以下、本発明を適用した具体的な実施の形態として、本発明を適用したカートリッジ、このカートリッジに収納されるDNA解析用のバイオアッセイ基板、及びこのバイオアッセイ基板を用いてDNA解析を行うバイオアッセイ装置について説明する。なお、本明細書において「バイオアッセイ」とは、ハイブリダイゼーションその他の物質間の相互作用に基づく生化学分析を意味する。
(カートリッジ)
本実施の形態におけるバイオアッセイ基板が収納されるカートリッジの一例について、図1乃至図4を参照しながら説明する。
先ず、図1に示すカートリッジ1は、円板状のバイオアッセイ基板20を複数枚収納可能なものであり、目的のバイオアッセイ基板20が後述するバイオアッセイ装置にロードされて回転制御される。
カートリッジ1は、大きく分けて複数枚のバイオアッセイ基板20を収納するメディアストッカ2と、バイオアッセイ基板20を載置保持するメディアトレイ3とから構成され、メディアストッカ2には、メディアトレイ3をバイオアッセイ装置内の所定位置又はメディアストッカ2内の収納位置に移動させバイオアッセイ基板20をロード又はアンロードするためのガイド4が設けられている。なお、図示しないが、カートリッジ1内には、アダプタ等の周辺部品も同梱することができる。
また、このカートリッジ1には、外気の流入を遮断する外気遮断機構としての蓋部5が設けられている。この蓋部5としては、例えば図2(A)に示すように、メディアトレイ3に対してヒンジ6を介して開閉可能に固定されたものであってもよく、図2(B)に示すように、シャッタのような形状であってもよい。なお、蓋部5及びメディアトレイ3の接触部分には、外気の流入を遮断するために、パッキン7等を設けることが好ましい。また、カートリッジ1には、蓋部5を確実に閉じて内部をほぼ密閉された空間とするために、ロック機構8が設けられている。この場合、カートリッジ1の使用時における人間の介在を無くすため、後述するバイオアッセイ装置には、ロックを外部から解除する機構を設けることが望ましい。
このように、カートリッジ1に蓋部5が設けられているため、保管時には、この蓋部5を閉じてカートリッジ1内をほぼ密閉された空間とすることで、外部の塵等の不要な物質がバイオアッセイ基板20の表面に付着してハイブリダイゼーション反応を阻害する問題を防止することができる。
さらに、このカートリッジ1内の所定位置には、図3に示すように、カートリッジ1内の空間の相対湿度を略々一定に調節する相対湿度調節機構としての後述する溶液保持パッド9が配置されている。この溶液保持パッド9によってカートリッジ1内の空間の相対湿度を後述のように略々一定に調節することで、保管時にバイオアッセイ基板20上に固相化されたプローブDNA(検出物質)が固定表面に不要に固着又は癒着してしまうのを防止することができる。
続いて、図4に示すカートリッジ10は、バイオアッセイ基板20を1枚収納可能なものであり、このカートリッジ10の内部でバイオアッセイ基板20が回転可能とされている。
カートリッジ10の外面には、例えばバーコード11によってバイオアッセイ基板20のIDが記載されており、このIDによりバイオアッセイ基板20のデータが管理される。
また、カートリッジ10の所定位置には外気遮断機構としてのスライド式のスライドシャッタ12が設けられ、このスライドシャッタ12が開けられることで内部のバイオアッセイ基板20が表出する。このスライドシャッタ12は、通常は閉じてバイオアッセイ基板20を隠蔽している。これにより、外部の塵等の不要な物質がバイオアッセイ基板20の表面に付着してハイブリダイゼーション反応を阻害する問題を防止することができる。なお、スライドシャッタ12は、後述するバイオアッセイ装置内において、当該バイオアッセイ基板20に対する溶液の滴下時、励起光及び制御光の照射時、並びに蛍光の読取時に、装置内の機構によりスライドされて開けられるものとされる。
また、このカートリッジ10内の所定位置にも、図4に示すように、カートリッジ10内の空間の相対湿度を略々一定に調節する溶液保持パッド9が配置されている。この溶液保持パッド9によってカートリッジ10内の空間の相対湿度を後述のように略々一定に調節することで、保管時にバイオアッセイ基板20上に固相化されたプローブDNAが固定表面に不要に固着又は癒着してしまうのを防止することができる。
以上のようなカートリッジ1,10では、蓋部5又はスライドシャッタ12によってカートリッジ1,10内をほぼ密閉された空間とすることで、外部の塵等の不要な物質がバイオアッセイ基板20の表面に付着してハイブリダイゼーション反応を阻害する問題を防止することができる。
また、溶液保持パッド9によってカートリッジ1,10内の空間の相対湿度を略々一定に調節することで、保管時にバイオアッセイ基板20上に固相化されたプローブDNAが固定表面に不要に固着又は癒着してしまうのを防止することができる。
さらに、複数枚のバイオアッセイ基板20が収納可能なカートリッジ1を用いることで、ユーザは、カートリッジ1内のバイオアッセイ基板20の数を気にすることなく、少ない操作で多数のDNAを解析することができる。
(相対湿度調節方法)
次に、上述したカートリッジ1,10内のほぼ密閉された空間における相対湿度を略々一定に調節する相対湿度調節方法について説明する。
一般に、固相が共存する2成分系の飽和塩溶液は、温度一定の場合、気液平衡によって環境湿度が塩の種類に応じた平衡相対湿度で一定となる性質を有する。すなわち、飽和塩溶液は、環境湿度が平衡相対湿度以下の場合には放湿し、環境湿度が平衡相対湿度以上の場合には吸湿する性質を有する。以下の表に、代表的な塩の種類とその平衡相対湿度を示す。
この表から分かるように、例えば20℃における硝酸カリウム(KNO3)の平衡相対湿度は95%、塩化ナトリウム(NaCl)の平衡相対湿度は75%であり、30℃においてもその平衡相対湿度は殆ど変化しない。したがって、使用する塩の種類を選択することで、環境湿度をパーセントオーダで目的の相対湿度に調節することができる。
本実施の形態では、バイオアッセイ基板20上に固相化されたプローブDNAが固定表面に不要に固着又は癒着してしまうのを防止するため、例えば硫酸カリウム(K2SO4)、硝酸カリウム(KNO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)など、90%程度以上の平衡相対湿度を示す塩を選択し、その塩を純水に溶解して固相の共存した飽和塩水溶液を調製する。そして、この飽和塩水溶液を水分の吸収及び放散が可能な溶液保持パッド9に吸収させ、飽和塩水溶液を含む溶液保持パッド9をカートリッジ1,10内の空間に配置する。
ここで、溶液保持パッド9としては、種々のものを用いることができるが、例えばマクロゴール等の吸水性ゲルや、セルロース等の親水性の物質からなる不織布が利用可能である。特にマクロゴールは、環境の相対湿度によって飽和吸湿水分量が異なり、相対湿度が下がると放湿する性質があるため、好適に用いることができる。この溶液保持パッド9は、例えばメッシュ状の金属、セラミック又はプラスチックからなる区画(図示せず)に保持される。
なお、溶液保持パッド9の大きさや数、配置場所については、カートリッジ1,10の形状や内容積に合わせて設定する必要があるが、一例として、図4に示すカートリッジ10の内部に溶液保持パッド9を配置する場合について、必要な大きさ及び数を考察する。
具体的に、環境の相対湿度が50%である場合に、硫酸カリウム(K2SO4)の飽和水溶液を用いて、カートリッジ10内の相対湿度を97%に調節する場合について考える。純水の20℃における水蒸気量は、相対湿度が100%では17.284g/m3、90%では15.556g/m3であるため、97%では(17.284−15.556)×0.7+15.556=16.766g/m3であると推定する。相対湿度50%における水蒸気量は8.642g/m3であるため、相対湿度97%まで上昇させるためには、16.766−8.642=8.124g/m3=8.124×10−3μg/mm3の水分量がさらに必要となる。
バイオアッセイ基板20の大きさを直径120mm、中心孔の直径15mm、厚さ1.2mmとすると、その体積は(60×60−7.5×7.5)×π×1.2=13353mm3となる。一方、図4に示したカートリッジ10の大きさを各辺130mm、内寸厚さ2.2mmとすると、その内容積は130×130×2.2=37180mm3となる。したがって、カートリッジ10内の空間は、37180−13353=23827mm3となる。
これらから、カートリッジ10内の空間の相対湿度を50%から97%までに上昇させるのに必要な水分量は、8.124×10−3×23827=193.6μg≒0.2mgとなる。したがって、1mm×1mm×0.2mmの水分量を4箇所に配置した場合には、それぞれ約25%の水分が放出すればよく、十分に実現可能である。なお、実際には、水分は溶液保持パッド9に吸収されるため、溶液保持パッド9を配置するために必要な体積はこれよりも若干大きくなるが、その場合でも十分にカートリッジ10内の空間に配置可能である。
このように、本実施の形態では、カートリッジ1,10内のほぼ密閉された空間に飽和塩水溶液を含む溶液保持パッド9を配置することで、カートリッジ1,10内で結露を起こすことなく、相対湿度を飽和塩水溶液中の塩の種類に応じた平衡相対湿度に調節することが可能である。
(バイオアッセイ基板)
次に、上述したカートリッジ1,10に収納されるバイオアッセイ基板20について説明する。図5は、バイオアッセイ基板20の上面を模式的に示したものである。
バイオアッセイ基板20の中心には、中心孔21が形成されている。中心孔21には、当該バイオアッセイ基板20が後述するバイオアッセイ装置に装着されたときに、当該バイオアッセイ基板20を保持及び回転させるためのチャッキング機構が挿入される。
バイオアッセイ基板20は、図6に示すように、下層側から、基板層22と、透明電極層23と、固相化層24と、ウェル形成層25とから形成された層構造となっている。なお、バイオアッセイ基板20のウェル形成層25側の表面を上面20a、基板層22側の表面を下面20bというものとする。
基板層22は、詳細を後述する励起光及び制御光並びに蛍光の波長の光を透過する材料である。例えば、基板層22は、石英ガラス、シリコン、ポリカーボネート、ポリスチレンその他の円盤状に成型可能な合成樹脂、好ましくは射出成型可能な合成樹脂で形成されている。なお、安価な合成樹脂基板を用いることで、従来のガラス基板に比して低ランニングコストを実現できる。
透明電極層23は、基板層22上に形成された層である。透明電極層23は、例えばITO(インジウム-スズ-オキサイド)やアルミニウム等の光透過性があり且つ導電性を有する材料から形成されている。透明電極層23は、基板層22上に例えばスパッタリングや電子ビーム蒸着等により250nm程度の厚さに成膜されて形成される。
固相化層24は、透明電極層23上に形成された層である。固相化層24は、プローブDNA(検出物質)の一端を固相化させるための材料から形成されている。本例では、固相化層24は、シランにより表面修飾可能なSiO2が、例えばスパッタリングや電子ビーム蒸着により50nm程度の厚さに成膜された層となっている。
ウェル形成層25は、固相化層24上に形成された層である。ウェル形成層25は、プローブDNA(検出物質)とサンプルDNA(標的物質)との間のハイブリダイゼーション反応を起こさせる複数のウェル26が形成された層である。ウェル26は、バイオアッセイ基板20の上面20aが開口したくぼみ状となっており、サンプルDNAが含まれた溶液等が滴下されたときにその溶液を保留することができる程度の深さ及び大きさとなっている。例えば、ウェル26は、開口部が100μm四方の大きさに形成され、深さが5μm程度とされて、底面28に固相化層24が露出している。このようなウェル形成層25は、例えば、固相化層24上に感光性ポリミイドをスピンコート等で5μm程度の厚さに塗布し、塗布した感光性ポリミイドを所定のパターンでフォトマスクを用いて露光及び現像することで形成される。
さらに、ウェル26は、一端が官能基により修飾されたプローブDNAが底面28(固相化層24が露出した部分)に結合するように、当該底面28が官能基により表面修飾されている。例えば、ウェル26は、図7に示すように、SH基29を有するシラン分子30により、底面28(SiO2から形成されている固相化層24)が表面修飾されている。このため、ウェル26の底面28には、例えばSH基で一端が修飾されたプローブDNAを結合させることができる。このようにバイオアッセイ基板20では、ウェル26の底面27に、プローブDNAの一端を結合させることができるので、図8に示すように、底面27から垂直方向に鎖が伸びるように、プローブDNA(P)を結合させることができる。
また、バイオアッセイ基板20では、図5に示すように、複数のウェル26が、主面の中心から外周方向に放射状に向かう複数の列上に、例えば400μm程度の間隔で等間隔に並んで配置されている。
また、バイオアッセイ基板20には、バイオアッセイ基板20の下面20b側からレーザ光を照射することにより読み取り可能なアドレスピット27が形成されている。アドレスピット27は、バイオアッセイ基板20の平面上における各ウェル26の位置を特定するための情報である。アドレスピット27から情報を光学的に読み取ることによって、複数存在するウェル26のうち、現在レーザ光を照射している位置の1つのウェル26がどれであるかを特定することが可能となる。このようなアドレスピット27が設けてあることによって、後述する滴下装置による溶液の滴下位置の制御や、対物レンズによる蛍光検出位置の特定を行うことができる。
以上のようなバイオアッセイ基板20では、円板状に形成されているため、光ディスクシステムと同様の再生システムを利用することにより、レーザ光のフォーカシング位置を制御するためのフォーカシングサーボ制御、半径方向に対するレーザ光の照射位置や滴下装置による滴下位置の制御のための位置決めサーボ制御、並びに、アドレスピット27の情報検出処理をすることができる。つまり、アドレスピット27に記録してある情報内容と、そのアドレスピット27の近傍にあるウェル26とを対応させておくことにより、アドレスピット27の情報を読み出すことで、特定の1つのウェル26に対してのみレーザ光を照射して蛍光が発光しているウェル26の位置を特定したり、特定の1つのウェル26の位置と滴下装置との相対位置を制御して、その特定の1つのウェル26に対して溶液を滴下したりすることができる。
(バイオアッセイ装置)
次に、上述したバイオアッセイ基板20を用いてDNA解析を行うバイオアッセイ装置40について、図9を参照して説明する。なお、実際のバイオアッセイ基板20は、上述したようなカートリッジ1,10に収納されているが、図9では説明の便宜上、カートリッジ1,10を省略して図示する。
バイオアッセイ装置40は、図9に示すように、バイオアッセイ基板20を保持して回転させるディスク装填部41と、ハイブリダイゼーションのための各種溶液を貯留するとともにバイオアッセイ基板20のウェル26にその溶液を滴下する滴下部42と、バイオアッセイ基板20のウェル26から励起光を検出するための励起光検出部43と、上記の各部の管理及び制御を行う制御/サーボ部44とを備えている。
ディスク装填部41は、バイオアッセイ基板20の中心孔21内に挿入して当該バイオアッセイ基板20を保持するチャッキング機構50と、チャッキング機構50を駆動することによりバイオアッセイ基板20を回転させるスピンドルモータ51とを有している。ディスク装填部41は、上面20a側が上方向となるようにバイオアッセイ基板20を水平に保持した状態で、当該バイオアッセイ基板20を回転駆動する。
滴下部23は、試料溶液Sを貯留する貯留部52と、貯留部52内の試料溶液Sをバイオアッセイ基板20に滴下する滴下ヘッド53とを有している。滴下ヘッド53は、水平に装填されたバイオアッセイ基板20の上面20aの上方に配置されている。さらに、滴下ヘッド53は、図5記載のバイオアッセイ基板20のアドレスピット27から読み出される位置情報及び回転同期情報に基づいてバイオアッセイ基板20との相対位置を半径方向に制御し、プローブDNA、サンプルDNA又は蛍光標識剤を含有する試料溶液Sを所定のウェル26に正確に追従して滴下する構成とされている。
励起光検出部43は、光学ヘッド60を有している。光学ヘッド60は、水平に装填されたバイオアッセイ基板20の下方側、すなわち、下面20b側に配置されている。光学ヘッド60は、例えば、図示しないスレッド機構等により、バイオアッセイ基板20の半径方向に移動自在とされている。
光学ヘッド60は、対物レンズ61と、対物レンズ61を移動可能に支持する2軸アクチュエータ62と、導光ミラー63とを有している。対物レンズ61は、その中心軸がバイオアッセイ基板20の表面に対して略垂直となるように2軸アクチュエータ62に支持されている。したがって、対物レンズ61は、バイオアッセイ基板20の下方側から入射された光束を当該バイオアッセイ基板20に対して集光することができる。2軸アクチュエータ62は、バイオアッセイ基板20の表面に対して垂直な方向、及び、バイオアッセイ基板20の半径方向の2方向に対物レンズ61を移動可能に支持している。2軸アクチュエータ62を駆動することにより、対物レンズ61により集光された光の焦点を、バイオアッセイ基板20の表面に対して垂直な方向及び半径方向に移動させることができる。したがって、この光学ヘッド60では、光ディスクシステムにおけるジャストフォーカス制御並びに位置決め制御と同様の制御を行うことができる。
導光ミラー63は、光路X上に対して45°の角度で配置されている。光路Xは、励起光P、蛍光F、制御光V及び反射光Rが、光学ヘッド60に対して入射及び出射する光路である。導光ミラー63には、励起光P及び制御光Vが光路X上から入射される。導光ミラー63は、励起光P及び制御光Vを反射して90°屈折させて、対物レンズ61に入射する。対物レンズ61に入射された励起光P及び制御光Vは、当該対物レンズ61により集光されてバイオアッセイ基板20に照射される。また、導光ミラー63には、蛍光F及び制御光Vの反射光Rが、バイオアッセイ基板20から対物レンズ61を介して入射される。導光ミラー63は、蛍光F及び反射光Rを反射して90°屈折させて、光路X上に出射する。なお、光学ヘッド60をスレッド移動させる駆動信号及び2軸アクチュエータ62を駆動する駆動信号は、制御/サーボ部44から与えられる。
また、励起光検出部43は、励起光Pを出射する励起光源64と、励起光源64から出射された励起光Pを平行光束とするコリメータレンズ65と、コリメータレンズ65により平行光束とされた励起光Pを光路X上で屈折させて導光ミラー63に照射する第1のダイクロックミラー66とを有している。
励起光源64は、蛍光標識剤を励起可能な波長のレーザ光源を有する発光手段である。励起光源64から出射される励起光Pは、ここでは波長が405nmのレーザ光である。なお、励起光Pの波長は、蛍光標識剤を励起できる波長であればどのような波長であってもよい。コリメータレンズ65は、励起光源64から出射された励起光Pを平行光束にする。第1のダイクロックミラー66は、波長選択性を有する反射鏡であり、励起光Pの波長の光のみを反射して、蛍光F及び制御光V(その反射光R)の波長の光を透過する。第1のダイクロックミラー66は、光路X上に45°の角度を持って挿入されており、コリメータレンズ65から出射された励起光Pを反射して90°屈折させ、導光ミラー63に励起光Pを照射している。
また、励起光検出部43は、蛍光Fを検出するアバランジェフォトダイオード67と、蛍光Fを集光する集光レンズ68と、光学ヘッド60から光路X上に出射された蛍光Fを屈折させてアバランジェフォトダイオード67に照射する第2のダイクロックミラー69とを有している。
アバランジェフォトダイオード67は、非常に感度の高い光検出器であり、微弱な光量の蛍光Fを検出することが可能である。なお、アバランジェフォトダイオード67により検出する蛍光Fの波長は、ここでは470nm程度である。また、この蛍光Fの波長は、蛍光標識剤の種類により異なるものである。集光レンズ68は、アバランジェフォトダイオード67上に蛍光Fを集光するためのレンズである。第2のダイクロックミラー69は、光路X上に45°の角度を挿入されているとともに、導光ミラー63側から見て第1のダイクロックミラー66の後段に配置されている。したがって、第2のダイクロックミラー69には、蛍光F、制御光V及び反射光Rが入射し、励起光Pは入射しない。第2のダイクロックミラー69は、波長選択性を有する反射鏡であり、蛍光Fの波長の光のみを反射して、制御光(反射光R)の波長の光を透過する。第2のダイクロックミラー69は、光学ヘッド60の導光ミラー63から出射された蛍光Fを反射して90°屈折させ、集光レンズ68を介してアバランジェフォトダイオード67に蛍光Fを照射する。
アバランジェフォトダイオード67では、このように検出した蛍光Fの光量に応じた電気信号を発生し、その電気信号を制御/サーボ部44に供給する。
また、励起光検出部43は、制御光Vを出射する制御光源70と、制御光源70から出射された制御光Vを平行光束とするコリメータレンズ71と、制御光Vの反射光Rを検出するフォトディテクト回路72と、非点収差を生じさせてフォトディテクト回路72に対して反射光Rを集光するシリンドリカルレンズ73と、制御光Vと反射光Rとを分離する光セパレータ74とを有している。
制御光源70は、例えば780nmの波長のレーザ光を出射するレーザ光源を有する発光手段である。なお、制御光Vの波長は、アドレスピット27が検出できる波長に設定されている。さらに、制御光Vの波長は、励起光P及び蛍光Fの波長と異なった波長に設定されている。このような波長であれば、制御光Vの波長は、780nmに限らずどのような波長であってもよい。コリメータレンズ71は、制御光源70から出射された制御光Vを平行光束にする。平行光束とされた制御光Vは光セパレータ74に入射される。
フォトディテクト回路72は、反射光Rを検出するディテクタと、検出した反射光Rからフォーカスエラー信号、位置決めエラー信号、及び、アドレスピット27の再生信号を生成する信号生成回路とを有している。反射光Rは、制御光Vがバイオアッセイ基板20で反射して生成された光であるので、その波長は、制御光Vと同一の780nmである。
なお、フォーカスエラー信号は、対物レンズ61により集光された光の合焦位置とバイオアッセイ基板20の基板層22との位置ずれ量を示すエラー信号である。フォーカスエラー信号が0となったときに、対物レンズ61とバイオアッセイ基板20との間の距離が最適となる。位置決めエラー信号は、所定のウェル26の位置と焦点位置とのディスク半径方向に対する位置ずれ量を示す信号である。位置決めエラー信号が0となったときに、制御光Vのディスク半径方向に対する照射位置が所定のウェル26に一致したこととなる。アドレスピット27の再生信号は、バイオアッセイ基板20に記録されているアドレスピット27に記述されている情報内容を示す信号である。この情報内容を読み出すことにより、現在、制御光Vを照射しているウェル26を特定することができる。
フォトディテクト回路72は、反射光Rに基づき生成されたフォーカスエラー信号、位置決めエラー信号及びアドレスピット27の再生信号を制御/サーボ部44に供給する。
シリンドリカルレンズ73は、フォトディテクト回路72上に反射光Rを集光するとともに非点収差を生じさせるためのレンズである。このように非点収差を生じさせることによりフォトディテクト回路72によりフォーカスエラー信号を生成させることができる。
光セパレータ74は、偏向ビームスプリッタからなる光分離面74aと1/4波長板74bとにより構成されている。光セパレータ74では、1/4波長板74bの逆側から入射された光を光分離面74aが透過し、その透過光の反射光が1/4波長板74b側から入射された場合には光分離面74aが反射する機能を有している。光セパレータ74は、光分離面74aが光路X上に45°の角度を挿入されているとともに、導光ミラー63側から見て第2のダイクロックミラー69の後段に配置されている。したがって、光セパレータ74では、コリメータレンズ71から出射された制御光Vを透過して光学ヘッド60内の導光ミラー63に対してその制御光Vを入射させているとともに、光学ヘッド60の導光ミラー63から出射された反射光Rを反射することにより90°屈折され、シリンドリカルレンズ73を介してフォトディテクト回路72に反射光Rを照射する。
制御/サーボ部44は、励起光検出部43により検出されたフォーカスエラー信号、位置決めエラー信号及びアドレスピット27の再生信号に基づき、各種のサーボ制御を行う。
すなわち、制御/サーボ部44は、フォーカスエラー信号に基づき光学ヘッド60内の2軸アクチュエータ62を駆動して対物レンズ61とバイオアッセイ基板20との間の距離を制御し、フォーカスエラー信号が0となるようにサーボ制御を行う。また、制御/サーボ部44は、位置決めエラー信号に基づき光学ヘッド60内の2軸アクチュエータ62を駆動して対物レンズ61をバイオアッセイ基板20の半径方向に移動制御し、位置決めエラー信号が0となるようにサーボ制御を行う。また、制御/サーボ部44は、アドレスピット27の再生信号に基づき光学ヘッド60を所定の半径位置に移動し、目的のウェル位置に対物レンズ61を移動させる。
以上のような構成のバイオアッセイ装置40では、バイオアッセイを行う場合には、次のような動作を行う。
バイオアッセイ装置40は、バイオアッセイ基板20を回転させながら、図10に示すようにウェル26上にサンプルDNA(S)が含有した溶液を滴下し、プローブDNA(P)とサンプルDNA(S)とを相互反応(ハイブリダイゼーション)させる。また、ハイブリダイゼーション反応の終了したバイオアッセイ基板20上に蛍光標識剤Mを含んだバッファ溶液を滴下して、図11に示すようにプローブDNA(P)とサンプルDNA(S)との2重らせん内に蛍光標識剤Mを挿入する。
また、バイオアッセイ装置40は、蛍光標識剤が滴下された後のバイオアッセイ基板20を回転させ、励起光Pを当該バイオアッセイ基板20の下面20b側から入射させてウェル26内の蛍光標識剤に照射し、その励起光Pに応じてその蛍光標識剤から発生した蛍光Fをバイオアッセイ基板20の下方から検出する。
ここで、バイオアッセイ装置40では、励起光Pと制御光Vとを同一の対物レンズ61を介してバイオアッセイ基板20に照射している。そのため、バイオアッセイ装置40では、制御光Vを用いたフォーカス制御、位置決め制御並びにアドレス制御を行うことによって、励起光Pの照射位置、すなわち、蛍光Fの発光位置を特定することが可能となり、その蛍光の発光位置からサンプルDNAと結合したプローブDNAを特定することができる。
(DNA解析方法)
次に、DNA解析方法について説明する。
最初に、バイオアッセイ基板20をバイオアッセイ装置40のディスク装填部41に水平に装填する。
続いて、バイオアッセイ装置40により、アドレスピット27に基づく位置制御を行いながらバイオアッセイ基板20を回転させ、滴下ヘッド53から、一端がSH基等で修飾されたプローブDNAが含有した溶液を所定のウェル26に対して滴下する。このとき、1つのバイオアッセイ基板20に対して、複数種類のプローブDNAが滴下する。但し、1つのウェル26内には1種類のプローブDNAが入るようにする。なお、各ウェル26に何れの種類のプローブDNAを滴下するかは、予めウェルとプローブDNAとの対応関係を示す配置マップ等を作成しておき、その配置マップに基づき滴下制御する。
続いて、バイオアッセイ基板20の上面20a側から、電極をウェル26内の溶液に挿入して、1MV/m、1MHz程度の交流電界を各ウェル26に印加する。このように交流電界を印加すると、プローブDNAがバイオアッセイ基板20に対して垂直方向に伸張するとともに、プローブDNAをバイオアッセイ基板20に垂直方向に移動させて、予め表面修飾処理がされた底面28に対して、プローブDNAの修飾端を結合させ、ウェル26内にプローブDNAを固相化(固定化)することができる(Masao Washizu and Osamu Kurosawa: “ Electrostatic Manipulation of DNA in Microfabricated Structures ”, IEEE Transaction on Industrial Application Vol.26,No26,P.1165-1172(1900) 参照)。
続いて、バイオアッセイ装置40により滴下ヘッド53からサンプルDNAが含有した溶液をバッファ塩を含む溶液とともに、バイオアッセイ基板20上の各ウェル26に滴下する。
続いて、サンプルDNAの滴下後、バイオアッセイ基板20を恒温層等に移し、ウェル26内を数十度に加熱し、加熱した状態のまま1MV/m、1MHz程度の交流電界を印加する。このような処理をすると、サンプルDNAとプローブDNAとが垂直方向に伸張して立体障害の少ない状態となるとともに、サンプルDNAがバイオアッセイ基板20に対して垂直方向に移動する。この結果、互いの塩基配列が対応したサンプルDNAとプローブDNAとが同一のウェル26内にある場合には、それらがハイブリダイゼーション反応を起こす。
続いて、ハイブリダイゼーション反応を起こさせた後に、バイオアッセイ装置40により、インターカレータ等の蛍光標識剤を、バイオアッセイ基板20のウェル26内に滴下する。このような蛍光標識剤は、ハイブリダイゼーション反応を起こしたプローブDNAとサンプルDNAとの2重らせんの間に挿入して結合する。
続いて、バイオアッセイ基板20の表面20aを純水等で洗浄し、ハイブリダイゼーション反応を起こしていないウェル26内のサンプルDNA及び蛍光標識剤を除去する。この結果、ハイブリダイゼーション反応を起こしたウェル26内にのみ、蛍光標識剤が残存することとなる。
続いて、バイオアッセイ装置40により、制御光Fを用いてフォーカスサーボ制御及び位置決めサーボ制御並びにアドレス制御を行いながらバイオアッセイ基板20を回転させ、励起光Pを所定のウェル26に照射する。この励起光Pの照射とともに、アドレス情報を検出しながら蛍光Fが発生しているか否かを検出する。
続いて、バイオアッセイ装置40は、バイオアッセイ基板20上の各ウェル26の位置と蛍光Fの発光の強度を示すマップを作成する。そして、その作成したマップ、並びに各ウェル26にどのような塩基配列のプローブDNAが滴下されていたかを示す配置マップに基づき、サンプルDNAの塩基配列の解析を行う。
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱することなく、様々な変更、置換又はその同等のものを行うことができることは当業者にとって明らかである。
例えば、上述の実施の形態では、バイオアッセイ基板を円盤状に形成したが、この形態に限定されるものではなく、楕円状、矩形状その他の平板状の形態を適宜選択決定することができる。
1,10 カートリッジ、2 メディアストッカ、3 メディアトレイ、4 ガイド、5 蓋部、6 ヒンジ、7 パッキン、8 ロック機構、9 溶液保持パッド、11 バーコード、12 スライドシャッタ