JP4200801B2 - バイオアッセイ用基板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、バイオインフォマティクス(生命情報科学)分野において特に有用なバイオアッセイツールとなる円盤状の情報記録媒体に関する。より詳細には、検出用のヌクレオチド鎖が固定された基板表面部位に、標的ヌクレオチド鎖を含む溶液を滴下することによって、ハイブリダイゼーション反応が高精度に行われるように工夫されたバイオアッセイ用基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
【0003】
本発明の主たる従来技術を以下説明する。現在、マイクロアレイ技術によって所定のDNAが微細配列された、いわゆるDNAチップ又はDNAマイクロアレイ(以下、「DNAチップ」と総称。)と呼ばれるバイオアッセイ用の集積基板が、遺伝子の変異解析、SNPs(一塩基多型)分析、遺伝子発現頻度解析等に利用されており、創薬、臨床診断、薬理ジェノミクス、法医学その他の分野において広範囲に活用され始めている。
【0004】
このDNAチップは、ガラス基板やシリコン基板上に多種・多数のDNAオリゴ鎖やcDNA(complementary DNA)等が集積されていることから、ハイブリダイゼーション等の分子間相互反応の網羅的解析が可能となる点が特徴とされている。
【0005】
DNAチップによる解析手法の一例を簡潔に説明すれば、ガラス基板やシリコン基板上に固相化されたDNAプローブに対して、細胞、組織等から抽出したmRNAを逆転写PCR反応等によって蛍光プローブdNTPを組み込みながらPCR増幅し、前記基板上においてハイブリダイゼーションを行い、所定の検出器で蛍光測定を行うという手法である。
【0006】
ここで、DNAチップは二つのタイプに分類できる。第1のタイプは、半導体露光技術を応用したフォトリソグラフィーの技術を用いて、所定の基板上に直接オリゴヌクレオチドを合成していくものであり、アフィメトリクス社(Affymetrix社)によるものが代表的である(例えば、特表平4−505763号報参照)。この種のチップは、集積度は高いが、基板上でのDNA合成には限界があって、数十塩基程度の長さである。
【0007】
第2のタイプは、「スタンフォード方式」とも称されるもので、先割れピンを用いて、予め用意されたDNAを基板上に分注・固相化していくことによって作製されるものである(例えば、特許第3272365公報参照)。この種のチップは、集積度は前者に比べて低いが、1kb程度のDNA断片を固相化できるという利点がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来のDNAチップ技術では、該DNAチップ自体の集積数、集積密度が少なかったので、一度のアッセイで達成できる解析量が充分とは言えず、検出用物質の種類と数、更にはその基板上における配置分け(グルーピング)を、ユーザーが自由に設定することが困難であった。
【0009】
また、従来のDNAチップでは、基板表面に予め固定され、検出用として用いられるヌクレオチド鎖は、必ずしも直鎖状に保持されているわけではないことから、立体障害等によって、標的ヌクレオチドとのハイブリダイゼーション反応の精度にばらつきがあり、反応にも長時間を要していた。
【0010】
更には、Tm(melting Temperature)又はGC含有率が揃っていないDNAプローブが二次元の平面的な広がりを持つ基板表面上に検出用物質が配列された構成の従来のDNAチップにおいては、同一のハイブリダイゼーション条件、洗浄条件に晒されて偽陽性又は偽陰性を示す危険性が高いという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、固定化される検出用物質の集積量が多く、また、該物質のグルーピングが自在で、かつ安価なバイオアッセイ基板であって、ハイブリダイゼーション反応の精度が高いバイオアッセイ用基板を提供することを主な目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を解決するために、まず、本願においては、以下の「バイオアッセイ用基板」を提供する。なお、本願において「バイオアッセイ」とは、ハイブリダイゼーションその他の物質間の相互反応に基づく生化学的分析を意味する。
【0013】
本発明に係る「バイオアッセイ用基板」は、光学的に記録情報の読み取りが可能とされた円盤状基板上に、少なくとも、(1)検出用ヌクレオチド鎖の末端部位が固定可能に表面処理が施された検出表面、(2)前記検出表面に固定された状態の出用ヌクレオチド鎖に対して電界を印加する電極、(3)前記検出用ヌクレオチド鎖と標的ヌクレオチド鎖との間のハイブリダイゼーション反応の場となる反応領域、を備える「検出部」が設けられている。
【0014】
この「検出部」を有するバイオアッセイ基板では、検出表面に固定された検出用ヌクレオチドに電界を印加した上で、標的ヌクレオド鎖を含むサンプル溶液を、検出部の前記反応領域を狙って正確に滴下し、検出用ヌクレオチド鎖と標的ヌクレオチド鎖との間のハイブリダイゼーション反応を進行させることができる。この結果、ハイブリダイゼーション反応を短時間で効率良く行うことができるという有利な効果が得られる。
【0015】
前記効果は、リン酸イオン等を備えるヌクレオチド鎖の陰電荷とイオン化した水素原子の陽電荷で構成される多数の分極ベクトルからなるヌクレオチド鎖が、電界の印加により伸長して、塩基同士が重層することが無くなる結果、反応時の立体障害がなくなり、近在する標的ヌクレオチドと検出用ヌクレオチドとのハイブリダイゼーション反応が円滑に行われるようになることによってもたらされる。
【0016】
ここで、ヌクレオチド鎖が伸長又は移動する原理を詳説すると、ヌクレオチド鎖の骨格をなすリン酸イオン(陰電荷)とその周辺にある水がイオン化した水素原子(陽電荷)とによってイオン曇を作っていると考えられ、これらの陰電荷及び陽電荷により生じる分極ベクトル(双極子)が、高周波高電圧の印加により全体として一方向を向き、その結果としてヌクレオチド鎖が伸長すると考えられる。加えて、電気力線が一部に集中する不均一電界が印加された場合、ヌクレオチド鎖は電気力線が集中する部位に向かって移動する(Seiichi Suzuki,Takeshi Yamanashi,Shin-ichi Tazawa,Osamu Kurosawa and Masao Washizu:“Quantitative analysis on electrostatic orientation of DNA in stationary AC electric field using fluorescence anisotropy”,IEEE Transaction on Industrial Applications,Vol.34,No.1,P75-83(1998)参照)。
【0017】
ここで、本願において「ヌクレオチド鎖」とは、プリンまたはピリミジン塩基と糖がグリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステルの重合体を意味し、DNAプローブを含むオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、プリンヌクレオチドとピリミジンヌクレオチオドが重合したDNA(全長あるいはその断片)、逆転写により得られるcDNA(cDNAプローブ)、RNA等を広く含む。
【0018】
「検出表面」は、ヌクレオチド鎖の末端を、カップリング反応その他の化学結合によって固定化できる好適な表面処理が施された表面部位を意味し、狭く解釈されない。一例を挙げれば、ストレプトアビジンによって表面処理された検出表面の場合には、ビオチン化されたヌクレオチド鎖の固定化に適する。
【0019】
ここで、前記検出表面に電気力線が集中するような電界を印加すると、結果的に、電界により伸長処理(前述)されたヌクレオチド鎖が該検出表面に向かって移動し、その末端部位が検出表面に衝突することによって、検出用のヌクレオチド鎖を検出表面に確実に固定することができる。
【0020】
「反応領域」は、液相中でのハイブリダイゼーション反応の場を提供できる区画された領域又は空間であって、かつ対向する電極間に電位差が生じることで、液相に電場が形成される領域である。
【0021】
なお、この反応領域では、一本鎖ヌクレオチド間の相互反応、即ちハイブリダイゼーションに加え、検出用ヌクレオチド鎖から所望の二本鎖ヌクレオチドを形成し、該二本鎖ヌクレオチドとペプチド(又はタンパク質)の相互反応、酵素応答反応その他の分子間相互反応も行わせることができる。例えば、前記二本鎖ヌクレオチドを用いる場合は、転写因子であるホルモンレセプター等のレセプター分子と応答配列DNA部分の結合等を分析することができる。
【0022】
次に、本発明に係るバイオアッセイ用基板では、上記した「検出部」を、一壁面に検出表面が形成されたセル構造を備えるセル検出部とし、このセル検出部を円盤状基板上に複数配設させた形態を採用することができる。なお、「セル検出部」とは、周辺の基板領域とは区画された小室状の反応領域を備える部位と定義する。
【0023】
この「セル検出部」は、基板上の適宜な位置に配設することが可能であるが、上方視放射状を呈するように並べて配設すれば、基板上のスペースを有効に利用できるので、情報の集積密度を高めることができる。即ち、記録情報の集積量が多い(円盤状の)DNAチップを提供できる。
【0024】
また、セル検出部は、互いにコンタミネーションしないように区画されているので、セル検出部単位又はグルーピングされた複数のセル検出部単位で、異なる検出用ヌクレオチド鎖を固定し、検出用ヌクレオチド鎖ごとに別個独立の条件を設定して、ハイブリダイゼーション反応を進行させることができる。
【0025】
例えば、疾病発症のマーカー遺伝子を基板上にグルーピングして固定できる。これにより、一つの基板を用いて、同時に複数の疾病の発現状況を確認することができる。
【0026】
また、Tm又はGC含有率の違いに基づいて、固定化する検出用ヌクレオチド鎖をグルーピングしておくことが可能となる。これにより、アクティブなハイブリダイゼーション反応が得られるバッファー組成、濃度等の反応条件、洗浄条件、滴下するサンプル溶液濃度等を、検出用ヌクレオチド鎖の性質に応じてきめ細かく選択することが可能になるので、解析作業において偽陽性又は偽陰性が示される危険性を格段に減少させることができる。
【0027】
次に、本発明に係るバイオアッセイ用基板では、前記検出部の反応領域を、円盤状基板上に放射状に延設された条溝内に形成又は配置し、該条溝の内壁面には、前記検出表面を配設するという構成も採用できる。
【0028】
なお、基板に形成される「条溝」とは、筋状に延設された細長のマイクロチャンネル構造を意味し、この条溝を備えるバイオアッセイ用基板が属する一つの分野は、円盤状のマイクロチャネルアレイと言える。以下、反応領域が条溝内に設けられている構成の検出部を、上記「セル検出部」にならって、便宜上「条溝検出部」と称することにする。
【0029】
この「条溝検出部」を採用した場合は、毛細管現象を利用した送液や、円盤状の基板を所定の方法で回転させることによって生じる遠心力を生かした送液方法を利用することができる。例えば、サンプル溶液や反応後にアクティブに結合しなかった余分な標的物質を除去するための洗浄液等を、基板中心領域から条溝内(即ち反応領域)に、円滑かつ確実に送液することが可能となる。
【0030】
なお、条溝検出部の場合でも、前記条溝単位又はグルーピングされた複数の条溝単位に、異なる検出用ヌクレオチド鎖を固定することができる。
【0031】
以上説明したバイオアッセイ用基板において、前記検出表面部位の位置情報と回転同期情報を提供する手段を備えた場合、前記位置情報と回転同期情報に基づいて、検出用ヌクレオチド含有溶液並びに標的ヌクレオチド含有溶液を、所定の反応領域に正確に追従させて滴下することができる。
【0032】
前記手段は、前記基板上に設けられたウォブリングまたはアドレスピットによるものとすることができる。なお、「ウォブリング」とは、ディスク上の物理的な番地(アドレス)の情報を予めディスク上に記録するために、ユーザーによるデータを記録するグルーブ(案内溝)をトラックの中心に対してわずかに左右に蛇行させることである。通常、トラッキングサーボ帯域より高い周波数に対し、わずかな周波数の偏向(Deviation)を有するFM変調を行われ、正弦波変調信号振幅をグルーブ半径方向変位として基板上に刻まれる。
【0033】
以上説明したバイオアッセイ用基板上に設けられた上記反応領域に対しては、室温と反応至適温度との間で、ゲル、ゾルの可逆相変化が起こりえる物質(「相変化物質」と称する。)を充填することも可能である。相変化物質の一例としては、アガロースゲルを挙げることができる。
【0034】
この手段では、相変化物質を高温下で前記相変化物質をゾル化し、この状態で電圧を印加してDNA等のヌクレオチド鎖を配列した後に、温度を低下させてゲル化し、更に続いてハイブリダイゼーション時には、反応至適温度条件でゾル化する手順を実行でき、ハイブリダイゼーション時において前記相変化物質をゲル状態に保持しておけば、DNA等のヌクレオチド鎖を伸長させた状態でハイブリダイゼーションさせることができるので好適である。なお、前記相変化物質がゲル化した状態のときには、標的ヌクレオチド鎖を含む試料溶液を検出部に滴下した際に、ハイブリダイゼーションがうまく進行しないおそれがあるので、電気泳動の場合と同様に、滴下ポイントに縦方向の溝を予め形成しておき、この溝の中に試料溶液を滴下してもよい。
【0035】
本発明において、標的ヌクレオチド鎖は、蛍光色素で標識する手段か、インターカレータを用いる手段のいずれも採用できる。「インターカレータ」は、検出用ヌクレオチド鎖と標的ヌクレオチド鎖との塩基間の水素結合中に挿入されるようにして、ハイブリダイゼーションした二本鎖ヌクレオチド鎖に取り込まれる。これにより、長波長側に蛍光波長がシフトし、かつ、蛍光強度と二本鎖ヌクレオチド鎖に取り込まれたインターカレータの量との間には相関関係があるので、この相関関係に基づいて、定量的な検出が可能になる。
【0036】
以上のように、本発明は、遺伝子の変異解析、SNPs(一塩基多型)分析、遺伝子発現頻度解析等に利用できる新規なバイオアッセイ用基板を、創薬、臨床診断、薬理ジェノミクス、法医学その他の関連産業界に提供するという技術的意義を有している。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に基づき、本発明の好適な実施形態について説明する。まず、図1は、本発明に係るバイオアッセイ用基板の第1実施形態の外観斜視図である。
【0038】
図1において符号1で示されるバイオアッセイ用基板(以下、「基板」と略称する。)は、CD、DVD、MD等の光情報記録媒体に用いられる円盤状基板(ディスク)に採用される基材から形成されている。即ち、基板1は、光学的に記録情報の読み取りが可能とされている。
【0039】
前記基材は、石英ガラスやシリコン、ポリカーボネート、ポリスチレンその他の円盤状に成形可能な合成樹脂、好ましくは射出成形可能な合成樹脂によって円盤状に形成されている。なお、安価な合成樹脂基板を用いることで、従来のガラスチップに比して低ランニングコストを実現できる。
【0040】
この基板1の一方の表面には、反射膜である厚さ40nm程度のアルミ蒸着層が形成されており、該層は反射膜として機能している。この反射膜は、屈折率1.5以上の基盤単体からの表面反射4%以上とする。この反射膜の上層には、透明なガラスや透明樹脂等からなる光透過層が成膜されている。
【0041】
なお、基材が高反射率の材料である場合には、基材表面自体が反射面として機能するので前記反射膜は形成しなくてもかまわない。金属膜などの高反射率膜を形成すれば蛍光標識された標的物質の蛍光強度を、感度良く検出することができる。以上説明した基板1の材質や層構造は、後述する基板4(図4参照)においても同様である。
【0042】
ここで、前記光透過層には、基板1の中心の周辺領域から上方視放射状に延びるように、セル検出部2が多数配設されている。図2は、このセル検出部2の一つを拡大して示す外観斜視図である。
【0043】
セル検出部2には、符号Dで示す検出用ヌクレオチド鎖の末端部位が固定できるように表面処理が施されている検出表面21と、この検出表面21に予め固定された検出用ヌクレオチド鎖Dに対して電界を印加する対向電極22a、22bと、前記検出用ヌクレオチド鎖Dと標的ヌクレオチド鎖Tとの間のハイブリダイゼーション反応の場となる反応領域23とを備えている。この反応領域23は、上方に開口する上方視矩形状のセル、例えば、深さ1μm、長さ100μm、幅50μmのセルとして形成されているが、図示された形状、サイズに限定されない。
【0044】
検出表面21は、一方の電極22bの反応領域23側に向く内壁面部位に形成されている。この検出表面21は、検出用ヌクレオチド鎖Dの末端がカップリング反応等の化学結合によって固定されるように表面処理されている。
【0045】
即ち、検出表面21は、DNAプローブ等の検出用ヌクレオチド鎖Dの予め加工された末端部位を固定化するのに好適な表面処理が施されていればよいのであって、狭く限定されない。一例を挙げれば、ストレプトアビジンによって表面処理された検出表面21の場合には、ビオチン化されたヌクレオチド鎖末端の固定化できる。
【0046】
具体的には、前記検出表面21に電気力線が集中するような電界を印加すると、高周波高電圧の印加によって伸長処理されたヌクレオチド鎖が検出表面21に向かって移動し、その末端部位が検出表面21に衝突することによって、検出用ヌクレオチド鎖Dを検出表面21に確実に固定化することができる。このため、一方の電極22bが櫛形とされている(図2参照)。
【0047】
図2中の符号3は、試料溶液S(S’)を滴下するノズルの先端部位を示している。ノズル3は、基板1から提供される位置情報と回転同期情報に基づいて、検出用ヌクレオチド鎖Dを含有する試料溶液S並びに標的ヌクレオチド鎖Tを含有する試料溶液S’を、反応領域23に正確に追従して滴下する構成とされている。
【0048】
前記反応領域23に滴下されてきた検出用ヌクレオチド鎖Dの多くは、塩基が重層した状態で検出表面21に固定されるので、後から滴下された標的ヌクレオチド鎖Tとのハイブリダイゼーション反応の際には、立体障害の問題が発生する。
【0049】
そこで、本発明では、セル検出部2に配設された上記対向する電極22a,22b間に電位差を生ぜしめることによって、反応領域23に貯留保持されている液相(塩溶液)に電場(電界)を形成し、電界の向きに沿って検出用ヌクレオチド鎖Dが直鎖状に伸長する作用を得る。なお、電界の条件は、1×10 6 V/m、約1MHzという条件が、好適条件例と考えられる(Masao Washizu and Osamu Kurosawa:“Electrostatic Manipulation of DNA in Microfabricated Structures”,IEEE Transaction on Industrial Application Vol.26,No.26,P.1165-1172(1990)参照)。
【0050】
なお、基板1上にセル検出部2が列設された場合においては、セル検出部2ごとに対向する電極22a , 22bを設ける構成、対向する電極22a , 22bをそれぞれ共通電極とする構成のいずれを採用してもよい。
【0051】
直鎖状に伸長された検出用ヌクレオチド鎖Dと蛍光色素等によって標識された標的ヌクレオチド鎖Tの塩基間の水素結合(相補結合)は、立体障害が少なくなるので、効率良く進行することになる。即ち、検出用ヌクレオチド鎖Dと前記標的ヌクレオチド鎖Tとのハイブリダイゼーション反応が効率良く進行するという結果が得られる。この結果、ハイブリダイゼーションの反応時間が短縮されるとともに、擬陽性又は偽陰性を示す確率も減少するという好ましい結果が得られる。
【0052】
ここで、図3は、セル検出部2の反応領域23の検出表面21付近を拡大して示す模式図である。この図3では、検出表面21にその末端部位が固定された検出用ヌクレオチド鎖Dと該検出用ヌクレオチド鎖Dの塩基配列と相補性のある塩基配列を備える標的ヌクレオチド鎖Tがハイブリダイゼーションし、二重鎖を形成している状態が模式的に表されている。
【0053】
反応領域23(後述する反応領域53についても同様。)に対しては、室温と反応至適温度との間で、ゲル、ゾルの可逆相変化が起こりえるアガロースゲル等の相変化物質(図示せず。)を充填することも可能である。この実施形態では、前記相変化物質を高温下で前記相変化物質をゾル化し、この状態で電圧を印加してDNA等のヌクレオチド鎖を配列した後に、温度を低下させてゲル化し、更に続いてハイブリダイゼーション時には、反応至適温度条件でゾル化する手順を行うことができるという利点がある。また、ハイブリダイゼーション時において前記相変化物質をゲル状態に保持しておけば、DNA等のヌクレオチド鎖を伸長させた状態でハイブリダイゼーションさせることができるので好適である。
【0054】
なお、前記相変化物質がゲル化した状態のときには、標的ヌクレオチド鎖Tを含む試料溶液S’を検出部2に滴下した際に、ハイブリダイゼーションの進行がうまくいかないおそれがあるので、電気泳動の場合と同様に、滴下ポイントに縦方向の溝を予め形成しておき、この溝の中に試料溶液を滴下してもよい。
【0055】
ここで、標的ヌクレオチド鎖Tは、蛍光色素で標識してもよく、インターカレータを用いてもよい。インターカレータは、検出用ヌクレオチド鎖Dと標的ヌクレオチド鎖Tとの塩基間の水素結合中に挿入されるように、ハイブリダイゼーションした二本鎖ヌクレオチド鎖に取り込まれる。これにより、長波長側に蛍光波長がシフトし、かつ、蛍光強度と二本鎖DNAに取り込まれたインターカレータの量との間の相関関係に基づいて、定量的な検出が可能になる。インターカレータとして用いる蛍光色素としては、POPO−1やTOTO−3等が考えられる。
【0056】
これは、例えば、所定の細胞等から抽出された試料溶液S’中に、特定の疾病が起こると発現することが知られているマーカー遺伝子を含む検出用ヌクレオチド鎖Dと相補性を有する標的ヌクレオチド鎖が存在するという事実が認識でき、その結果、前記細胞には前記疾病が発生していることが予測されることになる。
【0057】
次に、図4を参照して、本発明に係る基板の第2実施形態について説明する。図4(A)は、第2実施形態である基板の上方視平面図、図4(B)は、図4(A)中のX部の拡大平面図、である。
【0058】
図4に符号4で示された基板は、条溝検出部5を備える。条溝検出部5は、反応領域53が円盤状基板上に放射状に延設された条溝を備え、該条溝を形成する長手方向の片側の内壁面Iには、上記検出表面21と同様の構成を備える検出表面51が、所定間隔で配設されている。また、検出表面51が形成された各部位には、反応領域53を挟むように対向する電極52a,52bが対設されている(図4(B)参照)。なお、互いに離間するように配設された一方の電極52a,52a・・・(図4(B)参照)を共通電極化することも可能であり、同様に、互いに離間するように配設された他方の電極52b,52b・・・(図4(B)参照)についても共通電極化することができる。即ち、一方の共通電極と他方の共通電極を、反応領域53を挟むように対向させて、基板上に、放射状をなすように並設することができる。この構成により、針状のプローブを両共通電極に上方から押し当てて、通電させることができる。
【0059】
反応領域53は、各条溝内に配列形成したピット(図示せず)に形成してもよく、このピットの反応領域に微小滴を滴下することによって、ほぼ同一のスポットサイズを実現し、再現性の良い蛍光強度検出を実現できる。
【0060】
また、上記構成の条溝検出部5を採用した場合は、毛細管現象を利用した送液や、円盤状の基板を所定の方法で回転させることによって生じる遠心力を生かした送液手段も利用することができる。
【0061】
具体的には、基板4の中央部に液溜部6を設け、この液溜部6に、試料溶液S(S’)や反応後にアクティブに結合しなかった余分な標的物質を除去するための洗浄液等を注入し、基板4を回転させることによって、基板中心領域から条溝内(即ち反応領域53)に、円滑かつ確実に送液することができる。
【0062】
上記セル検出部2又は条溝検出部5のいずれの場合でも、検出部単位又はグルーピングされた複数の検出部単位に、異なる検出用ヌクレオチド鎖を固定することができる。
【0063】
以下、基板1(4)の位置情報及び回転同期情報について簡潔に説明すると、基板1(4)の回転方向には、予め光ディスクマスタリングプロセスにより形成された多数のアドレスピットが形成されている。基板1(4)を光ディスクとして考えた場合、滴下検出位置である反応領域23(53)をユーザーデータ領域と考え、他の領域は、サンプルサーボ方式等により同期ピットを配列し、かつトラッキングサーボとしても利用し、更に、直後にアドレス部(ディスク上の地理的な番地)を挿入することによって位置情報を与える。
【0064】
アドレス部は、先頭パターンであるセクターマークから始まり、実際に回転しているディスクの回転位相を与えるVFO(Variable Frequency Oscillator)とアドレスデータの開始位置を与えるアドレスマークとトラックとセクタのナンバーが入ったID(Identifer)などが組み合わされてなる。
【0065】
上記構成の基板1(4)を用いてバイオアッセイを行うためには、少なくとも次の手段及び機構を備える装置を使用する。即ち、前記基板1(4)を回転可能に保持する基板回転手段と、この基板回転手段によって、前記基板1(4)を回転させながら検出用ヌクレオチド鎖含有溶液S並びに標的ヌクレオチド鎖含有溶液S‘を反応領域23(53)に対して、定の順序、タイミングで滴下する滴下手段と、該滴下手段(のノズル)と基板1(4)との間の距離を一定に保持するためのフォーカスサーボ機構と、基板1(4)から提供される位置情報と回転同期情報に基づいて、前記溶液S,S’の滴下を基板1(4)の反応領域23(53)に追従させるトラッキングサーボ機構を少なくとも備えている装置(図示せず。)である。
【0066】
なお、上記アドレスピットを用いる代わりにトラック上にウォブリングを形成し、位置に応じたクロック情報を持たせるようにウォブリングの蛇行を調節して、ディスク上の位置情報を取得してアドレッシングを行うようにしても良い。同時に、ウォブリング周波数成分を利用することでトラッキングサーボを行うことができる。さらに、アドレスピットとウォブリングを併せて形成することにより、より高精度のアドレッシングおよびトラッキングサーボが可能となる。
【0067】
なお、前記滴下手段には、インクジェットプリンティング法を用いるのが好ましい。その理由は、所定の反応領域23(53)部位に正確に追従して、微小滴微小滴を、正確に滴下することができるからである。
【0068】
「インクジェットプリンティング法」は、インクジェットプリンターで用いられるノズルを応用する方法であって、電気を用いてインクジェットプリンターのようにプリンターヘッドから基板に検出用物質を噴射し、固定する方法である。この方法には、圧電式インクジェット法、バブルジェット(登録商標)法、超音波ジェット法がある。
【0069】
圧電式インクジェット法は、圧電体にパルスを印加することによって生じる変位の圧力によって液滴を飛ばす方法である。バブルジェット(登録商標)法は、熱方式であって、ノズル中のヒーターを熱して発生させた気泡の圧力によって液滴を飛ばす方式である。ノズル内にヒーターとなるシリコン基板を埋め込み、約300℃/sで制御して一様な気泡を作成し、液滴を押し出す。しかしながら、高温に液体が曝されることになることから、生体物質試料に用いる際には注意を要する。超音波ジェット法は、超音波ビームを液体の自由面に当てて、局所的に高い圧力を与えることによってその箇所から小滴を放出させる方式である。ノズルを必要とせず、高速で直径約1μmの小滴を形成できる。
【0070】
本発明においては、「インクジェットプリンティング法」として、「圧電式インクジェッティング法」を好適に採用できる。印加するパルスの形状を変えることによって、液滴(微小滴)のサイズを制御することができるので、解析精度向上に好適である。液滴表面の曲率半径が小さいときは液滴を小さくし、液滴の曲率半径が大きいときは、液滴を大きくすることができる。また、パルスを急激に負の方向に変化させることにより液滴表面を内側に引っ張り、曲率半径を小さくすることも可能である。
【0071】
次に、基板情報の読み取りは、基板1(4)にレーザー光(例えば、青色レーザー光)を照射して各反応領域23(53)を励起させ、蛍光強度の大きさを検出器(図示せず。)によって検出し、検出用ヌクレオチド鎖Dと標識された標的ヌクレオチド鎖の間の結合反応状況を判断する。最後に、各反応領域23(53)に対する蛍光強度を、A/D変換して結合反応割合をコンピュータCの画面に分布表示することによって、視覚化する。
【0072】
【発明の効果】
(1)本発明に係るバイオアッセイ用基板は、多量・多数の検出部を形成できるので情報の集積量が多い。
【0073】
(2)検出部の検出表面に固定された検出用ヌクレオチドに電界を印加した上で、標的ヌクレオド鎖を含むサンプル溶液を、検出部の前記反応領域を狙って正確に滴下し、検出用ヌクレオチド鎖と標的ヌクレオチド鎖との間のハイブリダイゼーション反応を進行させる構成であるので、ハイブリダイゼーション反応を短時間で効率良く行うことができる。
【0074】
(3)検出部単位又はグルーピングされた検出部単位で、至適な反応条件等を選択してアッセイを行うことができるので、偽陽性、偽陰性の結果の発生率を格段に減少させることができる。従って、前記バイオアッセイ用基板によれば、網羅的かつ効率的で、しかも高精度な解析を行うことができ、記録情報当りのコストも安価である。
【0075】
(4)本発明に係るバイオアッセイ用基板は、DNAチップやバイオセンサーチップとして、特に有用である。また、新規構造を備える円盤状のマイクロチャネルアレイを提供できる。本基板をDNAチップとして利用する場合は、遺伝子の変異解析、SNPs(一塩基多型)分析、遺伝子発現頻度解析等に利用でき、創薬、臨床診断、薬理ジェノミクス、法医学その他の分野において広範囲に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る好適な実施形態であるバイオアッセイ用基板(1)を上方視したときの外観斜視図
【図2】基板(1)に設けられたセル検出部(2)の一つを拡大して示す外観斜視図
【図3】同セル検出部(2)の反応領域(23)の検出表面(21)付近を拡大して示す図
【図4】(A)第2実施形態であるバイオアッセイ用基板(4)の上方視平面図
(B)前図(A)中のX部の拡大平面図
【符号の説明】
1,4 バイオアッセイ用基板
21,51 検出表面
23,53 反応領域
D 検出用ヌクレオチド鎖
T (標識された)標的ヌクレオチド鎖
Claims (8)
- 光学的に記録情報の読み取りが可能とされた円盤状基板の上に、
少なくとも次の(1)〜(3)を備えるセル検出部が複数配設されたことを特徴とするバイオアッセイ用基板。
(1)前記セル検出部の一壁面に形成され、検出用ヌクレオチド鎖の末端部位が固定可能に表面処理が施された検出表面。
(2)前記検出表面に固定された状態の前記検出用ヌクレオチド鎖に対して電界を印加する電極。
(3)前記検出用ヌクレオチド鎖と標的ヌクレオチド鎖との間のハイブリダイゼーション反応の場となる反応領域。 - 前記セル検出部は、前記円盤状基板上に、上方視放射状を呈するように配設されたことを特徴とする請求項1記載のバイオアッセイ用基板。
- 前記セル検出部単位又はグルーピングされた複数のセル検出部単位に、異なる検出用ヌクレオチド鎖が固定されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオアッセイ用基板。
- 前記セル検出部の反応領域は、円盤状基板上に放射状に延設された条溝内に設けられ、該条溝の内壁面には、前記検出表面が配設されたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のバイオアッセイ用基板。
- 前記条溝単位又はグルーピングされた複数の条溝単位に、異なる検出用ヌクレオチド鎖が固定されたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のバイオアッセイ用基板。
- 前記検出表面部位の位置情報と回転同期情報を提供する手段を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のバイオアッセイ用基板。
- 前記手段は、前記基板上に設けられたウォブリングまたはアドレスピットによることを特徴とする請求項6記載のバイオアッセイ用基板。
- インターカレータを用いて前記ハイブリダイゼーション反応を検出することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のバイオアッセイ用基板。
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