JP2004111272A - リチウムポリマー電池及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】正極、炭素材料粉末からなる負極活物質を含む負極、化学架橋ゲルを用いた電解質とを備え、炭素材料粉末が、高結晶性黒鉛粉末の表面に低結晶性炭素材料が付着し、かつ互いに異なる物性値を有する少なくとも2種類以上の複合黒鉛材料粉末の混合物からなることを特徴とする特徴とするリチウムポリマー電池により、高エネルギー密度でかつ長期信頼性(サイクル特性)に優れた電池を得ることができる。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムポリマー電池及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、高結晶性黒鉛粉末の表面に低結晶性炭素材料を付着させた複合黒鉛材料粉末を活物質とする負極を用いたリチウムポリマー電池及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、負極に金属リチウムやその合金を利用するかわりに、リチウムイオンの吸蔵−放出過程を利用した炭素材料や導電性高分子等のマトリックス材料が開発された。これにより、金属リチウムやその合金を利用した場合に起こったデンドライトの生成が原理上起こらなくなり、電池内部の短絡という問題が激減するに至った。特に、炭素材料は他の材料よりもリチウムの吸蔵−放出電位がリチウムの折出−溶解電位に近いことが知られている。中でも黒鉛材料は、理論的に炭素原子6個に対してリチウム原子1個の割合で、その結晶格子中にリチウムを取り込むことができることから、単位重量及び単位体積あたり高い容量を有する炭素材料である。更に、黒鉛材料は、リチウムの挿入−脱離の電位が平坦で、化学的に安定であり、電池のサイクル安定性にも大きく寄与するものである。
【0003】
例えば、J.Electrochm.Soc.,Vol.137,2009(1990)(非特許文献1)、特開平4−115457号公報(特許文献1)、特開平4−115458号公報(特許文献2)、特開平4−237971号公報等に示された黒鉛系炭素材料を負極活物質に用いるもの、また特開平4−368778号公報(特許文献3)、特開平5−28996号公報(特許文献4)、特開平5−114421号公報(特許文献5)等に示される表面処理した黒鉛系炭素材料を負極活物質に用いるもの等がある。
黒鉛系炭素材料は、エチレンカーボーネート(EC)を主体とする有機電解液を用いることによって、ほぼ理論容量に近い放電容量が得られる。また、その充放電の電位がリチウムの溶解−折出の電位よりわずかに高く、かつ非常に平坦であるため、黒鉛系炭素材料を負極活物質に用いて電池を作製した場合に、高容量かつ電池電圧の平坦性が高い二次電池が実現でき、電池の高容量化を達成できる。
【0004】
しかしながら黒鉛系炭素材料は、結晶性が高いため有機電解液の分解を引き起こすという問題点が残されている。例えば、有機電解液用溶媒であるプロピレンカーボネート(PC)はその電位窓の広さ、凝固点の低さ(−70℃)及び化学的安定性の高さから、リチウム二次電池用の電解液の溶媒として広く用いられている。しかし、黒鉛系炭素材料を負極活物質に用いた場合、PCの分解反応が顕著に起こり、10%のPCが電解液に存在するだけで黒鉛系炭素材料からなる負極は充放電ができないということが、J.Electrochem.Soc.,Vol.142,1746(1995)(非特許文献2)で報告されている。
【0005】
その解決策として、電解液にビニレンカーボネート等の添加剤を加え、負極活物質である黒鉛系炭素材料上に積極的に皮膜を形成し、その皮膜によってその後の電解液の分解を抑える、又は高結晶性黒鉛系炭素材料の表面を低結晶性炭素材料で覆うことにより、高結晶性黒鉛系炭素材料がもつ高容量の特徴と、低結晶性炭素材料の特徴である、電解液の選択性がないことを兼ね備えた複合黒鉛材料が提案されている。
【0006】
近年、液体の電解液を用いた電池の耐漏液性、高い安全性、長期保存性を向上させることを目的として、高いイオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーが報告され、上記の問題を解決する手段の1つとして、さまざまな研究が進められている。現在検討されているイオン伝導性ポリマーとして、エチレンオキシドを基本単位とするホモポリマー又はコポリマーの直鎖状高分子、網状架橋高分子又は櫛型高分子等が提案され、ほぼ実用化されつつある。
上記のイオン伝導性ポリマーを用いた電池については、特許文献等に広く記載されており、例えば、アーマンド(Armand)らによる米国特許第4,303,748号(特許文献6)やノース(North)の米国特許第4,589,197号(特許文献7)及びフーパー(Hooper)らの米国特許第4,547,440号(特許文献8)等が挙げられる。
【0007】
これらの特徴として挙げられるのが、ポリエーテル構造を有する高分子材料中に電解質塩を溶解した溶液を含むイオン伝導性ポリマーを用いていることである。これらのイオン伝導性ポリマーは、室温以下でのイオン伝導度が低いため、特に携帯電子機器の駆動用電源やメモリーバックアップ電源向けの電池に要求される小型・軽量かつ高エネルギー密度化が実現できない。
そこで、上述のイオン伝導性ポリマーよりも更にイオン伝導性の向上を図る方法として、モノマーと、有機溶媒(特にECあるいはPC等の高誘電率有機溶媒)と電解質塩とからなる電解液とを混合し、モノマーを重合することによって、電解液をポリマーネットワーク中に保持し、固体状態を保ったゲル状のポリマー電解質(以下化学架橋ゲルという)が提案されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平4−115457号公報
【特許文献2】
特開平4−115458号公報
【特許文献3】
特開平4−368778号公報
【特許文献4】
特開平5−28996号公報
【特許文献5】
特開平5−114421号公報
【特許文献6】
米国特許第4,303,748号
【特許文献7】
米国特許第4,589,197号
【特許文献8】
米国特許第4,547,440号
【特許文献9】
特表平8−507407号公報
【非特許文献1】
J.Electrochm.Soc.,Vol.137,2009(1990)
【非特許文献2】
J.Electrochem.Soc.,Vol.142,1746(1995)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
化学架橋ゲルは、電解液の保持力が高く、また高温(例えば100℃程度)になっても溶融しないものもあり、異常時における液漏れ防止という観点からは有効である。しかしながら、低温での性能が悪い、架橋させるためにプレカーサーにて添加する開始剤が電池中に残存し電池性能の劣化を引き起こす等、まだ解決すべき課題は多い。
一方、特表平8−507407号公報(特許文献9)では、ヘキサフルオロプロピレン−ポリフッ化ビニリデンの共重合体を物理架橋させることで、電解液を保持させたゲル電解質(以下、物理架橋ゲルという)が提案されている。
【0010】
このタイプのゲルは電池素子を形成後、電解液を注液し、加熱することによって一旦溶融させ、冷却することによってゲルを形成するため、液体の電解液を用いたリチウムイオン電池の製造方法と類似の方法で製造することができる等の利点をもつ。
物理架橋ゲルは、室温ではゲル状となっており、ある程度の液漏れ防止の効果が期待できる。しかし、高温になるとゲル状となっていたものが溶融し、ゲルの状態を保つことができないため、電池異常時の液漏れ防止の観点からは十分ではなかった。そのような状況のもと、液漏れ防止の効果が十分期待できる化学架橋ゲルを用いた高性能のリチウムポリマー電池が強く望まれている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、電池の異常時に電池の温度が上昇した場合においても、電解液の液漏れを起こすことなく、かつリチウムイオン電池に匹敵する負荷特性、温度特性、エネルギー密度を有する高性能リチウムポリマー電池を提供することにある。
かくして本発明によれば、正極、炭素材料粉末からなる負極活物質を含む負極、化学架橋ゲルを用いた電解質とを備え、炭素材料粉末が、高結晶性黒鉛粉末の表面に低結晶性炭素材料が付着し、かつ互いに異なる物性値を有する少なくとも2種類以上の複合黒鉛材料粉末の混合物からなることを特徴とする特徴とするリチウムポリマー電池が提供される。
【0012】
更に、本発明によれば、負極活物質である炭素材料粉末として、高結晶性黒鉛粉末の表面に低結晶性炭素材料が付着し、かつ互いに異なる物性値を有する少なくとも2種以上の複合黒鉛材料粉末を含む負極に、化学架橋ゲルのプレカーサーを含浸させる工程と、プレカーサーをゲル化させて電解質を得る工程を含むことを特徴とするリチウムポリマー電池の製造方法が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
複合黒鉛材料粉末は、負極活物質としては優れるが、表面の低結晶性炭素材料により、高結晶性黒鉛粉末(以下、黒鉛粉末ともいう)が従来有する潤滑性が阻害され、その充填性が悪く、高密度の負極が得られない場合がある。この充填性について、本発明の発明者等は、詳細に検討した結果、充填性は、被覆比、あるいは芯材の種類等の複合黒鉛材料粉末の物性値によって大きく左右されることがわかった。
【0014】
更に、上記観点から本発明の発明者等は、物性値の互いに異なる2種以上の複合黒鉛材料粉末を負極活物質として用いることによって、化学架橋ゲルのプレカーサーを硬化する際に、効率よく架橋が行われることも見出した。効率よく架橋が行われる理由は次のように推測される。黒鉛粉末は、開始剤から熱、あるいはUV等の手段によって発生したラジカルを、その活性な部位で消費し、重合反応を阻害する。表面を低結晶性炭素材料で被覆することで、黒鉛粉末によるラジカルの消費が抑えられ、発生したラジカルが効率よく重合反応に使われると考えられる。
【0015】
本発明において互いに物性値が異なる少なくとも2種類以上の複合黒鉛材料粉末を含むということは、少なくとも主活物質としての複合黒鉛材料粉末と、その充填性を向上させるための複合黒鉛材料粉末の2種類を含むことを意味する。このような少なくとも2種類以上の複合黒鉛材料粉末を含む負極により、高容量密度で、かつ負荷特性の優れた高性能な二次電池が作製可能となる。
【0016】
複合黒鉛材料粉末は、粉末の集合体であり、厳密に言えば完全に均一な粉末の集合体を得ることは難しいため、粒子ひとつひとつの物性値と、粒子の集合体としての物性値(平均値)を有することになる。本発明において2種類以上とは、後者の集合体として互いに異なる物性値の複合黒鉛材料粉末が、2種類以上存在することを意味する。ここで、物性値とは、結晶性(面間隔、結晶子サイズ等)、比表面積、粒度分布、被覆比、ラマン強度比、真密度、嵩密度、純度、形状等が挙げられる。
【0017】
本発明において、被覆比が互いに異なる2種以上の複合黒鉛材料粉末を使用することが好ましい。具体的には、被覆比が互いに異なるとは、低結晶性炭素材料の量/(高結晶性黒鉛粉末の量+低結晶性炭素材料の量)の平均値(以下被覆比という)が異なることを意味する。被覆比を異ならせることにより、より高容量密度で、かつ高性能な二次電池が作製可能となる。
なお、被覆比とは、粒子ひとつひとつの値ではなく、複合黒鉛材料粉末の集合体としての値、即ち平均値を意味する。この値は、製造工程における黒鉛粉末の重量と、最終的に得られた複合黒鉛材料粉末の重量変化によって算出される。
【0018】
被覆比の大きい方の複合黒鉛材料粉末の被覆比は0.03〜0.25の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.25である。被覆比が0.25より大きいと、低結晶部分が多くなりすぎて、充放電容量が低くなるので好ましくない。また、0.03未満になると電解液の分解に対する制御効果が低くなるため好ましくない。
また、被覆比の小さい方の複合黒鉛材料粉末の被覆比は、0.01〜0.10が好ましい。更に好ましくは0.01〜0.05である。0.01未満の材料では、上述した重合の阻害要因を抑えるのに十分ではなく、また0.1より大きい被覆比では性能の優れ、かつ高充填密度の負極が得られにくいため好ましくない。
【0019】
更に、被覆比の大きい複合黒鉛材料粉末の量に対する被覆比の小さい複合黒鉛材料粉末の量は重量比で50%以下であることが好ましく、より好ましくは10〜30%程度である。加える量が多すぎると、その材料の性質が支配的になり、重合を阻害する要因を抑える効果が十分に得られなかったり、材料自身が配向し、電解液の染み込みが悪くなる等の理由によって、負荷特性等が悪くなったりする。また加える量が十分でないと、充填性向上の効果が十分に得られない問題が生じる。
【0020】
また、被覆比を異ならせる代わりに、黒鉛粉末の種類を変えることによって、高容量密度かつ高性能の電池を得ることも可能である。これまで、X線回折、ラマン分光法、真密度等により定義されていた結晶性の評価が異なる2種類以上の黒鉛粉末を用い、同等の被覆比で低結晶性炭素材料を被覆した場合であっても、黒鉛粉末の種類によって充填性が異なることが明らかになった。これは、X線回折法等の評価手段によって判断できない微細組織の並び、芯材の形状に由来する複合黒鉛材料粉末の形状、粒径のバランス等の違いによって、充填性に差が生じるものと推察される。
【0021】
黒鉛粉末が異なる場合の被覆比は特に限定されないが、より充填性を上げるために、被覆比の大きい複合黒鉛材料粉末の被覆比は0.03〜0.25であることが好ましく、被覆比の小さい複合黒鉛材料粉末の被覆比は0.01〜0.10であることが好ましく、更に好ましくは0.01〜0.05である。
また、被覆比の大きい複合黒鉛材料粉末の量に対する被覆比の小さい複合黒鉛材料粉末の量は重量比で50%以下であることが好ましく、より好ましくは10〜30%程度である。加える量が多すぎると、その材料の性質が支配的になり、重合を阻害する要因を抑える効果が十分に得られなかったり、材料自身が配向し、電解液の染み込みが悪くなる等の理由によって、負荷特性等が悪くなったりする。また加える量が十分でないと、充填性向上の効果が十分に得られない問題が生じる。
【0022】
本発明においては、被覆比の大きい複合黒鉛材料粉末の黒鉛粉末として塊状の人造黒鉛を用い、被覆比の小さい複合黒鉛材料粉末の黒鉛粉末として天然黒鉛粉末を用いた場合に良好な結果が得られている。
本発明では、充填性の程度を示す指標として、圧縮比というパラメータを定義し、複合黒鉛材料粉末の物性を規定する。ここで、圧縮比とは、対象となる複合黒鉛材料粉末に、バインダーとして7.5重量部(複合黒鉛材料粉末100重量部に対して)のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を加え、溶剤と混合して得られたスラリーを、銅箔状に塗布し、線圧300kg/cmにてプレスした場合の厚み変化を意味し、具体的には、
圧縮比=プレス後の塗膜の厚み/プレス前の塗膜の厚み
で定義される。
【0023】
更に、塗膜を作製した場合の塗膜密度も重要である。つまりプレス前の塗膜密度が高く、更に圧縮比が小さいほど、高密度の負極を得ることが可能となる。圧縮比が十分に小さくても、プレス前の塗膜密度が小さすぎる場合には、高密度の負極を得るためにプレスを行うと黒鉛粉末の配向が起り易くなり、負荷特性の悪い負極になる場合がある。また、プレス前の塗膜密度が十分に高い材料であっても、圧縮比が大きいと高エネルギー密度の負極が得られないため好ましくない。
【0024】
本発明においては、プレス前の塗膜密度を0.7g/cm3以上となるようにし、圧縮比が0.4〜0.7であり、プレス後の塗膜密度が1.5g/cm3以上となるように、2種以上の複合黒鉛材料粉末を混合することが好ましい。プレス後の塗膜密度が高いほど、高容量の負極が得られるが、プレス前の塗膜密度が低く、圧縮比が小さい場合に得られた高密度の負極は、材料の配向等により負荷特性が悪くなることがあり好ましくない。また、好ましくはプレス後の塗膜密度は1.8g/cm3程度までに抑えることが好ましい。これ以上高い場合は、負極中の空隙が十分ではないため、負極中の電解質の量が十分ではなく、負荷特性等の電池特性が十分に得られない場合がある。
【0025】
本発明における複合黒鉛材料粉末は、気相法、液相法、固相法等の手法により、図1に示すように高結晶性黒鉛粉末1の表面に低結晶性炭素材料2を付着させることによって得ることができる。
芯材に用いる黒鉛粉末は、天然黒鉛、粒子状(鱗片状乃至塊状、繊維状、ウイスカー状、球状、破砕状等)の人造黒鉛、あるいは、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズピッチ粉末、等方性ピッチ粉末等の黒鉛化品の1種又は2種以上が使用できる。
【0026】
ここで、芯材となる黒鉛粉末として、更に好ましくは、X線広角回折法による(002)面の平均面間隔(d002)が0.335〜0.340nm、(002)面方向の結晶子厚み(Lc)が10nm以上(より好ましくは、40nm以上)、(110)面方向の結晶子厚み(La)が10nm以上(より好ましくは、50nm以上)、またアルゴンレーザーラマンによる1580cm−1付近のピーク強度比に対する1360cm−1付近のピーク強度比(以後R値と記す)が0.5以下(より好ましくは、0.4以下)であることが好ましい。平均面間隔が0.340nmより大きい場合、あるいはLc、Laが10nmより小さい場合、あるいはR値が0.5を超える場合には、黒鉛粉末の結晶性が充分ではなく、複合黒鉛材料粉末を作製した際に、リチウムの溶解析出に近い低い電位部分(Liの電位基準で0〜300mV)の容量が十分ではなくなるので、好ましくない。
【0027】
芯材となる黒鉛粉末の粒径分布は、0.1〜150μm程度であることが好ましい。黒鉛粉末の表面に低結晶性炭素材料が付着した複合黒鉛材料粉末の粒径は、実質的に芯材である黒鉛粉末の粒径に依存するため、芯材の粒径により、最終生成物の粒径もほぼ規定されることになる。芯材の粒径が、0.1μmよりも小さい場合には、電池のセパレーターの空孔を通して内部短絡を引き起こす危険性が高くなるのに対し、150μmよりも大きくなる場合には、負極の均一性、活物質の充填密度、負極を作製する工程上でのハンドリング性等が低下するので、いずれも好ましくない。
ここでの粒径とは、粉末の平均値であり、レーザー回折式粒度分布計により測定された粒度分布において、ピークを示す値を粒径と定義している。
【0028】
上記黒鉛粉末の表面に低結晶性炭素材料を形成する手法において、気相法とは、気体状の原料、あるいは液体状の原料を噴霧、あるいはバブリング等の手法により、反応系内に輸送し、原料の熱分解によって黒鉛粉末の表面に気相から炭素を形成させる方法である。熱分解温度としては、原料によって異なるが、450〜1500℃程度の温度範囲で行うことができる。
原料としてはメタン、エタン、プロパン等の脂肪族飽和炭化水素、プロピレン等の脂肪族不飽和炭化水素、べンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ペリレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。また、適宜アルゴン、窒素等の不活性ガスをキャリアガスとして用いることも可能であり、また水素を添加して、気相中でのすすの発生を抑える等の方法も考えられる。
【0029】
上記黒鉛粉末の表面に低結晶性炭素材料を形成する手法において、液相法とは炭素前駆体が液相を経由して炭素化される原料を黒鉛の表面に付着させ、それらを焼成することによって表面に炭素を形成する方法である。原料としてはナフタレン、フェナントレン、アセナフチレン、アントラセン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ペリレン等の芳香族炭化水素、これらを加熱加圧下で重縮合して得られたタールあるいはピッチ類、あるいはこれらの芳香族炭化水素の混合物を主成分とするタール、ピッチ、アスファルト、油類があげられ、その由来は、石油系及び石炭系を問わない。
【0030】
また、焼成に先立ち、炭素前駆体が被覆された黒鉛粉末を洗浄工程に供してもよい。洗浄工程を加えることにより、炭素前駆体の低分子成分を取り除くことができ、炭素前駆体からの炭化率を向上させることができるとともに、粒子同士が焼成の際に融着、あるいは凝集を抑えるといった効果が得られる。ここで、洗浄に用いる有機溶媒としては、トルエン、キノリン、アセトン、ヘキサン、ベンゼン、キシレン、メチルナフタレン、アルコール類、石炭系油、石油系油等が挙げられる。これらの中では、トルエン、キノリン、アセトン、ベンゼン、キシレン、メタノール、石炭系軽油・中油、石油系軽油・中油等がより好ましい。
【0031】
上記黒鉛粉末の表面に低結晶性炭素材料を形成する手法において、固相法とは、炭素前駆体が固相を経由して炭素化される原料を黒鉛の表面に付着させ、それらを焼成することによって表面に炭素を形成する方法である。一般に、樹脂は固相を経由して炭素化がすすむが、そのような樹脂を黒鉛粉末の表面に付着させるには、溶剤に溶解する、融点以上の温度に加熱する等の手法により液状とし、上記液相法の説明に記載した手法により混合し、表面に付着させる方法が挙げられる。また樹脂と黒鉛粉末を混合し、焼成時に融点付近で保持することによって混合することも可能である。
【0032】
具体的な原料としては、ポリアミドイミド樹脂;ポリアミド樹脂;ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリ(p−フェニレンビニレン)等の共役系樹脂、フェノール樹脂;フルフリルアルコール樹脂;セルロース;ポリアクリロニトリル、ポリ(α−ハロゲン化アクリロニトリル)等のアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ビニル樹脂;等が挙げられる。また、焼成条件としては上記液層法に記載の焼成方法、焼成雰囲気が適用可能である。
【0033】
また、上記方法によって得られた低結晶性炭素材料とは、更に好ましくは、X線広角回折法による(002)面の平均面間隔(d002)が340nmより大きく、(002)面方向の結晶子厚み(Lc)が40nmより小さく(より好ましくは、10nmより小さい)、(110)面方向の結晶子厚み(La)が50nmより小さく(より好ましくは10nmより小さい)、またR値が0.4より大きい(より好ましくは、0.5より大きい)ことが好ましい。
【0034】
上記活物質100重量部に対して、結着材を1〜30重量部混合して負極を形成する。この結着材には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー、合成ゴム類等を用いることができるがこれに限定されるものではない。結着材が30重量部より多いと、負極の抵抗あるいは分極等が大きくなり放電容量が小さくなるため実用的なリチウムポリマー電池が作製できない。逆に、結着材が、1重量部より少ないと結着能力がなくなってしまい、実用的ではない。負極作製において、結着性を上げるために、結着剤の融点前後の温度で熱処理を行うこともできる。
【0035】
上記圧縮比を有する負極を得るために、上記結着材の中でも合成ゴム類を結着材として用いることが好ましい。上記圧縮比を有し、プレス後の塗膜密度が1.5g/cc以上の物性を有する負極は、充放電に伴う、負極の膨張収縮の繰り返しによりサイクル劣化が起こり易い場合がある。ゴム系の結着材は、強い結着能とゴム弾性を有するため、活物質の膨張収縮に追従し、負極のサイクル劣化を抑えることが可能となると考えられる。
【0036】
本発明における化学架橋ゲルの原料となる重合性モノマーは、電解質の溶媒溶液と親和性があり、重合可能な官能基を有する化合物であれば、特に制限はない。例えばポリエーテル構造及び不飽和二重結合基を有するもの、オリゴエステルアクリレート、ポリエステル、ポリイミン、ポリチオエーテル、ポリサルファン等のポリマーを与える重合性モノマーの単独もしくは二種以上の併用が挙げられる。なお、溶媒との親和性からポリエーテル構造及び不飽和二重結合基を有するものが好ましい。ポリエーテル構造単位としては、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、グリシジルエーテル類等が挙げられ、これらの単独又は二種以上の組み合わせが好適に用いられる。また、二種以上の組み合わせの場合、その形態はブロック、ランダムを問わず適宜選択できる。中でもアクリレート系の材料で多官能モノマーと単官能モノマーからなる重合性モノマーの使用が、負極の体積変化に追従する強度と弾性を有するゲルを与えるため好ましい。
【0037】
アクリレート系のモノマーとしては、ポリエーテルポリオールの末端ヒドロキシル基をアクリル酸でエステル化したものを好適に用いることができる。多官能モノマーはエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールを開始剤として、これにエチレンオキシド(EO)単独またはEOとプロピレンオキシド(PO)を付加重合させて得られたポリエーテルポリオールの末端ヒドロキシル基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。また、単官能モノマーは、メタノール、エタノール、プロパノールなどの1価アルコールを開始剤として、これにエチレンオキシド(EO)単独またはEOとプロピレンオキシド(PO)を付加重合させて得られたポリエーテルポリオールの末端ヒドロキシル基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。
【0038】
ここで多官能モノマーは、ゲル電解質の電解液の保液性に重要な役割を示し、平均分子量が5,000〜10,000の範囲であることがさらに好ましい。上記範囲内の多官能モノマーを採用した場合、プレカーサーを調整する場合に、容易に電解液に溶解することができ、また、ゲル電解質作成時に優れた保液性を有する。
一方、単官能モノマーは、平均分子量が小さい方がゲル電解質の柔軟性が向上でき、平均分子量200〜3,000程度のものが好適に用いられる。
【0039】
また、電解質に用いる電解液としては、PC、EC、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のフラン類、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、ギ酸メチル、酢酸メチル等が挙げられ、これらを用いることができる。
【0040】
電解質塩として、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、リンフッ化リチウム(LiPF6)、6フッ化砒酸リチウム(LiAsF6)、6フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、トリフルオロ酢酸リチウム(LiCF3COO)、トリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)等のリチウム塩が挙げられ、これらの1種以上を混合して用いることができる。
電解質は、前記で選ばれた溶媒に電解質塩を溶解することによって電解液を調製し、上記重合性モノマーと混合し、重合させることによって得られる。
【0041】
上記、重合性モノマーと電解液の比率は、電解液に匹敵する性能と、液漏れを起こさない電解液の保持性の観点から、電解液:モノマーが70:30〜99:1が好ましく、より好ましくは80:20〜97:3である。
また単官能モノマーと多官能モノマーを混合して用いる場合、モノマーの混合比は、多官能モノマー:単官能モノマーが4:6〜9:1の範囲で混合することが好ましい。
【0042】
高分子固体電解質の架橋方法としては、紫外線、電子線、可視光等の光エネルギーを用いる方法、加熱による方法を用いることができる。必要であれば重合開始剤を用いることも重要である。特に紫外線あるいは加熱による架橋方法においては、数%以下の重合開始剤を加えることが好ましい。重合開始剤としては、トリメチルシリルベンゾフェノン、ベンゾイン、2−メチルベンゾイン、4−メトキシベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテルアントラキノン、ベンジルジメチルケタール等の光重合開始剤や、過酸化ベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン、α,α′−アゾビスイソブチロニトリル等の重合開始剤を添加してもよい。
【0043】
また、紫外線重合、紫外線の波長は250〜360nmが適当である。開始剤を用いる場合であっても、本発明によれば、少ない開始剤で良好な重合体を得ることが可能である。残存重合開始剤、重合開始剤による副生成物は電池特性に悪影響を及ぼす場合があり、必要最小限に留めるのが好ましい。開始剤の量としては、開始剤の種類にもよるが、重合性モノマーと電解液とからなるプレカーサーに対し、通常3000ppm以下に抑えることが好ましい。
【0044】
本発明のリチウムポリマー二次電池における正極としては、例えばリチウムを含有した酸化物を正極活物質として用いることができる。具体的な例としてはLiCoO2、LiNiO2、LiFeO2、LiMnO2、LiMn2O4、あるいはそれらの遷移金属の一部を置換した材料、等が挙げられ、これに導電材、結着材及び場合によっては、固体電解質等を混合して形成される。
この混合比は、活物質100重量部に対して、導電材を5〜50重量部、結着材を1〜30重量部とすることができる。この導電材には、カーボンブラック(アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等)等の炭素類や、グラファイト粉末、金属粉末等を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0045】
この結着材には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー、合成ゴム類等を用いることができるがこれに限定されるものではない。
導電材が5重量部より少ない、あるいは結着材が30重量部より多いと、正極の抵抗あるいは分極等が大きくなり放電容量が小さくなるため実用的なリチウムポリマー電池が作製できない。導電材が50重量部より多い(混合する導電材の種類により重量部は変わる)と正極内に含まれる活物質量が減るため正極としての放電容量が小さくなる。結着材は、1重量部より少ないと結着能力がなくなってしまい、30重量部より多いと、導電材の場合と同様に、正極内に含まれる活物質量が減り、更に、上記に記載のごとく、正極の抵抗あるいは分極等が大きくなり放電容量が小さくなるため実用的ではない。正極作製において、結着性を上げるためにそれぞれの結着剤の融点前後の温度で熱処理を行うことが好ましい。
【0046】
【実施例】
実施例1、比較例1
高分子固体電解質のプレカーサーの硬化に与える影響を見るために、黒鉛材料粉末を混合した状態でプレカーサーの硬化実験を行った。
プレカーサーの調整
1mol/リットルのLiBF4を溶解したECとγ−ブチロラクトンの1:1の混合溶媒を電解液とした。エチレンオキサイドとプロピレンオキシドの共重合体を含有してなる平均分子量7500〜9000の四官能アクリレートモノマーと平均分子量200〜300の単官能アクリレートモノマーが重量比で7:3のモノマーを、電解液とモノマーの比率が95:5となるように電解液に混合した。その溶液に熱重合開始剤を全重量に対して200ppm加えプレカーサーとした。使用した熱重合開始剤は、t−ブチルパーオキシネオデカネートである。
【0047】
黒鉛粉末とプレカーサーの比が重量比で1:10となるように両者を混合し、80℃恒温漕にて24時間保持し、プレカーサーの硬化状況を確認した。
黒鉛粉末としてティムカル社製人造黒鉛(KS25)を芯材とし、低結晶性炭素材料を付着させた複合黒鉛材料粉末で低結晶性炭素材料の量/(高結晶性黒鉛粉末の量+低結晶性炭素材料の量)の平均値を変更したものを用いて硬化実験を行った(実施例1)。また、低結晶性炭素材料を被覆させない場合を比較例1とした。結果を表1に示す。表1中、◎は十分に硬化しており、液状の部分もない状況を意味し、○はゲルは若干柔らかいが液状の部分は残っていない状況を意味し、×は十分に硬化せず、液状の部分が観察される状況を意味する。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から、被覆比が大きいほど硬化状況が良好であった。
同様にして、開始剤の量を変更して実験を行ったところ、変更しても硬化度の傾向は同様であり、被覆比が大きい方がよく硬化している。
また、開始剤をプレカーサー全量に対し5000ppm程度まで増やした場合は、黒鉛粉末のみでもある程度の硬化状況がえられた。したがって複合黒鉛材料粉末は、開始剤濃度によらず硬化し、特に開始剤が5000ppm以下の領域で芯材のみの場合より効果が大きいものであることがわかった。
【0050】
実施例2
(正極の作製)
正極活物質にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を使用した。結着材であるポリフッ化ビニリデンを、一旦乳鉢で溶剤N−メチル−2−ピロリドンに溶かした結着剤溶液に、上記正極活物質とアセチレンブラックとの混合物を分散させることによりペーストを作製した。
このようにして得られたペーストをアルミニウム箔集電体上に塗布し、これを60℃で仮乾燥、150℃で熱処理後プレスした。負極サイズを3.5×3cm(塗工部3×3cm)とし、無塗工部にアルミニウム箔(50μm)を溶接した。更に水分除去のために180℃で減圧乾燥したものを試験用の正極として用いた。塗膜密度は2.9g/cm3であった。
【0051】
(負極の作製)
負極活物質にティムカル社製人造黒鉛(KS25)を芯材として用い、表面に低結晶性炭素材料を付着させた複合黒鉛材料粉末(粒径12μm、d(002)=0.337nm、R値=0.4、低結晶性炭素材料の量/(高結晶性黒鉛粉末の量+低結晶性炭素材料の量)=0.18)を80重量部と、天然黒鉛(マダガスカル産)を芯材として表面に低結晶性炭素を付着させた複合黒鉛材料粉末(粒径16μm、d(002)=0.336nm、R値=0.21、低結晶性炭素材料の量/(高結晶性黒鉛粉末の量+低結晶性炭素材料の量)=0.05)を20重量部との混合物を負極活物質として用い、結着材であるポリフッ化ビニリデンを乳鉢で溶剤N−メチル−2−ピロリドンに溶かした溶液に分散させ、ペースト状にしたものを、20μmの銅箔に塗布し、これを60℃で仮乾燥、240℃で熱処理後プレスした。負極サイズを3.5×3cm(塗工部3×3cm)とし、無塗工部にニッケル箔(50μm)のリードを溶接した。更に水分除去のために150℃で真空乾燥したものを負極として用いた。塗膜密度は1.58g/cm3であった。
【0052】
(プレカーサーの調整)
1.8mol/リットルのLiBF4を溶解したECとγ−ブチロラクトンの1:1の混合溶媒を電解液とした。エチレンオキサイドとプロピレンオキシドの共重合体を含有してなる平均分子量7500〜9000の四官能アクリレートモノマーと平均分子量200〜300の単官能アクリレートモノマーが重量比で7:3のモノマーを、電解液とモノマーの比率が97:3となるように電解液に混合した。その溶液に熱重合開始剤を全重量に対して200ppm加えプレカーサーとした。
【0053】
(電池の作製)
ポリエステル製の不織布をセパレータとして用い、上記のようにして得られた電極を対向するように重ね合わせ、袋状に加工したアルミラミネートの袋に挿入した。そこに、上記のプレカーサーを入れ、減圧下で熱封口を行った。次に、80℃にて4時間保持して、熱重合を行い、ポリマー電池を作製した。得られた電池を電流値4mA、充電4.1V−CCCV(電流電圧一定)、放電2.75V−CC(電流一定)の条件にて充放電を繰り返し、サイクル特性を測定した。用いた材料、混合比率等を表2に、塗膜密度(プレス前)、圧縮比、塗膜密度(プレス後)、負極活物質層当たりの体積エネルギー密度、サイクル時の容量保持率を表3に示す。
【0054】
比較例2
負極活物質として、ティムカル社製人造黒鉛(KS25)を芯材として用い、表面に低結晶性炭素材料を付着させた複合黒鉛材料粉末(粒径12μm、d(002)=0.337nm、R値=0.4、低結晶性炭素材料の量/(高結晶性黒鉛粉末の量+低結晶性炭素材料の量)=0.18)を単独で用いたこと以外は実施例2と同様に負極を作製した。得られた負極の塗膜密度は1.46g/cm3であった。このようにして得られた負極を用いたこと以外は実施例2と同様に電池を作製し、充放電試験を行った。用いた材料、混合比率等を表2に、塗膜密度(プレス前)、圧縮比、塗膜密度(プレス後)、負極活物質層当たりの体積エネルギー密度、サイクル時の容量保持率を表3に示す。
【0055】
比較例3
負極活物質として、ティムカル社製人造黒鉛(KS25)を芯材として用い、表面に低結晶性炭素材料を付着させた複合黒鉛材料粉末(粒径12μm、d(002)=0.337nm、R値=0.4、低結晶性炭素材料の量/(高結晶性黒鉛粉末の量+低結晶性炭素材料の量)=0.18)を80重量部と、天然黒鉛(マダガスカル産、粒径14μm、d(002)=0.3358nm、R値=0.1)を20重量部との混合物を用いたこと以外は実施例2と同様に負極を作製した。得られた負極の塗膜密度は1.65g/cm3であった。このようにして得られた負極を用いた以外は実施例2と同様に電池を作製し、充放電試験を行った。用いた材料、混合比率等を表2に、塗膜密度(プレス前)、圧縮比、塗膜密度(プレス後)、負極活物質層当たりの体積エネルギー密度、サイクル時の容量保持率を表3に示す。
【0056】
実施例3〜5、比較例4〜5
炭素材料として表2中に示す黒鉛材料粉末を活物質として用いたこと以外は実施例2と同様に負極及び電池を作製した。結果(塗膜密度(プレス前)、圧縮比、塗膜密度(プレス後)、負極活物質層当たりの体積エネルギー密度、サイクル時の容量保持率)を表3に示す。表2中、MCMBとは、ピッチ系の球状炭素材料であるメソカーボンマイクロビーズの略称である。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
以上の結果が示すように、実施例によれば、高容量密度かつ、サイクル特性が優れたリチウムポリマー電池を得ることができる。単独で複合黒鉛材料粉末を用いた場合(比較例2と5)、電極の容量密度が低く、また、充填助剤として天然黒鉛を用いた場合(比較例3)、十分なサイクル特性が得られなかった。これは、複合黒鉛を単独で用いた場合には、プレス性が低いため、密度が上がらないことに起因し、また充填助剤として天然黒鉛を用いた場合には、実施例1の結果から天然黒鉛によってプレカーサーの重合が阻害され、電池中に残存した未反応モノマーが悪影響を及ぼしていると推察される。
【0060】
実施例6
正極及び負極には表4に示す複合黒鉛材料粉末を用いたこと以外は、実施例2と同様にして作製した。
(正極用のプレカーサーの調整)
2.5mol/リットルのLiBF4を溶解したECとγ−ブチロラクトンとPCの1:2:1の混合溶媒を電解液とした。エチレンオキサイドとプロピレンオキシドの共重合体を含有してなる平均分子量7500〜9000の四官能アクリレートモノマーと平均分子量200〜300の単官能アクリレートモノマーが重量比で9:1のモノマーを、電解液とモノマーの比率が97:3となるように電解液に混合した。その溶液にUV開始剤を全重量に対して2000ppm加えプレカーサーとした。
【0061】
(負極用のプレカーサーの調整)
1mol/リットルのLiBF4を溶解したエチレンカーボネート(EC)とγ−ブチロラクトンとプロピレンカーボネート(PC)の1:2:1の混合溶媒を電解液とした。エチレンオキサイドとプロピレンオキシドの共重合体を含有してなる平均分子量7500〜9000の四官能アクリレートモノマーと平均分子量200〜300の単官能アクリレートモノマーが重量比で8:2のモノマーを、電解液とモノマーの比率が95:5となるように電解液に混合した。その溶液にUV開始剤を全重量に対して2000ppm加えプレカーサーとした。
【0062】
(電池の作製)
正極上にポリエステル製の不織布をセパレータとして重ね合わせ、正極用のプレカーサーを含浸した後、石英製の板にはさみ、30mW/cm2のUV光を30s照射し、セパレーターと正極と電解質層を一体化した。
負極には負極用のプレカーサーを含浸させ、同様にUV光を照射し、負極と電解質層が一体化した。得られた極を活物質層が対向するように貼り合わせ、袋状に加工したアルミラミネートの中に挿入し、減圧下で熱シールすることにより、リチウムポリマー電池を作製した。得られた電池を電流値4mA、充電4.1V−CCCV、放電2.75V−CCの条件にて充放電を繰り返し、サイクル特性を測定した。用いた材料、混合比率等を表4に、塗膜密度(プレス前)、圧縮比、塗膜密度(プレス後)、負極活物質層当たりの体積エネルギー密度、サイクル時の容量保持率を表5に示す。
【0063】
実施例7
負極の結着材として、SBR(スチレンブタジエンゴム):2部とCMC−NH4:2部を用い、分散媒として水を用いたこと以外は実施例6と同様にリチウムポリマー電池を作製し、評価を行った。混合比率等を表4に、塗膜密度(プレス前)、圧縮比、塗膜密度(プレス後)、負極活物質層当たりの体積エネルギー密度、サイクル時の容量保持率を表5に示す。
比較例6
表4に示す複合黒鉛材料粉末を用いたこと以外は実施例6と同様にしてポリマー電池を作製した。結果を表5に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
上記結果から、複合黒鉛材料粉末が異なるだけでサイクル特性が大きく異なることがわかる。これは、比較例の複合黒鉛材料粉末では、開始剤によって発生したラジカルが黒鉛粉末によって消費され、負極中に未反応モノマーが多く残ったためと考えられる。更に、負極の結着材として、SBR(スチレンブタジエンゴム)を用いた場合、より優れた性能が得られることがわかる。
【0067】
【発明の効果】
本発明によれば、複合黒鉛材料粉末を少なくとも2種類以上混合した負極活物質を使用することにより、高エネルギー密度でかつ長期信頼性(サイクル特性)に優れたリチウムポリマー電池を得ることができる。
更に、本発明によって提供されるリチウムポリマー電池は化学架橋ゲルを用いているため、電池が高温下にさらされた場合であっても、ゲルが溶解して液状化することがない。よって、電池の膨れ等が起こりにくい高信頼性の電池を得ることができる。
リチウムポリマー電池の特徴は、薄型化が可能で形状が自由な点にあり、電子機器の隙間に内蔵して用いることによって、その特徴を更に有効に生かすことができる。ユーザーが簡単に取替えできないような使い方においては、長期信頼性、電池の膨れにくさは非常に重要であり、この工業的な意義は大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明の複合黒鉛材料粉末の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 高結晶性黒鉛粉末
2 低結晶性炭素材料
Claims (5)
- 正極、炭素材料粉末からなる負極活物質を含む負極、化学架橋ゲルを用いた電解質とを備え、炭素材料粉末が、高結晶性黒鉛粉末の表面に低結晶性炭素材料が付着し、かつ互いに異なる物性値を有する少なくとも2種類以上の複合黒鉛材料粉末の混合物からなることを特徴とする特徴とするリチウムポリマー電池。
- 上記2種類以上の複合黒鉛材料粉末は、低結晶性炭素材料の量/(高結晶性黒鉛粉末の量+低結晶性炭素材料の量)の平均値として表される物性値が互いに異なることを特徴とする請求項1に記載のリチウムポリマー電池。
- 上記2種類以上の複合黒鉛材料粉末は、高結晶性黒鉛粉末の種類が異なることで互いに異なる物性値を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムポリマー電池。
- 上記2種類以上の複合炭素材料は、低結晶性炭素材料の量/(高結晶性黒鉛粉末の量+低結晶性炭素材料の量)の平均値が0.1〜0.3である複合黒鉛材料粉末と、低結晶性炭素材料の量/(高結晶性黒鉛粉末の量+低結晶性炭素材料の量)の平均値が0.1未満の複合黒鉛材料粉末の2種からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のリチウムポリマー電池。
- 負極活物質である炭素材料粉末として、高結晶性黒鉛粉末の表面に低結晶性炭素材料が付着し、かつ互いに異なる物性値を有する少なくとも2種以上の複合黒鉛材料粉末を含む負極に、化学架橋ゲルのプレカーサーを含浸させる工程と、プレカーサーをゲル化させて電解質を得る工程を含むことを特徴とするリチウムポリマー電池の製造方法。
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