JP2003221637A - 成形加工用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
成形加工用アルミニウム合金板およびその製造方法Info
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Abstract
が優れたAl−Mg−Si系成形加工用Al合金板を提供する。 【解決手段】 Mg0.3〜0.9%、Si0.4〜1.2%を含有し、
かつMn、Cr、Zr、V、Fe、Tiの1種以上を少量含有し、C
uが0.1%未満、残部がAlよりなり、平均結晶粒サイズ60
μm以下、粒界上金属間化合物長さ5μm以下、粒界上
金属間化合物合計長さL1と総粒界長さL2の比L1/
L2が0.35以下、円換算径2μm以上の金属間化合物の
分散密度1000個/mm2以下のAl合金板。製造方法とし
て、均質化処理を450℃以上で施し、熱間圧延を、開始
温度450℃以上、480〜350℃の降温時間を20分以内と
し、その降温過程で10%以上の再結晶率で1回以上再結
晶させ、冷間圧延を施した後、480℃以上で5分以内の溶
体化処理後、100℃/min以上で45℃〜100℃未満に冷却
し、続いて60〜120℃に2時間以上保持する安定化処理を
行なう。
Description
ートやそのほか各種自動車部品、各種機械器具、家電製
品やその部品等の素材として、成形加工および塗装焼付
を施して使用されるAl−Mg−Si系のアルミニウム
合金板およびその製造方法に関するものであり、成形性
特にヘム曲げ性が良好であるとともに、塗装焼付後の強
度が高く、かつ室温での経時変化が少ない成形加工用ア
ルミニウム合金板およびその製造方法に関するものであ
る。
として冷延鋼板を使用することが多かったが、最近では
車体軽量化等の観点から、アルミニウム合金圧延板を使
用することが多くなっている。ところで自動車のボディ
シートはプレス加工を施して使用するところから、成形
加工性が優れていること、また成形加工時におけるリュ
ーダースマークが発生しないことが要求され、また外板
としての接合のためにヘム曲げ加工を施して使用するこ
とが多いところから、成形性のうちでも特にヘム曲げ性
が優れていることが要求され、そのほか高強度を有する
ことも必須であり、特に塗装焼付を施すのが通常である
ため、塗装焼付後に高強度が得られることが要求され
る。
のアルミニウム合金としては、Al−Mg系合金のほ
か、時効性を有するAl−Mg−Si系合金が主として
使用されている。この時効性Al−Mg−Si系合金
は、塗装焼付前の成形加工時においては比較的強度が低
くて成形性が優れている一方、塗装焼付時の加熱によっ
て時効されて塗装焼付後の強度が高くなる利点を有する
ほか、リューダースマークが発生しない等の利点を有す
る。
硬化を期待した時効性Al−Mg−Si系合金板の製造
方法としては、鋳塊を均質化熱処理した後、熱間圧延お
よび冷間圧延を行なって所定の板厚とし、かつ必要に応
じて熱間圧延と冷間圧延との間あるいは冷間圧延の中途
において中間焼鈍を行ない、冷間圧延後に溶体化処理を
行なって焼入れるのが通常である。
ボディシート向けの時効性Al−Mg−Si系合金板に
ついての従来の一般的な製造方法により得られた板で
は、最近の自動車用ボディシートに要求される特性を充
分に満足させることは困難であった。
自動車車体の軽量化等のために、自動車用ボディシート
についてさらに薄肉化することが強く要求されており、
そのため薄肉でも充分な強度が得られるように、一層の
高強度化が求められると同時に、成形性、特にヘム曲げ
性の改善が強く要求されているが、これらの性能をバラ
ンスよく満足させる点について従来の一般的な製造方法
によって得られたAl−Mg−Si系合金板では不充分
であった。特にヘム曲げ加工は、曲げ内径が1mm以下
の180°曲げという過酷な曲げ加工であるため、良好
なヘム曲げ性と強度とを両立させることが困難であると
いう問題があった。
び生産性の向上、さらには高温に曝されることが好まし
くない樹脂等の材料との併用などの点から、従来よりも
焼付温度を低温化し、また焼付時間も短時間化する傾向
が強まっている。しかしながら従来の一般的な製法によ
り得られた時効性Al−Mg−Si系合金板では、塗装
焼付時の硬化(焼付硬化)が不足し、塗装焼付後に充分
な高強度が得難くなる問題があった。
た時効性Al−Mg−Si系合金板では、塗装焼付後に
高強度を得るために焼付硬化性を高めようとすれば、素
材の延性と曲げ加工性(特にヘム曲げ性)が低下し、ま
た板製造後に室温に放置した場合に自然時効により硬化
が生じやすくなり、そのため成形性、特にヘム曲げ性が
阻害されがちとなるという問題が生じている。
たもので、良好な成形加工性、特に良好なヘム曲げ加工
性を有すると同時に、焼付硬化性が優れていて、塗装焼
付時における強度上昇が高く、しかも板製造後の室温で
の経時的な変化が少なく、長期間放置した場合でも自然
時効による硬化に起因する成形性の低下が少ない成形加
工用アルミニウム合金板とその製造方法を提供すること
を目的とするものである。
好であるとは、圧延方向に対しある方向のみのヘム曲げ
性だけではなく、全方向のヘム曲げ性が良好であること
を現わす。
するべく本発明者等が実験・検討を重ねた結果、Al−
Mg−Si系合金の成分組成を適切に選択するばかりで
なく、板製造プロセス条件、特に熱間圧延条件と、溶体
化処理後の冷却条件及び安定化処理条件を適切に選択し
て、金属組織条件、特に金属間化合物の分散状態を適切
に調整することによって、前述の課題を解決し得ること
を見出し、この発明をなすに至ったのである。
アルミニウム合金板は、Mg0.3〜0.9%、Si
0.4〜1.2%を含有し、かつMn0.03〜0.4
%、Cr0.03〜0.4%、Zr0.03〜0.4
%、V0.03〜0.4%、Fe0.03〜0.5%、
Ti0.005〜0.2%のうちから選ばれた1種また
は2種以上を含有し、さらにCuが0.1%未満に規制
され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなり、しか
も平均結晶粒サイズが60μm以下、粒界上に存在する
金属間化合物粒子の最大長さが5μm以下、粒界上に存
在する全金属間化合物粒子の合計長さL1と総粒界長さ
L2との比L1/L2が0.35以下、円換算径2μm
以上の金属間化合物粒子の分散密度が1000個/mm
2以下であることを特徴とするものである。
ウム合金板は、請求項1に記載の成形加工用アルミニウ
ム合金板において、前記成分元素のほか、さらにZn
0.03〜2.5%を含有することを特徴とするもので
ある。
ニウム合金板の製造方法は、Mg0.3〜0.9%、S
i0.4〜1.2%を含有し、かつMn0.03〜0.
4%、Cr0.03〜0.4%、Zr0.03〜0.4
%、V0.03〜0.4%、Fe0.03〜0.5%、
Ti0.005〜0.2%のうちから選ばれた1種また
は2種以上を含有し、さらにCuが0.1%未満に規制
され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミ
ニウム合金鋳塊に、480℃以上の温度で均質化処理を
施した後、熱間圧延を480℃以上の温度で開始して、
その熱間圧延中における480℃から350℃までの降
温時間を20分以内とするとともに、その降温過程にお
いて10%以上の再結晶率で1回以上再結晶させ、その
後冷間圧延を施した後、480℃以上の温度で保持なし
もしくは5分以内の保持の溶体化処理を行ない、溶体化
処理後、100℃/min以上の冷却速度で45℃以上
100℃未満の温度域まで冷却し、続いて45℃未満の
温度に冷却することなく、60〜120℃の温度域に2
時間以上保持する安定化処理を行なって、平均結晶粒サ
イズが60μm以下、粒界上に存在する金属間化合物粒
子の最大長さが5μm以下、粒界上に存在する全金属間
化合物粒子の合計長さL1と総粒界長さL2との比L1
/L2が0.35以下、円換算径2μm以上の金属間化
合物粒子の分散密度が1000個/mm2以下であるア
ルミニウム合金板を得ることを特徴とするものである。
ウム合金板の製造方法は、請求項3に記載の成形加工用
アルミニウム合金板の製造方法において、前記アルミニ
ウム合金鋳塊として、前記各成分元素のほか、さらにZ
n0.03〜2.5%を含有するものを用いることを特
徴とするものである。
ルミニウム合金板の製造方法は、請求項3もしくは請求
項4に記載の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法
において、前記熱間圧延直後もしくは冷間圧延の中途に
おいて、450〜580℃の範囲内の温度に加熱して保
持なしもしくは5分以内の保持を行ない、10℃/mi
n以上の冷却速度で冷却する中間焼鈍を施すことを特徴
とするものである。
ニウム合金板における成分組成の限定理由について説明
する。
の合金で基本となる合金元素であって、Siと共同して
強度向上に寄与する。Mg量が0.3%未満では塗装焼
付時に析出硬化によって強度向上に寄与するG.P.ゾ
ーンの生成量が少なくなるため、充分な強度向上が得ら
れず、一方0.9%を越えれば、粗大なMg−Si系の
金属間化合物が生成され、成形性、特に曲げ加工性が低
下するから、Mg量は0.3〜0.9%の範囲内とし
た。
なる合金元素であって、Mgと共同して強度向上に寄与
する。またSiは、鋳造時に金属Siの晶出物として生
成され、その金属Si粒子の周囲が加工によって変形さ
れて、溶体化処理の際に再結晶核の生成サイトとなるた
め、再結晶組織の微細化にも寄与する。Si量が0.4
%未満では上記の効果が充分に得られず、一方1.2%
を越えれば粗大なSi粒子や粗大なMg−Si系の金属
間化合物が生じて、曲げ加工性の低下を招く。したがっ
てSi量は0.4〜1.3%の範囲内とした。
ば、耐糸錆性が劣化するから、Cuの含有量は0.1%
未満に規制することとした。
らの元素は、強度向上や結晶粒微細化に有効であり、い
ずれか1種または2種以上を添加する。これらのうちM
n、Cr、Zr、Vはいずれも強度向上と結晶粒の微細
化および組織の安定化に効果がある元素であり、いずれ
も含有量が0.03%未満では上記の効果が充分に得ら
れず、一方それぞれ0.4%を越えれば上記の効果が飽
和するばかりでなく、粗大金属間化合物が生成されて成
形性に悪影響を及ぼすおそれがあり、したがってMn、
Cr、Zr、Vは、いずれも0.03〜0.4%の範囲
内とした。またTiも強度向上と鋳塊組織の微細化に有
効な元素であり、その含有量が0.005%未満では充
分な効果が得られず、一方0.2%を越えればTi添加
の効果が飽和するばかりでなく、巨大晶出物が生じるお
それがあるから、Ti量は0.005〜0.2%の範囲
内とした。さらにFeも強度向上と結晶粒微細化に有効
な元素であり、その含有量が0.03%未満では充分な
効果が得られず、一方0.5%を越えれば成形性が低下
するおそれがあり、したがってFe量は0.03〜0.
5%の範囲内とした。
効性向上と表面処理性の向上のために、上記各元素のほ
か、さらにZnを添加する。ここで、Znの添加量が
0.03%未満では上記の効果が充分に得られず、一方
2.5%を越えれば成形性が低下するから、請求項2、
請求項4の発明において添加するZn量は0.03〜
2.5%とした。
よび不可避的不純物とすれば良い。
ては、高温時効促進元素あるいは室温時効抑制元素であ
るAg、In、Cd、Be、あるいはSnを微量添加す
ることがあるが、この発明の場合も微量添加であればこ
れらの元素の添加も許容され、それぞれ0.3%以下で
あれば特に所期の目的を損なうことはない。
晶粒微細化のために前述のTiと同時にBを添加するこ
ともあり、この発明の場合もTiとともに500ppm
以下のBを添加することは許容される。
合金板においては、合金の成分組成を前述のように調整
するばかりではなく、金属組織、特に結晶粒径と、Al
‐Mg‐Si系を主体とする金属間化合物の分散状態、
とりわけ粒界上に存在する析出物を主体とする金属間化
合物の条件を適切に規制することが、良好な成形性、特
に優れたヘム曲げ性を得るために重要である。
下に規制する必要がある。平均結晶粒径が60μmを越
えれば、成形時に肌荒れが生じやすくなり、ヘム曲げ性
も悪くなってしまう。
であること、 II.粒界上に存在するすべての金属間化合物粒子の長さ
の合計L1と粒界長さの合計(総粒界長さ)L2との比
L1/L2が0.35以下であること、 III.粒界上あるいは粒内を問わず、各粒子の面積を円
に換算したときの直径(円換算径)が2μm以上の金属
間化合物粒子の数が、1平方ミリ当り1000個以下で
あること、 以上I〜IIIの3条件を満たすことが必要である。
て、その長さが5μmを越えるものが存在する場合、あ
るいは粒界上の金属間化合物粒子の長さの合計L1と総
粒界長さL2との比L1/L2が0.35を越える場
合、粒界の結合力が弱いため、ヘム曲げ加工時に粒界が
割れの起点となってしまう可能性が極めて高く、そのた
めヘム曲げ性を損なってしまう。また粒界上および粒内
を問わず、円換算径が2μm以上の金属間化合物粒子が
1000個/mm2を越える場合も、ヘム曲げ性が低下
する。すなわち、円換算径2μm以上の粗大な金属間化
合物粒子は、粒界ばかりでなく粒内に存在していても、
ヘム曲げ加工時に粒子周辺に歪みが集中しやすく、割れ
の起点となる可能性があり、特に円換算径2μm以上の
金属間化合物粒子が1000個/mm2を越えればその
傾向が強くなる。したがってこれらの理由から、前記I
〜IIIの条件を定めた。なおここで金属間化合物粒子と
は、析出物と晶出物の両者を含むことはもちろんであ
る。
金板の製造方法について説明する。
て溶製し、DC鋳造法等により鋳造する。得られた鋳塊
について、均質化処理を行なってから熱間圧延を行な
う。
とする金属間化合物粒子の分散状態を前述のように調整
して、優れたヘム曲げ性を得るためには、均質化処理に
おいてMg、Si等を充分に固溶させておく必要があ
り、そのために均質化処理は480℃以上の高温で行な
う必要がある。なお均質化処理の加熱時間は特に限定し
ないが、通常は1〜24時間程度とする。
のような金属間化合物分散状態として良好なヘム曲げ性
を得るためには、 A.熱間圧延開始温度を480℃以上とすること、 B.熱間圧延の過程における材料温度の低下を、特に4
80℃から350℃までの降温時間が20分以内となる
ように規制すること、 C.その480℃〜350℃の20分以内の降温過程に
おいて、再結晶率10%以上の再結晶を1回以上生起さ
せること、 以上A〜Cの条件を満たすように、圧延温度、圧延速
度、圧下率等を制御する必要がある。
化処理温度と同時に、金属間化合物の析出に寄与するM
g、Si系の元素を充分に固溶させるために480℃以
上の高温とする。また熱間圧延の過程における材料温度
の低下、特に480℃から350℃までの降温過程の条
件は、材料の結晶組織、結晶方位を変化させ、その後の
溶体化処理と組合せて材料の集合組織を制御し、ヘム曲
げ性を向上させるために重要である。そしてこの熱間圧
延中の480℃から350℃までの降温時間が20分を
越えた場合、熱間圧延中に粗大な析出物が多数生成され
てしまって最終板のヘム曲げ性の低下を招き、また生産
性の低下を招く。さらにその480℃から350℃まで
の20分以内の降温過程において再結晶率10%以上の
再結晶が1回も生じない場合には、表面品質の確保が困
難となるばかりでなく、材料の曲げ異方性が強くなって
最終板のヘム曲げ性の向上を図ることが困難となってし
まう。したがって熱間圧延の条件については前記A〜C
の3条件を満たす必要があり、これらの条件が一つでも
外れれば、最終板において良好なヘム曲げ性を確保する
ことが困難となる。
は、冷間圧延を行なって所要の板厚とする。この冷間圧
延の圧延率は特に限定されるものではないが、通常は2
0〜80%程度とすれば良い。
いは冷間圧延の中途においては、請求項5に規定してい
るように、中間焼鈍を行なっても良い。この中間焼鈍
は、新たに再結晶を生起させて、熱間圧延で残存した結
晶組織、結晶方位などを変化させて、後の溶体化処理と
組合せて、材料の集合組織を制御し、ヘム曲げ性等の成
形性向上に寄与する。またこの中間焼鈍は、溶体化処理
前にMgやSiの固溶量を確保しておくことにより、溶
体化処理時の負荷を低減させる効果もある。ここで、中
間焼鈍の温度が450℃未満では上述の効果が充分に得
られず、一方580℃を越えれば共晶融解や再結晶粒粗
大化のおそれがあるから、中間焼鈍温度は450〜58
0℃の範囲内とした。また中間焼鈍の加熱保持時間が5
分を越えれば上述の効果が飽和し、経済性を損なうか
ら、保持なしもしくは5分以内の保持とした。さらに中
間焼鈍における加熱後の冷却速度が10℃/min以下
では、冷却中に多量の析出物が生じて、Mg、Siの固
溶量の低下を招き、結果的に塗装焼付硬化性に悪影響を
及ぼすから、中間焼鈍における加熱後の冷却速度は10
℃/min以上とした。
した後には、480℃以上の温度で5分以内の溶体化処
理を行なう。この溶体化処理は、Mg2Si、単体Si
等をマトリックスに固溶させ、これにより焼付硬化性を
付与して塗装焼付後の強度向上を図るために重要な工程
である。またこの溶体化処理工程は、Mg2Si、単体
Si粒子等の固溶により、第二相粒子の分布密度を低下
させ、ひては延性と曲げ性の向上にも寄与し、さらに
は、再結晶により全般的に良好な成形性を得るための工
程でもある。
は、室温の経時変化の抑制には有利となると思われる
が、Mg2Si、Siなどの固溶量が少なく、そのため
充分な焼付硬化性が得られなくなるばかりでなく、延性
と曲げ性も著しく悪化する。一方溶体化処理温度の上限
は特に規定しないが、共晶融解の発生のおそれや再結晶
粒粗大化等を考慮して、通常は580℃以下とすること
が望ましい。また溶体化処理の保持時間が5分を越えれ
ば、溶体化効果が飽和し、経済性を損なうばかりではな
く、結晶粒の粗大化のおそれもあるから、溶体化処理の
保持時間は5分以内とする。
の冷却速度で、45〜100℃の温度域まで冷却(焼入
れ)する。ここで、溶体化処理後の冷却速度が100℃
/min未満では、冷却中にMg2Siあるいは単体S
iが粒界に多量に析出してしまい、成形性、特にヘム曲
げ性が低下すると同時に、焼付硬化性が低下して塗装焼
付時の充分な強度向上が望めなくなる。
化処理を行なって、100℃/min以上の冷却速度で
45〜100℃未満の温度域内まで冷却(焼入)した後
には、45℃より低い温度域まで温度降下しないうち
に、引続いて60〜120℃の温度範囲内に2時間以上
保持する安定化処理を行なう。ここで、溶体化処理後の
冷却を45〜100℃未満の温度域とし、さらに冷却す
ることなく引続いて溶体化処理を行なう理由は次の通り
である。すなわち、溶体化処理後に100℃/min以
上の冷却速度で45℃未満の温度域(室温)に冷却した
場合には、室温クラスターが生成される。この室温クラ
スターは強度に寄与するG.P.ゾーンに移行しにくい
ため、塗装焼付硬化性に不利となる。一方、溶体化処理
後に100℃以上の温度域まで冷却してそのまま保持し
た場合には、高温クラスターあるいはG.P.ゾーンが
生成され、塗装焼付硬化性については有利となるが、ヘ
ム曲げ性が劣化する。したがってヘム曲げ性と塗装焼付
硬化性とのバランスの観点から、上記の条件を満たす必
要がある。
に45〜100℃未満の温度域まで冷却してから、45
℃未満の温度域(室温)まで冷却することなく、60〜
120℃未満の範囲内の温度に加熱して行なう。この安
定化処理は、最終的にクラスターあるいはG.P.ゾー
ンの安定性を向上させ、板製造後の経時変化を抑制し
て、充分な焼付硬化性を確保するとともに、良好な成形
加工性を得るために必要な工程であり、この安定化処理
は、60〜120℃未満の範囲内の温度に2時間以上保
持の条件とする必要がある。安定化処理の温度が60℃
未満では上記の効果が充分に得られず、一方120℃を
越えれば高温時効によって粒界析出の傾向が強くなり、
成形性、特にヘム曲げ性が低下してしまう。また安定化
処理における60〜120℃未満の範囲内の温度に保た
れる時間が2時間未満では、その後の室温での経時変化
が速くなって成形性と焼付硬化性が悪くなる。なお安定
化処理の加熱保持時間の上限は特に限定しないが、通常
は経済性の観点から48時間以下とする。
件を厳密に規制し、さらに溶体化処理−冷却−安定化処
理の条件を厳密に規制することによって、既に述べたI
〜IIIで規定する金属間化合物分散条件を満たし、成形
性、特にヘム曲げ性が優れ、かつ塗装焼付硬化性が良好
でしかも室温時効による経時変化が生じにくい時効性A
l−Mg−Si系アルミニウム合金板を得ることができ
る。
号A1〜A2の合金、およびこの発明の成分組成範囲外
の合金記号B1の合金について、それぞれ常法に従って
DC鋳造法により鋳造し、得られた鋳塊に均質化処理を
施した後、熱間圧延を施した。この熱間圧延は、粗圧延
の最終パスを、板厚44mmから1パスで22mmとな
るように圧下率50%で行ない、かつその粗圧延の上り
温度を350℃以上とし、仕上げ圧延を、上がり板厚4
mmとなるように行なった。さらに冷間圧延を、中間焼
鈍を挟んであるいは挟まずに行ない、最終的に厚さ1m
mの圧延板とした。この圧延板に対し、溶体化処理を行
なってから、100℃/min以上の冷却速度で所定の
温度域まで冷却(焼入れ)して、引続き種々の安定化処
理を行なった。具体的なプロセス条件を表2、表3に示
す。
3ヶ月間放置し、各板について、それぞれ2%ストレッ
チ後、170℃×20分の塗装焼付処理を施した。塗装
焼付前の各板の金属組織状態を調べるとともに、同じく
塗装焼付前の各板の機械的特性および成形性と、塗装焼
付後の機械的特性を調べた。その結果を表4、表5に示
す。
球頭張出試験、絞り試験を行なったが、これらの試験条
件、評価方法は次の通りである。
て、突き曲げを行い、突き曲げ後、厚さ0.5mmの中
板を挟んで180°に曲げた。またこのヘム曲げ試験で
は、曲げ異方性を調べるため、圧延方向に対し、0°、
45°、90°の各方向で曲げ試験を行なった。そして
全方向で割れの発生のないものを合格(○印)、1方向
でも割れの発生のあるものを不合格(×印)とした。
け、さらに潤滑油を塗布した後、100mmφの球頭ポ
ンチを使って張出試験を実施し、球頭張出高さを調べ
た。
ポンチ径を使って絞り試験を行ない、限界絞り比LDR
を調べた。
成がこの発明で規定する範囲内でかつ製造条件もこの発
明で規定する条件を満たしたものであるが、これらの場
合は、塗装焼付前の伸びおよび球頭張出高さが充分に高
く、かつ絞り成形性を表すLDRも充分に高くて、ヘム
曲げ性が優れ、しかも焼付硬化性が高くて塗装焼付時に
充分な焼付硬化性を示した。
組成はこの発明範囲内であるが、製造条件がこの発明で
規定する条件を満たさなかったものであり、一方製造番
号5は、成分組成がこの発明で規定する範囲を外れた合
金を用いかつ製造条件もこの発明で規定する条件を満た
さなかったものである。これらの場合には成形性、特に
ヘム曲げ性が劣り、また塗装焼付後の強度も充分に得ら
れなかった。
げ性が優れており、しかも塗装焼付硬化性が良好で塗装
焼付後の強度が高く、さらに室温での経時変化も少ない
成形加工用アルミニウム合金板を得ることができ、した
がって自動車用ボディシートなど、成形加工特にヘム曲
げ加工と塗装焼付を施して使用されるアルミニウム合金
板に最適である。
Claims (5)
- 【請求項1】 Mg0.3〜0.9%(mass%、以
下同じ)、Si0.4〜1.2%を含有し、かつMn
0.03〜0.4%、Cr0.03〜0.4%、Zr
0.03〜0.4%、V0.03〜0.4%、Fe0.
03〜0.5%、Ti0.005〜0.2%のうちから
選ばれた1種または2種以上を含有し、さらにCuが
0.1%未満に規制され、残部がAlおよび不可避的不
純物よりなり、しかも平均結晶粒サイズが60μm以
下、粒界上に存在する金属間化合物粒子の最大長さが5
μm以下、粒界上に存在する全金属間化合物粒子の合計
長さL1と総粒界長さL2との比L1/L2が0.35
以下、円換算径2μm以上の金属間化合物粒子の分散密
度が1000個/mm2以下であることを特徴とする、
ヘム曲げ性および焼付硬化性に優れかつ室温経時変化の
少ない成形加工用アルミニウム合金板。 - 【請求項2】 請求項1に記載の成形加工用アルミニウ
ム合金板において、前記成分元素のほか、さらにZn
0.03〜2.5%を含有することを特徴とする、ヘム
曲げ性および焼付硬化性に優れかつ室温経時変化の少な
い成形加工用アルミニウム合金板。 - 【請求項3】 Mg0.3〜0.9%、Si0.4〜
1.2%を含有し、かつMn0.03〜0.4%、Cr
0.03〜0.4%、Zr0.03〜0.4%、V0.
03〜0.4%、Fe0.03〜0.5%、Ti0.0
05〜0.2%のうちから選ばれた1種または2種以上
を含有し、さらにCuが0.1%未満に規制され、残部
がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金
鋳塊に、480℃以上の温度で均質化処理を施した後、
熱間圧延を480℃以上の温度で開始して、その熱間圧
延中における480℃から350℃までの降温時間を2
0分以内とするとともに、その降温過程において10%
以上の再結晶率で1回以上再結晶させ、その後冷間圧延
を施した後、480℃以上の温度で保持なしもしくは5
分以内の保持の溶体化処理を行ない、溶体化処理後、1
00℃/min以上の冷却速度で45℃以上100℃未
満の温度域まで冷却し、続いて45℃未満の温度に冷却
することなく、60〜120℃の温度域に2時間以上保
持する安定化処理を行なって、平均結晶粒サイズが60
μm以下、粒界上に存在する金属間化合物粒子の最大長
さが5μm以下、粒界上に存在する全金属間化合物粒子
の合計長さL1と総粒界長さL2との比L1/L2が
0.35以下、円換算径2μm以上の金属間化合物粒子
の分散密度が1000個/mm2以下であるアルミニウ
ム合金板を得ることを特徴とする、ヘム曲げ性および焼
付硬化性に優れかつ室温経時変化の少ない成形加工用ア
ルミニウム合金板の製造方法。 - 【請求項4】 請求項3に記載の成形加工用アルミニウ
ム合金板の製造方法において、 前記アルミニウム合金鋳塊として、前記各成分元素のほ
か、さらにZn0.03〜2.5%を含有するものを用
いる、ヘム曲げ性および焼付硬化性に優れかつ室温経時
変化の少ない成形加工用アルミニウム合金板の製造方
法。 - 【請求項5】 請求項3もしくは請求項4に記載の成形
加工用アルミニウム合金板の製造方法において、 前記熱間圧延直後もしくは冷間圧延の中途において、4
50〜580℃の範囲内の温度に加熱して保持なしもし
くは5分以内の保持を行ない、10℃/min以上の冷
却速度で冷却する中間焼鈍を施すことを特徴とする、ヘ
ム曲げ性および焼付硬化性に優れかつ室温経時変化の少
ない成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
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