JP2004314612A - 圧電インクジェットヘッドの駆動方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 駆動電圧を印加する際の、電圧の立ち上がりの時定数τUPと、駆動電圧の印加を停止する際の、電圧の立ち下がりの時定数τDNとを、駆動部の残留振動の周期Taに対して、式(i)(ii):
Ta/(−ln0.01)≦τUP≦Ta/(−ln0.25) (i)
Ta/(−ln0.01)≦τDN≦Ta/(−ln0.25) (ii)
の少なくとも一方を満足する範囲に設定するか、駆動電圧のパルス幅T3を、駆動部の残留振動の周期Taの整数倍に設定した駆動電圧波形によって、駆動部を駆動する。
【選択図】 なし
Description
圧電素子9に電圧を印加して力を発生させると、ヘッド内のインクは、振動板7を介して駆動部Dから受けた圧力によって振動を起こす。この振動は、駆動部Dと加圧室2とを弾性、加圧室2にインクを供給する供給口5、加圧室2とノズル3とを繋ぐノズル流路4、およびノズル3を慣性として発生する。この振動における、ヘッド内のインクの、体積速度の固有振動周期は、上記各部の寸法とインクの物性値、駆動部Dの寸法と物性値とによって決まる。
特許文献1において説明されているように、圧電インクジェットヘッドにおいては、待機時の圧電素子に、一定の駆動電圧を継続的に印加して、圧電素子を変形させ続けることで、振動板を撓ませ続けて、加圧室の容積を減少させた状態を維持しておき、ドット形成時には、
(1) ドットを形成する直前に、駆動電圧を放電して圧電素子の変形を解除して、振動板の撓みを解除することで、加圧室の容積を増加させて、ノズル内のインクメニスカスを一旦、加圧室の側へ引き込んだ後、
(2) 再び駆動電圧を印加して圧電素子を変形させて、振動板を撓ませることで、加圧室の容積を減少させて、ノズルの先端からインク滴を吐出させる駆動方法が一般的に用いられる。以下では、この駆動方法を、「引き打ち式の駆動方法」と略称する場合がある。
以下に、前記図2、3に示すように、厚みの小さい平板状または層状に形成され、駆動電圧を印加することによって面方向に収縮する横振動モードの圧電素子9を使用した場合を例にとって、この駆動方法を説明する。
ノズルからインク滴を吐出させて、紙面にドットを形成するには、まず、その直前のt1の時点で、圧電素子に印加していた駆動電圧VPを放電(VP=0)して、圧電素子の面方向の収縮を解除することによって、振動板の撓みを解除する。
ドット形成時には、
(I) ドット形成直前に駆動電圧を印加して圧電素子を収縮させて、振動板を撓ませることで、加圧室の容積を減少させて、ノズル内のインクメニスカスをノズルの先端方向へ押し出して、インクをノズルの先端から柱状(インク柱)に突出させ、
(II) 駆動電圧を再び放電して、圧電素子の収縮を解除して、振動板の撓みを解除することで、加圧室の容積を増加させて、ノズルの先端から突出したインク柱をノズル内に引き戻すことで、インク滴を分離させる駆動方法も採用される。以下では、この駆動方法を、「押し打ち式の駆動方法」と略称する場合がある。
以下に、この駆動方法を説明する。
すなわち、図18中のt1より左側の待機状態においては、駆動電圧VPを印加せず(VP=0)、加圧室の容積は初期のままで、ノズルにおけるインクの体積速度は0を維持する。
そうすると、加圧室の容積が一定量だけ減少するため、ノズル内のインクは、その容積の減少分だけ、インクメニスカスがノズルの外方向に押し出される。その際の、ノズル内でのインクの体積速度は、図18のt1とt2の間の部分に示すように、(+)の側に大きくなって最大となり、その後減少に転じ、さらに(−)の側に大きくなって最小となり、その後増加に転じ、やがて0に近づく。これは、太線の実線で示すインクの体積速度の固有振動周期T1に相当する。
そこで、このt2の時点で、振動板の撓みを解除して加圧室の体積を増加させることによって、逆位相のインク振動を発生させると、インクメニスカスの上記運動が抑制され、インク柱が分離されて、インク滴が形成される。そして、形成されたインク滴が紙面に到達することによって、紙面にドットが形成される。
しかし、この固有振動が、例えば引き打ち式の駆動方法の場合を例にとって説明すると、図19に示したように、インク滴形成時の、インクの体積速度の振動に、残留振動として重ね合わされる。そして、駆動電圧波形の立ち上がりのタイミングと、残留振動の位相とがずれることによって、形成されるインク滴の体積や飛翔速度が変動するという問題を生じる。
このため、駆動電圧波形のパルス幅がごく僅かでも変動すると、インク滴の体積、と飛翔速度とが大きく変動することになる。
これらの問題は、押し打ち式の駆動方法においても同様に発生する。
特許文献2では、厚みの大きい板状、ないしは、所定の断面形状を有する棒状に形成され、駆動電圧を印加することで、板の厚み方向、棒の長さ方向に伸長する縦振動モードの圧電素子を使用している。
しかし、図2、3に示した横振動モードの圧電素子9は、縦振動モードのものに比べて、駆動部の固有振動周期が大きい。このため、駆動電圧波形の立ち下がり/立ち上がりの時定数を、駆動部の固有振動周期と同じくらい長くすると、インク滴の飛翔速度が著しく低下する。
本発明の他の目的は、圧電素子の振動モードに関係なく、駆動部の残留振動をできるだけ抑制することができる、新規な駆動方法を提供することにある。
その結果、駆動電圧波形の立ち下がり時においては、駆動電圧VpがVHの1〜25%に立ち下がるまでの時間を、ヘッド内のインクの体積速度の振動波形に重ね合わされる、駆動部の残留振動の周期Taと等しくし、また、駆動電圧波形の立ち上がり時においては、駆動電圧VpがVHの75〜99%に立ち上がるまでの時間を、周期Taと等しくするのが、インク滴の飛翔速度の低下を抑制しつつ、駆動部の残留振動を抑制するために有効であることを見出した。
Ta/(−ln0.01)≦τUP≦Ta/(−ln0.25) (i)
を満足する範囲に設定するか、もしくは、駆動電圧Vpの立ち下がりの時定数τDNを、上記周期Taに対して、式(ii):
Ta/(−ln0.01)≦τDN≦Ta/(−ln0.25) (ii)
を満足する範囲に設定する。あるいは、この両方の設定をともに行う。
加圧室に連通し、当該加圧室に充填されたインクによって内部にインクメニスカスが形成されるノズルと、
駆動電圧の印加によって面方向に収縮する横振動モードの圧電素子と、
圧電素子と積層されて駆動部を構成し、圧電素子の、駆動電圧の印加による面方向の収縮によって撓んで加圧室の容積を減少させることにより、加圧室内のインクを加圧して、ノズルの先端からインク滴として吐出させる振動板と、
を備えた圧電インクジェットヘッドを、
(A) 圧電素子に駆動電圧を印加して、圧電素子を面方向に収縮させることで、振動板を撓ませて、加圧室の容積を減少させる工程と、
(B) 圧電素子への駆動電圧の印加を停止して、圧電素子の面方向への収縮を解除することで、振動板の撓みを解除して、加圧室の容積を増加させる工程と、
を組み合わせることにより、ノズルの先端からインク滴を吐出させる駆動方法において、
(a) 上記(A)の工程での、駆動電圧の立ち上がりの時定数τUPを、ヘッド内のインクの体積速度の振動波形に重ね合わされる、駆動部の残留振動の周期Taに対して、式(i):
Ta/(−ln0.01)≦τUP≦Ta/(−ln0.25) (i)
を満足する範囲に設定する、
(b) 上記(B)の工程での、駆動電圧の立ち下がりの時定数τDNを、上記周期Taに対して、式(ii):
Ta/(−ln0.01)≦τDN≦Ta/(−ln0.25) (ii)
を満足する範囲に設定する、
のうち、少なくとも一方の設定をした駆動電圧波形により、圧電素子を駆動させることを特徴とする。圧電インクジェットヘッドの駆動方法である。
したがって請求項2記載の発明は、圧電インクジェットヘッドを、
待機時には、圧電素子に一定の駆動電圧を継続的に印加して面方向に収縮させ続けることで、振動板を撓ませ続けて、加圧室の容積を減少させた状態を維持しておき、
ドット形成時には、
(1) ドット形成直前に駆動電圧を放電して、圧電素子の収縮を解除して、振動板の撓みを解除することで、加圧室の容積を増加させて、ノズル内のインクメニスカスを加圧室の側へ引き込んだ後、
(2) 駆動電圧を再び印加して圧電素子を収縮させて、振動板を撓ませることで、加圧室の容積を減少させて、ノズルの先端からインク滴を吐出させる、
請求項1記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法である。
したがって、請求項3記載の発明は、圧電インクジェットヘッドを、
待機時には、圧電素子に駆動電圧を印加しない状態を維持しておき、
ドット形成時には、
(I) ドット形成直前に駆動電圧を印加して圧電素子を収縮させて、振動板を撓ませることで、加圧室の容積を減少させて、ノズル内のインクメニスカスをノズルの先端方向へ押し出して、インクをノズルの先端から柱状に突出させ、
(II) 駆動電圧を再び放電して、圧電素子の収縮を解除して、振動板の撓みを解除することで、加圧室の容積を増加させて、ノズルの先端から柱状に突出したインクをノズル内に引き戻すことで、インク滴を分離させる、
請求項1記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法である。
Ta/(−ln0.05)≦τUP≦Ta/(−ln0.25) (i-1)
の範囲内であるのが好ましい。
したがって、請求項4記載の発明は、(A)の工程での駆動電圧の立ち上がりの時定数τUPを、周期Taに対して、式(i-1):
Ta/(−ln0.05)≦τUP≦Ta/(−ln0.25) (i-1)
を満足する範囲に設定する請求項1記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法である。
Ta/(−ln0.05)≦τDN≦Ta/(−ln0.25) (ii-1)
の範囲内であるのが好ましい。
したがって、請求項5記載の発明は、(B)の工程での駆動電圧の立ち下がりの時定数τDNを、周期Taに対して、式(ii-1):
Ta/(−ln0.05)≦τDN≦Ta/(−ln0.25) (ii-1)
を満足する範囲に設定する請求項1記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法である。
その結果、駆動電圧波形のパルス幅T3を、ヘッド内のインクの体積速度の振動波形に重ね合わされる、駆動部の残留振動の周期Taの整数倍に設定するのが、駆動部の残留振動を抑制するために有効であることを見出した。
したがって、請求項6記載の発明は、インクが充填される加圧室と、
加圧室に連通し、当該加圧室に充填されたインクによって内部にインクメニスカスが形成されるノズルと、
駆動電圧の印加によって変形する圧電素子と、
圧電素子と積層されて駆動部を構成し、圧電素子の、駆動電圧の印加による変形によって撓んで加圧室の容積を減少させることにより、加圧室内のインクを加圧して、ノズルの先端からインク滴として吐出させる振動板と、
を備えた圧電インクジェットヘッドを、
(A) 圧電素子に駆動電圧を印加して、圧電素子を変形させることで、振動板を撓ませて、加圧室の容積を減少させる工程と、
(B) 圧電素子への駆動電圧の印加を停止して、圧電素子の変形を解除することで、振動板の撓みを解除して、加圧室の容積を増加させる工程と、
を組み合わせることにより、ノズルの先端からインク滴を吐出させる駆動方法において、
上記(A)の充電工程での駆動電圧の立ち上がりと、(B)の工程での駆動電圧の立ち下がりとの間のパルス幅T3を、ヘッド内のインクの体積速度の振動波形に重ね合わされる、駆動部の残留振動の周期Taの整数倍に設定した駆動電圧波形により、圧電素子を駆動させることを特徴とする圧電インクジェットヘッドの駆動方法である。
したがって、請求項7記載の発明は、圧電インクジェットヘッドを、
待機時には、圧電素子に一定の駆動電圧を継続的に印加して面方向に収縮させ続けることで、振動板を撓ませ続けて、加圧室の容積を減少させた状態を維持しておき、
ドット形成時には、
(1) ドット形成直前に駆動電圧を放電して、圧電素子の収縮を解除して、振動板の撓みを解除することで、加圧室の容積を増加させて、ノズル内のインクメニスカスを加圧室の側へ引き込んだ後、
(2) 駆動電圧を再び印加して圧電素子を収縮させて、振動板を撓ませることで、加圧室の容積を減少させて、ノズルの先端からインク滴を吐出させるとともに、
(3) 上記(1)の工程での駆動電圧の立ち下がりから、(2)の工程での駆動電圧の立ち上がりまでの、駆動電圧波形のパルス幅T3を、駆動部の残留振動の周期Taの整数倍に設定する、
請求項6記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法である。
したがって、請求項8記載の発明は、圧電インクジェットヘッドを、
待機時には、圧電素子に駆動電圧を印加しない状態を維持しておき、
ドット形成時には、
(I) ドット形成直前に駆動電圧を印加して圧電素子を収縮させて、振動板を撓ませることで、加圧室の容積を減少させて、ノズル内のインクメニスカスをノズルの先端方向へ押し出して、インクをノズルの先端から柱状に突出させ、
(II) 駆動電圧を再び放電して、圧電素子の収縮を解除して、振動板の撓みを解除することで、加圧室の容積を増加させて、ノズルの先端から柱状に突出したインクをノズル内に引き戻すことで、インク滴を分離させるとともに、
(III) 上記(I)の工程での駆動電圧の立ち上がりから、(II)の工程での駆動電圧の立ち下がりまでの、駆動電圧波形のパルス幅T3を、駆動部の残留振動の周期Taの整数倍に設定する、
請求項6記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法である。
図の例の圧電インクジェットヘッドは、1枚の基板1上に、加圧室2とそれに連通するノズル3とを含むドット形成部を複数個、配列したものである。
また、図2は、上記例の圧電インクジェットヘッドにおいて、駆動部を取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す断面図、図3は、1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。
各ドット形成部は、基板1の、図2において上面側に形成した、矩形状の中央部の両端に半円形の端部を接続した平面形状(図3参照)を有する加圧室2と、上記基板1の下面側の、加圧室2の一端側の端部の、半円の中心と重なる位置に形成したノズル3とを、上記端部の半円と同径の、断面円形のノズル流路4で繋ぐとともに、上記加圧室2の他端側の端部の、半円の中心と重なる位置に形成した供給口5を介して、加圧室2を、基板1内に、各ドット形成部を繋ぐように形成した共通供給路6(図1に破線で示す)に繋ぐことで構成してある。
また、第1基板1aと第2基板1bには、図1に示すように、第3基板1cに形成した共通供給路6を、基板1の上面側で、図示していないインクカートリッジからの配管と接続するためのジョイント部11を構成するための通孔11aを形成してある。
基板1の上面側には、当該基板1と同じ大きさを有する1枚の振動板7と、少なくとも各ドット形成部を覆う大きさを有する1枚の薄膜状の共通電極8と、図1中に一点鎖線で示すように各ドット形成部の加圧室2の中央部と重なる位置に個別に設けた、略矩形状の平面形状を有する横振動モードの薄板状の圧電素子9と、各圧電素子9上に形成した、同じ平面形状を有する個別電極10とを、この順に積層することで駆動部Dを構成してある。
振動板7は、モリブデン、タングステン、タンタル、チタン、白金、鉄、ニッケルなどの単体金属や、これら金属の合金、あるいはステンレス鋼などの金属材料にて、所定の厚みを有する板状に形成してある。また、振動板7には、先の基板1の通孔11aとともにジョイント部11を構成する通孔11bを形成してある。
圧電素子9を形成する圧電材料としては、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)や、当該PZTにランタン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガンなどの酸化物の1種または2種以上を添加したもの、例えばPLZTなどの、PZT系の圧電材料を挙げることができる。また、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN)、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、チタン酸バリウムなどを主要成分とするものを挙げることもできる。
例えば、圧電材料の焼結体を薄板状に研磨して所定の平面形状を有するチップを作製し、それを、共通電極8上の所定の位置に接着、固定したり、いわゆるゾル−ゲル法(またはMOD法)によって、共通電極8上に、圧電材料のもとになる有機金属化合物から形成したペーストを所定の平面形状に印刷し、乾燥、仮焼成、焼成の工程を経て形成したり、あるいは共通電極8上に、反応性スパッタリング法、反応性真空蒸着法、反応性イオンプレーティング法などの気相成長法によって、圧電材料の薄膜を所定の平面形状に形成したりすることによって、圧電素子9を形成することができる。
圧電材料の分極方向を、上記の方向に配向させた圧電素子9は、共通電極8を接地した状態で、個別電極10から(+)の駆動電圧VPを印加することによって、分極方向と直交する面内で収縮する。しかし圧電素子9は、共通電極8を介して振動板7に固定されているため、結果的に、圧電素子9と振動板7とが、図2中に一点鎖線で示すように、加圧室方向に撓むことになる。
インク滴が飛翔して減少した分のインクは、ノズル3内のインクメニスカスの表面張力によって、インクカートリッジから、当該インクカートリッジの配管、ジョイント部11、共通供給路6、供給口5、加圧室2、およびノズル流路4を介してノズル3に再充てんされる。
図の回路は、電源線12aと接地12bとの間に、第1トランジスタTR1、抵抗R1、R2、および第2トランジスタTR2を直列に繋いで、第1回路12cを形成し、かつ、この第1回路12cの抵抗R1、R2間から分岐させて、抵抗R3、個別電極10、圧電素子9、および共通電極8を介して、接地12dに至る第2回路12eを形成するとともに、両トランジスタTR1、TR2のベースに、それぞれ、コントロール電圧VCを印加するための端子12fを接続したものである。圧電素子9は、等価的にコンデンサとして機能する。
そうすると、第1トランジスタTR1のエミッタ−コレクタ間がOFF、第2トランジスタTR2のコレクタ−エミッタ間がONとなるため、圧電素子9に印加されていた駆動電圧VPが、抵抗R3、R2および第2トランジスタTR2を介して、接地12bに放電される。
VP=VH×exp〔−t/τDN〕 (iii)
(式中のtは、t1からの経過時間、τDNは、前記のように立ち下がりの時定数である。)
に基づいて、図6に示すように立ち下がり、やがて0Vになる(VP=0)。立ち下がりの際の時定数τDNは、図4の回路の場合、式(iv):
τDN=CP×(r2+r3) (iv)
(式中のCPは、圧電素子9の、コンデンサとしての容量、r2、r3は、それぞれ、抵抗R2、R3の抵抗値である。)
で求められる。
次に、前述した図17のt2の時点で、図5に示すように、端子12fから、両トランジスタTR1、TR2のベースに、再び、コントロール電圧VC1を印加する。
この際、駆動電圧VPは、0Vから、式(v):
VP=VH×{1−exp〔−t/τUP〕} (v)
(式中のtは、t2からの経過時間、τUPは、前記のように立ち上がりの時定数である。)
に基づいて、図6に示すように立ち上がって再度、VHに達する(VP=VH)。立ち上がりの際の時定数τUPは、図4の回路の場合、式(vi):
τUP=CP×(r1+r3) (vi)
(式中のCPは、前述した圧電素子9の、コンデンサとしての容量、r1、r3は、それぞれ、抵抗R1、R3の抵抗値である。)
で求められる。
そうすると、第1トランジスタTR1のエミッタ−コレクタ間がON、第2トランジスタTR2のコレクタ−エミッタ間がOFFとなるため、電源線12aから、第1トランジスタTR1、抵抗R1、R3、個別電極10を介して、圧電素子9に、充電が開始される。
そして、これにより、圧電素子9が面方向に収縮して、振動板7を撓ませることによって、加圧室2の容積が減少して、インクが、加圧室2からノズル3に押し出され、次いで、インクの固有振動によって、前記のようにインク柱が形成される。
そうすると、第1トランジスタTR1のエミッタ−コレクタ間がOFF、第2トランジスタTR2のコレクタ−エミッタ間がONとなるため、圧電素子9に印加されていた駆動電圧VPが、抵抗R3、R2および第2トランジスタTR2を介して、接地12bに放電される。
そして、これにより、圧電素子9の面方向の収縮が解除されるとともに、振動板7の撓みが解除されて、加圧室2の容積が一定量だけ増加し、その容積の増加分だけ、ノズル3内のインクメニスカスが、加圧室2の側に引き込まれる。そして、先に述べたように、形成されたインク柱が分離されて、インク滴が形成される。そして、形成されたインク滴が紙面に到達することによって、紙面にドットを形成する。
VH×0.01≦VP≦VH×0.25 (vii)
を満足する範囲に入るまでに要する時間を、ヘッド内のインクの体積速度の振動波形に重ね合わされる、駆動部Dの残留振動の周期Taと等しくするか、駆動電圧波形の立ち上がり時に、圧電素子9に印加されている駆動電圧VPが、VHの75〜99%に立ち上がる、すなわち式(viii):
VH×0.75≦VP≦VH×0.99 (viii)
を満足する範囲に入るまでに要する時間を、同じく、周期Taと等しくするか、もしくは、この両方の設定を同時にする必要がある。
Ta/(−ln0.01)≦τUP≦Ta/(−ln0.25) (i)
を満足する範囲に設定するか、もしくは、駆動電圧Vpの立ち下がりの時定数τDNを、上記周期Taに対して、式(ii):
Ta/(−ln0.01)≦τDN≦Ta/(−ln0.25) (ii)
を満足する範囲に設定する。あるいは、この両方の設定をともに行う。これにより、インク滴の飛翔速度の低下を抑制しつつ、駆動部Dの残留振動を抑えることができる。
なお、駆動電圧VPの立ち上がりの時定数τUPは、駆動部Dの残留振動を抑える効果をさらに向上することを考慮すると、上記の範囲内でも特に、式(i-1):
Ta/(−ln0.05)≦τUP≦Ta/(−ln0.25) (i-1)
を満足する範囲内とするのが好ましい。また、立ち下がりの時定数τDNは、同じ理由で、式(ii-1):
Ta/(−ln0.05)≦τDN≦Ta/(−ln0.25) (ii-1)
を満足する範囲内とするのが好ましい。
つまり、引き打ち式の駆動方法では、前記のように、駆動電圧波形を立ち下げることによって生じた駆動部Dの残留振動が、半周期の偶数倍、すなわち全周期の整数倍の振動を終了した時点で、駆動電圧波形を立ち上げると、当該駆動部Dには、残留振動と逆の位相の振動が発生し、両振動の打ち消し合いにより、それ以降の駆動部Dの残留振動を抑えることができる。
よって、ヘッド内のインクの体積速度の固有振動に重ね合わされる、駆動部Dの残留振動を抑えるためには、駆動電圧波形の立ち上がりのタイミングを規定するパルス幅T3を、上記残留振動の周期Taの半分の偶数倍、つまり全周期の整数倍に設定すればよいのである。
しかし、駆動部Dの残留振動が、半周期の奇数倍の振動を終了した時点で駆動電圧波形を立ち下げると、当該駆動部Dには、残留振動と同じ位相の振動が発生することになるため、両振動が増幅しあって、それ以降の駆動部Dの残留振動をさらに拡大してしまう。
なお、押し打ち式の駆動方法における、インク滴吐出のメカニズムを考慮すると、駆動電圧波形のパルス幅T3は、ヘッド内のインクの、体積速度の固有振動周期T1の1倍を基準として設定する必要がある。このことから、駆動電圧波形のパルス幅T3は、体積速度の固有振動周期T1の1倍に最も近似し、なおかつ、駆動部Dの残留振動の周期Taの整数倍に設定するのが好ましい。
この駆動方法では、待機時には、圧電素子9に、駆動電圧VPとして、ドット形成時の電圧VHより低い電圧VLを印加し続け、それに伴って圧電素子9と振動板7とが、ドット形成時より緩やかに撓んだ状態を維持する。
すなわち駆動部Dは、それ自体の弾性と慣性のみで決まる、ヘッド内にインクがない状態での固有振動角周波数ωa0を有している。かかる固有振動角周波数ωa0は、駆動部Dの音響容量の逆数で表される復元力1/Caと、イナータンスMaとから、式(1):
ωa0 2=(1/Ca)/Ma (1)
で求められる。そしてここから、ヘッド内にインクがない状態での、駆動部Dの固有振動周期Ta0が、式(2):
よって、ヘッド内にインクがある状態での、駆動部Dの残留振動の角周波数ωaは、式(3):
ωa2=(1/Ca+1/Cc)/Ma (3)
で求められる。そしてここから、ヘッド内にインクがある状態で、ヘッド内のインクの体積速度の振動波形に乗っている、駆動部Dの残留振動の周期Taが、式(4):
また、残留振動の周期Taと、先の固有振動周期Ta0とは、式(2)(4)から、式(5):
このとき駆動部の音響容量Ca〔m5/N〕は、式(6):
Ca=δV/P (6)
〔式中のPは駆動部に加えた圧力〔N/m2〕、δVは駆動部の体積変化量〔m3〕である。〕
で求められる。また加圧室2の音響容量Cc〔m5/N〕は、式(7):
Cc=V/κ (7)
〔式中のVは加圧室2の体積〔m3〕、κはインクの体積弾性率〔N/m2〕である。〕
で求められる。
(圧電インクジェットヘッドの作製)
図1〜図3に示す構造を有し、なおかつ、加圧室2の面積が0.2mm2、幅が200μm、深さが100μm、ノズル3の直径が25μm、長さが30μm、ノズル流路4の直径が200μm、長さが800μm、供給口5の直径が25μm、長さが30μm、振動板7の厚みが50μm、圧電素子9の厚みが20μmである圧電インクジェットヘッドを作製した。
(電気等価回路の作成)
上記圧電インクジェットヘッドについて、上記各部を集中定数で近似して、図9に示す音響系の電気等価回路を作成した。
図の電気等価回路において、駆動部は、等価的に音響容量CaとイナータンスMaと音響抵抗Raで表すことができ、加圧室2は、音響容量Ccで表すことができる。
さらに、ノズル3は、イナータンスMnと音響抵抗Rnで表すことができるとともに、当該ノズル3の、インクメニスカスの表面張力が作用している。
(インク滴の飛翔速度の演算)
図4の駆動回路のうち、抵抗R1〜R3の抵抗値r1〜r3を適宜、変更(ただしr1=r2を維持)して、圧電素子に印加されている駆動電圧VPが、VHのx%に立ち下がるまでの時間と、圧電素子に印加されている駆動電圧VPが、VHの(100−x)%に立ち上がるまでの時間が、ともに、ヘッド内のインクの体積速度の振動波形に重ね合わされる、駆動部の残留振動の周期Taと等しくなるように、駆動電圧波形の立ち上がりの時定数τUPと、立ち下がりの時定数τDNとを設定(τUP=τDN)した。
(駆動部の残留振動の検討)
つぎに、駆動電圧波形の時定数τUP、τDNがともに0.210μsecであるとき(x=5%)、0.136μsecであるとき(x=1%)、および0.091μsecであるとき(x=0.1%)の、インクの、体積速度の振動をシミュレートしたところ、図10〜図12に示す結果が得られた。
(結論)
駆動部の残留振動を抑え、かつ、インク滴の飛翔速度の低下を抑えるには、時定数が0.136μsec以上、0.453μsec以下でなければいけないことが判った。
実施例2
(圧電インクジェットヘッドの作製)
図1〜図3に示す構造を有し、なおかつ、加圧室2の面積が0.2mm2、幅が200μm、深さが100μm、ノズル3の直径が25μm、長さが30μm、ノズル流路4の直径が200μm、長さが800μm、供給口5の直径が25μm、長さが30μm、振動板7の厚みが30μm、圧電素子9の厚みが20μmである圧電インクジェットヘッドを作製した。
(印刷品質の観察)
実施例で作製した圧電インクジェットヘッドを、引き打ち式の駆動方法で駆動することとし、図6に示す駆動電圧波形を有し、かつ駆動電圧VPの所定値VHが20Vである駆動電圧を、パルス幅T3を3.22μsecから4.60μsecの間(上記周期Taの3.5倍〜5倍の間)で、0.46μsec間隔で段階的に変化させた状態で印加して、紙面に印刷した際の、印刷品質の良否を観察した。
○:チリ等のない良好な印刷が得られた。
×:印刷にチリ等がみられた。
(電気等価回路の作成)
上記圧電インクジェットヘッドについて、前記と同様にして、図9に示す音響系の電気等価回路を作成した。
つぎに、実施例で作製した圧電インクジェットヘッドに、前記と同様に図6に示す駆動電圧波形を有し、かつ駆動電圧VPの所定値VHが20Vである駆動電圧を、パルス幅T3を3.22μsecから4.60μsecの間で、0.46μsec間隔で段階的に変化させて印加した際の、インクの、体積速度の振動をシミュレートしたところ、図13〜図16に示す結果が得られた。
以上の結果から、駆動部の残留振動を抑えるためには、駆動電圧波形のパルス幅T3を、ヘッド内のインクの体積速度の振動波形に乗っている、駆動部の残留振動の周期Taの半周期の偶数倍、すなわち全周期の整数倍に設定すればよいことが確認された。
3 ノズル
7 振動板
9 圧電素子
Claims (8)
- インクが充填される加圧室と、
加圧室に連通し、当該加圧室に充填されたインクによって内部にインクメニスカスが形成されるノズルと、
駆動電圧の印加によって面方向に収縮する横振動モードの圧電素子と、
圧電素子と積層されて駆動部を構成し、圧電素子の、駆動電圧の印加による面方向の収縮によって撓んで加圧室の容積を減少させることにより、加圧室内のインクを加圧して、ノズルの先端からインク滴として吐出させる振動板と、
を備えた圧電インクジェットヘッドを、
(A) 圧電素子に駆動電圧を印加して、圧電素子を面方向に収縮させることで、振動板を撓ませて、加圧室の容積を減少させる工程と、
(B) 圧電素子への駆動電圧の印加を停止して、圧電素子の面方向への収縮を解除することで、振動板の撓みを解除して、加圧室の容積を増加させる工程と、
を組み合わせることにより、ノズルの先端からインク滴を吐出させる駆動方法において、
(a) 上記(A)の工程での、駆動電圧の立ち上がりの時定数τUPを、ヘッド内のインクの体積速度の振動波形に重ね合わされる、駆動部の残留振動の周期Taに対して、式(i):
Ta/(−ln0.01)≦τUP≦Ta/(−ln0.25) (i)
を満足する範囲に設定する、
(b) 上記(B)の工程での、駆動電圧の立ち下がりの時定数τDNを、上記周期Taに対して、式(ii):
Ta/(−ln0.01)≦τDN≦Ta/(−ln0.25) (ii)
を満足する範囲に設定する、
のうち、少なくとも一方の設定をした駆動電圧波形により、圧電素子を駆動させることを特徴とする。圧電インクジェットヘッドの駆動方法。 - 圧電インクジェットヘッドを、
待機時には、圧電素子に一定の駆動電圧を継続的に印加して面方向に収縮させ続けることで、振動板を撓ませ続けて、加圧室の容積を減少させた状態を維持しておき、
ドット形成時には、
(1) ドット形成直前に駆動電圧を放電して、圧電素子の収縮を解除して、振動板の撓みを解除することで、加圧室の容積を増加させて、ノズル内のインクメニスカスを加圧室の側へ引き込んだ後、
(2) 駆動電圧を再び印加して圧電素子を収縮させて、振動板を撓ませることで、加圧室の容積を減少させて、ノズルの先端からインク滴を吐出させる、
請求項1記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法。 - 圧電インクジェットヘッドを、
待機時には、圧電素子に駆動電圧を印加しない状態を維持しておき、
ドット形成時には、
(I) ドット形成直前に駆動電圧を印加して圧電素子を収縮させて、振動板を撓ませることで、加圧室の容積を減少させて、ノズル内のインクメニスカスをノズルの先端方向へ押し出して、インクをノズルの先端から柱状に突出させ、
(II) 駆動電圧を再び放電して、圧電素子の収縮を解除して、振動板の撓みを解除することで、加圧室の容積を増加させて、ノズルの先端から柱状に突出したインクをノズル内に引き戻すことで、インク滴を分離させる、
請求項1記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法。 - (A)の工程での駆動電圧の立ち上がりの時定数τUPを、周期Taに対して、式(i-1):
Ta/(−ln0.05)≦τUP≦Ta/(−ln0.25) (i-1)
を満足する範囲に設定する請求項1記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法。 - (B)の工程での駆動電圧の立ち下がりの時定数τDNを、周期Taに対して、式(ii-1):
Ta/(−ln0.05)≦τDN≦Ta/(−ln0.25) (ii-1)
を満足する範囲に設定する請求項1記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法。 - インクが充填される加圧室と、
加圧室に連通し、当該加圧室に充填されたインクによって内部にインクメニスカスが形成されるノズルと、
駆動電圧の印加によって変形する圧電素子と、
圧電素子と積層されて駆動部を構成し、圧電素子の、駆動電圧の印加による変形によって撓んで加圧室の容積を減少させることにより、加圧室内のインクを加圧して、ノズルの先端からインク滴として吐出させる振動板と、
を備えた圧電インクジェットヘッドを、
(A) 圧電素子に駆動電圧を印加して、圧電素子を変形させることで、振動板を撓ませて、加圧室の容積を減少させる工程と、
(B) 圧電素子への駆動電圧の印加を停止して、圧電素子の変形を解除することで、振動板の撓みを解除して、加圧室の容積を増加させる工程と、
を組み合わせることにより、ノズルの先端からインク滴を吐出させる駆動方法において、
上記(A)の充電工程での駆動電圧の立ち上がりと、(B)の工程での駆動電圧の立ち下がりとの間のパルス幅T3を、ヘッド内のインクの体積速度の振動波形に重ね合わされる、駆動部の残留振動の周期Taの整数倍に設定した駆動電圧波形により、圧電素子を駆動させることを特徴とする圧電インクジェットヘッドの駆動方法。 - 圧電インクジェットヘッドを、
待機時には、圧電素子に一定の駆動電圧を継続的に印加して面方向に収縮させ続けることで、振動板を撓ませ続けて、加圧室の容積を減少させた状態を維持しておき、
ドット形成時には、
(1) ドット形成直前に駆動電圧を放電して、圧電素子の収縮を解除して、振動板の撓みを解除することで、加圧室の容積を増加させて、ノズル内のインクメニスカスを加圧室の側へ引き込んだ後、
(2) 駆動電圧を再び印加して圧電素子を収縮させて、振動板を撓ませることで、加圧室の容積を減少させて、ノズルの先端からインク滴を吐出させるとともに、
(3) 上記(1)の工程での駆動電圧の立ち下がりから、(2)の工程での駆動電圧の立ち上がりまでの、駆動電圧波形のパルス幅T3を、駆動部の残留振動の周期Taの整数倍に設定する、
請求項6記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法。 - 圧電インクジェットヘッドを、
待機時には、圧電素子に駆動電圧を印加しない状態を維持しておき、
ドット形成時には、
(I) ドット形成直前に駆動電圧を印加して圧電素子を収縮させて、振動板を撓ませることで、加圧室の容積を減少させて、ノズル内のインクメニスカスをノズルの先端方向へ押し出して、インクをノズルの先端から柱状に突出させ、
(II) 駆動電圧を再び放電して、圧電素子の収縮を解除して、振動板の撓みを解除することで、加圧室の容積を増加させて、ノズルの先端から柱状に突出したインクをノズル内に引き戻すことで、インク滴を分離させるとともに、
(III) 上記(I)の工程での駆動電圧の立ち上がりから、(II)の工程での駆動電圧の立ち下がりまでの、駆動電圧波形のパルス幅T3を、駆動部の残留振動の周期Taの整数倍に設定する、
請求項6記載の圧電インクジェットヘッドの駆動方法。
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