JP2007311168A - 電界放出表示装置用ガラス基板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】平坦性が優れた電界放出表示装置用ガラス基板を得ることを技術的課題とする。
【解決手段】電界放出表示装置用ガラス基板を未研磨とし、且つ平均表面粗さ(Ra)を10Å以下に規制する。本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、平均表面粗さ(Ra)が10Å以下に規制されているため、電界放出表示装置の製造工程において、回路電極等の正確なパターニングを行うことができ、その結果、回路電極が断線、ショートする確率を低減させることができ、電界放出表示装置の信頼性を確保できる。
【選択図】図1
【解決手段】電界放出表示装置用ガラス基板を未研磨とし、且つ平均表面粗さ(Ra)を10Å以下に規制する。本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、平均表面粗さ(Ra)が10Å以下に規制されているため、電界放出表示装置の製造工程において、回路電極等の正確なパターニングを行うことができ、その結果、回路電極が断線、ショートする確率を低減させることができ、電界放出表示装置の信頼性を確保できる。
【選択図】図1
Description
本発明は、電界放出表示装置(Field Emission Display、FED)用ガラス基板に関する。さらに、本発明は、電界放出表示装置用ガラス基板の製造方法に関する。
電界放出表示装置は、陰極線管(Cathode Ray Tube、CRT)で培われた技術を利用できるとともに、他の平面画像表示装置、例えば液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display、LCD)やプラズマディスプレイ(Plasma Display Panel、PDP)よりも消費電力を低減できるため、次世代の平面画像表示装置として期待されている。
電界放出表示装置は、図1に示すように、電子ビームが照射されると発光する蛍光体7を有する前面板8と、電子を放出する素子5が多数形成された背面板3とを、ガラスフリットや紫外線硬化樹脂で気密封止した構造を有している。そして、前面板8と背面板3とで形成される装置内部の空間は、電子の照射を可能にするために真空状態に保持される。電界放出表示装置の画像特性は電子放出源に左右されるといっても過言ではなく、近年、様々な電子放出素子が提案、開発されている。これらの電子放出素子は、物質に印加する電界の強度を上げると、その強度に応じて、物質表面のエネルギー障壁の幅が次第に狭まる。その結果、エネルギー障壁を突破できるようになり、物質から電子が放出されるという現象を利用している。この場合、電場がポアッソンの方程式に従うために、電子を放出する部材(エミッタ)に電界が集中する部分を形成すると、比較的低い引出し電圧で効率的に電子の放出を行うことができる。このような電界放射型の電子放出素子の一般的なものとしてスピント型エミッタが広く知られている。
スピント型エミッタの製造工程では、導電層が形成された絶縁性基板上に、絶縁層及びゲート電極をスパッタ法または真空蒸着法等により順次成膜する。続いて、フォトリソグラフィー法と反応性イオンエッチング法(RIE)とを利用して絶縁層およびゲート電極の一部を、導電層が露出するまで円形の孔(ゲート孔)が開口するようにエッチングする。次に、斜方蒸着により剥離層をゲート電極上面と側面にのみ形成する。続いて、導電層上に、その垂直な方向から通常の異方性蒸着により、エミッタ用の金属材料を蒸着する。このとき、蒸着の進行につれて、ゲート孔の開口径が狭まると同時に導電層上に円錐形のエミッタが自己整合的に形成される。蒸着は、最終的にゲート孔が閉じるまで行う。最後に、剥離層をエッチングにより剥離し、必要に応じてゲート電極をパターニングする。これによりスピント型エミッタを備えた電界放射型の電子放出素子が得られる。すなわち、電界放出表示装置に用いられるガラス基板の表面には、透明電極、絶縁膜等の様々な膜やエミッタ等が成膜され、しかもフォトリソグラフィーエッチング(フォトエッチング)によって種々の回路やパターンが形成される。
従来、電界放出表示装置用ガラス基板は、液晶ディスプレイ用ガラス基板に比べて、表面平坦性に対する品質要求は低く、ガラス基板の製造方法・製造条件について、特に注意が払われていなかった。しかし、電界放出表示装置の高画質化に関する技術開発が進展するにつれて、電界放出表示装置用ガラス基板に求められる表面平坦性の品質レベルは急速に高まってきている。
電界放出表示装置用ガラス基板の表面平坦性が悪ければ、電界放出表示装置の製造工程において、ゲート電極等の正確なパターニングを行うことが困難になり、その結果、回路電極が断線、ショートする確率が上昇し、電界放出表示装置の信頼性や映像品位を担保し難くなる。
また、電界放出表示装置の高画質化の技術開発が進展するにつれて、ゲート電極等の微細化を図り、つまり一画素中に存在する電子放出素子の密度を高めて、電子放出特性を高める試みがなされている。この場合、回路電極が断線、ショートする確率が更に上昇するため、電界放出表示装置の高画質化を達成するために、電界放出表示装置用ガラス基板の表面平坦性は、従来と比較して、要求レベルが一層高まっている。
さらに、電子放出効率の高い電界放出表示装置を作製するために、フォトリソグラフィーの精度をより高めることが求められている。フォトリソグラフィーの精度を高めるためには、マスクを通過する光をより集光する必要があるが、光をより集光すると焦点深度が浅くなる。そのため、ガラス基板の平坦性が悪いと露光時に焦点があわず、精度の高いパターニングが行えない。結果としてゲート孔形状にバラツキが生じるために所望の円錐の形状が得られなくなる場合がある。上記したように電子放出素子では電界が集中する部分において、低電圧で効率的に電子の放出を行うことができるので、所望の円錐形状が得られない場合には、駆動電圧が高くなったり、電子が放出されないといった不具合が発生する虞がある。
平坦性が優れたガラス基板を作製するためには、板状に成形されたガラスに加工工程を施す、すなわちガラス基板の表面を研磨するのが一般的である。従来、電界放出表示装置用ガラス基板は、安価でガラス基板を効率よく製造できるフロート法で成形されていた。この方法で成形されたガラス基板は、ガラス基板表面のうねりや錫等の汚染を除去するために研磨を行う必要があった。しかし、板状に成形されたガラスにこのような加工工程を施すと、ガラス基板の製造コストが上昇するとともに、ガラス基板の表面に微小傷が発生し、これがガラス基板の製造効率を低下させる一因になる。したがって、加工工程を別途設けることなしに、すなわち別途ガラス基板を研磨することなしに、ガラス基板の表面精度を高めることができれば、電界放出表示装置用ガラス基板の製造コストの低下に資することになる。
したがって、本発明は、未研磨であり、且つ平坦性が優れた電界放出表示装置用ガラス基板を得ることを技術的課題とする。
本発明者は、鋭意努力の結果、電界放出表示装置用ガラス基板を未研磨とし、且つ平均表面粗さ(Ra)を10Å以下に規制することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明として提案するものである。なお、本発明において、「平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−94「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値を指す。また、本発明において、「未研磨」は、ガラス基板の有効面(表示面に相当する面)が未研磨という意味であり、例えばガラス基板の端面(エッジ部分)が面取り加工されていても「未研磨」に当たる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、平均表面粗さ(Ra)が10Å以下に規制されているため、電界放出表示装置の製造工程において、回路電極等の正確なパターニングを行うことができ、その結果、回路電極が断線、ショートする確率を低減させることができ、電界放出表示装置の信頼性を確保できる。さらに、ガラス基板の平均表面粗さ(Ra)を10Å以下に規制すれば、ゲート電極等を微細化しても、回路電極が断線、ショートする確率があまり上昇しないため、一画素中に存在する電子放出素子の密度を高めることができるとともに、電子放出特性を高めることができ、その結果、電界放出表示装置の高画質化の要求を満たすことができる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、未研磨であるため、すなわち板状に成形されたガラスに加工工程が施されていないので、ガラス基板の製造コストが上昇を招くこともなく、ガラス基板の表面に微小傷が発生し、破損等によってガラス基板の製造効率を低下させることもない。未研磨で表面品位が良好なガラス基板を得るためには、ガラスの成形方法、成形条件を選定、管理する必要がある。例えば、他の成形方法に比べ、オーバーフローダウンドロー法であれば、未研磨で表面品位が良好なガラスを得られやすい。
第二に、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、うねりが0.1μm以下であることに特徴付けられる。なお、本発明において、「うねり」は、触針式の表面形状測定装置を用いて、JIS B−0610に記載のWCA(ろ波中心線うねり)を測定した値であり、この測定は、SEMI STD D15−1296「FPDガラス基板の表面うねりの測定方法」に準拠した方法で測定し、測定時のカットオフは0.8〜8mm、ガラス基板の引き出し方向に対して垂直な方向に300mmの長さで測定したものである。
第三に、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、最大板厚と最小板厚の板厚差が20μm以下であることに特徴付けられる。ここで、本発明において、「最大板厚と最小板厚の板厚差」は、レーザー式厚み測定装置を用いて、ガラス基板の任意の一辺に板厚方向からレーザーを走査することにより、ガラス基板の最大板厚と最小板厚を測定した上で、最大板厚の値から最小板厚の値を減じた値を指す。
第四に、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、目標板厚に対する誤差が10μm以下であることに特徴付けられる。本発明において、「目標板厚に対する誤差」は、目標板厚から上記方法で得られる最大板厚または最小板厚の値を減じた絶対値のうち大きい方を指す。
第五に、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、30〜380℃における熱膨張係数が50〜90×10-7/℃であることに特徴付けられる。なお、本発明において、「30〜380℃における熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃における平均熱膨張係数を測定した値を指す。
第六に、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、液相温度が1200℃以下および/または液相粘度が104.5dPa・s以上であることに特徴付けられる。なお、本発明において、「液相粘度」は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に48時間保持して、結晶の析出する温度を測定したものである。また、本発明において、「液相粘度」は、上記方法で測定した液相温度におけるガラスの粘度を周知の白金引き上げ法で測定した値を指す。
第七に、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、ガラス組成として、Na2O+K2Oを0.1〜20質量%含有し、且つモル分率でAl2O3/BaOの値が0〜2、Na2O/K2Oの値が0〜2であることに特徴付けられる。
第八に、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、密度が3.0g/cm3以下であることに特徴付けられる。
第九に、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、歪点が590℃以上であることに特徴付けられる。なお、本発明において、「歪点」は、ASTM C336−71に準拠した方法で測定した値を指す。
第十に、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1650℃以下であることに特徴付けられる。なお、本発明において、「高温粘度102.5dPa・sに相当する温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
第十一に、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板の製造方法は、成形方法がオーバーフローダウンドロー法であることに特徴付けられる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、平均表面粗さ(Ra)が10Å以下であり、好ましくは7Å以下、より好ましくは4Å以下、更に好ましくは2Å以下である。平均表面粗さ(Ra)が10Åより大きいと、電界放出表示装置の製造工程において、回路電極等の正確なパターニングを行うことが困難となり、その結果、回路電極が断線、ショートする確率が上昇し、電界放出表示装置の信頼性を担保し難くなる。平均表面粗さ(Ra)が10Å以下であれば、ゲート電極等を細くしても、回路電極が断線、ショートする確率が低いため、一定画素面積に対する電極を設ける密度を高めることができるとともに、電子放出特性を高めることができ、その結果、電界放出表示装置の高画質化に寄与することができる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、うねりは、0.1μm以下が好ましく、0.05μm以下がより好ましく、0.03μm未満が更に好ましく、0.01μm以下が最も好ましい。さらに、理想的には、実質的にうねりが存在しないことが望ましい。近年、電界放出表示装置の大画面化や高精細化が進んでいる。電界放出表示装置の画面サイズが大きくなると、ガラス基板にうねりが存在した場合、電界放出表示装置の映像品位が損なわれる。したがって、うねりが0.1μmより大きいと、近年の電界放出表示装置の大画面化、高精細化の要請を満たすことが困難となる。また、うねりが0.1μmより大きいと、電界放出表示装置の製造工程において、露光時に焦点が合わない虞があり、精度の高いパターニングが行えず、結果として、ゲート孔形状にバラつきが生じるために所望の円錐形状が得られなくなる虞が生じる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、最大板厚と最小板厚の差は20μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましい。電界放出表示装置の画面サイズが大きくなると、ガラス基板の最大板厚と最小板厚の差が20μm以下である場合、前面板と背面板の間隔(ギャップ)が局所的に異なる部位が生じやすい。このような場合、電界放出表示装置では前面板と背面板の間に印加される加速電圧にばらつきが生じたり、蛍光体に衝突する電子の速度が変化したりして、電界放出表示装置の輝度特性に悪影響を及ぼす虞がある。つまり、ガラス基板の最大板厚と最小板厚の差が20μmより大きいと、電界放出表示装置の高精細化の要請を満たすことができなくなる。また、ガラス基板の最大板厚と最小板厚の差が20μmより大きいと、電界放出表示装置の製造工程において、露光時に焦点が合わない虞があり、精度の高いパターニングが行えず、結果として、ゲート孔形状にバラつきが生じるために所望の円錐形状が得られなくなる虞が生じる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、目標板厚に対する誤差が10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。ガラス基板の目標板厚に対する誤差が10μmより大きいと、ゲート電極等のパターニングを精度良く行うことができなくなり、所定の条件で高品質の電界放出表示装置を安定して製造することが困難となる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、ガラス組成として、質量%でNa2O+K2Oを0.1〜20質量%含有し、且つモル分率でAl2O3/BaOの値を0.1〜2およびNa2O/K2Oの値を0〜2とするのが好ましい。Na2O+K2Oは、高温粘性を低下させ熱膨張係数を調整する成分であり、その含有量は0.1〜20%であり、好ましくは0.2〜16%、より好ましくは1〜12%である。Na2O+K2Oの含有量が0.1%より少なくなると、高温粘性を低下させる効果が得られなくなる。一方、Na2O+K2Oの含有量が20%より多くなると、歪点が低下したり、熱膨張係数が高くなりすぎる。また、モル分率でAl2O3/BaOの値を0.1〜2(好ましくは、0.3〜2、0.5〜1.5、0.7〜1.3、0.8〜1.1)に設定すると、ガラスの耐失透性を悪化させることなく、高歪点化を達成できるため、好ましい。Al2O3/BaOのモル分率が2を超えると、耐失透性が悪化する傾向がある。Al2O3/BaOのモル分率が0.1より小さくなると、ガラスの耐失透性が悪化するとともに、歪点が低下する傾向がある。さらに、Al2O3/BaOのモル分率を0.1〜2の範囲に設定して、耐失透性を抑制しつつ歪点を高くする効果は、モル分率でNa2O/K2Oの値を0〜2(好ましくは、0.3〜1.5、0.5〜1.3、0.7〜1.1、0.8〜0.9)の範囲に調整することで、より的確に享受することが可能となる。Na2O/K2Oのモル分率が小さくなると、Al2O3/BaOのモル分率を調整することによる上記効果が若干得られにくくなるため、Na2O/K2Oのモル分率を0.3以上にすることがより好ましい。また、Na2O/K2Oのモル分率が2を超えると、歪点が低下したり、ガラス組成のバランスを欠いて、失透が生じやすくなる。
また、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、ガラス組成として、質量%でSiO2 45〜70%、Al2O3 3〜20%、B2O3 0〜10%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜17%、BaO 0〜17%、Na2O+K2O 0.1〜20%、ZrO2 0〜8%を含有することが好ましい。ガラス組成を上記の範囲に規制することによって、ガラスの耐失透性が良好なガラスを得ることができ、ガラスの失透性に起因してガラス基板の表面品位が損なわれる事態を回避することができる。一般的に、例えばオーバーフローダウンドロー法において、ガラスの耐失透性は、少なくとも液相温度で1200℃以下、液相粘度で104.5dPa・s以上が要求されるが、本発明の電界放出表示装置用ガラスは、ガラスを上記の範囲に規制しているため、耐失透性が良好であり、液相温度で1200℃以下、液相粘度で104.5dPa・s以上の特性を達成することができる。また、本発明の電界放出表示装置用ガラスは、ガラス組成を上記の範囲に規制していることにより、オーバーフローダウンドロー法に適した粘度特性を有している。なお、オーバーフローダウンドロー法以外の成形方法であっても、ガラスの製造工程ではガラスの耐失透性が良好であればあるほど、ガラス基板の製造効率が向上するため、上記組成を有するガラスはガラス基板を成形する上で有利である。
以下に、上記のように組成範囲を限定した理由を詳述する。なお、以下の%表示は特に限定がある場合を除き、質量%表示を指す。
SiO2は、ガラスのネットワークフォーマーであり、その含有量は45〜70%、好ましくは48〜65%、より好ましくは50〜60%、更に好ましくは52〜58%、最も好ましくは55〜58%である。SiO2の含有量が70%より多くなると、ガラスの溶融、成形が難しくなったり、熱膨張係数が小さくなりすぎて周辺材料との整合性が取り難くなったりする。一方、SiO2の含有量が45%より少なくなると、熱膨張係数が大きくなり過ぎてガラスの耐熱衝撃性が低下したり、ガラス化が困難になったりする傾向にある。
Al2O3は、ガラスの歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は3〜20%、好ましくは5〜18%、より好ましくは6〜15%、更に好ましくは7〜13%である。Al2O3の含有量が20%より多くなると、ガラスの耐失透性が悪化するとともに、高温粘性が高くなり、ガラスの溶融性が悪化する傾向がある。Al2O3の含有量が3%より少なくなると、熱膨張係数が大きくなり、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、ガラスの歪点が低下する傾向があり、電界放出表示装置を製造する際の熱処理工程でガラス基板に割れが発生したり、熱変形や熱収縮が生じやすくなる。また、ガラスの耐失透性を改善する観点から、Al2O3の含有量を11%以下、更に10%以下、特に9.5%以下に抑えると、より的確に上記効果を享受することができる。
B2O3は、ガラスの溶融性を向上させ、ガラスの失透を抑制する効果を有する成分であり、その含有量は0〜10%であり、好ましくは0.1〜8%、より好ましくは0.5〜5%である。B2O3の含有量が10%より多くなると、歪点やヤング率が低下する傾向があり、電界放出表示装置を製造する際の熱処理工程でガラス基板に割れが発生したり、熱変形や熱収縮が生じやすくなる。更に、ガラスの歪点やヤング率を上昇させる観点から、B2O3の含有量を3%以下(好ましくは2.5%以下、2%以下)に低下させると、より的確に上記効果を享受することができる。
MgOは、ガラスの歪点を高める成分であり、その含有量は0〜10%、より好ましくは0〜8%、更に好ましくは0〜5%、最も好ましくは0〜3%である。MgOの含有量が10%より多くなると、熱膨張係数が高くなり過ぎたり、密度が高くなったり、耐失透性が悪化する傾向がある。
CaOは、歪点をあまり低下させることなく、高温粘性を低下させる成分であり、その含有量は0〜10%、より好ましくは0〜8%、更に好ましくは0〜5%、最も好ましくは0〜1%である。CaOの含有量が10%より多くなると、熱膨張係数が高くなり過ぎたり、密度が高くなり、耐失透性が悪化する傾向がある。
SrOは、耐失透性を悪化させることなく、高温粘性を低下させる成分であり、その含有量は0〜17%、好ましくは2〜15%、より好ましくは7〜13%、更に好ましくは5〜13%である。SrOの含有量が17%より多くなると、熱膨張係数や密度が高くなり過ぎたり、ガラス組成のバランスを欠いて耐失透性が悪化する。また、ガラスの耐失透性を向上させる観点から、SrOの含有量を11%以下、更に10.5%以下にすると、上記効果をより的確に享受することが可能となる。
BaOは耐失透性を悪化させずに、高温粘性を低下させる成分であり、その含有量は0〜17%(好ましくは2〜17%、5〜16%、7〜15%、9〜14%、11.5〜14%)である。BaOの含有量が17%より高くなると、熱膨張係数が高くなりすぎたり、密度が高くなったり、ガラス組成のバランスを欠いて、逆に耐失透性が悪化したりする。
MgO+CaO+SrO+BaOの合量は15〜28%とするのが好ましく、17〜26%がより好ましく、19〜24%が更に好ましい。MgO+CaO+SrO+BaOの合量が28%を超えると、ガラスの密度や熱膨張係数が高くなる傾向があるとともに、耐失透性も悪化する傾向がある。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの合量が15%より少ないと、ガラスの溶融性が悪化したり、熱膨張係数が小さくなりすぎる。
SrO、BaOは、ガラス組成に導入しても液相温度付近における粘性があまり低下しないため、オーバーフローダウンドロー法による成形を行うために適正な液相粘度を得るために、他のアルカリ土類金属酸化物と比較して、SrO、BaOを積極的に含有させることが望ましい。さらに、ガラスの耐失透性を向上させる観点から、質量分率で(MgO+CaO)/(SrO+BaO)の値を0〜0.2(好ましくは0〜0.1、0〜0.05)に設定することが有効である。特に、上記観点から、質量分率でSrO/BaOの値を0.4〜1.2(好ましくは、0.4〜1.2、0.5〜1.1、0.6〜1.0、0.6〜0.9、0.6〜0.8)に設定することが有効である。上記設定値範囲外であると、想定した効果を最大限に享受できなくなる。
Na2O+K2Oは、高温粘性を低下させ熱膨張係数を調整する成分であり、その含有量は0.1〜20%であり、好ましくは0.2〜16%、より好ましくは1〜12%である。Na2O+K2Oの含有量が0.1%より少なくなると、高温粘性を低下させる効果が得られなくなる。一方、Na2O+K2Oの含有量が20%より多くなると、歪点が低下したり、熱膨張係数が高くなりすぎる。
Na2Oは、高温粘性を低下させるとともに、熱膨張係数を調整する成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0.1〜8%、より好ましくは0.5〜6%、更に好ましくは1〜5%である。Na2Oの含有量が10%より多くなると、歪点が低下したり、熱膨張係数が高くなりすぎる。
K2Oは、高温粘性を低下させ熱膨張係数を調整する成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0.1〜8%、より好ましくは0.5〜6%である。K2Oの含有量が10%より多くなると、歪点が低下したり、熱膨張係数が高くなりすぎる。特に、高温粘性を低下させる効果および熱膨張係数を調整する効果を的確に享受するために、K2Oを1%以上(好ましくは2%以上、3%以上)含有させることが望ましい。
ZrO2は、歪点やヤング率を上昇させる成分であり、ZrO2の含有量は0〜8%(好ましくは、0.01〜8%、0.1〜8%、0.5〜7%、1〜6%、2〜5%、2.5〜4%)である。ZrO2の含有量が8%より多くなると、耐失透性が悪化したり、密度や熱膨張係数の異なるZrO2リッチな生地が成形体まで流出しやすくなり、平均表面粗さ、うねり等のガラス基板の表面品位に悪影響を及ぼす虞が生じる。
また、モル分率でAl2O3/BaOの値を0.1〜2(好ましくは、0.3〜2、0.5〜1.5、0.7〜1.3、0.8〜1.1)に設定すると、ガラスの耐失透性を悪化させることなく、高歪点化を達成できるため、好ましい。Al2O3/BaOのモル分率が2を超えると、耐失透性が悪化する傾向がある。Al2O3/BaOのモル分率が0.1より小さくなると、ガラスの耐失透性が悪化するとともに、歪点が低下する傾向がある。
さらに、Al2O3/BaOのモル分率を0.1〜2の範囲に設定して、耐失透性を抑制しつつ歪点を高くする効果は、モル分率でNa2O/K2Oの値を0〜2(好ましくは、0.3〜1.5、0.5〜1.3、0.7〜1.1、0.8〜0.9)の範囲に調整することで、より的確に享受することが可能となる。Na2O/K2Oのモル分率が小さくなると、Al2O3/BaOのモル分率を調整することによる上記効果が若干得られにくくなるため、Na2O/K2Oのモル分率を0.3以上にすることがより好ましい。また、Na2O/K2Oのモル分率が2を超えると、歪点が低下したり、ガラス組成のバランスを欠いて、失透が生じやすくなる。
ガラスの歪点を高く保ち、熱膨張係数を高くしすぎない観点から、質量分率で(Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値を0〜0.5に設定することが好ましく、0.1〜0.4に設定することがより好ましく、0.2〜0.4に設定することが更に好ましい。質量分率で(Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値が0.5より大きいと、上記効果を的確に享受できない虞がある。
本発明のガラスは、上記成分以外にもガラスの特性を損なわない範囲で種々の成分を10%まで添加させることが可能である。例えば、ZnO、TiO2、CeO2、Y2O3、La2O3、Nb2O5をそれぞれ10%以下含有させてもよい。また、着色剤としてFe2O3、CoO、NiO、Cr2O3、Nd2O5をそれぞれ2%以下含有させても良い。さらに、清澄剤としてAs2O3、SO3、Sb2O3、SnO2、F、Clの群から選択された1種または2種以上を合量で0〜3%含有させてもよい。
上記組成範囲において、各成分の好ましい範囲を任意に組み合わせて、好ましい組成範囲を選択することは当然可能であるが、その中にあって、電界放出表示装置用ガラス基板のより好ましい組成範囲として、SiO2 50〜60%、Al2O3 5〜10%、B2O3 0〜5%、MgO 0〜5%、CaO 0〜5%、SrO 5〜12.5%、BaO 9〜14%、Na2O 0〜5%、K2O 3〜6%、ZrO2 1〜4%を含有するガラスが挙げられる。ガラスの組成範囲を上記に規制すれば、耐失透性を大幅に改善できるとともに、オーバーフローダウンドロー法による成形を行うために必要な粘度特性を的確に確保することができる。
電界放出表示装置用ガラス基板の更に好ましいガラス組成として、SiO2 55〜58%、Al2O3 7〜9.5%、B2O3 0〜2%、MgO 0〜3%、CaO 0〜1%、SrO 7〜10.5%、BaO 11.5〜14%、Na2O 1〜5%、K2O 3〜6%、ZrO2 2.5〜4%を含有するガラスが挙げられる。ガラスの組成範囲を上記に規制すれば、耐失透性を顕著に改善できるとともに、オーバーフローダウンドロー法による成形を行うために必要な粘度特性をより的確に確保することができる。
また、電界放出表示装置に使用されるガラス基板には、次のような特性も要求される。
(1)熱処理工程でガラス基板に割れが生じないように、周辺部材と適合する熱膨張係数を有すること
(2)オーバーフローダウンドロー法等に好適な耐失透性を有すること
(3)成膜等の熱処理工程でガラス基板が熱収縮して、パターンずれを起こさないように、高い歪点を有すること
(4)電界放出表示装置の映像品位に影響を及ぼすような内部欠陥が存在しないこと、特に泡欠陥が存在しないこと
(5)電界放出表示装置全体の重量を軽減するために、低密度であること
上記要求特性(1)〜(5)の特性に関し、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、好ましい特性値およびその限定理由を下記に説明する。
(1)熱処理工程でガラス基板に割れが生じないように、周辺部材と適合する熱膨張係数を有すること
(2)オーバーフローダウンドロー法等に好適な耐失透性を有すること
(3)成膜等の熱処理工程でガラス基板が熱収縮して、パターンずれを起こさないように、高い歪点を有すること
(4)電界放出表示装置の映像品位に影響を及ぼすような内部欠陥が存在しないこと、特に泡欠陥が存在しないこと
(5)電界放出表示装置全体の重量を軽減するために、低密度であること
上記要求特性(1)〜(5)の特性に関し、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、好ましい特性値およびその限定理由を下記に説明する。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、30〜380℃における熱膨張係数は50〜90×10-7/℃が好ましく、55〜85×10-7/℃がより好ましく、60〜80×10-7/℃が更に好ましい。また、良好にフリットシールを行い、電界放出表示装置を製造する際の成膜等の熱処理工程でのガラス基板の割れを確実に防止する観点から、65〜80未満×10-7/℃が好ましく、65〜75×10-7/℃がより好ましい。30〜380℃における熱膨張係数が50×10-7/℃より小さいと、前面ガラス基板と背面ガラス基板をフリットシールするための封着ガラスの熱膨張係数と整合が取れず、封着工程後にガラス基板に割れ等の問題が生じやすくなる。また、30〜380℃における熱膨張係数が90×10-7/℃より大きいと、電界放出表示装置に使用される他の周辺部材の熱膨張係数と整合が取れない虞がある。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、液相温度は1200℃以下が好ましく、1080℃以下がより好ましく、1050℃以下が更に好ましく、1000℃以下が最も好ましい。一般的に、オーバーフローダウンドロー法は、他の成形方法と比較して、ガラス成形時の粘度が高いため、ガラスの耐失透性が悪いと、成形中に失透ブツが発生し、ガラス基板に成形できなくなる虞がある。具体的には、少なくとも液相温度が1200℃より高いと、オーバーフローダウンドロー法の適用が困難になる。したがって、液相温度が1200℃より高いと、電界放出表示装置用ガラスの成形方法に不当な制約が課され、所望の表面形状のガラス基板を成形できなくなる虞が生じる。なお、液相温度が低いほど、ガラスの耐失透性は良好である。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、液相粘度は104.5dPa・s以上が好ましく、105.0dPa・s以上がより好ましく、105.5dPa・s以上が更に好ましく、105.8dPa・s以上が最も好ましい。一般的に、オーバーフローダウンドロー法は、他の成形方法と比較して、ガラス成形時の粘度が高いため、ガラスの耐失透性が悪いと、成形中に失透ブツが発生し、ガラス基板に成形できなくなる虞がある。具体的には、少なくとも液相粘度が104.5dPa・s未満であると、オーバーフローダウンドロー法の適用が困難になる。したがって、104.5dPa・s未満であると、電界放出表示装置用ガラスの成形方法に不当な制約が課され、所望の表面形状のガラス基板を成形できなくなる虞が生じる。なお、液相粘度が高いほど、ガラスの耐失透性は良好である。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、密度は3.0g/cm3以下であることが好ましく、2.9g/cm3以下であるとより好ましい。ガラスの密度が低ければ低いほど、ガラスの軽量化を図ることができ、電界放出表示装置の軽量化に寄与することができる。密度が3.0g/cm3より大きいと、電界放出表示装置の軽量化に寄与し難くなる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、歪点は590℃以上(好ましくは600℃以上、610℃以上、620℃以上、630℃以上)が好ましい。歪点が590℃未満であると、電界放出表示装置を製造する際の成膜等の熱処理工程で、ガラス基板の熱収縮が生じ易くなり、ゲート電極等のパターニングのずれ等が生じ易くなる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度は1650℃以下が好ましく、1620℃以下がより好ましく、1600℃以下が更に好ましい。この温度が低いほど、ガラス溶融時にガラス融液中に存在する気泡の浮上速度が速くなるため、泡を低減し易くなり、泡品位が向上する。また、この温度が低いほど、炉体耐火物の耐久性も向上し、その結果、溶融炉等の耐久性向上に寄与することができる。高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1650℃よりも高いと、ガラス溶融時にガラス融液中に存在する気泡の浮上速度が遅くなるため、泡を低減し難くなり、泡品位が悪化する。また、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1650℃よりも高いと、炉体耐火物の耐久性も低下し、その結果、溶融炉等の耐久性が低下し、ガラスの製造コストの高騰を招く虞が生じる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、比ヤング率(ヤング率を密度で割った値)が25GPa/g・cm-3以上が好ましく、26GPa/g・cm-3以上がより好ましく、26.5GPa/g・cm-3以上が更に好ましい。比ヤング率が25GPa/g・cm-3以上であれば、大型で薄肉のガラス基板、具体的には、ガラス基板の縦寸法が500mm以上、横寸法が600mm以上、厚みが0.7mm以下であっても、問題が生じない程度のたわみ量に抑えることができる。なお、ヤング率は、周知の共振法で測定した値を使用する。
ところで、電界放出表示装置用ガラス基板は、大型化、薄板化の傾向にあるが、ガラス基板の面積が大きくなったり、板厚が薄くなると、ガラスの成形が困難になり、ガラスの基板の表面品位を高めることが困難となる。したがって、ガラス基板が大型、薄板であればあるほど、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板が有する利点を享受できることになる。すなわち、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、基板ガラスのサイズは、32インチ以上が好ましく、36インチ以上がより好ましく、40インチ以上が更に好ましい。また、ガラス基板の板厚は、2.5mm以下、特に、1.0mm以下、更には、0.6mm以下、0.4mm以下であり、ガラス基板の板厚が薄くなるほど好適である。
ガラスの汚染防止等の観点から、ガラス製造設備の多くは白金族元素または白金族元素合金からなる、あるいは白金族元素または白金族元素合金で被覆されている。溶融炉や成形体に白金族元素又は白金族元素合金が使用されていると、これらが溶融ガラス中に取り込まれ、白金族元素ブツとなる。この溶融ガラスをガラス基板に成形する際、溶融ガラスは所定の厚みに延伸されるが、ガラス中に存在する白金族元素ブツは固体であり、ほとんど延伸されない。そのため、白金族元素ブツが存在する部分は、白金族元素ブツの厚みが減少しない分だけ板厚が増大する。この板厚の増大は、白金族元素ブツ周囲のガラスの粘性流動および延伸によりやがて緩和される。しかし、白金族元素ブツがガラス基板表面近傍に存在する場合、白金族元素ブツ周囲のガラス量が少ないため、板厚増加が緩和されないうちにガラスが固まり、ガラス基板表面に突起として現れやすくなる。白金族元素等のブツがガラス基板内に存在すると、電界放出装置の電極パターンの断線、ショートを惹起する。このような事情から、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板において、ガラス基板表面の突起は1ヶ/m2以下であることが好ましく、0.4ヶ/m2以下がより好ましく、0.25ヶ/m2以下が更に好ましく、0.1ヶ/m2以下が最も好ましい。ガラス基板表面の突起が2ヶ/m2以下であると、成膜工程でのパターンの断線やショートが少なくなり、これらによる表示欠陥を抑えることができる。また、突起を少なくすることで、研磨が不要となるため、表面品位の高いガラス基板を得ることができる。ガラス基板表面の突起を2ヶ/m2以下にするには、突起の原因となる白金族元素ブツを40ヶ/kg以下(好ましくは20ヶ/kg以下、10ヶ/kg以下、5ヶ/kg以下、特に1ヶ/m2以下)にすることが望ましい。なお、ここでいう突起とは、表面粗さ計にて1000μmの距離を検査したときに、突部の先端とガラス基板表面との高低差(突部の高さ)が1μm以上となる部位を指す。また、白金族元素ブツとは、最長径が3μm以上のものとする。
ガラス基板の平坦性は、種々の要因により決定されるが、最も影響が大きい因子としてガラス基板の成形方法および加工方法が挙げられる。
ガラス基板を成形する方法としては、オーバーフローダウンドロー法(fusion法とも称される)、フロート法、スロットダウンドロー法等の種々の方法がある。その中でも、オーバーフローダウンドロー法は、加工工程を別途経なくても、言い換えればガラス基板を研磨しなくても表面平坦性が良好なガラス基板を得ることができる。したがって、オーバーフローダウンドロー法は、優れた表面形状が要求される電界放出表示装置用ガラス基板の成形方法として好適であると考えられる。さらに、加工工程を別途設ける必要がないので、つまり研磨工程を別途設ける必要がないため、優れた表面形状が要求される電界放出表示装置用ガラス基板を低コストで効率よく製造することができる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板は、所望のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を加熱溶融し、脱泡した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
表面品位が良好なガラス基板を製造する観点から、オーバーフローダウンドロー法で板状に成形することが好ましい。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は桶状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されることにより、未研磨で表面品位が良好なガラス基板、すなわち未研磨で平均表面粗さ(Ra)が10Å以下のガラス基板を成形できるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融状態のガラスを耐熱性の桶状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを桶状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。桶状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、電界放出表示装置用ガラス基板用途で使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。なお、オーバーフローダウンドロー法では、引っ張りローラーの速度、冷却ローラーの速度、加熱装置の温度分布、ガラス融液の温度、ガラスの流量、板引き速度、攪拌スターラーの回転数等を適宜調整することによりガラス基板の表面品位を調節することができる。
本発明の電界放出表示装置用ガラス基板の製造方法は、オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の方法を採用することができる。例えば、フロート法、スロットダウンドロー法、ロールアウト法等の様々な成形方法を採用することができ、フロート法でガラスを板状に成形すれば、安価でガラス基板を製造できる。ただし、一般的に、フロート法により未研磨で表面品位が良好なガラス基板、具体的には、うねりが0.1μm以下のガラス基板を成形することは困難である。したがって、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板の製造方法に関し、成形方法としてフロート法を採用しないことが好ましい。また、ロールアウト法でガラスを板状に成形すれば、安価でガラス基板を製造できる。ただし、一般的に、ロールアウト法により未研磨で表面品位が良好なガラス基板、具体的には、平均表面粗さ(Ra)が10Å以下のガラス基板を成形することは困難である。したがって、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板の製造方法に関し、成形方法としてロールアウト法を採用しないことが好ましい。
以下、本発明を実施例の基づいて説明する。
表1において、試料No.1〜4は本発明の電界放出表示装置用ガラス基板のガラス組成を示している。
各試料は、次のようにして作製した。
まず表1の組成となるように各種ガラス原料を調合した。これらの原料を、白金ポットを用いて1580℃で5.5時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して板状に成形し、各種の評価に供した。
このようにして作製した各試料について、密度、熱膨張係数、歪点、液相温度、液相粘度、高温粘度、ヤング率を測定した。結果を表1に示す。
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した。
熱膨張係数は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃における平均熱膨張係数を測定したものである。
歪点は、ASTM C336−71に準拠した方法により測定した。
液相温度は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に48時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値を示している。液相粘度は、液相温度における各ガラスの粘度を周知の白金引き上げ法で測定した値を示している。
高温粘度102.5dPa・sに相当する温度は、周知の白金球引き上げ法で測定した。
ヤング率は、共振法によって測定した。
表1から明らかなように、試料No.1〜4は、密度が2.83〜2.87g/cm3、熱膨張係数が67〜69×10-7/℃、歪点が605〜620℃、液相温度が950〜1000℃、液相粘度が106.1〜106.4、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1535〜1550℃であり、いずれの試料も密度が3.0g/cm3以下、熱膨張係数も50〜90×10-7/℃の範囲内であり、歪点が590℃以上、液相温度が1200℃以下、液相粘度が104.5dPa・s以上、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1650℃以下であった。
表2において、試料A〜Eは、本発明の電界放出表示装置用ガラス基板の表面精度を示した実施例である。また、試料F、Gは、比較例のガラス基板を示している。なお、試料A〜Gの目標板厚は0.700mmであり、試料A〜Gは未研磨の対角16:9の36インチサイズのガラス基板である。
実施例である試料A〜Eの電界放出表示装置用ガラス基板は、表1に記載のガラスを量産試作溶融炉で溶融し、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形することによって作製したものである。オーバーフローダウンドロー法では、引っ張りローラーの速度、冷却ローラーの速度、加熱装置の温度分布、ガラス融液の温度、ガラスの流量、板引き速度、攪拌スターラーの回転数等を適宜調整することにより、表2に示した表面精度を有した電界放出表示装置用ガラス基板を作製した。
比較例である試料Fのガラス基板は、表中のガラスを量産試作溶融炉で溶融し、フロート法を用いて成形することによって作製したものである。フロート法では、錫バス内の加熱装置の温度分布、トップロールの速度、錫バス内のガラス融液の温度等を適宜調整することにより、表中の表面精度を有したガラス基板を作製した。比較例である試料Gのガラス基板は、表中のガラスを量産試作溶融炉で溶融し、ロールアウト法を用いて成形することによって作製したものである。ロールアウト法では、延伸ロールの回転速度、ガラスの流量、ガラス融液の温度等を適宜調整することにより、表中の表面精度を有したガラス基板を作製した。
平均表面粗さ(Ra)は、SEMI D7−94「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した。
うねりは、触針式の表面形状測定装置を用いて、JIS B−0610に記載のWCA(ろ波中心線うねり)を測定した値であり、この測定は、SEMI STD D15−1296「FPDガラス基板の表面うねりの測定方法」に準拠した方法で測定し、測定時のカットオフは0.8〜8mm、ガラス基板の引き出し方向に対して垂直な方向に300mmの長さで測定した値である。
板厚差は、レーザー式厚み測定装置を用いて、ガラス基板の任意の一辺に板厚方向からレーザーを走査することにより、ガラス基板の最大板厚と最小板厚を測定した上で、最大板厚の値から最小板厚の値を減じた値である。
目標板厚に対する誤差は、目標板厚から上記方法で得られる最大板厚または最小板厚の値を減じた絶対値の大きい方を示している。
表2から明らかなように、試料A〜Eは、平均表面粗さ(Ra)が1.4〜3.0Å、うねりが0.004〜0.021μm、板厚差が0.005〜0.015mm、目標板厚に対する誤差が0.003〜0.013mmであり、いずれの試料も平均表面粗さ(Ra)が10Å以下、うねりが0.1μm以下、最大板厚と最小板厚の板厚差が20μm以下、目標板厚に対する誤差が10μm以下であり、ガラス基板の表面品位が良好であった。したがって、試料A〜Eは、電界放出表示装置用ガラス基板として好適であると判断できる。
一方、表2から明らかなように、試料Fは、平均表面粗さ(Ra)が96Å、うねりが0.120μm、板厚差が0.030mm、目標板厚に対する誤差が0.026mmであり、ガラス基板の表面精度が悪かった。なお、試料Fは、フロート法で成形されているため、電界放出表示装置の映像品位を確保する上で錫バスに接触している面(汚染部分)を研磨する必要があると考えられる。また、試料Gは、平均表面粗さ(Ra)が512Å、うねりが200μm、板厚差が0.366mm、目標板厚に対する誤差が0.192mmであり、ガラス基板の表面精度が悪かった。したがって、試料F、Gは、電界放出表示装置用ガラス基板として不適であると判断できる。
本発明のガラス基板は、電界放出表示装置用途に限られるものではなく、電子部品等のカバーガラスや液晶ディスプレイの拡散板としても使用可能である。
1 スペーサー
2 ゲートライン
3 背面板
4 エミッタライン
5 電子放出素子
6 ブラックマトリックス
7 蛍光体
8 前面板
2 ゲートライン
3 背面板
4 エミッタライン
5 電子放出素子
6 ブラックマトリックス
7 蛍光体
8 前面板
Claims (11)
- 未研磨であり、且つ平均表面粗さ(Ra)が10Å以下であることを特徴とする電界放出表示装置用ガラス基板。
- うねりが0.1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電界放出表示装置用ガラス基板。
- 最大板厚と最小板厚の板厚差が20μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電界放出表示装置用ガラス基板。
- 目標板厚に対する誤差が10μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電界放出表示装置用ガラス基板。
- 30〜380℃における熱膨張係数が50〜90×10-7/℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電界放出表示装置用ガラス基板。
- 液相温度が1200℃以下および/または液相粘度が104.5dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電界放出表示装置用ガラス基板。
- ガラス組成として、Na2O+K2Oを0.1〜20質量%含有し、モル分率でAl2O3/BaOの値が0〜2、モル分率でNa2O/K2Oの値が0〜2であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電界放出表示装置用ガラス基板。
- 密度が3.0g/cm3以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電界放出表示装置用ガラス基板。
- 歪点が590℃以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の電界放出表示装置用ガラス基板。
- 高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1650℃以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の電界放出表示装置用ガラス基板。
- 請求項1〜10に記載の電界放出表示装置用ガラス基板の製造方法であって、
ガラス基板の成形方法がオーバーフローダウンドロー法であることを特徴とする電界放出表示装置用ガラス基板の製造方法。
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WO2009107453A1 (ja) * | 2008-02-29 | 2009-09-03 | 日本板硝子株式会社 | 表示装置用ガラス基板、液晶表示パネル、並びに液晶表示装置 |
JP2011241141A (ja) * | 2007-08-03 | 2011-12-01 | Nippon Electric Glass Co Ltd | 強化ガラス基板及びその製造方法 |
-
2006
- 2006-05-18 JP JP2006138744A patent/JP2007311168A/ja not_active Withdrawn
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