JP2005239498A - 有機無機ハイブリッドガラス状物質とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】気密性能を有し、耐熱性、化学的耐久性及び接着性が高く、低融点でかつ800〜2100nmの赤外線領域で透明な材料はなかった。
【解決手段】溶融性を有する原材料の溶融後又は溶融・熟成後さらに溶融した温度よりも100℃以上高い温度で熱処理する有機無機ハイブリッドガラス状物質の製造方法。溶融性を有する原材料はフェニル基を含み、熱処理は300℃以上600℃以下で行う特徴を有す。さらに、3mm厚換算で800〜2100nmにおける平均透過率が75%以上である有機無機ハイブリッドガラス状物質。軟化温度が50℃〜350℃、溶融性を有し、1100nmでの光透過率を基準としたシラノール基の吸収による光透過の低下率が10%以下である特徴を有す。
【選択図】 なし
【解決手段】溶融性を有する原材料の溶融後又は溶融・熟成後さらに溶融した温度よりも100℃以上高い温度で熱処理する有機無機ハイブリッドガラス状物質の製造方法。溶融性を有する原材料はフェニル基を含み、熱処理は300℃以上600℃以下で行う特徴を有す。さらに、3mm厚換算で800〜2100nmにおける平均透過率が75%以上である有機無機ハイブリッドガラス状物質。軟化温度が50℃〜350℃、溶融性を有し、1100nmでの光透過率を基準としたシラノール基の吸収による光透過の低下率が10%以下である特徴を有す。
【選択図】 なし
Description
本発明は、ゾルゲル法に用いられる原料を出発原料とする有機無機ハイブリッドガラス状物質とその製造方法に関する。
600℃以下で軟化する材料としては、高分子材料や低融点ガラスなどが有名であり、古くから封着・封止材料、パッシベーションガラス、釉薬など、多くのところで用いられてきた。高分子材料と低融点ガラスでは、その諸物性が異なるので、その使用できる環境に応じて使い分けられてきた。一般的には、耐熱性や気密性能が優先される場合にはガラスが、耐熱性や気密性能以外の特性が優先される分野では高分子材料に代表される有機材料が使われてきた。しかし、昨今の技術進歩に伴い、これまで要求されなかった特性も着目され、その特性をもった材料の開発が期待されている。
このため、耐熱性や気密性能を増能させた高分子材料や、軟化領域を低温化させたガラスいわゆる低融点ガラスの開発が積極的になされている。特に、耐熱性や気密性能が要求される電子材料市場において、PbO-SiO2-B2O3系あるいはPbO-P2O5-SnF2系ガラスなどに代表される低融点ガラスは、電子部品の封着、被覆などの分野で不可欠の材料となっている。また、低融点ガラスは高温溶融ガラスに比べ、その成形加工に要するエネルギーひいてはコストを抑えられるため、省エネルギーに対する昨今の社会的要請とも合致している。さらに、光機能性能の有機物を破壊しない温度で溶融することが可能ならば、光機能性有機物含有(非線形)光学材料のホストとして光スイッチなどの光情報通信デバイスなどへの応用が期待される。このように、一般的な溶融ガラスの特徴である耐熱性や気密性能を有し、かつ高分子材料のように種々の特性を得やすい材料は多くの分野で要望され、特に低融点ガラスにその期待が集まっている。さらに、有機無機ハイブリッドガラスも低融点ガラスの一つとして着目されている。
低融点ガラスでは、例えば、Sn−Pb−P−F−O系ガラス(例えば、非特許文献1参照)に代表されるTickガラスが有名であり、100℃前後にガラス転移点を持ち、しかも優れた耐水性を示すので、一部の市場では使われてきている。しかしながら、この低融点ガラスはその主要構成成分に鉛を含むので、昨今の環境保護の流れから代替材料に置き換える必要性がでてきている。さらには、Tickガラスに対する要求特性も大きく変化していると同時に、その要望も多様化している。
一般的なガラスの製造方法としては、溶融法と低温合成法が知られている。溶融法はガラス原料を直接加熱することにより溶融してガラス化させる方法で、多くのガラスがこの方法で製造されており、低融点ガラスもこの方法で製造されている。しかし、低融点ガラスの場合、融点を下げるために、鉛やアルカリ、ビスマスなどの含有を必要とするなど、構成できるガラス組成には多くの制限がある。
一方、非晶質バルクの低温合成法としては、ゾルゲル法、液相反応法及び無水酸塩基反応法が考えられている。ゾルゲル法は金属アルコキシドなどを加水分解−重縮合し、500℃を超える温度(例えば、非特許文献2参照)、通常は700〜1600℃で熱処理することにより、バルク体を得ることができる。しかし、ゾルゲル法で作製したバルク体を実用材料としてみた場合、原料溶液の調製時に導入するアルコールなど有機物の分解・燃焼、又は有機物の分解ガス若しくは水の加熱過程における蒸発放出などのために多孔質となることが多く、耐熱性や気密性能には問題があった。このように、ゾルゲル法によるバルク製造ではまだ多くの問題が残っており、特に低融点ガラスをゾルゲル法で生産することはなされていない。
さらに、液相反応法は収率が低いために生産性が低いという問題の他、反応系にフッ酸などを用いることや薄膜合成が限度とされていることなどから、現実的にバルク体を合成する手法としては不可能に近い状態にある。
無水酸塩基反応法は、近年開発された手法であり、低融点ガラスの一つである有機無機ハイブリッドガラスの製作も可能(例えば、非特許文献3参照)であるが、まだ開発途上であり、すべての低融点ガラスが製作できているわけではない。
したがって、多くの低融点ガラスの製造は、低温合成法ではなく、溶融法により行われてきた。このため、ガラス原料を溶融する都合上からそのガラス組成は制限され、生産できる低融点ガラスとなると、その種類は極めて限定されていた。
なお、現時点では耐熱性や気密性能から、低融点ガラスが材料として有力であり、低融点ガラスに代表される形で要求物性が出されることが多い。しかし、その材料は低融点ガラスにこだわるものではなく、要求物性が合致すれば、ガラス以外の低融点あるいは低軟化点物質で大きな問題はない。
すなわち、現在の低融点ガラスよりも低軟化点で、鉛を含まず、化学的耐久性を有しながら、透明である物質はこれまでなかった。
公知技術をみれば、ゾルゲル法による石英ガラス繊維の製造方法(例えば、特許文献1参照)が、ゾルゲル法による酸化チタン繊維の製造方法(例えば、特許文献2参照)が、さらにはゾルゲル法による半導体ドープマトリックスの製造方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。また、溶融法によるP2O5−TeO2−ZnF2系低融点ガラスが知られている(例えば、特許文献4参照)。
多くの低軟化点材料、特に低融点ガラスの製造は、溶融法により行われてきた。このため、そのガラス組成には多くの制限があり、ガラス原料を溶融する都合上、生産できる低融点ガラスは極めて限られていた。
一方、低温合成法のゾルゲル法で製造した場合、緻密化のために500℃以上の処理温度が必要となるが、その温度で処理すると低融点ガラスとはならないので、結果として耐熱性や気密性能の良好な低融点ガラスを得ることはできなかった。特に、電子材料分野では、厳しい耐熱性や気密性能と低融点化に対応する低融点ガラス又はガラス以外の低融点材料もこれまで見出されていなかった。
特開昭62-297236号公報、特開昭62-223323号公報及び特開平1-183438号公報で開示された方法は、高温溶融でのみ対応可能であった材料生産を低温でも可能としたという功績はあるが、低融点ガラスを製造することはできない。また、ゾルゲル処理後には、500℃以上での処理も必要である。一方、特開平7-126035号公報の方法では、転移点が3百数十℃のガラスを作製できることが開示されている。しかし、それ以下の転移点をもつガラスを鉛やビスマスなどを始めとする低融点化材料なしで製作した例はこれまでなかった。
すなわち、これまでの低融点ガラスの製造方法では、厳しい耐熱性や気密性能と低融点特性、さらには透明性を同時に満たすガラスを作ることはできなかった。また、ガラス以外の材料でもこのような特性を満たすものはなかった。さらには、最初に製作したガラスの軟化温度が350℃以下、特に100℃以下となるガラスはこれまでなかったし、簡単に製造することもできなかった。
本発明は、有機無機ハイブリッドガラス状物質を製造する場合において、溶融性を有する原材料の溶融後又は溶融・熟成後さらに溶融した温度よりも100℃以上高い温度で熱処理する有機無機ハイブリッドガラス状物質の製造方法である。
また、溶融性を有する原材料はフェニル基を含んでいる上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質の製造方法である。
また、熱処理は300℃以上650℃以下行う上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質の製造方法である。
さらに、上記の方法で製造された有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
さらにまた、3mm厚換算で800〜2100nmにおける平均透過率が75%以上である上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
さらにまた、軟化温度が50℃〜350℃であり、溶融性を有する上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
さらにまた、T2ユニットと(Dユニット+T3ユニット+T2ユニット+T1ユニット)の比が0.1以下である上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
さらにまた、1100nmでの光透過率を基準とした場合における光透過率のシラノール基吸収による低下率が10%以下である上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
さらにまた、ガラス状物質の一部又はすべてに不規則網目構造を有する上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
さらにまた、フェニル基を含有するこ上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
本発明により、これまで製作することが極めて難しいとされてきた気密性能を有し、耐熱性、化学的耐久性及び接着性が高く、低融点でかつ800〜2100nmの赤外線領域で透明な有機無機ハイブリッドガラス状物質を生成することができた。
本発明は、有機無機ハイブリッドガラス状物質を製造する場合において、溶融性を有する原材料の溶融後又は溶融・熟成後さらに溶融した温度よりも100℃以上高い温度で熱処理する有機無機ハイブリッドガラス状物質の製造方法である。熱処理する前の原材料は溶融性を有することが必要である。ここで、溶融性とは文字通り溶融する特性、すなわち、加熱することにより粘性が大幅に下がり、いわゆる溶融状態となる特性を指す。この溶融性がなければ、溶融することも熟成することもできないからである。なお、原材料の溶融後又は溶融・熟成後に行う熱処理は溶融した温度よりも100℃以上高い温度で行うことが好ましい。溶融は原材料の均一化を、熟成は原材料全体の構造変化をゆっくりと行うことを、その後の熱処理は特定結合の変化を主目的とする。しかし、溶融した温度とこの熱処理温度の差が100℃よりも小さいと多大な時間を要するので、生産性等の産業上のメリットは小さいからである。溶融した温度と熱処理温度の差が150℃を越えていることがより好ましく、溶融した温度と熱処理温度の差が200℃を越えていることがさらに好ましい。
また、溶融性を有する原材料はフェニル基を含んでいることが好ましい。有機無機ハイブリッドガラス状物質の構造中に有機官能基Rを持つ金属ユニット、例えば(RnSiO(4−n)/2)(n=1、2、3から選択)で表されるケイ素ユニットを混入させることが重要である。このケイ素ユニットはフェニル基の金属ユニット(PhnSiO(4−n)/2)、メチル基の金属ユニット(MenSiO(4−n)/2)、エチル基の金属ユニット(EtnSiO(4−n)/2)、ブチル基の金属ユニット(BtnSiO(4−n)/2)(n=1〜3)等が代表的であるが、フェニル基の金属ユニットが最も有効であるからである。
また、熱処理は300℃以上650℃以下で行うことが好ましい。300℃未満での熱処理は極めて多大な時間を要するので、産業上のメリットがほとんど認められない一方、650℃を越えると反応が早く進みすぎ、その制御が難しくなり、かつ着色の問題が発生することがあるからである。より好ましくは400℃以上620℃以下であり、さらに好ましくは500℃以上600℃以下である。また、熱処理は有機官能基が分解しない程度の時間で行う必要があるので、例えば550℃以上600℃以下で熱処理を行う場合は、熱処理時間が30分以内であることが好ましい。30分を越えた熱処理を行うと、有機官能基が分解することがあり、良好なガラス状物質を得られないためである。さらに好ましくは20分以内、より好ましくは10分以内である。また、例えば500℃以上550℃未満で熱処理を行う場合は、熱処理時間が3時間以内であることが好ましい。3時間を越えた熱処理を行うと、有機官能基が分解することがあり、良好なガラス状物質を得られないからである。この場合、より好ましくは1時間以内であり、さらに好ましくは30分以内である。これらの条件は、赤外線領域や他の領域における光透過率の要求仕様によっても、有機官能基の種類によっても、さらには着色が許容される条件によっても異なるが、概ね上述の条件となることが多い。
なお、本発明の方法ではシラノール基の反応収率、すなわちシラノール基からシロキサン結合への反応に関する収率が極めて高いという特徴がある。従来のゾルゲル法で有機無機ハイブリッドガラス(低融点ガラス)を製作するときの反応収率は、例えば200℃で1000時間といった長時間の熟成を行った場合でも95%程度が限界であり、95%を越える方法はこれまで知られていなかった。しかし、本発明の方法では反応収率を短時間で100%に近い値とすることができる。この5%の差は大きい。シラノール基を完全に除去できれば、誘電率の低い有機無機ハイブリッドガラスが得られ、絶縁層としてのさらなる応用が期待できるからである。
さらに、本発明は上記の方法で製造された有機無機ハイブリッドガラス状物質である。特に、3mm厚換算で800〜2100nmにおける平均透過率が75%以上である有機無機ハイブリッドガラス状物質であることが好ましい。すなわち、従来の有機無機ハイブリッドガラスと比べて赤外領域、特に800〜2100nmの波長域における平均透過率が極めて高いという特徴をもっている。従来の有機無機ハイブリッドガラスは一般的に有機物をガラス中に含むので、赤外線領域では有機基やOH基等による光吸収からその光透過率は決して高くなかったが、本発明では3mm換算で75%以上の光透過率を得ることができる。
また、T2ユニットと(Dユニット+T3ユニット+T2ユニット+T1ユニット)の比が0.1以下であることが好ましい。T2ユニットと(Dユニット+T3ユニット+T2ユニット+T1ユニット)の比が0.1を越えると、赤外線領域での光吸収量が増加する。
ここで、T2ユニットとはケイ素原子の4本の結合手の中で有機置換基との結合を除いた3本のうち2本が酸素原子を介してケイ素原子と結合した状態を指す。また、T3ユニットとはケイ素原子の4本の結合手のうち有機置換基との結合を除いた3本がすべて酸素原子を介してケイ素原子と結合した状態、T1ユニットとはケイ素原子の4本の結合手の中で有機置換基との結合を除いた3本のうち1本が酸素原子を介してケイ素原子と結合を意味している。Dユニットとはケイ素原子の4本の結合手のうち有機置換基との結合を除いた2本がすべて酸素原子を介してケイ素原子と結合したD2ユニット、または1本が酸素原子を介してケイ素原子と結合し残りの1本がエトキシ基あるいはヒドロキシル基と結合したD1ユニットから成る。なお、T2ユニットのうち、ケイ素原子の4本の結合手の中で有機置換基との結合を除いた3本のうち2本が酸素原子を介してケイ素原子と結合し残りの1本がエトキシ基である状態をT2(−OEt)とする。また、T2ユニットのうち、ケイ素原子の4本の結合手の中で有機置換基との結合を除いた3本のうち2本が酸素原子を介してケイ素原子と結合し残りの1本がヒドロキシル基である状態をT2(−OH)とする。これらは、例えば、29Si NMR分光法により、その存在や含有量を確認することができる。T2ユニットの含有量を制御することにより、赤外領域での光吸収を制限し、結果として赤外線領域での光透過率を上げることに寄与する。
いわゆるTユニットはフェニルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン及びエチルトリエトキシシランから、いわゆるDユニットはジエトキシジフェニルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン及びジエトキシメチルフェニルシランから選ばれることが好ましい。
また、軟化温度が50℃〜350℃であり、かつ溶融性を有する有機無機ハイブリッドガラス状物質であることが好ましい。軟化温度が50℃未満ではその化学的安定性に問題があり、350℃を越えると作業性に問題がでてくる。軟化温度はその処理により変化する傾向にあるが、最終的な軟化温度は100〜300℃、さらには120〜280℃であることがより好ましい。同時に、溶融性を有することが必要である。この溶融性がないと、赤外線透過材に多くの場合要求される接着性に問題が発生する場合が多いからである。なお、有機無機ハイブリッドガラス状物質の軟化温度は、10℃/minで昇温したTMA測定から判断した。すなわち、上記条件で収縮量を測定し、収縮量の変化開始温度を軟化温度とした。
また、1100nmでの光透過率を基準とした場合におけるシラノール基の吸収による光透過の低下率が10%以下であることが好ましい。光透過率のシラノール基の吸収による低下率が10%を越えると、例えば光通信等での選択因子が減少するので、その利用価値が小さくなる。ここで、1100nmの波長を基準としたのは、この領域では光吸収を行う物質が少ないので、光透過率が比較的安定しているからである。
なお、原材料を製造する方法としては、以下のようにして製造されることが好ましい。すなわち、出発原料は金属アルコキシドであり、その原料とする金属アルコキシドと水、酸触媒及びアルコールによる混合工程の後、加熱反応工程、溶融工程及び熟成工程を経て製造される原材料が好ましい。この方法によれば、その安定性も高く、良好な品質を保ちながら低コストで製造することもできる。次に好ましいのは、ゾルゲル法によるゲル体の製作工程、加熱による溶融工程、及び熟成工程の3工程を最低限有する方法である。この方法でも有用な原材料を得ることができるが、ゲル化工程に1〜3日間要するので、生産性が下がるという問題がある。ここで、重要なのは溶融性であり、溶融性を有しない従来のゾルゲル法では製造できないことである。
加熱反応工程の上限温度は沸点が100℃を越すアルコール、例えば118℃の1−ブタノールを用いる場合では100℃以下であるが、沸点が100℃以下のアルコールでは沸点も考慮する方が望ましい。例えば、エタノールを用いる場合は、その沸点の80℃以下とした方が良い結果となる傾向にある。これは、沸点を越えると、アルコールが急激に蒸発するので、アルコール量や状態変化から均一反応が達成されにくくなるためであると考えられる。
溶融工程は30℃〜400℃の温度で行われることが好ましい。加熱による溶融工程は30〜400℃の温度範囲で処理される。30℃よりも低い温度では、実質上溶融できない。また、400℃を超えると、網目を形成する金属元素と結合する有機基が燃焼するために所望の有機無機ハイブリッドガラス状物質を得られないばかりか、破砕したり、気泡を生じて不透明になったりする。望ましくは、100℃以上300℃以下である。
熟成工程では30℃以上400℃以下の温度でかつ0.1Torr以下の圧力下で処理されるのが好ましい。30℃よりも低い温度では、実質上熟成できない。400℃を超えると、熱分解することがあり、安定したガラス状物質を得ることは難しくなる。望ましくは、100℃以上300℃以下である。さらに、この熟成温度は、溶融下限温度よりも低い温度ではその効果が極めて小さくなる。一般的には、溶融下限温度〜(溶融下限温度+150℃)程度が望ましい。このとき、同時に0.1Torr以下の圧力下で行われることが好ましい。その圧力が0.1Torrを越えると、泡残りの問題が発生する。さらに、熟成に要する時間は5分以上必要である。熟成時間は、その処理量、処理温度及び反応活性な水酸基(−OH)の許容残留量により異なるが、一般的には5分未満では満足できるレベルに到達することは極めて難しい。また、長時間では生産性が下がってくるので、望ましくは10分以上1週間以内である。
上記の溶融工程又は/及び熟成工程を経ることにより、安定化した有機無機ハイブリッドガラス状物質を得ることができる。従来のゾルゲル法では、前記の溶融工程も熟成工程もないので、本発明の有機無機ハイブリッドガラス状物質を得ることはできない。
なお、加熱による溶融工程若しくは熟成工程において、不活性雰囲気下で行ったり、マイクロ波加熱も有効である。
また、従来のゾルゲル法では触媒として塩酸や硝酸が多く用いられていた。これは、他の触媒ではゲル化時間が長くなるためであったが、本発明の混合工程では硝酸や他の酸は好ましくはなく、塩酸又は酢酸を用いることが好ましい。より好ましいのは、酢酸である。なお、トリフロロ酢酸も有用である。
原料とする金属アルコキシドは有機置換基で置換されたアルコキシシランであり、有機置換基としてフェニル基、メチル基、エチル基、プロピル基(n−、i−)、ブチル基(n−、i−、t−)、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、メルカプトメチル基、メルカプトプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-トリフルオロアセトキシプロピル基、ビニル基、ベンジル基、スチリル基等から、アルコキシル基としてメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基(n−、i−)等から成る金属アルコキシドから選ばれることが好ましい。これらは、有機無機ハイブリッドガラス状物質、特に室温以下の低軟化となる透明状物質を製造する上で極めて有用な原料である。なお、上記以外の金属アルコキシドでも良い。また、金属アセチルアセトナート、金属カルボン酸塩、金属硝酸塩、金属水酸化物、及び金属ハロゲン化物等、ゾルゲル法で使われているものであれば製造は可能である。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノ-ル、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノ-ル、2−ブタノール、1.1−ジメチル−1−エタノール等が代表的であるが、これらに限定される訳ではない。
なお、混合工程ではアンモニアを用いることも有効である。このとき、用いるアンモニアはモル比で塩酸又は酢酸の1〜20倍であることが好ましい。アンモニア、塩酸及び酢酸はいずれも触媒で、アンモニアと酢酸、又はアンモニアと塩酸の組み合わせとなり、アンモニアだけでは良好な結果を示さない。混合工程で用いるアンモニアがモル比で塩酸若しくは酢酸の1倍未満では、アルコキシドが完全に加水分解されずにガラス中にT2(−OEt)が多く残り化学的安定性が劣るという問題が発生する。一方、混合工程で用いるアンモニアがモル比で塩酸若しくは酢酸の20倍を越えると、加水分解-重縮合反応が急激に進行し均一な反応が達成されないという問題が発生する。より好ましくは、2〜10の範囲である。
さらに、この場合、溶融工程後に粉砕・洗浄工程を経てアンモニウム塩を除去することが好ましい。アンモニウム塩があると、安定した有機無機ハイブリッドガラス状物質とならないことがあるからである。
また、上記の方法で製造された有機無機ハイブリッドガラス状物質は当然ながら全て対象となるが、その一部又はすべてに不規則網目構造をもつ有機無機ハイブリッドガラス状物質である。また、従来の有機無機ハイブリッドガラスよりも低誘電率であるという特徴も有している。
以下、実施例に基づき、述べる。
以下、実施例に基づき、述べる。
出発原料には金属アルコキシドのフェニルトリエトキシシラン(PhSi(OEt)3)を用いた。混合工程として室温で10mlのフェニルトリエトキシシラン、45mlの水、20mlのエタノールに触媒である酢酸を加え、加熱反応工程として60℃で1時間撹拌後、金属アルコキシドの1mlのジエトキシジフェニルシラン(Ph2Si(OEt)2)を加えてさらに60℃で2時間撹拌した。その後150℃で2時間かけて溶融し、150℃で3時間熟成した後、室温まで冷却し透明状のいわゆる原材料を得た。
さらに、この原材料を500℃で5分間熱処理し透明状物質を得た。この透明状物質について、日立U3500形自記分光光度計により、800〜2100nmにおける光透過率を測定した結果を図1の実施例1に示す。この領域において光吸収が大幅に減少していた。特に、シラノール基の吸収(約1410nm)による光透過率の低下は2%以下と非常に小さいため光透過性は大幅に増加し、800〜2100nmにおける光透過率の平均値は約85%であった。
この透明状物質の軟化温度は169℃であり、フェニル基の分解温度の約400℃よりも低い温度であった。
また、500℃熱処理後の透明状物質の結合状態をJEOL社の磁気共鳴測定装置CMX-400型により測定した結果を図2の実施例1に示す。図中でT2、T3、D1、D2と示したところが各ユニットのケミカルシフトに対応しており、T2ユニットと(D2ユニット+T3ユニット+T2ユニット)の比は500℃の熱処理後で0.01であり、その値が極めて小さいことが分かる。また、不規則網目構造を確認できたことも考慮すると、今回得た透明状物質は有機無機ハイブリッドガラス構造をとる物質、すなわち有機無機ハイブリッドガラス状物質である。なお、図3に示すように、有機無機ハイブリッドガラス状物質の軟化温度は、10℃/minで昇温したTMA測定から判断した。図3は本実施例の結果である。すなわち、上記条件で収縮量変化から軟化挙動を求め、その開始温度を軟化温度とした。
この有機無機ハイブリッドガラス状物質の気密性能をみるため、得られた有機無機ハイブリッドガラス状物質の中に有機色素を入れ、1ヶ月後の染み出し状態を観察した。この結果、染み出しは全く認められず、気密性能を満足していることが分かった。また、100℃の雰囲気下に300時間置いたこの有機無機ハイブリッドガラス状物質の転移点を測定したが、その変化は認められず、耐熱性にも問題がないことが確認された。さらに、得られた有機無機ハイブリッドガラス状物質を1ヶ月間、大気中に放置したが、特に変化は認められず、化学的耐久性に優れていることも確認できた。
出発原料には金属アルコキシドのフェニルトリエトキシシラン(PhSi(OEt)3)とメチルトリエトキシシラン(MeSi(OEt)3)の混合系を用い、その比は9:1とした。容器中で10mlのフェニルトリエトキシシラン、1mlのメチルトリエトキシシラン、45mlの水、20mlのエタノールに触媒である酢酸を加え、加熱反応工程として60℃で3時間撹拌後、150℃に上げ4時間溶融した。実施例1と同様に室温まで冷却し、透明状のいわゆる原材料を得た。
さらに、この原材料を400℃で15分間熱処理し透明状物質を得た。この透明状物質の800〜2100nmにおける光透過率を測定した結果、この領域において光吸収が大幅に減少していた。特に、シラノール基の吸収(約1410nm)による光透過率の低下は3%以下と非常に小さいため光透過性は大幅に増加し、800〜2100nmにおける光透過率の平均値は約82%であった。
この透明状物質の軟化温度は180℃であり、フェニル基の分解温度の約400℃よりも低い温度であった。
また、400℃熱処理後の透明状物質の結合状態をJEOL社の磁気共鳴測定装置CMX-400型により測定した。T2ユニットと(T3ユニット+T2ユニット)の比は400℃の熱処理後で0.01程度であり、その値が極めて小さいことが分かる。また、不規則網目構造を確認できたことも考慮すると、今回得た透明状物質は有機無機ハイブリッドガラス構造をとる物質、すなわち有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
この有機無機ハイブリッドガラス状物質の気密性能をみるため、得られた有機無機ハイブリッドガラス状物質の中に有機色素を入れ、1ヶ月後の染み出し状態を観察した。この結果、染み出しは全く認められず、気密性能を満足していることが分かった。また、100℃の雰囲気下に300時間置いたこの有機無機ハイブリッドガラス状物質の転移点を測定したが、その変化は認められず、耐熱性にも問題がないことが確認された。さらに、得られた有機無機ハイブリッドガラス状物質を1ヶ月間、大気中に放置したが、特に変化は認められず、化学的耐久性に優れていることも確認できた。
(比較例1)
実施例1とほぼ同様の原料及び同様の工程としたが、最後の熱処理工程を行わないで透明状の物質を得た。この透明状の物質の軟化温度は99であった。この物質について、800〜2100nmにおける光透過率を測定した。その結果を図1に示した。比較例1と書かれたデータがそれにあたる。800〜2100nmにおける光透過率の平均値は約79%であり、シラノール基吸収(約1410nm)による光透過率の低下は18%であった。また、この透明状物質の結合状態を29Si NMR分光法により測定した結果を図2の比較例1に示す。T2ユニットと(D1ユニット+D2ユニット+T3ユニット+T2ユニット)の比は0.38であった。
実施例1とほぼ同様の原料及び同様の工程としたが、最後の熱処理工程を行わないで透明状の物質を得た。この透明状の物質の軟化温度は99であった。この物質について、800〜2100nmにおける光透過率を測定した。その結果を図1に示した。比較例1と書かれたデータがそれにあたる。800〜2100nmにおける光透過率の平均値は約79%であり、シラノール基吸収(約1410nm)による光透過率の低下は18%であった。また、この透明状物質の結合状態を29Si NMR分光法により測定した結果を図2の比較例1に示す。T2ユニットと(D1ユニット+D2ユニット+T3ユニット+T2ユニット)の比は0.38であった。
PDPを始めとするディスプレイ部品の封着・被覆用材料、光スイッチや光結合器を始めとする光情報通信デバイス材料、LEDチップを始めとする光学機器材料、光機能性(非線形)光学材料、接着材料等、低融点ガラスが使われている分野、エポキシ等の有機材料が使われている分野に利用可能である。さらには、400℃以上の処理条件となる、あるいは400℃以上の雰囲気下で長く使われるガラスやセラミックスの代用品としても使用することができる。
Claims (10)
- 有機無機ハイブリッドガラス状物質を製造する場合において、溶融性を有する原材料の溶融後又は溶融・熟成後さらに溶融した温度よりも100℃以上高い温度で熱処理することを特徴とする有機無機ハイブリッドガラス状物質の製造方法。
- 溶融性を有する原材料はフェニル基を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の有機無機ハイブリッドガラス状物質の製造方法。
- 熱処理は300℃以上650℃以下で行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機無機ハイブリッドガラス状物質の製造方法。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の方法で製造された有機無機ハイブリッドガラス状物質。
- 3mm厚換算で800〜2100nmにおける平均透過率が75%以上であることを特徴とする請求項4に記載の有機無機ハイブリッドガラス状物質。
- 軟化温度が50℃〜350℃であり、溶融性を有することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の有機無機ハイブリッドガラス状物質。
- T2ユニットと(Dユニット+T3ユニット+T2ユニット+T1ユニット)の比が0.1以下であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の有機無機ハイブリッドガラス状物質。
ここで、T2ユニットとはケイ素原子の4本の結合手の中で有機置換基との結合を除いた3本のうちの2本が酸素原子を介してケイ素原子と結合した状態のものを、T3ユニットとはケイ素原子の4本の結合手のうち有機置換基との結合を除いた3本すべてが、T1ユニットとはケイ素原子の4本の結合手の中で有機置換基との結合を除いた3本のうち1本が、Dユニットとはケイ素原子の4本の結合手のうち有機置換基との結合を除いた2本すべて又は1本が酸素原子を介してケイ素原子と結合したものを示す。 - 1100nmでの光透過率を基準とした場合におけるシラノール基の吸収による光透過の低下率が10%以下であることを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに有機無機ハイブリッドガラス状物質。
- ガラス状物質の一部又はすべてに不規則網目構造を有することを特徴とする請求項4乃至8のいずれかに記載の有機無機ハイブリッドガラス状物質。
- フェニル基を含有することを特徴とする請求項4乃至9のいずれかに記載の有機無機ハイブリッドガラス状物質。
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