JP6512963B2 - 室温時効を抑制し、かつ、焼付硬化性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents

室温時効を抑制し、かつ、焼付硬化性に優れたアルミニウム合金板 Download PDF

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Description

本発明は、自動車ボディシート、ボディパネルのような各種自動車、船舶、航空機等の部材、部品、或いは、建築材料、構造材料、その他各種機械器具、家電製品及びその部品等に好適に用いられるアルミニウム合金板に関し、より詳細には、用途に応じて成形加工や塗装焼付を施して使用されるAl−Mg−Si系の室温時効を抑制し、かつ、焼付硬化性に優れたアルミニウム合金板に関する。
自動車のボディシートには、従来は冷延鋼板を使用することが多かったが、最近では地球温暖化抑制やエネルギーコスト低減等のために、自動車を軽量化して燃費を向上させる要望が高まっている。このため、従来の冷延鋼板に代えてこれとほぼ同等の強度で比重が約1/3であるアルミニウム合金板を自動車のボディシートに使用する傾向が増大しつつある。また、近年では自動車以外の電子・電気機器等のパネル、シャーシのような成形加工部品についても、高い熱伝導性や比強度といった特性を有するアルミニウム合金板を用いることが多くなっている。
例えば、自動車のボディシートは、プレス成形における張出成形や、曲げ成形などの成形加工が複合して行われるため、成形加工性が優れていることが要求される。一般に、自動車ボディシート用のアルミニウム合金材としては、Al−Mg系合金材の他に、Al−Mg−Si系合金材が主として使用されている。ここで、Al−Mg−Si系合金材は時効性を有する合金材であり、塗装焼付けの加熱工程を利用して塗装焼付前より塗装焼付後で強度が向上する。つまり、塗装焼付前においては比較的強度が低く成形性に優れており、塗装焼付後においては強度が高くなる利点を有し、更に、Al−Mg系合金材において問題となるリューダースマークが発生し難いという長所も有している。
しかしながら、従来のAl−Mg−Si系合金材は、その優れた時効硬化能ゆえに、製造後から各用途に使用されるまでの間に、室温(常温)時効が生じるという大きな問題があった。例えば、この室温時効によって、過剰Si型6000系Al合金材自体の製造から2週間経過後において、20%程度以上の耐力上昇がみられることもある。このような室温時効が生じた場合、製造直後においては、Al−Mg−Si系合金材が各用途の要求特性を満足していたとしても、一定期間の経過後において各用途に実際に使用される際には要求特性を満足せず、パネル材であれば、プレス成形性やヘム加工性を低下させ、また、低温での時効硬化性も著しく低下させることになる。最近では、Al−Mg−Si系合金材が製造されてから6ヶ月以上経過後において、所定の用途に使用されることもあり、室温時効を抑制することが強く求められている。
また、材料が高強度を有することも必要であるため、通常は塗装焼付を施して使用される。つまり、塗装焼付(「ベーク」と言われる)後において、材料に高強度が付与される特性(焼付硬化性、すなわち「BH性」)が要求される。
最近になって、上述の室温時効抑制及び焼付硬化性を両立するために、溶体化処理後の予備時効中又は室温経時中に形成されるMg−Si系クラスタを制御することが提案されている。このMg−Si系クラスタを制御する方法としては、6000系アルミニウム合金板の示差走査熱量分析曲線(以下、「DSC分析曲線」と言う)の吸熱ピークや発熱ピークを測定し、それを手がかりにしてMg−Si系クラスタを制御する技術が提案されている。
ここで、Mg−Si系クラスタは一般に、クラスタ(1)とクラスタ(2)の2種類に分類される。その特徴として、クラスタ(1)は、主に室温にて形成されるMg、Siの原子集団であり、これは塗装焼付温度においても安定的に存在する。一方、クラスタ(2)は、クラスタ(1)と同様なMg、Si原子集団ではあるが、塗装焼付温度において強度向上に有効な析出物へと変化する。主として溶体化焼入れ処理及び人工予備時効処理されたアルミニウム板材の予備時効条件又はクラスタ状態の制御の観点から、例えば特許文献1〜5に示すような提案がなされている。
特開2012−025976号公報 特開2012−041567号公報 特開2003−027170号公報 特開2005−139537号公報 特開2013−167004号公報
例えば、特許文献1、2では、溶体化処理後の焼入れ温度を制御し、予備時効を2段階に分けて行うことにより、室温時効硬化を抑制し、焼付硬化性を向上させている。しかしながら、6ヶ月以上の室温時効を行った場合に、その室温時効硬化の抑制効果は十分ではないことが本発明者等の実験により判明している。
また、特許文献3〜5に示されている方法では、DSC分析曲線を用いて、クラスタ(1)やクラスタ(2)の量を制御している。これらの方法では、クラスタ(1)が室温時効硬化の原因であり焼付硬化性を低下させるとして、クラスタ(1)の形成量を少なくし、焼付硬化性を向上させるクラスタ(2)を多量に形成させることを目的として、DSC分析曲線のピークの値を制御している。しかしながら、これらの方法を用いた場合においても、6ヶ月という長期間の室温時効を経た場合においては、室温時効硬化の十分な抑制が得られず焼付硬化性が低下することが本発明者等の実験により判明しており、クラスタ(2)の制御のみでは長期間の室温時効硬化を抑制しつつ高い焼付硬化性を維持することが困難である。
本発明は以上の事情を鑑みてなされたものであり、長期間の室温経時後においても室温時効硬化による耐力上昇が小さく、かつ、高い焼付硬化性を維持するアルミニウム合金板を提供することを目的とするものである。
この目的を達成するために、本発明者等は、室温時効硬化の発生原因について鋭意検討を重ねた結果、固溶Mg及び固溶Siからクラスタ(1)が形成されることと、クラスタ(2)の成長が室温時効硬化に強く寄与していることを見出した。更に、クラスタ(1)とクラスタ(2)を予めバランスよく形成させることで焼付硬化性を維持しつつ、室温時効硬化を抑制することができることを見出した。
本発明者等は、更に検討を重ねた結果、クラスタ(1)とクラスタ(2)がバランスよく存在する場合、DSC分析曲線において、クラスタ(1)の存在を示す150℃から230℃の温度範囲に吸熱ピークが現れること、230℃から270℃の温度範囲に現れる強化相であるβ’’相形成に対応する発熱ピークが2つ以上に分かれることを見出した。
しかしながら、クラスタ(1)とクラスタ(2)がバランスよく存在しても、長期間の室温時効を行った場合、強度が大きく上昇してしまうことがある。そこで、本発明者等は更なる検討を重ねた結果、クラスタ(2)を安定化させることにより、室温時効硬化を抑制することができ、このとき、DSC分析曲線において230℃から270℃の温度範囲現れるβ’’相形成に対応する2つ以上の発熱ピークのうち、低温側のピーク高さが高温側のピーク高さに対して低くなることが判明した。ここで、低温側のピークとは、2つ以上の発熱ピークのうち最も低温側に現れるピークであり、高温側のピークとは、2つ以上の発熱ピークのうち最も高温側に現れるピークである。
このように、本発明者等は種々の実験及び検討を重ねた結果、Al−Mg−Si系合金の最終板のDSC分析曲線として、150〜230℃の温度範囲における吸熱ピークのピーク高さと、230〜270℃の温度範囲における2つ以上の発熱ピークのピーク高さの比を適切に制御することにより、室温時効硬化を抑制し、かつ、高い焼付硬化性を付与できることを見出したものである。
具体的には、本発明は請求項1において、Al−Mg−Si系アルミニウム合金からなり、当該Al−Mg−Si系アルミニウム合金が、Mg:0.20〜1.50mass%、Si:0.30〜2.00mass%を含有し、Mn:0.03〜0.60mass%、Cr:0.01〜0.40mass%、Zr:0.01〜0.40mass%、V:0.01〜0.40mass%、Fe:0.10〜1.00mass%、Ti:0.005〜0.300mass%及びZn:0.03〜2.50mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、Cuが0.05mass%以下に規制され、残部Al及び不可避的不純物からなり、昇温速度20℃/分のDSC分析曲線において、150〜230℃の温度範囲に1.0〜5.0mW/gの高さaの吸熱ピークと、230〜270℃の温度範囲に2つ以上の発熱ピークとを有し、当該発熱ピークの低温側のピーク高さbと高温側のピーク高さbの比b/b0.44〜0.80であり、b が6.7mW/g以上であることを特徴とするアルミニウム合金板とした。
本発明は請求項2では請求項1において、180日間の室温時効期間の経過後において、耐力上昇量が15MPa以下であり、かつ、BH処理前後の耐力差で表されるΔBHYSの低下量が20MPa以下であるものとした。
本発明に係るアルミニウム合金板では、長期間の室温経時後においても室温時効硬化が抑制され、かつ、高い焼付硬化性を維持することが可能である。
本発明に係る発明例と比較例のアルミニウム合金板を用いたDSC分析曲線を例示したグラフである。
以下、本発明に係る、長期間の室温経時後においても室温時効硬化による耐力上昇が小さく、かつ、高い焼付硬化性を維持するアルミニウム合金板について詳細に説明する。
1.アルミニウム合金板の成分組成
本発明に係るアルミニウム合金板は、基本的にはAl−Mg−Si系合金からなるものであればよく、その具体的な成分組成は特に制約されるものではない。しかしながら、具体的には、Mg:0.20〜1.50mass%(以下、単に「%」と記す)、Si:0.30〜2.00%を含有し、Mn:0.03〜0.60%、Cr:0.01〜0.40、Zr:0.01〜0.40%、V:0.01〜0.40%、Fe:0.10〜1.00%、Ti:0.005〜0.300%及びZn:0.03〜2.50%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、Cuが0.05mass%以下に規制され、残部Al及び不可避的不純物からなる成分組成とすることが好ましい。
次に、各元素の限定理由について説明する。
Mg:
Mgは本発明で対象としている合金系において基本となる必須合金元素であって、Siと共に強度向上に寄与する。Mg含有量は、0.20〜1.50%とするのが好ましい。Mg含有量が0.20%未満の場合は、塗装焼付時に析出硬化によって強度向上に寄与するG.P.ゾーンの生成量が少なくなるため十分な強度向上が得られない。一方、Mg含有量が1.50%を超える場合は、粗大なAl−Mg−Si系金属間化合物が生成され、プレス成形性、主に曲げ加工性が低下する。特に、最終板のプレス成形性として主に曲げ加工性をより良好にするために、Mg含有量は0.30〜0.90%とすることがより好ましい。
Si:
Siも本発明の合金系において基本となる必須合金元素であって、Mgと共に強度向上に寄与する。また、Siは鋳造時に金属Siの晶出物として生成され、この金属Si粒子の周囲が冷間圧延時に付与される加工によって変形されて、溶体化処理の際に再結晶核の生成サイトとなり再結晶組織の微細化にも寄与する。Si含有量は、0.30〜2.00%とすることが好ましい。Si含有量が0.30%未満の場合は、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が2.00%を超える場合は、粗大なSi粒子や粗大なAl−Mg−Si系金属間化合物が生成して、プレス成形性と曲げ加工性の低下を招く。特に、プレス成形性と曲げ加工性とのより良好なバランスを得るためには、Si含有量を0.50〜1.30%とするのがより好ましい。また、Mg/Si(質量比)が高過ぎる場合には時効硬化性が低下し、Mg/Siが低過ぎる場合には成形性が低下するため、Mg/Siは0.3〜0.6の範囲内であるのが好ましく、0.30〜0.50の範囲内であるのがより好ましい。
Mn、Cr、Zr、V、Fe、Ti、Zn:
これらの元素は、強度向上や結晶粒微細化、或いは、時効性(焼付硬化性)の向上に有効であり、これらのいずれか1種又は2種以上を選択的に添加する。Mn、Cr、Zr及びVは、強度向上、ならびに、結晶粒の微細化と組織の安定化とに効果を発揮する元素である。Mn含有量が0.03%未満、Cr、Zr、Vの含有量がそれぞれ0.01%未満の場合は、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が0.60%を超え、Cr、Zr、V量がそれぞれ0.40%を超える場合は、上記効果が飽和するばかりでなく、多数の金属間化合物が生成することで成形性、特にヘム曲げ性に悪影響を及ぼす虞がある。従って、Mn含有量は0.03〜0.60%の範囲内とするのが好ましく、0.03〜0.10%の範囲内とするのがより好ましい。また、Cr、Zr、Vの含有量はそれぞれ0.01〜0.40%の範囲内とすることが好まく、0.01〜0.10の範囲内とすることがより好ましい。
Feはアルミ地金起因の不可避不純物として、通常0.10%未満程度までは含有される。一方、Feを0.10%以上含有する場合は、強度向上と結晶粒微細化に有効である。Fe含有量は、0.10〜1.00%の範囲内とするのが好ましい。Fe含有量が0.10%未満では上記効果が十分に得られない。一方、Fe含有量が1.00%を超える場合は、多数の金属間化合物が生成して、プレス成形性や曲げ加工性が低下する虞がある。特に、曲げ加工性の低下を最小限に抑制するには、Fe含有量を0.10〜0.50%の範囲とするのがより好ましい。
Tiは、鋳塊組織の微細化を通じて最終板の強度向上、肌荒れ防止、耐リジング性向上に効果を発揮することから、鋳塊組織の微細化のために添加する。Ti含有量は0.005〜0.300%の範囲内とすることが好ましい。Ti含有量が0.005%未満の場合は、上記効果が十分に得らない。一方、Ti含有量が0.300%を超える場合は、Ti添加の効果が飽和するばかりでなく、粗大な晶出物が生じる虞がある。なお、Ti含有量は0.005〜0.250%の範囲内とすることがより好ましい。更に、Tiと同時に500ppm以下のBを添加することによって、鋳塊組織の微細化と安定化の効果が一層顕著となる。
Znは、時効性向上を通じて強度向上に有効な元素である。Zn含有量は、0.03〜2.50%の範囲内とするのが好ましい。Zn含有量が0.03%未満の場合は、上記効果が十分に得られない。一方、Zn含有量が2.50%を超える場合は、成形性が低下する虞がある。Zn含有量は、0.03〜1.00%の範囲内とするのがより好ましい。
Cuは、強度向上及び成形性向上に有効な元素である。しかしながら、Cu含有量が0.05%を超える場合は、耐食性(耐粒界腐食性、耐糸錆性)が低下することから、特に耐食性を重視する本発明では、Cu含有量を0.05%以下に規制することが好ましい。
その他の元素:
Al−Mg−Si系合金においては、高温時効促進元素又は室温時効抑制元素であるAg、In、Cd、Be、Snを微量添加することがある。本発明においても微量添加であればこれらの元素の添加も許容され、それぞれが0.01〜0.30%、全体で0.01〜0.50%の範囲内であれば特に所期の目的を損なうことはない。また、鋳塊組織の微細化にはScの添加も効果があるとされており、本発明においても0.01〜0.20%の範囲内の微量のScを添加してもよい。
不可避的不純物:
例えば、地金や中間合金に含まれているそれぞれが数ppm〜数百ppm程度の範囲内のGa、V、Ni等の不可避的不純物は、本発明の効果を妨げるものではないため、このような不可避的不純物の含有も許容される。
2.アルミニウム合金板のクラスタ制御
本発明に係るアルミニウム合金板において、特に室温時効硬化を抑制し長時間にわたって焼付硬化性を確実かつ安定して向上させるためには、合金の成分組成を前述のように調整するだけでなく、最終板であるアルミニウム合金板のDSC分析曲線において、ピーク位置及びピーク高さを適切に制御することが極めて重要である。
室温時効硬化は、前述したように、クラスタ(1)の形成とクラスタ(2)の成長によって生じ、特にクラスタ(2)の成長の影響が大きい。そのため、室温時効硬化を抑制するためには、予めクラスタ(1)を形成させて、クラスタ(2)の新たな形成を抑制することが効果的である。これに対して、焼付硬化性を向上させるためには、クラスタ(1)の形成を減少させ、クラスタ(2)を多くに形成させることが効果的である。
このように相反する特性を両立させるためには、クラスタ(1)とクラスタ(2)を予めバランスよく形成させるとともに、クラスタ(2)の成長を抑制するためにクラスタ(2)を安定化させる必要がある。
クラスタ(1)やクラスタ(2)は、それら自体の直接の同定や定量化は困難であるものの、上述のような両クラスタのバランスのよい形成と、クラスタ(2)の安定化の指標がDSC分析曲線によって得られることを、すなわち、DSC分析曲線における特定温度範囲の吸熱ピークと発熱ピークが、これらクラスタの存在量とそれぞれ対応関係を示すことを本発明者らは見出した。
具体的なDSC分析曲線における制御:
溶体化処理及び焼き入れ処理を含む調質処理後のAl−Mg−Si系アルミニウム合金材のDSC分析曲線の例を、図1に示す。このDSC分析曲線において、150〜230℃の温度範囲における吸熱ピークの高さをaとし、230〜270℃の温度範囲における発熱ピークの高さをbとする。ここで、発明例2と比較例16では、150〜230℃の温度範囲において吸熱ピークが一つ現れており、230〜270℃の温度範囲における発熱ピークが2本以上に分離して現れており、最も低温側の発熱ピーク高さがb、最も高温側の発熱ピーク高さがbである。一方、比較例19では、150〜230℃の温度範囲において吸熱ピークが二つ現れており、230〜270℃の温度範囲における発熱ピークは分離せずに1本だけ現れている。また、吸熱ピーク高さaと発熱ピーク高さb(b、b)は、図1に示すDSC分析曲線の基準線から各々のピークの最高位置までの距離(μW/g)である。なお、この基準線は、図1に示すように、DSC分析曲線の100℃以下の温度範囲において共通するほぼ水平な直線部分を、100℃を超える範囲に延長した水平な直線とする。
図1のDSC分析曲線において、150〜230℃の温度範囲における吸熱ピークの高さaは、クラスタ(1)の溶解に基づくクラスタ(1)の存在量に対応する。従って、吸熱ピーク高さaが大きい程クラスタ(1)が予め形成されていることを示しており、室温時効中の時効硬化を抑制するためには吸熱ピークaが大きいことが好ましい。その一方で、吸熱ピーク高さaが大き過ぎる場合は、室温時効中の時効硬化の抑制に伴って焼付硬化性が低下してしまう。本発明者らの詳細な検討結果によれば、吸熱ピーク高さaを1.0〜5.0mW/g、好ましくは2.0〜3.0mW/gに制御することで室温時効硬化を抑制しつつ、焼付硬化性の大きな低減を防止可能なことが判明した。
一方、230〜270℃の温度範囲におけるプラスの発熱ピークbは強化相であるβ’’相の析出に対応する。本発明者等の詳細な検討結果によると、クラスタ(1)とクラスタ(2)の両方が存在するときには発熱ピークbは二つ以上に分離し、この場合には、クラスタ(1)が形成されていても焼付硬化性が向上することが判明した。このようにピークbが分離する詳細なメカニズムは不明であるが、クラスタ(2)から形成されるβ’’相と、クラスタ(1)を形成する固溶Mg、Si原子から形成されるβ’’相とが存在するため、これら二つのβ’’相に対応する二つのピークが存在するものと推定される。
本発明者らは、ピークbの分離について更に検討を重ね、低温側のピーク高さbが高温側のピーク高さbと比較して低い場合に、室温時効硬化が良好に抑制されることを見出した。なお、2つ以上の分離したピークにおける低温側のピークと高温側のピークとは、上述の通りである。230〜270℃の温度範囲における発熱ピークにおいて、低温側のピーク高さbと高温側のピーク高さbの比b/bについて詳細に検討したところ、b/bが0.80以下、好ましくは0.45〜0.80の範囲であれば、室温時効硬化性を抑制し、かつ、焼付硬化性を向上させることができることが判明した。b/bが0.80以下の範囲内にあれば、クラスタ(2)がβ’’相に近い形態で安定化するために、室温時効硬化が抑制されるものと推定される。また、b/bが0.45未満では、β’’相に近い形態になりすぎて焼付け硬化性が低下する場合がある。
以上をまとめると、下記式[1]及び[2]を満たすように、Al−Mg−Si系アルミニウム合金材のDSC分析曲線の吸熱ピークと発熱ピークを制御する必要がある。
1.0mW/g≦a≦5.0mW/g ・・・[1]
/b≦0.80・・・[2]
このように、DSC分析曲線の吸熱ピーク高さa、ならびに、発熱ピーク高さb、bの比を適切に制御することで、クラスタ(1)とクラスタ(2)の形成量を制御し、クラスタ(2)を適切な状態で安定化させ、その結果、室温時効硬化を抑制し、かつ、焼付硬化性を向上させることが可能となる。
次に、DSC分析曲線の具体的な測定方法について説明する。測定用試料は、重量約50mg、直径5mmの円盤状とし、リファレンス(基準物質)には99.99%の高純度アルミニウムを使用した。測定条件は、昇温速度を20℃/分とし、測定温度範囲を0〜450℃とし、DSC曲線を測定した。そして、測定したDSC分析曲線の発熱ピークと吸熱ピークの高さをそれぞれ測定した。また、上記の通り、各ピーク高さとは、DSC分析曲線の基準線から各々のピークの最大位置までの距離(μW/g)である。ここで基準線とは、DSC分析曲線の100℃以下の温度範囲において共通して生じる水平な直線部分を延長した水平な直線とする。
3.室温時効硬化を抑制し、かつ、焼付硬化性に優れたアルミニウム合金板の製造方法
次に、前述のような合金組成とDSC分析曲線を有することで室温時効硬化を抑制し、かつ、焼付硬化性に優れた本発明に係るアルミニウム合金板を製造するための方法について説明する。
本発明の室温時効硬化を抑制し、かつ、焼付硬化性に優れたアルミニウム合金板を製造する方法は、基本的には特に限定されるものではなく、アルミニウム合金板のDSC分析曲線が前述の規定を満足する、すなわち、クラスタ(1)とクラスタ(2)がバランスよく形成されており、クラスタ(2)が適度に安定化していればよい。そのための方法としては種々考えられるが、代表的な製造方法を以下に示す。
クラスタ(1)とクラスタ(2)がバランスよく形成されており、かつ、クラスタ(2)が適度に安定化したアルミニウム合金板の製造方法では、溶体化処理以降において、クラスタ(1)とクラスタ(2)の形成が数段に分けて行われることで、上記式[1]及び[2]で規定するクラスタ形成量を満足するアルミニウム合金板が得られる。以下に示す各工程について更に詳しく説明する。
鋳造工程、熱間圧延工程:
前述の成分組成のアルミニウム合金を常法に従って溶製し、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の鋳造法を適宜選択して鋳造する。得られた鋳塊に対し、必要に応じて均質化処理を施した後、熱間圧延を行う。ここで、均質化処理を行う場合の処理条件は特に限定されるものではないが、好ましくは480〜590℃の温度で0.5〜24時間、より好ましくは500〜580℃の温度で1〜20時間の加熱を行なう。均質化処理温度が480℃未満である場合や処理時間が0.5時間未満の場合には、均質化の効果が十分に得られない場合がある。一方、均質化処理温度が590℃を超える場合には、材料が溶解する虞がある。また、処理時間が24時間を超える場合には、生産性が低下する。
上述のように必要に応じて均質化処理を行った後には、従来の一般的な方法に従って熱間圧延を施せばよい。熱間圧延開始までの過程においては、必要に応じて以下のいずれかの処理方法を適用することができる。すなわち、均質化処理後の冷却過程で常温又は常温近くまで冷却させた後、改めて熱間圧延の開始温度まで加熱して熱間圧延を開始してもよいし、或いは、均質化処理後の冷却過程で熱間圧延の開始温度まで冷却し、そのまま熱間圧延を開始してもよい。熱間圧延の条件は、好ましくは熱間圧延開始温度が250〜580℃で熱間圧延終了温度が150℃以上、より好ましくは熱間圧延開始温度が300〜550℃で熱間圧延終了温度が270℃以上である。熱間圧延開始温度が250℃未満では良好な熱間圧延性が得られない場合があり、580℃を超える場合には材料が溶解する虞がある。また、熱間圧延終了温度が、150℃未満では良好な熱間圧延性が得られない場合がある。
冷間圧延工程、焼鈍工程:
熱間圧延終了後の圧延材に対して冷間圧延を行い、必要な板厚の冷間圧延板を得る。また、必要に応じて、冷間圧延の途中の中間焼鈍、又は、冷間圧延の後の最終焼鈍、又は、これらの両方を行う。冷間圧延の圧延率は特に限定するものではないが、好ましくは5〜85%、より好ましくは20〜80%である。この圧延率が5%未満では薄い板厚が得にくくなり、85%を超えると割れが生じる場合がある。また、中間焼鈍と最終焼鈍の条件は、好ましくは材料到達温度が430〜580℃で焼鈍時間が5分以下、より好ましくは材料到達温度が450〜550℃で焼鈍時間が3分以内である。ここで、焼鈍時間には0分も含まれるが、この場合は、材料到達温度に到達した後に直ちに、材料を焼鈍のための熱処理設備から取り出すなど冷却することを意味する。焼鈍温度が430℃未満では良好な焼鈍が不十分となり、580℃を超えると材料が溶解する虞がある。また、焼鈍時間が5分を超えると、生産性が悪化する。
溶体化処理工程:
以上のようにして所定の板厚とした圧延板に対して、溶体化処理と焼入れ処理を施した後に、数段に分けて予備時効を行う。溶体化処理条件は、好ましくは材料到達温度480〜590℃で材料到達温度到達後の保持時間が5分以内、より好ましくは材料到達温度500〜580℃で材料到達温度到達後の保持時間が3分以内である。ここで、保持時間には0分も含まれるが、この場合は、材料到達温度に到達した後に直ちに、材料を加熱炉から取り出すなど冷却することを意味する。溶体化処理が480℃未満では固溶不足による焼付硬化性不足となり、590℃を超えると材料が溶解する虞がある。また、溶体化処理時間が5分を超えると、生産性が悪化する。
溶体化処理工程において、材料到達温度までの昇温速度は生産性も考慮して好ましくは50℃/分以上とする。この昇温速度の上限については特に制限するものではない。また、溶体化処理後の冷却については、好ましくは100℃/分以上、より好ましくは500℃/分以上の冷却速度で55℃以下の温度域まで冷却し、Mg原子及びSi原子を十分に固溶させる。この冷却速度の上限についても特に制限するものではない。
予備時効処理工程:
溶体化処理後には、本発明の製造方法の特徴である以下に示す複数段の予備時効を行う。まず、30℃以上60℃未満の温度で1〜3分間の1段目の予備時効を行う。この1段目の予備時効において、クラスタ(1)を形成させる。この予備時効温度が30℃未満の場合や予備時効時間が1分未満の場合には、所望量のクラスタ(1)が形成されない。この予備時効温度が60℃以上の場合にはクラスタ(2)が形成されてしまい、予備時効時間が3分を超える場合には過剰なクラスタ(1)が形成されてしまう。
次に、上記1段目の予備時効の終了後に、60℃以上80℃以下の温度で1〜3分間の2段目の予備時効を行う。この2段目の予備時効では、クラスタ(2)を形成させる。この予備時効温度が60℃未満の場合や予備時効時間が1分未満の場合には、所望量のクラスタ(2)が形成されない。この予備時効温度が80℃を超える場合には多量のクラスタ(2)が形成されてしまい、予備時効時間が3分を超える場合も過剰なクラスタ(2)が形成されてしまう。
更に、上記2段目の予備時効の終了後に、30℃以上60℃未満の温度で1〜3分間の3段目の予備時効を行って、クラスタ(1)を形成させる。この3段目の予備時効の条件は1段目の予備時効のものと同じであり、条件の数値設定の理由も1段目の予備時効と同じである。
最後に、上記3段目の予備時効の終了後に、80℃以上120℃未満の温度で180〜480分間の4段目の予備時効を行って、クラスタ(2)の形成と安定化を行う。この予備時効温度が80℃未満の場合や予備時効時間が180分未満の場合には、所望量のクラスタ(2)が形成されず、また、クラスタ(2)を安定化することができない。この予備時効温度が120℃以上の場合には時効硬化が進行しすぎてしまうため、焼付け硬化性が低下し、予備時効時間が480分を超える場合には生産性が劣る。
なお、上記予備時効処理において、クラスタ(1)とクラスタ(2)の形成をそれぞれ一度の予備時効により行った場合には、そのクラスタの形成速度が速くなり過ぎる。その結果、そのクラスタの形成量の制御が非常に困難となる。従って、クラスタ(1)の形成及びクラスタ(2)の形成をそれぞれ複数段ずつに分けて、全4段以上の予備時効を行う必要がある。なお、全予備時効が5段以上となる場合には生産性を低下させるため好ましくない。
以下に、本発明の実施例について記載する。なお、以下の実施例は、本発明の効果を説明するためのものであり、実施例記載のプロセス、条件及び性能値が本発明の技術的範囲を制限するものではない。
表1の合金符号A〜Mに示す各成分組成のアルミニウム合金を常法に従って溶解し、DC鋳造法によりスラブに鋳造した。
Figure 0006512963
表1の合金符号A〜Eのアルミニウム合金については、得られた各スラブに対して530℃、10時間の条件で均質化処理を施した後、室温付近まで放冷した。次いで、スラブを熱間圧延の開始温度である530℃まで加熱し、この温度で4時間保持する予備加熱を行った。そして、熱間圧延終了温度が250℃となるように熱間圧延を実施した。次いで、この熱間圧延板を50%の冷間圧延率で冷間圧延し、冷間圧延の途中において連続式の熱処理設備にて550℃で0分間(550℃に到達したら保持せずに直ちに降温)の中間焼鈍を施した。その後、50%の冷間圧延率で更に冷間圧延して、最終板厚1.0mmのアルミニウム合金板を得た。
表1の合金符号F〜Mの合金については、得られた各スラブに対して550℃、10時間の条件で均質化処理を施した後、室温付近まで放冷した。次いで、スラブを熱間圧延開始温度である530℃まで加熱し、この温度で2時間保持する予備加熱を行った。そして、熱間圧延終了温度が240℃となるように熱間圧延を実施した。次いで、この熱間圧延板を67%の冷間圧延率で冷間圧延し、最終板厚1.0mmのアルミニウム合金板を得た。このように、合金符号F〜Jの合金では、中間焼鈍も最終焼鈍も行なわなかった。
このようにして得たアルミニウム合金板に、連続式の熱処理設備を用いて溶体化処理と焼入れ処理を施した後に、直ちに予備時効処理を行った。溶体化処理条件(温度と時間)と予備時効処理条件(各段の温度と時間)を、表2に示す。なお、溶体化処理では、室温から処理温度までの昇温速度を200℃/分とした。その後、処理温度から55℃以下の温度域までの冷却速度を2000℃/分とする焼入れを行なった。このようにして、アルミニウム合金板試料を作製した。
Figure 0006512963
(DSC分析曲線)
アルミニウム合金板試料における上記調質処理後のDSC分析曲線を測定し、150〜230℃の温度範囲における吸熱ピーク高さa、230〜270℃の温度範囲における発熱ピーク高さbを求めた。ここで、発熱ピークbが2つ以上に分かれている場合は、低温側の発熱ピーク高さbと高温側の発熱ピーク高さbを求め、発熱ピーク高さbとbの比b/bを算出した。このa、ならびに、b、b、b/bの値を表3に示す。なお、表3において、比較例18では、上記温度範囲内に吸熱ピークが現れず、比較例19、20、22、23では、上記温度範囲内に発熱ピークが一つのみ現れた。また、発明例1〜4、7、9、11、12では上記温度範囲内に発熱ピークが三つ現れた。発明例5、6、8、10、13〜15、ならびに比較例16〜18、21、24では、上記温度範囲内に発熱ピークが二つ現れた。
Figure 0006512963
DSC分析曲線の測定は、以下の要領で行なった。上記の最終板厚が1.0mmのアルミニウム合金板試料から直径5mmの円盤状試験片を打ち抜いて、DSC分析曲線用の供試材とした。DSC分析曲線測定装置として、SII社製のX−DSC−7000を用いた。供試材は、DSC分析曲線測定用チャンバー内に配置して室温状態から昇温しながらDSC分析曲線を測定した。このチャンバー内の雰囲気ガス(加熱媒体)には窒素ガスを用い、ガス流量50ml/分、昇温速度を20℃/分で測定した。なお、得られたDSC分析曲線データに関して、測定温度50℃の位置で、吸熱及び発熱が0となるように補正した後に、aとb(b、b)を測定した。前述の図1もまた、この要領で測定したものである。なお、ピーク高さを測定する際の基準線については、上述の通りに、DSC分析曲線の100℃以下の温度範囲において共通する水平な直線部分を、100℃を超える範囲に延長した水平な直線とした。
(初期耐力)
アルミニウム合金板試料の上記調質処理直後から7日間以内の耐力を、初期耐力(MPa)として測定した。ここで、初期耐力とは、試料の圧延方向に垂直で、かつ、厚さ方向に垂直なC方向に沿った引張試験に基づくものである。引張試験方法はJISZ2201に従って行うとともに、試験片形状はJIS5号試験片に基づいて作製した。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
本発明のアルミニウム合金板の初期耐力は、好ましくは100〜140MPa、より好ましくは120〜135MPaである。100MPa未満では初期耐力が不足し、140
MPaを超えたのでは、初期以降における加工性に劣る。
(BH後耐力)
また、人工時効処理能を調査するため、これらアルミニウム合金板試料がパネルとしてプレス成形されることを模擬して、前記JIS5号試験片に、2%の歪みを予め付与した後に、170℃×20分の人工時効硬化処理を施し、人工時効硬化処理後の各供試板のC方向に沿った耐力を測定してBH後耐力(MPa)とした。また、このBH後耐力においても、上記初期耐力と同じ引張試験方法と試験片形状を用いた。なお、発明例9〜14では、上記歪みを付与することなく170℃×30分の人工時効硬化処理を施した。ここで、このBH後耐力も初期耐力と同様に上記初期の期間内に測定される。
本発明のアルミニウム合金板の初期のBH後耐力は、好ましくは165MPa以上、より好ましくは190MPa以上である。165MPa未満では焼付硬化性の効果が不足する。
更に、初期のBH後耐力と初期耐力との差(BH後耐力−初期耐力)で定義される初期のΔBHYSを求め、この初期のΔBHYSによって焼付硬化特性を評価した。この初期のΔBHYSは、好ましくは60MPa以上、より好ましくは70MPa以上である。60MPa未満では焼付硬化性が不足する。
上記初期耐力、初期のBH後耐力、ならびに、初期のΔBHYSを表3に示す。
更に、アルミニウム合金板試料の経時的な室温時効抑制効果を確認した。すなわち、上記初期耐力測定から室温で180日間経過後において、アルミニウム合金板試料の耐力(以下、「180日耐力」と記す)を初期耐力と同様にして測定し、この期間の耐力上昇量(180日耐力−初期耐力)を求めた。
この耐力上昇量は、好ましくは15MPa以下、より好ましくは13MPa以下である。この耐力上昇量が15MPaを超えると、室温時効硬化の抑制効果が不足する。なお、この耐力上昇量は、少ないほど好ましい。
また、180日耐力に対応するBH後耐力(以下、「180日BH後耐力」)についても、初期のBH後耐力と同様にして測定した。すなわち、初期のBH後耐力の測定から室温で180日間経過後において、初期のBH後耐力と同様にして180日BH後耐力を測定した。この180日BH後耐力は、好ましくは165MPa以上、より好ましくは
190MPa以上である。165MPa未満では焼付硬化性の効果が不足する。
そして、180日BH後耐力と180日耐力との差(180日BH後耐力−180日耐力)で定義される180日間経過後のΔBHYS(以下、「180日ΔBHYS」と記す)を求め、この180日ΔBHYSによって経時的な焼付硬化特性を評価した。
この180日ΔBHYSは、好ましくは40MPa以上、より好ましくは50MPa以上である。40MPa未満では焼付硬化性が不足する。
最後に、180日経過後におけるΔBHYSの低下量(初期のΔBHYS−180日ΔBHYS)を求めた。このΔBHYSの低下量は、好ましくは20MPa以下、より好ましくは17MPa以下である。この低下量が20MPaを超えると、経時的な焼付硬化性が不足する。なお、このΔBHYSの低下量は、少ないほど好ましい。
これら180日耐力、180日間における耐力上昇量、180日BH後耐力、180日ΔBHYS、180日間におけるΔBHYS低下量を表3に示す。
表2に示す通り発明例1〜15は、表1に示す本発明合金組成範囲内のアルミニウム合金を用い、また、好ましい範囲の溶体化処理条件で製造されている。この結果、表3から明らかな通り、発明例1〜15は、150〜230℃の温度範囲における吸熱ピーク高さaが1.0〜5.0mW/gであり、かつ、230〜270℃の温度範囲に2つ以上の発熱ピークb、bを有し、それらの比b/bが0.80以下であった。この結果、180日の室温経時による耐力上昇量は15MPa以下であり室温時効硬化が抑制されており、180日経過後におけるΔBHYS低下量も20MPa以下となり高い焼付硬化性を維持していた。
以上のように、表3の発明例1〜15の例は、いずれも合金の成分組成が本発明の実施形態で規定する範囲内であって、かつ、予備時効処理及び溶体化処理が本発明の実施形態で規定する範囲を満たすものである。これらのアルミニウム合金板はいずれも室温時効硬化が抑制され、かつ、焼付硬化性に優れることが確認された。
比較例16では、表2に示す通り、予備時効の2段階目が本発明で規定する温度を下回っているため、クラスタ(1)量が多くなっており、クラスタ(2)の形成が十分ではなかった。これにより、表3に示す通り、吸熱ピーク高さaが大き過ぎ、かつ、発熱ピークの比b/bが大き過ぎ、その結果、180日経過後の室温時効による耐力上昇量が大きくなり過ぎ、室温時効硬化の抑制が不十分であった。
比較例17では、表2に示す通り、予備時効が2段階となっており、2段階目の保持時間が長すぎるため、クラスタ(1)量が少なく、クラスタ(2)の形成が過剰であった。これにより、表3に示す通り、吸熱ピーク高さaが大き過ぎ、かつ、発熱ピークの比b/bが大き過ぎ、その結果、180日経過後の室温時効による耐力上昇量が大きくなり過ぎ、室温時効硬化の抑制が不十分であった。また、180日経過後におけるΔBHYSの低下量が大き過ぎて、高い焼付硬化性を維持できなかった。
比較例18では、表2に示す通り、90℃での予備時効のみが行われたため、クラスタ(1)の形成が不足した。これにより、表3に示す通り、吸熱ピークが現れず、その結果、180日経過後の室温時効による耐力上昇量が大きくなり過ぎ、室温時効硬化の抑制が不十分であった。また、180日経過後におけるΔBHYSの低下量が大き過ぎて、高い焼付硬化性を維持できなかった。
比較例19では、表2に示す通り、予備時効が1段階目までしか行われておらず、その温度も本発明が規定する温度より低かったため、クラスタ(2)が形成されなかった。これにより、表3に示す通り、吸熱ピーク高さaが大き過ぎ、かつ、発熱ピークも一つのみしか現れず、その結果、表3に示す通り、ΔBHYS及び180日ΔBHYSが低くなって焼付硬化性が劣った。
比較例20では、表2に示す通り、予備時効条件は本発明の規定する範囲内であるが、表1に示す通り、合金成分のうちSi含有量が本発明で規定する範囲未満であったため、クラスタ(2)の形成量が少なかった。これにより、表3に示す通り、吸熱ピーク高さaが小さ過ぎ、かつ、発熱ピークも一つのみしか現れず、その結果、ΔBHYS及び180日ΔBHYSが低くなって焼付硬化性が劣った。
比較例21では、表2に示す通り、予備時効が3段階目までしか行われておらず、クラスタ(2)の安定化が不十分であった。これにより、表3に示す通り、発熱ピークの比b/bが大き過ぎ、その結果、180日経過後の室温時効による耐力上昇量が大きくなり過ぎ、室温時効硬化の抑制が不十分であった。また、180日経過後におけるΔBHYSの低下量が大き過ぎて、高い焼付硬化性を維持できなかった。
比較例22では、用いたアルミニウムAl−Mg−Si系アルミニウム合金のSi含有量が多過ぎた。これにより、表3に示す通り、吸熱ピーク高さaが大き過ぎ、かつ、発熱ピークも一つのみしか現れず、その結果、180日経過後の室温時効による耐力上昇量が大きくなり過ぎ、室温時効硬化の抑制が不十分であった。また、180日経過後におけるΔBHYSの低下量が大き過ぎて、高い焼付硬化性を維持できなかった。
比較例23では、用いたアルミニウムAl−Mg−Si系アルミニウム合金のMg含有量が多過ぎた。これにより、表3に示す通り、吸熱ピーク高さaが大き過ぎ、かつ、発熱ピークも一つのみしか現れず、その結果、180日経過後の室温時効による耐力上昇量が大きくなり過ぎ、室温時効硬化の抑制が不十分であった。また、180日経過後におけるΔBHYSの低下量が大き過ぎて、高い焼付硬化性を維持できなかった。
比較例24では、用いたアルミニウムAl−Mg−Si系アルミニウム合金のMg含有量が少な過ぎた。これにより、表3に示す通り、吸熱ピーク高さaが小さ過ぎ、かつ、発熱ピークbが一つのみしか現れず、その結果、ΔBHYS及び180日ΔBHYSが低くなって焼付硬化性が劣った。
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
本発明は、長期間の室温経時後においても室温時効硬化による耐力上昇が小さく、かつ、高い焼付硬化性を維持するアルミニウム合金板を提供できるので、顕著な産業上の利用可能性を有する。

Claims (2)

  1. Al−Mg−Si系アルミニウム合金からなり、当該Al−Mg−Si系アルミニウム合金が、Mg:0.20〜1.50mass%、Si:0.30〜2.00mass%を含有し、Mn:0.03〜0.60mass%、Cr:0.01〜0.40mass%、Zr:0.01〜0.40mass%、V:0.01〜0.40mass%、Fe:0.10〜1.00mass%、Ti:0.005〜0.300mass%及びZn:0.03〜2.50mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、Cuが0.05mass%以下に規制され、残部Al及び不可避的不純物からなり、昇温速度20℃/分の示差走査熱量分析曲線において、150〜230℃の温度範囲に1.0〜5.0mW/gの高さaの吸熱ピークと、230〜270℃の温度範囲に2つ以上の発熱ピークとを有し、当該発熱ピークの低温側のピーク高さbと高温側のピーク高さbの比b/b0.44〜0.80であり、b が6.7mW/g以上であることを特徴とするアルミニウム合金板。
  2. 180日間の室温時効期間の経過後において、耐力上昇量が15MPa以下であり、かつ、BH処理前後の耐力差で表されるΔBHYSの低下量が20MPa以下である、請求項1に記載のアルミニウム合金板。
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