JP2004216298A - 塗布方法およびスリットダイノズル - Google Patents

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Minoru Torigoe
実 鳥越
Yasutsugu Yamauchi
康嗣 山内
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Abstract

【課題】塗布中は塗布液の界面が安定し、塗布終了後には塗布液がダイのリップ表面に残留することがなく、スジやムラのない均一な塗布膜を形成することが可能なスリットダイおよびこれを用いた塗布方法を提供する。
【解決手段】基材表面に対し相対的に一方向へ移動するダイの吐出口から塗布液を供給して塗布する方法であって、式(1)を満たすダイ形状および塗布条件にて塗布することを特徴とする塗布方法。
Figure 2004216298

Δx:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の基材に垂直な方向の間隔
L:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の塗布方向に沿った長さ
γ:上流側リップ面の基材に対する傾き
δ:下流側リップ傾斜面の基材に対する傾き
θ:上流側リップ面と塗布液との接触角
θ:下流側リップ傾斜面と塗布液との接触角
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ダイを使用したスロット塗布により基材表面に薄膜を形成する塗布方法およびスリットダイノズルに関する。
【0002】
【従来の技術】
スロット塗布は、ダイを平面状やロール状等の基材に対向させ且つ相対的に一方向へ走行させつつ基材表面に塗布液を塗布する方法であり、斯かる方法においては、基材の走行方向の上流側に位置する上流側リップと下流側に位置する下流側リップとから成るリップによって塗布液吐出口が構成されたダイを使用し、リップと基材表面との間に一定のギャップ(間隔)を保持して塗布液を吐出することにより、基材表面に所定の膜厚の塗布膜を形成する。
【0003】
上記スロット塗布は、従来から厚膜塗工や高粘度塗料を連続塗布する用途に広く採用されており、塗膜の形成に過不足のない量の塗布液を供給するため、塗料の無駄がほとんどなく、また、スロットから吐出されるまで塗料送液経路が密閉されているため、得られる塗膜の品質を高く維持できるという特徴がある。さらに、近時、上記スロット塗布は、その特徴を生かして半導体製造用のウェハやガラス製の平板等の塗布対象物に、絶縁材料やフォトレジスト液等の各種塗布液を塗布する分野にもその利用が検討されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
半導体用ウェハやガラス板等の基材に絶縁材料やフォトレジスト液等の塗布液を塗布する分野においては、スロット塗布に低粘度の塗布液を使用するとともに、高速塗布性や均一塗布性が要求される。
しかしながら、低粘度の塗布液をスロット塗布で高速塗布しようとすると、塗布液がリップと接する面が広く、かつ不安定となるため、リップ表面が塗布液で汚れたり、塗布が終了した際にリップ表面に塗布液が残留することがあった。残留した塗布液がリップ表面で乾固すると、次に塗布する際に乾固物が基材上に落下したり、塗布膜にムラやスジを発生させることとなり、均一な塗布が出来ず問題となっていた。
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ダイを使用したスロット塗布により基材表面に薄膜を形成する塗布方法であって、塗布終了後にリップ表面が塗布液で汚れることなく、繰り返し塗布においても塗布膜にムラやスジが発生しない塗布方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、リップの形状、基材表面に対するリップの配置関係を工夫することにより、上記の問題点が解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は、基材表面に対し相対的に一方向へ移動するダイの吐出口から塗布液を供給して塗布する方法であって、式(1)を満たすダイ形状および塗布条件にて塗布することを特徴とする塗布方法、に存する。
【0007】
【数3】
Figure 2004216298
Δx:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の基材に垂直な方向の間隔
L:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の塗布方向に沿った長さ
γ:上流側リップ面の基材に対する傾き
δ:下流側リップ傾斜面の基材に対する傾き
θ:上流側リップ面と塗布液との接触角
θ:下流側リップ傾斜面と塗布液との接触角
また、本発明の他の要旨は、基材表面に対し相対的に一方向へ移動して基材表面に塗布を行うスリットダイノズルであって、式(2)を満たす形状を有することを特徴とするスリットダイノズル、に存する。
【0008】
【数4】
Figure 2004216298
Δx:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の基材に垂直な方向の間隔
L:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の塗布方向に沿った長さ
γ:上流側リップ面の基材に対する傾き
δ:下流側リップ傾斜面の基材に対する傾き
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の塗布方法に好適なダイ構造の一例を示す縦断面図であり、図2は、本発明の塗布方法およびスリットダイノズルにおける各要素の設定条件を示す模式的な縦断面図である。
【0010】
本発明においては、ダイリップの形状、基材に対するリップの配置関係、塗布液の界面状態の調整によって後述する条件を満足し得る限り、種々の形態のダイを使用することが出来るが、通常は、図1に示す様な構造のダイが使用される。また、本発明の塗布方法は、図1に示す様に、相対的に一方向へ走行する(図中a)平面状の基材(5)表面にダイ(1)の塗布液吐出口(4)から塗布液(6)を供給して塗布する塗布方法(所謂スロット塗布法)である。
【0011】
以下に、本発明におけるスリットダイノズルについて詳細に説明する。なお、以下において特に限定しない場合は、各因子の値は、ダイの幅方向における平均値を意味するものとする。
図1に示すダイ(1)は、通常、ダイ本体の内部に、塗布液流路(図示せず)および中間的な塗布液貯留部としてのマニホールドと、当該マニホールドからダイの下端に亘って形成された塗布液吐出流路としてのスロットと、スロットの開放端であって塗布液吐出口(4)を構成するリップとを備えており、リップは、上流側リップ(2)及び下流側リップ(3)によって構成される。基材(5)に対するダイ(1)の配置としては、前記スロットの中心面と基材(5)とが略直交するよう配置されることが好ましい。また、マニホールドに塗布液を導く塗布液流路の構造は限定されず、ダイの上面、側面等、何れから導入される構造であってもよい。
【0012】
ダイ(1)において、上流側リップ(2)および下流側リップ(3)は一体であっても分割構造であってもよい。分割構造である場合は、前記スロットおよび塗布液吐出口(4)の間隔を調節できるため、好ましい場合がある。さらには、ダイ(1)において、塗布液吐出口(4)を形成するリップ部分のみが分割された構造であってもよい。リップ部分のみが分割構造である場合は、塗布液(6)の種類や目的とする塗布膜の厚さに応じてリップ形状を交換できるため、好ましい場合がある。
【0013】
上流側リップ(2)および下流側リップ(3)は各々、少なくとも、リップ面(7、9)と、傾斜面(8、10)と、スリットならびに塗布液吐出口を形成する面、の3面を有する。これら各面は、曲面や不規則形状の面であってもよいが、平面であることが好ましく、かつ平滑であることが好ましい。
上流側リップ面(7)は、ダイ(1)と基材(5)が相対的に移動して塗布液(6)を塗布する際に、ダイ(1)と基材(5)との間で連続状態である塗布液(6)の液面すなわち界面(13)が上流側リップで接する面である。
【0014】
該上流側リップ面(7)は、その下流側エッジ部(11)において最も基材(5)との間隔が短く、ダイ走行方向の上流側に向かうに従い間隔が漸次大きくなることが好ましく、すなわち、基材(5)と平行な面に対し傾斜していることが好ましい。上流側リップ面(7)が傾斜していることにより、界面(13)が接する部位が安定し、得られる塗布膜の平滑性が向上したり、ダイの汚れ防止が可能となる場合がある。上流側リップ(7)の傾斜角度は、塗布液(6)の粘度や塗布条件によって最適化されるため限定されないが、基材(5)と平行な面に対する傾斜角γが通常0度以上、好ましくは5度以上であり、通常25度以下、好ましくは20度以下であると、低粘度の塗布液を高速塗布するにあたり好適である。前記範囲を越える場合は、ダイ先端の強度が不十分となる場合がある。
【0015】
上流側リップ傾斜面(8)は、通常、塗布液(6)が接することのない面であり、塗布液(6)が上流側リップ面(7)に接する部位が前進した場合でも、その前進を抑止できるよう、上流側リップ面(7)と区別されるものである。該上流側リップ傾斜面(8)は、そのままダイ(1)の側面を形成していてもよく、また、曲面をもってダイ側面と連続していてもよい。
【0016】
下流側リップ傾斜面(10)は、ダイ(1)と基材(5)が相対的に移動して塗布液(6)を塗布する際に、通常、ダイ(1)と基材(5)との間で連続状態である塗布液(6)の液面(界面(13))が下流側リップで接する面である。該下流側リップ傾斜面(10)は、基材(5)との間隔が、ダイ走行方向の下流側に向かうに従い暫時大きくなることが好ましく、すなわち、基材(5)と平行な面に対し傾斜していることが好ましい。下流側リップ傾斜面(10)が傾斜していることにより、塗布液(6)の液面が接する部位が安定し、塗布膜の平滑性が向上したり、ダイの汚れ防止が可能となるため好ましい。該下流側リップ傾斜面(10)は、そのままダイ(1)の側面を形成していてもよく、また、曲面をもってダイ側面と連続していてもよい。下流側リップ傾斜面(10)の傾斜角度は、塗布液(6)の粘度や塗布条件によって最適化されるため限定されないが、基材(5)と平行な面に対する傾斜角δが通常45〜90度、好ましくは60〜90度であると低粘度の塗布液を高速塗布するにあたり好適である。前記範囲を越える場合は、ダイ先端の強度が不十分となる場合がある。
【0017】
下流側リップ面(9)は、ダイ(1)と基材(5)が相対的に移動して塗布液(6)を塗布する際に、通常は、常に塗布液(6)に接している面である。下流側リップ面(9)と下流側リップ傾斜面(10)が角度をもって接することで、界面(13)が下流側リップ傾斜面(10)と接触する部位が安定し、これにより塗布膜の平滑性が向上したり、ダイの汚れ防止が可能になる。しかし、塗布液(6)の粘度や塗布速度によっては、塗布の開始時期において界面(13)が下流側リップ面(9)で接する場合がある。
【0018】
該下流側リップ面(9)は、基材(5)との間隔が基材走行方向の下流側に向かうに従い漸次大きくなっていても良く、その下流側エッジ部(12)において最も間隔が長い、すなわち、基材(5)と平行な面に対し傾斜した構造となっていても良い。下流側リップ(9)の傾斜角度は、塗布液(6)の粘度や塗布条件によって最適化されるため限定されないが、基材(5)と平行な面に対する傾斜角が通常0度以上、好ましくは5度以上であり、通常25度以下、好ましくは20度以下であると、低粘度の塗布液を高速塗布するにあたり好適である。前記範囲を越える場合は、ダイ先端の強度が不十分となる場合がある。
【0019】
また、下流側リップ面(9)と基材(5)との間隔は、上流側リップと基材(5)との間隔のうち最も短い間隔よりも、少なくとも一部が大きいように設定する。このように設定することにより、ダイ(1)と基材(5)が相対的に移動して塗布するにあたって、液枯れなどを抑制すると同時に、界面(13)が安定することとなる。
【0020】
上流側リップ(2)および下流側リップ(3)で形成され、塗布液吐出口(4)に塗布液(6)を導くスロットの間隔は、通常、マニホールド部から塗布液吐出口(4)まで一定であるが、何れか一方に暫時大きくなる形状でもよく、また途中に液溜め箇所や液絞り箇所等、部分的に間隔が異なる箇所が設けられていてもよい。塗布液吐出口(4)に向かって暫時間隔が小さい形状の場合は、低粘度の塗布液の液漏れや乾燥を抑制できる場合がある。また、塗布液吐出口(4)に向かって暫時間隔が大きい形状の場合は、高粘度の塗布液における流動異常やダイスウェル効果を抑制できる場合がある。
【0021】
前記間隔は、塗布液(6)の粘度や塗布条件、目的とする塗布液の膜厚等によって最適化されるため限定されない。低粘度の塗布液を高速塗布する目的の場合は、通常、塗布液吐出口(4)における間隔が10〜200μmであると好適である。間隔が前記範囲未満では機械精度の問題により一定の間隔形成が困難な傾向にあるとともに、異物による閉塞を生じる場合があり、前記範囲を越えると、マニホールドの塗布液貯留部の体積が大きくなるため、液の滞留が起こり易い傾向にある。ここで塗布液吐出口(4)における間隔とは、上流側リップ(2)と下流側リップ(3)が対向している部分のうち、最も基材(5)に近い部位での間隔を意味する。
【0022】
本発明におけるスリットダイノズルは、図2に示す各要素の設定条件に基づき、リップの形状、基材表面に対するリップの配置関係が式(2)を満たすスリットダイノズルであることが望ましい。
【0023】
【数5】
Figure 2004216298
Δx:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の基材に垂直な方向の間隔
L:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の塗布方向に沿った長さ
γ:上流側リップ面の基材に対する傾き
δ:下流側リップ傾斜面の基材に対する傾き
式(2)を満たすようにスリットダイノズルを設定することによって、界面(13)が安定するとともに、均一な塗布膜が得られ、ダイの汚れ防止も可能となる。
【0024】
式(2)において、Δx/Lの下限は、下流側リップ面(9)と基材(5)との間隔が、上流側リップと基材(5)との間隔のうち最も短い間隔よりも、少なくとも一部が大きいように設定することを示しており、これによりダイ(1)と基材(5)が相対的に移動して塗布するにあたって、液枯れなどを抑制すると同時に、界面(13)が安定することとなる。
【0025】
式(2)において、Δx/Lの上限は、塗布スロットダイノズル先端が清浄な状態から、ダイノズルと基材との間隔を塗布液が埋めるまでの塗布開始時における状態を考慮している。塗布開始時(相対的に移動して塗布を開始する前段階)におけるスロットダイノズル先端には、塗布液吐出口(4)から吐出された塗布液(6)が表面張力により基材(5)に接しない状態で保持されている(保持液という)が、Δx/Lの上限が式(2)の範囲内であれば、この保持液の界面が下流側リップにおいては下流側リップ面(9)あるいは下流側リップ面の下流側エッジ(12)で接触しており、上流側リップにおいては上流側リップ面(7)で接触していることを示している(図3参照)。上記の条件とすることにより、保持液の円弧が基材側に膨らむ際にダイ先端と基材との間隔を効率良く塗布液(6)が埋めることになり好ましい。Δx/Lの上限が式(1)の範囲を超えると、保持液の界面(13)が上流側では上流側リップ面の下流側エッジ(11)で保持されている一方、下流側リップでは下流側リップ傾斜面(10)で接触する状態となるため(図4参照)、保持液の円弧が下流側に大きく広がり、ダイの幅方向にも下流側リップ傾斜面(10)を不均一に濡らすこととなるので、塗布時の界面(13)が安定せずに均一な塗布膜が得られず、また下流側リップ傾斜面(10)も汚れることになり、好ましくない。
【0026】
また、Δxの設定は目的によって異なるため限定されないが、低粘度の塗布液を高速塗布する場合は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常600μm以下、好ましくは300μm以下であることが望ましい。
式(2)を構成するダイ形状を表す各因子のうち、ダイの幅方向に対する均一性に最も影響を及ぼす因子はΔxと考えられ、この精度のコントロールが重要である。ダイの幅方向におけるΔxの最大値と最小値との比は、1.1以下であるのが好ましく、1.05であるのがより好ましく、1.02以下であるのが特に好ましい。さらに、ダイの形状誤差を考慮すると、式(2)の右辺が取り得る最大値に対して、Δx/Lの値が、好ましくはその0.8倍、より好ましくはその0.6倍の値を上限とすることが望ましい。このように設定することにより、ダイの形状誤差がある場合でも、本発明の効果を得ることができる。
【0027】
本発明において、ダイ(1)の材質は限定されないが、例えば、金属、セラミックス、ガラス、鉱物、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂やそれらの複合体等が使用される。ダイ(1)が、塗布液吐出口(4)を形成するリップ部分のみ分割された構造である場合には、ダイ本体の材質とリップ部分の材質が異なっていてもよい。更には、ダイの表面、特にリップ面(7、9)、傾斜面(8、10)、塗布液吐出口を形成する面は、本発明の効果を損なわない範囲で親水化処理や疎水化処理などの化学的処理や、平滑処理や研磨処理、粗面化処理などの物理的処理がされていてもよい。
【0028】
本発明において、基材(5)の材質は特に限定されないが、例えば、ガラス、金属、半導体、セラミックス、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、鉱物やそれらの複合体等が挙げられる。また、基材(5)の形状や表面性も限定されるものではないが、平板状または相対的に移動する方向に曲率を有するロール状の形状であることが好ましい。基材(5)が平板上でない場合は、ダイリップにおける前記の傾斜角度の設定にあたっては、スロットの中心線(図2中、14)が基材(5)と接する部位の基材面を基準とする。また、基材の表面は平滑であっても凹凸があってもよい。凹凸の程度はその段差が乾燥(または固化)塗膜の厚みに対して概ね10倍程度まで良好な塗膜が得られる。凹凸としては、格子、隔壁、バンプ、スペーサー、画素パターン、回路パターン等による凹凸が例示される。更には、基材(5)は、塗布直後は塗布層を形成しているものの、所定時間経過後は塗布液を含浸、浸透または吸収するような材質、構造であってもよい。
【0029】
また、塗布液(6)は、基材(5)の表面を被覆可能なものであれば、組成が限定されるものではないが、例えば、有機溶剤系や水系などの溶剤、ポリマーなどのバインダー、顔料や染料などの着色剤、感光剤、セラミックス粉などの充填剤、導電性付与剤、増粘剤、界面活性剤、表面改質剤、発泡剤、硬化剤、強化剤、柔軟剤などの添加剤等が挙げられる。塗布液(6)の性状も本発明のスロット塗布が可能であれば限定されず、均一な溶液のほか、懸濁液、スラリー状、ペースト状など種々の性状のものを用いることができ、更には気泡を含むものであってもよい。また、塗布液(6)は粘弾性を有するものであってもよい。
【0030】
塗布液(6)の粘度は、塗布液(6)の組成や塗布条件、目的とする塗布膜厚等によって最適化されるため限定されないが、通常、塗布する条件での粘度が1〜1000cp、好ましくは2〜500cp、より好ましくは3〜100cpである。前記粘度が前記範囲を越える場合は、可能な塗布速度の上限が小さくなり、生産性が低下する傾向にあり好ましくない。また、前記粘度が前記範囲未満では、液ダレ等が起こり易い傾向にあり好ましくない。
【0031】
以下に、本発明におけるスロット塗布方法について詳細に説明する。
本発明の塗布方法は前記の通り、図1に示す様に、相対的に一方向へ走行する(図中a)平面状の基材(5)表面にダイ(1)の塗布液吐出口(4)から塗布液(6)を供給して塗布する塗布方法である。
本発明においては、通常、ダイのギャップを塗布液(6)の特性および目的とする塗布膜の膜厚に応じて設定した後、塗布液(6)がダイのマニホールド部から塗布液吐出口(4)を通って押し出される。該塗布液(6)は、塗布液吐出口(4)から押し出され、前記の保持液を形成した後、通常、基板(5)に接触した時点で、上流側リップと基板(5)、下流側リップと基板(5)との間に各々、界面(13)を形成する。この界面(13)は、通常、上流側リップ面(7)および下流側リップ面(9)でリップと接する。
【0032】
基材(5)とダイとのギャップは塗布液(6)の粘度や塗布条件、目的とする塗布膜厚等によって最適化されるため限定されない。低粘度の塗布液を高速塗布する目的の場合は、通常、10〜500μm、好ましくは20〜400μm程度であり、塗布膜厚の2倍以上に設定することが好ましい。前記ギャップが前記範囲を越えると、安定な塗布状態が得られる塗布速度の上限が小さくなり生産性が落ちる傾向がある。一方、前記ギャップ未満では、塗布装置の機械精度などによるギャップ幅の変動割合が大きくなり、塗布膜の均一性が損なわれる傾向にあり、更には、リップが基材に接触して基材を破損する場合がある。ここで、基材(5)とダイとのギャップとは、基材(5)とダイとの間隔のうち、最も短い間隔の距離を意味し、塗布膜厚とは、塗布された直後の未乾燥(または未固化)状態の塗布液(6)の厚さを意味する。
【0033】
塗布液(6)が基板(5)に接触し、上流側リップと基板(5)、下流側リップと基板(5)との間に各々界面(13)が形成された後、図中aに示す方向に相対的に移動することによって塗布が開始される。塗布の開始に伴い、下流側リップと界面(13)が接する部位は、下流側リップ面(9)から下流側リップ傾斜面(10)へと移動することとなる。基板(5)とダイとの相対的移動は、ダイと基板(5)のうち一方が固定されていても、双方が相対的に移動するものであってもよい。前記の基材(5)とダイとのギャップは、界面(13)形成の時点と相対的に移動する時点で変化させることもできる。このように変化させることによって、界面(13)をより安定させ、塗布膜の平滑性が向上したり、ダイの汚れ防止性が向上する場合や、基材(5)とダイとの接触による損傷を防止出来る場合がある。
【0034】
このような方法とは逆に、あらかじめ基材(5)とダイとの相対的移動を開始した後、塗布液(6)を前記の通り塗布液供給口(4)から供給開始することもできるが、このような方法の場合は界面(13)が安定せずに均一な塗布膜が得られない場合があり、また下流側リップ傾斜面(10)が汚れる場合がある。
塗布操作の終了は、通常、基材(5)表面における目的部位に塗布液(6)が塗布された時点で、マニホールドからの塗布液(6)の供給を停止することにより行う。その際には、基材(5)とダイとのギャップを拡げてもよいが、この操作は相対的な移動を止めてから行っても、相対的な移動中に行ってもよい。塗布終了の際に基材(5)とダイとのギャップを拡げることにより、液切れが良好となる傾向にあり、更には、塗布膜端部の平滑性が向上したり、ダイの汚れ防止性が向上する場合がある。
【0035】
本発明における塗布は、図2に示す各要素の設定条件に基づき、リップの形状、基材表面に対するリップの配置関係、塗布液の界面の状態が式(1)を満たす条件で行うことが必要である。
【0036】
【数6】
Figure 2004216298
Δx:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の基材に垂直な方向の間隔
L:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の塗布方向に沿った長さ
γ:上流側リップ面の基材に対する傾き
δ:下流側リップ傾斜面の基材に対する傾き
θ:上流側リップ面と塗布液との接触角
θ:下流側リップ傾斜面と塗布液との接触角
式(1)を満たすように設定することによって、界面(13)が安定するとともに均一な塗布膜が得られ、ダイの汚れ防止も可能となる。式(1)におけるΔx/Lの上限および下限については、前記の式(2)におけるΔx/Lの上限および下限について示した意味と同様の意味を表すものである。
【0037】
式(1)において、θ、θは各々、上流側リップ面と塗布液との接触角、および下流側リップ傾斜面と塗布液との接触角を意味するが、該接触角は、図2のように塗布中(ダイ(1)と基材(5)が相対的に移動中)に示す接触角を意味するばかりでなく、通常、当該ダイ表面と塗布液が静的に接触している際の接触角とも等しい値を示すものである。従って前記θ、θの測定は、市販の接触角計を用いて静的に測定する方法、あるいは塗布時などにおけるダイノズル先端の可視化により求める方法の何れによってもよい。通常、静的に測定した接触角は、動的に測定した場合の前進接触角と後退接触角の範囲内の値をとる。前進接触角と後退接触角で値が大幅に異なるために、前記の可視化により求める方法と接触角計を用いて測定する方法との間に値の乖離がある場合には、θには後退接触角を採用し、θには前進接触角を採用するとよい。
【0038】
式(1)は、前記の式(2)に対してθ、θを因子として加えたことにより、上流側リップ面(7)ならびに下流側リップ傾斜面(10)の表面特性と塗布液(6)の特性とを考慮した上で、Δx/Lの上限をより精度よく見積もることができる。Δx/Lの上限が式(1)の範囲内であれば、ダイ(1)と基材(5)が相対的に移動して塗布するにあたって、界面(13)が下流側リップ傾斜面(10)と接する部位が安定しているため塗布終了後に塗布液(6)が残留することがなく、さらに、ダイの幅方向についても下流側リップ傾斜面(10)を不均一に濡らすことがないので均一な塗布膜を得ることができる。
【0039】
種々の理由からダイ形状が既に定まっている場合には、式(1)を満たすようにθ、θをコントロールすることが必要であり、このような場合は、塗布液(6)の選定、上流側リップ面(7)および/または下流側リップ傾斜面(10)の親水化処理や疎水化処理などの化学的処理、或いは物理的処理を施すことによって式(1)を達成することとなる。
【0040】
式(1)においてダイ形状を表す各因子のうち、ダイの幅方向に対する均一性に最も影響を及ぼす因子はΔxと考えられ、この精度のコントロールが重要である。ダイの幅方向におけるΔxの最大値と最小値との比は、1.1以下であるのが好ましく、1.05であるのがより好ましく、1.02以下であるのが特に好ましい。
【0041】
さらに、ダイの形状誤差を考慮すると、式(1)の右辺が取り得る最大値に対して、Δx/Lの値が、好ましくはその0.8倍、より好ましくはその0.6倍の値を上限とすることが望ましい。このように設定することにより、ダイの形状誤差がある場合でも、本発明の効果を得ることができる。
本発明では、塗布膜の膜厚は目的によって異なるため限定されないが、低粘度の塗布液を高速塗布する場合は、通常1〜25μm、好ましくは2〜20μm、更に好ましくは3〜15μmであることが望ましい。膜厚が前記範囲を越えると、塗布に引き続き行われる乾燥または固化工程に時間を要するとともに、塗膜が不均一になる場合がある。また、膜厚が前記範囲未満では、安定な塗布状態が得られる塗布速度の上限が小さくなり生産性が低下するとともに、基板表面の凹凸の影響によって塗膜が不均一になる場合がある。
【0042】
基材(5)とダイとのギャップに対する塗布膜の膜厚の好ましい比率は、通常0.01〜0.5、好ましくは0.05〜0.4である。膜厚の比率が前記範囲を越える場合は塗布膜の平滑性が悪化する場合があり、また、前記範囲未満では、安定な塗布状態が得られる塗布スピードの上限が小さくなり生産性が低下する傾向にある。
【0043】
塗布中の基材(5)とダイとの相対的な移動速度は限定されないが、通常、0.005〜1m/秒、好ましくは0.01〜0.5m/秒である。塗布速度が前記範囲を越えると液枯れが生じやすい傾向にあり、一方、前記範囲未満では生産性が低下する傾向にあり望ましくない。
該移動速度は、基材(5)とダイとの相対的移動の初期において、下流側リップと界面(13)の接する部位が下流側リップ面(9)から下流側リップ傾斜面(10)へと移動する過程と、その後の相対的な移動の過程とで変化させることもできる。さらには、塗布膜の膜厚を変化させたり、基材(5)の表面性状の変化等に対応する目的で、移動速度を変化させることもできる。
【0044】
塗布する際の塗布液(6)の温度は限定されず、塗布液(6)の塗布が可能な程度に流動性がある状態であればよい。
本発明の塗布方法では、1枚ずつの基材表面にバッチ式に塗布するほか、ロール状の基材表面に連続塗布することもでき、更には、間欠的な塗布にも好適に使用することが出来る。
【0045】
以上の通り、本発明では、リップの形状、基材表面に対するリップの配置関係、塗布液の界面の状態が式(1)を満たす条件で塗布することにより、塗布液の界面(13)が安定し、また、塗布液(6)でリップ表面が汚れることがないため、スジやムラのない均一な塗布膜が形成可能である。
塗布後の塗布液(6)は、通常、ホットプレート、IRオーブン、コンベクションオーブン、減圧乾燥機、加熱減圧乾燥機等を使用して乾燥される。乾燥温度は、塗布液の組成や粘度、塗布膜の膜厚等によって最適化されるため限定されないが、通常、20〜200℃、好ましくは25〜150℃の範囲である。また、乾燥時間も限定されないが、通常1〜100秒、好ましくは5〜60秒の範囲である。塗布液が自己反応性や自己硬化性の化合物であったり、溶剤を含まないものである場合は、自然放置乾燥や自然冷却等により固化塗膜を形成することもできる。乾燥後の膜厚は、通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μmの範囲である。
【0046】
【発明の効果】
本発明のスリットダイおよびこれを用いた塗布方法によれば、塗布中は塗布液の界面が安定し、また、塗布終了後に塗布液がリップ表面に残留することを抑制できる。このため、本発明によれば、スジやムラのない均一な塗布膜を形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の塗布方法に好適なダイの構造の一例を示す側面側から視た縦断面図。
【図2】本発明の塗布方法およびスリットダイノズルにおける各要素の設定条件を示す模式的な縦断面図。
【図3】本発明のスリットダイを用いて塗布する際の塗布開始時を示す模式的な縦断面図。
【図4】本発明と異なるスリットダイを用いて塗布する際の塗布開始時を示す模式的な縦断面図。
【符号の説明】
1:ダイ
2:上流側リップ
3:下流側リップ
4:塗布液吐出口
5:基材
6:塗布液
7:上流側リップ面
8:上流側リップ傾斜面
9:下流側リップ面
10:上流側リップ傾斜面
11:上流側リップの下流側エッジ部
12:下流側リップの下流側エッジ部
13:(塗布液と空気との)界面
14:スロットの中心線
a:相対的な塗布の方向
Δx:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の基材に垂直な方向の間隔
L:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の塗布方向に沿った長さ
γ:上流側リップ面の基材に対する傾き
δ:下流側リップ傾斜面の基材に対する傾き
θ:上流側リップ面と塗布液との接触角
θ:下流側リップ傾斜面と塗布液との接触角

Claims (4)

  1. 基材表面に対し相対的に一方向へ移動するダイの吐出口から塗布液を供給して塗布する方法であって、式(1)を満たすダイ形状および塗布条件にて塗布することを特徴とする塗布方法。
    Figure 2004216298
    Δx:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の基材に垂直な方向の間隔
    L:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の塗布方向に沿った長さ
    γ:上流側リップ面の基材に対する傾き
    δ:下流側リップ傾斜面の基材に対する傾き
    θ:上流側リップ面と塗布液との接触角
    θ:下流側リップ傾斜面と塗布液との接触角
  2. 下流側リップ面と基材との間隔が基材走行方向の下流側に向かうに従い漸次大きくなる条件下で塗布する請求項1に記載の塗布方法。
  3. 塗布膜の膜厚が1〜25μmである請求項1または2に記載の塗布方法。
  4. 基材表面に対し相対的に一方向へ移動して基材表面に塗布を行うスリットダイノズルであって、式(2)を満たす形状を有することを特徴とするスリットダイノズル。
    Figure 2004216298
    Δx:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の基材に垂直な方向の間隔
    L:下流側リップの下流側エッジと上流側リップの下流側エッジの間の塗布方向に沿った長さ
    γ:上流側リップ面の基材に対する傾き
    δ:下流側リップ傾斜面の基材に対する傾き
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