JP6512963B2 - 室温時効を抑制し、かつ、焼付硬化性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents
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Description
本発明に係るアルミニウム合金板は、基本的にはAl−Mg−Si系合金からなるものであればよく、その具体的な成分組成は特に制約されるものではない。しかしながら、具体的には、Mg:0.20〜1.50mass%(以下、単に「%」と記す)、Si:0.30〜2.00%を含有し、Mn:0.03〜0.60%、Cr:0.01〜0.40、Zr:0.01〜0.40%、V:0.01〜0.40%、Fe:0.10〜1.00%、Ti:0.005〜0.300%及びZn:0.03〜2.50%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、Cuが0.05mass%以下に規制され、残部Al及び不可避的不純物からなる成分組成とすることが好ましい。
Mgは本発明で対象としている合金系において基本となる必須合金元素であって、Siと共に強度向上に寄与する。Mg含有量は、0.20〜1.50%とするのが好ましい。Mg含有量が0.20%未満の場合は、塗装焼付時に析出硬化によって強度向上に寄与するG.P.ゾーンの生成量が少なくなるため十分な強度向上が得られない。一方、Mg含有量が1.50%を超える場合は、粗大なAl−Mg−Si系金属間化合物が生成され、プレス成形性、主に曲げ加工性が低下する。特に、最終板のプレス成形性として主に曲げ加工性をより良好にするために、Mg含有量は0.30〜0.90%とすることがより好ましい。
Siも本発明の合金系において基本となる必須合金元素であって、Mgと共に強度向上に寄与する。また、Siは鋳造時に金属Siの晶出物として生成され、この金属Si粒子の周囲が冷間圧延時に付与される加工によって変形されて、溶体化処理の際に再結晶核の生成サイトとなり再結晶組織の微細化にも寄与する。Si含有量は、0.30〜2.00%とすることが好ましい。Si含有量が0.30%未満の場合は、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が2.00%を超える場合は、粗大なSi粒子や粗大なAl−Mg−Si系金属間化合物が生成して、プレス成形性と曲げ加工性の低下を招く。特に、プレス成形性と曲げ加工性とのより良好なバランスを得るためには、Si含有量を0.50〜1.30%とするのがより好ましい。また、Mg/Si(質量比)が高過ぎる場合には時効硬化性が低下し、Mg/Siが低過ぎる場合には成形性が低下するため、Mg/Siは0.3〜0.6の範囲内であるのが好ましく、0.30〜0.50の範囲内であるのがより好ましい。
これらの元素は、強度向上や結晶粒微細化、或いは、時効性(焼付硬化性)の向上に有効であり、これらのいずれか1種又は2種以上を選択的に添加する。Mn、Cr、Zr及びVは、強度向上、ならびに、結晶粒の微細化と組織の安定化とに効果を発揮する元素である。Mn含有量が0.03%未満、Cr、Zr、Vの含有量がそれぞれ0.01%未満の場合は、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が0.60%を超え、Cr、Zr、V量がそれぞれ0.40%を超える場合は、上記効果が飽和するばかりでなく、多数の金属間化合物が生成することで成形性、特にヘム曲げ性に悪影響を及ぼす虞がある。従って、Mn含有量は0.03〜0.60%の範囲内とするのが好ましく、0.03〜0.10%の範囲内とするのがより好ましい。また、Cr、Zr、Vの含有量はそれぞれ0.01〜0.40%の範囲内とすることが好まく、0.01〜0.10の範囲内とすることがより好ましい。
Al−Mg−Si系合金においては、高温時効促進元素又は室温時効抑制元素であるAg、In、Cd、Be、Snを微量添加することがある。本発明においても微量添加であればこれらの元素の添加も許容され、それぞれが0.01〜0.30%、全体で0.01〜0.50%の範囲内であれば特に所期の目的を損なうことはない。また、鋳塊組織の微細化にはScの添加も効果があるとされており、本発明においても0.01〜0.20%の範囲内の微量のScを添加してもよい。
例えば、地金や中間合金に含まれているそれぞれが数ppm〜数百ppm程度の範囲内のGa、V、Ni等の不可避的不純物は、本発明の効果を妨げるものではないため、このような不可避的不純物の含有も許容される。
本発明に係るアルミニウム合金板において、特に室温時効硬化を抑制し長時間にわたって焼付硬化性を確実かつ安定して向上させるためには、合金の成分組成を前述のように調整するだけでなく、最終板であるアルミニウム合金板のDSC分析曲線において、ピーク位置及びピーク高さを適切に制御することが極めて重要である。
溶体化処理及び焼き入れ処理を含む調質処理後のAl−Mg−Si系アルミニウム合金材のDSC分析曲線の例を、図1に示す。このDSC分析曲線において、150〜230℃の温度範囲における吸熱ピークの高さをaとし、230〜270℃の温度範囲における発熱ピークの高さをbとする。ここで、発明例2と比較例16では、150〜230℃の温度範囲において吸熱ピークが一つ現れており、230〜270℃の温度範囲における発熱ピークが2本以上に分離して現れており、最も低温側の発熱ピーク高さがb1、最も高温側の発熱ピーク高さがb2である。一方、比較例19では、150〜230℃の温度範囲において吸熱ピークが二つ現れており、230〜270℃の温度範囲における発熱ピークは分離せずに1本だけ現れている。また、吸熱ピーク高さaと発熱ピーク高さb(b1、b2)は、図1に示すDSC分析曲線の基準線から各々のピークの最高位置までの距離(μW/g)である。なお、この基準線は、図1に示すように、DSC分析曲線の100℃以下の温度範囲において共通するほぼ水平な直線部分を、100℃を超える範囲に延長した水平な直線とする。
1.0mW/g≦a≦5.0mW/g ・・・[1]
b1/b2≦0.80・・・[2]
次に、前述のような合金組成とDSC分析曲線を有することで室温時効硬化を抑制し、かつ、焼付硬化性に優れた本発明に係るアルミニウム合金板を製造するための方法について説明する。
前述の成分組成のアルミニウム合金を常法に従って溶製し、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の鋳造法を適宜選択して鋳造する。得られた鋳塊に対し、必要に応じて均質化処理を施した後、熱間圧延を行う。ここで、均質化処理を行う場合の処理条件は特に限定されるものではないが、好ましくは480〜590℃の温度で0.5〜24時間、より好ましくは500〜580℃の温度で1〜20時間の加熱を行なう。均質化処理温度が480℃未満である場合や処理時間が0.5時間未満の場合には、均質化の効果が十分に得られない場合がある。一方、均質化処理温度が590℃を超える場合には、材料が溶解する虞がある。また、処理時間が24時間を超える場合には、生産性が低下する。
熱間圧延終了後の圧延材に対して冷間圧延を行い、必要な板厚の冷間圧延板を得る。また、必要に応じて、冷間圧延の途中の中間焼鈍、又は、冷間圧延の後の最終焼鈍、又は、これらの両方を行う。冷間圧延の圧延率は特に限定するものではないが、好ましくは5〜85%、より好ましくは20〜80%である。この圧延率が5%未満では薄い板厚が得にくくなり、85%を超えると割れが生じる場合がある。また、中間焼鈍と最終焼鈍の条件は、好ましくは材料到達温度が430〜580℃で焼鈍時間が5分以下、より好ましくは材料到達温度が450〜550℃で焼鈍時間が3分以内である。ここで、焼鈍時間には0分も含まれるが、この場合は、材料到達温度に到達した後に直ちに、材料を焼鈍のための熱処理設備から取り出すなど冷却することを意味する。焼鈍温度が430℃未満では良好な焼鈍が不十分となり、580℃を超えると材料が溶解する虞がある。また、焼鈍時間が5分を超えると、生産性が悪化する。
以上のようにして所定の板厚とした圧延板に対して、溶体化処理と焼入れ処理を施した後に、数段に分けて予備時効を行う。溶体化処理条件は、好ましくは材料到達温度480〜590℃で材料到達温度到達後の保持時間が5分以内、より好ましくは材料到達温度500〜580℃で材料到達温度到達後の保持時間が3分以内である。ここで、保持時間には0分も含まれるが、この場合は、材料到達温度に到達した後に直ちに、材料を加熱炉から取り出すなど冷却することを意味する。溶体化処理が480℃未満では固溶不足による焼付硬化性不足となり、590℃を超えると材料が溶解する虞がある。また、溶体化処理時間が5分を超えると、生産性が悪化する。
溶体化処理後には、本発明の製造方法の特徴である以下に示す複数段の予備時効を行う。まず、30℃以上60℃未満の温度で1〜3分間の1段目の予備時効を行う。この1段目の予備時効において、クラスタ(1)を形成させる。この予備時効温度が30℃未満の場合や予備時効時間が1分未満の場合には、所望量のクラスタ(1)が形成されない。この予備時効温度が60℃以上の場合にはクラスタ(2)が形成されてしまい、予備時効時間が3分を超える場合には過剰なクラスタ(1)が形成されてしまう。
アルミニウム合金板試料における上記調質処理後のDSC分析曲線を測定し、150〜230℃の温度範囲における吸熱ピーク高さa、230〜270℃の温度範囲における発熱ピーク高さbを求めた。ここで、発熱ピークbが2つ以上に分かれている場合は、低温側の発熱ピーク高さb1と高温側の発熱ピーク高さb2を求め、発熱ピーク高さb1とb2の比b1/b2を算出した。このa、ならびに、b1、b2、b1/b2の値を表3に示す。なお、表3において、比較例18では、上記温度範囲内に吸熱ピークが現れず、比較例19、20、22、23では、上記温度範囲内に発熱ピークが一つのみ現れた。また、発明例1〜4、7、9、11、12では上記温度範囲内に発熱ピークが三つ現れた。発明例5、6、8、10、13〜15、ならびに比較例16〜18、21、24では、上記温度範囲内に発熱ピークが二つ現れた。
アルミニウム合金板試料の上記調質処理直後から7日間以内の耐力を、初期耐力(MPa)として測定した。ここで、初期耐力とは、試料の圧延方向に垂直で、かつ、厚さ方向に垂直なC方向に沿った引張試験に基づくものである。引張試験方法はJISZ2201に従って行うとともに、試験片形状はJIS5号試験片に基づいて作製した。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
本発明のアルミニウム合金板の初期耐力は、好ましくは100〜140MPa、より好ましくは120〜135MPaである。100MPa未満では初期耐力が不足し、140
MPaを超えたのでは、初期以降における加工性に劣る。
また、人工時効処理能を調査するため、これらアルミニウム合金板試料がパネルとしてプレス成形されることを模擬して、前記JIS5号試験片に、2%の歪みを予め付与した後に、170℃×20分の人工時効硬化処理を施し、人工時効硬化処理後の各供試板のC方向に沿った耐力を測定してBH後耐力(MPa)とした。また、このBH後耐力においても、上記初期耐力と同じ引張試験方法と試験片形状を用いた。なお、発明例9〜14では、上記歪みを付与することなく170℃×30分の人工時効硬化処理を施した。ここで、このBH後耐力も初期耐力と同様に上記初期の期間内に測定される。
本発明のアルミニウム合金板の初期のBH後耐力は、好ましくは165MPa以上、より好ましくは190MPa以上である。165MPa未満では焼付硬化性の効果が不足する。
この耐力上昇量は、好ましくは15MPa以下、より好ましくは13MPa以下である。この耐力上昇量が15MPaを超えると、室温時効硬化の抑制効果が不足する。なお、この耐力上昇量は、少ないほど好ましい。
190MPa以上である。165MPa未満では焼付硬化性の効果が不足する。
そして、180日BH後耐力と180日耐力との差(180日BH後耐力−180日耐力)で定義される180日間経過後のΔBHYS(以下、「180日ΔBHYS」と記す)を求め、この180日ΔBHYSによって経時的な焼付硬化特性を評価した。
この180日ΔBHYSは、好ましくは40MPa以上、より好ましくは50MPa以上である。40MPa未満では焼付硬化性が不足する。
Claims (2)
- Al−Mg−Si系アルミニウム合金からなり、当該Al−Mg−Si系アルミニウム合金が、Mg:0.20〜1.50mass%、Si:0.30〜2.00mass%を含有し、Mn:0.03〜0.60mass%、Cr:0.01〜0.40mass%、Zr:0.01〜0.40mass%、V:0.01〜0.40mass%、Fe:0.10〜1.00mass%、Ti:0.005〜0.300mass%及びZn:0.03〜2.50mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、Cuが0.05mass%以下に規制され、残部Al及び不可避的不純物からなり、昇温速度20℃/分の示差走査熱量分析曲線において、150〜230℃の温度範囲に1.0〜5.0mW/gの高さaの吸熱ピークと、230〜270℃の温度範囲に2つ以上の発熱ピークとを有し、当該発熱ピークの低温側のピーク高さb1と高温側のピーク高さb2の比b1/b2が0.44〜0.80であり、b 1 が6.7mW/g以上であることを特徴とするアルミニウム合金板。
- 180日間の室温時効期間の経過後において、耐力上昇量が15MPa以下であり、かつ、BH処理前後の耐力差で表されるΔBHYSの低下量が20MPa以下である、請求項1に記載のアルミニウム合金板。
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