JP2004210613A - 誘電体磁器、その製造方法、及び積層セラミックコンデンサ - Google Patents
誘電体磁器、その製造方法、及び積層セラミックコンデンサ Download PDFInfo
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Abstract
【課題】静電容量の温度特性がEIA規格X7R特性を満足し、直流バイアス特性が良好で、かつ、ニッケルなどの卑金属を内部電極とすることが可能な、誘電体磁器、その製造方法、及び積層セラミックコンデンサを提供すること。
【解決手段】チタン酸バリウムを主成分とし、副成分として、チタン酸バリウム100molに対して、MgOが1〜4mol、Er2O3が1〜4mol、BaOとCaOの合計が1〜5mol、MnOが0.1〜0.5mol、SiO2が1〜5mol、V2O5が0〜0.1mol、MoO3が0〜0.2mol、但し、V2O5またはMoO3の少なくとも1つは0molではなく、それぞれ含まれ、粒径が0.6μm未満の結晶からなる誘電体磁器とする。
【選択図】 なし
【解決手段】チタン酸バリウムを主成分とし、副成分として、チタン酸バリウム100molに対して、MgOが1〜4mol、Er2O3が1〜4mol、BaOとCaOの合計が1〜5mol、MnOが0.1〜0.5mol、SiO2が1〜5mol、V2O5が0〜0.1mol、MoO3が0〜0.2mol、但し、V2O5またはMoO3の少なくとも1つは0molではなく、それぞれ含まれ、粒径が0.6μm未満の結晶からなる誘電体磁器とする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体磁器、その製造方法、及び誘電体磁器を用いた積層セラミックコンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
誘電体磁器材料のグリーンシートと内部電極材料とを交互に積層し、一体焼結することにより製造される積層セラミックコンデンサは、小型で大きな静電容量が得られるため広範な電子機器に使用されている。
【0003】
従来、積層セラミックコンデンサの誘電体磁器材料としては、大略、以下の2種類のものが用いられている。
【0004】
(1)チタン酸バリウム系磁器材料:強誘電性材料であるチタン酸バリウムを主成分として、希土類金属や遷移金属酸化物などを添加材として調整したもの。(2)鉛系磁器材料:一般に、緩和型強誘電体(リラクサ)と呼ばれるもので、Pb(Mg1/2W1/2)O3、あるいはPb(Ni1/3Nb1/3)O3に代表されるように、ペロブスカイト構造のAサイトの位置に鉛が配置し、Bサイトに複数の金属が配置しているもの。この材料では複数のリラクサ材料を固溶させて誘電体材料とする場合が多い。
【0005】
鉛系磁器材料を積層セラミックコンデンサに使用する場合、チタン酸バリウム系に比べて誘電率が大きいため静電容量を大きくできるという特長、及び、直流バイアス特性が良好な、すなわち直流バイアス電圧に対して静電容量の減少が少ないコンデンサを製造できるという特長がある。
【0006】
しかし、内部電極材料として、パラジウムや銀パラジウム合金の貴金属を使用するため、製造コストが大きいという欠点がある。
【0007】
さらに、積層セラミックコンデンサを使用する電子機器の発達に伴い、静電容量の温度特性としてEIA規格X7R特性(−55℃から+125℃の温度範囲において容量変化率が±15%以内)の要求が高まっているが、鉛系磁器材料ではいまだX7R材料の開発に至っていない。
【0008】
一方、チタン酸バリウム系磁器材料を使用すると、X7R特性を満足し、かつ、ニッケルやニッケル合金などの卑金属を内部電極とすることが可能なため、良好な温度特性を有すると同時に大幅なコストダウンを実現できる。また、近年のセラミックス成形・焼成技術の進歩により、積層セラミックコンデンサの誘電体層の厚さを10μm以下まで成形・焼成することが可能となったため、チタン酸バリウム材料を用いても大容量の積層セラミックコンデンサが得られるようになってきている。
【0009】
上記のように、チタン酸バリウム系材料においては、静電容量の温度特性が良好で、大容量のコンデンサを低コストで製造できるというメリットがあるが、主成分であるチタン酸バリウムが強誘電性を示すことに起因して、鉛系材料に比較して直流バイアス特性が著しく悪い、すなわち直流バイアス電圧に対して静電容量の減少が大きいというデメリットがある。
【0010】
加えて、鉛系材料に比べて誘電率が小さいために、チタン酸バリウム系材料で大容量コンデンサを製造しようとすると誘電体層の厚さを薄くする必要があり、誘電体層の単位厚さあたりに印加される電圧が大きくなることでバイアス特性はさらに悪化する。そのため、大容量の積層セラミックコンデンサを製造する場合に、バイアス特性の良好なチタン酸バリウム系誘電体磁器材料が望まれていた。
【0011】
上記要求に対して、温度特性がX7R特性を満足し、ニッケルなどの卑金属を内部電極とすることが可能な誘電体磁器としては、例えば、特許文献1に開示されているBaTiO3−MnO−MgOや、特許文献2に開示されているBaTiO3−CaZrO3−Y2O3−MnO−MgOがある。しかし、これらの組成を有する誘電体磁器は誘電率が低く、また、直流バイアス特性が劣るという問題がある。
【0012】
一方、卑金属を内部電極として、X7R特性を満足すると同時に、直流バイアス特性を改善したものとして、特許文献3に開示されているBaTiO3−MgO−Y2O3−BaO−CaO−SiO2−MnO−V2O5−MoO3がある。この組成系では、良好な直流バイアス特性を有してはいるが、誘電率を2500以上とすることが困難であり、大容量の積層セラミックコンデンサを製造する場合には、十分な材料特性を有しているとは言えなかった。
【0013】
【特許文献1】
特開昭57−71866号公報
【特許文献2】
特開昭62−256422号公報
【特許文献3】
特開平08−124785号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決すべくなされたもので、具体的には、誘電率が2500以上と大きく、静電容量の温度特性がX7R特性を満足し、直流バイアス特性が良好で、かつ、ニッケルなどの卑金属を内部電極とすることが可能な、誘電体磁器及びその製造方法の提供と、それを用いた積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として、酸化マグネシウム、酸化エルビウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化珪素、酸化バナジウム、酸化モリブデンを、それぞれ、MgO、Er2O3、BaO、CaO、MnO、SiO2、V2O5、及びMoO3で換算して、前記チタン酸バリウム100molに対して、MgOはl〜4mol、Er2O3は1〜4mol、 BaOとCaOの合計は1〜5mol、MnOは0.1〜0.5mol、SiO2は1〜5mol、V2O5は0〜0.1mol、MoO3は0〜0.2mol、ただしV2O5またはMoO3の少なくとも1つは0molではなく、含有して、結晶粒径が0.6μm未満の焼結体からなることを特徴とする誘電体磁器が得られる。
【0016】
また、前記誘電体磁器において、チタン酸バリウムの原料粉末の組成をBamTiO2+mで表したとき、1.000<m<1.005の範囲にあることが好適である。
【0017】
また、本発明によれば、前記誘電体磁器の製造方法であって、チタン酸バリウム粉末と酸化エルビウム粉末とを混合して熱処理を行う工程を含み、前記熱処理によって得られた粉末と、酸化マグネシウムと、酸化バリウムと、酸化カルシウムと、酸化マンガンと、酸化珪素と、さらに酸化バナジウム及び酸化モリブデンのうちの少なくとも1種とを混合する工程を含むことを特徴とする前記誘電体磁器の製造方法が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記誘電体磁器を誘電体層として用い、内部電極層と積層してなる積層セラミックコンデンサが得られる。
【0019】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
本発明の実施の形態においては、主成分及び副成分の組成を次のように選ぶとともに焼結後の結晶粒径を次のようにする。
【0021】
即ち、チタン酸バリウムを主成分とし、副成分として酸化マグネシウム、酸化エルビウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化珪素、並びに酸化バナジウムと酸化モリブデンの少なくとも一種を含有し、酸化マグネシウムをMgO、酸化エルビウムをEr2O3、酸化バリウムをBaO、酸化カルシウムをCaO、酸化マンガンをMnO、酸化珪素をSiO2、酸化バナジウムをV2O5、酸化モリブデンをMoO3で換算した場合に、チタン酸バリウム100molに対して、
MgO :1〜4mol、
Er2O3 :1〜4mol、
BaOとCaOの合計 :1〜5mol、
MnO :0.1〜0.5mol、
SiO2 :1〜5mol、
V2O5 :0〜0.1mol、
MoO3 :0〜0.2mol、
の範囲にし、但しV2O5またはMoO3の少なくとも1つは0molではなく、焼結後の結晶の粒径を0.6μm未満とすることで、比誘電率が高く、静電容量の温度特性がEIA規格のX7R特性を満足し、バイアス特性に優れた誘電体磁器が容易に得られる。
【0022】
また、前記組成を有する誘電体磁器は、還元性雰囲気での焼成が可能であるため、ニッケルなどの卑金属を内部電極とする積層セラミックコンデンサが製造可能となる。
【0023】
前記誘電体磁器の、チタン酸バリウム100molに対する副成分の含有量の範囲は、以下の理由に基づく。
【0024】
酸化マグネシウムの含有量が1mol未満では、温度特性がX7R特性を満足せず、また、焼成後の結晶粒径を0.6μm未満とするのが困難となる。4molを越えると、急激に焼結性が悪化し、緻密な焼結体を得ることが困難となる。
【0025】
酸化エルビウムの含有量が1mol未満においては、X7R特性を満足することが困難となり、含有量が4molを越えると、焼結性が悪化する。
【0026】
酸化バリウムと酸化カルシウムの含有量の合計が1mol未満では、還元性雰囲気で焼成すると誘電体磁器の還元が生じやすくなる。そのため、積層セラミックコンデンサの内部電極をニッケルなどの卑金属で形成することが困難となる。また、焼成後の結晶粒径を0.6μm未満とすることが困難となる。他方、酸化バリウムと酸化カルシウムの含有量の合計が5molを越えると、急激に焼結性が悪化し、緻密な焼結体を得ることが困難となる。
【0027】
酸化マンガンの含有量が0.1mol未満では、ニッケルなどの卑金属を内部電極とする積層セラミックコンデンサとして用いた際に、高温域での絶縁抵抗の経時劣化、いわゆる絶縁抵抗の加速寿命が劣化し、信頼性が低下する。また、コンデンサの誘電損失が大きくなる。0.5molを越える含有量においては、コンデンサの静電容量の経時変化が大きくなる。
【0028】
酸化珪素の含有量を1mol未満とすると、焼結性が悪化するため、緻密な焼結体を得ることが困難となる。また、焼成後の結晶粒径を0.6μm未満とするのが困難となる。5molを越えると、ニッケルなどの卑金属を内部電極とする積層セラミックコンデンサとして用いた際に、高温域での絶縁抵抗の劣化が生じやすくなり、信頼性が低下する。
【0029】
酸化バナジウムを、0.1mol未満で含有すると、ニッケルなどの卑金属を内部電極とする積層セラミックコンデンサとして用いた際に、コンデンサの静電容量の経時変化を小さくすることができる。また、絶縁抵抗の加速寿命を改善することができる。しかし、0.1molを越えると、コンデンサの絶縁抵抗が極端に低下する。
【0030】
酸化モリブデンを、0.2mol未満で含有すると、ニッケルなどの卑金属を内部電極とする積層セラミックコンデンサとして用いた際に、コンデンサの静電容量の経時変化を小さくすることができる。また、絶縁抵抗の加速寿命を改善することができる。しかし、0.2molを越えると、コンデンサの絶縁抵抗が極端に低下する。
【0031】
このとき、酸化バナジウムと酸化モリブデンを同時に含有する必要はないが、酸化バナジウムと酸化モリブデンの両方を同時に含有しても、本発明の効果を得ることができる。
【0032】
誘電体磁器の主成分であるチタン酸バリウムの原料粉末として、化学量論比のもの、すなわち、チタン酸バリウムの組成をBamTiO2+mと表した場合に、m=1.000のものを用いても本発明の効果は得られるが、1.000<m<1.005の範囲とすることで、誘電体磁器の誘電率をさらに増加させることができる。しかし、mの値が1.005以上になると、焼結性が悪化する。
【0033】
また、本発明の誘電体磁器を製造する際、チタン酸バリウム粉末と酸化エルビウム粉末を混合した後、熱処理を行う工程と、前記熱処理した粉末と、酸化マグネシウムと、酸化バリウムと、酸化カルシウムと、酸化マンガンと、酸化珪素と、さらに酸化バナジウムまたは酸化モリブデンの少なくとも1種とを混合する工程を含んで製造すると、焼成後の結晶の粒成長がほとんどないので、結晶の粒径を0.6μm未満とすると同時に、高い誘電率と良好なバイアス特性を有する誘電体磁器を容易に製造することが可能となる。
【0034】
熱処理条件としては、800℃〜1100℃の温度範囲で行うことが好適である。800℃未満ではチタン酸バリウムと酸化エルビウムの反応が十分に進行せず、本発明の効果を得るのが困難となる。1100℃を越える温度で熱処理すると、粉末の凝集が生じて、その後の再粉砕が困難となる。熱処理の時間は特に定める必要はないが、1〜10時間が好適である。また、熱処理を行う際の雰囲気としては、大気雰囲気、窒素などの中性雰囲気、水素などを含む還元性雰囲気のいずれを用いても良い。
【0035】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0036】
誘電体磁器の主成分であるチタン酸バリウムの出発原料としては、チタン酸バリウムの組成をBamTiO2+mで表したとき、BaとTiの比率が化学量論比のもの(m=1.000)と、m=1.004のものの2種類について水熱合成法により準備した。それぞれの粉末は、純度99%以上で、その平均粒径d50は、d50≒0.3μmで、標準偏差σがσ≒0.1μmであった。
【0037】
副成分については、市販の試薬を用いた。すなわち、酸化マグネシウムとしてMgO粉末、酸化エルビウムとしてEr2O3粉末、酸化バリウムとしてBaCO3粉末、酸化カルシウムとしてCaCO3粉末、酸化マンガンとしてMnCO3粉末、酸化珪素としてSiO2粉末、酸化バナジウムとしてV2O5粉末、酸化モリブデンとしてMoO3粉末の、市販の試薬を準備した。
【0038】
上記の粉末を用いて、表1に示す配合比率になるよう調合した後、それぞれの粉末を、純水を分散媒としてボールミルで24時間混合した。この混合粉末を濾過、乾燥した後、大気中にて表1に示す条件で熱処理を施し、2種類の混合粉末A及びBを準備した。
【0039】
【表1】
【0040】
次に、表2に示す配合比率になるように、酸化エルビウムを除く副成分の粉末を調合し、前記工程で得られた粉末AまたはBを加え、純水を分散媒としてボールミルで24時間混合した後、濾過、乾燥して、試料番号1〜3の誘電体粉末を得た。
【0041】
【表2】
【0042】
また、本発明の比較例として、表3に示す配合比率になるように全成分を調合し、ボールミルで24時間混合した後、濾過、乾燥して試料番号4及び5の誘電体粉末を製造した。
【0043】
【表3】
【0044】
試料番号1〜5の粉末に、所定量のバインダーと溶媒を加え、ボールミルを用いて24時間混合し、誘電体スラリーを作製した。
【0045】
これらのスラリーを用いて、ドクターブレード法により厚さ18μmのグリーンシートを成膜した後、内部電極としてニッケルペーストを印刷し、トリミング積層機により所定数積層した。熱プレスによる圧着、ダイシングソーによる切断後、大気中で250℃、20時間熱処理することで脱バインダーを行った。
【0046】
脱バインダー後、加湿した水素と窒素の混合ガス雰囲気中で、温度1300℃、保持時間2時間の条件で焼成した。焼成後、加湿した窒素雰囲気中で、温度1000℃、保持時間6時間の条件で再酸化を行った。この焼成体に外部電極として銅ペーストを塗布・焼付けて、本発明の誘電体磁器を誘電層とする、3.2mm×1.6mm×0.8mmの形状を有する積層セラミックコンデンサを製造した。
【0047】
焼成条件と再酸化は上記条件に限定されるものではなく、焼成温度は1250℃〜1350℃の範囲で、再酸化温度は900℃〜1100℃の範囲で、適宜選択できる。また、焼成雰囲気についても、内部電極をニッケルとしたため還元性雰囲気に設定したが、内部電極材料をパラジウムなどの貴金属とする場合には大気雰囲気中でも焼成できる。
【0048】
これらの積層セラミックコンデンサの−55℃、+25℃、+125℃における静電容量を、1kHz・1Vrmsの条件下で測定し、+25℃における静電容量に対する変化率ΔC/C25℃を求め、結果をパーセントで表4に示した。また、+25℃における静電容量から、誘電体の誘電率を計算で求めた。
【0049】
ここで、表2と表3の試料番号1、2、3、4、5の粉末を用いて製造された積層セラミックコンデンサの試料番号として、それぞれ、▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼、▲5▼として示している。
【0050】
また、+25℃において、直流バイアス電圧として直流電圧25Vを印加した場合の静電容量を測定し、容量の低下率を求めた。バイアス電圧が0Vにおける静電容量に対する低下率ΔC/C0Vを直流バイアス特性として、結果をパーセントで表4に併せて示した。この場合、静電容量の低下率ΔC/C0Vは、その絶対値が小さいほど直流バイアス特性が良好であることを示している。なお、値がマイナスの場合に静電容量は低下している。
【0051】
【表4】
【0052】
表4から、本発明による配合比率により製造された誘電体磁器は、誘電率が2500以上と大きく、また、静電容量の温度特性としてEIA規格X7R特性(−55℃から+125℃の温度範囲において容量変化率が±15%以内)を満足することが分かる。また、試料番号▲4▼と▲5▼(比較例)のバイアス特性に比べて、試料番号▲1▼、▲2▼及び▲3▼のバイアス特性が優れていることが分かる。
【0053】
次に、試料番号▲1▼〜▲5▼の積層セラミックコンデンサについて、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察を行い、誘電体層すなわち誘電体磁器の結晶粒径を測定した。測定は、50個の任意の結晶について行い、その平均値Xと標準偏差σ、及びX±3σを計算から求めた。測定結果を、表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5から、試料番号▲1▼、▲2▼及び▲3▼について、X+3σが0.6μm未満であり、試料番号▲1▼、▲2▼及び▲3▼における結晶のほとんどの粒径が0.6μm未満であるといえる。これに対して、試料番号▲4▼と▲5▼(比較例)においては、粒径が0.8〜0.9μmまで成長した結晶が混在していることが分かる。
【0056】
以上から、本発明の配合比率を有し、結晶粒径が0.6μm未満である誘電体磁器は、誘電率が大きく、EIA規格X7R特性を満足し、バイアス特性に優れており、また、本発明の誘電体磁器を誘電層とする積層セラミックコンデンサは優れた特性を示すことが確認された。
【0057】
同時に、本発明の誘電体磁器を製造する際、チタン酸バリウム粉末と酸化エルビウム粉末を混合し、800℃〜1100℃の温度範囲で熱処理を加える工程と、前記熱処理した粉末と、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化珪素、並びに、酸化バナジウム及び酸化モリブデンの少なくともいずれか1つとを混合する工程を含むことにより、焼成後の結晶の粒成長がほとんどないため、結晶の粒径を0.6μm未満とすると同時に、高い誘電率と良好なバイアス特性を有する誘電体磁器を容易に製造できることが確認された。
【0058】
さらに、試料番号▲1▼及び▲2▼と、▲3▼の誘電率とを比較すると、試料番号▲1▼と▲2▼のものが試料番号▲3▼に比べて大きく、本発明の誘電体磁器において、チタン酸バリウム原料粉末の組成をBamTiO2+mで表したとき、1.000<m<1.005の範囲にすることで、さらに誘電率を大きくできることが確認された。
【0059】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明によれば、静電容量の温度変化率が小さく、直流バイアス特性に優れ、かつ、誘電率の大きな誘電体磁器を得ることが可能となるため、EIA規格X7R特性を満足し、直流バイアス特性に優れた静電容量の大きな積層セラミックコンデンサを得ることが可能となる。また、本発明の積層セラミックコンデンサは、その内部電極をニッケルなどの卑金属とすることが可能なため、製造コストを小さくすることもでき、工業的なメリットは大きい。
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体磁器、その製造方法、及び誘電体磁器を用いた積層セラミックコンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
誘電体磁器材料のグリーンシートと内部電極材料とを交互に積層し、一体焼結することにより製造される積層セラミックコンデンサは、小型で大きな静電容量が得られるため広範な電子機器に使用されている。
【0003】
従来、積層セラミックコンデンサの誘電体磁器材料としては、大略、以下の2種類のものが用いられている。
【0004】
(1)チタン酸バリウム系磁器材料:強誘電性材料であるチタン酸バリウムを主成分として、希土類金属や遷移金属酸化物などを添加材として調整したもの。(2)鉛系磁器材料:一般に、緩和型強誘電体(リラクサ)と呼ばれるもので、Pb(Mg1/2W1/2)O3、あるいはPb(Ni1/3Nb1/3)O3に代表されるように、ペロブスカイト構造のAサイトの位置に鉛が配置し、Bサイトに複数の金属が配置しているもの。この材料では複数のリラクサ材料を固溶させて誘電体材料とする場合が多い。
【0005】
鉛系磁器材料を積層セラミックコンデンサに使用する場合、チタン酸バリウム系に比べて誘電率が大きいため静電容量を大きくできるという特長、及び、直流バイアス特性が良好な、すなわち直流バイアス電圧に対して静電容量の減少が少ないコンデンサを製造できるという特長がある。
【0006】
しかし、内部電極材料として、パラジウムや銀パラジウム合金の貴金属を使用するため、製造コストが大きいという欠点がある。
【0007】
さらに、積層セラミックコンデンサを使用する電子機器の発達に伴い、静電容量の温度特性としてEIA規格X7R特性(−55℃から+125℃の温度範囲において容量変化率が±15%以内)の要求が高まっているが、鉛系磁器材料ではいまだX7R材料の開発に至っていない。
【0008】
一方、チタン酸バリウム系磁器材料を使用すると、X7R特性を満足し、かつ、ニッケルやニッケル合金などの卑金属を内部電極とすることが可能なため、良好な温度特性を有すると同時に大幅なコストダウンを実現できる。また、近年のセラミックス成形・焼成技術の進歩により、積層セラミックコンデンサの誘電体層の厚さを10μm以下まで成形・焼成することが可能となったため、チタン酸バリウム材料を用いても大容量の積層セラミックコンデンサが得られるようになってきている。
【0009】
上記のように、チタン酸バリウム系材料においては、静電容量の温度特性が良好で、大容量のコンデンサを低コストで製造できるというメリットがあるが、主成分であるチタン酸バリウムが強誘電性を示すことに起因して、鉛系材料に比較して直流バイアス特性が著しく悪い、すなわち直流バイアス電圧に対して静電容量の減少が大きいというデメリットがある。
【0010】
加えて、鉛系材料に比べて誘電率が小さいために、チタン酸バリウム系材料で大容量コンデンサを製造しようとすると誘電体層の厚さを薄くする必要があり、誘電体層の単位厚さあたりに印加される電圧が大きくなることでバイアス特性はさらに悪化する。そのため、大容量の積層セラミックコンデンサを製造する場合に、バイアス特性の良好なチタン酸バリウム系誘電体磁器材料が望まれていた。
【0011】
上記要求に対して、温度特性がX7R特性を満足し、ニッケルなどの卑金属を内部電極とすることが可能な誘電体磁器としては、例えば、特許文献1に開示されているBaTiO3−MnO−MgOや、特許文献2に開示されているBaTiO3−CaZrO3−Y2O3−MnO−MgOがある。しかし、これらの組成を有する誘電体磁器は誘電率が低く、また、直流バイアス特性が劣るという問題がある。
【0012】
一方、卑金属を内部電極として、X7R特性を満足すると同時に、直流バイアス特性を改善したものとして、特許文献3に開示されているBaTiO3−MgO−Y2O3−BaO−CaO−SiO2−MnO−V2O5−MoO3がある。この組成系では、良好な直流バイアス特性を有してはいるが、誘電率を2500以上とすることが困難であり、大容量の積層セラミックコンデンサを製造する場合には、十分な材料特性を有しているとは言えなかった。
【0013】
【特許文献1】
特開昭57−71866号公報
【特許文献2】
特開昭62−256422号公報
【特許文献3】
特開平08−124785号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決すべくなされたもので、具体的には、誘電率が2500以上と大きく、静電容量の温度特性がX7R特性を満足し、直流バイアス特性が良好で、かつ、ニッケルなどの卑金属を内部電極とすることが可能な、誘電体磁器及びその製造方法の提供と、それを用いた積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として、酸化マグネシウム、酸化エルビウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化珪素、酸化バナジウム、酸化モリブデンを、それぞれ、MgO、Er2O3、BaO、CaO、MnO、SiO2、V2O5、及びMoO3で換算して、前記チタン酸バリウム100molに対して、MgOはl〜4mol、Er2O3は1〜4mol、 BaOとCaOの合計は1〜5mol、MnOは0.1〜0.5mol、SiO2は1〜5mol、V2O5は0〜0.1mol、MoO3は0〜0.2mol、ただしV2O5またはMoO3の少なくとも1つは0molではなく、含有して、結晶粒径が0.6μm未満の焼結体からなることを特徴とする誘電体磁器が得られる。
【0016】
また、前記誘電体磁器において、チタン酸バリウムの原料粉末の組成をBamTiO2+mで表したとき、1.000<m<1.005の範囲にあることが好適である。
【0017】
また、本発明によれば、前記誘電体磁器の製造方法であって、チタン酸バリウム粉末と酸化エルビウム粉末とを混合して熱処理を行う工程を含み、前記熱処理によって得られた粉末と、酸化マグネシウムと、酸化バリウムと、酸化カルシウムと、酸化マンガンと、酸化珪素と、さらに酸化バナジウム及び酸化モリブデンのうちの少なくとも1種とを混合する工程を含むことを特徴とする前記誘電体磁器の製造方法が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記誘電体磁器を誘電体層として用い、内部電極層と積層してなる積層セラミックコンデンサが得られる。
【0019】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
本発明の実施の形態においては、主成分及び副成分の組成を次のように選ぶとともに焼結後の結晶粒径を次のようにする。
【0021】
即ち、チタン酸バリウムを主成分とし、副成分として酸化マグネシウム、酸化エルビウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化珪素、並びに酸化バナジウムと酸化モリブデンの少なくとも一種を含有し、酸化マグネシウムをMgO、酸化エルビウムをEr2O3、酸化バリウムをBaO、酸化カルシウムをCaO、酸化マンガンをMnO、酸化珪素をSiO2、酸化バナジウムをV2O5、酸化モリブデンをMoO3で換算した場合に、チタン酸バリウム100molに対して、
MgO :1〜4mol、
Er2O3 :1〜4mol、
BaOとCaOの合計 :1〜5mol、
MnO :0.1〜0.5mol、
SiO2 :1〜5mol、
V2O5 :0〜0.1mol、
MoO3 :0〜0.2mol、
の範囲にし、但しV2O5またはMoO3の少なくとも1つは0molではなく、焼結後の結晶の粒径を0.6μm未満とすることで、比誘電率が高く、静電容量の温度特性がEIA規格のX7R特性を満足し、バイアス特性に優れた誘電体磁器が容易に得られる。
【0022】
また、前記組成を有する誘電体磁器は、還元性雰囲気での焼成が可能であるため、ニッケルなどの卑金属を内部電極とする積層セラミックコンデンサが製造可能となる。
【0023】
前記誘電体磁器の、チタン酸バリウム100molに対する副成分の含有量の範囲は、以下の理由に基づく。
【0024】
酸化マグネシウムの含有量が1mol未満では、温度特性がX7R特性を満足せず、また、焼成後の結晶粒径を0.6μm未満とするのが困難となる。4molを越えると、急激に焼結性が悪化し、緻密な焼結体を得ることが困難となる。
【0025】
酸化エルビウムの含有量が1mol未満においては、X7R特性を満足することが困難となり、含有量が4molを越えると、焼結性が悪化する。
【0026】
酸化バリウムと酸化カルシウムの含有量の合計が1mol未満では、還元性雰囲気で焼成すると誘電体磁器の還元が生じやすくなる。そのため、積層セラミックコンデンサの内部電極をニッケルなどの卑金属で形成することが困難となる。また、焼成後の結晶粒径を0.6μm未満とすることが困難となる。他方、酸化バリウムと酸化カルシウムの含有量の合計が5molを越えると、急激に焼結性が悪化し、緻密な焼結体を得ることが困難となる。
【0027】
酸化マンガンの含有量が0.1mol未満では、ニッケルなどの卑金属を内部電極とする積層セラミックコンデンサとして用いた際に、高温域での絶縁抵抗の経時劣化、いわゆる絶縁抵抗の加速寿命が劣化し、信頼性が低下する。また、コンデンサの誘電損失が大きくなる。0.5molを越える含有量においては、コンデンサの静電容量の経時変化が大きくなる。
【0028】
酸化珪素の含有量を1mol未満とすると、焼結性が悪化するため、緻密な焼結体を得ることが困難となる。また、焼成後の結晶粒径を0.6μm未満とするのが困難となる。5molを越えると、ニッケルなどの卑金属を内部電極とする積層セラミックコンデンサとして用いた際に、高温域での絶縁抵抗の劣化が生じやすくなり、信頼性が低下する。
【0029】
酸化バナジウムを、0.1mol未満で含有すると、ニッケルなどの卑金属を内部電極とする積層セラミックコンデンサとして用いた際に、コンデンサの静電容量の経時変化を小さくすることができる。また、絶縁抵抗の加速寿命を改善することができる。しかし、0.1molを越えると、コンデンサの絶縁抵抗が極端に低下する。
【0030】
酸化モリブデンを、0.2mol未満で含有すると、ニッケルなどの卑金属を内部電極とする積層セラミックコンデンサとして用いた際に、コンデンサの静電容量の経時変化を小さくすることができる。また、絶縁抵抗の加速寿命を改善することができる。しかし、0.2molを越えると、コンデンサの絶縁抵抗が極端に低下する。
【0031】
このとき、酸化バナジウムと酸化モリブデンを同時に含有する必要はないが、酸化バナジウムと酸化モリブデンの両方を同時に含有しても、本発明の効果を得ることができる。
【0032】
誘電体磁器の主成分であるチタン酸バリウムの原料粉末として、化学量論比のもの、すなわち、チタン酸バリウムの組成をBamTiO2+mと表した場合に、m=1.000のものを用いても本発明の効果は得られるが、1.000<m<1.005の範囲とすることで、誘電体磁器の誘電率をさらに増加させることができる。しかし、mの値が1.005以上になると、焼結性が悪化する。
【0033】
また、本発明の誘電体磁器を製造する際、チタン酸バリウム粉末と酸化エルビウム粉末を混合した後、熱処理を行う工程と、前記熱処理した粉末と、酸化マグネシウムと、酸化バリウムと、酸化カルシウムと、酸化マンガンと、酸化珪素と、さらに酸化バナジウムまたは酸化モリブデンの少なくとも1種とを混合する工程を含んで製造すると、焼成後の結晶の粒成長がほとんどないので、結晶の粒径を0.6μm未満とすると同時に、高い誘電率と良好なバイアス特性を有する誘電体磁器を容易に製造することが可能となる。
【0034】
熱処理条件としては、800℃〜1100℃の温度範囲で行うことが好適である。800℃未満ではチタン酸バリウムと酸化エルビウムの反応が十分に進行せず、本発明の効果を得るのが困難となる。1100℃を越える温度で熱処理すると、粉末の凝集が生じて、その後の再粉砕が困難となる。熱処理の時間は特に定める必要はないが、1〜10時間が好適である。また、熱処理を行う際の雰囲気としては、大気雰囲気、窒素などの中性雰囲気、水素などを含む還元性雰囲気のいずれを用いても良い。
【0035】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0036】
誘電体磁器の主成分であるチタン酸バリウムの出発原料としては、チタン酸バリウムの組成をBamTiO2+mで表したとき、BaとTiの比率が化学量論比のもの(m=1.000)と、m=1.004のものの2種類について水熱合成法により準備した。それぞれの粉末は、純度99%以上で、その平均粒径d50は、d50≒0.3μmで、標準偏差σがσ≒0.1μmであった。
【0037】
副成分については、市販の試薬を用いた。すなわち、酸化マグネシウムとしてMgO粉末、酸化エルビウムとしてEr2O3粉末、酸化バリウムとしてBaCO3粉末、酸化カルシウムとしてCaCO3粉末、酸化マンガンとしてMnCO3粉末、酸化珪素としてSiO2粉末、酸化バナジウムとしてV2O5粉末、酸化モリブデンとしてMoO3粉末の、市販の試薬を準備した。
【0038】
上記の粉末を用いて、表1に示す配合比率になるよう調合した後、それぞれの粉末を、純水を分散媒としてボールミルで24時間混合した。この混合粉末を濾過、乾燥した後、大気中にて表1に示す条件で熱処理を施し、2種類の混合粉末A及びBを準備した。
【0039】
【表1】
【0040】
次に、表2に示す配合比率になるように、酸化エルビウムを除く副成分の粉末を調合し、前記工程で得られた粉末AまたはBを加え、純水を分散媒としてボールミルで24時間混合した後、濾過、乾燥して、試料番号1〜3の誘電体粉末を得た。
【0041】
【表2】
【0042】
また、本発明の比較例として、表3に示す配合比率になるように全成分を調合し、ボールミルで24時間混合した後、濾過、乾燥して試料番号4及び5の誘電体粉末を製造した。
【0043】
【表3】
【0044】
試料番号1〜5の粉末に、所定量のバインダーと溶媒を加え、ボールミルを用いて24時間混合し、誘電体スラリーを作製した。
【0045】
これらのスラリーを用いて、ドクターブレード法により厚さ18μmのグリーンシートを成膜した後、内部電極としてニッケルペーストを印刷し、トリミング積層機により所定数積層した。熱プレスによる圧着、ダイシングソーによる切断後、大気中で250℃、20時間熱処理することで脱バインダーを行った。
【0046】
脱バインダー後、加湿した水素と窒素の混合ガス雰囲気中で、温度1300℃、保持時間2時間の条件で焼成した。焼成後、加湿した窒素雰囲気中で、温度1000℃、保持時間6時間の条件で再酸化を行った。この焼成体に外部電極として銅ペーストを塗布・焼付けて、本発明の誘電体磁器を誘電層とする、3.2mm×1.6mm×0.8mmの形状を有する積層セラミックコンデンサを製造した。
【0047】
焼成条件と再酸化は上記条件に限定されるものではなく、焼成温度は1250℃〜1350℃の範囲で、再酸化温度は900℃〜1100℃の範囲で、適宜選択できる。また、焼成雰囲気についても、内部電極をニッケルとしたため還元性雰囲気に設定したが、内部電極材料をパラジウムなどの貴金属とする場合には大気雰囲気中でも焼成できる。
【0048】
これらの積層セラミックコンデンサの−55℃、+25℃、+125℃における静電容量を、1kHz・1Vrmsの条件下で測定し、+25℃における静電容量に対する変化率ΔC/C25℃を求め、結果をパーセントで表4に示した。また、+25℃における静電容量から、誘電体の誘電率を計算で求めた。
【0049】
ここで、表2と表3の試料番号1、2、3、4、5の粉末を用いて製造された積層セラミックコンデンサの試料番号として、それぞれ、▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼、▲5▼として示している。
【0050】
また、+25℃において、直流バイアス電圧として直流電圧25Vを印加した場合の静電容量を測定し、容量の低下率を求めた。バイアス電圧が0Vにおける静電容量に対する低下率ΔC/C0Vを直流バイアス特性として、結果をパーセントで表4に併せて示した。この場合、静電容量の低下率ΔC/C0Vは、その絶対値が小さいほど直流バイアス特性が良好であることを示している。なお、値がマイナスの場合に静電容量は低下している。
【0051】
【表4】
【0052】
表4から、本発明による配合比率により製造された誘電体磁器は、誘電率が2500以上と大きく、また、静電容量の温度特性としてEIA規格X7R特性(−55℃から+125℃の温度範囲において容量変化率が±15%以内)を満足することが分かる。また、試料番号▲4▼と▲5▼(比較例)のバイアス特性に比べて、試料番号▲1▼、▲2▼及び▲3▼のバイアス特性が優れていることが分かる。
【0053】
次に、試料番号▲1▼〜▲5▼の積層セラミックコンデンサについて、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察を行い、誘電体層すなわち誘電体磁器の結晶粒径を測定した。測定は、50個の任意の結晶について行い、その平均値Xと標準偏差σ、及びX±3σを計算から求めた。測定結果を、表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5から、試料番号▲1▼、▲2▼及び▲3▼について、X+3σが0.6μm未満であり、試料番号▲1▼、▲2▼及び▲3▼における結晶のほとんどの粒径が0.6μm未満であるといえる。これに対して、試料番号▲4▼と▲5▼(比較例)においては、粒径が0.8〜0.9μmまで成長した結晶が混在していることが分かる。
【0056】
以上から、本発明の配合比率を有し、結晶粒径が0.6μm未満である誘電体磁器は、誘電率が大きく、EIA規格X7R特性を満足し、バイアス特性に優れており、また、本発明の誘電体磁器を誘電層とする積層セラミックコンデンサは優れた特性を示すことが確認された。
【0057】
同時に、本発明の誘電体磁器を製造する際、チタン酸バリウム粉末と酸化エルビウム粉末を混合し、800℃〜1100℃の温度範囲で熱処理を加える工程と、前記熱処理した粉末と、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化珪素、並びに、酸化バナジウム及び酸化モリブデンの少なくともいずれか1つとを混合する工程を含むことにより、焼成後の結晶の粒成長がほとんどないため、結晶の粒径を0.6μm未満とすると同時に、高い誘電率と良好なバイアス特性を有する誘電体磁器を容易に製造できることが確認された。
【0058】
さらに、試料番号▲1▼及び▲2▼と、▲3▼の誘電率とを比較すると、試料番号▲1▼と▲2▼のものが試料番号▲3▼に比べて大きく、本発明の誘電体磁器において、チタン酸バリウム原料粉末の組成をBamTiO2+mで表したとき、1.000<m<1.005の範囲にすることで、さらに誘電率を大きくできることが確認された。
【0059】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明によれば、静電容量の温度変化率が小さく、直流バイアス特性に優れ、かつ、誘電率の大きな誘電体磁器を得ることが可能となるため、EIA規格X7R特性を満足し、直流バイアス特性に優れた静電容量の大きな積層セラミックコンデンサを得ることが可能となる。また、本発明の積層セラミックコンデンサは、その内部電極をニッケルなどの卑金属とすることが可能なため、製造コストを小さくすることもでき、工業的なメリットは大きい。
Claims (4)
- 主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として、酸化マグネシウム、酸化エルビウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化珪素、酸化バナジウム、酸化モリブデンを、それぞれ、MgO、Er2O3、BaO、CaO、MnO、SiO2、V2O5、及びMoO3で換算して、前記チタン酸バリウム100molに対して、MgOはl〜4mol、Er2O3は1〜4mol、BaOとCaOの合計は1〜5mol、MnOは0.1〜0.5mol、SiO2は1〜5mol、V2O5は0〜0.1mol、MoO3は0〜0.2mol、但しV2O5またはMoO3の少なくとも1つは0molでなく、含有して、結晶粒径が0.6μm未満の焼結体からなることを特徴とする誘電体磁器。
- 前記チタン酸バリウムの原料粉末の組成をBamTiO2+mで表したとき、1.000<m<1.005であることを特徴とする請求項1記載の誘電体磁器。
- 請求項1または2記載の誘電体磁器の製造方法であって、チタン酸バリウム粉末と酸化エルビウム粉末とを混合して熱処理を行う工程を含み、前記熱処理によって得られた粉末と、酸化マグネシウムと、酸化バリウムと、酸化カルシウムと、酸化マンガンと、酸化珪素と、さらに酸化バナジウム及び酸化モリブデンのうちの少なくとも1種とを混合する工程を含むことを特徴とする誘電体磁器の製造方法。
- 請求項1または2記載の誘電体磁器を誘電体層として用い、内部電極層と積層してなることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
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