JP2004149651A - 熱可塑性樹脂組成物及びその射出成形体 - Google Patents

熱可塑性樹脂組成物及びその射出成形体 Download PDF

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Abstract

【課題】剛性、衝撃強度、流動性に優れ、かつ、成形体にした場合に成形体の外観、特にフローマークが良好な熱可塑性樹脂組成物及びその熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂(A)35〜83.9重量%、エラストマー(B)10〜35重量%、無機充填剤(C)2〜30重量%、メルトテンションが0.1N以上、スウェリングレシオが1.8以上、緩和弾性率G(t)と時間0.02秒の緩和弾性率G(0.02)の比が0.01になるまでに要する時間が10sec以上である樹脂(D)0.1重量%以上5重量%未満、および、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオとせん断速度が2.4×10sec−1の時のスウェリングレシオの比が1.1以下である樹脂(E)4〜10重量%を含有する熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる射出成形体。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、剛性、衝撃強度、流動性に優れ、かつ、成形体にした場合に成形体の外観、特にフローマークが良好な熱可塑性樹脂組成物に関する。また、本発明は、その熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリプロピレン系樹脂は、剛性、衝撃強度等が要求される材料に広く用いられている。近年、特に、自動車用材料にポリプロピレン系樹脂が用いられるようになり、中でもエチレン−プロピレンブロック共重合体が用いられるようになってきている。また、エチレン−プロピレンブロック共重合体は、従来は、溶媒法により製造されてきたが、製造工程が簡便であり、エチレン−プロピレンブロック共重合体を低価格で製造できる連続式の気相法により製造されるようになってきた。
【0003】
ところが、一般に、気相法で製造されたエチレン−プロピレンブロック共重合体は、エチレン−プロピレン共重合体部分の極限粘度([η]EP)が低いため、スウェリングレシオ(SR)が低く、フローマークが不充分で、成形体の外観が悪くなり、また、気相法で製造されるエチレン−プロピレンブロック共重合体のエチレン−プロピレン共重合体部分の極限粘度([η]EP)を高くすると、ブツが発生し、成形体の外観が悪くなるという問題を有している。
【0004】
上述のような外観の問題を解決する方法としては、例えば、特開平7−286022号公報には、23℃n−デカン不溶成分の極限粘度が0.1〜20dl/gであり、23℃n−デカン可溶成分の極限粘度が5〜15dl/gである、外観にブツを発生することなく成形物を形成することができるバッチ式の溶媒法で製造されたプロピレン系ブロック共重合体が記載されている。しかし、同公開公報に比較例3に示されているように、エチレン−プロピレン共重合体部分に相当すると考えられる23℃n−デカン可溶成分の極限粘度が高いエチレン−プロピレンブロック共重合体は、ブツの原因となるゴム塊個数が多いものであった。
【0005】
また、特開平7−286075号公報には、連続式で製造されたプロピレン重合体と23℃n−デカン可溶成分の極限粘度が5〜12dl/gであるエチレン−プロピレンブロック共重合体からなる、外観にブツを発生することのない成形物を形成することができるプロピレン重合体組成物が記載されている。しかし、そのエチレン−プロピレンブロック共重合体の配合量は12重量%以上で、多いものであった。
【0006】
【特許文献1】
特開平7−286022号公報
【特許文献2】
特開平7−286075号公報
【特許文献3】
特開2002−12718号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、剛性、衝撃強度、流動性に優れ、かつ、成形体にした場合に成形体の外観、特にフローマークが良好な熱可塑性樹脂組成物及びその熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、かかる実状に鑑み、鋭意検討した結果、本発明が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
ポリプロピレン系樹脂(A)35〜83.9重量%、エラストマー(B)10〜35重量%、無機充填剤(C)2〜30重量%、下記の(要件1)〜(要件3)を満足する樹脂(D)0.1重量%以上5重量%未満、および、下記の(要件4)を満足する樹脂(E)4〜10重量%を含有する熱可塑性樹脂組成物に係るものである。(但し、上記(A)、(B)、(C)、(D)および(E)含有する熱可塑性樹脂組成物の全量を100重量%とする)。
(要件1)190℃で、巻取速度を15.7m/分にして測定したメルトテンション(MT)が0.1N以上である。
(要件2)220℃で、オリフィスのL/Dを40にして測定されたスウェリングレシオについて、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR)が1.8以上である。
(要件3)210℃で測定された緩和弾性率G(t)と時間0.02秒の緩和弾性率G(0.02)の比(G(t)/G(0.02))が0.01になるまでに要する時間が10sec以上である。
(要件4)220℃で、オリフィスのL/Dを40にして測定されたスウェリングレシオについて、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR10)とせん断速度が2.4×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR10)の比(SR10/SR10)が1.1以下である。
また、本発明は、上記の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体に係るものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂(A)とは、通常、結晶性を有するポリプロピレン系樹脂であり、例えば、結晶性プロピレン単独重合体、結晶性エチレン−プロピレン共重合体、結晶性プロピレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用しても良い。
【0010】
結晶性プロピレン−α−オレフィン共重合体に用いられるα−オレフィンとしては、炭素数が4以上のα−オレフィンであり、好ましくは炭素数が4〜20のα−オレフィンであり、より好ましくは炭素数が4〜12のα−オレフィンである。例えば、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、デセン−1等が挙げられる。結晶性プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、例えば、結晶性プロピレン−ブテン−1共重合体、結晶性プロピレン−ヘキセン−1共重合体等が挙げられる。
【0011】
結晶性を有するポリプロピレン系樹脂として、好ましくは結晶性プロピレン単独重合体、結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体、又はそれらの混合物であり、特に好ましくは、結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体、又は結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体と結晶性プロピレン単独重合体の混合物である。
【0012】
本発明で用いられる結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体とは、プロピレン単独重合体部分(これを第1セグメントという。)とエチレン−プロピレンランダム共重合体部分(これを第2セグメントという。)とからなる結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体である。
【0013】
第1セグメントであるプロピレン単独重合体部分としては、そのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比であるQ値が3.0〜5.0であるものが好ましく、3.5〜4.5であるものがさらに好ましい。また、13C−NMRを用いて測定されるアイソタクチックペンタッド分率が0.98以上であるものが好ましく、0.99以上であるものがさらに好ましい。また、135℃テトラリン溶液の極限粘度[η]が0.7〜1.1dl/gであるものが好ましく、0.8〜1.0dl/gであるものがさらに好ましい。
【0014】
第2セグメントであるエチレン−プロピレンランダム共重合体部分としては、その135℃テトラリン溶液の極限粘度[η]EPが1.0以上8.0dl/g未満であるものが好ましく、1.5〜7.5dl/gであるものがさらに好ましい。また、エチレン含量[(C2’)EP]が25〜35重量%であるものが好ましく、27〜33重量%であるものがさらに好ましい。
【0015】
また、エチレン−プロピレンランダム共重合体部分(第2セグメント)とプロピレン単独重合体部分(第1セグメント)の割合(第2セグメント/第1セグメント比)としては、8/92〜35/65が好ましい。
【0016】
上記の結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体と結晶性プロピレン単独重合体との混合物に用いられる結晶性プロピレン単独重合体とは、結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体の第1セグメントであるプロピレン単独重合体部分と同じ様な物性を有するものであって、そのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比であるQ値が3.0〜5.0であるものが好ましく、3.5〜4.5であるものがさらに好ましい。また、13C−NMRにより計算されるアイソタクチックペンタッド分率が0.98以上であるものが好ましく0.99以上であるものがさらに好ましい。また、135℃テトラリン溶液の極限粘度[η]が0.7〜1.1dl/gであるものが好ましく、0.8〜1.0dl/gであるものがさらに好ましい。
【0017】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂の製造方法としては、公知の立体規則性オレフィン重合触媒を用いて公知の重合方法によって製造する方法が挙げられる。公知の触媒としては、例えば、チーグラー・ナッタ触媒系、メタロセン触媒系、それらを組合わせた触媒系等が挙げられ、公知の重合方法としては、例えば、バルク重合法、溶液重合法、スラリー重合法又は気相重合法、あるいはこれらの重合法を任意に組み合わせた重合方法が挙げられ、好ましくは、連続式の気相重合法である。
【0018】
特に、結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体は、第1セグメントである結晶性プロピレン単独重合体部分を得る第1工程で立体規則性オレフィン重合触媒の存在下にプロピレンを単独重合し、続いて、第2セグメントであるエチレン−プロピレンランダム共重合体部分を得る第2工程でエチレンとプロピレンを共重合することによって製造されるものが好ましい。
【0019】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂(A)の含有量は、35〜83.9重量%であり、好ましくは40〜80重量%であり、さらに好ましくは、45〜75重量%である。
【0020】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂(A)の含有量が、35重量%未満である場合、剛性が低下することがあり、83.9重量%を超えると、衝撃強度が低下することがある。
【0021】
本発明で用いられるエラストマー(B)とは、ゴム成分を含有するエラストマーである。例えば、ビニル芳香族化合物含有ゴム及び/又はエチレン−α−オレフィンランダム共重合体ゴムからなるエラストマー等が挙げられる。
【0022】
本発明で用いられるビニル芳香族化合物含有ゴムとしては、例えば、ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体等が挙げられ、その共役ジエン部分の二重結合が80%以上水素添加されているものが好ましく、さらに好ましくは85%以上水素添加されているものである。また、GPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)法による分子量分布(Q値)が2.5以下であるものが好ましく、さらに好ましくは2.3以下のものである。また、ビニル芳香族化合物含有ゴム中のビニル芳香族化合物の平均含有量が10〜20重量%であるものが好ましく、さらに好ましくは12〜19重量%のものである。また、ビニル芳香族化合物含有ゴムのメルトフローレート(MFR、JIS−K−6758、230℃)が1〜15g/10分であるものが好ましく、さらに好ましくは2〜13g/10分のものである。
【0023】
上述のビニル芳香族化合物含有ゴムとしては、例えば、スチレン−エチレン−ブテン−スチレン系ゴム(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系ゴム(SEPS)、スチレン−ブタジエン系ゴム(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレン系ゴム(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン系ゴム(SIS)等のブロック共重合体又はこれらのゴム成分を水添したブロック共重合体等を挙げることができる。また、エチレン−プロピレン−非共役ジエン系ゴム(EPDM)等のオレフィン系共重合体ゴムとスチレン等のビニル芳香族化合物を反応させて得られるゴムも好適に使用することができる。また、2種類以上のビニル芳香族化合物含有ゴムを併用しても良い。
【0024】
上述のビニル芳香族化合物含有ゴムの製造方法としては、例えば、オレフィン系共重合体ゴムもしくは共役ジエンゴムに対し、ビニル芳香族化合物を重合、反応等により結合させる方法等が挙げられる。
【0025】
本発明で用いられるエチレン−α−オレフィンランダム共重合体ゴムとは、エチレンとα−オレフィンからなるランダム共重合体ゴムである。α−オレフィンは炭素原子数3以上のα−オレフィンであり、例えば、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、デセン等が挙げられ、好ましくは、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1である。
【0026】
エチレン−α−オレフィンランダム共重合体ゴムとしては、エチレン−プロピレンランダム共重合体ゴム、エチレン−ブテン−1ランダム共重合体ゴム、エチレン−ヘキセン−1ランダム共重合体ゴム、エチレン−オクテン−1ランダム共重合体ゴム等が挙げられ、好ましくは、エチレン−オクテン−1ランダム共重合体ゴム、エチレン−ブテン−1ランダム共重合体ゴム又はエチレン−プロピレンランダム共重合体ゴムである。また、2種類以上のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体ゴムを併用しても良い。
【0027】
本発明で用いられるエチレン−オクテン−1ランダム共重合体ゴムとしては、そのGPC法によるQ値(分子量分布)が2.5以下であるものが好ましく、さらに好ましくは2.3以下のものである。また、エチレン−オクテン−1ランダム共重合体ゴム中のオクテン−1の含有量が15〜45重量%であるものが好ましく、さらに好ましくは18〜42重量%のものである。また、エチレン−オクテン−1ランダム共重合体ゴムのメルトフローレート(MFR、JIS−K−6758、190℃)が1〜15g/10分であるものが好ましく、さらに好ましくは、2〜13g/10分のものである。
【0028】
本発明で用いられるエチレン−ブテン−1ランダム共重合体ゴムとしては、そのGPC法によるQ値(分子量分布)が2.7以下であるものが好ましく、さらに好ましくは2.5以下のものである。また、エチレン−ブテン−1ランダム共重合体ゴム中のブテン−1の含有量が15〜35重量%であるものが好ましく、さらに好ましくは17〜33重量%のものである。また、エチレン−ブテン−1ランダム共重合体ゴムのメルトフローレート(MFR、JIS−K−6758、190℃)が1〜15g/10分であるものが好ましく、さらに好ましくは2〜13g/10分のものである。
【0029】
本発明で用いられるエチレン−プロピレンランダム共重合体ゴムとしては、そのGPC法によるQ値(分子量分布)が2.7以下であるものが好ましく、さらに好ましくは2.5以下のものである。また、エチレン−プロピレンランダム共重合体ゴム中のプロピレンの含有量が20〜30重量%であるものが好ましく、さらに好ましくは22〜28重量%のものである。また、エチレン−プロピレンランダム共重合体ゴムのメルトフローレート(MFR、JIS−K−6758、190℃)が1〜15g/10分であるものが好ましく、さらに好ましくは2〜13g/10分のものである。
【0030】
上述のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体ゴムの製造方法としては、公知の触媒を用いて、公知の重合方法により、エチレンと各種のα−オレフィンを共重合させる方法が挙げられる。公知の触媒としては、例えば、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物からなる触媒系、チーグラーナッタ触媒系又はメタロセン触媒系等が挙げられ、公知の重合方法としては、溶液重合法、スラリー重合法、高圧イオン重合法又は気相重合法等が挙げられる。
【0031】
本発明で用いられるエラストマー(B)の含有量は、10〜35重量%であり、好ましくは15〜30重量%である。エラストマー(B)の含有量が10重量%未満の場合、熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度が低下することがあり、35重量%を超えた場合、剛性、耐熱性が低下することがある。
【0032】
本発明で用いられる無機充填剤(C)とは、剛性を向上させることができるものであればよく、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、結晶性ケイ酸カルシウム、タルク及び硫酸マグネシウム繊維等が挙げられる。好ましくは、タルク及び/又は硫酸マグネシウム繊維である。
【0033】
本発明で用いられるタルクとしては、含水ケイ酸マグネシウムを粉砕したものが好ましい。その分子の結晶構造はパイロフィライト型三層構造を示しており、タルクはこの構造が積み重なったものであり、特に結晶を単位層程度にまで微粉砕した平板状のものが好ましい。
【0034】
本発明で用いられるタルクの平均粒子径は3μm以下が好ましい。ここでタルクの平均粒子径とは遠心沈降式粒度分布測定装置を用いて水、アルコール等の分散媒中に懸濁させて測定した篩下法の積分分布曲線から求めた50%相当粒子径D50のことを意味する。
【0035】
本発明で用いられるタルクは無処理のまま使用しても良く、または、ポリプロピレン系樹脂(A)との界面接着性を向上させ、また分散性を向上させる目的で公知の各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩類あるいは他の界面活性剤で表面を処理したものを使用しても良い。
【0036】
本発明で用いられる硫酸マグネシウム繊維としては、硫酸マグネシウム繊維の平均繊維長が5〜50μmであるものが好ましく、さらに好ましくは10〜30μmのものである。また、平均繊維径が0.3〜2.0μmであるものが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.0μmのものである。
【0037】
本発明で用いられる無機充填剤(C)の含有量は、2〜30重量%であり、好ましくは5〜30重量%であり、さらに好ましくは10〜30重量%である。無機充填剤の含有量が、2重量%未満である場合、剛性が低下することがあり、30重量%を超えた場合、衝撃強度が不充分なことがあり、また、外観も悪化することがある。
【0038】
本発明で用いられる樹脂(D)とは、下記の(要件1)〜(要件3)を満足する樹脂であり、ポリプロピレン系樹脂組成物のスウェリングレシオを向上させることができる樹脂である。
(要件1)190℃で、巻取速度を15.7m/分にして測定したメルトテンション(MT)が0.1N以上である。
(要件2)220℃で、オリフィスのL/Dを40にして測定されたスウェリングレシオについて、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR)が1.8以上である。
(要件3)210℃で測定された緩和弾性率G(t)と時間0.02秒の緩和弾性率G(0.02)の比(G(t)/G(0.02))が0.01になるまでに要する時間が10sec以上である。
【0039】
樹脂(D)の190℃で、巻取速度を15.7m/分にして測定したメルトテンション(MT)は0.1N以上であり(要件1)、好ましくは0.15N以上であり(要件1a)、より好ましくは0.15〜0.4Nである。このメルトテンション(MT)が0.1N未満である場合、成形体の外観が不充分なことがある。
【0040】
また、樹脂(D)の220℃で、オリフィスのL/Dを40にして測定されたスウェリングレシオについて、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR)は1.8以上であり(要件2)、好ましくは、2.0以上であり(要件2a)、より好ましくは2.0〜3.0である。このスウェリングレシオ(SR)が1.8未満である場合、成形体の外観が不充分なことがある。
【0041】
そして、樹脂(D)の210℃で測定された緩和弾性率G(t)と時間0.02秒の緩和弾性率G(0.02)の比(G(t)/G(0.02))が0.01になるまでに要する時間は10sec以上であり(要件3)、好ましくは15sec以上であり(要件3a)、より好ましくは20sec以上である。この210℃で測定した緩和弾性率G(t)と時間0.02秒の緩和弾性率G(0.02)の比(G(t)/G(0.02))が0.01になるまでに要する時間が10sec未満である場合、成形体の外観が不充分であることがある。
【0042】
本発明で用いられる樹脂(D)としては、例えば、135℃のテトラリン中で測定される極限粘度[η]が5dl/g以上であり、示差走査熱量計によって測定される融解ピーク温度Tmが130〜160℃であるプロピレンを主体とする単量体を重合して得られるプロピレン系重合体成分(I)40〜70重量%およびプロピレン系重合体成分(II)60〜30重量%からなるプロピレン系重合体組成物(但し、プロピレン系重合体成分(II)は、プロピレン系重合体成分(I)と異なるプロピレン系重合体である。)が挙げられる。
【0043】
プロピレン系重合体成分(I)としては、例えば、プロピレンを単独重合して得られるプロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンを共重合して得られるプロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレンと炭素原子数4〜12のα−オレフィンを共重合して得られるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体等が挙げられ、好ましくはプロピレン−エチレンランダム共重合体である。
【0044】
プロピレン系重合体成分(II)としては、例えば、プロピレンを単独重合して得られるプロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンを共重合して得られるプロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレンと炭素原子数4〜12のα−オレフィンを共重合して得られるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体が挙げられる。
【0045】
また、本発明で用いられる樹脂(D)の含有量は、0.1重量%以上5重量%未満であり、好ましくは0.5〜4.5重量%であり、さらに好ましくは1.0〜4.5重量%である。樹脂(D)の含有量が0.1重量%未満である場合、成形体の外観が不充分であることがあり、5重量%以上である場合、流動性が低下することがある。
【0046】
本発明で用いられる樹脂(E)とは、下記の(要件4)を満足する樹脂(E)である。
(要件4)220℃で、オリフィスのL/Dを40にして測定されたスウェリングレシオについて、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR10)とせん断速度が2.4×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR10)の比(SR10/SR10)が1.1以下である。
【0047】
本発明で用いられる樹脂(E)の220℃で、オリフィスのL/Dを40にして測定されたスウェリングレシオについて、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR10)とせん断速度が2.4×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR10)の比(SR10/SR10)は1.1以下である(要件4)。このスウェリングレシオの比(SR10/SR10)が1.1を超えた場合、外観が不充分であることがある。
【0048】
本発明で用いられる樹脂(E)としては、例えば、分岐構造を有するポリプロピレン等が挙げられ、分岐構造を有するポリプロピレンとしては、プロピレン重合体に高エネルギーイオン化放射線を照射して得られるポリプロピレンや、プロピレン重合体と過酸化物を反応させて得られるポリプロピレンが挙げられる。
【0049】
また、本発明で用いられる樹脂(E)の含有量は、4〜10重量%であり、好ましくは5〜9重量%である。樹脂(E)の含有量が4重量%未満である場合、外観が不充分であることがあり、10重量%を超えた場合、流動性が不充分であることがある。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、熱ロールなどの混練機を用いて製造することができる。各成分の混練機への添加、混合は同時に行なってもよく又分割して行なっても良く、例えば下記の方法等が挙げられるが、これらに制限されることはない。
(方法1)ポリプロピレン系樹脂(A)と無機充填剤(C)を混練した後、エラストマー(B)を添加し、その後樹脂(D)および樹脂(E)を混練する方法。
(方法2)予めポリプロピレン系樹脂(A)に無機充填剤(C)を高濃度に混練してマスターバッチとし、それを別途ポリプロピレン系樹脂(A)やエラストマー(B)等で希釈した後、樹脂(D)および樹脂(E)を混練する方法。
(方法3)ポリプロピレン系樹脂(A)とエラストマー(B)を混練した後、無機充填剤(C)を添加し、その後樹脂(D)および樹脂(E)を混練する方法。
(方法4)予めポリプロピレン系樹脂(A)にエラストマー(B)を高濃度に混練してマスターバッチとし、それにポリプロピレン系樹脂(A)、無機充填剤(C)を添加し、その後樹脂(D)および樹脂(E)を混練する方法。
(方法5)予めポリプロピレン系樹脂(A)と無機充填剤(C)、ポリプロピレン系樹脂(A)とエラストマー(B)をそれぞれ混練しておき、最後にそれらを合わせた後、樹脂(D)および樹脂(E)を混練する方法。
【0051】
混練温度は、通常、170〜250℃であり、より好ましくは190〜230℃である。混練時間は、通常、1〜20分であり、より好ましくは3〜15分である。
【0052】
また、これらの混練機において本発明で用いられる成分(A)〜(E)以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、造核剤、気泡防止剤、架橋剤等の添加剤を、必要に応じて、適宜配合してもよい。
【0053】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、一般に公知の射出成形方法により射出成形体に成形することができる。特に、ドアートリム、ピラー、インストルメンタルパネル、及びバンパー等の自動車用射出成形体として好適に使用される。
【0054】
【実施例】
以下、実施例および比較例によって、本発明を説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例で用いた各成分を、以下に示した。
(1)ポリプロピレン系樹脂(A)
The Polyolefin Company製、COSMOPLENE AZ564G
【0055】
(2)エラストマー(B)
デュポンダウエラストマー製、Engage EG8200
【0056】
(3)無機充填剤(C)
タルク、林化成製、MW HS−T
【0057】
(4)樹脂(D)
樹脂(D)は、その190℃で、巻取速度を15.7m/分にして測定したメルトテンション(MT)は0.31Nであり、220℃で、オリフィスのL/Dを40にして測定されたスウェリングレシオについて、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR)は2.1であり、210℃で測定された緩和弾性率G(t)と時間0.02秒の緩和弾性率G(0.02)の比(G(t)/G(0.02))が0.01になるまでに要する時間は226秒であった。
【0058】
樹脂(D)の製造方法
(4−1)固体触媒成分(I)
攪拌機付きの200LSUS製反応容器を窒素で置換した後、ヘキサン80L、テトラブトキシチタン6.55モル、フタル酸ジイソブチル2.8モル、およびテトラエトキシシラン98.9モルを投入し均一溶液とした。次に濃度2.1モル/Lのブチルマグネシウムクロリドのジイソブチルエーテル溶液51Lを、反応容器内の温度を5℃に保ちながら5時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後5℃で1時間、室温でさらに1時間攪拌した後、室温で固液分離し、トルエン70Lで3回洗浄を繰り返した。次いで、スラリー濃度が0.2Kg/Lになるようにトルエン量を調整した後、105℃で1時間攪拌した。その後、95℃まで冷却し、フタル酸ジイソブチル47.6モル加え、95℃で30分間反応を行った。反応後固液分離し、トルエンで2回洗浄を行った。次いで、スラリー濃度が0.4Kg/Lになるようにトルエン量を調節後、フタル酸ジイソブチル3.1モル、n−ジブチルエーテル8.9モル及び四塩化チタン274モルを加え、105℃で3時間反応を行った。反応終了後、同温度で固液分離した後、同温度でトルエン90Lで2回洗浄を行った。スラリー濃度が0.4Kg/Lになるようにトルエン量を調節後、n−ジブチルエーテル8.9モル及び四塩化チタン137モルを加え、105℃で1時間反応を行った。反応終了後、同温度で固液分離し同温度でトルエン90Lで3回洗浄を行った後、さらにヘキサン70Lで3回洗浄した後減圧乾燥して固体触媒成分11.4Kgを得た。固体触媒成分はチタン原子1.83重量%、フタル酸エステル8.4重量%、エトキシ基0.30重量%、ブトキシ基0.20重量%を含有していた。この固体触媒成分を、以下固体触媒成分(I)と呼ぶ。
【0059】
(4−2)予備重合
SUS製3L攪拌機付きオートクレーブにおいて、充分に脱水,脱気したヘキサンにトリエチルアルミニウム(以下TEAと略す)25mmol/L、電子供与体成分としてt−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン(以下tBunPrDMSと略す)をtBunPrDMS/TEA=0.1(mol/mol)および固体触媒成分(I)を15g/Lを添加し、15℃以下の温度を保持しながらプロピレンを固体触媒当たり1g/gに達するまで連続的に供給し予備重合を実施した。得られた予備重合体スラリーは120LSUS製攪拌機付きの希釈槽へ移送し充分に精製された液状ブタンを加えて希釈し10℃以下の温度で保存した。
【0060】
(4−3)本重合
300LSUS製攪拌機付き重合槽において、重合温度60℃、スラリー量95Lを維持するように液化プロピレンを35Kg/h供給し、更に気相部のエチレン濃度を2.8vol%を保持するようにエチレン供給し、TEAを51mmol/h、tBunPrDMSを5mmol/hおよび上記(4−2)で作成した予備重合体スラリーを固体触媒成分として1.0g/h供給し、実質的に水素の不存在下でプロピレン−エチレンの連続共重合を行い、6.1Kg/hの重合体を得た。得られた重合体は失活することなく第2槽目に連続的に移送した。第2槽目は内容積1mのSUS製攪拌機付き流動床気相反応器において、重合温度70℃、重合圧力1.8MPaおよび気相部のエチレン濃度を1.9vol%を保持するように、プロピレンとエチレンを連続的に供給し、水素の実質的に不存在下で第1槽目より移送された固体触媒成分含有重合体で連続気相重合を継続し、15.7Kg/hの重合体を得た。第1槽目と第2槽目で重合されたポリマー成分が、プロピレン系重合体成分(I)に相当し、その極限粘度[η]は8.7dl/gであり、エチレン含量は3.5重量%、融解温度ピークは144.8℃であった。次いで、得られた重合体は失活することなく第3槽目に連続的に移送した。第3槽目は内容積1mのSUS製攪拌機付き気相流動床反応器において、重合温度85℃、重合圧力1.4MPaおよび気相部の水素濃度を11.7vol%に保持するようにプロピレンおよび水素を連続的に供給し、第2槽目より供給された固体触媒成分を含有する重合体でプロピレンを連続気相重合を継続する事により25.6Kg/hの重合体を得た。第3槽目で重合されたポリマー成分が、プロピレン系重合体成分(II)に相当し、第1槽目から第3槽目を通して得られた重合体が、プロピレン系重合体成分(I)とプロピレン系重合体成分(II)からなるプロピレン系重合体組成物であり、その極限粘度[η]は5.7dl/gであった。以上の結果から、第1槽目+第2槽目の重合量と第3槽目の重合体比は61:39であり、第3槽目で重合された重合体の極限粘度[η]は0.9dl/gと求められた。
【0061】
(5)樹脂(E)
モンテル製、PF814
【0062】
(6)H501N
住友化学工業株式会社製、住友ノーブレン
【0063】
実施例および比較例で用いた樹脂成分及び組成物の物性の測定法を以下に示した。
(1)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
JIS−K−6758に規定された方法に従って、測定した。特に断りのない限り、測定温度は230℃で、荷重は2.16kgで測定した。
【0064】
(2)曲げ弾性率(FM、単位:MPa)
JIS−K−7203に規定された方法に従って、測定した。射出成形により成形された厚みが6.4mmであり、スパン長さが100mmである試験片を用いて、荷重速度は2.0または30mm/分で、測定温度は23℃で測定した。
【0065】
(3)アイゾット衝撃強度(Izod、単位:KJ/m
JIS−K−7110に規定された方法に従って、測定した。射出成形により成形された厚みが6.4mmであり、成形の後にノッチ加工されたノッチ付きの試験片を用いて、測定温度は23℃および−30℃で測定した。
【0066】
(4)加熱変形温度(HDT、単位:℃)
JIS−K−7207に規定された方法に従って、測定した。ファイバーストレスは1.82MPaで測定した。
【0067】
(5)ロックウェル硬度(HR)
JIS−K−7202に規定された方法に従って、測定した。射出成形により成形された厚みが3.0mmである試験片を用いて測定した。測定値はRスケールで表示した。
【0068】
(6)脆化温度(BP、単位:℃)
JIS−K−7216に規定された方法に従って、測定した。射出成形により成形された25×150×2mmの平板から所定の6.3×38×2mmの試験片を打抜ち抜き、測定を行った。
【0069】
(7)固有粘度(単位:dl/g)
ウベローデ型粘度計を用いて濃度0.1、0.2および0.5g/dlの3点について還元粘度を測定した。固有粘度は、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版株式会社刊)第491頁に記載の計算方法すなわち、還元粘度を濃度に対しプロットし、濃度をゼロに外挿する外挿法によって求めた。
結晶性ポリプロピレンについては、テトラリンを溶媒として用いて、温度135℃で測定した。
【0070】
(7−1)結晶性エチレン−プロピレンブロックコポリマーの極限粘度
(7−1a)プロピレン単独重合体部分(第1セグメント)の極限粘度:[η]結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体の第1セグメントであるプロピレン単独重合体部分の極限粘度:[η]はその製造時に、第1工程であるプロピレン単独重合体の重合後に重合槽内よりプロピレン単独重合体を取り出し、取り出されたプロピレン単独重合体の[η]を測定して求めた。
【0071】
(7−1b)エチレン−プロピレンランダム共重合体部分(第2セグメント)の極限粘度:[η]EP
結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体の第2セグメントであるエチレン−プロピレンランダム共重合体部分の極限粘度:[η]EPは、プロピレン単独重合体部分の極限粘度:[η]とエチレン−プロピレンブロック共重合体全体の極限粘度:[η]をそれぞれ測定し、エチレン−プロピレンランダム共重合体部分の結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体全体に対する重量比率:Xを用いて次式から計算により求めた。
[η]EP=[η]/X−(1/X−1)[η]
[η]:プロピレン単独重合体部分の極限粘度(dl/g)
[η]:ブロック共重合体全体の極限粘度(dl/g)
【0072】
(7−1c)エチレン−プロピレンランダム共重合体部分の結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体全体に対する重量比率:X
エチレン−プロピレンランダム共重合体部分の結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体全体に対する重量比率:Xはプロピレン単独重合体部分(第1セグメント)と結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体全体の結晶融解熱量をそれぞれ測定し、次式を用いて計算により求めた。結晶融解熱量は、示唆走査型熱分析(DSC)により測定した。
X=1−(ΔH/(ΔH
(ΔH:ブロック共重合体全体の融解熱量(cal/g)
(ΔH:プロピレン単独重合体部分の融解熱量(cal/g)
【0073】
(8)結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体中のエチレン−プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含量:(C’)EP
結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体のエチレン−プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含量:(C’)EPは、赤外線吸収スペクトル法により結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体全体のエチレン含量(C’)(重量%)を測定し、次式を用いて計算により求めた。
(C’)EP=(C’)/X
(C’):ブロック共重合体全体のエチレン含量(重量%)
(C’)EP:エチレン−プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含量(重量%)
X:エチレン−プロピレンランダム共重合体部分の結晶性エチレン−プロピ
レンブロック共重合体全体に対する重量比率
【0074】
(9)アイソタクチック・ペンタッド分率
アイソタクチック・ペンタッド分率とは、A.ZambelliらによってMacromolecules,第6巻,第925頁(1973年)に発表されている方法、すなわち13C−NMRを使用して測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖、換言すればプロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。ただし、NMR吸収ピークの帰属に関しては、その後発刊されたMacromolecules,第8巻,第687頁(1975年)に基づいて行った。
具体的には13C−NMRスペクトルのメチル炭素領域の全吸収ピーク中のmmmmピークの面積分率としてアイソタクチック・ペンタッド分率を測定した。
この方法により英国NATIONAL PHYSICAL LABORATORYのNPL標準物質CRM No.M19−14 Polypropylene PP/MWD/2のアイソタクチック・ペンタッド分率を測定したところ、0.944であった。
【0075】
(10)分子量分布(Q値)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を、以下に示す条件で測定した。
GPC:Waters社製 150C型
カラム:昭和電工社製 Shodex 80 MA 2本
サンプル量:300μl(ポリマー濃度0.2wt%)
流 量:1ml/分
温 度:135℃
溶 媒:o−ジクロルベンゼン
東洋曹達社製の標準ポリスチレンを用いて溶出体積と分子量の検量線を作成した。検量線を用いて検体のポリスチレン換算の重量平均分子量、数平均分子量を求め、分子量分布の尺度であるQ値を、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)により算出して求めた。
【0076】
(11)メルトテンション(MT、単位:N)
(株)東洋精機製作所製メルトテンションテスターRE2を使用して、下記条件で測定した。
測定温度:190℃
巻取速度:15.7mm/分
(12)スウェリングレシオ(SR)
(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1Bを使用して、下記条件で測定した。
測定温度:220℃
L/D:40
せん断速度:1.2×10sec−1
【0077】
(13)緩和弾性率G(t)と時間0.02秒の緩和弾性率G(0.02)の比が0.01になるまでの時間
レオメトリックス社製メカニカルスペクトロメーターRMS−800を使用して、下記条件で測定した。
測定モード:Stress Relaxation
測定温度:210℃
プレート形状:25mmφ パラレルプレート
プレート間距離:1.9mm
歪み量:0.2
印加歪み:0.2
【0078】
(14)外観
射出成形により成形された試験片を用いて目視により外観を観察し、良好と不良の判定をした。
【0079】
(射出成形体の製造)
上記(2)、(3)、(4)、(5)、(6)および(14)の物性評価用の射出成形体である試験片は、次の方法に従って作成した。
組成物を熱風乾燥器で120℃で2時間乾燥後、東芝機械製IS150E−V型射出成形機を用いて、成形温度220℃、金型冷却温度50℃、射出時間15sec、冷却時間30secで射出成形を行い、射出成形体である試験片を得た。
【0080】
(熱可塑性樹脂組成物の製造)
熱可塑性樹脂組成物は次の方法に従って製造した。
各成分を所定量、計量し、ヘンシェルミキサーまたはタンブラーで均一に予備混合した後、二軸混練押出機(日本製鋼所社製TEX44SS 30BW−2V型)を用いて、押出量を30〜50kg/hrで、スクリュー回転数を350rpmで、ベント吸引下で混練押出して、組成物を製造した。スクリュ−は三条タイプのローターとニーディングディスクを混練ゾーンの2ヶ所に、すなわち、第1フィード口、第2フィード口、各々の次のゾーンに配置して構成した。
【0081】
表1に実施例1および2の熱可塑性樹脂組成物における各成分の含有量(重量%)を示し、表2に比較例1〜5の熱可塑性樹脂組成物における各成分の含有量(重量%)を示した。
【0082】
表3に実施例1および2の熱可塑性樹脂組成物の物性及びその組成物を用いて得られた射出成形体の物性と外観の結果を示し、表4に比較例1〜5の熱可塑性樹脂組成物の物性及びその組成物を用いて得られた射出成形体の物性と外観の結果を示した。
【0083】
【表1】
Figure 2004149651
【0084】
【表2】
Figure 2004149651
【0085】
【表3】
Figure 2004149651
【0086】
【表4】
Figure 2004149651
【0087】
実施例1および2は、本発明の要件を満足する熱可塑性樹脂組成物であり、剛性(曲げ弾性率(FM)、加熱変形温度(HDT)及びロックウェル硬度(HR)及び衝撃強度(アイゾット衝撃強度(Izod)及び脆化温度(BP))のバランスに優れ、かつ、射出成形体の外観が良好であることが分かる。
【0088】
これに対して、比較例1は、本発明の要件の一つである樹脂(E)を用いなかった熱可塑性樹脂組成物であり、射出成形体の外観が不良であることが分かる。
また、比較例2および3は、本発明の要件の一つである樹脂(E)の含有量を満足しない熱可塑性樹脂組成物であり、射出成形体の外観が不良であることが分かる。
また、比較例4は、本発明の要件の一つである樹脂(E)の含有量を満足しない熱可塑性樹脂組成物であり、流動性が不充分であることが分かる。
そして、比較例5は、本発明の要件の一つである樹脂(E)の替わりにH501Nを用いた熱可塑性樹脂組成物であり、射出成形体の外観が不良であることが分かる。
【0089】
【発明の効果】
以上、詳述したとおり、本発明によれば、剛性、衝撃強度、流動性に優れ、かつ、成形体にした場合に成形体の外観、特にフローマークが良好な熱可塑性樹脂組成物及びその熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体を得ることができる。

Claims (8)

  1. ポリプロピレン系樹脂(A)35〜83.9重量%、エラストマー(B)10〜35重量%、無機充填剤(C)2〜30重量%、下記の(要件1)〜(要件3)を満足する樹脂(D)0.1重量%以上5重量%未満、および、下記の(要件4)を満足する樹脂(E)4〜10重量%を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物(但し、上記(A)、(B)、(C)、(D)および(E)含有する熱可塑性樹脂組成物の全量を100重量%とする)。
    (要件1)190℃で、巻取速度を15.7m/分にして測定したメルトテンション(MT)が0.1N以上である。
    (要件2)220℃で、オリフィスのL/Dを40にして測定されたスウェリングレシオについて、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR)が1.8以上である。
    (要件3)210℃で測定された緩和弾性率G(t)と時間0.02秒の緩和弾性率G(0.02)の比(G(t)/G(0.02))が0.01になるまでに要する時間が10sec以上である。
    (要件4)220℃で、オリフィスのL/Dを40にして測定されたスウェリングレシオについて、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR10)とせん断速度が2.4×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR10)の比(SR10/SR10)が1.1以下である。
  2. ポリプロピレン系樹脂(A)の含有量が40〜80重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
  3. エラストマー(B)が、ビニル芳香族化合物含有ゴム及び/又はエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムであり、その含有量が15〜30重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
  4. 無機充填剤(C)が、タルク及び/又は硫酸マグネシウム繊維であり、その含有量が5〜30重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
  5. 樹脂(D)が下記の(要件1a)、(要件2a)および(要件3a)を満足する樹脂であって、その含有量が0.5〜4.5重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
    (要件1a)190℃で、巻取速度を15.7m/分にして測定されたメルトテンション(MT)が0.15N以上である。
    (要件2a)220℃で、オリフィスのL/Dを40にして測定されたスウェリングレシオについて、せん断速度が1.2×10sec−1の時のスウェリングレシオ(SR)が2.0以上である。
    (要件3a)210℃で、測定された緩和弾性率G(t)と時間0.02秒の緩和弾性率G(0.02)の比(G(t)/G(0.02))が0.01になるまでに要する時間が15sec以上である。
  6. 樹脂(D)が、135℃のテトラリン中で測定される極限粘度[η]が5dl/g以上であり、示差走査熱量計によって測定される融解ピーク温度Tmが130〜160℃であるプロピレンを主体とする単量体を重合して得られるプロピレン系重合体成分(I)40〜70重量%およびプロピレン系重合体成分(II)60〜30重量%からなるプロピレン系重合体組成物(但し、プロピレン系重合体成分(II)は、プロピレン系重合体成分(I)と異なるプロピレン系重合体である。)であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
  7. 樹脂(E)が、分岐構造を有するポリプロピレンであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体。
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