JP4771791B2 - 成形加工用アルミニウム合金板の製造方法 - Google Patents
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また高強度を有することも必須であって、通常は塗装焼付を施して使用されるため、塗装焼付後に高強度が得られる特性(焼付硬化性、すなわちBH性)が要求される。そしてまた成形性(プレス成形性、形状凍結性、ヘム加工性など)が良好であることが要求されるのはもちろんであるが、これらの要求をバランスよく満足させるためには、素材を製造してから成形するまでの材料の室温(常温)経時変化(「室温時効」「常温時効」「自然時効」とも呼ぶ)を抑制することがとても重要である。
(1)60℃未満の温度域で5sec(秒)以上30min以下滞留させるクラスターI(室温クラスターあるいは室温クラスター構造に近い構造を有してなるクラスター)生成処理
(2)60℃以上130℃以下の温度域で1min以上の所定時間滞留させるクラスターII(高温クラスターであってクラスターIの生成温度域よりも高い温度域で生成されるクラスター)生成処理
この発明の成形加工用アルミニウム合金板によれば、(1)クラスターI生成処理と(2)クラスターII生成処理とを交互に施すこと、および、(2)クラスターII生成処理を2回以上行って複合クラスター構造を作り上げることによってその用途に応じた特性が実現される様に調整するので、例えば480℃以上の温度で溶体化処理を行ってから130℃以下の温度域に100℃/min以上の冷却速度で冷却し、引き続き60℃以上130℃以下の温度域で1min以上30min以下滞留させてクラスターII生成処理を行い、さらに一旦60℃未満の温度域で5sec以上30min以下滞留させてクラスターI生成処理を施し、再び60℃以上130℃以下の温度域で1h以上安定化処理を行うクラスターII生成処理を施すこととすれば、まず一定量のクラスターIIを先に生成させてから、焼付け硬化性、耐室温経時変化性、成形性(延性)のバランスを最適にするために一定割合のクラスターIを組織に混ぜることが可能となり、さらに再び60℃以上130℃以下の温度域で安定化処理を行うことによって『クラスターII→クラスターI→クラスターII』のような複合クラスター構造を作り上げることができ、これによって焼付け硬化性、耐室温経時変化性、成形性(延性)のバランスの最適化が実現される。
以下にこのように規定する素材合金の成分組成の限定理由について説明する。
Mgはこの発明で対象としている系の合金で基本となる合金元素であって、Siと共同して強度向上に寄与する。Mg量が0.2%未満では塗装焼付時に析出硬化によって強度向上に寄与するG.P.ゾーンの生成量が少なくなるため、充分な強度向上が得られず、一方1.5%を越えれば、粗大なMg−Si系の金属間化合物が生成され、成形性、特に曲げ加工性が低下するから、Mg量は0.2〜1.5%の範囲内とした。最終板の成形性、特に曲げ加工性をより良好にするためには、Mg量は0.3〜0.9%の範囲内が好ましい。
Siもこの発明の系の合金で基本となる合金元素であって、Mgと共同して強度向上に寄与する。またSiは、鋳造時に金属Siの晶出物として生成され、その金属Si粒子の周囲が加工によって変形されて、溶体化処理の際に再結晶核の生成サイトとなるため、再結晶組織の微細化にも寄与する。Si量が0.3%未満では上記の効果が充分に得られず、一方2.0%を越えれば粗大なSi粒子や粗大なMg−Si系の金属間化合物が生じて、成形性、特に曲げ加工性の低下を招く。したがってSi量は0.3〜2.0%の範囲内とした。プレス成形性と曲げ加工性とのより良好なバランスを得るためには、Si量は0.5〜1.3%の範囲内が好ましい。
これらの元素は、強度向上や結晶粒微細化、あるいは時効性(焼付硬化性)の向上や表面処理性の向上に有効であり、いずれか1種または2種以上を添加する。これらのうちMn、Cr、Zrは強度向上と結晶粒の微細化および組織の安定化に効果がある元素であるが、Mnの含有量が0.03%未満、もしくはCrの含有量が0.01%未満、またはZrの含有量が0.01%未満では、上記の効果が充分に得られず、一方Mnの含有量が0.6%を越えるか、あるいはCr、Zrの含有量がそれぞれ0.4%を越えれば、上記の効果が飽和するばかりでなく、多数の金属間化合物が生成されて成形性、特にヘム曲げ性に悪影響を及ぼすおそれがあり、したがってMnは0.03〜0.6%の範囲内、Cr、Zrはそれぞれ0.01〜0.4%の範囲内とした。
先ずこの発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法では前述のような成分組成の合金を常法に従って溶製し、DC鋳造法等の通常の鋳造法によって鋳造する。
1.均質化処理工程⇒熱間圧延工程⇒冷間圧延工程⇒中間焼鈍工程⇒冷間圧延工程
2.均質化処理工程⇒熱間圧延工程⇒焼鈍工程⇒冷間圧延工程
3.均質化処理工程⇒熱間圧延工程⇒冷間圧延工程
4.熱間圧延工程⇒冷間圧延工程⇒中間焼鈍工程⇒冷間圧延工程
5.熱間圧延工程⇒焼鈍工程⇒冷間圧延工程
6.熱間圧延工程⇒冷間圧延工程
7.均質化処理工程⇒熱間圧延工程
8.熱間圧延工程
すなわちこの発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法は、得られる成形加工用アルミニウム合金板の用途に応じた特性の調整を可能にする柔軟性が骨子であり、したがって、鋳塊を所要の板厚とする工程については、その条件が特に限定されるものではない。
一般的には、均質化処理温度480℃以上、保持時間1h以上48h以下、熱間圧延の開始温度300℃以上590℃以下、中間焼鈍温度300℃以上保持0h〜24hなどの工程が実施される。
(1)クラスターI
室温で生成されるクラスターあるいは室温で生成されるクラスターに類似するものをクラスターI(別名:G.P.ゾーンIと呼ぶこともある)と称する。その特徴として示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)測定により、昇温速度10℃/min〜50℃/minのレンジにおいて150℃〜300℃の温度範囲でクラスターの溶解に相当する吸熱ピークが明確に認められる。この室温クラスターは強度に寄与するG.P.ゾーンに移行しにくいため、塗装焼付硬化性には不利となるがクラスターIIとの複合形態で耐室温時効性と成形性(延性)には有利となる。
クラスターII(別名:G.P.ゾーンIIと呼ぶこともある)はクラスターIと比較して、より高温域で生成し、構造的に安定性が増し、強度に寄与するG.P.ゾーンに移行しやすいため、塗装焼付硬化性に有利である。
その特徴として示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)測定により、昇温速度10℃/min〜50℃/minのレンジにおいて150℃〜300℃の温度範囲でクラスターの溶解に相当する吸熱ピークが明確には認められない。
すなわち、クラスターI生成処理によって得られるクラスターIは強度に寄与するG.P.ゾーンに移行しにくいため、塗装焼付硬化性には不利となる反面、クラスターIIとの複合形態で耐室温時効性と成形性(延性)には有利であるという特性を備える。
そこで溶体化処理後にクラスターI生成処理とクラスターII生成処理とを交互に施すことによって、その条件を用途に応じて設定して、クラスターIとクラスターIIとの複合構造を得るようにすることによって焼付け硬化性と成形性(延性)のバランスを用途に応じて最適化した成形加工用アルミニウム合金板を製造することができる。
(a)溶体化処理→クラスターI生成処理→クラスターII生成処理→クラスターI生成処理→クラスターII生成処理
(b)溶体化処理→クラスターII生成処理→クラスターI生成処理→クラスターII生成処理
以上の(a)プロセスまたは(b)プロセスが必ず履行されることになる。
なお、以上の様にクラスターII生成処理を2回以上行うとしても、係るクラスターII生成処理の履行回数の上限は、この発明の成形加工用アルミニウム合金板を素材として用いる商品、例えば自動車の製造原価、売価、求められる性能・品質等に応じて決定される。
一般的にはクラスターII生成処理を3回以上行うという実施態様は特性の点からは好ましい場合もあるが、製造原価の増大を伴うので工業的には採用しにくい。
しかし、このクラスターII生成処理によって得られたクラスターIIのみの組織では、焼付け硬化性の向上に有利ではあるが、成形性(延性)の向上、製造後の室温経時変化の抑制に不利である。そこで、まず一定量のクラスターIIを先に生成させてから、焼付け硬化性と成形性(延性)のバランスを最適にするために一定割合のクラスターIを組織に混ぜることが必要となる。
このクラスターI生成処理としての時効処理が5sec未満では、クラスターIの生成量が不足であり、30minを越えると、クラスターIが多量に生成され、焼付け硬化性の大きな低下を招くおそれがある。焼付け硬化性の低下を最小限に抑えるには、5min以内の保持時間が望ましい。
このクラスターII生成処理としての安定化処理を行う理由はクラスターIIの生成量を増やし、『クラスターII→クラスターI→クラスターII』のような複合クラスター構造を作り上げることによってはじめて焼付け硬化性と成形性(延性)のバランスの最適化が実現されることにある。しかも、このような複合クラスターの存在によって、より有効に空孔をトラップすることができ、製造後の室温放置によって生成するクラスターIの量が減り、室温経時変化が抑制できる。
すなわち、第一次のクラスターII生成処理後にクラスターI生成処理を行うことによって得られるアルミニウム合金板は、その限りにおいてのクラスターIIとクラスターIとの複合構造になっているが、このような短時間熱処理だけでは、その後の室温放置した場合の経時変化の抑制に不十分である。従ってクラスターI生成処理後に仕上げのクラスターII生成処理としての比較的長い時間の安定化処理では、クラスターIおよびクラスターIIの生成量を適切に制御することによって特性のバランスを調整しクラスターIIとクラスターIとの複合構造を完成させて、その後室温に放置した場合の経時変化の余地を極力少なくするという意味で、60℃以上130℃以下の温度域で1h以上の保持が行われる。
表2に示す製造条件においては製造番号1、製造番号2、製造番号3、製造番号4、製造番号5に関してクラスターII生成処理として、60℃〜130℃の温度域で1min以上30min以下滞留させる時効処理1が行われる。
またクラスターI生成処理として、製造番号1〜製造番号5に関して5〜60℃の温度域で5sec以上30min以下(10sec以上10min以下)滞留させる時効処理2が行われる。
さらに表2に示す製造条件においては製造番号1〜製造番号5に関してクラスターII生成処理として、クラスターI生成処理後に60℃以上130℃以下の温度域で1h以上滞留させる安定化処理が行われる。
最終板の結晶粒度:
板の圧延方向と平行な断面においてEBSP(EBSD)法によってマッピングした画像をもとにASTMナンバーを判定した。ミスオリエンテーション5°以上の境界線を結晶粒界と見なした。
ヘム加工性の評価:
材料の圧延方向に対して板面内0°、45°、90°三方向に曲げ試験片を採取し、5%ストレッチしてから、180°に密着曲げを行ない、目視により割れの発生の有無を観察した。ここで○印は割れ無しを、また×印は割れ有りを示す。
200mm×200mmの大きさの1mm板の両面にマスキングフィルムを貼り、さらに潤滑を高めるため、ワックスを塗った状態で張出し試験に供し、最大張出し高さを調べた。なおポンチとしては球頭ポンチ径100mmのものを使用した。
以上の各種評価の結果を表3に示す。
さらに時効処理1後の時効処理2も滞留時間が10secとされて5℃〜60℃の温度域で5sec以上30min以下滞留させるという条件でのクラスターI生成処理が履行された。したがって、クラスターII生成処理とクラスターI生成処理相互のバランスも良く、その後さらにクラスターII生成処理として、100℃で1h滞留させる安定化処理が行われた。
したがって製造番号1はこの発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法の実施に該当する。
その結果、焼き付け硬化性(BH)が199MPaと大ききく、またヘム加工性の目視結果も良好であった。さらに張り出し高さが39.1mmであり十分な成形性を示した。したがって、この製造番号1は焼き付け硬化性(BH)やヘム加工性および成形性が重視される自動車ボディシート用に好適に利用できる。
したがって製造番号2はこの発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法の実施に該当する。
その結果、焼き付け硬化性(BH)が218MPaと大きく、またヘム加工性の目視結果も良好であった。さらに張り出し高さが38.3mmであり十分な成形性を示した。また室温(25℃)に20日放置した後、引張試験を行なって0.2%耐力値を測定した(YS1)と、室温(25℃)に270日放置した後0.2%耐力値を測定した(YS2)として得られた数値によって経持変化評価の指標とした(YS2−YS1)値が14MPaと極めて小さく経時変化性が良好であった。したがって、この製造番号2は焼き付け硬化性(BH)やヘム加工性および成形性が重視され、いわゆる「賞味期限」が長いという特性を示す経時変化性が重視される自動車ボディシート用に好適に利用できる。
なお以上の製造番号1、製造番号2では最初のクラスターII生成処理における滞留時間がその後のクラスターI生成処理における滞留時間よりも過長にされた。
係る 製造番号3はこの発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法の実施に該当する。
その結果、焼き付け硬化性(BH)が222MPaと大きく、またヘム加工性の目視結果も良好であった。さらに張り出し高さが38.6mmであり十分な成形性を示した。また(YS2−YS1)値が14MPaと小さく経時変化性も良好であった。
したがって、この製造番号3は焼き付け硬化性(BH)やヘム加工性および成形性、経時変化性が総合的に重視される自動車ボディシート用に好適に利用できる。
なお以上の製造番号3では最初のクラスターII生成処理における滞留時間よりもその後のクラスターI生成処理における滞留時間が過長にされた。
この製造番号4はこの発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法の実施に該当する。
その結果、焼き付け硬化性(BH)が209MPaと大きく、またヘム加工性の目視結果も良好であった。さらに張り出し高さが40.1mmであり極めて高い成形性を示した。また(YS2−YS1)値も17MPaと小さく経時変化性も良好であった。
したがって、この製造番号4は焼き付け硬化性(BH)やヘム加工性および成形性、経時変化性が総合的に重視される自動車ボディシート用に好適に利用できる。
なお以上の製造番号4では最初のクラスターII生成処理における滞留時間よりもその後のクラスターI生成処理における滞留時間が過長にされてはいるがほぼ滞留時間は同程度とされた。
係る製造番号5はこの発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法の実施に該当する。
その結果、焼き付け硬化性(BH)が226MPaと大きく、またヘム加工性の目視結果も良好であった。さらに張り出し高さが37.2mmであり成形性に不足はなく、また(YS2−YS1)値も18MPaと小さく経時変化性も良好であった。
なお以上の製造番号5では最初のクラスターII生成処理における滞留時間は5minであり、その後のクラスターI生成処理における滞留時間は10minと、それぞれが以上の製造番号1〜製造番号4よりも過長にされた。その様にCu入り合金成分でクラスターII生成処理における滞留時間が長くされた結果、高い焼き付け硬化性(BH)が得られ、YS2も152MPaと大きくなった。その結果、張り出し高さが製造番号1〜製造番号4に比べ若干低いものの不具合なほどの成形性の悪化は認められない。
したがって、事前に十分なクラスターII生成処理が履行されていないことからも、バランスを失ってクラスターIが多量に生成され、その後クラスターII生成処理として、100℃で4h滞留させる安定化処理が行われて焼き付け硬化性(BH)が163MPaと大きな低下を生じている。またヘム加工性が不良であった。したがって、焼き付け硬化性(BH)やヘム加工性が重視される自動車ボディシート用には必ずしも適切であるとは言えない。
Claims (4)
- Al−Mg−Si系もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金からなるアルミニウム合金鋳塊から圧延工程と昇温と冷却を含む熱処理工程を経て所要の板厚の圧延板とし、その圧延板に対し、480℃以上の温度で溶体化処理後、クラスターI生成処理(下記(1))とクラスターII生成処理(下記(2))とを交互に施すにあたりクラスターII生成処理を2回以上行うことを特徴とする成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
(1)60℃未満の温度域で5sec(秒)以上30min以下滞留させるクラスターI(室温クラスターあるいは室温クラスター構造に近い構造を有してなるクラスター)生成処理
(2)60℃以上130℃以下の温度域で1min以上の所定時間滞留させるクラスターII(高温クラスターであってクラスターIの生成温度域よりも高い温度域で生成されるクラスター)生成処理 - 前記第一のクラスターII生成処理が130℃以下の温度域に100℃/min(分)以上の冷却速度で冷却して行われ、前記所定時間を30min以下とする請求項1記載の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
- クラスターI生成処理後に前記所定時間を1h(時間)以上とするクラスターII生成処理を行う請求項1又は請求項2に記載の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
- Mg0.2〜1.5%(mass%、以下同じ)、Si0.3〜2.0%を含有し、かつMn0.03〜0.6%、Cr0.01〜0.4%、Zr0.01〜0.4%、Fe0.03〜0.5%、Ti0.005〜0.2%、Zn0.03〜2.5%、Cu0.05〜1.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金が素材とされ、鋳塊から圧延工程と昇温と冷却を含む熱処理工程を経て所要の板厚の圧延板とし、その圧延板に対し、480℃以上の温度で溶体化処理を行ってから130℃以下の温度域に100℃/min以上の冷却速度で冷却し、引き続き60℃以上130℃以下の温度域で1min以上30min以下滞留させてから、一旦60℃未満の温度域で5sec以上30min以下滞留させ、再び60℃以上130℃以下の温度域で1h以上安定化処理を行うことを特徴とする成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
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