Zは、基板1(又はDNAチップ10)の裏面側1bから照射される。
基板1(又はDNAチップ10)の裏面1b側からサーボ用レーザー光Zを照射する構成を採用したことによって、サーボ用レーザー光Zは、基板1(又はDNAチップ10)の検出部3の媒質中に存在している検出用核酸Dや標的核酸Tの影響を全く受けずに、基板1(又はDNAチップ10)の裏面1bから反射されて戻ってくる。
このため、基板1(又はDNAチップ10)が回転しても、基板1(又はDNAチップ10)中の媒質により反射光の方向及び強度が乱されることはないので大変好適である。即ち、フォーカスエラー及びトラッキングエラーも外乱を受けることなく、サーボが安定して動作できるようになる。
具体的に説明すると、まず、図14中の符号22は、サーボ用レーザーダイオードを示しており、その後方には前記ダイオード22を制御するためのドライバ23が配置されている。サーボ用レーザーダイオード22の光出射方向には、コリメータレンズLが配置されている。
このコリメータレンズLによって、サーボ用レーザー光Zは、平行光に変換されて直進する。なお、コリメータレンズLの前方に配置されたダイクロイックミラー25は、サーボ用レーザー光Zに対して透光性を有する性質を備える。
ここで、フォーカスエラーの発生には、非点収差法、ナイフエッジ法、スキュー法等、幾つかの方法が考えられるが、図14の構成の場合、非点収差発生レンズLを用いた非点収差法採用している。
また、トラッキングエラーの発生には、ディファレンシャルプシュプル法と3スポット法が好適であると考えられる。両方法ともディスク上で3つの光スポットを得る必要がある。
従って、光ディスクピックアップで一般的であるように、図14中に示された回折格子24を、サーボ用レーザー光学系のコリメータレンズLとダイクロイックミラー25の間に挿設して、回折された0次及び±1次光を、集光レンズLを介して基板1(又は10)に照射する。
図14における符号26は、サーボ用レーザー反射光のディテクタを示している。なお、ドライバ23及びディテクタ26は、制御部11によって制御されている(図12参照)。
上記した励起光Qの波長、蛍光Fの波長、レーザー光Zの波長は、それぞれ異なっていてもよい。これらの光Q、F、Zの波長が異なるようにした構成を採用する場合には、基板1に設けられた反射層11(図2参照)が、蛍光Fの波長に対して所定程度の透光性(透過率)を有し、かつサーボ動作が可能なレーザー光反射率を備える物性が要求される。
つまり、反射率・透過率に波長依存性があってもかまわず、好ましくはローパスフィルタ的な周波数特性があればよい。単一の波長の場合では、蛍光Fの透過率とレーザー光Zの反射率の両方を向上させることは困難であるが、波長依存性を持たせることによって、蛍光Fの透過率及びレーザー光Zの反射率を向上させることができる。
<4.基板処理装置及びシステムについて>
次に、図15は、上記システムの構成要素を一体化した基板処理装置の好適な実施形態の一例を簡略に示す概念図である。この基板処理装置は、DNAチップの製造装置やハイブリダイゼーション検出装置、あるいはDNAチップの製造とハイブリダイゼーション検出の両方を担う装置として利用できる。なお、本発明に係る基板処理装置を構成する各手段の配置構成は、図15に示された実施形態に狭く限定されない。
まず、図15に示された符号100は、DNAチップ10の製造やハイブリダイゼーションの検出に必要な手段が全て一体化された装置を例示している。即ち、この装置100は、図14で示されている全ての手段が所定箇所に一体に配備されている。
加えて、基板1(又はDNAチップ10)を装置100内へ導入する手段と装置外へ取り出す手段の両方受け持つ手段101と、基板1(又はDNAチップ10)の収納部102と、検出用物質Dの固定やハイブリダイゼーション等のアッセイの温度環境を制御できる加熱手段や湿度条件を制御できる加湿手段として機能する環境設定手段103と、検出用核酸や該検出用核酸が固定された前記反応領域へ標的核酸を供給する供給手段Nと、ハイブリダイゼーションの状況を読取る読取り手段103と、を備える。
更には、反応領域Rへの電界印加手段や余剰の検出用核酸Dなどを洗浄除去するための手段(図示せず。)を備える。なお、基板導入手段と前記基板取り出し手段は、図15のように共通の手段101であってもよいが、分離された手段であってもよい。
本装置100では、上記の手段に加えて、細胞、組織等から抽出したmRNA等から標的核酸T(cDNA)を自動的に増幅作製し、供給手段N(ノズルヘッド)へ導入する手段を一体化することによって、ハイブリダイゼーション検出アッセイをより自動化するようにしてもよい。
また、本装置100では、供給手段Nと、加熱手段を含む環境設定手段103と、前記読取り手段と、前記基板の導入口と、前記基板の取り出し口と、を直列に配置するようにしてもよい。基板の搬送経路が直線的になるので、装置構成を簡略化できるからである。
この装置100は、基板1あるいはDNAチップ10を収納部102内部に入れて密閉し、環境設定手段104により温度や湿度を当該アッセイに適した範囲に設定した上で、検出用核酸Dの滴下又は注入、固定、標的核酸Tやインターカレータの滴下又は注入、電界印加、ハイブリダイゼーション、洗浄又は除去作業、検出(読み取り)などの作業を所定のタイミングで、自動的に実施できるようにした装置として機能する。
即ち、この装置100は、ハイブリダイゼーションの場を提供し得る反応領域をその表面に有する基板を処理するための方法を実施できる。
例えば、検出用核酸Dが固定された反応領域Rに対して標的核酸Tを供給する核酸供給工程(加湿を行ってもよい。)と、前記標的核酸Tが供給された前記基板(DNAチップ10)の温度を制御する温度制御工程と、前記反応領域Rにおけるハイブリダイゼーションの状態を読取るための読み取り工程(例えば、光学的な読み取り工程)を順次連続的に行う方法を実施できる。また、前記基板の反応領域Rに電界を印加する工程を実施し、ハイブリダイゼーション効率や検出精度を向上させることもできる。
核酸供給工程で加湿を行うことにより、媒質(例えば溶液)の乾燥を防止することができる。また、温度制御を行う工程では、至適温度条件を設定して、反応領域Rに固定された検出用核酸Dと標的核酸Tとの間のハイブリダイゼーションを行うことができる。
ここで、図16は、DNAチップの製造又は/及びハイブリダイゼーション検出の際に採用可能な基板処理システムの概念ブロック図である。
この図16に示された自動処理システム200は、固定作業やハイブリダイゼーション検出作業を大量に行う場合に特に好適なオートメーションシステムとして利用できる。なお、このオートメーションシステムの概念や構成を上記基板処理装置100に応用してもよい。
まず、システム200は、(未固定状態の)基板1や(固定済みの)DNAチップ10を、所定枚数ストック可能な第1ストッカー201を備える。この第1ストッカー201は、密閉可能な空間を備え、温度や湿度の条件を制御できる手段を備える。
また、第1ストッカー201は、ストックされた基板1やDNAチップ10を自動識別して、他のステージに向けて排出したり、他のステージから送られてきた基板1やDNAチップ10を識別して、指定の箇所に収容したりする機能を有する。
また、本システム200は、この第1ストッカー201との間で、双方向に基板1(又はDNAチップ10)の搬送が可能に構成され、ノズルヘッドN、媒質貯留部、媒質の滴下又は注入を制御する制御部等(図14参照)が配置されたスポッティング・ステージ202を備える。
また、電界印加のための通電手段や電界印加を制御する手段、そして、温度や湿度を制御する手段を有するハイブリダイゼーション・ステージ203を備える。
このハイブリダイゼーション・ステージ203は、前記第1ストッカー201や前記スポッティング・ステージ202との間で、双方向に基板1(又はDNAチップ10)の搬送が可能に構成されている。
なお、スポッティング・ステージ202は、複数箇所設けられていてもよく、この場合、各スポッティング・ステージ202において、それぞれ異なる検出用核酸Dが滴下又は注入されるようにする。
図16の符号204は、検出(読み取り)ステージを示している。この検出ステージ204には、検出用又はサーボ用の光学系手段(図14参照)、DNAチップ10の回転手段、サーボ機構などが設けられている。
この検出ステージ204は、ハイブリダイゼーションが完了したDNAチップ10の各検出部3におけるハイブリダイゼーションの状態を検出する場所であり、図示しない解析部や表示部と連結されている。この検出ステージ204は、ハイブリダイゼーション・ステージ203、あるいは第1ストッカー201との間で、双方向にDNAチップ10の受け渡しが可能に構成されている。
符号205は、第2ストッカーであり、検出ステージ204で検出作業を終えたDNAチップ10を回収し、ストックする場所である。なお、この第2ストッカー205は、スポッティング・ステージ202やハイブリダイゼーション・ステージ203からの基板1やDNAチップ10を受け取り、回収できるようにしてもよい。
以上説明したようなシステム200を有効に利用すれば、必要なときに、所望するアッセイ作業を迅速に、かつ大量に実施することができる。
<5.ハイブリダイゼーション検出方法について>
次に、本発明に係る「ハイブリダイゼーション検出方法」を、図14に加えて、図17、図18を主に参照して、具体的に説明する。なお、図17は、ハイブリダイゼーション検出方法の工程フローの一例を示す図、図18は、同方法の他の工程フローを示す図である。
まず、検出用核酸Dが既に整列固定化されているDNAチップ10を、水平にディスク支持台8(図14参照)に固定する。そして、フォーカスサーボ及びトラッキングサーボを動作させながらDNAチップ10を回転させ、アドレス情報を検出しながら、選択された検出部3に標的核酸を含有する媒質Mを、ノズルヘッドNを介して滴下又は注入する(図17の符号Pで示す工程)。
次に、前記反応領域Rに貯留又は保持された媒質に、対向電極(例えば、E-E、図4参照)介して、「電界印加」を行うことで得られる誘電泳動によって、固定化されている検出用核酸(D)の伸長と、反応領域R中に遊離状態で存在している標的核酸(T)の伸長及び検出表面Uへの移動と、を少なくとも行う(図17の符号Pで示す工程)。
続いて、電界オフの状態を形成するか、あるいは電界印加の状態を継続するかして、検出用物質Dと標的物質Tとの間のハイブリダイゼーションを、自然なブラウン運動の支配下で進行させる(図17の符号P8で示す工程)。
本発明では、前記電界印加によって、立体障害などの問題が解消できるので、ハイブリダイゼーション反応を極めて短時間で完了させることができる。なお、上記説明では、工程PとPをそれぞれ分離して行ったが、同時に行ってもよい。
なお、本方法では、検出部3単位に、反応温度条件を選択できる加温手段並びに検出部3の媒質の温度を検出する温度検出手段と、を備えるように工夫し、前記検出用核酸Dと標的核酸Tと間の至適反応条件に基づいて、前記加温手段を制御して作動させることによって、前記検出部3単位に至適温度条件を設定し、前記検出用物質Dと標的物質Tとの間のハイブリダイゼーションを進行させるように工夫してもよい。
次に、反応領域Rに対して、ノズルヘッドNを介して、蛍光標識されたインターカレータIを滴下又は注入して、このインターカレータIを前記ハイブリダイゼーションにより得られた二本鎖核酸に挿入結合させる(図17の符号P9で示す工程)。また、この工程P9は、前記工程PとPと同時に行ってもよいことは言うまでもない。さらに、後述する図18に示す場合も同様である。
その後に、前記反応領域Rに貯留又は保持されている媒質に対して、再び「電界印加」を行うことで得られる誘電泳動によって、ミスハイブリダイゼーションを示した物質や余剰物質B(例えば、余剰の標的核酸や余剰のインターカレータ、図7参照)を、ハイブリダイゼーション領域(検出表面領域)から除去するようにしてもよい(図17の符号P10で示す工程)。
前記工程Pあるいは前記工程P10に続いて、所定波長の励起光Pを反応領域Rに照射して得られる蛍光強度を、上記したシステムの光ピックアップ手段(図14参照)を用いて検出する。
即ち、インターカレータから発せられた蛍光Fの強度を検出し、検出用核酸物質と標的核酸とのハイブリダイゼーションの状況を判断する。ディテクタ出力はAD変換機20によって特定ビット数のデジタル信号21に変換される(図12参照)。
これにより、DNAチップ10上のアドレスと蛍光強度を対応させたマップを作成することができる。そして、このマップと各反応領域Rに対してどのような塩基は配列の検出用核酸が固定化されていたかを示す配置マップに基づき、標的核酸の解析を行なう(図17の符号P11で示す工程)。
なお、図18には、標的核酸Tを滴下又は注入する工程Pと、インターカレータを滴下又は注入する工程P9を同時に行うように工夫した変形例である工程が示されている。この工程では、工程Pと工程P9を併合することで、一工程省略できる結果、作業効率の面では有利となる。
<6.電界印加の方法について>
以下、本発明に係る方法で採用可能な「電界印加」の方法を、具体例を挙げて説明する。
以下に説明する「電界印加」は、基板1からDNAチップ10を製造する際の検出用核酸の固定化工程、あるいはDNAチップ10を用いたハイブリダイゼーション検出の際のハイブリダイゼーション工程及びその前後の工程で、それぞれの電界印加例の作用効果に応じて、適宜採用可能である。
なお、電界強度、周波数、印加時間は限定されるものではなく、核酸の種類、長さ等により、適正な電界強度、周波数、印加時間を選ぶことが望ましい。波形についても、サイン波に限定するものではなく、例えば、三角波等でもよい。
まず、図19は、符号Wで示す高周波電界を印加した直後に、符号Wで示す低周波電界を印加した場合の電界印加例を示している。続く、図20は、図19における低周波電界W印加部分を、符号Wで示す低周波の矩形交流電界とした電界印加例を示している。
次に、図21は、図19の変形例で、高周波電界Wを印加した後に電界を0とし(図中のW部分参照)、電極周辺に誘電泳動効果で集まった標的核酸のブラウン運動による自然なハイブリダイゼーションを起こさせる時間を設けた後に、低周波電界Wを印加した方法例である。
なお、図20の電界印加例においても、低周波の交流電界Wを印加する前に、同様の電界0の時間Xを設けてもよい。
図22は、高周波電界Wを印加した後に、符号Wで示す直流(DC)電界を印加し、電気泳動により標的核酸を電極に引き寄せる効果を相乗させるように工夫し、その後に低周波電界Wを印加した電界印加例を示している。
図23は、高周波電界Wを印加する前に、直流電界Wを印加しておいて、予め電気泳動により標的核酸を電極に引き寄せておき、それに続いて、高周波電界Wを印加したあとに、低周波電界Wを印加した電界印加例を示している。
図24は、直流成分も同時に印加するようにした高周波電界Wを印加しておくことで、電気泳動により標的核酸を電極に引き寄せる効果を相乗させるようにし、その後に低周波電界Wを印加した電界印加例を示している。
図25は、高周波電界Wを印加した後に、直流成分も同時に印加された低周波電界Wを印加するようにして、電気泳動により、余剰な相補的ではない標的核酸やミスハイブリを起こした核酸、立体障害が原因でハイブリが完全にできなかった相補的な標的核酸を電極近傍から引き離す効果を相乗させるようにした電界印加例を示している。
図26は、直流成分を同時に印加した高周波電界Wによって、電気泳動により標的核酸を電極に引き寄せる効果を相乗させ、その後に、直流成分を同時に印加した低周波電界Wを印加しておくことによって、電気泳動により余剰な相補的ではない核酸やミスハイブリを起こした標的核酸、立体障害が原因でハイブリが完全に出来なかった相補的な標的核酸を電極近傍から引き離す効果を相乗させた電界印加例を示している。
なお、図示はしないが、図19〜図26において、低周波電界W部分を低周波の交流電界Wとしてもよい。さらには、低周波電界Wあるいは低周波の交流電界Wを印加する前に、電界を0の時間Wを設け、電極周辺に誘電泳動効果で集まった標的核酸のブラウン運動による自然なハイブリダイゼーションを起こさせる時間を設けてもよい。
本発明は、基板に設けられた微少な反応領域内でのハイブリダイゼーションを効率よく進行させることができるので、該ハイブリダイゼーションの時間を大幅に短縮することができる。また、正確なハイブリダイゼーションが進行し易い条件や環境を提供できるので、擬陽性や偽陰性の発生を少なく抑え、検出精度を飛躍的に向上させることができる。
本発明は、ハイブリダイゼーション検出に係わる作業を短時間で効率よく実施でき、かつ検出精度の高いハイブリダイゼーション検出を実施できる装置、システム、並びに方法として利用することができる。
本発明で採用できる円盤状基板(1)の好適な実施形態の一例を示す外観図である。 同基板(1)の基本的な層構造を示す部分断面図である。 検出部(3)の反応領域(R)内に形成される検出表面(U)部分の拡大図である。 一組の対向電極の一配置例を示す検出部(3)の断面図である。 一組の対向電極の他の配置例を示す検出部(3)の断面図である。 一組の対向電極のさらに別の配置例を示す検出部(3)の断面図である。 対向軸が直交する二組の対向電極の一配置例を示す検出部(3)の断面図である。 検出部(3)内に走査電極(C)群が操作の電極配置構成が簡略に示されている図である。 パターニング形成された検出表面(U)の構成を示す図である。 突起状の電極が配置された検出部(3)の実施形態を示す図である。 対向電極に対する給電用配線(7)の実施形態の一例を示す図である。 DNAチップ(10)の製造方法の一工程例のフローが示された図である。 同製造方法の他の工程例のフローが示された図である。 本発明に係るシステムの実施形態例を示すブロック図である。 同システムの構成要素を一体化した基板処理装置の好適な実施形態の一例を簡略に示す概念図である。 DNAチップの製造又は/及びハイブリダイゼーション検出を行う際に採用可能な基板処理システムの概念図である。 ハイブリダイゼーション検出方法の工程フローの一例を示す図である。 同方法の他の工程フローを示す図である。 高周波電界(W)を印加した直後に、低周波電界(W)印加した場合の電界印加例を示す波形図である。 図19における低周波電界(W)印加部分を、低周波の矩形交流電界(W)とした電界印加例を示す波形図である。 高周波電界(W)印加した後に電界を0とした電界印加例を示す波形図である。 高周波電界(W)印加した後に、直流(DC)電界(W)を印加した電界印加例を示す波形図である。 高周波電界(W)印加する前に、直流電界(W)印加した電界印加例の波形図を示している。 直流成分も同時に印加するようにした高周波電界(W)印加した電界印加例を示す波形図である。 高周波電界(W)印加した後に、直流成分も同時に印加された低周波電界Wを印加するようにした電界印加例を示す波形図である。 直流成分を同時に印加した高周波電界(W)を印加した後に、直流成分を同時に印加した低周波電界Wを印加した電界印加例を示す波形図である。
符号の説明
1 円盤状基板(特に、検出用核酸が固定化されていない基板)
3 検出部
7 給電用配線
9 スピンドル(治具)
10 DNAチップ(検出用核酸が固定化された基板)
102 DNAチップの裏面
B 余剰物質
D 検出用核酸(例、DNAプローブ)
−E,E−E 対向電極
F 蛍光
I インターカレータ
M 溶液やゲルなどの媒質
N ノズルヘッド
P 励起光
R 反応領域
T 標的核酸
U (反応領域内の)検出表面
V サーボ用レーザー光
Z 制御部

Claims (49)

  1. ハイブリダイゼーションの場となる反応領域と、該反応領域に貯留又保持される媒質に電界印加可能に配置される対向電極と、を少なくとも備える検出部が配設されてなる基板を用いて、
    前記基板の表面処理を行う工程と、
    前記反応領域に貯留又は保持され、予め調整された検出用核酸を含む媒質に対して、前記対向電極を介して電界印加を行うことによって、前記電極表面に固定する工程と、
    余剰の前記検出用核酸を前記反応領域から除去する工程と、
    を少なくとも行うことを特徴とするDNAチップの製造方法。
  2. 前記(1)の工程は、前記基板の親媒性加工を行う工程である請求項1記載のDNAチップの製造方法。
  3. 前記媒質は、前記反応領域に対して滴下又は注入することにより、該反応領域に貯留又は保持されることを特徴とする請求項1記載のDNAチップの製造方法。
  4. 前記基板は、円盤状基板であることを特徴とする請求項3記載のDNAチップの製造方法。
  5. 前記円盤状基板を回転させながら前記媒質の滴下又は注入を行なうことを特徴とする請求項4記載のDNAチップの製造方法。
  6. 前記(2)の工程は、電界印加による誘電泳動に基づいて前記検出用核酸を移動させる工程を含むことを特徴とする請求項1記載のDNAチップの製造方法。
  7. 前記電界印加は、高周波電界であることを特徴とする請求項1記載のDNAチップの製造方法。
  8. 前記高周波電界は、1MV/m以上及び1MHz以上であることを特徴とする請求項7記載のDNAチップの製造方法。
  9. ハイブリダイゼーションの場となる反応領域と、該反応領域に貯留又保持される媒質に電界印加可能に配置される対向電極と、を少なくとも備える検出部が配設されてなる基板を用いて、
    予め調整された検出用核酸を含む媒質を前記反応領域に滴下又は注入する手段と、
    前記反応領域に貯留又は保持された前記媒質に対して、前記対向電極を介して電界印加を行う手段と、
    を少なくとも備えることを特徴とするDNAチップの製造システム。
  10. 前記媒質を前記反応領域に滴下又は注入し、該反応領域に前記媒質を貯留または保持するためのスポッティング手段を備えることを特徴とする請求項9記載のDNAチップの製造システム。
  11. 前記反応領域に存在する余剰の前記検出用核酸を前記反応領域から除去する手段を備えることを特徴とする請求項9記載のDNAチップの製造システム。
  12. 前記電界印加手段は、高周波電界印加手段であることを特徴とする請求項9記載のDNAチップの製造システム。
  13. 前記基板を回転させる手段を備えることを特徴とする請求項9記載のDNAチップの製造システム。
  14. 前記滴下又は注入する手段は、前記基板の回転に同期して前記反応領域に媒質を供給する請求項13記載のDNAチップの製造システム。
  15. ハイブリダイゼーションの場となる反応領域と、該反応領域に貯留又保持される媒質に電界印加可能に配置される対向電極と、前記反応領域中に固定された検出用核酸と、を少なくとも備える検出部が配設されてなる基板を用いて、
    (1)予め調整された標的核酸を含む媒質を前記反応領域に滴下又は注入する工程と、
    (2)前記反応領域に貯留又は保持された前記媒質に前記対向電極を介して電界印加を行う工程と、
    (3)前記検出用核酸と前記標的核酸との間のハイブリダイゼーションを進行させる工程と、
    (4)前記反応領域にインターカレータを滴下又は注入する工程と、
    (5)所定波長の励起光を前記反応領域に照射して得られる蛍光強度を検出する工程と、
    を少なくとも行うことを特徴とするハイブリダイゼーション検出方法。
  16. 前記(1)工程と(4)工程を、同時に行うことを特徴とする請求項15記載のハイブリダイゼーション検出方法。
  17. 前記(3)の工程を電界印加の状態で行うことを特徴とする請求項15記載のハイブリダイゼーション検出方法。
  18. 前記(3)の工程を電界オフの状態で行うことを特徴とする請求項15記載のハイブリダイゼーション検出方法。
  19. 少なくとも前記(5)の工程を行う前に、前記反応領域中に存在する余剰の標的核酸を、ハイブリダイゼーション領域から除去する工程を行うことを特徴とする請求項15記載のハイブリダイゼーション検出方法。
  20. 電界印加によって、ハイブリダイゼーション領域外の電極表面に余剰の標的核酸を引き寄せることを特徴とする請求項19記載のハイブリダイゼーション検出方法。
  21. 前記基板は、前記励起光を透過する層を備えることを特徴とする請求項15記載のハイブリダイゼーション検出方法。
  22. 前記励起光を基板の裏面側から照射することを特徴とする請求項21記載のハイブリダイゼーション検出方法。
  23. 前記(2)の工程の電界印加は、前記基板を一括又はブロック領域毎に行うことを特徴とする請求項15記載のハイブリダイゼーション検出方法。
  24. 前記基板を回転させながら、前記(1)工程又は/及び(4)工程を行うことを特徴とする請求項23記載のハイブリダイゼーション検出方法。
  25. 前記(5)工程において、前記基板を回転させることを特徴とする請求項23記載のハイブリダイゼーション検出方法。
  26. ハイブリダイゼーションの場となる反応領域と、該反応領域に貯留又保持される媒質に電界印加可能に配置される対向電極と、前記反応領域中に固定化された検出用核酸と、を少なくとも備える検出部が配設されてなる基板を用いて、
    (1)予め調整された標的核酸を含む媒質を前記反応領域に滴下又は注入する手段と、
    (2)前記反応領域に貯留又は保持された前記媒質に前記対向電極を介して電界印加を行う手段と、
    (3)前記検出用物質と前記標的物質との間のハイブリダイゼーションを進行させる手段と、
    (4)前記反応領域にインターカレータを滴下又は注入する手段と、
    (5)所定波長の励起光を前記反応領域に照射して得られる蛍光強度を検出する手段と、
    を少なくとも備えることを特徴とするハイブリダイゼーション検出システム。
  27. 前記基板は、前記励起光を透過する層を備えることを特徴とする請求項26記載のハイブリダイゼーション検出システム。
  28. 前記励起光の光源は、基板の裏面側に配置されたことを特徴とする請求項26記載のハイブリダイゼーション検出システム。
  29. 前記ハイブリダイゼーションの温度制御手段又は/及び湿度制御手段を備えることを特徴とする請求項26記載のハイブリダイゼーション検出システム。
  30. 前記反応領域に水分を補給する手段を備えることを特徴とする請求項26記載のハイブリダイゼーション検出システム。
  31. 前記円盤状基板の回転手段を有することを特徴とする請求項26記載のハイブリダイゼーション検出システム。
  32. 前記基板の前記検出部の位置決め用サーボ手段及びフォーカスサーボ手段を有することを特徴とする請求項26記載のハイブリダイゼーション検出システム。
  33. ハイブリダイゼーションの場を提供し得る反応領域をその表面に有する基板を処理するための装置であって、
    (1)検出用核酸が固定された前記反応領域へ標的核酸を供給する供給手段と、
    (2)前記標的核酸が供給された前記基板の温度制御を行うための加熱手段と、
    (3)前記基板のハイブリダイゼーションの状況を読取る読取り手段と、
    (4)前記基板を搬送する搬送手段と、
    を有する基板処理装置。
  34. 前記基板に電界を印加する手段を備えることを特徴とする請求項33記載の基板処理装置。
  35. 前記読取り手段は光学的読取り手段であることを特徴とする請求項33記載の基板処理装置。
  36. 前記基板が、前記搬送手段によって、前記供給手段と前記加熱手段と前記読取り手段の間を連続的に搬送されることを特徴とする請求項33記載の基板処理装置。
  37. 前記供給手段と前記加熱手段と前記読取り手段が直列に配置されていることを特徴とする請求項33記載の基板処理装置。
  38. 前記供給手段は加湿手段を備えることを特徴とする請求項33記載の基板処理装置。
  39. 前記供給手段に向けて前記基板を導入するための基板導入手段と、
    前記読取り手段から前記基板を取り出すための基板取り出し手段と、
    を備えることを特徴とする請求項33記載の基板処理装置。
  40. 前記基板導入手段と前記基板取り出し手段は、共通の手段であることを特徴とする請求項39記載の基板処理装置。
  41. 前記供給手段と、前記加熱手段と、前記読取り手段と、前記基板の導入口と、前記基板の取り出し口と、が直列に配置されていることを特徴とする請求項39記載の基板処理装置。
  42. 検出用核酸が固定された前記反応領域に対して溶媒を供給する第二の供給手段を備えることを特徴とする請求項33記載の基板処理装置。
  43. 血液から核酸を抽出する抽出手段を備えることを特徴とする請求項33記載の基板処理装置。
  44. ハイブリダイゼーションの場を提供し得る反応領域をその表面に有する基板を処理するための方法であって、
    検出用核酸が固定された前記反応領域に対して標的核酸を供給する核酸供給工程と、
    前記標的核酸が供給された前記基板の温度を制御する温度制御工程と、
    前記反応領域におけるハイブリダイゼーションの状態を読取るための読み取り工程と、を有し、上記各工程が順次連続的に行われる基板処理方法。
  45. 前記基板に電界を印加する工程を行うことを特徴とする請求項44記載の基板処理方法。
  46. 前記温度制御を行う工程において、前記検出用核酸と前記標的核酸との間のハイブリダイゼーションを行うことを特徴とする請求項44記載の基板処理方法。
  47. 前記読取り工程は、光学的読取り工程であることを特徴とする請求項44記載の基板処理方法。
  48. 前記核酸供給工程と前記温度制御工程と前記読取り工程の各工程間で、前記基板が搬送されることを特徴とする請求項44記載の基板処理方法。
  49. 前記核酸供給工程の段階で加湿を行うことを特徴とする請求項44記載の基板処理方法。
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