JP2011089006A - 塗料及び電子機器 - Google Patents

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Abstract

【課題】密着性、外観性、及び硬度が向上し、ノート型パソコン、携帯電話等の電子機器の筐体の塗装に用いられる環境負荷の小さい塗料及び該塗料で塗装された筐体を備える電子機器の提供。
【解決手段】少なくとも水及びポリ乳酸を含むポリ乳酸エマルションと、有機溶剤とを含有してなり、前記有機溶剤の沸点が100℃以上であり、かつ前記有機溶剤の含有量が10質量%以下である塗料とする。沸点が異なる2種類以上の有機溶剤を含有する態様、最も沸点が低い有機溶剤の含有量が、最も沸点が高い有機溶剤の含有量より少ない態様などが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、ノート型パソコン、携帯電話機等の電子機器の筐体の塗装に用いられる環境負荷の小さい塗料及び該塗料で塗装された筐体を備える電子機器に関する。
近年、ノート型パソコン、携帯電話等の電子機器においても環境負荷の低減が求められている。そのため、電子機器の筐体材料としてトウモロコシ等の植物を原料としたポリ乳酸を改良した材料が用いられている。しかし、電子機器の筐体を塗装する塗料としては、未だエポキシ樹脂等の石油を原料とする樹脂が用いられており、環境負荷の低い材料への転換が求められている。
このため、植物系素材を用いた塗料として、例えばセルロース又は澱粉を原料とするものが種々提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4参照)。
また、ポリ乳酸を原料とする塗料について提案されている(特許文献5参照)。しかし、この提案は、ジオキソラン溶剤を用いた有機溶剤系塗料である。
また近年、VOC(Volatile Organic Compound;揮発性有機化合物)削減の要求から、水性塗料への移行が望まれており、例えばポリ乳酸を原料とするエマルションが提案されている(特許文献6参照)。
このポリ乳酸エマルションは、植物系素材を用いており、VOCを削減できることから、環境負荷を大幅に低減することが期待できる。しかし、ポリ乳酸エマルションからなる塗料を、電子機器の筐体材料であるPC−ABS樹脂又はポリ乳酸からなる基材上に塗装すると、得られた塗膜は、不均一で泡が発生し、白濁してしまい、密着性及び硬度が劣るという問題がある。
したがって優れた密着性、外観性(均一性、泡の有無、透明、色調)、及び硬度を兼ね備え、ノート型パソコン、携帯電話等の電子機器の筐体に環境負荷の小さい塗膜を形成できる塗料の速やかな提供が望まれているのが現状である。
特開2002−129094号公報 特開2004−224887号公報 特開2006−282960号公報 特開平6−346015号公報 特許第3983082号公報 特開2004−277681号公報
本発明は、環境負荷を小さくすることができる優れた塗料及び該塗料で塗装された筐体を備える電子機器を提供することを目的とする。
前記課題を解決するための手段としては、後述する付記に記載した通りである。即ち、
開示の塗料は、少なくとも水及びポリ乳酸を含むポリ乳酸エマルションと、有機溶剤とを含有してなり、前記有機溶剤の沸点が100℃以上であり、かつ前記有機溶剤の含有量が10質量%以下である。
開示の電子機器は、開示の前記塗料で塗装された筐体を備えている。
開示の塗料によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、単独では塗料として電子機器の筐体の塗装に耐えられなかったポリ乳酸エマルションに、水よりも沸点の高い有機溶剤を少量添加することにより、密着性、外観性(均一性、泡の有無、透明、色調)、及び硬度が向上し、電子機器の筐体に環境負荷の小さい塗膜を形成できる。
開示の電子機器によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、開示の前記塗料で塗装された筐体を備えた環境負荷の小さいノート型パソコン、携帯電話などを提供できる。
図1は、実施例1における試料A(比較例)の塗膜の状態を示す写真である。 図2は、実施例1における試料B(実施例)の塗膜の状態を示す写真である。 図3は、実施例2における試料F(実施例)の塗膜の状態を示す写真である。 図4は、本発明の電子機器の一例としてのノート型パソコンの斜視図である。 図5は、図4のノート型パソコンのフロントカバーを示す写真である。 図6は、図4のノート型パソコンのバックカバーを示す写真である。 図7は、図4のノート型パソコンのアッパカバーを示す写真である。 図8は、図4のノート型パソコンのロアカバーを示す写真である。
(塗料)
本発明の塗料は、ポリ乳酸エマルションと、有機溶剤とを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
<ポリ乳酸エマルション>
前記ポリ乳酸エマルションは、少なくとも水及びポリ乳酸を含み、可塑剤、分散剤(乳化剤)、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
−ポリ乳酸−
前記ポリ乳酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ−L−乳酸(PLLA)、ポリ−D−乳酸(PDLA)、L−乳酸とD−乳酸とのランダム共重合体などが挙げられ、更に必要に応じてその他の共重合成分を含んでいてもよい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ポリ乳酸としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、市販品であってもよいし、適宜合成した合成品であってもよい。
前記市販品としては、例えばテラマック(登録商標)TE−2000(ユニチカ株式会社製)、レイシア(登録商標)H−100J、100H(いずれも、三井化学株式会社製)、エコディア(登録商標)(東レ株式会社)などが挙げられる。
前記合成品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、その合成の方法としては、例えば、ポリ乳酸前駆体を重合等する方法、などが挙げられる。前記ポリ乳酸前駆体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、L−ラクタイド、D−ラクタイド、などが挙げられる。
前記ポリ乳酸の平均分子量としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができる。
−水−
前記水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。
−可塑剤−
前記可塑剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばクエン酸誘導体、エーテルエステル誘導体、グリセリン誘導体、フタル酸誘導体、アジピン酸誘導体、ポリヒドロキシカルボン酸、ポリエステル誘導体、ロジンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記可塑剤の添加量は、結晶化度、柔軟性、などに影響するので、透明性が良好な範囲に留めることが好ましい。具体的には、前記ポリ乳酸100質量部に対し5質量部〜40質量部添加することが好ましい。前記添加量が、5質量部未満であると、可塑化効果が発揮できなくなることがあり、40質量部を超えると、可塑剤が表面にしみ出て表面を汚したり、透明性や光沢が損なわれたりするという問題が発生することがある。
−分散剤(乳化剤)−
前記分散剤としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、高分子界面活性剤、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子などが挙げられる。
前記分散剤の添加量は、前記ポリ乳酸100質量部に対し0.5質量部〜20質量部が好ましい。前記添加量が、0.5質量部未満であると、分散が困難となり塗膜表面に凹凸が発生することがあり、20質量部を超えると、塗膜の耐水性が悪くなることがある。
前記ポリ乳酸エマルションには、前記ポリ乳酸、水、可塑剤、及び分散剤以外にも更に必要に応じて、例えば有機溶剤、粘度調整剤、表面平滑剤、撥水剤(疎水性向上剤)、防錆剤、流動性調整剤、防腐剤、消泡剤、着色剤などを添加することができる。
前記ポリ乳酸をエマルション化する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば特開2001−354841号公報、特開2002−3607号公報、特開2002−121288号公報、特開2004−277681号公報等に開示されている方法などが挙げられる。
具体的には、(1)攪拌装置を有する密閉槽内に、ポリ乳酸、可塑剤、分散剤及び水を同時に仕込み、加熱攪拌しながら加圧してポリ乳酸を分散させる加圧分散法、(2)常圧又は加圧下に保持されている熱水中に、ポリ乳酸、可塑剤、及び分散剤を含む溶融物を添加攪拌して分散させる直接分散法、(3)ポリ乳酸の有機溶媒溶液を、可塑剤及び分散剤を含む水溶液中に添加攪拌して分散させた後、有機溶媒を除去する方法、(4)ポリ乳酸を加熱溶融させ、これに可塑剤及び分散剤を含む水溶液を添加攪拌してポリ乳酸を水に分散させる転相法、などが挙げられる。
<有機溶剤>
前記有機溶剤としては、前記ポリ乳酸エマルションと混ざり合い、沸点が100℃以上であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコール、テキサノール、二塩基酸エステル、ブチルセロソルブアセテート、メチルピロリドン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。
前記有機溶剤は、沸点が100℃以上であり、160℃〜250℃であることが好ましい。前記沸点が、100℃未満であると、水よりも先に蒸発してしまい、造膜性の向上に寄与しないため、密着性や外観(透明性)が悪くなることがある。
前記有機溶剤としては、沸点が異なる2種類以上の有機溶剤を用いることが、段階的に有機溶剤の蒸発が起こり、塗膜の固化がゆっくり確実に進むため、外観が良い膜が得られやすい点で好ましい。また、固形分として複数種の成分を含む場合にはそれぞれの成分に効果的に作用するものを選択できる点で有利である。
この場合、最も沸点が低い有機溶剤の含有量が、最も沸点が高い有機溶剤の含有量より少ないことがより好ましい。前記最も沸点が低い有機溶剤の含有量が、最も沸点が高い有機溶剤の含有量より多いと、レベリング効果が下がり、塗膜表面に凹凸が現れたり、透明性が損なわれたりすることがある。
沸点が異なる2種類の有機溶剤を用いる場合には、例えばジエチレングリコールブチルメチルエーテル(沸点212℃)とプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)との組み合わせ、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(沸点212℃)とエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点145℃)との組み合わせ、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)とエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)との組み合わせ、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)とプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)との組み合わせなどが挙げられる。
前記有機溶剤の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%〜10質量%がより好ましい。前記有機溶剤の含有量が、10質量%を超えると、塗膜の硬度が下がることがある。
−その他の成分−
前記その他の成分としては、例えば着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、顔料分散剤、などが挙げられる。
本発明の塗料は、密着性、外観性(均一性、泡の有無、透明、色調)、及び硬度が向上し、ノート型パソコン、携帯電話等の電子機器の筐体に塗装可能となり、環境負荷が小さいので、各種塗装に用いることができるが、以下に説明する塗膜及び電子機器の塗装に好適に用いられる。
<塗膜>
本発明で用いられる塗膜は、本発明の前記塗料を塗装して得られる以外は、特に制限はなく、その形状、構造、大きさ等については適宜選択することができる。
前記塗料の塗装方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばバーコーター法、スプレーコート法、カーテンコート法、スピンコート法、グラビヤコート法、インクジェット法、ディップ法、などが挙げられる。
前記塗膜の厚みは、5μm〜30μmであることが好ましい。
前記塗膜のJIS K5600−5−4に基づく鉛筆硬度は、「H」以上が好ましく、「2H」以上がより好ましい。前記鉛筆硬度が、「H」未満であると、例えば、ノート型パソコン、携帯電話等の筐体に塗装した場合、使用(携帯)の際に簡単に表面にキズがついてしまい、美観を損なうことがある。ただし、テレビ、エアコン等の静置して使用されるものでは、ノート型パソコン、携帯電話等の携帯して使用されるものに比べて鉛筆硬度の要求が低いものもある。
前記塗膜は、環境負荷が小さく、密着性、外観性(均一性、泡の有無、透明、色調)、及び硬度に優れていることから、各種分野において好適に使用することができ、例えば、ノート型パソコン、携帯電話等の電子機器の筐体などとして好適に使用することができる。
(電子機器)
本発明の電子機器は、本発明の前記塗料で塗装された筐体を備えていること以外は、特に制限はなく、その形状、構造、大きさ等については適宜選択することができる。
前記電子機器としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばパソコン(ノート型パソコン、デスクトップ型パソコン)、電話機、携帯電話、コピー機、ファクシミリ、各種プリンター、デジタルカメラ、テレビ、ビデオ、CD装置、DVD装置、エアコン、リモコン装置、などが挙げられる。これらの中でも、携帯して使用する点でノート型パソコン、携帯電話が特に好ましい。
前記電子機器の筐体の塗装を、本発明の前記塗料を用いて行うことができる。
ここで、図4に、本発明の電子機器の一例としてのノート型パソコンを示す。
この図4のノート型パソコン20は、ノート型パソコン本体21と、回動して開かれる液晶表示パネル部22とを備えてなる。ノート型パソコン本体21は、扁平形状のハウジング25の上面に入力手段としてのキーボード部23及びポインティングディバイス24を有し、ハウジング25の内部にはハードディスク装置、及びCPU、メモリ等を搭載したプリント基板、バッテリが収納されている。
このノート型パソコンの筐体としては、図5に示すフロントカバー、図6に示すバックカバー、図7に示すアッパカバー、及び図8に示すロアカバーに分けられる。これらは、いずれも本発明の前記塗料を用いて塗装することが可能である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら制限されるものではない。
(実施例1)
−ポリ乳酸エマルションの作製−
特開2004−277681号公報の実施例を参照し、以下のようにしてポリ乳酸エマルションを作製した。
ポリ乳酸(三井化学株式会社製、レイシア100H)200g、荒川化学株式会社製ロジンエステルA−125を20g、ポリエステル系改質剤(大日本インキ化学工業株式会社製、PD−150)30g、ポリビニルアルコール(けん化度:88.1%)10g、イオン交換水390g、及び酢酸エチル200gを混合し、高速ホモジナイザーを使用して、200rpmで昇温し、90℃まで上昇した後、回転数を13,000rpmまで上げて1時間撹拌した。この間温度は125℃となった。その後40℃まで冷却し、減圧下で酢酸エチルを除去して、ポリ乳酸エマルションを作製した。
ここで、ロジンエステルA−125及びポリエステル系改質剤PD−150が柔軟性を与え、可塑剤の働きをしており、ポリビニルアルコールが分散剤の働きをしている。
−試料A〜試料Eの作製−
下記表1に示す組成(質量%)により、作製したポリ乳酸エマルションに、有機溶剤としてのジエチレングリコールブチルメチルエーテル(沸点212℃)を添加して、試料A〜試料Eを作製した。
次に、作製した各試料を、厚み1mmのABS樹脂の平板にバーコーターで、塗膜の厚みが15μmになるように塗装して、80℃で40分間加熱乾燥した。
各試料を塗装した塗膜について、以下のようにして、密着性、外観、及び鉛筆硬度の評価を行った。結果を表1に示す。また、試料A(比較例)の塗膜の状態を図1、試料B(実施例)の塗膜の状態を図2に示す。
<密着性試験>
JIS K5600−5−6に基づき、カッターナイフの刃は常に新しいものを使用し、ABS樹脂の平板まで到達する切込みを1mm間隔で11本入れた後、90°向きを変えて更に切り込みを1mm間隔で11本入れて、カットした塗膜面に約50mm付着するように粘着テープ(ニチバン社製セロテープ(登録商標)18mm幅)を貼り付けた。粘着テープを付着させてから1〜2分間後に粘着テープの端を持って塗膜面に直角に保ち、瞬間的に引き剥がした。100マス中、剥離せずに残っている碁盤マス目の数で、密着性を評価した。
全ての碁盤マス目で剥離のない状態(=100/100)を「OK」、1マス目でも剥離が生じた状態を「NG」とした。
<鉛筆硬度の評価>
JIS K5600−5−4に基づき、各塗膜の鉛筆硬度を評価した。「6B」、「5B」、「4B」、「3B」、「2B」、「B」、「HB」、「F」、「H」、「2H」、「3H」、「4H」、「5H」、「6H」の順に硬くなり、本発明においては、「H」以上を合格とした。
<外観の評価>
各塗膜の外観(均一性、泡の有無、透明、色調)を目視観察し、以下の基準で評価した。
〔均一性の判断基準〕
・「均一」 :目視の範囲で、表面凹凸、膜厚分布、色合いのムラが見られない(図2及び図3参照)
・「不均一」:目視の範囲で、表面凹凸、膜厚分布、色合いのムラが確認できる(図1参照)
〔色調の判断基準〕
◎:透明
○:やや白味
△:白っぽい
×:白濁
表1の結果から、試料A(比較例)は、ポリ乳酸エマルション単体であるが、不均一で密着性が悪く、容易に剥離した。鉛筆硬度が「B」であるのは、剥離の状態から、塗膜の硬度が柔らかいのではなく、密着不足による結果であると考えられた。図1の結果から、試料Aの塗膜は、不均一かつ白濁して泡の発生も見られ、ノート型パソコン、携帯電話等の電子機器の筐体の塗装に耐え得るものではなかった。
次に、ジエチレングリコールブチルメチルエーテルの含有量を増やすと、試料B〜試料D(実施例)、及び試料E(比較例)の順で透明感が増した。ジエチレングリコールブチルメチルエーテルを配合した試料B〜試料D(実施例)、及び試料E(比較例)は、いずれも十分な密着性が得られた。
ただし、ジエチレングリコールブチルメチルエーテルの配合量を増やすと鉛筆硬度がやや低下する傾向が見られ、15質量%配合した試料E(比較例)は、鉛筆硬度が「HB」まで低下し、ノート型パソコン、携帯電話等の電子機器の仕様を満たさないレベルとなった。密着性が十分に得られていること、及び生地露出の状態から、残留有機溶剤の影響で塗膜そのものが柔らかくなっているためであると判断した。
(実施例2)
以下のようにして、表2に示す試料F及び試料Gを作製した。
−試料Fの作製−
表2に示すとおり、実施例1と同じポリ乳酸エマルション92質量%に、有機溶剤としてジエチレングリコールブチルメチルエーテル(沸点212℃)5質量%、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)3質量%を配合して、試料Fを作製した。
−試料Gの作製−
表2に示すとおり、実施例1と同じポリ乳酸エマルション92質量%に、有機溶剤としてジエチレングリコールブチルメチルエーテル(沸点212℃)3質量%、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)5質量%を配合して、試料Gを作製した。
次に、実施例1の試料B及び試料Cと、上記作製した試料F及び試料Gを、厚み1mmのABS樹脂の平板にバーコーターで、厚みが15μmとなるように塗装して、80℃で40分間加熱乾燥した。
各試料を塗装した塗膜について、実施例1と同様にして、密着性、外観、及び鉛筆硬度の評価を行った。結果を表2に示す。また、試料Fの塗膜の状態を図3に示す。
表2の結果から、試料B(実施例)は、外観がやや白味を帯びていたが、プロピレングリコールモノメチルエーテルを3質量%追加した試料Fは透明な塗膜が得られた(図3参照)。試料F(実施例)に配合した有機溶剤総量は試料C(実施例)と同じであるが、試料F(実施例)では試料C(実施例)のような鉛筆硬度の低下傾向もなく、「2H」を保っていた。
また、沸点の低いプロピレングリコールモノメチルエーテルの配合量が多い試料G(実施例)では、塗膜が白っぽくなった。密着性及び鉛筆硬度は問題ないので、塗料として使用することは可能であるが、その際には使用できる色が限定されることになる。
なお、実施例2では、有機溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを追加配合したが、これに限られるものではなく、ポリ乳酸エマルションと混ざり合い、水よりも蒸発が遅いものであれば、適宜選択することができる。実施例1で用いた高沸点の有機溶剤であるジエチレングリコールブチルメチルエーテルよりも沸点が低く、例えば、沸点が120℃〜150℃の有機溶剤である、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点145℃)を実施例2と同様に追加した場合にも、実施例2と同様な結果が得られた。
(実施例3)
−黒色塗料C’、F’の作製及び塗装−
実施例1における試料C、及び実施例2における試料Fに、表3に示す量のカーボンブラック(MA100、三菱化学株式会社製)を配合して、それぞれ黒色塗料を作製した。
次に、作製した各黒色塗料を用い、図4に示す本発明の電子機器の一例であるノート型パソコンにおける図6に示すバックカバーに、塗装を行った。その結果、バックカバー全面にわたり均一に塗装できた。
得られた各塗膜について、実施例1と同様にして、外観、密着性、及び鉛筆硬度を評価した。結果を表3に示す。
表3の結果から、実施例1における試料Cを用いた黒色塗料C’(実施例)、及び実施例2における試料Fを用いた黒色塗料F’(実施例)は、いずれも高レベルの塗膜を形成できることが分かった。
(比較例1)
−試料Hの作製−
実施例1と同じポリ乳酸エマルション92質量%に、有機溶剤として酢酸エチル(沸点77℃)8質量%を添加して、試料Hを作製した。
得られた試料Hを、厚み1mmのABS樹脂の平板にバーコーターで厚みが15μmとなるように塗装して、80℃で40分間加熱乾燥した。
得られた試料Hの塗膜について、実施例1と同様にして、密着性、外観、及び鉛筆硬度の評価を行った。結果を表4に示す。
表4の結果から、沸点が100℃未満の有機溶剤を用いた試料H(比較例)の塗膜は、密着性試験において、ほぼ全面に剥離が生じて「NG」であった。外観は、試料A(比較例)より細かい泡が全面に発生し、凹凸があり、白濁していた。鉛筆硬度は「B」であり、密着性不足による影響であると考えられた。
(実施例4)
−試料I〜試料Nの作製−
実施例1と同じポリ乳酸エマルションに、有機溶剤としてエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、及びエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)を表5に示す量(質量%)で添加した試料I〜試料Nを、それぞれ作製した。
得られた試料I〜試料Nを、厚み1mmのABS樹脂の平板にバーコーターで厚みが15μmとなるように塗装して、80℃で40分間加熱乾燥した。
得られた各塗膜について、実施例1と同様にして、密着性、外観、及び鉛筆硬度の評価を行った。結果を表5に示す。
表5の結果から、試料I〜試料K及び試料M〜試料N(実施例)は、有機溶剤としてエチレングリコールモノブチルエーテルを用いた場合、有機溶剤としてエチレングリコールモノブチルエーテル、及びエチレングリコールモノメチルエーテルを用いた場合でも、密着性、外観、及び鉛筆硬度の評価について、実施例1及び2の試料B〜試料D(実施例)及び試料F〜試料G(実施例)と同レベルの結果が得られることが分かった。
ただし、エチレングリコールモノブチルエーテルを15質量%配合した試料L(比較例)は、鉛筆硬度が「F」まで低下し、ノート型パソコン、携帯電話等の電子機器の仕様を満たさないレベルとなった。
以上の実施例1〜4を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 少なくともポリ乳酸及び水を含むポリ乳酸エマルションと、有機溶剤とを含有してなり、
前記有機溶剤の沸点が100℃以上であり、かつ前記有機溶剤の含有量が10質量%以下であることを特徴とする塗料。
(付記2) 有機溶剤の含有量が、5質量%〜10質量%である付記1に記載の塗料。
(付記3) 有機溶剤の沸点が、160℃〜250℃である付記1から2のいずれかに記載の塗料。
(付記4) 沸点が異なる2種類以上の有機溶剤を含有する付記1から3のいずれかに記載の塗料。
(付記5) 最も沸点が低い有機溶剤の含有量が、最も沸点が高い有機溶剤の含有量より少ない付記4に記載の塗料。
(付記6) 有機溶剤が、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びエチレングリコールモノメチルエーテルから選択される少なくとも1種である付記1から5のいずれかに記載の塗料。
(付記7) 付記1から6のいずれかに記載の塗料で塗装された筐体を備える電子機器。
開示の塗料は、優れた密着性、外観性(均一性、泡の有無、透明、色調)、及び硬度を兼ね備え、環境負荷が小さいので、各種分野における塗料として好適に使用することができ、例えば、ノート型パソコン、携帯電話等の電子機器の筐体などに好適に使用することができる。
開示の電子機器は、例えば携帯電話、ノート型パソコンなどに好適である。
20 ノート型パソコン
21 ノート型パソコン本体
22 液晶表示パネル部
23 キーボード部
24 ポインティングディバイス
25 ハウジング

Claims (5)

  1. 少なくともポリ乳酸及び水を含むポリ乳酸エマルションと、有機溶剤とを含有してなり、
    前記有機溶剤の沸点が100℃以上であり、かつ前記有機溶剤の含有量が10質量%以下であることを特徴とする塗料。
  2. 沸点が異なる2種類以上の有機溶剤を含有する請求項1に記載の塗料。
  3. 最も沸点が低い有機溶剤の含有量が、最も沸点が高い有機溶剤の含有量より少ない請求項2に記載の塗料。
  4. 有機溶剤が、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びエチレングリコールモノメチルエーテルから選択される少なくとも1種である請求項1から3のいずれかに記載の塗料。
  5. 請求項1から4のいずれかに記載の塗料で塗装された筐体を備えることを特徴とする電子機器。
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