JP2005008733A - ポリ乳酸樹脂水性分散体およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】(1)D−乳酸含有率が1.5〜25モル%のポリ乳酸樹脂と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤をポリ乳酸樹脂に対して1〜30質量%、アンモニアまたは沸点250℃以下の有機アミン化合物をポリ乳酸樹脂に対して0.01〜20質量%、両親媒性有機溶剤を0〜30質量%含有するポリ乳酸樹脂水性分散体であって、ポリ乳酸樹脂の数平均粒子径が0.5μm未満であることを特徴とするポリ乳酸樹脂水性分散体。
【選択図】 なし
Description
本発明は、ナノメーターレベルの数平均粒子径を有し、低温造膜性および長期貯蔵安定性に優れたポリ乳酸樹脂水性分散体、およびその安価な製造方法に関するものである。
【0001】
【従来の技術】
従来の溶剤型塗料は、有機溶剤を含んでいるため、引火等の危険性や、環境負荷の問題があった。近年、揮発性有機化合物(VOC)の規制が特に厳しくなり、塗料及びコーティング剤の分野では、水性分散体、粉体塗料、紫外線・電子線硬化塗料等へとその様態が移行しつつある。中でも、水性分散体あるいは水性エマルジョンは、環境への負荷が小さく、また溶剤型塗料と同様に液状であることから、現行の塗料製造及び塗装ラインをほぼそのまま使用できるという長所を有するため、代替技術のうちで最も有望視されている。
【0002】
また近年、環境への配慮から、石油原料に頼らずしかも廃棄時の環境負荷が小さい生分解性樹脂が注目されている。従って水性分散体用樹脂として生分解性樹脂を使用することで、きわめて環境にやさしい水性分散体を提供できると考えられる。
【0003】
このような要望に応えるために、例えば特許文献1にはポリ乳酸等の生分解性ポリエステルに多価カルボン酸などの酸基を導入して自己水分散性粒子となし、これを水性分散体とする方法が提案されているが、この場合の製造方法は転相乳化方法であり、製造過程において塩化メチレンやクロロホルム等の有機溶剤を多量に使用する必要があるため作業環境上好ましいものではなく、その分散安定性および造膜性も十分なものではない。本出願人らは先に、ポリ乳酸を主体とする生分解性ポリエステルから水性分散体を製造するに際して、少量の塩基性化合物と両親媒性溶剤の存在下に加熱攪拌する方法を提案した(特許文献2、特許文献3)。この方法によれば、上記樹脂を一旦有機溶剤に溶解しなくても、均一で安定な水性分散体が得られるものの、解重合工程を必要とするうえ、その長期貯蔵安定性も十分なものではなかった。さらに、特許文献4では生分解性樹脂の水性分散体の安定性を向上させるために、アニオン系の界面活性剤を乳化剤として加えたポリ乳酸系生分解性樹脂水性分散体が提案されているが、その分散安定性は必ずしも満足できるものではなく、被膜の耐水性が低下するという問題があった。また、特許文献5には、非イオン性界面活性剤とpH緩衝機能を有するアルカリ性物質とを併用したポリエステル系生分解性プラスチック水系化合物が提案されているが、製造過程においてトルエン等の有機溶剤を多量に使用する必要があるため作業環境上好ましいものではなく、また、低温造膜性も満足できるものではない。さらにまた、水性分散体の安定性を向上させる方法として、樹脂微粒子を分散させた水性分散体に適度の粘度を与えてこの微粒子の沈降を妨げる方法があり、食品などの分散安定剤としてグアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルローズ等の多糖類を添加することが知られている(特許文献6)。しかし、このような汎用の多糖類を分散安定剤として使用すると、樹脂微粒子の沈降を抑制することはできるが、逆に水性分散体の粘度が経時的に増粘し、粘度安定性が問題になることがある。また、特許文献7では特定の微生物由来の多糖類を用いた水中油型エマルション型消泡剤の安定化剤について提案されているが、生分解性樹脂系水性分散体の分散安定剤についての検討はされていない。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−7789号公報
【特許文献2】
特開2002−173535号公報
【特許文献3】
特開2002−241629号公報
【特許文献4】
特開平10−101911号公報
【特許文献5】
特開2003−113247号公報
【特許文献6】
「乳化・安定剤」、食品科学新聞社、1996年(ISSN0914−1820)
【特許文献7】
特開2000−4805号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は上記課題を解決するために成されたものであって、ナノメーターレベルの数平均粒子径を有し、低温造膜性、長期貯蔵安定性に優れかつ生分解性及び耐水性に優れた被膜を形成し得るポリ乳酸樹脂水性分散体、および、解重合や樹脂の有機溶媒中への溶解などの煩雑な工程を省くとともに、有機溶剤の使用量を削減し、特殊な設備や煩雑な操作を用いない、安価なポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリ乳酸樹脂の水性分散体を得る際に、特定の界面活性剤、特定の塩基性化合物、水及び両親媒性溶剤の存在下にポリ乳酸樹脂を加熱撹拌することにより、ナノメーターレベルの数平均粒子径を有する樹脂粒子が形成され、低温造膜性、長期貯蔵安定性の良好な水性分散体が得られることを見出し、それに基づいて本発明に達した。
【0007】
すなわち本発明の要旨は下記の通りである。
(1)D−乳酸含有率が1.5〜25モル%のポリ乳酸樹脂と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤をポリ乳酸樹脂に対して1〜30質量%、アンモニアまたは沸点250℃以下の有機アミン化合物をポリ乳酸樹脂に対して0.01〜20質量%、両親媒性有機溶剤を0〜30質量%含有するポリ乳酸樹脂水性分散体であって、ポリ乳酸樹脂の数平均粒子径が0.5μm未満であることを特徴とするポリ乳酸樹脂水性分散体
(2)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤の数平均分子量が3,500〜20,000であることを特徴とする前記(1)記載のポリ乳酸樹脂水性分散体。
(3)D−乳酸含有率1.5〜25モル%のポリ乳酸樹脂、ポリ乳酸樹脂に対して1〜30質量%のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル基に対して5〜30倍当量のアンモニアまたは沸点250℃以下の有機アミン化合物、原料の全体量に対して5〜40質量%の両親媒性有機溶剤、および水を原料とし、前記原料を、容器中で、30℃以上かつポリ乳酸樹脂の融点温度未満の温度で加熱、攪拌することを特徴とするポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法。
(4)ポリ乳酸樹脂の酸価が4mgKOH/g未満であることを特徴とする前記(3)記載のポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法。
(5)両親媒性有機溶剤が、ポリ乳酸樹脂に対して質量比で10倍量の溶剤中に25℃で24時間撹拌後の該樹脂の膨潤度(浸漬前後の質量比)が1.1以上、または同条件下での溶解度が0.01g/g以上の両親媒性有機溶剤であることを特徴とする前記(3)記載のポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法。
(6)両親媒性有機溶剤が、テトラヒドロフランであることを特徴とする前記(5)記載のポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法。
(7)アンモニアまたは沸点250℃以上の有機アミン化合物が、トリエチルアミンであることを特徴とする前記(3)記載のポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明のポリ乳酸樹脂水性分散体について説明する。
本発明のポリ乳酸樹脂水性分散体は、特定のD−乳酸含有率のポリ乳酸樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤、アンモニアまたは沸点250℃以下の有機アミンを含有する、水分散体中の樹脂の数平均粒子径が0.5μm未満のポリ乳酸樹脂水性分散体である。
【0009】
本発明で用いられるポリ乳酸樹脂は、乳酸単位からなり、単独では水に分散または溶解しない、本質的に疎水性のポリマーである。ポリ乳酸中に占めるD−乳酸の割合は、1.5〜25モル%であることが必要であり、好ましくは4〜20モル%、さらに好ましくは8〜20モル%である。D−乳酸の含有量が1.5モル%未満であると、両親媒性有機溶剤に膨潤あるいは溶解しにくくなるため、本発明の方法による水分散化が困難となる。またD−乳酸の含有量が25モル%以上であると、ガラス転移温度が低下し、得られる被膜の耐ブロッキング性が低下する傾向にある。
【0010】
また、本発明の水性分散体中に分散しているポリ乳酸樹脂粒子の数平均粒子径は、水性分散体の保存安定性が向上するという点、および樹脂の融点以下での造膜性が可能になるという点から、0.5μm未満である必要があり、0.3μm以下がより好ましく、0.1μm以下が特に好ましい。下限は特にないが、0.03μm程度である。なお、粒度分布については、特に限定されない。
【0011】
本発明において、水性分散体中のポリ乳酸樹脂粒子の量は、用途、乾燥後の塗膜の厚さ、塗布方法等によって適宜選択されるべきであるが、10〜60質量%とすることが好ましく、20〜50質量%であることが好ましい。上記樹脂粒子の含有量が10質量%未満では塗膜の乾燥に長時間を要する傾向があり、一方60質量%を超えると、水分散体の粘度が高くなって、他成分の配合や塗布が困難になるおそれがある。
【0012】
本発明の水性分散体には、樹脂の水性分散化のために、特定の界面活性剤と塩基性化合物を併用することが必要である。塩基性化合物は樹脂を加水分解すると共に、水性化に際してポリ乳酸樹脂中のカルボキシル基を中和し、後述する特定の界面活性剤との併用により、ポリ乳酸樹脂微粒子間の凝集を防ぎ、水性分散体としての優れた貯蔵安定性に寄与する。界面活性剤は後述する水性分散化に際して界面活性機能を失わない化合物であることが必要で、そのような界面活性剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤が用いられる。
【0013】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤の添加量は、ポリ乳酸樹脂に対して1〜30質量%とすることが必要で、好ましくは3〜15質量%、さらに好ましくは5〜10質量%である。1質量%未満では界面活性剤添加の効果が小さく、30質量%を超えると充分な耐水性を付与し得なくなる場合がある。
【0014】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤は、数平均分子量として、3,500〜20,000である必要があり、4,000〜10,000がより好ましい。
また、前記界面活性剤の曇点は、50℃以上であることが好ましく、より好ましくは55℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。曇点が50℃未満では分散安定性や保存安定性が低下する場合がある。
【0015】
また、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤中におけるエチレンオキシドの含有量は30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%がより好ましく、45〜55質量%が特に好ましい。エチレンオキシドの含有量が30質量%未満では親水性に乏しく、分散安定性や保存安定性が低下する場合があり、一方80質量%を超えると樹脂との親和性が乏しくなり、分散安定性が低下する場合がある。
【0016】
市販のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤としては、三洋化成工業株式会社製「ニューポール」シリーズ、旭電化工業株式会社製「アデカプルロニック」シリーズ、BASF株式会社製「PLURONIC」シリーズ等がある。これらのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤は単独で使用してもよく、あるいは2種類以上を併用してもよい。また、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤を主成分として、他の界面活性剤、特に、非イオン性界面活性剤または両性界面活性剤を併用しても良い。このようにすると、より微細な粒子の水性分散体が得られる場合がある。非イオン性界面活性剤の具体例としては、脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系、アマイド系、ポリエチレングリコール系、ポリグリセリンエステル系、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系等が挙げられ、両性界面活性剤の具体例としては、ベタイン型、アミノ酸型、イミダゾリン型、アミノオキサイド型等が挙げられる。このような他の界面活性剤を併用する場合、その使用量は主たる界面活性剤であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤の量を超えない5〜100質量%の範囲であることが好ましく、5〜50質量%程度がより好ましい。
【0017】
本発明の水性分散体は、被膜形成時に加熱によって揮散する塩基性化合物として、アンモニアまたは沸点が250℃以下の有機アミン化合物を必要とする。有機アミン化合物の例としては、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−ジエタノールアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等を挙げることができる。特に分散安定性が優れていることから、トリエチルアミンを用いることが好ましい。
【0018】
水性分散体を製造する際の原料としては、上記塩基性化合物の添加量は、ポリ乳酸樹脂中のカルボキシル基に対して5〜30倍当量とすることが必要である。5倍当量未満では塩基性化合物添加の効果が小さく、貯蔵安定性や造膜性が悪くなる場合がある。一方、30倍当量を超えると水性分散体が増粘したり、貯蔵安定性が低下する場合がある。塩基性化合物は、後述する溶媒除去を行う場合には、その一部が系外に除去されることがあるため、仕込み時の量と、水性分散体中における含有量は必ずしも一致しない。アンモニアまたは沸点250℃以下の有機アミンの量は、水性分散体中では、ポリ乳酸樹脂に対して0.01〜20質量%の範囲であればよく、好ましくは、0.01〜10質量%である。
【0019】
本発明の水性分散体を製造する際には原料として、乳化処理速度を加速させる目的で、両親媒性の有機溶媒を使用することが必要である。両親媒性の有機溶剤とは、20℃における水に対する溶解度が5g/L以上である有機溶剤をいう。特に、溶解度が10g/L以上のものを用いることが好ましい。水に対する溶解度が5g/L未満のものは、乳化処理の加速効果に乏しい。両親媒性の有機溶剤の具体例としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−tert−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル等のエステル類、アセトニトリル等を例示することができる。これらの溶剤は単一でも、また2種以上を混合しても使用できる。特に分散安定性が優れていることから、テトラヒドロフランを用いることが好ましい。
【0020】
また、製造に使用する両親媒性の有機溶剤は、ポリ乳酸樹脂に対して可塑化能力を有していることが好ましい。具体的には、後述の評価方法によって、少なくとも、膨潤度が1.1以上、または溶解度が0.01g/g以上のいずれかを満たすことが好ましい。この条件を満たせば、その有機溶剤は可塑化能力を有すると判定される。中でも溶解度が0.1g/g以上であるものが特に好ましい。膨潤度が1.1未満かつ溶解度0.01g/g未満のときは、乳化処理速度を加速させる効果に乏しい。
【0021】
また、有機溶剤としては、沸点が100℃以下または水と共沸可能であって、しかも毒性、爆発性や引火性の低い、汎用の有機溶剤が好ましい。沸点が100℃以上であるか又は水と共沸しないものは、後の工程で除去(ストリッピング)することが困難となる。
【0022】
両親媒性有機溶剤の使用量は、水性分散体の製造時には、水性分散体に対して5〜30質量%、好ましくは10〜20質量%とすることが必要である。5質量%未満の場合には、乳化処理の加速効果に乏しく、一方、水性分散体に対して有機溶剤の含有率が30質量%を超えると、環境保護、省資源、消防法等による危険物規制、職場環境改善の立場から好ましくない。なお、両親媒性有機溶剤は、その一部を系外に容易にストリッピングすることができ、用途などに応じて、そのすべてを系外に留去してしまうこともできる。したがって、水性分散体中の両親媒性有機溶剤量は、0〜30質量%の範囲をとることができるが、好ましくは有機溶剤量を水性分散体に対して0〜20質量%、さらに好ましくは0〜5質量%である。脱溶剤後の水性分散体に対して有機溶剤の残存率が30質量%を超えると、「低有機溶剤」という水性分散体本来の目的が失われるだけでなく、水性分散体が異常に増粘したり、貯蔵安定性が低下するという不具合を生じやすい。
【0023】
本発明のポリ乳酸樹脂水性分散体には、低温造膜性および柔軟性を向上させるために、可塑剤を配合してもよい。可塑剤の配合割合は、ポリ乳酸樹脂に対して0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜20質量%の範囲であることがより好ましい。添加量が0.1質量部未満であると添加効果が小さく、30質量部を超えると耐ブロッキング性や耐水性が低下する傾向にある。可塑剤としては、ポリ乳酸に対して相溶し、かつ、不揮発性であり、環境問題などの観点から無毒性で、さらにFDA(Food and Drug Administration)に合格しているものが好ましい。具体的には、エーテルエステル系可塑剤、オキシ酸エステル系可塑剤である。エーテルエステル系可塑剤の具体例としては、ビスメチルジエチレングリコールアジペート、ビスブチルジエチレングリコールアジペートなどである。また、オキシ酸エステル系可塑剤小具体例としては、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。これらの可塑剤は単独で使用してもよく、あるいは2種類以上を併用してもよい。
【0024】
さらに、本発明の水性分散体には、その特性が損なわれない範囲で、顔料、染料、顔料分散剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤、凍結融解安定剤、被膜形成助剤、防腐剤、防カビ剤、防サビ剤、接着剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ラジカル補足剤等を添加することができる。
【0025】
次に、ポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
本発明のポリ乳酸樹脂水性分散体は、既述の各成分、すなわち、ポリ乳酸樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤、アンモニアまたは沸点250℃以下の有機アミン、両親媒性有機溶剤、及び水を容器中で、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度以上融点未満の温度で加熱、攪拌することにより製造することができる。このとき、0.1MPa以上の加圧を行うことが好ましい。また、撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されない。上記の方法によれば、樹脂の解重合工程または有機溶剤中への樹脂の溶解工程等を経なくともポリ乳酸樹脂を良好に水性分散体とすることができる。
【0026】
原料として用いられるポリ乳酸樹脂の形状は特に限定されないが、水性化速度を速めるという点から、粒子径1cm以下、好ましくは0.8cm以下の粒状ないしは粉末状のものを用いることが好ましい。
【0027】
また、原料としてのポリ乳酸樹脂の酸価は、特に限定されず、たとえば、市販のポリ乳酸樹脂(一般に酸価は4mgKOH/g未満)をそのまま用いることができ、これをあらかじめ解重合などの操作により高酸価のものとしておくような煩雑な操作は必要としない。なお、本発明の製造方法の乳化過程において、ポリ乳酸は加水分解をうけ、その酸価は上昇する傾向にあるため、製造の前後においてポリ乳酸の酸価は必ずしも一致しない。
【0028】
製造工程においては、系内の温度を30℃以上かつポリ乳酸樹脂融点温度未満の温度に保ちつつ、好ましくは5〜300分間攪拌を続けることによりポリ乳酸樹脂を十分に水性化させ、その後、45℃以下に冷却することにより、水性分散体を得ることができる。系内の温度が30℃未満の場合は、ポリ乳酸樹脂の水性化速度が遅く、また、系内の温度がポリ乳酸樹脂の融点温度を超える場合は、ポリ乳酸樹脂の安定分散が困難になったり、ポリ乳酸樹脂の分子量が著しく低下する恐れがある。
【0029】
前述のように、水性分散体中の有機溶剤は、その一部または全てをストリッピングにより系外へ留去させることができる。ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶剤を留去する方法を挙げることができるが、減圧下で有機溶剤を留去する方法が好ましく、その際の加熱温度はポリ乳酸樹脂のガラス転移点以下であることが好ましい。また、有機溶剤または水が留去されることにより、固形分濃度が高くなり、粘度が上昇し作業性が悪くなるような場合には、予め水性分散体に水を添加してもよい。
【0030】
また、必要に応じてジェット粉砕処理を行って、ポリ乳酸樹脂水性分散体を、高圧下でノズルやスリットのような細孔より噴出させ、樹脂粒子同士や樹脂粒子と衝突板等とを衝突させて、機械的なエネルギーによって樹脂粒子をさらに細粒化してもよい。このための装置の具体例としては、A.P.V.GAULIN社製ホモジナイザー、みずほ工業社製マイクロフルイタイザーM−110E/H等が挙げられる。
【0031】
上記のようにして、本発明の水性分散体は、ポリ乳酸樹脂が水性媒体中に分散又は溶解され、均一な液状に調製されて得られる。ここで、均一な液状であるとは、外観上、水性分散体中に沈殿、相分離あるいは皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない状態にあることをいう。
【0032】
また、製造工程においては、異物等を除去する目的で、フィルターを適宜設置してもよい。たとえば、300メッシュ程度のステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)を用い、必要ならば0.2MPa程度の空気圧で加圧濾過する。
【0033】
このようにして製造したポリ乳酸樹脂水性分散体は、分散安定性および低温造膜性に優れており、耐水性に優れた被膜を形成することができる。特に、室温での造膜性に優れ、分散している樹脂の融点よりも低い温度でも透明性の高い被膜を形成することができる。
【0034】
本発明の水性分散体は、ディップコート法、はけ塗り法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、カーテンフローコート法、各種印刷法等により、樹脂成形体、不織布、紙、ガラス、金属等の各種基材上に均一に塗装することができ、必要に応じて室温付近でのセッティングや低温での乾燥工程を経た後、高温熱処理を行うことで、均一で光沢度が高く、しかも各種の性能に優れた被膜を得ることができる。高温熱処理は、通常、熱風循環型のオーブンや赤外線加熱ヒーター等により、50〜250℃で10秒〜30分間加熱することで達成される。
【0035】
本発明の水性分散体の用途は特に限定されず、バインダー、コーティング剤、接着剤、塗料・インキ等として好適に使用することができ、特にポリ乳酸樹脂基材に好適である。基材の形状は特に限定されず、フィルム、シート、ボトル、発泡体、繊維、布帛、不織布、メッシュ等に適用できる。
【0036】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各分析項目は以下の方法に従って行った。
(1)分子量
ポリ乳酸樹脂:GPC分析(島津製作所製、溶媒:テトラヒドロフラン、屈折率分光計、ポリスチレン換算)より重量平均分子量を求めた。
界面活性剤:界面活性剤10g(S)に無水フタル酸のピリジン溶液を25ml加え、沸騰水浴中で2時間加熱したのち室温まで冷却し、フェノールフタレインのピリジン溶液(1w/v%)を指示薬として1/2Nの水酸化ナトリウム溶液で滴定を行い、中和に消費された水酸化ナトリウム溶液の液量(ml)をA、同様に界面活性剤を含まない系の滴定も行い、その中和に消費された水酸化ナトリウム溶液の液量(ml)をBとし、各数値を下記式(1)に当てはめることにより、水酸基価(H)を算出した。なお、無水フタル酸のピリジン溶液は、ピリジン300mlに無水フタル酸42gを完全溶解させ、70℃で2時間熟成したものを用いた。
H=28.05×(B−A)×f/S (1)
(式中、fは水酸化ナトリウム溶液のファクターである。)
次いで、式(1)によって得た水酸基価Hを用いて、下記式(2)により、界面活性剤の数平均分子量(M)を求めた。
M=56.1×1000×2/H (2)
(2)ポリ乳酸樹脂の酸価
ポリ乳酸樹脂0.5g(C)を50mlの1,4−ジオキサン:蒸留水=9:1の溶液に加え、1時間加熱還流したのち室温まで冷却し、クレゾールレッドを指示薬として水酸化カリウムのメタノール溶液で滴定を行い、中和に消費された水酸化カリウム溶液の液量(ml)をD、同様にポリ乳酸を含まない系の滴定も行い、その中和に消費された水酸化カリウム溶液の液量(ml)をEとし、各数値を用いて下記式(3)により酸価を求めた。
酸価=5.61×(D−E)×F/C (3)
(式中、Fは水酸化カリウム溶液のファクターである。)
(3)ポリ乳酸樹脂のガラス転移点温度(Tg)
樹脂10mgをサンプルとし、示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、求めた。
【0037】
(4)ポリ乳酸樹脂の融点温度(Tm)
樹脂10mgをサンプルとし、示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、求めた。ただし、D−乳酸含有率が6%以上では融点が観測されなかったため、溶融点を融点とした。
(5)水性分散体の固形分濃度
作成された水性分散体を適量秤量し、これを100℃以上で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、恒量後の質量より固形分濃度を求めた。
(6)水性分散体の平均粒子経
粒度分布測定装置(日機装社製、MICROTRAC UPA150)を用いて測定し、数平均粒子径で評価した。
(7)ポリ乳酸樹脂中のD−乳酸含有率
Hewlett Packard社製、ガスクロマトグラフHP−6890 Series GC System[FID検出器使用、キャリアーガス:ヘリウム、カラム:β−Dex 325 キャピラリーカラム スペルコ ♯24308 キラルカラム、カラムサイズ:直径0.25mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):300℃、オーブンプログラム:90℃(3min)−(50℃/min)−220℃(1min)]を用い、樹脂をアルカリ加水分解により乳酸にした後、メタノールによりメチルラクチレート化したものを装置内に投入して、D−乳酸含有率を求めた。
(8)水性分散体の有機溶剤含有率
島津製作所社製、ガスクロマトグラフGC−8A[FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG−HT(5%)−Uniport HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n−ブタノール]を用い、水性分散体または水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
(9)水性分散体の貯蔵安定性
ポリ乳酸樹脂水性分散体を室温で放置した場合に、増粘、固化、凝集や沈殿物の発生などの不良状態が観察されるまでの日数を調べた。30日間放置しても外観が変化しないものを合格とした。
(10)ヘーズ(曇価)
JIS K7105に準じて、日本電色工業株式会社製のNDH2000「濁度、曇り度計」を用いて「ヘーズ(%)」を測定した。ヘーズが2.8%の2軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)のコロナ処理面にポリオレフィン樹脂水性分散体を乾燥後のコート膜厚が4μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、70℃で1分間乾燥させてコートフィルムを作製した。このようにして作製したコートフィルム全体のヘーズを測定した。20.0%以下を合格とした。
(11)被膜の耐水性
2軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)のコロナ処理面にポリ乳酸樹脂水性分散体を乾燥後のコート膜厚が1μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、130℃で1分間、乾燥させた。得られたコートフィルムは室温で1日放置後、評価した。塗膜を水で濡らした布で数回擦り、塗膜の状態を目視で評価した。
(12)有機溶剤の可塑化能力評価
(A)膨潤度:粒径1〜5mmの樹脂片を質量比で10倍量の有機溶剤中、25℃で24時間撹拌した後、樹脂片を取り出し、表面に付着した有機溶剤を拭って質量を測定して、乾燥質量との比で表した。
(B)溶解度:樹脂片の一部または全部が溶解する場合には、残存樹脂の乾燥質量、または樹脂が溶解した有機溶剤をエバポレートして得られた溶解成分の乾燥質量から算出した。
膨潤度(A)が1.1以上、または溶解度(B)が0.01g/g以上のいずれかを満たせば、その有機溶剤は可塑化能力を有すると判定した。
【0038】
使用したポリ乳酸樹脂の組成を表1に示す。なお、表1に記載されているメルトフローレート(以下「MFR」と略称する)はASTM1238Eに準じて、210℃、荷重2.16Kgで測定した値である。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100.0gのポリ乳酸樹脂(A)(6300D、カーギルダウ製)、10.0gの界面活性剤(ニューポール PE−75、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤、数平均分子量:4,100、曇点:68.7℃、界面活性剤中のエチレンオキシド:50質量%、三洋化成工業株式会社製)、4.8g(樹脂中のカルボキシル基に対して15倍当量)のトリエチルアミン(以下「TEA」と略称する)、両親媒性有機溶剤として100.0gのテトラヒドロフラン(以下「THF」と略称する)及び285.2gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を600rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、ヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を85℃に保って45分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度600rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
数平均粒子径は0.083μmであり、その分布は1山であり、ポリ乳酸樹脂が水性媒体中に良好な状態で分散していた。また、30日間放置しても外観には変化が認められなかった。
【0041】
実施例2
ポリ乳酸樹脂を120.0g、界面活性剤を12.0g、TEAを5.7g(樹脂中のカルボキシル基に対して15倍当量)、THFを100.0g、水を262.3gと変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0042】
実施例3
界面活性剤を5.0g、水を290.2gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0043】
実施例4
TEAを6.4g(樹脂中のカルボキシル基に対して20倍当量)、THFを60.0g、水を323.6gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0044】
実施例5
界面活性剤としてPluronic PE 10500(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤、数平均分子量:6,500、曇点:100℃以上、界面活性剤中のエチレンオキシド:50質量%、BASF株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0045】
実施例6
ポリ乳酸樹脂としてポリ乳酸樹脂(B)(5039B、カーギルダウ製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0046】
実施例7
ポリ乳酸樹脂としてポリ乳酸樹脂(C)(4060D、カーギルダウ製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0047】
実施例8
実施例1で得られた水性分散体からTHFを一部除去するため、ロータリーエバポレーターを用い、浴温40℃で溶媒留去し、乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0048】
実施例9
実施例1で得られた水性分散体から、実施例8と同様にしてTHFを除去し、乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0049】
実施例10
実施例2で得られた水性分散体からTHFを除去するため、ロータリーエバポレーターを用い、浴温40℃で溶媒留去し、乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0050】
比較例1
ポリ乳酸樹脂としてポリ乳酸樹脂(D)(4030D、カーギルダウ製)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行って水分散体の調製を試みたが、樹脂の分散が始まらず、水性化できなかった。
【0051】
比較例2
界面活性剤の添加量を0.9g、水の添加量を294.3gとした以外は、実施例1と同様な操作を行って水分散体の調製を試みたところ、70℃以上では分散しているように観測されたが、温度が下がるに伴い大量の凝集物および沈殿物が確認された。
【0052】
比較例3
界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ナカライテスク株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0053】
比較例4
界面活性剤としてレボンLD−36(両性イオン性界面活性剤、三洋化成工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って乳白色の均一なポリ乳酸樹脂水性分散体を得た。得られた水性分散体の分析結果を表2に示す。
【0054】
比較例5
界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤、ナカライテスク株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行って水分散体の調製を試みたところ、80℃以上では分散しているように観測されたが、温度が下がるに伴い大量の凝集物および沈殿物が確認された。
【0055】
比較例6
界面活性剤としてカチオンDS(アニオン性界面活性剤、三洋化成工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行って水分散体の調製を試みたが、樹脂の融着が起こるのみで分散が始まらず、水性化できなかった。
【0056】
比較例7
TEAを添加せず、水の添加量を290.0gとした以外は、実施例1と同様な操作を行って水分散体の調製を試みたが、樹脂の融着が起こるのみで分散が始まらず、水性化できなかった。
【0057】
比較例8
THFを添加せず、水の添加量を385.2gとした以外は、実施例1と同様な操作を行って水分散体の調製を試みたところ、極一部水性分散化されたものの、殆どの樹脂は未反応のままで水性化されなかった。
【0058】
比較例9
撹拌時の系内温度を120℃とした以外は、実施例1と同様な操作を行って水分散体の調製を試みたところ、一時的に水性分散化されたものの、徐々に塊を形成し、大量の沈殿物を生じた。
【0059】
【表2】
【0060】
上記の結果から明らかなように実施例1〜10ではいずれも良好なポリ乳酸樹脂水性分散体が得られた。実施例8〜10では、ストリッピングにより有機溶剤量を減らしたが、性能に特に問題はなかった。
これに対し、比較例では、水性化が困難であり(比較例1、2、5〜9)、また水性化が達成できたもの(比較例3、4)であってもその貯蔵安定性はきわめて悪いものであった。
【0061】
【発明の効果】
本発明のポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法によれば、解重合工程または転相工程する工程を必要としないことから、製造工程を簡略化できるとともに、有機溶剤の使用量を大幅に低減できることから、安価にポリ乳酸樹脂水性分散体を製造することができ、この方法により得られたポリ乳酸樹脂水性分散体は、樹脂粒径がナノメーターレベルの数平均粒子径を有しているので、貯蔵安定性および造膜性に優れ、このポリ乳酸樹脂水性分散体から形成される被膜は、優れた耐水性、耐薬品性、耐候性等を兼ね備えており、紙用塗工液や各種バインダーとして好適に用いることができる。
Claims (7)
- D−乳酸含有率が1.5〜25モル%のポリ乳酸樹脂と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤をポリ乳酸樹脂に対して1〜30質量%、アンモニアまたは沸点250℃以下の有機アミン化合物をポリ乳酸樹脂に対して0.01〜20質量%、両親媒性有機溶剤を0〜30質量%含有するポリ乳酸樹脂水性分散体であって、ポリ乳酸樹脂の数平均粒子径が0.5μm未満であることを特徴とするポリ乳酸樹脂水性分散体。
- ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤の数平均分子量が3,500〜20,000であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸樹脂水性分散体。
- D−乳酸含有率1.5〜25モル%のポリ乳酸樹脂、ポリ乳酸樹脂に対して1〜30質量%のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー系界面活性剤、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル基に対して5〜30倍当量のアンモニアまたは沸点250℃以下の有機アミン化合物、原料の全体量に対して5〜40質量%の両親媒性有機溶剤、および水を原料とし、前記原料を、容器中で、30℃以上かつポリ乳酸樹脂の融点温度未満の温度で加熱、攪拌することを特徴とするポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法。
- ポリ乳酸樹脂の酸価が4mgKOH/g未満であることを特徴とする請求項3記載のポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法。
- 有機溶剤が、ポリ乳酸樹脂に対して質量比で10倍量の溶剤中に25℃で24時間撹拌後の該樹脂の膨潤度(浸漬前後の質量比)が1.1以上、または同条件下での溶解度が0.01g/g以上の両親媒性有機溶剤であることを特徴とする請求項3記載のポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法。
- 有機溶剤が、テトラヒドロフランであることを特徴とする請求項5記載のポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法。
- アンモニアまたは沸点250℃以上の有機アミン化合物が、トリエチルアミンであることを特徴とする請求項3記載のポリ乳酸樹脂水性分散体の製造方法。
【0001】
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