以下、本発明の好適な実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる物や方法の代表的な実施形態を例示したものであり、この例示によって本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
まず、図1は、本発明に係るバイオアッセイ基板の基本構成を示す図である。
基板1は、物質間の相互作用を検出するバイオアッセイ用に設計された基板であって、反応領域Rが配設される基板11と、これに貼り合わせる等して重ね合わされる基板(以下、「蓋基板」という。)12と、から構成されている。
本実施形態に係る基板11、12は、いずれも円盤状に形成されており、基本的には、CD(Compact Disc)、DVD(Degital Versatile Disc)、MD(Mini Disc)等の光情報記録媒体に用いられる円盤状基板(ディスク)と同様の基材から形成することができる。なお、本発明に係る基板は、円盤状をなす基板に限定されない。
基板11、12のそれぞれの中心部分に形成された孔H11,H12には、基板1を保持等するための所定のチャッキング治具や通電部材を挿着できる構成となっている。
図2は、基板11,12を重ね合わせた状態で、図1中の矢印B-B方向の断面図である。この図2に示されているように、基板11は、最下層位置に配置される下層基板111と、その上に配置される透明電極層112と、さらにその上に配置された絶縁層113と、反応領域Rが形成される反応領域形成層114と、が下から順に積層された層構成(計4層)を有する。
下層基板111は、例えば、蛍光検出時などに使用するレーザ光(蛍光励起光、位置検出用サーボ光など)や反応領域Rで発生する蛍光を透過する性質を備えた材料(例えば、合成樹脂やガラス)から形成されている。下層基板111を光透過性にし、さらに反応領域Rに至るまでの層(112,113)を光透過性にすることで、基板11の裏面からの光照射手段を採用できる。
透明電極層112は、相互作用検出のためのバイオアッセイの過程において、何らかの電気力学的な作用を用いる場合に利用される層である。例えば、インジウム−スズ−オキサイド(ITO)などの光透過性の導体材料から形成することができる。この透明電極層112は、例えば、下層基板11上に、スパッタリング技術などを用いて、所定の膜厚(例えば、200nm)に形成されている。なお、図2中の符号Vは電源、符号Sはスイッチを示しており、該スイッチのオン/オフ操作によって、透明電極層112(及び基板12)に電圧を印加することができる。
絶縁層113は、SiO2、SiC、SiN、SiOC、SiOF、TiO2などから形成されている薄膜層であって、反応領域中に貯留される場合があるイオン溶液による電気化学的な反応を防止する。
反応領域形成層114は、基板11において、上方に開口する凹状の反応領域Rが多数配設されている層である。この反応領域形成層114は、例えば、感光性ポリイミドのフォトリソグラフィープロセスによって形成できる。特に、レーザ露光装置を用い、露光強度を直接変調する手法を用いることによって、後述する反応領域Rの構造を実現することができる。
なお、特に図示はしないが、基板1には、基板の位置情報(番地情報)として機能するアドレスピット、あるいはバーコードなどが形成されている。例えば、反応領域形成層114において、回転方向の基準位置を示すアドレスピットを反応領域Rと同様のプロセスによって形成することができる。このアドレスピットを所定のサーボ光を用いて追従することによって基板位置情報を得ることができる。この基板位置情報を手がかりとして、正確に目的の反応領域Rを特定することができる。
図3は、基板11に多数配設されている反応領域Rの一つを拡大する斜視図、図4は、一つの反応領域R周辺の拡大縦断面図である。
この反応領域Rは、まず、図1に示すように、基板11の中心から、基板全体を上方視したときに、基板中心から外周側へ向けて、所定間隔をおいて複数設けられ、さらに、基板周方向に向けて、所定間隔をおいて配列され、全体視、放射状列を呈する形態を有する。
本願発明者が実際に作成した基板11の一実施形態例では、基板中心から半径25mmから35mmまでの間に、0.2mm間隔で計50個の反応領域Rを、放射状列をなすように形成し、そして、この放射状列を半径方向に0.2mmピッチで、785個配列した。従って、本例では、基板上に計38250個(50個×785列)の反応領域Rが形成されていることになる。
ここで、反応領域Rは、上方視円形で、所定の深さを有し、いわゆるウエル状の形態を備える。この反応領域R内の中央には、物質間の相互作用を検出するプローブ物質が固定される検出表面Raと、該検出表面Raの周辺に形成され、該検出表面Raの上面よりも低い位置に底面部を備える凹部領域Rbと、を備える。
なお、上記した感光性ポリイミドのフォトリソグラフィープロセスによって、この反応領域Rを、例えば、φ400μm、深さ10μmの形状に形成し、検出表面Raの直径をφ200μm,高さ5μmに設計する。
検出表面Raは、プローブ物質(図4中に符号Xで示す。)、例えば、プローブDNA(例えば、オリゴヌクレオチド鎖)などの核酸分子の一端を固定化するために適する材料で形成されている。例えば、シランにより表面修飾が可能なSiO2が、スパッタリング技術によって所定の膜圧(例えば、200nm)に形成されている。
この検出表面Raの表層に、アミノ基、チオール基、カルボキシル基等の官能基(活性基)を有する物質やシステアミン、ストレプトアビジン等をコートしてもよい。例えば、ストレプトアビジンによって表面処理されている場合には、ビオチン化されたプローブDNAなどのプローブ物質末端の固定化に適している。あるいは、チオール(SH)基によって表面処理されている場合には、チオール基が末端に修飾されたプローブ物質をジスルフィド結合(−S−S−結合)により固定することに適している。
基板12は、主に、反応領域R内に貯留又は保持される媒質の乾燥を防止するための蓋部材として機能する。例えば、図2や図4に示すように、基板11に重ね合せられた時には、基板12が反応領域Rを閉塞し、反応領域Rと外気が連通しないように密着する構成とされる。この基板12は、反射性を備え、さらには導電性を有する材料によって形成することができる。
ここで、図5と図6を比較参照することにより、反応領域Rに供給された媒質(例えば、塩溶液などの溶媒)の基板12装着時における挙動について説明する。なお、図5、図6に示されている(I)は基板11に媒質が滴下供給された状態、(II)は基板11に基板12が装着される寸前の状態、(III)は基板11と基板12が重ね合わされた状態を、それぞれ断面状態で順番に示している。
図5は、理想的な媒質の挙動を示す。まず、隣接する反応領域R1とR2にことなるプローブ物質が含有されている媒質M1とM2をそれぞれ所定容量、所定位置に正確に滴下供給されている(図5(I)参照)。次に、基板12が待機する位置に基板11を搬送し、基板11装着作業を開始する(図5(II)参照)。続いて、基板12を基板11に装着し、反応領域R1とR2を閉塞する(図5(III)参照)。
この場合、反応領域R1とR2に滴下供給されている媒質M1とM2は、それぞれ反応領域R1とR2に充満した状態で収まっており、外側に流出したり、媒質M1とM2が混合したり、などのクロスコンタミネーションが全くない状態となっている。
一方、図6に示したような場合では、反応領域R1に対しては、過剰容量の媒質M1が滴下供給されており、反応領域R2に対しては、適量ではあるが、反応領域R2に中心からずれた位置に媒質M2が滴下供給されている(図6(I)参照)。
このような状態では、基板12を装着する段階(図6(II)参照)から、基板12の下面を伝わって、媒質M1や媒質M2が外部へ流出し、クロスコンタミネーションが発生した状態となっている。例えば、図6(III)の反応領域R2の状態の如きに、異なる媒質M1や媒質M2が混在(混合)した状態も起こり得る。このような状態は、目的のバイオアッセイ過程では避けなければならない。
図7は、本発明に係るバイオアッセイ用基板1を用いた場合の媒質の典型的な挙動を説明するための図である。なお、図7に示されている(I)は基板11に媒質が滴下供給された状態、(II)は基板11に基板12が装着される寸前の状態、(III)は基板11と基板12が重ね合わされた状態を、それぞれ断面状態で順番に示している。基板11の各反応領域R1とR2は、上記した構造に設計されている。
図7向かって左側の反応領域R1には、過剰量の媒質M1が該反応領域R1滴の中央に正確に位置決めされて敵下供給されており、図7向かって右側の反応領域R2には、適量の媒質M2が反応領域R2の中心からずれた位置に滴下供給されている。
反応領域R1の場合では、検出表面Raを取り囲むように形成された凹部領域Rb部分が過剰容量分を収容するという機能を発揮するので、基板12を装着する際において、過剰量の媒質M1がクロスコンタミネーションすることはない。
また、反応領域R2の場合では、図9、図10を用いて後述する毛管力原理によって、位置ずれした媒質M2を検出表面Ra上に引き寄せるので、的確な位置に供給した場合と同様の媒質保持状態を実現することができる。もちろん、媒質M2のクロスコンタミネーションもない。
図8には、隣接する反応領域R1とR2へ、それぞれ異なる媒質M1、M2が滴下供給され、基板12で閉塞されている様子が示されている。また、滴下供給されたそれぞれの媒質M1、M2は、それぞれ適量供給されているが、反応領域R1,R2の中心からずれた位置に滴下供給されている。
当初状態の媒質M1、M2は、本発明特有の反応領域内構造によって、検出表面Ra側へ毛管力によって移動し(図7中の矢印参照)、最終的には、検出表面Ra位置に保持される。なお、図7では、検出表面Ra位置に保持された状態の媒質を符号Maで示す。
以上のように、図3、図4などに示されている構造の反応領域Rを採用すれば、媒質Mの滴下供給量、滴下位置、反応領域Rの表面処理の均一性、基板12の装着などにおいて要求される精度を緩和することができ、かつ検出表面Raに確実に媒質Mを保持させることが可能となる。
図9、図10は、メニスカス曲率半径と液内圧の関係を説明するために用いる図である。
メニスカス曲率半径rは、次の数式(数1)に示すように、固液の接触角(cosθ1,cosθ2)とギャップgによって決まる(図8参照)。
また、一次元モデルで説明すれば、メニスカス曲率半径rに反比例し、外圧PAirと内圧PLiqの圧力差ΔP(PAir−PLiq)は、メニスカス曲率半径rに反比例して大きくなる。図9のように、メニスカス曲率半径r1が他方のr2より大きい場合(r1>r2)は、凹部領域Rbにおける媒質のメニスカス面Q1の圧力p1は、検出表面Raにおけるメニスカス面Q2の圧力p2よりも多くなるので(p1>p2)、圧力差が生じる。この圧力差が媒質Mの駆動力となる。この場合、図9に示した矢印の方向(即ち、検出表面Ra方向)へ媒質Mが移動する(改めて図7参照)。
続いて、図10から図25に基づいて、本発明に係るバイオアッセイ基板1(11、12)を用いたバイオアッセイプロセスの一例を、該プロセスを実現するために最適な装置の構成とともに、説明する。
図10等において符号2で示された「バイオアッセイ装置」は、大別すると、反応領域Rへ媒質を供給する供給用モジュール2aと、固定化反応や相互作用を進行させる反応用モジュール2bと、反応領域R内の励起蛍光を測定する蛍光測定用モジュール2cと、によって構成されている。なお、該装置2は、コンピュータCによって、各動作を制御するドライバ(後述)や電界印加などが制御されている。
図11は、下側の基板11が供給用モジュール2a位置で処理を受けている状態を示しており、図12は、基板1が反応用モジュール2b位置で処理を受けている状態を示しており、図13は、基板1が蛍光測定用モジュール2c位置で処理を受けている状態を、それぞれ示している。
このように、基板(1又は11)は、各モジュール2a,2b,2c間をスライド移動し、かつ目的の処理や反応を実行するために、各モジュール2a,2b,2cの所定位置に停止するように構成されている。
既述した反応領域構造を少なくとも備える基板11は、図11等に示されたチャッキング機構201を介して、ターンテーブル202に固定されている。該ターンテーブル202は、スピンドルモータ203とロータリーエンコーダ204に連結されている。スピンドルモータ203は、送りねじ205に締結されており、ドライバ206aで制御されるスピンドル走査モータ206によって、供給用モジュール2a、反応用モジュール2b、蛍光測定用モジュール2cの各モジュールへ、基板1を搬送することができる。
ここで、図15にも示されているように、供給用モジュール2aには、基板11上の領域に、一つの放射状列に属する反応領域Rと同数の50個のインクジェットノズルが脱着可能な機構で配置されている第1インラインヘッド207が設けられている。この第1インラインヘッド207は、反応領域Rに対する媒質供給手段として機能する。
また、この第1インラインヘッド207は、プローブ物質を含む媒質が充填された供給用のインクジェットノズル(図示せず。)とターゲット物質を含む媒質が充填された供給用のインクジェットノズル(図示せず。)を、適宜交換することによって、所望の物質を含む媒質を反応領域Rへ供給できる構成となっている。
供給用モジュール2aには、プローブ物質等を含む媒質供給用の上記第1インラインヘッド207とは別に、基板11上の反応領域Rへ水分を供給するために専用に設けられた第2インラインヘッド208が、必要数設けられている。この第2インラインヘッド208は、反応領域Rに対する水分補給手段として機能する。
この第2インラインヘッド208は、基板11上の一つの放射状列をなす反応領域R群と同数である計50個のインクジェットノズルが配列されている。なお、インラインヘッド207,208は、いずれもインクジェットドライバ209に連結され、制御されている。
次に、反応用モジュール2bは、乾燥防止などの役割を果たす導電性の基板12を、反応領域Rが配設されている基板11へ重ね合わせて装着する機構を備えている。この装着機構は、主に、基板12の脱着を制御するアクチュエータードライバ210aと、該ドライバ210aで制御されるアクチュエータ210bと、基板12の位置を検出する位置センサ211などから構成されている。
また、この反応用モジュール2bは、高周波電源などの電源212を介して、導電性の基板12へ高周波交流電界などの電界を印加するためのコンタクト電極213、基板1を加熱するためのヒータ214などを備える。なお、符号215は、該ヒータ214に設けられている温度センサであり、符号216は、温度センサ215からの検出信号を受けてヒータ214の温度を制御するヒータドライバである。
ここで、基板11や基板12、あるいはヒータ214は、いずれも恒湿度チャンバ217内に保持可能とされている。この恒湿度チャンバ217は、その一部に開口部217aを有する。この開口部217aは、ドライバ218によって制御されているアクチュエータ219を介して、シャッター220の上下動によって開閉される。符号221は、シャッター220の位置を検出するための位置センサである。なお、恒湿度チャンバ217は、基板1(あるいは基板11)が搬送される際に、通過するとき以外は、閉じられている(例えば、図11参照)。
次に、蛍光測定用モジュール2cは、主に、測定制御系225により制御されている光学系ユニットUから構成されている。図11から図13中の光学系ユニットUを拡大して示した図13に示されているように、基板11の反応領域R内に存在する蛍光物質(例えば、ターゲット物質に標識された蛍光色素や蛍光性のインターカレータ)の蛍光励起を行うための蛍光励起用光学系P1(蛍光励起レーザLD1,コリメータレンズL1,対物レンズL3)を備える。
また、励起された蛍光を測定するための蛍光測定用光学系P2(対物レンズL3,波長選択フィルタF、対物レンズL5、蛍光測定ディテクタPMT)、さらには、対物レンズL5のオートフォーカスAF制御信号を検出するAF検出光学系P3(AF検出レーザLD2、コリメータレンズL2、対物レンズL3、ビームスプリッタM3、非点収差レンズL4、AF検出ディテクタPD)を備える。
なお、蛍光励起用のレーザ、AF検出用のレーザ、及び蛍光は、それぞれ波長が異なり、ダイクロイックミラーD1,M2を介して、合成/分離される。
供給用モジュール2aと反応用モジュール2bには、上記した恒湿度チャンバ217が設けられており(図4等参照)、図示していない恒湿度調整器によって、基板周囲環境は、例えば、湿度50%RHの一定湿度に保たれている。これにより、供給後のプローブ物質含有媒質又はターゲット物質含有媒質からの水分の消失(蒸発)を最小限に抑えることができる。
ここで、本発明に係るバイオアッセイ用基板1と上記構成のバイオアッセイ装置2を使用して行う、プローブ物質の固定化に係わるアッセイについて説明する。以下、プローブ物質は、プローブDNAを代表例として説明するが、これに限定する趣旨ではない。
プローブDNAは、後述するバイオアッセイプロセスにおいて、ターゲット物質であるターゲットDNA(一本鎖)内に含まれるかどうかを調べたい塩基配列と相補的な塩基配列を持つように合成された一本鎖DNA(ヌクレオチド鎖)である。
基板11に配設された反応領域Rに対するプローブDNAの供給は、供給用モジュール2a位置で、上記第1インラインヘッド207に配されたインクジェットノズルを介して、該プローブDNAを含有した媒質を反応領域Rへ所定量、供給(滴下)することによって行う。
供給用のノズルとして機能するインクジェットノズルは、プローブDNA含有媒質用、水分補給のための溶媒用のいずれについても、基板11に形成された反応領域Rの半径方向での配列ピッチと同ピッチで、同数のノズルを備えており、各々ノズルから異なる媒質を滴下できる構造となっている。
最初に、蛍光測定用モジュール2cの位置で、(蓋がされていない状態の)基板11をターンテーブル202に載置し、続いて、チャッキング機構201で基板11を固定した後、スピンドル走査モータ206によって、スピンドル位置センサ222aで検出された供給用モジュール2a位置まで搬送する。この搬送後の状態は、図11に示されている。
次に、基板11を、ドライバ203aで制御されるスピンドルモータ203で回転させ、基板11の回転方向の基準位置を検出するディスク基準位置センサ223とロータリーエンコーダ204の出力から、反応領域Rの位置に対応した信号(反応領域位置信号)を発生させる。そして、この反応領域位置信号と供給用のノズルの吐出位置信号を同期させることによって、基板11上の所望の反応領域Rへ、目的のプローブDNAを含む媒質を供給する。
図15、図16には、インラインヘッド207,208の配置構成の一例が示されている。図15は、斜視図、図16は、上方視したときの平面図である。
この図15、図16に示された例では、プローブDNAを含有する媒質が充填されたインクジェットノズルについては、吐出量100pl、吐出周波数5kHzである構成のものを採用している。例えば、反応領域Rの半径方向の配列数と同数の50個の該インクジェットノズルが、第1インラインヘッド207に対して脱着可能な機構で、設けられている。
また、一方の水分補給用のインクジェットノズルは、例えば、吐出量2pl、吐出周波数20kHzである構成のものを採用している。例えば、反応領域Rの半径方向の配列数と同数の50個の該インクジェットノズルが、第2インラインヘッド208に対して脱着可能な機構で設けられている。
なお、本例では、第2インラインヘッド208が二つ設けられている(図8、図9参照)。その一方(208a)を媒質中の物質濃度調整用として、他方(208b)を物質の析出防止用として、それぞれ役割分担させている。
なお、図17に示す変形形態のように、第2インラインヘッド208を一つだけ設けて、該第2インラインヘッド208に物質濃度調整用と物質の析出防止用の両機能を集約したり、いずれか一方の役割だけを担当させたりするようにしてもよい。
次に、図18に基づいて、媒質供給(滴下)の動作シーケンスについて説明する。
まず、基板11を回転させ、プローブDNA含有媒質を該基板11の反応領域Rへ滴下供給する。さらに、この基板11を回転させ、水分補給用の第2インラインヘッド208の位置まで来たタイミングで、コンピュータCが保持する「乾燥時間テーブル」を参照して、溶媒滴下数を計算し、水分補給用の溶媒を、必要滴数だけ滴下供給する。
この「乾燥時間テーブル」は、各湿度条件下で、予め行った実験から予め作成してあるものであり、対応する反応領域Rの位置番号に対して、水分補給用の溶媒の滴下数が記録されている。
図19、図20は、この実験により得られたデータをグラフ化して示す図である。図19は、滴下された溶液がすべて乾燥するまでの時間を、横軸に滴下量(pl)、縦軸に乾燥時間(秒)をとり、50〜90%RHの各環境湿度に対してプロットしたグラフである。図20は、図19の環境湿度50%RHのプロットを滴下量100pl付近で拡大し、抜き出したグラフである。
この実験によれば、例えば、湿度50%RHの場合では、最初に滴下した反応領域R(例えば、反応領域列1)に保持されているプローブDNA含有媒質は、最後の反応領域R(例えば、反応領域列785)へ滴下する0.16秒後に、約11plの水分が乾燥により減少していることがわかる。
従って、図14に示すように、反応領域列番号に対する溶媒滴下数を算出設定することで、各反応領域RのプローブDNAの乾燥による濃度変化を、最小限に抑制することができる。
より詳しくは、基板11に放射状列を成すように配列された反応領域Rに対して、放射状列ごとに、周方向順番に配列番号(符号N参照)を付しておき、この配列番号列Nによって特定される領域に存在する反応領域R群に、水分補給用の溶媒を必要滴数分だけ、供給する(図21参照)。なお、図21では、供給順番が後になるほど、供給する滴数が増えている。
次に、図22を参照して、水分補給に係わる他の実施形態について説明する。
本実施形態では、プローブDNA含有媒質が充填されているインクジェットノズルは、吐出量100pl、吐出周波数5kHzとする。そして、反応領域Rの放射状列の一列分の数と同数(例えば、50個)のインクジェットノズルを、第1インラインヘッド207に対して、脱着可能な機構により装着する。
また、本実施形態では、水分補給を担う溶媒供給用のインクジェットノズルは、吐出量2pl、吐出周波数20kHzとする。そして、このインクジェットノズルは、反応領域Rの放射状列の一列分の数と同数(50個)を、第2インラインヘッド208に対して、脱着可能な機構により装着する。
本実施形態では、さらに、反応領域R内の媒質量を自動測定するために用いられる光学顕微鏡CCDカメラ223(図11〜13参照)が、基板11の上方に設置されている。なお、図22の符号Yで示す領域は、前記光学顕微鏡CCDカメラ223の焦点範囲を示している。
ここで、反応領域R内の媒質容量は、カメラ出力画像から溶液外形を抽出し,メニスカス形状寸法から算出することが可能である。
この実施形態での動作シーケンスの例を、図23に基づいて説明する。
基板11を回転し、プローブDNA含有媒質を、基板11の全反応領域Rへ供給(滴下)する。次の周回では、反応領域R内の媒質量を、前記光学顕微鏡CCDカメラ223を用いて検出し、減少した溶液量の計算を行う。この計算に基づいて、水分補給用の第2インラインヘッド208の位置まで来たタイミングで、水分補給用溶媒を必要滴数だけ滴下する。
この構成によって、恒湿度チャンバ217(図11等参照)内の湿度をあらかじめ検出すること無く、各反応領域RのプローブDNAの乾燥による濃度変化を最小限に抑えることができる。
また、他の実施形態では、プローブDNA含有媒質を供給するインクジェットノズルとして、吐出量2pl、吐出周波数20kHzのものを採用してもよい。このインクジェットノズルを、反応領域Rの放射状列の一列分の数と同数(例えば、50個)だけ、第1インラインヘッド207に対して、脱着可能な機構により装着する。
この場合では、水分補給用(溶媒滴下用)のインクジェットノズルとして、吐出量100pl、吐出周波数5kHzのものを採用する。このインクジェットノズルを、反応領域Rの放射状列の一列分の数と同数(例えば、50個)だけ、第1インラインヘッド208に対して、脱着可能な機構により装着する。
この場合の供給動作シーケンスを、図24に基づいて説明する。
まず、基板11を回転し、第2インラインヘッド208を介して、水分補給用の溶媒を、最初に滴下供給しておく。次に、基板11を回転させて、プローブDNA含有媒質を滴下供給するノズルが配列された第1インラインヘッド207を介して、プローブDNA含有媒質を反応領域Rへ滴下供給する。なお、プローブDNA含有媒質の濃度は、反応領域R内で100plの溶媒と混合した時に、所定の濃度となるように調整しておくようにする。
このようにすれば、溶液の滴下供給から乾燥防止用の蓋(基板12)を装着する短時間の間では、完全に混合することがなくなるので、反応領域R内にプローブDNAが析出、固着することを有効に防止することができる。
即ち、反応領域Rへ溶媒を滴下した後に,プローブDNA含有媒質を滴下することで,反応領域R内でのプローブ物質の析出や固着によるムラが減少し、精度の良いバイオアッセイプロセスを実現することができる。
さらに他の実施形態では、第1インラインヘッド207用のインクジェットノズルとして、吐出量2pl、吐出周波数20kHzのものを採用する。また、(水分補給用の)第2インラインヘッド208用のインクジェットノズルとして、吐出量100pl、吐出周波数5kHzのものを採用する。さらに、反応領域R内の媒質量を測定するための光学顕微鏡CCDカメラ223を用いて、反応領域R内の媒質量をカメラ出力画像から溶液外形を抽出し,メニスカス形状寸法から算出する。
この場合の供給動作シーケンスを、図25に基づいて説明する。
基板11を回転させて、最初に、溶媒Aを反応領域Rに滴下供給する。次に、該基板11を回転させて、第1インラインヘッド207位置まで来たタイミングで、プローブDNA含有媒質を反応領域Rへ滴下供給する。以上の供給動作を、基板全周に渡って行い、次の周回では、反応領域R内に保持された媒質量を、前記光学顕微鏡CCDカメラ223を用いて検出し、その減少量の計算を行う。この計算結果に基づいて、溶媒Bの滴下供給を担う第2インラインヘッド208位置まで来た時に、必要滴数だけ溶媒Bを滴下供給する。
この方法によれば、恒湿度チャンバ223(図11等参照)内の湿度をあらかじめ検出すること無く、各反応領域RのプローブDNAの乾燥による濃度変化を最小限に抑制することができ、かつ反応領域R内のプローブDNAの析出及び固着を有効に防止することができる。
以上で説明した各実施形態で示す方法によって、プローブDNA含有媒質を基板11へ滴下供給した後、スピンドル位置センサ222bで検出される反応用モジュール2b位置まで、スピンドル走査モータ206によって基板11を搬送する(図5の状態)。そして、基板11に対して、蓋脱着アクチュエータ210bと蓋位置センサ211を使用して、蓋(基板12)を装着する(図12再参照)。
その後、恒湿度チャンバ一217内に一定定時間静置することにより、反応領域Rの表面(固定化用に処理された表面)に対するプローブDNAの固定化作業を完了する。
プローブDNAの固定化作業が完了した基板11は、スピンドル位置センサ222cで検出される蛍光測定用モジュール2c位置まで搬送される。そして、基板11はターンテーブル202から取り外され、反応領域R内へ所定の洗浄液を送り込み、排出することにより、該反応領域Rに存在する未固定状態のプローブDNAを除去するための洗浄処理が施され、そして、バイオアッセイプロセスに備え、所定の場所に保管される。
以下、固定化後のバイオアッセイプロセスについて説明する。なお、このバイオアッセイプロセスとは、ターゲット物質の滴下供給→相互作用(例えば、ハイブリダイゼーション)の進行→蛍光測定プロセスに至る工程を意味する。
まず、ターゲット物質(ここでは、ターゲットDNAとする。)は、プローブDNAと相補的な塩基配列が含まれるかどうかを調べたい一本鎖DNA(ヌクレオチド鎖)であって、生体などから分離、抽出される。
プローブDNAが固定された基板1を、蛍光測定用モジュール2c位置で、ターンテーブル202に載置し、チャッキング機構201により固定する。その後、スピンドル走査モータ206によって、スピンドル位置センサ222aによって検出された供給用モジュール2a位置まで、基板1を搬送する(図11の状態を参照)。
インクジェットノズルには、例えば、ターゲットDNAとインターカレータ(後述)を含む媒質(例えば溶液)を予め充填しておく。基板1をスピンドルモータ203で回転させ、該基板1の回転方向の基準位置を検出するディスク基準位置センサ224とロータリーエンコーダ204の出力から反応領域位置に対応した信号を発生させ、反応領域Rの位置信号と滴下ノズルの吐出信号とを同期させることによって、基板1に形成された所望の反応領域Rへ媒質を滴下供給する。この時の供給動作は、上述した図23と同様の手順で行うことができる。この場合、図23に示されている「DNA溶液」は、ターゲットDNA含有の溶液を意味する。
ターゲットDNA供給作業の場合でも、水分を補給するための溶媒を反応領域Rへ滴下供給する。即ち、第2インラインヘッド208位置まで来たタイミングで、上記実験によって得られている乾燥時間テーブルを参照して、溶媒を必要滴数だけ滴下する。このようにすれば、各反応領域RにおけるターゲットDNAの乾燥による濃度変化を最小限に抑えることができる。
また、ターゲットDNA供給作業の場合でも、反応領域R内の媒質量を測定するための光学顕微鏡CCDカメラ223を用いて、反応領域R内の媒質量をカメラ出力画像から溶液外形を抽出し,メニスカス形状寸法から算出することができる。
この場合の動作シーケンスは、上述した図23と同様である。即ち、基板11を回転させ、まずターゲットDNA含有媒質(図23のDNA溶液に対応)を、基板全周に渡って滴下供給し、次の周回では、反応領域R内の媒質量を検出して、乾燥により減少した媒質量の計算を行う。そして、選択された反応領域Rが第2インラインヘッド208位置まで来た時に、必要滴数だけ溶媒を滴下供給する。このようにすると、恒湿度チャンバ217内の湿度を予め検出すること無く、各反応領域R内のターゲットDNAの乾燥による濃度変化を最小限に抑えることができる。
また、ターゲットDNA供給の場合でも、図24に示されたような動作シーケンスを採用することができる。即ち、基板11を回転させ、まず溶媒を滴下しておく。続いて、基板11を回転させ、第1インラインヘッド207位置まで来たタイミングで、ターゲットDNA含有媒質を滴下供給する。なお、このとき、ターゲットDNA含有媒質の濃度は、反応領域R内で、例えば所定容量の溶媒と混合した時に、所定の濃度となるように予め調整しておく。このような方法を行うことで、反応領域R内にターゲットDNAが析出及び固着することを有効に防止することができる。
また、ターゲットDNA供給作業の場合でも、反応領域R内の媒質量を測定するための光学顕微鏡CCDカメラ223によって得られるカメラ出力画像から溶液外形を抽出し、媒質容量をメニスカス形状寸法から算出することができる。
この場合の動作シーケンスは、上述の図25と同様である。即ち、基板11を回転させて、最初に、溶媒Aを反応領域Rに滴下供給する。次に、該基板11を回転させて、第1インラインヘッド207位置まで来たタイミングで、ターゲットDNA含有媒質を反応領域Rへ滴下供給する。以上の供給動作を、基板全周に渡って行い、次の周回では、反応領域R内に保持された媒質量を、前記光学顕微鏡CCDカメラ223を用いて検出し、その減少量の計算を行う。この計算結果に基づいて、溶媒Bの滴下供給を担う第2インラインヘッド208位置まで来た時に、必要滴数だけ溶媒Bを滴下供給する。
この方法によれば、恒湿度チャンバ223(図11等参照)内の湿度をあらかじめ検出すること無く、各反応領域RのプローブDNAの乾燥による濃度変化を最小限に抑制することができ、かつ反応領域R内のプローブDNAの析出及び固着を有効に防止することができる。
以上のように、ターゲットDNA含有媒質を滴下供給した後、スピンドル位置センサ222bで検出される反応用モジュール2bまで、スピンドル走査モータ206によって基板11を搬送する。そして、該基板11に、蓋脱着アクチュエータ210bと蓋位置センサ211を用いて、乾燥防止用の基板12を装着する(図12の状態を参照)。
ここで、反応用モジュール2bに、基板11を一定時間放置する。もし、ターゲットFDNAに(固定化された)プローブDNAと相補的な塩基配列が含まれるのであれば、両者はハイブリダイゼーションし、二本鎖DNAを形成する。
このハイブリダイゼーションプロセスは、基板12の装着と同時に基板11をヒータ214へ圧接して、例えば、55℃に加熱した状態で行う。さらに、基板1の透明電極層112(図2参照)と導電性の基板12を対向電極として活用し、これらを高周波電源212と接続して、例えば、1MV/m、1MHzの高周波交流電界を反応領域Rへ印加してもよい。
反応領域Rへの電界印加は、誘電泳動などの電気力学的効果によって、核酸分子を伸張させたり、移動させたりすることを目的とする。これにより、ハイブリダイゼーションの際の立体障害を排除したり、プローブDNAとターゲットDNAとの間の会合確率を高めたりすることができる。この結果、ハイブリダイゼーションを迅速に行うことができる。
反応領域Rに固定されたプローブDNAとターゲットDNAとの間のハイブリダイゼーションが完了したら、基板11は、基板12を装着したままの状態で、スピンドル位置センサ222cによって検出される蛍光測定用モジュール2c位置へ搬送される(図13の状態を参照)。
ここで、反応領域R内へ供給されているインターカレータは、二本鎖DNAに結合することによって蛍光を発する構造に変成する性質を持つ蛍光物質である。従って、このインターカレータは、ターゲットDNAがプローブDNAと相補的な塩基配列を持つ時に形成された二本鎖DNAに結合して蛍光を発する。
これにより、インターカレータの蛍光強度を測定することで、ターゲットDNA内の特定の塩基配列の有無を特定することができる。インターカレータは、特に限定されないが、例えば、市販のSYBERGreenIなどを採用することができる。
次に、蛍光測定は、通常の光ディスクシステムと同様の動作で行うことが可能である。具体的には、スピンドルモータ203で基板1を回転させ、AF検出光学系P3及びアクチュエータによって、基板面に対する対物レンズL3の相対位置を制御する(特に、図14参照)。
そして、蛍光励起用光学系P1で、基板上の反応領域R内のインターカレータを励起し、蛍光計測光学系でその蛍光を測定する。このとき、蛍光励起レーザLD1は、波長450nmの半導体レーザを使用し、コリメータレンズL1で平行光とし、続くダイクロイックミラーD1で折り返した後、対物レンズL3で、反応領域Rの固定化層113に焦点を結び、該固定化層113上に形成された二本鎖DNAに結合しているインターカレータを励起する(図14参照)。
このインターカレータは、波長520nm近傍の蛍光を発する。該蛍光は、対物レンズL3、ダイクロイックミラーD1,D2を通過し、波長選択フィルタFで迷光を除去された後、対物レンズL5によって蛍光計測用ディテクタPMTの受光部へ集光され、これにより蛍光強度が測定される。
なお、このときの蛍光は微弱であるため、蛍光計測用ディテクタPMTには、フォトマルチプライヤを採用するのが望ましい。また、AF検出光学系P3及びレンズアクチュエータA(図14参照)は、光ディスクで使用される構成や制御方式をそのまま用いることができる。
本実施形態では、AF検出レーザLD2は、波長780nmの半導体レーザを使用し、コリメータレンズL2で平行光としビームスプリッタM3を経てダイクロイックミラーD2で折り返される。その後、ダイクロイックミラーD1を経て、対物レンズL3で基板面に焦点を結んで、反射する構成を採用している(図14参照)。
反射されたレーザ光は、対物レンズL3、ダイクロイックミラーD1,D2を経て、ビームスプリッタM3に達する。そして、非点収差レンズL4とAF検出ディテクタPDで構成された非点収差法によるフォーカスエーラー検出光学系へ折り返される。
蛍光計測制御系は、まずAF検出光学系P3を使用して、基板最外周の回転方向基準位置を示す基準位置マークを検出し、ロータリーエンコーダ204(図11等参照)の出力から基準位置信号を記憶し、反応領域Rの位置を計算する。
そして、基板1を回転し、対物レンズL3の位置を、アクチュエータAによってオートフォーカス制御を行い、各反応領域R位置での蛍光測定を安定して行うようにする。
測定により得られた蛍光強度を解析することによって、ターゲットDNAに含まれている塩基配列、すなわち遺伝子情報を解析することが可能となる。これにより、一連のバイオアッセイを実現している。なお、以上の説明では、媒質を供給するためのノズルとしてインクジェット方式のノズルを挙げて説明したが、正確な容量の媒質を滴下又は注入できる吐出手段であれば、採用可能である。
以上のように、本発明に係るバイオアッセイ用基板1を用いたバイオアッセイを、上記構成のバイオアッセイ装置2を用いて実施すれば、クロスコンタミネーション防止に加えて、媒質の乾燥も有効に防止できる。