WO2020203953A1

WO2020203953A1 - 起泡性水中油型乳化油脂組成物

Info

Publication number: WO2020203953A1
Application number: PCT/JP2020/014492
Authority: WO
Inventors: 涼輔宮本; 敏秀磯部
Original assignee: 株式会社カネカ
Priority date: 2019-03-29
Filing date: 2020-03-30
Publication date: 2020-10-08
Also published as: CN113692230B; JPWO2020203953A1; JP6990341B2; CN113692230A

Abstract

油脂量が２５～５０％、水分量が４５～７０％、油脂全体中、ラウリン系油脂を３～５０％と、Ｓ２Ｕを４５～７０％含むパーム系油脂を４０～９０％とを含有し、エステル交換油脂量が１％未満、油脂の構成脂肪酸全体中、トランス脂肪酸量は１％未満、飽和脂肪酸量は４７～６５％、構成脂肪酸全体中、飽和脂肪酸量は９５～１００％、Ｃ１６及びＣ１８の飽和脂肪酸を６～２５％と、Ｃ２０以上の飽和脂肪酸を５５～８５％とを含むポリグリセリン脂肪酸エステルを、油相全体中０．１～１％含有し、不飽和脂肪酸量が乳化剤の構成脂肪酸全体中６０～１００％の乳化剤を０．０５～０．５％含有する、起泡性水中油型乳化油脂組成物。

Description

起泡性水中油型乳化油脂組成物

　本発明は、食用の起泡性水中油型乳化油脂組成物、並びに、該組成物がホイップされたホイップドクリーム及びそれを含む食品に関する。

　ホイップドクリームは、起泡性水中油型乳化物を起泡させて製造される。該ホイップドクリームには、良好な風味や、シャープな口溶け、良好なコクが求められるが、近年では、これらに加えて、高い冷凍保存耐性も求められるようになっている。すなわち、ホイップドクリームを冷凍保存した後に解凍し食しても、良好な風味、シャープな口溶け、良好なコクが感じられ、みずみずしい食感を保持していることが求められている。

　ホイップドクリームに使用可能な原料油脂としてはラウリン系油脂やパーム系油脂等がある。ラウリン系油脂を多く配合すると、シャープな口溶けと良好なコクが得られ冷凍保存耐性が高くなる一方、飽和脂肪酸含有量が多くなり、健康面でのリスクが生じ、また、コストが上昇するという問題がある。片や、パーム系油脂を多く配合すると、コスト面ではメリットがあるものの、従来は冷凍保存耐性が低下し、冷凍及び解凍を経るとホイップドクリームの表面にひび割れや亀裂が生じやすくなり、また、風味や食感等が劣化してしまうという問題があった。

　特許文献１では、冷凍保存と解凍を経た後の、ホイップドクリームの型崩れ、ひび割れ、又は組織の荒れ、及び風味の劣化を防止することを目的として、卵黄リゾレシチン及び／又は卵黄レシチンと、特定の飽和脂肪酸を有するポリグリセリン飽和脂肪酸エステルとを含む起泡性水中油型乳化油脂組成物が開示されている。

特開２０１４－１３２８４８号公報

　しかし、特許文献１の全ての実施例では、構成脂肪酸の７０重量％以上がパルミチン酸又はステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルが使用されており、かつ、エステル交換油脂が使用されている。これらの実施例では、コストが高く、また、冷解凍後のホイップドクリームは口溶けが悪かったり、コクが不足する問題がある。さらに、該文献のほとんどの実施例に配合されている硬化油脂はトランス脂肪酸を多く含有するものであり、健康上好ましくない。

　本発明の目的は、上記現状に鑑み、エステル交換油脂及びトランス脂肪酸を実質的に含有せず、飽和脂肪酸の含有量が少ないにも関わらず、ホイップドクリームを冷凍及び解凍後にもひび割れや亀裂が生じにくく、風味及び口溶けが良好で、コクがあり、みずみずしい食感が感じられるホイップドクリームを作製できる起泡性水中油型乳化油脂組成物を提供することである。

　本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、エステル交換油脂及びトランス脂肪酸を実質的に含有せず、飽和脂肪酸の含有量を抑制しても、油脂としてラウリン系油脂とＳ２Ｕを４５～７０重量％含むパーム系油脂をそれぞれ特定量使用し、さらに、特定の構成脂肪酸が結合したポリグリセリン脂肪酸エステルを特定量と、特定量の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする乳化剤を特定量配合した起泡性水中油型乳化油脂組成物によると、これをホイップしたホイップドクリームを冷凍及び解凍した後にもひび割れや亀裂が生じにくく、風味及び口溶けが良好で、コクがあり、みずみずしい食感が感じられることを見出し、本発明を完成するに至った。
　即ち、本発明の第一は、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、油脂の含有量が２５～５０重量％で、水分量が４５～７０重量％であり、前記油脂全体中、ラウリン系油脂を３～５０重量％と、Ｓ２Ｕを４５～７０重量％含むパーム系油脂を４０～９０重量％とを含有し、エステル交換油脂の含有量が１重量％未満であり、前記油脂の構成脂肪酸全体中、トランス脂肪酸の含有量は１重量％未満で、飽和脂肪酸の含有量は４７～６５重量％であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡの構成脂肪酸全体中、飽和脂肪酸の含有量は９５～１００重量％で、炭素数１６及び炭素数１８の飽和脂肪酸を６～２５重量％と、炭素数２０以上の飽和脂肪酸を５５～８５重量％とを含むポリグリセリン脂肪酸エステルＡを、油相全体中０．１～１重量％含有し、不飽和脂肪酸の含有量が乳化剤の構成脂肪酸全体中６０～１００重量％の乳化剤を、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中０．０５～０．５重量％含有する、起泡性水中油型乳化油脂組成物に関する。

　前記起泡性水中油型乳化油脂組成物は、さらに、炭素数が２０以上の飽和脂肪酸の含有量がポリグリセリン脂肪酸エステルＢの構成脂肪酸全体中９０～１００重量％であるポリグリセリン脂肪酸エステルＢを、油相全体中０．０５～１重量％含有することが好ましい。また、前記起泡性水中油型乳化油脂組成物は、さらに、乳脂肪を、前記油脂全体中５～５０重量％含有することが好ましい。好ましくは、前記乳脂肪が、生クリーム由来の乳脂肪である。

　本発明の第二は、前記起泡性水中油型乳化油脂組成物がホイップされたホイップドクリームに関し、また、前記ホイップドクリームがナッペ、トッピング、又はサンドされた食品に関する。前記食品は、－４０℃～－１０℃で冷凍されたものであってよい。

　本発明に従えば、エステル交換油脂及びトランス脂肪酸を実質的に含有せず、飽和脂肪酸の含有量が少ないにも関わらず、ホイップドクリームを冷凍及び解凍した後にもひび割れや亀裂が生じにくく、風味及び口溶けが良好で、コクがあり、みずみずしい食感が感じられるホイップドクリームを作製できる起泡性水中油型乳化油脂組成物を提供することができる。

　以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、油脂と必要に応じて油脂以外の油溶性原料とを含む油相、及び、水と必要に応じて水溶性原料とを含む水相からなる、水中油型の乳化物である。当該起泡性水中油型乳化油脂組成物は、起泡性を示すものであり、これをホイップし、起泡させることにより、本発明のホイップドクリームを得ることができる。なお、油脂とは、１分子のグリセリンに対し３分子の脂肪酸がエステル結合してなるトリグリセリドのことをいう。トリグリセリドを構成している前記脂肪酸を、構成脂肪酸という。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、特定量の油脂と水を含有し、油脂として特定量のラウリン系油脂と、Ｓ２Ｕを特定量含むパーム系油脂を特定量使用し、さらに特定の構成脂肪酸が結合したポリグリセリン脂肪酸エステルＡを油相中に特定量と、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量が特定量の乳化剤を特定量配合することを特徴とする。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、油脂を、前記組成物全体中、合計で２５～５０重量％含有することが好ましく、２５～４５重量％がより好ましく、２５～４０重量％がさらに好ましい。油脂の含有量が２５重量％より少ないと、ホイップドクリームにおいて油のコクを感じ難くなる場合がある。また、５０重量％より多いと、起泡性水中油型乳化油脂組成物の乳化安定性が悪くなる場合がある。

　また、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、当該組成物全体に対する水分量が４５～７０重量％であることが好ましく、５０～７０重量％がより好ましく、５５～７０重量％がさらに好ましい。水分量が４５重量％より少ないと、乳化安定性が悪くなる場合があり、７０重量％より多いと、ホイップドクリームにおいて油のコクを感じ難くなる場合がある。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂は、少なくとも、ラウリン系油脂と、パーム系油脂を含有する。

　ラウリン系油脂とは、構成脂肪酸としてラウリン酸を多く含む油脂をいい、具体的には構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が概ね３５重量％以上の油脂であればよく、例えば、パーム核油、ヤシ油、及びこれらの分別油や極度硬化油等が挙げられる。本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、ラウリン系油脂を、前記組成物に含まれる油脂全体中３～５０重量％含有することが好ましく、３～４５重量％がより好ましく、５～４０重量％が更に好ましく、５～３０重量％が特に好ましい。ラウリン系油脂の含有量が３重量％より少ないと、ホイップドクリームを作製するのに要するホイップ時間が長くなり、適切な状態のホイップドクリームが得られない場合がある。また、５０重量％より多いと、コストが高くなり過ぎるし、ホイップドクリームの表面がボソつく場合がある。

　パーム系油脂は、パーム油由来の油脂のことであり、起泡性やホイップドクリームの口溶けの観点から、Ｓ２Ｕを、パーム系油脂全体中４５～７０重量％含むものであることが好ましい。より好ましくは５０～６０重量％である。ここで、Ｓ２Ｕとは、構成脂肪酸として、１分子のグリセリンに、炭素数１２以上（好ましくは炭素数２４以下）の飽和脂肪酸Ｓが２分子、炭素数１６以上（好ましくは炭素数２４以下）の不飽和脂肪酸Ｕが１分子結合しているトリグリセリドのことをいい、Ｓ及びＵの結合位置は限定されない。Ｓ２Ｕを構成脂肪酸全体中４５～７０重量％含むパーム系油脂としては、例えば、パーム中融点部分別油、パームオレイン、パーム油などが挙げられる。これらのパーム系油脂を単独で使用してもよいし、パーム系油脂全体としてＳ２Ｕ含有量が４５～７０重量％の範囲に収まるように２種類以上のパーム系油脂を混合して使用してもよい。２種類以上のパーム系油脂を混合する場合、各々のパーム系油脂のＳ２Ｕ含有量は４５～７０重量％の範囲になくてもよい。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、前記Ｓ２Ｕを４５～７０重量％含むパーム系油脂を、前記組成物に含まれる油脂全体中４０～９０重量％含有することが好ましく、より好ましくは４５～９０重量％、更に好ましくは５５～９０重量％、特に好ましくは５５～８０重量％である。前記パーム系油脂の含有量が４０重量％より少ないと、ホイップドクリームの表面がボソつく場合がある。また、９０重量％より多いと、ホイップドクリームを作製するのに要するホイップ時間が長くなり、適切な状態のホイップドクリームが得られない場合がある。

　油脂は、ラウリン系油脂と、パーム系油脂に加えて、ハイエルシン菜種極度硬化油を含むことが好ましい。ハイエルシン菜種極度硬化油とは、菜種の中でもエルシン酸（エルカ酸）含量が概ね４０％以上の品種から搾油した油脂を極度硬化したものをいう。ハイエルシン菜種極度硬化油を配合することによって、ホイップドクリームの冷凍及び解凍後にひび割れや亀裂が生じるのを、より良く抑制することができる。

　ハイエルシン菜種極度硬化油を用いる場合、その含有量は、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂全体中０．５～１．５重量％であることが好ましく、１．０～１．５重量％がより好ましい。ハイエルシン菜種極度硬化油の含有量が０．５重量％より少ないと、これを配合することによる効果を十分に得ることができず、１．５重量％より多いと、起泡性水中油型乳化油脂組成物の乳化安定性が悪化する場合がある。

　ホイップドクリームのコクの観点から、エステル交換油脂の含有量は少ないほど好ましい。ここで、エステル交換油脂とは、食用油脂をエステル交換反応して得られる油脂を指す。前記食用油脂としては菜種油、コーン油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油等の植物性油脂や、乳脂肪、牛脂、豚脂、魚油等の動物性油脂が例示でき、これらを硬化、分別、エステル交換等の加工処理を行ったものも用いることができる。前記エステル交換油脂の製法については特に限定なく、常法を用いて製造することができる。例えば、ナトリウムメチラートまたはナトリウムエチラートを原料油脂に対して０．０１～１．０重量％添加してランダムエステル交換反応を起こす化学法や、リパーゼなどの酵素を用いてエステル交換を行なう酵素法などを適用できる。

　具体的には、エステル交換油脂は、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂全体中１重量％未満の範囲で含まれるか、又は全く含まれないことが好ましく、全く含まれないことがより好ましい。エステル交換油脂の含有量が１重量％以上であると、コストがアップしたり、起泡性が低下したり、ホイップドクリームのコクが不足する場合がある。

　健康上の観点から、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂の構成脂肪酸として、トランス脂肪酸を多量に含有しないことが好ましい。ここで、トランス脂肪酸とは、トランス型の二重結合を持つ不飽和脂肪酸のことをいう。具体的には、トランス脂肪酸は、前記油脂の構成脂肪酸全体中１重量％未満の範囲を占めるように構成脂肪酸として含まれるか、又は含まれないことが好ましく、全く含まれないことがより好ましい。なお、トランス脂肪酸の含有量を少なくするには、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物に配合する部分硬化油の量を低減すればよい。

　同じく健康上の観点から、前記油脂の構成脂肪酸として、飽和脂肪酸の含有量はできるだけ減らすことが好ましい。具体的には、飽和脂肪酸は、前記油脂の構成脂肪酸全体中４７～６５重量％であることが好ましく、５０～６０重量％がより好ましい。飽和脂肪酸の含有量が４７重量％より少ないと、起泡性水中油型乳化油脂組成物の起泡性が悪化する場合があり、６５重量％より多いと健康上好ましくない場合がある。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、風味の観点から、油脂として乳脂肪をさらに含有することが好ましい。該乳脂肪の含有量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂全体中５～５０重量％であることが好ましく、１０～５０重量％がより好ましく、２０～５０重量％が更に好ましい。乳脂肪の含有量が５重量％未満であると、これを配合することにより得られる乳風味が十分に感じられない場合があり、５０重量％を超えると、冷凍及び解凍後のホイップドクリームのみずみずしさが悪化する場合がある。なお、前記乳脂肪は、バターオイルまたは生クリーム、バター、バターミルク、バターミルクパウダー、生乳、牛乳、全粉乳、濃縮乳、チーズ、サワークリーム、無糖練乳、加糖練乳などの乳原料から得られるもの、又は、前記乳原料に含まれる乳脂肪分を意味する。

　前記乳脂肪は、風味の観点から、生クリーム由来の乳脂肪であることがより好ましい。本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物が生クリームを含有する場合には、前記生クリームの含有量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中５～５０重量％であることが好ましく、１０～５０重量％がより好ましく、２０～５０重量％が更に好ましい。前記生クリームは、乳等省令で定義される「生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去し、乳脂肪分が１８．０％以上にしたもの」をいい、本発明においては、乳脂肪分が３０～４８％のものを使用することが、良好なホイップ性を得る上で好ましい。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂は、本発明の効果を阻害しない範囲において、上述したラウリン系油脂、Ｓ２Ｕを４５～７０重量％含むパーム系油脂、ハイエルシン菜種極度硬化油、及び、乳脂肪以外の他の食用油脂を含有するものであってもよい。そのような他の食用油脂としては、ホイップドクリームに用いられ得るものであれば特に限定はなく、例えば、菜種油、大豆油、サフラワー油、コーン油、米油、綿実油などの植物油脂や、ラードなどの動物油脂、および、これらの油脂の分別油、硬化油やそれらの混合油などが挙げられる。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、特定の構成脂肪酸組成を有するポリグリセリン脂肪酸エステルＡを含有する。当該ポリグリセリン脂肪酸エステルＡは、構成脂肪酸として炭素数１６及び１８の飽和脂肪酸と、炭素数２０以上の飽和脂肪酸とを含むものであり、具体的には、その構成脂肪酸全体中において飽和脂肪酸の含有量が９５～１００重量％で、炭素数１６及び炭素数１８の飽和脂肪酸の含有量が６～２５重量％で、炭素数２０以上（好ましくは炭素数２４以下）の飽和脂肪酸の含有量が５５～８５重量％である。飽和脂肪酸の含有量は９８～１００重量％であることが好ましく、炭素数１６及び炭素数１８の飽和脂肪酸の含有量は６～２０重量％であることが好ましく、炭素数２０以上の飽和脂肪酸の含有量は６０～８５重量％であることが好ましい。炭素数１６及び炭素数１８の飽和脂肪酸の含有量が６重量％より少ないと、冷凍及び解凍後のホイップドクリームの口溶けやみずみずしさが悪化する場合があり、２５重量％より多いと、冷凍及び解凍後のホイップドクリームにひび割れや亀裂が発生する場合がある。また、炭素数２０以上の飽和脂肪酸の含有量が５５重量％より少ないと、冷凍及び解凍後のホイップドクリームにひび割れや亀裂が発生する場合があり、８５重量％より多いと、冷凍及び解凍後のホイップドクリームの口溶けやみずみずしさが悪化する場合がある。

　前記ポリグリセリン脂肪酸エステルＡの含有量は、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物の油相全体中０．１～１重量％が好ましく、０．２～０．９重量％がより好ましく、０．３～０．８重量％が更に好ましい。前記ポリグリセリン脂肪酸エステルＡの含有量が０．１重量％より少ないと、冷凍及び解凍後のホイップドクリームにひび割れや亀裂が発生する場合があり、１重量％より多いと、ホイップドクリームの口溶けが悪くなったり、ホイップ時にオーバーランが上がらない場合がある。前記ポリグリセリン脂肪酸エステルＡの市販品としては、「ＳＹグリスター　ＣＶ－２３」（阪本薬品工業（株）製）、「ＳＹグリスター　ＣＶ－１Ｌ」（阪本薬品工業（株）製）などを例示できる。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡに加えて、構成脂肪酸として炭素数が２０以上の飽和脂肪酸を多く含むポリグリセリン脂肪酸エステルＢをさらに含有することが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルＢを配合することによって、ホイップドクリームの冷凍及び解凍後にひび割れや亀裂が生じるのを、より良く抑制することができる。当該ポリグリセリン脂肪酸エステルＢは、具体的には、その構成脂肪酸全体中における炭素数が２０以上の飽和脂肪酸の含有量が９０～１００重量％のものである。当該炭素数が２０以上の飽和脂肪酸の含有量は９５～１００重量％であることが好ましい。前記ポリグリセリン脂肪酸エステルＢの市販品としては、「ＳＹグリスター　ＤＤＢ－７５０」（阪本薬品工業（株）製）、「ポエムＪ－４６Ｂ」（理研ビタミン（株）製）などを例示できる。

　前記ポリグリセリン脂肪酸エステルＢの含有量は、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物の油相全体中０．０５～１重量％であることが好ましく、０．１～０．９重量％がより好ましく、０．３～０．８重量％がさらに好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルＢの含有量が０．０５重量％より少ないと、これを配合することによる効果を十分に得ることができず、１重量％より多いとホイップドクリームの口溶けが悪くなる場合がある。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を多く含む乳化剤を含有するものである。具体的には、該乳化剤の構成脂肪酸全体中における不飽和脂肪酸の含有量は６０～１００重量％であり、好ましくは８０～１００重量％である。該乳化剤としては、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、これらの分画レシチン、これらを酵素分解したリゾレシチン等の改質レシチンなどの各種レシチンや、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。前記乳化剤の市販品としては、各種レシチンの他、ポリグリセリン脂肪酸エステルである「ＳＹグリスターＭＯ－５Ｓ」（阪本薬品工業（株）製）などを例示できる。

　前記構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を多く含む乳化剤の含有量は、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中０．０５～０．５重量％であり、０．１～０．４重量％が好ましく、０．１～０．３重量％がより好ましい。前記乳化剤の含有量が０．０５重量％未満であると、起泡性水中油型乳化油脂組成物のホイップ性が劣る場合があり、０．５重量％を超えると、ホイップドクリームの風味が損なわれる場合がある。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、前述したもの以外の他の乳化剤、増粘剤、糖類、乳原料、呈味剤、着色料、香料、塩類、ビタミン類、ミネラル類、油溶性酸化防止剤、その他の食品成分を含有してもよい。

　前記他の乳化剤としては、炭素数１６及び炭素数１８の飽和脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体中６重量％未満又は２５重量％を超えるポリグリセリン脂肪酸エステル、炭素数２０以上の飽和脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体中５５重量％未満又は８５重量％を超えて９０重量％未満であるポリグリセリン脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体中６０重量％未満のポリグリセリン脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体中６０重量％未満のショ糖脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体中６０重量％未満のソルビタン脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体中６０重量％未満のプロピレングリコール脂肪酸エステル等の合成乳化剤などが挙げられる。これらの中から１種のみを用いてもよいし、２種以上を用いてもよい。

　前記増粘剤としては、例えば、ジェランガム、グアガム、キサンタンガム、寒天、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、結晶セルロース、微結晶セルロース、澱粉、デキストリン等を挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも１種を使用することができる。

　前記糖類としては、例えば、ブドウ糖、砂糖、果糖、異性化糖、澱粉糖化物、デキストリン、澱粉又は糖アルコール等を挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも１種を使用することができる。

　前記乳原料としては、カゼイン、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、脱脂粉乳、乳糖、トータルミルクプロテイン、脱脂乳、脱脂濃縮乳、ホエー等を用いてもよく、さらに、ＵＦ膜やイオン交換樹脂処理等により蛋白質を分離、分画したものや、カゼインナトリウムやカゼインカリウムのようなカゼイン塩が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも１種を使用することができる。

　前記呈味剤としては、前記乳原料を酵素分解、加熱、分離、分画等をしたものが挙げられ、これらの群より少なくとも１種を使用することができる。

　前記着色料としては、天然成分や人工成分に関わらず、食品用途として使用できるものが挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも１種を使用することができる。

　前記香料としては、天然成分や人工成分に関わらず、食品用途として使用できるものが挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも１種を使用することができる。

　前記塩類としては、一般に食品に用いられている塩類であれば特に制限はなく、例えば、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、乳酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸３ナトリウム、リン酸水素２ナトリウムなどが挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも１種を使用することができる。

　前記ビタミン類としては、ビタミンＡ、ビタミンＢ群、ビタミンＣ、ビタミンＤ、ビタミンＥ、ビタミンＫを主成分とする食品用途として使用できるものが挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも１種を使用することができる。

　前記ミネラル類としては、亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、銅、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ヨウ素、リンが挙げられ、これらの成分を含む食品及び食品添加物に分類されるものを少なくとも１種使用することができる。

　前記油溶性酸化防止剤としては、ビタミンＥ、ローズマリー抽出物等の抗酸化成分を主成分とする食品用途として使用できるものが挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも１種を使用することができる。

　本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、以下に例示する。まず、５０～７０℃に加温溶融した油脂に、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ、必要に応じてポリグリセリン脂肪酸エステルＢ、必要に応じて前記不飽和脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体中６０～１００重量％である乳化剤であって油溶性のもの、及び、必要に応じてこれら以外の油溶性乳化剤、油溶性香料等の油溶性原料を混合し、該混合物を５０～７０℃に維持しながら攪拌し、油相を調製する。

　また、５０～７０℃の温水に、必要に応じて前記不飽和脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体中６０～１００重量％である乳化剤であって水溶性のもの、必要に応じてこれ以外の水溶性乳化剤、蛋白質、塩類、香料、増粘剤、呈味剤、糖類、乳原料、着色料、ビタミン類、ミネラル類などの水溶性原料を混合し、５０～７０℃に維持しながら攪拌し、水相を調製する。

　そして、水相を攪拌しながらそこへ油相を添加して、予備乳化する。その後、微細化、均質化、予備加熱、殺菌、１次冷却、均質化、２次冷却、３次冷却、エージングなど、起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造時に常法として行われる各処理を行うことにより、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。なお、原材料に生クリームを使用する場合、生クリームを前記水相に添加してから、前記のように常法に従って起泡性水中油型乳化油脂組成物を作製しても良いし、前記のように常法に従って作製した水中油型乳化油脂組成物と生クリームを混合して、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物を作製しても良い。

　そして、得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物を、オープン式ホイッパーや密閉式連続ホイップマシンを用いて、トッピング、ナッペ、サンド等の使用目的に沿った適度な硬さに到達するまでホイップすることで、本発明のホイップドクリームが得られる。

　本発明のホイップドクリームは、スポンジケーキ、ブッセ、クッキー、ビスケット等の菓子類に代表される食品のナッペ用、トッピング用、又はサンド用等のホイップドクリームとして好適に使用することができる。

　本発明のホイップドクリームは冷凍及び解凍後にもひび割れや亀裂が生じにくく、風味及び口溶けが良好で、コクがあり、みずみずしい食感が得られることから、本発明のホイップドクリームを含む食品は、冷凍食品として好適に用いることができる。該食品を冷凍する時の温度は、特に限定されないが、例えば－４０℃～－１０℃であってよく、好ましくは－３０～－１５℃であり、より好ましくは－２５℃～－１５℃である。冷凍して保存する際の時間も特に限定されないが、１日～１８０日程度であってよい。

　以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「％」は重量基準である。

　＜実施例及び比較例で使用した原料＞
１）（株）カネカ製「パーム核油」（上昇融点：２７℃、トランス脂肪酸：０重量％、炭素数１２の飽和脂肪酸：４４．９重量％、総飽和脂肪酸：７９．５重量％）
２）（株）カネカ製「パーム油中融点部」（Ｓ２Ｕ型トリグリセリド：６５．８重量％、トランス脂肪酸：０．１重量％、炭素数１２の飽和脂肪酸：０．２重量％、総飽和脂肪酸：５４．９重量％）
３）（株）カネカ製「パームオレイン」（Ｓ２Ｕ型トリグリセリド：４７．４重量％、トランス脂肪酸：０．２重量％、総飽和脂肪酸：４５．９重量％）
４）（株）カネカ製「ハイエルシン菜種極度硬化油」（トランス脂肪酸：０重量％、総飽和脂肪酸：９９．９重量％）
５）阪本薬品工業(株）製「ＣＶ－２３」（構成脂肪酸全体中、飽和脂肪酸：９９．９重量％、炭素数１６及び炭素数１８の飽和脂肪酸：８．８重量％、炭素数２０以上の飽和脂肪酸：８０．３重量％）
６）阪本薬品工業(株）製「ＣＶ－１Ｌ」（構成脂肪酸全体中、飽和脂肪酸：９９．９重量％、炭素数１６及び炭素数１８の飽和脂肪酸：１９．９重量％、炭素数２０以上の飽和脂肪酸：６３．９重量％）
７）ＡＤＭ(株)製「Ｙｅｌｋｉｎ　ＴＳ」（構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸：７８．９重量％）
８）阪本薬品工業(株)製「ＳＹグリスターＭＳ-３Ｓ」
９）よつ葉乳業（株）製「脱脂粉乳」
１０）ＦｒｉｅｓｌａｎｄＣａｍｐｉｎａ　ＤＭＶ社製「カゼインカリウムＳＰＲＡＹ」
１１）ＨＩＬＭＡＲ社製「ラクトースＨＩＬＭＡＲＦＩＮＥＧＲＡＩＮＤ」
１２）阪本薬品工業(株)製「ＳＹグリスターＭＳ－５Ｓ」
１３）阪本薬品工業(株)製「ＳＹグリスターＭＯ－５Ｓ」（構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸：７０重量％）
１４）阪本薬品工業(株)製「ＤＤＢ－７５０」（構成脂肪酸全体中の炭素数２０以上の飽和脂肪酸：９５．７重量％）
１５）理研ビタミン(株)製「ポエムＪ－４６Ｂ」（構成脂肪酸全体中の炭素数２０以上の飽和脂肪酸：９７．７重量％）
１６）理研ビタミン(株)製「ポエムＤＳ１００Ａ］
１７）理研ビタミン(株)製「ポエムＤＰ－９５ＲＦ」
１８）阪本薬品工業(株)製「ＳＹグリスターＭＳ－３Ｓ」
１９）阪本薬品工業(株)製「ＳＹグリスターＴＳ－３Ｓ」
２０）よつ葉乳業（株）製「無塩バター」（よつ葉バター（食塩不使用）を溶解し、遠心分離して水相部を除去して得たバターオイル、上昇融点：３０℃）
２１）明治乳業（株）製「明治フレッシュクリーム４５（乳脂肪含量４５％）」

　＜ホイップドクリームの解凍後の外観評価＞
　実施例および比較例で得られた各ホイップドクリームをスポンジケーキにナッペ及びトッピングし、全体を冷凍した後に解凍したスポンジケーキにおけるホイップドクリームの外観を目視で観察し、ヒビ割れのなさを評価した。その際の評価基準は、以下の通りであった。

　（ヒビ割れのなさ）
　５点：実施例４のホイップドクリームよりも非常に良好で、解凍後にナッペ表面、トッピングどちらにもヒビ割れ・亀裂がない。解凍前と比較して状態変化がない。
　４点：実施例４のホイップドクリームよりも良好で、解凍後にナッペ表面、トッピングどちらかに微細なヒビ割れ・亀裂がある。
　３点：実施例４のホイップドクリームと同等で、解凍後にナッペ表面、トッピングどちらにも微細なヒビ割れ・亀裂がある。
　２点：実施例４のホイップドクリームよりも悪く、解凍後にナッペ表面、トッピングどちらかに大きなヒビ割れ・亀裂がある。
　１点：実施例４のホイップドクリームよりも非常に悪く、解凍後にナッペ表面にスポンジが露出するほどのヒビ割れがある。トッピングに大きな亀裂が生じ、形状が崩壊している。

　＜ホイップドクリームの官能評価＞
　実施例および比較例で得られた各ホイップドクリームをスポンジケーキにナッペ及びトッピングし、全体を冷凍した後に解凍したスポンジケーキにおけるホイップドクリームを、熟練した１０人のパネラーに試食してもらい、風味、口溶け、コク、及びみずみずしさの観点で各人が官能評価を行い、その評価点の平均値を官能評価の評価値として各表に記載した。その際の評価基準は以下の通りであった。なお、風味に関しては、冷凍する前のスポンジケーキにおけるホイップドクリームについても同様に試食してもらい、冷解凍前後での風味の変化を評価した。

　（風味）
　５点：実施例４のホイップドクリームよりも非常に良好で、冷解凍前後で乳風味の変化を感じない。
　４点：実施例４のホイップドクリームより良好で、冷解凍前後で乳風味の変化を僅かに感じる。
　３点：実施例４のホイップドクリームと同等で、冷解凍前後で乳風味の変化を感じる。
　２点：実施例４のホイップドクリームよりも悪く、解凍後は乳風味を僅かにしか感じない。
　１点：実施例４のホイップドクリームよりも非常に悪く、解凍後は乳風味を感じない。

　（口溶け）
　５点：実施例４のホイップドクリームよりも非常に良好で、冷凍による水分の昇華や劣化を感じず、また油っぽさがなく口溶けが極めて良好である。
　４点：実施例４のホイップドクリームよりも良好で、冷凍による水分の昇華や劣化を僅かに感じるが、口溶けは良好である。
　３点：実施例４のホイップドクリームと同等で、冷凍による水分の昇華や劣化を感じるが、口溶けの悪さは感じない。
　２点：実施例４のホイップドクリームよりも悪く、冷凍による水分の昇華や劣化を感じ、更に油っぽさがあり、口溶けの悪さを感じる。
　１点：実施例４のホイップドクリームよりも非常に悪く、冷凍による水分の昇華や劣化を強く感じ、更に油っぽく、口溶けが極めて悪く感じる。

　（コク）
　５点：実施例４のホイップドクリームよりも良好で、コクを強く感じる。
　４点：実施例４のホイップドクリームと同等で、コクを感じる。
　３点：実施例４のホイップドクリームよりもやや悪く、コクがやや弱く感じる。
　２点：実施例４のホイップドクリームよりも悪く、コクが弱く感じる。
　１点：実施例４のホイップドクリームよりも非常に悪く、コクを感じない。

　（みずみずしさ）
　５点：実施例４のホイップドクリームよりも非常に良好で、冷凍による水分昇華を感じず、食感が極めて滑らかで、みずみずしい。
　４点：実施例４のホイップドクリームよりも良好で、冷凍による水分昇華を僅かに感じるが、食感は滑らかで、みずみずしい。
　３点：実施例４のホイップドクリームと同等で、冷凍による水分昇華を感じ、食感は滑らかではないが、みずみずしく感じる。
　２点：実施例４のホイップドクリームよりも悪く、冷凍による水分昇華を感じ、更に食感にパサつきがあり、みずみずしさに欠ける。
　１点：実施例４のホイップドクリームよりも非常に悪く、冷凍による水分昇華を強く感じ、更に食感にパサつきがあり、みずみずしくない。

　（総合評価）
　Ａ：ホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、コク、口溶け、みずみずしさの評価値が全て４．０点以上５．０点以下を満たすもの。
　Ｂ：ホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、コク、口溶け、みずみずしさの評価値が全て３．５点以上５．０点以下であって、且つ３．５以上４．０未満が少なくとも一つあるもの。
　Ｃ：ホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、コク、口溶け、みずみずしさの評価値が全て３．０点以上５．０点以下であって、且つ３．０以上３．５未満が少なくとも一つあるもの。
　Ｄ：ホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、コク、口溶け、みずみずしさの評価値が全て２．０点以上５．０点以下であって、且つ２．０以上３．０未満が少なくとも一つあるもの。
　Ｅ：ホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、コク、口溶け、みずみずしさの評価において、２．０未満が少なくとも一つあるもの。

　（製造例１）パーム油とパーム核オレインのランダムエステル交換油の作製
　パーム油（株式会社カネカ製）：５０重量部及びパーム核オレイン（株式会社カネカ製）：５０重量部を混合し、９０℃、真空下で脱水を行った。そこへナトリウムメチラート（東ソー株式会社製）：０．３重量部を加え、９０℃、窒素気流下で３０分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗した。次に、活性白土（水澤化学工業株式会社製）：３．０重量部を加え、減圧下で攪拌して２０分後に全量濾過してエステル交換油脂Ａを得た。

　（実施例１）起泡性水中油型乳化物及びホイップドクリームの作製
　表１の配合に従い、パーム核油３．６５重量部、パーム中融点部分別油２０．０重量部、パームオレイン１２．８５重量部およびハイエルシン菜種極度硬化油０．５重量部を配合してなる油脂成分に、大豆レシチン０．２０重量部、テトラグリセリンモノステアリン酸エステル０．０６重量部、及び、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１（構成脂肪酸全体中、飽和脂肪酸：９９．９重量％、炭素数１６及び炭素数１８の飽和脂肪酸：８．８重量％、炭素数２０以上の飽和脂肪酸：８０．３重量％）０．０３７重量部を添加し、６５℃で溶解して油相部を作製した。このとき、油相部の油脂の構成脂肪酸全体中の含有量は、トランス脂肪酸：０．１重量％、総飽和脂肪酸：５４．５重量％であった。

　一方、脱脂粉乳３．７重量部、カゼインカリウム０．５重量部、乳糖１．５重量部、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル０．０５重量部、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル０．０２重量部を、表１の配合と最終的に同じになるように６０℃以上の温水に溶解して水相部を作製した。

　前記の油相部と水相部とを混合して２０分以上予備乳化した後、高周速回転式乳化機（エム・テクニック（株）製「クレアミックス」）を用いて周速３１．４ｍ／ｓの回転速度で微細化した。次いで、高圧ホモジナイザーを用いて１段目：２．０ＭＰａ／２段目：１．０ＭＰａの圧力で処理した後に、プレート式加熱機を用いて９０℃まで予備加熱した後、ＵＨＴ殺菌機（スチームインジェクション）を用いて１４２℃で４秒間殺菌処理した。次に、蒸発冷却せずにプレート式冷却機を用いて６０℃まで冷却し、再び高圧ホモジナイザーを用いて１段目９．０ＭＰａ／２段目３．０ＭＰａの圧力で処理し、その後、プレート式冷却機で５℃まで冷却したものを容器に充填し、５℃の冷蔵庫で２４時間保管し、起泡性水中油型乳化物を得た。

　得られた起泡性水中油型乳化物４ｋｇとグラニュー糖４００ｇをボールに入れ、カントーミキサー（関東混合機工業（株）製「ＣＳ型２０」）を用いて、高速撹拌条件（３８０ｒｐｍ）でホイップし、最大荷重が０．３０Ｎのホイップドクリームを調製した。

　６号スポンジケーキにホイップドクリームをナッペの厚さ１～２ｍｍに塗布し、上面にトッピングを施し、ホールケーキを作製した。作製したホールケーキを紙製装飾箱に梱包し、ビニール袋で密閉したものを－２０℃の冷凍庫にて１４日間保管し、冷凍ケーキを作製した。解凍前の冷凍ケーキにおけるホイップドクリームの表面にヒビ割れがないことを確認し、１５℃にて１２時間静置してケーキの解凍を実施した。得られた解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの外観評価及び官能評価を行った。得られた評価結果は、表１に示した。

　（実施例２及び３、比較例１及び２）起泡性水中油型乳化物及びホイップドクリームの作製
　表１の配合に従い、実施例１において、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１の配合量を変更し、添加水で全体量を調整した以外は、実施例１と同様にして起泡性水中油型乳化物を得た。得られた起泡性水中油型乳化物を用いて、実施例１と同様にして、ホイップドクリームを調製し、次いで冷凍ケーキを作製した。解凍前の冷凍ケーキにおけるホイップドクリームの表面の外観を確認し、実施例１と同様に、解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの外観評価及び官能評価を行った。得られた評価結果は、表１に示した。

　表１から明らかなように、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１の含有量が油相全体中０．１～１．０重量％の範囲にあるホイップドクリーム（実施例１～３）は、解凍前の冷凍ケーキにおけるホイップドクリームの表面のヒビ割れがなく、冷解凍後のケーキにおけるホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、口溶け、コク、みずみずしさは、何れも良好であった。一方、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１を添加しなかったホイップドクリーム（比較例１）は、冷凍後で解凍前のケーキにおけるホイップドクリームにヒビ割れがあって、トッピングに大きな亀裂が生じ、形状が崩壊しており、解凍後はさらにひどくなった。また解凍後においては、乳風味を殆んど感じず、食感もパサつきがあってみずみずしさがなかった。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１の含有量が油相全体中１．４７重量％のホイップドクリーム（比較例２）は、解凍後の口溶けが悪かった。

　（実施例４）起泡性水中油型乳化物及びホイップドクリームの作製
　表１の配合に従い、実施例２において、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１を、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸の含有量が９９．９重量％、炭素数１６及び炭素数１８の飽和脂肪酸の合計含有量が１９．９重量％、炭素数２０以上の飽和脂肪酸の含有量が６３．９重量％のポリグリセリン脂肪酸エステルＡ２に変更した以外は、実施例２と同様にして起泡性水中油型乳化物を得た。得られた起泡性水中油型乳化物を用いて、実施例２と同様にして、ホイップドクリームを調製し、次いで冷凍ケーキを作製した。解凍前の冷凍ケーキにおけるホイップドクリームの表面のヒビ割れがないことを確認し、実施例２と同様に、解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの外観評価及び官能評価を行った。得られた評価結果は、表１に示した。

　表１から明らかなように、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ２を添加したホイップドクリーム（実施例４）は、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１を用いた実施例２の結果よりは劣るものの、比較例１の結果と比べると、冷解凍後のケーキにおけるホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、口溶け、コク、みずみずしさは、何れも良好であった。

　（実施例５～８）起泡性水中油型乳化物及びホイップドクリームの作製
　表２の配合に従い、実施例２において、構成脂肪酸全体中に炭素数２０以上の飽和脂肪酸を９５．７重量％含有するデカグリセリンドデカベヘン酸エステル（ポリグリセリン脂肪酸エステルＢ）を、添加量を変えて配合し、その配合量に合わせて添加水で全体量を調整した以外は、実施例２と同様にして起泡性水中油型乳化物を得た。得られた起泡性水中油型乳化物を用いて、実施例２と同様にして、ホイップドクリームを調製し、次いで冷凍ケーキを作製した。解凍前の冷凍ケーキにおけるホイップドクリームの表面のヒビ割れがないことを確認し、実施例２と同様に、解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの外観評価及び官能評価を行った。得られた評価結果は、表２に示した。

　表２から明らかなように、デカグリセリンドデカベヘン酸エステル（ポリグリセリン脂肪酸エステルＢ）を油相全体中に０．０５～１．０重量％の範囲で配合したホイップドクリーム（実施例５～８）は、冷解凍後のケーキにおけるホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、口溶け、コク、みずみずしさは、何れも非常に良好であった。

　（実施例９）起泡性水中油型乳化物及びホイップドクリームの作製
　表２の配合に従い、実施例８において、デカグリセリンドデカベヘン酸エステル（ポリグリセリン脂肪酸エステルＢ）を、構成脂肪酸全体中に炭素数２０以上の飽和脂肪酸を９７．７重量％含有するテトラグリセリンヘキサベヘン酸エステル（ポリグリセリン脂肪酸エステルＢ）に変更した以外は、実施例８と同様にして起泡性水中油型乳化物を得た。得られた起泡性水中油型乳化物を用いて、実施例８と同様にして、ホイップドクリームを調製し、次いで冷凍ケーキを作製した。解凍前の冷凍ケーキにおけるホイップドクリームの表面のヒビ割れがないことを確認し、実施例８と同様に、解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの外観評価及び官能評価を行った。得られた評価結果は、表２に示した。

　表２から明らかなように、テトラグリセリンヘキサベヘン酸エステル（ポリグリセリン脂肪酸エステルＢ）を添加したホイップドクリーム（実施例９）は、実施例８のホイップドクリームと同様に、冷解凍後のケーキにおけるホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、口溶け、コク、みずみずしさは、何れも非常に良好であった。

　（比較例３～６）　起泡性水中油型乳化物及びホイップドクリームの作製
　表２の配合に従い、実施例２において、油相部に溶解しているポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１を、構成脂肪酸の７０重量％以上がステアリン酸又はパルミチン酸のポリグリセリン脂肪酸エステルに変更し、これを水相部に溶解した以外は、実施例２と同様にして起泡性水中油型乳化物を得た。得られた起泡性水中油型乳化物を用いて、実施例２と同様にして、ホイップドクリームを調製し、次いで冷凍ケーキを作製した。解凍前の冷凍ケーキにおけるホイップドクリームの表面のヒビ割れがないことを確認し、実施例２と同様に、解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの外観評価及び官能評価を行った。得られた評価結果は、表２に示した。

　表２から明らかなように、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１を配合した実施例２のホイップドクリームは、冷解凍後のケーキにおけるホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、口溶け、コク、みずみずしさが何れも非常に良好であったのに対して、構成脂肪酸の７０重量％以上がステアリン酸又はパルミチン酸のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合したホイップドクリーム（比較例３～６）は、何れも冷解凍後のケーキにおけるホイップドクリームに大きなヒビ割れと亀裂が見られた。特に、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１を配合した実施例２のホイップドクリームでは冷解凍後にも十分なコクが感じられたが、構成脂肪酸の７０重量％以上がステアリン酸又はパルミチン酸のジグリセリン脂肪酸エステルを配合したホイップドクリーム（比較例３及び４）は、冷解凍後のコクも不足していた。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルＡ１を配合した実施例２のホイップドクリームでは十分なみずみずしさが感じられたが、構成脂肪酸の７０重量％以上がステアリン酸のテトラグリセリン脂肪酸エステルを配合したホイップドクリーム（比較例５及び６）は、冷解凍後の食感にパサつきがあり、みずみずしさにも欠けていた。

　（実施例１０）　起泡性水中油型乳化物及びホイップドクリームの作製
　表３の配合に従い、実施例２において、４種類の油脂の配合比率は同じで、合計の配合量を３７．０重量％から１８．５重量％に減らし、その代わりに乳脂肪（バターオイル）を１８．５重量％配合した以外は、実施例２と同様にして起泡性水中油型乳化物を得た。得られた起泡性水中油型乳化物を用いて、実施例２と同様にして、ホイップドクリームを調製し、次いで冷凍ケーキを作製した。解凍前の冷凍ケーキにおけるホイップドクリームの表面のヒビ割れがないことを確認し、実施例２と同様に、解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの外観評価及び官能評価を行った。得られた評価結果は、表３に示した。

　（実施例１１）　起泡性水中油型乳化物及びホイップドクリームの作製
　表３の配合に従い、実施例２において、４種類の油脂の配合比率は同じで、合計の配合量を３７．０重量％から１８．５重量％に減らし、その代わりに乳脂肪が１８．５重量％になるように生クリームを水相部に配合し、水分量を調整した以外は、実施例２と同様にして起泡性水中油型乳化物を得た。得られた起泡性水中油型乳化物を用いて、実施例２と同様にして、ホイップドクリームを調製し、次いで冷凍ケーキを作製した。解凍前の冷凍ケーキにおけるホイップドクリームの表面のヒビ割れがないことを確認し、実施例２と同様に、解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの外観評価及び官能評価を行った。得られた評価結果は、表３に示した。

　表３から明らかなように、乳脂肪を配合したホイップドクリーム（実施例１０及び１１）は、冷解凍後のケーキにおけるホイップドクリームのヒビ割れのなさ、風味、口溶け、コク、みずみずしさが何れも極めて良好であった。特に乳脂肪を含む成分として生クリームを配合したホイップドクリーム（実施例１１）の風味は最も優れていた。

　（比較例７）　起泡性水中油型乳化物及びホイップドクリームの作製
　表３の配合に従い、実施例２において、油脂の組成を、パーム核油３．７０重量部、パーム中融点部分別油２０．３５重量部、及び、製造例１で得たエステル交換油脂１２．９５重量部に変更した以外は、実施例２と同様にして起泡性水中油型乳化物を得た。得られた起泡性水中油型乳化物を用いて、実施例２と同様にして、ホイップドクリームを調製し、次いで冷凍ケーキを作製した。解凍前の冷凍ケーキにおけるホイップドクリームの表面のヒビ割れがないことを確認し、実施例２と同様に、解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの外観評価及び官能評価を行った。得られた評価結果は、表３に示した。

　表３から明らかなように、エステル交換油脂を配合していないホイップドクリーム（実施例２）は、冷解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの口溶けが良好で、コクが十分に感じられたのに対して、エステル交換油脂を配合したホイップドクリーム（比較例７）は、冷解凍後のケーキにおけるホイップドクリームの口溶けが悪く、コクが弱かった。

Claims

　起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、油脂の含有量が２５～５０重量％で、水分量が４５～７０重量％であり、
　前記油脂全体中、ラウリン系油脂を３～５０重量％と、Ｓ２Ｕを４５～７０重量％含むパーム系油脂を４０～９０重量％とを含有し、エステル交換油脂の含有量が１重量％未満であり、
　前記油脂の構成脂肪酸全体中、トランス脂肪酸の含有量は１重量％未満で、飽和脂肪酸の含有量は４７～６５重量％であり、
　ポリグリセリン脂肪酸エステルＡの構成脂肪酸全体中、飽和脂肪酸の含有量は９５～１００重量％で、炭素数１６及び炭素数１８の飽和脂肪酸を６～２５重量％と、炭素数２０以上の飽和脂肪酸を５５～８５重量％とを含むポリグリセリン脂肪酸エステルＡを、油相全体中０．１～１重量％含有し、
　不飽和脂肪酸の含有量が乳化剤の構成脂肪酸全体中６０～１００重量％の乳化剤を、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中０．０５～０．５重量％含有する、起泡性水中油型乳化油脂組成物。
　さらに、炭素数が２０以上の飽和脂肪酸の含有量がポリグリセリン脂肪酸エステルＢの構成脂肪酸全体中９０～１００重量％であるポリグリセリン脂肪酸エステルＢを、油相全体中０．０５～１重量％含有する、請求項１に記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物。
　さらに、乳脂肪を、前記油脂全体中５～５０重量％含有する、請求項１又は２に記載の起泡性水中油型乳化油脂組物。
　前記乳脂肪が、生クリーム由来の乳脂肪である、請求項３に記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物。
　請求項１～４の何れか１項に記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物がホイップされたホイップドクリーム。
　請求項５に記載のホイップドクリームがナッペ、トッピング、又はサンドされた食品。
　－４０℃～－１０℃で冷凍された請求項６に記載の食品。