フィールドェミッションディスプレイ用結晶化ガラススぺーサ一およびその 製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、破壊の進行に対する抵抗力、すなわち破壊靱性が高ぐかつ適度な表 面抵抗率をもつ結晶化ガラススぺーサ一およびその製造方法、ならびにフィールド ェミッションディスプレイ (電界放出型ディスプレイ。以下、 FEDという。 )に関する。 背景技術
[0002] FEDは、極微小な電子銃 (冷陰極素子)を画素ごとに多数配置し、陰極線管(Cat hode Ray Tube。以下、 CRTという)と同様に、電子銃力も蛍光体へ電子線を放 出して画像を形成する画像表示装置である。
[0003] 電子銃を画素ごとに独立して駆動する FEDは、 CRTと異なり電子ビームを広角度 で走査する必要がないので、 CRTよりはるかに奥行きが薄ぐかつ平坦な画像表示 面を形成できる (たとえば、特許文献 1参照)。特に、 CRTでは実現困難な対角径約 1000mm (約 40インチ)以上の大画面フラットパネルディスプレイとして期待されて!ヽ る。
[0004] FEDにお ヽては、蛍光体を有するアノードパネルと、電子を放出するェミッタを有 するェミッタパネルとが複数のスぺーサーを介して対向しており、アノードパネルとェ ミッタパネルの周囲はガラスペースト(フリットペースト)等の封着剤を用いて封着され ている。
[0005] FEDの内部空間、すなわち対向するアノードパネルとェミッタパネルの間の空間は 典型的には 10_3〜: L0_5Paの高真空状態であり、ェミッタパネルのェミッタ力も前記 空間中に放出された電子はアノードパネルの蛍光体に衝突して電子線励起発光を 起こす。その結果、画素が発色し、画像が形成される。
[0006] 対向するアノードパネルとェミッタパネルとの距離は典型的には l〜2mmであり、そ の距離を大気圧と前記内部空間圧力(たとえば 10一3〜 10_5Pa)との圧力差にかか わらず保持するために、前述の通り複数のスぺーサ一がアノードパネルとェミツタパ
ネルの間に介在して 、る。
[0007] このようなスぺーサ一には精密な寸法精度が要求されることから、ガラススぺーサー を用いる場合には、適度な精度を有する予備成形体をガラス軟化点付近の温度に 加熱して延伸成形する製造方法が提案されている(たとえば特許文献 2参照)。この 製造方法は、リドロー成形法とも呼ばれ、大量のスぺーサーを連続的に成形できる利 点を有している。
[0008] そのうえ、 FEDの高精細化が進むにつれ、スぺーサ一の設置空間が狭くなるため、 より薄 、スぺーサ一が望まれることから、リドロー成形法で製造できるガラス材料がよ り有利となる。
[0009] ガラススぺーサ一については、可動イオンの偏在を防止するために、アルカリ金属 を含有しない組成が適していることが開示されている(特許文献 3参照)。また、ェミツ タカも放出された電子による帯電を防止するために、 Feや Vの元素からなる遷移金 属酸ィ匕物をガラス中に含ませることにより適度な電子伝導性を持たせたスぺーサー が開示されて!ヽる (特許文献 4参照)。
[0010] 特許文献 1 :特開平 7— 230776号公報
特許文献 2:特開 2000— 203857号公報
特許文献 3 :特開 2002— 104839号公報
特許文献 4:特表 2003— 526187号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0011] し力しながら、このようなガラススぺーサーを使用した場合、低い破壊靭性のゆえ、 FEDのパネル組立工程等において、ガラススぺーサ一の取り扱いの際やパネルへ の接着の際にガラススぺーサ一の一部にクラックや欠けが起こり、歩留りを低下させ る問題があった。さらに、前述したように FEDの高精細化のためにスぺーサ一が薄く なると、クラックや欠けが起こる ½率が増免ることち十分予想される。
[0012] 本発明は、ガラススぺーサ一と同様に、適度な電子伝導性を有しつつ、スぺーサー の欠けやクラックを抑止する破壊靭性が高 、結晶化ガラススぺーサ一、およびその 製造方法、ならびに前記結晶化ガラススぺーサーを用いた FEDの提供を目的とする
課題を解決するための手段
[0013] 本発明者は、前述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、 SiO— TiO
2 2 系ガラスを水素ガス雰囲気中、または水素ガスおよび窒素ガスの混合雰囲気中にお いて適度な条件で還元および結晶化のための熱処理 (以下、還元結晶化熱処理と いう)を施すことによって、ガラス中の一部の Tiイオンの価数変化により FED用のスぺ ーサ一に適した所望の抵抗を有しつつ、ガラス中に Tiを含む結晶が析出し破壊靱性 値が高くなることを見出した。
[0014] その結果として、本発明は、下記酸ィ匕物基準のモル百分率表示で本質的に、 SiO
2
: 20〜50%、TiO : 25
2 〜45%、 MgO + CaO + SrO + BaO+ZnO : 20〜50%、 B
2
O +A1 O : 0〜10%、および ZrO : 0〜10%を含有し、主結晶として、 Ba Ti O
3 2 3 2 X 8 16 系結晶(X=0. 8〜1. 5)、 Ba TiSi O系結晶および TiO系結晶のうち少なくとも 1
2 2 8 2
つの結晶を含むことを特徴とするフィールドェミッションディスプレイ用結晶化ガラスス ぺーサ一を提供する。なお、本発明において単にスぺーサ一と記載する場合は、フ ィールドエミッションディスプレイ用結晶化ガラススぺーサーを意味するものとする。
[0015] 前記のスぺーサ一は、破壊靭性値が 0. 7MPa'm1/2以上であることが好ましい。ま た、 20°Cにおける表面抵抗率が 105〜1012 Ωであることが好ましい。そして、さらに前 記のスぺーサ一は、 50〜350°Cにおける平均線膨張係数が、 60 X 10—7〜: L 10 X 1 0_7Z°Cであることが好まし!/、。
[0016] また、本発明は、前記スぺーサ一の製造方法として、下記酸ィ匕物基準のモル百分 率表示で本質的に、 SiO : 20
2 〜50%、TiO : 25
2 〜45%、 MgO + CaO + SrO + Ba
O+ZnO : 20〜50%、 B O +A1 O : 0
2 3 2 3 〜10%、および ZrO : 0
2 〜10%を含有する ガラスを水素中、水素および窒素の混合雰囲気中、または水素および不活性ガスの 混合雰囲気中において 600〜900°Cで熱処理する工程、すなわち還元結晶化熱処 理する工程を有することを特徴とする製造方法を提供する。
さらに本発明は、前述のスぺーサーを用いたフィールドェミッションディスプレイを提 供する。
発明の効果
[0017] SiO -TiO系ガラスに本発明の製造方法における還元結晶化熱処理を施すこと
2 2
によって、表面抵抗率が小さく破壊靱性値が高い、 FED用途として好適な結晶化ガ ラススぺーサ一を効率的に得られる。該スぺーサ一は、帯電が起こりにくいため画像 の乱れが生じにくぐ高画質の FEDが得られる。さらに、前記スぺーサ一は、 FEDパ ネルの組立工程等において欠けやクラックの生じる確率が減少するので、歩留り向 上に貢献できる。
図面の簡単な説明
[0018] [図 1]本発明の一実施形態の FEDにおける部分断面の概略を示す模式図。
[図 2]例 1および例 2の X線回折を示すグラフ。
符号の説明
[0019] 1 :前面基板
2 :背面基板
3 :アノード電極
4 :力ソード電極
5 :スぺーサー
6 :ェミッタ
7 :蛍光体
8 :絶縁層
9 :ゲート電極
10 :アノードパネル
20 :ェミッタパネル
発明を実施するための最良の形態
[0020] <スぺーサ一のガラス組成 >
以下、本発明のスぺーサー(フィールドェミッションディスプレイ用結晶化ガラススぺ ーサ一)の原ガラスの糸且成について説明する力 実質的に結晶化ガラススぺーサー の組成も原ガラスの組成と変わらない。なお、特に断りがない場合は、%の表記はモ ル%を意味する。
[0021] SiOはガラスの骨格を形成し、ガラスの安定性およびィ匕学耐久性を向上させる成
分であり、必須である。 SiOは Ba TiSi O系結晶の構成成分でもある。その含有率
2 2 2 8
は 20〜50%である。 SiOの含有率が 20%未満ではガラスの安定性または化学耐
2
久性が低下する。好ましくは 25%以上である。また SiOの含有率が 50%を超えると
2
、 TiOの含有率を少なくせざるを得ず、還元結晶化熱処理を行っても所望の表面抵
2
抗率まで低下しない。
[0022] TiOは還元結晶化熱処理により、電子伝導性を有し表面抵抗率を低下させる成分
2
であり必須成分である。また、主結晶である Ba Ti O 系結晶(X=0. 8〜: L 5)、 Ba
X 8 16
TiSiO系結晶および TiO系結晶の構成成分でもあり、結晶析出を促進させ破壊
2 8 2
靭性値を向上させる。その含有率は 25〜45%である。 TiOの含有率が 25%未満で
2
は還元結晶化熱処理しても所望の表面抵抗率まで低下せず、所望の結晶が析出し にくくなる。 TiOの含有率は好ましくは 30%以上である。また TiOの含有率が 45%
2 2
を超えるとガラスが不安定になるおそれや、化学耐久性が低下するおそれが生じる。 さらにガラスの延伸成形を行った場合、失透が発生するおそれがある。なお、本発明 者は、価数が変わりやすいイオンの主な供給源は Tiであって、これが還元結晶化熱 処理されることによって混在する異価数のイオンが表面抵抗率を低下させていると考 えている。
[0023] MgO、 CaO、 SrO、 BaOおよび ZnOは、ガラスを安定化させる成分でありいずれか 1成分以上を含有することが好ましい。この場合、これら 5成分の含有率の合計 MgO + CaO + SrO + BaO+ZnOは 20%以上であることが好ましぐより好ましくは 25% 以上である。前記 5成分の含有率の合計が 50%を超えると、ガラスが不安定になる おそれや、または延伸成形を行った場合に失透が発生するおそれがある。前記 5成 分の含有率の合計は 45%以下であるとより好ましい。上記成分のうち、 BaOは主結 晶の一つである Ba Ti O 系結晶(X=0. 8〜1. 5)および Ba TiSiO系結晶の構
X 8 16 2 8
成成分であるので、 5%以上含有させることが好まし 、。
[0024] B Oおよび Al Oはいずれも必須ではないが、ガラスの安定性または化学耐久性
2 3 2 3
を向上させるために合計で 10%までの範囲で含有してもよい。 10%を超えるとガラス が不安定になる。
[0025] ZrOは必須ではないが、ガラスの安定性または化学耐久性を向上させるために 10
%までの範囲で含有してもよい。また、 ZrOは還元結晶化熱処理の際の核形成剤と
2
しても有効である。 ZrOが 10%を超えるとかえつてガラスが不安定になったり、延伸
2
成形の際に失透が発生したりするおそれがある。また、主結晶の析出を妨げたりする 。 ZrOの含有率は 5%以下であるとより好ましい。
2
[0026] すなわち、本発明の原ガラスの組成は、下記酸ィ匕物基準のモル百分率表示で本質 的に、 SiO : 20〜50%、TiO: 25〜45%、 MgO + CaO + SrO + BaO+ZnO : 20
2 2
〜50%、 B O +A1 O : 0〜10%、および ZrO : 0〜10%を含有するものである。前
2 3 2 3 2
記のガラス組成は、 SiO : 25〜50%、TiO: 30〜45%、 MgO + CaO + SrO + Ba
2 2
0+ZnO : 25〜45%、 B O +A1 O : 0〜10%、および ZrO : 0〜5%であればより
2 3 2 3 2
好ましい。
[0027] 本発明のスぺーサ一は本質的に上記成分力 なる力 その他の成分を合計で 10 %まで含有してもよい。その他の成分は含有率の合計が 5%以下であるとより好まし い。その他の成分としては、 SO、 C1等の清澄剤の残存成分、 Li 0、 Na 0、 K O等
3 2 2 2 のアルカリ金属酸化物、 Nb O、 La O、 Y O、 Fe Oが例示される。
2 5 2 3 2 3 2 3
[0028] 前記 SO、 C1を含有させる場合、その含有率の合計は 2%以下であることが好まし
3
い。 Li 0、 Na Oおよび Κ Οはガラスの熔融を促進する効果を有するので、これらの
2 2 2
うちの一つ以上の成分の含有率の合計が 5%以下となる範囲で含有してもよい。 Li
2
0、 Na Oおよび Zまたは Κ Οの含有率の合計が 5%を超えるとイオン伝導性が強く
2 2
なり、電界印加により上記成分が移動しスぺーサー内で分極が生じ抵抗が増大する おそれがある。
[0029] なお、イオン伝導性を抑制した 、場合はアルカリ金属酸ィ匕物を含有しな 、ことが好 ましい。また、環境的な配慮から、 Pb、 V、 As、 Sb、 Cdまたは Crを含有しないことが 好ましい。なお、ガラス中にこれらの成分を意図的に含有させておらず、不純物とし て混入している程度の含有率であれば、「実質的に含有しない」ものとみなす。
[0030] <スぺーサ一の製造方法 >
次に本発明のスぺーサ一の製造方法について説明する。
まず、前述の SiOと TiOを主成分とする SiO -TiO系ガラスの糸且成となるように
2 2 2 2
常法に従って原料を調合し、電気炉等で熔解して均質化したのち、熔融ガラスを型
材に流し込んでガラス成形体を作製する。
[0031] 続、て、次の二つの方法の!/、ずれかで加工体または延伸成形体を製造する。第一 の方法は、該ガラス成形体に切断加工および研磨加工を施して所定のサイズの加工 体を直接得る方法である。また、第二の方法は、ガラス成形体またはガラス成形体に 加工を施した加工体を軟化点温度付近まで再加熱し、延伸成形により、例えばリボン 状の連続した延伸成形体を得たのち所望の長さに切断する方法である。
[0032] なお、前記の第二の方法 (延伸成形法)は、寸法安定性がよく低コストで成形できる ので好ましい。特に薄いスぺーサーを製造する場合に好適な方法である。さら〖こ、断 面が複雑な形状 (台形や十字形等)のスぺーサ一が望まれて!/、る場合は前記の延伸 成形法がより好ましい。
[0033] 次に、前記の方法によって得られた加工体または切断した延伸成形体に還元結晶 化熱処理を施す。すなわち、水素中、混合割合を調整した水素および窒素の混合雰 囲気中、または混合割合を調整した水素および不活性ガスの混合雰囲気中にて所 望の温度で一定時間熱処理することにより主に原ガラスの表面層の Tiイオンが還元 され、同時に Tiを含む結晶が析出する。前記の還元結晶化熱処理によって表面抵 抗率が低下するとともに、破壊靭性値が上昇して本発明のスぺーサ一が得られる。な お、前記気体の混合割合は、例えば電気炉内をフローしている各々の気体の流量比 を変えることで調節できる。
[0034] なお、前記の還元結晶化熱処理の温度は 600〜900°Cとする。前記の温度を 600 °C未満にして熱処理をすると還元が進行しに《なるとともに結晶が析出しに《なり、 還元結晶化熱処理前と表面抵抗率が実質的に変わらないうえに、破壊靱性値が上 昇しない。還元結晶化熱処理の温度が 900°Cより高いと、ガラス力卩ェ体または切断し た延伸成形体が変形するおそれがある。
[0035] 前記還元結晶化熱処理の温度は SiO— TiO系ガラスの軟ィ匕点未満であるとより
2 2
好ましい。なお、前記方法は、 600〜900°Cの一定の温度に保持する 1段の熱処理 でもよ 、が、例えば!/、つたんガラス転移点付近の温度で表面層の Tiイオン等を還元 してから、ガラス転移点以上力 軟ィ匕点未満の温度で結晶を析出させる 2段の還元 結晶化熱処理をすると結晶の均質度が向上しより好ましい。
[0036] また、前記の還元結晶化熱処理の時間は 2〜24時間が好ましい。還元結晶化熱処 理の時間が 2時間より短いと、 Tiイオン等の還元と結晶化が十分に行われなくなり、 還元結晶化熱処理前と表面抵抗率と破壊靱性が所望の値にならないので好ましくな い。還元結晶化熱処理の時間が 24時間より長くても表面抵抗率と破壊靱性にはほと んど影響しな 、ので経済性を考えると好ましくな 、。
[0037] 本発明の前記製造方法で得られたスぺーサ一の破壊靭性値は 0. 7MPa ' m1/2以 上であれば好ましぐ 0. 8MPa ' m1/2以上であるとさらに好ましい。破壊靭性値が 0. 7MPa ' m1/2以上であると FEDパネルの組立工程等でスぺーサ一の欠けやクラック が発生しにくくなる。
[0038] 本発明の製造方法における前記の還元結晶化熱処理により、主結晶として、 Ba T
X
i O 系結晶(Χ= 0 · 8〜1 · 5)、 Ba TiSiO系結晶および TiO系結晶のうち少なくと
8 16 2 8 2
も 1つの結晶を含む結晶化ガラスが得られる。結晶析出の有無は例えば CuK a線を 用いた X線回折により 2 Θ力 10〜50° の範囲で測定すると、 Ba Ti O 系結晶(X=
X 8 16
0. 8〜: L 5)の場合は、主回折ピークが 2 Θで 27〜28° 付近に検出され、 Ba TiSi
2 2
O系結晶の場合は、主回折ピークが 2 Θで 29〜30° 付近に検出され、 TiO系結晶
8 2 の場合は主回折ピークが 2 Θで 24〜25° 付近に検出されることで確認できる。なお 、 Ba TiSi O系結晶については、 Baの一部が Srに置換された固溶体も含まれる。
2 2 8
[0039] 本発明の製造方法により得られるスぺーサ一の表面抵抗率は、 20°Cにおいて 105 〜1012 Ωとなるので、 FED用スぺーサ一として好適である。表面抵抗率が 1012 Ωより 大きいとスぺーサ一が帯電し電子線が偏向するおそれがある。一方、表面抵抗率の 下限値はスぺーサ一形状とスぺーサ一間に印加される電圧に左右される力 表面抵 抗率が 105より小さいとスぺーサー表面に電流が流れ過ぎるおそれがある。前記表面 抵抗率は、さらに好ましくは 107〜: ίΟ^ Ωである。
[0040] 本発明のスぺーサ一の 50〜350°Cにおける平均線膨張係数 αは、 60 Χ 10_7〜1 10 X 10_7Z°Cであると好まし 、。前記平均線膨張係数 αが 60 X 10_7Z°C未満の 値または 110 X 10_7Z°Cよりも大きい値であると、典型的に平均線膨張係数 αが 75 X 10_7〜90 X 10_7Z°Cである FEDガラス基板との膨張マッチングが困難になるお それがある。このようなガラス基板にはたとえばソーダライムシリカガラスが用いられる
[0041] <結晶化ガラススぺーサーを用いた FED >
本発明の FEDは、本発明の結晶化ガラススぺーサーを用いることで得られる。 FE Dの方式としては、 2極管方式、 3極管方式、 4極管方式 (金属板状集束電極型、薄 膜集束電極型、等)、等が知られているが、本発明において FEDの方式は限定され ず、これら方式のいずれであってもよい。
[0042] 以下、図 1を用いて本発明を説明する。なお図 1は、 3極管方式を採用した FEDの 部分断面の概略図である。一般的に FEDにおいては、蛍光体 7を有するアノードパ ネル 10と、電子を放出するェミッタ 6を有するェミッタパネル 20と力 複数(図 1にお いては 2個)のスぺーサー 5を介して対向している。前記のアノードパネル 10は通常 ガラス板等の透明板である前面基板 1、前面基板 1のェミッタパネル 20に対向する面 上に形成された透明電極であるアノード電極 3、およびアノード電極 3上に形成され た蛍光体 7等からなる。
[0043] 前記の前面基板 1に用いられるガラス板としては、たとえば厚さが l〜3mmであるソ ーダライムガラス板や、プラズマディスプレイに用いられる高歪点ガラス板が挙げられ る。また、アノード電極 3に用いられる透明電極としては、たとえば厚さが 0. 01-100 mである ITO (Indium Tin Oxide : Snドープ In O )膜が挙げられる。前記の蛍
2 3
光体 7は、 1画素ごとに赤 (R)、緑 (G)、青 (B)の 3色の蛍光物をブラックストライプ(図 示せず)を介してストライプ状に形成したものである。なお、図 1に示されている 3個の 蛍光体 7は、左力も順に R、 G、 Bの蛍光物である。
[0044] 前記ェミッタパネル 20は必須要素としてェミッタ 6を有する力 3極管方式の場合は ェミッタ 6の他にゲート電極 9および絶縁層 8が必須要素である。なお、 2極管方式に おいてはゲート電極 9および絶縁層 8は不要である。 3極管方式において、一般的に ェミッタパネル 20はガラス板等力もなる背面基板 2、背面基板 2のアノードパネル 10 に対向する面上に形成された電極である力ソード電極 4、力ソード電極 4上に形成さ れたェミッタ 6および絶縁層 8、絶縁層 8上に形成されたゲート電極 9、等カゝらなる。
[0045] 前記背面基板 2に用いられるガラス板としては、前面基板 1と同様に、たとえば厚さ 力^〜 3mmであるソーダライムガラス板や、プラズマディスプレイに用いられる高歪点
ガラス板が挙げられる。力ソード電極 4に用いられる電極としては、たとえば厚さが 0. Ol-lOO ^ mである Al、 Ag等の金属膜、 ITO膜が挙げられる。
[0046] 前記ェミッタ 6はその表面力 蛍光体 7に向けて電子を放出する素子であり、たとえ ば、ダイアモンド的カーボン(Diamond Like Carbon)、カーボンナノチューブ電 子源、 Siの異方性エッチングを用いた電解放出素子、 Mo等の金属蒸着電解放出素 子が挙げられる。前記ェミッタ 6の形状は限定されないが、図 1においては円錐状の ものが示されており、典型的には、その高さおよび底面直径はいずれも 0. 1〜: L00 ^ m,その個数は 1画素あたり数百個から数千個である。なお、 1画素の大きさは 300 m X 300 μ m程度である。
[0047] なお、 2極管方式の FEDにおいては、ストライプ状に形成されたアノード電極およ び力ソード電極のそれぞれが直角に交差するように配置され、ェミッタは前記力ソード 電極上に形成されたダイァモンド的カーボン膜であることが多い。
[0048] ゲート電極 9はェミッタ 6から放出される電子の量を制御するための手段であり、たと えば厚さが 0. 001-0.: L mである Pt系合金等の金属膜である。絶縁層 8は、ゲー ト電極 9をェミッタ 6に対し所望の位置に設け、かつゲート電極 9を力ソード電極 4と電 気的に絶縁するための手段であり、たとえば厚さが 0. 1〜: LOO /z mである酸ィ匕物セラ ミックス膜、 PbO-SiO—RO系低融点ガラス膜である。ここで、 ROはアルカリ土類
2
金属酸化物である。
[0049] スぺーサー 5は、大気圧と FED内部空間圧力(たとえば 10一3〜 10_5Pa)との圧力 差にかかわらずアノードパネル 10とェミッタパネル 20との間隔を所望の値に保持す るためのものであり、典型的には高さは l〜2mm、幅が 0. 01〜0. 5mmである。
[0050] 本発明の FEDにおいては、本発明の製造方法により得たスぺーサーを用いる。該 結晶化ガラススぺーサーを用いてなる本発明の FEDは、アルミナスぺーサ一を用い てなる従来の FED製造の方法と同様の方法で製造できる。
[0051] 以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。
実施例
[0052] (例 1 :実施例)
SiO : 31モル0 /0、 TiO : 37モル0 /0、 Al O : 3モル0 /0、 CaO: 14モル0 /0、 BaO: 15
モル%となるように原料を調合し、白金または白金 ロジウムるつぼを用いて電気炉 内で大気雰囲気下で 1400°Cで 5時間撹拌しながら熔解した。次 、で熔融ガラスを流 し出して板状に成形し徐冷した。
[0053] 上記の方法で得た板材を 2 X 0. 2 X 50mmのサイズに研磨加工および切断を行!ヽ 、 FED用スぺーサ一の形状に加工した。また、小片の一部を所定のサイズに切断、 研磨し、試験片を得た。これらの加工体を石英の管状炉に導入し、水素を 0. 2リット ル Z分の流量および窒素を 1. 8リットル Z分の流量でフローさせながら、 740°Cの温 度で 2時間保持したのち 50°CZ時間の速度で 790°Cまで昇温し次いで 14時間保持 してトータル 17時間の還元結晶化熱処理を行った。
[0054] こうして得られたスぺーサ一および試験片について、 CuK a線をもちいて 2 Θ力 10 〜50° の範囲で X線回折を行なうと、図 2のグラフにおける(a)のように Ba Ti O 系
X 8 16 結晶 (X=0. 8〜1. 5)および TiO系結晶の回折ピークが検出され、結晶化ガラスで
2
あることが確認された。次いで破壊靭性値 K を JIS R1607に準拠した方法で IF (I
IC
ndentation Fracture)法により測定すると 0. 86MPa'm1/2と高かった。なお、 IF 法はビッカース圧子を押し込んだときに結晶化ガラスまたはガラスの表面に残る圧痕 の大きさと圧痕の 4隅力 発生するクラックの長さとヤング率から破壊靭性値 K を求
IC
める方法である。なお、ヤング率は超音波法により測定した。さらに、 20°Cにおける 表面抵抗率を高抵抗計 (R8340A、アドバンテスト社製)にて測定すると、表面抵抗 率は 108· 4 Ωと FED用スぺーサ一に好適な値を有した。
[0055] また、 50〜350°Cにおける平均線膨張係数 αは 84 X 10_7Z°Cであり、巿販のソ ーダライムガラス : 87 X 10"V°C)や高歪点ガラスである市販のプラズマディスプ レイ用ガラス (旭硝子社製 Z商品名: PD200Z平均線膨張係数 α: 83 X 10"V°O に平均線膨張係数が近似して ヽた。
[0056] (例 2 :実施例)
SiO : 31モル0 /0、 TiO : 37モル0 /0、 Al O : 3モル0 /0、 CaO: 14モル0 /0、 BaO: 15
2 2 2 3
モル%となるように原料を調合し、白金または白金 ロジウムるつぼを用いて電気炉 内で大気雰囲気下で 1400°Cで 5時間撹拌しながら熔解した。次 、で熔融ガラスを流 し出して板状に成形し徐冷した。
[0057] 上記の方法で得た板材を 2 X 0. 2 X 50mmのサイズに研磨加工および切断を行!ヽ 、 FED用スぺーサ一の形状に加工した。また、小片の一部を所定のサイズに切断、 研磨し、試験片を得た。これらの加工体を石英の管状炉に導入し、水素を 1. 4リット ル Z分の流量および窒素を 0. 6リットル Z分の流量でフローさせながら、 740°Cの温 度で 2時間保持したのち 50°CZ時間の速度で 810°Cまで昇温し次いで 6時間保持し てトータル 9時間 24分の還元結晶化熱処理を行った。
[0058] こうして得られたスぺーサ一および試験片について、 CuK a線をもちいて 2 Θ力 10 〜50° の範囲で X線回折を行なうと、図 2グラフにおける(b)のように Ba Ti O 系結
X 8 16 晶 (X=0. 8〜1. 5)および TiO系結晶の回折ピークが検出され、結晶化ガラスであ
2
ることが確認された。次いで破壊靭性値 K を測定すると 1. 33MPa'm1/2と高かつ
IC
た。さらに、 20°Cにおける表面抵抗率は 106· 5 Ωと FED用スぺーサ一に好適な値を 有した。
[0059] また、 50〜350°Cにおける平均線膨張係数 αを測定すると、 84 X 10_7Z°Cであり 市販のソーダライムガラスや高歪点ガラスである市販のプラズマディスプレイ用ガラス に平均線膨張係数が近似して ヽた。
[0060] (例 3 :比較例)
SiO : 31モル0 /0、 TiO : 37モル0 /0、 Al O : 3モル0 /0、 CaO: 14モル0 /0、 BaO: 15
2 2 2 3
モル%となるように原料を調合し、白金または白金 ロジウムるつぼを用いて電気炉 内で大気雰囲気下で 1400°Cで 5時間撹拌しながら熔解した。次 、で熔融ガラスを流 し出して板状に成形し徐冷した。
[0061] 上記の方法で得た板材を 2 X 0. 2 X 50mmのサイズに研磨加工および切断を行!ヽ 、 FED用スぺーサ一の形状に加工した。また、小片の一部を所定のサイズに切断、 研磨し、試験片を得た。し力しながら、これらの加工体については、何ら熱処理も施さ なかった。
[0062] このガラスの破壊靭性値 K を測定すると 0. 62MPa'm1/2と低ぐ FED用スぺー
IC
サ一として使用すると欠けやクラックの発生率が高いことが予想された。さらに、 20°C における表面抵抗率は 1016' 2 Ωであり、所望の抵抗率を有するスぺーサ一が得られ なかった。
[0063] なお、例 1 (実施例)〜例 3 (比較例)の試験片のガラスの転移点 Tは 744°Cであり、 g
軟化点 Tは 813°Cである。
s
[0064] こうして得られた例 1〜例 3の試験片について、 X線回折で同定した結晶種 (表中、 BTは Ba Ti O 系結晶、 BTSは Ba TiSi O系結晶、 Tは TiO系結晶、 Oはそれ以
X 8 16 2 2 8 2
外の結晶を表す)、破壊靱性値 K (単位: MPa'm1/2)、 20°Cにおける表面抵抗率 (
IC
単位: Ω )、 50°Cから 350°Cまでの平均線膨張係数 α (単位: 10_7Z°C)を下記表 1 に示す。
[0065] [表 1]
[0066] 前記例 1および例 2 (ともに実施例)の試験片は表面抵抗率が 105〜: ί012 Ωであり、 かつ破壊靭性値が 0. 70MPa'm1/2以上と FED用スぺーサ一として好適なものであ る。しかし、還元結晶化熱処理を施さない例 3 (比較例)の試験片は表面抵抗率が 10 12 Ωを超えているため、帯電して電子線を偏向させるおそれがある。さらに例 3の試験 片は破壊靭性値が 0. 7MPa'm1/2未満であるので、欠けやクラックが発生しやすい
[0067] (例 4〜例 9 [実施例]および例 10〜例 13 [比較例] )
まず、下記の表 2〜表 4に示す含有率 (モル%表示)となるように、ガラス原料として 通常用いられている酸化物、炭酸塩、硫酸塩および硝酸塩からなる原料を調合し、 白金または白金 ロジウムるつぼを用いて電気炉内で、大気雰囲気下において 140 0°Cで 5時間撹拌しながら熔解する。次 、で熔融ガラスを前記るつぼ力も流し出して 板状に成形した後に徐冷し、例 4〜例 9の実施例のための板材および例 10〜例 13 の比較例のための板材をそれぞれ複数個作製する。
[0068] その後、上記の方法で得られたび例 4〜例 13の板材を所望のサイズに切断し、研 磨加工して試験片を得る。各例について複数個作製したうちの一つの試験片につい てのガラス転移点 T (単位: °C)およびガラス軟ィ匕点 T (単位: °C)の測定値を表 2〜 g s
表 4に示す。
[0069] また、残された例 4〜例 13までのそれぞれの試験片を石英の管状炉に導入し、表 2 、表 3に示す流量の水素および窒素ガスをフローしながら、表 2、表 3に示す温度、時 間で二段階の還元結晶化熱処理する。ここで第一段階から第二段階までの昇温速 度は 50°CZ時間とする。なお、表 4の例 12はガラススぺーサ一として特許文献 3に例 示されて!/ヽる組成であり、例 13はガラススぺーサ一として特許文献 4に例示されて ヽ る組成である。前記の 12および例 13については前述のような還元結晶化熱処理を 行なわない。
[0070] こうして得られる例 4〜例 13の試験片について、 X線回折で同定した結晶種 (表中 、 BTは Ba Ti O 系結晶、 BTSは Ba TiSi O系結晶、 Tは TiO系結晶、 Oはそれ
X 8 16 2 2 8 2 以外の結晶を表す)、破壊靱性値 K (単位: MPa'm1/2)、 20°Cにおける表面抵抗
IC
率 (単位: Ω )、および 50°C〜350°Cにおける平均線膨張係数 α (単位: 10_7Z°C) を表 2〜表 4に示す。
[0071] [表 2]
例 4 例 5 例 6 例 7 実施例 実施例 実施例 実施例
Si02 30 33.5 35 34
Ti02 40 36.5 35 37 ガラス組成 (モル%) Alz03 0 1 0 0
CaO 7.5 11.5 7.5 11.5
SrO 7.5 7.5 7.5 0
BaO 15 10 15 17.5 ガラス転移点 Tg(°C) 740 737 744 739 ガラス軟化点 Ts (°c) 806 812 815 812 水素流量 (リツトル/分) 0.02 1. 0.2 1.4 窒素流量 (リツトル 分) 1.98 0.6 1.8 0.6 第一段階の通元結晶化熱処理温度 ΓΟ 740 740 740 740 第一段階の還元結晶 ίヒ熱処理時間 (時間) 2 2 2 2 第二段階の還元結晶化熱処理温度 CO 790 810 810 790 第二段階の還元結晶化熱処理時間 (時間) 14 6 14 14 析出結晶種 BTS, 0 BT BT, 0 BT, T 破壊靱性 KI C (MPa ) 0.74 1.27 0.85 0.85 表面抵抗率(Ω) 10107 1( 5 107·1 1076 平均線膨張係数 α (10"7/°Ο 89 85 87 85 ]
例 8 例 9 例 1 0 例 1 1 実施例 実施例 比較例 比較例
Si02 40 33 50 30
TiO? 30 37 20 47.5 ガラス組成 (モル%) Al203 0 1 0 0
CaO 7.5 9 0 5
SrO 7.5 0 0 6
BaO 15 20 30 11.5 ガラス転移点 Tg(°C) 744 737 743 ― ガラス軟化点 Ts C) 823 811 820 - 水素流量 (リツトル/分) 1. 1.4 1.4 一 窒素流量 (リツトル Z分) 0.6 0.6 0.6 - 第一段階の還元結晶化熱処理温度 (°C) 740 740 740 - 第一段階の還元結晶化熱処理時間 (時間) 2 2 2 - 第二段階の還元結晶化熱処理温度 ΓΟ 820 810 820 - 第二段階の還元結晶化熱処理時間 (時間) 6 2 2
析出結晶種 BTS, T T 0 - 破壊靱性 KI C (MPai 2) 1.06 0.97 1.20 一 表面抵抗率(Ω) 10" 1070 - 平均線膨張係数 a (10 V°C) 84 87 86 - ] 例 1 2 例 1 3
比較例 比較例
Si02 40.1 63.3
B203 12.6 0
AIA 5 0.2
Na20 0 2.7
CaO 32.5 0
ガラス組成 (モル%) SrO 0 6.1
BaO 7.6 14.8
ZnO 0.9 0
La203 1.3 0
Fe203 0 11.5
V205 0 1.5
ガラス転移点 Tg (°c) 667 586
破壊靱性 KIC (MPa - m1/2) 0.58 0.66
表面抵抗率(Ω) >1016 Z 1012.6
平均線膨張係数 a (10-VO 83 77
[0074] 上記のように、例 4〜例 9 (実施例)の試験片は、適切な組成であり且つ還元結晶化 熱処理が施されるので、高 ヽ破壊靭性値を有する結晶化ガラスが得られ FED用スぺ ーサ一として好適な表面抵抗率と破壊靱性値を有する。
[0075] しかし、例 10 (比較例)は TiOの含有率が 25%未満であるため、還元結晶化熱処
2
理しても好適な表面抵抗率が得られない。また、例 11 (比較例)は TiOの含有率が 4
2
5%を超えるため、熔融したガラスを流し出した際に失透し、透明で均質な原ガラスを 得ることができない。さらに例 12および例 13 (ともに比較例)は、結晶化ガラスではな V、ため高 、破壊靭性値が得られな!/、。
[0076] 以上詳述したようなガラススぺーサーを用いてフィールドェミッションディスプレイを 製造した場合、クラックや欠けの発生を抑制し歩留りを向上できるようになるため有用 である。
産業上の利用可能性
[0077] 本発明は、 SiO -TiO系ガラスに還元結晶化熱処理を施すことによって、表面抵
2 2
抗率が小さく破壊靱性値が高いな結晶化ガラススぺーサ一が効率的に得られるので
、該スぺ一サーを帯電による画像の乱れが生じにく 、高画質の FEDに適用できる。 なお、 2004年 11月 30曰に出願された曰本特許出願 2004— 346030号の明細書 、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開 示として、取り入れるものである。