JP4239278B2 - 水中油型乳化物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水中油型乳化物に関し、詳しくは乳味の付与された水中油型乳化物であって、通常のクリームとしての他、酸性の原材料即ち果実、果汁、ヨーグルト、各種の酸味量等をホイップ操作の段階で混合しても、クリームが増粘、固化することなく、ホイップしてもオーバーランが低下せず、ホイップ後のシマリモドリのない耐酸性の水中油型乳化物に関する。
【0002】
【従来の技術】
アイスクリームやケーキ等に使用されるホイップクリームなどの起泡性クリーム、あるいはコーヒークリーム等の水中油型乳化物は、複数の乳化剤や安定剤である無機化合物を使用するのが一般的である。例えば、ホイップクリームの一つである植物性クリームは、水、植物性油脂、無脂乳固形分、各種乳化剤、および安定剤である無機化合物などから成り、予備乳化、均質化、殺菌、均質化、冷却、エージングにより製造される。
【0003】
これらの植物性クリームは通常は生クリームと同様に中性である為、クリーム製造においては安定的に調製が可能であるという利点があるが、風味の面ではクリームのPHを変化させないために、生クリーム様の風味の他、チョコレート等に限定されることから、風味が画一的になるという欠点があった。
【0004】
このような状況下において、最近特に嗜好が多様化し、植物性のホイップクリームに於いても各種の果実、果汁、ヨーグルト、各種の酸味量により酸味を有する原材料を配合した、清涼感の高い酸性のホイップクリームが切に望まれている。
【0005】
しかしながら、これらの植物性クリームに対してそのPHを変化させる様な酸性物質(たとえば果汁等)を添加するとクリーム自体のPHも変化してしまい、クリーム中に含まれる蛋白質の凝集が生じ、エマルジョンが合一しやすくなり、著しい増粘及び固化(ボテ)、ならびにホイップ機能の低下等の望ましからざる現象が生じてしまう。また、酸性物質の添加量や酸度の違いにより、たとえホイップが可能であったとしてもオーバーランが低下したり、ホイップ後のクリームがシマリやすく、経時的にクリームが硬くなり、組織があれて商品価値の低下を招いてしまう現象が生じ、酸性にする前の中性のクリームのようなクリーム本来のホイップ機能が消失してしまうという欠点がある。
【0006】
近年では、先述の様にこれら風味の面でも多種類の風味付けが可能であるクリームが求められている一方で、通常のクリームと同様に乳味を有しながら使用可能でかつ酸性条件においてもクリーム本来の有するホイップ機能を発現できるいわゆる中性、酸性両用のクリーム、即ち耐酸性クリームが切望されている。
【0007】
耐酸性クリームに関しては、酵素処理した乳清蛋白質を使用する方法(特開平7ー79699号)や、2種以上のリン酸塩を使用する方法(特開平7ー274824)等が提案されている。しかしながらこれらの方法では、酸性時にホイップクリームが増粘したり、またホイップすることは出来てもオーバーランが低く、ホイップ後の保形性やシマリの問題が残るなど機能的に十分とは言えない。
また、技術的に中性と酸性の両用を目的とすると、中性での乳味の付与目的から無脂乳固形分の添加が必須となり逆に添加すると酸性条件下でのそれらの凝集が避けられず、乳味の付与と耐酸性の両立した新規な耐酸性クリームが切望されているが未だその様な耐酸性の強いクリームは上市されていないのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、乳味の付与された水中油型乳化物であって、通常のクリームとしての他、酸性の原材料即ち果実、果汁、ヨーグルト、各種の酸味量等をホイップ操作の段階で混合しても、クリームが増粘、固化することなく、ホイップしてもオーバーランが低下せず、ホイップ後のシマリモドリのない耐酸性の水中油型乳化物すなわち耐酸性クリームを提供することである。
【課題を解決する為の手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究した結果、乳清蛋白質を特定量使用し且つリン酸塩及びクエン酸塩の添加量を著しく減量することにより、良好な耐酸性クリームを製造することができることを見出し本発明を完成したものである。
【発明実施の形態】
【0010】
【発明実施の形態】
即ち本発明は、40〜80重量%の水相と、20〜60重量%の油相から成る水中油型乳化物であって、0.05〜10重量%の乳清蛋白質、0.2〜5重量%の脱脂乳固形を含み、カゼインのアルカリ金属塩は無添加であり、リン酸塩およびクエン酸塩の総重量が0.01重量%未満であり、卵黄油、酵素処理卵黄油及び乳化剤の1種又は2種以上を当該乳化物全量に対して計0.05〜10重量%含み、中性、酸性両用であることを特徴とする水中油型乳化物である。
【0011】
本発明で使用される油脂原料として例えば、菜種油、大豆油、ひまわり種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の植物性油脂ならびに乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂が例示でき、上記油脂類の単独または混合油あるいはそれらの硬化分別油、ならびに酵素エステル交換、触媒によるランダムエステル交換等を施した加工油脂(融点15から〜40℃程度のもの)が使用できる。油脂量としては20〜60重量%が好ましい。
【0012】
また、脱脂乳固形はクリームに乳味感を付与するのに重要であり、クリーム全体に対し0.5〜5重量%、好ましくは2〜4重量%程度使用する。脱脂乳固形には、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳が使用できる。しかしながら、たとえ乳味付与の目的であってもカゼインのアルカリ金属塩(カゼインナトリウム、カゼインカリウム等)を含むものは酸性での凝集を促進する傾向にあり、本発明の乳清蛋白量より少ない添加量が望ましく、より効果を発現させる為には本発明の乳清蛋白量の2割以下または無添加にするのがより好ましい。
【0013】
乳清蛋白質は、生乳や脱脂粉乳からチーズや酸カゼイン、レンネットカゼインを製造する際のカードの上清中に存在する蛋白質の総称であり、通称名で乳清蛋白質あるいはラクトアルブミンとも呼ぶ。本発明においては市販のホエー蛋白あるいはラクトアルブミンなどが使用でき、またそれらの濃縮物(WPC)や分離物(WPI)なども、使用できる。また、乳清蛋白質の主成分であるβーラクトグロブリンやαーラクトアルブミンを含む脱脂粉乳のUF膜並びに電気透析物である乳蛋白濃縮物や乳蛋白分離物も使用可能である。その添加量は0.05〜10重量%の範囲中で使用する必要があり、下限未満では効果を得難く、逆に上限を越えると乳清蛋白質による風味が強くなる傾向にある為、好ましくない。
【0014】
卵黄油は一般には生卵黄に抽出溶剤を加えて抽出、濾過して卵黄蛋白質を除去した後、溶剤を完全に除去して抽出卵黄油を得、これを乾燥して水分を除去することにより得られ、中性脂肪を約70〜80重量%、リン脂質を約20〜30重量%含有する卵黄色、卵黄臭を有する液体であって、市販品を容易に入手し使用できる。尚、リン脂質中にはフォスファチジルコリンもしくはリゾフォスファチジルコリンが約80重量%、フォスファチジルエタノールアミンもしくはリゾフォスファチジルエタノールアミンが約20〜25重量%含まれる。卵黄油は、風味がよく、現在の天然指向に合致したものである。
【0015】
また、本発明においては、卵黄油がフォスフォリパーゼやリパーゼ等の酵素で処理した酵素処理卵黄油であっても使用することができる。さらに、これらの卵黄油あるいは酵素処理卵黄油は、乳化物全量に対し0.05〜10重量%使用するのが好ましい。下限未満では効果を得難く、逆に上限を越えて使用すると卵黄の風味が強すぎる様になるため好ましくない。
【0016】
無機化合物は、リン酸のアルカリ金属塩(ヘキサメタリン酸Na,ポリリン酸Naなど)あるいはクエン酸のアルカリ金属塩などがクリームに対し0.1から1重量%程度使用されるのが一般的であるが、本発明に於いては0.01重量%未満であることが望ましい。このような無機塩類などが本発明の脱脂粉乳等と併用添加されると、脱脂粉乳中のカゼインミセル中のカルシウム塩等をキレートし、結果的にカゼインのアルカリ金属塩が生成することになり、そのカゼインが酸性での凝集を促進することから望ましくない。また、これら無機化合物の未使用または低減させた食品の開発は近年の天然指向の高まりにも合致し、風味も改善されることから、機能の発現と共に風味も著しく向上する。
【0017】
尚、本発明においては公知の乳化剤を併用することができ、大豆レシチンや卵黄レシチン、またはそれらの酵素分解物、あるいは蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコールエステル、モノグリセリド、有機酸モノグリセリドなどのいわゆる合成乳化剤を併用しても良い。中でもHLBの高いポリグリセリン脂肪酸エステルは卵黄油、酵素処理卵黄油と同様に酸性での乳化力が高くより望ましい。
【0018】
また、本発明の水中油型乳化物は、所望により、他の蛋白成分、生クリーム、各種練乳、糖類、多糖類(ペクチン等)の増粘剤、フレーバー、エッセンス類などを含むことができる。
【0019】
尚、本発明を実施するには、油相と脱脂乳固形を含む水相とを、リン酸塩およびクエン酸塩等の安定剤を使用することなく、卵黄油を添加して予備乳化した後、均質化し、超高温瞬間(UHT)殺菌後、要すれば、再均質化し、冷却、エージングして目的とする乳化物を得ることができる。
【0020】
超高温瞬間(UHT)殺菌には、間接加熱方式と直接加熱方式の2種類があり、間接加熱処理する装置としてはAPVプレート式UHT処理装置(APV社製)、CP-UHT滅菌装置(クリマティー・パッケージ社製)、ストルク・チューブラー型滅菌装置(ストルク社製)、コンサーム掻取式UHT滅菌装置(テトラパック・アルファラバル社製)等が例示できるが、特にこれらにこだわるものではない。また、直接加熱式滅菌装置としては、ユーペリゼーション滅菌装置(テトラパック・アルファラバル社製)、VTIS滅菌装置(テトラパック・アルファラバル社製)、ラギアーUHT滅菌装置(ラギアー社製)、パラリゼーター(パッシュ・アンド・シルケーボーグ社製)等のUHT滅菌装置が例示でき、これらの何れの装置を使用してもよい。
【0021】
【実施例】
以下、実施例により本発明の実施様態を具体的に説明するが、本発明のこれらはあくまで例示であって技術範囲を限定するものではない。尚、例中の%は重量基準を意味する。
【0022】
実施例1、2
表1に示す配合組成に従い、油相に脱脂粉乳を加えた水相とを混合し、ホモミキサーにより混合しながら、乳清蛋白質、卵黄油または酵素処理卵黄油を添加し、60℃で30分間予備乳化した。その後、20kgf/cm2の均質化圧力で均質化した後、UHT装置により殺菌を行い、さらに20kgf/cm2の均質化圧力で再均質化した後、プレート冷却装置により、5℃まで冷却、一晩冷蔵庫内(5℃)でエージングしてクリームを調製した。
クリームの評価方法について記す。クリームの粘度はB型粘度計にて行い、ボテテストはホイップ前のクリームを20℃で2時間インキュベートし、その後、ガラス棒にて5分間撹拌したときの可塑化現象の有無を経時的に目視観察により調べ、可塑化した時間を記録した。ホイップは5kgのクリームをカントーミキサー20コートにて8%の砂糖を添加して中高速でホイップし、ホイップタイム、オーバーランを調べた。また、ホイップ後のクリームの硬さ(g/cm2)はレオメーター(不動工業製)にて直径3センチの円盤状のプランジャーを用いて評価した。また、硬さについては1日後(5℃)も測定を行い、シマリ・モドリについて調べた。
酸性条件でのテストは果汁としてパッションフルーツピューレ(タカ食品工業製,加糖タイプ)を2割添加後、同様に8%の砂糖を添加してホイップし、ホイップ物性を調べた。結果を表2に示した。
この配合及び方法により調製されたクリームは実施例1、2共に何も添加しない状態(中性)では乳味が非常にあり、普通となんら変わりない中性クリームのホイップ物性を示した。一方、酸性に於いてもピューレ添加後も粘度変化が、僅かにみられた程度であり、ホイップした際の物性もオーバーランが100前後を示し、ホイップ1日後のクリームの硬さもホイップ直後と同じ程度(70〜100程度)であり、シマリ・モドリのない乳味の付与された耐酸性のクリームであった。
【0023】
【表1】
【0024】
比較例1、2
表1に示す配合組成に従い、実施例1、2に於いてそれぞれ乳清蛋白質の代わりにカゼインNaを同量添加し、他は全て実施例1と同様に実施して乳化物を得、これと実施例1、2で得た乳化物と同様の方法で比較したところ、比較例1では中性では物性は良好であったが、酸性では果汁混合後、著しく増粘し、ボテの発生がみられ酸性条件でホイップすることは不可能であった。比較例2に於いても中性での物性は良好であり、酸性でもホイップは可能であったが、ホイップタイムも短く、オーバーランが低く、経時的なシマリが観察され非常に硬いクリームとなり、酸性での使用には不適であった。(表2)
【0025】
【表2】
【0026】
実施例3、4
表1に示す配合組成に従い、油相に脱脂粉乳を加えた水相とを混合し、ホモミキサーにより混合しながら、乳清蛋白質、卵黄油、ポリグリセリン脂肪酸エステル(MS-310 SYグリスター阪本薬品工業(株)製)、または大豆レシチン(ツルーレシチン工業(株)製)を添加し、70℃で15分間予備乳化した。その後、10kgf/cm2の均質化圧力で均質化した後、UHT装置により殺菌を行い、さらに20kgf/cm2の均質化圧力で再均質化した後、プレート冷却装置により、5℃まで冷却、一晩冷蔵庫内(5℃)でエージングしてクリームを調製した。
クリームの評価方法については実施例1、2記載の条件と同様に評価を行った。結果を表3に示した。
この配合及び方法により調製されたクリームは実施例3,4共に何も添加しない状態(中性)では乳味が非常にあり、普通となんら変わりない中性クリームのホイップ物性を示した。一方、酸性に於いてもピューレ添加後も粘度変化が、殆ど見られず、ホイップした際の物性もオーバーランが100前後を示し、ホイップ1日後のクリームの硬さもホイップ直後と同じ程度(70〜100)であり、シマリ・モドリのない中性・酸性両用可能な耐酸性のあるクリームであった。
【0027】
【表3】
【0028】
実施例5
表1に示す配合組成に従い、油相に脱脂粉乳を加えた水相とを混合し、ホモミキサーにより混合しながら、乳清蛋白質、酵素処理卵黄油、大豆レシチン(ツルーレシチン工業(株)製)を添加し、60℃で30分間予備乳化した。その後、10kgf/cm2の均質化圧力で均質化した後、UHT装置により殺菌を行い、さらに50kgf/cm2の均質化圧力で再均質化した後、プレート冷却装置により、5℃まで冷却、一晩冷蔵庫内(5℃)でエージングしてクリームを調製した。
クリームの評価方法について、実施例1、2記載の条件と同様に評価を行った。結果を表3に示した。
この配合及び方法により調製されたクリームについては何も添加しない通常の状態では普通となんら変化のないホイップ物性を示したのに対して、酸性に於いてもピューレ添加後も粘度変化が、殆ど見られず、ホイップした際の物性もオーバーランが100前後を示し、ホイップ1日後のクリームの硬さもホイップ直後と同じ程度(70〜100)であり、シマリ・モドリのないクリームであった。
【0029】
比較例3、4、5
表1に示す配合組成に従い、実施例5に於いて乳清蛋白質を使用せず、無機塩としてそれぞれヘキサメタリン酸Na、ポリリン酸Na、ピロリン酸Na、を添加、全てに重曹、第二リン酸Naを添加して、他は全て実施例5と同様に実施して乳化物を得、これと実施例5で得た乳化物と同様の方法で比較したところ、比較例3、4、5いづれも中性では物性は良好であったが、酸性では果汁混合後、著しく増粘し、ボテの発生がみられ酸性条件でホイップすることは不可能であった。(表3)
【0030】
比較例6
表1に示す配合組成に従い、実施例5に対し無機塩としてヘキサメタリン酸Na、重曹、第二リン酸Naを添加して、他は全て実施例5と同様に実施して乳化物を得、これと実施例5で得た乳化物と同様の方法で比較したところ、中性では物性は良好であり、酸性でもホイップ可能であったが、ホイップ後のクリームはオーバーランが低く、ホイップ後も経時的にシマリ傾向を示し、酸性での使用は困難であった。(表3)
【発明の効果】
本発明により、乳味が付与されたホイップ可能な水中油型乳化物でありながら、酸性物質を添加した条件下においても通常と同様にホイップ可能でかつ、ホイップ後もシマリやモドリが生じない中性、酸性両用の耐酸性クリームが調製可能である。
Claims (3)
- 40〜80重量%の水相と、20〜60重量%の油相から成る水中油型乳化物であって、0.05〜10重量%の乳清蛋白質、0.2〜5重量%の脱脂乳固形を含み、カゼインのアルカリ金属塩は無添加であり、リン酸塩およびクエン酸塩の総重量が0.01重量%未満であり、卵黄油、酵素処理卵黄油及び乳化剤の1種又は2種以上を当該乳化物全量に対して計0.05〜10重量%含み、中性、酸性両用であることを特徴とする水中油型乳化物。
- 乳清蛋白質がホエー蛋白濃縮物(WPC)、ホエー蛋白分離物(WPI)及びホエー蛋白酵素分解物から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1記載の水中油型乳化物。
- 水中油型乳化物が起泡性クリームである請求項1又は請求項2に記載の水中油型乳化物。
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