【発明の詳細な説明】
L-カルニチンの製造方法
[技術分野]
本発明は、次の化学式1で示されるL-カルニチンの製造方法に関するもので、
より詳細には(S)-3-活性化されたヒドロキシブチロラクトンを原料物質として特
定の反応条件下での開環反応、キラル中心の逆転化されるエポキシ化反応、また
トリメチルアミンの親核性置換反応を行い、各反応は水溶液の状態で別途の精製
過程がなくても1つの反応器内で連続的に行われるので、産業的な大量生産に特
に有用なL-カルニチンの製造方法に関するものである。
化学式1
[背景技術]
カルニチン(carnitine)は、立体構造的な特徴からL-カルニチンとD-カルニチ
ンの2つの立体的な鏡像異性体が存在可能である。しかし、生体内でD-カルニチ
ンは全く発見されず、L-カルニチンだけが存在していることが知られている。
ビタミンBTとして知られているL-カルニチンは、人間をはじめ、動物体の
生体組織内に存在してあらゆる核心的な役割をするので、L-カルニチンの生理学
的な役割に対する対体系的な研究が多く行われて来た。特に、L-カルニチンは生
体内に存在してミトコンドリア膜を通過することができない長鎖の脂肪酸と反応
して脂肪酸を通過可能な誘導体に変換し、脂肪酸が膜を通過してミトコンドリア
内で酸化反応により分解されたエネルギー源として脂肪酸が活用されるように助
ける役割をする。
一方、従来のD,L-カルニチンラセミ体は医薬品や食品添加剤のように各種の用
途に用いられて来たが、D-カルニチンは生体内でL-カルニチンが生理的の役割に
対して競争的な妨害作用を有すると知られている[Fritz,I.B.,Schultz,S.K.
,J.Biol.Chem.(1965)240 2188;Roe,C.R.,Bohan,T.P.,Lancet(1982)14
11.]。最近、D,L-カルニチンをラセミ体として用いることよりも光学的に純粋な
L-カルニチンだけを選択的に使用する傾向が増えており、光学的に純粋なL-カル
ニチンを得るための活発な研究が行われて文献や特許に多く報告されている。
光学的に純粋なL-カルニチンの製造に関する従来の技術は次の通りである。
第1に、化学的な光学分割方法によると、D,L-カルニチンやその誘導体のラセ
ミ体を光学的に純粋なキラル光学分割剤と反応させて部分立体異性体を形成した
後、適切な溶媒の存在下で溶解度の差異で所望の形態の部分立体異性体だけを分
割して得た後、 これを再び加水分解して所望のL-カルニチンだけを得る方法で
ある。この時に用いられる光学分割剤としては、D-樟脳酸[米国特許第4,254,053
号(1981)]、L-酒石酸[ヨーロッパ特許第157,315号(1985)]、ジベンゾイル-D-酒
石酸[米国特許第4,933,490号(1990)]、ジベンゾイル-L-酒石酸[米国特許第4,610
,828号(1986)]、D-マンデル酸[日本特許公開昭59-231,048号(1984)]、N-アセチ
ル-D-グルタミン酸印本特許公開平1-131,143号(1
989)]が挙げられる。しかし、上記化学的な光学分割方法では、高価な光学分割
剤を使用しているし、これを回収する段階が必須である。また、部分立体異性体
を形成して光学分割を行う再結晶段階で注意深く再結晶しなければならない難し
さがある。
第二に、他の方法として微生物や酵素を利用する生物学的な方法がある。ブチ
ロベタインを原料物質とし、各種の有用な酵素を用いて立体選択的にヒドロキシ
化反応によりL-カルニチンを製造する[米国特許第4,371,618号(1983)、米国特許
第5,187,093号(1993)]、或いはクロトベタインを原料物質とし、適切な酵素を用
いて立体選択的に水和反応させてL-カルニチンを製造する[米国特許第4,650,759
号(1987)、米国特許第5,248,601号(1993)、ヨーロッパ特許第457,735号(1991)]
。しかし、上記方法は、約2〜3日の長い反応時間がかかるし、化学的な反応とは
異なり生物学的な反応特性から反応濃度が極めて低い短所がある。
他の生物学的な方法としては、(R)-3,4-エポキシブチル酸とトリメチルアミン
を反応させてL-カルニチンを製造する方法[Helvetica Chimica Acta,vol.70,1
42-152(1987);ヨーロッパ特許第237,983号(1987)]が挙げられる。核心的な原料
物質として用いられる(R)-3,4-エポキシブチル酸は、化学的な方法によりラセミ
ック3,4-エポキシブチル酸のエステルを製造した後、生物学的な方法によりこれ
を光学分割して立体選択的に(R)-3,4-エポキシブチル酸のエステルを得、これを
再び生物学的な方法により加水分解を通じて製造する。上記方法は立体選択性は
優れるが、生物学的な反応特性から注意深い反応調節と約24時間の長い反応時間
がかかる問題点がある。
第3に、他の方法としては、天然物から容易に得ることができるキラル原料を
出発物質とし、L-カルニチンを製造する方法が挙げられる。上記方法
によると、D-マンニトルを原料とし、各種の反応段階を通じてL-カルニチンを製
造する[ヨーロッパ特許第60,595号(1982)]。上記方法は、反応段階が複雑で、テ
トラアセチル鉛のような重金属を使用しなければならない問題がある。また、D-
(R)-酒石酸からL-カルニチンを製造する方法が知られている[Tetrahedron Lette
rs,vol.31,7323〜7326(1990)]。上記の場合でも製造工程が長くて非常に複雑
な問題がある。
一方、(S)-3-活性化されたヒドロキシブチロラクトンからL-カルニチンを製造
する方法がある[米国特許第5,473,104号(1995)]。上記方法によると、1.0当量の
(S)-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチロラクトンと2.0当量の25%トリメチル
アミン水溶液を混合し、密閉された容器内で常温で1時間にわたって攪拌した後
、追加的に100℃で16時間にわたって反応させて純粋なL-カルニチンを得るが、
収率は言及されていない。上記方法での推定経路としては、環状の開環反応、キ
ラル中心の逆転化されるエポキシ化反応、トリメチルアミンによる親核性置換反
応が順次的に進行されると述べている。
しかし、上記特許に提示された実施例に基いて再現性を確認したが、L-カルニ
チンはほぼ得ることができなかった。これをさらに正確に把握するために、反応
液を核磁気共鳴分析法にて分析した結果、L-カルニチンはほとんど存在しなかっ
た。
過去に、光学的に純粋な3-ヒドロキシブチロラクトンの製造は難しいので、
キラル原料としてはほとんど使用されなかったが、最近では低価格の天然物であ
るD-炭水化物と過酸化水素とから、酸化反応と連続的な環状化反応により、低価
格の(S)-3-ヒドロキシブチロラクトンを容易に製造する方法が開発された[米国
特許第5,292,939号、第5,319,110号、第5,374,773号]。その結果、(S)-3-ヒドロ
キシブチロラクトンは、多様なキラル化合物の製造に核心的な
キラル原料として用いられており、その使用範囲はさらに拡大すると展望される
。
[発明の開示]
本発明の発明者らは、上記L-カルニチンの製造方法に鑑み、(S)-3-活性化され
たヒドロキシブチロラクトンを原料物質として、開環反応、キラル中心の逆転化
されたエポキシ化反応、さらにトリメチルアミンの親核性置換反応を実施し、各
反応条件を特異的に設定すれば各反応段階別の製造収率及び純度が高く、別途の
精製過程がなくても1つの反応器内で反応(one-pot reaction)ができることを見
いだして本発明を完成した。
従って、本発明は、水溶液の状態で低価格の化合物を用いて高い製造収率と高
純度のL-カルニチンを製造する方法を提供することにその目的がある。
[発明を実施するための最良の形態]
本発明は、(S)-3-活性化されたヒドロキシブチロラクトンからL-カルニチンを
製造することにおいて、次の化学式2で示される(S)-3-活性化されたヒドロキシ
ブチロラクトンを水溶媒下で開環反応させて次の化学式3で示される4-ヒドロキ
シ-3-活性化されたヒドロキシブチル酸を製造し;
上記化学式3で示される4-ヒドロキシ-3-活性化されたヒドロキシブチル酸を塩
基の存在下でキラル中心の逆転化反応をさせ、次の化学式4で示される3,4-エポ
キシブチル酸の塩を製造した後;
上記化学式4で示される3,4-エポキシブチル酸の塩とトリメチルアミンを親核
性置換反応させて次の化学式1で示されるL-カルニチンを製造することをその特
徴とする。
化学式1化学式2
化学式3
化学式4
なお、上記で、Rはアルキルスルフォニル基、アリルスルフォニル基、アシル
基或いは燐酸基であり;Mは用いられた塩基により決定される。
このような本発明をより詳細に説明すると次のようである。
本発明は、既存の(S)-3-活性化されたヒドロキシブチロラクトンからL-カルニ
チンを製造する方法とは異なってキラル中心を逆転化して高収率及び高純度のL-
カルニチンを製造する非常に経済的な方法に関するものである。
本発明によるL-カルニチンの製造方法を簡略に示せば次の反応式1である。
反応式1
上記で、Rはヒドロキシ基を活性化させるために導入したものであり、例えば
アルキル或いはアリルスルフォニル基、アシル基或いは燐酸基であり;Mは用いら
れた塩基により決定される。
本発明から出発物質として上記化学式2で示される(S)-3-活性化されたヒドロ
キシブチロラクトンは、(S)-3-ヒドロキシブチロラクトンのヒドロキシ基を親核
性置換反応をさせるために活性化させた化合物である。
ヒドロキシ基を活性化させる方法は各種の化学的方法があるが、一般的方
法の例としてはスルフォニル化反応、アシル化反応、燐酸化反応等が挙げられる
。上記方法から一番代表的な反応はスルフォニル化反応である。スルフォニル化
剤としては、アルキルスルホン酸の無水物、塩化アルキルスルフォニル或いは塩
化アリルスルフォニルを用いる。この時、アルキルスルフォニルは1〜12の炭素
原子数を有するアルキルスルフォニル或いはハロアルキルスルフォニルであり、
上記化合物の具体的な例としては、メタンスルフォニル、エタンスルフォニル、
イソプロパンスルフォニル、クロロメタンスルフォニル、トリフルオロメタンス
ルフォニル、クロロエタンスルフォニル等が挙げられる。アリルスルフォニルは
ベンゼンスルフォニル;トルエンスルフォニル;クロロベンゼンスルフォニル或い
はブロモベンゼンスルフォニル等のハロアリルスルフォニル;ナフタレンスルフ
ォニル;1〜4の炭素原子数を有するメトキシベンゼンスルフォニル等のアルコキ
シアリルスルフォニル;ニトロアリルスルフォニル等である。活性化反応を通じ
て製造された上記化学式2で示される化合物の具体的な例としては、(S)-3-アル
キルスルフォニルヒドロキシブチロラクトン、(S)-アリルスルフォニルヒドロキ
シブチロラクトン等が挙げられる。特に、一般的に用いられる化合物は(S)-メタ
ンスルフォニルヒドロキシブチロラクトンである。
第1の反応過程は、上記化学式2で示される(S)-3-活性化されたヒドロキシブ
チロラクトンの開環反応である。
本発明における開環反応は、エステル基を加水分解する反応と類似であるが、
反応機構的に化学式2で示される化合物のカルボニル基のβ-位置にある離脱され
やすい3-活性化されたヒドロキシ基が存在するので、通常的な加水分解方法によ
っては全く不可能である。上記問題に鑑み、一般的によく知られている各種の加
水分解反応を実施したが、化学式2で示される化合物が目的
とするとおりに開環されなかったので、本発明で目指す化学式3で示される化合
物を得ることができなかった。例えば、水酸化ナトリウムの存在下で水を溶媒と
して加水分解する方法は非可逆反応であり、定量的な加水分解反応が進むと知ら
れているが、化学式2で示される化合物の中で3-メタンスルフォニルヒドロキシ
ブチロラクトンを用いて開環反応を行った時、スルフォニルヒドロキシ基(-OR)
の除去された化合物が主に得られた。水酸化ナトリウム以外にも塩基として水酸
化カリウム等の無機塩基類、トリエチルアミン、ピリジン等の有機アミン類のよ
うに多くの塩基を用いて開環反応を実施したが、やはりスルフォニルヒドロキシ
基(-OR)の除去された化合物が主な生成物として生成され、所望の物質をほとん
ど得ることができなかった。特に、米国特許第5,473,104号(1995)に基き、1当量
の(S)-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチロラクトンと塩基として1〜2当量の
25%トリメチルアミン水溶液を混合した後、常温で攪拌して反応させても開環反
応は進まず、10分内でメタンスルフォニル基の離脱した化合物(フラノン)だけ
がほぼ定量的に形成されたことを核磁気共鳴分析法により確認した。即ち、上記
のような反応条件下でL-カルニチンが生成されなかった。
一方、上記開環反応から(S)-3-活性化されたヒドロキシ基(-0R)の影響を調べ
るために、ヒドロキシ基が活性化されない3-ヒドロキシブチロラクトンを同じ条
件下で反応を進めたところ、脱水反応が進まず、所望の3,4-ヒドロキシブチル酸
を定量的に得ることができた。
上記実験結果に基き、上記化学式2で示される(S)-3-活性化されたヒドロキシ
ブチロラクトンのα-位置にある水素は、カルボニル基の影響により酸性度が大
きくなって、塩基はカルボニル基を攻撃する前にα-位置にある水素を先に攻撃
してスルフォニルヒドロキシ基が離脱されると判断される。
上記結果に鑑み、カルボニル基のα-位置にある水素が酸性条件下では除去さ
れずに、安定であろうと予測して酸触媒下で開環反応を行った。この時、酸触媒
としては、硫酸、塩酸、燐酸等の無機酸或いはメタンスルホン酸、トルエンスル
ホン酸、樟脳酸等の有機酸が用いられる。また、反応溶媒は、水を単独溶媒とし
て使用するが、出発物質である(S)-3-活性化されたヒドロキシブチロラクトンの
溶解度を高めるために、水と混合可能な有機溶媒、例えば1〜4の炭素原子数を有
するアルコール、テトラヒドロフラン及びアセトニトリルの中から選ばれたもの
を一緒に使用することもできる。水と有機溶媒の混合比は約95:5(v/v)〜50:50(v
/v)が望ましい。
その例としては、上記化学式2で示される化合物の中で3-メタンスルフォニル
ヒドロキシブチロラクトンを使用し、水を溶媒として0.1当量の硫酸触媒下
で50℃で3時間にわたって攪拌した。その反応液を核磁気共鳴分析法により分析
した結果、目的とする化学式3で示される化合物が存在していることを確認する
ことができた。
一方、酸触媒を添加せずに反応させると、反応の初期に少量の3-メタンスルフ
ォニルヒドロキシブチロラクトンが分解され、メタンスルフォニルヒドロキシ基
の除去されたフラノンと共にメタンスルホン酸が生成され、生成されたメタンス
ルホン酸は結局に酸触媒として開環反応が進まれることを確認することができた
。しかし、酸触媒が別に添加されないと、反応速度が2倍以上におそくなり、分
解反応のような副反応が進んで目的とする3-メタンスルフォニルヒドロキシブチ
ル酸の収率は低くなる。即ち、反応の初期に別に酸触媒を投入しなくても自ら生
成された酸触媒により開環反応は起ることができるが、実際反応では酸触媒を用
いることが反応速度及び収率面でさらに望ましい。
上記開環反応は可逆反応であるので、出発物質と所望の開環化合物が同時に反
応液内に存在しており、化学式3で示される開環化合物だけを得るために、溶媒
を除去して開環化合物を分離しようとすれば上記開環化合物の環状が再び閉まっ
て出発物質に還元される問題がある。
従って、水溶液層を有機溶媒で抽出して未反応の出発物質を分離・回収する方
法を試行した。すなわち、化学式2で示される(S)-3-メタンスルフォニルヒドロ
キシブチロラクトンを、D2O溶液から硫酸を触媒として開環反応を行った後、反
応液をCH2Cl2により抽出して未反応の出発物質を回収する実験を実施した。これ
を核磁気共鳴分析器により分析した結果、CH2Cl2溶液には用いられた化学式2で
示される37mo1%の化合物が含まれており、D2O溶液内には化学式3で示される63m
ol%の開環化合物が含まれた。また、実際的な反応から回収された(S)-3-メタン
スルフォニルヒドロキシブチロラクトンは極めて純粋な状態であったし、追加の
精製過程がなくても開環反応に直接に使用することができた。
上記実験結果によると、化学式3で示される開環化合物は水層に存在したが、
有機層には存在しなかった。未反応物質である化学式2で示される化合物は有機
層には存在したが、水層には存在しなかったので、非常に満足できる結果を得る
ことができた。また、水層に存在した化学式3で示される化合物の純度はさらに
精製せずに次の反応に使用することができるほど極めて純粋で、水溶液の状態で
安定して常温で12時間にわたって保管しても再び環状化される反応がほとんど進
まないことが確認された。開環されない(S)-3-メタンスルフォニルヒドロキシブ
チロラクトンを回収するための溶媒としては、上に述べたジクロロメタン以外に
も、水と混ぜない溶媒としてクロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタ
ン等のハロアルカン、ベンゼンやトルエン
等の芳香族溶媒、エチルエーテル、プロピルエーテル等の多様な溶媒が用いられ
る。
次の反応は、上記化学式3で示される開環化合物を塩基の存在下で立体選択的
にキラル中心の逆転化されるエポキシ化反応により光学的に純粋な上記化学式4
で示される3,4-エポキシブチル酸を製造する段階であり、現在までもこのような
反応は文献に載ったことがない。
上記開環反応により得られた上記化学式3で示される4-ヒドロキシ-3-活性化さ
れたヒドロキシブチル酸を、塩基の存在下でエポキシ化により逆転化反応を行っ
た。先ず、代表的な物質として上記開環反応から得られた4-ヒドロキシ-3-メタ
ンスルフォニルヒドロキシブチル酸の水溶液を使用し、2.3当量の水酸化ナトリ
ウムを塩基として用いて、常温で水溶液の状態で反応を実施した。
上記反応は、常温で30分以下の短い時間に進まれる優れた反応性を示した。反
応液を核磁気共鳴分析法により分析して90%以上の転換率を確認することができ
たし、反応液を酸性化させてからエチルエーテルで抽出して(R)-3,4-エポキシブ
チル酸(収率:55%)を得ることができた。
本発明によるエポキシ化反応では、塩基として無機塩基を選んで使用するとか
有機塩基を選んで使用しても良い結果を得ることができる。本発明により用いら
れる塩基の種類を具体的に例示すると、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水
酸化リチウム等の多様なアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネ
シウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の多様なアルカリ土類金属水酸化
物;メトキシドナトリウム、エトキシドナトリウム、t-ブトキシドドナトリウム
等のアルカリ金属アルコキシド;テトラブチルアンモニウムの水酸化物、ベンジ
ルトリメチルアンモニウムの水酸化物等の4次アミン水酸化物;NR1R2R3(ただし、
R1、R2及びR3は、それぞれ2〜7の炭素原子数を有するアルキル基)、NHR4R5(ただ
し、R4及びR5は、それぞれ2〜7の炭素原子数を有するアルキル基)、NH2R6(ただ
し、R6は、それぞれ3〜9の炭素原子数を有するアルキル基)等のアルキルアミン
として、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジ
プロピルアミン、ジブチルアミン、t-ブチルアミン等である。
一方、用いられる塩基の例は塩基性の程度や種類により変化するが、約1.0〜4
.0当量を用いることが望ましい。
上記結果に基き、カルボキシル基ではないエステル基を有する4-ヒドロキシ-3
-メタンスルフォニルヒドロキシブチル酸のメチルエステルを、溶媒であるテロ
ラヒドロフランの存在下で塩基として水素化ナトリウムを用いてエポキシ化を試
したが、所望のエポキシ化された化合物は得られず、メタンスルフォニル基の離
脱された化合物だけを得ることができた。
上記結果は、カルボキシル基の塩基による陰イオンの形成は極めて重要である
ことを確認している。これはカルボニル基のα-位置の水素において、その酸性
度が高くて塩基により攻撃されやすいからであると判断される。本反応段階でメ
タンスルフォニルヒドロキシ基(-OMs)の離脱反応が進まない理由は、4-ヒドロキ
シ-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチル酸のカルボキシル基が陰イオンを帯
びる場合には、その陰イオンの影響のためにα-位置の水素の酸性度が低くなっ
て塩基により攻撃されにくいからであると判断される。
最終の製造過程は、上記から得られた(R)-3,4-エポキシブチル酸とトリメチル
アミンを反応させてL-カルニチンを製造する方法は公知方法[J.Org.Chem.,vo
l.49,3707〜3711(1984);Helvetica Chimica Acta,vol.70,142〜152(1987);
ヨーロッパ特許第237,983号(1987)]と類似である。
上記反応から得られた3,4-エポキシブチル酸のナトリウム塩を分離せずに、す
ぐ反応液に2当量の25%トリメチルアミン水溶液を加え、45℃で2時間にわたって
攪拌してL-カルニチンを得る。反応物からL-カルニチンを分離精製する方法は通
常的な方法により実施し、望ましくは陽イオン交換樹脂(AmerliteIR-120:rohm &
Haas社商品名)を使用することである。陽イオン交換樹脂(Amberlite IR-120:
前出商品名)による分離精製する方法によると、得られたL-カルニチンの光学純
度は95%以上であり、収率は約55%以上である。また、エポキシ化反応の時に形成
される3,4-エポキシブチル酸のナトリウム塩を硫酸で中和させて3,4-エポキシブ
チル酸に変換した後、これをトリメチルアミンと反応させても類似な結果を得る
ことができる。
上に述べたように、本発明によるL-カルニチンの製造方法は、上記化学式2で
示される(S)-3-活性化されたヒドロキシブチロラクトンを原料物質として開環反
応、エポキシ化によるキラル中心の逆転化反応、親核性置換反応を順
序に実施し、硫酸、水酸化ナトリウム、トリメチルアミン等のような低価格の化
合物を用いて水溶液の状態で別の精製過程がなくても1つの反応器内で連続的に
反応を実施して産業的に有用なL-カルニチンの製造方法であることがわかる。
一方、本発明の核心的な反応の1つとしてエポキシ化反応によるキラル中心の
逆転化は親核性置換反応の一種であり、化学的反応の特性から原料物質として(S
)-3-活性化されたヒドロキシブチロラクトンの代りに(R)-3-活性化されたヒドロ
キシブチロラクトンを使用すればD-カルニチンも製造することができる。
このような本発明を実施例に基いて詳しく説明するが、本発明は上記実施例に
より限定されるものではない。
実施例l:(S)-3-メタンスルフォニルヒドロキシ-ブチロラクトンの製造
250mlの反応器に(S)-3-ヒドロキシ-γ-ブチロラクトン(10.2g、0.10mol)、塩
化メタンスルフォニル(18.3g、0.16mol)及びジクロロメタン(100ml)を入れた後
、0℃で50%トリエチルアミン-ジクロロメタン溶液(30.4g、0.15mmol)を1時間に
わたって滴加・注入した。滴加した後、0℃を維持しながら、3時間にわたって攪
拌した。反応液を蒸溜水(100ml)で二回抽出して生成された塩を除去し、ジクロ
ロメタン溶液を硫酸マグネシウムで乾燥・濾過してから、減圧蒸溜器により溶媒
を減圧下で徐々に濃縮して固体を得た。得られた固体をジクロロメタンとn-ヘキ
サンで再結晶化し、結晶を濾過・乾燥して純粋な(S)-3-メタンスルフォニルヒド
ロキシブチロラクトン(14.4g、収率:80%)を得た。
実施例2:L-カルニチンの製造
250mlの反応器に(S)-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチロラクトン(10.0g、5
5.6mmol)、水(100ml)及び濃縮された硫酸(0.549g、5.60mmol)を入れた後、50℃
で3時間にわたって攪拌させた。反応液を常温で冷却させた後、ジクロロメタン(
100ml)で二回抽出した。未反応の(S)-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチロラ
クトンを回収(回収量:3.7g)し、水溶液の層に所望の(S)-4-ヒドロキシ-3-メタン
スルフォニルヒドロキシブチル酸が存在した。
得られた(S)-4-ヒドロキシ-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチル酸(35.0mm
ol)の含まれた反応液に3N水酸化ナトリウム水溶液(27.1ml、81.3mmol)を入れた
後、常温で10分にわたって攪拌させた。水溶液の層には所望の(R)-3,4-エポキシ
ブチル酸のナトリウム塩が存在し、反応液に25w%トリメチルアミン水溶液(16.5g
、69.8mmol)を入れた後、45℃で2時間にわたって攪拌させた。反応液を減圧下で
蒸溜して大部分の溶媒を除去し、少量の水に溶かして陽イオン交換樹脂(Amberit
e 1R-120:前出商品名)を満たしたカラムに入れた後、純水を流して不純物を除
去した。pHが7に到達すると、2%アンモニア水溶液を流してL-カルニチンの含ま
れた水溶液を得、減圧下で溶媒を除去した。70℃でイソプロパノールに溶かして
から溶けなかった微量の不純物を濾過して除去した。これを減圧下で再び濃縮さ
せた後、イソプロパノールとアセトンの混合溶媒により再結品して純粋なL-カル
ニチン(3.1g、収率:55%)が得られた。
[α]D25=-30(c2,H2O)[文献値:[α]D25=-31]
実施例3:(S)-4-ヒドロキシ-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチル酸の製造
25mlの反応器に(S)-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチロラクトン(1.0g、5
.6mmol)、D2O(10ml)及び濃縮された硫酸(0.0549g、0.56mmol)を入れた後、50℃
で3時間にわたって攪拌させた。反応液を常温で冷却させた後、ジクロロメタン(
10ml)で二回抽出した。未反応の(S)-4-ヒドロキシ-3-メタンスルフォニルヒドロ
キシブチル酸が極めて純粋な状態で存在したことを核磁気共鳴分析法により確認
した。
実施例4:(R)-3,4-エポキシブチル酸のナトリウム塩の製造
上記実施例3から得た(S)-4-ヒドロキシ-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチ
ル酸の含まれた反応液に3N水酸化ナトリウム水溶液(2.7ml、8.1mmol)を入れた後
、常温で10分にわたって攪拌させた。反応液に所望の(R)-3,4-エポキシブチル酸
のナトリウム塩が極めて純粋な状態で存在したことを核磁気共鳴分析法により確
認した。実施例5:(R)-3,4-エポキシブチル酸のナトリウム塩の製造
上記実施例3から得た(S)-4-ヒドロキシ-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチ
ル酸の含まれたD2O反応液にメトキシドナトリウム(438mg、8.11mmol)を入れた後
、常温で20分にわたって攪拌させた。反応液層に所望の(R)-3,4-エポキシブチル
酸のナトリウム塩が存在したことを核磁気共鳴分析法により確認した。
実施例6:(R)-3,4-エポキシブチル酸のカルシウム塩の製造
上記実施例3から得た(S)-4-ヒドロキシ-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチル
酸の含まれたD2O反応液に水酸化カルシウム(340mg、4.59mmol)を入れた後、常温
で20分にわたって攪拌させた。反応液層に所望の(R)-3,4-エポキシブチル酸のカ
ルシウム塩が存在したことを核磁気共鳴分析法により確認した。
実施例7:(R)-3,4-エポキシブチル酸のテトラブチルアンモニウム塩の製造
上記実施例3から得た(S)-4-ヒドロキシ-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチ
ル酸の含まれたD2O反応液にテトラブチルアンモニウム水酸化物の1.0Mメタノー
ル溶液(8.12ml、8.12mmol)を入れた後、常温で30分にわたって攪拌させた。反応
液層に所望の(R)-3,4-エポキシブチル酸のテトラブチルアンモニウム塩が存在し
たことを核磁気共鳴分析法により確認した。
実施例8:(R)-3,4-エポキシブチル酸のトリエチルアミン塩の製造
上記実施例3から得た(S)-4-ヒドロキシ-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチ
ル酸の含まれたD2O反応液にトリエチルアミン(790mg、7.81mmol)を入れた後、常
温で30分にわたって攪拌させた。反応液層に所望の(R)-3,4-エポキシブチル酸の
トリエチルアミン塩が存在したことを核磁気共鳴分析法により確認した。
実施例9:(R)-3,4-エポキシブチル酸ジイソプロピルアミン塩の製造
上記実施例3から得た(S)-4-ヒドロキシ-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチ
ル酸の含まれたD2O反応液にジイソプロピルアミン(790mg、7.81mmol)を入れた後
、常温で2時間にわたって攪拌させた。反応液層に所望の(R)-3,4-エポキシブチ
ル酸のジイソプロピルアミン塩が存在したことを核磁気共鳴分析法により確認し
た。
実施例10:(R)-3,4-エポキシブチル酸のt-ブチルアミン塩の製造
上記実施例3から得た(S)-4-ヒドロキシ-3-メタンスルフォニルヒドロキシブチ
ル酸の含まれたD2O反応液にt-ブチルアミン(571mg、7.81mmol)を入れた後、常温
で4時間にわたって攪拌させた。反応液層に所望の(R)-3,4-エポキシブチル酸のt
-ブチルアミン塩が存在したことを核磁気共鳴分析法により確認した。
[産業上の利用可能性]
本発明によるL-カルニチンの製造方法は、有機溶媒の使用量を減らして水溶液
の状態で低価格の化合物を用いるし、製造収率及び純度が高くて別の精
製過程がなくても1つの反応器内で連続的に実施することができるので、産業的
に非常に有用である。
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(81)指定国 EP(AT,BE,CH,CY,
DE,DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,I
T,LU,MC,NL,PT,SE),CA,CN,J
P,US
(72)発明者 キム,キョン−イル
大韓民国 305―390,デジョン,ユソン−
ク,ジョンミン−ドン,462―5,セゾン
アパート 108―504
(72)発明者 ボン,チャン−ア
大韓民国 305―390,デジョン,ユソン−
ク,ジョンミン−ドン,364―7